インタビュー

休プラ編集部

現場の知見を社会の変化につなげる。理事として歩んだ二人が語る、制度の役割|連載「休眠預金活用事業の価値」Vol.1

現場の知見を社会の変化につなげる。理事として歩んだ二人が語る、制度の役割|連載「休眠預金活用事業の価値」Vol.1

2019年に開始した休眠預金活用事業。本シリーズでは、事業に関わるさまざまな立場の方へのインタビューを通して、その歩みや意義を多角的にお伝えします。
第1回は、制度創設期からJANPIA理事として携わってきた茶野順子さん、鵜尾雅隆さん(2026年6月退任)による対談です。制度の歩みを振り返りながら、社会課題解決に制度が果たしてきた役割と、今後の展望を語り合いました。

休眠預金活用事業につながる、それぞれの歩み

――まずは、お二人がソーシャルセクターにかかわるようになった原点を教えてください。

茶野:私は大学卒業後、国際交流基金に勤務し、出産を機に退職。その後、設立間もない笹川平和財団に入り、財団の仕事と出会いました。

働くうちに「プログラムオフィサー(PO:助成事業を担う専門職) には専門性が必要だ」と感じ、休職してアメリカのペンシルバニア大学大学院へ留学。その後フォード財団で7年間にわたり世界のコミュニティ財団創設や、助成活動をよりよくするための教材作りに携わりましたとして活動しました。先進的な財団運営や助成事業について実践的に学んだことが、その後の活動の礎となっています。

現在は笹川平和財団で奨学金事業を担当し、日米で培った知見を休眠預金活用事業の発展に少しでも活かせればという思いで、JANPIA理事も務めています。

鵜尾:私は新卒でJICA(国際協力機構)に入り、17年間、国際協力に携わりました。学生時代にバックパッカーとして世界を旅する中で先進国・日本への大きな期待を感じ、「日本と世界をつなぐ仕事がしたい」と思ったのが原点です。

ところが30代になり、日本が「社会課題の総合百貨店」になっていることに気づきました。「これからは、日本社会を良くすることが世界貢献になる」。そう考え、アメリカでNPOマネジメントを学ぶ中、痛感したのが日本の非営利セクターにおける財政基盤の弱さです。社会課題を解決しようとする人はたくさんいるのに、彼らを支えるお金があまりにも乏しかった。

そこで、資金調達の手法である「ファンドレイジング」の普及を目指し、日本ファンドレイジング協会を設立。以来、ソーシャルセクター全体のお金の流れが健全に育まれていくために何ができるか、自分なりに考え、必要だと思うことに取り組んできました。その一環として休眠預金活用事業に関われたことは、とても嬉しかったですね。

資金、学び、つながり。制度が生み出した価値とは

――休眠預金活用事業が始まって約7年。この制度の意義をどのように感じていますか?

茶野:一番は、休眠預金を社会のために活用する仕組みが法制度として整備され、新たな資金源が生まれたことだと思います。社会課題の解決には資金が必要です。アメリカには創設者の理念に基づき、柔軟に助成する個人財団が多くあります。一方で、日本では資金規模が比較的小さい財団が多く、また、経験のあるPOが活躍する財団も少ないため現場が必要とする取り組みに柔軟に資金を届けるのは簡単ではありませんでした。

そうしたなかで、この制度によって社会課題の解決に取り組む団体を支える新たな資金の流れが生まれ、多様な挑戦を後押しできるようになりました。

鵜尾:本当にそうですね。日本は少子高齢化、孤独・孤立など多くの課題を抱えているにもかかわらず、それらの解決に向ける資金の総量が圧倒的に足りていませんでした。現場は資金不足な状況で、活動を続けることが難しかったり、新たな挑戦も生まれにくいで状況があります。そこへ、休眠預金を社会課題の解決やイノベーション、社会変革のために活用できるようになったことは、日本のソーシャルセクターにとって画期的な出来事だったと思います。

茶野: 私は気が小さいから、理事会で、資金分配団体への億単位の助成を決めるたびにドキドキするんです(笑)。理事として、それだけ大きな資金を託す判断には大きな責任を感じます。でも、それだけの規模の資金を活用できるようになったことで、みなさん、これまで以上に思いきった挑戦ができるようになったのではないでしょうか。

