若者の“ゼロイチ”が地域を動かす。北海道発ソーシャルビジネスに挑む、やくも元気村の取り組み
北海道
人口減少や産業の担い手不足が進む北海道。ビジネスを通じて地域課題を解決する仕組みを道内各地に根づかせようと、休眠預金を活用した「北海道の広域におけるソーシャルビジネス・インキュベーション構築事業」が進められています。地域企業と学生をつなぎ、地域発のソーシャルビジネスを生み出す取り組みです。
この事業に道南エリアの実行団体として参画するのが、北海道八雲町を拠点とする特定非営利活動法人やくも元気村(以下、やくも元気村)です。今回は、事務局長の赤井義大さんに、ソーシャルビジネス創出を支援するコーディネーターとしての取り組みや、活動を通して地域に生まれた変化について伺いました。
地域の未来を変えたい。ビジネスで地域課題を解決する仕組みづくりへ
やくも元気村は、「障がいがある人の働く場がない」という地域課題をきっかけに、2011年に設立。誰もが参画できるまちづくりを目指し、障がい者の就労支援を中心に、地域外から人を呼び込むイベントや観光事業など幅広い活動を展開しています。
事務局長の赤井さんは、約10年前に東京から北海道八雲町にUターンし、やくも元気村に参画。「人口減少や、主要産業の一つである水産業の衰退などの課題を抱える八雲町に変化を起こしたい」と、地域体験プログラムや交流拠点を立ち上げてきました。そこで赤井さんが感じたのが、変化に対して慎重になってしまう空気感です。
赤井「私のようなUターン者や外からの移住者が新しいことを始めようとしたとき、どう受け入れたらよいのか、その土台や余裕が不足している空気感があると感じました。しかし、この状況のままでは地域がさらに衰退し、私たちが目指す『誰もが参画できるまちづくり』も達成できないと思うようになりました」

そこで赤井さんは、「地域に変化を起こすきっかけにしたい」という思いから、さまざまな可能性を探す中で、資金分配団体・特定非営利活動法人北海道エンブリッジ(以下、北海道エンブリッジ)が展開する、休眠預金活用事業「北海道の広域におけるソーシャルビジネス・インキュベーション構築事業」に応募しました。
同事業では、北海道を6つのエリアに分け、各エリアの実行団体がコーディネーターとなって地域企業とエリア内外の学生をつなぎます。そして、約6ヶ月間のインターンシップを通して、地域課題の解決につながる新規事業や新商品の開発を支援。各エリアで3年間に3つのソーシャルビジネスを創出し、学生とのマッチングを目指します。最終ゴールは、自治体や大学、金融機関などと連携し、地域発のソーシャルビジネスを持続的に支えるインキュベーション機能を構築することです。この事業に感じた可能性を、赤井さんは次のように話します。
赤井「私自身、地域課題の解決を行政や民間のボランティアに頼るのではなく、民間がビジネスとして解決する必要性を感じていました。ただ、地域の中小企業は新しいことを始めたくても、リソースが足りず踏み出せないことも多いです。そこに地域課題に関心がある学生が入り、企業の“ゼロイチ”を後押しすることで、地域に新しい動きを生み出せる。自分たちがソーシャルビジネスを実践するだけでなく、さまざまな団体や個人によるソーシャルビジネスが次々と生まれる大きなエコシステムを、道南で実現したいと思ったんです」
やくも元気村は、一般社団法人いとのこ(以下、いとのこ)とコンソーシアムを組んで実行団体に申請し、採択。「道南の社会問題をみんなの希望に変える」ことを目指して事業に取り組んでいます。
地域企業3社と学生インターンが新たな事業に挑戦
現在は、函館市の株式会社ローカルレボリューション(以下、ローカルレボリューション)と特定非営利活動法人シゴトシンク北海道(以下、シゴトシンク北海道)、知内町の株式会社知内温泉(以下、知内温泉)の3社とプロジェクトを進めています。
ローカルレボリューションとのプロジェクトでは、ホタテ養殖の際に大量に廃棄されるムール貝の商品化に取り組みました。学生はヒアリングやSNSでの情報発信などを担当。北海道鹿部町で試食会とプレゼンを行い、ムール貝の活用に向けた予算獲得にもつながりました。ともに活動をする中で、赤井さんは学生インターンならではの価値を実感したといいます。
赤井「私たちのような企業が、漁師や市場の方々へ直接ヒアリングしようとすると、ビジネスっぽさから警戒心を生んでしまい、うまく関係構築ができないこともあります。ですが、学生が『ムール貝の研究をしています』と話を聞きにいくと、『頑張っているね!』と応援する立場から接してくださり、いろいろなことを教えてくれました。SNS発信も、学生のほうが圧倒的に上手。画像生成AI等も活用しながら、専門的な内容をわかりやすく発信してくれたのには感心しましたね」

