休眠預金等活用法に基づく資金分配団体(助成)の公募に申請をご検討中の皆さまに向けて、2023年度通常枠・緊急支援枠、2021年度・2020年度通常枠の資金分配団体である「ちくご川コミュニティ財団」の柳田あかねさんに、休眠預金活用事業に申請した背景と現在の活動についてのお話を伺いました。
休眠預金活用事業に申請した背景を自団体の活動と合わせて教えてください
一般財団法人ちくご川コミュニティ財団は、人の役に立ちたいという思いと活動をつなぐプラットフォームです。2019年に市民の力を得て、福岡県で初めてのコミュニティ財団として設立されました。
初めて休眠預金活用事業にチャレンジしたのは、2020年度通常枠の事業です。3か年の計画で、困難を抱える子ども若者の孤立解消と育成というテーマに絞って事業を進めました。次の2021年度通常枠の事業では、誰一人取り残さない居場所づくり、学びの場における子ども若者の孤立解消と育成というテーマで、いわゆる不登校の子ども若者をサポートする実行団体と3年間の事業を始めました。2023年度通常枠の事業では、困難を抱える家庭を取り残さない仕組みづくり、子ども若者とその家族のためのコレクティブインパクトと題した3か年の事業を始めました。さらに2023年度第4次募集の緊急支援枠の事業にチャレンジして、子育てに困難を抱える家庭へのアクセシビリティ改善事業、多様なつながりが生まれる仕組みづくりということで、限られた期間の中でとにかく支援が必要な層に、必要な支援を届けようという事業をスタートさせました。
ちくご川コミュニティ財団は、この4つの事業を一連の流れとして取り組んでおります。
申請を行うために準備で取り組んだことを教えてください
4つの事業の申請をはじめるにあたり、最初に取り組んだことは、自団体のメンバーで話し合うことからでした。どこに社会課題を感じているか、どの地域でその事業を調査分析していくかなどをメンバー全員で考え、同じ目標を持つところから始めました。
次に、その対象地域の中で調査を始めました。その地域で活動している様々な市民社会組織の方々にアンケートを取り、アンケートの中で明らかになった社会課題を解決するために、市民社会組織の皆さんや行政などにヒアリングをしていきました。ヒアリングの結果を分析し、評価アドバイザーにも相談しながら、事業設計を行いました。
実行団体の伴走支援の内容や工夫していることを教えてください
私たちの伴走支援はすごく強力で、すごく濃密なものになっています。また、分野も多岐にわたっております。
例えば、休眠預金活用事業ですごく大事されている評価です。事前評価、中間それから事後、それぞれの評価のフェーズに沿って伴走しています。もちろん評価に取り組むことは、ある意味負荷がかかることでもあると私たちも思っていますが、評価に取り組むことで実行団体の事業終了後に絶対、力はつくと思っていますので、出口戦略の一つとしても、評価については力を入れています。また、事業そのものの運営を持続可能なものにするための資金調達では、ファンドレイザーの資格を持つPOがしっかり実行団体の無理のないように計画を立て、その時抱えている悩みと照らし合わせながら、資金調達の計画を一緒に立てていきます。広報の面では、例えば、伝わるウェブサイトにするにはどうしたらいいのか、定款や規程類をどういうところにおけば団体が信頼を得られるかかなども、一緒に考えています。
それから日々、受益者や支援してくれる方に向けて、あるいはその地域の行政や企業の方々に向けても、様々なステークホルダーごとの情報伝達の仕方について一緒に考えています。SNSだけではなく、紙で作るニュースレターなどの定期刊行物、アニュアルレポートの発行や編集のアドバイスもしています。
休眠預金活用事業を通じて、よかったことについて教えてください
休眠預金活用事業で一番いいと思うのは、三層構造だということです。JANPIAと資金分配団体と実行団体が同じ目標に向かって社会課題解決のために走っていく、この仕組みがすごくいいなと私は思っています。資金分配団体である私たちが助成金を交付するというフローにはなっていますが、お金を届けだけではなくて、実行団体の伴走も行います。また、何より資金分配団体の私たち自身も、JANPIAに伴走されており、3者そろって同じ目標に向かっていけるのが一番いいと思っているポイントにです。
申請を考えている方へメッセージをお願いします
休眠預金活用事業の資金分配団体になると、たくさんの仲間と出会うことができます。例えば、ちくご川コミュニティ財団の場合、最初はたったひとりのPOしかいませんでしたが、事業を始めて4年目の今は6人のPOがいます。自分たちの団体での仲間がだんだん増えていくだけではなく、地域で一緒に社会課題を解決するための仲間、つまり実行団体の方々と出会うことができます。
さらに、全国にいる資金分配団体の仲間と出会うことができます。横のつながりがどんどん広がっていくことによって、自分たちが日々やりたいことや解決したいことに向けてグッと背中を押してもらえる。そんな存在に、この休眠預金活用事業を通して出会えると思っています。
ぜひ、資金分配団体にチャレンジして、まだ出会っていない仲間のに出会ってください。
〈このインタビューは、YouTubeで視聴可能です! 〉
(取材日:2024年6月13日)
学校に行きづらさや家庭に居づらさを感じている子どもたちに、安心して過ごすことができる“居場所”を提供しているのが北海道砂川市にある「みんなの秘密基地」です。21年度通常枠の実行団体(資金分配団体:認定NPO法人カタリバ)として、ユースセンターを立ち上げ、子どもたちが安心して時間を過ごせる居場所の提供のほか、フリースクールの運営などを行っています。最近は、同じ悩みを持つ大人同士がつながるお茶会の開催など活動の幅も広がり、子どもも大人も集う地域の居場所に変化しつつあるそうです。今回は、「みんなの秘密基地」を運営するNPO法人「みんなの」 代表理事である望月亜希子さんに、活動のきっかけやこれまでの取り組み、今後の展望などを伺いました。
”子どもたちの居場所づくり”を目指したきっかけ
ユースセンターとは、家でも学校でもない、若者たちの“第三の居場所”のこと。北海道の砂川市にある「みんなの秘密基地」もその一つです。
2022年に子どもたちのユースセンターとして活動を開始して以降、放課後や土曜日になると、近隣の子どもや若者たちが集まり、ゲームをしたり、おしゃべりをしたり、勉強をしたりと、皆、思い思いに時間を過ごしています。
代表の望月亜希子さんに、子どもや若者たちの居場所づくりをはじめたきっかけについて伺いました。
「私は元々、会社員として自然素材のコスメティックブランド「SHIRO」を展開する株式会社シロで働いていました。砂川市に本社工場があり、地域の子どもたちのために職業体験イベントや工場見学を開催していました。そこでは、楽しんでいる子どもたちがいる一方、自分の意見を決められなかったり 、自分に自信が持てず「私なんて」と嫌いになってしまっていたりする子どもたちがいることに気づきました。そして、そういった子どもたちが、自分のこと好きなまま、自己決定を繰り返しながら成長して社会に羽ばたいていってほしいという想いを抱くようになりました」
その後、望月さんは2019年に会社を退職し、2020年度から特別支援教育支援員(※)として学校に勤務することに。子どもたちに寄り添いたい、そんな想いを持って小学校、中学校で働き始めましたが、同時に教師とは違う特別支援教育支援員という立場ではできることが限られてしまう現実に、もどかしさも感じるようになっていました。
※発達障害や学習障害のある児童生徒に個別的な支援を行う支援員
まちづくりプロジェクトへの参画をきっかけに、ユースセンターの立ち上げに動き出す
ちょうどその頃、望月さんの前職の株式会社シロの代表取締役会長である今井浩恵氏から、砂川市の活性化を目的に立ち上げる「みんなのすながわプロジェクト」の構想を持ちかけられました。これはシロの本社工場の移設増床にともない、ものづくりや観光をテーマにした施設を地域の人たちと一緒につくるまちづくりプロジェクトであり、その参画メンバーとして望月さんも活動に携わることに。
「工場の新設により、シロのショップやカフェなども新工場の施設に移転することが決定したため、そのカフェの空き店舗を有効活用するなら、『ぜひ子どもたちの居場所を作りたい!』と手を挙げ、即答で承諾してもらいました。当時は学校の中で支援員として働いていましたが、学校や家庭に居場所がないような子たちも、安心してここにいていいんだと思える場所を作りたかったのです。」
こうしたきっかけから、カフェの空き店舗を活用して、学校や家庭でもない子どもたちのサードプレイスとなるようなユースセンターをつくりたいという想いが具体化していったといいます。
休眠預金活用で立ち上げることができた「みんなの秘密基地」
自分のやりたいことの方向性が見えてきた望月さんは学校での特別支援教育支援員としての業務と並行して、居場所作りの準備や仲間集めに取り掛かるも、ユースセンターはもちろん、非営利団体の運営経験はなく、何から準備をしたらいいのかわかりませんでした。そんな矢先、教育支援活動を行う認定NPO法人カタリバが運営する「ユースセンター起業塾」が休眠預金を活用した事業として、助成および事業立ち上げ伴走を行う団体の募集をしていることを知りました。
ユースセンター起業塾とは、全国に10代の子どもの居場所を広げるため、居場所づくりや学習支援をしている/したい方々を対象に、各団体の立ち上げを資金面・運営面の両軸から伴走支援を行っている事業です。
この募集要項を目にした途端、自分たちのやりたいことと合致すると確信した望月さんは、申請をし、無事に採択されたそうです。
「右も左も分からず、とにかく勢いだけで動いていた私にとって、この事業はまさに渡りに船でした。さらに、教育支援の実績が豊富なカタリバさんの支援を受けられることも心強く、毎月のミーティングや研修、経理、財務などのバックオフィスに関する相談会などもあり、常にきめ細やかにサポートしていただきました」
そこからは、カタリバによる支援を受けながら、仲間も増えていきますが、シロのショップとカフェが移転するまでには、まだ1年。その期間に借りられる場所を探すことに。
そこで、シロでも長年お世話になっている市内のお寺に相談すると、快くお堂を無償で貸してくださることになりました。こうして小学校3年生~高校生を対象にしたユースセンター「みんなの秘密基地」の活動がスタートしたのです。
2023年6月には、拠点を旧シロ砂川本店の店舗へ移し、活動をしながら気づいたことを解決しようと、午前中には「無料のフリースクール」を開始。厨房を活用した「みんなのごはん(子ども食堂)」や、20代以上の若者を対象にした「夜のユースセンター」、同じテーマで悩む大人の「つながるお茶会」なども始まり、活動の幅も広がっていきました。
そこで大きな助けになったのがユースセンター起業塾の助成金だったそうです。
「スタッフもボランティアでずっとお願いするわけにはいかないため、家賃や光熱費のほか人件費にもあてられる助成金にとても助けられました。また子ども食堂などの活動費にも使うなど、私たちの運営や活動全体を支えてくれています」

