【資金分配団体からのメッセージ〈24年夏〉】ちくご川コミュニティ財団・柳田あかねさん

休眠預金等活用法に基づく資金分配団体(助成)の公募に申請をご検討中の皆さまに向けて、2023年度通常枠・緊急支援枠、2021年度・2020年度通常枠の資金分配団体である「ちくご川コミュニティ財団」の柳田あかねさんに、休眠預金活用事業に申請した背景と現在の活動についてのお話を伺いました。 

休眠預金活用事業に申請した背景を自団体の活動と合わせて教えてください

一般財団法人ちくご川コミュニティ財団は、人の役に立ちたいという思いと活動をつなぐプラットフォームです。2019年に市民の力を得て、福岡県で初めてのコミュニティ財団として設立されました。

初めて休眠預金活用事業にチャレンジしたのは、2020年度通常枠の事業です。3か年の計画で、困難を抱える子ども若者の孤立解消と育成というテーマに絞って事業を進めました。次の2021年度通常枠の事業では、誰一人取り残さない居場所づくり、学びの場における子ども若者の孤立解消と育成というテーマで、いわゆる不登校の子ども若者をサポートする実行団体と3年間の事業を始めました。2023年度通常枠の事業では、困難を抱える家庭を取り残さない仕組みづくり、子ども若者とその家族のためのコレクティブインパクトと題した3か年の事業を始めました。さらに2023年度第4次募集の緊急支援枠の事業にチャレンジして、子育てに困難を抱える家庭へのアクセシビリティ改善事業、多様なつながりが生まれる仕組みづくりということで、限られた期間の中でとにかく支援が必要な層に、必要な支援を届けようという事業をスタートさせました。

ちくご川コミュニティ財団は、この4つの事業を一連の流れとして取り組んでおります。

申請を行うために準備で取り組んだことを教えてください

4つの事業の申請をはじめるにあたり、最初に取り組んだことは、自団体のメンバーで話し合うことからでした。どこに社会課題を感じているか、どの地域でその事業を調査分析していくかなどをメンバー全員で考え、同じ目標を持つところから始めました。

次に、その対象地域の中で調査を始めました。その地域で活動している様々な市民社会組織の方々にアンケートを取り、アンケートの中で明らかになった社会課題を解決するために、市民社会組織の皆さんや行政などにヒアリングをしていきました。ヒアリングの結果を分析し、評価アドバイザーにも相談しながら、事業設計を行いました。

実行団体の伴走支援の内容や工夫していることを教えてください

私たちの伴走支援はすごく強力で、すごく濃密なものになっています。また、分野も多岐にわたっております。

例えば、休眠預金活用事業ですごく大事されている評価です。事前評価、中間それから事後、それぞれの評価のフェーズに沿って伴走しています。もちろん評価に取り組むことは、ある意味負荷がかかることでもあると私たちも思っていますが、評価に取り組むことで実行団体の事業終了後に絶対、力はつくと思っていますので、出口戦略の一つとしても、評価については力を入れています。また、事業そのものの運営を持続可能なものにするための資金調達では、ファンドレイザーの資格を持つPOがしっかり実行団体の無理のないように計画を立て、その時抱えている悩みと照らし合わせながら、資金調達の計画を一緒に立てていきます。広報の面では、例えば、伝わるウェブサイトにするにはどうしたらいいのか、定款や規程類をどういうところにおけば団体が信頼を得られるかかなども、一緒に考えています。

それから日々、受益者や支援してくれる方に向けて、あるいはその地域の行政や企業の方々に向けても、様々なステークホルダーごとの情報伝達の仕方について一緒に考えています。SNSだけではなく、紙で作るニュースレターなどの定期刊行物、アニュアルレポートの発行や編集のアドバイスもしています。

休眠預金活用事業を通じて、よかったことについて教えてください

休眠預金活用事業で一番いいと思うのは、三層構造だということです。JANPIAと資金分配団体と実行団体が同じ目標に向かって社会課題解決のために走っていく、この仕組みがすごくいいなと私は思っています。資金分配団体である私たちが助成金を交付するというフローにはなっていますが、お金を届けだけではなくて、実行団体の伴走も行います。また、何より資金分配団体の私たち自身も、JANPIAに伴走されており、3者そろって同じ目標に向かっていけるのが一番いいと思っているポイントにです。

申請を考えている方へメッセージをお願いします

休眠預金活用事業の資金分配団体になると、たくさんの仲間と出会うことができます。例えば、ちくご川コミュニティ財団の場合、最初はたったひとりのPOしかいませんでしたが、事業を始めて4年目の今は6人のPOがいます。自分たちの団体での仲間がだんだん増えていくだけではなく、地域で一緒に社会課題を解決するための仲間、つまり実行団体の方々と出会うことができます。

さらに、全国にいる資金分配団体の仲間と出会うことができます。横のつながりがどんどん広がっていくことによって、自分たちが日々やりたいことや解決したいことに向けてグッと背中を押してもらえる。そんな存在に、この休眠預金活用事業を通して出会えると思っています。

ぜひ、資金分配団体にチャレンジして、まだ出会っていない仲間のに出会ってください。

〈このインタビューは、YouTubeで視聴可能です! 〉



(取材日:2024年6月13日)

休眠預金等活用法に基づく資金分配団体(助成)の公募申請をご検討中の皆さま向けて2023年度通常枠・緊急支援2021年度・2020年度通常枠の資金分配団体である「ちくご川コミュニティ財団」の柳田あかねさんに、休眠預金活用事業に申請した背景と現在の活動についてのお話を伺いました。

一般財団法人ちくご川コミュニティ財団(福岡県久留米市)は、2020年度から福岡県久留米市を中心とした筑後川流域の実行団体の伴走を続けています。ちくご川コミュニティ財団 理事でありプログラムオフィサーでもある庄田清人さんは、理学療法士の経験から「評価は治療と表裏一体だった」と話し、治療と同じように事業にとっても評価が重要だと指摘します。社会的インパクト評価に対する考え方や、実行団体に「社会的インパクト評価」を浸透させるためのアプローチについて聞きました。(「資金分配団体に聞く社会的インパクト評価への挑戦Ⅱ」です)

ちくご川コミュニティ財団とは?

