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休プラ編集部

【前編】「休眠預金活用事業ギャザリング2025」リポート|JANPIA|インターン生 活動日誌| 

【前編】「休眠預金活用事業ギャザリング2025」リポート|JANPIA|インターン生 活動日誌| 

2025年9月よりJANPIAで活動を始めたインターン生の「活動日誌」を発信していきます。第4回は、JANPIAで年1回実施している、資金分配団体・活動支援団体向けイベント「休眠預金活用ギャザリング2025」について、前後半の2回に分けてリポートします!

初めまして、JANPIAにて長期インターンをしている慶應義塾大学4年の酒井と申します。
JANPIAでは、「子供・若者」「障がい・差別」「地域支援」の分野について社会課題の解決を目指している資金分配団体・活動支援団体を公募し、出資や助成を行っており、この出資・助成で採択された資金分配団体・活動支援団体が一堂に会するギャザリングイベントを毎年開催しています。今年は、関係者を含めると200名以上が集まったそうです。イベントでは様々なテーマの13のセッションが開催され、その中から私は興味のある2つのセッションに参加しました。 

今回と次回の2回に分けて、私が参加したセッションについてリポートしたいと思います。 


今回は、テーマ別セッション『ソーシャルビジネスにおける社会性×事業性のバランスについて考える』についてです。 
このセッションでは、社会性・事業性のバランスについて、登壇者のパネルディスカッションを中心に進みました。 

参加された登壇者は資金分配団体として活動されている元岡悠太さん(株式会社トラストバンク)、和嶋未希さん(一般社団法人ユヌス・ジャパン)と齊藤紀子さん(千葉商科大学人間社会学部)の三名で、コーディネーターをJANPIA出資事業部長の小崎が務めました。 

(左から小崎、和嶋さん、元岡さん、齊藤さん) 

1.パネルディスカッションでの話題

1-1 社会性と事業性の両立で最も悩んだ瞬間は? 

「社会性と事業性で最も悩んだ瞬間」の質問で話題となったのは、社会性と事業性のバランスをどう取るかの前提を実行団体と共有することの難易度の高さでした。 
ユヌス・ジャパンは2020年度の通常枠ソーシャルビジネス形成支援事業にコンソーシアム構成団体として(幹事団体:九州経済調査協会)、また2024年度の通常枠の草の根活動支援事業にコンソーシアム幹事団体(構成団体:一般社団法人 Sukedachi Creative 庄内)として2回の採択実績があります。和嶋さんの場合、最初に採択された2020年度はソーシャルビジネス形成支援事業であったため、社会性と事業性の両立という観点は事業当初より実行団体の皆さんと共有されていたといいます。しかし2024年度に採択された山形での事業は草の根活動支援事業であり、NPO、一般社団法人から合同会社まで幅広い団体がいるために、その観点を共有することが難しかったとのことでした。社会活動をベースにしている団体では収益化など事業性を構想することが難しく、逆に会社の場合は、収支計画は書けても社会性については書くことができない……という状況だったとのお話でした。

また、元岡さんの場合、トラストバンクは2022年度の通常枠ソーシャルビジネス形成支援事業での採択となっていますが、ソーシャルコンセプトを描くことの大変さについてお話していました。さらに、ソーシャルコンセプトを描けたとしても顧客の選定をはじめとしたビジネスモデルの構築や安定的な収益化のハードルが高いとのことでした。 

また、ビジネスモデルとしての顧客選定が難しく、受益者を変えないままで収益構造を描く難しさについて言及されていました。  

1-2 持続可能性の実現に向けてどう工夫する?

和嶋さんから、休眠預金を活用するメリットとして助成期間が3年間と長いため、手法のトライアンドエラーを繰り返すことができることが挙げられていました。 
また、齊藤さんによるアカデミアからの観点として、ソーシャルイノベーションには10年程度はかかることがセオリーであるという話がありました。加えて、最初から大きなビジネスモデルを作成するのではなく最初はボランティアベースで初めて、ステークホルダーを巻き込みながらビジネス化する方向からも事業を考えてみてもよいというお話がありました。

 

1-3 PO*としてどう工夫する?