ありのままの自分でいい”と思える、空間づくりを大切に
何をしてもいい、何もしなくてもいい――。それが「みんなの秘密基地」のコンセプトです。読書やゲーム、友だちとのおしゃべり、お昼寝、勉強……ここでは、経済状況などにかかわらず、誰でも自分でやりたいことを決めて、自由に安心して過ごすことができます。
「『子どもたちが自分と自分の人生を好きなまま、自由に羽ばたく翼を折らずに育む地域社会をつくりたい』日々、居場所の活動をしていく中で、このようなビジョンに辿り着きました。子どもに変化や成長を求め社会に適応させるのではなく、変えたいのは、私たち大人の社会の視点やあり方なのです。私たちスタッフが、子どもたちに何かを強制したり、指導したりすることは一切ありません。子どもたちが自分の考えを自分の言葉で伝えることができるように、寄り添い話を聞くこと、そして、みんなが“自分のままでいいんだ ”と思える空間づくりを心掛けています」
その結果、利用者にアンケートを取った際には、「みんなの秘密基地では自分らしくいられると感じている」に「そう思う」と回答した割合が92.3%と、子どもたちの多くが安心感をもってみんなの秘密基地を利用しくれていることがわかったそうです。
実際に、ユースセンターには、1日15~20人の子どもたちが訪れ、初年度の2022年は延べ約1,450人、2023年度は延べ約1,300人が利用。今では、砂川市の子どもだけでなく、近隣地域の利用者も徐々に増えているそうです。


地域のみなさんと一緒に作る、『みんなの』居場所へ
当初はユースセンターとして活動していた「みんなの秘密基地」ですが、今では、それ以外の活動も増え、新たな取り組みも広がっています。
「現在、平日の午前中から放課後までは、不登校支援の無料フリースクールとして、さまざまな事情で学校に行かない、行けない子どもたちを受け入れています。さらに、不登校支援をしていく中で気づいたのは、子どもたちだけでなく親のサポートも必要だということです。」
そこで新たにスタートしたのが、『つながるお茶会』という取り組みです。月に2-3回、不登校や発達のテーマでお茶会を実施し、保護者を中心に大人たちのコミュニティづくりを行っています。「保護者の皆さんが悩みを共有し相談できる場というのは、私たちが想像していた以上に求められていたと実感しています。やはり、当事者同士でしか分かり合えない悩みもあり、お茶会だけではなくLINEグループで日々の出来事や悩みを安心して語り合えるコミュニティができました。子どもたちにとって、家の中でお母さんやお父さんが笑顔でいてくれることほど嬉しく安心できることはないと思いますから、これからも、大人のコミュニティを大事に育てていきたいです」
また、みんなの秘密基地では、月に2回は土曜日もオープンし、近隣の農家さんにいただいた規格外品や自分たちで持ち寄った食材を使って、子どもたちと料理作りをしているそうです。ほかにも、地元イベントへの出店やハロウィンやクリスマス、キャンプ などのイベントもあり、さまざまな体験を通して、子どもたちが社会とつながりながら余暇を自由に楽しむきっかけづくりを提供しています。

活動も3年目を迎え、今では子どもだけではなく、若者や大人も集うみんなの居場所に変化しつつある「みんなの秘密基地」。最後に望月さんに、今後の展望を伺いました。
「2024年5月に、『みんなの秘密基地』の運営団体として、NPO法人『みんなの』を立ち上げました。 『みんなの』にした理由の一つに、この活動を、私たちだけの「事業」ではなく、地域のみなさんと一緒に作っていく「市民活動」にしていきたいという想いがあったからです。この3年間で休眠預金を活用した助成金のもと、運営の基盤づくりはできました。今後はさらに、地域のみなさんと一緒に活動しながら、『子どもたちが自分と自分の人生を好きなまま、自由に羽ばたく翼を折らずに育む地域社会』を実現していきたいと思っています」
【事業基礎情報】
実行団体 | 特定非営利活動法人 みんなの |
事業名 |
北海道砂川市「‘本当の社会で生きる力’を育む子どもの居場所」創造事業 |
活動対象地域 | 北海道砂川市 |
資金分配団体 | 認定特定非営利法人 カタリバ |
採択助成事業 |
2021年度通常枠 |
東京都足立区で、地域から孤立している生活困窮子育て家庭に対し、食糧支援や「子ども食堂」の運営などを行っている一般社団法人チョイふる。“生まれ育った環境に関わらず、全ての子ども達が将来に希望を持てるchoice-fulな社会を実現する”ことを目的に、活動しています。2022年に採択された休眠預金活用事業(緊急支援枠、資金分配団体:特定非営利活動法人Learning for All)では、居場所事業「あだちキッズカフェ」の拡充に取り組んできました。今回は、代表理事の栗野泰成さんと、居場所事業を担当している井野瀬優子さんに、団体の活動についてお話を伺いました。”
代表理事の原体験が、チョイふるを立ち上げるきっかけに
一般社団法人チョイふる(以下、チョイふる)は、社会経済的に困難を抱える子どもたちが「チョイス」(選択肢)を「ふる」(たくさん)に感じられる社会をつくりたい、という思いを込めて設立されました。立ち上げのきっかけとなったのは、代表理事の栗野さんの原体験です。栗野さんが育ったのは、鹿児島県の田舎の市営団地。大学進学に悩んでいた頃、新聞配達をすると学費が免除される新聞奨学金制度の存在を知りますが、知ったときにはすでに申し込みの期限を過ぎていて申し込みができなかったと言います。
栗野泰成さん(以下、栗野)「あのとき、『もっと早くに知っていれば』と思ったことが今の活動に結び付いています。困窮者世帯への支援制度はたくさんあるのですが、本当に困難を抱える人ほど必要な支援が届いていないのではないかと考えています。この『選択格差』を解消することが貧困問題を解決する一つの手段ではないかと考えるようになりました」

