[休眠預金活用事業サイト]グッド・エイジング・エールズ 松中権さん×小島慶子さん

グッド・エイジング・エールズ代表・松中権さんに、元アナウンサーでエッセイストの小島慶子さんが伺いました。

2020年秋、東京都新宿区にオープンした『プライドハウス東京レガシー』は、日本初となる常設の大型総合LGBTQセンターです。「プライドハウス東京」コンソーシアムの事務局であり、本施設の運営を担うのは『特定非営利活動法人 グッド・エイジング・エールズ』。2つの資金分配団体「特定非営利活動法人 エティック(2019年度通常枠)」「READYFOR株式会社(2020年度緊急支援枠)」の実行団体として休眠預金を活用し ています。今回は、グッド・エイジング・エールズ代表の松中権さんに、元アナウンサーでエッセイストの小島慶子さんがLGBTQを取り巻く環境や休眠預金を活用した事業の取り組みなどについてお話を伺った様子をレポートします。

▼インタビューは動画と記事でご覧いただけます▼

「自分らしさ」を体現できる場づくりを。留学体験で抱いた松中さんの思い

小島 慶子さん(以下、小島):はじめに、グッド・エイジング・エールズはどのような活動をされているのでしょうか?

松中 権さん(以下、松中):グッド・エイジング・エールズは2010年に立ち上げた団体です。僕らはNPO団体として、LGBTQ+(※1)の方々が社会生活を送る中で、それぞれのセクシュアリティを超えて交流できる「場づくり」をしています。

※1:LGBTQ+…レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランジェンダー、クエスチョニング(自分の性別や性的指向に疑問を持ったり迷ったりしている人)/ クィア(規範的な性のあり方に違和を感じている人や性的少数者を包摂する言葉)の英語表記の頭文字を並べ、LGBTQだけではない性の多様性を「+」で表現している。以下、本文では「LGBTQ」と表示。

小島:活動のきっかけはどんなことだったのでしょう?

松中:僕自身がLGBTQの当事者で、子どもの頃はずっと自分のことを受け止めづらい心境でした。
日本の大学を卒業してオーストラリアの大学に留学をしたときに、はじめてカミングアウト。「自分らしく暮らすことって、こんなに心地いいんだ!」という体験をしました。そこで抱いた「こんな社会になったらいいな」という思いを胸に日本へ戻り、広告代理店に就職したんです。ところがその後、自分らしさをクローゼットの奥深くにしまうように、ヘテロセクシュアル(異性愛者)のふりをした暮らしが8年間続きました。

それでも「自分が自分である部分」を大切にしたいと考えて、再び海外へ。ニューヨークのイベント会社でゲイであることをカミングアウトして働きました。ちょうどオバマ大統領が就任した頃です。社会自体を変えていこうとする動きに刺激を受けて、自分自身もこれだけ心地よく暮らし、働いていけるのだったら、そういう社会が日本にもできて欲しいと思ったことがきっかけとなって、帰国した後にグッド・エイジング・エールズを設立しました。

グッド・エイジング・エールズの松中さん(右)に、ご自身もさまざまな社会課題に対する支援活動をされている小島慶子さん(左)がインタビュー。
グッド・エイジング・エールズの松中さん(右)に、ご自身もさまざまな社会課題に対する支援活動をされている小島慶子さん(左)がインタビュー。

LGBTQにとっていつでも頼れる居場所、それが『プライドハウス東京レガシー』

小島:オーストラリアやアメリカなど海外では同性婚が可能になっている昨今、LGBTQを取り巻く日本の環境はどうなのでしょうか?