知内温泉とのプロジェクトでは、ニラ産業が地域を力強く支える一方で、新たな産業や挑戦が生まれにくかった地域に、新たな人の流れと産業を生み出すための挑戦を続けています。1年目は観光客が減少する冬期の集客を目指して観光商品開発に取り組み、2年目からは地元のまちづくり会社と連携して、空き店舗を活用した交流拠点づくりに乗り出しました。学生は観光商品のマーケティングや交流拠点の立ち上げに携わり、地域の人たちの意識にも変化をもたらしました。
赤井「道南は函館市に大学が集中し、知内町ではこれまで大学連携の機会もなく、学生との接点がほとんどありませんでした。今回のインターンシップでは、学生は知内町を知るため、1〜2ヶ月かけて林業や農業、漁業など地域の事業者のもとを回りました。普段、学生に接したことのない地域の人たちにとって刺激となり、『これからはもっと外から人を入れよう』という声が出始めています」

就労支援を行うシゴトシンク北海道とのプロジェクトでは、福祉をより身近に感じてもらう絵本の制作・出版プロジェクトを進めています。学生は就労支援事業所の利用者と交流し、関係者へのヒアリングを重ね、絵本の内容を固めていきました。すると、事業所にも思いがけない変化が生まれました。
赤井「就労継続支援事業は、利用者の通所実績に応じて事業所の収入が増える仕組みです。学生インターンが入ったことで利用者のモチベーションが高まり、欠席率も減少するなど事業所の運営にもポジティブな影響がありました」

企業と学生の間に立ち、プロジェクトに伴走
本事業では、企業連携の経験を持つ「やくも元気村」と、学生支援に豊富な実績を持つ「いとのこ」がコンソーシアムを組み、それぞれの得意分野を活かして役割を分担しています。やくも元気村はコーディネーターとして、受け入れ企業の発掘からプロジェクト設計、学生と企業のマッチング、企業への伴走支援、プロジェクト管理までを担当。いとのこは学生募集と、インターンシップ中の学生へのケアを担います。
まず、やくも元気村が地域企業を回って参加を呼びかけ、3社を発掘。受け入れ企業が決まったら、1〜2ヶ月かけてプロジェクトを設計します。その後、企業が解決したい地域課題を事業のテーマに設定し、目指す成果と実現までの道筋を示す「ロジックモデル」の作成を支援。それをもとに、企業とコンソーシアムで学生の役割や活動内容を具体化しました。
学生募集はいとのこが中心となり、ポータルサイトやSNS、募集イベント、函館や札幌の大学を通じて告知。応募者との面接を経て、受け入れ企業と学生をマッチングしました。
インターンシップ開始後は、月1回、学生・受け入れ企業・実行団体で三者面談を実施。やくも元気村は進捗を確認し、遅れや方向性のズレがあれば軌道修正をサポートします。企業と学生との間で課題が生じたときも、やくも元気村が間に入って調整。学生に対してはいとのこが中心となって定期的に話を聞くなど、悩みを抱え込まないようケアしています。