当時の思いを胸に、大学卒業後、小学校教員・JICA海外協力隊での教育現場を経て、栗野さんは2018年に任意団体を立ち上げます。当初は英語塾を運営していましたが、それでは支援を必要としている人に届かないと気づきます。
そこで、2020年に、食糧を家庭に届けるアウトリーチ(訪問支援)型の活動「あだち・わくわく便」と、親子に第3の居場所を提供する活動「あだちキッズカフェ」をスタート。その後、コロナ禍に入ってしまったため、「あだちキッズカフェ」は一時休止しますが、「あだち・わくわく便」の需要は高まっていきます。
そして、2021年に法人化し、一般社団法人チョイふるを設立。現在は、宅食事業「あだち・わくわく便」、居場所事業「あだちキッズカフェ」に加え、困窮者世帯を支援制度へと繋げる相談支援事業「繋ぎケア」の主に3つの事業を行っています。
孤立しがちな困窮子育て世帯とつながる 宅食事業
現在、チョイふるの活動の軸となっているのが、宅食事業「あだち・わくわく便」です。対象となっているのは0〜18歳の子どもがいる家庭で、食品配達をツールに地域から孤立しがちな困窮子育て家庭と繋がる活動をしています。
栗野「宅食事業を始めた頃は、シングルマザーの支援団体に情報を流してもらったり、都営団地にポスティングしたりと地道に活動していました。最初、LINEの登録は10世帯ほどでしたが、口コミで広がったことに加え、コロナ禍になったこともあり、登録世帯数が一気に増加。今では足立区からも信頼を得ることができ、区からもチョイふるの案内をしてもらっています」

現在のLINEの登録数は約400世帯。食品配達は月に1回か2ヶ月に1回、各家庭に配達するか、フードパントリーに取りに来てもらう場合もあります。また、配達をする際は「見守りボランティア」と呼ばれる人が、それぞれの子育て家庭に直接お届けし、会話をすることで信頼関係を築いています。
栗野「食品の紹介や雑談などから始まり、子どもの学校での様子を聞いたり、困りごとがなさそうかなど確認したりしています。次回の配達時にも継続的に話ができるよう、訪問時の様子は記録もしています」
つながりづくりから居場所づくりへ
コロナ禍では「あだち・わくわく便」をメインに活動してきたチョイふる。貧困家庭と繋がることはできましたが、そこから適切な支援に繋げるための関係構築を難しく感じていました。そこで、新型コロナウイルスの流行が少し落ち着いてきたタイミングで、居場所事業「あだちキッズカフェ」を再開します。
「あだちキッズカフェ」は、子ども食堂に遊びの体験をプラスした、家でも学校(職場)でもないサードプレイスをつくり、困窮子育て家庭を支える活動。こうした「コミュニティとしての繋がり」が作れる活動は、民間団体ならではの強みだと栗野さんは話します。
栗野「足立区は、東京都の中でも生活保護を受けている世帯数が多い地域です。区としても様々な施策に取り組んでいますが、行政ならではの制約もあります。たとえば、イベントを開いたとしても、時間は平日の日中に設定されることが多いですし、開催場所も公民館など公共の場が基本になります。一方で、僕たち民間団体は、家庭に合わせて時間や場所を設定することができます。行政と民間はできることが違うからこそ、僕たちの活動に意味があると思うんです」

「あだちキッズカフェ」の取り組みに力を入れ始めたチョイふるは、2022年度の休眠預金活用事業に申請。これに無事採択されると、これまで「あだちキッズカフェ」があった伊興本町と中央本町の2か所の運営体制を強化するとともに、千住仲町にも新設しました。
実際の「あだちキッズカフェ」では、お弁当やコスメセットの配布などを行い、子どもたちの居場所利用を促進。月2回実施している子ども食堂と遊びの居場所支援のほか、イベントも含めると67 人の子どもが参加しました。特に伊興本町の居場所にはリピーターが多く、子どもたちの利用が定着してきています。
栗野「とはいえ、『あだち・わくわく便』は400世帯が登録してくれているのに対し、『あだちキッズカフェ』の利用者は67人とまだまだ少ない。子どもだけで『あだちキッズカフェ』に来るのが難しかったり、交通費がかかったりするなど、様々な課題があると感じています」
休眠預金を活用し、社会福祉士を新たに採用
「あだちキッズカフェ」拡充のため、さまざまなところで休眠預金を活用してきましたが、なかでも一番助かったポイントは「人件費として使えたこと」だと井野瀬さんは話します。
井野瀬優子さん(以下、井野瀬)「『あだちキッズカフェ』常勤のスタッフを数人と、社会福祉士を4人採用しました。助成金の多くは人件費として活用できないので、本当にありがたかったです。常勤のスタッフがいると『いつもの人がいる』という安心感にも繋がりますし、社会福祉士にはLINEを通じて相談者とやり取り してもらうことで距離が近づき、『あだちキッズカフェ』の利用促進につながりました」
「あだち・わくわく便」の利用者には「あだちキッズカフェ」に行くのを迷っている人が多く、社会福祉士とのやり取りが利用を迷う人の背中を押しました。そのやり取りも、「『あだち・わくわく便』はどうでしたか?」といった会話からスタートし、他愛もない会話をするなかで困りごとを聞いたり、無理のないように「あだちキッズカフェ」に誘ったりしています。

また、DV被害に遭ったという母子が来た際には、スタッフに同じような経験をした当事者がいたため、経験者ならではの寄り添った対応ができました。
井野瀬「これまでであれば、ボランティアとして限られた時間しか関われなかったかもしれません。今回はそこに、きちんとお金を割くことができたので、居場所をより充実させることができました。来てくれる子どもたちが増えるのはもちろん、何度も来てくれる子の小さな成長が見られる瞬間もとてもうれしいですね」
伴走者がいることで、課題を把握できた
チョイふるは、2023年8月に休眠預金活用事業を開始し、2024年2月末に事業を完了しました。休眠預金活用事業では資金面以外に、資金分配団体のプログラム・オフィサー が伴走してくれる点も、事業を運営していくうえで助けになったと話します。
栗野「普段は日々の活動でいっぱいいっぱいなので、月1で振り返る機会を設けてもらったのがよかったですね。一緒にアクションプランを立てたり、“報連相”が課題になっていると気づいたりすることができました。第三者の目があることの大切さを痛感しました」
事業は終了しましたが、その後も取り組みの内容は変わらずに、「あだち・わくわく便」の提供量を増やしたり、「あだちキッズカフェ」の数を増やしたりといったことに注力しており、そのために、ほかの団体との連携も広げています。
栗野「10代の可能性を広げる支援を行っているNPO法人カタリバと月1回の定例会議を行い、情報交換をしています。ほかにも、医療的ケア児や発達の特性の強い子どもを支援している団体などと組んで、ワンストップの総合相談窓口を作ろうと動いているところです。資金確保は今後も課題になると思うので、寄付やクラウドファンディング、企業との連携などにも挑戦していきたいですね」
「選択肢の格差」が貧困を作り出し、抜け出せない状況を作っていると考える栗野さん。チョイふるはこれからも、その格差を少しでもなくすために貧困家庭への支援を続けていきます。
【事業基礎情報】
実行団体 | 一般社団法人チョイふる |
事業名 | 子育て世帯版包括支援センター事業 |
活動対象地域 | 東京都足立区 ①伊興本町(居場所1拠点目) ②中央本町(居場所2拠点目) ③千住仲町(居場所3拠点目) |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人Learning for All |
採択助成事業 | 2022年度緊急支援枠 |
2023年3月よりJANPIAで活動を始めたインターン生の「活動日誌」を発信していきます。第2回は、21年度通常枠の実行団体である社会福祉法人 長野県社会福祉協議会〈コンソーシアム申請〉(資金分配団体:公益財団法人長野県みらい基金)の取り組みについてのリポートです!
JANPIAにてインターン生として活動しているSです。
今回は長野県社会福祉協議会にお邪魔し、社会的養護の取組についてお話を伺ってきました。
その内容をレポートします。
1. 長野県社会福祉協議会とは
長野県社会福祉協議会(以後、長野県社協)は、昭和26年(1951年)に設立された団体で、長野県における社会事業や社会福祉を目的とする事業の健全な発達及び、社会福祉に関する活動の活性化により、地域福祉の推進を図ることを目的とした団体です。
現在では、「ともに生きる ともに創る 地域共生・信州」を目標に、様々な個性や多様性を持つ人々が人のあたたかさに包まれる地域の中で安心して暮らすことができ、その人らしい居場所を出番がある地域共生社会の実現を目的とした様々な取り組みを行っています。
長野県社協は公益財団法人長野県みらい基金が実施する21年度通常枠事業「誰もが活躍できる信州「働き」「学び」「暮らし」づくり事業」にて事業申請し、「社会的養護出身の若者の支援」を行う、実行団体として採択を受け活動を行っています。
2.「社会的養護出身の若者サポートプロジェクト」を始めた経緯
今回は長野県社協の数多くある取り組みの中から、「社会的養護出身の若者サポートプロジェクト」について。長野県社協常務理事の竹内さん、まちづくりボランティアセンター所長の長峰さん、若者支援担当職員の傳田さん、専門員の横山さんにお話を伺って来ました。

