活動の概要
一般社団法人えんがおは、地域の高齢者や精神・知的障がいを抱えた人、若者などが一緒に集える場づくりをとおして、多様な世代間交流を促進し、孤立の予防と解消に取り組んでいます。活動拠点は栃木県大田原市です。
具体的には、中高生や大学生の勉強場所、高齢者が集う地域サロン、障がい者グループホームなどを全て徒歩圏内に開設し、日常的な交流を意識的に促すことで、コロナ禍でより一層深刻になった孤立対策を進めています。
2021年度に休眠預金を活用し、新たに精神・知的障がい者向けグループホームの男性棟を開設。既存の女性棟の入居者とともに、入居者が日常的に地域と関わりながら生活することが可能となるよう、専門スタッフによるサポートを行いました。
活動スナップ
撮影に同行したJANPIA職員のレポート
車窓から目に入る景色が彩り豊かな季節、一般社団法人えんがおの地域サロンを訪問。ガラスの引き戸をあけると「どうぞ、いらっしゃーい」と、ふたりのおばあちゃんが暖かく迎えてくれました。
もともと酒屋だった2階建ての家屋の1階がサロンとして、2階が中高生・大学生の勉強場所として、地域に開放されています。この日は、近所で暮らしているおばあちゃんたちがお茶をしながら、不登校の中学生や通信制高校に通う高校生、大学生がえんがおのスタッフとおしゃべりしていました。

えんがおでは、高齢者のお困りごとに対応する「生活サポート事業」も行っています。高齢のひとり暮らしが多いため、「電球を交換してほしい」「寒くなってきたから毛布をもう一枚追加したいんだけど、押し入れの奥から出せない」といった依頼が寄せられ、そのサポートをしているのです。
訪問した日も「庭木の植え替えを手伝ってほしい」という依頼があり、スタッフや学生ボランティアがスコップを抱えて出かけていきました。
このように行政の制度からこぼれ落ちるニーズへ対応しながら、つながりが希薄になりがちな高齢者に生活の安心感や社会とのつながりを提供しています。

えんがお代表の濱野さんにお話を伺うと、特にコロナ禍によって高齢者と地域との分断が進んだと感じている、と聞かせてくれました。家に閉じこもりがちになり、認知症が進んだ事例も少なくないそうです。 そんな課題を抱える地域で濱野さんは、えんがおの活動を通じてつくりたい景色があります。
「行政の制度では、どうしても『高齢者』『子ども』『障がい者』などと対象ごとに事業や予算が区切られてしまいます。でもそうやって区切るのではなく、高齢者も子どもも障がい者もみんなが毎日一緒に過ごして『ごちゃまぜな景色』が地域の日常になっている。その状態をえんがおの活動で目指しています」
実際にえんがおでは、すでに「ごちゃませな景色」がうまれていました。お茶飲みをしているおばあちゃんたちがいて、そこに小さい子どもを連れたお母さんが立ち寄る。午後になれば、学校が終わった中高生が宿題をしに来て、仕事を終えた知的障がいのある人がその日の仕事について話をし、大学生がそれに応える、といった日常があります。
精神・知的障がいのある人が地域に関わることのハードルは高いと言われていますが、えんがおでは自然に溶け込み、おじいちゃんおばあちゃんの手伝いをしたり、えんがおのペットの世話をしたりと、それぞれの役割を担っています。
このように精神・知的障がいのあるグループホーム入居者がサロンに溶け込めるようになるまでに、えんがおスタッフの約半年間にわたる丁寧なサポートがありました。グループホーム入居後に生活を軌道に乗せるお手伝いをしたり、高齢者や若者たちの輪の中に入っていけるように声がけや橋渡しをしたりと、意識的に地域の人々とのつながりが生まれるように働きかけをしてきたのです。
今後は、サロンの向かい側に学童保育の施設をオープンする予定もあります。えんがおはこれからも地域の困りごとに寄り添い、一緒に解決策を考え、実践していくとのことです。
【事業基礎情報】
実行団体 | 一般社団法人 えんがお |
事業名 | コロナ禍で分断されたつながりの再構築事業 |
活動対象地域 | 栃木県 |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 とちぎボランティアネットワーク |
採択助成事業 | とちぎ新型コロナウイルス対応緊急助成事業 |
今回の活動スナップは、上智大学の学生さんと、そのインターンシップ先である特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズのメンバーとの顔合わせの様子をお届けします。
