千葉県柏市内に、二十歳前後の若者が「おばあちゃんち」と呼ぶ家があります。一般社団法人いっぽの会が、2020年度の休眠預金活用事業(通常枠)を活用し、2022年8月に社会的養護のもとで育った若者たちや、様々な理由で家族と一緒に住めない方のための「若者応援ハウス」をオープンしました。共同生活を送りながら、スタッフや地域の方と交流することで、自立に向けての一歩を踏み出しています。今回、この若者応援ハウスを訪れ、開設するに至った経緯や入居している若者の様子、活動の今後の展望などについて運営メンバーの皆さんに伺いました。
若者応援ハウス立ち上げの経緯
いっぽの会の代表理事の久保田尚美さんは、児童自立援助ホームで働く中で、「子どもたちがもっとやりたいこと を実現できる施設にしたい」という思いから独立し、いっぽの会を立ち上げ2020年10月に児童自立援助ホーム「歩みの家」を開設しました。
児童自立援助ホームは、児童相談所長から家庭や他の施設にいられないと判断された子どもたちに、暮らしの場を提供する施設 です。対象年齢は15歳から20歳(一定の条件を満たせば22歳)となっています。しかし、2022年4月から成人年齢が引き下げられたこともあって、18歳になると国から施設に支払われていた措置費がなくなり、たとえ継続的な支援が必要だと判断される若者であっても施設から出なければいけない場合もあるそうです。

「施設を出ることになった若者にも、実際、様々な相談対応を行ってきました。ただ、措置費が出ないなか、施設職員が時間外の労働によって継続的に支援していくことに限界を感じていました。」 そのような中、 公益財団法人ちばのWA地域づくり基金が、2020年度通常枠の資金分配団体として社会的養護下にある若者に焦点をあてた助成事業の公募をしていることを知りました。もともと久保田さんは、児童自立援助ホームを出た若者が、いつでも戻ってこられる拠点づくりをできるとしたら、十数年後かなと思っていたそうです。
しかし公募を知り、「今から必要な若者に届けられるのであれば、チャレンジしてみよう」という気持ちに変わり、休眠預金活用事業に申請。その結果、採択されて事業に取り組み、2022年8月に若者応援ハウス をオープンしました。
「以前施設で働いていたときは、若者から相談があったとしても、児童相談所に情報提供するだけで、施設で若者を受け入れることができなかったのです。しかし今では、児童自立援助ホームである「歩みの家」だけでなく若者応援ハウスもあります。だから助けを必要とする人から連絡をいただけれ ば、可能な範囲で受け入れられるような環境 と体制が作れたと思っています。今回の助成事業の結果、活動の幅が広がりました。」
生活支援と就労支援は表裏一体
休眠預金活用事業では、社会的養護を経験した若者が、ボランティア、職員や地域の人との人間関係が構築され、思いを語れ、困難を乗り越える方法が身についていることを目指しています。加えて、若者応援ハウスでの生活相談や就労相談に対応していく過程で、若者が自ら解決していく力がつき、自分らしい暮らしを営んでいる状態を目指しています。
いっぽの会のスタッフで、若者応援ハウスの責任者をしている朝日仁隆さんに、活動の様子を伺いました。
「若者と一緒にご飯を作ったり、庭に畑があるので、畑の野菜を採ってもらったりしています。また、月に1回程度地域の方や支援者を呼んで、食事会などを開催しています。ボードゲームが好きな若者がいて、一緒に遊ぶこともあります。日常の延長みたいなところから、その子の今まで言えなかった気持ちとか、やりたかったことを引き出しながら、徐々に自立に向かうサポートをしています。」
若者応援ハウスだからこそできる日常の生活支援に加え、就労支援も行っています。これまで朝日さんたちが関わった若者たちは、仕事に就くこと自体はできても、本当にやりたいことを見つけることができなかったり、無理した働き方になってしまっていたりしました。

例えば、これまで関わった若者の1人は、当初、将来どういう風に生きていきたいか、といった考えがなく、手っ取り早く見つけた事務のアルバイトをしようとしていました。ただ、スタッフと話していくうちに専門学校 を志望するようになり、今まさに受験結果待ちとのことです。このように、「本当はやってみたいことがある」と打ち明けてくれたり、一緒に考えたりするようになったのは、いっぽの会の皆さんが丁寧に伴走される中で信頼関係が築かれていったからではないでしょうか。
いっぽの会の外部アドバイザーで社会福祉士の古澤肇さんは、生活支援と就労支援は、表裏一体だと話します。
「人間関係とかお金のこととか、自分の身体を大事にすることって、人が生きていく上で大事なことで、生活支援でもあるし、就労支援でもあると思っています。例えば、体温が39度あっても『仕事行きます』という子には、『ちょっとそれはやめましょう』と伝えますが、最初は仕事と体調の優先順位もなかなか分からなかったりします。困っているときに適切に『助けて』が言える、SOSが出せるようになることも大切だと考えています。 」
現在若者応援ハウスに入居している方は2名(定員3名)で、これまで短期を含めて泊まりで利用された方は、4名いました。短期の利用では、住み込みの仕事していた方が退職し、住まいを失った際に、転職先が見つかるまでの間の仮の住まいとして利用するケースがあったそうです。
また、計画時は、児童自立援助ホームや児童養護施設出身の若者を支援の対象と考えていましたが、社会的養護を経験していない方からの問い合わせがあったことがきっかけとなり、今は、支援の対象を広げているそうです。
地域に支えられながら育つ若者たち
この若者応援ハウス事業の特徴の一つに、地域とのつながりを重視していて、地域の方もいっぽの会の事業に自然と入ってきているところがあります。地域の方が若者のことを気にかけて、若者もその地域に向けて、何か自分の気持ちや、やりたいことを発信できるような関係性になってきているそうです。ただ、いっぽの会は、最初から地域とのつながりがあったわけではありません。
いっぽの会が最初に立ち上げた児童自立援助ホーム「歩みの家」は松戸市内にあり、当初、若者応援ハウスもその近隣エリアで探していました。ただ、若者応援ハウスということや、児童福祉施設ということで様々な偏見があり、物件を見つけるのに苦労したそうです。やっと見つけた現在の物件は、いっぽの会の通常の活動エリアとは離れており、地域とのつながりがほぼない場所にありました。

そのような状況の中、どのように地域とのつながりを作り関わっていただけるようになったのでしょうか。古澤さんが教えてくださいました。
「地域で活動している人たちとのつながりづくりは、戦略的に考えています。たとえば、日常的なことですと、若者応援ハウスでは 、コンビニではなく、なるべく地域の商店で買い物をするように伝えています。また、地元の小学校の「おやじの会」の方に、若者応援ハウスのイベントに参加していただきました。 バーベキューを実施したのですが、若者やボランティア、そしてご参加いただいた地域の方が力を合わせて一緒に火をつけたり肉を焼いたりする。その何気ない協働作業がすごく大事な経験だと思っています。特に、一緒に何かを作るとか、みんなで分け合うとか、そういう経験を成長過程であまりしてこなかった若者には貴重な機会です。」

また、イベントを実施するにあたって、地域のボランティアだけでなく、古澤さんの仲間の社会福祉士にもメンバーに入ってもらったこともポイントだそうです。
「初めましてのボランティアだけだと、どうしても皆さんよそよそしくなってしまいます。一方、スタッフはスタッフで準備や裏方で大変。そこで、コミュニケーションを円滑にしてくれる人材として、有資格者がいい働きをするのです。」
現在、定期的に若者応援ハウスに来ている地域ボランティアは3名いるそうです。一人は、若者応援ハウスの畑のお世話を手伝ってくださる方で、自治会長や民生委員もされたことのある地域のキーマンでもありました。
「その方と若者とが繋がり始めているのが嬉しいですね。その方の誕生会を若者が企画して、ケーキまで作ってお祝いしていました。やっぱりこういう地域と若者、スタッフとの交流が広がってきているのが何よりです。」
と振り返る朝日さん。
そのボランティアさんが畑で作業していると、外からも見えるため、「あの方が関わっているなら」と、若者応援ハウスの地域からの信頼度向上にもつながっているそうです。

残り2名のボランティアは、ボランティアセンター経由で紹介があった地域の方で、月2回程度、若者たちと一緒に食事を作っています。そのうち1人は、今はご飯作りがメインですが、ゆくゆくは茶道やお花なども若者とやってみたいとお話しされているのだとか。