元岡さんは農福連携事業の実行団体も支援しているとのことで、その中でも全国へ事業を広げることを目標としている実行団体についてお話ししていました。ふるさと納税などで広げたネットワークを、さらなる事業の拡大へ活かしている事例についてご共有されていました。これらの取り組みをさらに発展させて、地域の事業者の間でお金もノウハウも回る仕組みの実現を考えているとのことでした。 

*助成等を行う資金分配団体において、助成事業実施の中心的役割を担うのがプログラム・オフィサー(PO)と呼ばれる職種です。社会や地域の諸課題を把握し、助成の企画を考え、支援先に対して事業実施のための伴走支援をコーディネートする人を指します。 

2.グループディスカッション

これらのパネルディスカッションを受けて、参加者がグループになりディスカッションを行う時間がありました。 

ディスカッションの結果を全体で共有する時間では、休眠預金活用事業へ採択されるメリットとして、助成を受けたという実績を持っていると銀行などの融資に向けた実績作りとして役立つため、さらなる投融資への呼び水となる可能性があるという意見がありました。 
一方で、事業の社会性を説明するロジックモデルと収益構造を示すビジネスモデルとは、計画段階では辻褄が合っていても事業の実行段階になると不整合が起きてしまうという意見もありました。

3. まとめ

以上のディスカッションを受けて再度パネルトークへ移った際には、休眠預金活用事業の利点としてケースの共有ができる点に言及がありました。 

休眠預金活用事業では一般的な投資などと違って、必ずしも助成期間中に利益を出すことを求めていません。 

そのため、事業の成功に至るまでの思考錯誤や失敗した時のルートを記録して、ケース集として共有できることに休眠預金ならではの良さがあるとのお話がJANPIAの小崎さんからありました。 

ソーシャルビジネスは事業の構造自体は一般的なビジネスと近いですが、企業内部の経営情報が資産として秘匿されてしまいがちな営利企業と異なり、社会課題解決のスピードを速めるためにノウハウの共有のようなオープンなコミュニケーションをとるという選択もできます。この魅力を改めて確認して、パネルトークが終了しました。 

4.今回の学び

今回のギャザリングの参加者は助成先の実行団体の伴走支援を行う方々です。ディスカッションの中で最も印象に残ったのは、ソーシャルビジネスは支援する対象があって初めて成立するビジネスであるというお話でした。 

私が調べたこととして、一般的な営利企業だったら、収益が出ないならセグメントを変えるという手があります。しかし、ソーシャルビジネスではそれはできません。例えば、シングルマザー向けのビジネスで収益が出ないからといって支援対象をシングルマザーではない人に設定することは、シングルマザーを支援するという当初の出発地点から離れてしまうため本末転倒になってしまうからです。 

このように支援先を変えないままで事業を成立させるというソーシャルビジネス特有の問題を解決するためには、ビジネスモデルを工夫して、資金の出し手(対価など)を支援対象からだけではなく他から得られる方法を探るなどの対応が必要です。そのような方法を模索するためにも、「社会性と事業性の両立」というテーマが大切にされていると分かりました。 

後半では、「企業連携の促進に向けた資金分配団体の役割」のセッションについてリポートします! 

■事業基礎情報

資金分配団体株式会社 トラストバンク
事業名地域特産品及びサービス開発を通じた、 地域事業者によるソーシャルビジネス形成の支援事業
活動対象地域全国
実行団体・一般社団法人 ローランズプラス
・HONESTIES 株式会社
・一般社団法人 ビーンズ
・特定非営利活動法人 ORGAN
・株式会社 御祓川
・ボーダレスキャリア 株式会社
採択助成事業2022年度通常枠

■事業基礎情報

資金分配団体一般社団法人 ユヌス・ジャパン
(コンソーシアム構成団体:一般社団法人 Sukedachi Creative 庄内)
事業名生きがいと生業(なりわい)が共存する多様な働き方と暮らし方を、地方から生み出す
活動対象地域山形県
実行団体・ツキノワ合同会社
・ナリワイALLIANCE
・特定非営利活動法人自然体験温海コーディネット
・合同会社とびしま
・一般社団法人 最上のくらし舎
採択助成事業2024年度通常枠

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