助け合いの力で広がる支援の輪。地域全体で取り組むフードバンクふじさわの活動

フードバンク活動とは、品質には問題がないのに包装の破損や過剰在庫、印字ミスなどで流通に出すことができない食品を企業などが寄贈し、必要としている施設や団体、困窮世帯に無償で提供する取り組みのことです。生活困窮者への支援とともに食品ロス削減にもつながる活動として、ここ数年で注目が高まっています。今回は、2023年度緊急枠に採択された「フードバンクふじさわ等冷凍食品物流・保管機能の強化支援事業」の実行団体「認定NPO法人ぐるーぷ藤」をはじめとする関連団体・組織の方々に集まっていただき、これまでの取り組みや今後の展望について伺いました。

コロナ禍での困窮者支援に立ち上がった、地域福祉の草の根活動メンバーたち

フードバンクふじさわが設立されたのは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、生活困窮者の支援が急務となっていた2021年3月のことです。神奈川県藤沢市内の地域福祉に携わるNPO法人が集う「ふじさわ福祉NPO法人連絡会」では、地域のさまざまな課題を共有しながら支援の方向性が議論されていました。そこで浮き彫りになった喫緊の課題の1つが、ひとり親家庭など孤立しがちな生活困窮者への支援です。その解決策を模索する中で、食品ロスを減らしながら必要な人に食品を届けるフードバンクかながわの取り組みに関心が寄せられ、フードバンクの設立が検討されました。

こうした背景のもと、フードバンクふじさわ設立準備会が発足し、関係者が協力して準備を開始。当時の経緯について、フードバンクふじさわ代表の野副妙子さんに聞きました。

野副妙子さん(以下、野副)「食品支援の必要性について話し合っている時に、フードバンクかながわから『藤沢市にもフードバンクをつくらないか』という声かけがありました。そこで、フードバンクかながわに足繁く通って、現場を見て学び、フードバンクふじさわの構想が固まり始めたころ、折悪しくコロナ禍が始まりました。『状況が落ち着いてから立ち上げよう』という声もありましたが、困難な時期だからこそ『今立ち上げなくてどうする』という、ふじさわ福祉NPO法人連絡会代表の鷲尾さんの提言があり、設立準備を進めました。そして、藤沢市内のさまざまな福祉団体や賛同する市民の方、行政、社協、企業、フードバンクかながわの協力により、フードバンクふじさわを立ち上げることができたのです」

フードバンクふじさわ 代表 野副妙子さん

市民団体と一体となって活動する市や社会福祉協議会

フードバンクふじさわの発足に先駆け、藤沢市社会福祉協議会(以下、社協)は2018年からフードバンクかながわと連携し、支援を必要とする人々に食品の提供を行ってきました。フードバンクふじさわ発足以降は、フードドライブ(家庭で余っている食品を集める仕組み)を通じて集めた食品を、市役所や社協の職員が食品保管・仕分けの拠点へ配送するほか、拠点の借り上げや企業との窓口になるなど、幅広い支援を行っています。

社会福祉法人 藤沢市社会福祉協議会 事務局長・村上尚さん(以下、村上)「フードバンクふじさわは、さまざまな団体・組織が協力する共同体です。比較的珍しいケースだと思いますが、私たち社協もその一員として活動に参加しています。立ち上げ時から社協が加わり、共に活動してきました。『地域をよくしていこう』という共通の目標を見据えることが連携のカギだと思います。

そもそも市の社会福祉協議会という組織は地域福祉を推進する団体。地域の課題に対して、先駆的に柔軟に取り組むことが使命です。制度化された支援では対応しきれない部分をフードバンク活動が補い、市民団体と連携することで、ひとり親家庭などへの個別支援も可能になりました。フードバンク活動はすべてをバックアップできるわけではありませんが、困窮に陥っている方々が一息ついてもらうための支えになります。連携を通し、地域支援のために私たちができることの幅が大きく広がっていると思います」

藤沢市社会福祉協議会 事務局長 村上尚さん

コロナ禍以降も物価高騰の影響で利用者が急増し、ニーズに応えきれない状況に

フードバンクふじさわ設立翌月の4月には、市内3カ所に、食品支援を必要としている方が食品を受け取れる拠点としてフードパントリーを設置し、第1回の食品配布を実施。ひとり親世帯やひとり暮らしの大学生ら(※)に、米やカップ麺、缶詰、飲料などを無償で提供しました。

※ 大学生への提供は2023年10月まで

その後、2022年3月までの1年間でのべ2,195人の利用があり、翌22年度は2,805人と増加。23年度は最初の2カ月で利用者が500人を超えるなど、コロナ禍は落ち着いたものの物価高騰の影響で利用者が大幅に増えていました。しかし、利用者が増加する反面、物価高騰により缶詰やレトルト食品などの常温保存できる食品の寄付は減少しており、ニーズに応えきれない状況に陥っていました。

これは全国のフードバンク共通の課題でもありました。フードバンクかながわは、取り扱う食品を増やすため、神奈川県内に食品倉庫を持つマルハニチロ株式会社に寄付を依頼。その結果、ツナ缶などの常温食品は市場でのニーズが高く余剰がほとんどないものの、冷凍食品は外箱の破損などで廃棄されるものがあり、提供が可能だと回答を受けます。ただ、冷凍食品の寄付を受けるには、品質を保つためのコールドチェーン(冷蔵・冷凍といった所定の温度を維持したまま輸送・保管などの流通プロセスをつなげること)を作り上げることと、寄付した商品がどこに届けられたのかというトレーサビリティを実現することが条件でした。

野副「フードバンクかながわから冷凍食品の取り扱いについて打診があり、そのための準備を行いました。当時は少しだけの取り扱いしかできませんでしたが、冷凍食品は、電子レンジさえあればすぐに食べられるためとても人気がありました」

そんな時、フードバンクかながわが「神奈川県及びその周辺の食支援ネットワーク発展のために〜冷凍食品を活かした支援食品のレベル向上」という事業で、休眠預金活用事業の資金分配団体に採択されたことを知り、フードバンクふじさわも応募を考えましたが、法人格がないことから、一緒に活動を共にしてきた認定NPO法人ぐるーぷ藤を代表団体として申請し、採択されるに至りました。

休眠預金の活用で取り扱い食品量が大幅に増え、子ども食堂にも提供が可能に

フードバンクふじさわは助成金を活用して、冷凍車、冷凍庫、保冷ケースを購入し、コールドチェーンをつくり上げます。また、フードパントリー利用者にも保冷バッグによる持ち帰りを厳守とし、冷凍食品の品質管理を徹底しています。

村上「2024年9月には待望の冷凍車が購入され、冷凍食品の物流倉庫がある神奈川県川崎市の扇島まで直接受け取りにいくことができるようになりました。また、大型の冷凍庫4台も購入され、社協が福祉物流拠点として借り上げている湘南藤沢地方卸売市場の店舗内の一区画に設置しています。実は、冷凍車いっぱいに冷凍食品を積み込むと、ちょうどこの4台の冷凍庫に収まりきるようになっているんです。
集まった食品は、フードパントリー拠点で配布する分や子ども食堂で使ってもらう分へと仕分けします。本格的に冷凍食品を取り扱うことで、フードバンク活動だけでなく子ども食堂にも提供できるほどの量を調達できるようになったのは、本当にありがたいですね」

冷凍食品の保管と輸送体制を強化するため導入された冷凍庫と冷凍車

野副「休眠預金活用事業のおかげで、大きな課題であった利用者の増加に伴う食品ニーズの拡大に応えることができるようになりました。寄付でいただく冷凍食品には業務用のものもあるため、それらは子ども食堂で使っていただいています。冷凍食品は歓迎されていて、特にからあげなどの肉類は子どもたちに大人気です」

認定NPO法人ぐるーぷ藤 理事長・藤井美和さん(以下、藤井)「私たちのフードバンク活動でのおもな支援対象は、ひとり親世帯のため、誰でも簡単に調理ができる冷凍食品はニーズに合っているようです。取り扱い量が増えたことで、親子で好きなものを選んでもらうこともできるようになりました。嬉しそうに保冷バッグを持って帰る姿を見ると、本当にやりがいを感じます。また、冷凍食品はお弁当にも適しているので、子育て中の世帯にはそういった点でも非常に喜んでもらえているようです」

利用者に寄り添う「伴走型」の支援で、新たな窓口への橋渡しも

フードバンクふじさわの活動は、食品の支援にとどまりません。地域の居場所づくりや生活支援コーディネート業務等に携わってきたメンバーも数多く参加していることから、フードパントリーでも訪れた人に積極的に声をかけ、支援が必要な人には適切な窓口への橋渡しなども行っています。また、ひきこもりの当事者をフードバンク活動のボランティアとして受け入れ、その後の就業へと結びつけるなど、ひきこもり支援と連携した活動も展開しています。

藤井「ぐるーぷ藤の理念は『歳をとっても病気になっても障がいがあってもいつまでも自分らしく暮らせる街を創りたい』というもの。お互いさまの気持ちを大切に、地域住民同士の助け合いを目指しています。フードバンク活動においても『伴走型』が基本。相手に寄り添い、食品支援にとどまらないサポートを行っています」

ぐるーぷ藤 理事長 藤井美和さん

村上「フードパントリーに来られる方の中には課題を抱えて困っている方も多くいます。そうした人と顔を合わすことで、社協の相談支援へつなげることができるのです。逆に、私たちが普段相談を受けている方の中で、ひとり親の方などフードバンク活動の対象となる方には、食品配布の紹介をすることもあります。いきなり社協や市の窓口に相談に来るのはハードルが高いと思う方もいると思いますが、フードバンクを通じて自然につながることができるのは、大きな意義があると感じています」


人と人とのつながりを、大切にすることが活動の基本

最後に、フードバンクふじさわの活動を支えるメンバーに、今後に向けた取り組みについて語ってもらいました。

野副「藤沢市の取り組みが、ほかの市にも広がっていくことを願っています。社協と自治体が連携しながら生活困窮者への支援に力を尽くしてくれていることが伝われば、地域の市民団体も一緒にがんばっていこうという気持ちになってくれると思いますから。また、フードバンクふじさわの報告会に、毎年市長をはじめ、社会福祉協議会の会長や、民生委員児童委員協議会の会長、企業の皆さんといった方々が参加してくれます。これが『藤沢型フードバンク』と私たちが称しているゆえんです」

フードバンクふじさわ事務局・小野淑子さん「フードバンクふじさわは、『小さく産んで大きく育てる』の合言葉のもと任意団体としてスタートし丸4年が経ちました。そして2025年4月には一般社団法人化を予定しています。これまで任意団体でありながらも多くの支援をいただいてきましたが、法人化によって、さらに信頼を得ることができ、活動が広がっていくのではないかと期待しています」

藤井「フードバンクふじさわの活動で生まれた人と人とのつながりがこの先も続いていくことを願っています。伴走型の活動によっていろいろな縁があり、ぐるーぷ藤で就労された方もいますし、障害のある方の就労のきっかけにもなっています。食品を提供するだけでなく、人のつながりを広げる場として活動していきたいです」

村上「地域の困窮者を支える方法やしくみづくりは、社会全体で考えていかないといけない問題ですが、すぐに解決できるものはありません。だから、フードバンクの活動はそういう人たちの『今』を支える大切な役割を果たしていると思います。また、フードドライブなど、みんなが地域福祉に関心を持つきっかけにもなってほしいですね。そして、今フードパントリーに来ている子どもたちが、将来『地域のために何かしよう』と思えるような循環が生まれる場であり続けてほしいです」

社会福祉法人 藤沢市社会福祉協議会 事務局参与・倉持泰雄さん「フードバンク活動は、困難を抱えた方を地域社会で支える大切なしくみです。助成金のおかげでコールドチェーンが整いましたが、今後は冷凍車の管理運営など新たな課題に取り組んでいく必要があります。引き続き、地域の支援のために尽力していきたいです」

