支援をもっと身近なものに。えんまるがつくる、地域で支え合うプラットフォーム
長野県
特定非営利活動法人えんまる(以下、えんまる)は、長野県長野市を拠点に、訪問型病児保育やこども宅食、学生・若者支援などを展開している団体です。元保育士の岩間千佳さんと夫の淳さんを中心に、2014年に設立されました。
えんまるは、2020年度の休眠預金活用事業(緊急枠)に採択されて以降、事業拡大に合わせて3年連続で同制度を活用。2023年度には、支援の輪をさらに広めるべく、新たなテーマで通常枠を活用しています。地域でどのような課題を感じ、休眠預金活用事業を通じてどう支援を広げてきたのか。千佳さんと淳さんにお話を伺いました。
病児保育事業で見えた課題から、事業を拡大。こども宅食を通して悩みを聞きたい
千佳さんは長年保育の現場で働き、子どもの体調不良のたびに仕事を休まねばならず、苦労する共働き家庭やひとり親家庭の母親の姿を数多く見てきました。中には、子育てとの両立がかなわず、積み上げたスキルや経験を手放し、離職を選ばざるを得ない人もいたといいます。「そうした母親たちを、なんとか助けたい」。そんな想いから、夫の淳さんと共に訪問型病児保育の事業をスタートさせました。各家庭に訪問し、母親たちの代わりに子どもを看病する活動です。
この事業を進めていく中で、千佳さんと淳さんが直面したのは、経済的に苦しいひとり親家庭の存在でした。
淳さん「訪問型病児保育は有償で請け負っていましたが、『利用料を払うのが難しいから依頼できない』という声をたくさん聞きました。そうした家庭こそ支援が必要だろうと思っていた矢先、コロナ禍に突入して困窮する人がさらに増えたのです。国からの支援を待っているだけではいけない、何とかしなくては……と考えて始めたのが、食材を届ける“こども宅食”の事業でした」

「この事業は、食材を届けて終わりではありません。お届け時に、何に困っているのか、どんな助けが必要かをヒアリングし、最善の支援につなげることも目的です。まずは親戚の農家に協力をお願いし、2世帯(5名)の支援からスタート。その後、こども宅食の活動をしていることをSNSで発信すると、「助けて欲しい」との声が届き始めました。そして、5世帯、10世帯……と支援先が増えていったのです。 支援先の増加に伴い、仕組み化が必要だと考えていたときに知ったのが、休眠預金活用事業。予算確保のために緊急枠へ申請し、資金分配団体である公益財団法人中部圏地域創造ファンド(以下、中部圏地域創造ファンド)の伴走支援を受けながら、事業の安定化を図りました。
「助けて」と声をあげられない人にこそ、手を差し伸べるべき
活動を続ける中で、現状の支援だけでは解決できない課題が次第に見えてきました。そこで、2020年度から3年連続で緊急枠を活用し、支援先や支援の方法を少しずつ広げていきます。その一つが、支援が必要な人を行政や専門機関などの相談先へつなぐ活動です。
千佳さん「困っていても、『助けて』と口に出せず、孤立して苦しんでいる人がたくさんいることを、事業を通して実感しました。支援の受け方がわからないとか、自分が困っている状態だということにすら気づいていない人もいます。そうした声を上げられない人たちに向けて、手を差し伸べる事業に取り組まなくてはと思いました」
そこで、長野県立大学と連携し、休日の構内を借りて「課題解決の居場所(相談ブース)」を設ける活動をスタート。支援を受けることに抵抗を感じる人も少なくないため、人目につきづらい場所で相談できる環境を整えました。相談の間、同大学で保育士を目指して学ぶ「こども学科」の学生が、子どもの面倒を見ています。学生たちは、食材の梱包や子どもたちへのバースデーカード作成など、こども宅食の活動にも参加し、えんまるの事業を支えています

また、18歳で児童養護施設や里親家庭などを離れる「ケアリーバー」と呼ばれる若者たちに向け、生活物資の支援やつながりの創出といった自立を助ける活動も開始しました。千佳さんは、あるケアリーバーの女の子とのやり取りが忘れられないといいます。
千佳さん「生活必需品の調達のため、家電量販店へ付き添ったときのこと。支援で購入できる物資には上限があるのですが、その子が『家電を1つ減らして、コタツを買っていいですか?』と聞くんです。理由を訊くと、『これまで施設で先生や仲間と家族のように暮らしてきたけれど、これからは1人で生きていかなければいけない。寂しさを紛らわすために、コタツ布団にくるまりたい』と。その言葉に、私たちが想像している以上に辛い気持ちを抱えているんだろうと、胸が締めつけられました」
行政の制度だけでは、こうした若者たちが抱える孤独や不安までは拭いきれません。えんまるの事業は、彼らが支援のはざまに取り残されてしまうのを防ぐ、“心のセーフティーネット”にもなっているのです。
見えづらい若者の貧困。地域全体で支える仕組みの必要性を実感
長野県立大学の学生らと活動を共にする中で、若者の貧困という新たな課題も見えてきました。大学生でありながら実家に仕送りをしていたり、生理用品の購入をためらったりしている若者がいることがわかったのです。「友だちにはお金に困っていることを知られたくない。だから表面上は身なりを整えている子が多い」と千佳さん。淳さんも、「『いつも明るく振る舞っているあの子が、実は……』ということが少なくありません」と話します。
こうした状況に対し、「NPOや行政、各分野の専門員だけではなく、地域全体で支援をしていくべき課題だ」と感じるようになりました。そこで、地域での支援を可能にする枠組みを作るべく、「コミュニティプラットフォームによるつながり支援事業」を掲げ、2023年度の通常枠に採択されました。
この事業の核となるのが「えんまるシェ」です。企業から通常の販売が難しい食品を「社会貢献食品」として安く仕入れ、地域の個人や企業へリーズナブルに販売し、利益を事業に充てるフードプラットフォームです。「えんまるシェ」の最大の狙いは、支援のハードルを下げて、誰もが簡単に支援の輪に加われるようにすることです。また、食品を扱う企業が直面しているフードロスの課題解決にもつなげます。

淳さん「お得に食品を買うだけで、それがそのまま支援につながる。支援のハードルを下げるというより、もはや支援を意識しなくても支援ができる仕組みです」
ここで得られた利益は、困窮孤立家庭へのアウトリーチ支援をはじめ、公立高校・大学等の女子トイレへの生理用品の設置やヤングケアラー・ケアリーバーの支援など、さまざまな活動の資金として活用されています。
さらに、えんまるは地域の企業や団体へ積極的に働きかけ、連携を取りながら事業を進めることにも注力しています。淳さんは、その理由を「地域にはさまざまな得意分野を持つ企業や団体、個人がいます。その力を掘り起こして、もっと生かして地域みんなで支援をしたい。支援を閉じたものにせず、気軽なものにしたいから」と説明します。企業や団体を訪ねたり、イベントに出展して認知度を広めたりと、地道な活動を続けています。「10回やってみて1つつながるかどうかですが、まずは動いてみる。すぐに結果が出なくても、そこで生まれた出会いや気づきが次につながることもあります。そうやって地域との関係を一つずつ積み重ねていくことが大切です」と淳さんは語ります。
成功例の1つが、地元のプロバスケットボールチーム「信州ブレイブウォリアーズ」との連携です。ホームゲーム会場の女子トイレに無料の生理用品を置いたり、経済的に苦しい家庭の子どもを試合に招待し、体験格差の課題解決につなげたりしています。実際に、不登校気味だったある小学生が、初めての試合観戦に感動し、それをきっかけにバスケットボールのクラブ活動をはじめ、学校へ行くようになった事例もあったといいます。

千佳さん「その子の家庭はひとり親で、こども宅食で支援をしていました。ひとり親家庭に多いのが、母親が“自分たちは社会から見捨てられている”と感じ、心を閉ざしてしまうこと。食材を届けに行ってもドアを開けてくれない人がほとんどです。その子の母親もそうでした。けれど、子どもが前向きに変化したことや宅食スタッフの粘り強い寄り添いによって、次第に変わっていきました。そして、“次は私が支援する側にまわりたい”という想いさえ、抱いてくれるようになったのです」
えんまるが熱意を持って、地道に活動を継続してきたからこそ生まれた大きな変化です。
困っている人は増える一方。地域に支援を巡らせて、課題解決へ
休眠預金活用事業へ初めて採択された時からえんまるの活動に伴走してきたのが、資金分配団体の中部圏地域創造ファンドです。淳さんは、「事業の仕組みづくりからずっと一緒にやってきましたから、伴走支援をしていただいているというより、共に事業に取り組んでいるような感覚です。わからないことがあるたびにメールなどで尋ねると、何倍もの文量で丁寧に返答してくださるんです。助成期間中、一度も不安を感じたことはありません。本当にありがたい存在です」と、中部圏地域創造ファンドの存在について語ります。

現在実施中の事業は、2027年2月に終了を迎えます。
淳さん「“優しい支援”が地域を巡る。『えんまるシェ』は、それを実現するための装置のようなものです。これまでの活動の集大成として、誰もが当たり前に支援に参加できる仕組みとして確固たるものにしたいと考えています。多くの支援を行っていますが、困っている人は増えていくばかり。でも、地域の企業や団体、個人がつながれば、休眠預金がなくても自分たちの力で課題解決を推進していけると確信しています」
「えんまるシェ」があることで、多様な連携が容易になり、誰もが気軽に支援に参加できます。この仕組みが地域に根づけば、単独で事業を回していくことが可能になるはずです。近くにいる人を助ける“スモールスタート”から始めた支援を、多くの人をつなぐ“ビッグムーブメント”に育て上げる。誰もが地域で支え合う仕組みをつくるため、千佳さんと淳さんの歩みはこれからも続きます。
■事業基礎情報
| 実行団体 | 特定非営利活動法人 えんまる |
| 事業名 | コミュニティプラットフォームによるつながり支援事業 |
| 採択事業年度 | 2020年度通常枠 |
| 活動対象地域 | 長野市近郊、上田市近郊(長野県内に広げていく) |
| 資金分配団体 | 公益財団法人 中部圏地域創造ファンド |