ーーまず、ちくご川コミュニティ財団のミッションや設立の経緯を教えていただけますか。

庄田清人さん(以下、庄田):ちくご川コミュニティ財団は、筑後川関係地域の市民・企業の皆さんの「人の役に立ちたい」という想いと活動をつなぐことをミッションに、市民や企業の方々が資金、スキル、情報等様々な資源を、筑後川関係地域の課題解決に取り組むCSO(市民社会組織)へ提供しています。CSOの方々と支援者の方々を繋ぎ合わせるプラットフォームの役割です。

私たちの財団がある福岡県久留米市は人口30万人ほどで、九州の中では比較的大きな中核市です。CSOは多いのですが、行政による中間支援が十分とは言えません。そこで、市民が主体的に公益を担う社会を実現するために、2019年8月にちくご川コミュニティ財団が立ち上がりました。福岡では初のコミュニティ財団です。

お話を伺った庄田さん

ーーなぜ団体の所在地である「久留米」ではなく、「ちくご川」を財団名にしたのですか?

庄田:九州最大の河川である筑後川流域は、生活や文化が重なっているエリアです。例えば、久留米市から佐賀に通う人も、その逆もいます。CSOの活動は行政区分を跨って生活圏に沿って行われていることが多いのに、私たちが活動対象とする地域を行政区分で区切ると、地域によって私たちの支援も区切られてしまって、連携や協働が起きにくいのではないかと考えました。そこで、「ちくご川コミュニティ財団」と名前をつけ、筑後川関係地域(佐賀、福岡、大分、熊本県)を活動地域としました。

実施している助成プログラムについて

ーー休眠預金活用事業への申請にはきっかけがあったのでしょうか

庄田:私たちは設立前からお隣の佐賀県にある佐賀未来創造基金をお手本にしていて、休眠預金等活用制度についても教えていただいていました。なので財団設立前から休眠預金活用事業にチャレンジしようと考えていました。2019年8月に財団ができて、その翌年にはチャレンジし、2020年度の通常枠で最初の採択をいただきました。

ーー現在、休眠預金活用事業で取り組まれている2020年度、2021年度通常枠の2つの助成プログラムについて教えてください。

庄田:2020年度の通常枠事業では、「子どもの貧困」「若者の社会的孤立」の2つのテーマで実行団体を公募し、2団体を選定しました。
1つ目は、久留米市内で貧困世帯の子どもたちに対して、無料の塾と食支援を10年以上やられてきた「認定NPO法人わたしと僕の夢」です。支援してきた子どもたちが高校入学後に退学や不登校になってしまう課題が見えてきたため、高校生支援をメインに居場所づくりやピアサポートなどに取り組んでいます。

2つ目は、朝倉市の中山間地域で児童養護施設を退所した後の若者たちをメインに受け入れる家づくりに取り組む「みんなの家みんか」です。自立援助ホームなどもありますが、年齢制限や様々な理由で退所してしまう若者に居場所を提供しています。また、豊かな自然資源を利用し担い手不足が深刻な一次産業の担い手になってもらうことも目指しています。

「わたしと僕の夢」による学習支援の様子(左)、「みんなの家みんか」による自然学習の様子(右)
「わたしと僕の夢」による学習支援の様子(左)、「みんなの家みんか」による自然学習の様子(右)

2021年度通常枠事業では、「学校に行けない、行かない子ども若者(所謂、不登校の子ども若者)」をテーマにしています。2021年度の不登校数は全国で24万人を超えてきていて、課題として大きくなっています。我々も地域の将来を考えた時に、その担い手となる子どもたちに学びや成長の場がないという状況は、喫緊の課題だと考えました。そのため、このテーマを選定し、案件組成を行いました。

公募した結果、フリースクールを運営している3団体を選定しました。

1つ目は、フリースクールを17年続けている認定NPO法人箱崎自由学舎ESPERANZAです。フリースクールの月謝は全国平均で3万3000円という文科省の調査結果があります。それが払えずにフリースクールに通えない子どももいます。通ってほしいのに通えない、そういった子どもたちに対しての家計支援制度を考えていくための調査研究事業に取り組んでいます。

2つ目は一般社団法人家庭教育研究機構で、学校の中に校内フリースクール立ち上げる事業を行っています。九州では初めての取り組みです。校内にあることで、長年、学校に行けてなかった子どもがそのフリースクールに通い出してすぐに普通学級にも通えるようになったケースもありました。この団体は、課題を抱える子どもたちにアウトリーチしていくために、学校外フリースクールや家庭への訪問活動も取り組んでおり、それに加えて校内フリースクールを立ち上げ、3本柱で活動を進めています。

3つ目の団体が、久留米市のNPO法人未来学舎です。このフリースクールは個性豊かな子どもたちを受け入れて、地域との関わりを大事にしながら、生きる力を育てています。音楽を通して子どもたちの成長を促すなど、ユニークな取り組みをしています。また、通信制高校のサポート校やカフェ運営による若者の就労支援など多様な方法で子ども、若者を支えています。

認定NPO法人箱崎自由学舎ESPERANZによる学習支援の様子(上左) NPO法人未来学舎による梅しごとの様子(上右) 一般社団法人家庭教育研究機構による昼食準備の様子(下)
認定NPO法人箱崎自由学舎ESPERANZによる学習支援の様子(上左) NPO法人未来学舎による梅しごとの様子(上右) 一般社団法人家庭教育研究機構による昼食準備の様子(下)

ー21年度は3つの実行団体が「フリースクール」という同じテーマで取り組まれていますが、20年度との違いはありますか?