松中:まだまだ厳しい状況だと感じています。例えば、LGBTやLGBTQという言葉に関して、電通ダイバーシティ・ラボ(※2)の調査によると約8割の人が知っているという結果でした。同じく、その調査でLGBTQの当事者に「自分がLGBTQであることをカミングアウトできる社会ですか?」と質問すると、「まだまだそんな社会ではない」という回答が7割強もあり、日本社会では差別や偏見などが根強いことを改めて感じました。

※2:ダイバーシティ&インクルージョン領域の調査や分析、ソリューションの開発を専門とする組織。これまで2012年、2015年、2018年、2020年に「LGBT調査」を実施。

小島:日本でのLGBTQに対する差別や偏見の背景には何があると思われますか?


松中:日本カルチャーには、異質なものを締め出そうとしたり、同質であることを評価する風潮があると思います。人とちょっと違うこと自体が揶揄の対象になってしまう傾向が根底にあり、性的指向や性自認が多くの方々とたまたま違う人を排除しようと考えることが背景にあるのではないでしょうか。

小島:そうした状況の中で、なぜ『プライドハウス東京レガシー』をオープンしようと思ったのですか?


松中:海外には「LGBTコミュニティセンター」という常設の総合センターがありますが、日本にはそのような「何かあったらそこに行けばいい」という、安心・安全な居場所がありませんでした。日本のLGBTQコミュニティはずっとそのような居場所が欲しいと願ってきたのですが、なかなかそういう場所をつくるきっかけやサポートもない状態でした。

そのような中、今回の東京2020オリンピック・パラリンピック大会の開催は、社会を変えていく一つの大きな節目になるんじゃないかと思い、『プライドハウス東京』プロジェクトを立ち上げました。

『プライドハウス東京レガシー』のロゴは東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムを手掛けた、野老朝雄氏によるもの。
『プライドハウス東京レガシー』のロゴは東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムを手掛けた、野老朝雄氏によるもの。

小島:実際に活動をはじめて、さまざまな方が訪れているかと思いますが、実感としてはいかがですか?

松中:来場者だけでなく、スタッフの皆さんも、「こういう場所があって本当によかった」とおっしゃっていただいています。僕たちはグッド・エイジング・エールズとして2010年から活動を続けてきましたが、例えばこれまでのイベントなどではお会いしたことがないような方々がたくさんいらっしゃっています。実はイベントに参加することすらハードルが高いと感じる方もいらっしゃるんだということを、ここをオープンして感じています。ご年配の方から親御さんと一緒にいらした保育園・小学校くらいの方まで、幅広い年齢層が『プライドハウス東京レガシー』を訪れています。当事者の方も、そうではない方も、例えばLGBTQのことを勉強している大学生の方なども卒業論文制作のために、蔵書を見に来たりしています。

新宿御苑駅から徒歩約3分ビルの2階が『プライドハウス東京レガシー』。LGBTQの方だけでなく、誰でも利用可能な施設です。
新宿御苑駅から徒歩約3分ビルの2階が『プライドハウス東京レガシー』。LGBTQの方だけでなく、誰でも利用可能な施設です。

小島:LGBTQに関する蔵書が約1,800冊もあるそうですね。

松中:この施設の立ち上げとともに「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」というプロジェクトをはじめたんです。蔵書は、クラウドファンディングによるご支援を中心にして集めました。大人向けのものからユース向けのコミックやLGBTQをテーマにした絵本なども、世界中の大使館の協力も得て集めています。

窓際にはユース向けのコミックや絵本がズラリ(左)。書籍などの紹介をしながら、これまでのLGBTQカルチャーについて語る松中さん。(右)
窓際にはユース向けのコミックや絵本がズラリ(左)。書籍などの紹介をしながら、これまでのLGBTQカルチャーについて語る松中さん。(右)

大切なのは「自分のなりたい自分」。未来を担う若者や中高齢者をラップアラウンド

小島:LGBTQの方々に対する支援も世代別で課題が異なると思いますが、中高齢者向けの支援ではどんなことに取り組んでいますか?