2-1. 「社会的養護」って?
「社会的養護」という言葉は聞き馴染みのない言葉ですが、こども家庭庁の定義によると「保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当ではない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」とされています。
長野県には現在14か所児童養護施設が存在し、約400名近くの児童がそこで生活をしています。
2-2. なぜ社会的養護出身の若者の支援を始めたのか?
取材前から疑問に感じていた、社会的養護出身の若者の支援を始めるにあたった経緯をお尋ねしたところ、その経緯は意外なものでした。

長野県社協は、長野県を襲った台風19号の災害を受けて、20年度に休眠預金活用事業でシェアハウスに人を呼ぶ事業を開始しました。そのシェアハウスにコロナで収入が減った若者から入居の相談があり彼らの事情を聞くことに。すると若者のなかでも特に社会的養護出身の若者が直面する困難が浮き彫りになり衝撃を受けたそうです。
現行の法制度では、社会的養護に該当するのは「児童福祉法」の範囲内の18歳まで。18歳を超えると公的な支援が一切途切れてしまい、社会的養護施設を出た若者は十分な支援も受けられない中で社会に参画しなければならないという現状が存在するとのこと。
これまで、社会的福祉の分野であまり焦点が当てられてこなかった、「社会的養護出身の若者」を支援する事業を始めることになったそうです。
2-3. 社会的養護出身の若者の支援を始める上での課題
社会的養護出身の若者の支援を始める上で、長野県社協が抱えていた課題は、専門性やノウハウが不足していたということでした。
そこで養護施設で長年勤務し現場の実情に精通している傳田さんをチームに加え、児童養護施設への働きかけを始めたそうです。

傳田さんは養護施設側が抱えている課題についてこう語って下さいました。
「養護施設の園長さんなどは、外部との交流がなく、行政などの支援の情報などが耳に入ることが少ない。また、自分たちでなんとかしようとする意識が強く、同じ地域にいても社協などとの連携もなく、どうしてもサポートの幅が狭くなってしまう」
このような課題認識の下、様々な地域の社協やNPO、企業を巻き込んだ支援の枠組みについて説明して下さいました。
3. 「長野県社会福祉協議会」の取り組み
ここからは長野県社協が社会的養護出身の若者に対して行っている、「まいさぽ」を通じた就労支援、「どこでも実家宣言」について取材した内容を紹介します。
3-1. 「まいさぽ」について
長野県社協では、既存の事業である「まいさぽ」と児童養護施設との連携事業を進めています。
「まいさぽ」とは、相談支援員や就労支援員が相談者との面談を通してニーズを把握し、相談者の状況に応じた支援が行われるよう、共にサポートプランを作成し、様々な支援につなげる事業です。
この「まいさぽ」の就労支援の中の「プチバイト」に児童養護施設の若者をつなげるという取り組みが、長野県社協が児童養護施設との連携で進めている事業内容です。
プチバイトとは、社会福祉法人経営者協議会の会員から協賛を募り、地域の協力事業所で職場体験したまいさぽの相談者に1時間800円の給付を行う事業です。職場体験きっかけとして社会との関係をつなぎ直し、就労の機会を開いていくことが目的とされています。
児童養護施設にいる若者は、「人(大人)が苦手」「コミュニケーションが苦手」といった人や社会に対しての恐怖心などが強く、成功体験が少ないという課題を抱えている人も少なくないそうです。
そんな彼らに対して、「プチバイト」という試験的な形で若者が抱える課題に対して理解のある事業者の元で就労体験を積むことのできる枠組みを用意したことには効果があったと傳田さんは語ります。
実際に「プチバイト」に参加した高校3年生のKさんは、以前務めていたバイト先はどこも長く続かず、社会参画に苦手意識を感じていた状態から、就労先での業務に楽しさを覚え、その会社への就職を希望するようになったそうです。
3-2. 「どこでも実家宣言」の広がり
傳田さんが紹介して下さった長野県社協が取り組んでいるもう一つの事業として、「どこでも実家宣言」があります。
「どこでも実家宣言」とは、親の支えがなく社会に参画する若者にとって、市町村社協が「実家」のように安心できて頼ることができる場所として機能するようにという目的で新しく傳田さんたちが始めた事業です。
長野県にある各市町村の社会福祉協議会に働きかけ、どの社協にも下記の写真のような「どこでも実家宣言」の設置を目指しているそうです。現在、「どこでも実家宣言」に参画している長野県内の社協は33件(2023年8月29日現在)に及び、地域・エリアを超えてこどもや若者をサポートする環境の整備にむけての取り組みを進めています。
4. さいごに
今回インタビューをさせて頂いた長野県社協での取り組みの中で痛感したのは、地域として社会参画に課題を抱える若者などをサポートしていく体制の重要さです。
「どこでも実家宣言」のような若者が安心感ももって頼ることのできる暖かさを感じさせる取り組みや、傳田さんの「成功体験を積ませてあげる必要がある」といった言葉に表れていたような、地域として若者が一歩ずつ前に進んでいける環境をつくること。
そういった「ソフト」な働きかけの重要性を今回の取材で学ばせて頂きました。
■ 事業基礎情報
実行団体 | 社会福祉法人 長野県社会福祉協議会〈コンソーシアム:幹事団体〉 〈構成団体〉 |
事業名 | 社会的養護出身の若者サポートプロジェクト |
活動対象地域 | 長野県内全域 |
資金分配団体 | 公益財団法人 長野県みらい基金 |
採択助成事業 | 2021年度通常枠 |
今回の活動スナップは、全日本空輸株式会社(ANA)と株式会社ワンスペース(22年度緊急支援枠/資金分配団体:公益財団法人みらいファンド沖縄)が行ったオンラインジョブツアーの様子をお伝えします。
活動概要
公益財団法人みらいファンド沖縄(以下、みらいファンド沖縄)は、コロナ禍で子どもたちの体験や交流が失われたという課題解決に向け、人との直接的な接触を避けながらできる「配信技術を活用したコンテンツ」に着目し、「みんなの配信と交流プラットフォーム〜コロナ禍で失った体験や発信、交流を再構築〜」として休眠預金活用事業に取り組んでいます。
その実行団体として株式会社ワンスペース(以下、ワンスペース)は「オンラインジョブツアー」を軸としたプログラムを実施し、沖縄の子どもたちに働くことや仕事について身近に考える機会を提供してきました。 今回、JANPIA企業連携チームの仲介により、ワンスペースの考えや思いに賛同いただいた全日本空輸株式会社(ANA)とのオンラインジョブツアーが2024年2月に実現しました。

活動スナップ
ANAグループ総合トレーニングセンター「ANA Blue Base」の空港を模した施設と沖縄県の2つの小学校を繋ぎ、ANAグループには様々な仕事があること、飛行機1機を安全に運航させるために多くの人が携わっていること等を、クイズやデモンストレーションを交えて紹介しました。Q&Aでは、子どもたちからの質問が止まらず、好奇心や関心の高さが画面越しに伝わってきました。