庄田:どの団体も共通した課題意識を持っていることが大きいです。今年2月に事前評価のワークショップをやったのですが、実行団体同士での共通の悩み、課題感があるのですごく深いところまで意見交換をできました。ただ、三者三様に色が違う団体なので、資金分配団体としてどうまとめていくかが力の見せどころです。これがうまくいけば、フリースクールに通う子ども向けの経済的な支援制度についての道筋が見えたり、校内フリースクールが他の地域でも展開できる見通しがついたりするはずです。あと2年ですが、達成できそうなことが見えてきたのではないかと思います。

社会的インパクト評価は事業と表裏一体

ーー庄田さんはこれまでにも事業評価に関わった経験があったのでしょうか。

庄田:元々、私は理学療法士として働いていました。理学療法士の教育の中で1番最初に教えられるのが「評価」で、「評価は治療の一部」「評価に始まり、評価に終わる」とまで言われています。なので、休眠預金等活用制度でも「評価」も大事だと最初に聞いた時、人の体が事業に置き換わったということだなと納得感がありました。

例えば理学療法士だと、治療のために筋力トレーニングをする際にも、この負荷量だとこの人の筋肉は成長しない、というような評価をしつつ進めていきます。治療によってどんな変化が起こったかを見るのも評価の一つです。そういう意味で、「評価」と「治療」は表裏一体で当たり前にぐるぐる回しながらやっていました。


さらに2014年から2年間、青年海外協力隊としてアフリカのマラウイに行っていました。ワークショップなどで地域住民のニーズを引き出して、プロジェクトを企画運営していく活動です。その中で自分なりにロジックモデルに似たものを作り、事業をどう動かしていくか考えてきた経験も今に活きていると感じます。

ーー実際に社会的インパクト評価をやってみて、医療での評価と違う難しさはありましたか?

庄田:「人の体」と「事業」は、変数が違いますね。医療だと、僕が患者さんを一人で常に見ることができるので変化もわかりやすい。事業になると、人の体と違って、関わるステークホルダーがとても多く、組織自体の状況、財務的な状況などの変数も関わってきます。そのため例えば何か活動に介入をして変化が起こった時に、それが介入によって起こった変化なのかがわかりづらいという難しさは非常に感じます。


でも本質的には一緒です。その変数をしっかりと把握することが大事だと思っています。その変数の把握をするために、おそらく私たちPOの専門性が必要になってくるのではないかと思います。

ーー実行団体に対して評価の重要性を伝えるアプローチとして、どんなことをされていますか?

庄田:「評価」という言葉になるべく早く触れてもらうようにしていて、実行団体の公募の申請時点で、「評価」については必ずお話しています。「ロジックモデル」をやってもらうと、どの実行団体さんも「頭の中がスッキリした」と言われるので、これを入口に評価に入ってもらう流れです。本当は公募申請時の「ロジックモデル」の提出を必須にしたいと思っていますが、現在は「推奨」している状況です。

ただやはり、事前評価が終わるまでは、実行団体も頭ではわかっているけれど評価の有効性を実感することは難しいとも感じています。ただ、事前評価は重要だと考えているので、約半年ほどかけて事前評価をやりながら事業も実施してもらっています。評価は治療と表裏一体のため、事業(治療)を進めることによって新たにわかる対象者の変化を測定すること(評価)も重要視しています。なかなか厳しいですが、筋力をつけていくため負荷をかけて頑張ってもらっています。

ーー事前評価の後は、通常の活動の中でどのように評価を取り入れている状況でしょうか?

庄田:実行団体の皆さんは、評価に取り組むことで、必要なアンケートの設計や、参与観察などの調査方法が確実にできるようになってきています。アンケート一つでも、項目をどうするのか、どうやって収集するのか、どう結果をまとめるのかなど、かなりの要素があります。このような調査が定期的にやっていけるようになったのは、とても価値があることだと感じています。

最近は、評価の継続について考えています。休眠預金活用事業が終わった団体は、「評価」をやらなくなってしまうのではないかという懸念があります。マンパワーという課題以外にも、評価に取り組む動機づけも必要ですし、調査した結果をロジックモデルや事業設計に反映させていく際には壁打ち役も必要なので、助成終了後の伴走の仕組みがあってもいいのではないかと思っています。

事業キックオフミーティングの様子(左:2020年度、右:2021年度)
事業キックオフミーティングの様子(左:2020年度、右:2021年度)

地域の持続可能性向上のために、組織の成長をめざす

ーー最後に、今後どのように伴走されていくのかや今後の展望を教えてください。

庄田:「クールヘッド」と「ウォームハート」が絶対に必要だと思っています。根拠に基づかないウォームハートは、本当の優しさではありません。そこを大事にしながら、実行団体さんに伴走していきたいと思っています。中長期的には、この地域の持続可能性をどう向上するかが非常に重要だと考えています。子どもの貧困、若者の社会的孤立、不登校などの取り組んでいるテーマがそこにつながってくるのかなと思います。