松中:実施している事業の中では、35歳以上を中高齢者と定義しています。その世代の方の一番の悩みは「仕事」です。仕事は人間関係で成り立つことが多いので、カミングアウトできずに自分を隠して人と距離をとってしまっている中、コロナ禍ではよりその距離がとりづらくなり、仕事を休んだり、辞めることになってしまったりしています。

例えばそうした方々には、この『プライドハウス東京レガシー』を一緒につくることに協力していただいています。LGBTQコミュニティ・アーカイブを整理する作業をそうした方々にお願いしているなどがその例で、これも休眠預金を活用した事業で実施しています

小島:特に性的少数者の高齢者にとっては、法律の後ろ盾もなく、誰とどうやって生きていけばいいのかという悩みもあるのではないでしょうか?

松中:そうなんです。そうした問題を受けて、生活支援の相談もはじめています。例えば、同性のパートナーと一緒に暮らす際にLGBTQフレンドリーな不動産屋を紹介したり、自身の性的マイノリティーについて周囲に語ることができない状況で病気を患い、誰にも相談できずに困っている方を行政と繋いだり、多岐にわたってサポートしたいと思っています。

小島:それは心強いですね。では、若者世代の課題はどんなことが挙げられますか?

松中:若者世代は自分が「LGBTQの当事者かもしれない」と気づくタイミングであり、同時に自分自身を受け止めることが難しい年齢でもあるので、そこをサポートすることも課題のひとつです。

「ラップアラウンド・サポート(ラップアラウンド=包み込む)」と呼んでいますが、通常「支援」というと、支援する側がアドバイスするのですが、私たちのラップアラウンド・サポートは、当事者である若者が真ん中にいて「自分がなりたい自分」を会話から引き出し、その想いに近づける手助けをしています。例えば「親御さんへカミングアウトしたい」「女の子として学校に入学したけれど、ずっと違和感を持っていて男の子の制服を着たい」といった個々の悩みに、それぞれどんな方法がよいか、必要であれば学校の先生方や親御さんなどにも入っていただいて一緒に考えます。当事者である若者自身がどうしたいかという点を中心においてサポートをしています。

小島:それはとても心強いでしょうね。全部自分で決めて、誰に言おうかと悩むのは辛いですものね。

松中:インターネットが発達してLGBTQの情報は多くなってきているとはいえ、正しい情報をきちんと届けていかなければいけないと考えています。若者世代は近しい友達からいじめを受けやすい世代でもあるので、ラップアラウンド・サポートを通じて、当事者もしくは当事者かもしれないという方だけではなく、色々な人に知っていただくことも大切だと思っています。実際、高校生と先生が総合学習の中でここにいらっしゃって、LGBTQのことを学ぶということも行われています。

小島:これまでお話を伺ってきて、「プライドハウス東京」コンソーシアムの活動にかなり手ごたえを感じている印象を受けました。

松中:そうですね、手ごたえを感じています。でも、まだこのような施設は東京にしかないので、ゆくゆくは日本全国に届けていきたいと考えています。現在はコロナ禍なのでオンラインでの企画なども検討しています。

インタビューの様子。
インタビューの様子。

休眠預金を活用してLGBTQの「若者」と「中高齢者」向けに2つの助成事業を実施中。

小島:『プライドハウス東京レガシー』のオープンにあたって休眠預金を活用されていますが、このような制度があって本当に良かったですね。

松中:本当に良かったです。この仕組みがあったからこそ、『プライドハウス東京レガシー』ができたと思っています。現在、グッド・エイジング・エールズが事務局となって、2つの休眠預金活用事業を実施させていただいています。

ひとつは2019年度通常枠で、『特定非営利活動法人 エティック』という資金分配団体から3年間の助成を受け、LGBTQユース(子どもや若者)を中心とした支援を行っています。普通の助成は1年間で終わってしまうものが多いのですが、『プライドハウス東京レガシー』は期間限定の取り組みではなく常設の場所にしていきたいので、3年間の助成で『プライドハウス東京レガシー』がどうやったら持続可能になっていくかについて私たちと一緒に考えてもらっています。

