【事後評価】アウトリーチ手法による「新移民時代型」支援ネットワーク構築事業(特定非営利活動法人移住者と連帯する全国ネットワーク)
報告書要約
総論
本事業は、外国人支援を専門としない支援者・支援団体、外国人支援を専門とする支援者・支援団体、弁護士や労働組合、医療、非正規滞
在などあらゆる分野の専門家、外国ルーツの支援者や通訳など、様々プレーヤーの有機的な連携を促進することにより、従来は対応が困難
であった複合的かつ複雑な課題を抱える相談への対応を可能とした点において、特に大きな成果を上げた。また、安定した資金提供と堅実
な運営体制のもと、大規模かつ継続的なプログラム運営を実現したことも、本事業の重要な達成点である。こうした基盤があったからこそ、
予算を計画通り確実に執行し、伴走支援、緊急支援、現場の相談を反映した政策提言および省庁交渉、さらに支援者養成のための体系的か
つアクセシブルな学習・教育機会の提供といった多岐にわたる取り組みを、同時並行的に実施することが可能となった。
特に、オンライン相談会の実施とその後の個別案件のフォローアップ、専門家による助言を組み込んだ支援体制は、相談対応の実効性を高
める上で有効に機能した。加えて、大規模な資金を確保したことにより、支援者が「常に頼れる資金源がある」という安心感を持って活動
できる環境が整備され、従来は⺠間支援の枠組みでは対象となりにくかった支援の実施が可能となった。とりわけ通訳者への適切な支援は、
通訳体制の持続性と安定性を高め、結果として支援全体の質および相談の質の向上、さらには支援対象者と支援者との信頼関係の構築にも
寄与した。
定量的成果
本事業では、直接支援の実施、人材基盤の拡充、相談・学習機会の提供、分野横断的連携、政策アドボカシーの各側面において、定量的ア
ウトカムが確認された。まず直接支援の実績として、緊急支援 182 件、伴走支援 1,276 件を実施し、伴走ネット登録者数は 367 名(うち
外国ルーツ 138 名、外国人支援未経験の非専門支援者 27 名)に達した。相談・学習機会としては、相談会を 78 回開催し延べ 477 名が参
加、オンデマンド講座の視聴回数は 542 回であった。加えて、分野・地域を超えた連携事例は 18 件確認され、外国人支援を専門としない
分野外支援者 17 名が参加し、伴走支援の実施にまで至った。構造的課題への働きかけとして、省庁交渉 33 回、国会議員への働きかけ延べ
287 回も行い、個別相談の課題を政策レベルへ接続した。
これらの実績はアンケート結果からも裏付けられている。費用負担が軽減したとの回答は 85%超で、とりわけ無給ボランティア支援者の活
動継続を後押しした。支援者が対応する相談件数は 5 割強が「増加」と回答し、精神的負荷は 6 割弱で「軽減」、知識・ノウハウは約 8 割
で「増加」、相談内容の幅および相談分野数も約 7 割で「増加」と回答した。さらに、本事業がない場合の支援活動は約 9 割が「困難」と
回答しており、事業が現場の支援継続に不可欠な基盤となっていたことが示される。ネットワークの連携の側面でも、新たなつながりがで
きたとの回答は約 7 割、団体間協働は約 9 割で実現しており、支援の質的向上を支えるネットワーク形成が確認された。事業別の有用性評
価では、伴走支援が 98%、緊急支援が約 9 割、伴走支援スキルアッププログラム(オンデマンド動画)が約 6 割で「有用」と回答され、特
に直接支援系施策の貢献度が高いことが明らかとなった。
成果が実現された要因(人的資本・資金・外国ルーツのコミュニティへのリーチ)
本事業において成果が実現した主な要因として、事務局を中核とし、コーディネーターおよびアドバイザー(領域別の専門家)から構成され
るワーキングチームという人的資本と、支援を下支えする十分な資金の確保が挙げられる。これらの資源が有機的に機能したことにより、
アドバイザーを含む専門家、通訳者、相談者、コーディネーターが一堂に集まり、1 日で完結するワンストップ型の相談会の実施が可能と
なった。さらに、1 日の相談会のみでは解決が困難な課題に対しても、継続的なフォローアップ体制を構築することで、数か月単位に及ぶ
伴走型の手厚い支援を実現した。
また、移⺠・難⺠支援の現場において相談件数が多く、かつ対応難易度の高い、法務、労働、医療、生活困窮など複数分野にまたがるケー
スに対しても、単一領域に限定されない包括的な支援を提供することが可能となった。
加えて、本事業では、他の相談会では必ずしも実現が容易ではない、支援対象者が属する外国ルーツのコミュニティへの「深いリーチ」を
達成した点が、事業成果を大きく左右する要因となった。一般に相談会事業では、周知不足やコミュニティとの信頼関係が十分に構築され
ていない場合、相談件数が伸び悩む傾向があるが、本事業においては、常に対応可能なキャパシティを上回る相談が寄せられる状況が継続
した。
この背景には、外国ルーツ支援者が、コミュニティと支援プログラムをつなぐハブとして機能し、相談内容の事前ヒアリング、相談会の告
知、通訳者(初心者を含む)の確保、さらには文化的・言語的背景を踏まえたコミュニケーション調整や心理面でのフォローを一体的に担
っていたことがある。こうした役割分担と体制整備により、相談への心理的・実務的ハードルが低減され、結果として相談者の参加促進と
質の高い相談対応の両立が実現した。
定性的成果と波及効果
本事業では、定量的な成果にとどまらず、複数の重要な定性的成果も実現した。第一に、支援者間および支援団体間のネットワークが、地
