NPO法人ボランタリーネイバーズ主催『持続可能な体制をつくる!かなめびと応援プロジェクト・セミナー「NPOの世代交代・事業承継、なにから始める?実践のヒントと支援のかたち」』のご案内

休眠預金活用事業に係るイベント・セミナー等をご案内するページです。今回は、NPO法人ボランタリーネイバーズ主催『持続可能な体制をつくる!かなめびと応援プロジェクト・セミナー「NPOの世代交代・事業承継、なにから始める?実践のヒントと支援のかたち」』を紹介します。

持続可能な体制をつくる!かなめびと応援プロジェクト・セミナー「NPOの世代交代・事業承継、なにから始める?実践のヒントと支援のかたち」

近年、NPOの現場では、創業期リーダーたちが次世代へバトンを渡す時期を迎えています。事業承継は、単なる役職の引き継ぎではなく、NPOの社会的ミッションを次世代に継続するための重要なプロセスです。

本セミナーでは、NPOの事業承継に関する調査研究を行ってきた研究者が、創設者の影響力、ガバナンス、承継計画の有無、組織規模や年齢、理事会の関わりなど、事業承継の成否を左右する要因を分析します。理論面と統計分析結果から見える傾向を学び、データと事例を通じて具体的な論点やヒントを参加者と一緒に考えます。

NPOが抱える世代交代・事業承継の課題にどう向き合い、どのような準備や工夫が可能かを皆さんと一緒に考え、NPOの未来を描く機会にしたいと思います。関心のある皆さまのご参加を心よりお待ちしております。

 

【イベント情報】

日時2025年5月30日(金)18:00~20:00
開催形式

オンライン(Zoomを使用)

対象NPOの代表者や理事・幹部スタッフなど、組織の将来を担う立場にある方
次世代のリーダー候補として活動している若手スタッフ・中堅職員
コアメンバーの高齢化と将来に課題意識を持つNPO役職員
NPOの事業承継に課題意識を持つ中間支援組織・行政担当者
非営利組織の経営・組織論に関心のある研究者・学生
参加費無料
プログラム(予定)18:00-18:05 開会、趣旨説明
18:05-19:05 講義
19:05-19:15 休憩
19:15-19:50 質疑
19:50-20:00 かなめびと事業の紹介、閉会
主催NPO法人ボランタリーネイバーズ
お申込みPeatixの参加申込フォームよりお申し込みください。
https://peatix.com/event/4374442
お問い合わせNPO法人ボランタリーネイバーズ
[住所]愛知県名古屋市東区東桜2-18-3、コープ野村東桜702
[連絡先]052-979-6446(担当:青木/電話受付時間平日10時~18時)
[E-mail]katudoushien@vns.or.jp
[URL]https://www.vns.or.jp/

 

大阪府富田林市を拠点に、差別のない人権尊重のまちづくりの実現に向けて活動する「一般社団法人富田林市人権協議会」。時代の移り変わりから、地域コミュニティの低下が懸念されている昨今。2019年度の休眠預金活用事業(通常枠)では、「オープンなつながりでコミュニティをつなぎ直す」をテーマに、集いの場・居場所づくりや地域有償ボランティアシステムづくりなどに取り組みました。2022年度に採択された事業では、子ども食堂や居場所づくりをサポートしています。 今回は、同団体事務局長の長橋淳美さんにこれらの取り組みについてお話を伺いました。”

活動を始めたきっかけとは

富田林市人権協議会は、1984年に部落問題解決のための団体として設立されました。その後、市全域の人権問題全般を扱うようになり、現在は、人権相談に加え、就労支援事業、交流イベント事業、高齢者向け配食事業、子ども食堂や居場所の運営など幅広い活動を行っています。

お話を伺った、一般社団法人富田林市人権協議会 事務局長 長橋さん
お話を伺った、一般社団法人富田林市人権協議会 事務局長 長橋さん

「1922年に全国水平社(※)が結成された直後、地域内にも河内水平社が設立され、部落解放運動が盛んな地域ではありました」

昭和になり、国を挙げて部落問題に取り組む中で、児童館や市営住宅などが建設されます。その一つが、現在富田林市人権協議会の事務所がある富田林市立人権文化センターで、もともと解放会館と呼ばれていました。

「水平社結成から100年を迎えた今も、部落差別は解決していません。さらに、すべての人の人権を守るためには、福祉の充実が欠かせないという考えの基、市内で先駆けて始めたのが高齢者向けの宅配事業や子ども食堂といった福祉事業です」


※1922年に日本で初めて結成された全国的部落解放運動団体。2022年に結成100年を迎えた。

ニーズ把握から始まった「I♡新小校区福祉プロジェクト」

富田林市人権協議会が活動するのは、近鉄富田林駅から徒歩5分ほどの利便性の良いエリア。市内16校区あるうちの、富田林市新堂小学校区にあたります。市街地でありながら、中世からの古い街並みを残した町、駅近に新たに建てられたマンション群、海外からの労働者も多い中小企業団地などが混在し、さまざまな背景のある人々が暮らしています。

新堂地区の街並み
新堂地区の街並み

これまで新堂小学校区は、だんじり祭りを代表するように「古い町を中心に強い絆で結ばれていました」と話す長橋さんですが、時代の移り変わりと共に地縁は薄れつつあります。

「だんじりの引き手も少なくなり、地域コミュニティ力に綻びが生じてきています。同和問題にもアプローチしながら、地域の絆づくりに貢献できないかと考え、2019年度の休眠預金活用事業の助成(資金分配団体:一般財団法人 大阪府地域支援人権金融公社 )を受け、I♡新小校区福祉プロジェクトを開始しました」

I♡新小校区福祉プロジェクトの目標は三つあります。①身近な集の場づくり②誰もが参加できるボランティア活動の仕組みづくり③子どもを対象とした学習支援と居場所づくりです。

プロジェクトに取り組むにあたり、まずは住民のみなさんにアンケートを実施しました。 アンケートでは、「町内会へ加入しているか」「地域活動に参加したことがあるか」「今後やってみたいボランティア活動は何か」など、地域活動やボランティアに興味のある人のニーズを探りました。 校区の5,224世帯にアンケート用紙を配布し、回収率11.0%となる588の有効回答がありました。 アンケートからは、地域活動を活発にしていくためには、楽しく、学べて、たくさんの人と交流できる取組を行っていくことのニーズがあることがわかりました。同時に、悩みや困りごとを聞いたところ、健康や老後が気に掛かっている人が多く、孤独死を身近に感じている人が全体の46.1%いることが明らかになりました。

プロジェクトに取り組むにあたり、まずは住民のみなさんにアンケートを実施しました。 アンケートでは、「町内会へ加入しているか」「地域活動に参加したことがあるか」「今後やってみたいボランティア活動は何か」など、地域活動やボランティアに興味のある人のニーズを探りました。 校区の5,224世帯にアンケート用紙を配布し、回収率11.0%となる588の有効回答がありました。

アンケートからは、地域活動を活発にしていくためには、楽しく、学べて、たくさんの人と交流できる取組を行っていくことのニーズがあることがわかりました。同時に、悩みや困りごとを聞いたところ、健康や老後が気に掛かっている人が多く、孤独死を身近に感じている人が全体の46.1%いることが明らかになりました。

「57.3%が地域活動に参加したことがあると答え、7割程度の住民は機会があればボランティア活動を行ってもいいと考えていました。アンケートから、私たちが把握できていない、ボランティアをしたいという潜在的ニーズがあることがわかりました」

コロナ禍、集まれないからこそ生まれた数々の取組

そのような矢先、新型コロナウイルス感染症が蔓延。「①身近な集の場づくり」として、当初、各町の集会所を利用して、地域住民の集いの場・居場所づくりに取り組む計画を立てていましたが、見直しを余儀なくされます。
外出自粛により集まれない中、人と人の繋がりを強めたのが、SNSを活用した新たな繋がりづくりでした。

「プロジェクトメンバーもITツールには疎いのですが、スマホ教室、LINE活用教室を実施し、学びました。I♡新小校区福祉プロジェクトの公式LINEアカウントも開設し、情報発信をしています。プロジェクトの会議もLINE通話を使ってできるようになりました」

また、集まれないことを逆手にとり、2021年3月に「新小校区まち歩きスタンプラリー」を実施。校区に6ヶ所のスタンプポイントを設け、スタンプの数に合わせて景品をプレゼントする仕組みで、のべ833人が参加しました。

