利用者の人生に寄り添って支えていく。NPO法人ささえるから広がる支援の輪
愛媛県
NPO法人ささえるは、愛媛県松山市を拠点に、地域の高齢者、障がい者、生活困窮者などの困難を抱える人に対して、居住支援を中心としたさまざまなサポートを行う団体です。休眠預金等活用制度においては、2020年度の緊急枠、2022年度の通常枠(資金分配団体:公益財団法人 パブリックリソース財団)で事業を実施。「無いものをつくり、できないことをなくす」を理念として支援の幅を広げ、現在は女性支援事業の一環として「MANMAL BAGEL」を運営し、ベーグルの製造・販売も手掛けています。同法人代表の山田洋子さんに、活動の意義や成果、そして今後の展望について伺いました。
多様化する地域の課題に向き合うために
ケアマネジャーとして大阪で働いていた山田さんが、地元である愛媛県に戻ってきて感じたのは、「空き家と独居高齢者の多さ」だったといいます。ひとり暮らしの高齢者の在宅支援をする中で、ケアマネジャーとしての職務の範疇を超えた「シャドーワーク」の存在に課題を感じていました。

山田洋子さん(以下、山田)「私はケアマネジャーとして、ひとり暮らしの高齢者の在宅支援をしていたのですが、終末期を迎えた際の住まいの処分や財産管理事務、亡くなった後の手続きなどがとても大変だった経験があって。こうした業務を、ケアマネジャーだけが抱え続けていくのはおかしいとも感じていたんです。そこで同じように問題意識を持っている仲間に声をかけ、2018年に『NPO法人ささえる』を立ち上げました」
10名の正会員には、ケアマネジャーの他、医師や看護師、薬剤師の資格を持ったスタッフがおり、ボランティアメンバーには社会福祉士もいます。立ち上げの際に、まずはメンバーの関心が高かった住まいの問題に取り組もうということになり、愛媛県の住居支援法人(住宅セーフティネット法に基づき都道府県知事が指定する法人)の指定を取得。入退去に伴う手続きなどのサポート、身元保証、見守りや安否確認、成年後見制度利用支援など、住まいに関する支援を幅広く提供してきました。
山田「施設に入るほどでもないけれど在宅では心配な高齢者、生活保護は受けていないものの金銭的に困っている低所得者といった人たちの暮らしを、なんとかしたいという思いがありました。そこで空き家を利用して、低所得者を対象としたシェアハウスの運営を始めたことをきっかけに、生活支援や身元保証など、皆さんの困りごとを解決しようといろいろなことをやり始めたら、いつの間にか支援の幅が広がっていました」
増加している女性たちの「ヘルプ」に応えたい
低所得者用のシェアハウスは入居の相談が非常に多く、特に緊急性の高い支援の依頼も相次ぎました。シェアハウス開設の翌年には、空き家を活用して、DV被害者などが一時的に避難する場所を提供する、シェルター事業にも取り組み始めました。部屋は2室だけでしたが、入居者の入れ替わりが頻繁にあり、ニーズの高さを痛感。実際、民間によるシェルターは愛媛県内に存在せず、必要としている方を受け入れられない場面も多く、「これは何とかしなければ」と感じたことが助成金申請のきっかけでした。
山田「当時は、私たちが緊急シェルター事業を始めたことが周知され始めたのもあって、依頼が急激に増えていて。だから、パブリックリソース財団による2020年度緊急枠の公募は本当にありがたかったです。いただいた助成金を使って小さな病院だった建物を改装し、全部で16室のシェルター兼シェアハウスを開設しました。利用者の過去最年少は18歳、最年長は90歳と、幅広い世代が暮らしています。1階には大きなキッチンがあり、ささえるのスタッフが調理した食事を提供している他、現在は就労訓練として展開しているベーグルの製造・販売事業の調理場としても活用しています。嬉しいことに、ベーグルの製造・販売事業は、想定以上の売れ行きを確保できており、今後も積極的に展開していく予定です」