「コーディネーターとして伴走した日々を、赤井さんはこう振り返ります。
赤井「これまで自分たちで学生インターンを受け入れたことはあっても、受け入れ企業の伴走支援はほぼ未経験。しかも、既存事業ではなく新規事業に学生に入ってもらうので、未知数な部分が大きかったです。実際、プロジェクトは計画変更の連続でした。先が読めない中、学生にどう関わってもらうのか。日々悩みながら進めていきました」
やくも元気村の試行錯誤を支えたのが、資金分配団体の北海道エンブリッジです。
赤井「北海道エンブリッジさんは学生インターンシップを10年以上手がけ、企業の伴走支援にも豊富なノウハウを持っています。地域企業へのアプローチから企業や学生との契約に関するリスク対応まで、つど相談に乗っていただきました。実践ベースで学ばせていただけたのは大きかったですね」
インターンシップ後も続く地域と学生のつながり。道南に生まれた変化
事業は2024年4月に開始し、2026年夏までに、当初目標としていた9名を上回る10名の学生インターンを企業にマッチング。ソーシャルビジネスの認知が十分ではない道南で、インターンシップ募集イベントを5回、報告会を2回開催し、地域にソーシャルビジネスや学生インターンを知ってもらう機会を設けました。
赤井さんが事業の成果の一つとして挙げるのが、インターンシップ修了後も続く地域と学生のつながりです。
赤井「6ヶ月間という長期だからこそ、関係が深まったと感じています。例えば知内温泉のプロジェクトに参加した学生は、インターンシップ修了後にワーキングホリデーでオーストラリアへ渡り、現地のイベントで知内町の特産品を販売して地域の魅力を発信してくれました。それだけでなく、そこで知り合った人を知内温泉へ連れてきてくれたそうです。また、道南に戻って起業することを目指し、経験を積むために東京の企業に就職した学生もいます。将来の採用やビジネス連携につながる可能性も見えてきて、受け入れ企業のみなさんも『短期的な成果だけでなく、未来へつながることへの投資も大事』と話しています」
学生自身の成長も、赤井さんが感じた大きな成果です。
赤井「報告会で、『他の学生のようにうまく発表できなかったのが悔しい』と泣いた学生がいたんです。そこまで本気で取り組んでくれていたことがうれしかったですし、この悔しさをバネに、また一段と成長するんだろうなと感じました。道南の人や企業とつながり、楽しいだけではない、人生の分岐点となるような成長の機会をつくれたのはすごく良かったです」

事業を通じて、全国から学生を呼び込んで道南の企業につないだ実績に加え、コーディネーターとして企業や学生に伴走するノウハウも蓄積されました。今後は、休眠預金の助成に頼らない自立的な事業運営を目指し、コーディネート費用を事業の中で確保する方法を模索していく方針です。さらに、学生のインターンシップだけでなく、社会人の副業・兼業人材と地域企業のマッチングや企業同士の協働支援などへと、対象を広げていく考えです。
こうした取り組みの先にある、道南の未来について、赤井さんはこう語ります。
赤井「小さくてもアクションを起こす人を増やしたい。そして、“ビジネスの実践者”だけでなく、寄付や場所の提供、人の紹介などを通じて“応援してくれる人”も巻き込みたいです。そうした多様な関わりが、やがて道南全体で新しい価値や変化を生み出す大きな渦になっていく。『最近、道南で面白いことが増えたよね』と気づき、地域の未来に希望を持つ人も増えていくと思います」
■事業基礎情報
| 実行団体 | 特定非営利活動法人 やくも元気村 |
| 事業名 | 道南の社会問題をみんなの希望に変えるソーシャルビジネスコーディネート事業 |
| 採択事業年度 | 2023年度通常枠 |
| 活動対象地域 | 南北海道エリアに位置する3町村(函館市、森町) |
| 資金分配団体 | 特定非営利活動法人 北海道エンブリッジ |