助け合いの力で広がる支援の輪。地域全体で取り組むフードバンクふじさわの活動

フードバンク活動とは、品質には問題がないのに包装の破損や過剰在庫、印字ミスなどで流通に出すことができない食品を企業などが寄贈し、必要としている施設や団体、困窮世帯に無償で提供する取り組みのことです。生活困窮者への支援とともに食品ロス削減にもつながる活動として、ここ数年で注目が高まっています。今回は、2023年度緊急枠に採択された「フードバンクふじさわ等冷凍食品物流・保管機能の強化支援事業」の実行団体「認定NPO法人ぐるーぷ藤」をはじめとする関連団体・組織の方々に集まっていただき、これまでの取り組みや今後の展望について伺いました。

コロナ禍での困窮者支援に立ち上がった、地域福祉の草の根活動メンバーたち

フードバンクふじさわが設立されたのは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、生活困窮者の支援が急務となっていた2021年3月のことです。神奈川県藤沢市内の地域福祉に携わるNPO法人が集う「ふじさわ福祉NPO法人連絡会」では、地域のさまざまな課題を共有しながら支援の方向性が議論されていました。そこで浮き彫りになった喫緊の課題の1つが、ひとり親家庭など孤立しがちな生活困窮者への支援です。その解決策を模索する中で、食品ロスを減らしながら必要な人に食品を届けるフードバンクかながわの取り組みに関心が寄せられ、フードバンクの設立が検討されました。

こうした背景のもと、フードバンクふじさわ設立準備会が発足し、関係者が協力して準備を開始。当時の経緯について、フードバンクふじさわ代表の野副妙子さんに聞きました。

野副妙子さん(以下、野副)「食品支援の必要性について話し合っている時に、フードバンクかながわから『藤沢市にもフードバンクをつくらないか』という声かけがありました。そこで、フードバンクかながわに足繁く通って、現場を見て学び、フードバンクふじさわの構想が固まり始めたころ、折悪しくコロナ禍が始まりました。『状況が落ち着いてから立ち上げよう』という声もありましたが、困難な時期だからこそ『今立ち上げなくてどうする』という、ふじさわ福祉NPO法人連絡会代表の鷲尾さんの提言があり、設立準備を進めました。そして、藤沢市内のさまざまな福祉団体や賛同する市民の方、行政、社協、企業、フードバンクかながわの協力により、フードバンクふじさわを立ち上げることができたのです」

フードバンクふじさわ 代表 野副妙子さん

市民団体と一体となって活動する市や社会福祉協議会

フードバンクふじさわの発足に先駆け、藤沢市社会福祉協議会(以下、社協)は2018年からフードバンクかながわと連携し、支援を必要とする人々に食品の提供を行ってきました。フードバンクふじさわ発足以降は、フードドライブ(家庭で余っている食品を集める仕組み)を通じて集めた食品を、市役所や社協の職員が食品保管・仕分けの拠点へ配送するほか、拠点の借り上げや企業との窓口になるなど、幅広い支援を行っています。

社会福祉法人 藤沢市社会福祉協議会 事務局長・村上尚さん(以下、村上)「フードバンクふじさわは、さまざまな団体・組織が協力する共同体です。比較的珍しいケースだと思いますが、私たち社協もその一員として活動に参加しています。立ち上げ時から社協が加わり、共に活動してきました。『地域をよくしていこう』という共通の目標を見据えることが連携のカギだと思います。

そもそも市の社会福祉協議会という組織は地域福祉を推進する団体。地域の課題に対して、先駆的に柔軟に取り組むことが使命です。制度化された支援では対応しきれない部分をフードバンク活動が補い、市民団体と連携することで、ひとり親家庭などへの個別支援も可能になりました。フードバンク活動はすべてをバックアップできるわけではありませんが、困窮に陥っている方々が一息ついてもらうための支えになります。連携を通し、地域支援のために私たちができることの幅が大きく広がっていると思います」

藤沢市社会福祉協議会 事務局長 村上尚さん

コロナ禍以降も物価高騰の影響で利用者が急増し、ニーズに応えきれない状況に

フードバンクふじさわ設立翌月の4月には、市内3カ所に、食品支援を必要としている方が食品を受け取れる拠点としてフードパントリーを設置し、第1回の食品配布を実施。ひとり親世帯やひとり暮らしの大学生ら(※)に、米やカップ麺、缶詰、飲料などを無償で提供しました。

※ 大学生への提供は2023年10月まで

その後、2022年3月までの1年間でのべ2,195人の利用があり、翌22年度は2,805人と増加。23年度は最初の2カ月で利用者が500人を超えるなど、コロナ禍は落ち着いたものの物価高騰の影響で利用者が大幅に増えていました。しかし、利用者が増加する反面、物価高騰により缶詰やレトルト食品などの常温保存できる食品の寄付は減少しており、ニーズに応えきれない状況に陥っていました。

これは全国のフードバンク共通の課題でもありました。フードバンクかながわは、取り扱う食品を増やすため、神奈川県内に食品倉庫を持つマルハニチロ株式会社に寄付を依頼。その結果、ツナ缶などの常温食品は市場でのニーズが高く余剰がほとんどないものの、冷凍食品は外箱の破損などで廃棄されるものがあり、提供が可能だと回答を受けます。ただ、冷凍食品の寄付を受けるには、品質を保つためのコールドチェーン(冷蔵・冷凍といった所定の温度を維持したまま輸送・保管などの流通プロセスをつなげること)を作り上げることと、寄付した商品がどこに届けられたのかというトレーサビリティを実現することが条件でした。

野副「フードバンクかながわから冷凍食品の取り扱いについて打診があり、そのための準備を行いました。当時は少しだけの取り扱いしかできませんでしたが、冷凍食品は、電子レンジさえあればすぐに食べられるためとても人気がありました」

そんな時、フードバンクかながわが「神奈川県及びその周辺の食支援ネットワーク発展のために〜冷凍食品を活かした支援食品のレベル向上」という事業で、休眠預金活用事業の資金分配団体に採択されたことを知り、フードバンクふじさわも応募を考えましたが、法人格がないことから、一緒に活動を共にしてきた認定NPO法人ぐるーぷ藤を代表団体として申請し、採択されるに至りました。