スタンプラリーの様子
スタンプラリーの様子

「助成金でお菓子やタオル、ティッシュなどを購入し、集めたスタンプの数に合わせてお渡ししました。長年、地域に住んでいても行ったことがない場所も多く、新たになまちを発見する機会になったとの声が届いています。また、小さいお子さんから家族連れ、高齢者までさまざまな方が参加できる企画で、楽しかったという方が多かったですね」

好評のため、2022年11月には第2回を開催。スタンプポイントも6ヶ所から8ヶ所に増やし、のべ1442人が参加しました。2023年11月には第3回を実施し、のべ2000人が参加。地域イベントとして定着しつつあります。

「スタンプポイントではクイズやゲームを準備しました。そのうちの1ヶ所では、公式輪投げ競技を取り入れていたのですが、子どもや高齢者、障害のある人など誰でも参加でき、健康づくりや世代間交流に効果があることがわかりました。校区全体に広げようと、助成金で輪投げセットを購入し、講習会を開催しました」

今後は、校区内で町会対抗輪投げ大会の開催を目指しているとのこと。また、新しいスポーツとして、市内全域に広げていくことをも視野に入れて活動を始めるなどの波及効果も生まれています。

ニーズを顕在化した、ボランティア活動の仕組みづくり

こうしたスタンプラリーや輪投げ競技の実施を支えるのが、ボランティアスタッフです。「②誰もが参加できるボランティア活動の仕組みづくり」に向けて、I♡新小校区福祉プロジェクトでは、2021年3月から4月にかけて5回のオリエンテーションを開催し、ボランティアへの参加を募りました。

「これまで知り合いのツテを頼ってボランティアスタッフを探してきましたが、地域イベントの開催以外にも、高齢者向けの配食協力や子ども食堂の運営など活動が広がり、人手が足りなくなりました。オリエンテーションにてでは各回、約10名ずつの参加があり、私たちと繋がりがない人も足を運んでボランティア登録してもらうことができました」

ボランティア活動にはさまざまなものがあり、個々の希望に合わせてお願いをしています。例えば、子ども食堂のボランティア。毎週木曜日に富田林市立人権文化センターで実施しており、コロナ禍以前は70〜100食、コロナ禍では弁当形式で60〜70食を提供していました。調理ボランティアは午後2時から下ごしらえ、午後5時までに弁当を詰めて、子どもが来たら受け渡しをしています。

また、かねてから富田林市人権協議会では、ひとり暮らしの高齢者や体が不自由な校区内の高齢者に向けて毎日昼食を届けています。お弁当を届けながら、声をかけて安否確認をしたり、必要に応じて関係機関への繋ぎを行ったりするのがボランティアの役割です。

子ども食堂、配食の様子
子ども食堂、配食の様子

こうした活動に継続的に携わってもらえるよう、2021年4月には「わくわくボランティアカード」を考案。ボランティア参加1回につき1個のスタンプを押し、スタンプの個数に応じて商品券と交換できるようにしました。

「スタンプ10個なら地元のスーパーで使える500円分の商品券、スタンプ20個なら地元の婦人服店で使える1000円分の商品券に交換できます。これが予想以上に好評で、みなさん楽しみながらスタンプを集めてくれました」

2023年1月時点で、ボランティア登録は107名、ボランティアカードを利用した方はのべ1290回になり、繰り返しボランティアに参加してくれていることがわかります。

子どもの学習支援と居場所づくりにも着手

富田林市人権協議会は、こうして新たな企画にも積極的にチャレンジしてきました。2018年から始めた子ども食堂の運営も、当時、市内では初となる取り組みでした。その中で、長橋さんはかねてより子どもの学習支援の必要性を感じていたと振り返ります。

そこでプロジェクトの3つ目の目標に掲げたのが、「③子どもを対象とした学習支援と居場所づくり」です。

「子ども食堂を実施し、子どもを家まで送っていくこともありました。すると、特にひとり親家庭では誰もいない真っ暗な家で子どもが一人で過ごす時間が多いこともわかってきました。勉強に集中できる学習環境が整っていないことを目の当たりにし、どうにか学習支援を実施したと考えたいたのです」

実施に動き出す後押しとなったのが、今回の休眠預金活用事業でした。2022年4月から、子ども食堂と連携した小学生学習支援活動「ぽかぽか」を毎週木曜日の17〜19時、中学生向けの学習支援活動「陽だまり」を毎週火曜日18時半から19時半まで実施しています。

「発達障害のお子さんもいますので、一対一で学習支援ができる環境が理想です。謝礼金を確保できたことで、ボランティアの登録者が10数名増え、丁寧な関わりができるようになりました。高齢者のみならず、元教師や近隣大学の学生ボランティアも活躍してくれていますよ」

「ぽかぽか」に通っていた子どもが中学生になり、ボランティアとして受付など手伝いに来てくれるケースもある
「ぽかぽか」に通っていた子どもが中学生になり、ボランティアとして受付など手伝いに来てくれるケースもある

富田林市人権協議会では、学習支援の中で、勉強を教えるだけではなくレクレーションの時間もとっています。「ぽかぽか」では毎週後半の時間にボランティアの特技を活かしたレクレーションを実施し、ツアーコンダクターをしている人が「バーチャル海外旅行〜入国審査体験〜」を開催するなど、子どもが楽しみながら社会体験できる機会をつくっています。

実行委員会形式だからこその連携が活きた

プロジェクト発足時に掲げた3つの目標に向けて着実に成果をあげてきた富田林市人権協議会。しかし、これらは富田林市人権協議会のみの力で成し遂げられたものではありません。

「主体は私たちですが、民生・児童委員や社会福祉協議会、地域の診療所で構成されるメンバーでI♡新小校区福祉プロジェクト実行委員会を結成し、助成いただいた3年間、月に一度、定期的に委員会を開催し、市や小学校とも連携して事業を進めてきました」

ニーズ調査のために実施したアンケート調査で、校区全域を対象にし、全世帯に配布することができたのも、各町会の役員さんの力添えがあったから。また、スタンプラリーではスタンプポイントの設置や運営に当たっても、各町会の協力があったことで、校区内一体となった取組にすることができました。

ボランティア活動を入り口に、広がる可能性

多くの人の協力を得て、助成期間の3年を走り切った富田林市人権協議会。地域コミュニティを育むために実施した、まち歩きスタンプラリーやボランティアシステムづくり、子どもの学習支援と居場所づくり以外にも、さまざまな成果が現れ始めています。

代表的な例が、ボランティアから民生委員になった井上結子さんです。
かつて社会福祉協議会のボランティア活動に参加しながらも、病気で体の不調から一時的に離れていた井上さん。しかし、何かしら地域に貢献したいと、アンケートにボランティア希望と記載いただき、熱いオファーが届きました。

「最初にとったアンケートで一番に連絡をくれたのが井上さんでした。社会福祉協議会の和田さんと面識があったので、すぐさま連絡をとってもらい、関わってもらうことにしました。体の調子に合わせて、高齢者配食のボランティアから始めてもらい、今では子ども食堂や学習支援にも協力してくれています。また、さまざまなところに顔を出されて地域住民からの信頼される存在になり、今では民生委員も担ってくれています」

「家から近いので無理なくボランティアに通いやすい」と井上さん。
「家から近いので無理なくボランティアに通いやすい」と井上さん。

以前は、井上さんの体調を心配したお子さんが、定期的に顔を出してくれていたとのことですが、ボランティア活動を始めてから日に日に元気になる姿を見て安心し、今では逆に用事をお願いされたりするようになったそう。

また、「民生委員の役割も変わってきた」と、以前から民生委員を代表してプロジェクトに関わっている川喜田敏音さんは話します。

「コロナ以前、この取り組みが始まるまでは、民生委員を名乗っているだけで積極的に活動されている方は少ないのが現状でした。しかし、プロジェクトが始まったことで、活動の幅が広がりました。スタンプラリーの時には、民生委員を各ポイントに配置して、まちのことを紹介したり、地域住民と会話をしたりしてもらうことができました。同じ地域に住んでいても、同じ学区でも距離が離れていると、接点がなく、知らないこともたくさんあります。僕らの活動を紹介する機会が増え、ネットワークも広がったのが大きな成果です」

川喜田さん
川喜田さん

市内全域に子どもの居場所をつくる、次のチャレンジへ

2022年度で助成期間は終了しましたが、その後も、取り組みは「新堂小学校区交流会議」と連携する形で継続しています。

また、2022年度には、富田林市社会福祉協議会とNPO法人きんきうぇぶとコンソーシアムを組み、特定非営利活動法人全国こども食堂支援センター・むすびえ が実施した休眠預金活用事業(通常枠)の公募に採択され、「人をつなげ支え合う持続可能な富田林市子ども食堂・居場所づくりトータルコーディネート事業 」に取り組んでいます。