取材に対応してくださった方々。左からフードバンクかながわの萩原妙子さん、フードバンクふじさわの小野淑子さん・野副妙子さん、ぐるーぷ藤の藤井美和さん、藤沢市社会福祉協議会の倉持泰雄さん・村上尚さん、フードバンクかながわの藤田誠さん
 



■資金分配団体POからのメッセージ

フードバンク活動に対して社会の認知も少しずつ高まってきましたが、まだまだ具体的な活動について知らない団体、企業、行政担当者もいらっしゃいます。具体的にどんな活動ができるのか、1人でも多くの人に知ってほしいですね。また、フードバンク活動は食品ロスの削減にも貢献し、ゴミ処理費用の削減やCO2排出削減にもつながります。ぜひ小さな子どもさんから大人まで、多くの人に関心を持ってもらえたら嬉しいです。

(公益社団法人フードバンクかながわ/事務局長 藤田 誠さん)

フードバンクかながわには多くの冷凍食品が集まる中、私たちだけではなかなか輸送や保管、配布に回しきれない状況となっています。そのため、神奈川県の各自治体に1つはフードバンクが必要となっており、さらにハブとなる拠点を作ることが重要だと考えています。フードバンクふじさわのように活動ができる団体が今後もっと増えていくために、冷凍食品のフードバンク活動の価値を広め、全国で「うちのフードバンクでも冷凍食品を扱いたい」という声が自治体を動かすことを期待しています。

(公益社団法人フードバンクかながわ/理事 萩原妙子さん)

【事業基礎情報】

実行団体
NPO法人ぐるーぷ藤
事業名

フードバンクふじさわ等冷凍食品物流・保管機能の強化支援事業(2023年度緊急枠)

活動対象地域
神奈川県藤沢市
資金分配団体
公益社団法人フードバンクかながわ

採択助成事業

神奈川県及びその周辺の食支援ネットワーク発展のために

今回のJANPIAスナップでは、PwC Japan×SMBCグループ共催、JANPIA・ETIC.協力で行われた第二回「ソーシャルな交流が広がる 1Dayプロボノワークショップ」』の様子をお届けします。 

イベント概要

2025年2月22日(土)、PwC Japanグループ(以下、PwC Japan)と株式会社三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)は、企業の垣根を越えたコレクティブインパクトの創出を目指し、第二回「ソーシャルな交流が広がる1Dayプロボノワークショップ」を共同で開催。今年度からJANPIAと資金分配団体でもあるETIC.が協力団体として参加しました。 

本イベントは、2023年10月6日(金)にJANPIA主催で実施した 「ボランティア・プロボノマッチング会 第2回成果報告会」でご登壇いただいたPwCあらた有限責任監査法人、SMBC日興証券株式会社の方々が、その場で連携に向けた対話をされたことがきっかけで実施に繋がったものとなります。 

【関連記事】「ボランティア・プロボノマッチング会 第2回成果報告会」を開催!

活動スナップ

△SMBCグループ公式サイトより転載

当日は、「異なる組織による共創によって社会の持続的な変革の体現を目指す」という趣旨に賛同した企業43社から約130名が参加し、20の NPO等の団体が抱えるさまざまな課題に対する解決策の提案が行われました。 
 
参加団体20団体のうち、休眠預金活用事業の採択団体からは、以下の13団体が参加しました。 
 
・認定特定非営利活動法人 キャリアデザイン研究所 
・特定非営利活動法人 ウイズアイ 
・特定非営利活動法人 シングルマザーズシスターフッド 
・特定非営利活動法人 ワーカーズコレクティブういず 
・認定特定非営利活動法人 カタリバ 
・特定非営利活動法人 みんなのコード 
・認定特定非営利活動法人 3keys 
・特定非営利活動法人 WHITE CANVAS 
・一般社団法人 あわらテクノロジー協議会 
・一般社団法人 ころん 
・一般社団法人 merry attic 
・一般社団法人 チョイふる 
・一般社団法人 かけはし 
 
当日の様子は、PwC Japan及びSMBCグループの公式サイトよりご覧いただけます。 

コロナ禍による入国規制の解除後、日本で難民認定を申請する外国人が増えています。申請中で在留資格のない外国人は就労できず、公的支援も受けられないため、生活が困窮し、精神的にも追い詰められる傾向にあります。こうした難民認定申請者や非正規滞在者を支援するため、2023年度の休眠預金活用事業(緊急支援枠、資金分配団体:NPO法人青少年自立援助センター)による緊急人道支援を行っているのがNPO法人アクセプト・インターナショナルです。同団体は国内外で紛争や人道危機、社会的排除などの問題解決に取り組んでいます。今回は、団体の活動やその背景などについて、代表理事の永井陽右さん、国内事業局 局長の吉野京子さんを中心にお話を伺いました。

ソマリアから始まった「平和の担い手」を増やす取り組み

アクセプト・インターナショナルは「誰しもが平和の担い手となり、共に憎しみの連鎖をほどいていく」ことを目指し、世界の紛争地や日本で活動する団体です。2011年、大学1年生だった永井陽右さんは、世界で最も深刻な紛争国の一つとされていたソマリアの惨状を知り、「このまま見過ごしてはいけない」との思いから、仲間とともに活動を開始しました。

当時のソマリアは、頻発するテロや紛争によって貧困や飢餓が深刻化し、2年間で約26万人もの人々が命を落としていました。それにもかかわらず「危険すぎる」「解決策がない」からと、世界から見放されている状況に「そんな理由で支援が届かないのはおかしい」と強く感じた永井さん。「支援が必要とされているのに、難しさを理由に誰も手を差し伸べないのであれば、自分たちがやる」——その決意が活動の原点となっています。

永井さんたちはソマリアのテロや紛争を止めようと、若者が武装組織から抜け出し、社会復帰する支援を開始。2017年にはNPO法人アクセプト・インターナショナルを設立し、イエメンやケニア、インドネシア、コロンビア、パレスチナなど、世界の紛争地へと取り組みを広げていきました。

永井陽右さん(以下、永井)「テロリストの多くは、社会に居場所がないことや生活苦、脅迫などから武器を持たざるを得なかった若者たち。彼らを排除しても負の連鎖は終わりません。私たちが目指すのは、彼らが本来の若者らしく希望を持って生き、私たちと一緒に平和な世界をつくっていくことです」

団体設立の背景についてお話しされる永井陽右さん
団体設立の背景についてお話しされる永井陽右さん

海外での経験を活かし、日本でも「難しくて取り残されている問題」に着手

海外の経験を活かして日本でも「解決の担い手がいない難しい問題」に取り組もうと、2020年からは国内事業も開始。コロナ禍で海外事業の継続が困難になった時期とも重なり、国内の課題にあらためて目を向けるようになりました。現在は主に、非行少年の更生支援と、在日ムスリム(イスラム教徒)を中心とした在日外国人支援の2つの事業を展開しています。

非行少年の更生支援では、とくに社会の受け入れが難しい、重い犯罪に関与した若者の社会復帰を支援。相談支援をはじめ、社会復帰を後押しするための社会定着支援、居住支援、生活支援を実施し、さらに、啓発や教育の一環としてオンラインゼミも開講しています。

在日外国人支援では、日本社会におけるムスリムへの理解不足や文化の違いなどから、在日ムスリムが孤立しやすい現状をふまえ、とくにコロナ禍で生活が困窮している在日ムスリムを支援。現在もイスラム教徒が食べることができる「ハラル食品」の提供や生活相談、在日ムスリムによる共助ネットワークづくりなどを行っています。

「海外事業も日本事業も、つまるところは、課題を抱える当事者が社会の一員として主体的に生きていくための伴走支援。本質は変わりません」と永井さん。海外事業でテロの加害者だった若者と向き合ってきた経験が非行少年の更生事業に、多くのイスラム教徒と活動してきた経験が在日ムスリム支援に活かされるなど、これまでの知見が国内支援でも活かされています。

休眠預金を活用し、行き場のない難民認定申請者に緊急支援を実施

国内に活動を広げる中、コロナ禍が明けると、在日外国人からの相談にある変化が生じます。入国規制の解除にともない日本への入国者数が増え、それに比例して、難民認定申請者や非正規滞在者など在留資格が不安定な外国人からの食料や住居を求める相談が急増しました。それまでは定住している在日外国人からの相談が大半を占めていましたが、相談者も相談内容も大きく変わったのです。長年にわたり難民支援に携わってきた吉野さんは、その背景をこう説明します。

吉野京子さん(以下、吉野)「難民認定申請者は、紛争や迫害などさまざまな事情から逃れる中、たまたま日本の観光ビザを取得して日本へ来たという方がほとんど。入国後に難民申請するものの、その多くは難民認定がおりないまま、在留資格がない状態で日本に留まることになります。在留資格がなければ行政サービスを受けられず、国民健康保険にも加入できず、働くこともできないため、生活は困窮し、路上生活に追いこまれる人も……。収入がなく、行政の支援にもつなげられない彼らを、民間の支援団体や個人だけで支えるのには限界があり、支援から取り残されていたのです」

難民認定申請者が直面する課題や、支援の必要性について説明する吉野京子さん
難民認定申請者が直面する課題や、支援の必要性について説明する吉野京子さん

「これは自分たちがやるべき問題」と判断したアクセプト・インターナショナルは、 NPO法人 青少年自立援助センターが公募していた2023年度緊急支援枠の休眠預金活用事業に申請。これに採択され、難民認定申請者と非正規滞在者に向けた緊急人道支援事業を始めます。具体的には、食料物資の支援や、一時的に住む場所を確保する緊急居住支援、日本語教育、利用できる支援サービスへの橋渡しなどです。また、アウトリーチの手段として、世界で普及しているメッセージングアプリの「WhatsApp」を活用。これにより、支援情報が瞬く間に拡散し、短期間で多くの支援を必要とする外国人にリーチすることができました。

取材時点(2025年1月28日)で、相談登録者は約170名。フードパントリーやWhatsAppを通して相談者のニーズを聞き取り、それぞれが必要とする支援を届けています。イスラム教徒にはハラル食品を、フルーツが必要な人にはパイナップルやミカンなどの缶詰を、自分で料理をしたい人には小麦粉や豆、オイルなどの食材を提供するなど、個々の希望に寄り添った支援を実施。食料以外にも、子どもがいる家庭には成長に合わせた衣服を、女性には生理用品を配るなど、生活状況に応じたきめ細かなサポートを行っています。

吉野「こちらが良かれと思って送った食料でも、相手にとってはそうではないことが何度かありました。そんなときは、『何か別のものが必要だったのかな?』と考えるようにしています。可能な限りどんなものが必要かを聞き取ることで、本当に必要なものを知ることができ、相手も『受け止めてもらえた』と安心してもらえます。その安心感が、信頼につながりますから」

イスラム教徒が安心して食べられる「ハラル食品」の提供を含む食料物資支援を実施
イスラム教徒が安心して食べられる「ハラル食品」の提供を含む食料物資支援を実施

日本語を学びたいというニーズも高く、希望者には週1回、1人30分のオンライン日本語教室を実施。授業を担当するメルテンス甲斐さんは、単なる言語学習にとどまらず、コミュニケーションの場としての役割も大切にしています。

メルテンス甲斐さん「家族友人と遠く離れ、コミュニティから隔絶された生活を送る受講者にとって、授業は人とつながることのできる数少ない機会です。雑談を交えたり、生活相談を受けたりすることで、少しでも孤立感の解消につながればと思っています」

一方、「相談を待つだけでなく、こちらから能動的にアプローチすることも大切」と話すのは、食料物資支援を担当する冨山里桜さん。 

冨山里桜さん「相談者の中には、特にムスリマ(イスラム教徒の女性)のように、宗教的な背景や文化的な要因、周囲に頼れる人が少ないことなどから、支援を必要としていても声をあげられないケースもあります。実際、WhatsAppで連絡がつかないので訪問してみると、電気もガスも止まっていたという母子家庭のケースがありました。そうした方たちも取り残さないよう、こちらからこまめにコンタクトを取ることでフォローし、支援につなげるようにしています」