休眠預金の活用で取り扱い食品量が大幅に増え、子ども食堂にも提供が可能に

フードバンクふじさわは助成金を活用して、冷凍車、冷凍庫、保冷ケースを購入し、コールドチェーンをつくり上げます。また、フードパントリー利用者にも保冷バッグによる持ち帰りを厳守とし、冷凍食品の品質管理を徹底しています。

村上「2024年9月には待望の冷凍車が購入され、冷凍食品の物流倉庫がある神奈川県川崎市の扇島まで直接受け取りにいくことができるようになりました。また、大型の冷凍庫4台も購入され、社協が福祉物流拠点として借り上げている湘南藤沢地方卸売市場の店舗内の一区画に設置しています。実は、冷凍車いっぱいに冷凍食品を積み込むと、ちょうどこの4台の冷凍庫に収まりきるようになっているんです。
集まった食品は、フードパントリー拠点で配布する分や子ども食堂で使ってもらう分へと仕分けします。本格的に冷凍食品を取り扱うことで、フードバンク活動だけでなく子ども食堂にも提供できるほどの量を調達できるようになったのは、本当にありがたいですね」

冷凍食品の保管と輸送体制を強化するため導入された冷凍庫と冷凍車

野副「休眠預金活用事業のおかげで、大きな課題であった利用者の増加に伴う食品ニーズの拡大に応えることができるようになりました。寄付でいただく冷凍食品には業務用のものもあるため、それらは子ども食堂で使っていただいています。冷凍食品は歓迎されていて、特にからあげなどの肉類は子どもたちに大人気です」

認定NPO法人ぐるーぷ藤 理事長・藤井美和さん(以下、藤井)「私たちのフードバンク活動でのおもな支援対象は、ひとり親世帯のため、誰でも簡単に調理ができる冷凍食品はニーズに合っているようです。取り扱い量が増えたことで、親子で好きなものを選んでもらうこともできるようになりました。嬉しそうに保冷バッグを持って帰る姿を見ると、本当にやりがいを感じます。また、冷凍食品はお弁当にも適しているので、子育て中の世帯にはそういった点でも非常に喜んでもらえているようです」

利用者に寄り添う「伴走型」の支援で、新たな窓口への橋渡しも

フードバンクふじさわの活動は、食品の支援にとどまりません。地域の居場所づくりや生活支援コーディネート業務等に携わってきたメンバーも数多く参加していることから、フードパントリーでも訪れた人に積極的に声をかけ、支援が必要な人には適切な窓口への橋渡しなども行っています。また、ひきこもりの当事者をフードバンク活動のボランティアとして受け入れ、その後の就業へと結びつけるなど、ひきこもり支援と連携した活動も展開しています。

藤井「ぐるーぷ藤の理念は『歳をとっても病気になっても障がいがあってもいつまでも自分らしく暮らせる街を創りたい』というもの。お互いさまの気持ちを大切に、地域住民同士の助け合いを目指しています。フードバンク活動においても『伴走型』が基本。相手に寄り添い、食品支援にとどまらないサポートを行っています」

ぐるーぷ藤 理事長 藤井美和さん

村上「フードパントリーに来られる方の中には課題を抱えて困っている方も多くいます。そうした人と顔を合わすことで、社協の相談支援へつなげることができるのです。逆に、私たちが普段相談を受けている方の中で、ひとり親の方などフードバンク活動の対象となる方には、食品配布の紹介をすることもあります。いきなり社協や市の窓口に相談に来るのはハードルが高いと思う方もいると思いますが、フードバンクを通じて自然につながることができるのは、大きな意義があると感じています」


人と人とのつながりを、大切にすることが活動の基本

最後に、フードバンクふじさわの活動を支えるメンバーに、今後に向けた取り組みについて語ってもらいました。

野副「藤沢市の取り組みが、ほかの市にも広がっていくことを願っています。社協と自治体が連携しながら生活困窮者への支援に力を尽くしてくれていることが伝われば、地域の市民団体も一緒にがんばっていこうという気持ちになってくれると思いますから。また、フードバンクふじさわの報告会に、毎年市長をはじめ、社会福祉協議会の会長や、民生委員児童委員協議会の会長、企業の皆さんといった方々が参加してくれます。これが『藤沢型フードバンク』と私たちが称しているゆえんです」

フードバンクふじさわ事務局・小野淑子さん「フードバンクふじさわは、『小さく産んで大きく育てる』の合言葉のもと任意団体としてスタートし丸4年が経ちました。そして2025年4月には一般社団法人化を予定しています。これまで任意団体でありながらも多くの支援をいただいてきましたが、法人化によって、さらに信頼を得ることができ、活動が広がっていくのではないかと期待しています」

藤井「フードバンクふじさわの活動で生まれた人と人とのつながりがこの先も続いていくことを願っています。伴走型の活動によっていろいろな縁があり、ぐるーぷ藤で就労された方もいますし、障害のある方の就労のきっかけにもなっています。食品を提供するだけでなく、人のつながりを広げる場として活動していきたいです」

村上「地域の困窮者を支える方法やしくみづくりは、社会全体で考えていかないといけない問題ですが、すぐに解決できるものはありません。だから、フードバンクの活動はそういう人たちの『今』を支える大切な役割を果たしていると思います。また、フードドライブなど、みんなが地域福祉に関心を持つきっかけにもなってほしいですね。そして、今フードパントリーに来ている子どもたちが、将来『地域のために何かしよう』と思えるような循環が生まれる場であり続けてほしいです」

社会福祉法人 藤沢市社会福祉協議会 事務局参与・倉持泰雄さん「フードバンク活動は、困難を抱えた方を地域社会で支える大切なしくみです。助成金のおかげでコールドチェーンが整いましたが、今後は冷凍車の管理運営など新たな課題に取り組んでいく必要があります。引き続き、地域の支援のために尽力していきたいです」

取材に対応してくださった方々。左からフードバンクかながわの萩原妙子さん、フードバンクふじさわの小野淑子さん・野副妙子さん、ぐるーぷ藤の藤井美和さん、藤沢市社会福祉協議会の倉持泰雄さん・村上尚さん、フードバンクかながわの藤田誠さん
 