「これからはますます居場所づくりが求められるのではないかと思い、チャレンジすることにしました」

目指すことは二つで、一つは市内16校区全てに、地域住民が誰でも訪れられるこども食堂や居場所を作ること。もう一つは、既存の子ども食堂や地域の居場所が持続的に運営していけるよう地域フードバンクを設立し、安定的な食材提供ができる環境を整えることです。

「生活保護や社会保険等の制度のはざまが大きく、僕らのところに相談があるのは働いていても困窮に陥っているワーキングプアの方が中心です。失業したり出産したりして働けなくなった途端に、生活が不安定になってしまう。そのような方に、子ども食堂で食事を食べてもらい、安定的な仕事を提供できるようにしたいです。ゆくゆくはフードバンクも雇用の場にしていければと考えています」

地に足のついた事業を続けてきたからこそ見えてきた地域ニーズ。そして、それに必要な事業を外部のリソースと内部のネットワークや担い手を組み合わせて展開してきた富田林市人権協議会。
「今後はファンドレイジングも強化しながら、事業を継続していきたい」と、長橋さんは意気込んでいました。

【事業基礎情報①】

実行団体

富田林市人権協議会

事業名
あい新小校区福祉プロジェクト
活動対象地域
大阪府富田林市
資金分配団体
一般財団法人 大阪府地域支援人権金融公社
採択助成事業2019年度通常枠

【事業基礎情報②】

実行団体

富田林市人権協議会

<コンソーシアム構成団体>

・特定非営利活動法人 きんきうぇぶ

・実行団体名 社会福祉法人富田林市社会福祉協議会

事業名
人をつなげ支え合う持続可能な富田林市子ども食堂・居場所づくりトータルコーディネート事業
活動対象地域
大阪府富田林市
資金分配団体
特定非営利活動法人全国こども食堂支援センター・むすびえ
採択助成事業2022年度通常枠
「みんなの配信とプラットフォーム事業」の紹介動画です。
「みんなの配信とプラットフォーム事業」プログラム編の紹介動画です。

千葉県北部の柏市、我孫子市、白井市、印西市などにまたがる湖沼・手賀沼。ここをフィールドに、地域の人々がつながり、縁をつくるコミュニティを運営しているのが「手賀沼まんだら」です。2019年の設立以来、イベントや場づくりに取り組んでおり、2020年と2022年度の休眠預金活用事業(コロナ枠)を活用したことで、コミュニティプレイスの創出や共食プロジェクトなど、さらに活動の場を広げてきました。今回は、「子ども」と「地域」をキーワードにはじまったという団体の取り組みや、設立から5年が経過してこそ思う活動のおもしろさ、今後の展望などについて、代表の澤田直子さんにお話を伺います。

子どもが成長して気づいた、地域コミュニティの重要性

「手賀沼まんだら」が設立されたのは、2019年1月のこと。代表・澤田直子さんが子育てを経験する中で感じるようになった、地域とのつながりに対する考え方の変化が、立ち上げの背景にはありました。

「子どもが成長して小学生になった頃、地元の公園で遊んだり、ご近所さんのお宅に伺うような機会が増えて、地域とのつながりを意識するようになりました。それまでは、手賀沼に暮らしていても、家族で遊びにいくとなったら他の市や他県のショッピングセンターやキャンプ場でした。けれども、小学生になった子どもたちは、どんどん地域に馴染んでいく。そういう環境の変化が、考え方の変化を生み出しました」

インタビューに答える澤田さん
インタビューに答える澤田さん

澤田さんは、当時、手賀沼ではない別の市の社会福祉協議会職員として勤務していました。地域同士のつながり、コミュニティをつくる重要性を誰よりも理解していた一人です。ところが、澤田さん自身地元の手賀沼一帯では、そういった地域内でのつながりがありませんでした。そこで、澤田さんは勤務していた社会福祉協議会を退職し、手賀沼でコミュニティづくりの活動をはじめることを決意。同じような課題感を抱えているママ友に声をかけ、「手賀沼まんだら」としての第一歩を踏み出したのです。立ち上げ初期の取り組みは、フィールドワークをはじめとした、子どもたちが手賀沼の自然や社会とつながりをつくる目的のアクティビティを中心としたものでした。その後、1年足らずでコロナ禍に差し掛かり、団体としての意思も変化していきます。「これまで学校に通っていた子どもたちが、急に家庭へと戻されました。いつまで休校が続くのかわからない世の中で、せめて子どもが楽しく過ごせる居場所をつくりたい。そう感じるようになり、一時のアクティビティやイベントだけではなく、長期的に子どもが集える場所づくりに取り組み始めました」 手始めとして、手賀沼の地主さんが所有していた山を一部借りて、子どもたちと一緒に山小屋やアスレチックづくりを行うことに。すると、澤田さんの目に映ったのは、家とも学校とも異なる、第三の居場所を知った子どもたちの朗らかな様子でした。子どもたちが安定的に集える空間をつくる重要性を感じた澤田さんは、休眠預金を活用した助成事業の公募に応募。本格的な居場所づくりへと舵を切ったのです。

二つの取り組みで休眠預金活用事業に採択

「手賀沼まんだら」では、応募した休眠預金活用事業で2度採択をされています。1度目が、2020年度コロナ枠として採択された、孤立解消の為のコミュニティプレイス〈ごちゃにわ〉の創出。コロナ禍を経て実感した、子どもたちの居場所をつくるための取り組みです。2度目は、2022年度コロナ枠として採択された、「共食」をキーワードに据えたプロジェクトでした。〈ごちゃにわ〉では、手賀沼一帯に暮らす子どもたちをはじめ、子育てに課題を抱えた父母、話し相手の欲しい高齢者、そして冬越しの場所を求める生物までもが集えることを目指した場所づくりを実施しました。澤田さんは、この空間づくりを経て、リアルな場が生み出す大きな影響を実感したといいます。「空間が生まれたことによる一番の変化は、地域の人々や地域にゆかりのある企業が頻繁に訪れるようになったことです。それによって、何気ない話から生まれる新しいアイデア、おもしろい企画などが数多くあり、それらをイベントとして実施するような流れができていきました。コミュニティの輪がどんどんと広まる感覚があり、手賀沼という地域で場づくりを行う喜び、やりがいを今まで以上に感じられるようになった気がします」
核家族化が進行する現代の日本、そしてコロナ禍という人との繋がりが希薄になりがちな状況では、家庭の悩みや困りごとをシェア、相談できる機会はそう多くはありません。けれども、地域コミュニティが生まれたことで、家族それぞれの困りごとを解消するタイミングができたり、これまでは経験できなかったさまざまな体験、アクティビティの機会をつくることができるようになりました。

ごちゃにわの活動に集まる子どもたちの様子
ごちゃにわの活動に集まる子どもたちの様子

「最初は、子どもたちが地域社会に溶け込める場所をつくりたいという思いばかりでしたが、実際に〈ごちゃにわ〉をつくってみると、お父さんやお母さんたちの居場所にもなっているように感じる場面が多々ありました。子育てという共通のキーワードがあるからか、場に集う親御さんたちも、知らず知らずのうちに仲良くなり、助け合える仲になっていたようです」最初こそ、実験の意味合いもあり、こぢんまりとした運営を予定していた〈ごちゃにわ〉。ところが、澤田さんの想像以上に、そういった場を必要とした地域の人々は多かったようです。現在では、小中学校の林間学校や、総合学習の授業の一環で〈ごちゃにわ〉を活用したいといった申し出が多数集まるほど。年間では600人以上の子どもが集う、手賀沼屈指の居場所として成長しました。

ごちゃにわの活動に集まる子どもたちの様子②
ごちゃにわの活動に集まる子どもたちの様子②

子どもたちの「食」の関心をどう高めていくのか?

