メディア向け報告会「能登半島地震支援団体、地元団体からの緊急発信:被災者支援と復興への道筋」を開催しました

1月15日、一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)は「能登半島地震支援団体、地元団体からの緊急発信:被災者支援と復興への道筋」と題して、メディア向け報告会を開催いたしました。昨年末より、JANPIAでは同日に別テーマでの「メディア懇談会」を開催する予定で準備を進めていました。そのような中、元日に起きた令和6年能登半島地震を受けて、急遽テーマを変更して開催したものです。その内容の一部を紹介いたします。 なお、本報告会では、評論家でラジオパーソナリティーでもある荻上チキさんが進行を務めました。”

「能登半島地震における被災者支援と復興への道筋」

【登壇者】
・認定NPO法人ジャパン・プラットフォーム 地域事業部部長 藤原 航 さん
・NPO法人ワンファミリー仙台 理事長 立岡 学 さん
・NPO法人YNF 代表理事 江﨑 太郎 さん

資金分配団体であるジャパン・プラットフォーム(JPF)の実行団体であるワンファミリー仙台とコンソーシアムを組むYNFは、「防災・減災に取り組む民間団体等への災害ケースマネジメントノウハウ移転事業 (2020年度通常枠)」のなかで、2023年5月に起きた奥能登地震による被災者の生活再建支援を進めるため、1月4日から石川県珠洲市に向かう予定でした。しかし、令和6年度能登半島地震発災を受けて急遽、珠洲市での緊急支援に入りました。

今回のメディア向け報告会では、JPFとワンファミリー仙台、YNFの3団体にそれぞれの立場から「能登半島地震支援団体、地元団体からの緊急発信:被災者支援と復興への道筋」をテーマお話いただきました。

甚大・頻発化する国内災害。行政と民間の力が必要

報告会では、まずJPFの藤原さんから、国内災害が年々甚大化・広域化し、地震や豪雨など含めて頻発化しているなか、もはや行政の支援だけでは間に合わず、民間と行政と両方の力が必要になっているという状況について説明がありました。

「災害が頻発している一方で、防災や減災のソフト面の整備には、なかなかお金がつきにくいのが現状です。2020年度通常枠で採択された3年間の休眠預金活用事業によって、私たちは念願だった防災・減災に取り組むことができました。具体的には、避難所の運営ノウハウや被災者の個別支援、生活再建の方法、発災時の物流や在留外国人支援などに対して、災害リスクの高い地域での民間支援団体や自治体とともに体制の整備を進めてきたところです。能登半島地震でも残念ながらこうした課題が出ています」(藤原さん)

現在、JPFでは能登半島地震の被災者支援にあたって休眠預金や民間資金なども使いながら、「人命救助」「二次被害防止(物資やQOLの維持)」、「生活再建事業」の3つに取り組んでいます。そのなかで、いま必要とされている緊急的な支援を行いながらも、なるべく早くに長期的な支援を見据えた「生活再建事業」に着手することが重要になると藤原さんは訴えました。JPFは、実行団体であるワンファミリー仙台やYNFを通じて、被災者一人ひとりの状況に寄り添った支援を行う「災害ケースマネジメント」の被災地での適用を進めているところです。

「昨年7月に秋田で起きた豪雨災害でも、いまだに家屋が修繕できていない状況で暮らしている人たちがいます。能登半島地震でも、今後、被災地の報道がされなくなったあとに取り残されてしまう人たちが出てくることが懸念されます。そうならないように支援に取り組んでいきたいと思っています」(藤原さん)

JPF 藤原航氏
JPF 藤原航氏

「災害ケースマネジメント」で生活再建を支える

 ワンファミリー仙台の立岡さんからは、東日本大震災のときに被災者の仮設住宅への入居から転居までの長期にわたる支援に関わってきた経験から、能登半島地震の被災者の方々にとって必要になってくるのは「この先の見通し」であるというお話がありました。

「いま国でも進められている『災害ケースマネジメント』は、被災者一人ひとりの状況をしっかり把握して、その人に寄り添った生活再建を支えていく考え方です。能登半島地震はまだ緊急支援のフェーズではありますが、これから被災者が仮設住宅などに移っていく段階において、見守りや相談支援のセンター機能をつくり、きちんとした支援体制を構築していく必要があります」と立岡さん。