■資金分配団体POからのメッセージ

フードバンク活動に対して社会の認知も少しずつ高まってきましたが、まだまだ具体的な活動について知らない団体、企業、行政担当者もいらっしゃいます。具体的にどんな活動ができるのか、1人でも多くの人に知ってほしいですね。また、フードバンク活動は食品ロスの削減にも貢献し、ゴミ処理費用の削減やCO2排出削減にもつながります。ぜひ小さな子どもさんから大人まで、多くの人に関心を持ってもらえたら嬉しいです。

(公益社団法人フードバンクかながわ/事務局長 藤田 誠さん)

フードバンクかながわには多くの冷凍食品が集まる中、私たちだけではなかなか輸送や保管、配布に回しきれない状況となっています。そのため、神奈川県の各自治体に1つはフードバンクが必要となっており、さらにハブとなる拠点を作ることが重要だと考えています。フードバンクふじさわのように活動ができる団体が今後もっと増えていくために、冷凍食品のフードバンク活動の価値を広め、全国で「うちのフードバンクでも冷凍食品を扱いたい」という声が自治体を動かすことを期待しています。

(公益社団法人フードバンクかながわ/理事 萩原妙子さん)

【事業基礎情報】

実行団体
NPO法人ぐるーぷ藤
事業名

フードバンクふじさわ等冷凍食品物流・保管機能の強化支援事業(2023年度緊急枠)

活動対象地域
神奈川県藤沢市
資金分配団体
公益社団法人フードバンクかながわ

採択助成事業

神奈川県及びその周辺の食支援ネットワーク発展のために

コロナ禍による入国規制の解除後、日本で難民認定を申請する外国人が増えています。申請中で在留資格のない外国人は就労できず、公的支援も受けられないため、生活が困窮し、精神的にも追い詰められる傾向にあります。こうした難民認定申請者や非正規滞在者を支援するため、2023年度の休眠預金活用事業(緊急支援枠、資金分配団体:NPO法人青少年自立援助センター)による緊急人道支援を行っているのがNPO法人アクセプト・インターナショナルです。同団体は国内外で紛争や人道危機、社会的排除などの問題解決に取り組んでいます。今回は、団体の活動やその背景などについて、代表理事の永井陽右さん、国内事業局 局長の吉野京子さんを中心にお話を伺いました。

ソマリアから始まった「平和の担い手」を増やす取り組み

アクセプト・インターナショナルは「誰しもが平和の担い手となり、共に憎しみの連鎖をほどいていく」ことを目指し、世界の紛争地や日本で活動する団体です。2011年、大学1年生だった永井陽右さんは、世界で最も深刻な紛争国の一つとされていたソマリアの惨状を知り、「このまま見過ごしてはいけない」との思いから、仲間とともに活動を開始しました。

当時のソマリアは、頻発するテロや紛争によって貧困や飢餓が深刻化し、2年間で約26万人もの人々が命を落としていました。それにもかかわらず「危険すぎる」「解決策がない」からと、世界から見放されている状況に「そんな理由で支援が届かないのはおかしい」と強く感じた永井さん。「支援が必要とされているのに、難しさを理由に誰も手を差し伸べないのであれば、自分たちがやる」——その決意が活動の原点となっています。

永井さんたちはソマリアのテロや紛争を止めようと、若者が武装組織から抜け出し、社会復帰する支援を開始。2017年にはNPO法人アクセプト・インターナショナルを設立し、イエメンやケニア、インドネシア、コロンビア、パレスチナなど、世界の紛争地へと取り組みを広げていきました。

永井陽右さん(以下、永井)「テロリストの多くは、社会に居場所がないことや生活苦、脅迫などから武器を持たざるを得なかった若者たち。彼らを排除しても負の連鎖は終わりません。私たちが目指すのは、彼らが本来の若者らしく希望を持って生き、私たちと一緒に平和な世界をつくっていくことです」

団体設立の背景についてお話しされる永井陽右さん
団体設立の背景についてお話しされる永井陽右さん

海外での経験を活かし、日本でも「難しくて取り残されている問題」に着手

海外の経験を活かして日本でも「解決の担い手がいない難しい問題」に取り組もうと、2020年からは国内事業も開始。コロナ禍で海外事業の継続が困難になった時期とも重なり、国内の課題にあらためて目を向けるようになりました。現在は主に、非行少年の更生支援と、在日ムスリム(イスラム教徒)を中心とした在日外国人支援の2つの事業を展開しています。

非行少年の更生支援では、とくに社会の受け入れが難しい、重い犯罪に関与した若者の社会復帰を支援。相談支援をはじめ、社会復帰を後押しするための社会定着支援、居住支援、生活支援を実施し、さらに、啓発や教育の一環としてオンラインゼミも開講しています。

在日外国人支援では、日本社会におけるムスリムへの理解不足や文化の違いなどから、在日ムスリムが孤立しやすい現状をふまえ、とくにコロナ禍で生活が困窮している在日ムスリムを支援。現在もイスラム教徒が食べることができる「ハラル食品」の提供や生活相談、在日ムスリムによる共助ネットワークづくりなどを行っています。

「海外事業も日本事業も、つまるところは、課題を抱える当事者が社会の一員として主体的に生きていくための伴走支援。本質は変わりません」と永井さん。海外事業でテロの加害者だった若者と向き合ってきた経験が非行少年の更生事業に、多くのイスラム教徒と活動してきた経験が在日ムスリム支援に活かされるなど、これまでの知見が国内支援でも活かされています。

休眠預金を活用し、行き場のない難民認定申請者に緊急支援を実施

国内に活動を広げる中、コロナ禍が明けると、在日外国人からの相談にある変化が生じます。入国規制の解除にともない日本への入国者数が増え、それに比例して、難民認定申請者や非正規滞在者など在留資格が不安定な外国人からの食料や住居を求める相談が急増しました。それまでは定住している在日外国人からの相談が大半を占めていましたが、相談者も相談内容も大きく変わったのです。長年にわたり難民支援に携わってきた吉野さんは、その背景をこう説明します。

