現在JANPIAでは「2021年度 資金分配団体の公募〈通常枠・第2回〉」を実施中です(公募締切:2021年11月30日17時)。申請をご検討中の皆さま向けに、19/20/21年度資金分配団体である公益財団法人 長野県みらい基金 理事長 高橋 潤さんにお話を伺いました。
休眠預金活用事業に申請した背景を自団体の活動と合わせて教えてください。
長野県みらい基金は2012年に寄付を集め、NPOや市民活動へ支援をすることを目的に設立されました。ですので、公益活動に対して資金を見つけてお渡しする、というのは本業でした。所属している全国コミュニティ財団の研修などでも、助成事業のあり方などを共有していく中で、休眠預金活用のロビー活動や法整備などを知り、手を挙げることにしました。手を挙げる際、地域のコミュニティ財団として、いわば地域の目利きとして、その背景、課題から申請内容を絞り込みました。
具体的には、寄付募集サイト「長野県みらいベース」を6年間運営してきて見えてきた地域課題、「こども若者支援に関する実態調査」から見えてきた課題と団体のその姿、長野県内のこども支援ネットワーク構築から見えてきた課題、資源。また、具体的な伴走支援の必要性が見えてきました。
例えば、2017年には長野県が実施した「子育て家族実態調査」の生データを使って、県内各地でNPOの方々と読み解き会を十数回行いました。その中で、「行政がやっている子育て支援が、家庭・こどものニーズとマッチしていない」「市町村の支援施策がいわゆるグレーゾーンの家庭に届いていない、あるいはその家庭の方々がその施策を使っていない」ということが見えてきました。また、「こども支援は親支援であるはずが、こども、親とばらばらになっている」「親へのアプローチが非常に少ない、あるいはできていない」という課題も「子育て家族実態調査」の読み解き会で見えてきました。
休眠預金活用事業の申請に対応するかたちでも長野県各地でヒアリングを開催しました。6地域で56団体の参加があり、様々なニーズ、またそれぞれの団体が抱えている課題、また地域の課題等が見えてきました。
木曽地域では、山間地であるがゆえに本来の対象者に対して支援が届けられない、というような声が聞こえました。松本地域では、地域の空き家など負の資産を活用してコミュニティづくりをしたい、という声がありました。伊那地域では、中山間地での引きこもり等のこども・若者の居場所を作りたいけれどすごく難しい、という声が聞かれました。全県を通じて、障害者や引きこもりのこども・若者の地域参加の機会を作りたい、といった声を多く聞くことができました。
そういった地域の具体的なニーズ、課題を深堀りする中で申請内容が固まってきました。
実行団体の公募について丁寧に進められたとうかがいました。取り組まれたことを教えてください。
この後お話する伴走支援ですが、実は公募開始前から始まっていると思っています。
2019年度では、まだコロナの影響がなかったので、広い長野県ですが4ヶ所で会場を使って説明会を開きました。
説明会の内容は、実行団体公募について基本的なこと、長野県みらい基金がJANPIAに対して申請した事業内容について説明しました。また、具体的な長野県内の公募内容についてご説明しました。もうひとつ、その当時なかなか耳に聞かなかった事業評価、社会的インパクト評価についても一部、二部ということで説明をさせていただきました。
説明会場での時期を見ながら、スケジュールとして開始から申請締切までできる限り長い時間を取ろうと思いました。何故かというと、事前相談を積極的にしたい、そういう呼びかけをしたい、ということがあったからです。
結果、延べ、29団体。1回の面談が21団体、2回面談した団体が7団体、3回面談した団体も1団体ありました。最終的に、実際の申請は18団体ありました。
申請後ヒアリングが、次の大事な支援となります。
共通の訪問調査表を元に、申請書では読みきれない項目。例えば、実際の事業を行う人や代表者の話し方や人となり、その関係性なども現場に行って感じ取ります。また、事務所の雰囲気も重要です。実際の事業をする場所にも案内してもらい、その事業のニーズの確認、対象者の想定の妥当性、実現性、重要性などを現場に行って肌で読み取ってきました。
訪問してのヒアリングシート、それぞれの申請書、団体の関連資料を元に、審査会資料作成のために事務局側の読み解き会を行いました。
宮城の先輩コミュニティ財団である、さなぶりのPOに来ていただき、長野県みらい基金のPOと一緒に丸二日かけて、申請書などの読み解きをしました。POそれぞれが、それぞれの申請に点数、懸念点、良い点などを記したものをそれぞれ発表、集計し、POとしての視点、客観性、共感、事業の将来性などを検討していきました。そうした中で、客観的な審査会用のヒアリングシートができました。
実行団体の伴走支援の内容や工夫を教えてください。
