インタビュー

休プラ編集部

「対話」によって築いてきた連携ー休眠預金等活用制度の今までとこれからについて、事務局長に聞きました。 

「対話」によって築いてきた連携ー休眠預金等活用制度の今までとこれからについて、事務局長に聞きました。 

休眠預金等活用法における指定活用団体である一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)の活動が始まってから6年が経過。設立から今までの変遷と成果を振り返るとともに、2024年度の総合評価(速報版)の内容にも触れながら、今後の展望について大川昌晴事務局長に聞きました。 

対話を重ねて共に築いてきた、信頼と仕組み 

―まずは、JANPIA設立の背景について教えてください。 

2018年1月に「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(休眠預金等活用法)が施行されました。この法律は10年以上取引のない預金、いわゆる休眠預金を、NPOなどの公益的な活動を担う団体が事業に活用することで、社会課題の解決に貢献することを目的としています。こうした制度の理念を受けて、同法に基づく指定活用団体となることを目指して、同年7月に一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)によりJANPIAが設立され、公募の結果、2019年1月、内閣府により指定活用団体に指定されました。 

―2019年の4月から助成事業を開始されています。約6年間の事業のなかで、どのようなことを大切にされてきましたか? 

この事業は、社会課題の解消に向けて現場でさまざまな活動に取り組む「実行団体」、その中間に立って実行団体への資金支援や伴走支援を行う「資金分配団体」と、「指定活用団体」である私たちJANPIAの3団体が連携・協働して取り組んでいます。初年度は特に、休眠預金というお金の性質から助成金を受け取る団体に求める要件の設定など、適切に制度を運用していくための試行錯誤の時期がありました。そのような中で、私たちが最も大切にしてきたのが「対話」です。資金分配団体の代表者と意見交換をする場を設けたり、資金分配団体のプログラムオフィサーを中心とした有志の皆さまと業務改善のチームを設け、話し合いを重ねてきました。特に運用面について積極的に対話の機会を作り、改善に結びつけることができてきたと考えています。 

ほかにもさまざまな課題はありましたが、対話を大切にすることによって、資金分配団体の皆さまとの関係性を築いていくことにより、多くのステークホルダーとの連携と協働による、円滑な活動が可能になってきたのだと思います。 

―特に注力してきたのはどのような取り組みですか? 

私たちの活動の特徴の一つは、社会的インパクト評価を制度として取り入れていることです。実行団体は、開始・中間・終了の時点において、自団体で評価指針に基づいた評価の実施と報告を行う必要があります。一方で、評価の経験がある団体ばかりではないことから、資金分配団体向けに研修を実施したり、実行団体向けのハンドブックなども作成しています。 

また、資金配布団体にプログラムオフィサー(PO)という役割の人がいることを必須とし、事業の評価やプログラム設計、進捗のモニタリングといった実行団体への非資金的な伴走支援を行っていることも大きな特徴です。POの伴走支援と評価が組み合さることで、事業を効果的に進めるだけでなく、組織としての運営体制を整えることもできます。制度を活用している実行団体の多くは小規模な組織です。そのため、助成をきっかけに、初めて団体の規程類を定めたり、公開したりするケースが多々あります。助成を通じて事業を行うだけでなく運営体制を整えることで、団体としての基盤が整備され、持続的な活動につながっています。 

事業活動を振り返り、印象深かった出来事はありましたか? 

2020年からのコロナ禍という未曽有の状況において、休眠預金活用事業の枠組みを活用して私たちができることを考え、多くの関係者との意見交換を重ねて「新型コロナウイルス対応緊急支援助成」を行ったことは、制度にも大きな影響を与えました。助成期間が通常枠は最長3年のところ、緊急支援枠は最長1年とし、緊急的な支援を円滑に行っていただくために申請要件を見直したり、年に複数回の公募を行いました。そのこともあり、多くの事業へ助成を実施することができ、制度の活用も広がりました。 

この枠組みは、2022年にはウクライナ情勢に伴う原油価格・物価高騰に対応したり、2024年1月には能登半島地震に伴って深刻化した社会課題への緊急的な支援に対応するなど、緊急的に発生する課題に対応しながら継続しています。2025年度は、名称を「緊急枠」として、1年間で集中的に支援が必要な課題に即応する枠組みとして運用していく計画です。 

公募説明会で解説する大川事務局長

成果と課題——「2024年度総合評価」から振り返る

現在(2025年3月)速報版が公開されている「2024年度総合評価」では、助成終了後の団体の動きを追う「フォローアップ調査」が盛り込まれていますが、どのような目的があるのでしょうか?

休眠預金という、国民の資産を活用する制度である以上、その成果を分かりやすく提示する必要があります。特に、事業が終了した後にその団体がどうなっているのか、制度として中長期的にどんな成果が残せているのかを把握する必要がありました。そうした課題意識から実施したのが「フォローアップ調査」です。この調査では、成果を確認するだけでなく、どのような要因があれば事業が継続されやすいのかといった知見も得ることができました。

フォローアップ調査では、対象となった2019年度、2020年度通常枠採択団体のうち、助成終了後も支援活動を「拡大・発展している」「同規模で継続している」と回答した団体が77%と、事業継続率が高いことが示されています。こうした成果の要因について教えてください。

今回の調査で見えてきたのは、助成によって対象の領域に資金が投入されることで、現場にどのような変化が起きるのかという点です。支援活動が始まり、支援対象者と実際につながると、いわゆる「顔が見える」状態になり、必要な支援や適切なアプローチがより具体化していきます。ニーズに合った支援によって成果が得られると、団体もその事業の有用性を実感し、事業を継続するという次のステップへと進んでいくことが多く見られました。例えば、事業を発展させて収益化に取り組む団体もありますし、収益化が難しい場合でも、ニーズの可視化によって行政が関心を持ったり、企業との連携が進んだり、ボランティアが集まりやすくなったりといったポジティブな変化が起こっています。先に挙げたようにPOなどによる非資金的な伴走支援により実行団体の基盤整備が可能になり、組織として強化されたことも、こうした変化に寄与しているでしょう。

一方で事業が継続できないケースについても、いくつかの要因が明らかになりました。例えばコロナ禍などの影響もあったかもしれないのですが活動量が少なかった、当初予定した取り組みが機能しなかった、継続のための人材が確保できなかった、支援対象や地域のニーズとのミスマッチがあったなどです。。一方で、当初目的としていた課題が解決されたことで事業の必要がなくなったというケースや、行政に引き継がれたというケースもあります。今後は、こうした成果や背景を丁寧に検証しながら、真に支援を必要とする課題を見落とさないようにしていくことが大切だと考えています。

―「2024年度総合評価」には、休眠預金活用事業のロジックモデルや「JANPIAが目指す社会」も掲載されていますが、これらはどのような目的で作成されたのでしょうか?

ロジックモデルは、制度の戦略を可視化し、評価の枠組みを整理するとともに、私たち自身の業務改善にもつなげていくことを目的として作成しました。事業によってどのような成果(アウトカム)を目指すのかを明確にしています。休眠預金活用事業を通じて、よかったことについて教えてください

「JANPIAが目指す社会」については、JANPIAが指定活用団体としての役割を担い、資金分配団体や実行団体などの関係者とともに目指す世界観を共有し、分かりやすく体外的に説明していくツールとして作成しました。

作成にあたっては、JANPIA職員が全4回のワークショップを実施し、職員自身が日々の活動を振り返り、原案を作成。それをベースに、主に資金分配団体と意見交換を行い、取りまとめました。総合評価速報版の時点では制作過程のものを掲載していましたが、その後に議論を重ね、より共有がすすむようにイラスト化にも取り組みました。これを活用しながら、さらに刷新を続けていく予定です。

制度の力を未来へつなぐ

―今後のビジョンについて教えてください。

私たちの事業は、休眠預金を原資とさせていただいていますが、元はと言えば国民の資産であり、限りある貴重な資金です。新たな資金の流れとして、2023年度からは出資事業もスタートしましたが、先のフォローアップ調査の結果を踏まえて、出資で対応すべき事業領域も見極めていきたいと考えています。必ずしも事業化に適した領域のみを選ぶのではなく、財務的なリターンは大きくないかもしれないが課題解決のために民間の資金が入りにくい領域に出資するなど、必要なバランスを探っていくことがJANPIAとしての役割だと思います。

また、今まで取り組んできた活動を継続しつつ、これまでに蓄積されてきたものを5年後、10年後に向けてどう活かすかを考え、その担い手を増やしていくことにも力を入れたいと思っています。2024年に開設した休眠預金活用プラットフォームは、その起点となるものです。フォローアップ調査で判明したように、助成事業を機に関係者がつながっていき、連携によって自走していくことが可能になります。私たちはそうした人材をつなぐ橋渡し役を果たすと同時に、その担い手を育てていくことが、これからますます重要になっていくと感じています。

その担い手を育てる仕組みの一つが、「活動支援団体」の制度です。活動支援団体は、民間公益活動の担い手、または将来的にその担い手を目指す団体(支援対象団体)に対し、専門的なアドバイスや非資金的な支援を行う団体です。これまでは、現場で活動していく中で、評価の仕方や基盤整備に悩むケースも少なくありませんでしたが、活動支援団体が早い段階から伴走することで、より効果を生み出しやすくなることが期待されています。

6年間さまざまな変化をしてきましたが、事業開始以来大切にしている「連携」と「協働」、その実現のための「対話」の姿勢、これは揺らぐことはありません。誰のために、何のためにやっているのかという原点に、常に立ち返ることができる組織でありたいと思っています。


(取材日:2025年3月18日)

【追加情報】

本文中でご紹介している、「総合評価第3回」が2025年5月29日に公表されました。

以下リンク先からご覧いただけます。

総合評価 | 一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)

休プラ編集部