休眠預金活用事業として実施されている「甲信地域支援と地域資源連携事業」。資金分配団体である「認定NPO法人 富士山クラブ」「公益財団法人長野県みらい基金」のコンソーシアムと、山梨県・長野県で子どもや若者たちを含む、困り事を抱えた人々が自ら課題解決できる力を持てる環境づくりに挑む5つの実行団体でこの事業を進めています。山梨県域で活動している3つの実行団体に、資金分配団体のプログラムオフィサー(以下、PO)とJANPIAのPOが視察もかねて訪問した様子を、レポートします。
NPO×自分の生業でゼロからイチを生む!〈河原部社〉
はじめの訪問先は山梨県韮崎市で活動する「NPO法人河原部社」。
河原部社は「やって、みせる」というポリシーのもと2016年に活動をスタートさせました。団体メンバーの平均年齢は30歳。代表理事を務める西田遥さんを中心に、地域おこし協力隊として参加するメンバーを加え、地元の有志8名で韮崎市を盛り上げようと取り組んでいます。

設立当時からビジネスとして「収益をきちんと得られる仕組みづくり」を視野に、「NPO×自分の生業」という働き方のスタンスを保ちながら活動。参加する若者たちがそれぞれのスキルを持ち寄り、活かしながら、社会に対して面白いことを仕掛けていこうと考えています。
既に行政の委託事業として、いくつかの実績を持つ河原部社。JR韮崎駅前にある青少年育成プラザ「Miacis(ミアキス)」の運営は5年目を迎え、立ち上げ当時から利用していた中高生が同社に入社したり、また韮崎市役所に就職したりするなど、後進の育成にも成功。同時にローカルメディア「にらレバ」を運営し、若者向けに地元に特化した情報を発信することで、就職や結婚なども含め、今後の人生の選択肢に「地元」を入れてもらえるようにと継続的に取り組んでいます。
「街のために何かチャレンジしたいという、僕らと同世代の若者がとても多いんです。若者のチャレンジをぜひ現実化したい、さらに自立できるようにビジネスとしても確立させてほしい。そこでまずは私たち自身の団体の組織基盤を強化するために休眠預金活用事業に申請させていただきました。」そう話す西田さん。

彼らが休眠預金活用事業として取り組むのは、「ニラサキサラニ 実践型若者プレイヤーズ育成プロジェクト」。
廃業をしたガソリンスタンドを拠点とし、「ゼロからイチを生み出す経験ができる場づくり」を目標にしています。「プレイヤー」と呼ばれる賛同者と共に活動をはじめるために、現在は本プロジェクトの一つとして「WORKSPACE TUM」の立ち上げと、これらに付随したイベントの企画を急ピッチで進めています。今後はSNSなどを利用し、オンラインでも参加者(TUM MATE)を増やす予定だと本プロジェクトのリーダー・本田美月さんはいいます。


「TUMという名前には、経験や知識を積む場所、そして掛け算を意味する積から『アイデアが掛け合わさる場所』という意味を込めています。TUM MATEの皆さんと共に、さまざまな職域の方達との交流を経て、社会に対する思いを実現へと導くコミュニティを運営していく予定です。」

今回の訪問では、資金分配団体とJANPIAのPOと共に活動進捗を話しながら、どのように収益を上げるかで終わらず、一つ先の視点を継続して持ち、さらにこのプロジェクトを通じて力をつけてソーシャルビジネスなどへのステップアップを目指していくことを改めて共有できた皆さん。何もないところからスタートアップして、大きな団体として行政も巻き込み活動していくというサクセスストリーを描き、「韮崎モデル」として他県域にも広がることを願っています。
「社会的処方+学習支援」で地域課題に挑む〈ボンドプレイス〉

