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休プラ編集部

組織基盤を強化する「かなめびと」を育成。ボランタリーネイバーズの伴走型サポート

愛知県

組織基盤を強化する「かなめびと」を育成。ボランタリーネイバーズの伴走型サポート

NPOや市民活動団体などが地域課題の解決に取り組む中で、活動を持続・拡大するためには適切な事務局体制やガバナンスが欠かせません。しかし、2019年度から休眠預金等を活用した助成事業が展開される中、助成先団体の多くで組織運営上の課題を抱えていることが明らかになっています。「活動支援団体」は、こうした団体が抱える事業や組織の課題を解決するために、専門的なアドバイスや伴走支援を行う存在です。(「活動支援団体とは」
2023年度に活動支援団体として選定されたNPO法人ボランタリーネイバーズは、2024年度に3つの支援対象団体に対して「かなめびと(組織コアスタッフ)育成による組織基盤強化」と銘打ったサポートを実施。本記事では、同団体の理事・青木研輔さん、支援を受けたNPO法人ファミリーステーションRinの皆さんに、支援内容とその成果について詳しく伺いました。

複雑化する社会課題とNPOの世代交代問題 

2001年に設立されたボランタリーネイバーズは、25年近くにわたり、“NPOを支援するNPO”として活動を続けてきました。NPO法人の設立・運営支援、行政との協働推進、会計業務など、幅広い相談に応じて専門家と伴走支援を提供しています。長く中間支援組織としての役割を果たしてきた中で、休眠預金等活用制度の活動支援団体へ申請したのは、なぜなのか。青木研輔さんはこのように話します。

青木研輔さん(以下、青木)「1998年に特定非営利活動促進法が制定され、その後、多くのNPO法人が創設されました。それから30年近くが経ち、当時とは社会課題が大きく変化・複雑化しています。どの団体も目の前の課題に対応していくのがやっとで、組織体制を強固なものにするところまで手が回っていない。活動に伴走する中で、そういった現場を見ることが増えてきており、我々が力になりたいと思ったんです」
また、設立当初のメンバーが高齢化し、世代交代のタイミングを迎えている団体が全国的に増えている中で、次世代を担う人材の育成をサポートしたいと思ったのも、申請理由の1つだと青木さんは語ります。加えて、NPO法人NPOサポートセンターが2025年に発表した「NPO代表者白書」のデータに触れ、こう続けます。

青木「調査では、全国平均で56.2%の団体が中期計画のような将来を見据えた計画を策定していないという数字が出ています。あくまで目安ですが、これは多くの団体が先の見通しを立てて活動ができていないことを意味しています」

目の前のことに追われて、将来像を描いている暇がない。もしくは、描く手段がわからない。そうした団体に対して適切なサポートをし、日本のNPOをもっと元気にしたい。そんな思いを背景に、ボランタリーネイバーズは活動支援団体公募に申請し、採択されました。対象となったのは「かなめびと(組織コアスタッフ)育成による組織基盤強化」と題した事業。これは、団体を引っ張っていくコア人材の育成を目的に、各団体の課題に応じて専門家を派遣し、チームを組んで伴走支援を行うものです。

オンラインで取材に応じる青木さん

団体ごとに支援の仕方をアレンジし、チームを組んでサポート 

ボランタリーネイバーズの支援の特徴は、大きく2つあります。1つは、決まったフレームワークを持たないこと。団体によって抱える課題は異なり、その解決策もそれぞれに違うからです。

 

青木「各団体にヒアリングをし、課題を抽出した上でベストなサポート人材(専門家)と解決策を検討します。ファシリテートのプロと一緒にワークショップを行うこともありますし、弁護士と共にガバナンスやコンプライアンスに関する体制づくりをすることもある。会計ソフトの導入サポートをするために、税理士と一緒に現場でアドバイスをしたこともありました。可能な限りどんな相談にも応じられるように、柔軟にサポート内容を変えています」

 

支援を進めていく中でも、当初の設計にこだわらず、発生した疑問や新たに見つけた課題があれば、それに応えられるようにアップデートしているとのこと。また、もう1つの特徴は、外部の専門家の力を借りて、チームを組んで支援することです。

 

青木「中間支援に取り組む団体の中には、コーディネーター兼専門家のように、1人で全てに対応しているところもあるでしょう。けれど、ボランタリーネイバーズはあえてそれをしていない。それは、第三者を交えることで、“自分(伴走者)を超えた多様な視点”で支援できるからです。調整コストを考えたら面倒ではありますが、支援のプロセスを客観視できるような仕組みがあってこそ、独りよがりにならない支援ができると考えています」

 

ボランタリーネイバーズの「かなめびと育成」事業は、2024〜2027年の3年間で全4回の公募を行い、各団体に6カ月間の伴走支援を行うプログラム。初回の公募では3団体を採択し、組織体制や役割の明確化、規程類の整備、管理・経理業務の見直しなどに取り組みました。今回支援した団体の1つ、ファミリーステーションRinに対しては、専門家として経験豊富なファシリテーターを派遣し、全6回のワークショップ形式で支援を進めていきました。

 

青木「Rinさんは主に創業世代から次世代への事業承継を課題としていました。ヒアリングを重ね、次世代を担うメンバーたちが運営の核として持っておくべき共通認識、判断の軸が必要で、それを得るにはワークショップの実施がベストだと考えました」

ワークショップを通し、次世代メンバーの運営の「軸」を形成 

ファミリーステーションRinは、愛知県日進市を拠点に、子どもの一時預かりや子育て支援拠点の運営、訪問型サポート事業といった、子育て環境の改善を図る活動を展開しています。発足は2004年。創設メンバーの1人である代表理事の牛田由美子さんは、このように語ります。

 

牛田由美子さん「私たちの代から次の代へ、事業承継をする時期に差し掛かっています。ただ、青木さんがおっしゃったように、日々の業務に忙しく、なおかつ次世代のコアメンバーが事業ごとに分かれて仕事をしている状況で、法人運営についてしっかりと話し合う機会を持てていませんでした。それに加えて、世代交代に当たっては社会課題をしっかりと捉える感性を身に着けて、その中で主体的に関わるにはどうしたらいいのかを考えてほしいという思いがあったんです」

 

ワークショップに参加した5名のうちの1人である磯畑さんは、このように話します。

 

磯畑香苗さん(以下、磯畑)「どこかのタイミングで事業承継をするという意識はありつつも、具体的にいつ、どのようにやればいいのかわからずに、踏み出せないでいました。そんな中、ボランタリーネイバーズさんが支援対象団体を募集したチラシを拝見して、そこに “活動の広がりに合わせて、今の体制や現メンバーだけで続けていけるのかを見直してみませんか”といった趣旨が書かれており、『まさにうちのことだ!』と思い、サポートを受けたいと牛田に話をしたのを覚えています」

ワークショップの様子

 

ワークショップでは、組織課題を洗い出し、ファミリーステーションRinが大切にしている価値観の言語化、スタッフ一人ひとりの成長ステップを明確にするキャリアプラン表の作成、事業承継後を見据えた3年後の理想的な組織像の策定などが行われました。

 

一連の活動を経て得たものの大きさを、参加メンバーたちは語ります。

 

飯野良江さん「創業メンバーは、共有する思いがあって団体を設立したわけですが、途中から入った私たちはあらためて思いを話し合う機会を設けてきませんでした。ワークショップを通して、それぞれがどのように活動に向き合っているのかを知ることができましたし、そこから共通認識を確認することもできました」

 

浅井裕子さん「これまで関わっている事業からしかRinを見られていませんでしたが、客観的にRinの活動を見ることができ、あらためて存在意義を感じられたのはとても良かったです。自分たちだけでは後回しにしてしまいがちな話し合いも、ボランタリーネイバーズさんが入ってくださったことで、きちんとスケジュール通りに進められたのもありがたかったですね。こちらが言ったことを否定せず、常に肯定する言葉をかけてくださり、前向きな気持ちで取り組むことができました。毎回のワークショップが楽しみでした」

 

磯畑「最初に、話し合いのルールとして『自分の思っていることを包み隠さず、ぶつけ合おう』と決めたことで、それぞれが本音で話せたのが何よりも良かったです。普段は遠慮して話せないようなことも、ルールがある上でなら建設的に話し合えて、このプロセス自体が大きな財産になった気がします」

ワークショップで整理された「大切にしたい価値観」や「キャリアアップの方向性」

 

ここで策定された、ファミリーステーションRinが大切にしたい価値観やキャリアプランは、今後理事会などを通して、事業計画や人事評価制度などに落とし込まれていくとのこと。ワークショップを経たことでメンバー同士の結束力もより強くなり、話し合いの大切さを実感したそうです。

特別ではない、「普通の人」が支え合える社会に向けて

今後、活動支援団体として目指すのは、これまでの支援で培ったノウハウやツールを整理し、他地域の団体にも活用してもらえる形で共有していくことです。

 

青木「より多くの団体が適切な支援を受けるには、スーパーマンのような特定の誰かにしかできない支援活動であってはいけません。活動支援団体がコーディネートをして、専門家とチームを組んで支援するやり方なら、各地域で展開できるはず。専門家との連携の仕方などは我々が共有させていただきます」

 

近年、様々な分野で中間支援組織の役割が重要視されつつあり、そのような中でボランタリーネイバーズは、より一層力を発揮し、ノウハウを広く伝えてNPOが活動しやすい環境づくりを見据えています。

 

青木「ボランタリーネイバーズは『“よい社会”は市民がつくる』という理念を掲げています。ここでいう市民とは特別な人ではなく、どこにでもいる普通の人。誰もが誰かを支える活動ができる社会が、よい社会だと思っています。我々は直接的な支援の現場にいるわけではありませんが、現場で汗を流している多くのNPOを支える取り組みをこれからも続けていきたい。よりよい社会を作るために行動する市民を1人でも増やしたいですね」

 

【事業基礎情報】

資金分配団体 特定非営利活動法人ボランタリーネイバーズ
事業名 次のステージを支える「かなめびと(組織運営コアスタッフ)」養成による組織基盤強化
活動対象地域 愛知県及び隣接県(岐阜県、三重県、静岡県、長野県)
実行団体 ・NPO法人ファミリーステーションRin(※)
・からし種
・特定非営利活動法人トルシーダ
・特定非営利活動法人エム・トゥ・エム
※記事で取り上げらている団体

休プラ編集部