その際に厚労省の「被災者見守り・相談支援事業」を能登半島地震でバージョンアップしながら生かすことができるのではないかという提案もありました。

「被災地域では高齢化が進んでいるため、今回の避難によって人口減少がさらに進むのではないかという不安を抱えながら行政職員は支援にあたっている状況です。地域から人口を流出させない、街をなくさないという発想のもと、自力で広域避難している人たちへの自治体からの情報発信などのアプローチなども施策にしっかり入れていく必要があるだろうと思っています」

報告のなかで立岡さんは、これまでの災害から得た知見を活かし、「この先どうしたらいいのか」という不安を抱えている被災者への丁寧な情報発信や、避難所での生活を含めた被災者の状況把握、共通アセスメントシートによるデータの蓄積、行政部局を横断した連携など、生活再建までのきめ細やかな支援体制を整える必要性を強調しました。

NPO法人ワンファミリー仙台 立岡学氏
NPO法人ワンファミリー仙台 立岡学氏

関心が薄れていかないようメディアの力を

最後に、石川県珠洲市内で連日支援にあたっているYNFの江崎さんからは、現状についての報告をいただきました。

「いま感じている大きな課題は、断水や道路の寸断、雪などが原因となった生活環境の悪さです。避難所での食事の質も低く、冷たい床の上で高齢者が寝ている光景は珠洲市では珍しくありません。また、、南から北へ向かうルートしかない地理的状況ですべての道路が被災しており、『陸の孤島』での支援の難しさを痛感しているところです」

1月3日に珠洲市に入った江崎さんは、住民や役所の方たちが「これは長期戦になる」と口にしていたことが印象的だったと話します。その一方で、近年の災害では中長期的な支援が十分に行われてこなかったことを指摘。

「私たちの団体では、珠洲市で能登半島地震の支援をしながら、いまも福岡県久留米市で昨年7月に発生した豪雨災害の被災者対応を続けています。各地で災害が頻発していますが、官も民も支援体制がまだまだ足りていません。そうしたなか、休眠預金活用事業で、この3年間にわたって『防災・減災に取り組む民間団体等への災害ケースマネジメントノウハウ移転事業』を続けてきたおかげで、今回の能登半島地震では支援の初動がスムーズにできたと感じています」(江崎さん)

能登半島地震では一般のボランティアがなかなか入りにくい状況が続いていますが、江崎さんは「全国からの関心が過疎化を防ぐ一助にもなる。本格的にボランティアが入れるのは暖かくなる春以降ではないかと思いますが、それまでに皆さんの関心が薄れてしまうことを恐れています。どうぞ、そういったところでもメディアの皆様の力を貸していただきたい」と話し、報告を締めくくりました。

NPO法人YNF 江﨑太郎氏
NPO法人YNF 江﨑太郎氏

「令和6年能登半島地震 災害支援基金の立ち上げについて」

【登壇者】
・公益財団法人 ほくりくみらい基金(石川県) 代表理事 永井 三岐子 さん

ほくりくみらい基金は、全国コミュニティ財団協会(CFJ)が実施する休眠預金活用事業2021年度通常枠助成「地域の資金循環とそれを担う組織・若手支援者を生み出す人材育成事業」で採択され、石川県初のコミュニティ財団として2023年4月に設立された団体です。代表理事の永井さんから被災地や基金の現状、今後の支援についてお話をいただきました。

公益財団法人 ほくりくみらい基金 永井三岐子氏
公益財団法人 ほくりくみらい基金 永井三岐子氏

発災後、すぐに立ち上げた「災害支援基金」

2023年4月に設立された石川県初のコミュニティ財団「ほくりくみらい基金」ですが、設立後すぐに奥能登地震が起こり、その際にはボランティアのマッチングなど人と人をつなぐ支援を行いました。さらに設立から1年も経たない2024年の元日に起きたのが能登半島地震でした。

「理事メンバーのひとりが奥能登に住んでいることもあり、急いで安否確認をするとともに、周辺情報の収集を始めました。1月2日にはCFJと緊急会議を開き、被災地で支援活動を行うNPO等の団体を応援するための基災害支援基金を立ち上げました」と永井さん。

災害支援資金の呼びかけに対して、クラウドファンディングを通じて9日間で1000万円以上が集まり、1月12日には第1次緊急助成プログラムとして総額200万円の公募を開始。1月15日時点で8団体への助成が確定しました(※現在は第3次緊急助成プログラム募集が終了)。

「通常の助成では審査にある程度の時間をかけますが、今回は緊急のためスマホからも申請でき、審査をスピーディにして、申告者負担を減らすことを意識しました。申請から24時間で審査をして、各団体に最短3日で資金を届けています」

今回、ほくりくみらい基金が助成した各団体では、被災者への食事提供、炊き出し、ペット猫・地域猫の捕獲と保護、避難高校生の学習支援、被災地での子ども預かりと専門家による育児支援など、さまざまな支援活動を行っています。

「設立から間もない私たちが、震災から2週間ほどでこうした活動を実現できたのは、休眠預金活用事業の資金分配団体であるCFJや、その実行団体である各地のコミュニティ財団との連携があったからです」

中長期支援で市民団体と地域の未来をつくる

今回、地震によって被災したのが農林水産業や輪島塗といった、生業と生活が強く結びついた方が多い地域であることから、「避難によって自分の街を離れたら『もう戻ってこられないのではないか』という住民の不安や恐怖は大きい。そのなかで避難をお願いする行政側のつらさも非常に感じています」と永井さん。

今後に向けては、やはり「中長期の支援」の必要性を挙げていました。

「災害支援基金によって立ち上がった緊急支援は、被災者の『今』を助けるものですが、今後は私たちが助成・支援する市民団体のアンテナを通じて、どの地域がどんなフェーズにあるのかを的確に把握して支援していく必要があります。そして、今回支援に立ち上がった市民団体を支援・育成しながら支援ネットワークを構築し、一緒にこれからの地域の未来をつくっていくことが必要だろうと思っています」

休眠預金活用事業での能登半島地震への支援

今回の報告会では、いまだ緊急的な支援が必要な能登半島地震の被災地での現状とともに、今後の生活再建や地域復興を見据えた中長期的な支援体制を構築することの大切さや、継続的なメディア報道による支援の必要性が伝えられました。

JANPIAでは、2023年度「原油価格・物価高騰、子育て及び新型コロナ対応支援」の第5次募集において、能登半島地震の影響によって深刻化、顕在化した社会課題への緊急的な支援などを対象とした事業を採択しました。また、来年度以降は、通常枠において、生活再建や地域復興にむけた支援に関する資金分配団体などの申請を是非お待ちしております。

当日の様子

会場の様子
会場の様子

なお、今回の報告会では、登壇者の皆様に加え、メディア論をはじめ、政治経済やサブカルチャーまで幅広い分野で活躍する評論家で、ラジオパーソナリティーも務める荻上チキさんにもご協力いただきました。この場を借りてお礼申し上げます。

進行役を務めた荻上チキさん
進行役を務めた荻上チキさん

【事業基礎情報①】

実行団体

特定非営利活動法人ワンファミリー仙台

コンソーシアム構成団体
・特定非営利活動法人YNF

事業名

災害ケースマネジメントによる被災者支援事業

活動対象地域石川県、和歌山県、三重県、福岡県、秋田県
資金分配団体特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム
採択助成事業

災害ケースマネジメントによる被災者支援事業

2020年度通常枠〉(災害支援事業)

【事業基礎情報②】

実行団体

公益財団法人ほくりくみらい基金

事業名

当事者のエンパワーメントとコレクティブインパクトで作る課題解決モデル事業

活動対象地域石川県
資金分配団体一般社団法人 全国コミュニティ財団協会
採択助成事業

地域の資金循環とそれを担う組織・若手支援者を生み出す人材育成事業

2021年度通常枠〉(草の根活動支援事業

東近江・雲南・南砺ローカルコミュニティファンド連合(東近江三方よし基金、うんなんコミュニティ財団、南砺幸せ未来基金によるコンソーシアム)が、2023年7月10日に開催した、「ローカルな総働で孤立した人と地域をつなぐ」事業の成果報告会の動画です。

内 容


00:00:00 開会


00:00:12 開会挨拶


00:01:21 事業概要


00:07:50 11団体の事業報告


00:44:35 事業実施によって明らかになった事象や気付きに関する報告


00:56:10 本事業の特徴(JANPIAのプログラムオフィサーからの視点)


01:06:54 パネルディスカッション 「市域におけるコミュニティ財団と旧身預金活用」


01:47:09 閉会挨拶

主 催

公益財団法人 東近江三方よし基金 https://3poyoshi.com/

公益財団法人 うんなんコミュニティ財団 https://www.unnan-cf.org/

公益財団法人 南砺幸せ未来基金 https://www.nantokikin.org/

後 援

一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)

新潟県 村上市の「NPO法人都岐沙羅パートナーズセンター」は、設立から20年以上、地域の間をつなぐ中間支援組織として、多種多様なまちづくり事業をコーディネートしてきました。地域内の協働を促進する活動の根底にあるのは、次世代の「公」を追い求める姿勢。公のあるべき姿とは何か? よき“潤滑油”であるためには何が大切なのか? 休眠預金活用事業(コロナ枠)として採択されたフードバンク事業の事例をもとに、理事・事務局長の斎藤主税さん、事業コーディネーターの佐藤香さんにお話を伺いました。[コロナ枠の成果を探るNo.1]です。

「自力ではもう頑張れない……」。急増した食料支援のニーズ

1999年6月、新潟県の最北端にある村上市で、NPO法人都岐沙羅パートナーズセンター(以下、都岐沙羅パートナーズセンター)の母体は誕生しました。
行政、市民、NPO、企業の間に立ち、地域のあらゆる活動を支援する——中間支援組織の存在や必要性が、当時は十分に認識されていなかったものの、活動をスタートするや否や、地域から多種多様な要望が寄せられたと言います。

斎藤主税さん(以下、斎藤)「設立当初は世間の認知も低かった『コミュニティビジネス』の育成から、官民協働の事業のコーディネートをメインに担っていました。今では、住民参加型のまちづくりのコーディネートや観光系の事業など、さまざまな主体・分野・地域の間に立つ“地域密着型の潤滑油”として、地域にまつわる事業を幅広く手がけています

都岐沙羅パートナーズセンターの活動の様子
都岐沙羅パートナーズセンターの活動の様子

休眠預金活用事業に申請するきっかけとなったのは、2020年。新型コロナウイルスによる経済的なダメージが国内で声高に叫ばれ始めたころ、ここ村上市でも「経済的困窮者」が目に見えて増えてきたことが理由でした。

佐藤香さん(以下、佐藤)「市内の工業団地では失業が相次ぎ、あらゆる方面から『コロナで職を失った』という声が聞こえ始めました。離縁した相手が失業したことで、養育費が途絶えてしまったというシングルペアレントのご家庭もあって。『これまでも苦しい中でどうにか頑張ってきたが、自力ではもう限界』という人が、一気に増えた感覚がありました」

 斎藤さん(左)、佐藤さん(右) 
斎藤さん(左)、佐藤さん(右) 

コロナ禍で深刻化した社会問題に立ち向かうため、当初から官民を問わずに「地域ぐるみで何とかしよう」という機運は高まっており、“協働”以前に、各々が独自に動こうとする雰囲気があったと言います。

例として、民間からは生活困窮者に食料を支援する組織「フードバンクさんぽく」が立ち上がりました。しかし、行政からの支援はなく、地域内での物資調達に苦戦。企業とのタイアップで支援物資を集めている他地域のフードバンク組織から物資を分けてもらうも、その運搬だけで片道3時間かかる状況でした。

「『フードバンクさんぽく』は、ほぼ一人で運営されていたこともあり、地域内の調達の仕組みはもとより、組織基盤も整っていない状態でした。助成金の申請も検討したそうですが、手続きに労力がかかり、肝心の支援活動に集中できなくなってしまう。そこで、私たちが資金調達から支援に入り、地域内である程度の物資を賄える体制を構築することにしました

資金の調達先を探していたところ、2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成(資金分配団体:一般社団法人全国コミュニティ財団協会)の公募を発見。審査を経て採択されたのち、2020年12月から半年間にわたって、フードバンク事業を軸に生活困窮者への支援システムの構築に奔走しました。

徹底的な情報収集力、緊張感のある関係性が「協働」を後押し

都岐沙羅パートナーズセンターが注力したのは、地域内の“協働”を促進すること。コロナ禍での強まった地域内の助け合いの風潮と、独自に活動していた支援の点と点を線で結び、「生活困窮者への物資支援」を展開していきました。
「『フードバンク村上』が発足する前から、村上市では『フードバンクさんぽく』が活動していたんです。それぞれ支援の対象者は異なりますが、困っている人の力になりたい気持ちは同じ。ならば、両者が競合ではなく協働となるよう、双方の話し合いの場を設けて連携を仲立ちしました。物資の寄付集めはもちろん、集まった物資のシェア、訪問先の分担に連名での広報まで協力してできる体制を整えました」

このような“協働”を推進するコツは何なのでしょうか? 都岐沙羅パートナーズセンターの取り組みから見えてきたのは、徹底的な「情報の収集と共有」です

例えば、生活困窮者と直に接する⽀援者たちへの聞き取りから「何が、いつ、どれくらい必要なのか?」といった⽀援物資のニーズや具体的な品目、量、提供のタイミングを明確にしたり。野菜などの生鮮食品の提供が可能な事業者の情報(物品、数量、連絡先)をリアルタイムで共有できるWebページを作成したり、必要な情報をかき集め、効率的に共有できるネットワークを整えることで、地域ぐるみでの“協働”を下支えしてきたのです。

市内のフードバンクや支援団体を紹介するページをお知らせする画像
市内のフードバンクや支援団体を紹介するページをお知らせする画像

「マスコミによる報道の追い風もあって、民間企業を含め、地域のあらゆる組織が独自に食料支援を始めました。地域内の支援が拡充するのは喜ばしいですが、誰がどこでいつ支援をしているのか、情報が錯綜していたんです。協働できる部分がないかを見極め、必要に応じて円滑な連携を促すためにも、散らばっている情報を整理して関係者に共有することはかなり意識していました」

佐藤「事務所にはひっきりなしにお客さんが来て、常にいろんな情報が飛び交います。お茶を飲んでいる何気ない時間に『みんながいる場では言えなかったけど……』と、本音を話してくださることもあるんです。日々のささやかな会話の中にも、重要な情報が隠れていることがあります。なので、情報収集のアンテナは常に張るようにしています」 

来訪者とお話ししている様子
来訪者とお話ししている様子

極めつけは、“中間支援組織”としての適度な距離感。藤さんは各方面に対して「癒着ではなく、緊張感のある協力体制」を心がけていると話します。

「必要なことは必要だと言いますが、無駄なことは無駄だとはっきり伝えます。行政にしろ、民間の組織にしろ、忖度のない関係性で付き合っているうちに『協働のボーダーライン』が見えてくるんです。これは無理そうだが、ここまでは協働してくれそうだと。べき論で語らずに、現状とそれぞれの組織の思惑まで把握したうえで双方の期待値をすり合わせる。これが協働を後押しする私たちの役割だと考えています」

村上市で広がり続ける、「公」のあるべき姿

これほどまでに地域内の協働を後押しする原動力はどこにあるのか? ヒントは、都岐沙羅パートナーズセンターのロゴマークに隠されていました。モチーフは、漢字の「公」。この由来について、団体の公式サイトには以下のように説明されています。

「都岐沙羅パートナーズセンターが目指している「公」のあるべき姿は、住民・NPO法人・民間企業・行政がそれぞれの資源を出し合い、地域内で共有する「財」をつくり、利用しあうことで、個々が自立している状態です」
「都岐沙羅パートナーズセンターが目指している「公」のあるべき姿は、住民・NPO法人・民間企業・行政がそれぞれの資源を出し合い、地域内で共有する「財」をつくり、利用しあうことで、個々が自立している状態です」

次世代の「公」を追い求める中、あくまでも自らは“潤滑油”の役割に徹し、各組織の当事者性と自発的な動きを尊重する。都岐沙羅パートナーズセンターの働きかけにより、村上市では積極的に協働し合う姿が見られるようになってきたと言います。

佐藤「『学生服をリユースしたい』とは言えても、『食べ物を支援してもらいたい』とは言いづらい。そんな人の話を聞いた学用品支援をしている団体が、当事者とフードドライブの組織をつなげてくださったことがあったんです。支援物資として地域内のお米が不足したときにも、『お米が不足して困っている』という声を聞きつけた地元の農家さんが、フードバンク組織にお米を届けてくださったこともありました」

お互いに情報を共有し、必要に応じて連携し合う。地域内で協働関係が育まれたことも後押しとなったのか、市内から調達した物資量は半年間で約8,800kgにのぼり、⽀援件数に対し95%以上の物資を市内で賄えるまでになりました。

フードバンク拠点に集まった物資
フードバンク拠点に集まった物資

潤滑油によって、さまざまな支援の歯車が上手くかみ合い、それぞれが自走しながらも、協働することでより大きな支援を可能にするーー中間支援組織が地域にもたらす価値は着実に広がっているように見えます。しかし依然として支援が実現するまでのハードルは高いと、斎藤さんは話します。

「都岐沙羅パートナーズセンターは民設民営型の組織なので、新しく事業を始めるときは当然『運営資金をどう工面するのか?』を考えるのがセットです。運営費を捻出するための事業も手がけますが、地域に本当に必要な事業であったとしても、必ずしも充分な資金が得られるものばかりではありません。日々支援のアイデアは生まれているので、休眠預金活用事業のような助成金の利用を検討するものの、新潟県を対象とした公募を行う資金分配団体が限られているため、全国を対象とした公募しか道がないことがほとんど。加えて私たちのようなローカルな取り組みは、波及効果の点から、採用されるハードルが高いんです」 また、助成金の中には、申請団体に事業費の2〜5割の自己負担を求めるものも少なくありません。助成金依存を防ぐために必要なシステムであることは理解しつつも、「資金繰りの面で手を上げづらいのが本音」だと、藤さんは吐露します。

「地域のプレーヤーの方々を結びつけて事業を作り上げていく、私たちのような事業体系では、申請団体に自己負担が求められると、手をあげるだけ損になってしまうんです。その点、今回の新型コロナウイルス対応支援助成は、自己負担が求められないことが助かりました。休眠預金活用事業では資金分配団体が伴走支援をしてくれる仕組みなのですが、私たちの場合は一般社団法人全国コミュニティ財団協会さんが、良き壁打ち相手になってくれて。月1のミーティングで事業の進捗を報告する中で、見直すべき点、より注力すべき点が明確になり、自分たちの行動を振り返る良い機会になりました」
休眠預金活用事業として一区切りがついたのは、2021年5月。事業期間中は、支援を求める人が増えると同時に、自ら支援の協力を申し出る人も増えたと言います。事業の終了から1年半以上が経った現在、当初はボランティアとして関わっていた人たちが、中心人物として生活困窮者への支援をする姿も見られるほどに。

都岐沙羅パートナーズセンターが描く「公」は、これからも進化し続けます。

執筆:なかがわあすか

【事業基礎情報】

実行団体
特定非営利活動法人 都岐沙羅パートナーズセンター
事業名
地域自走型の生活困窮者支援システムの形成/資金分配団体
活動対象地域
新潟県
資金分配団体
一般社団法人 全国コミュニティ財団協会

採択助成事業

2020年度新型コロナウイルス対応支援助成

休眠預金事業でチャレンジしているTANOMOSHIをはじめ、社会インパクトを生み出す事業として、株式会社御祓川が取り組んでいる事業を紹介しています。
今回のZIBATSUニュースには、担当する宮田香司さんをゲストに招き、企画内容を伺います。