社会参加を通じて未来を切り開く支援のかたち

日本では難民認定率が低く、多くの難民認定申請者が中長期の展望を持ちにくい状況にあります。そんな中、「今回の事業では、まずは緊急支援として、難民認定申請者が人間として最低限の尊厳を保てることを第一の目標にしています」と吉野さん。その上で、専門家と連携し、相談者自身も交えて中長期的なプランを話し合い、日本で安定した生活を送るための法的支援も行っているそうです。また、在留資格がない外国人の子どもでも学校に通える制度を活用し、自治体と交渉して就学機会を確保するなど、今できる支援を重ねながら希望をつなげています。

こうした相談者のニーズを満たす支援だけでなく、相談者の主体性を促すはたらきかけも大切にしています。例えば、ガーナ人の青年に「公園で寝て過ごしているなら、うちへ来たら?」と事務所に誘ったところ、メンバーと一緒に食料物資支援の整理や荷物運びをするように。最初はほとんど口をきかなかったのが、今やアクセプト・インターナショナルの頼もしいメンバーになっているのだそうです。

永井「ボランティアでも小さいことでも、社会に参加することに大きな意義があります。困難な状況にある彼らだからこそ、できることがたくさんあるはず。その可能性に光を当て、引き出していくことも私たちの役割です。彼らが参加できる場をたくさんつくって、新たなステップにつながる機会を少しでも多く提供していきたいですね」


ホームレス状態にある人々への食料支援の様子
ホームレス状態にある人々への食料支援の様子

休眠預金活用事業をきっかけに生まれた3団体の連携

アクセプト・インターナショナルがこの事業を通じて得られた大きな成果の一つが、団体同士の連携です。同時期に休眠預金活用事業の実行団体として採択されたのを機に、Mother’s Tree Japan、つくろい東京ファンドの2団体とつながり、思いがけない強力な支援ネットワークが生まれました。例えば、路上生活をしていたムスリマの妊婦のケースでは、Mother’s Tree Japanが出産可能な病院を探し、イスラム教の文化に配慮して女医を手配。つくろい東京ファンドが居所を確保し、アクセプト・インターナショナルがハラル食品の提供を実施しました。各団体の専門性を活かした支援が迅速に展開され、適切なサポートを提供することができたのです。

吉野「自分たちが不得意なところは、得意な団体にお任せする大切さを改めて学びました。今も3団体で情報を共有しながら、連携を深めています」

「後進の育成」も今回の事業を通じて得られた大きな成果です。日本では難民支援の経験者が少ない中、今回の事業を通して若手メンバーが多様なケースを経験し、実践を積む機会を得ました。

吉野「若手メンバーが現場での経験を重ねることで、知識やノウハウをしっかり継承できました。今では、自ら判断し行動できるまでに成長し、今後のさらなる支援につながると期待しています」

アクセプト・インターナショナルは事業終了後も、当事者が中長期の展望を持てるよう、可能な限りバックアップを継続。「平和の担い手を増やす」活動として、テロ・紛争に関わる若者を保護する活動に加え、在日ムスリムのネットワーク強化など、国内外の活動に引き続き力を入れていきます。

永井「私は、テロリストも非行少年も、在日ムスリムも難民もみんな、社会の担い手、平和の担い手になれると心から思っています。これからも彼らに伴走し、その可能性を探り続けていくとともに、まだアプローチできていない『解決の担い手がいない難しい問題』にもチャレンジしていきます」


取材に対応してくださった、アクセプト・インターナショナルのメンバー。左から冨山さん、吉野さん、永井さん、メルテンスさん
取材に対応してくださった、アクセプト・インターナショナルのメンバー。左から冨山さん、吉野さん、永井さん、メルテンスさん

■資金分配団体POからのメッセージ
アクセプト・インターナショナルの強みは、「難しい問題こそ自分たちがやる」という高いプロフェッショナル意識と、海外で培った独自のノウハウにあると考えています。今回その強みを活かし、既存の支援団体では対応が難しかった在留資格が不安定な在日外国人への支援が可能になりました。また、私たちが資金分配団体を務めるにあたり重視していたのが、団体同士のつながりです。実際に実行団体間の連携が生まれ、情報共有も進んだことは、大きな成果の一つです。今後さらに、さまざまな強みを持つ団体同士の連携が進み、支援の輪が広がることを願っています。

(NPO法人 青少年自立援助センター YSC Global School/浅倉みさきさん)

【事業基礎情報】

実行団体
特定非営利活動法人 Accept International
事業名

難民認定申請者及び非正規滞在者への緊急人道支援事業(2023年度緊急支援枠)

活動対象地域
東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県
資金分配団体
特定非営利活動法人 青少年自立援助センター

採択助成事業

急増する「海外にルーツを持つ子育て家庭・若者・困窮者」緊急支援事業

「盲ろう者」とは目(視覚)と耳(聴覚)の両方に障害を併せ持つ人のこと。厚生労働省の調査によると、その人数は全国に1万4千人ほどと推定されています。視覚と聴覚に障害があると、日常生活においてさまざまな困難が生じますが、そうした盲ろう者の自立と社会参加を目指して活動しているのが全国各地の「盲ろう者友の会」です。今回は、2021年度通常枠に採択された「NPO法人千葉盲ろう者友の会」(資金分配団体:社会福祉法人全国盲ろう者協会)を訪問。同会の活動や課題、今後の展望についてお話をうかがいました。インタビューに答えていただいたのは、ご自身も盲ろう者である理事長の加藤清道さん、事務局の田中幾子さん、奥村由貴子さん、秦綾子さん、時松周子さんです。

交流会からスタートし、さまざまな支援事業へと活動範囲を広げる

1991年に東京都で「東京盲ろう者友の会」が誕生したことをきっかけに、全国各地で盲ろう者友の会設立に向けての動きが活発になりました。千葉県では、かねてから県内の盲ろう者が交流会を開いており、そこから友の会設立に向けての動きが始まったそう。そんな中、2004年11月に任意団体として「千葉盲ろう者友の会」が設立され、2009年に NPO 法人化。現在に至っています。

加藤清道さん(以下、加藤)「任意団体の頃は、会員である盲ろう者の交流が活動の中心で、そのほかはPR活動くらいでした。NPO法人になった2009年からは千葉県の委託事業として盲ろう者向けの通訳・介助者の派遣事業や育成事業を行ったり、当事者に向けて生活訓練事業や相談支援事業も始めたりと、活動の幅を広げていきました」

NPO 化した当初から取り組んでいる活動の一つが、通訳・介助者を育成し、求めている人の元へ派遣することです。盲ろう者は、周りの人と会話することが難しく、情報が入りにくい。また、移動するのにも困難があり、一人では安心して外出することができない人もいます。そのため、盲ろう者が安全・快適な生活を送るには、通訳・介助者の存在は非常に重要です。

しかし、一言で盲ろう者といっても、人によって必要な支援は異なります。例えば、少し聴力が残っている方であれば、耳元や補聴器のマイクに向かって話しかけることができますし、視力が残っている場合は、紙や筆談ボードで見えやすい大きさの文字を書いて伝えることができます。まったく見えず聞こえない「全盲ろう」の場合は、手のひらに文字を書いたり(手のひら書き)、手話を手で触って読み取ってもらったり(触手話)して伝えることができます。そのため、通訳・介助者は、こうしたさまざまなコミュニケーション手段を身につけ、相手に応じたやり方でサポートしなければなりません。こうした専門的な知識や技術を持つ、通訳・介助者を世に送り出すことは、大切な活動です。

様々なコミュニケーションのサポート
様々なコミュニケーションのサポート

盲ろう者自身が声を上げることで、伝えられるものがある

最近は、支援を求めている盲ろう者を探す“掘り起こし”や、社会に向けた啓発活動にも力を入れています。今、千葉県内には視覚と聴覚両方の障害者手帳を持っている人は約300人と推計されていますが、千葉盲ろう者友の会で把握している人数は40人ほどにすぎません。つまり、県内でもまだ出会えていない盲ろう者がたくさんいるということ。その中には、必要な支援を受けられていない人や、孤独な状況に置かれている人もいるかもしれません。盲ろう者本人やその家族なども、周囲との交流がなく、ほかの盲ろう者がどのような生活をしているかを知らないことも多いのが現状です。

そこで、県内の全市町村を訪問し、盲ろう者についての説明やパンフレットを配布。「身近に目と耳の両方が不自由な方がいらっしゃったら教えてください」と呼びかけることで、盲ろう者とのつながりを広げていこうとしています。


また、多くの人に盲ろう者のことを正しく知ってもらうための啓発活動として、福祉関連イベント等に積極的に参加。当事者による講演会や、触手話や指点字といったコミュニケーションの体験会によって、盲ろう者への理解を深めてもらうことと、千葉盲ろう者友の会の認知向上を図っています。

指点字体験会の様子
指点字体験会の様子

加藤「適切なサポートを受けるためには、まずは知ってもらうこと。ですが、多くの人は、盲ろう者のことをあまり知りません。目も耳も不自由だとどんな生活をしているのだろうか、家にずっと引きこもっているのだろうか、などと思われがちです。盲ろう者はコミュニケーションに困難を抱えていますが、それでも自分の言葉で一生懸命に伝えることが、周囲の人の心を動かし、支援につながるのではないかと考えています。」

実際に、多くの人が想像している以上に、盲ろう者にはさまざまなことができるそう。加藤さんは自身の経験もまじえながら語ります。

加藤「私自身、40代半ばに盲ろう者になり、仕事を辞めようかと考えたこともあったのですが、会社に相談して拡大読書器や視覚障害者向けのソフトを購入してもらい、それらを使いこなすことで、60歳の定年退職の年まで勤め上げることができました。毎朝、千葉から東京まで1時間かけて通勤もしていましたね。こうした私自身の経験から、盲ろう者であっても本人の努力と周囲のサポートがあれば、できることがたくさんあると感じています。そのことを盲ろう者やその家族、そして盲ろう者のことを知らない人にも伝えたいんです」

取材に応じる加藤さん(左)とコミュニケーションのサポートをする事務局長の田中幾子さん
取材に応じる加藤さん(左)とコミュニケーションのサポートをする事務局長の田中幾子さん

資金不足の解消によって、新たな盲ろう者支援へと踏み出す

千葉盲ろう者友の会は、2021年度に社会福祉法人全国盲ろう者協会(資金分配団体)によって、「盲ろう者の地域団体の創業支援事業」の実行団体として採択され、その資金を活用して盲ろう者向け同行援護事業をスタート。盲ろう者の同行援護事業とは、盲ろう者の外出時における移動やコミュニケーションの支援を指します。

盲ろう者の外出時における移動支援の様子
盲ろう者の外出時における移動支援の様子

奥村由貴子さん(以下、奥村)「以前から同行援護事業に興味はあったのですが、資金が十分ではなく、現実的ではありませんでした。ですが、2018年に全国で、盲ろう者向けの同行援護事業が始まり、機運が高まったことで、私たちの会でもやってみたいという思いが高まりました。また、そもそも私たちの活動全般において、資金不足は長年の課題でした。予算に限りがあるために、通訳・介助者を思うように派遣できないというケースも。そこで、助成金を得ることができれば、同行援護事業にチャレンジできるのと同時に、会を運営する費用もまかなえるのではないかと考えたんです」

早速準備会を立ち上げ、実現のために動き出した友の会メンバー。まずは、同行援護事業のサービス提供責任者の資格を取得。これまでの盲ろう者向け通訳・介助員の皆さんに声をかけて、同行援護従業者のための研修会なども行い、人員を確保しました。その後、実行団体として無事に採択され、晴れて2023年1月に「同行援護事業所かがやき」を開所することができました。