「手賀沼まんだら」では、その後も、〈ごちゃにわ〉の運営だけでなく新しい取り組みも実施しています。特に、現在推し進めているのが、2022年度コロナ枠にて採択された「共食」のプロジェクト。手賀沼の豊かな自然を活用しながら、子どもたちの食に対する関心を高めることを目的に実施しています。「〈ごちゃにわ〉を運営しながら次なる取り組みを考えているなかで、衣食住のにフォーカスを当てたいと考えるようになりました。暮らしの根本的な要素であると同時に、食は人の心を癒やしたり、コミュニケーションを生み出すきっかけになると思ったからです。「ごちゃにわ」を始めたときから、食が与える影響の大きさを実感していました」

子どもたちが収穫をお手伝いしている様子
子どもたちが収穫をお手伝いしている様子

このプロジェクトでは、手賀沼の風土に対する学びや食育を促進するため、5つのステップでプログラムを実施しています。子どもたちが参加することはもちろん、親御さんや近隣の農家さんの協力を仰ぐことで、地域コミュニティにおける多様なつながりをつくり出すことも目指しました。

① 〈ごちゃにわ〉内で食材を育て、収穫する
②手賀沼 流域農家さんから食材を購入したり、農作業を手伝ったり、思いのヒアリングなどを行う
③ 入手した食材を使ってどんな料理をつくるのか、メニューを考える
④ 食材の持つストーリーや思いを伝えるため、月に一度〈ごちゃにわ〉内で子どもレストランをオープンする
⑤ 月に一度、親子のエンパワメントの場として「食」に関する研修を開催する

「学校や習い事、塾などで忙しい子どもたち、忙しく働く親たちと話をする中で、家庭での「食」に対する重要度が下がってきていることを感じていました。それなら調理の機会を家庭以外の場所でも体験できないかなと考えるようになりました。」

子どもたちが料理をしている様子
子どもたちが料理をしている様子

そういった背景から、食材を知る機会、調理を学ぶ機会、食文化に触れる機会などを用意した、多角的なプログラムを実施しました。手賀沼には、生き物と畑の共生を目指す農家さんや、安心安全においしく食べられる平飼いニワトリの農家さんなど、一次産業に携わる魅力的な人々も数多くいます。そういった人の協力を仰ぐことで、子どもたちが「食」を知る、考える機会創出を目指しました。

プロジェクトの内容。4つのプログラムで構成されています。
プロジェクトの内容。4つのプログラムで構成されています。

自走しながら地域社会に溶け込む子どもたち

このプロジェクトを実施する際、澤田さんは、子どもたちに「与える」だけではなく「創り出してもらう」ことも意識しているそうです。それは、能動的に関わる機会を用意することで、子どもたちの成長を促したいという思いから。

具体的には、23回ほどプログラムに参加してくれた子どもに、参加者としてだけではなく運営者として仕事を任せることで、プログラムを創る側に回ってもらっているのだそう。その役回りは、イベントの様子を撮影するカメラマン係、プログラム内で使用するノート作成係など、多岐にわたります。

「子どもたちの興味関心に触れる機会を少しでも多くつくるためと思って始めたことですが、彼らに仕事を任せてみて、大人があっと驚くような成長を遂げてくれるのだと知りました。たとえば、カメラマンを担当してくれている子が、SNSに投稿された写真を見て、『こんなカットがあったほうがわかりやすいはず』と撮影プランを考えてくれたり、ノート作成係の子は『このページにはこのイラストがあったほうが楽しんでもらえるかな?』と、アップデートプランを提案してくれたり。自主的に次のレストラン開催に向けてオリジナルレシピを考案してきてくれた子もいたほどです」 

最初は受け身でプログラムをこなしているだけだった子どもたちが、高いモチベーションを抱きながら、自分自身の得意なことを活かして運営に携わってくれる。想像をはるかに上回る子どもたちの成長には、澤田さんをはじめとした、大人のほうが圧倒されるばかりだといいます。

手賀沼まんだらで過ごす子どもたちの様子
手賀沼まんだらで過ごす子どもたちの様子

「ほかにも、今まではお兄さん、お姉さんに頼ってばかりいた低学年の子どもたちが成長する様を見ることも多々あります。プログラムによっては、幼稚園生や小学1〜3年生のみを対象とする場合があるのですが、そういったときに率先して動いてくれるのは、今までなにもできなかったように見えた小学校低学年の子どもたち。高学年がどう助けてくれていたのかをよく見ていて、幼稚園生の子どもたちのサポートをしながら、主体的な姿勢で運営に携わってくれています」

「食」というキーワードを起点にはじまったこのプロジェクト。もちろん、プログラムを経て、食に関する学びや意識の変化も見られています。ただ、それ以上に、環境さえあればどこまででも変化できる子どもたちの無限の可能性を知る機会にもなったそう。共創による、地域コミュニティの大きな力を、この取り組みを通して、澤田さんは実感しています。

「手賀沼まんだら」が思い描く未来

2019年の設立から5年。時代の潮流にあわせて数多くの取り組みを行ってきた「手賀沼まんだら」ですが、現在は、将来を見据えた戦略立案、プロジェクト企画なども推進しているタイミングです。それにあたっては、資金分配団体であるNPO法人ACOBAが提供する、専門家派遣も活用しているのだそう。

「『手賀沼まんだら』を運営しているメンバーは、現在、私を含めて5名。そこに、6人目として戦略立案やマーケティングの得意な専門家を一時的に招き、団体の方向性や意思を表すための”ビジョンボード”というものを制作しています」

ビジョンボードとは、今まで文脈や空気感のみで意思疎通されてきていた、団体の役割や意味を可視化して表現した絵図。「手賀沼まんだら」に携わる人の数、規模が大きくなってきている今のタイミングで、価値観をお互いに共有するべく制作したものです。こうした具現化を行うことで、「手賀沼まんだら」の歩む未来も、より明確化してきています。

「『手賀沼まんだら』を立ち上げたことで、地域コミュニティの重要性を改めて実感する機会になりました。現在、取り組んでいるプロジェクトは、引き続き継続していきたいと強く思いますし、子どもたちをはじめ、手賀沼の人々のよりどころになりたいとも感じています。けれど、組織を大きくしたいという野望はあまりありません。ただ、必要としてくれる人にとっての居場所になれたら。そういうシンプルな願いを再認識できました」

学校や家庭だけではない、サードプレイスとして機能できるように。恵まれた自然との触れ合いや、子どもたちとのコミュニケーションが促進される場として、これから先も「手賀沼まんだら」は歩みを続けていくのでしょう。

「私たちのこの取り組みは、手賀沼だから実現できたものではなく、日本各地で実現できるようなものだと思います。そして、こういった場所を必要としている子どもたちはきっと全国にたくさんいる。もっと暮らしやすい世の中を実現するために、日本各地にこうした地域コミュニティが誕生してほしいと、今まで以上に願うようになりました」

澤田さんの願いが伝播し、人から人へとつながって大きな輪として成長したのが「手賀沼まんだら」。思っていたよりもずっと、その輪は強固で、豊かで、未知の価値を教えてくれたものでした。だからこそ、そうした共感が広がることでつくられる、心強く、力強いコミュニティの誕生を乞い願い、澤田さんは今日も「手賀沼まんだら」の活動を続けています。

【事業基礎情報①】

実行団体手賀沼まんだら
事業名孤立解消の為のコミュニティプレイスの運営
活動対象地域千葉県
資金分配団体特定非営利活動法人 ACOBA
採択助成事業2020年度コロナ枠

【事業基礎情報②】

実行団体手賀沼まんだら
事業名手賀沼版「美味しい革命」〜食べることは生きること〜
活動対象地域手賀沼流域(我孫子市、柏市、松戸市、流山市)
資金分配団体特定非営利活動法人 ACOBA
採択助成事業2022年度コロナ枠

1月15日、一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)は「能登半島地震支援団体、地元団体からの緊急発信:被災者支援と復興への道筋」と題して、メディア向け報告会を開催いたしました。昨年末より、JANPIAでは同日に別テーマでの「メディア懇談会」を開催する予定で準備を進めていました。そのような中、元日に起きた令和6年能登半島地震を受けて、急遽テーマを変更して開催したものです。その内容の一部を紹介いたします。 なお、本報告会では、評論家でラジオパーソナリティーでもある荻上チキさんが進行を務めました。”

「能登半島地震における被災者支援と復興への道筋」

【登壇者】
・認定NPO法人ジャパン・プラットフォーム 地域事業部部長 藤原 航 さん
・NPO法人ワンファミリー仙台 理事長 立岡 学 さん
・NPO法人YNF 代表理事 江﨑 太郎 さん

資金分配団体であるジャパン・プラットフォーム(JPF)の実行団体であるワンファミリー仙台とコンソーシアムを組むYNFは、「防災・減災に取り組む民間団体等への災害ケースマネジメントノウハウ移転事業 (2020年度通常枠)」のなかで、2023年5月に起きた奥能登地震による被災者の生活再建支援を進めるため、1月4日から石川県珠洲市に向かう予定でした。しかし、令和6年度能登半島地震発災を受けて急遽、珠洲市での緊急支援に入りました。