吉野京子さん(以下、吉野)「難民認定申請者は、紛争や迫害などさまざまな事情から逃れる中、たまたま日本の観光ビザを取得して日本へ来たという方がほとんど。入国後に難民申請するものの、その多くは難民認定がおりないまま、在留資格がない状態で日本に留まることになります。在留資格がなければ行政サービスを受けられず、国民健康保険にも加入できず、働くこともできないため、生活は困窮し、路上生活に追いこまれる人も……。収入がなく、行政の支援にもつなげられない彼らを、民間の支援団体や個人だけで支えるのには限界があり、支援から取り残されていたのです」

難民認定申請者が直面する課題や、支援の必要性について説明する吉野京子さん
難民認定申請者が直面する課題や、支援の必要性について説明する吉野京子さん

「これは自分たちがやるべき問題」と判断したアクセプト・インターナショナルは、 NPO法人 青少年自立援助センターが公募していた2023年度緊急支援枠の休眠預金活用事業に申請。これに採択され、難民認定申請者と非正規滞在者に向けた緊急人道支援事業を始めます。具体的には、食料物資の支援や、一時的に住む場所を確保する緊急居住支援、日本語教育、利用できる支援サービスへの橋渡しなどです。また、アウトリーチの手段として、世界で普及しているメッセージングアプリの「WhatsApp」を活用。これにより、支援情報が瞬く間に拡散し、短期間で多くの支援を必要とする外国人にリーチすることができました。

取材時点(2025年1月28日)で、相談登録者は約170名。フードパントリーやWhatsAppを通して相談者のニーズを聞き取り、それぞれが必要とする支援を届けています。イスラム教徒にはハラル食品を、フルーツが必要な人にはパイナップルやミカンなどの缶詰を、自分で料理をしたい人には小麦粉や豆、オイルなどの食材を提供するなど、個々の希望に寄り添った支援を実施。食料以外にも、子どもがいる家庭には成長に合わせた衣服を、女性には生理用品を配るなど、生活状況に応じたきめ細かなサポートを行っています。

吉野「こちらが良かれと思って送った食料でも、相手にとってはそうではないことが何度かありました。そんなときは、『何か別のものが必要だったのかな?』と考えるようにしています。可能な限りどんなものが必要かを聞き取ることで、本当に必要なものを知ることができ、相手も『受け止めてもらえた』と安心してもらえます。その安心感が、信頼につながりますから」

イスラム教徒が安心して食べられる「ハラル食品」の提供を含む食料物資支援を実施
イスラム教徒が安心して食べられる「ハラル食品」の提供を含む食料物資支援を実施

日本語を学びたいというニーズも高く、希望者には週1回、1人30分のオンライン日本語教室を実施。授業を担当するメルテンス甲斐さんは、単なる言語学習にとどまらず、コミュニケーションの場としての役割も大切にしています。

メルテンス甲斐さん「家族友人と遠く離れ、コミュニティから隔絶された生活を送る受講者にとって、授業は人とつながることのできる数少ない機会です。雑談を交えたり、生活相談を受けたりすることで、少しでも孤立感の解消につながればと思っています」

一方、「相談を待つだけでなく、こちらから能動的にアプローチすることも大切」と話すのは、食料物資支援を担当する冨山里桜さん。 

冨山里桜さん「相談者の中には、特にムスリマ(イスラム教徒の女性)のように、宗教的な背景や文化的な要因、周囲に頼れる人が少ないことなどから、支援を必要としていても声をあげられないケースもあります。実際、WhatsAppで連絡がつかないので訪問してみると、電気もガスも止まっていたという母子家庭のケースがありました。そうした方たちも取り残さないよう、こちらからこまめにコンタクトを取ることでフォローし、支援につなげるようにしています」

社会参加を通じて未来を切り開く支援のかたち

日本では難民認定率が低く、多くの難民認定申請者が中長期の展望を持ちにくい状況にあります。そんな中、「今回の事業では、まずは緊急支援として、難民認定申請者が人間として最低限の尊厳を保てることを第一の目標にしています」と吉野さん。その上で、専門家と連携し、相談者自身も交えて中長期的なプランを話し合い、日本で安定した生活を送るための法的支援も行っているそうです。また、在留資格がない外国人の子どもでも学校に通える制度を活用し、自治体と交渉して就学機会を確保するなど、今できる支援を重ねながら希望をつなげています。

こうした相談者のニーズを満たす支援だけでなく、相談者の主体性を促すはたらきかけも大切にしています。例えば、ガーナ人の青年に「公園で寝て過ごしているなら、うちへ来たら?」と事務所に誘ったところ、メンバーと一緒に食料物資支援の整理や荷物運びをするように。最初はほとんど口をきかなかったのが、今やアクセプト・インターナショナルの頼もしいメンバーになっているのだそうです。

永井「ボランティアでも小さいことでも、社会に参加することに大きな意義があります。困難な状況にある彼らだからこそ、できることがたくさんあるはず。その可能性に光を当て、引き出していくことも私たちの役割です。彼らが参加できる場をたくさんつくって、新たなステップにつながる機会を少しでも多く提供していきたいですね」


ホームレス状態にある人々への食料支援の様子
ホームレス状態にある人々への食料支援の様子

休眠預金活用事業をきっかけに生まれた3団体の連携

アクセプト・インターナショナルがこの事業を通じて得られた大きな成果の一つが、団体同士の連携です。同時期に休眠預金活用事業の実行団体として採択されたのを機に、Mother’s Tree Japan、つくろい東京ファンドの2団体とつながり、思いがけない強力な支援ネットワークが生まれました。例えば、路上生活をしていたムスリマの妊婦のケースでは、Mother’s Tree Japanが出産可能な病院を探し、イスラム教の文化に配慮して女医を手配。つくろい東京ファンドが居所を確保し、アクセプト・インターナショナルがハラル食品の提供を実施しました。各団体の専門性を活かした支援が迅速に展開され、適切なサポートを提供することができたのです。

吉野「自分たちが不得意なところは、得意な団体にお任せする大切さを改めて学びました。今も3団体で情報を共有しながら、連携を深めています」

「後進の育成」も今回の事業を通じて得られた大きな成果です。日本では難民支援の経験者が少ない中、今回の事業を通して若手メンバーが多様なケースを経験し、実践を積む機会を得ました。

吉野「若手メンバーが現場での経験を重ねることで、知識やノウハウをしっかり継承できました。今では、自ら判断し行動できるまでに成長し、今後のさらなる支援につながると期待しています」

アクセプト・インターナショナルは事業終了後も、当事者が中長期の展望を持てるよう、可能な限りバックアップを継続。「平和の担い手を増やす」活動として、テロ・紛争に関わる若者を保護する活動に加え、在日ムスリムのネットワーク強化など、国内外の活動に引き続き力を入れていきます。

永井「私は、テロリストも非行少年も、在日ムスリムも難民もみんな、社会の担い手、平和の担い手になれると心から思っています。これからも彼らに伴走し、その可能性を探り続けていくとともに、まだアプローチできていない『解決の担い手がいない難しい問題』にもチャレンジしていきます」


取材に対応してくださった、アクセプト・インターナショナルのメンバー。左から冨山さん、吉野さん、永井さん、メルテンスさん
取材に対応してくださった、アクセプト・インターナショナルのメンバー。左から冨山さん、吉野さん、永井さん、メルテンスさん

■資金分配団体POからのメッセージ
アクセプト・インターナショナルの強みは、「難しい問題こそ自分たちがやる」という高いプロフェッショナル意識と、海外で培った独自のノウハウにあると考えています。今回その強みを活かし、既存の支援団体では対応が難しかった在留資格が不安定な在日外国人への支援が可能になりました。また、私たちが資金分配団体を務めるにあたり重視していたのが、団体同士のつながりです。実際に実行団体間の連携が生まれ、情報共有も進んだことは、大きな成果の一つです。今後さらに、さまざまな強みを持つ団体同士の連携が進み、支援の輪が広がることを願っています。

(NPO法人 青少年自立援助センター YSC Global School/浅倉みさきさん)

【事業基礎情報】

実行団体
特定非営利活動法人 Accept International
事業名

難民認定申請者及び非正規滞在者への緊急人道支援事業(2023年度緊急支援枠)

活動対象地域
東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県
資金分配団体
特定非営利活動法人 青少年自立援助センター

採択助成事業

急増する「海外にルーツを持つ子育て家庭・若者・困窮者」緊急支援事業

今回の活動スナップは、一般社団法人ローランズプラス(資金分配団体:READYFOR株式会社)。休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」の制作にご協力いただきました。シンポジウム用の動画ではご紹介できなかった動画を再編集し、撮影に同行したJANPIA職員のレポート共に紹介します。””””

活動の概要

一般社団法人ローランズプラスは、原宿でフラワーショップとカフェを運営しています。勤務しているスタッフ60名のうち45名が、障がいや難病と向き合いながら働いていることが特徴です。

さらに中小企業の障がい者雇用促進の取り組みを広げるために、2020年に休眠預金を活用した事業を実施。障がい者雇用の算定特例制度を活用し、複数の中小企業と福祉団体が連携して障がい者の共同雇用を行う仕組みを整えて、事業を開始しました。1社単独ではハードルが高い障がい者雇用を、複数企業と福祉団体が連携することで実現するモデルとして注目されています。

活動スナップ

撮影に同行したJANPIA職員のレポート

カラフルな花に囲まれたカフェ・フラワーショップ「ローランズ」。ひとりでも気軽に入れる雰囲気で、お花やグリーンの鉢植えに囲まれて幸せな気持ちでランチやスイーツを楽しむことができます。フルーツサンドやスムージーなどのメニューは、思わず写真を撮りたくなるかわいらしさです。

併設されたフラワーショップには彩り豊かなお花がならび、スタッフがアレンジメントを手際よく制作しています。リーダーの高橋麻美さんは、ローランズで働き始めて6年目です。

スタッフミーティング中の高橋麻美さん]

「もともとお花が好きで、ハローワークで求人を見て応募しました。とはいえ、大学を卒業してから病気のことで入退院を繰り返していたので働いた経験がなく、障がいがあるので、入社前は仕事を続けられるか不安でした。

今ではローランズで他のスタッフと一緒に力を合わせて働くのがとても楽しく、やりがいを感じています」

高橋さんの働く姿を撮影!スタッフは、ZAN FILMSの本山さん、明石さん

高橋さんのように障がいや難病と向き合うスタッフがいきいきと働くローランズには、障がい者雇用のノウハウが蓄積されています。そのノウハウを、障がい者雇用に困難を感じる中小企業に共有し、障がい者を共同で雇用する仕組みを構築する新規事業をスタートするために、休眠預金等活用事業を活用しました。

ここまでの成果として、2022年4月までに6社と連携し、16名の新規雇用を生み出すことに成功。今後は新たに70名を共同雇用する予定です。

ローランズ代表の福寿満希さんは、障がい者雇用のニーズの高まりとは反比例して、コロナ禍での新規事業の立ち上げに大きな不安を抱えていたと話してくれました。

インタビュー中の、福寿満希さん

「新しいことに踏み出すときはとてもエネルギーが必要で躊躇していたのですが、資金分配団体の伴走支援があったおかげで、1歩を踏み出すことができました。常にタスクの優先順位を一緒に確認してくれたおかげで、計画どおりに進められています。

今後は、東京で立ち上げた障がい者の共同雇用のモデルを地域に展開し、地域の中小企業が障がい者雇用に踏み出すお手伝いをしていきたいです」

ローランズが目標として掲げるのは、「多様なひとが一緒に働ける彩り豊かな社会」。実現のために、これからは東京から地方へと、そのノウハウと仕組みを広げていきます。

【事業基礎情報】

実行団体一般社団法人 ローランズプラス
事業名ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業
活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業新型コロナウイルス対応緊急支援事業
〈2020年度緊急支援枠〉

社会的規範への意識が低く、「非行少年」と呼ばれる未成熟な子どもたち。一度、社会のルールから外れてしまうと、日本のシステムにおいては、少年たちに繊細なサポートが行き届かない現状にあります。そんな彼らに手を差し伸べ、「就労支援」という形で立ち直りへの足掛かりをつくっているのが、2019年度通常枠(資金分配団体:更生保護法人 日本更生保護協会)の実行団体である「認定特定非営利活動法人 神奈川県就労支援事業者機構」です。今回は就労支援の現場に伺い、再犯防止にもつながる就労支援の活動を始めたきっかけや事業内容について、事務局長・竹内政昭さんと協力事業主の青木工務店代表・青木哲也さんにインタビューしました。