次に訪れたのは、同県南アルプス市の古民家を活動の拠点とするNPO法人bond place(ボンドプレイス)。「接着剤のボンド」と「場所を意味するプレイス」という意味を持つ同団体。現在、行政からの委託事業の一つとして南アルプス市、山梨市と辛い思いを抱えた子どもや若者たちに向けた「居場所づくりの事業」を中心に、孤独や孤立といった問題を抱える人に対してどのようなアプローチができるかを検討し、学習支援や子ども食堂などの利用を促す取り組みをおこなっています。そんな彼らが活動を通じて体感しているのは、こうした支援活動が各市町村単位での対応であること、また福祉など特定の分野に限られた課題設定となりがちであることでした。

「これまで公的な支援においてキャッチできなかった人や物事も多くあります。私たちは、いろいろなセーフティネットに助けられる機会を「学習支援」という入口から取り組んでいこうと考えました。個々が強くなるためではなく、その人たちの環境自体が変わっていくことに対してのアプローチを重要視し、山梨県から社会や環境を変えていきたい。そこで辿り着いたのが『社会的処方』というテーマでした」
そう話すのは理事を務める芦澤郁哉さん。「社会的処方」とは医療機関の取り組みの一つで、薬などの処方だけでなく、社会的な繋がりも処方するというもの。例えば、郵便局に隣接した場所で年金受給日に看護師さんが高齢者の健康相談に乗ったり、地域の資源を最大限に活用して、悩みを抱える人々と触れ合うことなどが挙げられます。こうした考えを実社会に置き換え、1つの分野だけでは解決し難い社会課題においてファシリテーターという役割を担い、「学び」という部分からさまざまな領域の人々を繋ぎ、地域の困りごとを解決する。法的な窓口ばかりに頼るのではなく、自分達から困っている人に出会いに行こうというのが今回の事業、「社会的処方を目指した生態系構築モデル」です。休眠預金を活用し、委託事業としてではなく、自主的な事業として確立できるようチャレンジすることになりました。

2020年度にスタートした「社会的処方の学校」の講座では、分野を問わず参加者自身が自然と行動に移せる仲間づくりを目指し、3〜4人のチームに分かれて課題に取り組んできました。。相手の困りごとをこちら側が勝手に判断をしないことを念頭に、悩みを持つ本人との関係性を深め、向き合い方を捉え直して解決へと導く。さらに「(人が)力を持てる地域、環境づくり」を目指し、対象者が自らの力で歩き出せる環境を作るためにできることを考え、実践へと落とし込んでいく流れです。
同時に社会的処方を実践する上で、当事者に必要な人、物事、環境などを繋ぐ役割「リンクワーカー」の育成を目指します。
開講以来、全5回の講座を終えた今、同様の意味合いを持ちながらも異なる表現ですれ違いを起こしていた事柄も丁寧に言葉を紡ぐことで、専門領域を超え新たな視点からサポートを実現するという強い意識が芽生えているそうです。問題意識を持ちながら、今ある行政制度を底上げする。より良い効果が出る道の模索が続いています。

本プロジェクトのゴールである3年後を目指し、今後はより視点を広げた環境づくりに取り組み、純粋に社会的処方という考えや、リンクワーカーとして担うべきことを定義づけることに注力していくとのこと。課題解決に向けて、幅広い世代のスタッフと分野を超えた参加者の皆さんが力強く歩みを進めている様子が印象的でした。
リユースお弁当箱で子育てママの孤立を救おう!〈スペースふう〉
最後は、子育て中のママさんたちを「食」を通じて応援する認定NPO法人スペースふうを訪れました。1999年に小さなリサイクルショップをオープンさせ、以来、南巨摩郡富士川町を拠点に地域活性や女性の自立支援などを中心に活動をしています。これまでの活動はもちろん、昨今の取り組みの中でスペースふうのメンバーが強く感じ取っていたのは、やはり「孤独」、「孤立」という問題。それらは、コロナ禍を受けて加速傾向にあります。自分が本当に必要とされているのか…、そんな不安を払拭しつつ、自分を大切にできる場所づくりにチャレンジすることにしました。そこで誕生したのが、休眠預金を活用した「リユースお弁当箱がつなぐ地域デザイン事業」です。産後のママさんをはじめ、子育て家庭に向けて「hottos(ホットス)プロジェクト」を立ち上げ、リユース食器などを使用した宅配お弁当サービスをスタートさせました。