秦綾子さん(以下、秦):「全国盲ろう者協会の方々には、書類の作成など、事務的な面でさまざまな相談に乗ってもらいました。経理のこともふくめて、基礎的なことから専門的なことまで、迷ったら相談できる存在がある点は、本当に助かりました」

助成金の用途としては、「同行援護事業所かがやき」の開所だけではなく、同行援護従業者の養成研修会をはじめとした人材育成、友の会のさまざまな活動について発信するホームページの制作などにも活用。さらに、盲ろう者の掘り起こしや社会啓発活動もさらに拡大していきました。今までも各市町村役場訪問や地域の福祉イベントなどには積極的に参加していましたが、千葉県は広いため、資金不足でなかなか訪問しづらい市町村もありました。それが解消されたことで範囲を広げることができました。2024年度中には千葉県内すべての市町村役場に足を運ぶことができる見込みです。

田中幾子さん(以下、田中):「市町村を直接訪問することは、私たちにとって大切な活動だと感じています。そもそも市町村では、管轄内の盲ろう者の数を正確に把握していないことがほとんどでした。なぜかというと、視覚障害者や聴覚障害者であれば、それぞれ視覚障害者手帳・聴覚障害者手帳を発行するので、その手続きを通じて人数を把握することができるのですが、両方の手帳を持っている人については、確認をしていなかったからです。今回、盲ろう者の数の把握や社会啓発活動のための訪問をしたいと、各市町村に事前に伝えてしておくことで、担当者の方が訪問時までに数を調べておいてくださるなどして、より正確な状況を把握することができました」

奥村:「ただ、個人情報のため私たちが行政を通じて対象者と直接つながることはできません。ですから、直接訪問した先の福祉イベントなどでパンフレットなどを配布し、『もしお近くに盲ろう者と思われる方がいたら、NPO法人千葉盲ろう者友の会のことを伝えていただけませんか』とお願いをしています」

時松周子さん(以下、時松):「そうした活動の甲斐があって、今年は新たに1名の盲ろう者の方と繋がることができました。数だけでみるとたった1名とも思えるかもしれませんが、その方には友の会のいろいろな活動に参加していただけるようになり、非常に大きな意義があったと思っています。

また、掘り起こしをしていく中で、国や県の基準からは外れていて、サポートを求めている人がたくさんいることも実感しました。例えば、千葉県の盲ろう者向け派遣事業では、原則として視覚障害者手帳と聴覚障害者手帳、両方を持つ人のみが、支援の対象となっています。でも実際には、どちらか一つの手帳しか持っていなくても、病気や加齢によって少しずつ視覚や聴覚が低下していき、生活に困難を抱えている人もいます。なので、私たちの同行援護事業は、そうした人にも利用してもらえるようにしています」

千葉盲ろう者友の会の活動の大きな特色となっているのは、こうした「支援を必要とする人のところに、可能な限り支援の手を伸ばす」という姿勢。盲ろう者といっても、その状況はさまざまです。大きく分けるだけでも、まったく見えず聞こえない「全盲ろう」、全く見えないが少し聞こえる「全盲難聴」、少し見えるが聞こえない「弱視ろう」、少し見えて少し聞こえる「弱視難聴」の4つのタイプがあり、それぞれの障害が生まれつきのものなのか、成年になってから徐々に進行したものなのかによっても、必要なサポートは異なるでしょう。そのため、同会では、公のルールにおける「盲ろう者」に限らず、視覚・聴覚が不自由な人を探し、何に困っているかを聞き、一人一人に寄り添った支援を提供しているのです。

千葉盲ろう者友の会によるイベントの一コマより
千葉盲ろう者友の会によるイベントの一コマより

盲ろうという障害がある人もない人も、共に生きる社会を実現したい

最後に、事務局の皆さんに、今後、どのような活動をしていきたいかを伺いました。盲ろう者といっても、障害の程度や状況もさまざまで、コミュニケーション方法も多様であり、だからこそ通訳・介助員といった支援者の育成が難しいという課題があるそうです。それでも、そうした課題を一つ一つ乗り越えて、盲ろう者にとってもっと社会参加がしやすい方向に進めていきたいとお話しくださいました。
加藤さんにも今後の活動や、その先にどのような社会を望んでいるのかを伺いました。

加藤「盲ろう者が社会から取り残されないような活動を目指していきたいですね。盲ろうという障害がある人とない人の間にあるバリアがなくなり、共に生きる社会を実現していきたいと思っています。そのためには、例えば情報機器の発達なども大きな力になると思います。盲ろう者の視覚や聴覚の代わりとなるような機器がどんどん発達していってほしいと思います。盲ろう者は障害によって一般的な会社で働くことが難しいという現状があります。ですが、これからは障害者だから福祉作業所という一択ではなく、もっと普通に働き、自分で稼ぎ、そのお金で旅行をしたりスポーツをしたり、芸術を楽しんだりできる社会になってほしい。人間らしく生きることができる社会ですね。私たちの会ができることは小さなことかもしれませんが、その小さな力を集めることで、大きなことが実現できると信じています」


取材に対応してくださった左から奥村さん、時松さん、加藤さん、田中さん、秦さん
取材に対応してくださった左から奥村さん、時松さん、加藤さん、田中さん、秦さん

【事業基礎情報】

実行団体
NPO法人 千葉盲ろう者友の会
事業名

盲ろう者の地域団体の創業支援事業

活動対象地域
千葉県内
資金分配団体
社会福祉法人 全国盲ろう者協会

採択助成事業

2021年度通常枠

東京都足立区で、地域から孤立している生活困窮子育て家庭に対し、食糧支援や「子ども食堂」の運営などを行っている一般社団法人チョイふる。“生まれ育った環境に関わらず、全ての子ども達が将来に希望を持てるchoice-fulな社会を実現する”ことを目的に、活動しています。2022年に採択された休眠預金活用事業(緊急支援枠、資金分配団体:特定非営利活動法人Learning for All)では、居場所事業「あだちキッズカフェ」の拡充に取り組んできました。今回は、代表理事の栗野泰成さんと、居場所事業を担当している井野瀬優子さんに、団体の活動についてお話を伺いました。”

代表理事の原体験が、チョイふるを立ち上げるきっかけに

一般社団法人チョイふる(以下、チョイふる)は、社会経済的に困難を抱える子どもたちが「チョイス」(選択肢)を「ふる」(たくさん)に感じられる社会をつくりたい、という思いを込めて設立されました。立ち上げのきっかけとなったのは、代表理事の栗野さんの原体験です。栗野さんが育ったのは、鹿児島県の田舎の市営団地。大学進学に悩んでいた頃、新聞配達をすると学費が免除される新聞奨学金制度の存在を知りますが、知ったときにはすでに申し込みの期限を過ぎていて申し込みができなかったと言います。

栗野泰成さん(以下、栗野)「あのとき、『もっと早くに知っていれば』と思ったことが今の活動に結び付いています。困窮者世帯への支援制度はたくさんあるのですが、本当に困難を抱える人ほど必要な支援が届いていないのではないかと考えています。この『選択格差』を解消することが貧困問題を解決する一つの手段ではないかと考えるようになりました」

オンラインの取材でお話される栗野泰成さん

当時の思いを胸に、大学卒業後、小学校教員・JICA海外協力隊での教育現場を経て、栗野さんは2018年に任意団体を立ち上げます。当初は英語塾を運営していましたが、それでは支援を必要としている人に届かないと気づきます。

そこで、2020年に、食糧を家庭に届けるアウトリーチ(訪問支援)型の活動「あだち・わくわく便」と、親子に第3の居場所を提供する活動「あだちキッズカフェ」をスタート。その後、コロナ禍に入ってしまったため、「あだちキッズカフェ」は一時休止しますが、「あだち・わくわく便」の需要は高まっていきます。

そして、2021年に法人化し、一般社団法人チョイふるを設立。現在は、宅食事業「あだち・わくわく便」、居場所事業「あだちキッズカフェ」に加え、困窮者世帯を支援制度へと繋げる相談支援事業「繋ぎケア」の主に3つの事業を行っています。

孤立しがちな困窮子育て世帯とつながる 宅食事業

現在、チョイふるの活動の軸となっているのが、宅食事業「あだち・わくわく便」です。対象となっているのは0〜18歳の子どもがいる家庭で、食品配達をツールに地域から孤立しがちな困窮子育て家庭と繋がる活動をしています。

栗野「宅食事業を始めた頃は、シングルマザーの支援団体に情報を流してもらったり、都営団地にポスティングしたりと地道に活動していました。最初、LINEの登録は10世帯ほどでしたが、口コミで広がったことに加え、コロナ禍になったこともあり、登録世帯数が一気に増加。今では足立区からも信頼を得ることができ、区からもチョイふるの案内をしてもらっています」

現在のLINEの登録数は約400世帯。食品配達は月に1回か2ヶ月に1回、各家庭に配達するか、フードパントリーに取りに来てもらう場合もあります。また、配達をする際は「見守りボランティア」と呼ばれる人が、それぞれの子育て家庭に直接お届けし、会話をすることで信頼関係を築いています。

栗野「食品の紹介や雑談などから始まり、子どもの学校での様子を聞いたり、困りごとがなさそうかなど確認したりしています。次回の配達時にも継続的に話ができるよう、訪問時の様子は記録もしています」

つながりづくりから居場所づくりへ

コロナ禍では「あだち・わくわく便」をメインに活動してきたチョイふる。貧困家庭と繋がることはできましたが、そこから適切な支援に繋げるための関係構築を難しく感じていました。そこで、新型コロナウイルスの流行が少し落ち着いてきたタイミングで、居場所事業「あだちキッズカフェ」を再開します。

「あだちキッズカフェ」は、子ども食堂に遊びの体験をプラスした、家でも学校(職場)でもないサードプレイスをつくり、困窮子育て家庭を支える活動。こうした「コミュニティとしての繋がり」が作れる活動は、民間団体ならではの強みだと栗野さんは話します。

栗野「足立区は、東京都の中でも生活保護を受けている世帯数が多い地域です。区としても様々な施策に取り組んでいますが、行政ならではの制約もあります。たとえば、イベントを開いたとしても、時間は平日の日中に設定されることが多いですし、開催場所も公民館など公共の場が基本になります。一方で、僕たち民間団体は、家庭に合わせて時間や場所を設定することができます。行政と民間はできることが違うからこそ、僕たちの活動に意味があると思うんです」

あだちキッズカフェの様子

「あだちキッズカフェ」の取り組みに力を入れ始めたチョイふるは、2022年度の休眠預金活用事業に申請。これに無事採択されると、これまで「あだちキッズカフェ」があった伊興本町と中央本町の2か所の運営体制を強化するとともに、千住仲町にも新設しました。

実際の「あだちキッズカフェ」では、お弁当やコスメセットの配布などを行い、子どもたちの居場所利用を促進。月2回実施している子ども食堂と遊びの居場所支援のほか、イベントも含めると67 人の子どもが参加しました。特に伊興本町の居場所にはリピーターが多く、子どもたちの利用が定着してきています。

栗野「とはいえ、『あだち・わくわく便』は400世帯が登録してくれているのに対し、『あだちキッズカフェ』の利用者は67人とまだまだ少ない。子どもだけで『あだちキッズカフェ』に来るのが難しかったり、交通費がかかったりするなど、様々な課題があると感じています」

休眠預金を活用し、社会福祉士を新たに採用

「あだちキッズカフェ」拡充のため、さまざまなところで休眠預金を活用してきましたが、なかでも一番助かったポイントは「人件費として使えたこと」だと井野瀬さんは話します。

井野瀬優子さん(以下、井野瀬)「『あだちキッズカフェ』常勤のスタッフを数人と、社会福祉士を4人採用しました。助成金の多くは人件費として活用できないので、本当にありがたかったです。常勤のスタッフがいると『いつもの人がいる』という安心感にも繋がりますし、社会福祉士にはLINEを通じて相談者とやり取り してもらうことで距離が近づき、『あだちキッズカフェ』の利用促進につながりました」

「あだち・わくわく便」の利用者には「あだちキッズカフェ」に行くのを迷っている人が多く、社会福祉士とのやり取りが利用を迷う人の背中を押しました。そのやり取りも、「『あだち・わくわく便』はどうでしたか?」といった会話からスタートし、他愛もない会話をするなかで困りごとを聞いたり、無理のないように「あだちキッズカフェ」に誘ったりしています。

オンライン取材で現場の様子を伝えてくださった井野瀬優子さん

また、DV被害に遭ったという母子が来た際には、スタッフに同じような経験をした当事者がいたため、経験者ならではの寄り添った対応ができました。

井野瀬「これまでであれば、ボランティアとして限られた時間しか関われなかったかもしれません。今回はそこに、きちんとお金を割くことができたので、居場所をより充実させることができました。来てくれる子どもたちが増えるのはもちろん、何度も来てくれる子の小さな成長が見られる瞬間もとてもうれしいですね」

伴走者がいることで、課題を把握できた

チョイふるは、2023年8月に休眠預金活用事業を開始し、2024年2月末に事業を完了しました。休眠預金活用事業では資金面以外に、資金分配団体のプログラム・オフィサー が伴走してくれる点も、事業を運営していくうえで助けになったと話します。

栗野「普段は日々の活動でいっぱいいっぱいなので、月1で振り返る機会を設けてもらったのがよかったですね。一緒にアクションプランを立てたり、“報連相”が課題になっていると気づいたりすることができました。第三者の目があることの大切さを痛感しました」

事業は終了しましたが、その後も取り組みの内容は変わらずに、「あだち・わくわく便」の提供量を増やしたり、「あだちキッズカフェ」の数を増やしたりといったことに注力しており、そのために、ほかの団体との連携も広げています。

栗野「10代の可能性を広げる支援を行っているNPO法人カタリバと月1回の定例会議を行い、情報交換をしています。ほかにも、医療的ケア児や発達の特性の強い子どもを支援している団体などと組んで、ワンストップの総合相談窓口を作ろうと動いているところです。資金確保は今後も課題になると思うので、寄付やクラウドファンディング、企業との連携などにも挑戦していきたいですね」


「選択肢の格差」が貧困を作り出し、抜け出せない状況を作っていると考える栗野さん。チョイふるはこれからも、その格差を少しでもなくすために貧困家庭への支援を続けていきます。

【事業基礎情報】

実行団体
一般社団法人チョイふる
事業名

子育て世帯版包括支援センター事業

活動対象地域
東京都足立区 ①伊興本町(居場所1拠点目) ②中央本町(居場所2拠点目) ③千住仲町(居場所3拠点目)
資金分配団体
特定非営利活動法人Learning for All

採択助成事業

2022年度緊急支援枠

今回の活動スナップでは、山梨県富士川町で活動する実行団体スペースふう[資金分配団体: 富士山クラブ]の政策提言が実現したことを受け、活動の様子などをお伝えします。

活動概要

「リユースお弁当箱がつなぐ地域デザイン事業」は、山梨県富士川町で活動する実行団体スペースふうが2021年秋より、富士川町に住む「孤独」「孤立」を感じやすい産後のママさんをはじめ、子育て家庭を対象にリユース食器などを使用した宅配お弁当サービスです。この事業ではこれまでに、作る人、運ぶ人、情報発信する人など多くの人のサポートを受けながら、70人以上の産後ママに利用されてきました。お弁当は、地元の食材を使って作られた手作りで、自己負担金は1回100円で受け取ることができます。使用しているお弁当箱をリユースにすることで環境にもやさしく、届けるとき、容器を回収するときに産後のママさんや子育て中のお母さんとも多くのコミュニケーションを生み、社会との繋がりを感じられる事業が実施されてきました。

【スペースふう】hottos(ホットス)取り組み内容チラシ

母親に配食支援 おむつ費も補助 | さんにちEye 山梨日日新聞電子版

政策提言

休眠預金活用事業で始まった宅配お弁当サービスが、助成期間の終了後も継続して行えるように政策提言がなされました。

政策提言が実現したことにより、産後のしんどさを個々で抱え、孤立しやすい時期の産後ママにとって、「産後うつ」「虐待」の手前の手前の予防策としても本事業は機能し続けます。また、行政の専門的な相談やサポートに加え、お弁当を手渡すときの何気ない言葉のやり取りが「この町の人たちの応援エール」として子育て家庭に届けられることで「安心して子育てできる富士川町」としてさらに町が充実し、発展していくことになると期待されます。

【事業基礎情報】

実行団体

認定特定非営利活動法人 スペースふう

事業名
リユースお弁当箱がつなぐ地域デザイン事業
活動対象地域
山梨県 峡南地域・中巨摩地域
資金分配団体
認定特定非営利活動法人 富士山クラブ
採択助成事業甲信地域支援と地域資源連携事業
~こども若者が自ら課題を解決する力を持てる地域づくり事業~

千葉県北部の柏市、我孫子市、白井市、印西市などにまたがる湖沼・手賀沼。ここをフィールドに、地域の人々がつながり、縁をつくるコミュニティを運営しているのが「手賀沼まんだら」です。2019年の設立以来、イベントや場づくりに取り組んでおり、2020年と2022年度の休眠預金活用事業(コロナ枠)を活用したことで、コミュニティプレイスの創出や共食プロジェクトなど、さらに活動の場を広げてきました。今回は、「子ども」と「地域」をキーワードにはじまったという団体の取り組みや、設立から5年が経過してこそ思う活動のおもしろさ、今後の展望などについて、代表の澤田直子さんにお話を伺います。

子どもが成長して気づいた、地域コミュニティの重要性

「手賀沼まんだら」が設立されたのは、2019年1月のこと。代表・澤田直子さんが子育てを経験する中で感じるようになった、地域とのつながりに対する考え方の変化が、立ち上げの背景にはありました。

「子どもが成長して小学生になった頃、地元の公園で遊んだり、ご近所さんのお宅に伺うような機会が増えて、地域とのつながりを意識するようになりました。それまでは、手賀沼に暮らしていても、家族で遊びにいくとなったら他の市や他県のショッピングセンターやキャンプ場でした。けれども、小学生になった子どもたちは、どんどん地域に馴染んでいく。そういう環境の変化が、考え方の変化を生み出しました」

インタビューに答える澤田さん
インタビューに答える澤田さん

澤田さんは、当時、手賀沼ではない別の市の社会福祉協議会職員として勤務していました。地域同士のつながり、コミュニティをつくる重要性を誰よりも理解していた一人です。ところが、澤田さん自身地元の手賀沼一帯では、そういった地域内でのつながりがありませんでした。そこで、澤田さんは勤務していた社会福祉協議会を退職し、手賀沼でコミュニティづくりの活動をはじめることを決意。同じような課題感を抱えているママ友に声をかけ、「手賀沼まんだら」としての第一歩を踏み出したのです。立ち上げ初期の取り組みは、フィールドワークをはじめとした、子どもたちが手賀沼の自然や社会とつながりをつくる目的のアクティビティを中心としたものでした。その後、1年足らずでコロナ禍に差し掛かり、団体としての意思も変化していきます。「これまで学校に通っていた子どもたちが、急に家庭へと戻されました。いつまで休校が続くのかわからない世の中で、せめて子どもが楽しく過ごせる居場所をつくりたい。そう感じるようになり、一時のアクティビティやイベントだけではなく、長期的に子どもが集える場所づくりに取り組み始めました」 手始めとして、手賀沼の地主さんが所有していた山を一部借りて、子どもたちと一緒に山小屋やアスレチックづくりを行うことに。すると、澤田さんの目に映ったのは、家とも学校とも異なる、第三の居場所を知った子どもたちの朗らかな様子でした。子どもたちが安定的に集える空間をつくる重要性を感じた澤田さんは、休眠預金を活用した助成事業の公募に応募。本格的な居場所づくりへと舵を切ったのです。

二つの取り組みで休眠預金活用事業に採択

「手賀沼まんだら」では、応募した休眠預金活用事業で2度採択をされています。1度目が、2020年度コロナ枠として採択された、孤立解消の為のコミュニティプレイス〈ごちゃにわ〉の創出。コロナ禍を経て実感した、子どもたちの居場所をつくるための取り組みです。2度目は、2022年度コロナ枠として採択された、「共食」をキーワードに据えたプロジェクトでした。〈ごちゃにわ〉では、手賀沼一帯に暮らす子どもたちをはじめ、子育てに課題を抱えた父母、話し相手の欲しい高齢者、そして冬越しの場所を求める生物までもが集えることを目指した場所づくりを実施しました。澤田さんは、この空間づくりを経て、リアルな場が生み出す大きな影響を実感したといいます。「空間が生まれたことによる一番の変化は、地域の人々や地域にゆかりのある企業が頻繁に訪れるようになったことです。それによって、何気ない話から生まれる新しいアイデア、おもしろい企画などが数多くあり、それらをイベントとして実施するような流れができていきました。コミュニティの輪がどんどんと広まる感覚があり、手賀沼という地域で場づくりを行う喜び、やりがいを今まで以上に感じられるようになった気がします」
核家族化が進行する現代の日本、そしてコロナ禍という人との繋がりが希薄になりがちな状況では、家庭の悩みや困りごとをシェア、相談できる機会はそう多くはありません。けれども、地域コミュニティが生まれたことで、家族それぞれの困りごとを解消するタイミングができたり、これまでは経験できなかったさまざまな体験、アクティビティの機会をつくることができるようになりました。

ごちゃにわの活動に集まる子どもたちの様子
ごちゃにわの活動に集まる子どもたちの様子

「最初は、子どもたちが地域社会に溶け込める場所をつくりたいという思いばかりでしたが、実際に〈ごちゃにわ〉をつくってみると、お父さんやお母さんたちの居場所にもなっているように感じる場面が多々ありました。子育てという共通のキーワードがあるからか、場に集う親御さんたちも、知らず知らずのうちに仲良くなり、助け合える仲になっていたようです」最初こそ、実験の意味合いもあり、こぢんまりとした運営を予定していた〈ごちゃにわ〉。ところが、澤田さんの想像以上に、そういった場を必要とした地域の人々は多かったようです。現在では、小中学校の林間学校や、総合学習の授業の一環で〈ごちゃにわ〉を活用したいといった申し出が多数集まるほど。年間では600人以上の子どもが集う、手賀沼屈指の居場所として成長しました。

ごちゃにわの活動に集まる子どもたちの様子②
ごちゃにわの活動に集まる子どもたちの様子②

子どもたちの「食」の関心をどう高めていくのか?

「手賀沼まんだら」では、その後も、〈ごちゃにわ〉の運営だけでなく新しい取り組みも実施しています。特に、現在推し進めているのが、2022年度コロナ枠にて採択された「共食」のプロジェクト。手賀沼の豊かな自然を活用しながら、子どもたちの食に対する関心を高めることを目的に実施しています。「〈ごちゃにわ〉を運営しながら次なる取り組みを考えているなかで、衣食住のにフォーカスを当てたいと考えるようになりました。暮らしの根本的な要素であると同時に、食は人の心を癒やしたり、コミュニケーションを生み出すきっかけになると思ったからです。「ごちゃにわ」を始めたときから、食が与える影響の大きさを実感していました」

子どもたちが収穫をお手伝いしている様子
子どもたちが収穫をお手伝いしている様子

このプロジェクトでは、手賀沼の風土に対する学びや食育を促進するため、5つのステップでプログラムを実施しています。子どもたちが参加することはもちろん、親御さんや近隣の農家さんの協力を仰ぐことで、地域コミュニティにおける多様なつながりをつくり出すことも目指しました。

① 〈ごちゃにわ〉内で食材を育て、収穫する
②手賀沼 流域農家さんから食材を購入したり、農作業を手伝ったり、思いのヒアリングなどを行う
③ 入手した食材を使ってどんな料理をつくるのか、メニューを考える
④ 食材の持つストーリーや思いを伝えるため、月に一度〈ごちゃにわ〉内で子どもレストランをオープンする
⑤ 月に一度、親子のエンパワメントの場として「食」に関する研修を開催する

「学校や習い事、塾などで忙しい子どもたち、忙しく働く親たちと話をする中で、家庭での「食」に対する重要度が下がってきていることを感じていました。それなら調理の機会を家庭以外の場所でも体験できないかなと考えるようになりました。」

子どもたちが料理をしている様子
子どもたちが料理をしている様子

そういった背景から、食材を知る機会、調理を学ぶ機会、食文化に触れる機会などを用意した、多角的なプログラムを実施しました。手賀沼には、生き物と畑の共生を目指す農家さんや、安心安全においしく食べられる平飼いニワトリの農家さんなど、一次産業に携わる魅力的な人々も数多くいます。そういった人の協力を仰ぐことで、子どもたちが「食」を知る、考える機会創出を目指しました。

プロジェクトの内容。4つのプログラムで構成されています。
プロジェクトの内容。4つのプログラムで構成されています。

自走しながら地域社会に溶け込む子どもたち

このプロジェクトを実施する際、澤田さんは、子どもたちに「与える」だけではなく「創り出してもらう」ことも意識しているそうです。それは、能動的に関わる機会を用意することで、子どもたちの成長を促したいという思いから。

具体的には、23回ほどプログラムに参加してくれた子どもに、参加者としてだけではなく運営者として仕事を任せることで、プログラムを創る側に回ってもらっているのだそう。その役回りは、イベントの様子を撮影するカメラマン係、プログラム内で使用するノート作成係など、多岐にわたります。

「子どもたちの興味関心に触れる機会を少しでも多くつくるためと思って始めたことですが、彼らに仕事を任せてみて、大人があっと驚くような成長を遂げてくれるのだと知りました。たとえば、カメラマンを担当してくれている子が、SNSに投稿された写真を見て、『こんなカットがあったほうがわかりやすいはず』と撮影プランを考えてくれたり、ノート作成係の子は『このページにはこのイラストがあったほうが楽しんでもらえるかな?』と、アップデートプランを提案してくれたり。自主的に次のレストラン開催に向けてオリジナルレシピを考案してきてくれた子もいたほどです」 

最初は受け身でプログラムをこなしているだけだった子どもたちが、高いモチベーションを抱きながら、自分自身の得意なことを活かして運営に携わってくれる。想像をはるかに上回る子どもたちの成長には、澤田さんをはじめとした、大人のほうが圧倒されるばかりだといいます。

手賀沼まんだらで過ごす子どもたちの様子
手賀沼まんだらで過ごす子どもたちの様子

「ほかにも、今まではお兄さん、お姉さんに頼ってばかりいた低学年の子どもたちが成長する様を見ることも多々あります。プログラムによっては、幼稚園生や小学1〜3年生のみを対象とする場合があるのですが、そういったときに率先して動いてくれるのは、今までなにもできなかったように見えた小学校低学年の子どもたち。高学年がどう助けてくれていたのかをよく見ていて、幼稚園生の子どもたちのサポートをしながら、主体的な姿勢で運営に携わってくれています」

「食」というキーワードを起点にはじまったこのプロジェクト。もちろん、プログラムを経て、食に関する学びや意識の変化も見られています。ただ、それ以上に、環境さえあればどこまででも変化できる子どもたちの無限の可能性を知る機会にもなったそう。共創による、地域コミュニティの大きな力を、この取り組みを通して、澤田さんは実感しています。

「手賀沼まんだら」が思い描く未来

2019年の設立から5年。時代の潮流にあわせて数多くの取り組みを行ってきた「手賀沼まんだら」ですが、現在は、将来を見据えた戦略立案、プロジェクト企画なども推進しているタイミングです。それにあたっては、資金分配団体であるNPO法人ACOBAが提供する、専門家派遣も活用しているのだそう。

「『手賀沼まんだら』を運営しているメンバーは、現在、私を含めて5名。そこに、6人目として戦略立案やマーケティングの得意な専門家を一時的に招き、団体の方向性や意思を表すための”ビジョンボード”というものを制作しています」

ビジョンボードとは、今まで文脈や空気感のみで意思疎通されてきていた、団体の役割や意味を可視化して表現した絵図。「手賀沼まんだら」に携わる人の数、規模が大きくなってきている今のタイミングで、価値観をお互いに共有するべく制作したものです。こうした具現化を行うことで、「手賀沼まんだら」の歩む未来も、より明確化してきています。

「『手賀沼まんだら』を立ち上げたことで、地域コミュニティの重要性を改めて実感する機会になりました。現在、取り組んでいるプロジェクトは、引き続き継続していきたいと強く思いますし、子どもたちをはじめ、手賀沼の人々のよりどころになりたいとも感じています。けれど、組織を大きくしたいという野望はあまりありません。ただ、必要としてくれる人にとっての居場所になれたら。そういうシンプルな願いを再認識できました」

学校や家庭だけではない、サードプレイスとして機能できるように。恵まれた自然との触れ合いや、子どもたちとのコミュニケーションが促進される場として、これから先も「手賀沼まんだら」は歩みを続けていくのでしょう。

「私たちのこの取り組みは、手賀沼だから実現できたものではなく、日本各地で実現できるようなものだと思います。そして、こういった場所を必要としている子どもたちはきっと全国にたくさんいる。もっと暮らしやすい世の中を実現するために、日本各地にこうした地域コミュニティが誕生してほしいと、今まで以上に願うようになりました」

澤田さんの願いが伝播し、人から人へとつながって大きな輪として成長したのが「手賀沼まんだら」。思っていたよりもずっと、その輪は強固で、豊かで、未知の価値を教えてくれたものでした。だからこそ、そうした共感が広がることでつくられる、心強く、力強いコミュニティの誕生を乞い願い、澤田さんは今日も「手賀沼まんだら」の活動を続けています。

【事業基礎情報①】

実行団体手賀沼まんだら
事業名孤立解消の為のコミュニティプレイスの運営
活動対象地域千葉県
資金分配団体特定非営利活動法人 ACOBA
採択助成事業2020年度コロナ枠

【事業基礎情報②】

実行団体手賀沼まんだら
事業名手賀沼版「美味しい革命」〜食べることは生きること〜
活動対象地域手賀沼流域(我孫子市、柏市、松戸市、流山市)
資金分配団体特定非営利活動法人 ACOBA
採択助成事業2022年度コロナ枠

JANPIAは2023年12月1日、日本財団主催の「アジア・フィランソロピー会議 2023」の中で、「多様な「はたらく」、「まなぶ」の意思を尊重、機会創出の実現へ! ~休眠預金活用事業の事例から~」というセッションを企画・発表しました。「アジア・フィランソロピー会議」は、アジア地域におけるフィランソロピー活動に焦点を当てた国際的な会議で、今回のテーマは、 DE&I(多様性、公平性、包括性)。JANPIAのセッションでは、今回のテーマに関わる事業に取り組まれている実行団体の代表者と、休眠預金活用事業の可能性などについて対話しました。

活動概要

2023年12月1日、公益財団法人 日本財団の主催による「アジア・フィランソロピー会議」が、ホテル雅叙園東京にて開催されました。2回目の開催となる今回は、「DE&I(多様性、公平性、包括性)」(※1)をテーマとし、社会課題の解決に取り組む財団をはじめとしたアジアのフィラソロピーセクターのリーダーが一堂に会し、各セッションに分かれ様々な議論が行われました。
同会議のパラレルセッション4にて、JANPIAは、『多様な「はたらく」、「まなぶ」の意思を尊重、機会創出の実現へ!~休眠預金活用事業の事例から~』と題し、休眠預金活用事業の事例を紹介しました。
セッション4の様子は、動画と記事でご覧いただけます。



※1:「DE&I」は、Diversity(ダイバーシティ、多様性)、Equity(エクイティ、公平性)、Inclusion(インクルージョン、包括性)の頭文字を取った略称。

活動紹介

休眠預金活用事業説明(JANPIA)

はじめに、JANPIA 事務局長の大川より、休眠預金活用事業の紹介と今回のセッションの説明をしました。 「休眠預金等活用法よりJANPIAが2019年に指定活用団体に選定されて以来、全国で1,000を超える実行団体が休眠預金を活用し、社会課題の解決に取り組んでいます。今回は、その中から、今回の会議のテーマに合った事業に取り組まれている団体の代表者をお招きしました。会場やオンラインの皆様含めて、様々な観点から意見交換できたらと思います。」

▲JANPIA 事務局長 大川
  資料〈PDF〉|休眠預金活用事業説明|JANPIA[外部リンク]

各団体の取り組み

[1]一般社団法人 ローランズプラスの事例紹介

株式会社ローランズ 代表取締役 / 一般社団法人 ローランズプラス 代表理事 福寿 満希氏

福寿:私たちは東京都の原宿をメイン拠点としながら、花や緑のサービスを提供している会社です。特徴的なのは、従業員80名のうち7割の約50名が、障害や難病と向き合いながら働いているということです。私たちは、「排除なく、誰もが花咲く社会を作る」をスローガンとしており、Flower&Green事業、就労継続支援事業、障害者雇用サポート事業の大きく3つの活動を行っています。

▲ローランズプラス 福寿氏

休眠預金活用事業には、過去に3回採択されています。1つ目の「障害者共同雇用の仕組み作り」という事業(2)は、READYFOR株式会社が資金分配団体で、新型コロナウイルス対応緊急支援助成で採択されました。コロナ禍により、障害当事者の方たちの失業率が高まり、特に中小企業での雇用維持が大変でした。1社だけでは雇用が難しいため、例えば10企業でグループを作り、グループ全体で仕事をつくり、雇用を生み出していきましょうという仕組みづくりです。この事業によって30名程の新しい雇用が生まれ、助成終了後の今も、自走してしっかり回っている状態になっています。 


2つ目は、「花を通じた働く人のうつ病予防project」事業(※3)です。資金分配団体は、特定非営利活動法人 こどもたちのこどもたちのこどもたちのために 様で、花を通してうつ病を予防していくという取り組みです。企業の花を通じたウェルネスプログラムとして、会社から従業員に対して、10分割できる花をプレゼントし、10人に「ありがとう」を伝える機会をプレゼントします。ある調査では、「ありがとう」の言葉は、伝える側の方が幸福度が高くなるというデータが出ています。「ありがとう」の伝えることの重要性を知り、求めるのではなく、自発的にその言葉を伝えていければ、幸福度が高まる機会が増え、結果的にうつ病が予防されていく仕組み作りに挑戦しています。3年間で4千人へアプローチすることを目標に取り組んでいます。


3つ目は、資金分配団体である株式会社トラストバンク 様と取り組んでいる「地域循環型ファームパーク構築」事業(※4)です。神奈川県横須賀市で花の生産と体験型農業(ファームパーク)の運営を行うことで、地域の障害当事者の就労機会を創ることに取り組んでいます。慣れ親しんだ地域に仕事を作り、障害当事者が地元で活き活きと働き、その対価を得ながら地域循環の元で生活をしていけるモデルを作ろうとしています。横須賀地域の福祉団体と連携して、福祉団体から採用していくという流れをとっています。先ずは横須賀で形をつくり、そこから、その他の地域循環モデルが広がっていったら良いなと思い取り組んでいます。

▲ローランズプラス 福寿氏 当日資料より

※2:2020年度 緊急枠 「ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業」
(資金分配団体:READYFOR株式会社)【関連記事】ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用

※3:2022年度 通常枠 「植物療法を通じた働く人のうつ病予防プロジェクト」
(資金分配団体:特定非営利活動法人 こどもたちのこどもたちのこどもたちのために〈イノベーション企画支援事業〉)

※4:2022年度 通常枠 「障がい当事者が活躍できる地域循環型ファームパーク構築事業」
(資金分配団体:株式会社トラストバンク〈ソーシャルビジネス形成支援事業〉)

[2]認定NPO法人 グッド・エイジング・エールズの事例紹介

認定NPO法人 グッド・エイジング・エールズ 代表 松中 権氏

松中:まず「プライドハウス東京」というプロジェクトについてご説明します。まだまだ社会の中にはLGBTQ+(※5)の方への差別偏見があり、孤独感を感じている方も少なくありません。そこで、性的マイノリティの方々が横で繋がったり、安心・安全に訪れることができる場所をつくろうという取り組みが、「プライドハウス東京」です。2023年11月現在、31の団体・専門家、32の企業、19の駐⽇各国⼤使館などと連携して取り組んでいます。

▲グッド・エイジング・エールズ 松中氏

【関連記事】

世界でいちばんカラフルな場所を目指して!| グッド・エイジング・エールズ 松中権さん × エッセイスト 小島慶子さん【聞き手】

「プライドハウス東京」設立プロジェクトは、特定非営利活動法人エティックが資金分配団体を務める事業で採択され(※6)、当初は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の時期に合わせて期間限定の場所をつくり、その後、2022年頃に常設の大型のセンターを造ろうという計画でした。

しかし2020年に緊急アンケートを行ったところ、新型コロナウイルス感染拡大の影響でLGBTQ+の若者が大変な状況にあるということが分かってきました。実は、73.1%の方々が、同居人の方との生活に困難を抱えていることが分かりました。また、36.4%のLGBTQ+の若者が、コロナ禍でセクシュアリティについて安⼼して話せる相⼿や場所との繋がりを失ってしまったと回答しました。この緊急アンケートによって明らかになった「居場所のニーズ」により、当初の計画を前倒しし、2020年の秋、常設のセンターを開設することになりました。

LGBTQ+に関する様々な調査の中で、政府も調査していることの一つが自殺の事です。政府が自殺対策の指針として定める「自殺総合対策大綱」によると、性的マイノリティはハイリスク層と言われています。そうした方々が、安心・安全に集えるようなコミュニティスペースが、「プライドハウス東京レガシー」です。また、休眠預金を活用した事業が動き出したことによって、「プライドハウス東京」に関する高い信頼が得られ、翌年には厚生労働省の自殺対策(自殺防止対策事業)の交付金を受けることになりました。自殺対策の相談窓口は電話やSNSが多いですが、「プライドハウス東京レガシー」では、対面型の相談サービスを提供しています。2023年11⽉現在の来館者数は、延べ1万人を超えたというところです。



※5:LGBTQ+…レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランジェンダー、クエスチョニング(自分の性別や性的指向に疑問を持ったり迷ったりしている人)/ クィア(規範的な性のあり方に違和を感じている人や性的少数者を包摂する言葉)の英語表記の頭文字を並べ、LGBTQだけではない性の多様性を「+」で表現している。

※6:2019年度 通常枠
「日本初の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京」設立プロジェクト」
(資金分配団体:特定非営利活動法人エティック(子どもの未来のための協働促進助成事業))


パネルセッション

続いて、JANPIA 加藤の進行により、パネルセッションが行われました。本セッションでは、お互いの発表に対する意見交換から始まり、続いて今回のテーマである「DE&I(多様性、公平性、包括性)」について、そして最後に、休眠預金活用事業への期待や展望について、登壇者の二人からお話を伺いました。

登壇者:

・株式会社ローランズ 代表取締役 / 一般社団法人ローランズプラス 代表理事 福寿 満希氏
・認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ 代表 松中 権氏

司会:

一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)
企画広報部 広報戦略担当 加藤 剛

▲JANPIA 企画広報部 加藤

休眠預金の活用について、福寿氏は、「やりたかったけれどもやれていない事業や、やったら絶対に意義があると思っているけど、資金的・人的リソースが足りず、なかなか挑戦できない新規の事業で申請することが多かった」「障害者手帳をお持ちではないグレーゾーンの方もいらっしゃったりするので、そのような制度に引っ掛からない方たちにも支援が届けられたらと思った」と語りました。グッド・エイジング・エールズの松中氏は、「一般的な助成だと一番大切な居場所をつくるための家賃や人件費がサポートいただけないことが多かったので、休眠預金を知ったときは、これだったら居場所がつくれるのではないかと思い、申請した。常勤のスタッフが安心して働けるからこそ、新しいプロジェクトや寄付金が集められる」と続けました。また、お互いの活動について、松中氏は、「是非、連携させていただきたいと思った」と、今後の事業連携の可能性について盛り上がりました。

今回のテーマ『DE&I~すべての人々が自分の能力を最大限に発揮できる社会を目指して~』について、松中氏は、「LGBTQ+の当事者の若者が、卒業後に働く現場の一つとして、これらのコミュニティに関わるとか、企業のDE&Iに関わる部署への配属を希望できるようになるなど、卒業後にDE&Iを仕事としていくことが想像できるようになると良いなと考えている」と回答。また、福寿氏は、「障害者手帳もそうだが、名称の括りがあると、何か特別なものように思ってしまいがちなので、たまたま障害当事者のために業務を分かり易くしたところ、結果としてそれが同じ拠点で働くみんなのためにもなったといったように、障害者雇用が特別なものではない社会になったら良いなと思って取り組んでいる」と答えました。

また、休眠預金活用事業への期待や展望について、松中氏は、「取り組みの地域格差をどれくらい埋められるかというのが課題だと思っている。例えば、LGBTQ+センターは東京だけではなく、全国各地にあった方が良いと考えるが、地域によっては資金分配団体がなかったり、あったとしても掲げるテーマからなかなか採択に至るのは難しい状況もある。もっと全国各地の団体が参画しやすい仕組みになれば良いなと思う」と話しました。福寿氏は、「通常枠は約3年だが、自走できる仕組みづくりには時間がかかり、形ができてやっと活動を拡げるという手前で事業が終了してしまうので、拡がりが期待できる事業に対しては、ネクストチャレンジのような仕組みがあったら良いなと思う。有難いことに3つの事業で採択していただいており、現在2事業が実施中だが、どれも休眠預金が無ければ挑戦できなかった事業。社会課題の解決を後押ししてくれる制度なので、是非活用する事業者の方が増えていったら嬉しい」と話しました。

最後に、JANPIA 事務局長の大川より挨拶があり、「今日の学びを制度全体の発展にも活かせるよう、私どもJANPIAもしっかり取り組んで参りたい」と、このパネルセッションを締め括りました。

登壇者の皆さん

左から、JANPIA事務局長 大川・JANPIA 加藤・ローランズ 福寿さん・ グッド・エイジング・エールズ 松中さんです。

【1】事業基礎情報

実行団体一般社団法人 ローランズプラス
事業名ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業
活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業新型コロナウイルス対応緊急支援事業
〈2020年度緊急支援枠〉

【4】事業基礎情報

実行団体特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名日本初の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京」設立プロジェクト
-情報・支援を全国へ届ける仕組みを創り、
LGBTQの子ども/若者も安心して
暮らせる未来へー
活動対象地域東京都、及び全国
資金分配団体特定非営利活動法人エティック
採択助成事業子どもの未来のための協働促進助成事業
ー不条理の連鎖を癒し、皆が共に生きる地域エコシステムの共創ー
〈2019年度通常枠〉

【5】事業基礎情報

実行団体特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名LGBTQ中高齢者の働きがい・生きがい創出
活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業新型コロナウィルス対応緊急支援事業
ー子ども・社会的弱者向け包括支援プログラムー
〈2020年度新型コロナウィルス対応緊急支援助成〉

【2】事業基礎情報

実行団体一般社団法人 ローランズプラス
事業名植物療法を通じた働く人のうつ病予防プロジェクト
-花のチカラでうつ病発症を食い止めるー
活動対象地域東京都
資金分配団体特定非営利活動法人 こどもたちのこどもたちのこどもたちのために
採択助成事業うつ病予防支援 〜東京で働く人をうつ病にさせない〜
〈2022年度通常枠〉(イノベーション企画支援事業)

【3】事業基礎情報

実行団体一般社団法人 ローランズプラス
事業名障がい当事者が活躍できる地域循環型ファームパーク構築事業
ー障がい当事者が地域経済に参画することで、新しい社会包摂モデルを構築するー
活動対象地域神奈川県横須賀市
資金分配団体株式会社トラストバンク
採択助成事業地域特産品及びサービス開発を通じた、
地域事業者によるソーシャルビジネス形成の支援事業
〈2022年度通常枠(イノベーション企画支援事業)

今回のJANPIAスナップでは、休眠預金活用事業POギャザリング2023の開催の様子をお届けします。

活動の趣旨

休眠預金を活用し、全国各地で社会の諸課題の解決を目指す資金分配団体のPOをはじめとした休眠預金活用事業の関係者のヨコの繋がりをつくる機会として、コロナ禍でなかなか実現されなかった対面での交流の場を「休眠預金活用事業POギャザリング2023」として実現しました。”社会課題の解決に向けて一緒に議論できる仲間ができる。””団体や地域を超えて、相談できる同志ができる。”ことなどを目的に様々な交流企画やセッションを実施いたしました。

当日は資金分配団体のPOを中心に参加者74名、ご登壇者25名の総勢99名の方に会場に集まりました。

当日の様子

オープニングセッションの様子 「休眠預金活用事業って、ざっくり言うと、どうだった?」
オープニングセッションの様子 「休眠預金活用事業って、ざっくり言うと、どうだった?」
セッション中のグループワーク 事後アンケートでは、もっとワークの時間が欲しかったとの声もありました。
セッション中のグループワーク 事後アンケートでは、もっとワークの時間が欲しかったとの声もありました。
企画もありましたが、お昼の時間も自然に会話が弾んでいました。 名刺交換も活発で、50名以上と名刺交換された方もいらっしゃいました。
企画もありましたが、お昼の時間も自然に会話が弾んでいました。 名刺交換も活発で、50名以上と名刺交換された方もいらっしゃいました。
クロージングセッションの様子 「休眠預金活用事業への想いや活動を10年先に届けるために」
クロージングセッションの様子 「休眠預金活用事業への想いや活動を10年先に届けるために」
集合写真
集合写真
オープニングセッションとクロージングセッションに関してはグラフィックレコーディングを行っていただきました。(ご協力:グラレコ奈美 さん)
オープニングセッションとクロージングセッションに関してはグラフィックレコーディングを行っていただきました。(ご協力:グラレコ奈美 さん)
休眠預金活用事業POギャザリング パンフレット
休眠預金活用事業POギャザリング パンフレット

JANPIAでは今後も「誰ひとり取り残されない社会への触媒となる」ことを目指し、今回のようなギャザリングなどイベントを企画していきます。
ご参加、ご協力いただきました皆さま、誠にありがとうございました。

千葉県柏市内に、二十歳前後の若者が「おばあちゃんち」と呼ぶ家があります。一般社団法人いっぽの会が、2020年度の休眠預金活用事業(通常枠)を活用し、2022年8月に社会的養護のもとで育った若者たちや、様々な理由で家族と一緒に住めない方のための「若者応援ハウス」をオープンしました。共同生活を送りながら、スタッフや地域の方と交流することで、自立に向けての一歩を踏み出しています。今回、この若者応援ハウスを訪れ、開設するに至った経緯や入居している若者の様子、活動の今後の展望などについて運営メンバーの皆さんに伺いました。

若者応援ハウス立ち上げの経緯

いっぽの会の代表理事の久保田尚美さんは、児童自立援助ホームで働く中で、「子どもたちがもっとやりたいこと を実現できる施設にしたい」という思いから独立し、いっぽの会を立ち上げ2020年10月に児童自立援助ホーム「歩みの家」を開設しました。