域や支援分野を越えて構築・強化された点が挙げられる。これらのネットワークは、本プログラムを通じて形成されたことにより、事業の
枠組みを超えた日常的な相談対応や情報共有の場面においても活用され、結果として個別相談の質の向上、相談の幅の拡大、迅速な対応に
つながるといった、可視化しにくい波及効果をもたらした。
第二に、緊急支援の支給は、相談対応者の状況が深刻化することを防ぐ上で重要な役割を果たした。緊急支援費の存在により、支援対象者
が当面の生活を維持し、状況を立て直すための時間的余地を確保することが可能となり、生活基盤の崩壊や危機的状況への移行を回避する
予防的効果が確認された。
第三に、外国ルーツ支援者、通訳者、元支援対象者であった人々のエージェンシー(主体性)の形成が促進された点も重要な成果である。
相談対応や支援活動への参加を通じて、知識や経験、自信が蓄積され、コミュニティ内での助け合いや、周囲の人々を主体的に支援する行
動へとつながる変化が見られた。これは、当初目標として掲げていた外国ルーツ支援者の養成という成果に、定量的指標には表れにくい形
で寄与していると考えられる。
最後に、知識移転と実践による蓄積を通じた支援の質の向上が挙げられる。外国人労働者支援経験のある労働組合から未経験の労働組合へ
の知識やノウハウの共有が進んだことにより、外国人支援に取り組む労働組合の裾野が広がった。また、外国ルーツの通訳者が相談対応に
継続的に関与することで、通訳者自身の知識と理解が深化し、将来的に自身のコミュニティで相談対応を担う役割へと発展する事例も見ら
れた。さらに、通訳者への適切な金銭的支援により通訳体制の安定が確保され、支援者の精神的負荷の軽減と、相談および通訳の質の向上
が同時に実現した。
課題と限界
一方で、本事業にはいくつかの課題および限界も確認された。第一に、外国ルーツ支援者養成に関しては、定量的なアウトカムの達成とい
う点で課題が残った。これは、外国ルーツ支援者が存在する当事者コミュニティへの継続的な働きかけや参加促進が十分に行えなかったこ
とに加え、潜在的な支援者となり得る人々が、日常的に時間的・経済的余裕を欠いている状況に置かれていることが主な要因として考えら
れる。
第二に、プログラム設計に関する課題が挙げられる。通訳者に対する謝金支給の仕組みは一定の効果をもたらした一方で、すでに相談対応
業務を何らかの形で有償で担っている通訳者にとっては、金銭的支援以上に、継続的かつ安定した専門家からの助言やサポート体制の必要
性が示唆された。また、支援申請に際しては、複雑な申請フォームへの記入など、言語的・手続的リテラシーが求められたため、日本語を
母語とする支援者であっても申請を断念する事例が報告されている。その結果、申請者が一定の層に偏り、より周縁化された支援者が緊急
支援や伴走者謝金にアクセスしにくい構造が生じていた可能性がある。
第三に、移⺠・難⺠を対象とする⺠間支援事業としての構造的限界も明らかとなった。医療制度そのものや、非正規滞在者を取り巻く法制
度といった構造的要因については、個別支援や政策提言、省庁交渉を通じて問題提起を行ってきたものの、短期的に制度変革へと結びつけ
ることは困難であった。本事業の最終受益者である生活困窮、就労等の課題を抱える移⺠・難⺠が直面する課題・問題は、依然としてかれ
らが公的な支援・サービスに包摂されていないことに起因するものが多く、法制度の整備・変革までは時間がかかるだけでなく、社会政治
情勢に左右されるがゆえに、公的部分を⺠間支援が担わざるをえない状況そのものの改善を図ることには限界があった。これは本事業に限
らず、⺠間支援全体が抱える根本的な制約である。
さらに、資金面における制約も大きな限界として挙げられる。緊急支援費および伴走支援謝金は想定よりも早期に消化され、申請条件の変
更・申請の前倒し終了や、他の予算を支援費に充当せざるを得ない状況が生じた。これは、支援ニーズの高さを示す一方で、依然としてニ
ーズに対して十分な支援が行き届いていない現状を示している。
今後の展望
アンケート結果等から、本事業で解決が困難であった領域として生活困窮、在留資格、医療、住まいが多く挙げられた。これらは、公的制
度の不在や制度の狭間、資金不足、さらに複数分野にまたがる領域横断的課題であることが、解決を難しくしている主要因と整理できる。
この状況を踏まえると、今後のプログラムは、個別支援の継続と同時に、法律・行政・医療の専門性をより安定的に組み込み、複合課題に
対するワンストップ対応と継続フォローを一層強化する方向性が重要となる。具体的には、緊急支援金の拡充によって危機的状況への即応
性を高めるとともに、専門家紹介および助言・伴走体制を制度化し、現場の支援者が孤立せずに対応できる環境を整備することが求められ
る。また、個別相談から得られた知見を体系的に蓄積し、政策提案・交渉へ継続的に接続することで、公的制度の不在や運用上の障壁とい
った構造要因への働きかけを強める必要がある。加えて、支援者への謝金支給も高いニーズが確認できたため、特に通訳・支援体制の持続
性を担保し、支援の質を維持・向上させる上で引き続き重要である。以上より、今後は「緊急支援(即応)」「専門家連携(解決力)」
「政策提言(構造変化)」「支援者基盤(持続性)」を柱として、複合課題に対応する統合的プログラムとして発展させることが展望とし
て示される。
引用資料
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