実は『プライドハウス東京レガシー』はコンソーシアム型の取り組みで、LGBTQの支援を行う33のNPO団体や専門家と一緒のチームで動いているのですが、エティックの方々にそのチームの中の打ち合わせに入ってもらったり、また組織自体をどのように持続可能にしていくかということを、もともとエティックが持っていらっしゃるノウハウに基づいて支援をいただいたり、資金だけではなく人的なサポートもいただいています。

もうひとつは2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成です。資金分配団体である『READYFOR株式会社』から、LGBTQの中高齢者に向けた支援として1年間の助成を受けています。

コロナ禍で失職して仕事ができず精神的に辛い思いをしている方、さまざまな事情で一時的に仕事をすることが難しい方などを対象に、緊急的に色々な働き方が提供できるようにサポートができており、すごく助かっています。


施設内ではドリンクも提供。ゆったりとくつろいで過ごすことができる空間となっています。新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための対策もきちんと行なっています。
施設内ではドリンクも提供。ゆったりとくつろいで過ごすことができる空間となっています。新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための対策もきちんと行なっています。

東京2020オリンピック・パラリンピックを日本中にメッセージを届ける機会に!

小島:最後に、これから取り組んでいきたいことなどを教えてください。

松中:東京2020オリンピック・パラリンピックの機会をうまく活かしていきたいと考えています。この大会が、一人ひとりが「自分はこれを変えたい」「自分こうなりたい」ということを考えるきっかけになればと。

僕たちの「プライドハウス東京」は、2010年のバンクーバーオリンピック・パラリンピック開催時に誕生した「プラウドハウス」のコンセプトを元にしているので、もともとスポーツとLGBTQがテーマだったんです。ですから大会期間中のタイミングを上手く活かして情報発信していきたいと考えています。日本ではLGBTQをカミングアウトしているアスリートはまだ少ないですが、世界中から応援メッセージが届いており、若者を含めてLGBTQだけではなく日本中の皆さんにメッセージを届けたいと考えています。

(取材日:2021年7月22日)

2021年4月には、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長、橋本聖子さんも来訪。
2021年4月には、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長、橋本聖子さんも来訪。

■松中権さん プロフィール■
NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表。「LGBTと、いろんな人と、いっしょに」をコンセプトに、インクルーシブな場づくりを行うなど、多数のプロジェクトを手掛ける。東京2020組織委員会内での、LGBT勉強会や多様性リーフレット作成監修も担当している。

■小島慶子さん プロフィール■
TBSでアナウンサーとしてテレビ、ラジオで活躍。2010年に退社後は各種メディア出演のほか、執筆・講演活動を精力的に行っている。東京大学大学院情報学客員研究員。呼びかけ人の一人となっている「ひとりじゃないよプロジェクト」では、コロナ禍で打撃を受けている120万世帯を超える母子世帯を応援する活動を精力的に行っている。

■事業基礎情報【1】

実行団体
特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名

日本初の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京」設立プロジェクト

-情報・支援を全国へ届ける仕組みを創り、LGBTQの子ども/若者も安心して

暮らせる未来へ-

活動対象地域東京都、及び全国
資金分配団体特定非営利活動法人エティック
採択助成事業

『子どもの未来のための協働促進助成事業

~不条理の連鎖を癒し、皆が共に生きる地域エコシステムの共創』

〈2019年度通常枠〉

■事業基礎情報【2】

実行団体
特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名

LGBTQ中高齢者の働きがい・生きがい創出

活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業

『新型コロナウィルス対応緊急支援事業

 ~子ども・社会的弱者向け包括支援プログラム』

〈2020年度新型コロナウィルス対応緊急支援助成〉

2021年3月13日(土)、東京都江戸川区立船堀小学校の6年生を対象に「出前授業」を実施しました。出前授業とは、社会人講師が小中学校へ出向き、それぞれが得意とする分野などについて特別授業を行うこと。今回は私たちJANPIAがワークショップを織り交ぜながら、「休眠預金活用」についての授業を行いました。