児童自立援助ホームは、児童相談所長から家庭や他の施設にいられないと判断された子どもたちに、暮らしの場を提供する施設 です。対象年齢は15歳から20歳(一定の条件を満たせば22歳)となっています。しかし、2022年4月から成人年齢が引き下げられたこともあって、18歳になると国から施設に支払われていた措置費がなくなり、たとえ継続的な支援が必要だと判断される若者であっても施設から出なければいけない場合もあるそうです。

「施設を出ることになった若者にも、実際、様々な相談対応を行ってきました。ただ、措置費が出ないなか、施設職員が時間外の労働によって継続的に支援していくことに限界を感じていました。」 そのような中、 公益財団法人ちばのWA地域づくり基金が、2020年度通常枠の資金分配団体として社会的養護下にある若者に焦点をあてた助成事業の公募をしていることを知りました。もともと久保田さんは、児童自立援助ホームを出た若者が、いつでも戻ってこられる拠点づくりをできるとしたら、十数年後かなと思っていたそうです。
お話を伺った皆様(左からいっぽの会理事 田村敬志さん、同団体代表理事 久保田尚美さん、同団体スタッフ 朝日仁隆さん、社会福祉士 古澤肇さん)

「施設を出ることになった若者にも、実際、様々な相談対応を行ってきました。ただ、措置費が出ないなか、施設職員が時間外の労働によって継続的に支援していくことに限界を感じていました。」 そのような中、 公益財団法人ちばのWA地域づくり基金が、2020年度通常枠の資金分配団体として社会的養護下にある若者に焦点をあてた助成事業の公募をしていることを知りました。もともと久保田さんは、児童自立援助ホームを出た若者が、いつでも戻ってこられる拠点づくりをできるとしたら、十数年後かなと思っていたそうです。

しかし公募を知り、「今から必要な若者に届けられるのであれば、チャレンジしてみよう」という気持ちに変わり、休眠預金活用事業に申請。その結果、採択されて事業に取り組み、2022年8月に若者応援ハウス をオープンしました。

「以前施設で働いていたときは、若者から相談があったとしても、児童相談所に情報提供するだけで、施設で若者を受け入れることができなかったのです。しかし今では、児童自立援助ホームである「歩みの家」だけでなく若者応援ハウスもあります。だから助けを必要とする人から連絡をいただけれ ば、可能な範囲で受け入れられるような環境 と体制が作れたと思っています。今回の助成事業の結果、活動の幅が広がりました。」

生活支援と就労支援は表裏一体

休眠預金活用事業では、社会的養護を経験した若者が、ボランティア、職員や地域の人との人間関係が構築され、思いを語れ、困難を乗り越える方法が身についていることを目指しています。加えて、若者応援ハウスでの生活相談や就労相談に対応していく過程で、若者が自ら解決していく力がつき、自分らしい暮らしを営んでいる状態を目指しています。

いっぽの会のスタッフで、若者応援ハウスの責任者をしている朝日仁隆さんに、活動の様子を伺いました。

「若者と一緒にご飯を作ったり、庭に畑があるので、畑の野菜を採ってもらったりしています。また、月に1回程度地域の方や支援者を呼んで、食事会などを開催しています。ボードゲームが好きな若者がいて、一緒に遊ぶこともあります。日常の延長みたいなところから、その子の今まで言えなかった気持ちとか、やりたかったことを引き出しながら、徐々に自立に向かうサポートをしています。」

若者応援ハウスだからこそできる日常の生活支援に加え、就労支援も行っています。これまで朝日さんたちが関わった若者たちは、仕事に就くこと自体はできても、本当にやりたいことを見つけることができなかったり、無理した働き方になってしまっていたりしました。

例えば、これまで関わった若者の1人は、当初、将来どういう風に生きていきたいか、といった考えがなく、手っ取り早く見つけた事務のアルバイトをしようとしていました。ただ、スタッフと話していくうちに専門学校 を志望するようになり、今まさに受験結果待ちとのことです。このように、「本当はやってみたいことがある」と打ち明けてくれたり、一緒に考えたりするようになったのは、いっぽの会の皆さんが丁寧に伴走される中で信頼関係が築かれていったからではないでしょうか。
若者(手前)の相談に対応するスタッフ(奥)

例えば、これまで関わった若者の1人は、当初、将来どういう風に生きていきたいか、といった考えがなく、手っ取り早く見つけた事務のアルバイトをしようとしていました。ただ、スタッフと話していくうちに専門学校 を志望するようになり、今まさに受験結果待ちとのことです。このように、「本当はやってみたいことがある」と打ち明けてくれたり、一緒に考えたりするようになったのは、いっぽの会の皆さんが丁寧に伴走される中で信頼関係が築かれていったからではないでしょうか。

いっぽの会の外部アドバイザーで社会福祉士の古澤肇さんは、生活支援と就労支援は、表裏一体だと話します。

「人間関係とかお金のこととか、自分の身体を大事にすることって、人が生きていく上で大事なことで、生活支援でもあるし、就労支援でもあると思っています。例えば、体温が39度あっても『仕事行きます』という子には、『ちょっとそれはやめましょう』と伝えますが、最初は仕事と体調の優先順位もなかなか分からなかったりします。困っているときに適切に『助けて』が言える、SOSが出せるようになることも大切だと考えています。 」

現在若者応援ハウスに入居している方は2名(定員3名)で、これまで短期を含めて泊まりで利用された方は、4名いました。短期の利用では、住み込みの仕事していた方が退職し、住まいを失った際に、転職先が見つかるまでの間の仮の住まいとして利用するケースがあったそうです。

また、計画時は、児童自立援助ホームや児童養護施設出身の若者を支援の対象と考えていましたが、社会的養護を経験していない方からの問い合わせがあったことがきっかけとなり、今は、支援の対象を広げているそうです。

地域に支えられながら育つ若者たち

この若者応援ハウス事業の特徴の一つに、地域とのつながりを重視していて、地域の方もいっぽの会の事業に自然と入ってきているところがあります。地域の方が若者のことを気にかけて、若者もその地域に向けて、何か自分の気持ちや、やりたいことを発信できるような関係性になってきているそうです。ただ、いっぽの会は、最初から地域とのつながりがあったわけではありません。

いっぽの会が最初に立ち上げた児童自立援助ホーム「歩みの家」は松戸市内にあり、当初、若者応援ハウスもその近隣エリアで探していました。ただ、若者応援ハウスということや、児童福祉施設ということで様々な偏見があり、物件を見つけるのに苦労したそうです。やっと見つけた現在の物件は、いっぽの会の通常の活動エリアとは離れており、地域とのつながりがほぼない場所にありました。

そのような状況の中、どのように地域とのつながりを作り関わっていただけるようになったのでしょうか。古澤さんが教えてくださいました。

「地域で活動している人たちとのつながりづくりは、戦略的に考えています。たとえば、日常的なことですと、若者応援ハウスでは 、コンビニではなく、なるべく地域の商店で買い物をするように伝えています。また、地元の小学校の「おやじの会」の方に、若者応援ハウスのイベントに参加していただきました。 バーベキューを実施したのですが、若者やボランティア、そしてご参加いただいた地域の方が力を合わせて一緒に火をつけたり肉を焼いたりする。その何気ない協働作業がすごく大事な経験だと思っています。特に、一緒に何かを作るとか、みんなで分け合うとか、そういう経験を成長過程であまりしてこなかった若者には貴重な機会です。」

また、イベントを実施するにあたって、地域のボランティアだけでなく、古澤さんの仲間の社会福祉士にもメンバーに入ってもらったこともポイントだそうです。

「初めましてのボランティアだけだと、どうしても皆さんよそよそしくなってしまいます。一方、スタッフはスタッフで準備や裏方で大変。そこで、コミュニケーションを円滑にしてくれる人材として、有資格者がいい働きをするのです。」

現在、定期的に若者応援ハウスに来ている地域ボランティアは3名いるそうです。一人は、若者応援ハウスの畑のお世話を手伝ってくださる方で、自治会長や民生委員もされたことのある地域のキーマンでもありました。

「その方と若者とが繋がり始めているのが嬉しいですね。その方の誕生会を若者が企画して、ケーキまで作ってお祝いしていました。やっぱりこういう地域と若者、スタッフとの交流が広がってきているのが何よりです。」
と振り返る朝日さん。

そのボランティアさんが畑で作業していると、外からも見えるため、「あの方が関わっているなら」と、若者応援ハウスの地域からの信頼度向上にもつながっているそうです。

残り2名のボランティアは、ボランティアセンター経由で紹介があった地域の方で、月2回程度、若者たちと一緒に食事を作っています。そのうち1人は、今はご飯作りがメインですが、ゆくゆくは茶道やお花なども若者とやってみたいとお話しされているのだとか。

「当たり前」の活動から生み出された変化

これまでの活動を振り返って、朝日さんが印象に残っているエピソードを教えてくれました。

「畑の手入れは私が中心でやっているのですが、スタッフが来れないときの水やりを若者に頼んでいると、いつの日か自主的に大きくなった野菜を収穫して並べておいてくれたことがあったのです。」

「応援ハウスでは、月に1回の振り返り面談を行っています。自分の思いや考えを表現するのが苦手な若者は、口数が少なくなったり、中々本音が言えません。応援ハウスでのボランティアさんとの関わりやイベントに参加、又、若者同士での良い刺激や相互作用が成功体験とも言えます。回を重ねるごとに自分の気持ちや感情を少しずつ表に出せるように変化していきます。」



そうして、今まで連絡を絶っていた支援機関や、親族の方にも少しずつ連絡が取れるようになってきている若者もいます。


助成事業は、若者だけでなく、いっぽの会にも変化をもたらしました。理事の田村敬志さんは、社会的インパクト評価の考え方を通じて、活動の成果をアウトプットではなく、アウトカムも示すことを学べたと振り返ります。

「これまでは自分たちが必要だと思ったことを、ただただやっているだけだったんですけど、それを対外的に示すために、社会的インパクト評価を通じて言語化する仕方もあるということを勉強させていただきました。」

目の前の問題を解決するために一生懸命に取り組む中で当たり前にやってきたことが、実は当たり前ではなく、とても重要だったということを確認することができたようです。

いっぽの会の「若者応援ハウス」のこれから

いっぽの会は、これまでの成果を踏まえ、児童自立援助ホームの元利用者やその紹介以外の若者へのアプローチを強化していく予定です。また、若者応援ハウスでは宿泊だけでなく、気軽に立ち寄れる通所型の受け入れも増やしていきたいとのことです。住まいや居場所が既にある若者でも、「誰かと一緒に食べたい」「相談したい」と思ったときにふらっと立ち寄るような居場所を目指したいと古澤さん。

「『相談受けます』みたいな看板を掲げると、どうしても敷居が高くなってしまいます。ここには地域をよくしようとする人たちが集まっていて、ここに来ること で「何とかなる」と思ってもらえる、そんな『若者応援センター』になるといいなと。」

実際、この若者応援ハウスのことを「おばあちゃんち」と呼ぶ若者もいるようで、すでに実家のような存在になっています。

休眠預金活用事業が終了する2024年1月以降は、事業を継続・発展していくための財源確保が最大の課題です。自治体や民間の様々な助成事業を視野に入れつつ、中長期的にはやはり、制度化をめざしていく必要があると久保田さんは考えます。

「今回の休眠預金がまさに制度のはざまにある取り組みを、民間で支えてくれる資金だったんです。制度ができるまではかなりきついですが、続けていかなければ、制度化にはいきつかないので頑張っていきます。」

事業基礎情報

実行団体一般社団法人いっぽの会
事業名

社会へ「いっぽ」を踏み出す基盤づくり事業

活動対象地域千葉県
資金分配団体公益財団法人ちばのWA地域づくり基金

択助成事業

2020年度通常枠