お金だけでなく「つながり」を生み出す。リズカーレが四国初のコミュニティ財団で挑む支援のかたち
愛媛県 四国
地元の住民や企業から集めた寄付をもとに、地域課題の解決に取り組む団体やプロジェクトを支え、人や資源をつなぐ「コミュニティ財団」。行政だけでは解決が難しい課題に、地域ぐるみで取り組む仕組みとして注目されています。
「えひめ西条つながり基金」(愛媛県西条市)は、休眠預金活用事業の助成に加え、地域の寄付や支援も受けながら設立された、四国初のコミュニティ財団です。2022年4月の発足以来、西条市内のさまざまな活動を支援してきました。今回は、同基金の設立を担った実行団体である一般社団法人リズカーレ(以下、リズカーレ)代表の安形真さんに、「えひめ西条つながり基金」の設立経緯やこれまでの取り組み、そして活動を通して見えてきたコミュニティ財団の意義について伺いました。
地域のチャレンジャーを応援するコミュニティ財団設立へ
リズカーレは、愛媛県西条市を拠点にローカルベンチャー支援を行う団体です。コワーキングスペース「サカエマチHOLIC」の運営や起業家のコミュニティづくりを通じて、地域で挑戦する人たちを支援しています。代表を務める安形さんは20代のとき、農業で地域を活性化しようと起業した経験から、地方には挑戦者を支えるリソースが不足していると感じていました。

安形「東京や大阪のような大都市圏には、人材や資金、ノウハウなどさまざまなリソースが集まりやすく、次々と新しい挑戦が生まれます。しかし、高齢化や過疎化といった社会課題がより深刻な地方では、それらの解決に挑戦する人たちへの支援が足りていません。地方で挑戦する人たちを活性化させるには、どうしたらいいのか。その仕組みづくりに強い関心を持つようになりました」
休眠預金活用事業に申請したきっかけは、行政主導で進んでいた「西条市版ローカルファンド構想」でした。西条市では当時、市民や地元企業からの寄付や出資を募り、地域の課題解決に活かす仕組みづくりが検討されていました。安形さんも市民有志として研究会に参加し、議論を重ねる中でコミュニティ財団設立の構想が具体化していきます。しかし、財団の必要性は誰もが感じていたものの、担い手として手を挙げる人はいませんでした。
計画が頓挫しかけたとき、休眠預金活用事業を知った安形さんは、助成を活用して自らコミュニティ財団を立ち上げることを決意。2020年度の通常枠(資金分配団体:一般社団法人 全国コミュニティ財団協会)に採択されました。申請に踏み切った理由を、安形さんは次のように話します。
安形「一番は、社会起業家を地域で育てたいという想いからです。行政だけで地域課題を解決することが難しくなっている状況では、地域課題に挑戦する人を増やしていく必要があると考えています。ところが、いろいろな“チャレンジャー”を見ていると、想いを持って立ち上がっても資金面で行き詰まってしまう人が少なくありません。彼らを資金的にサポートする体制が必要だと考えていました。
ただ、財団設立にはお金も人も必要で、おいそれとできるものではありません。休眠預金活用事業で人件費や事務局運営費などのサポートを受けられることを知り、私たちが先陣を切ってやってみようと思いました」
市民の声から生まれた7つの助成プログラムを実施
設立にあたって安形さんたちが大切にしたのは、住民参加型の財団にすることでした。
安形「私たちが目指すのは、市民が自分たちで課題を見つけて、自分たちで解決しようとする社会です。何を課題と感じるかは人それぞれですから、まずは市民のみなさんの声をたくさん聞こうと思いました」
最初に取り組んだのは、地域のニーズを把握するための調査です。コロナ禍の中、オンラインを中心に勉強会やワークショップを約20回にわたり開催し、毎回10〜20人の市民が参加。防災や子育て、障害のある人との共生などさまざまなテーマについて議論し、地域の課題を可視化しました。
2022年4月、四国初となるコミュニティ財団「えひめ西条つながり基金」を設立。同年12月には公益財団法人の認定も取得しました。財団設立後は、市民との対話から生まれた7つの助成プログラムを実施。2つの子ども食堂の立ち上げや、市内イベントにおけるごみの削減、障害のある人と地域住民の支え合いを促進する防災訓練の実施など、多様なプロジェクトを支援することで、市民の想いを一つひとつ形にしていきました。

本事業で特に苦戦したのは、設立準備金集めです。しかし、当時はコミュニティ財団に対する認知度が低く、コロナ禍にあって説明会を開くことも難しかったため、寄付集めは難航したといいます。
安形「寄付集めを始めて最初の3ヶ月で集まったのは約50万円。このペースで目標に届くのだろうかと、不安でいっぱいでした。そんなとき、営業が得意な方がメンバーとして加わってくれたんです。その方と一緒に企業を回りながら丁寧に財団の説明をしていった結果、寄付は徐々に広がり、最終的には400万円以上の寄付が集まり、無事に財団を設立することができました」
安形さんたちは、企業寄付や遺贈寄付など幅広い寄付を集めやすくするため、寄付者が税制優遇を受けられる公益法人化を目指していました。公益法人化にあたっては、資金分配団体である一般社団法人全国コミュニティ財団協会の伴走支援も力になりました。必要な書類作成や手続きのサポートに加え、行政との調整にも伴走。安形さんは「休眠預金活用事業では資金面だけでなく、非資金的な支援を受けられたことも助かりました」と振り返ります。
自走フェーズへ。プロボノ支援を経て、広がる財団の活動
休眠預金活用事業は2024年3月に終了。財団は自走のフェーズに入りましたが、事業期間中に事務局長となる人材を確保できず、運営面で安形さん個人への依存が続いていました。背景には、財団に対する市民の“オーナーシップ”が十分に育っていないという課題があったと話します。
安形「そもそも『西条市版ローカルファンド構想』自体、行政主導でスタートしています。市民運動のようなムーブメントにはなっていない段階で、助成を受けて短期間にコミュニティ財団をつくったことの弊害が出てしまっていました。市民のための財団なのに、市民であるメンバーが自分ごとにできていない状況だったんです」
そんな折、JANPIAの企業連携チームを通じたマッチングにより、コンサルティングファームの合同会社デロイト トーマツ(以下、デロイトトーマツ)によるプロボノ支援を受けることに。プロのコンサルタントの伴走のもと、財団のメンバーが一緒になってビジョン・ミッションの策定と中期計画書の作成に取り組み、財団の目指す未来を議論しました。
安形「話し合いを進める中で、『楽しくなくちゃ続かない』『世代を超えて一緒に街づくりを考えていきたい』という想いが明確になっていきました。そこから、ビジョンとミッションのキーワードとなっている『ココロオドル』『次世代と共に』という言葉が生まれました。どちらも私一人では出てこなかった言葉です。みんなでビジョン・ミッションをつくり、計画を立てていく過程自体が、理事のみなさんにとって財団を自分ごととして考える機会になったと思います。やはり、“みんなで考えること”が大事だと実感しました」

休眠預金活用事業の終了後は、「えひめ西条つながり基金」が主体となって進める事業にも取り組んでいます。その一つが、内閣府の「関係人口創出・拡大のための対流促進事業」に採択された「OMATSU-Reboot CAMP」です。
西条市では毎年10月、市民の誇りともいえる「西条祭り」が盛大に行われます。しかし近年は、人口減少や高齢化により、祭りの担い手不足が深刻化しています。そこで、市外の人たちに祭りへの参加を呼びかけ、新たな担い手と自治会をマッチングする取り組みをスタート。これまで8つの自治会が受け入れに応じ、17人が祭りに参加。その半数以上がリピーターとなっています。

自治会と対話を重ねる中で、みこしや太鼓台の新調・修繕には多額の費用がかかり、地域の負担になっていることも見えてきました。安形さんたちは現在、自治会向け基金の創設を検討するなど、祭りを継続するための新たな仕組みづくりを進めています。
安形「祭りをなんとかしなければと以前から思っていましたが、具体的にどうすればいいかわからなかったんです。『えひめ西条つながり基金』がなかったら、形にできませんでした。市民財団だからこそ、地域のみなさんと一緒に取り組めて、地域の役に立てている実感があります」
4年間の活動を通して見えてきた、コミュニティ財団の価値
事業終了から1年半後には、休眠預金等活用制度における追跡評価も受けました。追跡評価とは、中長期的な目標の達成や波及効果などの確認、および事業の価値を再発見するために実施するものです。
安形「追跡評価では、企業、行政、寄付者、助成先など関係者へのヒアリングも行われ、地域の人たちが財団をどう受け止めているのかを知ることができました。自分たちが気づいていなかった価値や地域からの期待を再発見できて、今後、財団がどういう形で地域と関わり、どんな役割を果たしていくのか。改めて考えるきっかけになりました」

「えひめ西条つながり基金」の設立から4年。これまで17団体に194万円を助成し、寄付者の延べ人数は1,000人を超え、寄付総額は800万円以上にのぼります(2026年5月時点)。活動を振り返り、安形さんはこう話します。
安形「私自身、この4年間でコミュニティ財団に対する見方が変わりました。最初は、寄付金を集めて地域にお金を循環させる仕組みというイメージで始まっていたんです。でも実際に運営してみると、寄付を集め続けるのは簡単ではないし、財団の財政もまだまだ厳しい。それでも続けてきて実感するのは、コミュニティ財団の価値は単に“お金を届ける”だけではない、ということです。
例えば、10万円の助成をしたとします。もちろんその10万円でできることもありますが、助成しているからこそ、地域のために頑張っている方々と深く関わることができる。悩みを聞いたり、一緒に考えたり、ときには助言したり、その関係性そのものがとても大切なんです。財団の価値は助成金そのものではなく、そこから生まれる非資金的な支援、つまり『つながり』にあると思います」
助成事業を通して地域の課題やニーズを把握し、必要な支援を必要なところに届ける。その過程で育まれる信頼関係こそが、大きな価値となっています。実際、財団には「子ども食堂を支援したい」「お米を寄付したい」といった相談が数多く寄せられます。子ども食堂が本当に必要としている支援を伝えたり、農家をシングルマザー支援団体へ紹介したりと、人と人、人と地域資源をつなぐ役割も担っています。最後に、安形さんに今後の展望を聞きました。
安形「もともと、社会課題に挑む地域の“チャレンジャー”をどんどん増やしたいという想いから始まっています。目指すのは自分たちの街は自分たちでつくるというマインドを広げること。それには時間がかかります。お金は大事ですが、原点である『ココロオドルまちづくり』を忘れずに、みんなで楽しく街づくりをしていきたい。そのためにも、しぶとく、コツコツと続けていきます」
■事業基礎情報
| 実行団体 | 一般社団法人 リズカーレ |
| 事業名 | 社会事業化支援特化型のコミュニティ財団設立に向けて |
| 採択事業年度 | 2020年度通常枠 |
| 活動対象地域 | 愛媛県西条市 |
| 資金分配団体 | 一般社団法人 全国コミュニティ財団協会 |