木の香りに包まれる建具づくりの就労体験で、時おり笑顔も

爽やかな木の香りに包まれる製作所で無心に鉋(かんな)をかける少年。まだ成長過程かと思われる華奢な体で、初めて触れたという鉋に体重をかけ、丁寧に細木を削っています

ここは、青木工務店(神奈川県大和市)の中にある建具製作所。少年は家庭裁判所から神奈川県就労支援事業者機構に推薦され、職場体験に来ています。この事業での職場体験とは、非行少年が企業等での職場体験を通じて、人や社会に触れ合うことの喜びを知り、立ち直りのきっかけをつくることを目指す活動です。具体的には、少年たちを興味ある分野の職場で2日間実際に体験してもらいます。肌に合えばそのまま就職したり、別の職場を紹介してもらったりしながら、職場体験が社会への第一歩を踏み出すきっかけになります。

今日の少年は建築大工と造園に興味があるといい、青木工務店が受け入れました。ここではまず、鉋を使って自分の箸をつくるよう指導します。最初は緊張ぎみだった少年も、指導員や立ち合い人の竹内政昭さん(認定特定非営利活動法人神奈川県就労支援事業者機構 事務局長)に筋の良さを褒められると、はにかむような笑顔を見せるようになりました。その後も時間をかけて何度も削り直し、やがてただの小さな木材は丁寧な作業によって美しい箸に変わります。引き続き、建具に入れ込む組木細工をやってみるかと問われ、小さくうなずきました。

研修後、自らの手で仕上げた数本の箸と十文字の組木細工を手にした少年は、職場体験の感想をとつとつと、しかし自信を感じる声で話してくれました。「最初は簡単かと思っていたけど、やってみたら難しくて不安になりました。どんなふうに力を入れたらいいかを考えながら、自分なりに発想を広げてやってみました。いろいろな考え方を持つことができた気がします」。

少年が作った箸と細木細工
少年が作った箸と細木細工

そう話す少年のそばには、これまで家庭裁判所から少年の職場体験の推薦を受けてからずっと寄り添って話を聞き、励ましてくれた竹内さんがいます。その大きな安心感があったからこそ、少年は研修での学びを前向きに考えられるようになったのかもしれない、と感じるひとコマでした。

人手不足が深刻化する建設業界に光をもたらす、就労支援活動への協力

少年を受け入れた青木工務店は、神奈川県大和市で100年の社歴があります。その4代目
代表取締役を務める、青木哲也さん。人手不足が進む昨今の建設業界にあり、青木さんもまた担い手不足に悩んでいました。7~8年前、顧客だった保護司※に大工見習が集まらないことを話したところ、非行少年たちの立ち直り支援活動の一環として「就労支援」という活動があることを聞きます。青木さんは早速、非行少年の就労を受け入れる「協力雇用主」として登録。ここから、青木工務店による就労支援活動への協力が始まりました。

<保護司>犯罪をした者や非行少年の社会復帰を助けるとともに、犯罪予防の啓発に努め、安心・安全の地域社会づくりに貢献することを使命としている。

青木さんは笑顔で想いを語ってくださいました。
青木さんは笑顔で想いを語ってくださいました。

「誰かを救いたいとか、社会貢献などと崇高な意識を持っているのではなく、建築大工の不足を考えてのこと。一人でもこの職業に興味を持ってもらえればと思って、協力態勢を整えただけのことです」と笑う青木さん。

ものごとを色眼鏡で見ない性格、とご自身を評するように、青木さんは誰に対してもニュートラルな姿勢で気負いがありません。

少年たちを受け入れるときに青木さんが最も注意しているのが、「観察」と「声かけ」です。
「これまで少年たちを見てきて分かったのですが、彼らの多くは自尊心が非常に低くなっています。自己肯定感がないので、ちょっとしたことで傷つき、自分を見失ってしまうんですね。職場体験後、入社してくれても先輩や親方に叱られただけで、突然寮からいなくなるケースは少なくありません」

少年たちは周りの大人との出会いに恵まれていないことが多く、自らSOSを出すことが難しい状況にあるケースも少なくありません。困ったときに誰かに相談して解決策を見出すのではなく、そこから逃げることを選んでしまうのです。そのため青木さんは、日ごろから少年たちの表情や声の調子、立ち居振る舞いを観察し、今の状態を把握しています。困っていそうな子にはさりげなく声をかけて励まし、相談のきっかけをつくることもあるのだとか。

「私は以前、子どもを病気で亡くしているんです。だから少年たちには、健康で生まれてきたのに人生を無駄にしてほしくない。その命を社会で守り、生かしてあげたいと思うんです。モノづくりは成果が目に見え、やりがいも大きい。職人の世界は厳しいけれど、技術を身につけるととても面白いので、ぜひ興味を持って臨んでほしいですね」と青木さん。辛い体験を通して感じてきた少年たちへの深い思いを、ちらりと覗かせてくれました。

少年たちに居場所を用意し、再犯防止と健全な社会づくりの一助としたい

青木工務店に就労支援への協力を依頼しているのは、認定特定非営利活動法人神奈川県就労支援事業者機構です。事務局長である竹内さんは、かつて法務省の保護観察所に勤務し、業務の中で非行少年らの生活指導にも携わっていました。しかし、就労支援に関しての業務はなく、これまでは保護司が個人的に知り合いの経営者などに頼み込んで雇ってもらうという形が主流でした。

竹内さんは就労支援の重要性について、穏やかな熱意を込めて話してくれました。 「保護観察所にいたとき、個人が動ける範囲でしか就労支援ができない状況を残念に思っていました。少年たちには家庭的な問題や経済的事情を抱えているケースが多く、それが原因で道を踏み外すことになります。善良な大人のいる職場で仕事と健全な居場所をつくり、経済的に自立させることができれば、彼らはきっと立ち直れるはずなんです」 そんな思いが形となったのは2009年。全国就労支援事事業者機構から保護観察所や民間更生保護団体への働きかけ、設立事務に関する助言などの協力を得て、「神奈川県就労支援事業者機構」が設立されました。竹内さんも立ち上げから携わっています。
少年から作った箸の報告を受ける神奈川県就労支援事業者機構 竹内さん