今回のメディア向け報告会では、JPFとワンファミリー仙台、YNFの3団体にそれぞれの立場から「能登半島地震支援団体、地元団体からの緊急発信:被災者支援と復興への道筋」をテーマお話いただきました。

甚大・頻発化する国内災害。行政と民間の力が必要

報告会では、まずJPFの藤原さんから、国内災害が年々甚大化・広域化し、地震や豪雨など含めて頻発化しているなか、もはや行政の支援だけでは間に合わず、民間と行政と両方の力が必要になっているという状況について説明がありました。

「災害が頻発している一方で、防災や減災のソフト面の整備には、なかなかお金がつきにくいのが現状です。2020年度通常枠で採択された3年間の休眠預金活用事業によって、私たちは念願だった防災・減災に取り組むことができました。具体的には、避難所の運営ノウハウや被災者の個別支援、生活再建の方法、発災時の物流や在留外国人支援などに対して、災害リスクの高い地域での民間支援団体や自治体とともに体制の整備を進めてきたところです。能登半島地震でも残念ながらこうした課題が出ています」(藤原さん)

現在、JPFでは能登半島地震の被災者支援にあたって休眠預金や民間資金なども使いながら、「人命救助」「二次被害防止(物資やQOLの維持)」、「生活再建事業」の3つに取り組んでいます。そのなかで、いま必要とされている緊急的な支援を行いながらも、なるべく早くに長期的な支援を見据えた「生活再建事業」に着手することが重要になると藤原さんは訴えました。JPFは、実行団体であるワンファミリー仙台やYNFを通じて、被災者一人ひとりの状況に寄り添った支援を行う「災害ケースマネジメント」の被災地での適用を進めているところです。

「昨年7月に秋田で起きた豪雨災害でも、いまだに家屋が修繕できていない状況で暮らしている人たちがいます。能登半島地震でも、今後、被災地の報道がされなくなったあとに取り残されてしまう人たちが出てくることが懸念されます。そうならないように支援に取り組んでいきたいと思っています」(藤原さん)

JPF 藤原航氏
JPF 藤原航氏

「災害ケースマネジメント」で生活再建を支える

 ワンファミリー仙台の立岡さんからは、東日本大震災のときに被災者の仮設住宅への入居から転居までの長期にわたる支援に関わってきた経験から、能登半島地震の被災者の方々にとって必要になってくるのは「この先の見通し」であるというお話がありました。

「いま国でも進められている『災害ケースマネジメント』は、被災者一人ひとりの状況をしっかり把握して、その人に寄り添った生活再建を支えていく考え方です。能登半島地震はまだ緊急支援のフェーズではありますが、これから被災者が仮設住宅などに移っていく段階において、見守りや相談支援のセンター機能をつくり、きちんとした支援体制を構築していく必要があります」と立岡さん。

その際に厚労省の「被災者見守り・相談支援事業」を能登半島地震でバージョンアップしながら生かすことができるのではないかという提案もありました。

「被災地域では高齢化が進んでいるため、今回の避難によって人口減少がさらに進むのではないかという不安を抱えながら行政職員は支援にあたっている状況です。地域から人口を流出させない、街をなくさないという発想のもと、自力で広域避難している人たちへの自治体からの情報発信などのアプローチなども施策にしっかり入れていく必要があるだろうと思っています」

報告のなかで立岡さんは、これまでの災害から得た知見を活かし、「この先どうしたらいいのか」という不安を抱えている被災者への丁寧な情報発信や、避難所での生活を含めた被災者の状況把握、共通アセスメントシートによるデータの蓄積、行政部局を横断した連携など、生活再建までのきめ細やかな支援体制を整える必要性を強調しました。

NPO法人ワンファミリー仙台 立岡学氏
NPO法人ワンファミリー仙台 立岡学氏

関心が薄れていかないようメディアの力を

最後に、石川県珠洲市内で連日支援にあたっているYNFの江崎さんからは、現状についての報告をいただきました。

「いま感じている大きな課題は、断水や道路の寸断、雪などが原因となった生活環境の悪さです。避難所での食事の質も低く、冷たい床の上で高齢者が寝ている光景は珠洲市では珍しくありません。また、、南から北へ向かうルートしかない地理的状況ですべての道路が被災しており、『陸の孤島』での支援の難しさを痛感しているところです」

1月3日に珠洲市に入った江崎さんは、住民や役所の方たちが「これは長期戦になる」と口にしていたことが印象的だったと話します。その一方で、近年の災害では中長期的な支援が十分に行われてこなかったことを指摘。

「私たちの団体では、珠洲市で能登半島地震の支援をしながら、いまも福岡県久留米市で昨年7月に発生した豪雨災害の被災者対応を続けています。各地で災害が頻発していますが、官も民も支援体制がまだまだ足りていません。そうしたなか、休眠預金活用事業で、この3年間にわたって『防災・減災に取り組む民間団体等への災害ケースマネジメントノウハウ移転事業』を続けてきたおかげで、今回の能登半島地震では支援の初動がスムーズにできたと感じています」(江崎さん)

能登半島地震では一般のボランティアがなかなか入りにくい状況が続いていますが、江崎さんは「全国からの関心が過疎化を防ぐ一助にもなる。本格的にボランティアが入れるのは暖かくなる春以降ではないかと思いますが、それまでに皆さんの関心が薄れてしまうことを恐れています。どうぞ、そういったところでもメディアの皆様の力を貸していただきたい」と話し、報告を締めくくりました。

NPO法人YNF 江﨑太郎氏
NPO法人YNF 江﨑太郎氏

「令和6年能登半島地震 災害支援基金の立ち上げについて」

【登壇者】
・公益財団法人 ほくりくみらい基金(石川県) 代表理事 永井 三岐子 さん

ほくりくみらい基金は、全国コミュニティ財団協会(CFJ)が実施する休眠預金活用事業2021年度通常枠助成「地域の資金循環とそれを担う組織・若手支援者を生み出す人材育成事業」で採択され、石川県初のコミュニティ財団として2023年4月に設立された団体です。代表理事の永井さんから被災地や基金の現状、今後の支援についてお話をいただきました。

公益財団法人 ほくりくみらい基金 永井三岐子氏
公益財団法人 ほくりくみらい基金 永井三岐子氏

発災後、すぐに立ち上げた「災害支援基金」

2023年4月に設立された石川県初のコミュニティ財団「ほくりくみらい基金」ですが、設立後すぐに奥能登地震が起こり、その際にはボランティアのマッチングなど人と人をつなぐ支援を行いました。さらに設立から1年も経たない2024年の元日に起きたのが能登半島地震でした。

「理事メンバーのひとりが奥能登に住んでいることもあり、急いで安否確認をするとともに、周辺情報の収集を始めました。1月2日にはCFJと緊急会議を開き、被災地で支援活動を行うNPO等の団体を応援するための基災害支援基金を立ち上げました」と永井さん。

災害支援資金の呼びかけに対して、クラウドファンディングを通じて9日間で1000万円以上が集まり、1月12日には第1次緊急助成プログラムとして総額200万円の公募を開始。1月15日時点で8団体への助成が確定しました(※現在は第3次緊急助成プログラム募集が終了)。

「通常の助成では審査にある程度の時間をかけますが、今回は緊急のためスマホからも申請でき、審査をスピーディにして、申告者負担を減らすことを意識しました。申請から24時間で審査をして、各団体に最短3日で資金を届けています」

今回、ほくりくみらい基金が助成した各団体では、被災者への食事提供、炊き出し、ペット猫・地域猫の捕獲と保護、避難高校生の学習支援、被災地での子ども預かりと専門家による育児支援など、さまざまな支援活動を行っています。

「設立から間もない私たちが、震災から2週間ほどでこうした活動を実現できたのは、休眠預金活用事業の資金分配団体であるCFJや、その実行団体である各地のコミュニティ財団との連携があったからです」

中長期支援で市民団体と地域の未来をつくる

今回、地震によって被災したのが農林水産業や輪島塗といった、生業と生活が強く結びついた方が多い地域であることから、「避難によって自分の街を離れたら『もう戻ってこられないのではないか』という住民の不安や恐怖は大きい。そのなかで避難をお願いする行政側のつらさも非常に感じています」と永井さん。

今後に向けては、やはり「中長期の支援」の必要性を挙げていました。

「災害支援基金によって立ち上がった緊急支援は、被災者の『今』を助けるものですが、今後は私たちが助成・支援する市民団体のアンテナを通じて、どの地域がどんなフェーズにあるのかを的確に把握して支援していく必要があります。そして、今回支援に立ち上がった市民団体を支援・育成しながら支援ネットワークを構築し、一緒にこれからの地域の未来をつくっていくことが必要だろうと思っています」