活動の概要
JANPIAがつなぎ役となり、上智大学国際教養学部の学生さんが2つの資金分配団体「特定非営利活動法人 エティック(2019年度通常枠)」「READYFOR株式会社(2020年度緊急支援枠)(2021年度コロナ対応支援枠)」の実行団体として休眠預金を活用している『特定非営利活動法人 グッド・エイジング・エールズ』でインターンシップを行うことになりました。今回、学生の石川さんが、グッド・エイジング・エールズがコンソーシアムで運営しているLGBTQ+総合センター『プライドハウス東京レガシー』(新宿区)にて、代表の松中権さんはじめメンバーの皆さんにお会いするということで、JANPIA企画広報部メンバーが一緒に訪問してきました。
活動スナップ
インターンシップは、上智大学国際教養学部の科目の一環で今年度初めて実施されるもので、JANPIAは実行団体を紹介し伴走する形で連携しています。
上智大学の石川さんは、親友が2年ほど前からLGBTQ+の支援団体でインターンをしていた関係で、LGBTQ+の分野に非常に興味があり、今回グッド・エイジング・エールズでのインターンシップを希望したそうです。
約3か月間のインターン期間中、石川さんは主に得意の英語を活かした英語でのSNS発信と、公益社団法人東京青年会議所主催の6月11日-12日のイベントのブース出展、プライドハウス東京レガシー主催の8月20-21日に予定している24 歳以下の子ども・ユースの教育×LGBTQ+に関するカンファレンスの準備に携わる予定です。
グッド・エイジング・エールズの活動については、次の記事も是非ご覧ください。
世界でいちばんカラフルな場所を目指して!| グッド・エイジング・エールズ 松中権さん × エッセイスト 小島慶子さん【聞き手】
■事業基礎情報【1】
実行団体 | 特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ |
事業名 | 日本初の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京」設立プロジェクト -情報・支援を全国へ届ける仕組みを創り、LGBTQの子ども/若者も安心して 暮らせる未来へ- |
活動対象地域 | 東京都、及び全国 |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人エティック |
採択助成事業 | 『子どもの未来のための協働促進助成事業 ~不条理の連鎖を癒し、皆が共に生きる地域エコシステムの共創』 〈2019年度通常枠〉 |
■事業基礎情報【2】
実行団体 | 特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ |
事業名 | LGBTQ中高齢者の働きがい・生きがい創出 |
活動対象地域 | 全国 |
資金分配団体 | READYFOR株式会社 |
採択助成事業 | 『新型コロナウィルス対応緊急支援事業 ~子ども・社会的弱者向け包括支援プログラム』 〈2020年度新型コロナウィルス対応緊急支援助成〉 |
■事業基礎情報【3】
実行団体 | 特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ |
事業名 | LGBTQ+ユースの学習支援・相談事業 |
活動対象地域 | 東京都 |
資金分配団体 | READYFOR株式会社 |
採択助成事業 | 『深刻化する『コロナ学習格差』緊急支援事業』 〈2021年度新型コロナウィルス対応支援助成〉 |
社会的規範への意識が低く、「非行少年」と呼ばれる未成熟な子どもたち。一度、社会のルールから外れてしまうと、日本のシステムにおいては、少年たちに繊細なサポートが行き届かない現状にあります。そんな彼らに手を差し伸べ、「就労支援」という形で立ち直りへの足掛かりをつくっているのが、2019年度通常枠(資金分配団体:更生保護法人 日本更生保護協会)の実行団体である「認定特定非営利活動法人 神奈川県就労支援事業者機構」です。今回は就労支援の現場に伺い、再犯防止にもつながる就労支援の活動を始めたきっかけや事業内容について、事務局長・竹内政昭さんと協力事業主の青木工務店代表・青木哲也さんにインタビューしました。
木の香りに包まれる建具づくりの就労体験で、時おり笑顔も
爽やかな木の香りに包まれる製作所で無心に鉋(かんな)をかける少年。まだ成長過程かと思われる華奢な体で、初めて触れたという鉋に体重をかけ、丁寧に細木を削っています

ここは、青木工務店(神奈川県大和市)の中にある建具製作所。少年は家庭裁判所から神奈川県就労支援事業者機構に推薦され、職場体験に来ています。この事業での職場体験とは、非行少年が企業等での職場体験を通じて、人や社会に触れ合うことの喜びを知り、立ち直りのきっかけをつくることを目指す活動です。具体的には、少年たちを興味ある分野の職場で2日間実際に体験してもらいます。肌に合えばそのまま就職したり、別の職場を紹介してもらったりしながら、職場体験が社会への第一歩を踏み出すきっかけになります。
今日の少年は建築大工と造園に興味があるといい、青木工務店が受け入れました。ここではまず、鉋を使って自分の箸をつくるよう指導します。最初は緊張ぎみだった少年も、指導員や立ち合い人の竹内政昭さん(認定特定非営利活動法人神奈川県就労支援事業者機構 事務局長)に筋の良さを褒められると、はにかむような笑顔を見せるようになりました。その後も時間をかけて何度も削り直し、やがてただの小さな木材は丁寧な作業によって美しい箸に変わります。引き続き、建具に入れ込む組木細工をやってみるかと問われ、小さくうなずきました。
研修後、自らの手で仕上げた数本の箸と十文字の組木細工を手にした少年は、職場体験の感想をとつとつと、しかし自信を感じる声で話してくれました。「最初は簡単かと思っていたけど、やってみたら難しくて不安になりました。どんなふうに力を入れたらいいかを考えながら、自分なりに発想を広げてやってみました。いろいろな考え方を持つことができた気がします」。

そう話す少年のそばには、これまで家庭裁判所から少年の職場体験の推薦を受けてからずっと寄り添って話を聞き、励ましてくれた竹内さんがいます。その大きな安心感があったからこそ、少年は研修での学びを前向きに考えられるようになったのかもしれない、と感じるひとコマでした。
人手不足が深刻化する建設業界に光をもたらす、就労支援活動への協力
少年を受け入れた青木工務店は、神奈川県大和市で100年の社歴があります。その4代目
代表取締役を務める、青木哲也さん。人手不足が進む昨今の建設業界にあり、青木さんもまた担い手不足に悩んでいました。7~8年前、顧客だった保護司※に大工見習が集まらないことを話したところ、非行少年たちの立ち直り支援活動の一環として「就労支援」という活動があることを聞きます。青木さんは早速、非行少年の就労を受け入れる「協力雇用主」として登録。ここから、青木工務店による就労支援活動への協力が始まりました。
<保護司>犯罪をした者や非行少年の社会復帰を助けるとともに、犯罪予防の啓発に努め、安心・安全の地域社会づくりに貢献することを使命としている。 |

「誰かを救いたいとか、社会貢献などと崇高な意識を持っているのではなく、建築大工の不足を考えてのこと。一人でもこの職業に興味を持ってもらえればと思って、協力態勢を整えただけのことです」と笑う青木さん。
ものごとを色眼鏡で見ない性格、とご自身を評するように、青木さんは誰に対してもニュートラルな姿勢で気負いがありません。
少年たちを受け入れるときに青木さんが最も注意しているのが、「観察」と「声かけ」です。
「これまで少年たちを見てきて分かったのですが、彼らの多くは自尊心が非常に低くなっています。自己肯定感がないので、ちょっとしたことで傷つき、自分を見失ってしまうんですね。職場体験後、入社してくれても先輩や親方に叱られただけで、突然寮からいなくなるケースは少なくありません」
少年たちは周りの大人との出会いに恵まれていないことが多く、自らSOSを出すことが難しい状況にあるケースも少なくありません。困ったときに誰かに相談して解決策を見出すのではなく、そこから逃げることを選んでしまうのです。そのため青木さんは、日ごろから少年たちの表情や声の調子、立ち居振る舞いを観察し、今の状態を把握しています。困っていそうな子にはさりげなく声をかけて励まし、相談のきっかけをつくることもあるのだとか。
「私は以前、子どもを病気で亡くしているんです。だから少年たちには、健康で生まれてきたのに人生を無駄にしてほしくない。その命を社会で守り、生かしてあげたいと思うんです。モノづくりは成果が目に見え、やりがいも大きい。職人の世界は厳しいけれど、技術を身につけるととても面白いので、ぜひ興味を持って臨んでほしいですね」と青木さん。辛い体験を通して感じてきた少年たちへの深い思いを、ちらりと覗かせてくれました。
少年たちに居場所を用意し、再犯防止と健全な社会づくりの一助としたい
青木工務店に就労支援への協力を依頼しているのは、認定特定非営利活動法人神奈川県就労支援事業者機構です。事務局長である竹内さんは、かつて法務省の保護観察所に勤務し、業務の中で非行少年らの生活指導にも携わっていました。しかし、就労支援に関しての業務はなく、これまでは保護司が個人的に知り合いの経営者などに頼み込んで雇ってもらうという形が主流でした。

竹内さんは就労支援の重要性について、穏やかな熱意を込めて話してくれました。 「保護観察所にいたとき、個人が動ける範囲でしか就労支援ができない状況を残念に思っていました。少年たちには家庭的な問題や経済的事情を抱えているケースが多く、それが原因で道を踏み外すことになります。善良な大人のいる職場で仕事と健全な居場所をつくり、経済的に自立させることができれば、彼らはきっと立ち直れるはずなんです」 そんな思いが形となったのは2009年。全国就労支援事事業者機構から保護観察所や民間更生保護団体への働きかけ、設立事務に関する助言などの協力を得て、「神奈川県就労支援事業者機構」が設立されました。竹内さんも立ち上げから携わっています。
<全国就労支援事業者機構>経済界全体の協力により、罪を犯した人への就労支援などを行い、安全で安心な社会づくりに貢献するNPO団体 |
立ち上げ当初から神奈川県就労支援事業者機構では、罪を犯した人や非行少年らの雇用に協力してくれる会社と連携し、罪を犯した人たちの就労を支援していましたが、川崎市で起こった中学生殺害事件を契機に、少年たち、取り分け非行の芽が小さな少年には、他の関係機関からも支援の手が届かないでいたことから、そうした少年にも支援を広げようと思うようになります。
「スタッフたちと自己資金で回す覚悟をしていたところ、休眠預金活用事業を知り、申請をしました。」
休眠預金活用事業の資金分配団体である日本更生保護協会からの助成を受け、2019年、無職の少年らに希望する職種で仕事の体験ができる職場体験活動と就職後も長く働けるように行う職場定着活動の2つの事業を立ち上げることができました。
職場体験は15歳~20歳の少年を対象に実施しており、1日3~4時間程度の作業に2日間就いてもらいます。業種は幅広く、建築関係から農業、介護、理美容など多岐にわたります。たとえ就職につながらなくても、少年たちにとって職場の空気に触れることが、社会に出るきっかけになります。たとえば保育園の補助を体験して保育士に興味を持てば、資格を取るため学習意欲が湧き、学校へ戻ることもあるでしょう。大事なのは、職場体験を通じて働く喜びや社会と触れ合う意義を知ることなのです。
就労支援に参加してくれる協力雇用主は、竹内さんらが個別に訪ねて開拓してきました。現在800社を超えるのですが、本事業の「非行少年の職場体験活動」にご協力いただいているのは現在40社ほどです。これまでに職場体験を通じて、ひきこもりの少年が職場体験から外に出られるようになったり、農業を選んだ少女が派手なつけ爪を外し、就職先の農場で日焼けしながら働いていたりするそうです。少年たちを気にかけて様子をうかがってきた竹内さんは、「こういう子が心を取り戻してくれるのを見るのが何より嬉しいです」とにっこり。
協力雇用主との折衝は、竹内さんが最も留意するところです。代表者だけが就労支援について理解していても、職場で指導する社員や同僚に理解がないと禍根を残します。そのため、協力雇用主との打ち合わせの際は、少年への接し方から指導にあたる社員の対応、雇用した場合の注意点など細かいアドバイスを欠かしません。
神奈川県就労支援事業者機構では、就労支援活動で少年が無事に就職ができた場合、1年後と3年後に調査し、1年続いたら会社へ、3年続いたら少年に記念となるものを渡すといいます。「1年はその会社の努力によるもの、3年も続くのは本人の努力によるものだから、それぞれの記念になればと思って」と竹内さん。
陰となり日向となり、少年の更生に力を尽くしてくれる大人がいることが、少年たちの未来への強い支えになっていくことを願ってやみません。
【事業基礎情報】
実行団体 | 認定特定非営利活動法人 神奈川県就労支援事業者機構 |
事業名 | 無職・非行等少年の職場体験・職場定着事業 |
活動対象地域 | 神奈川県 |
資金分配団体 | 更生保護法人日本更生保護協会 |
採択助成事業 | 安全・安心な地域社会づくり支援事業 草の根活動支援事業・全国ブロック〈2019年度通常枠〉 |
コロナ禍による失職や減収などの影響で、ひとり親世帯や若者など、さまざまな人たちに困窮が広がっています。そうしたなか、特定非営利活動法人eワーク愛媛(以下、eワーク愛媛)が従来からのフードバンク事業をベースにして始めたのは、必要なときに必要な食料品・日用品を無料で受け取れる「コミュニティパントリー」の拠点でした。さらに、困難を抱えた若者がコロナ禍で孤立したり、自立の機会を失ったりすることのないよう、居場所づくりや就労支援にも力を入れています。これらの活動を始めた背景について、eワーク愛媛・理事長の難波江任(なばえ・つとむ)さんに伺いました。
困窮が広がるなかでの「コミュニティパントリー」
愛媛県新居浜市にあるeワーク愛媛の事務所、その一角にはお米や保存食品、調味料やお菓子、日用品がずらり。ここに来た人は、買い物かごを持って思い思いに品物を選んでいきます。
小さな商店のようですが、これらはすべて無料提供。eワーク愛媛が、ひとり親世帯やコロナ禍で生活が苦しくなった人たちを対象に運営する「地域無料スーパーマーケット(コミュニティパントリー)」です。
一般社団法人全国コミュニティ財団協会が資金分配団体となって実施した「新型コロナウイルス対応緊急支援助成」を受けて、2020年12月末からコミュニティパントリーの事業を始めました。

この活動を始めた背景について、運営母体のeワーク愛媛で理事長を務める難波江任さんは、「コロナ禍で、シングルマザーの人たちなどを中心に、収入が減って生活が苦しくなったという話を耳にするようになったんです」と話します。
eワーク愛媛では、コミュニティパントリーの活動に先駆けて、2020年春に小中学校が一斉休校になった際に、ひとり親家庭の子どもたちに無料でお弁当を配布。このとき、コロナ禍でひとり親世帯の経済的・精神的な負担が増していることを実感したそうです。

もともとeワーク愛媛は、ひきこもり状態やニートなどのさまざまな困難を抱えた若者たちに就労支援を行う団体として、2003年に活動をスタートしました。現在では、フードバンク事業や地域再生事業にも活動を広げています。
「フードバンク事業に取り組むようになったのは、10年ほど前からです。就労支援の対象となる若者たちの多くが、経済格差や生活困窮の問題を抱えていると気づいたことがきっかけでした」
eワーク愛媛では、フードバンク事業を通じて一般家庭や企業、農家などから食品の寄付を集め、地域にある児童養護施設や自立援助ホーム、子ども食堂を運営する団体、ひとり親世帯や生活困窮者の支援団体などに提供してきました。
さらにeワーク愛媛が子ども食堂の主催も担い、ひとり親世帯を対象にした定期的にフードパントリー(無料食料配布)にも力を入れています。
「それでも、子ども食堂に足を運びづらい人や日時の都合が合わない人もいます。さらにコロナ禍で、ひとり親世帯に限らず生活が苦しくなる人が増えてきました。それなら、必要なときに必要なものを気兼ねなく取りに来られる場所をつくりたいと考えて、コミュニティパントリーを始めたんです」
気軽に来ることができて、相談しやすい場
eワーク愛媛のコミュニティパントリーの対象は、困窮者支援を担う社会福祉協議会やNPO、ひとり親世帯の支援団体、障がい者福祉施設などから紹介を受けた人。ひとり親世帯中心に、障がい者のいる世帯、生活に困窮する若者や高齢者など、さまざまな人が利用しています。
ポイントカードを利用して月5,000円程度の物資を無料で受け取れる仕組みで、食品の他に日用品や文房具などもあります。特に生理用品はすぐになくなるそうです。
コミュニティパントリーには、eワーク愛媛のスタッフが常駐。8時半から18時まで開いているので、利用者の都合に合わせて利用することができます。
「朝いちばんに来る方もいれば、仕事終わりに駆け込んで来る方もいるんですよ。遅い時間に『まだ行っても大丈夫ですか?』とLINEが来ることもあるので、スタッフがいるときは柔軟に対応しています」
通常のフードパントリーでは、寄付された食品を公平に分配するため、何を受け取るのかを選べないことも多いですが、コミュニティパントリーでは必要なものを自分で選ぶことができます。

難波江さんは、コミュニティパントリーが気軽に足を運べる拠点として機能することで、困ったときに相談がしやすい環境をつくりたいと考えています。
「コミュニティパントリーを利用する方から相談を受けて、専門支援機関に紹介したこともあります。スタッフに相談とまでいかなくても、ここで日常のちょっとした愚痴を話せるだけで、気持ちが少し楽になることもあるんじゃないでしょうか」
また、ひとり親のお母さんどうしが知り合いになって共通の悩みを相談し合ったり、子どもの服を譲ったりするつながりも生まれています。
就労相談会をきっかけに、コミュニティパントリーの利用につながった80代
これまでeワーク愛媛では、ひとり親世帯や若者を中心に支援してきましたが、コミュニティパントリーを始めたことがきっかけで、生活に困窮する高齢者の存在にも気づいたそうです。
「一人暮らしで年金が少ないために、自営で清掃業を続けている80代の方がいます。その方はコロナ禍で仕事が減り、eワーク愛媛が開催している就労相談会に参加したことがきっかけで、コミュニティパントリーの利用につながりました。この方のように大変な生活を送っている高齢者が、実はたくさんいるのではないかと思います」
コミュニティパントリーの立ち上げに活用した「新型コロナウイルス対応緊急支援助成」は2021年5月末で終了していますが、「この場所があって助かった」という利用者からの声があるため、愛媛県内の新居浜市・西条市の2ヶ所でコミュニティパントリー事業を継続しています。
「愛媛県は東予、中予、南予の大きく3地域に分かれます。今は東予地域でコミュニティパントリーを2ヶ所運営しているので、今後は中予地域と南予地域にも1ヶ所ずつつくりたい。そのために協力してくれる団体を探しているところです」
SOSを出せずにいる若者と出会うために
コミュニティパントリーの活動に加えて、eワーク愛媛では2021年6月から、もうひとつ新たな活動を始めました。
公益社団法人ユニバーサル志縁センターが実施する新型コロナウイルス対応緊急支援助成を活用して、発足当初から活動の柱としてきた「困難を抱える若者の相談と居場所づくり事業」を拡大しています。
「私たちは長年、ひきこもり状態の人やニートなど、就労に困難を抱えた人たちを支援してきました。そうした人の自立は、コロナ禍でさらに難しくなっているんです。ようやく自分に合う仕事を見つけたのに、コロナの影響で失職した人もいます。
こうした状況で、その人たちを孤立させないための支援も必要です。ただ、そもそもSOSを出せず、支援機関の存在さえ知らない若者も多くいます」
2018年に愛媛県保健福祉部が行った「ひきこもり等に関する実態調査」では、愛媛県内にひきこもり状態の人が約1,000人いるという結果が出ました。しかし、難波江さんは「隠れたひきこもり状態の人を含めると、実際にはその10倍はいるのではないか」と感じています。
「支援につながっていない若者との接点づくりが必要だとずっと思ってはいたのですが、自主事業ではそこまでの余裕がなく、目の前にいる相談者への対応で精一杯でした。今回、休眠預金活用事業の助成を受けられたことで、ようやく各地での定期的な相談会の実施や広報に力を入れることができたんです」
一人ひとりの得意・不得意を理解して支える
eワーク愛媛に相談に来る若者は10代から30代が中心で、「家から出るのが怖い」「コミュニケーションが苦手」「働く自信がない」といった、社会生活や就労になんらかの困難を抱えた人がほとんどだと言います。
「就職活動を始める前に、朝ちゃんと起きて身支度をする生活習慣を身につける必要がある人もいます。今回の助成で一つ増やすことができた『居場所スペース』のように、ひきこもっていた家から出る理由をつくり、孤立させないためにも、こうした居場所の存在は大切です」
eワーク愛媛では、こうした一人ひとりの状況に合わせて、職場見学やボランティア体験、就労体験など、相談者が社会に踏み出すために一歩ずつ支援しています。就労体験が難しい場合には、eワーク愛媛のフードバンク事業でボランティアを体験することも。生活に困窮している場合は、就労支援と同時にコミュニティパントリーで食料を提供しています。
「利用者のなかには発達障がいの傾向があって、普段の作業は問題なくこなせるのに、イレギュラーな対応ができなくて仕事が続かない人もいます。また、一人作業を行う能力は十分あって優秀なのに、チーム作業がどうしても苦手な人もいます」
こうした得意不得意を理解した上で、就労体験に協力してくれる地域の企業を見つけることも、難波江さんたちの役割です。チームで働くことが難しければ個人で作業ができる職場を探し、叱られるのが苦手な人の場合には職場の人たちに配慮してもらうなど、eワーク愛媛が若者と企業の橋渡しを担っています。

就労体験の受け入れ先は、製造業や飲食業、農業など多種多様。働ける場を探している若者がいる一方で、地域には人材不足で困っている業種も少なくありません。就労体験で企業とのマッチングがうまくいき、就職へとつながったケースもあります。
「できる限り就労を受け入れたいと言ってくれる企業も多いんですよ。ただ、利用者のなかには就労まで時間がかかる子もいますし、やっと就職しても辞めてしまう人もいます。就職後も長い目で地道にフォローを続けていくことが、この事業で最も大事なことなんです」
地域の困りごとを地域で解決できるように
ご紹介してきたように、eワーク愛媛では休眠預金を活用して、「コミュニティパントリー」による生活困窮者支援と「困難を抱える若者の相談と居場所づくり」の2つの事業に取り組んできました。それぞれの事業での資金分配団体の伴走について、難波江さんは「非常に勉強になることが多かった」と振り返ります。
「どちらの事業にも共通して言えることですが、資金分配団体と一緒に取り組めたおかげで、客観的な目標設定や実績を数字として表すことの重要性を学びました。
こうした活動の成果を示す数字は、私たちのところに相談に来る人にとって安心材料になりますよね。自分たちだけの事業として取り組んでいたら、目の前の活動に追われてしまい実現できなかったことだと思います」
対象も内容も異なる事業を手掛けるeワーク愛媛の根底には、「地域の困りごとを地域で解決したい」という思いがあります。
「『地域共生』という言葉をよく聞くようになりましたが、重要なのは、地域の困りごとを地域で解決できるようになっていくことだと思います。
働けなくて困っている若者がいるなら、地域の企業が支える。困っているひとり親世帯や高齢者がいるなら、地域の人たちが食料の寄付などで手を差し伸べる。eワーク愛媛の活動が、そんな地域の実現に向けたお手伝いになれば、と思っています」
■休眠預金活用事業に参画しての感想は?
自分たちの団体だけで事業に取り組んでいると、どうしても「思い」だけで進んでしまうところがありますが、今回の助成を受けたどちらの事業にも資金分配団体が伴走してくれたおかげで、成果管理や事業評価といったところにも目を向けることができました。(難波江さん)
■資金分配団体POからのメッセージ
一般社団法人全国コミュニティ財団協会 石本さん
「コミュニティパントリー」は、必要なものを自分で選ぶことができ、かつ相談できる場所でもある、今までになかった支援の形だと思います。このように多様な支援の形が地域にあることが、地域から誰一人取り残さないことにつながっていくのだと感じています。これからコミュニティパントリーが愛媛を中心に広がっていくことを期待しています。
公益社団法人ユニバーサル志縁センター 小田川さん
若者たちがいつでも来ることができるフードパントリーや居場所、スタッフによるアウトリーチ、そして協力企業とともに取り組む相談会、見学会、体験会など、さまざまな方法で、ひとりひとりの若者の次の一歩を支えてくださっています。eワーク愛媛さんの長年にわたる地元企業とのつながり、そして地域の社会福祉協議会やNPO、そして民生委員などの支援者とのつながりがあってこその取り組みだと思います。
公益社団法人ユニバーサル志縁センター 岡部さん
若者の就労支援のアウトカムとして、当事者のステップを10段階で評価する基準を設けている点が、社会に成果をわかりやすく発信する良い取り組みだと思います。今回の事業では、相談支援の対象となった若者89名(実数)中、58名(65.2%)が2段階ステップアップできたとのことでした。ぜひ今後も、eワーク愛媛さんの取り組みを多くの方に発信していっていただけたらと思います。
【事業基礎情報 Ⅰ】
実行団体 | 特定非営利活動法人eワーク愛媛 |
事業名 | 地域無料スーパーマーケット事業 |
活動対象地域 | 愛媛県 |
資金分配団体 | 一般社団法人全国コミュニティ財団 |
採択助成事業 | 2020年度新型コロナウイルス対応支援助成 |
【事業基礎情報 Ⅱ】
実行団体 | 特定非営利活動法人eワーク愛媛 |
事業名 | 愛媛県若者サポートコミュニティ事業:困難を抱える若者の相談と居場所づくり事業 |
活動対象地域 | 愛媛県 |
資金分配団体 | 公益社団法人ユニバーサル志縁センター |
採択助成事業 | 2020年度新型コロナウイルス対応支援助成 |