竹内さんは就労支援の重要性について、穏やかな熱意を込めて話してくれました。 「保護観察所にいたとき、個人が動ける範囲でしか就労支援ができない状況を残念に思っていました。少年たちには家庭的な問題や経済的事情を抱えているケースが多く、それが原因で道を踏み外すことになります。善良な大人のいる職場で仕事と健全な居場所をつくり、経済的に自立させることができれば、彼らはきっと立ち直れるはずなんです」 そんな思いが形となったのは2009年。全国就労支援事事業者機構から保護観察所や民間更生保護団体への働きかけ、設立事務に関する助言などの協力を得て、「神奈川県就労支援事業者機構」が設立されました。竹内さんも立ち上げから携わっています。

<全国就労支援事業者機構>経済界全体の協力により、罪を犯した人への就労支援などを行い、安全で安心な社会づくりに貢献するNPO団体


立ち上げ当初から神奈川県就労支援事業者機構では、罪を犯した人や非行少年らの雇用に協力してくれる会社と連携し、罪を犯した人たちの就労を支援していましたが、川崎市で起こった中学生殺害事件を契機に、少年たち、取り分け非行の芽が小さな少年には、他の関係機関からも支援の手が届かないでいたことから、そうした少年にも支援を広げようと思うようになります。
「スタッフたちと自己資金で回す覚悟をしていたところ、休眠預金活用事業を知り、申請をしました。」

休眠預金活用事業の資金分配団体である日本更生保護協会からの助成を受け、2019年、無職の少年らに希望する職種で仕事の体験ができる職場体験活動と就職後も長く働けるように行う職場定着活動の2つの事業を立ち上げることができました。

職場体験は15歳~20歳の少年を対象に実施しており、1日3~4時間程度の作業に2日間就いてもらいます。業種は幅広く、建築関係から農業、介護、理美容など多岐にわたります。たとえ就職につながらなくても、少年たちにとって職場の空気に触れることが、社会に出るきっかけになります。たとえば保育園の補助を体験して保育士に興味を持てば、資格を取るため学習意欲が湧き、学校へ戻ることもあるでしょう。大事なのは、職場体験を通じて働く喜びや社会と触れ合う意義を知ることなのです。

就労支援に参加してくれる協力雇用主は、竹内さんらが個別に訪ねて開拓してきました。現在800社を超えるのですが、本事業の「非行少年の職場体験活動」にご協力いただいているのは現在40社ほどです。これまでに職場体験を通じて、ひきこもりの少年が職場体験から外に出られるようになったり、農業を選んだ少女が派手なつけ爪を外し、就職先の農場で日焼けしながら働いていたりするそうです。少年たちを気にかけて様子をうかがってきた竹内さんは、「こういう子が心を取り戻してくれるのを見るのが何より嬉しいです」とにっこり。

協力雇用主との折衝は、竹内さんが最も留意するところです。代表者だけが就労支援について理解していても、職場で指導する社員や同僚に理解がないと禍根を残します。そのため、協力雇用主との打ち合わせの際は、少年への接し方から指導にあたる社員の対応、雇用した場合の注意点など細かいアドバイスを欠かしません。

神奈川県就労支援事業者機構では、就労支援活動で少年が無事に就職ができた場合、1年後と3年後に調査し、1年続いたら会社へ、3年続いたら少年に記念となるものを渡すといいます。「1年はその会社の努力によるもの、3年も続くのは本人の努力によるものだから、それぞれの記念になればと思って」と竹内さん。

陰となり日向となり、少年の更生に力を尽くしてくれる大人がいることが、少年たちの未来への強い支えになっていくことを願ってやみません。


【事業基礎情報】

実行団体認定特定非営利活動法人 神奈川県就労支援事業者機構
事業名無職・非行等少年の職場体験・職場定着事業
活動対象地域神奈川県
資金分配団体更生保護法人日本更生保護協会
採択助成事業

安全・安心な地域社会づくり支援事業

草の根活動支援事業・全国ブロック〈2019年度通常枠〉


2021年11月 横浜市金沢八景に「横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち」が誕生しました。多くの人たちの想いが重なった誕生までの道のりをご紹介します。
休眠預金活用事業の実行団体である、認定NPO法人オーシャンファミリーでは、昨年から障がい児等を対象とした「海遊びプロジェクト」を開始。

深刻な社会課題とされる「不登校」「いじめ」「ひきこもり」。その当事者に対する支援は、あらゆる場所で必要とされています。2020年度緊急支援枠・資金分配団体である神奈川子ども未来ファンドの 「子ども・若者支援事業新型コロナ対応助成」で採択された『農園を活用した子ども・若者支援事業』を実施する実行団体「特定非営利活動法人 子どもと生活文化協会(CLCA)」(神奈川県小田原市)は、地域の豊かな自然を生かして、それらの課題に向き合っています。今回は子どもと生活文化協会の元会長であり、現顧問の和田 重宏(わだ しげひろ)さんに、その事業に込めた思いを伺いました。”

体験でしか得られないものを子どもたちに

「子どもたちと大人が対等な立場で様々な活動を展開し、子どもがいかなる環境に置かれてもたくましく生きていく力を身につけてほしい」という考えのもと、1992年に設立された『子どもと生活文化協会(CLCA)』。まだ子どもたちの社会教育の場が少なかった当時、学校教育に週休2日が導入された際に子どもたちの休日の生活の受け皿として発足しました。
和田さんのお父様が戦前に創設された生活寄宿塾「はじめ塾」の一時的共同寄宿生活による教育を受け継ぎ、CLCAは体験型活動を重視しています。

