【開催報告】妊娠・出産・子育て期の「孤立」をどう防ぐか「第2回 JANPIAメディアセミナー」
岡山県 高知県 福島県 東京都 全国対象事業
JANPIAは2026年8月5日、「第2回 JANPIAメディアセミナー」を東京・日比谷にて開催しました。休眠預金活用事業を通じた取り組みを紹介し、事業の意義や価値を発信する本セミナー。2回目となる今回は、「妊娠・出産・子育て期の孤立」をテーマとして、休眠預金活用事業の助成を受けて妊娠期~子育て期の女性と家族を支える3つの実行団体が、現場から見えてきた社会課題を共有。孤立を防ぐための支援のあり方を考えました。
- <プログラム>
| 13:30~ | 令和8年熊本地震の対応状況について・休眠預金活用事業の説明動画放映 |
| 13:40~ | イントロダクション・登壇者紹介 |
| 13:45~ | 事例紹介1|認定特定非営利活動法人ピッコラーレ |
| 14:00~ | 事例紹介2|特定非営利活動法人妊娠しぇるとSOS |
| 14:15~ | 事例紹介3|特定非営利活動法人MotherTree |
| 14:30~ | クロストーク、質疑応答 |
| 15:05 | 閉会 |
令和8年熊本地震の対応状況について
メディアセミナーでは、7月28日の熊本地震発災から間もない8月5日の開催となったことを踏まえ、JANPIA 助成事業部長の内田 淳が、令和8年熊本地震の対応状況について報告しました。
まず、メディアセミナー開催時点において、熊本県内で活動する、休眠預金活用団体の活動拠点に重大な被害は確認されておらず、今後、事業の実施に支障が生じた場合には柔軟に対応すること。次に、JANPIAが支援する団体の中には、被災地への募金や支援活動を行っている団体もあることを紹介しました。
【令和8年熊本地震】寄付窓口・支援の動きのご紹介|2026年9月14日更新
【令和8年豪雨・大雨災害】寄付窓口・支援の動きのご紹介|2026年9月18日更新
【令和8年8月千葉豪雨・台風25号】寄付窓口・支援の動きのご紹介|2026年9月28日更新
さらに、JANPIAは災害支援事業の実施団体に対して資金援助を行い、被災地での緊急支援をサポートしており、今回、緊急の支援ニーズの高まりを踏まえ、1年間の助成事業である「緊急枠」の次回公募の受付を前倒ししたことも報告しました。
資金分配団体の公募・緊急枠・第3次 公募情報|休眠預金活用プラットフォーム(休プラ)
続いて、休眠預金等活用事業について紹介する約3分間の動画が放映されました。動画では、休眠預金活用事業の概要や資金活用の流れを紹介。「子どもや若者への支援」、「生活を営む上で困難を抱える人への支援」、「地域活性化への支援」の3つの領域で、民間団体や企業、中間支援組織など多様な関係者が連携し、社会課題の解決に取り組む仕組みを説明しました。
イントロダクション・登壇者紹介
本編に入り、妊娠・出産・子育て期の「孤立」を防ぐために活動する実行団体が事例紹介を行いました。ファシリテーターを務めたのは、ジャーナリストの浜田敬子氏です。

浜田氏は、かつて自身も孤独の中で子育てをしてきたことに触れ、子育て当事者の視点から、またジャーナリストとしてこれまで数々の事例を見てきた経験から、「今なお、妊娠・出産・子育てをめぐる孤立には有効な手立てが少ない」「困難を一人で抱え込んでしまう人や、家族だけで解決しようとする人が多い」と指摘しました。
そのうえで、セミナーに参加したメディア関係者らに「今回紹介する各団体の活動を個別の支援事例として見るだけでなく、その背景にある共通の社会課題にも目を向けてほしい」と呼びかけました。

事例紹介1|合的な困難を抱える妊産婦を支える「認定NPO法人ピッコラーレ」
認定NPO法人ピッコラーレ(以下、ピッコラーレ)は「『にんしん』をきっかけに だれもが孤立することなく 自由に幸せに生きていける社会の実現を目指して」というスローガンを掲げて活動する団体です。

代表で助産師の中島かおり氏の活動の原点は、「子どもの虐待死では0歳児、特に生まれたその日に亡くなる子が多く、その母親は母子手帳をもらいに行っていない、病院以外で出産しているケースがほとんどである」という事実を知ったこと。女性を孤立出産させず、必要な支援につなげたいとの思いから、約11年前に相談窓口「にんしんSOS東京」を立ち上げました。 中島氏は、相談者と向き合う中で、妊娠するずっと前から貧困や暴力、排除など複合的な困難を抱えてきた人が少なくないことに気が付きました。そうした人に必要な支援制度は、母子保健や児童福祉、女性相談、生活保護など複数にまたがるため、相談先を探す難しさがあります。また、住まいが定まらないことで既存の支援につながりにくいという課題もありました。