加えて、この制度の大きな特徴は、NPO法人や一般社団法人に限らず、株式会社や任意団体など多様な主体が参画できること、さらに助成だけでなく出資という選択肢があることです。間口が広く、資金分配団体としても実行団体としても参加できるため、「自分たちにもチャレンジする機会がある」と多くの人が感じられる設計になっていると思います。

鵜尾:まさに、そこがこの制度の大きな価値ですね。一つのアプローチだけで社会を変えることはできません。多様な担い手が参加し、さまざまな取り組みができる環境が必要です。

休眠預金活用事業はそれを可能にする、日本で他に例がない制度です。

――休眠預金等活用制度に参加することは、団体にとってどのような意義があると思われますか?

鵜尾:一番は、助成を受けて活動するだけでなく、事業を通じて団体自身が成長できるということだと思います。助成期間中だけ事業を実施して終わりではなく、その後も団体が持続的に発展し、社会を変える存在になってほしいという願いがこの制度の前提となっているんです。

そのために、JANPIAのPOによる資金分配団体への伴走支援や、資金分配団体のPOによる実行団体への伴走支援、PO研修をはじめとする団体の枠を超えた学びの場が設けられています。そうした場を通じて、現場で得られた知見や経験が一つの団体の中にとどまらず、他の団体へと共有されていく。それもこの制度の大きな特徴だと思います。休眠預金活用事業のPOは、「支援先のみなさんの成長を応援したい」という思いで伴走しているんです。お節介なくらいの関わり方も、この制度の非常に重要でユニークなところだと感じています。

茶野:この制度を経験することが、団体にとって次へのステップになるんですよね。助成を受けるためには、さまざまな書類を準備したり、細かな規則を守ったりする必要があり、厳しくて大変だという声もありますが、国民から付託されるお金を使う以上、一定のルールを守って事業を進め、説明責任を果たすことが求められます。その経験を積み重ねることで団体が強くなり、ノウハウも身につく。土台ができることで、次の資金調達につながります。

――休眠預金等活用制度の特徴である、指定活用団体(JANPIA)・資金分配団体・実行団体から成る三層構造には、どのような意味があるとお考えでしょうか?

鵜尾:三層構造の最大の意味は、地域ごと、分野ごとに「知見・経験・人とのつながり」といった価値が蓄積される点にあると考えています。

もしJANPIAと実行団体の二層だったら、現場で得られた知見はJANPIAに集約されがちです。資金分配団体という中間があることで、地域や分野ごとにノウハウや経験が蓄積され、地元の企業や行政と互いに頼り合える関係もできていく。中間に、価値の“たまり”ができるようなイメージですね。その蓄積があるからこそ、助成期間が終わった後も新たな連携が生まれ続け、知見や人とのつながりが循環していく可能性があります。

茶野:そうなんです。資金分配団体は、草の根の団体から企業、行政まで幅広い主体と接点を持っています。地域や分野全体を俯瞰しながら「この団体とつながるといい」「この人に相談してみてはどうか」と、人や組織をつないでいけるのは、大きな強みだと思います。今後は、そういったネットワークを育てるハブとしての役割が、さらに重要になっていくのではないでしょうか。

私はよく「桃太郎」にたとえるのですが、桃太郎はきび団子というファンドを手に、鬼退治というミッションを果たす旅に出ますよね。道中、ミッションに賛同するキジや猿、犬にきび団子をあげて仲間に加え、それぞれの得意を活かしながら、社会課題という鬼をやっつける。資金分配団体のPOは、まさに桃太郎なんですよ。

鵜尾:面白い!まさにそういうことですよね。大事なのは、桃太郎が鬼退治を一人でやるわけではないということだと思います。実際に社会課題の解決に取り組んでいるのは現場の団体です。それぞれが異なる専門性や強みを持っていて、力を合わせることで、より大きな成果につながります。

そう考えると、資金分配団体のPOの役割も進化していると感じます。伴走者としての役割に加え、人や組織をつなぎ、さらに社会全体の変化につなげていく。そんな役割が求められるようになっているのではないでしょうか。

子どもの貧困問題一つをとっても、異なる専門性を持つ団体同士が連携したほうが効果的な場面はたくさんありますが、現場の団体だけでは、そのつながりを広げていくのは簡単ではありません。そこで重要になるのが資金分配団体です。社会課題や地域課題を俯瞰しながら、人や組織をつなぎ、協働を後押しする。そうしたファシリテーターがいることで、企業や行政も参加しやすくなり、分野や地域全体で課題解決に取り組めるようになるんです。

現場の知見を社会の変化につなげるために 

――休眠預金活用事業をより良くしていくために、どんなことに取り組んでこられましたか?