特筆すべきは、リユースのお弁当箱(食器類)のメンテナンス、そしてお弁当を包む可愛らしい手ぬぐいをはじめ、hottosのロゴ、LINEの運用など、活動の中枢を子育て中のママさんたちが担っていること。長時間の労働が難しいママさんたちに、それぞれの強みを活かした新しい仕事、居場所を提供することで社会との繋がりや会話が生まれているのだそうです。

事務局の長池伸子さんはいいます。 「活動するための準備や特別な知識がない状態でも、社会課題と向き合うチャンスと思いを受け入れ、実践しながら活動に取り組めるのは休眠預金だからこそ。担当POのアドバイスを受けながら、近隣県域のNPO仲間等とも連携して一緒にゴールを目指せる環境が活動の支えになっています。 これからも誰に頼れば良いか分からないなど、気持ちや環境に余裕がない人をそっと見守る存在として、いい意味で新しい形のお節介をしていきたいですね」
美味しいと評判のお弁当は、南アルプス市で活動する「Public House モモ」によるもの。注文は予約制で、祝日を除く毎週木曜日と金曜日にスタッフが手渡しでお届けしています。利用費用は、なんと一食100円。各種アレルギーなどにも対応し、肉や野菜など、種類豊富で彩りも豊かなおかず類は食べるのはもちろん、見た目にも楽しい気持ちになります。現在の利用者は富士川町に住む11名の新米ママさんや子育て家庭。まだまだ少数ではあるものの、「産後の大変な時に本当に助かったし、優しい言葉もかけてもらえてホッとした」といった声が届いています。連絡手段には、利用者世代のママさんが使いやすいLINEを導入し、繋がりやすさも工夫。利用者さんからの口コミで広がることの重要性を体感しているそうです。


現在は子育て世代を中心としているものの、今後はその枠を広げ、お弁当を通じたコミュニケーションから子どもたちや若者が社会課題を解決する力を持てる地域づくり、さらには次世代への橋渡しにも挑みたいという長池さん。本プロジェクトを遂行する上で、こうした活動の過程を開示しながら持続可能な組織として自立し、新たなビジネスモデルとしての確立が目下の課題であることを改めて担当POとの対話で再確認しました。
キーワードは「お弁当を開けた時のホッとする瞬間」。「孤独」や「孤立」から多くの人を見守る事業モデルに今後も注目していきたいと思います。
【事業基礎情報】
資金分配団体 | 認定特定非営利活動法人 富士山クラブコンソーシアム構成団体:公益財団法人長野県みらい基金 |
助成事業 | 甲信地域支援と地域資源連携事業 ~こども若者が自ら課題を解決する力を持てる地域づくり事業~ |
活動対象地域 | 甲信地域(山梨県・長野県) |
実行団体 | ★特定非営利活動法人 河原部社 ★特定非営利活動法人 bond place ★認定特定非営利活動法人 スペースふう 特定非営利活動法人 こどもの未来をかんがえる会 一般社団法人 信州上田里山文化推進協会(旧:杜の風舎) ★印の団体が今回の訪問先です。 |
今回の活動スナップは、特定非営利活動法人芸術家と子どもたち(資金分配団体:特定非営利活動法人 まちぽっと)。休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」の制作にご協力いただきました。シンポジウム用の動画ではご紹介できなかった動画を再編集し、撮影に同行したJANPIA職員のレポート共に紹介します。””
活動の概要
芸術家と子どもたちは、東京都豊島区を拠点に、現代アーティストと子どもが出会う「場づくり」を行っているNPO法人です。アーティストが小中学校や児童養護施設、特別支援学級などへ出かけていき、ダンスや演劇、音楽などのアートに関するワークショップを実施することで、多様な子どもたちに文化的な体験を提供してきました。
2020年からは3か年計画で休眠預金を活用し、母子生活支援施設や子ども食堂に通う子どもたち、外国にルーツを持つ子どもたちなどを対象にした活動をスタート。音楽や演劇、ダンスなどを用いて、自己表現力や自己肯定感、コミュニケーション能力を育んでいます。
活動スナップ
撮影に同行したJANPIA職員のレポート

