内 容
00:00:00 開会
00:00:12 開会挨拶
00:01:21 事業概要
00:07:50 11団体の事業報告
00:44:35 事業実施によって明らかになった事象や気付きに関する報告
00:56:10 本事業の特徴(JANPIAのプログラムオフィサーからの視点)
01:06:54 パネルディスカッション 「市域におけるコミュニティ財団と旧身預金活用」
01:47:09 閉会挨拶
主 催
公益財団法人 東近江三方よし基金 https://3poyoshi.com/
公益財団法人 うんなんコミュニティ財団 https://www.unnan-cf.org/
公益財団法人 南砺幸せ未来基金 https://www.nantokikin.org/
後 援
一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)
琵琶湖の東側、雄大な鈴鹿山脈の麓に広がる田園風景。滋賀県東近江市愛東地区では、町唯一のスーパーが閉店を余儀なくされ、地域内で不安の声が高まっていました。この危機感から立ち上がった愛のまち合同会社は、「地域住民による、地域住民のための、地域住民のお店」としてスーパーを再建することに。単に買い物をするだけでなく、“就業の場”や“憩いの場”としての役割も担い、ビジネス面の課題にも果敢にチャレンジしています。休眠預金活用事業(コロナ枠)の助成を受け、21年8月にスーパーを再開してから約1年半。これまでの取り組みから現在の様子について、愛のまち合同会社の業務執行役員を務める野村正次さんにお伺いしました。[コロナ枠の成果を探るNo.2]です。
町唯一のスーパーが閉店。コロナ禍で奪われた交流の場
町唯一のスーパーの再建に向けて設立された愛のまち合同会社のメンバーは、10年前に愛東地区で誕生した「あいとうふくしモール」の運営者でもあります。さまざまな機能を有する事業所が、ショッピングモールのように軒を並べ、地域の広範なケアのニーズに対応していくーーそんな思いから名付けられた施設でした。

「あいとうふくしモールには、私が経営する地元の野菜にこだわったレストランを始め、高齢者の介護支援をする事業所、障がい者の就労を支援する共同作業所が入っています。地域には公的な制度だけでは解決しえない暮らしの困りごとが少なくありません。制度の隙間を埋め、誰もが安心できる地域の拠りどころを作りたい。そのために各事業所が自らの特技や専門性を発揮し、助け合いながら安心のまちづくりに励んできました」

あいとうモールには、日々、地域の困りごとの声が集まります。
「愛東地区唯一のスーパーが閉店するらしい」。そんな噂が野村さんの耳に入ったのは、2019年の春でした。
「スーパーの経営するご夫婦がご高齢だったのと、設備の老朽化や消費税率の変更への対応から続けていくのが難しいと。閉店すれば近所での生活必需品の調達が難しくなるだけでなく、そこで生まれていた地域内の交流がなくなることへの不安の声が大きかったのです。地域の高齢化率も33%と深刻で、車を運転できない人にとっては隣町のスーパーはおろか、地域内のスーパーに通うのもひと苦労です。その上、コロナ禍で地域内の交流は激減。これを機に改めて町の将来を考え、総合的に地域の課題に向き合う必要性を強く感じました」
愛東地区の人口は485人、世帯数は1,650世帯(2023年5月1日時点) 。野村さんいわく、「2005年の市町村合併後、人口は約2割も減少した」そうです。

危機感を覚えたあいとうふくしモール内の3事業所代表が発起人となり周囲に協力を呼びかけたところ、愛東地区まちづくり協議会や自治会の関係者、商工業者らが集合。スーパーが閉店する1ヶ月前から議論を始め、地域の課題を整理し始めました。
「早急に取り組むべきは、やはり暮らしを支えるスーパーを再建し、住民の安否確認も含めたコミュニケーションの場を取り戻すこと。ただ、単に買い物をする場所ではなく、地域内の雇用や交流を促進し、防災の拠点にもなるスーパーにしようと決まりました。」
老朽化した部分のリフォーム、トイレや交流スペースの新設……。スーパーの再建にはまとまった資金が必要だったため、まずは地域内で寄付を募ることに。目標額の300万円に対して、集まった寄付は830万円にもなりました。

地域住民からの大きな期待に必ずや応えたい。寄付以外の資金調達の道を模索する中、地元の公益財団法人 東近江市三方よし基金が休眠預金活用事業の2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成の公募が始めたと知り、申請したのでした。
スーパー再建後、少しずつ戻ってきた愛東地域の「日常」
休眠預金活用事業として採択されたのち、野村さんらは着々と準備を進め、当初の予定通り、2021年8月に新しいスーパー「i・mart(アイマート)」をオープンします。

中には買い物ができるスペースのほか、テーブルやカウンター席のある交流スペース、トイレを新設。交流スペースではコーヒーやお茶が飲めるほか、定期的に講座や作品展などのイベントが催され、参加者が帰りに買い物をしていく様子も見られます。
加えて、移動販売用の車や宅配用の電動バイクも購入し、地域に22ある自治会すべてに週1回は必ず訪問。特に山間部の地域は、移動販売に行くたびに利用者が増えてきていると言います。
「スーパーには、なるべく地域内で作られたものを置くように意識しています。少しでも地域内でものやお金、人が循環する仕組みが作れたらいいなと。あいとうふくしモールでは、社会参加が難しい若者の就労を支援するため、若者たちと一緒に農産物を育てたり、梅干しや味噌などを手作りしてたり、それらを使って『あいとうむすび』というおむすびを作っています。地元の先人から知恵や技術を継承する機会にもなってますし、アイマートに出荷し商品を陳列する中でお客さんとも触れ合い、自分たちの作ったものが売れる喜びも実感しているようです」

嬉しい変化はそれだけではありません。スーパーのオープン日に野村さんはある光景を目にします。家族に連れてきてもらった高齢のおばあさん二人が偶然にも再会した様子で、「久しぶりに会えたね」と嬉しそうに会話をしていたのです。
「愛東地区ではしばらく見られなかった光景を目の当たりにして、胸がじんわりと熱くなりました。ここまで頑張ってきて本当によかったなと。また、小学生や中学生が放課後に来て交流会スペースで話したり、ゲームしたり、再建前に比べて家族づれも増えました。前の経営者が『客層が変わったね』と言うくらい、幅広い世代が利用しています」
コロナ禍で失われていた愛東地区の日常が、少しずつ戻ってきている。再建前から思い描いていた姿に近づきつつあるi・martを前に、野村さんは確かな手ごたえを感じています。
身近な応援者の心強さ。再建後の期待に応え続けるために
「まちづくりに関わる事業に携わって長いですが、今回のような事業を支援してくれる助成金はあまり多くありません。その点、今回の助成事業は支援対象の幅が広く、使用用途の制限も固くは決められていなかったのがありがたかったです。何にいくら使ったかということだけでなく成果を重視し、また、それを支援してくれる資金分配団体が身近にいるのも心強かったです」
新型コロナウイルス対応緊急支援助成について、野村さんはこう評価します。
「いくら地域のためとはいえ、民間会社がスーパーを作る事業に助成していただくのはなかなか難しいと思います。それが実現したのは、創業当初より東近江市の活性化を目指して活動しているコミュニティ財団である東近江三方よし基金さんが、私たちのコミュニティマートをこの地域に必要な事業だと評価してくださったからです。事業期間中はもちろん、期間が終了したあとも定期的にアドバイスをくださって。おかげさまでスムーズに事業に取り組むことができました」
スーパーの再建から約1年半。最近は、地域のさまざまな団体がi・martを盛り上げるために力を貸してくれています。秋には地域の支援団体が焼き芋を販売したり、年末には自治会のグループが年越しそばを振る舞い、正月には餅つき大会が開催されました。

活気づいてきた反面、課題もまだまだあります。
「開店直後は多くのお客さんに来ていただきましたが、『商品の充実さに欠ける』『前のスーパーとは違う』『接客が悪い』などのご指摘を受け、一度は客足が遠のいたこともありました。コミュニティマートとはいえ、やはり商売は商売です。地域の人たちの支援や期待に甘えるのではなく、商売として成り立つための訓練は必要だなと感じています」
一ビジネスとしても成長するため、2022年10月からは年中無休だったのを第1日曜日のみ休業に変更。職員研修の機会に充てています。
「年商1億円を目指して1日30万円の目標を設定していますが、移動販売も含めて現在は25万円。あと5万円をどうアップするかが課題です。その一歩を築くために、1番の売れ筋である手作りの惣菜や弁当の売り上げ強化を掲げています。売上も含め、スーパーの目標地点にたどり着くために、誰が何を担当すべきかを見立てて実行に移しています」

意識は行動に表れ、行動は結果に結びつく。それを証明するかのごとく、職員研修を始めてからは、売上も伸びてきたと言います。
当然、求めるのは売上ばかりではありません。今後、i・martをどんなスーパーにしていきたいか? 野村さんは、最後にこんな言葉を残してくれました。
「正直、お客さんにとってはスーパーとして常に一番手である必要はないと思っているんです。普段は隣町の大型スーパーを利用する人にとっては、三番手、四番手の存在になってもいい。ただ、『ちょっと日用品が切れてたから』とか、小さなことでも困ったときにときに、地域の誰もがいつでも利用できる、そんな安心な場所でありたいなと思っています」
【事業基礎情報】
実行団体 | 愛のまち合同会社 |
事業名 | 店舗再生による持続可能な地域課題の解決 |
活動対象地域 | 滋賀県東近江市 |
資金分配団体 | 公益財団法人 東近江三方よし基金 |
採択助成事業 | 2020年度新型コロナウイルス対応支援助成 |
「働く」をキーワードに、生きづらさを抱える人と地域をつなぐ一般社団法人Team Norishiro(チーム のりしろ、以下「Team Norishiro」)。そこでは、生きづらさを抱える当事者が「働きもん」として薪割りや着火材作りの仕事をしていくことで、他者と関わりながら自分の働き方や生き方を見つけています。生きづらさを抱える当事者を変えようとするのではなく、当事者を受け入れる社会や地域の「のりしろ」を広げ、生きづらさを抱える人を知る、人を増やす──。そんな思いで続けてきたTeam Norishiroの活動について、代表の野々村光子さんにお話を伺いました。”
制度のはざまにいる「働きもん」たち
Team Norishiroに集う人たちは、生きづらさを感じて孤立している人、家から長年出られずコミュニケーションが苦手な人、障害がある人など、抱えている困難は人によってさまざま。支援する対象には、障害者手帳を持っていることなどの明確な「条件」はありません。既存の制度のはざまで孤立した人の手を取ろうとしている点が、Team Norishiroの大きな特徴です。
なぜそのように、誰でも支援対象とする活動に至ったのでしょうか。

Team Norishiroの野々村光子さんは、障害がある人の就労を支援する「東近江圏域働き・暮らし応援センター」のセンター長を務めています。このセンターが立ち上がってから、「センターとして手を握ろうとすると、制度上、応援していい人と応援できない人がいる、と気付きました。」と野々村さんは振り返りました。
企業の障害者雇用率を上げることを最終目標にした障害者就労支援の制度では、基本的に「障害者手帳も持っている人」が支援対象の中心とされています。
一方で、野々村さんがセンターで相談を受け始めると、当事者家族や民生委員の声を通して、障害者手帳を持っていないけれど家にひきこもっている人や、会社に馴染めず転職を繰り返している人の存在が見え始めたのです。そのような人たちは、当時の働き・暮らし応援センターによる支援の対象に入りませんでした。
それならば、と野々村さんたちが立ち上げたのが、任意団体の「TeamKonQ(チーム困救(こんきゅう)」でした。地域の困りごとを集約しそれらを仕事として、社会から孤立している当事者に取り組んでもらいます。当事者一人ひとりを「働きもん」と呼び、仕事を通じて当事者の人柄やスキルを発見していくチームです。
「平均で20年ほど自宅のみで生きて来た彼らが、本来はどんな人なのか? どんないいところを持っているのか。面談や訪問での支援方法だけでは、わかりません」
TeamKonQで仕事をつくる過程で、薪と薪ストーブの専門店「薪遊庭(まきゆうてい)」社長の村山英志さん(Team Norishiro代表)をはじめとした、地域の「応援団」の輪も広がっていったといいます。
「TeamKonQの活動の対象者は、誰でも。そんな『ようわからんこと』に、村山さんたちが賛同してくれて。社会の穴に落ちてしまう人はこれからも増えていくだろうし、同時に地域の困りごとも増えていくから、この活動を継続させていこうと思っています」
就労を促すよりも、「手伝ってくれんか?」と声をかける
TeamKonQで薪割りに取り組んだ背景には、2010年に東近江市で「緑の分権改革推進事業」として実施された、地域の雑木林から自然エネルギーを生むまでの実証実験が関係します。その過程の薪割りは、村山さんが自ら手がけても、働きもんがやっても結果は同じ。それなら、働きもんに仕事にして関わってもらえばいい、と村山さんが野々村さんに相談したことがきっかけでした。
薪割りの活動の継続性を高めるために、2020年には一般社団法人化し、「Team Norishiro」を立ち上げ。「のりしろ」という名前に込めた意味について、野々村さんはこう話します。

「生きづらさがある人に社会や学校教育が求めるのは、本人の『伸びしろ』。本人が変わっていく前提で考えられているから、家から出られたら次は仕事、と当事者は次々にステップアップを求められる。でも人間は本来、ステップアップするために生きているわけではないですよね。
働きもんが、無理に自分を変える必要はないんです。むしろ社会の側が働きもんを受け入れられるような『のりしろ』を少しでも広げることで、働きもんと関われる重なりができる。そうすれば、社会の穴に落ちてしまっている人たちと手を握っていくことができると思います」
今では薪割りだけでなく、地域で出る廃材を活用した着火材作りにも取り組みます。薪割りよりも体力の必要がなく、作業工程が明確なので、働きもんが参加するハードルを下げられたそう。
福祉の視点から立ち上げられたのではなく、「雑木林をどうしたらいいだろう」「この廃材、なんとかならんか」と地域の課題を持ち寄って集まった人たちが始めた活動。「そこで働きもんが中心になって、地域にあるさまざまな課題が解決されて、活動が広がっている。すごく珍しいケースだと思いますね」と野々村さんは語ります。
では「働きもん」は、どうやってTeam Norishiroの活動に参加するのでしょうか。
例えば、野々村さんのいる働き・暮らし応援センターのもとに、息子がいる80代の女性から相談が入ります。「うちの息子は10年間、家にいる。息子が一人になったとき、息子は働けるんやろか」。その相談を受けて、野々村さんが本人を訪問します。そのとき、企業への就労については触れません。
「着火材を作っているんやけど、コロナ禍でバーベキューがブームになっていて、すごい売れている。暇なんやったら、世間のために着火材作りを手伝ってくれんか?」

誘われた本人は「着火材ってなんですか?」と興味を持ち、Team Norishiroの仕事現場に通うようになる。そこから人と関わるようになり、働き・暮らし応援センターの支援にもつながっていく。そんなケースが多いそうです。 「ポイントは、『ひきこもり支援をしています』などと発信しないこと。福祉や就労支援をキーワードに掲げてしまうと、当事者は来てくれなくなります。ただ単純に『そこにいけば仕事がある』という環境づくりをする。私たちの活動を地域の口コミで広げてもらうことで、これまで私たちが出会えていない人にも届けたいです」
成果指標は「当事者を何人が知っているか」
Team Norishiroでは2020年4月、資金分配団体「信頼資本財団」から実行団体として採択され休眠預金活用事業をスタート。
薪を配達するためのトラックを買い替えたり、冷房がなくて作った着火材が溶けてしまうこともあったため作業場所の設備を改修したりと、活動を続けていくために必要不可欠な基盤を整えました。
休眠預金活用事業の特徴は、活用の対象になる事業に、既存の制度の裏付けがいらないこと。Team Norishiroのような、既存の制度のはざまの人たちへの支援活動にも活用が可能です。
「生活に困窮している人、自死のリスクがある人、障害がある人のように、困っている理由は人それぞれ。しかし既存の制度を使うと、支援の対象がどうしても限定されてしまう側面があります。全面的にバックアップしてくれる休眠預金活用事業は、支援対象への考え方が違いました」
休眠預金を活用した結果、2020年からの2年間で、総勢56人の働きもんが仕事に参加。そのうち14人は、地域の企業への就労にもつながりました。
しかし、Team Norishiroでは「何人が就職できたか?」よりも大切にしている成果指標があると言います。それは、「1人の働きもんを、何人が知っているか?」という指標です。
「最初に当事者の親御さんから相談を受け、私が会いに行くと、本人を知っている人が親御さんと野々村の2人になります。着火材の作業に来てもらうと、他の働きもんたちがその人のことを知ります。さらに、働き・暮らし応援センターのワーカーが、具体的な支援策を組み立てながら、その人のことを知っていくんです」
結果、本人は頼まれて着火材作りに来ているだけで、当事者の人生を知る人が増えていく。その成果指標を重視しながら、当事者が社会や地域と関わる「のりしろ」を広げています。
さらに働きもんを見守っているのは、一緒に働くメンバーだけではありません。薪や着火材の購入、資材の提供などを通して働きもんの活動を応援する「応援団」が、この2年間で約250人も増えました。
応援団を増やすために重要なのは、ストーリーの発信だと言います。働きもんを単純に「障害者」「ひきこもり」と括るのではなく、一人の働きもんの物語を丁寧に伝え、物の購入を通じてその背景にいる働きもんにも思いを馳せてもらう発信を心がけます。

Team Norishiroの発信の先に思い描く未来について、野々村さんはこう語ります。
「働きもんは、『失敗した人』でも『残念な人』でもない。発信を通じてそう伝え続けると、その発信を受け取った人が、『親戚でひきこもりの子がいるけれど、残念な子ではないんや』と気づける。それが、孤立しそうな人と手をつなぐ一歩目になります。
私たちの活動を知った方から『のりしろ』が広がっていったら、それが最終目的と言っても良いかもしれません」
古民家を、地域におけるセーフティネットに
Team Norishiroではこれまでの活動に加えて、2021年3月からは資金分配団体「東近江三方よし基金」の採択事業として、集落にある古民家の改修と活用の事業も始めました。
コロナ禍で、社会の穴に落ちた人たちの声はさらに外に出づらくなった今、家庭内での障害者への暴力が発生していたり、外出を控え続けて餓死寸前になっていたりと、厳しい状況が生まれています。 これまで「働く」をキーワードとしてきた野々村さんは、「職場」だけではない「誰かが自分のことを知っている場」が、地域に必要だと感じ始めました。 そうしてスタートした古民家の改修事業では、古民家を「大萩基地」と名付け、誰でも利用できるスペースにしました。すでに、福祉業界の若者の勉強会、行政の職員のひきこもり支援の勉強会、当事者の働きもんが集う会など、多様な使われ方をしています。

「今後は、とりあえず大萩基地まで行けば誰かに会えて正しい情報をもらえたり、ご飯が週1回でも食べられたりして、『困っています』と手を挙げなくても命が守られるセーフティネットをつくりたいです」
同時に、大萩基地が「一人暮らしの訓練場所」として機能することも目指しています。
障害者のグループホームにはショートステイの制度があり、一人暮らしの練習が可能です。ただ、ショートステイの制度は福祉サービスなので、障害者手帳が必須。働きもんの中には、障害者手帳がなかったり、あっても隠したい人がいたりするため、制度の活用が難しい状況にあります。
そんな働きもんに「お母さんがずっと料理しているのを見てきたんだから、一緒に一回作ってみよう」と誘って、大萩基地で食事を作ってみる。「できるやん。1人で暮らせるやん」と練習を重ねる。そんな使い方を考えているそうです。
Team Norishiroの活動をサポートしてきた資金分配団体「東近江三方よし基金」の西村俊昭さんは、働きもんの一人に「地域で暮らすために必要なもの」を尋ねた際の答えが印象的だったと話します。
「『困ったときに声をかけてくれる人が一人でもいたら、生きていける』という答えがありました。大萩基地や応援団の存在によって、一人の働きもんでも『あそこがあるから何とかなる』と思える活動になっていたら嬉しいです。それに、同じような活動を他の地域でも実現できるんじゃないかと思います」(西村さん)

最後に、Team Norishiroのエンジンであり続けてきた野々村さんに、今後の目標を聞きました。
「我々がやっていることはまだまだ、特別なことだと思われてしまいます。これを、特別じゃないものにしたい。そのために、困難を抱えている当事者ではなく、当事者とともに生きる地域や社会を変えていきたい。
あとは、活動を続けることです。休眠預金を活用して活動の基盤が整ったので、そのときにできるベストな活動を見つけて、継続していきたいです」
【事業基礎情報】
実行団体 | 一般社団法人 Team Norishiro |
事業名 | 「働く」をアイテムに孤立状態の人と地域をつなぐ |
活動対象地域 | 滋賀県 |
資金分配団体 | 公益財団法人 信頼資本財団 |
採択助成事業 | 孤立状態の人につながりをつくる <2019年度通常枠> |
実行団体 | 一般社団法人 Team Norishiro |
事業名 | 空き家を活用して命を守りつなぐ場づくり |
活動対象地域 | 滋賀県東近江市 |
資金分配団体 | 公益財団法人 東近江三方よし基金 (東近江・雲南・南砺ローカルコミュニティファンド連合 コンソーシアム幹事団体) (コンソーシアム構成団体: 公益財団法人 うんなんコミュニティ財団、公益財団法人 南砺幸せ未来基金) |
採択助成事業 | ローカルな総働で孤立した人と地域をつなぐ ~日本の変革をローカルアクションの共創から実現する~ <2020年度通常枠> |
現在JANPIAでは「資金分配団体の公募〈通常枠〉」を実施中です。2021年度 資金分配団体の公募〈通常枠〉の申請をご検討中の皆さま向けに、20年度資金分配団体である公益財団法人 東近江三方よし基金 事務局長・常務理事 山口 美知子さんにお話を伺いました。
東近江三方よし基金 休眠預金活用事業 基礎情報

【採択事業】
<事業名>ローカルな総働で孤立した人と地域をつなぐー日本の変革をローカルアクションの共創から実現する
<コンソーシアム構成団体>(公財)東近江三方よし基金、(公財)南砺幸せ未来基金、(公財)うんなんコミュニティ財団
・2020年度 通常枠 草の根活動支援事業(全国)〈コンソーシアム申請〉
・2020年度 緊急支援枠
<事業名>東近江・新型コロナ対策助成事業-活動・団体支援でコロナ禍を乗り越える
・2020年度 緊急支援枠(随時募集・第2次)
<事業名>東近江・ポストコロナ対策助成事業-コロナ禍で持続可能なまちづくりを目指して
休眠預金活用事業に申請した背景を、自団体の活動と合わせて教えてください。
私たち東近江三方よし基金は、滋賀県東近江市を対象エリアとして応募しようと考えていました。
小さな市を対象にすることにこだわったのは、私たちのような小さな団体だからこそ、地域課題と向き合う団体の方々と顔が見える関係性を築けているからです。コロナ禍というのもあり、新たに生まれた地域の課題にどんどん気付いて、何とかしなければならないと声を上げてくださる団体がたくさんおられ、私たちは何とかそれを実現してもらいたいと考えていました。しかし、小さな市である私たちだけで休眠預金活用事業に申請をするというのはとても勇気のいることでした。
そんなとき、小さな「市」という単位で財団法人を作っている富山県南砺(なんと)市の(公財)南砺幸せ未来基金、島根県雲南市の(公財)うんなんコミュニティ財団の皆さんとご縁をいただき、東近江の現状をお話ししたところ状況も想いも同じでした。そこで、それぞれの地域で課題に向き合っている活動、特に孤立している方々を何とか救い出せるような活動を応援していこうと、3つの団体によるコンソーシアムで、この休眠預金を使った活動にチャレンジすることになりました。
公募申請の準備ではどのようなことに力をかけましたか。
実は、申請書類を作るのにはとても時間をかけています。もちろん、申請書類に記載されている項目を埋めることに時間がかかるわけではなく、この書類に「どういうことを書くべきなのか」ということをまとめることに注力しました。
事前に地域の皆さんにヒアリングをしながら、実際に地域で今何が起きているのか、例えば「誰がどんなことに困っていて、それらを誰がどんなふうに解決しようとしているのか」というようなことを伺い、申請のためのテーマや具体的な活動を想定するなど、お話を伺った皆さんのさまざまな声を取りまとめるといったことに、とても労力を割いた記憶があります。申請書の内容に、どれだけの具体性を持たせるかが重要になると感じています。
休眠預金活用事業(2020年度通常枠)に参画し、自団体や支援先に起きている変化、変化への期待がありましたら教えてください。
実行団体が決定し、それぞれの市での活動が始まってきました。私たち東近江の実行団体の皆さんと話をしていると、‘これまで自分たちだけが気づいた課題に対して、自分たちだけで活動をしてきた’ことに対して、今回、休眠預金を活用した助成を受けられたことが、まずスタートする段階で活動する皆さんのモチベーションを上げることに貢献しているなと感じています。
モチベーションが高まった状態で、改めて実行団体が向き合おうとしている課題に対するリサーチ、具体的な事業計画やロジックモデルづくりに一緒に取り組み、1年後、2年後の自分たちの活動もより明確になってきたことで、難しい壁を一つずつ乗り越えていこうとしている姿勢が、以前より強く感じられるようになりました。ここは既に起きている変化として注目しています。
JANIPIAの皆さんをはじめ、活動支援をする多くの方々のサポートによって助成事業をはじめられたことが大きなきっかけとなって生まれた変化が、今後も同様に続いていくことを期待しています。
助成事業を通じて、よかったこと、苦労していることはどんなことがありますか。
これまでとても熱心に活動をされていた方々に、「新しいチャレンジをするきっかけを貰った」とおっしゃっていただくことができました。加えてこれまで活動が活発でなかったエリアで、「実はこれまで地域の困りごとを解決するために議論はしていたけれど、なかなかそれを実現するきっかけがなかった」とおっしゃっていた方々が、思い切って公募に手を挙げてくださいました。私たちが資金分配団体に採択されたことで、地域の皆さんがさまざまなことにチャレンジできるようになったことが、何よりよかったことです。
同時に、コンソーシアムを組ませていただいたことで不足がちであった他圏域の事例などもお互いに学ぶことができ、コンソーシアムの定例会議でも、具体的にどんな活動をそれぞれの地域でやっていけばよいのかという話し合いから多くの学びが得られています。
苦労している点はコロナ禍の下での遠距離でのコンソーシアムの運営です。もっとお互いが現地に行き来をしながら実行団体を直接つなぐなど、現地での学びあいを増やしたいのですが、それが出来ていません。でも、状況を見ながら実現をしていきたいと考えています。
休眠預金活動事業は事務手続きが煩雑だという声もあります。現場ではどのようにお感じになりますか。
休眠預金活用事業は新しいしくみということもあり、いろいろと煩雑に感じる事務手続きもありますが、それを何とか改善しようとJANPIAの皆さんが私たちのような資金分配団体の声を聴きながら、現在進行形で改善を進めてくださっています。
事務手続きが地域の課題に向き合う中で乗り越えられないほどの煩雑さかと問われたら、そうではないと私たちは感じています。地域に起こっている課題が深刻で「何とか解決していかないといけない」という想いが強いので、その課題を解決するために助成を受けられるのであれば、多少の煩雑な手続きは乗り越えられないものではないですし、JANPIAのPOの方にも助けてもらいながら行っています。

休眠預金活用事業を経て、3年後・5年後にどのような社会にしていきたいですか。
地域の課題に向き合い解決をしていくということが休眠預金活用事業の趣旨ではありますが、同時に活動をしている皆さんやその周囲の方々の「生きがい」にもつながっています。地域の困っている方を助けることはもちろん、自分自身がやりたいことを実現させることなど、「いろいろな思いを諦めなくてよい社会」になっていくことを望んでいます。
また、地域課題に向き合ってくれるPO(プログラム・オフィサー)や団体が全国に増えていってほしいと思っています。全国にある小さな課題にも大きな課題にも、耳を傾ける人が増えていけばいいなと思います。
申請をご検討中の団体の皆さんに、メッセージをお願いします。
私たちは3つの市域でコンソーシアムとして申請をしましたが、日々の活動を通じ、やはり市単位だからこそ見えてきたことや聞こえてきた声というのが本当にたくさんあると実感しています。
現場の声を聞きながら、地域課題を解決したい、何とかしたいと考えられている方々は、この3市域だけではなく全国の市町村、さらにもっと小さな単位の地域にもたくさんいらっしゃると思います。そんな皆さんの活動が実現できるような資金分配団体が全国に増えていくと、仲間が増えたような気がしてありがたいなと思っています。それによって小さな地域であっても諦めずに、誰ひとり取り残さないための課題解決を実現していこうという仲間が増えて欲しいと願っています。
小さな地域、また小さな組織だからと諦めずに、ぜひ手を挙げてチャレンジをしていただきたなと思っています。
〈このインタビューは、YouTubeで視聴可能です! 〉
※動画では時間の関係でカットとなったお話も、記事に含んでいます。
※この動画は公募説明会で上映したものです。
(取材日:2021年5月13日)
【本記事に関する問い合わせ先】JANPIA 企画広報部 info@janpia.or.jp