実行団体の皆さんだけでなく、ちくご川コミュニティ財団自身が休眠預金等活用制度に育ててもらっていると感じています。休眠預金活用事業を行っている中で、「環境整備・組織基盤強化・資金支援」を私たちが継続的にできるようになっていけば、筑後川関係地域の市民活動は活性化できることが見えてきました。加えて、資金調達についてみると、休眠預金活用事業を始める前と比べると、我々の財団への寄付額が3倍になりました。長期的には私たちの活動を休眠預金等活用制度に頼らずにどうやっていくかということも考えなければなりません。この制度を通じて学んできたものを持続可能にするために、ちくご川コミュニティ財団自身も実行団体とともに組織として成長していきたいです。

庄田さんによる実行団体への伴走支援の様子、2021年度事前評価WSの様子
庄田さんによる実行団体への伴走支援の様子、2021年度事前評価WSの様子

■ 事業基礎情報【1】

資金分配団体一般財団法人 ちくご川コミュニティ財団
事業名

困難を抱える子ども若者の孤立解消と育成 ~子ども・若者が学び、自立するための居場所とふるさとをつくる~
<2020年度通常枠>

活動対象地域筑後川関係地域(福岡都市圏及びその周辺地域)
実行団体

・みんなの家みんか

・特定非営利活動法人 わたしと僕の夢

■ 事業基礎情報【2】    

資金分配団体一般財団法人 ちくご川コミュニティ財団
事業名

誰ひとり取り残さない居場所づくり<2021年度通常枠>

活動対象地域

筑後川関係地域(福岡県、佐賀県東部、大分県西部、熊本県北部)

実行団体

・一般社団法人 家庭教育研究機構・特定非営利活動法人 未来学舎・特定非営利活動法人 箱崎自由学舎ESPERANZA

休眠預金活用事業では、社会的インパクト評価の実施が特徴の一つとなっています。一方、資金分配団体や実行団体の中には評価の経験があまりない団体も少なくありません。 NPO法人 地球と未来の環境基金 (EFF:Eco Future Fund) とそのコンソーシアム構成団体である NPO法人持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会(自伐協)も初めて評価に本格的に取り組む団体の一つでした。評価の実践を通じての気づきと成果、実行団体に伴走する上で実感した課題や成功体験、そして社会的インパクト評価の視点が活かされたエピソードなどについて、自伐協事務局の中塚さんと、 EFFの理事・プログラムオフィサー美濃部さんにお話を伺いました。”

そもそも、自伐型林業とは?

───まず、今回の事業の趣旨である「自伐型林業」とは、どのようなものなのか。中塚さんより簡単にご説明いただけますでしょうか。


中塚高士さん以下、中塚)はい。自伐型林業とは、地域の山を地域の人たちで管理する形の林業です。チェーンソーと小型重機・運搬用のトラックがあれば、個人や少人数で低コストから始めることができます。

そもそも従来の林業は、大規模な伐採が必要な「現行林業」が主流でした。戦後復興に伴い木材の需要が高まっていた時代、山林にたくさんの大型機械と人材を投入し、大規模に植樹と伐採を行うスタイルが確立していたのです。

しかし需要が落ち込むに連れ、そのような大規模な林業の経営を持続的に行うことが難しくなっていきました。そこで近年注目されているのが、「自伐型林業」です。

林業従事者が減少し続ける中、「新しい田舎での暮らし・仕事のあり方」として若者や移住者からの注目も集まっています。また国土の7割を占める日本にとって、山林を活用した「地方創生の鍵」としても全国の自治体から期待が高まっています。

「休眠預金活用事業」への申請の背景

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である東北・広域森林マネジメント機構の研修風景
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である東北・広域森林マネジメント機構の研修風景

───そういった林業の歴史やスタイルを踏まえ、休眠預金活用事業への申請の背景・経緯について、お聞かせいただけますか。 

 

中塚:現行林業については、国の取り組みとして林業従事者を育成する支援も多く実施されてきました。しかし自伐型林業を含め、小さな林業従事者に向けた育成や研修プログラムはほとんどありません。「地域の山を守る仕事がしたい」「新しい働き方として林業に挑戦したい」と意欲ある新規参入者がいる一方で、機械の使い方や木の切り方がわからない、学ぶ場もない……、という課題がありました。 

 

それならば、国の手が行き届かない小さな林業従事者に向けた育成・研修支援を実施しよう!と決意をし、その資金繰りとして、休眠預金活用事業への申請を検討し始めました 

 

そのような中、自伐協にもコロナで生活困窮されている方からの声は届いていました。 

 

「もう都会を離れて田舎でやるしかない」 

「勤めている会社が業績悪化で休業状態なんです」 

「観光客が減ってしまったから、林業も兼業したい」 

 

そういった方々に向けて、何かできることはないか?と考えていたところ、資金分配団体(20年度コロナ枠)の公募が始まったので、非常に良いタイミングで申請をさせていただいたと思っています。 

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である九州地区自伐型林業研究会の研修メンバー(左)と道を作ってる様子(右)
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である九州地区自伐型林業研究会の研修メンバー(左)と道を作ってる様子(右)

事業をする中で感じた課題・難しさ

───今回の事業を進める上で課題や難しさはありましたか? 

