バリアをなくし、共に生きる。千葉盲ろう者友の会がつなぐ、支援の輪

「盲ろう者」とは目(視覚)と耳(聴覚)の両方に障害を併せ持つ人のこと。厚生労働省の調査によると、その人数は全国に1万4千人ほどと推定されています。視覚と聴覚に障害があると、日常生活においてさまざまな困難が生じますが、そうした盲ろう者の自立と社会参加を目指して活動しているのが全国各地の「盲ろう者友の会」です。今回は、2021年度通常枠に採択された「NPO法人千葉盲ろう者友の会」(資金分配団体:社会福祉法人全国盲ろう者協会)を訪問。同会の活動や課題、今後の展望についてお話をうかがいました。インタビューに答えていただいたのは、ご自身も盲ろう者である理事長の加藤清道さん、事務局の田中幾子さん、奥村由貴子さん、秦綾子さん、時松周子さんです。

交流会からスタートし、さまざまな支援事業へと活動範囲を広げる

1991年に東京都で「東京盲ろう者友の会」が誕生したことをきっかけに、全国各地で盲ろう者友の会設立に向けての動きが活発になりました。千葉県では、かねてから県内の盲ろう者が交流会を開いており、そこから友の会設立に向けての動きが始まったそう。そんな中、2004年11月に任意団体として「千葉盲ろう者友の会」が設立され、2009年に NPO 法人化。現在に至っています。

加藤清道さん(以下、加藤)「任意団体の頃は、会員である盲ろう者の交流が活動の中心で、そのほかはPR活動くらいでした。NPO法人になった2009年からは千葉県の委託事業として盲ろう者向けの通訳・介助者の派遣事業や育成事業を行ったり、当事者に向けて生活訓練事業や相談支援事業も始めたりと、活動の幅を広げていきました」

NPO 化した当初から取り組んでいる活動の一つが、通訳・介助者を育成し、求めている人の元へ派遣することです。盲ろう者は、周りの人と会話することが難しく、情報が入りにくい。また、移動するのにも困難があり、一人では安心して外出することができない人もいます。そのため、盲ろう者が安全・快適な生活を送るには、通訳・介助者の存在は非常に重要です。

しかし、一言で盲ろう者といっても、人によって必要な支援は異なります。例えば、少し聴力が残っている方であれば、耳元や補聴器のマイクに向かって話しかけることができますし、視力が残っている場合は、紙や筆談ボードで見えやすい大きさの文字を書いて伝えることができます。まったく見えず聞こえない「全盲ろう」の場合は、手のひらに文字を書いたり(手のひら書き)、手話を手で触って読み取ってもらったり(触手話)して伝えることができます。そのため、通訳・介助者は、こうしたさまざまなコミュニケーション手段を身につけ、相手に応じたやり方でサポートしなければなりません。こうした専門的な知識や技術を持つ、通訳・介助者を世に送り出すことは、大切な活動です。

様々なコミュニケーションのサポート
様々なコミュニケーションのサポート

盲ろう者自身が声を上げることで、伝えられるものがある

最近は、支援を求めている盲ろう者を探す“掘り起こし”や、社会に向けた啓発活動にも力を入れています。今、千葉県内には視覚と聴覚両方の障害者手帳を持っている人は約300人と推計されていますが、千葉盲ろう者友の会で把握している人数は40人ほどにすぎません。つまり、県内でもまだ出会えていない盲ろう者がたくさんいるということ。その中には、必要な支援を受けられていない人や、孤独な状況に置かれている人もいるかもしれません。盲ろう者本人やその家族なども、周囲との交流がなく、ほかの盲ろう者がどのような生活をしているかを知らないことも多いのが現状です。

そこで、県内の全市町村を訪問し、盲ろう者についての説明やパンフレットを配布。「身近に目と耳の両方が不自由な方がいらっしゃったら教えてください」と呼びかけることで、盲ろう者とのつながりを広げていこうとしています。


また、多くの人に盲ろう者のことを正しく知ってもらうための啓発活動として、福祉関連イベント等に積極的に参加。当事者による講演会や、触手話や指点字といったコミュニケーションの体験会によって、盲ろう者への理解を深めてもらうことと、千葉盲ろう者友の会の認知向上を図っています。

指点字体験会の様子
指点字体験会の様子

加藤「適切なサポートを受けるためには、まずは知ってもらうこと。ですが、多くの人は、盲ろう者のことをあまり知りません。目も耳も不自由だとどんな生活をしているのだろうか、家にずっと引きこもっているのだろうか、などと思われがちです。盲ろう者はコミュニケーションに困難を抱えていますが、それでも自分の言葉で一生懸命に伝えることが、周囲の人の心を動かし、支援につながるのではないかと考えています。」

実際に、多くの人が想像している以上に、盲ろう者にはさまざまなことができるそう。加藤さんは自身の経験もまじえながら語ります。

加藤「私自身、40代半ばに盲ろう者になり、仕事を辞めようかと考えたこともあったのですが、会社に相談して拡大読書器や視覚障害者向けのソフトを購入してもらい、それらを使いこなすことで、60歳の定年退職の年まで勤め上げることができました。毎朝、千葉から東京まで1時間かけて通勤もしていましたね。こうした私自身の経験から、盲ろう者であっても本人の努力と周囲のサポートがあれば、できることがたくさんあると感じています。そのことを盲ろう者やその家族、そして盲ろう者のことを知らない人にも伝えたいんです」

取材に応じる加藤さん(左)とコミュニケーションのサポートをする事務局長の田中幾子さん
取材に応じる加藤さん(左)とコミュニケーションのサポートをする事務局長の田中幾子さん

資金不足の解消によって、新たな盲ろう者支援へと踏み出す

千葉盲ろう者友の会は、2021年度に社会福祉法人全国盲ろう者協会(資金分配団体)によって、「盲ろう者の地域団体の創業支援事業」の実行団体として採択され、その資金を活用して盲ろう者向け同行援護事業をスタート。盲ろう者の同行援護事業とは、盲ろう者の外出時における移動やコミュニケーションの支援を指します。

盲ろう者の外出時における移動支援の様子
盲ろう者の外出時における移動支援の様子

奥村由貴子さん(以下、奥村)「以前から同行援護事業に興味はあったのですが、資金が十分ではなく、現実的ではありませんでした。ですが、2018年に全国で、盲ろう者向けの同行援護事業が始まり、機運が高まったことで、私たちの会でもやってみたいという思いが高まりました。また、そもそも私たちの活動全般において、資金不足は長年の課題でした。予算に限りがあるために、通訳・介助者を思うように派遣できないというケースも。そこで、助成金を得ることができれば、同行援護事業にチャレンジできるのと同時に、会を運営する費用もまかなえるのではないかと考えたんです」

早速準備会を立ち上げ、実現のために動き出した友の会メンバー。まずは、同行援護事業のサービス提供責任者の資格を取得。これまでの盲ろう者向け通訳・介助員の皆さんに声をかけて、同行援護従業者のための研修会なども行い、人員を確保しました。その後、実行団体として無事に採択され、晴れて2023年1月に「同行援護事業所かがやき」を開所することができました。

秦綾子さん(以下、秦):「全国盲ろう者協会の方々には、書類の作成など、事務的な面でさまざまな相談に乗ってもらいました。経理のこともふくめて、基礎的なことから専門的なことまで、迷ったら相談できる存在がある点は、本当に助かりました」

助成金の用途としては、「同行援護事業所かがやき」の開所だけではなく、同行援護従業者の養成研修会をはじめとした人材育成、友の会のさまざまな活動について発信するホームページの制作などにも活用。さらに、盲ろう者の掘り起こしや社会啓発活動もさらに拡大していきました。今までも各市町村役場訪問や地域の福祉イベントなどには積極的に参加していましたが、千葉県は広いため、資金不足でなかなか訪問しづらい市町村もありました。それが解消されたことで範囲を広げることができました。2024年度中には千葉県内すべての市町村役場に足を運ぶことができる見込みです。

