休眠預金活用事業に係るイベント・セミナー等をご案内するページです。今回は、公益財団法人パブリックリソース財団主催「様々な困難を抱えて困窮する女性の経済的自立支援事業『若年女性の包括的支援の実践から見えた、持続可能な支援モデルとは~支援の糸をつむぐ、縦と横が重なる地域へ~』」を紹介します。
様々な困難を抱えて困窮する女性の経済的自立支援事業
「若年女性の包括的支援の実践から見えた、持続可能な支援モデルとは~支援の糸をつむぐ、縦と横が重なる地域へ~」
休眠預金活用事業「様々な困難を抱えて困窮する女性の経済的自立支援事業」に関する行政と民間の協同モデル例や、政策として、または民間として取り組むべき事例について発表いたします。
従前より、女性の非正規雇用比率は、半数を超えており、単身世帯で勤労世帯(20歳~64歳)の女性の約4分の1,65歳以上の女性の約半数が相対的貧困状態にあります。(内閣府ホームページより)さらに、コロナ禍により、不安定な職につく単身女性やシングルマザーが失業や収入減に陥る、虐待やDV被害などを受けている若年女性が家庭に居づらくなり居場所を失うなど、脆弱な環境下にある女性ほど、深刻な経済的困窮状態に陥る悪循環が生じています。
そうした中、パブリックリソース財団では、2022年度休眠預金活用事業「様々な困難で困窮する女性の経済的自立支援事業」に採択され、実行団体(助成先団体)6団体を選定、2023年11月からこの課題解決を目指すため、プロジェクトを実施しています。
「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(令和6年4月1日施行)」では、公的な女性支援機関と民間団体の協働が謡われていますが、その役割と位置づけについては不透明です。そこで本事業では、緊急期から就労・自立までの切れ目のない包括的な事業を支援することで、行政と民間の協働モデル例を示し、政策としてまた民間として取り組むべき事例を提起します。
今回、以下のとおり、実行団体による活動報告、および分野の専門家をお呼びしてのディスカッションを行う予定です。ぜひ多くの方にご参加いただき、困難な状況にある女性たちの現状を知っていただき、解決に向けての後押しをしていただければ幸いです。
【イベント情報】
日時 | 2025年7月3日(木)14:00~16:00 |
開催形式 | オンライン開催(ZOOMウェビナー)※アーカイブ配信有 |
参加費 | 無料 |
当日の流れ | 1. 開催のご挨拶 公益財団法人パブリックリソース財団 2. 実行団体より活動報告 坂本 左織 氏(NPO法人さくらんぼ 理事) └ 保育・学童・子育て・若者支援を通じて見えてきた「支援のつながり」のかたち └ 居住支援・食支援における実践と、途切れがちな部分を支える試み 3. 特別登壇 田中 健 氏(児童養護施設 旭児童ホーム 施設長) └ 社会的養護を離れる若者たちの現状と支援の必要性 └ 施設とさくらんぼの連携により生まれた支援の可能性と期待 4. 基調講演 荒木田 百合 氏(横浜市社会福祉協議会・元会長) └ 困窮女性支援における制度の背景と地域課題 └ 支援を“つむぐ”役割を果たす地域の担い手とは 5. パネルディスカッション テーマ「ライフステージを通じた支援のつながりをどう実現するか」 <登壇者> ①坂本 左織 氏(NPO法人さくらんぼ 理事) ②荒木田 百合 氏(横浜市社会福祉協議会・元会長) ③田中 健 氏(児童養護施設 旭児童ホーム 施設長) <モデレーター> ・山本 恵子 氏(ジャーナリスト、元NHK解説委員) ※団体情報等の詳細はこちらよりご確認ください ※本会は休眠預金活用事業による助成金によって開催いたします |
主催(資金分配団体) | 公益財団法人パブリックリソース財団 |
共催(実行団体) | NPO法人さくらんぼ |
お申込み | 以下参加申込フォームよりお申し込みください。 https://forms.gle/veQexyMZf4tBLACH8 ※申込締め切り:2025年7月2日(水)中 ※オンライン参加orアーカイブ配信希望、どちらかにチェックを入れてください。 |