堤康彦さん、撮影の様子。撮影はZAN FILMSの本山さん、もろこしさん。
「アーティストはモノの見方が新しくおもしろい。そういったアーティストの専門性やクリエイティビティと、子どもが出会うことで、どんな化学反応が起きるのかワクワクしませんか」
『芸術家と子どもたち』の代表を務める堤康彦さんが、活動を始めたきっかけを紹介してくれました。例えば、学校の授業では学習が難しく、突飛な行動をしてしまう子どもが、アーティスト・ワークショップではおもしろいアイデアを出して生き生きとリーダーシップを発揮するケース。正解や間違いがなく、おもしろがったり褒めあったりすることで「みんなが認め合える場」として、アーティスト・ワークショップを子どもに届けています。
一方で、活動の根幹には強い課題意識があります。日本社会、特に東京のような都市部で暮らす子どもは、日々の生活に困難さを感じているのではないか。子どもにとって大切な「体験する機会」が奪われていないか。コロナ禍で、貧困家庭やひとり親家庭の子どもはどう過ごしているのか。
『芸術家と子どもたち』がアーティスト・ワークショップを重視している理由は、子どものときから自分を素直に出して人とコミュニケーションをする体験が、とても有効だと考えているからです。自己肯定感が低くて自信を持てないことは、他者との関係構築が難しくなるなど、人間関係にさまざまな弊害をもたらすため、子どものときにありのままの自分を認める体験を届けようとしています。
休眠預金を活用し、資金分配団体である『まちぽっと』の伴走支援を受けて活動を進めるなかで、豊島区内の団体でのコラボレーションが実現しました。同じ豊島区で、子ども食堂や遊び場を運営する『豊島子どもWAKUWAKUネットワーク』との連携が実現し、食堂に集まる子どもを対象に演劇のワークショップを定期的に行っています。
この連携によって活動の幅が拡がっただけでなく、とても大切な気づきがあったと事務局長の中西麻友さんが教えてくれました。

中西麻友さん、撮影の様子。
「今までは児童養護施設などの既存施設にいる子どもを対象に活動してきましたが、今回活動してみたことで、その入所対象からは外れてしまうものの、困難な状況にいる子どもがいることを知りました。そういう子どもの存在は見えにくく、制度に置き去りにされています。彼らに対して私たちが何かできることはないか、と考え始めました」
この問題意識をもとに、福祉の現場で活動する団体との連携をさらに進め、母子生活支援施設※の子どもに向けたワークショップも開始しました。
※生活上のさまざまな課題を抱え、子どもの養育に困難を抱える母子世帯の生活と自立を支援する児童福祉施設。
ワークショップの最後に行う発表会には、地域の大人も招待しています。地域の人が見守っていてくれて、褒めてもらえると、子どもは「自分は見てもらえている」という実感を得ることになるからです。
「人とつながる経験は子どもの心に残って財産になり、成長して壁にぶつかったとしても、前向きな原動力になると信じています」
中西さんが力強く話してくれた言葉が、とても印象に残りました。
【事業基礎情報】
実行団体 | 特定非営利活動法人芸術家と子どもたち |
事業名 | プロの芸術家による表現ワークショップを通じた当事者の交流及び共同創作事業 |
活動対象地域 | 東京都 |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 まちぽっと |
採択助成事業 | 市民社会強化活動支援事業 〈2019年度通常枠〉 |
一般社団法人Kids Code Clubは、「子どもへのテクノロジー学習の支援を通じて、子どもたちが笑顔で希望を持って生きていける社会をつくる」というビジョンを掲げて活動しています。コロナ禍で、子どもたちが遊び・学び・交流する機会が激減する中、2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成(資金分配団体:一般社団法人SINKa)を活用し、「生きる力を育む子どもの居場所づくり事業」に取り組まれた同団体の代表理事・石川麻衣子さんに話を伺いました。
自身の経験から「全ての子が学べる環境づくり」を志す
Kids Code Clubは、2016年から福岡を拠点として、プログラミング学習の機会を小中学生の子どもたちに無料で提供する活動を行っています。
「私たちの目的は、プログラミングのスキルをただ身につけてもらうことではありません。あくまでもプログラミング学習は手段であって、それを通して子どもの生きる力を育み、居場所をつくりたいと思っているのです」と石川さん。その思いは、ご自身の原体験から生まれています。