休眠預金活用事業での能登半島地震への支援

今回の報告会では、いまだ緊急的な支援が必要な能登半島地震の被災地での現状とともに、今後の生活再建や地域復興を見据えた中長期的な支援体制を構築することの大切さや、継続的なメディア報道による支援の必要性が伝えられました。

JANPIAでは、2023年度「原油価格・物価高騰、子育て及び新型コロナ対応支援」の第5次募集において、能登半島地震の影響によって深刻化、顕在化した社会課題への緊急的な支援などを対象とした事業を採択しました。また、来年度以降は、通常枠において、生活再建や地域復興にむけた支援に関する資金分配団体などの申請を是非お待ちしております。

当日の様子

会場の様子
会場の様子

なお、今回の報告会では、登壇者の皆様に加え、メディア論をはじめ、政治経済やサブカルチャーまで幅広い分野で活躍する評論家で、ラジオパーソナリティーも務める荻上チキさんにもご協力いただきました。この場を借りてお礼申し上げます。

進行役を務めた荻上チキさん
進行役を務めた荻上チキさん

【事業基礎情報①】

実行団体

特定非営利活動法人ワンファミリー仙台

コンソーシアム構成団体
・特定非営利活動法人YNF

事業名

災害ケースマネジメントによる被災者支援事業

活動対象地域石川県、和歌山県、三重県、福岡県、秋田県
資金分配団体特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム
採択助成事業

災害ケースマネジメントによる被災者支援事業

2020年度通常枠〉(災害支援事業)

【事業基礎情報②】

実行団体

公益財団法人ほくりくみらい基金

事業名

当事者のエンパワーメントとコレクティブインパクトで作る課題解決モデル事業

活動対象地域石川県
資金分配団体一般社団法人 全国コミュニティ財団協会
採択助成事業

地域の資金循環とそれを担う組織・若手支援者を生み出す人材育成事業

2021年度通常枠〉(草の根活動支援事業

中間支援組織として愛知県で活動するNPO法人ボランタリーネイバーズ。同団体は設立より20年間、地域をより良くするために奔走するNPO法人や市民団体の活動を支援してきました。漠然とした不安や課題に多くの活動団体が悩まされた未曾有のコロナ禍。そんな中ボランタリーネイバーズが2020年度緊急支援枠の実行団体(資金分配団体:READYFOR株式会社 )として実施したのは、活動団体の課題を言語化する勉強会の開催や、専門家や県外の中間支援組織と協働したチーム型の伴走支援でした。一体どんな取り組みだったのか? 理事長の中尾さゆりさん、理事・事務局長の遠山涼子さんにお話を伺いました。[コロナ枠の成果を探るNo.5]です。

“地域の活動団体”の課題を発見し、共有知を深める会を開催

「もっとこうなったらいいのに」という思いで地域のために活動する。そんな「ボランタリー(自発的)な市民の行動が身を結ぶ社会にしよう!」というミッションを掲げるNPO法人ボランタリーネイバーズ(以下、ボランタリーネイバーズ)。

2001年に愛知県で法人化した同団体は、NPO法人をはじめとする公益活動を行う人たちが活動しやすい土壌を耕してきました。

団体キャッチフレーズとイメージイラスト
団体キャッチフレーズとイメージイラスト

設立当初からNPO法人の設立や運営、まちづくりに関する相談や、助成金申請、組織基盤強化のための伴走支援、近年では活動の承継にかかわる個別支援など、活動者の個別ニーズに応じて相談対応していたボランタリーネイバーズ。コロナ禍になり個別相談の件数は急増するかと思いきや、対面での交流が激減したこともありほぼゼロに。その代わりに、別のニーズが見えてきたと言います。

中尾さゆりさん(以下、中尾)「未曾有のコロナ禍では、漠然と『困ってはいるけど、何が課題なのか、何をどう相談したらいいのか』と、自分たちの悩みを言語化するのが難しかったようです。だから『個別相談に来てくださいね』と呼びかけてもピンとこない。そこで、『〇〇をテーマに活動者同士で話してみませんか?』というセミナー+相談会の場を設けようと。他の人の話を聞く中で『自分が気にかかっていた問題はこれだったんだ』と課題を再認識する機会になればと思ったんです」

 
写真左:理事長の中尾さゆりさん、写真右:理事の遠山涼子さん
写真左:理事長の中尾さゆりさん、写真右:理事の遠山涼子さん

また、2021年3〜4月にかけて愛知県内の活動団体に実施したアンケート調査の結果も、テーマ型の相談会を企画する契機になりました。「コロナ禍で影響を受けましたか?」という設問に「受けた」と回答した団体のうち5つを対象に、コロナ禍発生当初からの活動の変遷についてヒアリングを実施しました。


遠山涼子さん(以下、遠山)「各支援団体が苦しい状況下でも、ITに詳しい身近な人材を頼って事業のオンライン化を進めるなど、試行錯誤をしながら活動を継続・発展させていました。不確実性の高いコロナ禍では、各団体が独自で工夫を続けるだけでなく、それらの工夫を共有した方が活動団体全体の底上げにつながるはず。だから複数の団体や専門家が集まり、各々の悩みを共有できる場を今こそ作るべきだと考えました」

休眠預金活用助成金セミナーの一幕(左) / 団体交流会での意見交換(右)
休眠預金活用助成金セミナーの一幕(左) / 団体交流会での意見交換(右)

他団体の事例から課題改善のヒントを見出す

2020年11月〜翌年10月までの事業期間のうち、オンラインで開催された相談会に参加した人数はのべ120人。「ビジネスコミュニケーションツールを活動継続に活かすには」「コロナ禍での労務問題の対応」「SNSの上手な活用方法」など、多様なテーマが設けられました。

テーマによって参加団体の分野もさまざまでしたが、総じて「市民活動センター」など中間支援の立場の方が積極的に参加していたと、二人は振り返ります。

中尾「愛知県は多くの市町村ごとに市民活動センターがあり、盛んに活動をしています。ところが、そのほとんどがコロナ禍で閉館を余儀なくされ『今、自分たちに何ができるのだろうか……』と悩んでいる様子でした。そうした方々がテーマ型の相談会で他の市町村の事例を聞いて再開のきっかけ探ったり、判断基準を参考にしたり、考える機会になっていたのかなと思います」

遠山「例えば、『介護施設でコロナ陽性者が発生したとき、どういう対応をすべきか』というテーマで話をする回があったのですが、関連情報が錯綜する中、自分たちで調べるだけでは『陽性者が出たら実際どうなるの?』のような疑問に答えが出なかった。それが、実際にコロナ陽性者が出た施設の方の事例を聞くことによって、今ある資源を活用して『うちだったらこんなことができそうだ』と対策や改善の糸口を掴んでいる様子でした」


実際、開催後のアンケートにて参加者からは「何から手をつけるべきか分からなかったが、まずは取り組むべきことが見え、一歩前進するきっかけになった」と前向きな回答が見受けられたと言います。

喜ばしいことに、相談会だけで終わらせず「この学びを他の人たちにも共有したい」という声をかけてもらったこともあったそうです。

中尾「最後にテーマ型の相談会の取り組みをまとめた報告書を作り、事例集として周りの関係者に配布した後に『市民活動センターのスタッフにも共有し、事例を学ぶことで相談対応に役立てたい』という声が寄せられました。支援センターの相談窓口は、経験や知識の差から代表クラスの方が一手に引き受けることが多くなりがちだと思います。ただ、他のスタッフもコロナ禍での事例を学べれば、支援先の困りごとを聞いて、類似の事例に関する情報をすぐに提供できる。団体と市民活動センタースタッフが共に育つ理想的なあり方だと思いました」

県を跨いだ連携により、支援策の幅が拡大

ボランタリーネイバーズの工夫は、相談会の実施だけに留まりません。東海地域で活動する団体が等しく機会を得られるよう岐阜県、三重県の中間支援組織であるNPO法人とつながり、月1でのミーティングを開催。それぞれの支援の経過や実績から得た学びを共有し合い、意見交換をしながら中間支援組織としてのナレッジを蓄積していきました。

ただ単に学び合うだけでなく、他県の事例を自分達の地域に応用できないか検討する議論を行ったり、会を重ねることでお互いの資源を必要な時に共有できる関係が構築できていた、と遠山さんは語ります。

遠山「例えば、三重県の個別支援の事例では、『コロナ禍で対面での販売機会を失った障がい福祉分野の事業所が、販売数をどう回復していくか』をテーマに情報共有会を実施。販売ルートの開拓はNPOに限らず一般の企業の仕組みを活かせる部分もあるという意見をもとに、愛知県の中小企業診断士・販売士をつなぐことで、専門家も交えた視点から意見交換の場を設けることができました」

「行政の政策の差」も県を跨いで話すからこそ見えたこと。他県の行政の対応を比較することで、行政への提言の方向性も含め「行政との関わり方の糸口が見えてきた」と言います。

中尾「毎月話し合う中で、県ごとのコロナ施策には違いがあり、NPOや地域の活動団体に対する政策も異なることを感じました。例えば、コロナ禍当初、岐阜県ではNPOが利用できる助成制度はありませんでしたが、県のNPOセンターが働きかけて使えるようになりました。また、三重県では早い段階でNPO向けの助成制度が用意され、活動を止めないような後押しがなされていました。こうした例から、「岐阜県のNPOセンターはどのように行政にかけあったのか」、「三重県はNPO向けの助成制度の財源をどこから捻出したのか」と話し合いを進め、自分たちの県では行政とどう連携していくべきかのヒントを見出せました」

休眠預金を活用する良さとは?