お問い合わせ | 公益財団法人パブリックリソース財団 様々な困難で困窮する女性の経済的自立支援事業 事務局:渡邊、小澤 [E-mail]women.kyumin@public.or.jp [電話]03-5540-6256[FAX]03-5540-1030 |
株式会社オヤモコモは、佐賀県佐賀市を中心に、鳥栖市や福岡県久留米市などの親子を対象に、交流イベントや母親の起業支援などに取り組んでいます。産後に悩みを抱えたり、孤立したりしがちな親たちを支援したい——そんな思いから2012年に設立されました。2023年度の休眠預金活用事業(緊急枠、資金分配団体:一般財団法人ちくご川コミュニティ財団)に採択され、「もっと気軽に悩みを打ち明けられる仕組みを」との願いを込めて、オンライン双方向型情報サービス「みてるよ」の運営事業をスタート。今回は、代表取締役の山下千春さんに、活動の背景や事業の広がりなどについて伺いました。
母親たちの孤立は、社会課題。つながり合える深い交流を
日本では核家族化が進み、祖父母などに頼って子育てをするケースは減少しています。その結果、産後の不安や悩みを一人で抱え込み徐々に孤立してしまう母親は少なくありません。そうした人たちに寄り添い、居場所を提供しているのがオヤモコモです。設立は2012年。当時、山下さんには7歳、5歳、2歳の3人の子どもがいました。子育て真っ最中の多忙な時期に、なぜ自らこうした活動を始めたのでしょうか。
山下千春さん(以下、山下)「私自身が出産後、孤独でとてもさみしい思いを感じていたんです。それは出産前に抱いていた“赤ちゃんと暮らす”イメージとはかけ離れたものでした。どこかへ出かけても大人と会話するのはわずかで、知らない土地で子育てを始めたので仲の良い友人もいないし、夫は仕事が忙しくて帰りが遅い。“子育てって、こんなに寂しさや孤立感の中でするものだったのか”と、現実を突きつけられた気がしました。3人の子どもを育てながら感じたのは、私と同じような思いをしているお母さんがとても多いということ。これは個人の問題ではなく、社会全体の課題だと感じました。だからこそ母親同士がつながれる居場所をつくりたいと、オヤモコモの活動を始めたんです」

子育てセンターやパパママ教室といった、行政が手掛ける子育て支援の場は存在するものの、そこでの交流は一時的なものにとどまりがちです。そうではなく、もっと深い関係性を築ける場が必要だと、山下さんは考えました。自身が子育ての渦中にあったからこそ見えた課題や気付きを拾い上げ、当事者目線での支援のかたちを模索していったのです。
まず着手したのは、母親が主役になれるコミュニティづくり。子育ての悩みを共有したり、親子で楽しんだりすることも大切ですが、特に重視したのは、母親自身が心から楽しめる時間をつくることでした。
山下「子どもを持つと、仕事や趣味などで身につけたスキルや経験、好きなことがあるにもかかわらず、”自分はお母さんだから“という思いにとらわれて、そのことに目を向けなくなってしまいがちです。オヤモコモでは、そんなお母さんたちに何がしたいかを尋ねて、自らイベントなどを企画してもらい、それを実現できるようにサポートしています」
例えば、料理が好きでカフェを開きたいという夢を持つ人は、子どもと一緒に食を楽しめるカフェイベントを開催。ハンドメイドが得意な人には、作ったものを販売できる場所を提供しました。「自分が主役になって講師をしたり、何かをお披露目したり。お母さんたちの“やりたい”を集めた場づくりなんです」と山下さんは語ります。
どうすれば支援を続けられるか。継続のための試行錯誤
徐々にネットワークを広げ、活動は順調に進みましたが、その一方で資金面での課題が浮上します。山下さんがイベント運営費などを自ら負担し、手弁当での活動を続けざるを得ない状況に追い込まれていたのです。
山下「私がお金の苦労を背負ってみんなの笑顔を支えているような状態で、なんとかしようと寄付集めにも奔走しましたが、限界がありました。大変な思いをしてお金をいただいても、誰かのお力を借りて活動する責任ものしかかり、継続は難しいと判断しました」
そこで、なんとか自分たちで活動資金を生み出そうと始めたのが、オリジナルのベビー用品の開発と販売です。事業開始当初は山下さんが個人事業主として運営していましたが、これを機に株式会社として法人化。そうして収益化を図りながら、「どうすればもっと力になれるだろうか」と試行錯誤を重ね、活動は今年で13年目を迎えます。現在は代表取締役として事業を率いながら、「若い人たちにバトンをつなぎたい」とスタッフの育成にも力を入れています。
