孤立しそうな人の手を握る、地域の「のりしろ」。滋賀県東近江市 Team Norishiroの「仕事」と「居場所」づくり

「働く」をキーワードに、生きづらさを抱える人と地域をつなぐ一般社団法人Team Norishiro(チーム のりしろ、以下「Team Norishiro」)。そこでは、生きづらさを抱える当事者が「働きもん」として薪割りや着火材作りの仕事をしていくことで、他者と関わりながら自分の働き方や生き方を見つけています。生きづらさを抱える当事者を変えようとするのではなく、当事者を受け入れる社会や地域の「のりしろ」を広げ、生きづらさを抱える人を知る、人を増やす──。そんな思いで続けてきたTeam Norishiroの活動について、代表の野々村光子さんにお話を伺いました。”

制度のはざまにいる「働きもん」たち

Team Norishiroに集う人たちは、生きづらさを感じて孤立している人、家から長年出られずコミュニケーションが苦手な人、障害がある人など、抱えている困難は人によってさまざま。支援する対象には、障害者手帳を持っていることなどの明確な「条件」はありません。既存の制度のはざまで孤立した人の手を取ろうとしている点が、Team Norishiroの大きな特徴です。

なぜそのように、誰でも支援対象とする活動に至ったのでしょうか。

Team Norishiroの野々村光子さんは、障害がある人の就労を支援する「東近江圏域働き・暮らし応援センター」のセンター長を務めています。このセンターが立ち上がってから、「センターとして手を握ろうとすると、制度上、応援していい人と応援できない人がいる、と気付きました。」と野々村さんは振り返りました。
Team Norishiro 野々村さん

Team Norishiroの野々村光子さんは、障害がある人の就労を支援する「東近江圏域働き・暮らし応援センター」のセンター長を務めています。このセンターが立ち上がってから、「センターとして手を握ろうとすると、制度上、応援していい人と応援できない人がいる、と気付きました。」と野々村さんは振り返りました。

企業の障害者雇用率を上げることを最終目標にした障害者就労支援の制度では、基本的に「障害者手帳も持っている人」が支援対象の中心とされています。
一方で、野々村さんがセンターで相談を受け始めると、当事者家族や民生委員の声を通して、障害者手帳を持っていないけれど家にひきこもっている人や、会社に馴染めず転職を繰り返している人の存在が見え始めたのです。そのような人たちは、当時の働き・暮らし応援センターによる支援の対象に入りませんでした。

それならば、と野々村さんたちが立ち上げたのが、任意団体の「TeamKonQ(チーム困救(こんきゅう)」でした。地域の困りごとを集約しそれらを仕事として、社会から孤立している当事者に取り組んでもらいます。当事者一人ひとりを「働きもん」と呼び、仕事を通じて当事者の人柄やスキルを発見していくチームです。

「平均で20年ほど自宅のみで生きて来た彼らが、本来はどんな人なのか? どんないいところを持っているのか。面談や訪問での支援方法だけでは、わかりません」

TeamKonQで仕事をつくる過程で、薪と薪ストーブの専門店「薪遊庭(まきゆうてい)」社長の村山英志さん(Team Norishiro代表)をはじめとした、地域の「応援団」の輪も広がっていったといいます。

「TeamKonQの活動の対象者は、誰でも。そんな『ようわからんこと』に、村山さんたちが賛同してくれて。社会の穴に落ちてしまう人はこれからも増えていくだろうし、同時に地域の困りごとも増えていくから、この活動を継続させていこうと思っています」

就労を促すよりも、「手伝ってくれんか?」と声をかける

TeamKonQで薪割りに取り組んだ背景には、2010年に東近江市で「緑の分権改革推進事業」として実施された、地域の雑木林から自然エネルギーを生むまでの実証実験が関係します。その過程の薪割りは、村山さんが自ら手がけても、働きもんがやっても結果は同じ。それなら、働きもんに仕事にして関わってもらえばいい、と村山さんが野々村さんに相談したことがきっかけでした。

薪割りの活動の継続性を高めるために、2020年には一般社団法人化し、「Team Norishiro」を立ち上げ。「のりしろ」という名前に込めた意味について、野々村さんはこう話します。

働きもんの薪割りの様子
働きもんの薪割りの様子

「生きづらさがある人に社会や学校教育が求めるのは、本人の『伸びしろ』。本人が変わっていく前提で考えられているから、家から出られたら次は仕事、と当事者は次々にステップアップを求められる。でも人間は本来、ステップアップするために生きているわけではないですよね。
働きもんが、無理に自分を変える必要はないんです。むしろ社会の側が働きもんを受け入れられるような『のりしろ』を少しでも広げることで、働きもんと関われる重なりができる。そうすれば、社会の穴に落ちてしまっている人たちと手を握っていくことができると思います」

今では薪割りだけでなく、地域で出る廃材を活用した着火材作りにも取り組みます。薪割りよりも体力の必要がなく、作業工程が明確なので、働きもんが参加するハードルを下げられたそう。
福祉の視点から立ち上げられたのではなく、「雑木林をどうしたらいいだろう」「この廃材、なんとかならんか」と地域の課題を持ち寄って集まった人たちが始めた活動。「そこで働きもんが中心になって、地域にあるさまざまな課題が解決されて、活動が広がっている。すごく珍しいケースだと思いますね」と野々村さんは語ります。

では「働きもん」は、どうやってTeam Norishiroの活動に参加するのでしょうか。

例えば、野々村さんのいる働き・暮らし応援センターのもとに、息子がいる80代の女性から相談が入ります。「うちの息子は10年間、家にいる。息子が一人になったとき、息子は働けるんやろか」。その相談を受けて、野々村さんが本人を訪問します。そのとき、企業への就労については触れません。
「着火材を作っているんやけど、コロナ禍でバーベキューがブームになっていて、すごい売れている。暇なんやったら、世間のために着火材作りを手伝ってくれんか?」

誘われた本人は「着火材ってなんですか?」と興味を持ち、Team Norishiroの仕事現場に通うようになる。そこから人と関わるようになり、働き・暮らし応援センターの支援にもつながっていく。そんなケースが多いそうです。 「ポイントは、『ひきこもり支援をしています』などと発信しないこと。福祉や就労支援をキーワードに掲げてしまうと、当事者は来てくれなくなります。ただ単純に『そこにいけば仕事がある』という環境づくりをする。私たちの活動を地域の口コミで広げてもらうことで、これまで私たちが出会えていない人にも届けたいです」
働きもんの皆さんが作られた着火材

誘われた本人は「着火材ってなんですか?」と興味を持ち、Team Norishiroの仕事現場に通うようになる。そこから人と関わるようになり、働き・暮らし応援センターの支援にもつながっていく。そんなケースが多いそうです。 「ポイントは、『ひきこもり支援をしています』などと発信しないこと。福祉や就労支援をキーワードに掲げてしまうと、当事者は来てくれなくなります。ただ単純に『そこにいけば仕事がある』という環境づくりをする。私たちの活動を地域の口コミで広げてもらうことで、これまで私たちが出会えていない人にも届けたいです」

成果指標は「当事者を何人が知っているか」

Team Norishiroでは2020年4月、資金分配団体「信頼資本財団」から実行団体として採択され休眠預金活用事業をスタート。

薪を配達するためのトラックを買い替えたり、冷房がなくて作った着火材が溶けてしまうこともあったため作業場所の設備を改修したりと、活動を続けていくために必要不可欠な基盤を整えました。

休眠預金活用事業の特徴は、活用の対象になる事業に、既存の制度の裏付けがいらないこと。Team Norishiroのような、既存の制度のはざまの人たちへの支援活動にも活用が可能です。
「生活に困窮している人、自死のリスクがある人、障害がある人のように、困っている理由は人それぞれ。しかし既存の制度を使うと、支援の対象がどうしても限定されてしまう側面があります。全面的にバックアップしてくれる休眠預金活用事業は、支援対象への考え方が違いました」
休眠預金を活用した結果、2020年からの2年間で、総勢56人の働きもんが仕事に参加。そのうち14人は、地域の企業への就労にもつながりました。

しかし、Team Norishiroでは「何人が就職できたか?」よりも大切にしている成果指標があると言います。それは、「1人の働きもんを、何人が知っているか?」という指標です。
「最初に当事者の親御さんから相談を受け、私が会いに行くと、本人を知っている人が親御さんと野々村の2人になります。着火材の作業に来てもらうと、他の働きもんたちがその人のことを知ります。さらに、働き・暮らし応援センターのワーカーが、具体的な支援策を組み立てながら、その人のことを知っていくんです」

結果、本人は頼まれて着火材作りに来ているだけで、当事者の人生を知る人が増えていく。その成果指標を重視しながら、当事者が社会や地域と関わる「のりしろ」を広げています。
さらに働きもんを見守っているのは、一緒に働くメンバーだけではありません。薪や着火材の購入、資材の提供などを通して働きもんの活動を応援する「応援団」が、この2年間で約250人も増えました。

応援団を増やすために重要なのは、ストーリーの発信だと言います。働きもんを単純に「障害者」「ひきこもり」と括るのではなく、一人の働きもんの物語を丁寧に伝え、物の購入を通じてその背景にいる働きもんにも思いを馳せてもらう発信を心がけます。

Team Norishiroの発信の先に思い描く未来について、野々村さんはこう語ります。
「働きもんは、『失敗した人』でも『残念な人』でもない。発信を通じてそう伝え続けると、その発信を受け取った人が、『親戚でひきこもりの子がいるけれど、残念な子ではないんや』と気づける。それが、孤立しそうな人と手をつなぐ一歩目になります。
私たちの活動を知った方から『のりしろ』が広がっていったら、それが最終目的と言っても良いかもしれません」

古民家を、地域におけるセーフティネットに

Team Norishiroではこれまでの活動に加えて、2021年3月からは資金分配団体「東近江三方よし基金」の採択事業として、集落にある古民家の改修と活用の事業も始めました。

コロナ禍で、社会の穴に落ちた人たちの声はさらに外に出づらくなった今、家庭内での障害者への暴力が発生していたり、外出を控え続けて餓死寸前になっていたりと、厳しい状況が生まれています。 これまで「働く」をキーワードとしてきた野々村さんは、「職場」だけではない「誰かが自分のことを知っている場」が、地域に必要だと感じ始めました。 そうしてスタートした古民家の改修事業では、古民家を「大萩基地」と名付け、誰でも利用できるスペースにしました。すでに、福祉業界の若者の勉強会、行政の職員のひきこもり支援の勉強会、当事者の働きもんが集う会など、多様な使われ方をしています。

古民家を改修し出来上がった大萩基地

「今後は、とりあえず大萩基地まで行けば誰かに会えて正しい情報をもらえたり、ご飯が週1回でも食べられたりして、『困っています』と手を挙げなくても命が守られるセーフティネットをつくりたいです」
同時に、大萩基地が「一人暮らしの訓練場所」として機能することも目指しています。
障害者のグループホームにはショートステイの制度があり、一人暮らしの練習が可能です。ただ、ショートステイの制度は福祉サービスなので、障害者手帳が必須。働きもんの中には、障害者手帳がなかったり、あっても隠したい人がいたりするため、制度の活用が難しい状況にあります。
そんな働きもんに「お母さんがずっと料理しているのを見てきたんだから、一緒に一回作ってみよう」と誘って、大萩基地で食事を作ってみる。「できるやん。1人で暮らせるやん」と練習を重ねる。そんな使い方を考えているそうです。

Team Norishiroの活動をサポートしてきた資金分配団体「東近江三方よし基金」の西村俊昭さんは、働きもんの一人に「地域で暮らすために必要なもの」を尋ねた際の答えが印象的だったと話します。
「『困ったときに声をかけてくれる人が一人でもいたら、生きていける』という答えがありました。大萩基地や応援団の存在によって、一人の働きもんでも『あそこがあるから何とかなる』と思える活動になっていたら嬉しいです。それに、同じような活動を他の地域でも実現できるんじゃないかと思います」(西村さん)

取材の際には、東近江三方よし基金の西村さんも同席

最後に、Team Norishiroのエンジンであり続けてきた野々村さんに、今後の目標を聞きました。
「我々がやっていることはまだまだ、特別なことだと思われてしまいます。これを、特別じゃないものにしたい。そのために、困難を抱えている当事者ではなく、当事者とともに生きる地域や社会を変えていきたい。
あとは、活動を続けることです。休眠預金を活用して活動の基盤が整ったので、そのときにできるベストな活動を見つけて、継続していきたいです」



【事業基礎情報】

実行団体
一般社団法人 Team Norishiro
事業名
「働く」をアイテムに孤立状態の人と地域をつなぐ
活動対象地域
滋賀県
資金分配団体
公益財団法人 信頼資本財団
採択助成事業
孤立状態の人につながりをつくる

<2019年度通常枠>
実行団体
一般社団法人 Team Norishiro
事業名
空き家を活用して命を守りつなぐ場づくり
活動対象地域
滋賀県東近江市
資金分配団体

公益財団法人 東近江三方よし基金
(東近江・雲南・南砺ローカルコミュニティファンド連合 コンソーシアム幹事団体)
(コンソーシアム構成団体:
 公益財団法人 うんなんコミュニティ財団、公益財団法人 南砺幸せ未来基金)
採択助成事業
ローカルな総働で孤立した人と地域をつなぐ
~日本の変革をローカルアクションの共創から実現する~
<2020年度通常枠>

活動の概要

一般社団法人えんがおは、地域の高齢者や精神・知的障がいを抱えた人、若者などが一緒に集える場づくりをとおして、多様な世代間交流を促進し、孤立の予防と解消に取り組んでいます。活動拠点は栃木県大田原市です。

具体的には、中高生や大学生の勉強場所、高齢者が集う地域サロン、障がい者グループホームなどを全て徒歩圏内に開設し、日常的な交流を意識的に促すことで、コロナ禍でより一層深刻になった孤立対策を進めています。

2021年度に休眠預金を活用し、新たに精神・知的障がい者向けグループホームの男性棟を開設。既存の女性棟の入居者とともに、入居者が日常的に地域と関わりながら生活することが可能となるよう、専門スタッフによるサポートを行いました。

活動スナップ

撮影に同行したJANPIA職員のレポート

車窓から目に入る景色が彩り豊かな季節、一般社団法人えんがおの地域サロンを訪問。ガラスの引き戸をあけると「どうぞ、いらっしゃーい」と、ふたりのおばあちゃんが暖かく迎えてくれました。

もともと酒屋だった2階建ての家屋の1階がサロンとして、2階が中高生・大学生の勉強場所として、地域に開放されています。この日は、近所で暮らしているおばあちゃんたちがお茶をしながら、不登校の中学生や通信制高校に通う高校生、大学生がえんがおのスタッフとおしゃべりしていました。

えんがおでは、高齢者のお困りごとに対応する「生活サポート事業」も行っています。高齢のひとり暮らしが多いため、「電球を交換してほしい」「寒くなってきたから毛布をもう一枚追加したいんだけど、押し入れの奥から出せない」といった依頼が寄せられ、そのサポートをしているのです。

訪問した日も「庭木の植え替えを手伝ってほしい」という依頼があり、スタッフや学生ボランティアがスコップを抱えて出かけていきました。

このように行政の制度からこぼれ落ちるニーズへ対応しながら、つながりが希薄になりがちな高齢者に生活の安心感や社会とのつながりを提供しています。

濱野将行さん、撮影の様子。撮影はZAN FILMSの本山さん、明石さん。

えんがお代表の濱野さんにお話を伺うと、特にコロナ禍によって高齢者と地域との分断が進んだと感じている、と聞かせてくれました。家に閉じこもりがちになり、認知症が進んだ事例も少なくないそうです。 そんな課題を抱える地域で濱野さんは、えんがおの活動を通じてつくりたい景色があります。

「行政の制度では、どうしても『高齢者』『子ども』『障がい者』などと対象ごとに事業や予算が区切られてしまいます。でもそうやって区切るのではなく、高齢者も子どもも障がい者もみんなが毎日一緒に過ごして『ごちゃまぜな景色』が地域の日常になっている。その状態をえんがおの活動で目指しています」

実際にえんがおでは、すでに「ごちゃませな景色」がうまれていました。お茶飲みをしているおばあちゃんたちがいて、そこに小さい子どもを連れたお母さんが立ち寄る。午後になれば、学校が終わった中高生が宿題をしに来て、仕事を終えた知的障がいのある人がその日の仕事について話をし、大学生がそれに応える、といった日常があります。

精神・知的障がいのある人が地域に関わることのハードルは高いと言われていますが、えんがおでは自然に溶け込み、おじいちゃんおばあちゃんの手伝いをしたり、えんがおのペットの世話をしたりと、それぞれの役割を担っています。

このように精神・知的障がいのあるグループホーム入居者がサロンに溶け込めるようになるまでに、えんがおスタッフの約半年間にわたる丁寧なサポートがありました。グループホーム入居後に生活を軌道に乗せるお手伝いをしたり、高齢者や若者たちの輪の中に入っていけるように声がけや橋渡しをしたりと、意識的に地域の人々とのつながりが生まれるように働きかけをしてきたのです。

今後は、サロンの向かい側に学童保育の施設をオープンする予定もあります。えんがおはこれからも地域の困りごとに寄り添い、一緒に解決策を考え、実践していくとのことです。

【事業基礎情報】

実行団体
一般社団法人 えんがお
事業名
コロナ禍で分断されたつながりの再構築事業
活動対象地域栃木県
資金分配団体特定非営利活動法人 とちぎボランティアネットワーク
採択助成事業

とちぎ新型コロナウイルス対応緊急助成事業
〈2020年度緊急支援枠<随時募集3次>〉

休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」では紹介できなかった映像を再編集しました。ぜひご覧ください。

今回の活動スナップは、上智大学の学生さんと、そのインターンシップ先である特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズのメンバーとの顔合わせの様子をお届けします。

活動の概要

JANPIAがつなぎ役となり、上智大学国際教養学部の学生さんが2つの資金分配団体「特定非営利活動法人 エティック(2019年度通常枠)」「READYFOR株式会社(2020年度緊急支援枠)(2021年度コロナ対応支援枠)」の実行団体として休眠預金を活用している『特定非営利活動法人 グッド・エイジング・エールズ』でインターンシップを行うことになりました。今回、学生の石川さんが、グッド・エイジング・エールズがコンソーシアムで運営しているLGBTQ+総合センター『プライドハウス東京レガシー』(新宿区)にて、代表の松中権さんはじめメンバーの皆さんにお会いするということで、JANPIA企画広報部メンバーが一緒に訪問してきました。

活動スナップ

インターンシップは、上智大学国際教養学部の科目の一環で今年度初めて実施されるもので、JANPIAは実行団体を紹介し伴走する形で連携しています。

上智大学の石川さんは、親友が2年ほど前からLGBTQ+の支援団体でインターンをしていた関係で、LGBTQ+の分野に非常に興味があり、今回グッド・エイジング・エールズでのインターンシップを希望したそうです。

約3か月間のインターン期間中、石川さんは主に得意の英語を活かした英語でのSNS発信と、公益社団法人東京青年会議所主催の6月11日-12日のイベントのブース出展、プライドハウス東京レガシー主催の8月20-21日に予定している24 歳以下の子ども・ユースの教育×LGBTQ+に関するカンファレンスの準備に携わる予定です。

グッド・エイジング・エールズの活動については、次の記事も是非ご覧ください。

世界でいちばんカラフルな場所を目指して!| グッド・エイジング・エールズ 松中権さん × エッセイスト 小島慶子さん【聞き手】

左から松中権さん、石川さん、スタッフの小野アンリさん
左から松中権さん、石川さん、スタッフの小野アンリさん

■事業基礎情報【1】

実行団体
特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名

日本初の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京」設立プロジェクト

-情報・支援を全国へ届ける仕組みを創り、LGBTQの子ども/若者も安心して

暮らせる未来へ-

活動対象地域東京都、及び全国
資金分配団体特定非営利活動法人エティック
採択助成事業

『子どもの未来のための協働促進助成事業

~不条理の連鎖を癒し、皆が共に生きる地域エコシステムの共創』

〈2019年度通常枠〉

■事業基礎情報【2】

実行団体
特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名

LGBTQ中高齢者の働きがい・生きがい創出

活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業

『新型コロナウィルス対応緊急支援事業

 ~子ども・社会的弱者向け包括支援プログラム』

〈2020年度新型コロナウィルス対応緊急支援助成〉

■事業基礎情報【3】

実行団体
特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名

LGBTQ+ユースの学習支援・相談事業

活動対象地域東京都
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業

深刻化する『コロナ学習格差』緊急支援事業

〈2021年度新型コロナウィルス対応支援助成〉

2022年5月11日開催「休眠預金活用シンポジウム」で上映した、休眠預金活用事業の紹介ムービーです。

社会的規範への意識が低く、「非行少年」と呼ばれる未成熟な子どもたち。一度、社会のルールから外れてしまうと、日本のシステムにおいては、少年たちに繊細なサポートが行き届かない現状にあります。そんな彼らに手を差し伸べ、「就労支援」という形で立ち直りへの足掛かりをつくっているのが、2019年度通常枠(資金分配団体:更生保護法人 日本更生保護協会)の実行団体である「認定特定非営利活動法人 神奈川県就労支援事業者機構」です。今回は就労支援の現場に伺い、再犯防止にもつながる就労支援の活動を始めたきっかけや事業内容について、事務局長・竹内政昭さんと協力事業主の青木工務店代表・青木哲也さんにインタビューしました。

木の香りに包まれる建具づくりの就労体験で、時おり笑顔も

爽やかな木の香りに包まれる製作所で無心に鉋(かんな)をかける少年。まだ成長過程かと思われる華奢な体で、初めて触れたという鉋に体重をかけ、丁寧に細木を削っています

ここは、青木工務店(神奈川県大和市)の中にある建具製作所。少年は家庭裁判所から神奈川県就労支援事業者機構に推薦され、職場体験に来ています。この事業での職場体験とは、非行少年が企業等での職場体験を通じて、人や社会に触れ合うことの喜びを知り、立ち直りのきっかけをつくることを目指す活動です。具体的には、少年たちを興味ある分野の職場で2日間実際に体験してもらいます。肌に合えばそのまま就職したり、別の職場を紹介してもらったりしながら、職場体験が社会への第一歩を踏み出すきっかけになります。

今日の少年は建築大工と造園に興味があるといい、青木工務店が受け入れました。ここではまず、鉋を使って自分の箸をつくるよう指導します。最初は緊張ぎみだった少年も、指導員や立ち合い人の竹内政昭さん(認定特定非営利活動法人神奈川県就労支援事業者機構 事務局長)に筋の良さを褒められると、はにかむような笑顔を見せるようになりました。その後も時間をかけて何度も削り直し、やがてただの小さな木材は丁寧な作業によって美しい箸に変わります。引き続き、建具に入れ込む組木細工をやってみるかと問われ、小さくうなずきました。

研修後、自らの手で仕上げた数本の箸と十文字の組木細工を手にした少年は、職場体験の感想をとつとつと、しかし自信を感じる声で話してくれました。「最初は簡単かと思っていたけど、やってみたら難しくて不安になりました。どんなふうに力を入れたらいいかを考えながら、自分なりに発想を広げてやってみました。いろいろな考え方を持つことができた気がします」。

少年が作った箸と細木細工
少年が作った箸と細木細工

そう話す少年のそばには、これまで家庭裁判所から少年の職場体験の推薦を受けてからずっと寄り添って話を聞き、励ましてくれた竹内さんがいます。その大きな安心感があったからこそ、少年は研修での学びを前向きに考えられるようになったのかもしれない、と感じるひとコマでした。

人手不足が深刻化する建設業界に光をもたらす、就労支援活動への協力

少年を受け入れた青木工務店は、神奈川県大和市で100年の社歴があります。その4代目
代表取締役を務める、青木哲也さん。人手不足が進む昨今の建設業界にあり、青木さんもまた担い手不足に悩んでいました。7~8年前、顧客だった保護司※に大工見習が集まらないことを話したところ、非行少年たちの立ち直り支援活動の一環として「就労支援」という活動があることを聞きます。青木さんは早速、非行少年の就労を受け入れる「協力雇用主」として登録。ここから、青木工務店による就労支援活動への協力が始まりました。

<保護司>犯罪をした者や非行少年の社会復帰を助けるとともに、犯罪予防の啓発に努め、安心・安全の地域社会づくりに貢献することを使命としている。

青木さんは笑顔で想いを語ってくださいました。
青木さんは笑顔で想いを語ってくださいました。

「誰かを救いたいとか、社会貢献などと崇高な意識を持っているのではなく、建築大工の不足を考えてのこと。一人でもこの職業に興味を持ってもらえればと思って、協力態勢を整えただけのことです」と笑う青木さん。

ものごとを色眼鏡で見ない性格、とご自身を評するように、青木さんは誰に対してもニュートラルな姿勢で気負いがありません。

少年たちを受け入れるときに青木さんが最も注意しているのが、「観察」と「声かけ」です。
「これまで少年たちを見てきて分かったのですが、彼らの多くは自尊心が非常に低くなっています。自己肯定感がないので、ちょっとしたことで傷つき、自分を見失ってしまうんですね。職場体験後、入社してくれても先輩や親方に叱られただけで、突然寮からいなくなるケースは少なくありません」

少年たちは周りの大人との出会いに恵まれていないことが多く、自らSOSを出すことが難しい状況にあるケースも少なくありません。困ったときに誰かに相談して解決策を見出すのではなく、そこから逃げることを選んでしまうのです。そのため青木さんは、日ごろから少年たちの表情や声の調子、立ち居振る舞いを観察し、今の状態を把握しています。困っていそうな子にはさりげなく声をかけて励まし、相談のきっかけをつくることもあるのだとか。

「私は以前、子どもを病気で亡くしているんです。だから少年たちには、健康で生まれてきたのに人生を無駄にしてほしくない。その命を社会で守り、生かしてあげたいと思うんです。モノづくりは成果が目に見え、やりがいも大きい。職人の世界は厳しいけれど、技術を身につけるととても面白いので、ぜひ興味を持って臨んでほしいですね」と青木さん。辛い体験を通して感じてきた少年たちへの深い思いを、ちらりと覗かせてくれました。

少年たちに居場所を用意し、再犯防止と健全な社会づくりの一助としたい

青木工務店に就労支援への協力を依頼しているのは、認定特定非営利活動法人神奈川県就労支援事業者機構です。事務局長である竹内さんは、かつて法務省の保護観察所に勤務し、業務の中で非行少年らの生活指導にも携わっていました。しかし、就労支援に関しての業務はなく、これまでは保護司が個人的に知り合いの経営者などに頼み込んで雇ってもらうという形が主流でした。

竹内さんは就労支援の重要性について、穏やかな熱意を込めて話してくれました。 「保護観察所にいたとき、個人が動ける範囲でしか就労支援ができない状況を残念に思っていました。少年たちには家庭的な問題や経済的事情を抱えているケースが多く、それが原因で道を踏み外すことになります。善良な大人のいる職場で仕事と健全な居場所をつくり、経済的に自立させることができれば、彼らはきっと立ち直れるはずなんです」 そんな思いが形となったのは2009年。全国就労支援事事業者機構から保護観察所や民間更生保護団体への働きかけ、設立事務に関する助言などの協力を得て、「神奈川県就労支援事業者機構」が設立されました。竹内さんも立ち上げから携わっています。
少年から作った箸の報告を受ける神奈川県就労支援事業者機構 竹内さん

竹内さんは就労支援の重要性について、穏やかな熱意を込めて話してくれました。 「保護観察所にいたとき、個人が動ける範囲でしか就労支援ができない状況を残念に思っていました。少年たちには家庭的な問題や経済的事情を抱えているケースが多く、それが原因で道を踏み外すことになります。善良な大人のいる職場で仕事と健全な居場所をつくり、経済的に自立させることができれば、彼らはきっと立ち直れるはずなんです」 そんな思いが形となったのは2009年。全国就労支援事事業者機構から保護観察所や民間更生保護団体への働きかけ、設立事務に関する助言などの協力を得て、「神奈川県就労支援事業者機構」が設立されました。竹内さんも立ち上げから携わっています。

<全国就労支援事業者機構>経済界全体の協力により、罪を犯した人への就労支援などを行い、安全で安心な社会づくりに貢献するNPO団体


立ち上げ当初から神奈川県就労支援事業者機構では、罪を犯した人や非行少年らの雇用に協力してくれる会社と連携し、罪を犯した人たちの就労を支援していましたが、川崎市で起こった中学生殺害事件を契機に、少年たち、取り分け非行の芽が小さな少年には、他の関係機関からも支援の手が届かないでいたことから、そうした少年にも支援を広げようと思うようになります。
「スタッフたちと自己資金で回す覚悟をしていたところ、休眠預金活用事業を知り、申請をしました。」

休眠預金活用事業の資金分配団体である日本更生保護協会からの助成を受け、2019年、無職の少年らに希望する職種で仕事の体験ができる職場体験活動と就職後も長く働けるように行う職場定着活動の2つの事業を立ち上げることができました。

職場体験は15歳~20歳の少年を対象に実施しており、1日3~4時間程度の作業に2日間就いてもらいます。業種は幅広く、建築関係から農業、介護、理美容など多岐にわたります。たとえ就職につながらなくても、少年たちにとって職場の空気に触れることが、社会に出るきっかけになります。たとえば保育園の補助を体験して保育士に興味を持てば、資格を取るため学習意欲が湧き、学校へ戻ることもあるでしょう。大事なのは、職場体験を通じて働く喜びや社会と触れ合う意義を知ることなのです。

就労支援に参加してくれる協力雇用主は、竹内さんらが個別に訪ねて開拓してきました。現在800社を超えるのですが、本事業の「非行少年の職場体験活動」にご協力いただいているのは現在40社ほどです。これまでに職場体験を通じて、ひきこもりの少年が職場体験から外に出られるようになったり、農業を選んだ少女が派手なつけ爪を外し、就職先の農場で日焼けしながら働いていたりするそうです。少年たちを気にかけて様子をうかがってきた竹内さんは、「こういう子が心を取り戻してくれるのを見るのが何より嬉しいです」とにっこり。

協力雇用主との折衝は、竹内さんが最も留意するところです。代表者だけが就労支援について理解していても、職場で指導する社員や同僚に理解がないと禍根を残します。そのため、協力雇用主との打ち合わせの際は、少年への接し方から指導にあたる社員の対応、雇用した場合の注意点など細かいアドバイスを欠かしません。

神奈川県就労支援事業者機構では、就労支援活動で少年が無事に就職ができた場合、1年後と3年後に調査し、1年続いたら会社へ、3年続いたら少年に記念となるものを渡すといいます。「1年はその会社の努力によるもの、3年も続くのは本人の努力によるものだから、それぞれの記念になればと思って」と竹内さん。

陰となり日向となり、少年の更生に力を尽くしてくれる大人がいることが、少年たちの未来への強い支えになっていくことを願ってやみません。


【事業基礎情報】

実行団体認定特定非営利活動法人 神奈川県就労支援事業者機構
事業名無職・非行等少年の職場体験・職場定着事業
活動対象地域神奈川県
資金分配団体更生保護法人日本更生保護協会
採択助成事業

安全・安心な地域社会づくり支援事業

草の根活動支援事業・全国ブロック〈2019年度通常枠〉


コロナ禍による失職や減収などの影響で、ひとり親世帯や若者など、さまざまな人たちに困窮が広がっています。そうしたなか、特定非営利活動法人eワーク愛媛(以下、eワーク愛媛)が従来からのフードバンク事業をベースにして始めたのは、必要なときに必要な食料品・日用品を無料で受け取れる「コミュニティパントリー」の拠点でした。さらに、困難を抱えた若者がコロナ禍で孤立したり、自立の機会を失ったりすることのないよう、居場所づくりや就労支援にも力を入れています。これらの活動を始めた背景について、eワーク愛媛・理事長の難波江任(なばえ・つとむ)さんに伺いました。

困窮が広がるなかでの「コミュニティパントリー」

愛媛県新居浜市にあるeワーク愛媛の事務所、その一角にはお米や保存食品、調味料やお菓子、日用品がずらり。ここに来た人は、買い物かごを持って思い思いに品物を選んでいきます。

小さな商店のようですが、これらはすべて無料提供。eワーク愛媛が、ひとり親世帯やコロナ禍で生活が苦しくなった人たちを対象に運営する「地域無料スーパーマーケット(コミュニティパントリー)」です。

一般社団法人全国コミュニティ財団協会が資金分配団体となって実施した「新型コロナウイルス対応緊急支援助成」を受けて、2020年12月末からコミュニティパントリーの事業を始めました。

この活動を始めた背景について、運営母体のeワーク愛媛で理事長を務める難波江任さんは、「コロナ禍で、シングルマザーの人たちなどを中心に、収入が減って生活が苦しくなったという話を耳にするようになったんです」と話します。

eワーク愛媛では、コミュニティパントリーの活動に先駆けて、2020年春に小中学校が一斉休校になった際に、ひとり親家庭の子どもたちに無料でお弁当を配布。このとき、コロナ禍でひとり親世帯の経済的・精神的な負担が増していることを実感したそうです。

お話を伺った eワーク愛媛 理事長の難波江任さん
お話を伺った eワーク愛媛 理事長の難波江任さん

もともとeワーク愛媛は、ひきこもり状態やニートなどのさまざまな困難を抱えた若者たちに就労支援を行う団体として、2003年に活動をスタートしました。現在では、フードバンク事業や地域再生事業にも活動を広げています。

「フードバンク事業に取り組むようになったのは、10年ほど前からです。就労支援の対象となる若者たちの多くが、経済格差や生活困窮の問題を抱えていると気づいたことがきっかけでした」

eワーク愛媛では、フードバンク事業を通じて一般家庭や企業、農家などから食品の寄付を集め、地域にある児童養護施設や自立援助ホーム、子ども食堂を運営する団体、ひとり親世帯や生活困窮者の支援団体などに提供してきました。

さらにeワーク愛媛が子ども食堂の主催も担い、ひとり親世帯を対象にした定期的にフードパントリー(無料食料配布)にも力を入れています。

「それでも、子ども食堂に足を運びづらい人や日時の都合が合わない人もいます。さらにコロナ禍で、ひとり親世帯に限らず生活が苦しくなる人が増えてきました。それなら、必要なときに必要なものを気兼ねなく取りに来られる場所をつくりたいと考えて、コミュニティパントリーを始めたんです」

気軽に来ることができて、相談しやすい場

eワーク愛媛のコミュニティパントリーの対象は、困窮者支援を担う社会福祉協議会やNPO、ひとり親世帯の支援団体、障がい者福祉施設などから紹介を受けた人。ひとり親世帯中心に、障がい者のいる世帯、生活に困窮する若者や高齢者など、さまざまな人が利用しています。

ポイントカードを利用して月5,000円程度の物資を無料で受け取れる仕組みで、食品の他に日用品や文房具などもあります。特に生理用品はすぐになくなるそうです。

コミュニティパントリーには、eワーク愛媛のスタッフが常駐。8時半から18時まで開いているので、利用者の都合に合わせて利用することができます。

「朝いちばんに来る方もいれば、仕事終わりに駆け込んで来る方もいるんですよ。遅い時間に『まだ行っても大丈夫ですか?』とLINEが来ることもあるので、スタッフがいるときは柔軟に対応しています」

通常のフードパントリーでは、寄付された食品を公平に分配するため、何を受け取るのかを選べないことも多いですが、コミュニティパントリーでは必要なものを自分で選ぶことができます。

難波江さんは、コミュニティパントリーが気軽に足を運べる拠点として機能することで、困ったときに相談がしやすい環境をつくりたいと考えています。

「コミュニティパントリーを利用する方から相談を受けて、専門支援機関に紹介したこともあります。スタッフに相談とまでいかなくても、ここで日常のちょっとした愚痴を話せるだけで、気持ちが少し楽になることもあるんじゃないでしょうか」

また、ひとり親のお母さんどうしが知り合いになって共通の悩みを相談し合ったり、子どもの服を譲ったりするつながりも生まれています。

就労相談会をきっかけに、コミュニティパントリーの利用につながった80代

これまでeワーク愛媛では、ひとり親世帯や若者を中心に支援してきましたが、コミュニティパントリーを始めたことがきっかけで、生活に困窮する高齢者の存在にも気づいたそうです。

「一人暮らしで年金が少ないために、自営で清掃業を続けている80代の方がいます。その方はコロナ禍で仕事が減り、eワーク愛媛が開催している就労相談会に参加したことがきっかけで、コミュニティパントリーの利用につながりました。この方のように大変な生活を送っている高齢者が、実はたくさんいるのではないかと思います」

コミュニティパントリーの立ち上げに活用した「新型コロナウイルス対応緊急支援助成」は2021年5月末で終了していますが、「この場所があって助かった」という利用者からの声があるため、愛媛県内の新居浜市・西条市の2ヶ所でコミュニティパントリー事業を継続しています。

「愛媛県は東予、中予、南予の大きく3地域に分かれます。今は東予地域でコミュニティパントリーを2ヶ所運営しているので、今後は中予地域と南予地域にも1ヶ所ずつつくりたい。そのために協力してくれる団体を探しているところです」

SOSを出せずにいる若者と出会うために

コミュニティパントリーの活動に加えて、eワーク愛媛では2021年6月から、もうひとつ新たな活動を始めました。

公益社団法人ユニバーサル志縁センターが実施する新型コロナウイルス対応緊急支援助成を活用して、発足当初から活動の柱としてきた「困難を抱える若者の相談と居場所づくり事業」を拡大しています。

「私たちは長年、ひきこもり状態の人やニートなど、就労に困難を抱えた人たちを支援してきました。そうした人の自立は、コロナ禍でさらに難しくなっているんです。ようやく自分に合う仕事を見つけたのに、コロナの影響で失職した人もいます。

こうした状況で、その人たちを孤立させないための支援も必要です。ただ、そもそもSOSを出せず、支援機関の存在さえ知らない若者も多くいます」
 
2018年に愛媛県保健福祉部が行った「ひきこもり等に関する実態調査」では、愛媛県内にひきこもり状態の人が約1,000人いるという結果が出ました。しかし、難波江さんは「隠れたひきこもり状態の人を含めると、実際にはその10倍はいるのではないか」と感じています。

「支援につながっていない若者との接点づくりが必要だとずっと思ってはいたのですが、自主事業ではそこまでの余裕がなく、目の前にいる相談者への対応で精一杯でした。今回、休眠預金活用事業の助成を受けられたことで、ようやく各地での定期的な相談会の実施や広報に力を入れることができたんです」

一人ひとりの得意・不得意を理解して支える

eワーク愛媛に相談に来る若者は10代から30代が中心で、「家から出るのが怖い」「コミュニケーションが苦手」「働く自信がない」といった、社会生活や就労になんらかの困難を抱えた人がほとんどだと言います。

「就職活動を始める前に、朝ちゃんと起きて身支度をする生活習慣を身につける必要がある人もいます。今回の助成で一つ増やすことができた『居場所スペース』のように、ひきこもっていた家から出る理由をつくり、孤立させないためにも、こうした居場所の存在は大切です」

eワーク愛媛では、こうした一人ひとりの状況に合わせて、職場見学やボランティア体験、就労体験など、相談者が社会に踏み出すために一歩ずつ支援しています。就労体験が難しい場合には、eワーク愛媛のフードバンク事業でボランティアを体験することも。生活に困窮している場合は、就労支援と同時にコミュニティパントリーで食料を提供しています。

「利用者のなかには発達障がいの傾向があって、普段の作業は問題なくこなせるのに、イレギュラーな対応ができなくて仕事が続かない人もいます。また、一人作業を行う能力は十分あって優秀なのに、チーム作業がどうしても苦手な人もいます」

こうした得意不得意を理解した上で、就労体験に協力してくれる地域の企業を見つけることも、難波江さんたちの役割です。チームで働くことが難しければ個人で作業ができる職場を探し、叱られるのが苦手な人の場合には職場の人たちに配慮してもらうなど、eワーク愛媛が若者と企業の橋渡しを担っています。

職場見学の様子
職場見学の様子

就労体験の受け入れ先は、製造業や飲食業、農業など多種多様。働ける場を探している若者がいる一方で、地域には人材不足で困っている業種も少なくありません。就労体験で企業とのマッチングがうまくいき、就職へとつながったケースもあります。

「できる限り就労を受け入れたいと言ってくれる企業も多いんですよ。ただ、利用者のなかには就労まで時間がかかる子もいますし、やっと就職しても辞めてしまう人もいます。就職後も長い目で地道にフォローを続けていくことが、この事業で最も大事なことなんです」

地域の困りごとを地域で解決できるように

ご紹介してきたように、eワーク愛媛では休眠預金を活用して、「コミュニティパントリー」による生活困窮者支援と「困難を抱える若者の相談と居場所づくり」の2つの事業に取り組んできました。それぞれの事業での資金分配団体の伴走について、難波江さんは「非常に勉強になることが多かった」と振り返ります。

「どちらの事業にも共通して言えることですが、資金分配団体と一緒に取り組めたおかげで、客観的な目標設定や実績を数字として表すことの重要性を学びました。

こうした活動の成果を示す数字は、私たちのところに相談に来る人にとって安心材料になりますよね。自分たちだけの事業として取り組んでいたら、目の前の活動に追われてしまい実現できなかったことだと思います」

対象も内容も異なる事業を手掛けるeワーク愛媛の根底には、「地域の困りごとを地域で解決したい」という思いがあります。

「『地域共生』という言葉をよく聞くようになりましたが、重要なのは、地域の困りごとを地域で解決できるようになっていくことだと思います。

働けなくて困っている若者がいるなら、地域の企業が支える。困っているひとり親世帯や高齢者がいるなら、地域の人たちが食料の寄付などで手を差し伸べる。eワーク愛媛の活動が、そんな地域の実現に向けたお手伝いになれば、と思っています」

■休眠預金活用事業に参画しての感想は?

自分たちの団体だけで事業に取り組んでいると、どうしても「思い」だけで進んでしまうところがありますが、今回の助成を受けたどちらの事業にも資金分配団体が伴走してくれたおかげで、成果管理や事業評価といったところにも目を向けることができました。(難波江さん)

■資金分配団体POからのメッセージ

一般社団法人全国コミュニティ財団協会 石本さん
「コミュニティパントリー」は、必要なものを自分で選ぶことができ、かつ相談できる場所でもある、今までになかった支援の形だと思います。このように多様な支援の形が地域にあることが、地域から誰一人取り残さないことにつながっていくのだと感じています。これからコミュニティパントリーが愛媛を中心に広がっていくことを期待しています。

公益社団法人ユニバーサル志縁センター 小田川さん
若者たちがいつでも来ることができるフードパントリーや居場所、スタッフによるアウトリーチ、そして協力企業とともに取り組む相談会、見学会、体験会など、さまざまな方法で、ひとりひとりの若者の次の一歩を支えてくださっています。eワーク愛媛さんの長年にわたる地元企業とのつながり、そして地域の社会福祉協議会やNPO、そして民生委員などの支援者とのつながりがあってこその取り組みだと思います。

公益社団法人ユニバーサル志縁センター  岡部さん
若者の就労支援のアウトカムとして、当事者のステップを10段階で評価する基準を設けている点が、社会に成果をわかりやすく発信する良い取り組みだと思います。今回の事業では、相談支援の対象となった若者89名(実数)中、58名(65.2%)が2段階ステップアップできたとのことでした。ぜひ今後も、eワーク愛媛さんの取り組みを多くの方に発信していっていただけたらと思います。

【事業基礎情報 

実行団体特定非営利活動法人eワーク愛媛
事業名地域無料スーパーマーケット事業
活動対象地域愛媛県
資金分配団体一般社団法人全国コミュニティ財団
採択助成事業2020年度新型コロナウイルス対応支援助成

【事業基礎情報 Ⅱ

実行団体特定非営利活動法人eワーク愛媛
事業名愛媛県若者サポートコミュニティ事業:困難を抱える若者の相談と居場所づくり事業
活動対象地域愛媛県
資金分配団体公益社団法人ユニバーサル志縁センター
採択助成事業2020年度新型コロナウイルス対応支援助成
2021年に実施した中間評価におけるナラティブな評価を映像にしました。
2021年に実施した中間評価におけるナラティブな評価を映像にしました。
2021年に実施した中間評価におけるナラティブな評価を映像にしました。