横浜こどもホスピス~うみとそらのおうちができるまで

2021年11月 横浜市金沢八景に「横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち」が誕生しました。多くの人たちの想いが重なった誕生までの道のりをご紹介します。

若者が安心して過ごすことができて、夢や悩みを共有できる場所と機会を提供したい。そんな思いで20年11月に開設されたのは、長野県岡谷市にある「子ども・若者STEPハウス みんなの古民家」(以下「みんなの古民家」)です。立ち上げたのは、20年度緊急支援枠〈資金分配団体:公益財団法人長野県みらい基金〉の実行団体NPO法人子どもサポートチームすわ。同法人の理事長 小池みはるさんは、不登校の子どもたちを支援するフリースクールの活動を20年以上続けています。フリースクールを卒業した後に引きこもりに戻っていく子どもたちの現状を知り、「次の居場所が必要だ」と考えて、みんなの古民家を開設しました。みんなの古民家を続ける思いなどについてお聞きしました。

フリースクールを卒業した後の居場所づくり

みんなの古民家を運営するNPO法人子どもサポートチームすわは、岡谷市の隣にある諏訪市で、1997年からフリースクールを運営してきました。

諏訪市にあるフリースクールの一室。学校へ行っていない小・中学生と高校生が通っている。
諏訪市にあるフリースクールの一室。学校へ行っていない小・中学生と高校生が通っている。

20年以上にわたり、不登校の子どもたちが自分のペースで学べるよう支援を続けるなかで、巣立っていく子どもたちの“その後”に課題を感じていたと理事長の小池みはるさんは言います。

小池みはるさん
小池みはるさん

「フリースクールを卒業した後に家で引きこもりになったり、就職しても続かなかったりする子どもたちをたくさん見てきました。フリースクールに通っている期間は私たちがサポートできますが、本当に『引きこもり』になってしまうのは、その後なんですよね」

みんなの古民家やフリースクールには、絵が好きな子どもたちが多いそう。
みんなの古民家やフリースクールには、絵が好きな子どもたちが多いそう。

フリースクールを卒業した後も、子どもたちが安心して過ごせる居場所をつくりたい。その必要性を強く感じた小池さんは、新たな拠点の立ち上げを検討。場所を探していた小池さんに、ある出会いが訪れます。

「私が拠点をつくろうとしている話を聞いた方から、『古民家使う?』と電話をいただいたんです。とはいえ岡谷と諏訪は離れているし、連絡をいただいた当初は消極的でした。でも試しに子どもたちと一緒に見に来たら、一目で気に入ったんです。それが、この物件でした」

子どもから大人まで、誰もが集える「居場所」

みんなの古民家の入口
みんなの古民家の入口

「みんなの古民家」があるのは、岡谷駅から車で10分ほどの住宅地。敷地内には、築150年ほどの母屋、蔵と納戸があります。

2020年8月、次なる居場所をこの古民家に決めた小池さんは、活動の資金源として休眠預金の活用を申請し、古民家の改装を進めました。そして現在は、不登校の子どもたちや引きこもりの若者たちが安心して過ごせる居場所として、週に4日間開放。現在、定期的に通って来るのは小学生が2人。他にも中学生や高校生が訪れます。

場所を構えてみて、さまざまな事情を抱えた子どもや大人がいることを実感したと言います。

「例えば、専門学校を卒業した後に引きこもりになった27歳の男性が、ここに来るようになりました。彼は調理師の免許を持っていて、今ではここのスタッフとして週2回食事をつくってくれています。なぜみんなの古民家に通うようになったのかを聞いてみると、『人と普通に話せるのが良かった』と言うんです。他にも、『友だちが欲しかったから来た』と答える子がとても多くいます。

場を開くまでは、居場所をつくるだけでなくもっと具体的な支援を検討していたので、場を開いてみて初めて、彼らが一番求めていたことに気づかされました」

母屋の屋根裏は子どもたちがかくれんぼをする遊び場に。お泊まり会も企画中。
母屋の屋根裏は子どもたちがかくれんぼをする遊び場に。お泊まり会も企画中。

みんなの古民家では、子どもたちに向けたイベントや勉強会だけでなく、保護者向けの座談会も定期的に開催し、包括的なサポートの場になっています。

ある時は、引きこもって10年が経つ40歳の子どもがいる親御さんから、小池さんのもとに相談の電話がかかってきました。

「親御さんと私たちがつながっていれば相談を受けられますが、子どもが30代や40代にもなってくるとご家族が疲れてしまって、途中で連絡がなくなることも少なくありません。だからこそ『みんなの古民家』は、同じ経験をしている親御さんどうしが気持ちを分かち合える場所にしていきたいですし、年齢や事情に関わらず誰でも居場所にしてもらえたらと思います」

助けられる存在から、助ける存在へ

みんなの古民家を立ち上げてから、2023年で3周年。子どもたちが集まり、会話が生まれるなかで、助け合いの場面がたくさん見られています。

「みんなの古民家には個室がなくて、隠し事ができない空間です。誰かがポツリと悩みを話すと、『僕もそうだったよ』『焦らないでいいよ』と子どもたちが思いつくまま話している光景をよく目にします。引きこもっていた経験を誰かに話すことで、誰かの役に立てる。子どもたちは決して『支援を受けるだけ』の存在ではないことを実感しています」

さらに、かつて支援を受けていた子どもたちが、みんなの古民家で誰かをサポートする仕事に就くケースも生まれています。

「フリースクールを卒業して、今は古民家のスタッフとして働いてくれている人もいます。彼らの残りたい気持ちと、他に就職できるところがなかった現実の結果ですが、だんだんと循環が生まれてきました。

現在は、みんなの古民家の運営はほとんどスタッフに任せていて、私はなるべく入らないようにしています。スタッフの間で『ここに来る人に大切なのは、友だち・お腹を満たすこと・お金の使い方を学ぶことの3つ』といった話をしているようですね。毎月のイベント企画も、スタッフが考えています」

コロナ禍で直接人と話す時間が減るなか、古民家で食卓を囲む楽しいひととき。
コロナ禍で直接人と話す時間が減るなか、古民家で食卓を囲む楽しいひととき。

立ち上げ前から地域の方を中心にさまざまな方がサポートに加わってくれたそうで、場を開いた後もその関わりは続いています。

「地域と関わるなかで、区長さんが『引きこもっている子どもたちが地区に何人もいるのはわかってはいるけど、家庭のことだから、これまで口を出せなくて……』とおっしゃっていたのが印象に残っています」

みんなの古民家ができたことで地域に生まれた、新たなつながり。今では近隣の住民から、引っ越しや草むしりの手伝い、高齢者の買い物支援など、単発の仕事が入ることもあるそう。みんなの古民家から、地域のつながりが広がっています。

みんなの古民家の庭で餅つき。生活クラブのみなさんから教えてもらい、子どもたちも挑戦。
みんなの古民家の庭で餅つき。生活クラブのみなさんから教えてもらい、子どもたちも挑戦。

小池さんは、みんなの古民家に通う人たちが、もっと自分で稼ぐことのできる事業をつくりたいと考えています。

「例えば農園に行っても、収穫して売るだけの“いいとこどり”だけでなく、事業の一通りを自分たちの手でできるようにすることで、責任と社会性を持つ経験を提供したいと思っています」

近々、生活クラブとの協働でパン屋を始める計画があるそう。さらに、敷地内の蔵を使って何か新しいことができるように、小池さんの私費を使って改装しました。

「この古民家は、あくまでも走り出すための場所です。ここで準備をして社会へと走り出せるように、市の支援を活用したり自分で探せるようにサポートしたりと、自立のために背中を押していきたいです」

みんなの古民家新聞。スタッフでアイデアを出し合って作成している。(こちらの画像、STEPハウスのウェブサイトからお借りしています)
みんなの古民家新聞。スタッフでアイデアを出し合って作成している。(こちらの画像、STEPハウスのウェブサイトからお借りしています)

支援を継続するための3年目の課題

一方で、みんなの古民家3年目に向かって、運営の課題も見えてきました。

大きな悩みは資金面。休眠預金の事業年度が終了し、その他の助成金活用をはじめ、資金確保の方法を模索しています。

「どんな法人格にするのがいいのか、お金をどうしていくか、毎日悩んでいます。いただいた助成金や寄付を使っていくだけではなく、資金を増やしていく仕組みを考えなくてはいけないですね」

もう一つ、早急に必要なのは、引きこもっている子どもや若者たちに直接アクセスする広報活動です。現在はスタッフや子どもたちがSNSで発信しながら、公民館活動が盛んな岡谷の土地柄を活かしてチラシを置いてもらうなどの連携を進めています。

「これまではチラシやウェブサイトで広報してきましたが、それらにアクセスするのはほとんどが親御さんです。引きこもっている当事者と親御さんとの関係性が良好でない場合も多いですから、親御さんだけでなく『みんなの古民家』を求めている当事者に情報を伝えられるように、方法や手段を変えていかなくてはと考えています」

みんなの家のモットーは、「明るく、楽しく、ゆっくり進もう」。
みんなの家のモットーは、「明るく、楽しく、ゆっくり進もう」。

小池さんと子どもたちは、資金の目処がつけば、みんなの古民家で「文化祭」がしたいと話しているそうです。「引きこもりの人もそうでない人も、障がいのある人もない人も、誰でも来てほしい」と小池さんは話します。

「今の社会では、誰が引きこもりになってもおかしくありません。ですから誰もが引きこもりへの理解を深められる機会をつくったり、引きこもっている子どもたちのエネルギーをいかに引き出せるかを考えたりしていきたいですね。

生きるという点ではみんな同じ。場があれば助けることができるし、私たちや皆さんが助けられることもあるでしょうから、これからもみんなの古民家を続けていきたいです」

取材後、子ども・若者STEPハウスは、 NPO法人子どもサポートチームすわから独立。また、現在、公益財団法人長野県みらい基金が運営するサイトで、クラウドファンディングを実施中です。

【事業基礎情報】

実行団体
特定非営利活動法人子どもサポートチームすわ
事業名

コロナ禍の発達特性のある子ども・若者支援

活動対象地域
長野県諏訪市、岡谷市周辺地域
資金分配団体
長野県みらい基金

採択助成事業

2020年度コロナ枠

2019年、台風による水害に遭った福島県いわき市。地域を形づくっていたはずのコミュニティは一気に薄まっていました。「コロナ禍の前から、この地域はずっと自粛状態だったんです」と語られるとおり、失われた日常は未だに戻ってきていません。そのような状況で、コミュニティサロンの活動を通じて地域をつなぎ直すハブとなっているのが一般社団法人Teco(てこ)です。資金分配団体である一般社団法人RCFの採択事業として、水害を機にサロン活動を始め、場づくりから地域の新たな可能性を生み出しています。そんなTecoを動かす原動力は、どこにあるのでしょうか。※この記事には2019年の台風19号によっていわき市内で発生した水害の写真が含まれています。”

水害で求められる長期的なサポート

今回ご紹介する一般社団法人Teco(以下「Teco」)は、福島県いわき市で活動を始めました。市内には、原発事故で被災した人々が暮らす復興公営住宅が16箇所あります。

Tecoを設立した3人は、設立以前はNPOに在籍し、復興支援住宅でのコミュニティ支援に携わっていました。新たに一般社団法人を立ち上げた理由を、Tecoの代表理事である小沼満貴(おぬま まき)さんはこのように話します。 「NPOだからできる活動もたくさんあったのですが、私たちはもう少し小さい規模で、何かあったらすぐに動けるチームでありたいなと思ったんです」
▲ Tecoのサロン活動に関わるメンバー。左から2人目が、今回取材に答えてくださった小沼さん

Tecoを設立した3人は、設立以前はNPOに在籍し、復興支援住宅でのコミュニティ支援に携わっていました。新たに一般社団法人を立ち上げた理由を、Tecoの代表理事である小沼満貴(おぬま まき)さんはこのように話します。

「NPOだからできる活動もたくさんあったのですが、私たちはもう少し小さい規模で、何かあったらすぐに動けるチームでありたいなと思ったんです」

そうして2019年5月、一般社団法人Tecoが誕生。しかし立ち上げから5ヶ月経った10月、いわき市を台風19号が襲います。市内を流れる夏井川が氾濫し、約7,000世帯が罹災しました。

このとき、市内でも特に被害状況がひどかったのが「平窪地区」です。住宅の1階部分に川から氾濫した泥水が流れ込み、日常が一瞬して奪われました。

▲ 水害時の平窪地区

事務所を平窪地区に設置していたことがきっかけで、Tecoも平窪地区で活動することを決めます。

「災害直後に求められる浸水した家の片付けや泥のかき出しも、すごく重要な役割です。ただ、私たちは避難を余儀なくされている方々に寄り添うことや、地域で失われてしまったコミュニティを再構築することなどの長期的な支援も欠かせないと感じています。

行政の目が行き届かなくて支援が必要な方が取りこぼされたり、生活がガラッと変わって高齢の方に精神症状が現れたり。これまで復興公営住宅で見てきた事態は、平窪地区でも今後おこりうると考えました」

こうしてTecoは、復興公営住宅での自分たちの経験を活かした支援を始めたのです。

言えなかった「助けて」を言える場をつくる

水害の直後、生活の再建が最優先で求められていた平窪地区は、どのような状況だったのでしょうか。

「家の1階が水没していても、2階で生活する在宅避難の方が多くいらっしゃいます。外に出てみれば、庭も公園もゴミの山。子どもを外で遊ばせられない状況で、2階で家族みんなで暮らすのは相当ストレスが大きいはずです。 それに、車が水没しているので、買い物や病院に行きたくても行く術がない。炊き出しや物資配布がいつどこで実施されているのか、情報が入ってこないまま暮らしている方も多かったですね」
▲ 水害後、公園や道路脇には使えなくなった家財道具が集められた

「家の1階が水没していても、2階で生活する在宅避難の方が多くいらっしゃいます。外に出てみれば、庭も公園もゴミの山。子どもを外で遊ばせられない状況で、2階で家族みんなで暮らすのは相当ストレスが大きいはずです。 それに、車が水没しているので、買い物や病院に行きたくても行く術がない。炊き出しや物資配布がいつどこで実施されているのか、情報が入ってこないまま暮らしている方も多かったですね」

水害前の日常に戻りたくても、戻れない──そんな平窪地区で始まった支援物資配布とサロン活動にTecoも加わり、被災した方への対応を始めました。

「みなさん憔悴しきっていましたから、ほっとする時間を持てたらいいなと思ったんです。そこでまずは、いつでも誰でも、何の用事がなくても立ち寄れる場所を設けました。先が見えなくて不安でいっぱいの毎日で、一瞬でも笑顔になれたりほっとできたりする場が必要なんだな、と強く実感しましたね」

行政だと困りごとの内容によって対応できる部署が分かれているため、何をどこで相談すればいいのかわからない人もいたようです。だからこそ、Tecoでは不安な気持ちの受け皿になるために、「悩みごとがあったらぜんぶ言ってくださいね」と声をかけるようにしていました。

「水害のように地域全体が大変な目に遭ったとき、『弱音を吐いてはいけない』『みんな頑張ってるんだから』と気を張る方が多いように思います。そういうときに『助けて』と言える関係性になるためにも、些細なことを話して、面と向かって心を通わせる。人と人が触れ合う時間が重要なんだな、と気づかされました」

コロナ禍でも、人と人がつながることを守るために

いつ行っても、誰かがいる場所をつくりたい。不定期のサロン活動を経て、Tecoは定期的なサロン活動を模索していきます。その過程で知ったのが、休眠預金活用事業でした。

「一時的にイベントを開催することもひとつの方法ですが、私たちのサロン活動の場合、続けることが重要だと思いました。ですから長期的に活動を持続できる仕組みを求めていたんです」

こうしてTecoは、資金分配団体である一般社団法人RCFに2019年度の休眠預金の活用を申請します。その後審査を経て採択され、2020年2月に「コミュニティ創出と健康支援の継続的な仕組みの構築」事業をスタートしました。

「朝9時から夕方4時まで毎日サロンを開いていました。1日で50人程度、多いと100人近くの方々が寄ってくれるようになって、世代も立ち寄る目的もさまざまです。学校帰りに顔を出してくれる子もいれば、お茶を飲んで帰られる年配の方もいて、毎日にぎやかで。こういう、いつでも誰でも行ける場所って、ありそうでないんですよね」

▲ 2020年2月、はるな愛さんがTecoを訪問

しかし休眠預金で活動を始めた直後、新型コロナの影響がいわき市内にも及びます。人と関わることを重視してきたTecoにとって「人と人が会えなくては、コミュニティ支援なんてできない」と悩んだ時期もありましたが、それでも活動を完全に中止することはありませんでした。

「地域のコミュニティをつくり直そうとしていた時期にTecoが活動を中止したら、地域の方々がますます人とつながることを萎縮してしまう、と思いました。

コロナの影響が出てくる半年以上前の水害のときから、この地域ではみなさんずっと自粛している状態なんです。『とにかく私たちはここにいるから、いつでも来てね』というメッセージを届けたくて、コロナ禍でもコミュニケーションをとる方法を模索してきました」

サロン活動は一時休止しながらも、お便りをつくってポスティングしたり、外のプランターで野菜をつくったり。いっぱいに実った野菜から「ここには誰かが来ているんだな」というメッセージを受け取り、久しぶりに顔を出してくれた方もいたといいます。

▲ 回覧板やポスティングで地域に情報を届ける「てこてこ通信」

感染対策に留意しながら、2020年7月にはサロン活動を再開。8月に久しぶりに開催したイベントは夏祭りでした。その後もハロウィンやクリスマス会、お花見など、精力的に季節のイベントを続けました。

「季節の変化や非日常を一瞬でも味わってもらうことで、次の楽しみまでなんとか心を持たせられるような、拠り所になったらいいなと思いました」

さらに、Tecoに集う利用者どうしの出会いから、サークル活動も生まれました。例えば、サロン活動を始めてすぐに動き出した「ママサークル」。メンバーの得意分野を活かしてレジンアクセサリーを制作したりダンスを発表したりと活動していくうちに、今では地元のマルシェで出店するようになりました。

「いろいろな方とお話していくうちに、この方とこんなことできそう、この方と一緒にこれ楽しめそうだな、と思いつくんです。

控えめなお父さんと話していくうちに、お花の先生の資格を持っているとわかったので、クリスマスのフラワーアレンジメントをつくるイベントで講師をしてもらったことがありました。そうやって普段の会話からつながりを引き出して、サロン活動で広がっていくことはよくありますね」

「何かしてほしい、よりも、何かしてあげたい、と思っている方も多いと思います。実際、野菜のつくり方とか平窪地区の歴史とか、いろいろなことを地域のみなさんから教わっているんです。 だから私たちが『支援している』という感覚もなくて、みなさんに対して『わからないので教えてください』とか『それってすごいですね』と同じ目線でお話しています」
▲ Tecoの場には、地域コミュニティに存在していた助け合いの関係が広がっています。

「何かしてほしい、よりも、何かしてあげたい、と思っている方も多いと思います。実際、野菜のつくり方とか平窪地区の歴史とか、いろいろなことを地域のみなさんから教わっているんです。 だから私たちが『支援している』という感覚もなくて、みなさんに対して『わからないので教えてください』とか『それってすごいですね』と同じ目線でお話しています」

続けることでつながる縁と可能性を信じて

2021年8月に終了した、今回の休眠預金活用事業。コロナ禍を挟みながらも、2020年2月からの1年半で、サロン登録人数は183人に増え、サロン利用者数とイベント参加者数は延べ5,997人にのぼりました。

Tecoはその後も形を変えながら、平窪地域で活動を続けていきます。その関わり方のひとつが、防災とコミュニティを組み合わせたまちづくり。水害があったからこそ、防災意識が高い街を目指しています。

休眠預金活用事業の活動や広報の積み重ねをきっかけにいわき市からTecoに声がかかり、休眠預金活用事業終了後は、いわき市の補助を受けて防災に関わる事業を継続できることになりました。

「Tecoで防災講話のイベントを開催したら、すごく好評だったんです。というのも、以前開催された防災イベントの参加者は、年配の男性がほとんどだったみたいで。でもTecoで開催したら、いつものサロンと同じように、子どもからお年寄りまで来てくださったんです。

こうやって、他の組織が得意なことと、私たちが得意なことを補い合いながら、平窪がどこよりも住みやすい街になるように携わっていきたいなと思います」

Tecoにとって、2年近く活動してきた平窪地区は「住民のみなさんが私たちにも家族のように接してくださるおかげで、『地元』のよう」といいます。

「Tecoの由来は、小さな力で大きなパワーを発揮する『てこ』の原理です。できることはちょっとかもしれないけれど、これからも出会いを大切にしながら、少しずつ縁を広げていきたいです」

■休眠預金活用事業に参画しての感想は?
水害によって目の前に困っている方々がいる状態で、Tecoとして早く活動を始められたのは、今回の助成がとても充実していたからです。長期にわたって活動に集中できたため、この事業だから関われた方や携われたことがたくさんありました。それから、資金分配団体としてRCFさんが伴走くださったことも心強かったです。助成金を出して終わりではなく、必要な人に必要な支援が行き届くための仕組みだと思います。(Teco 小沼さん)

■資金分配団体POからのメッセージ
Tecoさんの活動は「人に寄り添う」ことを徹底的に続けていらっしゃいます。事業を始めてから歩みを止めずに活動されてきたからこそ、数値に表れる成果はもちろんのこと、数値だけでは見えないTecoさんの役割の大きさを感じてきました。私たちとしても、こういう活動が休眠預金活用事業のなかで実現できたのはありがたいことだなと思います。(一般社団法人 RCF)

取材・執筆:菊池百合子

【事業基礎情報】

実行団体
一般社団法人 Teco(福島県いわき市)
事業名
コミュニティ創出と健康支援の継続的な仕組みの構築
活動対象地域福島県いわき市
資金分配団体一般社団法人 RCF
採択助成事業

『大災害後の生活再建推進事業
 ~企業・地域・NPOが連携し地域コミュニティと経済再生を目指す』

〈2019年度通常枠〉

グッド・エイジング・エールズ代表・松中権さんに、元アナウンサーでエッセイストの小島慶子さんが伺いました。

2020年秋、東京都新宿区にオープンした『プライドハウス東京レガシー』は、日本初となる常設の大型総合LGBTQセンターです。「プライドハウス東京」コンソーシアムの事務局であり、本施設の運営を担うのは『特定非営利活動法人 グッド・エイジング・エールズ』。2つの資金分配団体「特定非営利活動法人 エティック(2019年度通常枠)」「READYFOR株式会社(2020年度緊急支援枠)」の実行団体として休眠預金を活用し ています。今回は、グッド・エイジング・エールズ代表の松中権さんに、元アナウンサーでエッセイストの小島慶子さんがLGBTQを取り巻く環境や休眠預金を活用した事業の取り組みなどについてお話を伺った様子をレポートします。

▼インタビューは動画と記事でご覧いただけます▼

「自分らしさ」を体現できる場づくりを。留学体験で抱いた松中さんの思い

小島 慶子さん(以下、小島):はじめに、グッド・エイジング・エールズはどのような活動をされているのでしょうか?

松中 権さん(以下、松中):グッド・エイジング・エールズは2010年に立ち上げた団体です。僕らはNPO団体として、LGBTQ+(※1)の方々が社会生活を送る中で、それぞれのセクシュアリティを超えて交流できる「場づくり」をしています。

※1:LGBTQ+…レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランジェンダー、クエスチョニング(自分の性別や性的指向に疑問を持ったり迷ったりしている人)/ クィア(規範的な性のあり方に違和を感じている人や性的少数者を包摂する言葉)の英語表記の頭文字を並べ、LGBTQだけではない性の多様性を「+」で表現している。以下、本文では「LGBTQ」と表示。

小島:活動のきっかけはどんなことだったのでしょう?

松中:僕自身がLGBTQの当事者で、子どもの頃はずっと自分のことを受け止めづらい心境でした。
日本の大学を卒業してオーストラリアの大学に留学をしたときに、はじめてカミングアウト。「自分らしく暮らすことって、こんなに心地いいんだ!」という体験をしました。そこで抱いた「こんな社会になったらいいな」という思いを胸に日本へ戻り、広告代理店に就職したんです。ところがその後、自分らしさをクローゼットの奥深くにしまうように、ヘテロセクシュアル(異性愛者)のふりをした暮らしが8年間続きました。

それでも「自分が自分である部分」を大切にしたいと考えて、再び海外へ。ニューヨークのイベント会社でゲイであることをカミングアウトして働きました。ちょうどオバマ大統領が就任した頃です。社会自体を変えていこうとする動きに刺激を受けて、自分自身もこれだけ心地よく暮らし、働いていけるのだったら、そういう社会が日本にもできて欲しいと思ったことがきっかけとなって、帰国した後にグッド・エイジング・エールズを設立しました。

グッド・エイジング・エールズの松中さん(右)に、ご自身もさまざまな社会課題に対する支援活動をされている小島慶子さん(左)がインタビュー。
グッド・エイジング・エールズの松中さん(右)に、ご自身もさまざまな社会課題に対する支援活動をされている小島慶子さん(左)がインタビュー。

LGBTQにとっていつでも頼れる居場所、それが『プライドハウス東京レガシー』

小島:オーストラリアやアメリカなど海外では同性婚が可能になっている昨今、LGBTQを取り巻く日本の環境はどうなのでしょうか?

松中:まだまだ厳しい状況だと感じています。例えば、LGBTやLGBTQという言葉に関して、電通ダイバーシティ・ラボ(※2)の調査によると約8割の人が知っているという結果でした。同じく、その調査でLGBTQの当事者に「自分がLGBTQであることをカミングアウトできる社会ですか?」と質問すると、「まだまだそんな社会ではない」という回答が7割強もあり、日本社会では差別や偏見などが根強いことを改めて感じました。

※2:ダイバーシティ&インクルージョン領域の調査や分析、ソリューションの開発を専門とする組織。これまで2012年、2015年、2018年、2020年に「LGBT調査」を実施。

小島:日本でのLGBTQに対する差別や偏見の背景には何があると思われますか?


松中:日本カルチャーには、異質なものを締め出そうとしたり、同質であることを評価する風潮があると思います。人とちょっと違うこと自体が揶揄の対象になってしまう傾向が根底にあり、性的指向や性自認が多くの方々とたまたま違う人を排除しようと考えることが背景にあるのではないでしょうか。

小島:そうした状況の中で、なぜ『プライドハウス東京レガシー』をオープンしようと思ったのですか?


松中:海外には「LGBTコミュニティセンター」という常設の総合センターがありますが、日本にはそのような「何かあったらそこに行けばいい」という、安心・安全な居場所がありませんでした。日本のLGBTQコミュニティはずっとそのような居場所が欲しいと願ってきたのですが、なかなかそういう場所をつくるきっかけやサポートもない状態でした。

そのような中、今回の東京2020オリンピック・パラリンピック大会の開催は、社会を変えていく一つの大きな節目になるんじゃないかと思い、『プライドハウス東京』プロジェクトを立ち上げました。

『プライドハウス東京レガシー』のロゴは東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムを手掛けた、野老朝雄氏によるもの。
『プライドハウス東京レガシー』のロゴは東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムを手掛けた、野老朝雄氏によるもの。

小島:実際に活動をはじめて、さまざまな方が訪れているかと思いますが、実感としてはいかがですか?

松中:来場者だけでなく、スタッフの皆さんも、「こういう場所があって本当によかった」とおっしゃっていただいています。僕たちはグッド・エイジング・エールズとして2010年から活動を続けてきましたが、例えばこれまでのイベントなどではお会いしたことがないような方々がたくさんいらっしゃっています。実はイベントに参加することすらハードルが高いと感じる方もいらっしゃるんだということを、ここをオープンして感じています。ご年配の方から親御さんと一緒にいらした保育園・小学校くらいの方まで、幅広い年齢層が『プライドハウス東京レガシー』を訪れています。当事者の方も、そうではない方も、例えばLGBTQのことを勉強している大学生の方なども卒業論文制作のために、蔵書を見に来たりしています。

新宿御苑駅から徒歩約3分ビルの2階が『プライドハウス東京レガシー』。LGBTQの方だけでなく、誰でも利用可能な施設です。
新宿御苑駅から徒歩約3分ビルの2階が『プライドハウス東京レガシー』。LGBTQの方だけでなく、誰でも利用可能な施設です。

小島:LGBTQに関する蔵書が約1,800冊もあるそうですね。

松中:この施設の立ち上げとともに「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」というプロジェクトをはじめたんです。蔵書は、クラウドファンディングによるご支援を中心にして集めました。大人向けのものからユース向けのコミックやLGBTQをテーマにした絵本なども、世界中の大使館の協力も得て集めています。

窓際にはユース向けのコミックや絵本がズラリ(左)。書籍などの紹介をしながら、これまでのLGBTQカルチャーについて語る松中さん。(右)
窓際にはユース向けのコミックや絵本がズラリ(左)。書籍などの紹介をしながら、これまでのLGBTQカルチャーについて語る松中さん。(右)

大切なのは「自分のなりたい自分」。未来を担う若者や中高齢者をラップアラウンド

小島:LGBTQの方々に対する支援も世代別で課題が異なると思いますが、中高齢者向けの支援ではどんなことに取り組んでいますか?

松中:実施している事業の中では、35歳以上を中高齢者と定義しています。その世代の方の一番の悩みは「仕事」です。仕事は人間関係で成り立つことが多いので、カミングアウトできずに自分を隠して人と距離をとってしまっている中、コロナ禍ではよりその距離がとりづらくなり、仕事を休んだり、辞めることになってしまったりしています。

例えばそうした方々には、この『プライドハウス東京レガシー』を一緒につくることに協力していただいています。LGBTQコミュニティ・アーカイブを整理する作業をそうした方々にお願いしているなどがその例で、これも休眠預金を活用した事業で実施しています

小島:特に性的少数者の高齢者にとっては、法律の後ろ盾もなく、誰とどうやって生きていけばいいのかという悩みもあるのではないでしょうか?

松中:そうなんです。そうした問題を受けて、生活支援の相談もはじめています。例えば、同性のパートナーと一緒に暮らす際にLGBTQフレンドリーな不動産屋を紹介したり、自身の性的マイノリティーについて周囲に語ることができない状況で病気を患い、誰にも相談できずに困っている方を行政と繋いだり、多岐にわたってサポートしたいと思っています。

小島:それは心強いですね。では、若者世代の課題はどんなことが挙げられますか?

松中:若者世代は自分が「LGBTQの当事者かもしれない」と気づくタイミングであり、同時に自分自身を受け止めることが難しい年齢でもあるので、そこをサポートすることも課題のひとつです。

「ラップアラウンド・サポート(ラップアラウンド=包み込む)」と呼んでいますが、通常「支援」というと、支援する側がアドバイスするのですが、私たちのラップアラウンド・サポートは、当事者である若者が真ん中にいて「自分がなりたい自分」を会話から引き出し、その想いに近づける手助けをしています。例えば「親御さんへカミングアウトしたい」「女の子として学校に入学したけれど、ずっと違和感を持っていて男の子の制服を着たい」といった個々の悩みに、それぞれどんな方法がよいか、必要であれば学校の先生方や親御さんなどにも入っていただいて一緒に考えます。当事者である若者自身がどうしたいかという点を中心においてサポートをしています。

小島:それはとても心強いでしょうね。全部自分で決めて、誰に言おうかと悩むのは辛いですものね。

松中:インターネットが発達してLGBTQの情報は多くなってきているとはいえ、正しい情報をきちんと届けていかなければいけないと考えています。若者世代は近しい友達からいじめを受けやすい世代でもあるので、ラップアラウンド・サポートを通じて、当事者もしくは当事者かもしれないという方だけではなく、色々な人に知っていただくことも大切だと思っています。実際、高校生と先生が総合学習の中でここにいらっしゃって、LGBTQのことを学ぶということも行われています。

小島:これまでお話を伺ってきて、「プライドハウス東京」コンソーシアムの活動にかなり手ごたえを感じている印象を受けました。

松中:そうですね、手ごたえを感じています。でも、まだこのような施設は東京にしかないので、ゆくゆくは日本全国に届けていきたいと考えています。現在はコロナ禍なのでオンラインでの企画なども検討しています。

インタビューの様子。
インタビューの様子。

休眠預金を活用してLGBTQの「若者」と「中高齢者」向けに2つの助成事業を実施中。

小島:『プライドハウス東京レガシー』のオープンにあたって休眠預金を活用されていますが、このような制度があって本当に良かったですね。

松中:本当に良かったです。この仕組みがあったからこそ、『プライドハウス東京レガシー』ができたと思っています。現在、グッド・エイジング・エールズが事務局となって、2つの休眠預金活用事業を実施させていただいています。

ひとつは2019年度通常枠で、『特定非営利活動法人 エティック』という資金分配団体から3年間の助成を受け、LGBTQユース(子どもや若者)を中心とした支援を行っています。普通の助成は1年間で終わってしまうものが多いのですが、『プライドハウス東京レガシー』は期間限定の取り組みではなく常設の場所にしていきたいので、3年間の助成で『プライドハウス東京レガシー』がどうやったら持続可能になっていくかについて私たちと一緒に考えてもらっています。

実は『プライドハウス東京レガシー』はコンソーシアム型の取り組みで、LGBTQの支援を行う33のNPO団体や専門家と一緒のチームで動いているのですが、エティックの方々にそのチームの中の打ち合わせに入ってもらったり、また組織自体をどのように持続可能にしていくかということを、もともとエティックが持っていらっしゃるノウハウに基づいて支援をいただいたり、資金だけではなく人的なサポートもいただいています。

もうひとつは2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成です。資金分配団体である『READYFOR株式会社』から、LGBTQの中高齢者に向けた支援として1年間の助成を受けています。

コロナ禍で失職して仕事ができず精神的に辛い思いをしている方、さまざまな事情で一時的に仕事をすることが難しい方などを対象に、緊急的に色々な働き方が提供できるようにサポートができており、すごく助かっています。


施設内ではドリンクも提供。ゆったりとくつろいで過ごすことができる空間となっています。新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための対策もきちんと行なっています。
施設内ではドリンクも提供。ゆったりとくつろいで過ごすことができる空間となっています。新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための対策もきちんと行なっています。

東京2020オリンピック・パラリンピックを日本中にメッセージを届ける機会に!

小島:最後に、これから取り組んでいきたいことなどを教えてください。

松中:東京2020オリンピック・パラリンピックの機会をうまく活かしていきたいと考えています。この大会が、一人ひとりが「自分はこれを変えたい」「自分こうなりたい」ということを考えるきっかけになればと。

僕たちの「プライドハウス東京」は、2010年のバンクーバーオリンピック・パラリンピック開催時に誕生した「プラウドハウス」のコンセプトを元にしているので、もともとスポーツとLGBTQがテーマだったんです。ですから大会期間中のタイミングを上手く活かして情報発信していきたいと考えています。日本ではLGBTQをカミングアウトしているアスリートはまだ少ないですが、世界中から応援メッセージが届いており、若者を含めてLGBTQだけではなく日本中の皆さんにメッセージを届けたいと考えています。

(取材日:2021年7月22日)

2021年4月には、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長、橋本聖子さんも来訪。
2021年4月には、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長、橋本聖子さんも来訪。

■松中権さん プロフィール■
NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表。「LGBTと、いろんな人と、いっしょに」をコンセプトに、インクルーシブな場づくりを行うなど、多数のプロジェクトを手掛ける。東京2020組織委員会内での、LGBT勉強会や多様性リーフレット作成監修も担当している。

■小島慶子さん プロフィール■
TBSでアナウンサーとしてテレビ、ラジオで活躍。2010年に退社後は各種メディア出演のほか、執筆・講演活動を精力的に行っている。東京大学大学院情報学客員研究員。呼びかけ人の一人となっている「ひとりじゃないよプロジェクト」では、コロナ禍で打撃を受けている120万世帯を超える母子世帯を応援する活動を精力的に行っている。

■事業基礎情報【1】

実行団体
特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名

日本初の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京」設立プロジェクト

-情報・支援を全国へ届ける仕組みを創り、LGBTQの子ども/若者も安心して

暮らせる未来へ-

活動対象地域東京都、及び全国
資金分配団体特定非営利活動法人エティック
採択助成事業

『子どもの未来のための協働促進助成事業

~不条理の連鎖を癒し、皆が共に生きる地域エコシステムの共創』

〈2019年度通常枠〉

■事業基礎情報【2】

実行団体
特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名

LGBTQ中高齢者の働きがい・生きがい創出

活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業

『新型コロナウィルス対応緊急支援事業

 ~子ども・社会的弱者向け包括支援プログラム』

〈2020年度新型コロナウィルス対応緊急支援助成〉

深刻な社会課題とされる「不登校」「いじめ」「ひきこもり」。その当事者に対する支援は、あらゆる場所で必要とされています。2020年度緊急支援枠・資金分配団体である神奈川子ども未来ファンドの 「子ども・若者支援事業新型コロナ対応助成」で採択された『農園を活用した子ども・若者支援事業』を実施する実行団体「特定非営利活動法人 子どもと生活文化協会(CLCA)」(神奈川県小田原市)は、地域の豊かな自然を生かして、それらの課題に向き合っています。今回は子どもと生活文化協会の元会長であり、現顧問の和田 重宏(わだ しげひろ)さんに、その事業に込めた思いを伺いました。”

体験でしか得られないものを子どもたちに

「子どもたちと大人が対等な立場で様々な活動を展開し、子どもがいかなる環境に置かれてもたくましく生きていく力を身につけてほしい」という考えのもと、1992年に設立された『子どもと生活文化協会(CLCA)』。まだ子どもたちの社会教育の場が少なかった当時、学校教育に週休2日が導入された際に子どもたちの休日の生活の受け皿として発足しました。
和田さんのお父様が戦前に創設された生活寄宿塾「はじめ塾」の一時的共同寄宿生活による教育を受け継ぎ、CLCAは体験型活動を重視しています。

お話を伺ったCLCA顧問の和田 重宏さん

「昭和は専門化された社会で、その分断は様々な問題を引き起こしてきました。わかりやすいのが医療です。医療の進歩とともに、眼科・心臓外科など専門ごとに細分化していきました。核家族化なども分断の一例です。そのような分断はありとあらゆるところで起きていました。では分断を繋ぐものは何なのかと考えたとき、私たちはそれらを繋ぐものは「生活」だろうと考えました。生活はあらゆる分野を含んでいますから。
「昭和は専門化された社会で、その分断は様々な問題を引き起こしてきました。わかりやすいのが医療です。医療の進歩とともに、眼科・心臓外科など専門ごとに細分化していきました。核家族化なども分断の一例です。そのような分断はありとあらゆるところで起きていました。では分断を繋ぐものは何なのかと考えたとき、私たちはそれらを繋ぐものは「生活」だろうと考えました。生活はあらゆる分野を含んでいますから。

もう一つ大切なのは、体験型活動の必要性です。今の子どもたちの生活には動画やゲームなど、バーチャルな世界が多くなっています。つまり子どもたちは体験不足の状態です。また今の教育では「よく考えなさい」と教えるが、「考える」だけでは足りません。考えて、行動を起こす「決断力」が大切なのです。しかし「決断する力」は教えることが難しく、体験の中でしか体得できないと考えています。ですから私たちは、体験でしか得られないものをCLCAで提供したいと考えました。」(和田さん)

今の教育には考えを行動に移す「決断力」を身につける過程が抜け落ちがち。それを補うのが自然を通した生活体験活動なのでは、と和田さんは語ります。

若者と大人の信頼関係を、「体験活動」を通じて再構築

CLCAの活動は、子どもたちとその家族を対象とした「親子体験型食育菜園」や「山の生活体験合宿」、不登校やいわゆる「ひきこもり」の若者の相談窓口やカウンセリングなど多岐にわたります。働く意思のある若者の就業支援をする「サポートステーション」も運営していますが、そのような若者は、ひきこもり状態の若者の数からすると氷山の一角とのこと。現在は、長期にわたって不登校・ひきこもり状態にある若者たちへの支援に多くの時間を割いています。

「ひきこもりや不登校の根っこは一つだと思っています。それは、親や大人、世の中への不信感が非常に強いということです。ですから、まずは「ひきこもる時間も、あなたにとって必要な時間だったよね」など若者たちの存在を肯定し受け止める。そして相談に応じてもらえるように働きかけます。しかし相談だけでは、解決しないことを我々も体験的に知っています。
そこで、コロナ禍でひきこもりなどの社会課題がより深刻化していることをきっかけに、休眠預金を活用して、これまで主に子どもたちとその家族向けに行っていた農園活動と「ひきこもり」の若者たちの支援を結び付けることにしました。これは、これまでもやりたいと思っていてなかなかできていなかったことですが、ようやっと実現できました。

農園の入り口には休眠預金活用事業の事業名の看板も(右側)

これにより面談室のような閉じた空間で話をするだけではなく、彼らが望めばいつでも農園のような場で生活をして、体を動かす実体験を積むことができるようになりました。若者たちは、自然から生きるエネルギーを感じながら、周囲との信頼関係を再構築しています」(和田さん)
これにより面談室のような閉じた空間で話をするだけではなく、彼らが望めばいつでも農園のような場で生活をして、体を動かす実体験を積むことができるようになりました。若者たちは、自然から生きるエネルギーを感じながら、周囲との信頼関係を再構築しています」(和田さん)

対等で分け隔てのない活動を通して、周囲に貢献する喜びを

最近、教育の分野において「インクルーシブ(当事者を含めた)」という言葉を耳にしますが、それはまさにCLCAで重視していること。

「今の福祉行政では、『支援をする側』と『支援を受ける側』とが分かれていますが、私たちの活動では、両者が混在しています。もちろん名札はつけていますが、ぱっと見て誰がひきこもりや不登校の経験者で、誰がボランティアなのかはわかりません。そこに参加している方々はみんな対等です。」(和田さん)

今回の事業も、たくさんのボランティアさんや当事者を抱えた家族がかかわっており、ひきこもりや不登校の若者を社会から隔離してトレーニングするのではなく、社会そのものの中で対等なコミュニケーションが持てるようになることに重点を置いて実施しているとのことです。

農園活動の様子。様々な年代の方が一緒に活動しています。
農園活動の様子。様々な年代の方が一緒に活動しています。

「ひきこもり経験者で農園活動をしている若者に、『君は今、支援を受けている側なの?どう思う?』と聞いたんです。すると彼は『今僕には人の役に立っている実感があるので、ここに来たら自分が支援を受けているという意識はあまりないんです』と語ってくれました。これはとても大事なことだと思います。
このように若者たちが農園での活動を通して、自分の役割を見つけ、周囲から頼られ、やりがいを実感する。2020年11月からこの休眠預金活用事業を始め、休むことなく参加してくれた若者の就労に結びついたり、不登校だった児童が学校に通えるようになったりと、活動の成果も現れ始めています」(和田さん)

専門性の高い相談員の育成など活動の継続に向けての課題は多いとのことですが、それらの課題も経験豊かなボランティアの皆さんの力を借りながら解決の糸口を探し、着実な活動を進めているCLCA。これからも活動を通じて、多くの子どもや若者たちの「小さくも大きな一歩」を応援し続けていきます。

■休眠預金活用事業に参画しての感想は?
今回の活動が休眠預金活用事業だということがきっかけで事業に興味を持って頂き、そこから参加に至ったケースが数件ありました。新たな方々の参加につながったことは、よかった点ですね。また、休眠預金活用事業では、細かい対象者の指定がなく、これにより我々が自由度をもって活動を組み立てることができたことが有難かったです。(和田さん)

■資金分配団体POからのメッセージ
元ひきこもりの青年たちが農園に出てきて、伴走支援をするボランティア・子育て中のお母さん・地域の子どもたちと共に農園体験をする。ただそこから更に就労に繋げるのは本来とても難しいこと。にも関わらずそこまで道筋をつけてくれているCLCAさんの活動は、本当に素晴らしいものです。(特定非営利活動法人 神奈川子ども未来ファンド)

【事業基礎情報】

実行団体
特定非営利活動法人 子どもと生活文化協会(CLCA)
事業名
農園を活用した子ども・若者支援事業
活動対象地域神奈川県
資金分配団体特定非営利活動法人 神奈川子ども未来ファンド
採択助成事業

『子ども・若者支援事業新型コロナ対応助成』

〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉

資金分配団体である『認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ』は、新型コロナウイルス対応緊急支援助成で実施する「子どもの居場所作り応援事業」をともにする5つの実行団体を巡り、日頃の活動状況や課題点などについて話す場を設けました。今回は、実行団体の1つである長野県の『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』の皆さんとオンラインで実施した「これまでの活動の振り返りや、途中経過の報告会」の様子をレポートします。”

原点へと立ち戻ることで意識を改革。 諏訪圏域ならではの草の根的支援活動

「自分がどんなふうに『触媒』として活動できるのかを見つけたい」。JANPIAのビジョンに触れたユニーク自己紹介から会議スタート!
「自分がどんなふうに『触媒』として活動できるのかを見つけたい」。JANPIAのビジョンに触れたユニーク自己紹介から会議スタート!

日本各地にある約5,000か所ものこども食堂の活動支援を行っている 『認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むずびえ』。休眠預金活用事業にて、コロナ禍でも日頃からの繋がりを生かし、創意工夫で活動するこども食堂を包括的に支援するために、各地域のこども食堂ネットワーク団体とともに活動をしています。
また実行団体の一つである『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』は、長野県の諏訪地域のこども食堂、そして子どもたちの居場所づくりを推進し、「子どもの成長を見守る地域づくり」を目指しています。プラットフォームには、子どもたちの居場所などを運営する団体をはじめ、子ども支援をする団体、自治体、地域における民間の福祉活動を推進する社会福祉協議会、地元企業、さらに個人的に取り組んでいる方などが参画。活動する団体や個人との連携体制を作っています。

諏訪圏域での休眠預金を活用した活動が始動してから約半年。今回は『むすびえ』のプログラム・オフィサー(PO)である渋谷雅人さん、三島理恵さんがファシリテーターとなり、『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』の皆さんと、これまでの活動の経緯はもちろん、他圏域での課題点などを例題に、さまざまな視点から「諏訪圏域のこども食堂の現状や未来」について話し合いました。

『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』からは5名のメンバーが参加しました。
事務局で企業や団体支援を担当する木村かほりさん、情報誌などの編集と団体支援を担当している上條美季さん、交流会と団体支援担当の村上朱夏さん、広報誌『月刊ぷらざ』内の「みんなの居場所」を掲載担当の小林佳代さん、そして会計担当の山田由紀乃さん。まずはどのようにしてこの事業をスタートさせたのかを改めて伺いました。

感染対策をしてのお弁当や食材配布の準備。小学生も受付のお手伝いをしてくれました。

「この事業を始めるときに、まず私が絵を描いて説明をしたんです。こうやってみたらきっといいはず!だから、皆さんよろしくお願いしますって(笑)(木村さん)」

そう話してくださったのは、事務局を務める木村さん。メンバー各自が不登校や発達障害を抱える子どもたちのサポートなど、それぞれの活動をする傍ら、子ども食堂の支援活動に取り組んできました。多くの団体と関わりを持つ中で、ときには「何のためにやっているのか?」と自問自答することもあったといいます。それでも前向きに活動を続けてこれた理由がありました。

「コロナ禍で休校を余儀なくされた子どもたちの学びの場が失われたことが、気づきのポイントでした。子ども食堂の運営継続を優先して議論すれば、必然的に子どもたちの声が後回しになってしまう。だからこそ、話すときは必ず『子どもたちのためである』いう原点に立ち戻るように心掛けています(上條さん)」

現在、情報誌などの編集をはじめ、団体支援も担当している上條さん。この活動に参加した当初は食材提供を担当し、現場へ足を運び続けた結果、運営者の方々と互いに意識を高めあう関係性を築くという経験をしました。

そして、交流会と団体支援担当の村上朱夏さんは、活動を通じて主体性が芽生えたそうです。

「上條さんに刺激を受けて、急激に学びに対する意識が生まれてきました。さらに、新たに子ども食堂を始めたいという方との出会いも大きなきっかけに。日頃の活動の様子を写真で伝えてくださったり、SNSの更新をお手伝いしたり。継続的に関係性を築けたことが嬉しかったですね(村上さん)」

こうした意識の変化は、諏訪圏域で子ども食堂を運営する各団体の方々にも波及し、原点に戻ることを念頭に活動してくださっている様子が感じ取れているといい、不足しがちであった子ども食堂同士の情報交換も解消されつつあります。

「とにかくコミュニケーションが増えたことが大きな要因ではないでしょうか。コロナ禍ではあるものの、訪問を続け、食材やハンドジェルなどを届けると自然と会話が生まれて、そこから「こんなことで困っている」と話してくださるようになり、お互いに支援に対する気づきが得られています。そこがスタッフの『やっていてよかった!』にもつながっていると思います(木村さん)」

(写真左)配布するお弁当作りの様子。子どももお手伝いしてくれる時があります。 (写真右)大学生もお弁当や食材をもらいにきます。食べ盛りなので、おかずやご飯の余りを余分にもたせることも。
(写真左)配布するお弁当作りの様子。子どももお手伝いしてくれる時があります。 (写真右)大学生もお弁当や食材をもらいにきます。食べ盛りなので、おかずやご飯の余りを余分にもたせることも。

そう木村さんはいいます。連携する近隣団体との関係性が目覚ましく向上しているのは、地道な取り組みから生まれた成果といっても過言ではありません。「子どもたちのために」という思いを共有し、原点に立ち戻るべく活動の意義を話し合える場所がある。こうした安心感もメンバーの原動力となっているのかもしれません。

互いに頼れる関係性の構築を。 行政や民間企業との連携を目指してチャレンジ

厳しい状況下でありながら自主性を持って実践する活動の様子は、他圏域で活動する団体にも波及し、最近では子ども食堂支援における相談ごとも増えてきたという『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』。今後は、行政はもちろん、SDGsゲームを共に実施するなどして民間企業との連携にも注力したいといいます。

「何をもって認めてもらうかはすごく難しい問題ですが、こういった活動が必要なんだと認めてもらうことが大切です。ただ好きで活動しているのではなく、意義を持って行動していることを知ってもらうことが必要です。金銭による支援、情報共有だけではなく、もっと根っこの部分の話し合いができ、いつでもプラットフォームを頼ってもらえる関係性を構築できるといいですね(上條さん)」

そんな上條さんの意見を受けて話してくださったのは、団体連絡担当として広報を担う小林さん。細かった情報という線が太くなり、張り巡らされることでネットワークが広がり始めているといいます。

『月刊ぷらざ』は長野県諏訪圏域で配布されている地域情報誌。これまで半面だった子ども食堂の情報が一面になるなど需要が高まっています。

「線を面にするには情報がとても重要なんです。私たちプラットフォームが情報を発信して、行政が必要な情報を得る。そして共有する。そういったメリットと私たちの活動がうまくつながるといいなと思います(小林さん)」

それぞれの経験を活かした継続的な活動を通じ、さまざまな団体との関係性を築きつつある今、プラットフォームの役割、そして価値をメンバー全員が自覚できるようになりました。行政や企業に対して、参加を呼び掛ける土台がようやくできてきたことを実感されているそうです。

支援活動の要は「否定をしない」環境づくり。 子どもたちの通訳者となって未来へとつなぐ

「これまでの団体活動は個々の想いや考えによるものが非常に多かったと思います。私自身、不登校の親の会をはじめる際に、『子どもが卒業したから』という理由で解散してしまった団体があることを知り、再び立ち上げるのにものすごくパワーを使ったんです。必要とする人がいつでも利用できる仕組みづくり、そして継続させていくことの必要性を強く感じています(木村さん)」

お弁当を配った後、オンラインでおしゃべりをしながら食事をしている様子。

過去の活動経験から、自分の活動は社会全体から見たときに役立つのだろうかと考えることで視点も変わり、各々の活動状況について意見交換するだけでも社会全体のことを考えるきっかけづくりになるではないかと木村さんは考えました。

「不登校の子どもたちのサポートを通じて、学校との関係性に疑問を持つことが多くあり、それらはさまざまな人との関係性にも当てはまることに気づいたんです。これが正しいと強要すれば反発も起こる。だからこそ、相手の意見を決して否定せず、受け入れる。(木村さん)」

「こうした環境づくりはネットワークをつないでいく上でも非常に大切なことで、年齢や性別を問わず、同じ目標へと向かう仲間づくりができることが大きなポイントなんです(小林さん)」

想いが強いばかりに衝突し、原点回帰するチャンスを逃してしまう方も見受けられる中で、大切なことは、きちんと自分の意見を言える環境と耳を傾ける姿勢。個々を尊重し、決して否定をしない環境づくりこそが、継続的な支援の要となっています。

「ミクロの視点とマクロの視点というのは、すごく大切だなと思うんです。日本社会の現状も知らず、子どもたちにとって何が必要であるかも分からない状態では乖離した活動になってしまいます。私たちは子どもたちと社会をつなぐ通訳者。子どもたちが苦しんでいることを社会へ伝え、同時に世の中の仕組みを子どもたちに伝える役割を担っていきたいと思っています(上條さん)」

自分はどんな人間であるのかといった自己分析の視点も持ちつつ、さまざまな人と触れ合いながら、素直に子ども支援活動と向き合える環境が『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』にはあります。

コロナ前のこども食堂の様子。 (写真左)子どもたちと一緒に巻き寿司づくり。初めて作るというママさんも。 (写真右)家族連れ、ひとり親、学生、地域の大人、大家族のようにみんなで食事をしていました。
コロナ前のこども食堂の様子。 (写真左)子どもたちと一緒に巻き寿司づくり。初めて作るというママさんも。 (写真右)家族連れ、ひとり親、学生、地域の大人、大家族のようにみんなで食事をしていました。

さまざまな会話に耳を傾けながら、自身のご両親も子ども食堂を運営しているという、メンバーの一人である山田由紀乃さんはいいました。

「今日の振り返りでメンバーの考えを改めて確認し、現状を振り返ったことで、諏訪圏域の未来に希望が持てました。このプラットフォームで活動できてとっても幸せです!(山田さん)」

本事業に携わる全員が、イコールパートナーとして同じ社会課題に対して向き合う場をこの半年間で築くことができていること、そして、仲間としての一体感を強く感じた1日でした。


■資金分配団体POからのメッセージ


定期的な面談や今回のお話を伺いながら、『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』の皆さんの活動は、まさに地域の子ども支援を通じた「未来づくりの種まき」なのだなと思っています。地域の力を信じて地域みんなの役割を引き出していく、そして、その役割を社会で発揮していくという受け皿をどのように促していくかといった課題と常に向き合っていますが、諏訪圏域の皆さんの活動は、活動するということを体現されていて、新しい互助会づくりのように思え、草の根活動からのイノベーションの第1章を見ているようで、本当に感動しっぱなしです。
(認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むずびえ / 三島理恵さん)


この半年間の休眠預金活用事業を通じて、「そもそもなぜ活動するのか」という根本に立ち返ることで新たな気づきを得たという皆さん。子どもの権利などを学ぶ場を設けるなど、さまざまな取り組や交流を通じて本当の意味で「活動の意義」に納得し、実行されているのだなと感じています。目の前の人をありのまま受け入れることで、各自の自主性が育まれる場が現実化しており、まさに「波及効果の原点」なのだと改めて実感することができました。

(認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むずびえ / 渋谷雅人さん)

【事業基礎情報】

実行団体

諏訪圏域子ども応援プラットフォーム

事業名コロナ禍でもつながる居場所推進事業いまこそ必要な地域の活動を支える
対象地域

長野県諏訪地域を中心

資金分配団体

認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ

採択助成事業こども食堂への包括的支援事業こども食堂が地域の明日をひらく

2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、不要不急の活動停止を余儀なくされたことで、老若男女問わず、心も身体も疲弊する日々が続く昨今。資金分配団体である「みらいファンド沖縄」では、休眠預金を活用して子どもたちを支援する実行団体からの取り組み報告を通じ、彼らが抱える「困りごと」を明確にし、どのような改善策があるのかを2回にわたる「円卓会議」で検討しました。

地域の「困りごと」を社会課題として捉える 「地域円卓会議」の仕組みとは?

オンラインで開催された第一回の「円卓会議」の様子。
オンラインで開催された第一回の「円卓会議」の様子。

オンラインでの意見交換を取り入れつつ、全2回開催された本会議は、公益財団法人みらいファンド沖縄が過去10年間で開催してきた「地域円卓会議」の94回目、95回目にあたります。みらいファンド沖縄では、こうした会議を地域の「困りごと」を社会課題として共有・共感する場(イシューレイジング※1)として定義し、それぞれが抱える課題、そして社会課題を市民がしっかりと受け止め、議論ができる場所として参加者を募っています。
※1 「イシューレイジング」とは?・・・・・・「イシュー=テーマ」を世の中に認知してもらうことを指す。

特筆すべきは、「円卓会議」と呼ばれるスタイルで開催されている点。論点提供者と着席者と呼ばれる各関係分野の専門家を中心に参加者が円を描くように丸く座り、それを一般参加者であるオーディエンスが取り囲むスタイルで進行します。

今回の会議の第1回(円卓会議の94回目)は、『みらいファンド沖縄』の副理事長・平良斗星氏のあいさつからはじまり、休眠預金活用事業の資金分配団体として資金的支援・伴走支援をしている5つの実行団体の代表者が論点提供者となり、センターメンバーと呼ばれるパネリスト(着席者)3名を迎え、オーディエンスはオンラインにて参加するという形で実施されました。

各支援団体の現場報告から考える、 コロナ禍における子どもたちの放課後の過ごし方の変化

第一回の「地域円卓会議」のテーマは、「コロナ禍において、子どもたちの放課後の過ごし方はどう変化したのか?各現場の報告から考える。」です。

会議は、休眠預金を活用した「新型コロナウイルス対応緊急支援助成事業」の一環として開催され、各実行団体が1年後の事業目標として、それぞれの事業を継続できる体制を整え、社会的に孤立する人々の支援、またその取り組みによって課題の明確化と社会との共有を目指すというもの。それぞれの現場の声をもとに新しいセーフティネットの政策提言の発信を行っていきます。

会議の大きな流れは、論点提供者(6名)から、現在子どもたちと関わる各団体が抱えている課題や疑問に対しての解決策などを、地域の方、またステークホルダに対して論点を話すことからはじまりました。テーマに基づいて論点提供者(前述の各実行団体の発表者)から実際に取り組んでいることと、解決に向けた意見(セッション)が出されると、これらを踏まえて、センターメンバーである各分野の専門家によるコメントを受け、次に幾つかのグループに分かれた一般の方々に討論をしていただくサブセッションを実施。最後は各グループの代表者による意見発表を通じ、再びセンターメンバーたちがテーマを掘り下げていきます。

「地域円卓会議」の振り返りができる手書きの記録。会議を進行しながら作成されています。
「地域円卓会議」の振り返りができる手書きの記録。会議を進行しながら作成されています。

こうした会議内の様子や意見は手書きの記録が残され、パネリストからオーディエンスまで全員で振り返りができる仕組みになっています。テーマや取り組みに対する認識を改めて深められるのも大きな魅力の一つです。

参加した実行団体の方々は、いずれも、沖縄県内で学童や児童館、不登校やひきこもりなど、地域に密着して支援を行っている皆さんです。初回は6団体のうち子ども関連の活動をしている5つの実行団体による現場の活動と成果・課題などが発表され、二回目の会議には5つの実行団体からの報告をもとにそれを深めた議論をして、政策提言につなげるための議論が行われました。

大切なのは子どもの視点で考えること。行政と民間支援の連携で「困りごと」の解消を目指す

沖縄大学の島村先生(左)と本会議の進行を務めるみらいファンド沖縄の平良氏(右)。
沖縄大学の島村先生(左)と本会議の進行を務めるみらいファンド沖縄の平良氏(右)。

各実行団体の取り組み報告を通じて、コロナ禍におけるさまざまな制約によって間接的に子どもたちの時間が奪われたことから、生活リズムの崩れ、DV、ネグレクトといった深刻な問題が浮き彫りになりました。

その反面、音楽を通じた成功体験から自信を取り戻していく姿、ICT化で不登校やひきこもりの子どもたちに新たな道を示せたこと、さらに少人数での預かりを実施した学童保育などではトラブルも軽減し、施設内はもちろん、家庭内でも子どもたちと丁寧に向きあうことができたなど、子ども一人ひとりに最適化したケアの視点が得られたといった結果報告が上がりました。

プロのジャズ演奏者による楽器指導と地域とつなぐ子どもたちの社会教育の一例。
プロのジャズ演奏者による楽器指導と地域とつなぐ子どもたちの社会教育の一例。
活動地域と繋がる子どもの遊び見守り。
活動地域と繋がる子どもの遊び見守り。

こうした現場の意見を踏まえ、沖縄大学の島村先生をはじめとする着席者は、子どもの視点で考えることの重要性、また市民が議論をして行政にあげることも大切だが、市民活動でどこをどのようにフォローしていくのかを検討することも非常に重要であると投げ掛けます。


また一般参加者による発表を受け、各支援団体の方からは、こうした円卓で支援者間のネットワーキングができることで行政と繋がる際の座組を想定できること、加えて、各団体が行政に話をしにいくことを遠慮し過ぎていたことも課題点としてあげ、行政と民間で得意なことを活かした連携ができるような仕組みづくりを目指すべきといった感想もでていました。

子どもの権利保障やケアの重要性を再認識 。「円卓会議」を終えて見えてきた今後の課題

進行を務める平良氏より、二回の会議を総括する最後のまとめとして「緊急時の優先順位で行政はやるべきことが多い。そんな中で、それでも重要な子どもの権利の保障、ケアのための「連携」を「有機的に」していくためには、どのような権限移譲、そして予算設定をすればよいのか?」という問いが立てられました。


着席者からは、「学校と福祉、それぞれが持つ子どもたちの情報を一元化して管理できるような専門セクションを作るべきである」といった意見がだされました。これは、まさに今話題の子ども庁の構想と重なる内容であり、現場で強く求められていることを再認識することができました。

行政に対しては、アウトプット指標だけではなく、アウトカム指標を見て欲しいという評価に関連するニーズがあること、加えて民間の支援者たちとの連携や支援における権限についての意見も多くあがり、継続的な課題として検討を重ねていくことになりそうです。


■資金分配団体POからのメッセージ

子どもの居場所活動は多岐にわたっています。本事業においても、厳しい環境におかれた子どもたちを主とした対象とする、公民館活動の中の学童、児童館、子ども食堂、放課後音楽活動などさまざまです。現場で日々子どもたちに接している実行団体の報告は迫力もあり、子どもたちへの愛が詰まっていて、大変興味深い内容でした。私たちはこうした円卓会議などを通して、相互に学び合いつつ、共通の課題について話し合い、コロナ後の活動に繋げることを目指しています。
(公益財団法人みらいファンド沖縄『コロナ禍で孤立したNPOとその先の支援』事業 / 鶴田厚子氏)

この会議の様子はアーカイブとしてYouTubeで視聴可能です!

【事業基礎情報】

資金分配団体      

公益財団法人みらいファンド沖縄

助成事業
コロナ禍で孤立したNPOとその先の支援~アフターコロナに必要な団体の存続のために
〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉
活動対象地域

沖縄県

実行団体

・特定非営利活動法人1万人井戸端会議
特定非営利活動法人沖縄NGOセンター
NPO法人沖縄県学童・保育支援センター
一般社団法人おきなわジュニア科学クラブ
特定非営利活動法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆい
一般社団法人琉球フィルハーモニック