石川さんはいわゆる貧困世帯で生まれ育ち、学費を払えずに九州大学を中退。「ひとり暮らしで日雇いバイトを続ける毎日。月給の仕事に就きたくても数日先のお金に困る状態で、生活はどん底でした」と当時を振り返ります。そんな中、友人から古いパソコンをもらい、ウェブサイトを作る方法を独学で懸命にマスターし、2008年に28歳でウェブの制作会社を立ち上げました。
2015年、貧困であるがゆえに子どもが命を落とすという悲惨な事件が千葉で起こり、連日報道されました。この事件に、母親になっていた石川さんは大きなショックを受けたといいます。
「私は生きる力を身につけて、貧困からどうにか生活を立て直しました。自分にできることがないかと考え、ちょうどその頃に注目され始めたプログラミング教育に着目して、どんな子でもプログラミングを学べる環境をつくろうと決意しました。」
海外とつなぐイベントやクラブを無料で開催
2016年、小中学生を対象として、プログラミングを体験できる無料のイベントをスタート。本業の傍ら、石川さんの思いに賛同したボランティアの人たちと一緒に、できる範囲で活動していました。
そのうち、シアトルのNPOから声がかかり、日本とシアトルをネット中継でつなぎ、現地の名だたるIT企業に勤める日本人エンジニアなどから学ぶ「英語で学ぶコンピュータ・サイエンス」プロジェクトも開始。当時、インターネットを介して授業を受けるスタイルは珍しく、先進的でした。
そして2020年、日本でコロナ感染症が拡大し、4月に全国一斉休校になりました。子どもが学ぶ機会や交流する場、居場所がなくなり、孤立してしまうことに危機感を抱いた石川さんは、「放課後プログラミングクラブ」を立ち上げました。毎週火曜と金曜の17:00~18:00、小中学生がオンラインで集まってプログラミングで作品づくりに取り組むクラブです。
「コロナ禍で休校が増えて、『子どもがずっと家にいて友達と遊べないので、どうにかしたい』と登録する親子がどんどん増えていきました」。
2020年11月からこれまで128回開催し、会員311人、参加者はのべ2307人にのぼります(2022年1月末現在)。

放課後プログラミングクラブでは、子どもたちがゲームやアニメなどの作品づくりに、自分のペースで取り組んでいます。バーチャル空間を会場として、分からないことはスタッフや子ども同士でサポート。活動を通して、子どもに変化も生まれてきたそうです。
「クラブに参加するのは元気な子やシャイな子、不登校や病気の子など、たくさんいます。最初はパソコンのカメラもマイクもオフにして、人がいない端っこにいた子が、何度か参加するうちに人の輪に近づいて、マイクをオンにして話し出すこともあります。いろんな背景を持つ子どもたちが、自分のペースで成長していると実感しています。子どもの居場所づくりは一朝一夕にはできなくて、継続していることで確実に変化が生まれています。」
他にもLINEでメッセージを送っても最初は無反応だった保護者から返信が来て「ありがとう。」と言われたり、ITは分からないと拒絶していた保護者が興味を持つケースもありました。
「オンラインでも、人と人がコミュニケーションを取り続けることは、すごく力があるんですよね。」と手応えを語ってくださいました。
コロナ禍でも、オンラインで成長できる居場所に
2021年には、SINKaが資金分配団体となって実施した新型コロナウイルス対応緊急支援助成に実行団体として採択されて、「生きる力を育む子どもの居場所づくり事業」として活動を実施しました。
「Kids Code Clubの活動は全て無料で、講師やスタッフは全員プロボノ。大学や企業、行政、NPOの皆さんから会場や設備を提供いただき、支えてもらっています。本業の傍ら手弁当でやってきて、ファンドレイジングに力を入れる余裕がありませんでした。でも、背中を押してくれる人たちがいて、今回、SINKaさんの公募にチャレンジして、本当に良かったと思っています。」
応募に際しては、自分たちの強みを知るため、活動に参加する保護者など40人にヒアリングを行い、事業計画を練り上げました。
「話を聞いてみると『クラブが毎回楽しみで、パソコンの前で正座して待っている』とか、子どもたちの居場所になっていること、いきいきと楽しく成長するきっかけになっていることがよく分かりました。私たちは子どもが楽しむことを第一にして、おまけとして21世紀型スキルや自己肯定感、創造力、ITリテラシーなどがついてくると考えています。その思いが少しずつ形になっていると思えました」