田中幾子さん(以下、田中):「市町村を直接訪問することは、私たちにとって大切な活動だと感じています。そもそも市町村では、管轄内の盲ろう者の数を正確に把握していないことがほとんどでした。なぜかというと、視覚障害者や聴覚障害者であれば、それぞれ視覚障害者手帳・聴覚障害者手帳を発行するので、その手続きを通じて人数を把握することができるのですが、両方の手帳を持っている人については、確認をしていなかったからです。今回、盲ろう者の数の把握や社会啓発活動のための訪問をしたいと、各市町村に事前に伝えてしておくことで、担当者の方が訪問時までに数を調べておいてくださるなどして、より正確な状況を把握することができました」

奥村:「ただ、個人情報のため私たちが行政を通じて対象者と直接つながることはできません。ですから、直接訪問した先の福祉イベントなどでパンフレットなどを配布し、『もしお近くに盲ろう者と思われる方がいたら、NPO法人千葉盲ろう者友の会のことを伝えていただけませんか』とお願いをしています」

時松周子さん(以下、時松):「そうした活動の甲斐があって、今年は新たに1名の盲ろう者の方と繋がることができました。数だけでみるとたった1名とも思えるかもしれませんが、その方には友の会のいろいろな活動に参加していただけるようになり、非常に大きな意義があったと思っています。

また、掘り起こしをしていく中で、国や県の基準からは外れていて、サポートを求めている人がたくさんいることも実感しました。例えば、千葉県の盲ろう者向け派遣事業では、原則として視覚障害者手帳と聴覚障害者手帳、両方を持つ人のみが、支援の対象となっています。でも実際には、どちらか一つの手帳しか持っていなくても、病気や加齢によって少しずつ視覚や聴覚が低下していき、生活に困難を抱えている人もいます。なので、私たちの同行援護事業は、そうした人にも利用してもらえるようにしています」

千葉盲ろう者友の会の活動の大きな特色となっているのは、こうした「支援を必要とする人のところに、可能な限り支援の手を伸ばす」という姿勢。盲ろう者といっても、その状況はさまざまです。大きく分けるだけでも、まったく見えず聞こえない「全盲ろう」、全く見えないが少し聞こえる「全盲難聴」、少し見えるが聞こえない「弱視ろう」、少し見えて少し聞こえる「弱視難聴」の4つのタイプがあり、それぞれの障害が生まれつきのものなのか、成年になってから徐々に進行したものなのかによっても、必要なサポートは異なるでしょう。そのため、同会では、公のルールにおける「盲ろう者」に限らず、視覚・聴覚が不自由な人を探し、何に困っているかを聞き、一人一人に寄り添った支援を提供しているのです。

千葉盲ろう者友の会によるイベントの一コマより
千葉盲ろう者友の会によるイベントの一コマより

盲ろうという障害がある人もない人も、共に生きる社会を実現したい

最後に、事務局の皆さんに、今後、どのような活動をしていきたいかを伺いました。盲ろう者といっても、障害の程度や状況もさまざまで、コミュニケーション方法も多様であり、だからこそ通訳・介助員といった支援者の育成が難しいという課題があるそうです。それでも、そうした課題を一つ一つ乗り越えて、盲ろう者にとってもっと社会参加がしやすい方向に進めていきたいとお話しくださいました。
加藤さんにも今後の活動や、その先にどのような社会を望んでいるのかを伺いました。

加藤「盲ろう者が社会から取り残されないような活動を目指していきたいですね。盲ろうという障害がある人とない人の間にあるバリアがなくなり、共に生きる社会を実現していきたいと思っています。そのためには、例えば情報機器の発達なども大きな力になると思います。盲ろう者の視覚や聴覚の代わりとなるような機器がどんどん発達していってほしいと思います。盲ろう者は障害によって一般的な会社で働くことが難しいという現状があります。ですが、これからは障害者だから福祉作業所という一択ではなく、もっと普通に働き、自分で稼ぎ、そのお金で旅行をしたりスポーツをしたり、芸術を楽しんだりできる社会になってほしい。人間らしく生きることができる社会ですね。私たちの会ができることは小さなことかもしれませんが、その小さな力を集めることで、大きなことが実現できると信じています」


取材に対応してくださった左から奥村さん、時松さん、加藤さん、田中さん、秦さん
取材に対応してくださった左から奥村さん、時松さん、加藤さん、田中さん、秦さん

【事業基礎情報】

実行団体
NPO法人 千葉盲ろう者友の会
事業名

盲ろう者の地域団体の創業支援事業

活動対象地域
千葉県内
資金分配団体
社会福祉法人 全国盲ろう者協会

採択助成事業

2021年度通常枠

JANPIAは2023年12月1日、日本財団主催の「アジア・フィランソロピー会議 2023」の中で、「多様な「はたらく」、「まなぶ」の意思を尊重、機会創出の実現へ! ~休眠預金活用事業の事例から~」というセッションを企画・発表しました。「アジア・フィランソロピー会議」は、アジア地域におけるフィランソロピー活動に焦点を当てた国際的な会議で、今回のテーマは、 DE&I(多様性、公平性、包括性)。JANPIAのセッションでは、今回のテーマに関わる事業に取り組まれている実行団体の代表者と、休眠預金活用事業の可能性などについて対話しました。

活動概要

2023年12月1日、公益財団法人 日本財団の主催による「アジア・フィランソロピー会議」が、ホテル雅叙園東京にて開催されました。2回目の開催となる今回は、「DE&I(多様性、公平性、包括性)」(※1)をテーマとし、社会課題の解決に取り組む財団をはじめとしたアジアのフィラソロピーセクターのリーダーが一堂に会し、各セッションに分かれ様々な議論が行われました。
同会議のパラレルセッション4にて、JANPIAは、『多様な「はたらく」、「まなぶ」の意思を尊重、機会創出の実現へ!~休眠預金活用事業の事例から~』と題し、休眠預金活用事業の事例を紹介しました。
セッション4の様子は、動画と記事でご覧いただけます。



※1:「DE&I」は、Diversity(ダイバーシティ、多様性)、Equity(エクイティ、公平性)、Inclusion(インクルージョン、包括性)の頭文字を取った略称。

活動紹介

休眠預金活用事業説明(JANPIA)

はじめに、JANPIA 事務局長の大川より、休眠預金活用事業の紹介と今回のセッションの説明をしました。 「休眠預金等活用法よりJANPIAが2019年に指定活用団体に選定されて以来、全国で1,000を超える実行団体が休眠預金を活用し、社会課題の解決に取り組んでいます。今回は、その中から、今回の会議のテーマに合った事業に取り組まれている団体の代表者をお招きしました。会場やオンラインの皆様含めて、様々な観点から意見交換できたらと思います。」

▲JANPIA 事務局長 大川
  資料〈PDF〉|休眠預金活用事業説明|JANPIA[外部リンク]

各団体の取り組み

[1]一般社団法人 ローランズプラスの事例紹介

株式会社ローランズ 代表取締役 / 一般社団法人 ローランズプラス 代表理事 福寿 満希氏

福寿:私たちは東京都の原宿をメイン拠点としながら、花や緑のサービスを提供している会社です。特徴的なのは、従業員80名のうち7割の約50名が、障害や難病と向き合いながら働いているということです。私たちは、「排除なく、誰もが花咲く社会を作る」をスローガンとしており、Flower&Green事業、就労継続支援事業、障害者雇用サポート事業の大きく3つの活動を行っています。

▲ローランズプラス 福寿氏

休眠預金活用事業には、過去に3回採択されています。1つ目の「障害者共同雇用の仕組み作り」という事業(2)は、READYFOR株式会社が資金分配団体で、新型コロナウイルス対応緊急支援助成で採択されました。コロナ禍により、障害当事者の方たちの失業率が高まり、特に中小企業での雇用維持が大変でした。1社だけでは雇用が難しいため、例えば10企業でグループを作り、グループ全体で仕事をつくり、雇用を生み出していきましょうという仕組みづくりです。この事業によって30名程の新しい雇用が生まれ、助成終了後の今も、自走してしっかり回っている状態になっています。 


2つ目は、「花を通じた働く人のうつ病予防project」事業(※3)です。資金分配団体は、特定非営利活動法人 こどもたちのこどもたちのこどもたちのために 様で、花を通してうつ病を予防していくという取り組みです。企業の花を通じたウェルネスプログラムとして、会社から従業員に対して、10分割できる花をプレゼントし、10人に「ありがとう」を伝える機会をプレゼントします。ある調査では、「ありがとう」の言葉は、伝える側の方が幸福度が高くなるというデータが出ています。「ありがとう」の伝えることの重要性を知り、求めるのではなく、自発的にその言葉を伝えていければ、幸福度が高まる機会が増え、結果的にうつ病が予防されていく仕組み作りに挑戦しています。3年間で4千人へアプローチすることを目標に取り組んでいます。