そこで同法人が立ち上げたのが、孤立する若年妊婦に提供する一時的な住まい「ぴさら」です。妊娠週数を問わず、出産だけでなく中絶や流産、死産の場合にも、本人が必要とする期間利用できます。
現在、休眠預金活用事業の支援を受け、妊産婦が滞在する「ぴさら」だけでなく、若年未婚母子を支える新たな居場所の運営を通した 伴走支援も提供しています。中島氏は「3年間という枠組みで事業を育て、新しい支援モデルを試行錯誤する時間を確保できることがありがたい」と語ります。

「ぴさらで得た現場の知見を行政や国に届け続けた結果、こうした妊産婦の居場所が改正児童福祉法のもとで制度化した」と振り返る中島氏。「ないならつくろう」と始まった小さな取り組みが、制度化され、法的な根拠をもつ場所となり、他地域でも事業化が進んでおり、多くの人が取り組める事業へと発展したことを報告しました。
事例紹介2|行き場のない妊婦を受け入れる宿泊施設の整備「特定NPO法人妊娠しぇるとSOS」
特定NPO法人妊娠しぇると(以下、妊娠しぇると)では、岡山県で妊娠に関する困りごとの相談窓口を運営し、電話やメール、LINE、面談などを通じて支援を行っています。相談者の中には、家族やパートナーとの関係悪化、経済的困窮などから住まいを失い、妊娠中にもかかわらず行き場のない人もいるといいます。

理事長の小林智子氏は、相談支援を続ける中で「妊婦が単身で利用できる居場所が地域にほとんどない」という課題が見えてきたと説明。岡山県内では、母子生活支援施設は妊婦だけでは利用できず、既存のシェルターでも妊娠後期の受け入れは難しいという現状があります。

そこで同法人は、休眠預金活用事業の支援を受け、居場所のない妊婦の一時的な宿泊施設の整備に着手しました。2022年度にニーズ調査と拠点整備を行い、2023年4月に施設を開所。現在も受け入れを継続しています。

利用者は10代後半から20代前半女性が中心で、2週間から2か月程度滞在します。滞在中は安心して生活できる場所を確保するとともに、退所後の住居探しや出産準備を支援。出産後も保健師や訪問看護、ヘルパーといった地域の支援につなぎ、生活の立て直しと子育てのサポートをしています。
休眠預金の活用による変化は、施設の整備だけにとどまりません。事業を通じて規程類など法人運営の基盤整備が進み、岡山市から事業を受託することができたといいます。
小林氏は「今後は、より多様な事情を抱える妊産婦を受け入れられる体制を整えるとともに、柔軟に対応できる専門人材を育て、地域全体で母子を支えるネットワークづくりにつなげていきたい」と展望を語りました。
事例紹介3|多角的な支援で養育者につながりを届ける「特定NPO法人MotherTree」
特定NPO法人MotherTree(以下、MotherTree)は、福島市を拠点に、妊娠・出産・育児期の養育者が社会的に孤立しない地域づくりに取り組む団体です。休眠預金活用事業では、養育者と継続的につながる仕組みづくりを目指し、居場所事業、訪問支援事業、子育て講座の3つを展開しました。

居場所事業では、予約不要で大人数が苦手な人でも利用しやすい子育てサロン「桜木町ポレポレ」を開設しました。代表の宮﨑恵美氏は、利用者の中に、サロンを訪れて初めて安心して眠れたという人や、行政や医療機関にも話せなかった悩みを打ち明ける人がいたと紹介。活動を通じて、支援制度やサポートの場が存在することと、安心して相談できる場所があることは別だということに気がついたといいます。
訪問支援事業「さんさんサポート」では、サポーターが家庭を訪れ、家事や育児、子連れでの外出同行などを支援。開始当初は月2~3件だった利用が、現在では月50件以上、年間600~700件にまで増えました。

宮﨑氏は「家庭に入ることで、外からは見えない生活上の困難の多様さや、周囲の目を気にしてSOSを出せない養育者の実態が見えてきた」と振り返ります。

こうした気づきを踏まえ、事業の途中から休眠預金活用事業の支援を受け、養育者が一時的に休息できる「子育てレスパイト」を新たに導入しました。「当初の計画にとらわれず、伴走支援者と協議しながら事業内容を変更できたことも、休眠預金活用事業ならではの成果だった」と宮﨑氏。レスパイトの取り組みをもとに行政へ働きかけ、現在は産後ケア事業の受託にもつながっています。

宮﨑氏は、孤立を個人の性格や努力不足の問題として捉えるのではなく、相談相手や地域とのつながり、利用できる制度の不足が重なって生じる社会課題として捉えることが重要だと強調します。深刻な状況になる前に「少し休みたい」「誰かに話したい」と思ったタイミングでつながれる地域の仕組みを、今後も育てていきたいと述べました。
クロストーク|支援制度があっても、届かなければ孤立は防げない
クロストークでは、ファシリテーターの浜田氏が「なぜ日本では、妊娠・出産・子育てがこれほど困難になるのか」という問いを投げかけ、現場から見える社会課題をさらに掘り下げました。
まず話題となったのは、支援を必要とする人が、どのように相談先につながっているのかという点です。妊娠しぇるとSOSの小林氏とピッコラーレの中島氏からは、近年、AIを使って妊娠について相談したり、相談内容を整理したりする若者が増えているとの話がありました。
ただし、AIが案内するのは公的な窓口が中心です。制度の対象にならない場合や、病院への同行といった具体的な支援が必要な場合には、やはりNPOなどにつながる必要があります。
MotherTreeの宮﨑氏は「行政はホームページやチラシで情報を提供しているが、自分から電話をかけたりアクセスしたりすること自体が難しい人がいる」と指摘しました。
こうした話を受け、浜田氏はさらに「制度と現場の乖離はなぜ生まれるのか」と問いかけました。中島氏は、制度をつくる側が想定する利用者像と実際の当事者との間にギャップがあることや、制度の作り手と支援現場の間に情報を伝達する上での距離があり、制度が柔軟に運用されていないことを課題として挙げます。小林氏も、産後ケアなどの制度が整備されても、利用日数や自己負担といった条件によって、現実のニーズに追いつかないケースがあると説明しました。
宮﨑氏はさらに「制度をつくった」「ホームページに載せた」だけでは十分ではないと指摘。利用者がどのような生活経験やスキルを持っているのかまで踏まえ、本当にアクセスできる形で支援が用意されているかを考える必要があると語りました。「利用されない=ニーズがない」と判断するのではなく、なぜ利用できなかったのかを検証することが重要だといいます。
浜田氏も、自身の取材経験から、妊娠や出産に関する悩みは非常にプライベートで、相談を切り出すまでに時間がかかる場合があると説明。支援の情報を届けるだけでなく、「相談する」という心理的なハードルをどう下げるかということまでを考える必要があると指摘しました。
最後に浜田氏は、3団体の代表に「メディア関係者にどのようなことを報道し、知ってほしいか」と問いかけました。宮﨑氏は、虐待やDVを加害者個人だけの問題として報じるのではなく、その行動に至った背景にも目を向けてほしいと訴えました。小林氏は、行き場のない妊婦が安心して過ごせる場所や相談先が地域に十分ない現状に触れ、困難を抱える妊婦を本人だけの問題として見るのではなく、支援につながりにくい社会の仕組みの課題として伝えてほしいと述べました。
中島氏も、妊娠や出産に関する困難を「その人の問題」として切り取るのではなく、社会の構造の「穴」や「隙間」によって生じている課題として、市民全体に広く伝えることの重要性を強調しました。
今回のクロストークを通じて見えてきたのは、個別の事例の背後には、孤立を生み出す社会構造があるということ。メディアがその構造を可視化し、「一部の困った人の問題」ではなく、誰もが直面しうる社会の課題として伝えていくことで、妊娠・出産・子育てを取り巻く環境が変わっていくことが期待されます。

質疑応答|休眠預金等活用事業からもたらされたもの
質疑応答では「休眠預金等活用制度がなかった場合、活動はどうなっていたか」という質問が寄せられました。
中島氏は、継続的な資金支援によって、助成金獲得や寄付募集に割いていたリソースを現場支援や政策提言に集中でき、「活動のスピードと質を支えてもらった」と回答。
小林氏も「居所整備ができただけでなく、法人の基盤を整え、信頼を得ることができて自治体事業の受託につながった」と語りました。
宮﨑氏は、事業継続を決断する大きな後押しになり、財務や組織体制を見直すことができたといいます。「休眠預金がなければ、ボランティア団体に戻っていた可能性もある」と、制度の意義の大きさを振り返りました。
【まとめ】休眠預金等活用事業によって、支援を持続可能な仕組みへ
本セミナーを通して、休眠預金活用事業の支援によって既存制度だけでは届きにくい妊産婦や養育者のニーズに焦点が当たり、新たな支援が生まれているという事実が明らかに。
現場で培った支援モデルの制度化や行政事業の受託、団体の組織基盤強化など、その成果が個々の支援を超えて広がっていることも示されました。
今後もJANPIAでは、さまざまな社会課題をテーマに、現場の取り組み、社会課題を紹介するメディアセミナーを実施していきます。