一般的に中間支援組織は行政と地域の間にいる影の立役者という性質上、助成金を受けづらいと言われることもしばしば。そんな中で、ボランタリーネイバーズが休眠預金活用事業に採択された背景裏にはどんな工夫があったのでしょうか?

中尾「『中間支援組織として助成金を受ける』というよりも、『その時々の社会のテーマやトピックに私たちがどう関与していけば、社会を良くできるか』という観点から応募するようにしています」

そもそも、休眠預金活用事業に申請した理由の一つは、他の助成金に比べて融通が効く点だったと話すのは、遠山さん。

遠山「助成金の中には『人件費は対象外』とするなど、経費の使い方に制約が大きいものもありますが、その点、休眠預金活用事業は経費使途に関して事業に必要な経費は認められるため柔軟だなと感じました。コロナ禍は特に不確実な要素も多かったので、調整コストがより多くかかります。そうした点でも比較的活用の幅がある助成金だなと思いました」

何より、資金分配団体であるREADYFOR株式会社が、事業期間中はペースメーカーになって伴走支援してくれたことが心強かったと話してくれました。


中尾「月1回の面談で話をする中で、自分たちはまだまだだと感じることがありましたが、READYFORさんが私たちの取り組みから見えてきた強みをフィードバックしてくださったので、活動のモチベーションを高めることができ、非常に助かりました。また、月次面談が先に進んでいる方の事例や、JANPIAへの報告を終えた方のお話を聞く機会を作っていただいたことも、大変参考になり良かったですね」

支援者も完璧じゃない。だから協働が大切になる

「支援者」と呼ばれる人たちも、自分たちだけで解決できないことがあれば、無理をせず信頼できる人たちの力を借りることも大切です。

中尾「“支援者”と呼ばれる人たちも100%何でもできるわけではありません。今回、岐阜や三重の団体と定期的に連絡を取って事業を進めるうちに、『自分のところで受けた案件でも、苦手な分野に関しては他者の声を聞くことがすごく大事』だと改めて実感したんです。それが結果的に支援先のためにもなると。

直接『〇〇を支援してください』と相談に来られた場合でも、話を聞くと違うアプローチにたどり着いた、なんてことも少なくありません。そうしたときには、そのアプローチに関して得意な人に繋げて支援先の真の課題を把握し、多様な繋がりを作ることで支援者自身もレベルアップすることが大切なんだと思います」

積極的に協働しようとするボランタリーネイバーズの影響もあってか、周囲にも「無理に自分たちだけで解決しようとせず、適切な相手に協力を求める」機会が増えてきました。

遠山「信頼のネットワークが構築され、活動者側も一歩前に進むためのルートや関係性ができたことは良かったと思います」

支援先団体の活動の様子(左)/ 支援先団体の事業所外観(右)
支援先団体の活動の様子(左)/ 支援先団体の事業所外観(右)

専門家や県外のNPO法人とも連携したチーム型の伴走支援は、行政の注目も得られた、と話す中尾さん。2022年度には名古屋市の事業として、チーム型での伴走支援事業の予算が設けられ、9団体を支援しました。

未曾有のコロナ禍だからこそ気づけた視点を味方に、ボランタリーネイバーズはこれからも活動者・支援者がともに一歩を踏み出しやすい社会を築いていきます。

中尾「コロナ禍でどう伴走支援をしていくのか。ひとつの形をやって見せられたことで、行政との新しい協働関係にも発展していきました。これからも県境にとらわれず、幅広い人たちや団体とつながり、お互いに連携することで、自発的なまちづくり活動をすすめてしていきたいと思います」

事業基礎情報

実行団体
特定非営利活動法人ボランタリーネイバーズ
事業名

Withコロナ時代の社会参加と雇用継続

活動対象地域
愛知県、岐阜県、三重県
資金分配団体
READYFOR株式会社

採択助成事業

2020年度コロナ枠

東近江・雲南・南砺ローカルコミュニティファンド連合(東近江三方よし基金、うんなんコミュニティ財団、南砺幸せ未来基金によるコンソーシアム)が、2023年7月10日に開催した、「ローカルな総働で孤立した人と地域をつなぐ」事業の成果報告会の動画です。

内 容


00:00:00 開会


00:00:12 開会挨拶


00:01:21 事業概要


00:07:50 11団体の事業報告


00:44:35 事業実施によって明らかになった事象や気付きに関する報告


00:56:10 本事業の特徴(JANPIAのプログラムオフィサーからの視点)


01:06:54 パネルディスカッション 「市域におけるコミュニティ財団と旧身預金活用」


01:47:09 閉会挨拶

主 催

公益財団法人 東近江三方よし基金 https://3poyoshi.com/

公益財団法人 うんなんコミュニティ財団 https://www.unnan-cf.org/

公益財団法人 南砺幸せ未来基金 https://www.nantokikin.org/

後 援

一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)

一般財団法人 大阪府地域支援人権金融公社が2022年12月1日に開催した、休眠預金活用事業 シンポジウム2022「社会住宅クライシス 地域共生社会をみんなでつくりだす8つの実践」の動画です。


<プログラム>

【第1部 13:30~】

1.ヒューファイナンスおおさか 代表あいさつ

2.JANPIAあいさつ(JANPIA 専務理事:岡田 太造)

3.休眠預金活用にあたって

4.基調講演『つながりをとりもどそう ~泉北ニュータウンの実践~』

●基調講演 講師

NPO法人SEIN 代表理事 湯川まゆみ氏

【第2部 14:50~】

5.8つのとりくみ/実行団体発表

6.パネルディスカッション

7.まとめ

●ファシリテーター

NPO法人ソーシャルバリュージャパン 代表理事 伊藤 健氏

【発表実行団体】

① 岬町人権協会 

事業名:誰もが暮らしやすい地域の創造

② NPO法人 スイスイ・すていしょん https://www.suisuistation.com/

事業名:子ども・若者を育む地域創造事業

③ NPO法人 人権尊重の矢田まちづくり委員会 https://yatashibu.com/

事業名:矢田地域の安心・安全のまちづくり

④ 一般社団法人 タウンスペースWAKWAK https://wak2.jimdofree.com/

事業名:被災者支援からインクルーシブコミュニティネットワーク構築事業

⑤ NPO法人 三島コミュニティ・アクションネットワーク http://www.m-can.net/

事業名:「ひと・まち・元気」支援事業

⑥ 認定NPO法人 釜ヶ崎支援機構 http://www.npokama.org/

事業名:萩之茶屋地域ひと・まち・いきいきリカバリー事業

⑦ 公益財団法人 住吉隣保事業推進協会 http://sumiyoshi.or.jp/

事業名:共に生きるまちづくり支援事業

⑧ 一般社団法人 富田林市人権協議会 https://tjinken.jimdofree.com/

事業名:I♥新小校区福祉プロジェクト

琵琶湖の東側、雄大な鈴鹿山脈の麓に広がる田園風景。滋賀県東近江市愛東地区では、町唯一のスーパーが閉店を余儀なくされ、地域内で不安の声が高まっていました。この危機感から立ち上がった愛のまち合同会社は、「地域住民による、地域住民のための、地域住民のお店」としてスーパーを再建することに。単に買い物をするだけでなく、“就業の場”や“憩いの場”としての役割も担い、ビジネス面の課題にも果敢にチャレンジしています。休眠預金活用事業(コロナ枠)の助成を受け、21年8月にスーパーを再開してから約1年半。これまでの取り組みから現在の様子について、愛のまち合同会社の業務執行役員を務める野村正次さんにお伺いしました。[コロナ枠の成果を探るNo.2]です。

町唯一のスーパーが閉店。コロナ禍で奪われた交流の場

町唯一のスーパーの再建に向けて設立された愛のまち合同会社のメンバーは、10年前に愛東地区で誕生した「あいとうふくしモール」の運営者でもあります。さまざまな機能を有する事業所が、ショッピングモールのように軒を並べ、地域の広範なケアのニーズに対応していくーーそんな思いから名付けられた施設でした。

あいとうふくしモール全景

「あいとうふくしモールには、私が経営する地元の野菜にこだわったレストランを始め、高齢者の介護支援をする事業所、障がい者の就労を支援する共同作業所が入っています。地域には公的な制度だけでは解決しえない暮らしの困りごとが少なくありません。制度の隙間を埋め、誰もが安心できる地域の拠りどころを作りたい。そのために各事業所が自らの特技や専門性を発揮し、助け合いながら安心のまちづくりに励んできました」

お話を伺った、野村さん(愛のまち合同会社 業務執行役員)

あいとうモールには、日々、地域の困りごとの声が集まります。
「愛東地区唯一のスーパーが閉店するらしい」。そんな噂が野村さんの耳に入ったのは、2019年の春でした。

「スーパーの経営するご夫婦がご高齢だったのと、設備の老朽化や消費税率の変更への対応から続けていくのが難しいと。閉店すれば近所での生活必需品の調達が難しくなるだけでなく、そこで生まれていた地域内の交流がなくなることへの不安の声が大きかったのです。地域の高齢化率も33%と深刻で、車を運転できない人にとっては隣町のスーパーはおろか、地域内のスーパーに通うのもひと苦労です。その上、コロナ禍で地域内の交流は激減。これを機に改めて町の将来を考え、総合的に地域の課題に向き合う必要性を強く感じました」

愛東地区の人口は485人、世帯数は1,650世帯(2023年5月1日時点) 。野村さんいわく、「2005年の市町村合併後、人口は約2割も減少した」そうです。

閉店した店舗内

危機感を覚えたあいとうふくしモール内の3事業所代表が発起人となり周囲に協力を呼びかけたところ、愛東地区まちづくり協議会や自治会の関係者、商工業者らが集合。スーパーが閉店する1ヶ月前から議論を始め、地域の課題を整理し始めました。

「早急に取り組むべきは、やはり暮らしを支えるスーパーを再建し、住民の安否確認も含めたコミュニケーションの場を取り戻すこと。ただ、単に買い物をする場所ではなく、地域内の雇用や交流を促進し、防災の拠点にもなるスーパーにしようと決まりました。」
老朽化した部分のリフォーム、トイレや交流スペースの新設……。スーパーの再建にはまとまった資金が必要だったため、まずは地域内で寄付を募ることに。目標額の300万円に対して、集まった寄付は830万円にもなりました。

寄付金募集のチラシ

地域住民からの大きな期待に必ずや応えたい。寄付以外の資金調達の道を模索する中、地元の公益財団法人 東近江市三方よし基金が休眠預金活用事業の2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成の公募が始めたと知り、申請したのでした。

スーパー再建後、少しずつ戻ってきた愛東地域の「日常」

休眠預金活用事業として採択されたのち、野村さんらは着々と準備を進め、当初の予定通り、2021年8月に新しいスーパー「i・mart(アイマート)」をオープンします。

中には買い物ができるスペースのほか、テーブルやカウンター席のある交流スペース、トイレを新設。交流スペースではコーヒーやお茶が飲めるほか、定期的に講座や作品展などのイベントが催され、参加者が帰りに買い物をしていく様子も見られます。

加えて、移動販売用の車や宅配用の電動バイクも購入し、地域に22ある自治会すべてに週1回は必ず訪問。特に山間部の地域は、移動販売に行くたびに利用者が増えてきていると言います。

「スーパーには、なるべく地域内で作られたものを置くように意識しています。少しでも地域内でものやお金、人が循環する仕組みが作れたらいいなと。あいとうふくしモールでは、社会参加が難しい若者の就労を支援するため、若者たちと一緒に農産物を育てたり、梅干しや味噌などを手作りしてたり、それらを使って『あいとうむすび』というおむすびを作っています。地元の先人から知恵や技術を継承する機会にもなってますし、アイマートに出荷し商品を陳列する中でお客さんとも触れ合い、自分たちの作ったものが売れる喜びも実感しているようです」

住民の作品が飾られています(上左) 移動販売の様子(上右) 店頭で陳列されるあいとうむすび(下)

嬉しい変化はそれだけではありません。スーパーのオープン日に野村さんはある光景を目にします。家族に連れてきてもらった高齢のおばあさん二人が偶然にも再会した様子で、「久しぶりに会えたね」と嬉しそうに会話をしていたのです。

「愛東地区ではしばらく見られなかった光景を目の当たりにして、胸がじんわりと熱くなりました。ここまで頑張ってきて本当によかったなと。また、小学生や中学生が放課後に来て交流会スペースで話したり、ゲームしたり、再建前に比べて家族づれも増えました。前の経営者が『客層が変わったね』と言うくらい、幅広い世代が利用しています」

コロナ禍で失われていた愛東地区の日常が、少しずつ戻ってきている。再建前から思い描いていた姿に近づきつつあるi・martを前に、野村さんは確かな手ごたえを感じています。

身近な応援者の心強さ。再建後の期待に応え続けるために

「まちづくりに関わる事業に携わって長いですが、今回のような事業を支援してくれる助成金はあまり多くありません。その点、今回の助成事業は支援対象の幅が広く、使用用途の制限も固くは決められていなかったのがありがたかったです。何にいくら使ったかということだけでなく成果を重視し、また、それを支援してくれる資金分配団体が身近にいるのも心強かったです」

新型コロナウイルス対応緊急支援助成について、野村さんはこう評価します。  

「いくら地域のためとはいえ、民間会社がスーパーを作る事業に助成していただくのはなかなか難しいと思います。それが実現したのは、創業当初より東近江市の活性化を目指して活動しているコミュニティ財団である東近江三方よし基金さんが、私たちのコミュニティマートをこの地域に必要な事業だと評価してくださったからです。事業期間中はもちろん、期間が終了したあとも定期的にアドバイスをくださって。おかげさまでスムーズに事業に取り組むことができました」

スーパーの再建から約1年半。最近は、地域のさまざまな団体がi・martを盛り上げるために力を貸してくれています。秋には地域の支援団体が焼き芋を販売したり、年末には自治会のグループが年越しそばを振る舞い、正月には餅つき大会が開催されました。

餅つき大会

活気づいてきた反面、課題もまだまだあります。

「開店直後は多くのお客さんに来ていただきましたが、『商品の充実さに欠ける』『前のスーパーとは違う』『接客が悪い』などのご指摘を受け、一度は客足が遠のいたこともありました。コミュニティマートとはいえ、やはり商売は商売です。地域の人たちの支援や期待に甘えるのではなく、商売として成り立つための訓練は必要だなと感じています」

一ビジネスとしても成長するため、2022年10月からは年中無休だったのを第1日曜日のみ休業に変更。職員研修の機会に充てています。

「年商1億円を目指して1日30万円の目標を設定していますが、移動販売も含めて現在は25万円。あと5万円をどうアップするかが課題です。その一歩を築くために、1番の売れ筋である手作りの惣菜や弁当の売り上げ強化を掲げています。売上も含め、スーパーの目標地点にたどり着くために、誰が何を担当すべきかを見立てて実行に移しています」


意識は行動に表れ、行動は結果に結びつく。それを証明するかのごとく、職員研修を始めてからは、売上も伸びてきたと言います。

当然、求めるのは売上ばかりではありません。今後、i・martをどんなスーパーにしていきたいか? 野村さんは、最後にこんな言葉を残してくれました。

「正直、お客さんにとってはスーパーとして常に一番手である必要はないと思っているんです。普段は隣町の大型スーパーを利用する人にとっては、三番手、四番手の存在になってもいい。ただ、『ちょっと日用品が切れてたから』とか、小さなことでも困ったときにときに、地域の誰もがいつでも利用できる、そんな安心な場所でありたいなと思っています」

【事業基礎情報】

実行団体
愛のまち合同会社
事業名

店舗再生による持続可能な地域課題の解決

活動対象地域
滋賀県東近江市
資金分配団体
公益財団法人 東近江三方よし基金

採択助成事業

2020年度新型コロナウイルス対応支援助成