コロナ禍による入国規制の解除後、日本で難民認定を申請する外国人が増えています。申請中で在留資格のない外国人は就労できず、公的支援も受けられないため、生活が困窮し、精神的にも追い詰められる傾向にあります。こうした難民認定申請者や非正規滞在者を支援するため、2023年度の休眠預金活用事業(緊急支援枠、資金分配団体:NPO法人青少年自立援助センター)による緊急人道支援を行っているのがNPO法人アクセプト・インターナショナルです。同団体は国内外で紛争や人道危機、社会的排除などの問題解決に取り組んでいます。今回は、団体の活動やその背景などについて、代表理事の永井陽右さん、国内事業局 局長の吉野京子さんを中心にお話を伺いました。
ソマリアから始まった「平和の担い手」を増やす取り組み
アクセプト・インターナショナルは「誰しもが平和の担い手となり、共に憎しみの連鎖をほどいていく」ことを目指し、世界の紛争地や日本で活動する団体です。2011年、大学1年生だった永井陽右さんは、世界で最も深刻な紛争国の一つとされていたソマリアの惨状を知り、「このまま見過ごしてはいけない」との思いから、仲間とともに活動を開始しました。
当時のソマリアは、頻発するテロや紛争によって貧困や飢餓が深刻化し、2年間で約26万人もの人々が命を落としていました。それにもかかわらず「危険すぎる」「解決策がない」からと、世界から見放されている状況に「そんな理由で支援が届かないのはおかしい」と強く感じた永井さん。「支援が必要とされているのに、難しさを理由に誰も手を差し伸べないのであれば、自分たちがやる」——その決意が活動の原点となっています。
永井さんたちはソマリアのテロや紛争を止めようと、若者が武装組織から抜け出し、社会復帰する支援を開始。2017年にはNPO法人アクセプト・インターナショナルを設立し、イエメンやケニア、インドネシア、コロンビア、パレスチナなど、世界の紛争地へと取り組みを広げていきました。
永井陽右さん(以下、永井)「テロリストの多くは、社会に居場所がないことや生活苦、脅迫などから武器を持たざるを得なかった若者たち。彼らを排除しても負の連鎖は終わりません。私たちが目指すのは、彼らが本来の若者らしく希望を持って生き、私たちと一緒に平和な世界をつくっていくことです」

海外での経験を活かし、日本でも「難しくて取り残されている問題」に着手
海外の経験を活かして日本でも「解決の担い手がいない難しい問題」に取り組もうと、2020年からは国内事業も開始。コロナ禍で海外事業の継続が困難になった時期とも重なり、国内の課題にあらためて目を向けるようになりました。現在は主に、非行少年の更生支援と、在日ムスリム(イスラム教徒)を中心とした在日外国人支援の2つの事業を展開しています。
非行少年の更生支援では、とくに社会の受け入れが難しい、重い犯罪に関与した若者の社会復帰を支援。相談支援をはじめ、社会復帰を後押しするための社会定着支援、居住支援、生活支援を実施し、さらに、啓発や教育の一環としてオンラインゼミも開講しています。
在日外国人支援では、日本社会におけるムスリムへの理解不足や文化の違いなどから、在日ムスリムが孤立しやすい現状をふまえ、とくにコロナ禍で生活が困窮している在日ムスリムを支援。現在もイスラム教徒が食べることができる「ハラル食品」の提供や生活相談、在日ムスリムによる共助ネットワークづくりなどを行っています。
「海外事業も日本事業も、つまるところは、課題を抱える当事者が社会の一員として主体的に生きていくための伴走支援。本質は変わりません」と永井さん。海外事業でテロの加害者だった若者と向き合ってきた経験が非行少年の更生事業に、多くのイスラム教徒と活動してきた経験が在日ムスリム支援に活かされるなど、これまでの知見が国内支援でも活かされています。
休眠預金を活用し、行き場のない難民認定申請者に緊急支援を実施
国内に活動を広げる中、コロナ禍が明けると、在日外国人からの相談にある変化が生じます。入国規制の解除にともない日本への入国者数が増え、それに比例して、難民認定申請者や非正規滞在者など在留資格が不安定な外国人からの食料や住居を求める相談が急増しました。それまでは定住している在日外国人からの相談が大半を占めていましたが、相談者も相談内容も大きく変わったのです。長年にわたり難民支援に携わってきた吉野さんは、その背景をこう説明します。
吉野京子さん(以下、吉野)「難民認定申請者は、紛争や迫害などさまざまな事情から逃れる中、たまたま日本の観光ビザを取得して日本へ来たという方がほとんど。入国後に難民申請するものの、その多くは難民認定がおりないまま、在留資格がない状態で日本に留まることになります。在留資格がなければ行政サービスを受けられず、国民健康保険にも加入できず、働くこともできないため、生活は困窮し、路上生活に追いこまれる人も……。収入がなく、行政の支援にもつなげられない彼らを、民間の支援団体や個人だけで支えるのには限界があり、支援から取り残されていたのです」

「これは自分たちがやるべき問題」と判断したアクセプト・インターナショナルは、 NPO法人 青少年自立援助センターが公募していた2023年度緊急支援枠の休眠預金活用事業に申請。これに採択され、難民認定申請者と非正規滞在者に向けた緊急人道支援事業を始めます。具体的には、食料物資の支援や、一時的に住む場所を確保する緊急居住支援、日本語教育、利用できる支援サービスへの橋渡しなどです。また、アウトリーチの手段として、世界で普及しているメッセージングアプリの「WhatsApp」を活用。これにより、支援情報が瞬く間に拡散し、短期間で多くの支援を必要とする外国人にリーチすることができました。
取材時点(2025年1月28日)で、相談登録者は約170名。フードパントリーやWhatsAppを通して相談者のニーズを聞き取り、それぞれが必要とする支援を届けています。イスラム教徒にはハラル食品を、フルーツが必要な人にはパイナップルやミカンなどの缶詰を、自分で料理をしたい人には小麦粉や豆、オイルなどの食材を提供するなど、個々の希望に寄り添った支援を実施。食料以外にも、子どもがいる家庭には成長に合わせた衣服を、女性には生理用品を配るなど、生活状況に応じたきめ細かなサポートを行っています。
吉野「こちらが良かれと思って送った食料でも、相手にとってはそうではないことが何度かありました。そんなときは、『何か別のものが必要だったのかな?』と考えるようにしています。可能な限りどんなものが必要かを聞き取ることで、本当に必要なものを知ることができ、相手も『受け止めてもらえた』と安心してもらえます。その安心感が、信頼につながりますから」

日本語を学びたいというニーズも高く、希望者には週1回、1人30分のオンライン日本語教室を実施。授業を担当するメルテンス甲斐さんは、単なる言語学習にとどまらず、コミュニケーションの場としての役割も大切にしています。
メルテンス甲斐さん「家族友人と遠く離れ、コミュニティから隔絶された生活を送る受講者にとって、授業は人とつながることのできる数少ない機会です。雑談を交えたり、生活相談を受けたりすることで、少しでも孤立感の解消につながればと思っています」
一方、「相談を待つだけでなく、こちらから能動的にアプローチすることも大切」と話すのは、食料物資支援を担当する冨山里桜さん。
冨山里桜さん「相談者の中には、特にムスリマ(イスラム教徒の女性)のように、宗教的な背景や文化的な要因、周囲に頼れる人が少ないことなどから、支援を必要としていても声をあげられないケースもあります。実際、WhatsAppで連絡がつかないので訪問してみると、電気もガスも止まっていたという母子家庭のケースがありました。そうした方たちも取り残さないよう、こちらからこまめにコンタクトを取ることでフォローし、支援につなげるようにしています」
社会参加を通じて未来を切り開く支援のかたち
日本では難民認定率が低く、多くの難民認定申請者が中長期の展望を持ちにくい状況にあります。そんな中、「今回の事業では、まずは緊急支援として、難民認定申請者が人間として最低限の尊厳を保てることを第一の目標にしています」と吉野さん。その上で、専門家と連携し、相談者自身も交えて中長期的なプランを話し合い、日本で安定した生活を送るための法的支援も行っているそうです。また、在留資格がない外国人の子どもでも学校に通える制度を活用し、自治体と交渉して就学機会を確保するなど、今できる支援を重ねながら希望をつなげています。
こうした相談者のニーズを満たす支援だけでなく、相談者の主体性を促すはたらきかけも大切にしています。例えば、ガーナ人の青年に「公園で寝て過ごしているなら、うちへ来たら?」と事務所に誘ったところ、メンバーと一緒に食料物資支援の整理や荷物運びをするように。最初はほとんど口をきかなかったのが、今やアクセプト・インターナショナルの頼もしいメンバーになっているのだそうです。
永井「ボランティアでも小さいことでも、社会に参加することに大きな意義があります。困難な状況にある彼らだからこそ、できることがたくさんあるはず。その可能性に光を当て、引き出していくことも私たちの役割です。彼らが参加できる場をたくさんつくって、新たなステップにつながる機会を少しでも多く提供していきたいですね」

休眠預金活用事業をきっかけに生まれた3団体の連携
アクセプト・インターナショナルがこの事業を通じて得られた大きな成果の一つが、団体同士の連携です。同時期に休眠預金活用事業の実行団体として採択されたのを機に、Mother’s Tree Japan、つくろい東京ファンドの2団体とつながり、思いがけない強力な支援ネットワークが生まれました。例えば、路上生活をしていたムスリマの妊婦のケースでは、Mother’s Tree Japanが出産可能な病院を探し、イスラム教の文化に配慮して女医を手配。つくろい東京ファンドが居所を確保し、アクセプト・インターナショナルがハラル食品の提供を実施しました。各団体の専門性を活かした支援が迅速に展開され、適切なサポートを提供することができたのです。
吉野「自分たちが不得意なところは、得意な団体にお任せする大切さを改めて学びました。今も3団体で情報を共有しながら、連携を深めています」
「後進の育成」も今回の事業を通じて得られた大きな成果です。日本では難民支援の経験者が少ない中、今回の事業を通して若手メンバーが多様なケースを経験し、実践を積む機会を得ました。
吉野「若手メンバーが現場での経験を重ねることで、知識やノウハウをしっかり継承できました。今では、自ら判断し行動できるまでに成長し、今後のさらなる支援につながると期待しています」
アクセプト・インターナショナルは事業終了後も、当事者が中長期の展望を持てるよう、可能な限りバックアップを継続。「平和の担い手を増やす」活動として、テロ・紛争に関わる若者を保護する活動に加え、在日ムスリムのネットワーク強化など、国内外の活動に引き続き力を入れていきます。
永井「私は、テロリストも非行少年も、在日ムスリムも難民もみんな、社会の担い手、平和の担い手になれると心から思っています。これからも彼らに伴走し、その可能性を探り続けていくとともに、まだアプローチできていない『解決の担い手がいない難しい問題』にもチャレンジしていきます」

■資金分配団体POからのメッセージ
アクセプト・インターナショナルの強みは、「難しい問題こそ自分たちがやる」という高いプロフェッショナル意識と、海外で培った独自のノウハウにあると考えています。今回その強みを活かし、既存の支援団体では対応が難しかった在留資格が不安定な在日外国人への支援が可能になりました。また、私たちが資金分配団体を務めるにあたり重視していたのが、団体同士のつながりです。実際に実行団体間の連携が生まれ、情報共有も進んだことは、大きな成果の一つです。今後さらに、さまざまな強みを持つ団体同士の連携が進み、支援の輪が広がることを願っています。
(NPO法人 青少年自立援助センター YSC Global School/浅倉みさきさん)
【事業基礎情報】
実行団体 | 特定非営利活動法人 Accept International |
事業名 | 難民認定申請者及び非正規滞在者への緊急人道支援事業(2023年度緊急支援枠) |
活動対象地域 | 東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県 |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 青少年自立援助センター |
採択助成事業 | 急増する「海外にルーツを持つ子育て家庭・若者・困窮者」緊急支援事業 |
学校に行きづらさや家庭に居づらさを感じている子どもたちに、安心して過ごすことができる“居場所”を提供しているのが北海道砂川市にある「みんなの秘密基地」です。21年度通常枠の実行団体(資金分配団体:認定NPO法人カタリバ)として、ユースセンターを立ち上げ、子どもたちが安心して時間を過ごせる居場所の提供のほか、フリースクールの運営などを行っています。最近は、同じ悩みを持つ大人同士がつながるお茶会の開催など活動の幅も広がり、子どもも大人も集う地域の居場所に変化しつつあるそうです。今回は、「みんなの秘密基地」を運営するNPO法人「みんなの」 代表理事である望月亜希子さんに、活動のきっかけやこれまでの取り組み、今後の展望などを伺いました。
”子どもたちの居場所づくり”を目指したきっかけ
ユースセンターとは、家でも学校でもない、若者たちの“第三の居場所”のこと。北海道の砂川市にある「みんなの秘密基地」もその一つです。
2022年に子どもたちのユースセンターとして活動を開始して以降、放課後や土曜日になると、近隣の子どもや若者たちが集まり、ゲームをしたり、おしゃべりをしたり、勉強をしたりと、皆、思い思いに時間を過ごしています。
代表の望月亜希子さんに、子どもや若者たちの居場所づくりをはじめたきっかけについて伺いました。
「私は元々、会社員として自然素材のコスメティックブランド「SHIRO」を展開する株式会社シロで働いていました。砂川市に本社工場があり、地域の子どもたちのために職業体験イベントや工場見学を開催していました。そこでは、楽しんでいる子どもたちがいる一方、自分の意見を決められなかったり 、自分に自信が持てず「私なんて」と嫌いになってしまっていたりする子どもたちがいることに気づきました。そして、そういった子どもたちが、自分のこと好きなまま、自己決定を繰り返しながら成長して社会に羽ばたいていってほしいという想いを抱くようになりました」
その後、望月さんは2019年に会社を退職し、2020年度から特別支援教育支援員(※)として学校に勤務することに。子どもたちに寄り添いたい、そんな想いを持って小学校、中学校で働き始めましたが、同時に教師とは違う特別支援教育支援員という立場ではできることが限られてしまう現実に、もどかしさも感じるようになっていました。
※発達障害や学習障害のある児童生徒に個別的な支援を行う支援員
まちづくりプロジェクトへの参画をきっかけに、ユースセンターの立ち上げに動き出す
ちょうどその頃、望月さんの前職の株式会社シロの代表取締役会長である今井浩恵氏から、砂川市の活性化を目的に立ち上げる「みんなのすながわプロジェクト」の構想を持ちかけられました。これはシロの本社工場の移設増床にともない、ものづくりや観光をテーマにした施設を地域の人たちと一緒につくるまちづくりプロジェクトであり、その参画メンバーとして望月さんも活動に携わることに。
「工場の新設により、シロのショップやカフェなども新工場の施設に移転することが決定したため、そのカフェの空き店舗を有効活用するなら、『ぜひ子どもたちの居場所を作りたい!』と手を挙げ、即答で承諾してもらいました。当時は学校の中で支援員として働いていましたが、学校や家庭に居場所がないような子たちも、安心してここにいていいんだと思える場所を作りたかったのです。」
こうしたきっかけから、カフェの空き店舗を活用して、学校や家庭でもない子どもたちのサードプレイスとなるようなユースセンターをつくりたいという想いが具体化していったといいます。
休眠預金活用で立ち上げることができた「みんなの秘密基地」
自分のやりたいことの方向性が見えてきた望月さんは学校での特別支援教育支援員としての業務と並行して、居場所作りの準備や仲間集めに取り掛かるも、ユースセンターはもちろん、非営利団体の運営経験はなく、何から準備をしたらいいのかわかりませんでした。そんな矢先、教育支援活動を行う認定NPO法人カタリバが運営する「ユースセンター起業塾」が休眠預金を活用した事業として、助成および事業立ち上げ伴走を行う団体の募集をしていることを知りました。
ユースセンター起業塾とは、全国に10代の子どもの居場所を広げるため、居場所づくりや学習支援をしている/したい方々を対象に、各団体の立ち上げを資金面・運営面の両軸から伴走支援を行っている事業です。
この募集要項を目にした途端、自分たちのやりたいことと合致すると確信した望月さんは、申請をし、無事に採択されたそうです。
「右も左も分からず、とにかく勢いだけで動いていた私にとって、この事業はまさに渡りに船でした。さらに、教育支援の実績が豊富なカタリバさんの支援を受けられることも心強く、毎月のミーティングや研修、経理、財務などのバックオフィスに関する相談会などもあり、常にきめ細やかにサポートしていただきました」
そこからは、カタリバによる支援を受けながら、仲間も増えていきますが、シロのショップとカフェが移転するまでには、まだ1年。その期間に借りられる場所を探すことに。
そこで、シロでも長年お世話になっている市内のお寺に相談すると、快くお堂を無償で貸してくださることになりました。こうして小学校3年生~高校生を対象にしたユースセンター「みんなの秘密基地」の活動がスタートしたのです。
2023年6月には、拠点を旧シロ砂川本店の店舗へ移し、活動をしながら気づいたことを解決しようと、午前中には「無料のフリースクール」を開始。厨房を活用した「みんなのごはん(子ども食堂)」や、20代以上の若者を対象にした「夜のユースセンター」、同じテーマで悩む大人の「つながるお茶会」なども始まり、活動の幅も広がっていきました。
そこで大きな助けになったのがユースセンター起業塾の助成金だったそうです。
「スタッフもボランティアでずっとお願いするわけにはいかないため、家賃や光熱費のほか人件費にもあてられる助成金にとても助けられました。また子ども食堂などの活動費にも使うなど、私たちの運営や活動全体を支えてくれています」

ありのままの自分でいい”と思える、空間づくりを大切に
何をしてもいい、何もしなくてもいい――。それが「みんなの秘密基地」のコンセプトです。読書やゲーム、友だちとのおしゃべり、お昼寝、勉強……ここでは、経済状況などにかかわらず、誰でも自分でやりたいことを決めて、自由に安心して過ごすことができます。
「『子どもたちが自分と自分の人生を好きなまま、自由に羽ばたく翼を折らずに育む地域社会をつくりたい』日々、居場所の活動をしていく中で、このようなビジョンに辿り着きました。子どもに変化や成長を求め社会に適応させるのではなく、変えたいのは、私たち大人の社会の視点やあり方なのです。私たちスタッフが、子どもたちに何かを強制したり、指導したりすることは一切ありません。子どもたちが自分の考えを自分の言葉で伝えることができるように、寄り添い話を聞くこと、そして、みんなが“自分のままでいいんだ ”と思える空間づくりを心掛けています」
その結果、利用者にアンケートを取った際には、「みんなの秘密基地では自分らしくいられると感じている」に「そう思う」と回答した割合が92.3%と、子どもたちの多くが安心感をもってみんなの秘密基地を利用しくれていることがわかったそうです。
実際に、ユースセンターには、1日15~20人の子どもたちが訪れ、初年度の2022年は延べ約1,450人、2023年度は延べ約1,300人が利用。今では、砂川市の子どもだけでなく、近隣地域の利用者も徐々に増えているそうです。


地域のみなさんと一緒に作る、『みんなの』居場所へ
当初はユースセンターとして活動していた「みんなの秘密基地」ですが、今では、それ以外の活動も増え、新たな取り組みも広がっています。
「現在、平日の午前中から放課後までは、不登校支援の無料フリースクールとして、さまざまな事情で学校に行かない、行けない子どもたちを受け入れています。さらに、不登校支援をしていく中で気づいたのは、子どもたちだけでなく親のサポートも必要だということです。」
そこで新たにスタートしたのが、『つながるお茶会』という取り組みです。月に2-3回、不登校や発達のテーマでお茶会を実施し、保護者を中心に大人たちのコミュニティづくりを行っています。「保護者の皆さんが悩みを共有し相談できる場というのは、私たちが想像していた以上に求められていたと実感しています。やはり、当事者同士でしか分かり合えない悩みもあり、お茶会だけではなくLINEグループで日々の出来事や悩みを安心して語り合えるコミュニティができました。子どもたちにとって、家の中でお母さんやお父さんが笑顔でいてくれることほど嬉しく安心できることはないと思いますから、これからも、大人のコミュニティを大事に育てていきたいです」
また、みんなの秘密基地では、月に2回は土曜日もオープンし、近隣の農家さんにいただいた規格外品や自分たちで持ち寄った食材を使って、子どもたちと料理作りをしているそうです。ほかにも、地元イベントへの出店やハロウィンやクリスマス、キャンプ などのイベントもあり、さまざまな体験を通して、子どもたちが社会とつながりながら余暇を自由に楽しむきっかけづくりを提供しています。

活動も3年目を迎え、今では子どもだけではなく、若者や大人も集うみんなの居場所に変化しつつある「みんなの秘密基地」。最後に望月さんに、今後の展望を伺いました。
「2024年5月に、『みんなの秘密基地』の運営団体として、NPO法人『みんなの』を立ち上げました。 『みんなの』にした理由の一つに、この活動を、私たちだけの「事業」ではなく、地域のみなさんと一緒に作っていく「市民活動」にしていきたいという想いがあったからです。この3年間で休眠預金を活用した助成金のもと、運営の基盤づくりはできました。今後はさらに、地域のみなさんと一緒に活動しながら、『子どもたちが自分と自分の人生を好きなまま、自由に羽ばたく翼を折らずに育む地域社会』を実現していきたいと思っています」
【事業基礎情報】
実行団体 | 特定非営利活動法人 みんなの |
事業名 |
北海道砂川市「‘本当の社会で生きる力’を育む子どもの居場所」創造事業 |
活動対象地域 | 北海道砂川市 |
資金分配団体 | 認定特定非営利法人 カタリバ |
採択助成事業 |
2021年度通常枠 |
今回のJANPIAスナップでは、JANPIA×RISTEX共催イベントを開催した様子をお届けします。
イベント概要
JANPIAはRISTEXとの共催イベントとして、2024年1月24日に第1弾ラウンドテーブル「孤立・孤独という社会課題にどう向き合うか?~直面する課題に立ち向かう現場×研究による予防的アプローチ~」、2月1日に、第2弾セミナー「現場と研究のつながりが社会課題解決を促進する~企業がつないだ事例「シングルペアレンツ・エンパワメント・プログラム」から~」を開催しました。
第1弾:ラウンドテーブル「孤立・孤独という社会課題にどう向き合うか?~直面する課題に立ち向かう現場×研究による予防的アプローチ~」
「社会的孤立・孤独」の課題に対し、当事者への日常的な直接の支援に取り組むJANPIAの民間団体と、孤立が発生する因子にフォーカスした研究に取り組むRISTEXの研究者が登壇し、相互の活動を知り、知見の交換を図るラウンドテーブルを行いました。
様々な孤独、孤立を考えるにあたり、フィールドが異なる皆様から、ご報告いただきました。
多様な世代へのアプローチ、アウトリーチ、子ども・若者(ユース世代)の分野では、相談できる場所がない、親に頼れないなどの事情を抱えているケースが多い。
また、地域によっては「世間体」を気にする人が多くオーダーメイド方式で対応している。本人が「孤立」している、「孤独」を自覚している人がいないなど地域の文脈を理解しながら支援することが必要であるというコメントがありました。
登壇者のご紹介

当日の動画
第2弾:「現場と研究のつながりが社会課題解決を促進する~企業がつないだ事例「シングルペアレンツ・エンパワメント・プログラム」から~」

異なるセクターの協働による社会課題解決事業の参考となる事例として、企業が研究者と民間公益活動を行う団体をつなぎ実施している「シングルペアレンツ・エンパワメント・プログラム※」の事例を参考に、同じ社会課題解決を目指す研究者と非営利組織、企業がどのような役割をもって事業を実施してきたのかを振り返りながら、マルチセクターで協働するメリットや、有機的なつながりをつくるコツなど、課題解決において相乗効果を生むために役立つヒントについて、セミナー形式で行いました。

当日の動画
当プログラムをマネジメントする立場であるAVPN伊藤氏をファシリテーターとし、秋山氏からは民間公益活動を行う団体の視点から、大岡氏からは研究者として、佐藤氏は企業として活動をサポートする立場から、シングルペアレントの居住問題とメンタルヘルスが、なぜセットで語られるのか?に目をむけ、シングルペアレントの背景を知り連携することで、シナジーを生み出している事例が紹介されました。
また、NPOなどの支援者が居住支援にかかわる様々な支援者がトラウマのことをよく知って関わる姿勢(トラウマインフォームドケア)を学ぶことで、トラウマを抱えたシングルペアレントの背景を尊重しながらケアをしていくことが重要であり、この連携事例が大きな意味を持つことが確認されました。
さらには、企業視点での連携における難しさやそれを克服するための工夫なども紹介され、それぞれが違う立場で同じ目標に向かって活動を推進することの意義が話し合われました。
※シングルペアレンツ・エンパワメント・プログラム by American Express
アメリカン・エキスプレスの支援により2023年4月から2024年3月までAVPNが運営する事業です。複数の企業と非営利組織の連携により、対象者(いわゆる「シングルマザー」や予期せぬ妊娠をした方)が必要とする住まいとメンタルヘルスケアのサービスを提供しています。
2013年に福岡県初のフードバンク団体として設立された、NPO法人フードバンク北九州ライフアゲインは、「すべての子どもたちが大切とされる社会」を目指し、子育て世帯を中心とした食料支援に取り組んでいます。コロナ禍で急増した「食料支援の需要」と「食品ロス」の問題を受けて、同団体は食料を配布するだけでなく、サプライチェーンの効率化やステークホルダーの連携促進にも尽力しています。食料品店、中間支援組織、行政等と協力して22年度に集まった食料品は136t以上。月35世帯ほどだった支援規模は月100〜150世帯にまで増加しました。こうした功績の背景にはどんな工夫があったのか。理事の陶山惠子さんにお話を伺いました。[コロナ枠の成果を探るNo.3]です。
「食料支援の需要」と「食品ロス」の問題に向き合い、延べ4,000世帯を支援
子どもの通う学校が休校になり、働きに出られず、職を失った。自宅にこもる時間が増え、ストレスが蓄積されたことで家庭が崩壊した。2020年、新型コロナウイルスがもたらしたこのような問題は北九州市でも深刻を極めていた、と陶山さんは振り返ります。
「コロナが原因で失職や離婚した家庭が増え、食料支援を求める世帯が急増。2019年度末には月30〜40世帯だったのが、2020年度にはゆうに100世帯を超えるほどに。同時に人の流れや物流が滞った影響で、土産品が売れ残ったり、給食用の食材も廃棄になったりと、食品ロスの問題も深刻化する一方でした」

この問題に立ち上がったのが、陶山さんが理事を務める、NPO法人フードバンク北九州ライフアゲイン(以下、ライフアゲイン)です。同団体は、2013年の設立時より、食品ロスを食料支援につなげる環境活動と、経済的に厳しい子育て家庭への支援という福祉活動の両方に取り組んできました。
コロナ禍において、ライフアゲインがLINE公式アカウントコミュニティ463名に対して実施したアンケートによると、257件あった回答のうち約7割が「家計の中で最も『食費』を充実させたい」と回答。こうした現場のニーズを出発点に、食料支援の体制を強化し、食品ロスの増加を食い止めるため、ライフアゲインによる休眠預金活用事業ははじまりました。

事務所の近くに食品を保管するための倉庫を借り、スタッフを雇用したり、食品棚や搬入用の機材を購入したり。休眠預金を主に食品の管理環境や体制を整えるために活用することで、より幅広い層へのスムーズな食料支援につながったと言います。
「主な支援の対象は子育て世帯ですが、生活困窮者の方たちにも、必要に応じて行政やケースワーカーさんを通じて食料支援をすることがあります。北九州市が積極的に取り組んでいる『子ども食堂』や連携先の大学で自主的なフードパントリー(※)を実施しました」
※日々の食品や日用品の入手が困難な方に対して、企業や団体などからの提供を受け、身近な地域で無料で配付する活動のこと

2022年末までの事業期間を経て、ライフアゲインが食品提供先として連携する福祉施設、および支援する団体の数は145団体(自治体福祉課・社会福祉協議会を除く)にのぼり、食品を提供した企業は188団体へ。
食料支援件数は延べ4,000世帯を超え、寄贈された食品の受け入れ重量は2021年は110t、2022年度は130t以上と、一般的なフードバンク事業と比較し、圧倒的な規模での支援実績を記録しました。
100を超える団体や行政と連携し、支援のアウトリーチを強化
なぜ、これだけの規模で各所から食品が集まり、支援が可能になったのか。取材を通じて見えてきたのは、ステークホルダーとの連携力の強さ。それを証明した取り組みの一つが、食料配布のサプライチェーンの効率化です。
2019年、ライフアゲインは福岡県リサイクル総合研究事業化センターが主催する「食品ロス」をテーマとした研究事業にチームリーダーとして参画し、複数の団体と協力して、食品ロスの削減に向けた取り組みを進めることに。 結果、福岡県内でフードバンク活動の機運を高めるために新設されたのが、「福岡県フードバンク協議会」です。

「現在、県内には8つのフードバンク団体が活動していますが、個別に食品を提供してくれる企業を開拓するのは大変ですし、企業にとっても一つひとつの団体と合意書を結ぶなどの対応をするのは相当な手間になります。逆に言えば、それらが解消されたなら、より多くの食品が効率的に集まるはず。そう考え、フードバンク団体と食品を提供する企業をつなぐ窓口の機能を一箇所にまとめるために協議会を設置しました」
食品寄贈企業の開拓を始め、寄贈された食品の受付や管理、フードバンク団体への支援を呼びかける啓蒙活動や行政への政策提言を含む広報活動…。こうした役割を福岡県フードバンク協議会が積極的に担う体制が実現したことで、以前よりも集まってくる食品の数は格段に増えたと言います。

そして、なにより重要なのは、集まった食品をいかに必要としている人に届けるか。北九州市内における相対的貧困世帯は母子世帯だけでも7,000にのぼると推測される一方、2019年度末時点で、ライフアゲインが支援する子育て世帯は50にとどまっていました。 当事者からの支援要請を待つのではなく、こちらから積極的に当事者とつながっていく「アウトリーチ」を強化する。その必要性を実感したライフアゲインは、支援希望者とつながるLINE公式アカウントを開設し、行政と連携して団体の活動を広く告知。これが支援者の拡大に大きく貢献したと、陶山さんは話します。
「市内の各区役所に案内を設置し、2021年の冬休み前には行政からの提案で、児童扶養手当の受給者を対象とした配布物の中にチラシを同封してもらいました。送付先は約1万人。当初は300世帯だった支援対象の幅を、思い切って1,000世帯にまで広げました。支援希望者にはLINE公式アカウントへの登録を促したところ、新たに1,200名とつながることができたんです」

口コミの力も相まって活動の認知はさらに広がり、取材時点でLINE公式アカウントに登録している支援希望者は1,800名にまで増加しました。現在も学校の長期休み前には、LINEを通じて食料支援の希望を聞いています。
「共に助け合う心」の強さ。未来の孤立を防ぐために
ステークホルダーとの連携により、これまで以上に幅広い世代への食料支援が実現したころ、ライフアゲインの事務所には支援を利用した方からのお礼のメッセージが続々と届き始めました。
「孤独じゃないと実感して勇気づけられた」「私たち家族のことを想ってくれる人がいると実感して元気が出た」ーーそんな感謝の声が溢れる中、とりわけ胸を打たれたメッセージについて、陶山さんは話してくれました。
「中学生の女の子から、こんな手紙が届いたのです。『ありがとうございます。これでお母さんと一緒にご飯が食べられます。お母さんはいつも私達がお腹いっぱい食べられるようにと、余りものばかりを食べて、まともな食事をしていません。食料を届けてくれたおかげで、家族みんなでご飯を食べられることが何より嬉しいです』と。食料支援を希望する人の生活は、私たちが想像するよりもはるかに厳しいのだと思い知らされると同時に、必要な人に支援が届くことの意義を実感できた瞬間でした」

「私は決して独りじゃなかった」。食料支援を受け取った多くの人がそう感じたように、ライフアゲインもまた、支援を実施する中でステークホルダーによるサポートの心強さを実感していました。
「1,000世帯に食料支援のボックスを届ける際、梱包作業がとにかく大変だったんです。そこで食料を寄贈してくださった企業にお声がけをしたら、多くの方が箱詰めのボランティアに参加してくれました。また、送料を賄うためにクラウドファンディングで支援を募ったら、目標金額を超える120万円の寄付が集まりましたし、資金分配団体の一般社団法人全国フードバンク推進協議会さんも他団体の参考になる情報を共有してくださるなど、常に相談しやすい関係性を築いてくださいました。
あとは何より、活動を続ける中で行政との関係性が変化してきたなと実感しています。最近では市が主催するフードバンクの事業に対して提言を求められることもあり、相互に頼り、頼られる関係性が醸成されてきたなと感じています」

つながり続ける関係の中で、助けを求めることは決して恥ずかしいことじゃないーー「家計は苦しいけれど、食料支援を受けるのは抵抗がある」という人も少なからずいる中、ライフアゲインはそんなメッセージを発信し続けてきたと言います。
困っている人には手を差し伸べ、自分が困っているなら周りに助けを求める。ライフアゲインの“共助”の姿勢は周囲にも伝播し、大きな力となって、誰一人孤立しない未来を引き寄せ続けるに違いありません。
最後に陶山さんは、団体の今後についてこう語ってくれました。
「昨今は物価高騰の問題もあり、子育て世代はもちろん、さまざまな事情から困窮し、孤立している人が増え続けています。私たちとしては、フードバンク事業を着実に続けながら、これまで以上に福祉活動にも力を入れたいなと。取り組みの一つとして、2022年からは家庭訪問型の子育て支援の準備も進めており、新しく借りた事業所ではさまざまな困りごとに耳を傾ける相談室を開こうと考えています。今後は食料支援を入口に、支援を必要としている一人でも多くの人とつながり、安心できる関係性を築くことで、困ったときには気軽に頼ってもらえる存在になりたいです」
【事業基礎情報】
実行団体 | 認定特定非営利活動法人フードバンク北九州 ライフアゲイン |
事業名 | コロナ禍でも届く持続可能な食支援強化事業 |
活動対象地域 | 北九州市及び近郊地域 |
資金分配団体 | 一般社団法人 全国フードバンク推進協議会 |
採択助成事業 | 2020年度新型コロナウイルス対応支援助成 |
休眠預金活用事業として実施されている「甲信地域支援と地域資源連携事業」。資金分配団体である「認定NPO法人 富士山クラブ」「公益財団法人長野県みらい基金」のコンソーシアムと、山梨県・長野県で子どもや若者たちを含む、困り事を抱えた人々が自ら課題解決できる力を持てる環境づくりに挑む5つの実行団体でこの事業を進めています。山梨県域で活動している3つの実行団体に、資金分配団体のプログラムオフィサー(以下、PO)とJANPIAのPOが視察もかねて訪問した様子を、レポートします。
NPO×自分の生業でゼロからイチを生む!〈河原部社〉
はじめの訪問先は山梨県韮崎市で活動する「NPO法人河原部社」。
河原部社は「やって、みせる」というポリシーのもと2016年に活動をスタートさせました。団体メンバーの平均年齢は30歳。代表理事を務める西田遥さんを中心に、地域おこし協力隊として参加するメンバーを加え、地元の有志8名で韮崎市を盛り上げようと取り組んでいます。

設立当時からビジネスとして「収益をきちんと得られる仕組みづくり」を視野に、「NPO×自分の生業」という働き方のスタンスを保ちながら活動。参加する若者たちがそれぞれのスキルを持ち寄り、活かしながら、社会に対して面白いことを仕掛けていこうと考えています。
既に行政の委託事業として、いくつかの実績を持つ河原部社。JR韮崎駅前にある青少年育成プラザ「Miacis(ミアキス)」の運営は5年目を迎え、立ち上げ当時から利用していた中高生が同社に入社したり、また韮崎市役所に就職したりするなど、後進の育成にも成功。同時にローカルメディア「にらレバ」を運営し、若者向けに地元に特化した情報を発信することで、就職や結婚なども含め、今後の人生の選択肢に「地元」を入れてもらえるようにと継続的に取り組んでいます。
「街のために何かチャレンジしたいという、僕らと同世代の若者がとても多いんです。若者のチャレンジをぜひ現実化したい、さらに自立できるようにビジネスとしても確立させてほしい。そこでまずは私たち自身の団体の組織基盤を強化するために休眠預金活用事業に申請させていただきました。」そう話す西田さん。

彼らが休眠預金活用事業として取り組むのは、「ニラサキサラニ 実践型若者プレイヤーズ育成プロジェクト」。
廃業をしたガソリンスタンドを拠点とし、「ゼロからイチを生み出す経験ができる場づくり」を目標にしています。「プレイヤー」と呼ばれる賛同者と共に活動をはじめるために、現在は本プロジェクトの一つとして「WORKSPACE TUM」の立ち上げと、これらに付随したイベントの企画を急ピッチで進めています。今後はSNSなどを利用し、オンラインでも参加者(TUM MATE)を増やす予定だと本プロジェクトのリーダー・本田美月さんはいいます。


「TUMという名前には、経験や知識を積む場所、そして掛け算を意味する積から『アイデアが掛け合わさる場所』という意味を込めています。TUM MATEの皆さんと共に、さまざまな職域の方達との交流を経て、社会に対する思いを実現へと導くコミュニティを運営していく予定です。」

今回の訪問では、資金分配団体とJANPIAのPOと共に活動進捗を話しながら、どのように収益を上げるかで終わらず、一つ先の視点を継続して持ち、さらにこのプロジェクトを通じて力をつけてソーシャルビジネスなどへのステップアップを目指していくことを改めて共有できた皆さん。何もないところからスタートアップして、大きな団体として行政も巻き込み活動していくというサクセスストリーを描き、「韮崎モデル」として他県域にも広がることを願っています。
「社会的処方+学習支援」で地域課題に挑む〈ボンドプレイス〉

次に訪れたのは、同県南アルプス市の古民家を活動の拠点とするNPO法人bond place(ボンドプレイス)。「接着剤のボンド」と「場所を意味するプレイス」という意味を持つ同団体。現在、行政からの委託事業の一つとして南アルプス市、山梨市と辛い思いを抱えた子どもや若者たちに向けた「居場所づくりの事業」を中心に、孤独や孤立といった問題を抱える人に対してどのようなアプローチができるかを検討し、学習支援や子ども食堂などの利用を促す取り組みをおこなっています。そんな彼らが活動を通じて体感しているのは、こうした支援活動が各市町村単位での対応であること、また福祉など特定の分野に限られた課題設定となりがちであることでした。

「これまで公的な支援においてキャッチできなかった人や物事も多くあります。私たちは、いろいろなセーフティネットに助けられる機会を「学習支援」という入口から取り組んでいこうと考えました。個々が強くなるためではなく、その人たちの環境自体が変わっていくことに対してのアプローチを重要視し、山梨県から社会や環境を変えていきたい。そこで辿り着いたのが『社会的処方』というテーマでした」
そう話すのは理事を務める芦澤郁哉さん。「社会的処方」とは医療機関の取り組みの一つで、薬などの処方だけでなく、社会的な繋がりも処方するというもの。例えば、郵便局に隣接した場所で年金受給日に看護師さんが高齢者の健康相談に乗ったり、地域の資源を最大限に活用して、悩みを抱える人々と触れ合うことなどが挙げられます。こうした考えを実社会に置き換え、1つの分野だけでは解決し難い社会課題においてファシリテーターという役割を担い、「学び」という部分からさまざまな領域の人々を繋ぎ、地域の困りごとを解決する。法的な窓口ばかりに頼るのではなく、自分達から困っている人に出会いに行こうというのが今回の事業、「社会的処方を目指した生態系構築モデル」です。休眠預金を活用し、委託事業としてではなく、自主的な事業として確立できるようチャレンジすることになりました。

2020年度にスタートした「社会的処方の学校」の講座では、分野を問わず参加者自身が自然と行動に移せる仲間づくりを目指し、3〜4人のチームに分かれて課題に取り組んできました。。相手の困りごとをこちら側が勝手に判断をしないことを念頭に、悩みを持つ本人との関係性を深め、向き合い方を捉え直して解決へと導く。さらに「(人が)力を持てる地域、環境づくり」を目指し、対象者が自らの力で歩き出せる環境を作るためにできることを考え、実践へと落とし込んでいく流れです。
同時に社会的処方を実践する上で、当事者に必要な人、物事、環境などを繋ぐ役割「リンクワーカー」の育成を目指します。
開講以来、全5回の講座を終えた今、同様の意味合いを持ちながらも異なる表現ですれ違いを起こしていた事柄も丁寧に言葉を紡ぐことで、専門領域を超え新たな視点からサポートを実現するという強い意識が芽生えているそうです。問題意識を持ちながら、今ある行政制度を底上げする。より良い効果が出る道の模索が続いています。

本プロジェクトのゴールである3年後を目指し、今後はより視点を広げた環境づくりに取り組み、純粋に社会的処方という考えや、リンクワーカーとして担うべきことを定義づけることに注力していくとのこと。課題解決に向けて、幅広い世代のスタッフと分野を超えた参加者の皆さんが力強く歩みを進めている様子が印象的でした。
リユースお弁当箱で子育てママの孤立を救おう!〈スペースふう〉
最後は、子育て中のママさんたちを「食」を通じて応援する認定NPO法人スペースふうを訪れました。1999年に小さなリサイクルショップをオープンさせ、以来、南巨摩郡富士川町を拠点に地域活性や女性の自立支援などを中心に活動をしています。これまでの活動はもちろん、昨今の取り組みの中でスペースふうのメンバーが強く感じ取っていたのは、やはり「孤独」、「孤立」という問題。それらは、コロナ禍を受けて加速傾向にあります。自分が本当に必要とされているのか…、そんな不安を払拭しつつ、自分を大切にできる場所づくりにチャレンジすることにしました。そこで誕生したのが、休眠預金を活用した「リユースお弁当箱がつなぐ地域デザイン事業」です。産後のママさんをはじめ、子育て家庭に向けて「hottos(ホットス)プロジェクト」を立ち上げ、リユース食器などを使用した宅配お弁当サービスをスタートさせました。

特筆すべきは、リユースのお弁当箱(食器類)のメンテナンス、そしてお弁当を包む可愛らしい手ぬぐいをはじめ、hottosのロゴ、LINEの運用など、活動の中枢を子育て中のママさんたちが担っていること。長時間の労働が難しいママさんたちに、それぞれの強みを活かした新しい仕事、居場所を提供することで社会との繋がりや会話が生まれているのだそうです。

事務局の長池伸子さんはいいます。 「活動するための準備や特別な知識がない状態でも、社会課題と向き合うチャンスと思いを受け入れ、実践しながら活動に取り組めるのは休眠預金だからこそ。担当POのアドバイスを受けながら、近隣県域のNPO仲間等とも連携して一緒にゴールを目指せる環境が活動の支えになっています。 これからも誰に頼れば良いか分からないなど、気持ちや環境に余裕がない人をそっと見守る存在として、いい意味で新しい形のお節介をしていきたいですね」
美味しいと評判のお弁当は、南アルプス市で活動する「Public House モモ」によるもの。注文は予約制で、祝日を除く毎週木曜日と金曜日にスタッフが手渡しでお届けしています。利用費用は、なんと一食100円。各種アレルギーなどにも対応し、肉や野菜など、種類豊富で彩りも豊かなおかず類は食べるのはもちろん、見た目にも楽しい気持ちになります。現在の利用者は富士川町に住む11名の新米ママさんや子育て家庭。まだまだ少数ではあるものの、「産後の大変な時に本当に助かったし、優しい言葉もかけてもらえてホッとした」といった声が届いています。連絡手段には、利用者世代のママさんが使いやすいLINEを導入し、繋がりやすさも工夫。利用者さんからの口コミで広がることの重要性を体感しているそうです。


現在は子育て世代を中心としているものの、今後はその枠を広げ、お弁当を通じたコミュニケーションから子どもたちや若者が社会課題を解決する力を持てる地域づくり、さらには次世代への橋渡しにも挑みたいという長池さん。本プロジェクトを遂行する上で、こうした活動の過程を開示しながら持続可能な組織として自立し、新たなビジネスモデルとしての確立が目下の課題であることを改めて担当POとの対話で再確認しました。
キーワードは「お弁当を開けた時のホッとする瞬間」。「孤独」や「孤立」から多くの人を見守る事業モデルに今後も注目していきたいと思います。
【事業基礎情報】
資金分配団体 | 認定特定非営利活動法人 富士山クラブコンソーシアム構成団体:公益財団法人長野県みらい基金 |
助成事業 | 甲信地域支援と地域資源連携事業 ~こども若者が自ら課題を解決する力を持てる地域づくり事業~ |
活動対象地域 | 甲信地域(山梨県・長野県) |
実行団体 | ★特定非営利活動法人 河原部社 ★特定非営利活動法人 bond place ★認定特定非営利活動法人 スペースふう 特定非営利活動法人 こどもの未来をかんがえる会 一般社団法人 信州上田里山文化推進協会(旧:杜の風舎) ★印の団体が今回の訪問先です。 |
コロナ禍による失職や減収などの影響で、ひとり親世帯や若者など、さまざまな人たちに困窮が広がっています。そうしたなか、特定非営利活動法人eワーク愛媛(以下、eワーク愛媛)が従来からのフードバンク事業をベースにして始めたのは、必要なときに必要な食料品・日用品を無料で受け取れる「コミュニティパントリー」の拠点でした。さらに、困難を抱えた若者がコロナ禍で孤立したり、自立の機会を失ったりすることのないよう、居場所づくりや就労支援にも力を入れています。これらの活動を始めた背景について、eワーク愛媛・理事長の難波江任(なばえ・つとむ)さんに伺いました。
困窮が広がるなかでの「コミュニティパントリー」
愛媛県新居浜市にあるeワーク愛媛の事務所、その一角にはお米や保存食品、調味料やお菓子、日用品がずらり。ここに来た人は、買い物かごを持って思い思いに品物を選んでいきます。
小さな商店のようですが、これらはすべて無料提供。eワーク愛媛が、ひとり親世帯やコロナ禍で生活が苦しくなった人たちを対象に運営する「地域無料スーパーマーケット(コミュニティパントリー)」です。
一般社団法人全国コミュニティ財団協会が資金分配団体となって実施した「新型コロナウイルス対応緊急支援助成」を受けて、2020年12月末からコミュニティパントリーの事業を始めました。

この活動を始めた背景について、運営母体のeワーク愛媛で理事長を務める難波江任さんは、「コロナ禍で、シングルマザーの人たちなどを中心に、収入が減って生活が苦しくなったという話を耳にするようになったんです」と話します。
eワーク愛媛では、コミュニティパントリーの活動に先駆けて、2020年春に小中学校が一斉休校になった際に、ひとり親家庭の子どもたちに無料でお弁当を配布。このとき、コロナ禍でひとり親世帯の経済的・精神的な負担が増していることを実感したそうです。

もともとeワーク愛媛は、ひきこもり状態やニートなどのさまざまな困難を抱えた若者たちに就労支援を行う団体として、2003年に活動をスタートしました。現在では、フードバンク事業や地域再生事業にも活動を広げています。
「フードバンク事業に取り組むようになったのは、10年ほど前からです。就労支援の対象となる若者たちの多くが、経済格差や生活困窮の問題を抱えていると気づいたことがきっかけでした」
eワーク愛媛では、フードバンク事業を通じて一般家庭や企業、農家などから食品の寄付を集め、地域にある児童養護施設や自立援助ホーム、子ども食堂を運営する団体、ひとり親世帯や生活困窮者の支援団体などに提供してきました。
さらにeワーク愛媛が子ども食堂の主催も担い、ひとり親世帯を対象にした定期的にフードパントリー(無料食料配布)にも力を入れています。
「それでも、子ども食堂に足を運びづらい人や日時の都合が合わない人もいます。さらにコロナ禍で、ひとり親世帯に限らず生活が苦しくなる人が増えてきました。それなら、必要なときに必要なものを気兼ねなく取りに来られる場所をつくりたいと考えて、コミュニティパントリーを始めたんです」
気軽に来ることができて、相談しやすい場
eワーク愛媛のコミュニティパントリーの対象は、困窮者支援を担う社会福祉協議会やNPO、ひとり親世帯の支援団体、障がい者福祉施設などから紹介を受けた人。ひとり親世帯中心に、障がい者のいる世帯、生活に困窮する若者や高齢者など、さまざまな人が利用しています。
ポイントカードを利用して月5,000円程度の物資を無料で受け取れる仕組みで、食品の他に日用品や文房具などもあります。特に生理用品はすぐになくなるそうです。
コミュニティパントリーには、eワーク愛媛のスタッフが常駐。8時半から18時まで開いているので、利用者の都合に合わせて利用することができます。
「朝いちばんに来る方もいれば、仕事終わりに駆け込んで来る方もいるんですよ。遅い時間に『まだ行っても大丈夫ですか?』とLINEが来ることもあるので、スタッフがいるときは柔軟に対応しています」
通常のフードパントリーでは、寄付された食品を公平に分配するため、何を受け取るのかを選べないことも多いですが、コミュニティパントリーでは必要なものを自分で選ぶことができます。

難波江さんは、コミュニティパントリーが気軽に足を運べる拠点として機能することで、困ったときに相談がしやすい環境をつくりたいと考えています。
「コミュニティパントリーを利用する方から相談を受けて、専門支援機関に紹介したこともあります。スタッフに相談とまでいかなくても、ここで日常のちょっとした愚痴を話せるだけで、気持ちが少し楽になることもあるんじゃないでしょうか」
また、ひとり親のお母さんどうしが知り合いになって共通の悩みを相談し合ったり、子どもの服を譲ったりするつながりも生まれています。
就労相談会をきっかけに、コミュニティパントリーの利用につながった80代
これまでeワーク愛媛では、ひとり親世帯や若者を中心に支援してきましたが、コミュニティパントリーを始めたことがきっかけで、生活に困窮する高齢者の存在にも気づいたそうです。
「一人暮らしで年金が少ないために、自営で清掃業を続けている80代の方がいます。その方はコロナ禍で仕事が減り、eワーク愛媛が開催している就労相談会に参加したことがきっかけで、コミュニティパントリーの利用につながりました。この方のように大変な生活を送っている高齢者が、実はたくさんいるのではないかと思います」
コミュニティパントリーの立ち上げに活用した「新型コロナウイルス対応緊急支援助成」は2021年5月末で終了していますが、「この場所があって助かった」という利用者からの声があるため、愛媛県内の新居浜市・西条市の2ヶ所でコミュニティパントリー事業を継続しています。
「愛媛県は東予、中予、南予の大きく3地域に分かれます。今は東予地域でコミュニティパントリーを2ヶ所運営しているので、今後は中予地域と南予地域にも1ヶ所ずつつくりたい。そのために協力してくれる団体を探しているところです」
SOSを出せずにいる若者と出会うために
コミュニティパントリーの活動に加えて、eワーク愛媛では2021年6月から、もうひとつ新たな活動を始めました。
公益社団法人ユニバーサル志縁センターが実施する新型コロナウイルス対応緊急支援助成を活用して、発足当初から活動の柱としてきた「困難を抱える若者の相談と居場所づくり事業」を拡大しています。
「私たちは長年、ひきこもり状態の人やニートなど、就労に困難を抱えた人たちを支援してきました。そうした人の自立は、コロナ禍でさらに難しくなっているんです。ようやく自分に合う仕事を見つけたのに、コロナの影響で失職した人もいます。
こうした状況で、その人たちを孤立させないための支援も必要です。ただ、そもそもSOSを出せず、支援機関の存在さえ知らない若者も多くいます」
2018年に愛媛県保健福祉部が行った「ひきこもり等に関する実態調査」では、愛媛県内にひきこもり状態の人が約1,000人いるという結果が出ました。しかし、難波江さんは「隠れたひきこもり状態の人を含めると、実際にはその10倍はいるのではないか」と感じています。
「支援につながっていない若者との接点づくりが必要だとずっと思ってはいたのですが、自主事業ではそこまでの余裕がなく、目の前にいる相談者への対応で精一杯でした。今回、休眠預金活用事業の助成を受けられたことで、ようやく各地での定期的な相談会の実施や広報に力を入れることができたんです」
一人ひとりの得意・不得意を理解して支える
eワーク愛媛に相談に来る若者は10代から30代が中心で、「家から出るのが怖い」「コミュニケーションが苦手」「働く自信がない」といった、社会生活や就労になんらかの困難を抱えた人がほとんどだと言います。
「就職活動を始める前に、朝ちゃんと起きて身支度をする生活習慣を身につける必要がある人もいます。今回の助成で一つ増やすことができた『居場所スペース』のように、ひきこもっていた家から出る理由をつくり、孤立させないためにも、こうした居場所の存在は大切です」
eワーク愛媛では、こうした一人ひとりの状況に合わせて、職場見学やボランティア体験、就労体験など、相談者が社会に踏み出すために一歩ずつ支援しています。就労体験が難しい場合には、eワーク愛媛のフードバンク事業でボランティアを体験することも。生活に困窮している場合は、就労支援と同時にコミュニティパントリーで食料を提供しています。
「利用者のなかには発達障がいの傾向があって、普段の作業は問題なくこなせるのに、イレギュラーな対応ができなくて仕事が続かない人もいます。また、一人作業を行う能力は十分あって優秀なのに、チーム作業がどうしても苦手な人もいます」
こうした得意不得意を理解した上で、就労体験に協力してくれる地域の企業を見つけることも、難波江さんたちの役割です。チームで働くことが難しければ個人で作業ができる職場を探し、叱られるのが苦手な人の場合には職場の人たちに配慮してもらうなど、eワーク愛媛が若者と企業の橋渡しを担っています。

就労体験の受け入れ先は、製造業や飲食業、農業など多種多様。働ける場を探している若者がいる一方で、地域には人材不足で困っている業種も少なくありません。就労体験で企業とのマッチングがうまくいき、就職へとつながったケースもあります。
「できる限り就労を受け入れたいと言ってくれる企業も多いんですよ。ただ、利用者のなかには就労まで時間がかかる子もいますし、やっと就職しても辞めてしまう人もいます。就職後も長い目で地道にフォローを続けていくことが、この事業で最も大事なことなんです」
地域の困りごとを地域で解決できるように
ご紹介してきたように、eワーク愛媛では休眠預金を活用して、「コミュニティパントリー」による生活困窮者支援と「困難を抱える若者の相談と居場所づくり」の2つの事業に取り組んできました。それぞれの事業での資金分配団体の伴走について、難波江さんは「非常に勉強になることが多かった」と振り返ります。
「どちらの事業にも共通して言えることですが、資金分配団体と一緒に取り組めたおかげで、客観的な目標設定や実績を数字として表すことの重要性を学びました。
こうした活動の成果を示す数字は、私たちのところに相談に来る人にとって安心材料になりますよね。自分たちだけの事業として取り組んでいたら、目の前の活動に追われてしまい実現できなかったことだと思います」
対象も内容も異なる事業を手掛けるeワーク愛媛の根底には、「地域の困りごとを地域で解決したい」という思いがあります。
「『地域共生』という言葉をよく聞くようになりましたが、重要なのは、地域の困りごとを地域で解決できるようになっていくことだと思います。
働けなくて困っている若者がいるなら、地域の企業が支える。困っているひとり親世帯や高齢者がいるなら、地域の人たちが食料の寄付などで手を差し伸べる。eワーク愛媛の活動が、そんな地域の実現に向けたお手伝いになれば、と思っています」
■休眠預金活用事業に参画しての感想は?
自分たちの団体だけで事業に取り組んでいると、どうしても「思い」だけで進んでしまうところがありますが、今回の助成を受けたどちらの事業にも資金分配団体が伴走してくれたおかげで、成果管理や事業評価といったところにも目を向けることができました。(難波江さん)
■資金分配団体POからのメッセージ
一般社団法人全国コミュニティ財団協会 石本さん
「コミュニティパントリー」は、必要なものを自分で選ぶことができ、かつ相談できる場所でもある、今までになかった支援の形だと思います。このように多様な支援の形が地域にあることが、地域から誰一人取り残さないことにつながっていくのだと感じています。これからコミュニティパントリーが愛媛を中心に広がっていくことを期待しています。
公益社団法人ユニバーサル志縁センター 小田川さん
若者たちがいつでも来ることができるフードパントリーや居場所、スタッフによるアウトリーチ、そして協力企業とともに取り組む相談会、見学会、体験会など、さまざまな方法で、ひとりひとりの若者の次の一歩を支えてくださっています。eワーク愛媛さんの長年にわたる地元企業とのつながり、そして地域の社会福祉協議会やNPO、そして民生委員などの支援者とのつながりがあってこその取り組みだと思います。
公益社団法人ユニバーサル志縁センター 岡部さん
若者の就労支援のアウトカムとして、当事者のステップを10段階で評価する基準を設けている点が、社会に成果をわかりやすく発信する良い取り組みだと思います。今回の事業では、相談支援の対象となった若者89名(実数)中、58名(65.2%)が2段階ステップアップできたとのことでした。ぜひ今後も、eワーク愛媛さんの取り組みを多くの方に発信していっていただけたらと思います。
【事業基礎情報 Ⅰ】
実行団体 | 特定非営利活動法人eワーク愛媛 |
事業名 | 地域無料スーパーマーケット事業 |
活動対象地域 | 愛媛県 |
資金分配団体 | 一般社団法人全国コミュニティ財団 |
採択助成事業 | 2020年度新型コロナウイルス対応支援助成 |
【事業基礎情報 Ⅱ】
実行団体 | 特定非営利活動法人eワーク愛媛 |
事業名 | 愛媛県若者サポートコミュニティ事業:困難を抱える若者の相談と居場所づくり事業 |
活動対象地域 | 愛媛県 |
資金分配団体 | 公益社団法人ユニバーサル志縁センター |
採択助成事業 | 2020年度新型コロナウイルス対応支援助成 |
若者が安心して過ごすことができて、夢や悩みを共有できる場所と機会を提供したい。そんな思いで20年11月に開設されたのは、長野県岡谷市にある「子ども・若者STEPハウス みんなの古民家」(以下「みんなの古民家」)です。立ち上げたのは、20年度緊急支援枠〈資金分配団体:公益財団法人長野県みらい基金〉の実行団体NPO法人子どもサポートチームすわ。同法人の理事長 小池みはるさんは、不登校の子どもたちを支援するフリースクールの活動を20年以上続けています。フリースクールを卒業した後に引きこもりに戻っていく子どもたちの現状を知り、「次の居場所が必要だ」と考えて、みんなの古民家を開設しました。みんなの古民家を続ける思いなどについてお聞きしました。
フリースクールを卒業した後の居場所づくり
みんなの古民家を運営するNPO法人子どもサポートチームすわは、岡谷市の隣にある諏訪市で、1997年からフリースクールを運営してきました。

20年以上にわたり、不登校の子どもたちが自分のペースで学べるよう支援を続けるなかで、巣立っていく子どもたちの“その後”に課題を感じていたと理事長の小池みはるさんは言います。

「フリースクールを卒業した後に家で引きこもりになったり、就職しても続かなかったりする子どもたちをたくさん見てきました。フリースクールに通っている期間は私たちがサポートできますが、本当に『引きこもり』になってしまうのは、その後なんですよね」

フリースクールを卒業した後も、子どもたちが安心して過ごせる居場所をつくりたい。その必要性を強く感じた小池さんは、新たな拠点の立ち上げを検討。場所を探していた小池さんに、ある出会いが訪れます。
「私が拠点をつくろうとしている話を聞いた方から、『古民家使う?』と電話をいただいたんです。とはいえ岡谷と諏訪は離れているし、連絡をいただいた当初は消極的でした。でも試しに子どもたちと一緒に見に来たら、一目で気に入ったんです。それが、この物件でした」
子どもから大人まで、誰もが集える「居場所」

「みんなの古民家」があるのは、岡谷駅から車で10分ほどの住宅地。敷地内には、築150年ほどの母屋、蔵と納戸があります。
2020年8月、次なる居場所をこの古民家に決めた小池さんは、活動の資金源として休眠預金の活用を申請し、古民家の改装を進めました。そして現在は、不登校の子どもたちや引きこもりの若者たちが安心して過ごせる居場所として、週に4日間開放。現在、定期的に通って来るのは小学生が2人。他にも中学生や高校生が訪れます。
場所を構えてみて、さまざまな事情を抱えた子どもや大人がいることを実感したと言います。
「例えば、専門学校を卒業した後に引きこもりになった27歳の男性が、ここに来るようになりました。彼は調理師の免許を持っていて、今ではここのスタッフとして週2回食事をつくってくれています。なぜみんなの古民家に通うようになったのかを聞いてみると、『人と普通に話せるのが良かった』と言うんです。他にも、『友だちが欲しかったから来た』と答える子がとても多くいます。
場を開くまでは、居場所をつくるだけでなくもっと具体的な支援を検討していたので、場を開いてみて初めて、彼らが一番求めていたことに気づかされました」

みんなの古民家では、子どもたちに向けたイベントや勉強会だけでなく、保護者向けの座談会も定期的に開催し、包括的なサポートの場になっています。
ある時は、引きこもって10年が経つ40歳の子どもがいる親御さんから、小池さんのもとに相談の電話がかかってきました。
「親御さんと私たちがつながっていれば相談を受けられますが、子どもが30代や40代にもなってくるとご家族が疲れてしまって、途中で連絡がなくなることも少なくありません。だからこそ『みんなの古民家』は、同じ経験をしている親御さんどうしが気持ちを分かち合える場所にしていきたいですし、年齢や事情に関わらず誰でも居場所にしてもらえたらと思います」
助けられる存在から、助ける存在へ
みんなの古民家を立ち上げてから、2023年で3周年。子どもたちが集まり、会話が生まれるなかで、助け合いの場面がたくさん見られています。
「みんなの古民家には個室がなくて、隠し事ができない空間です。誰かがポツリと悩みを話すと、『僕もそうだったよ』『焦らないでいいよ』と子どもたちが思いつくまま話している光景をよく目にします。引きこもっていた経験を誰かに話すことで、誰かの役に立てる。子どもたちは決して『支援を受けるだけ』の存在ではないことを実感しています」
さらに、かつて支援を受けていた子どもたちが、みんなの古民家で誰かをサポートする仕事に就くケースも生まれています。
「フリースクールを卒業して、今は古民家のスタッフとして働いてくれている人もいます。彼らの残りたい気持ちと、他に就職できるところがなかった現実の結果ですが、だんだんと循環が生まれてきました。
現在は、みんなの古民家の運営はほとんどスタッフに任せていて、私はなるべく入らないようにしています。スタッフの間で『ここに来る人に大切なのは、友だち・お腹を満たすこと・お金の使い方を学ぶことの3つ』といった話をしているようですね。毎月のイベント企画も、スタッフが考えています」

立ち上げ前から地域の方を中心にさまざまな方がサポートに加わってくれたそうで、場を開いた後もその関わりは続いています。
「地域と関わるなかで、区長さんが『引きこもっている子どもたちが地区に何人もいるのはわかってはいるけど、家庭のことだから、これまで口を出せなくて……』とおっしゃっていたのが印象に残っています」
みんなの古民家ができたことで地域に生まれた、新たなつながり。今では近隣の住民から、引っ越しや草むしりの手伝い、高齢者の買い物支援など、単発の仕事が入ることもあるそう。みんなの古民家から、地域のつながりが広がっています。

小池さんは、みんなの古民家に通う人たちが、もっと自分で稼ぐことのできる事業をつくりたいと考えています。
「例えば農園に行っても、収穫して売るだけの“いいとこどり”だけでなく、事業の一通りを自分たちの手でできるようにすることで、責任と社会性を持つ経験を提供したいと思っています」
近々、生活クラブとの協働でパン屋を始める計画があるそう。さらに、敷地内の蔵を使って何か新しいことができるように、小池さんの私費を使って改装しました。
「この古民家は、あくまでも走り出すための場所です。ここで準備をして社会へと走り出せるように、市の支援を活用したり自分で探せるようにサポートしたりと、自立のために背中を押していきたいです」

支援を継続するための3年目の課題
一方で、みんなの古民家3年目に向かって、運営の課題も見えてきました。
大きな悩みは資金面。休眠預金の事業年度が終了し、その他の助成金活用をはじめ、資金確保の方法を模索しています。
「どんな法人格にするのがいいのか、お金をどうしていくか、毎日悩んでいます。いただいた助成金や寄付を使っていくだけではなく、資金を増やしていく仕組みを考えなくてはいけないですね」
もう一つ、早急に必要なのは、引きこもっている子どもや若者たちに直接アクセスする広報活動です。現在はスタッフや子どもたちがSNSで発信しながら、公民館活動が盛んな岡谷の土地柄を活かしてチラシを置いてもらうなどの連携を進めています。
「これまではチラシやウェブサイトで広報してきましたが、それらにアクセスするのはほとんどが親御さんです。引きこもっている当事者と親御さんとの関係性が良好でない場合も多いですから、親御さんだけでなく『みんなの古民家』を求めている当事者に情報を伝えられるように、方法や手段を変えていかなくてはと考えています」

小池さんと子どもたちは、資金の目処がつけば、みんなの古民家で「文化祭」がしたいと話しているそうです。「引きこもりの人もそうでない人も、障がいのある人もない人も、誰でも来てほしい」と小池さんは話します。
「今の社会では、誰が引きこもりになってもおかしくありません。ですから誰もが引きこもりへの理解を深められる機会をつくったり、引きこもっている子どもたちのエネルギーをいかに引き出せるかを考えたりしていきたいですね。
生きるという点ではみんな同じ。場があれば助けることができるし、私たちや皆さんが助けられることもあるでしょうから、これからもみんなの古民家を続けていきたいです」
取材後、子ども・若者STEPハウスは、 NPO法人子どもサポートチームすわから独立。また、現在、公益財団法人長野県みらい基金が運営するサイトで、クラウドファンディングを実施中です。
【事業基礎情報】
実行団体 | 特定非営利活動法人子どもサポートチームすわ |
事業名 | コロナ禍の発達特性のある子ども・若者支援 |
活動対象地域 | 長野県諏訪市、岡谷市周辺地域 |
資金分配団体 | 長野県みらい基金 |
採択助成事業 | 2020年度コロナ枠 |