中庭から見た出前授業の様子。みんな集中しています。
中庭から見た出前授業の様子。みんな集中しています。

身近なところから考えよう。誰ひとり取り残さない、持続可能な社会づくり

講師の熊谷香菜子先生。
講師の熊谷香菜子先生。

広々と明るい印象の校舎に、元気な声が響きわたります。中庭の見える開放的な教室にちょっぴり緊張した表情の6年生が集まりました。始業の鐘とともに挨拶を終えると、講師の熊谷先生が話はじめました。

「JANPIAは、“誰ひとり取り残さない、持続可能な社会づくり”を目指す団体です。それは、困った人を放っておかないこと、そして、その状態がずっと続く社会の仕組みがあることを指しています。では、どうやったらそれを実現できるのでしょうか?」

社会の授業では東日本大震災の復興について学んだという船堀小学校の子どもたち。被災から約10年を経た今、その状況を例に取り上げ、モニターに映る資料を見ながら先生が分かりやすく説明していきます。

「震災で被災した人たちは突然の出来事に困っていました。そこで復興に向けて、国が法律をつくり、予算を決め、県や市町村といった行政が仮設住宅の建設や日々の暮らしを支援しています。その費用は、皆さんから集めた税金です。こうして困っている人たちを助けることにも役立てられているんですね」

「震災で被災した人たちは突然の出来事に困っていました。そこで復興に向けて、国が法律をつくり、予算を決め、県や市町村といった行政が仮設住宅の建設や日々の暮らしを支援しています。その費用は、皆さんから集めた税金です。こうして困っている人たちを助けることにも役立てられているんですね」

「あれ?でも、仮設住宅に住むこの人は、住む場所があるのに困った顔ですね。ほかにも困っている人がいるようです」

被災した人ばかりではなく、今、私たちが暮らしている社会を見回してみると、実はいろいろなところで困っている人がたくさんいます。今日は「困っている4人」を例に、どうしたら現状の問題を解決できるのかをみんなで一緒に考えていきます。

困っていることを見つけて、たくさんの「友達」を助けよう!

年齢はもちろん、異なった環境で困っている4人の人たちを例にワークに取り組みます。
年齢はもちろん、異なった環境で困っている4人の人たちを例にワークに取り組みます。

熊谷先生からお話のあった「困っている4人」が、どのようなことに悩み、自分たちはどんなことをしてあげられるのかを、ワークを通して学びます。

困りごとを抱えている例の4人は、被災者で高齢のAさん、介護事業所を経営するBさん、刑務所を出所したCさん、ひきこもりのDさん。それぞれの状況、困りごとが書かれた資料を見ながら、まずは5名ほどの班に分かれて「どんなことに困っているか」を話し合ってもらいました。

子どもたちにアドバイスしながら、JANPIAスタッフも一緒に考えました。
子どもたちにアドバイスしながら、JANPIAスタッフも一緒に考えました。

「皆さんは、この4人のことを『友達』だと思ってください。え?大人の友達?しかも犯罪者?!と思うかもしれませんが、親戚の人、近所の人、習い事の先生など、皆さんの周りにも大人の知り合いがたくさんいますよね。その人たちの困っていることを解決してあげようという気持ちで考えてみてください」

文章を読みながら、どんなことに困っているかを懸命に考える様子が印象的でした。
文章を読みながら、どんなことに困っているかを懸命に考える様子が印象的でした。

先生と一緒に4人がどんな困りごとを抱えているのか確認をしたら、Aさん、Bさん、Cさん、Dさんを各班に振り分け、A3用紙にプリントされた文章を読みながら、それぞれが困っていると思われる部分を丸で囲みます。真剣なまなざしで話を聞き入っていた子どもたち。開始の合図とともに、一斉に話し合いをはじめました。

