どんな環境で育っても、自分らしく「はたらく」機会を。フェアスタートサポートがつくる支援の仕組み
神奈川県
NPO法人フェアスタートサポートは、児童養護施設や里親家庭で暮らす子どもたち、暮らしていた経験のある若者たちに向けて、キャリア教育や就労支援を行う団体です。休眠預金活用事業においては、実行団体として、2020年度緊急枠と2022年度通常枠で事業を実施。緊急枠では、会社見学や就労体験を提供する協力企業の情報を掲載したWEBサイト制作を、通常枠では、若者への個別支援と組織基盤の構築などを行いました。今回は同法人の代表理事を務める永岡鉄平さん、事務局長の西村夏美さん、営業部でコーデイネーターを務める吉原志麻さんにお話を伺いました。
ワーキングプアと中小企業の人手不足という課題をつなぐ
現在、永岡さんは、NPO法人フェアスタートサポートの代表を務め、若者への就労支援を行っています。主な内容としては、児童養護施設や里親家庭で暮らす子どもたちや暮らしていた若者たちへのキャリア教育、就労体験や職場見学の機会を提供するなど。こうした若者への総合的な就労支援はどのようにして誕生したのでしょうか。
永岡鉄平さん(以下、永岡)「私は大学卒業後、人材ビジネス系の業界で5年ほど会社員をしていました。企業の採用活動を支援する業務に携わる中で、中小企業の人手不足の深刻化、特に若年層の採用に苦戦しているという現実を感じるようになりました。その一方で、若者の引きこもりやニートが増加していることに、違和感を覚えてもいて。若者が働くことから自ら遠ざかるのはどうしてなのかという課題意識が、自分の中にありました。その頃、若者の貧困をテーマにしたシンポジウムに偶然参加して、『児童養護施設出身者の多くが適切な仕事に就けずワーキングプアに陥っている』という話を聞き、衝撃を受けたんです。その後登壇していた団体の代表にアポを取り、詳しく話を聞きました。児童養護施設出身の若者たちは、家庭のロールモデルが欠如していたり、仕事に対する知識や経験値が不足していたりすることも多い。こうした環境要因が影響を及ぼして、ワーキングプアにつながっているのではないかと考えたんです。この仮説をもとに事業計画を立て、2010年に就職あっせんを行う株式会社フェアスタートを設立しました」

オンラインで取材に応じる永岡さん
設立当初は、就職先を紹介しても長く続かないケースが多かったといいます。その原因を探ろうと当事者にヒアリングをした結果、児童養護施設出身者の多くが、自分のキャリアについて真剣に考える機会が少ないことや、自己肯定感が低いために消極的な選択をしてしまっていることに気づきました。その結果、自分に合った仕事になかなか辿り着けないのです。
永岡「就職のあっせんだけではなく、キャリア教育の領域に踏み込む必要性を感じました。しかし、施設からお金をもらってそうした活動をすることは難しいため、助成金を担保に活動できるように2013年にNPO法人フェアスタートサポートを立ち上げました」
地域全体で若者を育てる「共助」を目指して
フェアスタートサポートでは、社会的養護をはじめとした、家庭の問題から早期に経済的自立を目指す子ども、若者への就労に対する包括的な支援をしています。具体的には、キャリア教育支援として、主に中高生の時期に就職相談や職業適性検査の実施、会社見学、就労体験などの機会を提供し、健全な職業観を育むとともに、自身の職業適性や興味について把握する過程に伴走します。支援を受けた若者の進路はキャリア教育での学びをもとに学校求人、一般求人、進学とさまざまですが、若者と企業双方に希望があれば協力企業にそのまま就職するケースもあります。さらに、職場への定着をはかるために、職場、児童養護施設や里親家庭とも連携しアフターフォローを行います。
永岡「全国で400社以上の企業に協力いただき、職業について知る機会、体験する機会を提供しています。中小企業の経営者の方には、地域全体で若者を育てていこうという意識を持った方がたくさんいらっしゃいます。施設の子どもや若者に、社会にそういう温かい大人がいることを知ってほしいですし、こうした共助のあり方を、もっと地域に浸透させたいですね」



職場見学の様子
また、永岡さんは、若者たちが、自分自身に合った「はたらきかた」を見つけることが大切だとしています。
「正社員として就労してもらうことを目指していますが、なかには障がいやさまざまな事情によってフルタイムで働くことが難しい若者もいます。フェアスタートでは、『働く』をひらがなで表現しています。『はたらく』という言葉の意味には諸説ありますが、私は『はた(周囲)を楽にすること』が一つの意味だと考えています。ですから、たとえばボランティアなどでもいい。誰もが社会の中で自分のできることを見つけ、自分なりの『はたらきかた』で、充実した幸せな人生を歩んで欲しいということが最終的な願いです」
活動拡大を目指し、さまざまな形でアプローチ
フェアスタートサポートが休眠預金活用事業に初めて申請したのは、2020年度緊急支援枠です。会社見学や就労体験を提供する協力企業の情報を掲載したWEBサイト作成のために、助成金を受けました。この事業で立ち上げたサイト「フェアスタートパートナー」(https://fspartner.org/) には、関東を中心に児童養護施設の若者に対するキャリア教育を支援する企業が掲載されています。このプロジェクトの総括を担当したのは、事務局長の西村さんです。