お話を伺ったCLCA顧問の和田 重宏さん

「昭和は専門化された社会で、その分断は様々な問題を引き起こしてきました。わかりやすいのが医療です。医療の進歩とともに、眼科・心臓外科など専門ごとに細分化していきました。核家族化なども分断の一例です。そのような分断はありとあらゆるところで起きていました。では分断を繋ぐものは何なのかと考えたとき、私たちはそれらを繋ぐものは「生活」だろうと考えました。生活はあらゆる分野を含んでいますから。
「昭和は専門化された社会で、その分断は様々な問題を引き起こしてきました。わかりやすいのが医療です。医療の進歩とともに、眼科・心臓外科など専門ごとに細分化していきました。核家族化なども分断の一例です。そのような分断はありとあらゆるところで起きていました。では分断を繋ぐものは何なのかと考えたとき、私たちはそれらを繋ぐものは「生活」だろうと考えました。生活はあらゆる分野を含んでいますから。

もう一つ大切なのは、体験型活動の必要性です。今の子どもたちの生活には動画やゲームなど、バーチャルな世界が多くなっています。つまり子どもたちは体験不足の状態です。また今の教育では「よく考えなさい」と教えるが、「考える」だけでは足りません。考えて、行動を起こす「決断力」が大切なのです。しかし「決断する力」は教えることが難しく、体験の中でしか体得できないと考えています。ですから私たちは、体験でしか得られないものをCLCAで提供したいと考えました。」(和田さん)

今の教育には考えを行動に移す「決断力」を身につける過程が抜け落ちがち。それを補うのが自然を通した生活体験活動なのでは、と和田さんは語ります。

若者と大人の信頼関係を、「体験活動」を通じて再構築

CLCAの活動は、子どもたちとその家族を対象とした「親子体験型食育菜園」や「山の生活体験合宿」、不登校やいわゆる「ひきこもり」の若者の相談窓口やカウンセリングなど多岐にわたります。働く意思のある若者の就業支援をする「サポートステーション」も運営していますが、そのような若者は、ひきこもり状態の若者の数からすると氷山の一角とのこと。現在は、長期にわたって不登校・ひきこもり状態にある若者たちへの支援に多くの時間を割いています。

「ひきこもりや不登校の根っこは一つだと思っています。それは、親や大人、世の中への不信感が非常に強いということです。ですから、まずは「ひきこもる時間も、あなたにとって必要な時間だったよね」など若者たちの存在を肯定し受け止める。そして相談に応じてもらえるように働きかけます。しかし相談だけでは、解決しないことを我々も体験的に知っています。
そこで、コロナ禍でひきこもりなどの社会課題がより深刻化していることをきっかけに、休眠預金を活用して、これまで主に子どもたちとその家族向けに行っていた農園活動と「ひきこもり」の若者たちの支援を結び付けることにしました。これは、これまでもやりたいと思っていてなかなかできていなかったことですが、ようやっと実現できました。

農園の入り口には休眠預金活用事業の事業名の看板も(右側)

これにより面談室のような閉じた空間で話をするだけではなく、彼らが望めばいつでも農園のような場で生活をして、体を動かす実体験を積むことができるようになりました。若者たちは、自然から生きるエネルギーを感じながら、周囲との信頼関係を再構築しています」(和田さん)
これにより面談室のような閉じた空間で話をするだけではなく、彼らが望めばいつでも農園のような場で生活をして、体を動かす実体験を積むことができるようになりました。若者たちは、自然から生きるエネルギーを感じながら、周囲との信頼関係を再構築しています」(和田さん)

対等で分け隔てのない活動を通して、周囲に貢献する喜びを

最近、教育の分野において「インクルーシブ(当事者を含めた)」という言葉を耳にしますが、それはまさにCLCAで重視していること。

「今の福祉行政では、『支援をする側』と『支援を受ける側』とが分かれていますが、私たちの活動では、両者が混在しています。もちろん名札はつけていますが、ぱっと見て誰がひきこもりや不登校の経験者で、誰がボランティアなのかはわかりません。そこに参加している方々はみんな対等です。」(和田さん)

今回の事業も、たくさんのボランティアさんや当事者を抱えた家族がかかわっており、ひきこもりや不登校の若者を社会から隔離してトレーニングするのではなく、社会そのものの中で対等なコミュニケーションが持てるようになることに重点を置いて実施しているとのことです。

農園活動の様子。様々な年代の方が一緒に活動しています。
農園活動の様子。様々な年代の方が一緒に活動しています。

「ひきこもり経験者で農園活動をしている若者に、『君は今、支援を受けている側なの?どう思う?』と聞いたんです。すると彼は『今僕には人の役に立っている実感があるので、ここに来たら自分が支援を受けているという意識はあまりないんです』と語ってくれました。これはとても大事なことだと思います。
このように若者たちが農園での活動を通して、自分の役割を見つけ、周囲から頼られ、やりがいを実感する。2020年11月からこの休眠預金活用事業を始め、休むことなく参加してくれた若者の就労に結びついたり、不登校だった児童が学校に通えるようになったりと、活動の成果も現れ始めています」(和田さん)

専門性の高い相談員の育成など活動の継続に向けての課題は多いとのことですが、それらの課題も経験豊かなボランティアの皆さんの力を借りながら解決の糸口を探し、着実な活動を進めているCLCA。これからも活動を通じて、多くの子どもや若者たちの「小さくも大きな一歩」を応援し続けていきます。

■休眠預金活用事業に参画しての感想は?
今回の活動が休眠預金活用事業だということがきっかけで事業に興味を持って頂き、そこから参加に至ったケースが数件ありました。新たな方々の参加につながったことは、よかった点ですね。また、休眠預金活用事業では、細かい対象者の指定がなく、これにより我々が自由度をもって活動を組み立てることができたことが有難かったです。(和田さん)

■資金分配団体POからのメッセージ
元ひきこもりの青年たちが農園に出てきて、伴走支援をするボランティア・子育て中のお母さん・地域の子どもたちと共に農園体験をする。ただそこから更に就労に繋げるのは本来とても難しいこと。にも関わらずそこまで道筋をつけてくれているCLCAさんの活動は、本当に素晴らしいものです。(特定非営利活動法人 神奈川子ども未来ファンド)

【事業基礎情報】

実行団体
特定非営利活動法人 子どもと生活文化協会(CLCA)
事業名
農園を活用した子ども・若者支援事業
活動対象地域神奈川県
資金分配団体特定非営利活動法人 神奈川子ども未来ファンド
採択助成事業

『子ども・若者支援事業新型コロナ対応助成』

〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