取材記事

休プラ編集部

「やさしい避難所」を、あたりまえに。防災から始まるレベルフリーの地域づくり

山口県

「やさしい避難所」を、あたりまえに。防災から始まるレベルフリーの地域づくり

災害発生時、身に危険が迫れば地域の避難所へ向かうことになりますが、食物アレルギーや発達障害の子どもを抱える家族、ペットを連れた人などは、「アレルギーに配慮した食べものはあるのか」「必要な支援や備えは整っているのか」と、避難所での生活に不安を抱えるケースも少なくありません。

山口県で活動する一般社団法人レベルフリーは、災害時に埋もれがちな当事者の不安を起点に、避難所のあり方を考えてきた団体。2022年度の通常枠に採択され、誰もが安心して避難できる「やさしい避難所」を地域に広げるためのツール開発と実践に取り組みました。

代表の坂本京子さんと、中国5県の資金分配団体コンソーシアムに参画する、NPO法人やまぐち県民ネット21の宮内昭代さんにお話を伺いました。

小さな「困った」に耳を傾ける地域の場

 気象予報士・防災士の坂本京子さんは、地元・山口県で任意団体を立ち上げ、防災をテーマに講演やイベントを行ってきました。そこで耳にしたのが、「子どもに食物アレルギーがあって、災害時に対応食が手に入るか不安」という切実な声。これをきっかけに、食物アレルギーに配慮した炊き出しや避難所のあり方を考える取り組みを始めます。

活動を続けていくと、「発達障害の子どもが避難所の集団生活になじめるか心配」「ペットがいるから避難所には行けない」「地域に多くの外国人が暮らしているが、災害時に『共助の輪』に入れるだろうか」といった声も寄せられるようになりました。坂本さんは、当事者同士で考える場はたくさんあるのに、それが地域に開かれていないことが気になったといいます。

坂本「いざという時に本当に必要なのは、“地域の理解”と“支え合い”です。当事者だけで完結するのではなく、地域の人たちと一緒に考える場が必要だと思いました」

被災地の活性化に取り組む方へ聞き取りを行う坂本さん(右から二番目)

この思いから、2022年に一般社団法人レベルフリーを設立。食物アレルギーや障害の有無を問わず、誰もが安心して過ごせる「やさしい避難所」を地域ぐるみで考える活動と、気候変動や気象災害を自分ごととして捉える体験型の学びの場づくりの2つを柱に活動しています。

坂本「子どもから高齢者まで、さまざまな背景を持つ人が集まる避難所は、いわば『小さな社会』です。その空間が思いやりにあふれたら、社会全体もきっと優しくなっていくはず。『やさしい避難所』を前提とした防災の取り組みをきっかけに、『困った』と声をあげられ、その声を受けとめられる地域をつくっていきたいと思っています」

誰もが安心して避難できる仕組みづくり

レベルフリーが休眠預金活用事業に申請したきっかけは、資金分配団体のNPO法人やまぐち県民ネット21から、中国5県を対象とした災害支援事業の公募について、案内を受けたことでした。「やさしい避難所」を提案や啓発にとどまらず、地域に根付く仕組みにしていきたいと考えていた坂本さんは、持続的な課題解決や制度化まで視野に入れる事業の枠組みに可能性を感じ、挑戦を決めました。

事業ではこれまでの活動をもとに、食物アレルギー、外国人、ペット避難等に配慮できる避難所を増やすことを目指しました。中でも、任意団体時代から継続してきたのが、食物アレルギーに配慮した炊き出しの取り組みです。

坂本「災害時の炊き出しといえばカレーが定番ですが、市販のルーにはアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が含まれることが多く、食べられない子どももいます。別のメニューであっても、原材料がわからなければ安心して食べさせることができません。一方で、炊き出しを担う地域の方々は食の専門家ではないので、突然の災害の中で何を使って調理すればいいのか判断がつかず、配慮したくても手を出せない、という状況がありました」