他の資金分配団体はいわゆるウェブのチャットツールなどを活用していらっしゃる、ともお聞きしていますが、長野県は非常にアナログです。2019年度はPO2名が中心となりながら、全員で伴走支援に取り組みました。広い長野県ですが、丁寧に現場を訪ね、たくさんお話しし、一緒に見守り、ともに育つ、という姿勢でした。全体を見るチーフは私がしながら、もうひとりのPOと更に2名に、地域や事業分野の傾向を見ながら担当をしてもらいました。
たとえば農福連携の事業には農協出身のスタッフを。また、地理的な条件も考慮しました。全国区でない地域に根ざした資金分配団体であること、また、申請書にもそこを大きな訴求ポイントにしていましたので、しっかりとした布陣で行いました。担当が随時連絡をとったり実行団体を訪問して、顔の見える関係性を作り、事業の成功への実行力のみならず、リスク管理への備えもしていきました。
また、評価、ファンドレイジングには専門家も支援チームに加わってもらい、出口戦略も見据えました。
実行団体と私たちは、ある意味運命共同体、パートナーなわけです。家族であり、友人であり、共同経営者です。ですので、伴走支援はいわば、日常の関係性の中から感じ取ることが一番重要だと私は思っています。そして、うまく行っているときは、一緒に喜ぶ。困ったときは一緒に悩むことが大事だと思います。
助成事業を通じて、よかったこと、苦労していることはどんなことがありますか。
1年半が過ぎ、今、中間評価のまとめの真っ最中です。順調に行っている事業ばかりではありません。特に、2019年度事業はコロナを想定していない時期の事業計画、資金計画ですので、スタート直後、いきなり事業計画変更、コロナ対応の資金提供など、それもこれも私たちも実行団体も、もちろんJANPIAさんも初めてのことばかりで、その場で検討、対応、相談しながら、悩みながら手探りで行ってきました。
現在、事業の折り返し地点で、多くの団体はここまでで経験し学んだ中で、あと1年半の事業の道筋を見極めて、進んでいます。「足りないところを補う」「うまく行っているところをより厚くする」「困っている人へより活動が届くよう、居場所で待っていた事業をアウトリーチ型に変更する」など、皆が学びながら、「困っている人をより支える」「地域を少しでもよくする」「そのために変えていく」という力が強くなっているのを感じます。
嬉しいのは、それぞれの事業・団体の連携が生まれてきていることです。もちろん、私たちが連携の糸口を作ったり、関係づくりの場を作ったりもしていますが、それぞれの団体が足りないところをより強みのある団体がつながることで補い、そうすることで困難を抱えている人たちへのより丁寧でしっかりとした支援が生まれています。地域同士の支え合いができてきていることが、本当に頼もしいと感じています。
申請を考えている方へメッセージをお願いします。
皆さんが助成をしようとしている対象の方々を、是非とも強く想ってください。その方々がどういう事業に対してどういうアプローチをしているのか、どういう対象の人たちに対して何をやりたいのか、ということを資金分配団体がしっかり知ることで、いわゆる良い公募案件が生まれるのだと思います。普段皆さんがやっていることの足元をもう一度見つめ直すということで、いい申請ができるのではないかなと思っています。
〈このインタビューはYouTubeで視聴可能です!〉
※この動画は公募説明会で上映したものです。
(取材日:2021年10月25日)
▽長野県みらい基金の採択事業はこちらからご確認いただけます。
資金分配団体である『認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ』は、新型コロナウイルス対応緊急支援助成で実施する「子どもの居場所作り応援事業」をともにする5つの実行団体を巡り、日頃の活動状況や課題点などについて話す場を設けました。今回は、実行団体の1つである長野県の『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』の皆さんとオンラインで実施した「これまでの活動の振り返りや、途中経過の報告会」の様子をレポートします。”
原点へと立ち戻ることで意識を改革。 諏訪圏域ならではの草の根的支援活動

日本各地にある約5,000か所ものこども食堂の活動支援を行っている 『認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むずびえ』。休眠預金活用事業にて、コロナ禍でも日頃からの繋がりを生かし、創意工夫で活動するこども食堂を包括的に支援するために、各地域のこども食堂ネットワーク団体とともに活動をしています。
また実行団体の一つである『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』は、長野県の諏訪地域のこども食堂、そして子どもたちの居場所づくりを推進し、「子どもの成長を見守る地域づくり」を目指しています。プラットフォームには、子どもたちの居場所などを運営する団体をはじめ、子ども支援をする団体、自治体、地域における民間の福祉活動を推進する社会福祉協議会、地元企業、さらに個人的に取り組んでいる方などが参画。活動する団体や個人との連携体制を作っています。
諏訪圏域での休眠預金を活用した活動が始動してから約半年。今回は『むすびえ』のプログラム・オフィサー(PO)である渋谷雅人さん、三島理恵さんがファシリテーターとなり、『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』の皆さんと、これまでの活動の経緯はもちろん、他圏域での課題点などを例題に、さまざまな視点から「諏訪圏域のこども食堂の現状や未来」について話し合いました。
『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』からは5名のメンバーが参加しました。
事務局で企業や団体支援を担当する木村かほりさん、情報誌などの編集と団体支援を担当している上條美季さん、交流会と団体支援担当の村上朱夏さん、広報誌『月刊ぷらざ』内の「みんなの居場所」を掲載担当の小林佳代さん、そして会計担当の山田由紀乃さん。まずはどのようにしてこの事業をスタートさせたのかを改めて伺いました。

「この事業を始めるときに、まず私が絵を描いて説明をしたんです。こうやってみたらきっといいはず!だから、皆さんよろしくお願いしますって(笑)(木村さん)」
そう話してくださったのは、事務局を務める木村さん。メンバー各自が不登校や発達障害を抱える子どもたちのサポートなど、それぞれの活動をする傍ら、子ども食堂の支援活動に取り組んできました。多くの団体と関わりを持つ中で、ときには「何のためにやっているのか?」と自問自答することもあったといいます。それでも前向きに活動を続けてこれた理由がありました。
「コロナ禍で休校を余儀なくされた子どもたちの学びの場が失われたことが、気づきのポイントでした。子ども食堂の運営継続を優先して議論すれば、必然的に子どもたちの声が後回しになってしまう。だからこそ、話すときは必ず『子どもたちのためである』いう原点に立ち戻るように心掛けています(上條さん)」
現在、情報誌などの編集をはじめ、団体支援も担当している上條さん。この活動に参加した当初は食材提供を担当し、現場へ足を運び続けた結果、運営者の方々と互いに意識を高めあう関係性を築くという経験をしました。
そして、交流会と団体支援担当の村上朱夏さんは、活動を通じて主体性が芽生えたそうです。
「上條さんに刺激を受けて、急激に学びに対する意識が生まれてきました。さらに、新たに子ども食堂を始めたいという方との出会いも大きなきっかけに。日頃の活動の様子を写真で伝えてくださったり、SNSの更新をお手伝いしたり。継続的に関係性を築けたことが嬉しかったですね(村上さん)」
こうした意識の変化は、諏訪圏域で子ども食堂を運営する各団体の方々にも波及し、原点に戻ることを念頭に活動してくださっている様子が感じ取れているといい、不足しがちであった子ども食堂同士の情報交換も解消されつつあります。
「とにかくコミュニケーションが増えたことが大きな要因ではないでしょうか。コロナ禍ではあるものの、訪問を続け、食材やハンドジェルなどを届けると自然と会話が生まれて、そこから「こんなことで困っている」と話してくださるようになり、お互いに支援に対する気づきが得られています。そこがスタッフの『やっていてよかった!』にもつながっていると思います(木村さん)」

そう木村さんはいいます。連携する近隣団体との関係性が目覚ましく向上しているのは、地道な取り組みから生まれた成果といっても過言ではありません。「子どもたちのために」という思いを共有し、原点に立ち戻るべく活動の意義を話し合える場所がある。こうした安心感もメンバーの原動力となっているのかもしれません。
互いに頼れる関係性の構築を。 行政や民間企業との連携を目指してチャレンジ
厳しい状況下でありながら自主性を持って実践する活動の様子は、他圏域で活動する団体にも波及し、最近では子ども食堂支援における相談ごとも増えてきたという『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』。今後は、行政はもちろん、SDGsゲームを共に実施するなどして民間企業との連携にも注力したいといいます。
「何をもって認めてもらうかはすごく難しい問題ですが、こういった活動が必要なんだと認めてもらうことが大切です。ただ好きで活動しているのではなく、意義を持って行動していることを知ってもらうことが必要です。金銭による支援、情報共有だけではなく、もっと根っこの部分の話し合いができ、いつでもプラットフォームを頼ってもらえる関係性を構築できるといいですね(上條さん)」
そんな上條さんの意見を受けて話してくださったのは、団体連絡担当として広報を担う小林さん。細かった情報という線が太くなり、張り巡らされることでネットワークが広がり始めているといいます。

「線を面にするには情報がとても重要なんです。私たちプラットフォームが情報を発信して、行政が必要な情報を得る。そして共有する。そういったメリットと私たちの活動がうまくつながるといいなと思います(小林さん)」
それぞれの経験を活かした継続的な活動を通じ、さまざまな団体との関係性を築きつつある今、プラットフォームの役割、そして価値をメンバー全員が自覚できるようになりました。行政や企業に対して、参加を呼び掛ける土台がようやくできてきたことを実感されているそうです。
支援活動の要は「否定をしない」環境づくり。 子どもたちの通訳者となって未来へとつなぐ
「これまでの団体活動は個々の想いや考えによるものが非常に多かったと思います。私自身、不登校の親の会をはじめる際に、『子どもが卒業したから』という理由で解散してしまった団体があることを知り、再び立ち上げるのにものすごくパワーを使ったんです。必要とする人がいつでも利用できる仕組みづくり、そして継続させていくことの必要性を強く感じています(木村さん)」

過去の活動経験から、自分の活動は社会全体から見たときに役立つのだろうかと考えることで視点も変わり、各々の活動状況について意見交換するだけでも社会全体のことを考えるきっかけづくりになるではないかと木村さんは考えました。
「不登校の子どもたちのサポートを通じて、学校との関係性に疑問を持つことが多くあり、それらはさまざまな人との関係性にも当てはまることに気づいたんです。これが正しいと強要すれば反発も起こる。だからこそ、相手の意見を決して否定せず、受け入れる。(木村さん)」
「こうした環境づくりはネットワークをつないでいく上でも非常に大切なことで、年齢や性別を問わず、同じ目標へと向かう仲間づくりができることが大きなポイントなんです(小林さん)」
想いが強いばかりに衝突し、原点回帰するチャンスを逃してしまう方も見受けられる中で、大切なことは、きちんと自分の意見を言える環境と耳を傾ける姿勢。個々を尊重し、決して否定をしない環境づくりこそが、継続的な支援の要となっています。
「ミクロの視点とマクロの視点というのは、すごく大切だなと思うんです。日本社会の現状も知らず、子どもたちにとって何が必要であるかも分からない状態では乖離した活動になってしまいます。私たちは子どもたちと社会をつなぐ通訳者。子どもたちが苦しんでいることを社会へ伝え、同時に世の中の仕組みを子どもたちに伝える役割を担っていきたいと思っています(上條さん)」
自分はどんな人間であるのかといった自己分析の視点も持ちつつ、さまざまな人と触れ合いながら、素直に子ども支援活動と向き合える環境が『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』にはあります。

さまざまな会話に耳を傾けながら、自身のご両親も子ども食堂を運営しているという、メンバーの一人である山田由紀乃さんはいいました。
「今日の振り返りでメンバーの考えを改めて確認し、現状を振り返ったことで、諏訪圏域の未来に希望が持てました。このプラットフォームで活動できてとっても幸せです!(山田さん)」
本事業に携わる全員が、イコールパートナーとして同じ社会課題に対して向き合う場をこの半年間で築くことができていること、そして、仲間としての一体感を強く感じた1日でした。
■資金分配団体POからのメッセージ
定期的な面談や今回のお話を伺いながら、『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』の皆さんの活動は、まさに地域の子ども支援を通じた「未来づくりの種まき」なのだなと思っています。地域の力を信じて地域みんなの役割を引き出していく、そして、その役割を社会で発揮していくという受け皿をどのように促していくかといった課題と常に向き合っていますが、諏訪圏域の皆さんの活動は、活動するということを体現されていて、新しい互助会づくりのように思え、草の根活動からのイノベーションの第1章を見ているようで、本当に感動しっぱなしです。
(認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むずびえ / 三島理恵さん)
この半年間の休眠預金活用事業を通じて、「そもそもなぜ活動するのか」という根本に立ち返ることで新たな気づきを得たという皆さん。子どもの権利などを学ぶ場を設けるなど、さまざまな取り組や交流を通じて本当の意味で「活動の意義」に納得し、実行されているのだなと感じています。目の前の人をありのまま受け入れることで、各自の自主性が育まれる場が現実化しており、まさに「波及効果の原点」なのだと改めて実感することができました。
(認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むずびえ / 渋谷雅人さん)
【事業基礎情報】
実行団体 | 諏訪圏域子ども応援プラットフォーム |
事業名 | コロナ禍でもつながる居場所推進事業–いまこそ必要な地域の活動を支える– |
対象地域 | 長野県諏訪地域を中心 |
資金分配団体 | 認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ |
採択助成事業 | こども食堂への包括的支援事業–こども食堂が地域の明日をひらく 〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉 |