リユース×お弁当配達だからこそできるソーシャルキャピタル/第1回ホットスフォーラム

この動画は、2022年2月20日(日)にオンライン開催した第1回ホットスフォーラムの録画です。

2021年10月初旬、佐賀県と長崎県で外国人を支援する実行団体4団体と資金分配団体(佐賀未来創造基金・未来基金ながさき)がオンライン上で集まり、約2時間にわたって成果報告会を実施しました。その様子を、前半・後半の2回に分けて紹介します。今回は「前半・プレゼン編」です!

コロナ禍における外国人分野の支援を実現

日本に住む外国人の方々は、生活に関わる情報を母国語で得ることが難しいという課題があります。ある在留外国人向けに実施された調査では、在留外国人の9割が「日本語がわからないことで困った経験がある」と回答しています※。特に、新型コロナウイルス感染症や自然災害など非常事態に見舞われると、言語の壁はさらに大きな問題になります。非常事態における「母国語での情報」や「日本語学習の支援」がどれだけ心強い支えになるのかは想像に難くありません。

2020年度新型コロナウイルス対応支援助成の資金分配団体である公益財団法人 佐賀未来創造基金(コンソーシアム構成団体:一般財団法人未来基金ながさき)は、コロナ禍における外国人分野の支援を実現するため、4つの実行団体を選定し活動しています。今回の成果報告会は、その4実行団体と資金分配団体がオンライン上で集い、「新型コロナウイルス対応緊急支援助成での取り組みと成果」を共有し、その成果を発信することを目的に開催されました。会の前半では、実行団体4団体がそれぞれの休眠預金活用事業での取り組み内容についてプレゼンを行いました。以下、それぞれの団体のプレゼンの概要をご紹介します。

※在留外国人総合調査「日本語学習について」株式会社サーベイリサーチセンター(2020年9月23日)

佐賀県国際交流協会(SPIRA)「外国人住民に対する多言語情報提供事業」

報告者は、「公益財団法人佐賀県国際交流協会(SPIRA)」の矢富明徳さん
報告者は、「公益財団法人佐賀県国際交流協会(SPIRA)」の矢富明徳さん

1990年に設立されたSPIRAは、「国の国境をなくそう!」(Free Your Heart of Borders!)をスローガンとして活動しています。佐賀県に住んでいる外国人は7,031人(2020年1月1日時点)で、うち40%が技能実習生。国籍はベトナムが一番多く、次いで中国、フィリピン、韓国、朝鮮、インドネシアの順になっています。

SPIRAが「外国人住民に対する多言語情報提供事業」に取り組んだ背景には、日本語が苦手な外国人住民は日本での生活が困難な状況にあり、さらに新型コロナウイルス感染症の情報へリーチできずに深刻さを増しているという課題がありました。そこで、新型コロナウイルス感染症に関する様々な情報や手続きなどについて、母語による情報提供や相談対応ができる環境を整備することにしました。具体的には、協会職員等で対応可能な英語・中国語・韓国語・やさしい日本語に加えて、ベトナム語・インドネシア語・タガログ語・ネパール語ができる人を採用して週1回勤務してもらい、多言語による情報提供と国際交流プラザでの対応を目標としました。

事業の成果として、まずはSNS等による情報の随時発信があります。
「佐賀県から出ないようにというメッセージが出ても、外国人の方に届かなければ出かけてしまい、外国人への偏見につながりかねない。できるだけ早く伝える必要があり、随時発信してきました」と矢富さん。

Facebookの発信には絵をつけて、一目で内容が分かるように工夫しています。ホームページでも多言語で情報を提供し、ワクチン接種の流れを紹介したり、YouTubeの説明動画に10言語の字幕をつけたりしています。また、市から要請を受けて、集団接種の会場で受付から接種完了まで外国人をサポートしました。そのほか、2021年8月に佐賀で豪雨災害が起こった際には、8言語で情報を提供しました。

Facebookの発信には絵をつけて、一目で内容が分かるように工夫しています。ホームページでも多言語で情報を提供し、ワクチン接種の流れを紹介したり、YouTubeの説明動画に10言語の字幕をつけたりしています。また、市から要請を受けて、集団接種の会場で受付から接種完了まで外国人をサポートしました。そのほか、2021年8月に佐賀で豪雨災害が起こった際には、8言語で情報を提供しました。

「多言語パートナーと県職員などで力を合わせて取り組んでいます。みんなが暮らしやすい佐賀になるように今後も続けていきます」と意気込みを語りました。

ユニバーサル⼈材開発研究所「平時から備える災害時多言語発信~母語グループ設立による包括的外国人支援~」

報告者は、一般社団法人ユニバーサル人材開発研究所とコンソーシアムを組む「サワディー佐賀」代表の山路健造さん
報告者は、一般社団法人ユニバーサル人材開発研究所とコンソーシアムを組む「サワディー佐賀」代表の山路健造さん

サワディー佐賀はタイ人のネットワークを作るため、2018年にスタートした団体です。タイ料理教室や東京五輪のホストタウンとしてのおもてなし、祐徳稲荷神社への通訳ボランティアの派遣などを行い、災害時はタイ語での発信にも力を入れていました。それらの活動が評価されて、2020年度「ふるさとづくり大賞」で団体表彰(総務大臣表彰)を受賞しました。

佐賀県では災害が起こると佐賀県災害時多言語支援センターが立ち上がり、8言語で対応されます。サワディー佐賀では、行政でカバーできていない残り4%のミャンマー語・タイ語・シンハラ語に対応すべく、事業に申請しました。そして、タイをモデルケースとして、ミャンマーとスリランカのFacebookのページを作りました。今年2月にミャンマーでクーデターが起こった際は、ミャンマー人を対象としてオンラインの生活相談会も行いました。

佐賀県では災害が起こると佐賀県災害時多言語支援センターが立ち上がり、8言語で対応されます。サワディー佐賀では、行政でカバーできていない残り4%のミャンマー語・タイ語・シンハラ語に対応すべく、事業に申請しました。そして、タイをモデルケースとして、ミャンマーとスリランカのFacebookのページを作りました。今年2月にミャンマーでクーデターが起こった際は、ミャンマー人を対象としてオンラインの生活相談会も行いました。

サワディー佐賀では、通常LINEグループ(62人登録)でやり取りをしています。災害など外国人に知らせたい情報が発生した場合は、山路さんがやさしい日本語に変換し、翻訳チームがタイ語に翻訳し、タイ人メンバーがネイティブチェックをしてから発信するようにしています。ミャンマー語とシンハラ語も同様の仕組みにしました。2021年8月豪雨の際は、タイ語・ミャンマー語・シンハラ語で情報発信を行いました。

「平時からグループを組織化していたことで、スムーズな情報発信ができた。平時こそ、こういう体制を作っておくことが重要だと改めて実感しました」と山路さんは力を込めます。

山路さんは、NPOが災害情報を発信するメリットは多いと指摘します。まず、行政は公平性を担保するために同時発信に配慮するが、NPOは翻訳が完了した言語からスピーディに発信できること。翻訳のソースとして、行政の情報だけでなく新聞やテレビ、気象庁など多岐にわたる情報を扱えること。

また、「翻訳スタッフに謝金を支払えることも大きい。ボランティアでお願いしているといずれ息切れしてしまう」と山路さん。さらに、グループ化によって顔が見えているため、必要とされる情報だけ翻訳すればいいという状況ができました。

今後は、少数言語による情報を県単位ではなく広域で共有できるプラットフォームを作りたいと考えています。同事業は地球市民の会で継承し、佐賀県の企業版ふるさと納税を一つの財源とし、地域おこし協力隊をスタッフとして続けていくそうです。

Treasures of The Planet「長崎発信型在住外国人支援プロジェクト」

報告者は、「NPO法人Treasures of The Planet」理事長の松尾佳美さん
報告者は、「NPO法人Treasures of The Planet」理事長の松尾佳美さん

