ICT×早期介入で社会問題の連鎖を防ぐ。 REEP財団がつくる支援の仕組み
全国対象事業

一般財団法人REEP財団は、資金提供者から預かった資金を運用し、その運用益を社会課題の解決に取り組むNPOなどに提供する「ギビングファンド」を主な事業とする団体です。休眠預金等活用制度においては、資金分配団体として、2020年度、 2021年度の緊急枠で事業を実施。2023年度からは通常枠の「イノベーション企画支援事業」に採択され、ICTを活用して子どもや若者を支援する団体への助成プログラムを実施しています。同財団の代表理事を務める加藤徹生さんに、活動の意義や、現在継続中の助成プログラムについて伺いました。
“ミスマッチ”が多かった支援の仕組みを変えるために
加藤さんが、REEP財団の前身となる社団法人を立ち上げたのは、東日本大震災がきっかけでした。何か自分にできることがないかと被災地に向かい、社会起業家の支援を行っていた加藤さんは、活動を通してある課題を発見します。

加藤徹生さん(以下、加藤)「東日本大震災での支援活動を通して、資金の出し手と受け手の間の“ミスマッチ”を実感したんです。例えば、特定の分野には寄付が集まるけれど、他の分野は資金が足りないというように、現場で活動する団体のニーズと資金の流れをうまく結びつけるための仕組みがまだできていなかった。こうした問題に取り組みたいと思い、社団法人を立ち上げました。これが結果として今の財団になっています」
また被災地で出会った日系アメリカ人のコミュニティからは、支援に対する基本的な考え方を学んだそうです。
「日本では、寄付というと一度きりで終わることが多く、そのお金がどのように使われ、どのような変化を生んだのかまで、継続して関心を持つことは多くないかもしれません。一方で、彼らは寄付をするだけではなく、距離が離れているにも関わらず、何度も東北に足を運び、継続的な支援を続けていました。『1回きりの寄付やボランティアで、支援は完結しない』という姿勢は、今の財団の理念ともつながっていると思います」
2015年、加藤さんはクラウドファンディングで支援を募り、投資家と社会起業家をつなぐWIA(World In Asia)財団を設立し、本格的に財団としての活動をスタートします。
加藤「財団としての最初の試みは、知人の遺産の運用でした。3,000万円程度の遺産を社会の役に立てたいというご相談を受けたのですが、3,000万円という金額は、運用資金としては小規模です。当時の日本には、この規模の資金を預かることができる財団が少なかったので、私たちでやってみようということになりました」
財団では、資金提供者からお金を預かり、社会的活動をリードする企業の株式や債券として運用。その運用益がNPOや当事者を支援する原資となります。「寄付」のように一定期間で使い切るのではなく、長期的な支援が可能になります。また、最終的に資金提供者に元本を返す仕組み(※) によって、資金提供に対するハードルを下げています。
※運用状況によっては元本保証されない場合もあります。

見落とされやすい領域に積極的に資金をあてていく
その後、2018年に法人名をリープ共創基金 に改称(さらに2025年9月に、一般財団法人REEP財団 に変更)。2020年度緊急枠で、資金分配団体に初めて採択されます。コロナ禍における若者の失業問題の解決を目的とした事業で、13の実行団体に助成を実施。その後も、2021年度緊急枠でも資金分配団体に採択され、若者への就労支援を行う団体に助成を行いました。 加藤「私たちのような小さな財団が資金分配団体をできるのかという懸念もあったのですが、これまでの活動を通じて資金を”かしこく”使うことができると感じていたので、一度応募してみようということになりました。寄付の場合、どうしても分かりやすく共感されやすいテーマに資金が集中しがちです。また、顕在化しておらず、公的な制度でもカバーしきれていないような領域には、なかなか資金が届きません。そうした領域にも支援を届けられるという意味で、休眠預金の存在は大きいと感じています。」
ICT×早期介入で持続可能な支援の仕組みをつくる
さらに、2023年度に通常枠のイノベーション企画支援事業として、「ICTを核とした早期介入のエコシステムの構築」が採択されました。この事業は、何らかの困難を持つ子ども・若者・母子の課題に対して、深刻化する前のなるべく早い段階で支援を届ける、いわゆる“早期介入”を行うこと、かつ、ICT を活用した問題解決を行うことを目的としています。 加藤「私自身も免疫障がいを抱えているのでよく分かるのですが、障がいや病気、被災などは、二次的・三次的な課題へと連鎖していくことが少なくありません。コロナ禍では資金分配団体として失業した若者への就労支援を行いましたが、支援の現場で出会った若者たちの多くは、不登校の経験があったり、発達障がいの傾向が見られたり、家庭環境が良くなかったりと、何らかの課題を抱えていることが多かったんです。もともと社会的に不利な立場にいる人ほど、大きな災害があったときに一気に追い込まれやすい。この状況を早い段階で何とかしたいと思いがありました。しかし、こうした課題は複雑に絡み合っていて制度化しづらく、早期介入のようなイレギュラー対応は、現場の支援者さんの手弁当になっているのが現状です。現場ではすでにいろいろな支援活動が行われていますが、マンパワーにはどうしても限界がある。その現状をICTの力で変えていきたいというのが、今回の事業の狙いです」

この事業は、3回目の申請での採択となります。2回不採択となった経験をふまえ、今回の申請前に加藤さんは改めて現場の団体にヒアリングを行いました。現場の声に耳を傾けることで、より事業案がブラッシュアップされたそうです。
加藤「ヒアリングを行い、考えていく中で、今回の事業のターゲットとなる領域や課題の構造が明確になりました。日本の支援制度自体は充実しているのですが、領域ごとに縦割りで、支援が分断されていることも多いものです。例えば、子どもが医療的な課題を抱えている場合、病院では診断や治療を受けることができます。でもその子が学校に戻ったとき、教育の現場ではその情報が共有されていなかったり、支援につながらなかったりすることがあります。反対に、学校にいる子どもたちの中にも、医療的なリスクを抱えているのに、それが診断されずに放置されているケースもあります」
REEP財団は今回の事業で、特別支援教育、産後ケア、虐待・孤独の問題、不登校問題などさまざまな分野で活動する実行団体に支援を行っています。例えば、不登校の解決に取り組む実行団体は、不登校児のケアが担任の教員に委ねられていて、介入の遅れが生じやすいという課題を解決するために、音声とAIを活用したコンディション把握ソフトを導入する試みを開始しました。これによって、子どもの異変の早期発見につながることが期待されています。
早期介入の領域は、エビデンスがあるようで実はまだ明確でない部分も多く、特に日本においては、海外の手法がそのまま適用できるのかどうかも含め、検証が必要だと加藤さんは語ります。今回の実行団体の株式会社Kids Publicからは、事業に関する論文等(※)も出されており、今後、アプローチの再現性を上げられそうな手応えも感じられます。
加藤「本来この早期介入の分野は行政とも連携して進めていくべきだと思っていて、すでに意見交換も始めています。現状では『政策にすることが難しい』と言われているのですが、現場の実践によってエビデンスが蓄積されていけば、それをもとに政策へとつなげていくことも可能だと思います」
※1.へき地度と小児科医、産婦人科医、助産師による遠隔健康医療相談の相談利用ニーズとの関係についての解析. 第128回日本小児科学会学術集会, 愛知, 2025.4.19
2. オンライン医療相談から自治体に連携した82症例の検討~要保護・要支援児童,特定妊婦の把握と連携の実際~小児科診療 88巻2号
事業を通して得られたデータを活用し、より効果的な支援を目指す

現在、事業は継続中ですが、すでに受益者の数が倍になるなど、多くの団体で成果が上がっています。REEP財団は、そのインパクトをより大きなものにしていくべく、実行団体と密にコミュニケーションを取っています。
加藤「実行団体は、医療職の方や専門家などその分野のプロの方が活動を行っていることが多く、的確で質の高い支援が可能になってきていると実感しています。実行団体の方々から、現場の実情や見落としていた問題など、学ばせていただくことも多くありました。私たちが行った伴走支援としては、社会的インパクトと経営面のバランスをどのように取るかといったご相談に乗ることが多かったと思います。そのバランスを取るために、実行団体が頑張っているけれど、なかなか外部の評価が上がらないことも多く、そういった場合はポジティブなフィードバックを心がけるようにしています」
最後に、今後の財団の活動について加藤さんに伺いました。
加藤「休眠預金の助成を受けながらも、そこに頼り切るのではなく、組織を成長させていくことが重要だとも考えています。財団の成長という点で言うと、預かり金額の小口化は大きな変化だったと思います。やっぱり大口でいきなり資金を預けたい方々は限られている一方で、試しに託したい方は結構いらっしゃった。寄託を通して長期的に社会に関わっていくと、社会問題の見え方も変わっていくんじゃないかと思っていて。そういうプロセスをもっと作っていきたいと考えています。
いろんな当事者の方々や、苦しみを抱えている方々が一時的にでも辛い思いをしてしまうことって、減らすことはできても、ゼロにするのは現実的に難しいと思うんですよね。だからこそ、そういった状況を“機会”に変えていけるような支援ができたらと考えています。苦しんだ経験がむしろバネになって、その後の活躍につながることもあります。また、当事者のリアルな経験や実態を学ぶことで、支援者にとっても新たな視点や人生のヒントになることがあると思っていて。当事者と支援者、お互いにとっての“活力”になるような、そんなコミュニケーションやプロセスのデザインができたらいいですね」
【事業基礎情報1】
事業名 | ICTを核とした早期介入のエコシステムの構築 |
採択事業年度 | 2023年度通常枠 |
事業分類 | イノベーション企画支援事業 |
活動対象地域 | 全国 |
【事業基礎情報2】
事業名 | コロナ後社会の働き方づくりのための助成 |
採択事業年度 | 2021年度緊急枠 |
活動対象地域 | 全国 |
【事業基礎情報3】
事業名 | 生活困窮下の若者の職業訓練と地域課題解決 |
採択事業年度 | 2020年度緊急枠 |
活動対象地域 | 全国 |