事務局長の西村さん
西村夏美さん(以下、西村)「休眠預金活用事業について知ったのは、さまざまな助成金の募集を紹介するサイトで、そこで取り組みの方向性などが私たちの活動に合致すると考えて申請を決めました。最初の緊急枠では、私たちの活動を全国的に広めていこうとしていたタイミングだったので、協力企業を可視化したサイトを作りました。職場の雰囲気がわかる写真などを入れ、端的に情報をまとめ、誰でも見やすく使いやすいデザインに仕上げられたと思います」
2022年度通常枠では、「困難を抱え孤立する子ども・若者の社会的自立支援事業」の実行団体に採択されました。この事業は現在も継続中で、施設から就労する若者への個別支援などを行っています。
西村「個別支援では、私たちが一人ひとりと面談した上で、会社見学をコーディネートしたり、就労体験に連れていったりして、最終的な進路の決定まで伴走しています。現在までに、3年間で約60名の就労支援を実施しました」
吉原志麻さん(以下、吉原)「私たちの活動拠点は神奈川にあるので、周辺地域の企業の方とはある程度関係性ができています。そうしたつながりのある企業を、児童養護施設の職員さんと一緒に訪問しています。また就労支援のノウハウを提供することで、施設職員の方自身でも、企業と連携してスムーズに支援ができるようにすることも目標です。例えば、職業適性検査や職業興味検査といったツールを使うことを勧めています。支援対象の若者について、職員の方の目から見た印象だけではなく、企業に伝えやすい客観的な情報を得ることが大切なんです」
また、2022年度通常枠の事業では、組織基盤の整備にも着手。就業規則の作成など、働きやすい体制づくりや組織内の人材育成も進めています。
吉原「特に若手のスタッフは、企業や若者から相談を受けると『何とか力になりたい』という思いが強くなり、つい期待を背負い過ぎてしまうことがあります。しかし、すべての声に応えることは、現実的に難しい。うまくバランスを取りながら、できる範囲内で最善を尽くすための方法を、一緒に考えています」

フェアスタートサポートのスタッフの皆さん
支援活動を全国的に広げていくためには、今後、どういった取り組みが必要になるのでしょうか。
永岡「まず企業側に情報をきちんと共有する必要があります。企業では、地域に児童養護施設があることそのものを知らなかったり、関わり方がわからなかったりすることも少なくありません。具体的な支援の情報を共有できれば、金銭や物の寄付だけではなく、会社見学の受け入れなど、キャリア支援に対する協力が期待できます。
一方、施設側の抱えている課題としては、自分たちの施設だけで問題を抱え込みがちという点があります。また、就労に対して『何かしてあげたい』という熱意を持っていても、慢性的な人手不足で余裕がないという現状も。自治体や施設によって、就労支援の手厚さに差があることも事実です。私たちは、どんな環境で育っても、若者が自分なりの「はたらきかた」を見つけられるようにしたい。だからこそ、施設で育った若者がキャリア支援や就労支援を受けることがスタンダードとなる世界を目指していきたいですね」
若者たちが全国どこでも自分に合ったキャリア選択の機会を得られるように
最後に今後の活動の目標や、取り組んでいきたいことについて、お話を伺いました。
西村「小さい団体なので、どうしても組織基盤の強化が後回しになっていたのですが、休眠預金でその点を前進させられたのは、とてもありがたいことでした。今後もみんなが働きやすい組織体制づくりに取り組んでいきたいと考えています」
吉原「休眠預金活用事業を通じて、内部スタッフの育成にも取り組むことができました。現在私は就労先のコーディネートにあたるスタッフを指導する立場ですが、私自身も彼らから刺激を受けつつ、成長を見守っていきたいと思います」
永岡「引き続き、現場で児童養護施設や里親家庭出身の若者たちのリアルを見つめ、現状に沿った支援ができるように努めたいと思います。同時に、全国どこの施設に入っても、子どもたちが自分に合ったキャリア選択の機会を得られるようにしたいという思いも強くあって。そのためには、それぞれの地域で企業と施設が直接連携できる仕組みをつくることが大切だと考えています。休眠預金活用事業においては、私たちが資金分配団体となることも視野に入れており、全国各地の団体と協働して私たちの価値観やノウハウを伝え、活動のインパクトを広げられたらと思っています。目標に向かってさまざまなアプローチを試してみたいですね」
【事業基礎情報①】
| 実行団体 | 特定非営利活動法人 フェアスタートサポート |
| 事業名 | 児童養護施設応援企業掲載WEBサイト作成 |
| 採択事業年度 | 2020年度コロナ枠 |
| 活動対象地域 | 全国 |
| 資金分配団体 | ユニバーサル志縁センター |
| 採択助成事業 | 休眠預金活用新型コロナウイルス対応緊急支援助成 |
【事業基礎情報②】
| 実行団体 | 特定非営利活動法人 フェアスタートサポート |
| 事業名 | 児童養護施設等の子ども達の為のキャリア教育事業 |
| 採択事業年度 | 2022年度通常枠 |
| 活動対象地域 | 神奈川県全域 |
| 資金分配団体 | READYFOR 株式会社 |
| 採択助成事業 | 困難を抱え孤立する子ども・若者の社会的自立支援事業 |