「お助けカード」で探してみよう。身近にある困りごと解決のヒント

困りごとを丸で囲んだことで、具体的にどんなことに困っているのかを理解し、さらに「こんなことにも困っているかも!」といった新たな問題にも気づくことができました。次のワークでは、困りごとの解決方法を考えていきます。

今回使用した「お助けカード」。このカードは、実際に休眠預金を活用して行われている活動をもとに作られています。

ここで登場するのが11枚の「お助けカード」です。はがきよりやや小さなサイズの紙には、福祉に関わる取り組み・職業が書かれています。使い方は簡単。例えば、被災したAさんを助けるために1番のお助けカードの人にこんな困りごとを解決してもらおう!といった具合です。苦しい思いをしている人が少しでも楽になると思ったアイデア、小学生の自分では難しいけれど、あの人に相談したら解決しそう!など、思いつく限りの意見を各班で交換し、解決への糸口を模索します。

「この人たちにはきっと音楽プログラムを使った方がいいと思うな!」
「リハビリが必要で働けない人にはタブレットで内職ができるようにしてみよう」
「募金をするのもいいのかな?」

わずか15分ほどの話し合いながら、教室は熱気に溢れていました。笑顔で意見を交わす子、何度も文章を読み返す子、小学生ながらしっかりとした意見を述べる様子は大人も顔負けです。

相手を思いやる豊かな想像力が、大きな支援に繋がります

話し合いを終えたところで、各班みんなで見つけた「困りごと」と「解決方法」について発表をしてもらいました。ここでは、その一部をご紹介します。

▼被災者で仮設住宅に一人で暮らすAさん
・LINE通話やZOOMで子どもや孫と会話ができるようにお助けカード(タブレット教室)を使います。
・いつでも誰かと話せる「居場所カフェ」を開いてみたい。

▼リハビリ施設を運営する介護事業者のBさん
・コロナウイルス感染症を気にして通所しなくなってしまったお年寄りには、タブレットやDVDを使って動画でリハビリの方法を教えてあげる!
・クラウドファンディングをはじめて内職するのはどうだろう?

▼刑務所を出たばかりのCさん
・就職先が無くて困っているので、お助けカード4番(罪を犯した人の立ち直り支援)の人に相談して紹介してもらいます。
・友達がいなくて辛いという悩みは、心理カウンセラーさんに話すのもよいかな。

▼仕事がつらくてひきこもりになってしまったDさん
・10番のカード(就職支援)を使って、お試しで挑戦できる仕事を紹介してもらってみては?
・「孤独の会」を作って、同じ境遇の人が集まって気持ちを分かち合うとよいと思う。
「もし友達が困っていたら?」そんな視点で考えることで、親近感が沸き、より具体的なイメージができたようです。誰かを思いやり、共感する力が困っている人たちを支える発想へと結びつきます。

困ったら「助けて」といえる社会へ。休眠預金で困った人を助ける活動をサポートしています

小学生ならではの柔軟なアイデアが次々に飛び出し、短時間でたくさんの意見が飛び交った出前授業。最後は、講師の熊谷先生からJANPIAのスタッフにバトンタッチし、「誰ひとり取り残さない、持続可能な社会づくり」のために大切なことを改めて子どもたちに伝えます。

「皆さんは『休眠預金』を知っていますか? 休眠預金とは、銀行にある預金を10年間預けたり引き出したりしていなかった預金のことです。これまでは、休眠預金になると銀行の持ち物になっていましたが、法律が変わり、困っている人たちのために役立てることができるようになりました」

現代社会では、本当に困っている人ほど、自分からSOSの声をあげられない場合が多く見受けられます。こうした人と出会ったとき、私たちはどのようなことを心掛けておけばよいのでしょうか。

「もし東京に大地震がきたり、巨大な台風がきて江戸川が氾濫したり、突然、災害が起こったら自分が困った人になります。また、溺れている人がいれば浮き輪を投げてあげる、警察や消防署に連絡をするなど、小学生の皆さんでも、困っている人を助けるためにできることはたくさんあります。大切なことは自分たちが困ったら「助けて!」と声を上げること、そして「助けて!」といいやすい社会であること、さらにそうしたSOSを見つけたらできるだけ早く助けてあげられる活動を増やしていくことです」

今日のワークショップで配られたお助けカードに登場していた人たちは、自分たちで団体を作ったり、会社を興したり、さまざまな困りごとを助ける活動をしている「民間」の実在する人たち。休眠預金は、こうした人たちの活動資金として活用されています。それをサポートするのが私たちJANPIAのお仕事です。

「僕は今日はじめて休眠預金について知りました。明日、自分が困った人になるかもしれないと考えたら、お助けカードの人たちと同じように、まず自分に何ができるのかを考えて助けられるようにしていこうと思います!」 未来を担う子どもたちの柔軟な思考と、誰かを思いやる心、そして心強い感想に刺激を受けた出前授業でした。

「僕は今日はじめて休眠預金について知りました。明日、自分が困った人になるかもしれないと考えたら、お助けカードの人たちと同じように、まず自分に何ができるのかを考えて助けられるようにしていこうと思います!」 未来を担う子どもたちの柔軟な思考と、誰かを思いやる心、そして心強い感想に刺激を受けた出前授業でした。

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【本記事に関する問い合わせ先】JANPIA 企画広報部 info@janpia.or.jp

「コロナ禍であっても地域のつながりを途絶えさせないために、何かできないか」と考え、発案したキッチンカー事業。資金分配団体であるちばのWA地域づくり基金 『地域連携型アフターコロナ事業構築』で採択された「キッチンカーでGO!」事業を実施する「特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず」理事長 北田恵子さんにお話を伺いました。

コロナ禍のしわ寄せが、弱い立場の人たちを直撃

特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず(千葉県柏市)

2004年に協同組合形式で女性6人で立ち上あがった「特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず(千葉県柏市)」は、これまで子育て支援事業や居場所づくり事業など地域からのニーズに合わせて、様々な事業を展開してきました。現在の事務所に移転したのは2008年。古民家風の素敵な一軒家を借りることができたおかげで、居場所づくり事業から助け合い事業に発展し、最近では自治体から生活総合支援事業実施の相談をいただくなど、活動は順調に拡大していました。

しかし2020年に入ってのコロナ禍。2020年3月から6月まで居場所は閉鎖となり、活動は事実上ストップせざるを得ない状況になりました。そして聞こえてきたのは、これまで居場所に来てくれていた人たちが苦しむ声――「高齢の利用者の要介護度が上がってしまった」「外に出られず、鬱状態だ」「常連のお子さんのネグレクトが疑われる」・・・。コロナ禍のしわ寄せが、弱い立場の人たちを直撃していました。

コロナ禍の中でも人のつながりを。「キッチンカーでGO!」が生まれるまで

そのような中、他の団体に教えてもらって休眠預金を活用した「新型コロナウイルス対応支援助成」を知りました。
「コロナ禍によって貧困や孤独が加速している状況の中、それを解消していくためには、やっぱり人だと考えました。助成を活用しながら、人が集まる居場所ではなくても、人とのつながりを保ちながら社会の分断を抑える‘居場所の機能’が展開できないかと考え始めたんです。」(北田さん)

そして人に集まってもらうのではなくて自らが外に飛び出していく「キッチンカー事業」の発想が生まれました。

お話を伺った北田恵子さん

そして人に集まってもらうのではなくて自らが外に飛び出していく「キッチンカー事業」の発想が生まれました。

「移動できるキッチンカーを多目的に活用することで、こども食堂やあおぞらカフェを開催できます。地域の皆さまにご利用いただけるし、キッチンカーによってスタッフにも活躍の場を提供することができます。そして、なによりキッチンカーを購入するってワクワクしませんか?コロナ禍で社会全体が落ち込んでいる中、そのようなみんなでワクワクできることが、大切だと思ったんです。」(北田さん)

