取材記事

休プラ編集部

ギャンブル依存症者の自死をなくすために。正しい知識と支援を広げる「ギャンブル依存症問題を考える会」の取り組み 

全国対象事業

ギャンブル依存症者の自死をなくすために。正しい知識と支援を広げる「ギャンブル依存症問題を考える会」の取り組み 

「やめたくても、自分ではどうにもできない」。ギャンブル依存症は本人の意思の弱さの問題として語られがちですが、適切な治療と支援が必要な精神疾です。多額の借金を抱え生活が破綻し、自死に至るケースも少なくありません。しかし日本では今も、多くの当事者や家族が孤立したまま苦しんでいます。

 こうした現状を変えようと活動しているのが、「公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会」です。休眠預金活用事業2024年度通常枠(資金分配団体:NPO法人OVA READYFOR株式会社に採択され、ハイリスクな当事者への直接的な支援と、相談の最初の受け手となるゲートキーパーの育成に取り組んでいます。代表の田中紀子さんに、活動のきっかけやこれまでの取り組み、目指す未来を伺いました。 

ギャンブル依存症から回復できる場があることを伝えたい

 「公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会」は、代表の田中紀子さん自身がギャンブル依存症の当事者であり、家族としても依存症と向き合ってきた経験をもとに設立した団体です。啓発活動や政策提言を通して、ギャンブル依存症が「回復可能な精神疾患」であることを伝え、当事者が適切な支援につながれる社会を目指しています。
田中紀子さん(以下、田中)「団体発足のきっかけは、カジノ法案が話題になった2014年に、厚生労働省が国内のギャンブル依存症の推計人数を536万人と発表したことでした。当時、私はギャンブル依存症問題を抱えた家族の自助グループで活動していたんです。だから、親やパートナー、子ども、いろんな立場の人が当事者をなんとかしたいと悩んでいることを知っていました。当事者1人につき3人の家族が悩んでいると仮定すれば、人口の1割以上がこの問題に直面している計算になる。こんなに多くの人が苦しんでいるのに、ギャンブル依存症は自分たちのように自助グループにつながっている当事者や家族が極めて少ない現状に改めて気づきました」

取材に応じる田中さん

自助グループは、同じ問題を抱える人たちが体験を共有し、支え合いながら共に回復を目指す大切な場です。しかし当時は存在自体がほとんど知られておらず、そもそもギャンブル依存症が病気ではなく「借金問題」として扱われ、適切な支援につながりにくい状況だったといいます。

田中「だったら、自分たちが自助グループの広報活動をしようと考えて、この団体を設立しました。立ち上げ当初は、全国各地で啓発セミナーを開いて、当事者に対する家族の対応を伝える活動をしていました。当時は活動資金もなかったから、自分たちで資金を集めて会場を借りて。地道に活動を続けていると、『最初に相談した場所で、ひどい言われ方をした』とか、『病院でこんな対応をされた』とかいろんな事例が耳に入ってくるようになるんです。ここから、相談に乗る側の人たちに対しても、きちんとした研修が必要なんだっていうこともわかってきました」

ギャンブル依存症についての講演を行う田中さん

切羽詰まった当事者が、支援とすぐにつながれるように

ギャンブル依存症問題を考える会がとくに力を入れてきたのが、家族への相談支援です。家族が正しい知識を身につけ、借金の肩代わりをしないなど対応を変えることが、当事者の回復のために非常に重要となります。発足から10年で全国に家族会が広がり、当事者支援も整うにつれて、回復へと向かう当事者は着実に増えていきました。
「一方で、それでも取りこぼしてしまう人が、まだまだたくさんいるんです。全国的に見れば相談体制は十分とはいえず、行政の窓口に相談しても具体的な支援につながれずに、行き場を失う人が多いのが現状。さらに、スマートフォンの普及によって、いつでもどこでもギャンブルができるようになり、若年層のギャンブル依存症が急増しています。また、深刻な課題となっているのが、ギャンブル依存症による自死の増加です。自死の背景には、やめたくてもやめられないという病気の特性があります。借金がふくらみ、生活が追いこまれても、自分ではどうにもできない苦しさを抱え、周囲に迷惑をかける自分を責め続ける。そして『自分は生きていちゃいけないんだ』と思い詰めてしまうんです」
しかし社会では、ギャンブル依存症に対する正しい理解が進んでおらず、他の依存症に比べて、対策の必要性が見過ごされていました。そこで、田中さんたちは「自分たちが何とかしなければ」と、自殺対策に乗り出すことに。2024年度通常枠の休眠預金活用事業「自殺ハイリスク領域におけるゲートキーパー育成&アウトリーチ支援事業」の採択を受け、本格的な取り組みをスタートしました。

田中「今力を入れているのは、ギャンブル依存症に関する情報を発信し、追い詰められている当事者や家族がすぐに支援団体とつながれるように導線を整えることです。その一環として助成金を活用し、動画を制作しています。 動画では、ギャンブルで多額の借金を抱えた当事者が団体と出会い回復していく過程をショートドラマ形式で描きました」

田中「相談者の中には、会社に行く交通費もない、3日間何も食べていない、ライフラインも止められているという人もたくさんいます。そうした人たちに『ギャンブルをやめましょう』『ギャンブル依存症とは』などと話しても、何の助けにもなりません。まずは目の前の危機を脱するため、私たちは当面の食費やガソリン代などをカンパで支えています。これまで表に出してきませんでしたが、今回は思いきって公開しました。私たちに相談すれば、本当に役に立つ支援を受けられることを知ってほしいからです。相談しても無駄だと思われてしまったら、当事者とつながれませんから」