鵜尾:私が大事にしてきたのは、現場の皆さんとの対話の場を作ることです。理事になってすぐ、JANPIA役員と資金分配団体の代表者が意見交換する「代表者意見交換会」を行っていただきました。

制度開始当初は、資金分配団体の皆さんから「手続きが厳格すぎる」「本来やるべき支援に十分な時間を割けない」といった声もありました。そこで、対話の場を設けたのです。この場での意見から、業務改善プロジェクトという運営改善の取り組みがJANPIAと資金分配団体有志の共同プロジェクトとして生まれました。制度運用に絶対の正解はありません。だからこそ、資金分配団体や活動支援団体の皆さんと率直に意見を交わしながら、制度を一緒に改善していくことが大切だと考えています。

茶野:同感です。制度は作って終わりではないですからね。現場との対話を継続しないと、形骸化してしまいます。

鵜尾:そうなんです。そうした対話の場は、形を変えながら今も続いていて、制度を一緒に改善し、育てていく文化が根付いてきていると感じています。

もう一つ印象に残っているのは、制度を通じて多くのPOが生まれていることです。PO研修に講師として参加し、PO同士が経験や悩みを共有し、学び合う場の設計にも関わることができました。そうしたつながりや学び合いの関係が生まれたことは、この制度の大きな財産だと感じています。

――休眠預金活用事業は今後、社会課題の解決にどのような役割を果たしていくべきだとお考えですか?

茶野:今後は、個々の成功事例を紹介するだけでなく、現場で得られた知見をもとに「こうすれば社会をより良く変えていけるのではないか」と示していく役割も重要になると思います。そのためには、同じ分野で活動するプレイヤーを結びつけることが必要です。現場の課題や要望を社会や行政に届けられるようになれば、NPOの活動をより大きな力として社会変革に結び付けることができます。

鵜尾:そう思いますね。その意味でも、この制度には大きな可能性があると思います。1,000を超える団体との接点があり、全国の現場で何が起きているのかを把握することができます。

茶野:しかも、その知見が実行団体だけでなく、資金分配団体やJANPIAにも蓄積される。それがこの制度の特徴ですよね。

鵜尾:そうなんです。現場から集まる知見から、社会の中で起きている変化や課題の兆しに気づき、必要な手を打つこともできると思います。そういった意味で、日本の社会課題解決において、これだけの可能性を持った制度はほかにはないと思っています。

もちろん、課題もあります。現場に足を運ぶと、資金や支援が十分に届いていない団体はたくさんあります。制度の可能性をさらに広げていくためには、その役割を担う資金分配団体や活動支援団体がさらに増えていくことが重要だと感じています。

 

――その先に、社会がどう変わることを期待していますか?

鵜尾:私が理事在任中、ずっと頭にあったのは「循環」という言葉です。情報や思いをどこかで止めてしまうのではなく、人から人へと巡らせていく。 PO同士の交流や、「代表者意見交換会」はまさにその実践でした。

この制度の素晴らしさは、多くの人がその循環をともにつくろうとしていることだと思います。現場で得られた経験や学びが共有され、それが次の挑戦につながり、さらに新しい知見が生まれる。そんな循環が、これからも広がっていくことを期待しています。

茶野: 本当にそうですね。休眠預金活用事業は、日本の他の助成財団にとっても、大きな刺激になっていると思います。 この制度から生まれた挑戦や学びが、さまざまな支援の仕組みにも広がっていく。その結果として、社会課題の解決に向けた新しい取り組みが日本各地で生まれていくことを期待しています。

対談:2026年7月23日実施

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