そんな山下さんが長く構想していた事業がありました。それは、親がより気軽に子育ての悩みを相談できる仕組みづくりです。トライアルとして、山下さん自身がLINEを通じて悩みに応えるサービスをスタートさせましたが、悩みを抱える人に真摯に対応したいと思えば思うほど、時間も労力もかかるものでした。
山下「利用者の皆さんに『もし有料のサービスだとしたら、いくら払えますか?』と聞いたところ、『サブスク(定額制)のような形で、月々1000円くらいなら』という声が返ってきました。ものすごく丁寧に、一つひとつお返事しても月に1000円なのか……と思い、このやり方で継続はできないと判断したんです」
そこで山下さんが着目したのが、AIチャットボットを活用したお悩み相談のシステムでした。これを事業として実現するため、休眠預金活用事業への応募を決意。社会課題の解決などを目的とした公益的な活動ではNPOなど非営利団体向けの補助金制度が多い中、株式会社でも申請できるという点は、休眠預金等活用制度を選んだポイントの一つでした。
24時間365日何でも話せるAIが、子育ての心強いサポーターに
2023年度の「緊急枠」として採択されたことを受け、スタートしたのが、オンライン相談サービス「みてるよ」です。LINEを通じて利用できるAIチャットボット型の仕組みで、先輩ママのキャラクター「マミさん」が24時間365日、利用者の質問や悩みに対して、自動で応えてくれます。年配の方には「AIなんて」と眉をひそめられることもあるそうですが、若い親は抵抗感なく活用しているとのこと。AIといっても機械的に回答するのではなく、「つらいわね」「よくわかるわ」など優しい言葉で寄り添い、必要な情報を丁寧に伝えるようにプログラムされています。2024年12月〜2025年2月の3カ月間で相談件数はのべ948件に上り、実施した満足度アンケートでは、利用者の91.5%が最高評価の5をつけるなど、高い満足感が示されました。
山下「最近のお母さんたちは特に、誰かに弱音を吐くことを極端に恐れているようです。“何かあっても行政に頼りたくない”と考える人も少なくありません。それは、周囲から“ダメな親と思われてしまうのではないか“と不安に感じるから。国や自治体が資金を投入してさまざまな産後サービスを打ち出していますが、そこにアクセスするのは気が引けるというのです。本当はSOSを出したいほど苦しい状況でも、自分の中に抱え込んでしまう。その結果、虐待などの問題につながってしまうケースもあります」

周りの人に頼ることを避ける親たちにとって、何でも遠慮なく話せるAIの存在は想像以上に心の拠り所となっているそうです。
山下「都市部ではなく、佐賀のような地域でAIが受け入れられるか不安でしたが、そんな心配は不要でした。特に初めての子育てだと、24時間気を張りつめて、ちょっとしたことでも不安になってしまう。ネットで検索しても正解が分からずに疲れてしまうんです。マミさんは、『あなたは頑張っているわよ』と、明るく励ましてくれるキャラクター。それに救われる人も多いようです」
悩みに応えてもらってもAIにはお礼は不要ですが、「ありがとう」「いつも助かっています」といった、まるで人間を相手にしているかのような返信をする利用者もいるのだとか。人間相手ではないからこそ、噂が広がったり、批判されたりする心配がなく、真夜中でもすぐに返事をもらえる。そんなAIの特性が、子育てに悩む親たちにとって大きな安心感につながっています。
休眠預金活用事業を通して得たリアルな声を、より良いサービスづくりに生かす
休眠預金を活用した事業のもう1つの柱は、交流イベントの企画・開催です。「みてるよ」を通じて参加者を募り、「オンラインだけでなくリアルなつながりも育みたい」という山下さんの思いがかたちになりました。イベントには運営スタッフの確保が必要でしたが、休眠預金を活用した助成金を基にスタッフの増員を図ったところ、想像以上の反響がありました。
山下「『他のお母さんの力になりたい』と申し出てくれる人がとても多くて。地域の中に、こんなにも同じ思いを持った人がたくさんいるのかと驚きました。私自身も産後うつになりかけた苦しい経験があったのですが、支援に手を挙げてくれた人たちの中にも、過去の自分の経験をきっかけに、行動してくれる人がたくさんいたんです」
現在はエリアごとに担当者を配置して、赤ちゃんのタッチケア、抱っこひもの使い方講座、ランチ会といったさまざまなイベントを企画し、親同士の交流を促しています。リアルなネットワークで情報交換を行い、人には言えないことはAIのマミさんに話す。2つの異なるサポートが、親たちの力になっています。

8カ月の緊急枠の助成期間が終了した今、課題は資金の確保です。AIの利用にかかる従量課金やLINEの月額利用料、交流会の広報費や人件費など、活動を続けるために必要な経費を捻出する必要があります。現在はクラウドファンディングに加え、企業・こども園などにスポンサーとしての協力を呼びかけているところだそう。幸いにも、子ども園からの出資が決まり、「この勢いでスポンサーを増やしていきたい」と山下さんは意欲を語ります。
「みてるよ」を通して多くの親たちのリアルな声を聞けたことは、企業として今後のサービスを考える上でも大きな手がかりとなりました。また、休眠預金活用事業への応募をきっかけに、これまで組織として脆弱だった部分を、資金分配団体のサポートを受けながら強固にしていったことも大きな成果の一つです。
山下「経理やガバナンス、コンプライアンスといった企業運営の基盤をこの機会にしっかり固めることができました。『みてるよ』の事業を進めていくだけで精一杯だった中、資金分配団体のちくご川コミュニティ財団さんには、細やかにご指導いただいてとても感謝しています。今、周囲で不登校支援などの活動を始めている方もいて、そうした人たちにも休眠預金活用事業の良さを伝えています」
900件を超える相談のやり取りから見えた、親たちのリアルな思い。これを大切な指針として、より良い子育て環境を目指して、オヤモコモの挑戦は続きます。
■資金分配団体POからのメッセージ
オヤモコモ様の取り組みは、AIを活用して親たちの孤立に寄り添うという点で、今回の休眠預金活用事業における「アクセシビリティ改善」という目的に非常に合致していました。とくに「AIだからこそ言えることがある」という当事者のリアルな声が見えたことは、大きな成果だったと感じています。また、短期間の中でも人材募集やネットワークづくりに力を尽くし、今後の発展に向けた基盤も築かれました。これからも、この事業で得た知見やつながりを生かし、より多くの親子支援に取り組まれることを期待しています。
(一般財団法人ちくご川コミュニティ財団 理事/事業部長 庄田清人さん)
【事業基礎情報】
実行団体 | オヤモコモ |
事業名 | 産後のセーフティネット構築プロジェクト「みてるよ」(2023年度緊急支援枠) |
活動対象地域 | 佐賀市東部、神埼市・吉野ヶ里町・鳥栖市・基山町・みやき町・上峰町、久留米市、小郡市などちくご川エリア |
資金分配団体 | 一般財団法人ちくご川コミュニティ財団 |
採択助成事業 | 子育てに困難を抱える家庭へのアクセシビリティ改善事業 |
休眠預金活用事業の成果物として資金分配団体や実行団体で作成された報告書等をご紹介する「成果物レポート」。今回は、実行団体 宝塚NPOセンター作成したレポート『「With」事業報告書2022.3-2025.2』を紹介します。
「With」事業報告書2022.3-2025.2
認定NPO法人宝塚NPOセンター(兵庫県宝塚市)は、一般社団法人 全国古民家再生協会(東京都千代田区)の2021年度「空き家・古民家を活用した母子家庭向けハウス設立事業」で実行団体として「孤立孤独/生活苦を抱える若者への緊急支援事業」事業を実施しました。
宝塚市内在住、あるいは宝塚市に転居を希望する“非正規雇用で働く母親とその子どもで構成されているひとり親世帯”を対象にしたシングルマザーハウス「With」での活動をまとめた事業報告書を公開します。
【事業基礎情報】
実行団体 | 認定特定非営利活動法人 宝塚NPOセンター |
事業名 | 地域で支える母子ハウス事業 |
活動対象地域 | 兵庫県宝塚市 |
資金分配団体 | 一般社団法人 全国古民家再生協会 |
その助成先のひとつ、DV被害にあった女性とその子供たちのための支援事業をおこなう、特定非営利活動法人女性ネットSaya-Sayaの活動紹介です。
特定非営利活動法人Saya-Saya
https://saya-saya.net/
コロナ禍の外出自粛により、女性に対するドメスティック・バイオレンスをはじめ、性暴力被害などの被害の深刻化が懸念されています。こうした被害に対する日本の法制度は、諸外国に比べて大幅に遅れている状況です。加えて、支援側の活動資金、専門知識を持つ人材不足が大きな課題となっています。今回は、資金分配団体「特定非営利活動法人 まちぽっと(2019年度通常枠)」の実行団体として活動する『特定非営利活動法人 全国女性シェルターネット』の北仲千里さんに、ジャーナリストの浜田敬子さんがDV被害者への支援活動や現状、そして休眠預金を活用した今後の展望をインタビューした様子をお届けします。”
▼インタビューは、動画と記事でご覧いただけます▼
DV被害者支援の世界へ。直面する活動継続の難しさ
浜田 敬子さん(以下、浜田):全国女性シェルターネットは、1998年(平成10年)に活動を始められたそうですね。
北仲 千里さん(以下、北仲):女性に対するドメスティック・バイオレンス(以下、DV)や虐待被害といった問題が、世界的に大きく注目を集めたのが1990年代後半。95年に開催された「第4回世界女性会議(北京女性会議)」をきっかけに世界各国でこの問題に対するシェルター運動が活発になり、日本でも各地で手づくりのDVシェルターを始める方が増えていきました。97年には現団体の前身となる「女性への暴力駆け込みシェルターネットワーキング」がシェルターを運営する人の情報交換を目的として活動をスタート。翌年には各関係者が北海道札幌市に集まり、第一回のシェルターシンポジウムを開催しました。

浜田:北仲さんはいつ頃から、全国女性シェルターネットの活動に入られたのでしょうか。
北仲:2000年か、もう少し後からの参加です。90年代半ば頃は、大学院生として、ジェンダーに関する問題をテーマに研究をしていました。そんな時、私たちの周囲で偶然にもセクシャルハラスメント(以下、セクハラ)に関する問題が浮上し、大学キャンパスでこれらに対する運動を始めたのです。
そこで大学におけるセクハラについての情報を発信するホームページを制作したところ、日本中から相談などが殺到。その後、少し上の世代の専門家の方々から性暴力やDV被害者の支援をするNPOを立ち上げるから一緒にやらないかと声を掛けられ、DVシェルターにも関わりだしたのがきっかけとなりました。
浜田:北京女性会議をきっかけとして、日本でも草の根的にシェルターが増え始めたとのことでしたが、そういった団体のネットワーク組織として「全国女性シェルターネット」があるのですね。
北仲:はい。正確な数は分かりませんが、全国に100か所以上のシェルターがあると言われています。その中で、私たち「全国女性シェルターネット」に加盟している団体は現在60団体。90年代に活動をはじめた方々に団塊の世代が多いこともあり、最近は減少傾向という現状です。
浜田:必要とされているのに、活動の継続が難しいということでしょうか?
北仲:海外では、90年代に支援をはじめた志がありノウハウも備えている民間団体に、国や自治体が事業を委託するという形の支援がスタンダードです。一方日本は2001年に“公的な相談センター”という形で支援がスタートしたので、民間と国や自治体との連携が生まれにくく、我々は勝手に支援をしているという状態です。活動をしている人たちには人件費はほとんど払われておらず、施設の家賃などをなんとか寄付や助成金でまかない、この数十年やってきました。そのような活動の継続にはやはり限界があり、ひとつ、またひとつと閉鎖しています。しかし、新しく団体を作りたいというグループからの問い合わせもそれなりにくるので、DVや虐待被害に対する関心は高まっていると感じていますが、自分たちで資金を生み出せる活動では決してないので、そうした面でも継続していくのは難しく、苦しいですね。
閉ざされた世界からステップアップできるまで。DV被害者を取り巻く現状
浜田:支援活動をはじめて約20年間、DVや性暴力を巡る状況の変化について、北仲さんは今、どのようにご覧になっていますか?
北仲:「セクハラ」もそうですが、「DV」という名称がつくまでの方が恐らく酷かったと思います。
浜田:そうした事象がたくさんあっても、皆さん声をあげなかったわけですね。

北仲:把握もできていなかったと思います。例えば、90年代や2000年代くらいに役所や自治体が市民を対象に行ったある調査では、人生経験豊富な60代以上の女性は、DVに関する問いにだけ「無回答」する確率が高かった。声に出してはいけない風潮があったということだと思います。恐らくセクハラなども昔の職場の方がずっと酷かった。その一方で、若者たちはこうした問題に関心があって「これは怒っていいんだ」という認識があり、きちんと回答していました。とても興味深い結果でした。
それから10年が経過し、私がいくつか見た調査結果では60代の方々が無回答になっていることは少ないよう感じています。つまり、女性たちはDVなどに対して怒ってもいいと感じ、声をあげやすい環境になってきていると言えます。
とはいえ、アジア圏のDVシェルター関係者と情報交換をしたり、各国の統計などを調査・比較したりすると、香港やシンガポール、台湾などに比べて日本の被害率が高いように感じます。それは圧倒的な法制度の遅れが原因。海外では、大学で福祉などを学んだ若者が性暴力や性虐待、DVや児童虐待を救うソーシャルワーカーを目指し、公的な施設はもちろん、民間団体は人気の就職先となっていて、きちんと職業として成り立っています。自分たちで資金を調達する私たちとはまるで異なる状況です。
<参照>
国際ジェンダー学会ウェブサイト
http://www.isgsjapan.org/journal/files/15_kitanaka_chisato.pdf
徹底的に向きあって寄り添う。国境を越えて共通する大事にしていること

浜田:こうした支援には段階があると思いますが、全国女性シェルターネットが日常の支援活動の中で大事にしているポイント、そして財政的な問題も踏まえて、困難だなと感じている点を教えてください。
北仲:世界中の関係者と話すと、実は大事にしていることが一緒だということが分かります。
DV被害者の方々は「お前なんかどうしようもない奴だ」といった具合に、相手にコントロールされてしまっていて、「ここから逃げられない」とパワーが落ちてしまっている状況です。そこで、私たちはその状態の方たちとなんとか繋がりを持ち、とにかく話を聞き、自分は本当に何がしたかったのか、どんな気持ちだったのか、自分自身で決めてもらうように促します。「あなたはこうすべきだ」などというと、再び誰かに支配されてしまうので、なりたかった自分を決めるのにじっくり付き合うというのが、民間でも公的なセンターでもすごく大事で一番難しいことなんです。
自身が元被害者という支援者も非常に多く、自らの経験から被害者の恐怖心や辛かった出来事を理解できます。被害者本人が今じゃないところに進むことを考え、決めてもらう。そして、その気持ちを整理し、作戦を一緒に立て、作戦を実行するためには「逃げてくる部屋があるよ」「シェルターもあるよ」など、こまごまとしたお手伝いをする。「世の中にはなかなか伝わらなくても、私たちには分かるよ」と時間をかけてじっくり話しをしています。
もう一つ、私たち民間支援者が大事にしているのは「同行支援」です。なぜなら、まだまだ社会的にはこうした問題に対する理解が低い状況だからです。解決に向けて、「警察に行ったらいいよ」「弁護士に行ったらいいよ」と、ただ対処法を助言するだけの中途半端な寄り添い方をすると、行った先で分かってもらえるとは限らないので、また傷ついてしまう。そこで私たちも一緒に行くことで、例えば警察で聞かれることを学んだり、時には「いやいや、そうではないですよ」と説明したりします。理解のある弁護士さん、不動産屋さん、本当によく協力してくれる病院など、社会の様々な方たちとの繋がっていくためには、やはり被害者の方と一緒に行動することがとても大事です。それによって社会の壁も見えるし、道も拓けてくると思います。
浜田: 新型コロナウイルス感染症のパンデミックによってこれまでとは暮らし方が異なり、家にいる時間が長くなる、失業したストレスなどによるDVや性暴力の被害が世界中で増えたと言われています。その状況は日本でも深刻でしたか?
北仲: そうですね。新型コロナ関連の給付金が国民に配られるという話を聞き、かなりの関係者が「震災の時と同じことが起きる」と考えたんです。世の中が非常時となり一気に何かが動くときに、DVで家を出ているというような特殊な事情を持った人たちは、置き去りにされていってしまう可能性があると感じたのです。
10万円の給付金が配られましたが、それが世帯主に配られるということでしたから、一番欲しい被害者(母子)が受け取れないのではないかと考えました。また外出自粛などを受け、相談に来ていた人はこれなくなる。加えて女性の雇用もかなり厳しくなり、家を出ようとしていた人も出られなくなる。そうした懸念から、国に要望書を提出しました。
浜田:普段、行政から見えない、もしくは、見えづらい課題を抱える方たちは、何かがあったときに一番先に救わなければならない方たちだ思いますが、救えていないということでしょうか。
北仲:そうですね。外国人の方もそうだと思います。情報も届きにくく、そのような方たちにはオーダーメイド的な配慮をしなければいけないのですが、できていないと感じています。さらには、支援したいと考えても、資金面と人材の確保が大きなハードルとなっています。
休眠預金を活用して学びの場を。慢性的な課題を今、乗り越える
浜田:休眠預金活用事業ですすめておられる活動の一つに専門の相談支援員の育成がありますが、どのような育成研修となっていますか?
北仲:日本では、こうした相談支援が専門的な仕事だと思われていません。外国ではソーシャルワーカーやDVアドボケット(被害者の声を代弁して支援する人)と呼ばれているのですが、日本の相談員はただ悩みを聞くだけの誰でもできる仕事だと考えられているのです。しかし実際の被害者支援は、心理系の知識はもとより、行政の制度、法的な知識など様々なことを知っていないとできません。相談員は「誰でもできる仕事」ではなく、専門的な知識が必要な職業なのです。
近年、DVの相談窓口があることが大事だと、各県に「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」が設置されました。このような窓口をもっと増やしていくという時に、誰でもいいからと相談員を集めると、とんでもないことになります。知識のない人に相談した人は、本当に気の毒です。
官民ともにそろそろ世代交代というのもあるので、若い世代で相談員になりたい、支援をしたいと思っている人たちがちゃんと知識を習得して、OJTでトレーニングを受けられる育成の場をつくる必要があると考えています。とはいえ、国に要望しているだけでは実現は遠い。何を学ぶ必要があり、どんな知識が必要か、どんな人が相談員になるべきなのかを一番知っているのは、私たち民間の支援者です。世界の支援者ともつながっているので、世界的な基準の情報を得ることができます。だからこそ、私たちがまず「これが専門職」と定義し、人材を育てられるテキストやカリキュラムをつくることが急務だと思っています。
休眠預金を活用して3年間の事業を実施しています。1年目は、どんなカリキュラムにするかをとことん検討したり、海外の情報を収集したりしました。2年目となる今年は、最終的なカリキュラムを詰めています。コロナ禍でオンライン化が急速に進み、e-ラーニングについても学び、全国の希望者が自分のペースで学べるようなオンライン学習システムづくりにも取り組んでいます。今年の冬には試験的な運用を始め、来年には受講者を募集する予定です。その後は、新たに立ち上げた一般社団法人で資格認定を行う仕組みを計画しています。

DV被害・性暴力に関する認定資格で、専門家を育成。より手厚い支援を目指す
浜田:e-ラーニングを受けて認定資格を得た人が、どんな形で活動することを思い描いていますか?
例えば、専業でなければいけないのか、副業として自分ができる範囲でも活動できるのか。学んだ方がたくさん育ってきたときの将来像をお聞かせください。
北仲:民間もそうですし公的にもDVや性暴力の相談施設を増やそうとしているので、相談員を育て増やしたい。だからこそ、相談員をやりたいと考えている方々にまず学習してもらい、同じレベルで支援活動に取り組める人たちを育て、最終的にはきちんとした職業として確立したいというのが一つの想いです。
もう一つは、講座にいくつかのコースや段階を設定していくことを計画しています。役所の方、裁判所の職員、警察関係者など、すでにDVや性暴力の被害者と向き合う仕事をしている方もいますし、これから新たに関わる人もいます。また、NPOやボランティアで関わりたい人もいます。入門コースからより専門的トレーニングを受けられるコースなど、受講内容を検討しています。そうして「私も専門家だ!」と自信を持って言える人材を育てたいですね。
浜田:役所の方や警察関係者が受講できるというのはすごく大事ですね。先ほどのお話のように、被害者が二次的に傷ついたり、また傷つくのが嫌だから相談に行かないという方もいらっしゃるので、最初の段階できちんとした対応ができれば、相談しやすくなりますよね。加えて、ボランティア活動などで関わりたいけれども何ができるのか、どう関わればよいかわからない方もいらっしゃると思います。そのような方のためのコースもあるとのことで、視野が広がりやすく、支援者を増やすことにも繋がりそうですね。
北仲:そうですね。実はDVだけではなくて、性暴力の相談を受けられる人が少ない。私は、セクハラに関する仕事に長く携わっていますが、セクハラへの正しい対応を判断できる仕組みを持っている組織も本当に少ない。二次被害、三次被害の嵐なんです。被害者が相談窓口を訪れたり、会社に訴えたり、行動を起こした後で「何でそんな対応をしたの?」というような事例が多く、結局、窓口ができても本当の支援まで辿り着けません。
今回の取り組みを通じて、各組織や役所や警察の対応の仕方など、社会全体をもう少しグレードアップすることにつながればと考えています。
浜田:そういう意味で相談員、そして支援員の育成・養成事業というのはすごく意味があり、価値がありますね。休眠預金を活用してみていかがですか?
北仲:自治体がNPOや民間シェルターに対して多少は支援してくださるんですが、事務所・シェルターの家賃補助などを対象に年間で数十万円ほど。基盤となる人件費や光熱費などは支援の対象外です。
「民間にまったく支援がいかないのは問題」ということで、内閣府がパイロット事業をやってくださっていますが、それは通常の事業に加えて新しく先進的な試みをしたところに対しての助成となっています。普通の活動が回せるような強い団体でなければ、助成対象になりにくい点が難しいところです。
実行団体として2019年度にまちぽっとの事業に採択いただき研修制度の立ち上げに取り組んでいますが、2020年度には新型コロナウイルス対応緊急支援助成の2019年度採択団体向けの追加助成も活用させていただきました。全国の関係者にこの8、9月、どんな支援活動をどのくらいの時間したのか活動報告をしてもらい、各自が働いた分の人件費を、緊急支援助成を活用して支払いました。現場の人からは「(この活動で)初めて給料をもらった」という声も多く届きました。
また、活動報告からは、何月何日に被害者Aさんの病院や裁判所に付き添った、今後への作戦会議をした、シェルターに入ってくる人の荷物運びを手伝ったなど、支援活動の実態がよく見えました。これまでは、なかなか支援活動の全容をつかむことができていなかったので、私たち民間シェルターの支援活動、イコール、被害者支援とはこういう活動なのだ、ということを描き、多くの方に伝えていくことにも活用させていただこうと思っています。そういう意味でも今回の助成はとてもありがたかったです。
浜田:助成をきっかけに活動が見える化したわけですね。今後の活動の発展が期待されます。今日はお話を伺い、本当に勉強になりました。ありがとうございました。
北仲:ありがとうございました。
■北仲千里さん プロフィール■
NPO法人 全国女性シェルターネット共同代表を務める傍ら、広島大学ハラスメント相談室准教授としても活躍中。1967 年和歌山県新宮市に生まれ、ジェンダー論を中心に社会学を専門に研究。名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程修了後、1997 年頃より「キャンパス・ セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク」設立にかかわる。以後、DVや性暴力などに関する被害者支援にも積極的に携わる。
■浜田敬子さん プロフィール■
フリージャーナリスト。1989年に朝日新聞社に入社。「週刊朝日」「AERA」編集部を経て、2014年に「AERA」初の女性編集長に就任。2017年同社退社後はオンライン経済メディア「Business Insider Japan」日本版統括編集長を2020年12月まで務める。各種メディアにコメンテーターとして出演する傍ら、講演活動や執筆も行う。1996年山口県生まれ、上智大学法学部国際関係法学科卒業。
■事業基礎情報
実行団体 | 特定非営利活動法人 全国女性シェルターネット |
事業名 | 「女性に対する暴力」専門相談支援者育成事業 |
活動対象地域 | 全国 |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 まちぽっと |
採択助成事業 | 市民社会強化活動支援事業 〈2019年度通常枠・草の根活動支援事業・全国ブロック〉 |