「当たり前」の活動から生み出された変化
これまでの活動を振り返って、朝日さんが印象に残っているエピソードを教えてくれました。
「畑の手入れは私が中心でやっているのですが、スタッフが来れないときの水やりを若者に頼んでいると、いつの日か自主的に大きくなった野菜を収穫して並べておいてくれたことがあったのです。」

「応援ハウスでは、月に1回の振り返り面談を行っています。自分の思いや考えを表現するのが苦手な若者は、口数が少なくなったり、中々本音が言えません。応援ハウスでのボランティアさんとの関わりやイベントに参加、又、若者同士での良い刺激や相互作用が成功体験とも言えます。回を重ねるごとに自分の気持ちや感情を少しずつ表に出せるように変化していきます。」
そうして、今まで連絡を絶っていた支援機関や、親族の方にも少しずつ連絡が取れるようになってきている若者もいます。
助成事業は、若者だけでなく、いっぽの会にも変化をもたらしました。理事の田村敬志さんは、社会的インパクト評価の考え方を通じて、活動の成果をアウトプットではなく、アウトカムも示すことを学べたと振り返ります。
「これまでは自分たちが必要だと思ったことを、ただただやっているだけだったんですけど、それを対外的に示すために、社会的インパクト評価を通じて言語化する仕方もあるということを勉強させていただきました。」
目の前の問題を解決するために一生懸命に取り組む中で当たり前にやってきたことが、実は当たり前ではなく、とても重要だったということを確認することができたようです。

いっぽの会の「若者応援ハウス」のこれから
いっぽの会は、これまでの成果を踏まえ、児童自立援助ホームの元利用者やその紹介以外の若者へのアプローチを強化していく予定です。また、若者応援ハウスでは宿泊だけでなく、気軽に立ち寄れる通所型の受け入れも増やしていきたいとのことです。住まいや居場所が既にある若者でも、「誰かと一緒に食べたい」「相談したい」と思ったときにふらっと立ち寄るような居場所を目指したいと古澤さん。
「『相談受けます』みたいな看板を掲げると、どうしても敷居が高くなってしまいます。ここには地域をよくしようとする人たちが集まっていて、ここに来ること で「何とかなる」と思ってもらえる、そんな『若者応援センター』になるといいなと。」
実際、この若者応援ハウスのことを「おばあちゃんち」と呼ぶ若者もいるようで、すでに実家のような存在になっています。
休眠預金活用事業が終了する2024年1月以降は、事業を継続・発展していくための財源確保が最大の課題です。自治体や民間の様々な助成事業を視野に入れつつ、中長期的にはやはり、制度化をめざしていく必要があると久保田さんは考えます。
「今回の休眠預金がまさに制度のはざまにある取り組みを、民間で支えてくれる資金だったんです。制度ができるまではかなりきついですが、続けていかなければ、制度化にはいきつかないので頑張っていきます。」
事業基礎情報
実行団体 | 一般社団法人いっぽの会 |
事業名 | 社会へ「いっぽ」を踏み出す基盤づくり事業 |
活動対象地域 | 千葉県 |
資金分配団体 | 公益財団法人ちばのWA地域づくり基金 |
採択助成事業 | 2020年度通常枠 |
今回のJANPIAスナップは、JANPIA主催「休眠預金活用事業シンポジウム2023 -ともに創る未来:伴走支援から生まれる社会の変化と担い手の成長」「公募説明会」の様子をお届けします。
活動概要
2023年11月16日(木)、JANPIAは、「休眠預金活用事業シンポジウム2023 -ともに創る未来:伴走支援から生まれる社会の変化と担い手の成長」「公募説明会」を開催しました。
初回採択事業である2019年度事業の事例をもとに、伴走支援を始めとした団体間の連携から生まれた、社会課題へのアプローチの成果や事業実施団体の成長についてお話を伺ったほか、「休眠預金活用事業のこれから」と題し、休眠預金活用事業方針等についての説明を行いました。
また、後半では、2023年度 通常枠〈第2回〉および「原油価格・物価高騰、子育て及び新型コロナ対応支援枠」の公募説明会を実施しました。
当日は、資金分配団体・実行団体の皆さまをはじめ、申請をご検討されている団体や、企業、自治体、ソーシャルセクターの皆さまからのお申し込みを頂きました。ご参加・ご視聴いただいた皆さま、ありがとうございました。

活動スナップ
JANPIAからの挨拶

JANPIAからの挨拶 JANPIA 理事長 二宮 雅也
動画〈YouTube〉|JANPIAからの挨拶[外部リンク]
基調講演

基調講演 国際社会経済研究所(IISE)理事長/JANPIA 評議員 藤沢 久美氏
トークセッション
〈Part1〉
「地域支援と地域資源連携事業」を実施して(2019年度通常枠)

【登壇者】

[資金分配団体]
公益財団法人 長野県みらい基金 理事長 高橋 潤氏[上段、右]
[実行団体]
特定非営利活動法人 いいだ人形劇センター 事務局長 木田 敬貴氏[上段、左]
[モデレーター]
武蔵野大学 人間科学部 社会福祉学科 助教 清水 潤子氏[下段]
動画〈YouTube〉|トークセッション| Part1 [外部リンク]
資料〈PDF〉|公益財団法人 長野県みらい基金 [外部リンク]
資料〈PDF〉|特定非営利活動法人 いいだ人形劇センター [外部リンク]
〈Part2〉
休眠預金活用事業を通じて生まれた個と組織の成長

[登壇者]

・認定特定非営利活動法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事 三島 理恵氏[上段、左]
・一般財団法人 ちくご川コミュニティ財団 理事/事業部長 庄田 清人氏[上段、右]
[コメンテーター]
武蔵野大学 人間科学部 社会福祉学科 助教 清水 潤子氏[下段、右]
[進行]
JANPIA 事業部長 和田 泰一[下段、左]
動画〈YouTube〉|トークセッション | Part2 [外部リンク]
質疑応答

動画〈YouTube〉|質疑応答 [外部リンク]
休眠預金活用事業のこれから

事務局説明 JANPIA 事務局長 大川 昌晴
動画〈YouTube〉|休眠預金活用事業のこれから [外部リンク]
資料〈PDF〉|休眠預金活用事業のこれから [外部リンク]
公募説明会
※2023年度 通常枠〈第2回〉および「原油価格・物価高騰、子育て及び新型コロナ対応支援枠」について

事務局説明 JANPIA 事務局長 大川 昌晴
動画〈YouTube〉|公募説明会 [外部リンク]
資料 ①〈PDF〉|5年後の見直し方針を踏まえた事業計画のポイント [外部リンク]
資料 ②〈PDF〉|2023年度 通常枠〈第2回〉公募要領[外部リンク]
資料 ③〈PDF〉|原油価格・物価高騰、子育て及び新型コロナ対応支援枠[外部リンク]
資料(参考)〈PDF〉|国外活動を対象とする場合の留意点[外部リンク]
資料(参考)〈PDF〉|事業設計図補足資料[外部リンク]
当日スナップ写真
登壇者の皆さん

シンポジウム終了後に、登壇者の皆さんで集合写真を撮影しました。
左から、長野県みらい基金 高橋さん、全国こども食堂支援センター・むすびえ 三島さん、ちくご川コミュニティ財団 庄田さん、いいだ人形劇センター 木田さん、武蔵野大学 清水さんです。
司会者/配信スタッフの皆さん

[司会]南 恭子 さん[左]
[配信スタッフ]ZAN FILMSの皆さん[右]
今回のセミナーは、ご登壇頂いた皆さまはもとより、司会者の南 恭子さん、配信スタッフのZAN FILMSの皆さん、会場となった日比谷国際ビル コンファレンス スクエアの皆さんとの連携で実現しました。この場を借りてお礼申し上げます。
今回の活動スナップは、JANPIAが主催した開催した「データ集を読む会」の様子をお届けします。
活動概要
JANPIAでは年に1回、事業報告書と合わせて付属資料としてのデータ集を発行しています。また、2023年11月には休眠預金活用事業を実施した・している団体の事業情報が検索できるサイト(休眠預金活用事業 情報公開サイト)を公開しました。
今回のイベントでは、公開されている情報の価値や活用方法について、非営利セクターやメディア、研究者の方とJANPIAの職員と一緒にアイディアを出し合うワークショップなどを行いました。
活動スナップ
前半は、JANPIA企画広報部長の芥田より、休眠預金活用事業の概要紹介や会の趣旨説明がありました。
その後、参加者同士で自己紹介を行ったあと、データ集と情報公開サイトの紹介、そして休眠預金活用事業のデータに関わるクイズを行いました。