脚本は実話にもとづき田中さんが手がけ、支援介入の場面には実際の団体メンバーが出演。見た人が「自分のことだ」と共感し、支援を身近に感じてもらうことを目指しました。動画では、実際に行っている支援策の一つである「カンパ」についても伝えています。

<動画リンク>

他にもさまざまな啓発コンテンツを制作している

助成金が組織のあり方を見直す大きな転機に

ギャンブル依存症問題を考える会はこれまで、主に寄付によって活動してきました。休眠預金活用事業のような大きな助成金への挑戦は、今回が初めてだったそうです。

田中「ギャンブル依存症は自己責任とする風潮が強く、発信するとバッシングを受けることも少なくありません。傷つくくらいなら、自分たちで寄付を集めたほうがいいだろうと。それでも申請に踏み切ったのは、これ以上、大切な仲間を亡くしたくない、自殺対策について自分たちもしっかり学ばなければと思ったからです」
本事業には資金分配団体としてNPO法人OVAとREADYFOR株式会社の2団体が関わっています。OVAからは自殺対策の専門的知見を、READYFORからは事業運営の伴走支援を受けながら進めています。

田中「OVAさんは自殺対策のプロフェッショナル。今は2ヶ月に1回、自殺対策に関する研修を実施してもらっています。特にハイリスクの相談者と実際どんなやり取りをしているのか、相談途中で離脱した人をどうやって支援につなぎ直すのか、そうした実践的なスキルを学ばせていただきたいと考えています」
助成金を受けることは、組織のあり方を見直す大きな転機にもなりました。今回初めて、事業計画の策定や報告書作成といったプロセスに本格的に取り組み、誰が見てもわかる形で説明することの大切さを実感しているそうです。

田中「これまでは情熱だけで走ってきて、こんなに頑張っているのにどうして評価してもらえないんだろうって思っていました。今回、多くの関係者の信頼を得ていくためには“お作法”があるのだと知り、目から鱗でした。READYFORさんには、資料の書き方から事業計画の立て方、対外的な振る舞いに至るまで、多くを学ばせていただいています」
休眠預金活用事業を通じて他団体とつながり、「同じ志を持つ仲間がいる」という心強さも感じているそうです。例えば仙台市でひとり親家庭を中心に支援を行う認定NPO法人STORIAの取り組みを参考に、ギャンブル依存症が原因で夫と死別・離別した母子の居場所づくりをスタートするなど、新たな支援のヒントも得ています。

田中「相談の中には、ホスト依存など私たちの専門外で対応が難しいケースもあります。今後は私たちにはない専門性を持つ他団体と連携して、より幅広くきめ細かな支援体制を築いていきたいです」

「恥を価値に」換えられることは、社会にとっても有益なこと

ギャンブル依存症問題を考える会では、休眠預金活用事業の3年間を次のステージへ進むための大切な準備期間と位置づけています。一過性の取り組みで終わることのないよう、企業や教育現場向けの事業を育て、支援体制の拡充と持続可能な活動基盤づくりに取り組んでいます。現在は、依存症を抱える従業員を支援する企業向けプログラムや、子どもたちに正しい知識を伝える予防教育プログラムの事業化を進行中。今後は企業や学校に広く展開し、収益化も図る考えです。

田中「私たちが一番に目指すのは、ギャンブル依存症による自死をなくすこと。そのためには、依存症が治療や支援が必要な病気であるという正しい知識と理解を社会に広げることが欠かせません」

ギャンブル依存症自死遺族会を立ち上げた当時の様子

当事者の家族や友人といった関係性だけでなく、職場、金融機関、行政の窓口など、ギャンブル依存症のサインに気づくことができる接点は、実は多くあります。そこで関わる人たちが正しい知識を持っていれば、適切な支援につなぎ、その命を守ることも可能です。身近に悩む人がいたら『ここに相談するといいよ』と声をかけられる。そんなサポートが当たり前にある社会を、田中さんは目指しています。

田中「私はよく、“恥を価値に換える”って言うんです。私自身も会のメンバーも、苦しい経験をしたからこそ、同じように苦しんでいる仲間の力になれる。かつて恥だと思っていた経験が、今はたくさんの人の役に立っています。依存症になっても、人

生は終わりではありません。人はいつでも、どこからでも回復できる。恥を価値に換えていけることは、社会全体にとっても有益なことだと考えています」

■資金分配団体POからのメッセージ
田中さんの強いリーダーシップとそこから生まれる団結力が、ギャンブル依存症問題を考える会の大きな強みだと感じています。みなさんが同じ志のもとに活動されているからこそ、素早い意思決定と行動ができるのではないでしょうか。また、ギャンブル依存症に関する高度な専門性を持ち、どんな支援が必要なのかを的確に、即座に見極められるところには、私たちも日々学ばせていただいています。さらに目の前の一人を救うための継続的な相談支援はもちろんのこと、ギャンブル依存症が生まれる社会構造や現行の制度のあり方にも目を向けている点が素晴らしく、今後ますます、依存症問題の解決に重要な役割を果たしていくと期待しています。(READYFOR株式会社/西山陽子さん)

【事業基礎情報】

実行団体公益社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会
事業名依存症予防と早期支援のためのアウトリーチと相談・検証体制の整備事業
採択事業年度2024年度通常枠
活動対象地域全国
資金分配団体特定非営利活動法人 OVA
採択助成事業自殺ハイリスク領域におけるゲートキーパー育成&アウトリーチ支援事業

休プラ編集部