そこで、アレルギーのある子どもも食べられる「豚丼」を新たなスタンダードにすることを目指し、「食物アレルギーを考えたぶた丼の調味料キット」をコープやまぐちと共同開発。
各種調味料に加えて、配膳のポイントを整理したマニュアルや配膳時の掲示物等をまとめ、肉と野菜を用意するだけで、100人分の豚丼を調理できる仕様になっています。さらに、レベルフリーは講演会や調理指導と組み合わせた炊き出し訓練を県内各地で30回実施し、取り組みを着実に広げてきました。

山口県山口市の総合防災訓練で行われた炊き出し訓練

また、外国人への配慮では、災害時の支援だけでなく、日頃の関係づくりに重点を置きました。

坂本「山口県でも外国人労働者が増えていますが、住まいと職場を往復する生活で地域との接点はほとんどなく、孤立しがちです。災害時に取り残されないためにも、いざというときに助け合える関係を築いておくことが大切です」

事業では、自治会や外国人が働く企業と連携し、ベトナム人技能実習生約20人と地域住民がともに学ぶ防災研修会を3回開催。搬送訓練や段ボールベッドの組み立てなど実践的な内容に加え、お茶会や昔遊びも取り入れ、防災をきっかけに顔の見える関係を育みました。

研修会の第1回目には、お茶の先生を呼び「お茶会」を実施

ペット避難への配慮では、ペットがいてもためらわずに避難できる環境づくりを目指しました。

坂本「過去の災害では、ペットの様子を見に自宅に戻ったことで、命の危険にさらされたケースもありました。国はペット同行避難を推奨していますが、避難所での受け入れ体制には差があり、避難をためらう人もいます」

そこでレベルフリーは、避難所の駐車場での車中泊避難という選択肢を提案。アウトドア用品企業や自動車販売企業、獣医師と連携し、ペットとの車中泊を想定した訓練を行いました。
14組が参加し、車内環境の整え方や健康管理、備えるべき避難用品ついて学びました。災害時を想定したしつけや避難用品の準備について考える講座も開催し、ペットがいる家庭も安心して避難できる地域づくりを進めました。

ペット連れで参加できる「ペット避難研修会」

こうした実践をもとに、リーフレット「やさしい避難所シリーズ」全4冊を作成。
任意団体時代の冊子をリニューアルした「炊き出し編」「車中泊編」に、新たに「わんちゃん編」「外国人編」を加えました。持ち運びしやすく、シンプルでわかりやすい内容とし、手に取れば誰でも実践できることを目指しました。イベントや講演会などで配布するほか、レベルフリーのホームページでも閲覧できます。

防災をきっかけに広がる、国籍を越えたつながり

休眠預金活用事業の中でも、外国人避難の取り組みは、防災が「関係づくり」であることを強く実感する機会になったと坂本さんは語ります。

坂本「地域の方々は、外国人が住んでいることは認識していたものの、実際に話したり、顔を見たりしたことはなく、そうした距離感の中で話し合いがスタートしました。それが、1回目の研修会で技能実習生と対面した瞬間、地域の方々の雰囲気ががらっと変わったのがわかったんです。よそよそしさが消えて、表情が一気に和らいで。そこからはもう、私たちレベルフリーはほとんど何もしていません(笑)」

その後は、地域の人たちが自ら「次はお手玉をやろう」「輪投げをやろう」と企画するように。折り紙や巾着を作って実習生にプレゼントするなど距離が一気に縮まり、技能実習生にも笑顔が広がりました。こうして、防災の場は国籍を越えたつながりを育む場へと発展。研修会終了後も、地域のお祭りに技能実習生を招くなど、その関係は今も続いています。

坂本「研修会で、自治会長が『これからは日本人も外国人もない。お互いに助け合っていかなければ』とおっしゃったんです。うれしかったですね。防災で何より大事なのは、顔を知っていること、そして“話したこと”があること。顔見知りを超えた関係を普段から築けるかどうかだと、改めて実感しました」

技能実習生を交えた研修会で、地域の方々とお手玉をする様子

しかし、最初から順調だったわけではありません。技能実習生は各企業に少人数ずつ在籍し、集まってもらうだけでも大きなハードルでした。企業や自治会との調整、送迎の問題など、課題は山積みだったのです。「休眠預金活用事業でやると宣言してしまったのに、八方塞がり。どうしたものかと頭を抱えました」と坂本さんは振り返ります。