後半は、モジョコンサルティング合同会社 長浜 洋二氏の全体進行の元、4つのグループに分かれて、公開されている情報の活⽤⽅法と、今後の改善に向けた様々なご意見をいただきました。
代表的なものとして、
・加工しやすいフォーマットでの情報公開
・白書の作成
・国際比較
・社会課題の解説との組み合わせ
といったご意見がありました。

JANPIAでは、いただいたご意見を踏まえ、関係者と連携しながら、今後の情報公開に活かしていければと考えております。

クイズの回答:②約50% (※イベント開催時点の公開情報に基づきますと、NPO 法人が全体の 41.8%で、認定 NPO 法人(8.0%)を含めると、49.8%をNPO 法人が占めています。)
2023年11月16日に開催しました、休眠預金活用事業シンポジウム2023・公募説明会の動画をご紹介します。
<プログラム>
1.JANPIAからの挨拶
動画▶ https://youtu.be/DJOOG3n0nPg
2.基調講演
動画▶ https://youtu.be/fDmg2D9GTuw
3.トークセッション
Part1 「地域支援と地域資源連携事業」を実施して(2019年度通常枠)
動画▶ https://youtu.be/jZTzV1HSub8
[資金分配団体]
公益財団法人長野県みらい基金 理事長 高橋 潤氏
[実行団体]
特定非営利活動法人 いいだ人形劇センター 事務局長 木田 敬貴氏
Part2 休眠預金活用事業を通じて生まれた個と組織の成長
動画▶ https://youtu.be/g1PPZORu7CM
認定特定非営利活動法人全国こども食堂支援センター・むすびえ
理事 三島 理恵氏
一般財団法人ちくご川コミュニティ財団
理事/事業部長 庄田 清人氏
モデレーター/コメンテーター:
武蔵野大学人間科学部 社会福祉学科 助教 清水 潤子氏
質疑応答
動画▶ https://youtu.be/iQzH_0XX46Y
4.休眠預金活用事業のこれから
動画▶ https://youtu.be/h-zWvq7gnBs
5.公募説明会
動画▶ https://youtu.be/G_8f0g9zE5I
※「第2回通常枠」「原油価格・物価高騰、子育て及び新型コロナ対応支援枠」
〈関連記事リンク〉
JANPIA主催 休眠預金活用事業・調査研究シンポジウムを開催!|JANPIA|活動スナップ | 休眠預金活用事業サイト (kyuminyokin.info)
今回のJANPIAスナップは、10月6日にJANPIA主催で開催いたしました「ボランティア・プロボノマッチング会 第2回成果報告会」の様子をご紹介します!JANPIAでは、社会課題を解決する団体(NPO等)とCSRや社会貢献、ソーシャルインパクトを目指す企業との連携を推進しております。ボランティア・プロボノによる企業連携の事例をご報告いただきましたので、ぜひご覧ください。”
活動概要
JANPIAでは、休眠預金を活用して社会課題を解決する団体と企業との連携を推進しています。今回の成果報告会では、2023年3月7日に経団連後援のもと開催いたしました企業と団体との第2回マッチング会での連携事例のご紹介と、パネルディスカッションを実施いたしました。
第1部の事例紹介では3つの事例について、支援企業、支援先団体、コーディネーターそれぞれのお立場からボランティア・プロボノマッチングに関するご報告をしていただきました。第2部のパネルディスカッションでは、ご登壇された企業の方々からボランティア・プロボノを企業内で導入するためのポイント等についてお話いただきました。
本開催では、企業54社、団体・個人39名、合計137名の方にお申込みいただきました。
ご参加・ご視聴いただいた皆さま、ありがとうございました。
活動スナップ
開会の挨拶

開会の挨拶・本セミナーの趣旨説明
JANPIAシニア・プロジェクト・コーディネーター
鈴木 均
動画〈YouTube〉|開会の挨拶・本セミナーの趣旨説明[外部リンク]
資料〈PDF〉|開会の挨拶・本セミナーの趣旨説明 [外部リンク]
経団連の挨拶

経団連の挨拶
一般社団法人 日本経済団体連合会 常務理事
長谷川 知子 氏
動画〈YouTube〉|経団連のご挨拶[外部リンク]
事例紹介

事例紹介|モデレーター
株式会社NTTデータグループ サステナビリティ経営推進部
シニア・スペシャリスト
金田 晃一 氏
動画〈YouTube〉|事業紹介|導入(社員プロボノの類型整理)[外部リンク]
資料〈PDF〉|社員プロボノの類型整理 [外部リンク]
1. ブランディング強化に向けた広報戦略・方針の整理

支援企業
富士通株式会社 総務本部 コミュニティ推進室
井上 悠起氏(右上)
資料〈PDF〉|広報支援プロジェクト|富士通株式会社|プロボノ [外部リンク]
コーディネーター
認定特定非営利活動法人全国子ども食堂支援センター・むすびえ 理事
三島 理恵 氏(左下)
動画〈YouTube〉|1. ブランディング強化に向けた広報戦略・方針の整理[外部リンク]
2.組織内にビジョンを浸透させるための方法・ステップ等の提案

動画〈YouTube〉|2.組織内にビジョンを浸透させるための方法・ステップ等の提案[外部リンク]
3.スケジュール管理と情報共有の電子化

コーディネーター
一般財団法人大阪府人権協会
前村 静香氏(右下)
資料〈PDF〉|資金分配団体としてプロボノに携わって [外部リンク]
動画〈YouTube〉|3.スケジュール管理と情報共有の電子化[外部リンク]
パネルディスカッション

「社員がプロボノやボランティアに参加していることは人事評価などに反映されているか。また、反映されている場合どのように評価に反映させているか。」と、会場からご質問をいただきました。
【登壇者】
辻 信行 氏 [PwCあらた パートナー](下段:左から3番目)
呉藤 舞 氏[三井住友フィナンシャルグループ サステナビリティ企画部 社会貢献グループ 部長代理](下段:右から3番目)
池田 俊一 氏[NEC 経営企画部門 コーポレートコミュニケーション部](オンライン参加)
三橋 敏 氏[PwCあらた 企画管理本部 ディレクター](下段:左から2番目)
山﨑 友里加 氏[SMBC日興証券 ホールセール企画部 第一業務課](下段:左から4番目)
藤田 英利 氏[NECソリューションイノベータ デジタルビジネス推進本部 DX推進グループ シニアマネージャ](下段:右から2番目)
【モデレーター】
tab-stops:center 212.6pt>金田 晃一 氏[NTTデータグループ サステナビリティ経営推進部 シニア・スペシャリスト](下段:左から1番目)
tab-stops:center 212.6pt>
【コメンテーター】
嵯峨 生馬 氏[認定特定非営利活動法人 サービスグラント 代表理事](下段:右から1番目)
資料〈PDF〉|サービスグラントのご紹介 [外部リンク]
資料〈PDF〉|継続的にsocial impactを生み出すために [外部リンク]
資料〈PDF〉|SMBCグループプロボノワークプロジェクト [外部リンク]
資料〈PDF〉|NECプロボノイニシアティブのご紹介 [外部リンク]
動画〈YouTube〉|パネルディスカッション プレゼンテーション[外部リンク]
動画〈YouTube〉|パネルディスカッション[外部リンク]
閉会の挨拶

閉会の挨拶
JANPIA 理事長 二宮雅也
動画〈YouTube〉|閉会の挨拶[外部リンク]
当日スナップ写真
登壇者の皆さん

司会者/配信スタッフの皆さん
今回のセミナーは、ご登壇頂いた皆さまはもとより、司会者の南 恭子さん、配信スタッフのZAN FILMSの皆さん、会場となった日比谷国際ビル コンファレンス スクエアの皆さんとの連携で実現しました。この場を借りてお礼申し上げます。