 

美濃部 真光さん(以下、美濃部)実行団体のさんも、私たち自身も、自型林業に関わる団体なので、森づくりの活動についての計画や目標設定は得意分野なのです。しかしコロナ枠ではコロナ禍においての失業者されている方を救うための助成という慣れないテーマということで、もちろん志は高く持っていましたが事業を進めるうえでは四苦八苦しました。そのため実行団体の事業計画策定の時期に、これまで経験がある「森づくりに関する研修の実施」にどうしてもフォーカスしてしまって、コロナによる生活困窮支援という視点が弱くなっていたことに事業実施途中で気が付いたのです。 

 

どれくらいコロナ禍における生活困窮支援につながったのか?という部分の目標設定曖昧だと、事業の成果も正確に測れません。当時は緊急助成ということで事業の実施を急いでいたこともありましたが、そこが一番の反省点でしたただ実際実行団体の各現場では、研修を実施して終わりではなく、受講された一人一人に対して丁寧に相談対応されていたので、その成果示すために、研修参加者に事後的にアンケートをとました。アンケート結果を実行団体の皆さんがコロナ枠の事業の後半戦に生かしてくださったっていうところが、事業の成果を高めるうえでとても大きかったと思っております。 

 

───他に、社会的インパクト評価を実施する上でも難しさありましたか? 

 

中塚:休眠預金を活用させてもらっている以上、成果報告もしっかり行いたいと思う一方、林業従事者の方々にとって書類作成の作業は不慣れな部分が多く、サポートをする私たちも苦戦しました。実際、書類の中で実施内容と成果をごちゃ混ぜに書いてきたり、要点がまとまっていなかったり。やって終わり、ではなく評価を可視化する難しさを感じました。 

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である奥利根水源地域ネットワークによる道づくり(左)と薪づくり(右)
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である奥利根水源地域ネットワークによる道づくり(左)と薪づくり(右)

“評価”をやってみての気づき

───評価に取り組んで、どのようなことを感じていますか? 

 

中塚:苦労はしましたが、これまでやってこなかった「評価」を意識できたのは良い経験でした。最近、伐協においても、自治体との事業非常に増えてきたのですが、これまでだったら勢い任せに「研修をやりますよ!」と提案していたところも、根拠や計画を示しながら要素を整理して説明できるようになりました。どうやったら自型林業が、個人の生業に、地域の貢献につながるか?」を定量・定性の側面からお伝えできています。 

 

美濃部:私もこれまでは、ロジックモデルの構築やアウトカムを想定した目標設定などに不慣れだった分、休眠預金活用事業を通じて経験できたことで大変勉強になりました。NPO法人が解決したいと思う社会課題は、人々の関心が寄せられていないからこそ、そこに課題があると思っています。無関心層の人々に対して、いかにしてコミュニケーションを取るべきか。そこを論理的に説明できなければ、私たちを含めたNPO法人の発展性はないと思っています。なので評価を含めた本事業の運営を経験できたことは、今後の私たち自身の活動にとっても良かったと思います。 

 

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である天竜小さな林業春野研究組合がめざす「役場機能を真ん中に、食・水・森林・エネルギー・教育・育児・医療・福祉をつなぐ持続可能なコミュニティ」(左)と作業小屋と団体メンバー(右)
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である天竜小さな林業春野研究組合がめざす「役場機能を真ん中に、食・水・森林・エネルギー・教育・育児・医療・福祉をつなぐ持続可能なコミュニティ」(左)と作業小屋と団体メンバー(右)

───実際に、評価が活かされたと感じるエピソードはありますか? 

中塚:各実行団体で行った研修の講師陣が、研修終了後も受講生と連絡を取り、定着のサポートをしていたことです。そこまでの講師陣の熱量の高まりは想定外のできごとでした。 

事務的に研修を行い、人数や日数といった数字だけを気にするのではなく、今回の事業の目的である「コロナ禍による生活困窮支援」ということを評価を通じて講師陣もしっかり認識し、それぞれの地域に戻って就業していく受講生たちのこれからを慮り、その後の活動や人生にも目を向けたサポートをしたい!という想いが芽生えたようです。 

実際、事業終了後も、受講生の地域を見に行ったり電話で連絡を取ったりと、研修の域を超えた関係が続いているとのことです。これは思いもよらぬアウトカムでした。定着までしっかりサポートしようという講師陣の姿勢は、評価に向き合ってきたからこそ、つながったのではないかと考えています。 

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体であるふくい美山きときとき隊の研修風景(左)とチェンソーの安全講習(右)
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体であるふくい美山きときとき隊の研修風景(左)とチェンソーの安全講習(右)

今後について

───最後に、今後の展望についてもお聞かせください。 

 

中塚:研修に参加さる方や関心を持ってくださる方には、林業の技術だけでなく、生業にしていくために必要な知識もセットでお伝えしていきたいです。 

 

実際、地域で自伐型林業を始めるとなると、山や機械を確保したり、販路を考えたり、他の自治体の事例を見せながらどんな地域貢献につながるかを自治体に説明したり、やらなければならないことが多方面にわたって出てきます。 

 

新たに採択を受けた22年度コロナ枠では、実行団体の皆さんとそういった自伐型林業を続けていくため必要な総合的な支援を生活困窮者の皆さんに向けてお伝えし就業に結び付けていけたらと考えています。助成規模も20年度コロナ枠と比較して大きくなりましたし実行団体の採択も全国に広げていきたいです 


美濃部:休眠預金活用事業に取り組めたこと自体が、とても良かったと感じています。EFFの強みである助成金プログラムの運営を活かしつつ、中塚さんたち自伐協や、ランドブレイン株式会社という他分野の団体とコンソーシアムを組んで助成事業を展開できたことは非常に学びがありました。 

 

実際、今回を機に多方面から「一緒に休眠預金活用事業ができないか?」というような声もいただいていて。これからは農業や福祉との連携など、さまざまな切り口での展開に可能性を感じています。なのでこれからまた、申請について検討し、ご相談させていただくかもしれません。よろしくお願いします!