その後、2022年度通常枠にも申請し、再度助成金を得ることに。今回は「女性の自立支援」に特化し、これまでの居住支援などのノウハウを活かして、困窮する女性の住まいの確保から、就労訓練・生活支援・自立までを一体的に支える仕組みの構築を目指しています。
山田「多くの人を受け入れる中で、夫からDV被害を受けた女性から、支援を求める依頼がどんどん増えてきました。若年層だけではなく、40代、50代の女性が夫のモラハラから逃げて駆け込んでくるケースも多くて。中には、これまで働いた経験がない人、子どもを何人も抱えた人など、すぐには自立した生活を営むことが難しい人たちも少なくありません。それに、自治体が運営する母子寮やシェルターはルールが厳しいことも多く、そういった環境が合わずに行き場がない人たちも多くいました。私たちも専門の団体ではないのに、そういった依頼が次々に来るようになって、正直なところ不安を感じてもいたんです。通常枠で応募するにあたって、『もし助成を受けられたら、ちゃんとした仕組みを県内につくれるんじゃないか。そうしたら自分たちも、受け入れ先として機能する』という期待がありました」
団体としての信頼を高め、女性の自立を促す仕組みをつくる
ささえるは、利用者の就労訓練にも力を入れています。ベーグルの製造・販売に加えて、外部の企業に委託し、オンラインでWEBデザインやコーディングを学べるコースも用意。ささえるのスタッフは、学習の進捗や生活面での困りごとをヒアリングしながら、継続的にサポートしています。
山田「受講者さんがある程度スキルを身につけたら、独立や就業の道を模索します。頑張って学んで、ささえるのホームページを新しく作ってくれた方もいるんですよ。ただ、どうしても毎日の生活にいっぱいいっぱいになって、離脱してしまう人が多いのも実情。そうした人も、チラシ制作など難易度の低いところからチャレンジできるように試行錯誤しています」
利用者からは「助かった」「こんなところがあるなんて知らなかった」といった声が届き、シェルターを出た後もSNSなどを通じて交流が続いているそうです。 また、通常枠の助成金を利用してベーグルの販売店舗を開設。シェルター兼シェアハウスの開設から、ベーグルの製造・販売へと事業を広げていき、支援の基盤を強化していったことは、行政からの信頼にもつながっています。

山田「行政との関係づくりが進んだことは、大きな成果だったと思います。例えば活動報告会には行政の中でも役職の高い方が参加してくださるようになりましたし、行政機関からの協力依頼が事業開始前と比べて約3倍になりました。もともと自治体とは連携を続けていましたが、今回の取り組みを通じて、その関係が一歩、二歩と前に進んだと実感しています」 こうした自治体との強固な連携は、法人自体の信頼度を上げ、ボランティアや寄付などで活動を支えてくれる人たちの輪が広がっているそうです。
就労訓練のスキームを全国に広め、他団体のモデルを目指す
事業期間の中で、パブリックリソース財団から同時期に助成金を受けている実行団体が集まり、団体同士で交流する機会がありました。その際、ベーグルの製造・販売による就労支援については、他の団体も「やりたい」と興味を示していたそう。
山田「ただ厨房や専用の設備を整えるのが難しい場合も多いと思うので、例えば電子レンジとトースターだけでも始められるような、初期投資を抑えたやり方を模索しています。私たちだけでなく、他の団体もそれぞれの規模に合わせて取り組め、きちんと売上につながるようなスキームを構築していけたら嬉しいですね」

また今後の展望として、山田さんは、より女性支援に力を入れ「まだ女性支援に取り組んだことのない団体のモデルになりたい」という目標を掲げています。
山田「女性支援に取り組むときは、ご本人のことだけでなく、仕事やお子さんのこと、生活、お金、離婚の問題など、複合的な課題に向き合う必要があります。特に支援の先にある“自立”を考えると、その人の人生に深く関わることになるので、難しさを感じる場面も少なくありません。けれど、そういった部分を支援できるのはとても大事なことだとも思うので。休眠預金活用事業での女性支援の取り組みを通して、どんなところに壁ができやすいか、どことどんな連携を取ればいいのかといったことが、少しずつ見えてきました。こうしたノウハウを広く伝えて、全国で女性支援に取り組もうと考えている団体の背中を押せたらと考えています」
■資金分配団体POからのメッセージ
ささえるの強みは、とにかく山田さんがパワフルなこと。やりたいことが明確にあって、それを実現させる行動力や想いが強いからこそ、スタッフや行政が山田さんを信頼して事業を進めていく構図ができているのだと思います。ベーグル店の運営については、私たちの団体の中でもその分野に強いスタッフがつき、“利益が上がった!”と一緒に喜び合っていました。住まい支援は愛媛県に根付いたものですが、ささえるの就労支援を含めた女性支援が、全国に展開できるモデルケースになることを期待しています。
(公益財団法人パブリックリソース財団/渡邉 由佳 さん)
【事業基礎情報①】
| 実行団体 | NPO法人ささえる |
| 事業名 | 困難な問題を抱える女性の包括的自立支援事業 |
| 採択事業年度 | 2022年度通常枠 |
| 活動対象地域 | 愛媛県全域 |
| 資金分配団体 | 公益財団法人パブリックリソース財団 |
採択助成事業 | 様々な困難で困窮する女性の経済的自立支援 |
【事業基礎情報②】
| 実行団体 | NPO法人ささえる |
| 事業名 | 要配慮者のための支援付き住宅及び地域支援拠点事業 |
| 採択事業年度 | 2020年度コロナ枠 |
| 活動対象地域 | 愛媛県 |
| 資金分配団体 | 公益財団法人パブリックリソース財団 |
採択助成事業 | コロナ禍の住宅困窮者支援事業 |