それでも「技能実習生と一緒に取り組みたい」と発信し続けていると、ある会合で、地元スーパーの惣菜工場に多くの技能実習生が働いていることを教えてもらいます。そこからスーパーを経営する企業とつながり、実習生が暮らす地域の役員の方々とも話し合いを重ね、実現へとこぎつけました。

坂本「私が好きなのは“HOW”の精神。最初から『自分達には無理だろう』と諦めるのではなく、『どうやったら(HOW)できるだろう?』と考え続ける。すると、思いがけないところから糸口が見つかるんです」

防災は仲間づくり。多様な主体と手を取り合う

資金分配団体の一員として関わり、事業の立ち上げからレベルフリーの試行錯誤を見守ってきた、やまぐち県民ネット21の宮内昭代さんは、その強みをこう語ります。

宮内「レベルフリーさんの活動はいつも、小さくて見過ごされがちな当事者の声から始まります。イベントや講演会でもアンケートを取り、集めた声を取り組みに生かそうとされている。その細やかさは、レベルフリーさんならではだと感じています。そしてもう一つは、『困った』という声を自分たちだけで抱えこまないことです。『一緒にやりませんか』と周りに明るく声をかけ、地域の人たちや企業、行政、大学など多様な主体と手を取り合って活動を進められている。人を頼り、支援を前向きに受け入れていく、その受援力の高さもまた、大きな強みだと思います」

宮内さんの評価を受け、坂本さんはこう語ります。

坂本「防災って、仲間づくりだと思うんです。仲間をつくるためには、初めましての企業さんにも“頼もう!”の精神で飛び込んでいく。ありがたいことに、これまで企業さんには一度も断られたことはありません」

そう話す坂本さんは、今回の事業で大きな気づきを得たといいます。

坂本「外国人の防災研修を一緒にやりましょうと行政に提案した際、『協力したい気持ちはあるけれど難しい』と言われたんです。そのとき、行政は平等性が求められる立場上、一部の地域だけを手厚くするわけにはいかない、つまり“やりたくてもできない”こともあるのだとわかりました。だったら、私たち民間がそこをやればいいと考えたのです。まずは私たちが地域に入ってモデルをつくり、行政が広げる。そんな役割分担ができると考えられるようになったのは、休眠預金活用事業で複数年にわたる助成を受け、さまざまな挑戦を重ねる中で、自分たちの役割がよりはっきりと見えてきたからです」

各研修会の実施に向け、会議が開かれる

事業では、やまぐち県民ネット21の伴走のもと、ホームページの立ち上げやSNSでの発信など、情報発信の体制づくりも進めました。

坂本「私たちは法人としてはまだまだ駆け出しで、整っていないところも多々あります。インターネットでの広報の大切さはわかっていながら、苦手なのでつい後回しにしていて。今回、ITの専門家につないでいただき、団体のホームページを制作し、情報発信することができるようになりました。事業終了後も活動を続けていくための土台になったと思います」

休眠預金活用事業が2026年度末で終了することを受け、今後について坂本さんは次のように語ります。

坂本「地域の多様な声に耳を傾ける『やさしい避難所』づくりは、今後も活動の大きな柱です。一方で、気候変動への危機感も強く感じています。このまま温暖化が進めば、気象災害は増え続けるでしょう。防災をきっかけに、地球環境を考えるマクロな視点と、地域づくりを考えるミクロな視点、その両輪で活動を続けていきたいです。とはいえ難しく捉えるのではなく、『防災は楽しく・明るく・しつこく!』をモットーに、多くの方を巻き込みながら、息の長い取り組みにしていきたいですね」

■事業基礎情報

実行団体一般社団法人 レベルフリー
事業名災害時の多様性に配慮した「やさしい避難所」を考える事業
採択事業年度2022年度通常枠
活動対象地域山口県内
資金分配団体特定非営利活動法人 ひろしまNPOセンター
<コンソーシアム構成団体>
・公益財団法人 とっとり県民活動活性化センター
・特定非営利活動法人 やまぐち県民ネット21
・公益財団法人 ふるさと島根定住財団
・岡山NPOセンター

休プラ編集部