取材に応じてくださった美濃部さん(左)と中塚さん
取材に応じてくださった美濃部さん(左)と中塚さん

【事業基礎情報】

資金分配団体

特定非営利活動法人 地球と未来の環境基金

2020年度緊急支援枠コンソーシアム構成団体
・特定非営利活動法人 持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会

▽2020年度通常枠&2022年度コロナ・物価高騰枠コンソーシアム構成団体
・特定非営利活動法人 持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会
・ランドブレイン株式会社

助成事業

〈2020年度緊急支援枠〉
失業者を救う自伐型林業参入支援事業
~アフターコロナの持続・自立した生業の創出~[事業完了]

〈2020年度通常枠〉
地域の森林を守り育てる生業創出支援事業
~中山間地域における複業型ライフスタイルモデルの再構築~

〈2022年度コロナ・物価高騰対応支援枠〉
自伐型林業地域実装による森の就労支援事業
ー生活困窮者が未来に希望を見出す仕事の創造ー 

活動対象地域
全国
実行団体

〈2020年度緊急支援枠〉

  • 一般社団法人 東北・広域森林マネジメント機構
  • 特定非営利活動法人 奥利根水源地域ネットワーク
  • 天竜小さな林業春野研究組合
  • 一般社団法人 ふくい美山きときとき隊
  • 九州地区自伐型林業連絡会


〈2020年度通常枠〉

  • 合同会社 百
  • 株式会社 ワイルドウインド
  • 株式会社FOREST WORKER
  • 一般社団法人 ディバースライン
  • 株式会社皐月屋

〈2022年度コロナ・物価高騰対応支援枠〉
※審査中

休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」では紹介できなかった映像を再編集しました。ぜひご覧ください。

今回の活動スナップは、一般社団法人ローランズプラス(資金分配団体:READYFOR株式会社)。休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」の制作にご協力いただきました。シンポジウム用の動画ではご紹介できなかった動画を再編集し、撮影に同行したJANPIA職員のレポート共に紹介します。””””

活動の概要

一般社団法人ローランズプラスは、原宿でフラワーショップとカフェを運営しています。勤務しているスタッフ60名のうち45名が、障がいや難病と向き合いながら働いていることが特徴です。

さらに中小企業の障がい者雇用促進の取り組みを広げるために、2020年に休眠預金を活用した事業を実施。障がい者雇用の算定特例制度を活用し、複数の中小企業と福祉団体が連携して障がい者の共同雇用を行う仕組みを整えて、事業を開始しました。1社単独ではハードルが高い障がい者雇用を、複数企業と福祉団体が連携することで実現するモデルとして注目されています。

活動スナップ

撮影に同行したJANPIA職員のレポート

カラフルな花に囲まれたカフェ・フラワーショップ「ローランズ」。ひとりでも気軽に入れる雰囲気で、お花やグリーンの鉢植えに囲まれて幸せな気持ちでランチやスイーツを楽しむことができます。フルーツサンドやスムージーなどのメニューは、思わず写真を撮りたくなるかわいらしさです。

併設されたフラワーショップには彩り豊かなお花がならび、スタッフがアレンジメントを手際よく制作しています。リーダーの高橋麻美さんは、ローランズで働き始めて6年目です。

スタッフミーティング中の高橋麻美さん]

「もともとお花が好きで、ハローワークで求人を見て応募しました。とはいえ、大学を卒業してから病気のことで入退院を繰り返していたので働いた経験がなく、障がいがあるので、入社前は仕事を続けられるか不安でした。

今ではローランズで他のスタッフと一緒に力を合わせて働くのがとても楽しく、やりがいを感じています」

高橋さんの働く姿を撮影!スタッフは、ZAN FILMSの本山さん、明石さん

高橋さんのように障がいや難病と向き合うスタッフがいきいきと働くローランズには、障がい者雇用のノウハウが蓄積されています。そのノウハウを、障がい者雇用に困難を感じる中小企業に共有し、障がい者を共同で雇用する仕組みを構築する新規事業をスタートするために、休眠預金等活用事業を活用しました。

ここまでの成果として、2022年4月までに6社と連携し、16名の新規雇用を生み出すことに成功。今後は新たに70名を共同雇用する予定です。

ローランズ代表の福寿満希さんは、障がい者雇用のニーズの高まりとは反比例して、コロナ禍での新規事業の立ち上げに大きな不安を抱えていたと話してくれました。

インタビュー中の、福寿満希さん

「新しいことに踏み出すときはとてもエネルギーが必要で躊躇していたのですが、資金分配団体の伴走支援があったおかげで、1歩を踏み出すことができました。常にタスクの優先順位を一緒に確認してくれたおかげで、計画どおりに進められています。

今後は、東京で立ち上げた障がい者の共同雇用のモデルを地域に展開し、地域の中小企業が障がい者雇用に踏み出すお手伝いをしていきたいです」

ローランズが目標として掲げるのは、「多様なひとが一緒に働ける彩り豊かな社会」。実現のために、これからは東京から地方へと、そのノウハウと仕組みを広げていきます。

【事業基礎情報】

実行団体一般社団法人 ローランズプラス
事業名ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業
活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業新型コロナウイルス対応緊急支援事業
〈2020年度緊急支援枠〉

休眠預金等活用法における指定活用団体である一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)は、2022年7月に設立から4年目を迎えました。そこで、設立当初よりJANPIAの活動基盤を作り上げ、2022年1月に理事を退任された逢見直人さんと、二宮雅也理事長に、これまでの取り組みを振り返っていただき、次のステージに向けた課題やなど期待などをお話しいただきました。

JANPIA設立から指定活用団体へ、オールジャパン体制を目指す

司会(JANPIA職員)JANPIAは2022年7月に設立から4年目を迎えました。設立当初を振り返るなかで、とくに印象深かった出来事などはありますか?