その後、「キッチンカーでGO!〜どこでもこども食堂&暮らしのサポート〜」という計画を資金分配団体であるちばのWA地域づくり基金 『地域連携型アフターコロナ事業構築』に申請し、2020年9月に採択されました。

キッチンカーをきっかけに、地域に必要なサポートを届けたい

採択後、諸手続きを経てキッチンカーを購入し11月13日には念願の事業がスタート。当面は2か所に拠点を絞って「あおぞらカフェ」や「子ども食堂」を実施しています。柏市の子供福祉課とも連携し、地域のひとり親世帯に実施日をメールで連絡してもらうことで、参加者にも広がりが出ています。

また地域包括との連携で、介護度の高い方や単身高齢者世帯にランチの無料配達も実施中です。最近では、「子ども食堂を支援したい」と近所の農家さんなどから野菜の寄付も受けています。キッチンカーが街を走ることで取り組みの認知度向上にもつながっているとのことです。 しかし北田さんたちの思いは、キッチンカーでの食事提供にとどまりません。
キッチンカーの様子

また地域包括との連携で、介護度の高い方や単身高齢者世帯にランチの無料配達も実施中です。最近では、「子ども食堂を支援したい」と近所の農家さんなどから野菜の寄付も受けています。キッチンカーが街を走ることで取り組みの認知度向上にもつながっているとのことです。 しかし北田さんたちの思いは、キッチンカーでの食事提供にとどまりません。

「キッチンカーで華やかに見えるのは、食事作りや食事の提供です。もちろんそれは大切なことですが、私たちが本当にやりたいことは、キッチンカーをきっかけにして地域のお困りごとを聞き、地域に必要なサポートをお届けしていく仕組みづくりです。そのために利用者にアンケートにもご協力いただいています。 小さな活動ではありますが、キッチンカーを核とした活動を継続していくことで地域に連携を生み、地域のみんなが輝く場・みんなが集まることで他の人も輝ける場をお互いに作りあっていけるのではないかと考えています。そして孤立・孤独によって生まれる地域課題に素早く気づき、解決につなげられるようにしていきたいです。」(北田さん)
お一人お一人に温かいお弁当を手渡し

「キッチンカーで華やかに見えるのは、食事作りや食事の提供です。もちろんそれは大切なことですが、私たちが本当にやりたいことは、キッチンカーをきっかけにして地域のお困りごとを聞き、地域に必要なサポートをお届けしていく仕組みづくりです。そのために利用者にアンケートにもご協力いただいています。 小さな活動ではありますが、キッチンカーを核とした活動を継続していくことで地域に連携を生み、地域のみんなが輝く場・みんなが集まることで他の人も輝ける場をお互いに作りあっていけるのではないかと考えています。そして孤立・孤独によって生まれる地域課題に素早く気づき、解決につなげられるようにしていきたいです。」(北田さん)

スタッフの皆さん


■休眠預金活用事業に参画しての感想は?

これまで色々な助成を活用して活動してきましたが、休眠預金活用事業のように団体の運営費(家賃や人件費など)まで経費が下りる助成は初めてで、大変ありがたかったです。(北田さん)




■資金分配団体POからのメッセージ

休眠預金等活用事業ならではの大規模な助成を活用してキッチンカーを投入したことでインパクトのある活動が実践できています。ういずさんが拠点を2か所に絞って、じっくりと地域の方と向き合い、関係を築き継続・定着できてきており、担い手のみなさんも生き生きと活動しており、本事業がもたらす効果を実感しています。(公益財団法人 ちばのWA地域づくり基金)

【事業基礎情報】

実行団体
特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず(千葉県柏市)
事業名
キッチンカーでGO!〜どこでもこども食堂&暮らしのサポート〜
活動対象地域千葉県柏市
資金分配団体公益財団法人 ちばのWA地域づくり基金
採択助成事業

『地域連携型アフターコロナ事業構築』(対象地域:千葉県)

〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