3つ目は、資金分配団体である株式会社トラストバンク 様と取り組んでいる「地域循環型ファームパーク構築」事業(※4)です。神奈川県横須賀市で花の生産と体験型農業(ファームパーク)の運営を行うことで、地域の障害当事者の就労機会を創ることに取り組んでいます。慣れ親しんだ地域に仕事を作り、障害当事者が地元で活き活きと働き、その対価を得ながら地域循環の元で生活をしていけるモデルを作ろうとしています。横須賀地域の福祉団体と連携して、福祉団体から採用していくという流れをとっています。先ずは横須賀で形をつくり、そこから、その他の地域循環モデルが広がっていったら良いなと思い取り組んでいます。

▲ローランズプラス 福寿氏 当日資料より

※2:2020年度 緊急枠 「ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業」
(資金分配団体:READYFOR株式会社)【関連記事】ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用

※3:2022年度 通常枠 「植物療法を通じた働く人のうつ病予防プロジェクト」
(資金分配団体:特定非営利活動法人 こどもたちのこどもたちのこどもたちのために〈イノベーション企画支援事業〉)

※4:2022年度 通常枠 「障がい当事者が活躍できる地域循環型ファームパーク構築事業」
(資金分配団体:株式会社トラストバンク〈ソーシャルビジネス形成支援事業〉)

[2]認定NPO法人 グッド・エイジング・エールズの事例紹介

認定NPO法人 グッド・エイジング・エールズ 代表 松中 権氏

松中:まず「プライドハウス東京」というプロジェクトについてご説明します。まだまだ社会の中にはLGBTQ+(※5)の方への差別偏見があり、孤独感を感じている方も少なくありません。そこで、性的マイノリティの方々が横で繋がったり、安心・安全に訪れることができる場所をつくろうという取り組みが、「プライドハウス東京」です。2023年11月現在、31の団体・専門家、32の企業、19の駐⽇各国⼤使館などと連携して取り組んでいます。

▲グッド・エイジング・エールズ 松中氏

【関連記事】

世界でいちばんカラフルな場所を目指して!| グッド・エイジング・エールズ 松中権さん × エッセイスト 小島慶子さん【聞き手】

「プライドハウス東京」設立プロジェクトは、特定非営利活動法人エティックが資金分配団体を務める事業で採択され(※6)、当初は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の時期に合わせて期間限定の場所をつくり、その後、2022年頃に常設の大型のセンターを造ろうという計画でした。

しかし2020年に緊急アンケートを行ったところ、新型コロナウイルス感染拡大の影響でLGBTQ+の若者が大変な状況にあるということが分かってきました。実は、73.1%の方々が、同居人の方との生活に困難を抱えていることが分かりました。また、36.4%のLGBTQ+の若者が、コロナ禍でセクシュアリティについて安⼼して話せる相⼿や場所との繋がりを失ってしまったと回答しました。この緊急アンケートによって明らかになった「居場所のニーズ」により、当初の計画を前倒しし、2020年の秋、常設のセンターを開設することになりました。

LGBTQ+に関する様々な調査の中で、政府も調査していることの一つが自殺の事です。政府が自殺対策の指針として定める「自殺総合対策大綱」によると、性的マイノリティはハイリスク層と言われています。そうした方々が、安心・安全に集えるようなコミュニティスペースが、「プライドハウス東京レガシー」です。また、休眠預金を活用した事業が動き出したことによって、「プライドハウス東京」に関する高い信頼が得られ、翌年には厚生労働省の自殺対策(自殺防止対策事業)の交付金を受けることになりました。自殺対策の相談窓口は電話やSNSが多いですが、「プライドハウス東京レガシー」では、対面型の相談サービスを提供しています。2023年11⽉現在の来館者数は、延べ1万人を超えたというところです。



※5:LGBTQ+…レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランジェンダー、クエスチョニング(自分の性別や性的指向に疑問を持ったり迷ったりしている人)/ クィア(規範的な性のあり方に違和を感じている人や性的少数者を包摂する言葉)の英語表記の頭文字を並べ、LGBTQだけではない性の多様性を「+」で表現している。

※6:2019年度 通常枠
「日本初の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京」設立プロジェクト」
(資金分配団体:特定非営利活動法人エティック(子どもの未来のための協働促進助成事業))


パネルセッション

続いて、JANPIA 加藤の進行により、パネルセッションが行われました。本セッションでは、お互いの発表に対する意見交換から始まり、続いて今回のテーマである「DE&I(多様性、公平性、包括性)」について、そして最後に、休眠預金活用事業への期待や展望について、登壇者の二人からお話を伺いました。

登壇者:

・株式会社ローランズ 代表取締役 / 一般社団法人ローランズプラス 代表理事 福寿 満希氏
・認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ 代表 松中 権氏

司会:

一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)
企画広報部 広報戦略担当 加藤 剛

▲JANPIA 企画広報部 加藤

休眠預金の活用について、福寿氏は、「やりたかったけれどもやれていない事業や、やったら絶対に意義があると思っているけど、資金的・人的リソースが足りず、なかなか挑戦できない新規の事業で申請することが多かった」「障害者手帳をお持ちではないグレーゾーンの方もいらっしゃったりするので、そのような制度に引っ掛からない方たちにも支援が届けられたらと思った」と語りました。グッド・エイジング・エールズの松中氏は、「一般的な助成だと一番大切な居場所をつくるための家賃や人件費がサポートいただけないことが多かったので、休眠預金を知ったときは、これだったら居場所がつくれるのではないかと思い、申請した。常勤のスタッフが安心して働けるからこそ、新しいプロジェクトや寄付金が集められる」と続けました。また、お互いの活動について、松中氏は、「是非、連携させていただきたいと思った」と、今後の事業連携の可能性について盛り上がりました。

今回のテーマ『DE&I~すべての人々が自分の能力を最大限に発揮できる社会を目指して~』について、松中氏は、「LGBTQ+の当事者の若者が、卒業後に働く現場の一つとして、これらのコミュニティに関わるとか、企業のDE&Iに関わる部署への配属を希望できるようになるなど、卒業後にDE&Iを仕事としていくことが想像できるようになると良いなと考えている」と回答。また、福寿氏は、「障害者手帳もそうだが、名称の括りがあると、何か特別なものように思ってしまいがちなので、たまたま障害当事者のために業務を分かり易くしたところ、結果としてそれが同じ拠点で働くみんなのためにもなったといったように、障害者雇用が特別なものではない社会になったら良いなと思って取り組んでいる」と答えました。

また、休眠預金活用事業への期待や展望について、松中氏は、「取り組みの地域格差をどれくらい埋められるかというのが課題だと思っている。例えば、LGBTQ+センターは東京だけではなく、全国各地にあった方が良いと考えるが、地域によっては資金分配団体がなかったり、あったとしても掲げるテーマからなかなか採択に至るのは難しい状況もある。もっと全国各地の団体が参画しやすい仕組みになれば良いなと思う」と話しました。福寿氏は、「通常枠は約3年だが、自走できる仕組みづくりには時間がかかり、形ができてやっと活動を拡げるという手前で事業が終了してしまうので、拡がりが期待できる事業に対しては、ネクストチャレンジのような仕組みがあったら良いなと思う。有難いことに3つの事業で採択していただいており、現在2事業が実施中だが、どれも休眠預金が無ければ挑戦できなかった事業。社会課題の解決を後押ししてくれる制度なので、是非活用する事業者の方が増えていったら嬉しい」と話しました。

最後に、JANPIA 事務局長の大川より挨拶があり、「今日の学びを制度全体の発展にも活かせるよう、私どもJANPIAもしっかり取り組んで参りたい」と、このパネルセッションを締め括りました。

登壇者の皆さん

左から、JANPIA事務局長 大川・JANPIA 加藤・ローランズ 福寿さん・ グッド・エイジング・エールズ 松中さんです。

【1】事業基礎情報

実行団体一般社団法人 ローランズプラス
事業名ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業
活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業新型コロナウイルス対応緊急支援事業
〈2020年度緊急支援枠〉

【4】事業基礎情報

実行団体特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名日本初の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京」設立プロジェクト
-情報・支援を全国へ届ける仕組みを創り、
LGBTQの子ども/若者も安心して
暮らせる未来へー
活動対象地域東京都、及び全国
資金分配団体特定非営利活動法人エティック
採択助成事業子どもの未来のための協働促進助成事業
ー不条理の連鎖を癒し、皆が共に生きる地域エコシステムの共創ー
〈2019年度通常枠〉

【5】事業基礎情報

実行団体特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名LGBTQ中高齢者の働きがい・生きがい創出
活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業新型コロナウィルス対応緊急支援事業
ー子ども・社会的弱者向け包括支援プログラムー
〈2020年度新型コロナウィルス対応緊急支援助成〉

【2】事業基礎情報

実行団体一般社団法人 ローランズプラス
事業名植物療法を通じた働く人のうつ病予防プロジェクト
-花のチカラでうつ病発症を食い止めるー
活動対象地域東京都
資金分配団体特定非営利活動法人 こどもたちのこどもたちのこどもたちのために
採択助成事業うつ病予防支援 〜東京で働く人をうつ病にさせない〜
〈2022年度通常枠〉(イノベーション企画支援事業)

【3】事業基礎情報

実行団体一般社団法人 ローランズプラス
事業名障がい当事者が活躍できる地域循環型ファームパーク構築事業
ー障がい当事者が地域経済に参画することで、新しい社会包摂モデルを構築するー
活動対象地域神奈川県横須賀市
資金分配団体株式会社トラストバンク
採択助成事業地域特産品及びサービス開発を通じた、
地域事業者によるソーシャルビジネス形成の支援事業
〈2022年度通常枠(イノベーション企画支援事業)

パブリックリソース財団が2023年2月22日に開催した、子ども支援団体の組織基盤強化事業 「成果報告会 -3年間におよぶ組織基盤強化の成功要因を探る-」の動画です。

パブリックリソース財団は、休眠預金等活用事業の中ではまだ珍しい「組織基盤強化」に対して、資金分配団体として支援を行いました。

  • NPO法人 沖縄青少年自立援助センターちゅらゆい https://www.churayui.org/index.html
  • 認定NPO法人 発達わんぱく会 https://www.wanpaku.org/recruit/index.html
  • 認定NPO法人 ブリッジフォースマイル https://www.b4s.jp/
  • 一般社団法人 無限 https://mugen-mugen.com/
  • 人生で初めて海に入った日のことを、覚えていますか? 飛行機に乗ること、旅行に行くこと、自由に海で泳ぐこと。そんな体験をかけがえのない思い出として、医療的ケア児とその家族に届けている団体があります。2019年度通常枠の実行団体である「NPO法人Lino」です(資金分配団体:公益財団法人 お金をまわそう基金)。今回はLinoが立ち上げ当初から続けてきた、沖縄海洋リハビリツアーに密着。医療的ケア児とその家族が体験した初めての海、その先にLinoが目指す社会のあり方について、Lino代表の杉本ゆかりさんのお話とともにお届けします。

    人生で初めて海に入る日

    どこまでも晴れ渡った青空の下に広がる、南国の美しく澄んだ海。

    沖縄県恩納村(おんなそん)の海では、大人も子どもも誰もが一緒になって、穏やかに海を眺めたり海に入って水遊びを楽しんだりと、それぞれの楽しみ方で海を満喫しています。

    この海で2022年10月1日から3日に開催されたのが、NPO法人Lino(以下「Lino」)による「沖縄海洋リハビリツアー」です。

    「海洋リハビリ」とは、生きるために医療的なケアを必要とする医療的ケア児に向けて、マリンスポーツの体験を提供すること。人工呼吸器や胃ろうなどを日常的に使用しているため、海に入ることが難しい医療的ケア児が、豊かな人生経験を得られるように実施されています。

    Linoの沖縄海洋リハビリツアーは、2018年から実施されており、今回が6回目の開催。3日間の行程でメインイベントとなる海洋リハビリは、2日目の午前中に実施されました。

    当日は朝から快晴。沖縄らしく、10月初旬にして最高気温30度と、海に入るのにぴったりな気候になりました。 まずは8時から、砂浜で開催されたヨガで1日をスタート。沖縄で海洋リハビリに取り組む団体・チャレンジドオーシャンのスタッフに教わりながら、医療的ケア児の家族も参加していました。

    当日は朝から快晴。沖縄らしく、10月初旬にして最高気温30度と、海に入るのにぴったりな気候になりました。 まずは8時から、砂浜で開催されたヨガで1日をスタート。沖縄で海洋リハビリに取り組む団体・チャレンジドオーシャンのスタッフに教わりながら、医療的ケア児の家族も参加していました。

    ヨガを終えたら、いよいよ海洋リハビリが始まります。準備を終えた医療的ケア児と、サポートに入るチャレンジドオーシャンのスタッフで顔合わせをしてから、順番に砂浜へ。海洋リハビリツアーで使用している「ホテルモントレ沖縄 スパ&リゾート」は、ホテルの部屋から砂浜の直前まで車椅子を使って移動できます。

    今回参加した医療的ケア児は5名。うち4名が海に入るのはほとんど初めてだそうで、どこか緊張した様子です。

    Linoの海洋リハビリツアーでは毎回、さまざまなアクティビティを用意。出発前に参加者向けのオンライン説明会にて、海洋リハでできることとやりたいことを確認し、それぞれの障害や性格に合わせてアクティビティを選択しました。

    5人中4人が最初に参加したのが、船底から海の中が見えるグラスボートです。親子や兄弟で一緒に船に乗り込むと、あっという間にサンゴの見えるポイントへ。ガラス越しに好きな魚を探したり、海風に吹かれたり、思い思いに海上での時間を過ごします。

    楽しい海上の旅は、あっという間に終わりました。船の乗り降りは、スタッフがお手伝いします。

    続いて4人の医療的ケア児がチャレンジしたのは、ドラゴンボート。通常はボートの外側に乗ることが多いですが、医療的ケア児は姿勢を保っていられるようにボートの内側に座りました。

    とはいえ、直接水しぶきがかかるドラゴンボートには出発前からどきどき。それでもKさんは、水しぶきが一番かかる先頭を引き受けてくれました。

    初めての体験にどきどきしていたのは、医療的ケア児だけではありません。実はともに乗り込むお母さんが海上で酔いやすいとお話しされていました。

    それでも娘と一緒に初めてのドラゴンボートを体験できるように、グッと力を入れて乗船します。初めての体験を前にする気持ちは、医療的ケアを必要とする当事者であろうとそうでなかろうと、みんな同じなのです。

    帰ってきたときには全身ずぶ濡れでしたが、「親子で初めてドラゴンボートに乗って、海の色が変わる境界まで行けたことと、そのときに見た景色が忘れられません」との声が聞けました。

    また、海との近づき方は人それぞれです。グラスボートにもドラゴンボートにも乗らなくても、波打ち際に座って、全身で波を体感したり、浮き輪で泳ぐ参加者もいました。

    一人用の浮き輪をつけられない参加者も波に揺られる体験ができるように、全身を預けられる大きな浮き輪を用意。お母さんと一緒に海を楽しみました。さらにサップボードも登場。お母さんたちも、お子さんと一緒に初めての体験を満喫していました。

    あるお母さんが「子どもの体力がないだろうと思っていたけれど、体力を発揮する機会がなかっただけなのかも」と話すほどに、医療的ケア児ひとりひとりが思いっきり海と向き合っていた4時間。 保護者の方々から「まさかうちの子どもが、初めてのことをここまで体験できると思っていなかった」と、お子さんの普段見られない表情に満足する声が多数聞けました。

    そこにいた誰もが自分だけの「初めて」を経験したひとときは、きっと記憶に強く残ることでしょう。

    医療的ケア児と一緒に旅行ができる人を増やす機会に

    この海洋リハビリツアーを主催しているLinoの掲げるビジョンは、「健常者・障害者という垣根をなくし、自然と人が集まり、共存・助け合う世界をつくる
    ~ Diversity & Inclusionな世界の実現 ~」。代表理事の杉本ゆかりさんが2018年に立ち上げました。

    杉本さんは娘が2歳半のときに医療的ケア児になって以来、家族として娘を支えています。自分が親にしてもらったことを娘にも全て経験させたい、との思いで、娘をハワイに連れて行ったり一緒に映画を観に行ったりと、積極的に出かけてきました。

    「飛行機に乗って海外に行くことは大変だけれど、娘が飛行機に乗ったその先に楽しみがあると理解してから、飛行機に乗っている時間を我慢していられるようになったんです。本人にとって楽しみなことなんだなと伝わってきて、私もすごく嬉しかったです」

    杉本さんも海洋リハビリに毎回親子で参加している。お子さんは泳ぐのが大好き。

    子どもと一緒に体験してきた、かけがえのない思い出の数々。それによる子どもの変化を強く実感したからこそ、杉本さんは、他の医療的ケア児も同じように経験できたら、と思うようになっていきます。

    「障害がなければ、親と一緒に旅行に行くことってあるじゃないですか。でも障害があると、『飛行機に乗るには人工呼吸器を持ち込めるのか、チケットをどう取ればいいのかわからない』『空の上で発作が出たらもうおしまい』と、飛行機に乗ることをあきらめざるを得ない人がたくさんいる。

    でも、ちょっと頑張ってみたら得られるものがものすごくたくさんあるので、行ってみたい人には経験させてあげたかったし、それが難しいならお手伝いをしたいなと思いました」

    この思いから、2018年にLinoを立ち上げてすぐに、沖縄海洋リハビリツアーの開催を決めます。重い障害を抱える子どものお母さんに、「沖縄にできればもう一回行けたらいいなと思っている」と打ち明けられたことがきっかけでした。

    「呼吸器をつけていたり喉に穴が空いていたりすると、海に入るってすごくリスクが高くなるんです。学校ですら、なかなかプールに入れない。でも私は看護師で、看護師の先輩たちもサポートしてくれるから、工夫したら頑張れるんじゃないかと思って」

    こうして沖縄で初開催した海洋リハビリツアーでは、チャレンジドオーシャンとタッグを組み、人工呼吸器をつけた参加者が海に入れたといいます。1回目の実施を経て杉本さんは、海洋リハビリの価値を強く実感しました。

    「医療的ケア児の保護者が年齢を重ねたら、子どもを旅行に連れて行けなくなりますよね。でも医療的ケア児を旅行に連れていくサポートをしたことがある人が増えたら、旅行に行きたいと願う医療的ケア児を誰でも連れていけるようになる。だから海洋リハビリを続けていこうと決めました」

    休眠預金の活用をきっかけに、関わる人が増えた

    より多くの医療的ケア児に豊かな体験を届けるために、活動2年目に休眠預金活用事業への申請を決めた杉本さん。2019年度通常枠に実行団体として採択され、休眠預金活用事業をスタートします。

    Linoに伴走する資金分配団体は、公益財団法人お金をまわそう基金です。生まれたてだったLinoにとって特に重要だったのは、「Linoを知ってもらうこと」でした。

    「お金をまわそう基金の方が、Linoの活動を広めるために一緒に考えてくれて、いろいろな人とつなげてくれました。おかげでLinoを知ってくれる人が増えて、協力してくれる人も出てきたんです」

    例えば、以前は全ての業務を杉本さんが対応していたことで、少しずつ手が回らない部分が出ていたのだそう。しかし休眠預金活用事業がスタートしたことで理事が加入し、協力者が増え、運営体制が安定していきました。

    「団体としての意識が変わって、『私がここは責任を持って担当するよ』と言ってくれるメンバーが内部から出てきました。最近では社会人ボランティアの方々が関わってくれるようになって、それぞれの経験値をもとにLinoをどんどん良くしてくれています」 まずはLinoを知ってもらうこと。そう考え、協力者を増やすことからはじまった活動ですが、事業期間3年の間にLinoとしてできることを着実に増やしてきました。

    「この3年間で組み立ててきたことは全て、休眠預金があったからこそ実現できました。関わってくれる人が増えたのって、休眠預金を活用するようになって団体として信用を得られたことが、理由として大きかったのかなと。自分のお金を使って活動していたら、ここまで多くの人と関わることはできなかったなと思いますね」

    こうして少しずつ活動の幅を広げながら、Linoの目指す「自然と人が集まり、共存・助け合う世界」に向けて前進しています。

    誰もが助け、助けられることを「当たり前」にする

    Linoの海洋リハビリは、誰もが混ざり合える場です。
    医療的ケア児かそうでないか、大人か子どもか、参加者なのか運営者なのか、泳げるのか泳げないのか。

    Linoのつくり出す場には、一般的にいわれるそのような境界線はありません。その場にいた誰もが当たり前のように助け、助けられ、それぞれの「初めての体験」に体当たりしながら、一緒に過ごしています。

    「海洋リハビリではあえて親子で離れてみる機会もつくって、お母さんだけでサップを経験してもらったり、スタッフが付き添う形でお子さんだけで泳いでもらったりしています」と杉本さんが話すとおり、親子に限らず、お互いに助け合いながら一緒に楽しむ関係性が生まれていました。

    自分の子どもが気づいたら誰かに面倒を見てもらっていて、逆に自分も誰かに手を差し伸べる。杉本さんはこうした「ごちゃ混ぜ」の場で育まれる関係こそが、Linoの目指す社会のあり方につながっていくと考えています。

    「障害を持っている子どもの親って、自分が子どもをつきっきりで見ることが多いから、全部面倒を見ようとしちゃうんですよね。でももし安心して子どもを預けられる存在がいたら、自分は離れられる。

    そうやって誰かを頼る機会が結果的に、親である自分がこの世を去った後も子どもはきっと安心して生きていけるだろうな、と思えることにつながると思うんです」

    自分がいつか、子どものそばにつきっきりでいられなくなる未来。そんな未来を見据えている杉本さんだからこそ、「自然とお互いに支え合える社会」を実現する一歩目として、Linoの場づくりを大切にしているのです。

    海洋リハビリの日、医療的ケア児がのびのびと遊んでいる姿を笑顔で見つめながら、ある保護者の方が聞かせてくれました。 「子どもは本当は、海が好きだったんだなと今日わかりました。それなのに10年も連れて来られなくて、こんなに喜んでいる姿を見ていて申し訳ない気持ちになりました」

    海洋リハビリの日、医療的ケア児がのびのびと遊んでいる姿を笑顔で見つめながら、ある保護者の方が聞かせてくれました。 「子どもは本当は、海が好きだったんだなと今日わかりました。それなのに10年も連れて来られなくて、こんなに喜んでいる姿を見ていて申し訳ない気持ちになりました」

    日常的に医療的ケア児を全力でサポートしている保護者が、子どもへの「申し訳ない」という感情を抱え込まなければいけない現実があります。

    誰も「申し訳ない」と思うことなく、望むように旅行ができること。子どもの将来に対して親が安心することができ、親子で今をもっと楽しむことができること。
    そんな「当たり前」を可能にする関係性を育むために、Linoはこれからも、支え合いの輪を広げていきます。

    取材・執筆:菊池百合子



    【事業基礎情報】

    実行団体
    特定非営利活動法人 Lino
    事業名
    重症心身障害児・者と家族の学びの場を確保と生活の充実を図る事業
    活動対象地域
    全国
    資金分配団体
    公益財団法人 お金をまわそう基金
    採択助成事業
    医療的ケア児と家族の夢を寄付で応援

    <2019年度通常枠>


    「お金をまわそう基金」さんでも、今回のツアーが記事化されています。ぜひご覧ください!

    「働く」をキーワードに、生きづらさを抱える人と地域をつなぐ一般社団法人Team Norishiro(チーム のりしろ、以下「Team Norishiro」)。そこでは、生きづらさを抱える当事者が「働きもん」として薪割りや着火材作りの仕事をしていくことで、他者と関わりながら自分の働き方や生き方を見つけています。生きづらさを抱える当事者を変えようとするのではなく、当事者を受け入れる社会や地域の「のりしろ」を広げ、生きづらさを抱える人を知る、人を増やす──。そんな思いで続けてきたTeam Norishiroの活動について、代表の野々村光子さんにお話を伺いました。”

    制度のはざまにいる「働きもん」たち

    Team Norishiroに集う人たちは、生きづらさを感じて孤立している人、家から長年出られずコミュニケーションが苦手な人、障害がある人など、抱えている困難は人によってさまざま。支援する対象には、障害者手帳を持っていることなどの明確な「条件」はありません。既存の制度のはざまで孤立した人の手を取ろうとしている点が、Team Norishiroの大きな特徴です。

    なぜそのように、誰でも支援対象とする活動に至ったのでしょうか。

    Team Norishiroの野々村光子さんは、障害がある人の就労を支援する「東近江圏域働き・暮らし応援センター」のセンター長を務めています。このセンターが立ち上がってから、「センターとして手を握ろうとすると、制度上、応援していい人と応援できない人がいる、と気付きました。」と野々村さんは振り返りました。
    Team Norishiro 野々村さん

    Team Norishiroの野々村光子さんは、障害がある人の就労を支援する「東近江圏域働き・暮らし応援センター」のセンター長を務めています。このセンターが立ち上がってから、「センターとして手を握ろうとすると、制度上、応援していい人と応援できない人がいる、と気付きました。」と野々村さんは振り返りました。

    企業の障害者雇用率を上げることを最終目標にした障害者就労支援の制度では、基本的に「障害者手帳も持っている人」が支援対象の中心とされています。
    一方で、野々村さんがセンターで相談を受け始めると、当事者家族や民生委員の声を通して、障害者手帳を持っていないけれど家にひきこもっている人や、会社に馴染めず転職を繰り返している人の存在が見え始めたのです。そのような人たちは、当時の働き・暮らし応援センターによる支援の対象に入りませんでした。

    それならば、と野々村さんたちが立ち上げたのが、任意団体の「TeamKonQ(チーム困救(こんきゅう)」でした。地域の困りごとを集約しそれらを仕事として、社会から孤立している当事者に取り組んでもらいます。当事者一人ひとりを「働きもん」と呼び、仕事を通じて当事者の人柄やスキルを発見していくチームです。

    「平均で20年ほど自宅のみで生きて来た彼らが、本来はどんな人なのか? どんないいところを持っているのか。面談や訪問での支援方法だけでは、わかりません」

    TeamKonQで仕事をつくる過程で、薪と薪ストーブの専門店「薪遊庭(まきゆうてい)」社長の村山英志さん(Team Norishiro代表)をはじめとした、地域の「応援団」の輪も広がっていったといいます。

    「TeamKonQの活動の対象者は、誰でも。そんな『ようわからんこと』に、村山さんたちが賛同してくれて。社会の穴に落ちてしまう人はこれからも増えていくだろうし、同時に地域の困りごとも増えていくから、この活動を継続させていこうと思っています」

    就労を促すよりも、「手伝ってくれんか?」と声をかける

    TeamKonQで薪割りに取り組んだ背景には、2010年に東近江市で「緑の分権改革推進事業」として実施された、地域の雑木林から自然エネルギーを生むまでの実証実験が関係します。その過程の薪割りは、村山さんが自ら手がけても、働きもんがやっても結果は同じ。それなら、働きもんに仕事にして関わってもらえばいい、と村山さんが野々村さんに相談したことがきっかけでした。

    薪割りの活動の継続性を高めるために、2020年には一般社団法人化し、「Team Norishiro」を立ち上げ。「のりしろ」という名前に込めた意味について、野々村さんはこう話します。

    働きもんの薪割りの様子
    働きもんの薪割りの様子

    「生きづらさがある人に社会や学校教育が求めるのは、本人の『伸びしろ』。本人が変わっていく前提で考えられているから、家から出られたら次は仕事、と当事者は次々にステップアップを求められる。でも人間は本来、ステップアップするために生きているわけではないですよね。
    働きもんが、無理に自分を変える必要はないんです。むしろ社会の側が働きもんを受け入れられるような『のりしろ』を少しでも広げることで、働きもんと関われる重なりができる。そうすれば、社会の穴に落ちてしまっている人たちと手を握っていくことができると思います」

    今では薪割りだけでなく、地域で出る廃材を活用した着火材作りにも取り組みます。薪割りよりも体力の必要がなく、作業工程が明確なので、働きもんが参加するハードルを下げられたそう。
    福祉の視点から立ち上げられたのではなく、「雑木林をどうしたらいいだろう」「この廃材、なんとかならんか」と地域の課題を持ち寄って集まった人たちが始めた活動。「そこで働きもんが中心になって、地域にあるさまざまな課題が解決されて、活動が広がっている。すごく珍しいケースだと思いますね」と野々村さんは語ります。

    では「働きもん」は、どうやってTeam Norishiroの活動に参加するのでしょうか。

    例えば、野々村さんのいる働き・暮らし応援センターのもとに、息子がいる80代の女性から相談が入ります。「うちの息子は10年間、家にいる。息子が一人になったとき、息子は働けるんやろか」。その相談を受けて、野々村さんが本人を訪問します。そのとき、企業への就労については触れません。
    「着火材を作っているんやけど、コロナ禍でバーベキューがブームになっていて、すごい売れている。暇なんやったら、世間のために着火材作りを手伝ってくれんか?」

    誘われた本人は「着火材ってなんですか?」と興味を持ち、Team Norishiroの仕事現場に通うようになる。そこから人と関わるようになり、働き・暮らし応援センターの支援にもつながっていく。そんなケースが多いそうです。 「ポイントは、『ひきこもり支援をしています』などと発信しないこと。福祉や就労支援をキーワードに掲げてしまうと、当事者は来てくれなくなります。ただ単純に『そこにいけば仕事がある』という環境づくりをする。私たちの活動を地域の口コミで広げてもらうことで、これまで私たちが出会えていない人にも届けたいです」
    働きもんの皆さんが作られた着火材

    誘われた本人は「着火材ってなんですか?」と興味を持ち、Team Norishiroの仕事現場に通うようになる。そこから人と関わるようになり、働き・暮らし応援センターの支援にもつながっていく。そんなケースが多いそうです。 「ポイントは、『ひきこもり支援をしています』などと発信しないこと。福祉や就労支援をキーワードに掲げてしまうと、当事者は来てくれなくなります。ただ単純に『そこにいけば仕事がある』という環境づくりをする。私たちの活動を地域の口コミで広げてもらうことで、これまで私たちが出会えていない人にも届けたいです」

    成果指標は「当事者を何人が知っているか」

    Team Norishiroでは2020年4月、資金分配団体「信頼資本財団」から実行団体として採択され休眠預金活用事業をスタート。

    薪を配達するためのトラックを買い替えたり、冷房がなくて作った着火材が溶けてしまうこともあったため作業場所の設備を改修したりと、活動を続けていくために必要不可欠な基盤を整えました。

    休眠預金活用事業の特徴は、活用の対象になる事業に、既存の制度の裏付けがいらないこと。Team Norishiroのような、既存の制度のはざまの人たちへの支援活動にも活用が可能です。
    「生活に困窮している人、自死のリスクがある人、障害がある人のように、困っている理由は人それぞれ。しかし既存の制度を使うと、支援の対象がどうしても限定されてしまう側面があります。全面的にバックアップしてくれる休眠預金活用事業は、支援対象への考え方が違いました」
    休眠預金を活用した結果、2020年からの2年間で、総勢56人の働きもんが仕事に参加。そのうち14人は、地域の企業への就労にもつながりました。

    しかし、Team Norishiroでは「何人が就職できたか?」よりも大切にしている成果指標があると言います。それは、「1人の働きもんを、何人が知っているか?」という指標です。
    「最初に当事者の親御さんから相談を受け、私が会いに行くと、本人を知っている人が親御さんと野々村の2人になります。着火材の作業に来てもらうと、他の働きもんたちがその人のことを知ります。さらに、働き・暮らし応援センターのワーカーが、具体的な支援策を組み立てながら、その人のことを知っていくんです」

    結果、本人は頼まれて着火材作りに来ているだけで、当事者の人生を知る人が増えていく。その成果指標を重視しながら、当事者が社会や地域と関わる「のりしろ」を広げています。
    さらに働きもんを見守っているのは、一緒に働くメンバーだけではありません。薪や着火材の購入、資材の提供などを通して働きもんの活動を応援する「応援団」が、この2年間で約250人も増えました。

    応援団を増やすために重要なのは、ストーリーの発信だと言います。働きもんを単純に「障害者」「ひきこもり」と括るのではなく、一人の働きもんの物語を丁寧に伝え、物の購入を通じてその背景にいる働きもんにも思いを馳せてもらう発信を心がけます。

    Team Norishiroの発信の先に思い描く未来について、野々村さんはこう語ります。
    「働きもんは、『失敗した人』でも『残念な人』でもない。発信を通じてそう伝え続けると、その発信を受け取った人が、『親戚でひきこもりの子がいるけれど、残念な子ではないんや』と気づける。それが、孤立しそうな人と手をつなぐ一歩目になります。
    私たちの活動を知った方から『のりしろ』が広がっていったら、それが最終目的と言っても良いかもしれません」

    古民家を、地域におけるセーフティネットに

    Team Norishiroではこれまでの活動に加えて、2021年3月からは資金分配団体「東近江三方よし基金」の採択事業として、集落にある古民家の改修と活用の事業も始めました。

    コロナ禍で、社会の穴に落ちた人たちの声はさらに外に出づらくなった今、家庭内での障害者への暴力が発生していたり、外出を控え続けて餓死寸前になっていたりと、厳しい状況が生まれています。 これまで「働く」をキーワードとしてきた野々村さんは、「職場」だけではない「誰かが自分のことを知っている場」が、地域に必要だと感じ始めました。 そうしてスタートした古民家の改修事業では、古民家を「大萩基地」と名付け、誰でも利用できるスペースにしました。すでに、福祉業界の若者の勉強会、行政の職員のひきこもり支援の勉強会、当事者の働きもんが集う会など、多様な使われ方をしています。

    古民家を改修し出来上がった大萩基地

    「今後は、とりあえず大萩基地まで行けば誰かに会えて正しい情報をもらえたり、ご飯が週1回でも食べられたりして、『困っています』と手を挙げなくても命が守られるセーフティネットをつくりたいです」
    同時に、大萩基地が「一人暮らしの訓練場所」として機能することも目指しています。
    障害者のグループホームにはショートステイの制度があり、一人暮らしの練習が可能です。ただ、ショートステイの制度は福祉サービスなので、障害者手帳が必須。働きもんの中には、障害者手帳がなかったり、あっても隠したい人がいたりするため、制度の活用が難しい状況にあります。
    そんな働きもんに「お母さんがずっと料理しているのを見てきたんだから、一緒に一回作ってみよう」と誘って、大萩基地で食事を作ってみる。「できるやん。1人で暮らせるやん」と練習を重ねる。そんな使い方を考えているそうです。

    Team Norishiroの活動をサポートしてきた資金分配団体「東近江三方よし基金」の西村俊昭さんは、働きもんの一人に「地域で暮らすために必要なもの」を尋ねた際の答えが印象的だったと話します。
    「『困ったときに声をかけてくれる人が一人でもいたら、生きていける』という答えがありました。大萩基地や応援団の存在によって、一人の働きもんでも『あそこがあるから何とかなる』と思える活動になっていたら嬉しいです。それに、同じような活動を他の地域でも実現できるんじゃないかと思います」(西村さん)

    取材の際には、東近江三方よし基金の西村さんも同席

    最後に、Team Norishiroのエンジンであり続けてきた野々村さんに、今後の目標を聞きました。
    「我々がやっていることはまだまだ、特別なことだと思われてしまいます。これを、特別じゃないものにしたい。そのために、困難を抱えている当事者ではなく、当事者とともに生きる地域や社会を変えていきたい。
    あとは、活動を続けることです。休眠預金を活用して活動の基盤が整ったので、そのときにできるベストな活動を見つけて、継続していきたいです」



    【事業基礎情報】

    実行団体
    一般社団法人 Team Norishiro
    事業名
    「働く」をアイテムに孤立状態の人と地域をつなぐ
    活動対象地域
    滋賀県
    資金分配団体
    公益財団法人 信頼資本財団
    採択助成事業
    孤立状態の人につながりをつくる

    <2019年度通常枠>
    実行団体
    一般社団法人 Team Norishiro
    事業名
    空き家を活用して命を守りつなぐ場づくり
    活動対象地域
    滋賀県東近江市
    資金分配団体

    公益財団法人 東近江三方よし基金
    (東近江・雲南・南砺ローカルコミュニティファンド連合 コンソーシアム幹事団体)
    (コンソーシアム構成団体:
     公益財団法人 うんなんコミュニティ財団、公益財団法人 南砺幸せ未来基金)
    採択助成事業
    ローカルな総働で孤立した人と地域をつなぐ
    ~日本の変革をローカルアクションの共創から実現する~
    <2020年度通常枠>

    休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」では紹介できなかった映像を再編集しました。ぜひご覧ください。

    今回の活動スナップは、一般社団法人ローランズプラス(資金分配団体:READYFOR株式会社)。休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」の制作にご協力いただきました。シンポジウム用の動画ではご紹介できなかった動画を再編集し、撮影に同行したJANPIA職員のレポート共に紹介します。””””

    活動の概要

    一般社団法人ローランズプラスは、原宿でフラワーショップとカフェを運営しています。勤務しているスタッフ60名のうち45名が、障がいや難病と向き合いながら働いていることが特徴です。

    さらに中小企業の障がい者雇用促進の取り組みを広げるために、2020年に休眠預金を活用した事業を実施。障がい者雇用の算定特例制度を活用し、複数の中小企業と福祉団体が連携して障がい者の共同雇用を行う仕組みを整えて、事業を開始しました。1社単独ではハードルが高い障がい者雇用を、複数企業と福祉団体が連携することで実現するモデルとして注目されています。

    活動スナップ

    撮影に同行したJANPIA職員のレポート

    カラフルな花に囲まれたカフェ・フラワーショップ「ローランズ」。ひとりでも気軽に入れる雰囲気で、お花やグリーンの鉢植えに囲まれて幸せな気持ちでランチやスイーツを楽しむことができます。フルーツサンドやスムージーなどのメニューは、思わず写真を撮りたくなるかわいらしさです。

    併設されたフラワーショップには彩り豊かなお花がならび、スタッフがアレンジメントを手際よく制作しています。リーダーの高橋麻美さんは、ローランズで働き始めて6年目です。

    スタッフミーティング中の高橋麻美さん]

    「もともとお花が好きで、ハローワークで求人を見て応募しました。とはいえ、大学を卒業してから病気のことで入退院を繰り返していたので働いた経験がなく、障がいがあるので、入社前は仕事を続けられるか不安でした。

    今ではローランズで他のスタッフと一緒に力を合わせて働くのがとても楽しく、やりがいを感じています」

    高橋さんの働く姿を撮影!スタッフは、ZAN FILMSの本山さん、明石さん

    高橋さんのように障がいや難病と向き合うスタッフがいきいきと働くローランズには、障がい者雇用のノウハウが蓄積されています。そのノウハウを、障がい者雇用に困難を感じる中小企業に共有し、障がい者を共同で雇用する仕組みを構築する新規事業をスタートするために、休眠預金等活用事業を活用しました。

    ここまでの成果として、2022年4月までに6社と連携し、16名の新規雇用を生み出すことに成功。今後は新たに70名を共同雇用する予定です。

    ローランズ代表の福寿満希さんは、障がい者雇用のニーズの高まりとは反比例して、コロナ禍での新規事業の立ち上げに大きな不安を抱えていたと話してくれました。

    インタビュー中の、福寿満希さん

    「新しいことに踏み出すときはとてもエネルギーが必要で躊躇していたのですが、資金分配団体の伴走支援があったおかげで、1歩を踏み出すことができました。常にタスクの優先順位を一緒に確認してくれたおかげで、計画どおりに進められています。

    今後は、東京で立ち上げた障がい者の共同雇用のモデルを地域に展開し、地域の中小企業が障がい者雇用に踏み出すお手伝いをしていきたいです」

    ローランズが目標として掲げるのは、「多様なひとが一緒に働ける彩り豊かな社会」。実現のために、これからは東京から地方へと、そのノウハウと仕組みを広げていきます。

    【事業基礎情報】

    実行団体一般社団法人 ローランズプラス
    事業名ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業
    活動対象地域全国
    資金分配団体READYFOR株式会社
    採択助成事業新型コロナウイルス対応緊急支援事業
    〈2020年度緊急支援枠〉

    活動の概要

    一般社団法人えんがおは、地域の高齢者や精神・知的障がいを抱えた人、若者などが一緒に集える場づくりをとおして、多様な世代間交流を促進し、孤立の予防と解消に取り組んでいます。活動拠点は栃木県大田原市です。

    具体的には、中高生や大学生の勉強場所、高齢者が集う地域サロン、障がい者グループホームなどを全て徒歩圏内に開設し、日常的な交流を意識的に促すことで、コロナ禍でより一層深刻になった孤立対策を進めています。

    2021年度に休眠預金を活用し、新たに精神・知的障がい者向けグループホームの男性棟を開設。既存の女性棟の入居者とともに、入居者が日常的に地域と関わりながら生活することが可能となるよう、専門スタッフによるサポートを行いました。

    活動スナップ

    撮影に同行したJANPIA職員のレポート

    車窓から目に入る景色が彩り豊かな季節、一般社団法人えんがおの地域サロンを訪問。ガラスの引き戸をあけると「どうぞ、いらっしゃーい」と、ふたりのおばあちゃんが暖かく迎えてくれました。

    もともと酒屋だった2階建ての家屋の1階がサロンとして、2階が中高生・大学生の勉強場所として、地域に開放されています。この日は、近所で暮らしているおばあちゃんたちがお茶をしながら、不登校の中学生や通信制高校に通う高校生、大学生がえんがおのスタッフとおしゃべりしていました。

    えんがおでは、高齢者のお困りごとに対応する「生活サポート事業」も行っています。高齢のひとり暮らしが多いため、「電球を交換してほしい」「寒くなってきたから毛布をもう一枚追加したいんだけど、押し入れの奥から出せない」といった依頼が寄せられ、そのサポートをしているのです。

    訪問した日も「庭木の植え替えを手伝ってほしい」という依頼があり、スタッフや学生ボランティアがスコップを抱えて出かけていきました。

    このように行政の制度からこぼれ落ちるニーズへ対応しながら、つながりが希薄になりがちな高齢者に生活の安心感や社会とのつながりを提供しています。

    濱野将行さん、撮影の様子。撮影はZAN FILMSの本山さん、明石さん。

    えんがお代表の濱野さんにお話を伺うと、特にコロナ禍によって高齢者と地域との分断が進んだと感じている、と聞かせてくれました。家に閉じこもりがちになり、認知症が進んだ事例も少なくないそうです。 そんな課題を抱える地域で濱野さんは、えんがおの活動を通じてつくりたい景色があります。

    「行政の制度では、どうしても『高齢者』『子ども』『障がい者』などと対象ごとに事業や予算が区切られてしまいます。でもそうやって区切るのではなく、高齢者も子どもも障がい者もみんなが毎日一緒に過ごして『ごちゃまぜな景色』が地域の日常になっている。その状態をえんがおの活動で目指しています」

    実際にえんがおでは、すでに「ごちゃませな景色」がうまれていました。お茶飲みをしているおばあちゃんたちがいて、そこに小さい子どもを連れたお母さんが立ち寄る。午後になれば、学校が終わった中高生が宿題をしに来て、仕事を終えた知的障がいのある人がその日の仕事について話をし、大学生がそれに応える、といった日常があります。

    精神・知的障がいのある人が地域に関わることのハードルは高いと言われていますが、えんがおでは自然に溶け込み、おじいちゃんおばあちゃんの手伝いをしたり、えんがおのペットの世話をしたりと、それぞれの役割を担っています。

    このように精神・知的障がいのあるグループホーム入居者がサロンに溶け込めるようになるまでに、えんがおスタッフの約半年間にわたる丁寧なサポートがありました。グループホーム入居後に生活を軌道に乗せるお手伝いをしたり、高齢者や若者たちの輪の中に入っていけるように声がけや橋渡しをしたりと、意識的に地域の人々とのつながりが生まれるように働きかけをしてきたのです。

    今後は、サロンの向かい側に学童保育の施設をオープンする予定もあります。えんがおはこれからも地域の困りごとに寄り添い、一緒に解決策を考え、実践していくとのことです。

    【事業基礎情報】

    実行団体
    一般社団法人 えんがお
    事業名
    コロナ禍で分断されたつながりの再構築事業
    活動対象地域栃木県
    資金分配団体特定非営利活動法人 とちぎボランティアネットワーク
    採択助成事業

    とちぎ新型コロナウイルス対応緊急助成事業
    〈2020年度緊急支援枠<随時募集3次>〉

    休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」では紹介できなかった映像を再編集しました。ぜひご覧ください。

    今回の活動スナップは、既に事業が完了している20年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成の実行団体『認定特定非営利活動法人 ミューズの夢(資金分配団体:公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)』から届いた、助成完了後の嬉しい報告についてお届けします。

    「ミューズの夢」の休眠預金活用事業について

    ハンディの有無にかかわらず子どもたちに質の高い音楽とアートに触れる機会と、自由に表現できる環境をつくることを目指して活動している『認定特定非営利活動法人 ミューズの夢(以下、ミューズの夢)』は、2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成〈資金分配団体:公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(以下、セーブ・ザ・チルドレン)〉の実行団体として、コロナ禍で活動が制限され、子どもたちにも不安が広がるなか、「離れていても芸術に触れることができ、一緒に参加でき楽しいプロジェクト」に取り組みました。

    (詳しくは、掲載記事をご覧ください。)

    離れていても、 子どもたちと芸術を通じてつながりを生み出す~ミューズの夢~

    助成事業のその後♪

    今回は、記事掲載の際に交流を持った芸術監督を務める仁科彩さんから、「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」と「JANPIA」宛に助成事業のその後について、うれしいメールをいただいたので、ご本人のご同意の元、その一部を紹介させていただきます。

    ミューズの夢の皆さんのこれからのご活躍に、今後も注目していきたいと思います。
    仁科さん、ご連絡ありがとうございました♪

    ******************************************

    ■「コトリの森のオーケストラ」上映会

    先週、宮城県立金成支援学校同窓会の皆さんが  「コトリの森のオーケストラ」を上映してくださったご様子です。主催者のお一人から、「皆さんに楽しんでいただけて、私もとっても嬉しかったです」とありがたいご感想をいただきました。
    このアニメーションは、オーディオ部分が録音図書になっており、視覚障害を抱えるかたも、聴覚障害を抱えるかたも、皆で一緒に楽しめる内容となっています。動画内に登場するカラフルなコトリや自然風景は、このプロジェクトに参加した252名の子ども・若者たちによる作品です。
    このような沢山の方々の思いと時間が詰まった動画の完成は、御助成いただいた皆様からの経済的支援にとどまらない、お心こもった応援なくして成す事ができませんでした。本当にありがとうございます。これからも学校、図書館、移動図書館、病院にて、絵本の寄贈や、アニメ付き録音図書の上映を行っていきたいと思います。

    ■「Kotori Project」のその後

    今春Kotori Projectの アートディレクターを担当してくださっているデザイナーの田村奈穂さんが東北をお訪ねくださり、今度は「サカナのようふく」を子どもたちとデザインしました。

    プロジェクトの総合アドバイスをしてくださっている宮城県立こども病院発達診療科の奈良隆寛先生も駆けつけてくださり、活動中の子どもたちのいきいきとしたご表情と、次々と発想豊かに生まれるイロ・カタチに感銘を受けていらっしゃいました。

    ■「Strings of Love」

    Strings of Love」では助成期間中にスタートした「はじめてのヴァイオリン」から11名の若きヴァイオリニストたちが、ぐんぐんご成長の芽をのばしていらっしゃいます。また、動画を公開してから、当会に弦楽器をご寄贈いただく機会が増えました。今年に入り、5台のヴァイオリンと、1台のチェロを拝受しました。これもひとえに、皆様のサポートのおかげです。 3年目のコロナ禍ではございますが、引き続き、仙台フィルハーモニー管弦楽団団員 長谷川基先生ご監修のもと、子どもたちがより質の高い音楽教育を継続可能なかたちで受けられて、本物の楽器に触れられる機会を増やしていきたいと思います。

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    【事業基礎情報】

    実行団体
    認定特定非営利活動法人 ミューズの夢
    事業名
    緊急事態下における子ども及び若者による芸術創造活動の支援事業
    副題:芸術教育のユニバーサルデザインとトラウマケアに関する取り組み
    活動対象地域全国
    資金分配団体公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
    採択助成事業

    『社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業』

    〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