逢見元理事(以下、逢見):
そもそも休眠預金の活用については、10年以上前から議論されていました。私もその情報に触れるたびに、「上手に使えばきっといいものになる」と思っていました。しかし、まさか自分がその活動にかかわるとは思ってもいませんでした。


それが、当時、連合の会長代行を務めていた私のもとに、経団連から「指定活用団体の公募に手を挙げたい。ついては、経済界・労働界・ソーシャルセクターをはじめとしたオールジャパンによる団体を作りたい」という話が届きました。そこから私も参画し、JANPIAが設立されました。そして、内閣府による「指定活用団体の公募」への申請にあたっては、労働界からも職員を派遣してほしいとの要請があり、私も全労済と労金協会に出向いてJANPIAの趣旨を説明し、この活動の将来を担ってもらえる人物を推薦してほしい、と頼みにいきました。
JANPIA元理事 逢見 直人さん

それが、当時、連合の会長代行を務めていた私のもとに、経団連から「指定活用団体の公募に手を挙げたい。ついては、経済界・労働界・ソーシャルセクターをはじめとしたオールジャパンによる団体を作りたい」という話が届きました。そこから私も参画し、JANPIAが設立されました。そして、内閣府による「指定活用団体の公募」への申請にあたっては、労働界からも職員を派遣してほしいとの要請があり、私も全労済と労金協会に出向いてJANPIAの趣旨を説明し、この活動の将来を担ってもらえる人物を推薦してほしい、と頼みにいきました。

我々は、「指定活用団体・資金分配団体・実行団体」の3団体がいかに効率よく機能し、休眠預金等を有効活用する方法、そして実行団体の熱意を酌んだサポートをどのように展開していくか等の方法論に重点をおき、構想を固めていきました。休眠預金等活用審議会委員による面接では、二宮理事長と事務局のメンバーがJANPIAの構想をしっかりと伝えてくださいました。あとから話を聞くと、JANPIAのほかにソーシャルセクターに関しての専門性が高い人材で構成された団体など3団体が名乗りを上げていましたね。

二宮理事長(以下、二宮):我々はオールジャパン体制を目指した一方、他の申請団体と比較してソーシャルセクター出身者が少ないということで、活動の実際を知らないことへの懸念が審議会の委員の方々にあったと思います。そのためか、面接は2時間に及びました。ほかの団体も入念な構想を描いて面接に臨んでいましたから、どのような結果が出るかハラハラしたのを覚えています。

逢見:私も結果が出るまではハラハラしました。そして、実際に指定を受けると、「大変な責任を担うことになった」と、その責務の重さを再認識しました。

徹底的な対話から生まれるパートナーシップ

司会:そして2019年1月11日に指定活用団体としての指定を受けJANPIAの活動が始まりますが、その頃のことで思い出されるのはどのようなことでしょうか?

逢見:当初の理事は3名体制で二宮さんが理事長、柴田雅人さんが専務理事兼事務局長、そして私というメンバーでした。理事会を開くと、二宮さんが議長を務められるので、柴田さんと私のどちらかが質問して、どちらかが応えるという形になります。質問者が1人だけの理事会には、当初は戸惑いもありました。(笑)

二宮:設立当初は基盤作りとして、様々なことを決めなくてはいけないことから、迅速に適切な決議ができるようにということがあって3人体制でスタートしました。しかし、その後、事業が進展していくなかでソーシャルセクターの方たちにも入っていただき、現在は5人体制になっています。これは、運営上非常に適正な規模だと感じています。

司会:設立当初からいろいろなことを話し合ってこられたと思いますが、そのなかで難しく感じたことはありますか?

逢見:指定活用団体と資金分配団体、実行団体の3層構造が円滑に機能していくかということが、非常に心配でした。我々指定活用団体は、ともすると資金分配団体・実行団体に対して上から目線になってしまう。しかし、それではいけません。

JANPIA 二宮 雅也 理事長

二宮:その通りです。そこで我々が活動の根幹に置いたのは、資金分配団体・実行団体の方たちとの対話によって連携・協働することでした。様々な課題はありますが、業務改善プロジェクトのように、実務上の課題等を改善していくために、徹底的に資金分配団体の皆さんと話し合い、パートナーシップを築いていくことを大切にしています。その流れは、しっかり出来てきていると考えています。

逢見:そこは最も大事な点ですね。JANPIAの職員の皆さんにもその考えは浸透し、結果としてそれが機能しているのではないかと感じています。

POの活躍は、この制度の財産

司会:ところで逢見さんは、2019年度資金分配団体のプログラム・オフィサー(PO)の必須研修に全日参加されたそうですね。どのような思いで参加され、また印象的だったこと等お聞かせください。

逢見:休眠預金等の活用において3層構造の中間に位置する資金分配団体は、単に実行団体に助成金を渡すだけでなく、実行団体の伴走者としての役割がとても重要です。そのためのPO研修が始まるに際して、実際に研修の内容を見てPOとなる人たちと接してみたい、という気持ちがありました。

実際に参加してみると、私自身も「POにはこういった役割もあるのか」と気づかされ、認識が深まりました。そして参加者との討議などを通して思いを知り、我々と思いを共有している人たちが多くいることがわかり、PO研修に参加したことは大きな価値がありました。

POの方々が2期、3期と活動を続けてくれることで、さらに広がりを見せ、試行錯誤しながら活動している実行団体の皆さんへも、しっかりした方向性を示すことができるはずです。これはこの制度の財産になるでしょう。

二宮:研修を受講したPOは約180名になりました。プログラムを企画立案し、マネジメントもできて成果につなげる、そういう役割を担う人を増やしていくことは重要です。そのなかで休眠預金等を有効に活用していく流れができると思います。

2019年度のPO研修は集合形式で行われました。懇親会(中央壇上)でご挨拶される逢見理事(当時)

コロナ枠で社会変化に臨機応変に対応

司会:コロナ禍が続く現在、JANPIAでは2020年度に新型コロナウイルス対応緊急支援助成(以下、コロナ枠)を開始して、2022年度も新型コロナウイルスや物価高騰に対応する助成制度を継続していますが、これについてはいかがでしょうか?