【事業基礎情報】
実行団体 | 株式会社ワンスペース |
事業名 | オンライン合同職場見学プロジェクト ~潜入!オンラインジョブツアー~ |
活動対象地域 | 沖縄県全域 |
資金分配団体 | 公益財団法人みらいファンド沖縄 |
採択助成事業 | みんなの配信と交流プラットフォーム |
ANA HP:https://www.ana.co.jp/ja/jp/brand/ana-future-promise/social-area/2024-04-10-01
千葉県柏市内に、二十歳前後の若者が「おばあちゃんち」と呼ぶ家があります。一般社団法人いっぽの会が、2020年度の休眠預金活用事業(通常枠)を活用し、2022年8月に社会的養護のもとで育った若者たちや、様々な理由で家族と一緒に住めない方のための「若者応援ハウス」をオープンしました。共同生活を送りながら、スタッフや地域の方と交流することで、自立に向けての一歩を踏み出しています。今回、この若者応援ハウスを訪れ、開設するに至った経緯や入居している若者の様子、活動の今後の展望などについて運営メンバーの皆さんに伺いました。
若者応援ハウス立ち上げの経緯
いっぽの会の代表理事の久保田尚美さんは、児童自立援助ホームで働く中で、「子どもたちがもっとやりたいこと を実現できる施設にしたい」という思いから独立し、いっぽの会を立ち上げ2020年10月に児童自立援助ホーム「歩みの家」を開設しました。
児童自立援助ホームは、児童相談所長から家庭や他の施設にいられないと判断された子どもたちに、暮らしの場を提供する施設 です。対象年齢は15歳から20歳(一定の条件を満たせば22歳)となっています。しかし、2022年4月から成人年齢が引き下げられたこともあって、18歳になると国から施設に支払われていた措置費がなくなり、たとえ継続的な支援が必要だと判断される若者であっても施設から出なければいけない場合もあるそうです。

「施設を出ることになった若者にも、実際、様々な相談対応を行ってきました。ただ、措置費が出ないなか、施設職員が時間外の労働によって継続的に支援していくことに限界を感じていました。」 そのような中、 公益財団法人ちばのWA地域づくり基金が、2020年度通常枠の資金分配団体として社会的養護下にある若者に焦点をあてた助成事業の公募をしていることを知りました。もともと久保田さんは、児童自立援助ホームを出た若者が、いつでも戻ってこられる拠点づくりをできるとしたら、十数年後かなと思っていたそうです。
しかし公募を知り、「今から必要な若者に届けられるのであれば、チャレンジしてみよう」という気持ちに変わり、休眠預金活用事業に申請。その結果、採択されて事業に取り組み、2022年8月に若者応援ハウス をオープンしました。
「以前施設で働いていたときは、若者から相談があったとしても、児童相談所に情報提供するだけで、施設で若者を受け入れることができなかったのです。しかし今では、児童自立援助ホームである「歩みの家」だけでなく若者応援ハウスもあります。だから助けを必要とする人から連絡をいただけれ ば、可能な範囲で受け入れられるような環境 と体制が作れたと思っています。今回の助成事業の結果、活動の幅が広がりました。」
生活支援と就労支援は表裏一体
休眠預金活用事業では、社会的養護を経験した若者が、ボランティア、職員や地域の人との人間関係が構築され、思いを語れ、困難を乗り越える方法が身についていることを目指しています。加えて、若者応援ハウスでの生活相談や就労相談に対応していく過程で、若者が自ら解決していく力がつき、自分らしい暮らしを営んでいる状態を目指しています。
いっぽの会のスタッフで、若者応援ハウスの責任者をしている朝日仁隆さんに、活動の様子を伺いました。
「若者と一緒にご飯を作ったり、庭に畑があるので、畑の野菜を採ってもらったりしています。また、月に1回程度地域の方や支援者を呼んで、食事会などを開催しています。ボードゲームが好きな若者がいて、一緒に遊ぶこともあります。日常の延長みたいなところから、その子の今まで言えなかった気持ちとか、やりたかったことを引き出しながら、徐々に自立に向かうサポートをしています。」
若者応援ハウスだからこそできる日常の生活支援に加え、就労支援も行っています。これまで朝日さんたちが関わった若者たちは、仕事に就くこと自体はできても、本当にやりたいことを見つけることができなかったり、無理した働き方になってしまっていたりしました。

例えば、これまで関わった若者の1人は、当初、将来どういう風に生きていきたいか、といった考えがなく、手っ取り早く見つけた事務のアルバイトをしようとしていました。ただ、スタッフと話していくうちに専門学校 を志望するようになり、今まさに受験結果待ちとのことです。このように、「本当はやってみたいことがある」と打ち明けてくれたり、一緒に考えたりするようになったのは、いっぽの会の皆さんが丁寧に伴走される中で信頼関係が築かれていったからではないでしょうか。
いっぽの会の外部アドバイザーで社会福祉士の古澤肇さんは、生活支援と就労支援は、表裏一体だと話します。
「人間関係とかお金のこととか、自分の身体を大事にすることって、人が生きていく上で大事なことで、生活支援でもあるし、就労支援でもあると思っています。例えば、体温が39度あっても『仕事行きます』という子には、『ちょっとそれはやめましょう』と伝えますが、最初は仕事と体調の優先順位もなかなか分からなかったりします。困っているときに適切に『助けて』が言える、SOSが出せるようになることも大切だと考えています。 」
現在若者応援ハウスに入居している方は2名(定員3名)で、これまで短期を含めて泊まりで利用された方は、4名いました。短期の利用では、住み込みの仕事していた方が退職し、住まいを失った際に、転職先が見つかるまでの間の仮の住まいとして利用するケースがあったそうです。
また、計画時は、児童自立援助ホームや児童養護施設出身の若者を支援の対象と考えていましたが、社会的養護を経験していない方からの問い合わせがあったことがきっかけとなり、今は、支援の対象を広げているそうです。
地域に支えられながら育つ若者たち
この若者応援ハウス事業の特徴の一つに、地域とのつながりを重視していて、地域の方もいっぽの会の事業に自然と入ってきているところがあります。地域の方が若者のことを気にかけて、若者もその地域に向けて、何か自分の気持ちや、やりたいことを発信できるような関係性になってきているそうです。ただ、いっぽの会は、最初から地域とのつながりがあったわけではありません。
いっぽの会が最初に立ち上げた児童自立援助ホーム「歩みの家」は松戸市内にあり、当初、若者応援ハウスもその近隣エリアで探していました。ただ、若者応援ハウスということや、児童福祉施設ということで様々な偏見があり、物件を見つけるのに苦労したそうです。やっと見つけた現在の物件は、いっぽの会の通常の活動エリアとは離れており、地域とのつながりがほぼない場所にありました。

そのような状況の中、どのように地域とのつながりを作り関わっていただけるようになったのでしょうか。古澤さんが教えてくださいました。
「地域で活動している人たちとのつながりづくりは、戦略的に考えています。たとえば、日常的なことですと、若者応援ハウスでは 、コンビニではなく、なるべく地域の商店で買い物をするように伝えています。また、地元の小学校の「おやじの会」の方に、若者応援ハウスのイベントに参加していただきました。 バーベキューを実施したのですが、若者やボランティア、そしてご参加いただいた地域の方が力を合わせて一緒に火をつけたり肉を焼いたりする。その何気ない協働作業がすごく大事な経験だと思っています。特に、一緒に何かを作るとか、みんなで分け合うとか、そういう経験を成長過程であまりしてこなかった若者には貴重な機会です。」

また、イベントを実施するにあたって、地域のボランティアだけでなく、古澤さんの仲間の社会福祉士にもメンバーに入ってもらったこともポイントだそうです。
「初めましてのボランティアだけだと、どうしても皆さんよそよそしくなってしまいます。一方、スタッフはスタッフで準備や裏方で大変。そこで、コミュニケーションを円滑にしてくれる人材として、有資格者がいい働きをするのです。」
現在、定期的に若者応援ハウスに来ている地域ボランティアは3名いるそうです。一人は、若者応援ハウスの畑のお世話を手伝ってくださる方で、自治会長や民生委員もされたことのある地域のキーマンでもありました。
「その方と若者とが繋がり始めているのが嬉しいですね。その方の誕生会を若者が企画して、ケーキまで作ってお祝いしていました。やっぱりこういう地域と若者、スタッフとの交流が広がってきているのが何よりです。」
と振り返る朝日さん。
そのボランティアさんが畑で作業していると、外からも見えるため、「あの方が関わっているなら」と、若者応援ハウスの地域からの信頼度向上にもつながっているそうです。

残り2名のボランティアは、ボランティアセンター経由で紹介があった地域の方で、月2回程度、若者たちと一緒に食事を作っています。そのうち1人は、今はご飯作りがメインですが、ゆくゆくは茶道やお花なども若者とやってみたいとお話しされているのだとか。

「当たり前」の活動から生み出された変化
これまでの活動を振り返って、朝日さんが印象に残っているエピソードを教えてくれました。
「畑の手入れは私が中心でやっているのですが、スタッフが来れないときの水やりを若者に頼んでいると、いつの日か自主的に大きくなった野菜を収穫して並べておいてくれたことがあったのです。」

「応援ハウスでは、月に1回の振り返り面談を行っています。自分の思いや考えを表現するのが苦手な若者は、口数が少なくなったり、中々本音が言えません。応援ハウスでのボランティアさんとの関わりやイベントに参加、又、若者同士での良い刺激や相互作用が成功体験とも言えます。回を重ねるごとに自分の気持ちや感情を少しずつ表に出せるように変化していきます。」
そうして、今まで連絡を絶っていた支援機関や、親族の方にも少しずつ連絡が取れるようになってきている若者もいます。
助成事業は、若者だけでなく、いっぽの会にも変化をもたらしました。理事の田村敬志さんは、社会的インパクト評価の考え方を通じて、活動の成果をアウトプットではなく、アウトカムも示すことを学べたと振り返ります。
「これまでは自分たちが必要だと思ったことを、ただただやっているだけだったんですけど、それを対外的に示すために、社会的インパクト評価を通じて言語化する仕方もあるということを勉強させていただきました。」
目の前の問題を解決するために一生懸命に取り組む中で当たり前にやってきたことが、実は当たり前ではなく、とても重要だったということを確認することができたようです。

いっぽの会の「若者応援ハウス」のこれから
いっぽの会は、これまでの成果を踏まえ、児童自立援助ホームの元利用者やその紹介以外の若者へのアプローチを強化していく予定です。また、若者応援ハウスでは宿泊だけでなく、気軽に立ち寄れる通所型の受け入れも増やしていきたいとのことです。住まいや居場所が既にある若者でも、「誰かと一緒に食べたい」「相談したい」と思ったときにふらっと立ち寄るような居場所を目指したいと古澤さん。
「『相談受けます』みたいな看板を掲げると、どうしても敷居が高くなってしまいます。ここには地域をよくしようとする人たちが集まっていて、ここに来ること で「何とかなる」と思ってもらえる、そんな『若者応援センター』になるといいなと。」
実際、この若者応援ハウスのことを「おばあちゃんち」と呼ぶ若者もいるようで、すでに実家のような存在になっています。
休眠預金活用事業が終了する2024年1月以降は、事業を継続・発展していくための財源確保が最大の課題です。自治体や民間の様々な助成事業を視野に入れつつ、中長期的にはやはり、制度化をめざしていく必要があると久保田さんは考えます。
「今回の休眠預金がまさに制度のはざまにある取り組みを、民間で支えてくれる資金だったんです。制度ができるまではかなりきついですが、続けていかなければ、制度化にはいきつかないので頑張っていきます。」
事業基礎情報
実行団体 | 一般社団法人いっぽの会 |
事業名 | 社会へ「いっぽ」を踏み出す基盤づくり事業 |
活動対象地域 | 千葉県 |
資金分配団体 | 公益財団法人ちばのWA地域づくり基金 |
採択助成事業 | 2020年度通常枠 |
バランスの良い食事とあたたかい団らんは、子どもの心身の健やかな成長に欠かせません。各地の「子どもの居場所」でボランティアメンバーたちが愛情を込めて準備している食卓には、民間企業からもさまざまな支援が寄せられているのをご存知でしょうか。地域に根差した企業が地元の新鮮な食材を寄附したり、全国に展開する食品企業が出来立てのお弁当を提供したりしながら、それぞれの強みを生かして子どもたちの食事を支えているのです。資金分配団体:全国食支援活動協力会の実行団体である一般社団法人コミュニティシンクタンク北九州や社会福祉法人那覇市社会福祉協議会と連携してユニークな支援を展開する株式会社吉野家と響灘菜園株式会社の担当者に、支援に寄せる思いを聞きました。
子どもを思う地域の人々をトマトがつなぐ|響灘菜園株式会社
関門海峡の北西に広がる響灘に面した響灘菜園株式会社は、食品大手のカゴメ株式会社(カゴメ)と電力会社の電源開発株式会社(Jパワー)によって設立され、2006年からトマトの通年栽培を行っています。敷地内には、東京ドームや福岡ドームよりも広大な8.5ヘクタールにおよぶ温室があり、ハイテクな栽培技術を駆使して20万本のトマトを栽培しており、年間の収穫量は3000トンに上ります。

そんな同社は、「トマトのファンを増やしたい」が口ぐせだという猪狩英之社長の強い後押しを受け、自社のトマトを通じた社会貢献に熱心に取り組んでいます。特に、市内の子ども食堂に対する支援は積極的で、コミュニティシンクタンク北九州が事務局を務める「こども食堂ネットワーク北九州」を通じて、年間2500キロ、約2万個のトマトを無償で提供しているほか、市内の大学や企業などと連携し、トマトを使ったレトルトカレーの開発にも取り組んでいます。
同社が手塩にかけて育てたトマトによって、子どもの見守りや、魅力的なコミュニティづくりに意欲を燃やす地元の人々が有機的につながり、思いが広がっていく様子を二度にわたって取材しました。誇りを持って菜園の中で働く同社の社員たちの姿とともに、ぜひお目通しください。

コラム | 響灘菜園 | トマトカレーがつなぐ思いの循環.pdf [外部リンク]
コラム | 響灘菜園 | トマトを通じて地域に貢献.pdf [外部リンク]
使命感から生まれた新しい寄附文化で広がる笑顔|株式会社吉野家
近年、日本では、所得が全国平均の半分に満たない、貧困状態の家庭で暮らす子どもや、一人で孤独に食事することが常態化している子どもが増加し、成長への悪影響が強く懸念されています。
株式会社吉野家は、未来を担う子どもたちの状況を憂い、「食に携わる企業として貢献したい」という意識を抱いていた河村泰貴・代表取締役社長のリーダーシップの下、2020年に子ども支援事業の立ち上げについて検討を開始しました。当初は連携先の選定に苦労していましたが、社会福祉法人那覇市社会福祉協議会が運営する「こども食堂サポートセンター那覇」との出会いを機に、両者は強力なタッグを組んで支援の形やオペレーション方法を詰めていき、同年9月には那覇市内の店舗で初となる牛丼弁当の配布にこぎつけました。
同社はその後、この方法を他の都市にも横展開し、各地の社会福祉協議会と連携しながら支援を広げています。プロジェクトの進捗や子どもたちの反応については全国1100店舗のスタッフにも報告を欠かさず、社を挙げて思いを共有するよう努めているうえ、他の飲食業の経営陣にもノウハウを積極的に伝えているという同社から伝わってくる使命感と矜持、そして芽吹きつつある新しい寄付文化の機運を、ぜひご覧ください。

コラム | 吉野家 | 一杯の牛丼に思いをのせて.pdf [外部リンク]
■ 事業基礎情報【1】
実行団体 | 一般社団法人 コミュニティシンクタンク北九州 |
事業名 | ⼦ども食堂ネットワーク北九州機能強化事業 |
活動対象地域 | 福岡県北九州市 |
採択事業 | 2019年度通常枠 |
■ 事業基礎情報【2】
実行団体 | 社会福祉法人 那覇市社会福祉協議会 |
事業名 | こども食堂等支援事業〈2019年度通常枠〉 |
活動対象地域 | 沖縄県那覇市 |
資金分配団体 | 一般社団法人 全国食支援活動協力会 |
採択事業 | 2019年度通常枠 |
学校帰りや週末に地元の子どもたちが三々五々集まり、一緒に食事をしたり、遊んだり、宿題をしたりしながら思い思いに過ごす「子どもの居場所」。地域により活動の内容はさまざまですが、子どもたちが年齢を超えて交流し、大人と触れ合い、さまざまな経験を重ねて健やかに成長してほしいという運営者たちの願いは同じです。2019年度の休眠預金を活用した「こども食堂サポート機能設置事業」(資金分配団体:一般社団法人全国食支援活動協力会)の支援を受け、一般社団法人コミュニティシンクタンク北九州と社会福祉法人那覇市社会福祉協議会が物資の供給や助成金の情報提供、ネットワーク化支援などを行っている居場所の中から9カ所を取り上げ、活動に込められた思いを取材しました。
行政とともに特色あるコミュニティづくりを通じた子どもの見守りを|一般社団法人 コミュニティシンクタンク北九州
製鉄や石炭産業の発展に伴い、戦後いち早く復興事業が進められ、官営八幡製鐵所をはじめ多くの近代化産業遺産を擁する北九州市。都心としてにぎわう小倉北区や、戦前の駐屯地が農地として払い下げられ宅地開発が進められてきた小倉南区、製鉄所の遊休地を生かした再開発が進む八幡東区など、地域によって特色のある街づくりが進められている同市ですが、その一方で、保護者の帰宅が遅い家庭が少なくありません。
そんな北九州市にある「子どもの居場所」は、市が自治会やPTA、警察、消防と連携して設置した「まちづくり協議会」の「市民センター」で活動していたり、フードバンクを行うNPOのサポートを受けながら食事支援や学習支援、生活習慣の習得支援に取り組んでいたり、女性の生理用品を配布していたりと、活動の内容も形態もさまざまです。しかし、どの居場所も、地元の子どもの見守りやコミュニティづくりに熱い思いを寄せる人たちが、「子ども食堂ネットワーク北九州」(一般社団法人コミュニティシンクタンク北九州がコーディネーターを担当)を通じて、北九州市役所や教育委員会を巻き込みながら活動を広げてきました。
2020年3月頃から始まったコロナ禍によって活動の一時中止を余儀なくされながらも、豊富な経験とネットワークを生かし、柔軟に形を変えつつ支援を続けてきた関係者たちの思いに迫りました。

コラム | 子ども食堂☆きらきら清水 | ネットワークで地域をつなぐ.pdf[外部リンク]
コラム | こあらのおうち | 若園地区に広がる賛同の輪.pdf[外部リンク]
コラム | 子ども食堂「尾倉っ子ホーム」 | 食卓を囲んで愛情を伝える.pdf[外部リンク]
コラム | 絆キッチン | 支援に依存しない居場所づくりを模索.pdf[外部リンク]
世代を超えた学び合いとコミュニティの新しい見守りの形を模索|社会福祉法人 那覇市社会福祉協議会
沖縄県は、一人親世帯や貧困家庭の割合が全国平均に比べて高い状況にあります。特に、県庁所在地の那覇市は、観光関連のサービス業に従事している人が多いため、親が夜遅くまで帰宅できない家庭も少なくありません。また、核家族化や少子高齢化も急速に進んでおり、大人と交流する機会がほとんどない子どもや、生活に困窮する高齢者が増加しているほか、長期にわたって引きこもる50代前後の子どもの面倒を80代前後の親がみなければならない「8050問題」も深刻化し、社会が直面する問題は年を追うごとに複雑になっています。
こうした状況を受け、那覇市でも多くの「子どもの居場所」が立ち上げられ、ユニークな活動を展開しています。地元で長年にわたり食堂を営んできた母娘や、子育てに悩んだ自分の経験から「家庭でも学校でもない、第三の居場所」をつくることを決意した女性、豊富なネットワークと知見を有する民生委員の経験者たちなど、運営者のバックグラウンドは居場所によって異なります。しかし、どの居場所の活動からも、社会福祉法人那覇市社会福祉協議会が運営する「糸」や「こども食堂サポートセンター那覇」に絶大な信頼を寄せ、密に連絡や相談をしながら取り組んでいる様子が浮かび上がってきます。
近隣の子ども食堂や自治体とも連携し、子どもに限らず保護者や高齢者も広く支援対象に入れ、世代を超えた学び合いの場をつくり、地域を盛り上げるとともに、現代ならではの課題に応えることでコミュニティの新しい見守りの形を実践しようと挑戦を続ける居場所の運営者たちに、それぞれの思いを聞きました。

コラム | こばんち | 母と子の居場所をつくりたい.pdf[外部リンク]
コラム | にじの森文庫 | 「生きる力を身に付けさせたい」 .pdf[外部リンク]
コラム | ほのぼのカフェ | 子ども食堂から始まるまちづくり.pdf[外部リンク]
コラム | にぬふぁぶし | たどり着いた「食支援ではなく学習支援を」という思い.pdf[外部リンク]
コラム | ワクワクゆんたく食堂 | 団地から広がる見守りの仕組み.pdf[外部リンク]
■ 事業基礎情報【1】
実行団体 | 一般社団法人 コミュニティシンクタンク北九州 |
事業名 | ⼦ども食堂ネットワーク北九州機能強化事業 |
活動対象地域 | 福岡県北九州市 |
採択事業 | 2019年度通常枠 |
■ 事業基礎情報【2】
実行団体 | 社会福祉法人 那覇市社会福祉協議会 |
事業名 | こども食堂等支援事業〈2019年度通常枠〉 |
活動対象地域 | 沖縄県那覇市 |
資金分配団体 | 一般社団法人 全国食支援活動協力会 |
採択事業 | 2019年度通常枠 |
一般財団法人ちくご川コミュニティ財団(福岡県久留米市)は、2020年度から福岡県久留米市を中心とした筑後川流域の実行団体の伴走を続けています。ちくご川コミュニティ財団 理事でありプログラムオフィサーでもある庄田清人さんは、理学療法士の経験から「評価は治療と表裏一体だった」と話し、治療と同じように事業にとっても評価が重要だと指摘します。社会的インパクト評価に対する考え方や、実行団体に「社会的インパクト評価」を浸透させるためのアプローチについて聞きました。(「資金分配団体に聞く社会的インパクト評価への挑戦Ⅱ」です)
ちくご川コミュニティ財団とは?
ーーまず、ちくご川コミュニティ財団のミッションや設立の経緯を教えていただけますか。
庄田清人さん(以下、庄田):ちくご川コミュニティ財団は、筑後川関係地域の市民・企業の皆さんの「人の役に立ちたい」という想いと活動をつなぐことをミッションに、市民や企業の方々が資金、スキル、情報等様々な資源を、筑後川関係地域の課題解決に取り組むCSO(市民社会組織)へ提供しています。CSOの方々と支援者の方々を繋ぎ合わせるプラットフォームの役割です。
私たちの財団がある福岡県久留米市は人口30万人ほどで、九州の中では比較的大きな中核市です。CSOは多いのですが、行政による中間支援が十分とは言えません。そこで、市民が主体的に公益を担う社会を実現するために、2019年8月にちくご川コミュニティ財団が立ち上がりました。福岡では初のコミュニティ財団です。

ーーなぜ団体の所在地である「久留米」ではなく、「ちくご川」を財団名にしたのですか?
庄田:九州最大の河川である筑後川流域は、生活や文化が重なっているエリアです。例えば、久留米市から佐賀に通う人も、その逆もいます。CSOの活動は行政区分を跨って生活圏に沿って行われていることが多いのに、私たちが活動対象とする地域を行政区分で区切ると、地域によって私たちの支援も区切られてしまって、連携や協働が起きにくいのではないかと考えました。そこで、「ちくご川コミュニティ財団」と名前をつけ、筑後川関係地域(佐賀、福岡、大分、熊本県)を活動地域としました。
実施している助成プログラムについて
ーー休眠預金活用事業への申請にはきっかけがあったのでしょうか
庄田:私たちは設立前からお隣の佐賀県にある佐賀未来創造基金をお手本にしていて、休眠預金等活用制度についても教えていただいていました。なので財団設立前から休眠預金活用事業にチャレンジしようと考えていました。2019年8月に財団ができて、その翌年にはチャレンジし、2020年度の通常枠で最初の採択をいただきました。
ーー現在、休眠預金活用事業で取り組まれている2020年度、2021年度通常枠の2つの助成プログラムについて教えてください。
庄田:2020年度の通常枠事業では、「子どもの貧困」「若者の社会的孤立」の2つのテーマで実行団体を公募し、2団体を選定しました。
1つ目は、久留米市内で貧困世帯の子どもたちに対して、無料の塾と食支援を10年以上やられてきた「認定NPO法人わたしと僕の夢」です。支援してきた子どもたちが高校入学後に退学や不登校になってしまう課題が見えてきたため、高校生支援をメインに居場所づくりやピアサポートなどに取り組んでいます。
2つ目は、朝倉市の中山間地域で児童養護施設を退所した後の若者たちをメインに受け入れる家づくりに取り組む「みんなの家みんか」です。自立援助ホームなどもありますが、年齢制限や様々な理由で退所してしまう若者に居場所を提供しています。また、豊かな自然資源を利用し担い手不足が深刻な一次産業の担い手になってもらうことも目指しています。

2021年度通常枠事業では、「学校に行けない、行かない子ども若者(所謂、不登校の子ども若者)」をテーマにしています。2021年度の不登校数は全国で24万人を超えてきていて、課題として大きくなっています。我々も地域の将来を考えた時に、その担い手となる子どもたちに学びや成長の場がないという状況は、喫緊の課題だと考えました。そのため、このテーマを選定し、案件組成を行いました。
公募した結果、フリースクールを運営している3団体を選定しました。
1つ目は、フリースクールを17年続けている認定NPO法人箱崎自由学舎ESPERANZAです。フリースクールの月謝は全国平均で3万3000円という文科省の調査結果があります。それが払えずにフリースクールに通えない子どももいます。通ってほしいのに通えない、そういった子どもたちに対しての家計支援制度を考えていくための調査研究事業に取り組んでいます。
2つ目は一般社団法人家庭教育研究機構で、学校の中に校内フリースクール立ち上げる事業を行っています。九州では初めての取り組みです。校内にあることで、長年、学校に行けてなかった子どもがそのフリースクールに通い出してすぐに普通学級にも通えるようになったケースもありました。この団体は、課題を抱える子どもたちにアウトリーチしていくために、学校外フリースクールや家庭への訪問活動も取り組んでおり、それに加えて校内フリースクールを立ち上げ、3本柱で活動を進めています。
3つ目の団体が、久留米市のNPO法人未来学舎です。このフリースクールは個性豊かな子どもたちを受け入れて、地域との関わりを大事にしながら、生きる力を育てています。音楽を通して子どもたちの成長を促すなど、ユニークな取り組みをしています。また、通信制高校のサポート校やカフェ運営による若者の就労支援など多様な方法で子ども、若者を支えています。

ー21年度は3つの実行団体が「フリースクール」という同じテーマで取り組まれていますが、20年度との違いはありますか?
庄田:どの団体も共通した課題意識を持っていることが大きいです。今年2月に事前評価のワークショップをやったのですが、実行団体同士での共通の悩み、課題感があるのですごく深いところまで意見交換をできました。ただ、三者三様に色が違う団体なので、資金分配団体としてどうまとめていくかが力の見せどころです。これがうまくいけば、フリースクールに通う子ども向けの経済的な支援制度についての道筋が見えたり、校内フリースクールが他の地域でも展開できる見通しがついたりするはずです。あと2年ですが、達成できそうなことが見えてきたのではないかと思います。
社会的インパクト評価は事業と表裏一体
ーー庄田さんはこれまでにも事業評価に関わった経験があったのでしょうか。
庄田:元々、私は理学療法士として働いていました。理学療法士の教育の中で1番最初に教えられるのが「評価」で、「評価は治療の一部」「評価に始まり、評価に終わる」とまで言われています。なので、休眠預金等活用制度でも「評価」も大事だと最初に聞いた時、人の体が事業に置き換わったということだなと納得感がありました。
例えば理学療法士だと、治療のために筋力トレーニングをする際にも、この負荷量だとこの人の筋肉は成長しない、というような評価をしつつ進めていきます。治療によってどんな変化が起こったかを見るのも評価の一つです。そういう意味で、「評価」と「治療」は表裏一体で当たり前にぐるぐる回しながらやっていました。
さらに2014年から2年間、青年海外協力隊としてアフリカのマラウイに行っていました。ワークショップなどで地域住民のニーズを引き出して、プロジェクトを企画運営していく活動です。その中で自分なりにロジックモデルに似たものを作り、事業をどう動かしていくか考えてきた経験も今に活きていると感じます。
ーー実際に社会的インパクト評価をやってみて、医療での評価と違う難しさはありましたか?
庄田:「人の体」と「事業」は、変数が違いますね。医療だと、僕が患者さんを一人で常に見ることができるので変化もわかりやすい。事業になると、人の体と違って、関わるステークホルダーがとても多く、組織自体の状況、財務的な状況などの変数も関わってきます。そのため例えば何か活動に介入をして変化が起こった時に、それが介入によって起こった変化なのかがわかりづらいという難しさは非常に感じます。
でも本質的には一緒です。その変数をしっかりと把握することが大事だと思っています。その変数の把握をするために、おそらく私たちPOの専門性が必要になってくるのではないかと思います。
ーー実行団体に対して評価の重要性を伝えるアプローチとして、どんなことをされていますか?
庄田:「評価」という言葉になるべく早く触れてもらうようにしていて、実行団体の公募の申請時点で、「評価」については必ずお話しています。「ロジックモデル」をやってもらうと、どの実行団体さんも「頭の中がスッキリした」と言われるので、これを入口に評価に入ってもらう流れです。本当は公募申請時の「ロジックモデル」の提出を必須にしたいと思っていますが、現在は「推奨」している状況です。
ただやはり、事前評価が終わるまでは、実行団体も頭ではわかっているけれど評価の有効性を実感することは難しいとも感じています。ただ、事前評価は重要だと考えているので、約半年ほどかけて事前評価をやりながら事業も実施してもらっています。評価は治療と表裏一体のため、事業(治療)を進めることによって新たにわかる対象者の変化を測定すること(評価)も重要視しています。なかなか厳しいですが、筋力をつけていくため負荷をかけて頑張ってもらっています。
ーー事前評価の後は、通常の活動の中でどのように評価を取り入れている状況でしょうか?
庄田:実行団体の皆さんは、評価に取り組むことで、必要なアンケートの設計や、参与観察などの調査方法が確実にできるようになってきています。アンケート一つでも、項目をどうするのか、どうやって収集するのか、どう結果をまとめるのかなど、かなりの要素があります。このような調査が定期的にやっていけるようになったのは、とても価値があることだと感じています。
最近は、評価の継続について考えています。休眠預金活用事業が終わった団体は、「評価」をやらなくなってしまうのではないかという懸念があります。マンパワーという課題以外にも、評価に取り組む動機づけも必要ですし、調査した結果をロジックモデルや事業設計に反映させていく際には壁打ち役も必要なので、助成終了後の伴走の仕組みがあってもいいのではないかと思っています。

地域の持続可能性向上のために、組織の成長をめざす
ーー最後に、今後どのように伴走されていくのかや今後の展望を教えてください。
庄田:「クールヘッド」と「ウォームハート」が絶対に必要だと思っています。根拠に基づかないウォームハートは、本当の優しさではありません。そこを大事にしながら、実行団体さんに伴走していきたいと思っています。中長期的には、この地域の持続可能性をどう向上するかが非常に重要だと考えています。子どもの貧困、若者の社会的孤立、不登校などの取り組んでいるテーマがそこにつながってくるのかなと思います。
実行団体の皆さんだけでなく、ちくご川コミュニティ財団自身が休眠預金等活用制度に育ててもらっていると感じています。休眠預金活用事業を行っている中で、「環境整備・組織基盤強化・資金支援」を私たちが継続的にできるようになっていけば、筑後川関係地域の市民活動は活性化できることが見えてきました。加えて、資金調達についてみると、休眠預金活用事業を始める前と比べると、我々の財団への寄付額が3倍になりました。長期的には私たちの活動を休眠預金等活用制度に頼らずにどうやっていくかということも考えなければなりません。この制度を通じて学んできたものを持続可能にするために、ちくご川コミュニティ財団自身も実行団体とともに組織として成長していきたいです。

■ 事業基礎情報【1】
資金分配団体 | 一般財団法人 ちくご川コミュニティ財団 |
事業名 | 困難を抱える子ども若者の孤立解消と育成 ~子ども・若者が学び、自立するための居場所とふるさとをつくる~ |
活動対象地域 | 筑後川関係地域(福岡都市圏及びその周辺地域) |
実行団体 | ・みんなの家みんか ・特定非営利活動法人 わたしと僕の夢 |
■ 事業基礎情報【2】
資金分配団体 | 一般財団法人 ちくご川コミュニティ財団 |
事業名 | 誰ひとり取り残さない居場所づくり<2021年度通常枠> |
活動対象地域 | 筑後川関係地域(福岡県、佐賀県東部、大分県西部、熊本県北部) |
実行団体 | ・一般社団法人 家庭教育研究機構・特定非営利活動法人 未来学舎・特定非営利活動法人 箱崎自由学舎ESPERANZA |
パブリックリソース財団は、休眠預金等活用事業の中ではまだ珍しい「組織基盤強化」に対して、資金分配団体として支援を行いました。