たくさんの方にご支援頂きながら、親子に多様でグローバルなIT体験・プログラミング学習の機会と、孤立を防ぐ居場所を展開。事業期間を通じて、福岡エリアで約300世帯、全国で約600世帯、のべ2,500名以上に提供し、コロナ禍の孤立と心の貧困の解消に尽力してきました。
主な活動と参加者数の実績は以下のとおりです。
主な活動と参加者数の実績
- 放課後プログラミングクラブ 78回開催 のべ1850名参加
- 英語でまなぶコンピュータ・サイエンス 13回開催 のべ370名参加
- 親子で1分間プログラミング 21回開催 のべ300名参加
- プログラミング学習サイトの運営 利用者数22万人(UU)
- 子ども作品サイトの構築(会員のみ利用可)
- PC操作やプログラミング学習に関するチャット相談受付 やりとり数1,000件以上
子どもの力を信じ、みんなで社会を変えていきたい
そして、Kids Code Clubは、次に向けて動き出しています。
「もともとパソコン環境がない子どもにも参加してほしいという思いがありました。今回の事業で自分たちの活動は意義があると自信を持てたので、次に2021年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成(資金分配団体:READYFOR株式会社・特定非営利活動法人 キッズドア)の実行団体へ採択いただき、パソコンとWi-Fi30セットを無料貸与できました。他の団体さんと連携して、丁寧に研修した上で貸し出し、放課後クラブに入ってもらってサポートしています。」
石川さんには、さらなる夢があります。それは「お金がなくても子どもたちが学べる仕組みをつくる」こと。
「今はお金を払って大人に教えてもらうことが基本になっていて、お金がなければ教育を受けられません。子どもが支援を受けるだけでなく、子どもが誰かに教えられる仕組みができれば、少し光が見えてくると思っています。」
そこで、放課後クラブに「キッズTA(ティーチング・アシスタント)」制度を導入。プログラミング初心者をサポートしてくれる小中学生を募集したところ、予想以上に18人が集まりました。