逢見:コロナという予期しない事態が起き、感染予防のためとはいえ人の行動を止めることになりました。「これは困る人が相当出る」、とくに社会的に弱い立場の人にシワ寄せがいくことが心配されました。そして「ここは休眠預金の出番!手をこまねいていてはダメだ」ということになりました。

そこで、「通常枠」とは別に緊急的にコロナに対応する助成制度を立ち上げました。これは休眠預金活用の価値を社会に知ってもらうためにもよかったと思います。

緊急的な助成ですからスピーディーに物事を決めて取り組んでいかなくてはいけない、かといってずさんな運営ではいけない。スピード・緻密な運営・確かな結果、このバランスを取ることに全員で力を注ぎましたね。職員もほんとうに大変だったと思いますが、コロナ枠を実施していることはJANPIAにとっても意味のあるものだと思います。

二宮:世界がコロナを認識してまだ2年半です、その後にウクライナの戦争、それに続くエネルギー危機や物価高騰など、市民社会に影響を与えることが次々と起こっています。JANPIAではそれらについても取り扱うことになりましたが、設立当初はまさかこういった事態が起こるとは思っていませんでした。

逢見:SDGsの持続可能な開発目標に合わせて、社会課題の解決は大事だという議論はありましたが、「社会課題」という言葉はこんなに広く人々に知られるような言葉ではありませんでした。しかし、JANPIAでの活動を通して、本当に社会における課題にはいろいろなものがあるということがわかりました。

なにかが起こったとき、もちろん政府が行うべきことはありますが、民間はどうすればいいのかも考えなくてはいけません。その点で、JANPIAは、いま必要なことは何なのかを考え、常に備えておかなくてはいけませんし、今ある問題を短期的視点だけで取り組むのではなく、その大元にある問題は何であるかを見ていくことが大事です。

二宮:その通りです。今までのように「想定外」とか、「思いもしなかった」は通用しません。次に別の危機が必ず来ることを認識して、そのときのために備えることが大切です。

休眠預金活用事業がタンポポの綿毛のように各地に広がり、大きな力に

司会:今年度の1月が法律施行後5年にあたり、いわゆる「5年後の見直し」の時期になります。そこで、私たちJANPIAが心掛けるべき点についてアドバイスをお願いします。

逢見:まず実績を示し、そのうえで次の5年に向けた課題を洗い出し、それをよりよいものにしていくことが大切だと考えます。国民の資産である休眠預金等は公正かつ透明に使っていかなくてはいけません。しかし、あまりにも手続きが煩雑で多くの労力が必要になるようでは、本末転倒です。簡素化できるものは簡素化し、スピーディーに物事を決めていかなくてはいけません。この点の改善についてはすでに行っていると思いますが、さらに次の5年に向けて磨きをかけてほしいと思います。

司会:最後に休眠預金を活用する団体の皆さんへ向けてメッセージをいただければと思います。

逢見:休眠預金活用事業は、公的な制度の狭間で取り残されている社会課題の解決を支援するものでで、皆さんの活動は非常に意味があるものです。

休眠預金を活用した事業のシンボルマークの綿毛のように、皆さんの社会を支える力が舞い上がって、それぞれの地域に根差し花開く。まさに綿毛のように多くの人に届き、様々な場所で良い変化をもたらすでしょう。そして、一つ一つの取り組みは小さいことかもしれませんが、集まれば大きな力になって世の中を変えていけると考えます。

二宮:JANPIAスタート時に掲げた我々のビジョン、「誰ひとり取り残さない社会作りの触媒に」、という根幹の考えを、逢見さんにあらためてお話しいただいた思いがします。5年後の見直しに向けた総合評価も行っている最中ですが、こういったことを含めながら本事業の在り方を、未来に向けて考えていきたいと思います。

逢見:次の5年はさらに大変な時期になると思います。休眠預金活用事業のさらなる発展を期待しています。

司会:はい、私たちもさらに頑張っていきたいと思います。本日はありがとうございました。


逢見 直人(おうみ なおと)さん プロフィール

1976年ゼンセン同盟書記局に入局。日本労働組合総連合会(連合)副事務局長(政策局長)、UIゼンセン同盟副会長、全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟(UAゼンセン)会長、連合副会長などを務める。2019年よりJANPIAの理事として設立および運営に尽力。2022年1月に退任する。


■二宮 雅也(ふたみや まさや)理事長 プロフィール

1974年日本火災海上保険株式会社入社。2011年日本興亜損害保険株式会社代表取締役社長、2014年現損害保険ジャパン株式会社代表取締役社長、2016年同社代表取締役会長を経て2022年4月よりSOMPOホールディングス株式会社特別顧問。2018年7月のJANPIA設立時より理事長を務める。

[取材風景] 対談は広い会議室で間隔を開け、マスクをして実施しました。撮影のときのみ場所を移し、マスクを外していただきました。 司会は、JANPIA 職員(企画広報部 芥田真理子さん)がつとめました。

休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」では紹介できなかった映像を再編集しました。ぜひご覧ください。
休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」では紹介できなかった映像を再編集しました。ぜひご覧ください。
2022年5月11日開催「休眠預金活用シンポジウム」で上映した、休眠預金活用事業の紹介ムービーです。