「経団連1%クラブ」は、経団連企業行動・SDGs委員会の下部組織として、企業による社会貢献活動の進展のために活動する、企業の知見の共有・共通課題の検討の場です。 2023年6月9日、この経団連1%クラブの会合にて、JANPIAが実施している企業連携についての報告を行いました。その概要を紹介いたします。
JANPIAは、一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)により設立された背景から、「経団連1%クラブ」と連携し、様々な活動を行っています。2023年6月9日、この経団連1%クラブの会合にて、JANPIAが実施している企業連携についての報告を行いました。その概要を紹介いたします。
まずJANPIAシニア・プロジェクト・コーディネーターの鈴木均から、企業連携の現状とアンケート調査の結果、そして企業連携の意義や可能性についてお話しました。
[JANPIAからの報告]企業との連携強化に向けて ~SDGs達成への貢献につながるパートナーシップ(連携)~
企業連携の現状
鈴木:JANPIA設立以来、重要な課題の一つとして企業連携に取り組んできました。経団連との連携に基づいて、1%クラブでの事例紹介、企業と助成先団体とのマッチング会、個別フォローアップ、企業セミナーなど、多種多様な活動をしています。その結果、企業と資金分配団体・実行団体の連携実績は、累計325件(2023年3月末時点)になっています。
また毎年、企業連携に関する休眠預金を活用する団体へのアンケート調査を行っていますが、2022年度に実施したアンケートの結果でも、資金分配団体、実行団体の多くが企業連携に強い関心を示しています。その中で連携したい企業像としては「協働で社会課題解決を目指す」が多くあがっており、さらに継続的な支援関係、資金的支援などへの期待もあります
連携による企業にとってのメリットや価値
休眠預金活用事業における連携は、企業側にも多様なメリット・価値を提供することをご紹介します。
●信頼性、信用性の高い団体へのアクセス
休眠預金活用事業では団体の選定にあたって、ガバナンスとコンプライアンスを重視しており、事業を推進するなかでも、基盤強化支援もしっかり行っていますので、安心して連携していただけます。
●資金分配団体とJANPIAによる企業と実行団体間のコーディネーション支援
連携の際にひとつのハードルとなるのがコーディネーションですが、現在は資金分配団体とJANPIAが仲介・調整を行っています。
●「社会的インパクト評価の知見獲得、インパクト志向の高い事業との接続」
すべての団体が社会的インパクト評価を実施しており、この活動を通して社会的インパクト評価の知見などの収集獲得も可能になります。
●ボランティア・プロボノを通じた社員の社会参画
社会貢献、人材育成の面、あるいはSDGsに貢献するような新しい事業の創出といった点からも非常にメリットがあります。
●社会価値と経済価値の両立を目指すSDGs起点の新しい事業機会の創出
「企業の高い技術力(シーズ)、豊富なリソース、組織力」と「NPO・ソーシャルベンチャーの社会課題に関する専門性、機動力、現場力」が相乗効果となって、インパクトのある事業を創出する機会が生まれます。
●広報面への貢献、SDGs貢献の訴求など
連携によって先進的な取り組みを創出することで広報効果も高まります。
[企業連携 事例紹介1] 〈三井住友海上×アレッセ高岡〉
三井住友海上火災保険株式会社
【発表者 経営企画部 SX推進チーム 唐澤篤子様 山ノ川実夏様
三井住友海上火災保険株式会社の社会貢献制度
唐澤:三井住友海上火災保険株式会社では、社員の社会貢献活動を促進する制度として「部支店で年に1つは環境・貢献活動」というものがございます。全国に160部支店があり、ライン部支店長が推進責任者となり、部支店長が推進役として「環境・社会活動サポーター」を選任する流れになっています。
JANPIAとの連携は3年目になり、ご提供いただいた休眠預金等活用事業を実施している団体のリストを社内に紹介しています。部支店から希望する活動、協働したい団体について連絡があると、まずJANPIAとつないで、資金分配団体、支援先団体となる実行団体、当社サポーターの4者でZoom面談を行い、マッチングすれば活動を開始しています。

アレッセ高岡へのプロボノ活動
山ノ川:特定非営利活動法人アレッセ高岡へのプロボノ活動について紹介します。まず資金分配団体である日本国際交流センターを交えてのミーティングを行い、アレッセ高岡の活動内容や、活動をしていくうえで困っていることなどを伺いました。アレッセ高岡は富山県で活動されていますので、富山支店の業務課長にも都合がつくときはオブザーブ参加してもらっていました。
2021年7月から支援を開始して、隔週月曜の14時から30分間のオンラインミーティングを実施してきました。具体的な相談事例としては、文書の作成、経理、事務などのような内容があります。
【文書】役員会議事録の書き方、著名人への支援依頼の手紙の添削、助成金申請書など、
【経理】出納帳の構成、助成金の管理方法、領収証の書き方、預り金の扱いなど
【事務】規定類のまとめ方、エクセルの操作方法、差込印刷の方法など
【管理】人事労務管理など
富山県と東京とで距離は離れていますが、オンラインで30分だけでも支援ができ、役に立つことができるのは発見でした。富山支店のメンバーに、現地での週末のイベントに顔を出してもらうなど、地元でのつながりもできています。
今回は会社としてプロボノ活動の検討を行うために私と唐澤の二人が業務時間を使って担当しましたが、就業中のプロボノを制度化するのは難しく、かといって時間外・週末の活動に積極的な社員は多くない感触があります。そのため、プロボノに興味のある社員の発掘が今後の課題です。

特定非営利活動法人 アレッセ高岡
【発表者】 理事長 青木由香様、事務局長 滝下典子様
「団体内だけで問題を解決するのは困難だった」
滝下:アレッセ高岡が活動する富山県高岡市は製造業がさかんで、1990年頃から日系ブラジル人の入植が増え、その方々の子どもたちが公立学校に入学するようになりました。理事長の青木はブラジルでの日本語教師の派遣を終え、高岡で外国人相談員として仕事をするなかで、日系ブラジル人の高校進学率が低いことに問題意識をもち、2010年に「高岡外国人の子どものことばと学力を考える会」(アレッセ高岡)の活動を始めました。現在は、学習支援事業、情報支援事業、市民性教育事業を行っております。
多方面から活動への高い評価をいただいてはおりますが、理事はじめ事務局員は会社勤めの経験者も少なく、何を始めるにも右往左往しており、団体内だけで課題を解決するのは困難な状態でした。
今回、三井住友海上火災保険の山ノ川さん、唐澤さんには、事務局員としての業務の基本を教えていただきました。
また、「これは専門家に聞いたほうがいい」「これは団体内で決める内容である」など、日々の細々した問題に対して答えの導き方のヒントを教えてもらいました。初めて作成した銀行への助成金申請が通ったときは、とてもうれしく感じました。また、高岡にも足をお運びいただきました。

地方都市では人的リソースが絶対的に不足
青木:小さい地方都市では、人的リソースが絶対的に少ないのが現状です。課題を打破するために新しい事業を考えても、「じゃあ、それを担える人は?」となり、事業が止まってしまいがちです。おそらく、みなさまからしたら「そんなことで?」と思うようなところで、つまずいていました。
私たちは普段、外国ルーツの子どもたちのサポートをしていますが、パラレルな形で私たち自身がサポートを必要としており、三井住友海上火災保険の山ノ川さんや唐澤さんが寄り添って日々の小さな障壁を一緒にクリアしてくれることで、立ち往生せず、挫けることなく事務局機能を実務的にも、精神的にも安定させることができています。

企業との「協働」から得た支援者としての学び
滝下:私たちは、これまでボランティアベースでやっていましたが、休眠預金等活用制度によって事業を進めるにあたり、事務局員を2名雇用しました。そのうちのひとりは外国ルーツの若者です。つまり事務局は外国ルーツの若者の成長と活躍の場でもあり、そういう意味では今回のプロボノ支援で私たちの事業をダイレクトに支えてもらいました。
プロボノ支援を受けるなかで、支援者としての外国ルーツの子どもたちへの向き合い方も見直すことになりました。背景の異なる者同士の協働とはどういうものかを私たち自身が学んだということです。それは当初、私たちが想像していなかった成果でした。
こうした支援のスパイラルが全国各地に広まってほしいと思います。コロナ禍を機にオンラインツールが普及しましたので、地理的距離にかかわらずリソースのマッチングも可能になりました。こうした輪がつながっていく先に、私たちが目指している多文化社会があるのではないかと思います。

[企業連携 事例紹介2] 〈アビーム×リディラバ×SIIF〉
アビームコンサルティング株式会社
【発表者】 エンタープライズドトランスフォーメーションビジネスユニット
デジタルプロセス&イノベーショングループFMCセクター
兼サステナビリティーユニット ダイレクター原田航平様
専門スキルを生かしたプロボノ支援
原田:アビームコンサルティング株式会社にて、プロボノという形で支援した事例を紹介するにあたって、まず支援先であるRidiloverが取り組む「旅する学校」がどんな事業なのかを簡単に説明いたします。
経済情勢や労働環境の悪化、教育・子ども支援における政策予算の少なさなどから、家庭の経済的状況による子どもたちの「体験格差」が存在しています。教育水準の違いだけでなく、新幹線に一度も乗ったことがない、旅行をしたことがないといった子どもたちもたくさんいます。こうした体験格差が義務教育後の望まないキャリア選択につながっている部分もあるのが現状です。これらに対して、「旅する学校」事業は、「誰もが希望をもって自分の生き方を選択できる社会」をつくり出すことを目指しています。
事業の対象は2つあります。ひとつは「奨学金をもとにした『多様な体験から学ぶ』旅の提供」として多様な体験を格差のある子どもたちに直接提供して、学んでもらうもの。ふたつ目は、子どもの体験格差に関する調査研究・情報発信・政策提言があります。

「旅する学校」における課題・支援ニーズ
この事業を継続し、社会的インパクトを拡大するにあたっては、多様で安定的な財源が必要になります。また、社会課題自体の認知を拡大して社会課題解決を加速させていくために、個人へのアプローチも重要です。こうしたことから、「『企業人材の個人寄付』に関する調査・寄付獲得に向けた支援が欲しい」という支援ニーズが Ridiloverから挙げられていました。
このニーズを踏まえて、昨年は2つのプロボノプロジェクトを実施しました。
第一弾として「企業人材の個人寄付」に関する調査を行いました。調査のなかでZ世代やミドル世代など世代ごとの意識の違い、さらに細分化したターゲットによって「寄付についての自分ごと化」を進めるために最適な施策が異なることも見えてきました。
このプロジェクトの期間は約2カ月間で、体制としては、弊社から私の稼働が15%(一日1時間程度)、シニアマネージャー1名が25%(一日2時間程度)、そして現場のコンサルタントを1名専任でアサインメントしました。さらに、第一弾の結果を踏まえて、第二弾の「企業人材の接点となる企業向け研修イベントの企画・トライアル実施」を行い、弊社メンバーに子どもの体験格差について学ぶ対面イベントに参加してもらい実証しました。


プロボノ連携に取り組む意義
会社としてプロボノ連携に取り組む意義ですが、大前提に「社会へのインパクト」があります。実行団体の社会課題への取り組みを支援することは、直接的に課題解決への貢献につながります。
それに加えて、自社への好影響として以下があげられます。
・企業としての知見・視点の獲得
ソーシャル領域における知見やリレーション、および将来の事業を考える視点の獲得という点で、有意義な活動ととらえています。
・従業員の能力開発
支援先と協力しながら問題解決を行うことによって視野や動き方の幅が広がります。このプロジェクトに携わった社員は、本業でも成果を上げるようになりました。
・従業員エンゲージメント
こうした活動を通して、本業の社会的意義や社会とのつながりをとらえるようになり、業務に対する主体性、責任感の向上につながっていると感じています。

株式会社 Ridilover
【発表者】 事業開発チームサブリーダー 高際俊介様
事業と政策の「はざま」にある問題
高際:Ridiloverは2009年に学生団体として立ち上がり、一般社団法人を経て、いまは主に株式会社として運営しています。特定の領域を設けずに社会課題に対して企業との事業開発あるいは省庁や自治体と連携しての政策・制度によって解決を進めるという、2つの側面でのアプローチをしています。
今回取り組んでいる事業では、「体験格差」を解消して子どもたちが自分らしく生きていくのに必要な力を育むことを目指していますが、この問題が悩ましい部分は、個々の子どもにとって、どんな体験があればプラスに作用するのかがわかりづらいところだと考えました。
また、行政からすれば、社会インパクトのロジックモデルが可視化できていないと制度設計が非常にしづらいということになります。加えて、体験格差が起こるのは経済困窮状態にある方々に多いため受益者負担も難しく、事業面でのアプローチにもハードルがあります。制度化も事業化も難しい、まさにはざまにある問題なのです。

お互いの専門性を発揮することができた
事業サイクルの持続可能性という観点からいうと、体験格差を問題視する人の総量を増やして個人寄付の導線をいかにつくっていくかが大事です。アビームのみなさまには、まさに事業の土台となる「企業人材の個人寄付」という部分に関してご協力をいただきました。
企業に勤めている方々が、個人寄付に対してどういうインサイトをもち、どうアプローチすれば「自分ごと化」していくのかを調査するのは難易度が高いのではないかと思っておりましたが、アビームのみなさまの本業での分析力を生かしていただきました。同時に、まさに社員のみなさまがターゲット層でもあるということで、非常にありがたいパートナーだったと思っています。また、専門ではない部分をプロボノ支援に頼ることができたことで、我々は本来の専門性を発揮できる部分に注力できたことは、今回、非常に大きかった点です。
一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)
【発表者】 インパクト・オフィサー 田立紀子様
田立:SIIFは、資金分配団体としてRidiloverさんと事業を実施しております。今回、私はアビームさんとRidiloverさんのコーディネーターとして伴走支援をさせていただきました。マッチングまでのヒアリングでは、双方の目的を揃えることが非常に重要です。私は地元では支援を受ける側として地域活動も行っておりますので、その経験も踏まえて、よりよいプロボノ実施のために支援企業側の窓口となるみなさまに知っていただきたいことを今回お伝えいたします。
1. 短期でできる仕事は「つまらないもの」に見えることが多い、それでよければ短期でも歓迎される
企業サイドから見ると簡単でつまらないものに感じる業務でも、人もお金もない支援先団体にとって、それらを担ってもらえることは大歓迎です。また短期で現場を見たいという声も聞きますが、そのような場合は支援先団体の疲弊を招かないか注意が必要です。
2. 大事なクライアントは支援先団体であることを忘れない
支援企業のなかには社員が何人参加したか、社員の満足度はどうかばかりを気にされる場合もあるようです。プロボノを実施していく中で、支援先団体が置き去りにされていないか、KPIをぜひチェックしてみてください。
3. 窓口にコーディネーション機能を備えることが重要
休眠預金活用事業では、資金分配団体が伴走しますが、プロボノを成功させるためには企業の窓口担当者が適切な座組をつくれるかが重要だと考えます。
4. 支援先団体も工数がかかるプロボノは、タダでも嫌がられることがある
支援先団体も往々にしてリソースが潤沢ではないため、支援先団体側の体制に配慮することが大事です。支援企業からの支援を受けるためには、支援先団体側も準備をする必要があるからです。ゴールへの低いコミットメントや、団体の現状や意向に寄り添えない場合は、疲弊につながる可能性があります。

東京都を拠点に、ベトナム人技能実習生や留学生への支援活動を行う「日越ともいき支援会」。日本に在留するベトナム人の技能実習生や留学生の数は急増していますが、劣悪な環境に置かれていることも少なくありません。「日越ともいき支援会」は、そんなベトナム人の「駆け込み寺」として、住居の確保、帰国できない若者の保護、就労支援など、さまざまな活動を行っています。2020年度、2021年度の休眠預金活用事業(コロナ枠)では、コロナ禍で生活困窮者となった約1万人以上のベトナム人を支援してきました。今回は、コロナ禍、そして現在の支援事業について、同団体の代表理事・吉水慈豊さんにお話を伺いました。[コロナ枠の成果を探るNo.4]です。
「ベトナム人の命と人権を守る」活動を始めたきっかけとは
ベトナム人の命と人権を守る。これは、「日越ともいき支援会」が支援活動の目的として掲げているものです。吉水さんがこの思いを強く持つようになった理由は、幼少期まで遡ります。

