連載「ガバナンス支援の現場から」 Vol.1 -中部圏地域創造ファンドが切り開いてきた、ガバナンス体制整備支援のこれまでとこれから-
長野県 岐阜県 静岡県 愛知県 三重県
休眠預金活用事業では、資金分配団体が実行団体と伴走しながら、社会課題の解決に取り組んでいます。休眠預金を原資とする本事業においては、透明性や公正性の確保が不可欠です。そうした信頼の基盤を支えると同時に、事業の質や成果をさらに高めていくうえで重要な役割を果たすのが、ガバナンス・コンプライアンスの整備です。
本シリーズでは、休眠預金活用事業に携わる団体の皆さまが、ガバナンス・コンプライアンスの整備にどのように取り組み、それを組織の成長や事業の成果へとつなげているのか、具体的な事例を通じて紹介していきます。第1回となる今回は、資金分配団体である公益財団法人中部圏地域創造ファンドの取り組みを取り上げます。事務局長の神原義治さんと事務局次長の青木研輔さんにお話を伺い、実践に生かせるヒントを探ります。
愛知万博を契機に誕生した、「中部圏地域創造ファンド」

公益財団法人中部圏地域創造ファンド(以下、CCF)は、2005年の「愛・地球博」の剰余金をもとに設立された「あいちモリコロ基金」の取り組みを引き継ぐ形で、2018年にスタートしました。同基金は約10年間にわたり、地域の民間公益活動を支えてきましたが、その成果を一過性のものにせず、より持続的な仕組みとして発展させたいという思いから、CCFが立ち上がりました。
現在は、愛知、岐阜、三重、静岡、長野の5県を対象に、変容する地域や社会課題の解決に向き合う団体への資金的支援や人材育成支援などを行っています。専門家や税理士など多様な人材が関わる「みんなで支える」体制を特長とし、2019年度からは休眠預金活用事業にも参画、これまでに7つの事業を実施してきました。
CCFが休眠預金活用事業で伴走してきた実行団体の中には、地域に根ざして活動する小規模で草の根的な団体も数多く含まれています。一方で、本事業では一定水準のガバナンス・コンプライアンス整備が求められ、そうした要請と現場の実情との間には大きなギャップが存在する場合も少なくありません。CCFはこの課題に真正面から向き合い、団体の実態に寄り添いながら、独自の支援の在り方を模索してきました。本インタビューでは、その具体的な取り組みと、背景にある考え方に迫ります。
理念と現場の間で──ガバナンス整備をめぐる課題意識
–––ガバナンス・コンプライアンス整備に力を入れることとなった経緯を教えてください。
神原義治さん(以下、神原)「CCFでは、税制の優遇措置を受けられる公益法人化を目指していることもあり※、設立当初からガバナンス・コンプライアンスは組織の基盤になるものだという共通認識を持っていました。そのため、立ち上げと同時に各種規程や制度の策定に着手したんです。形式的に整えるのではなく、自分たちの活動や規模に本当に合ったものとすることを重視し、理事会でも時間をかけて何度も議論を重ねてきました」
青木研輔さん(以下、青木)「私たちの団体には、行政OBや弁護士などの士業専門家が多く関わっており、もともと規範意識や遵法精神が高い土壌がありました。そのため、ガバナンスやコンプライアンスについても、特別に意識しなくても、自然とルールに基づく組織運営が進んでいった印象があります。ルールは、守ることを目的にするのではなく、活動を円滑に進めるために上手く使い込なすことが重要で、それによって組織としての成熟も後押しされたと感じています」
※本記事のインタビュー後、CCFは2025年11月26日付で公益認定を受けています。

(左)事務局長の神原義治さん/(右)事務局次長の青木研輔さん
–––支援対象となった実行団体には、どのような課題やリスクがあったのでしょうか?
青木「私たちが支援する実行団体は、全体として小規模で草の根的な団体が多数です。そうした団体には、職員数が限られていたり、役割分担や責任の所在が十分に整理されていなかったり、代表者など一部のメンバーに業務や意思決定が集中していたりという課題を抱えている場合が少なくありません。また、会計や情報管理の面についても、全般的に弱い傾向があります。休眠預金活用事業の公募に申請された団体でも、『ガバナンス・コンプライアンスは初めて考えるテーマ』として受け止めているケースがありました」
神原「初めて実行団体を募る際は、ガバナンス・コンプライアンスの整備を要件として求めることで、参加のハードルを上げてしまうのではないかという懸念がありました。また、ガバナンス・コンプライアンスに対する意識が十分でないまま、単純に“規程を作る”ことだけを求めてしまうと、インターネット上にある他の団体の規程をそのまま流用するといった対応に繋がりかねません。その場合、規程を守ることや日々の運営に活かすという本来の意味が失われ、結果として形骸化してしまう恐れがあると感じていました」
実行団体の負担を抑えながら、確かなガバナンスを育てる
–––実行団体に対するガバナンス・コンプライアンス整備の支援は、どのようなことから始めましたか?
神原「最初に取り組んだのは、JANPIAの申請書に記載されている、ガバナンス・コンプライアンスに関して求められる項目の洗い出しです。そのうえで、弁護士による確認を経て、『ガバナンス・コンプライアンス基本規程』というひな型を私たち自身で作成しました。このひな型を実行団体に示し、単に項目を埋めるのではなく、『なぜこの規程が必要なのか』という点を一緒に考え、議論しながら、各団体の実情に合わせてカスタマイズしていくことを進めていきました」