「放課後クラブは大人がつきっきりで教えるのではなく、子ども同士でも教え合うコミュニティになっています。それが世界に広がれば、どんな家庭環境の子でも学べる社会になるはず。そんな夢に向けて、小さな一歩を踏み出したところです。支援や参加をしてくださる皆さんのおかげでチャレンジできることに深く感謝していますし、必ず成果をあげたいと思っています。
子どもが子どもに教えられるのか疑問に思われるかもしれません。でも、きっとできると大人が信じて任せることで、今まで変わらなかったものが少しずつ変わっていくのではないでしょうか。私たちは子どもたちの力を信じて、子どもの力を原動力に、みんなで社会を変えていきたいと考えています。」と力強く語ってくださいました。
■休眠預金活用事業に参画しての感想は?
コロナの影響で本業の仕事が減る中、ボランティアで続けていくことは精神的にも厳しい状況になっていました。応募するにあたって自分たち団体の強みを徹底的に洗い出せたこと、採択という形で活動を認めてもらえたことをとてもうれしく思っています。そして、SINKaさんには先を見据えた伴走支援をしていただき、感謝しています。この実績をきっかけとして活動を広げていきたいです。(石川さん)
■資金分配団体POからのメッセージ
Kids Code Clubさんは「お金がなくても教育が受けられる社会をつくる」という壮大なビジョンに向かわれていて、私たちも一緒に向かっていきたいと思っています。いい成功事例として、ぜひどんどん表に出てほしいです。(SINKa 濱砂さん)
石川さんとは棚卸と評価についてよく話をしました。とても努力家で、しっかり考えて行動されています。大きく羽ばたかれるように応援していきたいです。(SINKa 外山さん)
【事業基礎情報I】
実行団体 | 一般社団法人Kids Code Club |
事業名 | 生きる力を育む子どもの居場所づくり事業 |
活動対象地域 | 福岡県 |
資金分配団体 | 一般社団法人 SINKa |
採択助成事業 | 福岡子ども若者、困窮者応援笑顔創造事業 |
【事業基礎情報II】
実行団体 | 一般社団法人Kids Code Club |
事業名 | 生きる力を育む子どもの居場所・体験事業 |
活動対象地域 | 福岡県・全国 |
資金分配団体 | READYFOR株式会社 (コンソーシアム構成団体:特定非営利活動法人 キッズドア) |
採択助成事業 | 深刻化する「コロナ学習格差」緊急支援事業 |
今回の活動スナップは、休眠預金活用事業「課題・テーマ別 ラウンドテーブル」の第一弾として開催した「こども食堂ラウンドテーブル」の様子をお届けします。
活動概要
JANPIAでは、休眠預金活用事業を通じて団体が得た情報・ネットワークや知見などを、各団体同士で連携しながら、課題解決に向けどのように今後に生かしていくべきかを考える場として「課題・テーマ別 ラウンドテーブル」を企画しています。
その第一弾として、2022年6月9日に「こども食堂ラウンドテーブル」を開催しました。
当日は、休眠預金活用事業を通じてこども食堂の活動の支援を中心に社会の様々な諸課題に向き合う皆さまと、日ごろの取り組みを通じて感じていられることや、当該事業領域の未来をどう考えていくか、活発な意見交換が!
JANPIAでは、これからも様々な課題・テーマを取り上げてのラウンドテーブルを開催していきたいと考えています。
活動スナップ
第1部

第1部では、資金分配団体3団体、実行団体3団体の方から休眠預金活用事業の概況や、今後の課題などをお話しいただきました。 詳細は以下の取り組み概況の共有のPDFデータや動画をご覧ください。
1. 開会の挨拶 |
2. 取り組み概況の共有 ・平野 覚治 様(一般社団法人 全国食支援活動協力会 専務理事) ・湯浅 誠 様(認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事長) ・松本 海南 様(公益財団法人 パブリックリソース財団 プログラムオフィサー) ・浦崎 直己 様(社会福祉法人 那覇市社会福祉協議会 居場所支援コーディネーター) ・坂本 純子 様(NPO法人 新座子育てネットワーク 代表理事) ・藤田 誠 様 (公益社団法人 フードバンクかながわ 事務局長) 【 取り組み概況の共有 資料 】 |
第2部
第2部では、「休眠預金×こども食堂」でどのような未来を描くことが出来るか、登壇者の皆さまや専門家の先生、またご視聴されている皆様からも「Slido(イベント中にリアルタイムに意見を伝えるツール)」を使って意見をいただきながら、議論を進めました。
当日、意見交換した内容や感想は以下の資料(PDF)に取りまとめています。
PDFデータや動画をぜひご覧ください。
【意見交換会】 ・平野 覚治 様(一般社団法人 全国食支援活動協力会 専務理事) ・湯浅 誠 様(認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事長) ・松本 海南 様(公益財団法人 パブリックリソース財団 プログラムオフィサー) ・浦崎 直己 様(社会福祉法人 那覇市社会福祉協議会 居場所支援コーディネーター) ・坂本 純子 様(NPO法人 新座子育てネットワーク 代表理事) ・藤田 誠 様 (公益社団法人 フードバンクかながわ 事務局長) ・阿部 彩 様(東京都立大学 教授) ・米田 佐知子 様(子どもの未来サポートオフィス 代表) ・大島 巌 様(東北福祉大学 副学長・教授)
・ファシリテーター 鵜尾 雅隆 様(JANPIA 理事 ・日本ファンドレイジング協会 代表理事) 【 当日のご意見・ご感想のまとめ 】 |

今回の活動スナップは、既に事業が完了している20年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成の実行団体『認定特定非営利活動法人 ミューズの夢(資金分配団体:公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)』から届いた、助成完了後の嬉しい報告についてお届けします。
「ミューズの夢」の休眠預金活用事業について
ハンディの有無にかかわらず子どもたちに質の高い音楽とアートに触れる機会と、自由に表現できる環境をつくることを目指して活動している『認定特定非営利活動法人 ミューズの夢(以下、ミューズの夢)』は、2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成〈資金分配団体:公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(以下、セーブ・ザ・チルドレン)〉の実行団体として、コロナ禍で活動が制限され、子どもたちにも不安が広がるなか、「離れていても芸術に触れることができ、一緒に参加でき楽しいプロジェクト」に取り組みました。
(詳しくは、掲載記事をご覧ください。)
離れていても、 子どもたちと芸術を通じてつながりを生み出す~ミューズの夢~
助成事業のその後♪
今回は、記事掲載の際に交流を持った芸術監督を務める仁科彩さんから、「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」と「JANPIA」宛に助成事業のその後について、うれしいメールをいただいたので、ご本人のご同意の元、その一部を紹介させていただきます。
ミューズの夢の皆さんのこれからのご活躍に、今後も注目していきたいと思います。
仁科さん、ご連絡ありがとうございました♪
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■「コトリの森のオーケストラ」上映会

先週、宮城県立金成支援学校同窓会の皆さんが 「コトリの森のオーケストラ」を上映してくださったご様子です。主催者のお一人から、「皆さんに楽しんでいただけて、私もとっても嬉しかったです」とありがたいご感想をいただきました。
このアニメーションは、オーディオ部分が録音図書になっており、視覚障害を抱えるかたも、聴覚障害を抱えるかたも、皆で一緒に楽しめる内容となっています。動画内に登場するカラフルなコトリや自然風景は、このプロジェクトに参加した252名の子ども・若者たちによる作品です。
このような沢山の方々の思いと時間が詰まった動画の完成は、御助成いただいた皆様からの経済的支援にとどまらない、お心こもった応援なくして成す事ができませんでした。本当にありがとうございます。これからも学校、図書館、移動図書館、病院にて、絵本の寄贈や、アニメ付き録音図書の上映を行っていきたいと思います。
■「Kotori Project」のその後

今春Kotori Projectの アートディレクターを担当してくださっているデザイナーの田村奈穂さんが東北をお訪ねくださり、今度は「サカナのようふく」を子どもたちとデザインしました。
プロジェクトの総合アドバイスをしてくださっている宮城県立こども病院発達診療科の奈良隆寛先生も駆けつけてくださり、活動中の子どもたちのいきいきとしたご表情と、次々と発想豊かに生まれるイロ・カタチに感銘を受けていらっしゃいました。
■「Strings of Love」

「Strings of Love」では助成期間中にスタートした「はじめてのヴァイオリン」から11名の若きヴァイオリニストたちが、ぐんぐんご成長の芽をのばしていらっしゃいます。また、動画を公開してから、当会に弦楽器をご寄贈いただく機会が増えました。今年に入り、5台のヴァイオリンと、1台のチェロを拝受しました。これもひとえに、皆様のサポートのおかげです。 3年目のコロナ禍ではございますが、引き続き、仙台フィルハーモニー管弦楽団団員 長谷川基先生ご監修のもと、子どもたちがより質の高い音楽教育を継続可能なかたちで受けられて、本物の楽器に触れられる機会を増やしていきたいと思います。
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【事業基礎情報】
実行団体 | 認定特定非営利活動法人 ミューズの夢 |
事業名 | 緊急事態下における子ども及び若者による芸術創造活動の支援事業 副題:芸術教育のユニバーサルデザインとトラウマケアに関する取り組み |
活動対象地域 | 全国 |
資金分配団体 | 公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン |
採択助成事業 | 『社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業』 〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉 |