子どもも大人も集まる第三の居場所「みんなの秘密基地」が目指す、“ありのままの自分”を大切にするコミュニティづくり

学校に行きづらさや家庭に居づらさを感じている子どもたちに、安心して過ごすことができる“居場所”を提供しているのが北海道砂川市にある「みんなの秘密基地」です。21年度通常枠の実行団体(資金分配団体:認定NPO法人カタリバ)として、ユースセンターを立ち上げ、子どもたちが安心して時間を過ごせる居場所の提供のほか、フリースクールの運営などを行っています。最近は、同じ悩みを持つ大人同士がつながるお茶会の開催など活動の幅も広がり、子どもも大人も集う地域の居場所に変化しつつあるそうです。今回は、「みんなの秘密基地」を運営するNPO法人「みんなの」 代表理事である望月亜希子さんに、活動のきっかけやこれまでの取り組み、今後の展望などを伺いました。

”子どもたちの居場所づくり”を目指したきっかけ

ユースセンターとは、家でも学校でもない、若者たちの“第三の居場所”のこと。北海道の砂川市にある「みんなの秘密基地」もその一つです。
2022年に子どもたちのユースセンターとして活動を開始して以降、放課後や土曜日になると、近隣の子どもや若者たちが集まり、ゲームをしたり、おしゃべりをしたり、勉強をしたりと、皆、思い思いに時間を過ごしています。

代表の望月亜希子さんに、子どもや若者たちの居場所づくりをはじめたきっかけについて伺いました。
「私は元々、会社員として自然素材のコスメティックブランド「SHIRO」を展開する株式会社シロで働いていました。砂川市に本社工場があり、地域の子どもたちのために職業体験イベントや工場見学を開催していました。そこでは、楽しんでいる子どもたちがいる一方、自分の意見を決められなかったり 、自分に自信が持てず「私なんて」と嫌いになってしまっていたりする子どもたちがいることに気づきました。そして、そういった子どもたちが、自分のこと好きなまま、自己決定を繰り返しながら成長して社会に羽ばたいていってほしいという想いを抱くようになりました」

その後、望月さんは2019年に会社を退職し、2020年度から特別支援教育支援員(※)として学校に勤務することに。子どもたちに寄り添いたい、そんな想いを持って小学校、中学校で働き始めましたが、同時に教師とは違う特別支援教育支援員という立場ではできることが限られてしまう現実に、もどかしさも感じるようになっていました。

※発達障害や学習障害のある児童生徒に個別的な支援を行う支援員

まちづくりプロジェクトへの参画をきっかけに、ユースセンターの立ち上げに動き出す

ちょうどその頃、望月さんの前職の株式会社シロの代表取締役会長である今井浩恵氏から、砂川市の活性化を目的に立ち上げる「みんなのすながわプロジェクト」の構想を持ちかけられました。これはシロの本社工場の移設増床にともない、ものづくりや観光をテーマにした施設を地域の人たちと一緒につくるまちづくりプロジェクトであり、その参画メンバーとして望月さんも活動に携わることに。

「工場の新設により、シロのショップやカフェなども新工場の施設に移転することが決定したため、そのカフェの空き店舗を有効活用するなら、『ぜひ子どもたちの居場所を作りたい!』と手を挙げ、即答で承諾してもらいました。当時は学校の中で支援員として働いていましたが、学校や家庭に居場所がないような子たちも、安心してここにいていいんだと思える場所を作りたかったのです。」

こうしたきっかけから、カフェの空き店舗を活用して、学校や家庭でもない子どもたちのサードプレイスとなるようなユースセンターをつくりたいという想いが具体化していったといいます。

休眠預金活用で立ち上げることができた「みんなの秘密基地」

自分のやりたいことの方向性が見えてきた望月さんは学校での特別支援教育支援員としての業務と並行して、居場所作りの準備や仲間集めに取り掛かるも、ユースセンターはもちろん、非営利団体の運営経験はなく、何から準備をしたらいいのかわかりませんでした。そんな矢先、教育支援活動を行う認定NPO法人カタリバが運営する「ユースセンター起業塾」が休眠預金を活用した事業として、助成および事業立ち上げ伴走を行う団体の募集をしていることを知りました。

ユースセンター起業塾とは、全国に10代の子どもの居場所を広げるため、居場所づくりや学習支援をしている/したい方々を対象に、各団体の立ち上げを資金面・運営面の両軸から伴走支援を行っている事業です。
この募集要項を目にした途端、自分たちのやりたいことと合致すると確信した望月さんは、申請をし、無事に採択されたそうです。

「右も左も分からず、とにかく勢いだけで動いていた私にとって、この事業はまさに渡りに船でした。さらに、教育支援の実績が豊富なカタリバさんの支援を受けられることも心強く、毎月のミーティングや研修、経理、財務などのバックオフィスに関する相談会などもあり、常にきめ細やかにサポートしていただきました」

そこからは、カタリバによる支援を受けながら、仲間も増えていきますが、シロのショップとカフェが移転するまでには、まだ1年。その期間に借りられる場所を探すことに。

そこで、シロでも長年お世話になっている市内のお寺に相談すると、快くお堂を無償で貸してくださることになりました。こうして小学校3年生~高校生を対象にしたユースセンター「みんなの秘密基地」の活動がスタートしたのです。

2023年6月には、拠点を旧シロ砂川本店の店舗へ移し、活動をしながら気づいたことを解決しようと、午前中には「無料のフリースクール」を開始。厨房を活用した「みんなのごはん(子ども食堂)」や、20代以上の若者を対象にした「夜のユースセンター」、同じテーマで悩む大人の「つながるお茶会」なども始まり、活動の幅も広がっていきました。

そこで大きな助けになったのがユースセンター起業塾の助成金だったそうです。

「スタッフもボランティアでずっとお願いするわけにはいかないため、家賃や光熱費のほか人件費にもあてられる助成金にとても助けられました。また子ども食堂などの活動費にも使うなど、私たちの運営や活動全体を支えてくれています」

新しくオープンした拠点の外観(左)と2階で放課後を過ごす子どもたち。
新しくオープンした拠点の外観(左)と2階で放課後を過ごす子どもたち。

ありのままの自分でいい”と思える、空間づくりを大切に

何をしてもいい、何もしなくてもいい――。それが「みんなの秘密基地」のコンセプトです。読書やゲーム、友だちとのおしゃべり、お昼寝、勉強……ここでは、経済状況などにかかわらず、誰でも自分でやりたいことを決めて、自由に安心して過ごすことができます。

「『子どもたちが自分と自分の人生を好きなまま、自由に羽ばたく翼を折らずに育む地域社会をつくりたい』日々、居場所の活動をしていく中で、このようなビジョンに辿り着きました。子どもに変化や成長を求め社会に適応させるのではなく、変えたいのは、私たち大人の社会の視点やあり方なのです。私たちスタッフが、子どもたちに何かを強制したり、指導したりすることは一切ありません。子どもたちが自分の考えを自分の言葉で伝えることができるように、寄り添い話を聞くこと、そして、みんなが“自分のままでいいんだ ”と思える空間づくりを心掛けています」

その結果、利用者にアンケートを取った際には、「みんなの秘密基地では自分らしくいられると感じている」に「そう思う」と回答した割合が92.3%と、子どもたちの多くが安心感をもってみんなの秘密基地を利用しくれていることがわかったそうです。

実際に、ユースセンターには、1日15~20人の子どもたちが訪れ、初年度の2022年は延べ約1,450人、2023年度は延べ約1,300人が利用。今では、砂川市の子どもだけでなく、近隣地域の利用者も徐々に増えているそうです。

ユースセンターの活動の様子
ユースセンターの活動の様子
作ったアクセサリーを展示する子どもたち(左)
作ったアクセサリーを展示する子どもたち(左)

地域のみなさんと一緒に作る、『みんなの』居場所へ

当初はユースセンターとして活動していた「みんなの秘密基地」ですが、今では、それ以外の活動も増え、新たな取り組みも広がっています。

「現在、平日の午前中から放課後までは、不登校支援の無料フリースクールとして、さまざまな事情で学校に行かない、行けない子どもたちを受け入れています。さらに、不登校支援をしていく中で気づいたのは、子どもたちだけでなく親のサポートも必要だということです。」

そこで新たにスタートしたのが、『つながるお茶会』という取り組みです。月に2-3回、不登校や発達のテーマでお茶会を実施し、保護者を中心に大人たちのコミュニティづくりを行っています。「保護者の皆さんが悩みを共有し相談できる場というのは、私たちが想像していた以上に求められていたと実感しています。やはり、当事者同士でしか分かり合えない悩みもあり、お茶会だけではなくLINEグループで日々の出来事や悩みを安心して語り合えるコミュニティができました。子どもたちにとって、家の中でお母さんやお父さんが笑顔でいてくれることほど嬉しく安心できることはないと思いますから、これからも、大人のコミュニティを大事に育てていきたいです」

また、みんなの秘密基地では、月に2回は土曜日もオープンし、近隣の農家さんにいただいた規格外品や自分たちで持ち寄った食材を使って、子どもたちと料理作りをしているそうです。ほかにも、地元イベントへの出店やハロウィンやクリスマス、キャンプ などのイベントもあり、さまざまな体験を通して、子どもたちが社会とつながりながら余暇を自由に楽しむきっかけづくりを提供しています。

子どもたちで料理し、一緒に食べている様子
子どもたちで料理し、一緒に食べている様子

活動も3年目を迎え、今では子どもだけではなく、若者や大人も集うみんなの居場所に変化しつつある「みんなの秘密基地」。最後に望月さんに、今後の展望を伺いました。

 

「2024年5月に、『みんなの秘密基地』の運営団体として、NPO法人『みんなの』を立ち上げました。 『みんなの』にした理由の一つに、この活動を、私たちだけの「事業」ではなく、地域のみなさんと一緒に作っていく「市民活動」にしていきたいという想いがあったからです。この3年間で休眠預金を活用した助成金のもと、運営の基盤づくりはできました。今後はさらに、地域のみなさんと一緒に活動しながら、『子どもたちが自分と自分の人生を好きなまま、自由に羽ばたく翼を折らずに育む地域社会』を実現していきたいと思っています」

 

【事業基礎情報】

実行団体 特定非営利活動法人 みんなの
事業名

北海道砂川市「‘本当の社会で生きる力’を育む子どもの居場所」創造事業

活動対象地域 北海道砂川市
資金分配団体 認定特定非営利法人 カタリバ

採択助成事業

2021年度通常枠

 

2023年3月よりJANPIAで活動を始めたインターン生の「活動日誌」を発信していきます。第3回は、22年度通常枠の実行団体である一般社団法人にじいろほっかいどう(資金分配団体:認定NPO法人北海道NPOファンド)の取り組みについてのリポートです!

JANPIAインターン生のSです。
今回は北海道で活動する一般社団法人にじいろほっかいどうさんを取材させて頂きました。
インタビューに応じて下さったのは、理事長の国見亮佑(くにみ りょうすけ)さん、副理事長のたかしさん、事務局長の真田陽(さなだ あさひ)さんの3名です。
取材を通じて、団体設立のきっかけや、現在の活動内容まで詳しくお聞きしてきました!

1. 一般社団法人にじいろほっかいどうとは

1-a 団体概要、活動内容について

一般社団法人にじいろほっかいどうは、北海道に暮らすLGBTQ+当事者への差別や偏見、社会的孤立をなくす活動を行っている団体です。
交流会や居場所づくりを通じたLGBTQ+当事者の孤立の解消、講演会などのイベントによる啓発活動を主軸として活動する団体であり、休眠預金支援事業2022年度の通常枠に実行団体として採択されています。(資金分配団体:認定NPO法人北海道NPOファンド)

1-b 団体立ち上げのきっかけ

にじいろほっかいどうは2015年に、現在の理事長である国見さんによって立ち上げられました。国見さんご自身がゲイの当事者であることから、団体設立前からLGBTQ+当事者の孤立解消を目的とした交流イベントや学校現場での講演などの活動を展開されていた経緯があり、講演依頼を受ける団体としてにじいろほっかいどうを設立するに至ったそうです。

現在団体で事務局長を務める真田さんは、にじいろほっかいどうとしての最初の講演会イベントの参加者。その出会いがきっかけで現在の活動に参画されたそうで、「あれからもう10年か!」と国見さんと顔を見合わせる姿がとても印象的でした。

2. ついにオープン!「はこにじ」とは?

2-a はこにじをオープンするに至った経緯

これまでの活動の中で、性的マイノリティの方々が安心して過ごすことのできる居場所の必要性は感じられていたと言う国見さん。しかし、人件費や家賃のコスト面での懸念から居場所づくりは諦めていた所に休眠預金事業の話を聞き、「はこにじ」をオープンすることを決められたそうです。

「はこにじ」とは、LGBTQ+や障がいを持った方が自由に訪れることのできる居場所です。 はこにじでは、入場料300円を払うことで飲み物やお菓子を食べてくつろぐことができます。

「はこにじ」とは、LGBTQ+や障がいを持った方が自由に訪れることのできる居場所です。 はこにじでは、入場料300円を払うことで飲み物やお菓子を食べてくつろぐことができます。

また、はこにじでは飲食メニューも充実しており、長時間ゆったりと過ごすことができます。 2024年5/13にオープンして間もなくですが、連日多くの方が訪れているようです。

また、はこにじでは飲食メニューも充実しており、長時間ゆったりと過ごすことができます。 2024年5/13にオープンして間もなくですが、連日多くの方が訪れているようです。

2-b オープンするまでの苦労

はこにじのオープンにあたって、部屋のリフォームや事務作業を一手に担われていたのが副理事長のたかしさん。慣れない事務作業や内装などに手探りで挑戦し、オープン日を迎えることができたそうです。

元々民家だった場所を改装して、完成したはこにじ。 リフォーム前は、この写真のように「どこから手を付けたら、、、」という状態だったよう。 そこからリフォームを行って出来上がったのが、こちら。

元々民家だった場所を改装して、完成したはこにじ。 リフォーム前は、この写真のように「どこから手を付けたら、、、」という状態だったよう。 そこからリフォームを行って出来上がったのが、こちら。

水色を基調とした内装へと生まれ変わったはこにじ。 壁側には、階段状の足場を設けることで講演会なども実施できるようになったと満足そうに語って下さいました。

水色を基調とした内装へと生まれ変わったはこにじ。 壁側には、階段状の足場を設けることで講演会なども実施できるようになったと満足そうに語って下さいました。

2-c 内装で意識されたこと

にじいろほっかいどうの皆さんが共通して持っていたのが、「はこにじをアットホームな空間にしたい」という思いです。
レトロな雰囲気を残し、ショールームのような綺麗な内装にならないようにデザインされた空間は、絶妙なバランスで調和が取られており、皆さんの思いが反映された居心地の良い空間がそこにありました。

はこにじの室内で、特に目を引く内装の工夫がもう一点あります。 それは、あえて不揃いに用意された形の異なる椅子の数々です。 たかしさんが札幌の劇場で目にしたHIVを題材に扱った劇から着想を得て、あえて様々な種類の椅子を内装に取り入れられたそうです。

はこにじの室内で、特に目を引く内装の工夫がもう一点あります。 それは、あえて不揃いに用意された形の異なる椅子の数々です。 たかしさんが札幌の劇場で目にしたHIVを題材に扱った劇から着想を得て、あえて様々な種類の椅子を内装に取り入れられたそうです。


余談ですが、副理事長のたかしさんは芸術家としての一面もお持ちで、はこにじと同じ長屋の2階のギャラリー「home coming」にてたかしさんの作品が展示されていました。
このギャラリーも、はこにじと一緒ににじいろほっかいどうが運営していて、今後は様々なアーティストの展覧会を予定しているとのこと。
どれも素晴らしい作品なので、はこにじを訪れた際には是非足を運んでみて下さい!

3. にじいろほっかいどうの活動

にじいろほっかいどうは、「はこにじ」の活動以外にも、交流会や居場所づくりを通じたLGBTQ+当事者の孤立の解消、講演会などのイベントによる啓発活動に取り組まれています。活動の中で感じる性的マイノリティを巡る社会環境や、活動に込めた想いについて伺いました。

3-a 北海道における自治体の取組について

LGBTQという言葉の認知が近年で拡大したこともあり、パートナーシップ制度などを導入する自治体が北海道内でも出てきたと国見さん。
国見さんは実際に、長年居住していた帯広市の職員さんと共にパートナーシップ制度の創設を行い、パートナーであるたかしさんと共にパートナーシップ制度認定を受けられたそうです。
しかし、道内全体ではまだ制度的に充実しているとは言えず、今後も政治や司法に働きかけていく必要性があると仰られていました。

3-b当事者同士の交流機会の重要性

次に、活動の軸として挙げられている交流の機会の重要性について国見さんにお聞きしました。
やはり、日々の生活の中で同じLGBTの人と会うことが難しく、性的マイノリティの方々は孤立しやすい現状がまだ日本社会には存在しています。
そういった方々が、安心して集まれる場所を作り、カミングアウトや家族・パートナーについての悩みを共有できるような相手を見つけられる交流の機会が大事との思いから、長年交流イベントを企画・開催されているそうです。

取材の様子
取材の様子

3-c 講演会の活動から見える実態

実は、理事長の国見さん、事務局長の真田さんは共に教職員。そのお二人の背景を活かし、北海道の教職員を対象とした講演会活動に取り組まれています。
お二人のお話を聞く中で、印象に残ったのは講演会の内容がより実践的な内容であるという点です。
近年、教育現場にて実際に性的マイノリティの児童から相談を受ける機会が増えてきており、「児童との接し方」についての質問が多いそうです。それに伴い、講演会の中でも「カミングアウトを児童から受けたとしても、児童の同意なしに他の教職員に内容を共有しない」等のケースバイケースに対応した講演が行われていると聞き、とても驚きました。

4. まとめ・感想

今回は、函館で活動されているにじいろほっかいどう様へ取材をさせて頂きました。
取材を通じて、社会全体として性的マイノリティの方々が安心して過ごすことができる居場所の必要性を痛感したと共に、教職現場での実態など目から鱗のお話を沢山お聞きすることができました。
「休眠預金事業を始めてから、忙しくなり喧嘩が増えた」と笑いながら話す国見さんとたかしさん。そして、それを微笑ましく見守る真田さん。
御三方の素敵な関係性によって運営されるはこにじは、暖かく、優しい雰囲気に包まれた空間
でした。
この記事を読んでにじいろほっかいどう様の活動に興味を持たれた方は、是非HPやはこにじを訪れてみてください!

にじいろほっかいどう

■ 事業基礎情報

実行団体一般社団法人にじいろほっかいどう
事業名社会的居場所を核とした働き方と暮らし方の共生の実現〜地域コミュニティにおける障がいのあるLGBTQの受容を目指して
活動対象地域北海道函館市及び道南地域
資金分配団体認定NPO法人 北海道NPOファンド
採択助成事業2022年度通常枠

台風、地震、豪雨、洪水、土砂災害……日本はその立地や地形、気象などの条件から、災害が発生しやすい国土と言われています。いつどこで起きるかわからない災害に備えて活動されているのが、資金分配団体(2019年度通常枠)である「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)」と、その3つの実行団体である「北の国災害サポートチーム」「いわて連携復興センター」「岡山NPOセンター」です。4団体が目標として掲げている共通のキーワードが「ネットワークの構築」。4団体への取材から、災害時に地域内外の団体が連携するためには、平時から組織を超えたつながりが大事だということが見えてきました。

災害時に求められる「ネットワーク」とは?

そもそも災害時に「ネットワーク」の形成が求められるようになった背景について、 特定非営利活動法人(NPO法人)全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)のプログラム・オフィサー(PO)である鈴木さんにお話を伺いました。

国内で大きな災害が発生したとき、支援の仕組みはまだまだ確立できていない現状があります。その現状があらわになったのが、2011年の東日本大震災でした。

一口に「民間の支援組織団体」と言っても、普段の活動領域も活動テーマもさまざま。東日本大震災では多様な団体が現場に入ったものの、それらの団体をどこが受け入れて調整するのか明確に決まっておらず、現場で混乱が発生したのです。

そうなると、どこでどのような支援が入っているのかわからず、支援を行う関係者間でも連携を取ることも難しくなりました。このように、災害支援に入る団体は多くあってもその連携が取れていないと、広範囲での効率的な支援が難しくなってしまいます。

そこで立ち上げられたのが、JVOADです。東日本大震災での経験を踏まえて、支援の調整ができる環境を整えた仕組みづくりを目指し、各都道府県での災害支援のネットワーク構築を目指しています。

この「ネットワーク」にはさまざまな関係の構築が必要とされますが、JVOADが特に重視しているのが、主に制度による支援を行う「行政」、災害ボランティアセンターを中心的に運営する「社会福祉協議会」、NPOや企業などが含まれる「民間の支援団体」による「三者連携」です。

JVOADは全国域でこの体制づくりを試みながら、同時に都道府県域でも三者の連携を目指しています。今回ご紹介する実行団体「北の国災害サポートチーム」、「いわて連携復興センター」、「岡山NPOセンター」はそういった都道府県の災害時の中間支援を担う団体として、三者連携をベースに支援関係者同士のネットワーク構築を目指して奔走しているのです。

ここからは、それぞれのエリアの特徴を踏まえてネットワークを構築する3団体と、その3団体のパートナーとして伴走するJVOADについてご紹介します。

北の国災害サポートチーム(きたサポ)

上段左から、北の国災害サポートチームの定森さん、本田さん、下段 篠原さん

北海道における災害中間支援組織、北の国災害サポートチーム(以下、きたサポ)の代表を務める篠原さんと、チームメンバーの本田さん、定森さんにお話を伺いました。

179の市町村があり、小規模自治体が多い北海道。交通網が止まったら外部から救援できなくなる土地柄に対して、NPOが蓄積しているノウハウにもばらつきがあり、災害時にどのようにして組織的支援を送るのかが課題になっていました。

2016年8月、台風第10号による災害が北海道で発生。NPOの中長期支援が動きづらい事態が発生し、これを契機に、全道各地で災害時にNPOが担うべき役割についての意見交換会が実施されました。

道内にNPOのネットワークが少しずつ生まれてきた矢先に、2018年9月、北海道胆振(いぶり)東部地震が発生。しかし2016年から積み重ねてきた活動により、胆振東部地震ではNPO間の連携が可能になりました。このような動きのなかで、これまで取り組んできたことを整理して「北の国災害サポートチーム」を組織したのです。

きたサポは、全道各地にあるNPOの中間支援センターも加盟しています。各エリアの中間支援センターは、エリア内で災害時に連携を取りやすいように行政やNPOと関係を構築しながら、きたサポで道内のネットワーク構築を進める仕組みです。

きたサポが、休眠預金活用事業で、北海道内で災害のリスクが高いと言われる釧路と有珠山周辺地域の2箇所でのネットワーク構築を重点的に行ってきました。意見交換会を開催したり周辺地域の団体と連携を図ったりと、重点地域を絞ったことで休眠預金を活用してきた成果が見られています。

全道域の多様な災害支援の関係者と連携した北海道フォーラムや、企業の協力による技術系研修会なども精力的に開催。

幹事団体がそれぞれ本業を持ち、複数の団体で事務局を組織しているきたサポのスタンスは、それぞれの団体が自主的に考えて動くこと。

どこで災害が起きても、交通網が遮断されればエリアを超えた支援が難しくなる可能性が高い土地柄を踏まえて、「きたサポの活動を通じて培ってきたことを各自で活かす。それでいいと思っています」。

そんな自主性を重視する姿勢は着実に広まり、重点地域である釧路と有珠山での災害シミュレーションに参加した別のエリアの中間支援センターが、自分たちのエリアでもシミュレーションを実施するなど、自発的な取り組みが道内各地に派生していくケースも増えています。

「休眠預金活用事業で手応えを感じているのは、胆振東部地震の記録をまとめたことです(きたサポ報告書「平成30年北海道胆振東部地震 情報共有会議の記録(A4版)」)。完成して嬉しかったですし、今後の活動に展開できる大切なものを作れたと思っています」

きたサポが窓口機能を担うことで、きたサポがなければ蓄積されていなかった情報と関係性がストックされてきた活動3年目。これからも北海道内で被災者支援の拡大ができる仕組みづくりや文化を根付かせるために、活動を続けていきます。

いわて連携復興センター

特定非営利活動法人いわて連携復興センターの瀬川さんと千葉さんには、同センターが事務局を担っている『いわてNPO災害支援ネットワーク(INDS)』の活動についてお話を伺いました。

左からINDSの千葉さん、瀬川さん

いわてNPO災害支援ネットワーク(以下、INDS)が立ち上がったのは、2016年9月。前月に台風
10号が発生し、東日本大震災からの復興途中であった岩手県に大きな傷跡が残されました。

災害支援において、連携と協働の必要性が浮き彫りになった東日本大震災。台風10号の際も、被害が大きかった岩泉町・久慈市・宮古市で災害ボランティアセンターが設置されて熱心な復旧作業が行われたものの、なかなか連携協働まで至らなかったと言います。

「実際はそこまで現場で混乱が生じたわけではないのですが、もっと情報連携できたら役場への問い合わせが一本化されたり、それぞれのNPO団体の得意分野が発揮できる支援をお願いできたりと、より効率的・効果的な支援をできたのではないかなと考えました。広範囲の岩手県をカバーする上で、調整し合うことが重要だと思います」

このような背景から「オール岩手」での取り組みを目指して立ち上げられたのが、いわてNPO災害ネットワークです。県内のさまざまなNPOによって構成され、JVOADと一緒に広域のコーディネートに動くこともあれば現場で泥出しの対応に入ることもあり、被災地に応じた支援に取り組んでいます。

休眠預金活用事業に応募したのは、より安定的な活動を展開する基盤づくりのため。岩手県の広域をカバーしながら県と県の社会福祉協議会と関係構築を進める上で、休眠預金活用事業が単年度ではなく長期的であることがメリットになっていると言います。

「支援活動のための関係構築には、日常のコミュニケーションがすごく重要になってきます。休眠預金活用事業が単年ではなく3年間だからこそ、年度を超えて長期的に会議を設定できたり計画的に研修を実施できたりするのはありがたいですね」

一言に「関係構築」といえど、行政の担当者には異動があり、コロナ禍で直接顔を合わせる機会が格段に減ってしまったため、この取り組みは容易ではありません。それでも県内でINDSの名前が知られるようになったりINDSと連携できる人が増えたりと、着実に変化が見られています。

「JVOADの伴走支援があることで、県内だけでなく県外での災害対応にも参加するようになりました。そこで最新の支援方法を知れたり県外の方々とつながれたりして、岩手に持ち帰れるものがあります。防災には終わりがないので、少しずつ仲間を増やしながら、見える成果を出していきたいです」

岡山NPOセンター

岡山NPOセンターが事務局を担っている『災害支援ネットワークおかやま』の活動について、同法人の詩叶(しかなえ)さんに伺いました。

岡山NPOセンターが掲げるのは「自然治癒力の高いまち」。問題が発生したら協働して解決していける。足りないところを補い合って、問題自体の発生を無くせるような「自然治癒力」を高めることが目標です。

そのため、岡山NPOセンターはNPOだけに限らず、セクターを越えて課題解決や価値創造の取組が生まれ、続いていくようにファシリテートしています。そのなかで2018年に立ち上げたのが「災害支援ネットワークおかやま」です。

2018年7月、「西日本豪雨」と呼ばれる広域に及ぶ被害をもたらした災害が発生しました。岡山NPOセンターは、発災した翌日には岡山県社会福祉協議会、岡山県と話し合い「災害支援ネットワークおかやま」を立ち上げ。ここまで迅速に動けたのは、岡山NPOセンターが平時から、行政、関係支援機関、民間団体、企業と協働で事業を通じて築き上げてきた関係性があったからです。

三者連携が進んできたとはいえ、組織文化か進め方も異なるためにまだまだ難しい行政機関と民間との災害支援に関する連携。災害支援ネットワークおかやまは平時の備えからの関係性の構築や継続を目指しています。

詩叶さんが理想的な関係を築けているケースのひとつとして挙げたのが、倉敷市一般廃棄物対策課との協働です。倉敷市の災害廃棄物の対策マニュアルの作成に参加して、訓練にも参加しましています。このようなマニュアル作成にNPOが参加したのは全国で初めてのケースだと言います。

「このような関係をどの市町村とも築けると、いつどのように発災しても、私たちから団体や企業をつなげますし、市町村も支援を受け入れられるんですよね。災害を平時の地域づくりから切り離さずに、常に地域を多面的に接続していくことが重要だと思います」

詩叶さんは休眠預金活用に参加してよかったことのひとつとして、通常の補助金では予算がつかないところにも予算をつけられる点を挙げられました。

「例えば水害時の復旧ロードマップは、デザイナーと編集者がいるからこそ、被災された住民の方に見て理解してもらえるものが完成しました。通常の助成金だと、そのように災害にデザインを持ち込むことが予算として認められないんですよね。でも休眠預金活用事業では予算として活用させていただけるので、その柔軟さがありがたいです」

左が岡山NPOセンターに伴走するJVOADの鈴木さん、右が岡山NPOセンターの詩叶さん。災害支援ネットワークおかやまが作成した「復旧ロードマップ」とともに。

普段からさまざまな部会をつくって話し合いをし、コミュニケーションを通じてアウトプットを決めている災害支援ネットワークおかやま。西日本豪雨の経験だけでなく、全国の災害中間支援組織とも連携しながら、常にアップデートした災害対応を県内外に伝えています。

全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)

左上がJVOADの明城さん、右上が小竹さん、左下が鈴木さん、右下が古越さん

ここまでご紹介してきた3団体の資金分配団体でありパートナーとして伴走を続けるのが、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)です。JVOADの鈴木さん、明城さん、小竹(しの)さん、古越さんにお話を伺いました。

JVOADは「行政」、「社会福祉協議会」、「民間の支援団体」のによる災害支援のネットワーク構築のモデル化を目指しながら、全国域の災害中間支援組織と連携して情報共有を図っています。

「災害の文脈で『中間支援組織』について行政から語られるようになったのは、2018年の西日本豪雨の頃からです。それでも『中間支援組織』とは何なのか、どこまで何をやるのか定義されていないため、手探りで進めています。各地の災害に関する中間支援組織が目指すイメージもさまざまなので、まずは休眠預金を活用されている3道県と一緒に、目指すあり方を積み上げているところです」

JVOADは全国域の災害中間支援組織であり、先の3団体は県域の災害中間支援組織であるため、対応する範囲は違えど、同じ課題意識を持っているパートナー。

3団体が休眠預金活用事業を終えるのは、2023年3月。残り半年の活動期間で、3団体が積み重ねてきた活動を可視化したいと考えています。

「モデルとなる中核的災害支援ネットワークを確立し、三者連携の必要な要素を可視化することを休眠預金活用事業では目指しているので、3団体の皆さんが取り組んでこられたことをまとめていきたいと思います。災害中間支援組織の活動内容をできるだけわかりやすく伝えることで、この活動を他の地域へも展開したいと思っていただけるように橋渡ししたいです」

ゆくゆくは、全国47都道府県に災害中間支援組織がある状態を目指しているJVOAD。各地域で始まっている動きをサポートできるよう取り組んでいきたいです。

取材・執筆:菊池百合子

【事業基礎情報】

資金分配団体 特定非営利活動法人 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)
助成事業中核的災害支援ネットワーク構築
〜大規模災害に備え、ネットワーキングから始まる地域の支援力強化〜
〈2019年度通常枠〉
活動対象地域全国
実行団体★北の国災害サポートチーム
 「広域・分散型 災害支援ネットワーク構築事業」

★特定非営利活動法人いわて連携復興センター
 「岩手県内の支援体制構築と支援者の育成・創出事業」

★特定非営利活動法人岡山NPOセンター
 「岡山県内市町村との連携体制と災害時支援スキームの確立事業」