–––外部専門家との連携はどのように進めましたか?また連携によってどのような効果がありましたか?
青木「『ガバナンス・コンプライアンス基本規程』のひな型作成をはじめ、私たちの取り組みの多くでは、弁護士の方に継続的にご協力をいただいています。NPO法人の設立や運営に長年携わってこられた方で、休眠預金活用事業における実行団体への支援についても、まさに二人三脚で取り組んできました。ひな型作成にあたっては、内容を細部まで検討し、団体の規模や状況などに応じて柔軟にカスタマイズできるような提案をしていただきました」
–––規程類整備の支援について、具体的なプロセスを教えてください。
青木「支援は大きく5つのプロセスに分けて進めています。まず1段階目は、『ガバナンス・コンプライアンス体制現況確認書』に基づき、各団体が現在保有している規程類を全て提出していただくことです。組織の現状を正確に把握するため、実行団体として選定された時点で全ての規程類を提出してもらいます。2段階目では、提出された定款(ていかん)や規程などの内容を確認します。JANPIAが体制整備において重視している事項を踏まえ、「規程類必須項目確認書」などを基に、一つひとつチェックしていきます。3段階目は、その確認結果を整理・可視化し、実行団体へフィードバックするプロセスです。新たに制定が必要な規程や、内容の充実・検討が求められる規程について整理した資料をお渡ししています。4段階目では、実行団体向けの研修を実施し、規程類のひな型と参考資料を配布します。チェック結果を受けて、どのように改善していけばよいのかを具体的に解説し、各団体が自分たちで取り組めるよう支援しています。最後の5段階目は、研修後に生じた疑問や不明点への相談対応です。必要に応じて、弁護士の方にも協力いただきながら、個別の状況に応じたフォローを行っています」

弁護士を交えて行う団体向け研修の様子
–––支援を進めるにあたり、どのような課題がありましたか?
青木「『なぜガバナンス・コンプライアンス整備が必要なのか』を本当に理解してもらうことは、正直なところ簡単ではありません。『休眠預金活用事業に必要だから』と説明すること自体は簡単ですが、それだけでは表面的な理解に留まり、団体の“文化”として根づいていかないと感じています」
神原「各団体の活動を円滑に進めていくことが第一なので、その前提のもとでガバナンス・コンプライアンスの重要性をどう位置付けるかが大切だと感じています。不可欠な要素ではありますが、団体にとって負担が重くなり過ぎてしまうと、本来の活動を圧迫しかねません。そのためにも、現場の実情に即した、より効果的な支援の在り方が求められていると思います」
–––支援にあたって特に意識された点や工夫された点を教えてください。
青木「定款の充実を求めつつも、柔軟な支援姿勢を心がけ、各団体が必要以上に負担を重く感じてしまわないよう、説明の際の伝え方には特に気を配っています。また、団体ごとに理解や受け止め方は異なるため、一律に進めるのではなく、必要に応じて時間をかけながら、丁寧に調整していくことも意識しています」
神原「単に形式を整えるのではなく、各団体自身に『何が肝心なのか』を議論して貰うことを大切にしてきました。また、“規程を作って終わり”にするのではなく、それを日々の運営に活用し、守り続けてもらうことを繰り返し伝えています」
–––支援を受けて、実行団体にはどのような変化・成果が生まれたのでしょうか?
青木「数字で示せるような具体的な成果ではないのですが、支援を通じて印象的な変化を感じる場面はありました。最初は『面倒』『大変』といった声が聞かれた団体から、実際に進めてみる中で『やってみると、その重要性がよく分かった』『組織の信頼性が高まった』といった声をいただくようになりました。また、以前から、ガバナンス・コンプライアンスの整備の必要性を感じつつも、独力ではなかなか踏み出せなかった団体から、『休眠預金活用事業をきっかけに、伴走支援を受けながら取り組むことができてよかった』という評価をいただいたこともありました」
進化し続ける組織のためのガバナンス・コンプライアンス
–––今後さらに強化・改善していきたいのはどのような点ですか?
青木「法律面での専門的な監修や、チェックに関わる人員をさらに増やしていきたいと考えています。中でも、大学等で社会貢献や公共性について学ぶ機会が多い20~30代の若い世代の弁護士の方々には、法的専門性と社会的視点の両面から力を発揮していただけるのではないかと期待しています」
–––ガバナンス・コンプライアンス整備を進めるうえで重要なポイントは何でしょうか。
神原「『ガバナンス・コンプライアンス整備は、単なる制度対応ではなく、団体の信頼性や持続可能性を高めるための取り組みだ』という意識を持っていただくことですね」
青木「団体や事業は常に変化していくものですから、ガバナンス・コンプライアンスも『一度整えたら終わり』ではないと考えています。継続的に見直し、常に更新していくそのプロセス自体が、ある意味ではガバナンス・コンプライアンス整備そのものだと捉えています。また、外部の専門家の協力を得ることで、客観的な視点を取り入れながら自分たちの組織を見つめ直すことも重要だと感じています」

–––最後に、初めてガバナンス・コンプライアンス整備に取り組む団体へのご助言・ご示唆などをお願いします。
青木「最初から完璧なものを目指す必要はないと感じています。まずは、『誰が、どのようなことを決めるのか』といった意思決定の整理など、基本的なところから着手し、あとは団体の実情に合わせて、できるところから少しずつ強化していけばよいのではないでしょうか。手間と感じる場面は確かにあるかもしれませんが、ガバナンス・コンプライアンスがしっかりしていれば、トラブルが起きた際の拠り所や指針としても役立ちます」