吉水さんは埼玉県にある浄土宗寺院の出身で、住職であるお父様がベトナム人への支援を行っていました。お寺の離れにはベトナム人僧侶が暮らしていて、幼い頃からベトナム人とともに暮らしてきたのだそうです。
2013年頃から、吉水さんはお父様の支援活動のサポートを始めます。東京都港区の寺院を拠点にしていたこともあり、亡くなった技能実習生や留学生たちをベトナムに帰国させたり、お葬式をしたりといった支援を行っていました。そのような中、吉水さんが支援について深く考えるきっかけとなる出来事が起こります。
「その当時、支援を行っていた実習生の数人が自殺してしまったのです。『どうしてこんなことが起こってしまうのだろう』と、技能実習の制度などを調べました。そのとき『ベトナム人の命と人権を守るにはどうすればいいのか』と考えたことが、現在の支援活動の根っこの部分になっています」
その後、コロナ禍で保護しなければならないベトナム人が爆発的に増えたことを受けて、2020年1月にNPO法人として認証を受けました。
コロナ禍での物資支援や保護にくわえ、勉強会や就労支援も実施
コロナ禍では、職を失い困窮したベトナム人の若者が急増。約1万人に物資の支援を行い、数千人は港区の寺院などで一時的に保護をしました。
当時はベトナムが海外からの入国制限を実施したこともあり、ベトナムに帰れない若者が多くいました。妊婦や高齢者は帰国が優先されましたが、それ以外のベトナム人は帰国することができず、最大何万人というベトナム人が帰国待ちという状況に陥ったのです。
吉水さんは、彼らを保護すると同時に、出入国在留管理庁(入管庁)や法務省と掛け合い、在留資格の交付をお願いしました。その甲斐もあってか、国は技能実習生に対する雇用維持支援を発表。これは特定技能を目指す外国人に対し、最大で1年間の在留を認めるというものです。
ただし、日本で生活し続けるためには、在留期間中に特定技能試験に合格すれば良いという単純な話ではありません。「若者たちをただ保護するだけではダメで、日本語や特定技能試験の勉強もして、新しい職場に繋げていかなくてはならない。当時はかなり切羽詰まった状況で、物資支援や保護に加えて、勉強会などの支援を行っていました」

その際、役に立ったのがコロナ禍での助成金です。以前は寄付金で支援を行っていましたが、コロナウイルスの流行が長引くにつれ、それだけでは難しい状況になったそうです。
「衣食住の確保だけでも、かなりのお金がかかります。食費は毎日数万円かかっていましたし、着の身着のまま逃げていた人たちへは衣服の支援もしていたので、助成金の存在は本当に助かりました。また、勉強会には日本語の先生や、ベトナム語で教えられる留学生にも有償で来てもらっていました。ボランティアではなく有償でできたのは、助成金があったからにほかなりません」
ほかにも、妊産婦や病気になった人への医療支援にも力を入れています。技能実習生や留学生たちは日常会話レベルの日本語はできるものの、医療や法律に関する話を日本語でやりとりするのは難しく、日本人の支援が必要不可欠だと吉水さんは考えています。
SNSの活用など、ベトナム人の若者目線で考えた支援を
コロナ禍は数千人の保護を行ってきた「日越ともいき支援会」。それだけの規模で支援を行うとなると、お金はもちろん、人手も必要です。しかし、「日越ともいき支援会」のスタッフは日本人6人、ベトナム人12人の計18人のみ。スタッフだけでは到底この規模の支援は行えません。にもかかわらず、大規模な支援ができたのはなぜか——そのヒントは、各分野のスペシャリストとの連携にありました。
「たとえば、就労関係は連合東京、医療関係は病院の先生、行政関係は区役所の方といったように、専門分野の方々と連携して支援を行ってきました。こうした方々は、父の時代から繋がっている人もいましたし、テレビなどのメディアに取り上げられたことをきっかけに連絡をくれる方もいましたね」
吉水さんたちが自ら発信することはほとんどなかったそうですが、それでもたくさんのメディアが「日越ともいき支援会」を取り上げました。当時、東京を拠点とする支援団体のなかで「日越ともいき支援会」がかなり大規模だったことにくわえ、取材依頼を一切断らなかったことがメディア露出の機会を増やしたのでは、と吉水さんは考えています。
「業界の襟を正すにはメディアの力も重要です。技能実習制度の問題を多くの人に知ってもらうため、現在も技能実習生へのインタビューなどは積極的に受けています」
吉水さんたちが自ら発信することはほとんどなかったそうですが、それでもたくさんのメディアが「日越ともいき支援会」を取り上げました。当時、東京を拠点とする支援団体のなかで「日越ともいき支援会」がかなり大規模だったことにくわえ、取材依頼を一切断らなかったことがメディア露出の機会を増やしたのでは、と吉水さんは考えています。 「業界の襟を正すにはメディアの力も重要です。技能実習制度の問題を多くの人に知ってもらうため、現在も技能実習生へのインタビューなどは積極的に受けています」

支援する側の人手を充実させる一方で、もう一つ重要なのが、困窮しているベトナム人に支援の情報を届けること。「日越ともいき支援会」は約1万人へ物資支援、数千人の保護を行いましたが、これだけ大規模な支援ができた背景には、日頃からSNSでベトナム人と繋がる地道な活動がありました。
「コロナ前からFacebookのMessengerを通して、ベトナム人の若者と積極的に繋がっていたのです。『ベトナム人を助ける日本人がいる』ということを、ベトナム人コミュニティの中で周知することが大事だと考えていました」
その活動の成果は、コロナ禍に顕著に現れます。吉水さんのもとへ、ベトナム人からSOSの連絡がひっきりなしに届くようになったのです。こうしたSOSに対し、東京近辺に住んでいる人に対しては寺院に来てもらい、遠方で東京に来るお金がない人に対しては、東京までの交通費を振り込み、来てもらったのだそう。多いときには1日何百件と来ていたSOSを、吉水さんは一つも断りませんでした。

コロナが落ち着いた現在は、Facebookでベトナム人と繋がるのはもちろんのこと、TikTokを活用した啓発事業も実施。TikTokでは、日本の法律についてや、就労のための窓口紹介など、日本で生活するにあたって必要な事柄を伝えています。 「ベトナム人が使っているSNSはFacebookとTikTokが多いので、私たちもこの2つを活用しています。相談窓口などで『何かあったら電話して』と言われることも多いのですが、彼らはSIMカードを持っていない人がほとんど。自分のスマートフォンから電話ができないので、電話は手段としてはあまり意味がありません。支援を私たちの自己満足で終わらせないためにも、彼らの目線で考えることが重要です」
技能実習生の人権を守るために。重要なのは、しっかりとした支援体制の構築
コロナ禍ではさまざまな支援活動を行ってきましたが、なかでも印象に残っているのは、2022年11月に愛媛県西予市の縫製工場に対して、技能実習生11人への不払い金2,700万円の支払いを求めたこと。この問題が明るみに出ると、生産委託元のワコールホールディングスは技能実習生の生活を支援するとして、「日越ともいき支援会」に500万円の寄付をしました。ほかにも、問題を知ったいくつもの会社が声を上げたり、ニュースを見た一般の人から暖かい声をかけてもらったりしたといいます。
「厚生労働省の方に『歴史を変えてくれてありがとう』、周りの方からは『頑張ったね』などと声をかけてもらったことが本当に嬉しかったです。私としては特別頑張ったわけではなくて、いつも通りの支援をしていたのですが、その結果たくさんの人に知ってもらうことができました」

愛媛県西予市の縫製工場の問題は、不払い金の額も大きかったため、多くのメディアに取り上げられ話題になりました。しかし、これは氷山の一角に過ぎず、日本各地ではこうした不払い金問題をはじめとして、企業から不当に解雇されるなどトラブルが相次いでいます。
こうした状況を受けて、政府の有識者会議は2023年4月、現在の技能実習制度を廃止し、新しい制度へと移行する案を示しました。この新制度について、吉水さんは根本的な問題解決にはなっていないと話します。
「たとえば、現在は原則不可とされている転職について緩和の方針が示されていますが、転職できないから失踪などの問題が起こるわけではありません。何かあった際に技能実習生から相談を受けたり、支援したりする体制が機能していないことが問題なんです」
本来であれば、企業と技能実習生の間にトラブルが起こった場合、実習生の受け入れ先に指導を行う「監理団体」と呼ばれる組織や、監理団体から報告を受けるなどする「外国人技能実習機構」が問題解決や支援を行います。しかし、こうした仕組みが十分機能していないために、労働環境や人権侵害に関するトラブルが後を経たないと吉水さんは考えています。
「まずは監理団体、そのあとに外国人技能実習機構、と相談ステップを踏むわけですが、ここで問題解決に繋がらないと、実習生たちも諦めるしかなく失踪してしまうんです。その問題を解決しないまま転職の制限を緩和しても、『1年我慢して働いたら、より時給の高い東京に行こう』といった実習生が増えるだけ。まずはしっかりとした支援体制を構築することが必要だと思います」

技能実習生を取り巻く環境は少しずつ変化の兆しを見せていますが、現在も「日越ともいき支援会」には日々相談やSOSの連絡が届きます。吉水さんはこうした現場の声を東京出入国在留管理局や厚生労働省に届け、ベトナム人の保護や支援だけでなく、国側にも支援の充実を図るよう働きかけています。
日本人とベトナム人がともに生きる社会を目指して、「日越ともいき支援会」はこれからもベトナム人の命と人権を守る活動を続けていきます。
事業基礎情報【1】
実行団体 | 特定非営利活動法人 ⽇越ともいき⽀援会 |
事業名 | 在留外国人コロナ緊急支援事業 |
活動対象地域 | 全国 |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 ジャパン・プラットフォーム |
採択助成事業 | 2020年度新型コロナウイルス対応支援助成<随時募集3次> |
事業基礎情報【2】
実行団体 | 特定非営利活動法人 ⽇越ともいき⽀援会 |
事業名 | 在留外国人コロナ緊急支援事業 |
活動対象地域 | 全国 |
資金分配団体 | 公益財団法人 日本国際交流センター |
採択助成事業 | 2021年度新型コロナウイルス対応支援助成<随時募集7次> |
2023年3月23日に開催しました、休眠預金活用事業・調査研究シンポジウム「罪を犯した人の立ち直りを地域で支えるために ~地域の生態系の視点から~」の動画をご紹介します。
<プログラム>
【第一部】
<開催挨拶>
動画▶ https://youtu.be/Mc431Q9RbRY
<事業紹介>
動画▶ https://youtu.be/D5igPXI44mM
<調査研究報告>
動画▶ https://youtu.be/3daVAqDZOPs
【第二部】
<パネル・ディスカッション>
動画▶ https://youtu.be/xj6QYu5v0io
会場:
オンライン:
(司会:津富 宏)
<質疑応答>
動画▶ https://youtu.be/Le3kxnjAf08
※フロアディスカッションの様子は、休眠預金活用事業サイトで当日の写真をご覧いただけます。
<終了挨拶>
動画▶ https://youtu.be/-ms5NGbvQec
津富 宏氏 静岡県⽴⼤学教授/NPO法⼈青少年就労支援ネットワーク静岡顧問
〈関連記事リンク〉
JANPIA主催 休眠預金活用事業・調査研究シンポジウムを開催!|JANPIA|活動スナップ | 休眠預金活用事業サイト (kyuminyokin.info)
パブリックリソース財団は、休眠預金等活用事業の中ではまだ珍しい「組織基盤強化」に対して、資金分配団体として支援を行いました。
仮放免者をはじめとする困窮する外国人の方の医療支援を行っている『北関東医療相談会』。2021年度コロナ枠〈資金分配団体:公益財団法人 日本国際交流センター〉の実行団体として活動している。 今回は、北関東医療相談会の長澤正隆さんと大澤優真さんに、困窮する外国人を取り巻く医療の現状や休眠預金を活用した活動の内容などを、評論家でラジオパーソナリティーでもある荻上チキさんが伺いました。その様子をレポートします。
▼インタビューは、動画と記事でご覧いただけます▼
医療につながりにくい在留外国人の実態
荻上チキさん(以下、荻上):
北関東医療相談会から今日は長澤さんと大澤さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。早速ですが、北関東医療相談会はどういった活動をなさっているのでしょうか。
長澤正隆さん(以下、長澤):外国人で在留資格のない人たちに、健康相談会を中心とした健康支援をする団体として立ち上げました。

荻上:活動のきっかけは、どういったものだったんでしょうか。
長澤:そうですね。1985年前後に外国人が日本に大変多く入ってきた時期あり、その頃から活動しています。その頃、あるフィリピン人男性が病院に入院されてがんの手術を受けるいうので、補償人になってほしいと相談があったんです。もちろんOKして、手術が終わってから3日経ってお見舞いにいったところいったところ、亡くなっていたんです。
適切な時期に健康診断が受けられていれば、こういうことはなかったんじゃないかと思い、何かいい方法はないのかということを考えました。そのよう中、「市民でつくる健康診断会というのがあるよ」という話を聞いて、いろいろと教えてもらいながら、健康診断会を続けてきました。
荻上:元々在留資格のない方には医療提供の機会というのは乏しかったんでしょうか?
長澤:「在留資格がない」と働くことができません。そして、社会資源を活用した支援を全く受けられないということになりますから、健康保険も何もないんですね。だからそういった意味で大変です。
コロナで増えた在留資格のない外国人、そして困窮する支え手
荻上:大澤さんにお伺いします。これまでの様々な活動と、コロナ禍以降の活動で何か変わったと感じるところはありますでしょうか。
大澤優真さん(以下、大澤):そうですね。私たちが支援してる人は、主に「仮放免」という状態の人たちが多いんですけれども。まず、コロナをきっかけにして仮放免者の方が増えたんです。というのも、入管施設に収容していると、施設が密になって駄目だということで、仮放免になるということがありました。2021年末現在で約6000人の方が仮放免ということになっています。
しかし、これまで仮放免の方を支えてきた人たちも、このコロナで困窮状態に陥ってしまった。日本人も外国人もみな困窮してしまい、コミュニティで仮放免者を支えられなくなったという現状があります。そのような背景から、仮放免者はより深刻に困窮してるっていう現状があります。

荻上:これまで入管施設が仮放免を渋ってきたこと自体にも、もちろん課題がありますが、他方で一気に収容者の方が仮放免となるとコミュニティを支える力というのがなかなか厳しいということですね。先ほどもお話がありましたけれども、仮放免の方は就労が禁じられているので、医療もそうですし、貧困の中での課題が多いですね。
大澤:そうですね。就労が認められていなくて雇われるのも駄目ですし、何か自営業的に働いてお金もらうってこともできません。その一方で、国は健康保険を出さないと言っています。生活保護も出ません。「働いてはいけない」し「何の手当もしません」と言われていて、文字通り生きていけない状況です。
荻上:保険適用されないということは自費診療ということに一般的にはなるんですね。

大澤:100%自己負担になります。保険証が使えれば3割負担ですけども、それが100%なので、風邪だけで病院に行っても2万円、3万円が一気に飛んでしまいます。病院によっては、通常の2倍、3倍を請求されることもあります。2倍、3倍というのは、100%の2倍3倍になるので、本当に大変な状況です。
荻上:なるほど。そうすると相談会に来られて、例えばご病気が発覚されたとして、そこから治療に繋げるという中でも、色々な課題がありそうですが、そこはいかがでしょうか?
大澤:そうですね。まずお金が圧倒的に足りないですね。先ほどお話ししたように風邪でも2万円3万円かかってしまうので、仮放免の方たちは小さい病気では病院に行けないんです。我慢して、我慢して、重症化してしまって、最後に私たちの目の前に来るときには、本当に大きな病気になってしまっている。そして、いざ病院に行くと「がんの手術が必要だ」ということになっていて、50万円、100万円、300万円必要だということになる。そして病院によっては、その2倍や3倍になってしまうので、600万円とか900万円とかかってしまう現状があります。
荻上:それを普段でしたら、コミュニティが一生懸命支えていたという状況が続いていたわけですね。
大澤:コロナ前はなんとか支えることができていたかもしれないのですが、コロナ以降、本当に圧倒的に深刻な困窮状態になってます。
休眠預金の活用には、現状を多くの人に知らせるためという意味も
荻上:そうしたコロナ禍の中で、コロナ対応支援枠で休眠預金活用事業に参画されています。まずはどうしてこの休眠預金を活用しようと思われたのでしょうか。また、どんな活動に生かされているのでしょうか。
長澤:申請した背景は、二つあります。一つは、他の助成金と比べて助成額が大きいことです。
もう一つは、新しい枠組みの助成だからこそ、こういう状態にある人たちがいることを知ってほしい、情報を広めたいと考えました。この二つの意味を持って申請しました。
荻上:なるほど。申請そのものを「コミュニケーション手段」として考えているということですね。
長澤:そうですね。世の中には、色々な団体があるのですが、やはり「こういった人たちがいる」ということを知ってもらい、「どうしてこんなに大変なんだ」ということをよく理解してもらって、社会を良くしていかなければいけません。そのためには、やはり助成金を出してるところに知ってもらうのが一番だと考えています。
荻上:「外国から来られた方込みの日本社会が、既にあるんだ」ということを、伝えたかったということですね。休眠預金活用事業にコロナ対応支援枠に2020年度・2021年度で2回採択されて、どのように活用されているのですか。
長澤:基本的には、医療支援ですね。健康診断会を開催し、そこから出てきた病気の方たちを病院に連れて行き、そこでの支払いに活用しています。1回目の採択時には、家賃支援ですとか水道光熱費などの生活そのものを支えることにも使いました。平たく言えば、「生活保護」です。
実際上、私たちがやってる活動を全部見直したら、「これはもしかして生活保護」だなと感じました。しかし、家賃の支払いだと、今の状態では1ヶ月か2ヶ月しか支援できない。生活保護であれは、1年間やれますけれども。それを活動でやり始めたら、もうとても医療支援はできません。1財団さんにお願いする枠をはるかに超える金額になるので、それは難しいと思います。

荻上:一人一人の生活そのもの、コミュニティそのものを支えるだけの財源が必要となってくるわけですね。1団体でできることの限界というのも、併せて見てこられたわけですね。
長澤:当初は健康診断会やって、病院連れて行くことからスタートしました。その次は病院でどうやって病気を治すかということを考えました。健康診断会で病気と思われる人には病院を教えて行ってもらうわけですが、支払い能力がないわけです。しかし病院の方は、応召義務(診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合、正当な事由がなければ拒んではいけない)があるので、来た人を「お金がない」という理由では断れないわけです。
そのような中、どんどんそのような方を連れて行くと病院の方が嫌がってしまい、先ほど大澤が申したように2倍、3倍というお金を徴収するようになってしまう。ですから、最初から私たちが介入し、100%のうちに「私たちが払うから」と説明して繋いでいくほうが全体がうまくいくわけです。

荻上:仮放免の方は移動制限があるので、多くの方が近くの病院に行きたいと考えると思います。しかし、近くの病院が排除的な状況ですと、医療そのものから断たれてしまうという状況になってしまいます。そこでも、現実を知ってもらうというコミュニケーションが発生するんですね。
大澤:そもそも存在を知られていないですね、そこが大前提であるかなと思います。例えば仮放免であっても使える制度っていうのは、若干ですけどあるんです。例えば入院助産っていう出産のお金です。これオーバーステイの人に使えるのですけども、「使えますよ」って病院に行っても「いや、うちでは」とか、「うちの自治体でやらない」と。昔の国の文書を見ると使えるって書いてあるのですけど、なかなか存在を知られていないがゆえに理解も全然進んでない。いろんな問題ありますけど、まずは知ってもらわないといけないなと思いますね。
荻上:知っていただいた上で病院側が変わったというケースもあるんですか。
長澤:「ずいぶん変わってきているな」という実感はありますね。はじめ、仮放免というのか、在留資格のないような人が病院に行くと、断られるんです。そのような中、(在留資格のない人でも使える制度などの)いろんな資料をもって病院に説明に行き、院長先生が資料を読んでくださり、その後、「仮放免許可書を持ってきた人は無料で診るから、送ってくださっていいよ」とおっしゃっていただいた例がありました。皆さん、知らないんです。でも知ると変わるんです。
私が活動を始めた頃は行政もそうで、県の担当者に話しても「仮放免って何ですかって。教えてください。」というところからスタートしました。そこから「無料・低額診療制度」を使えないのはおかしいということで、健康課の担当の方に連絡をして話をしてもらい、制度が使えるようになって、その翌年から一気にいろんな病院で制度利用が可能となりました。やっぱり、地域行政との関係の中においても、働きかけや知ってもらうためのアクションは必要です。
仮放免者の方々の状況を伝え、市民の力で支えたい
荻上:最後に今後の活動でどういった点力を入れていきたいのかなどをお聞かせください。
大澤:はい。まず「目の前で生きていけないほどに困窮している仮放免の方々の生活を守る」というとこが大前提ですね。そのためにどうするかっていうとこなんですけども。行政とか病院とか、いろんな人とコミュニケーションを取りつつ、今私が一番したいのは多くの人に仮放免者の存在や状況を知ってほしいっていうことです。
先日、川口駅近くで「難民フェス」というものをやったんです。当日はあいにくの雨で寒かったんですが、そこには1000人を超えるぐらいの人が参加したと聞いてます。関心のある人はいるんです。ですから、そういった人に、この仮放免者の状況をしっかり伝えて、いろいろと動いていく基盤を作りたいなと思ってます。

荻上:来年以降の活動や展望について、長澤さんいかがですか。
長澤:そうですね。広く活動を広げていって。あとは、病気になった人を、私たちの市民の手で治せるかどうかっていうのは定かではないですが、チャレンジの一つと捉えてやっていこうと考えています。去年も色々な記者会見をやらせてもらったり、報告をさせてもらったりして、ずいぶん皆さんから寄付をいただいていて、ほとんどの寄付を治療費に使うことができ、とても喜んでいます。今後も、同じような形態でやれたらいいなと考えています。加えて、私たちの側から別な形態を考えて、例えば、海外へのアプローチを含めて寄付の範囲を広げていきたいと考えています。 荻上:今回は休眠預金活用事業 がどういうものか知りたいという方や、休眠預金が適切に活用されているかを知りたいという方も多いと思いますが、そうした関心からであったとしても、まずはこの仮放免者や様々な背景をお持ちの方が、日本でどのように暮らされているかをぜひ知ってほしいですね。
長澤:そうですね。まさにその通りで、正直、休眠預金を活用したコロナ対応支援枠での活動がなかったら、多分、私たちは行き詰まってたんじゃないかなと思うんですね。これまで自分たちで長年お金を集めて活動してきましたが、パワーが違います。そして、休眠預金活用事業は、落としどころをきちっとつければ、意外と活用については自由度が高いっていうことがよくわかりました。
今、仮放免者は約6000人弱ぐらいいます。私たちは、どこもやらないのであれば、自分たち市民の力でなんとか支えたいと考えています。しかし仮に、6000人に生活保護150万円ぐらいの支援をするとなると、とんでもない金額がかかります。それは本来、行政がやる仕事です。生活保護を市民社会で実現できないのであれば、どこかで支えなければいけないと、そういう思いでいます。
荻上:これまである種の共助の仕組みを通じて支援してきたわけですが、その限界が見えてきました。ならば公助の枠組みを問うという、そういったコミュニケーションも、ぜひこのインタビューを見る方にも考えてほしいですね。
本日は、ありがとうございました。ありがとうございました。

【事業基礎情報 Ⅰ】
実行団体 | 特定非営利活動法人 北関東医療相談会 |
事業名 | 外国人が生きていくための医療相談、新型コロナウイルス対策事業 |
活動対象地域 | 関東(群馬県、栃木県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、川口市) |
資金分配団体 | 公益財団法人 日本国際交流センター |
採択助成事業 | 2021年度新型コロナウイルス対応支援助成 |
【事業基礎情報 Ⅱ】
実行団体 | 特定非営利活動法人 北関東医療相談会 |
事業名 | 医療からほど遠い在留外国人の側に立つ |
活動対象地域 | 北関東 |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 ジャパン・プラットフォーム |
採択助成事業 | 2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成【事業完了】 |
■長澤正隆さん プロフィール■
酪農学園大学卒業後、食品会社に就職。2006年にカトリックさいたま教区終身助祭となる。北関東医療相談会の前身となる「外国人の為の医療相談会」を1993年に群馬県で発足。以来、生活に困窮する人の健康診断の費用や治療費、食料や家賃などの支援に取り組む。
■大澤優真さん プロフィール■
法政大学大学院人間社会研究科博士後期課程修了。博士(人間福祉)。大学非常勤講師。2018年より困窮外国人支援団体「北関東医療相談会」事務局スタッフとして、仮放免者など困窮する外国人の支援を行う。
■荻上チキさん プロフィール■
メディア論をはじめ、政治経済やサブカルチャーまで幅広い分野で活躍する評論家。自ら執筆もこなす編集者として、またラジオパーソナリティーとしても人気を集める。その傍ら、NPO法人ストップいじめ!ナビの代表理事を務め、子どもの生命や人権を守るべく、「いじめ」関連の問題解決に向けて、ウェブサイトなどを活用した情報発信や啓蒙活動を行なっている。
社会調査支援機構チキラボ 代表