「長崎発信型在住外国人支援プロジェクト」では、長崎市在住の外国人を対象としてオンライン・アンケートや面接インタビューを行い、新型コロナウイルス感染症の広がりによって直面している問題を把握。多言語対応のポータルサイト(UNIVERSALAID.JP)を制作して、その結果を公開するとともに、新型コロナに関する医療や福祉情報をはじめ、長崎在住の外国人が必要としている情報を掲載して運営・管理するという事業を実施しています。プロジェクトは長崎大学の多国籍な先生や学生たちの協力のもとで進めています。

まずは学生たちとアンケートの質問事項を検討の上、12か国語に翻訳。アンケートを依頼するチラシとアンケート用のサイトを作り、約360人から回答を得ることができました。その結果を集計して、英語のレポートと、要点を11か国語に翻訳したレポートをUNIVERSALAID.JPのサイトにアップしました。また、アンケートの回答などをもとに、長崎在住の外国人が求めている情報をリストアップして、それらが掲載されているウェブサイトをピックアップ。WHO、厚生労働省、みんなの外国人ネットワーク、長崎県国際交流協会、長崎県や長崎市の国際関係や生活支援の部署などに連絡を取り、コンテンツの共有とリンク、多言語翻訳、サイトへの掲載許可をもらい、UNIVERSALAID.JPで公開しています。なお、翻訳は長崎大学の留学生グループなどにチェックしてもらっています。

サイトについてプレスリリースを出したところ、西日本新聞と長崎新聞、インドネシアのサイトで紹介されました。Googleアナリティクスによると、現在のユーザーは約490人で、リピーターが約2割になっています。

サイトについてプレスリリースを出したところ、西日本新聞と長崎新聞、インドネシアのサイトで紹介されました。Googleアナリティクスによると、現在のユーザーは約490人で、リピーターが約2割になっています。

松尾さんは「外国人の方々に話を聞いてみると、すでにあった外国人向けの情報サイトと比べて、UNIVERSALAID.JPは非常に分かりやすくて使いやすいと評価いただいています。今後は、新型コロナ感染症の情報だけでなく災害情報やゴミの出し方などいろいろな記事を掲載して、サイトを見てくれる人やリピーターを増やしていきたい」と総括しました。

フリースクールクレイン・ハーバー「在留外国人親子の日本語習得&不登校支援」

「特定非営利活動法人フリースクールクレイン・ハーバー」理事長の中村尊さん
「特定非営利活動法人フリースクールクレイン・ハーバー」理事長の中村尊さん

フリースクールクレイン・ハーバーは長崎で、不登校の子どもたちの支援を17年にわたり行ってきました。「外国人の親を持つ子どもが、日本の学校に行きづらさを感じて不登校になるケースも見てきました」と高村さん。また、同団体では、使わなくなった学生服とランドセルを生活困窮家庭やひとり親家庭に寄付する活動をしており、外国人の子どもに寄付することもありました。

そんな中、新型コロナウイルス感染症の影響で仕事を失ったり就業が困難になったりしている外国人親子を支援しようと、日本語専門学校のあさひ日本語学校と連携して事業に取り組むことにしました。事業の概要は、長崎県内在住の外国人を対象に、就労を目的とした日本語教育をオンラインで無料で行うというもので、必要に応じて子どもにも支援を行います。オンライン授業のため、離島を含めて広い範囲の外国人を支援することが可能です。県内の9市町村の役所や社会福祉業議会などにチラシを配って周知を図り、長崎新聞にも記事が掲載されました。その結果、現在4人にオンラインで授業を行っており、うち1人は実際に仕事に就くことができました。

課題としては、目標の10人になかなか届かないことが挙げられ、「問い合わせをいただいても、対面での授業がいい、夜間に授業してほしい、就業は望んでいないなどと条件が合わなかったケースもあります」とのこと。また、今のところ受講者に子どもがいないため、子どもとつながって支援した事例がないことも課題であり、「これまでとは違う子ども関係の部署や教育委員会に周知するなど、アプローチの方法を工夫していきたい」と高村さん。「コロナ禍でマイノリティの方々にしわ寄せがきている。そのような方に優しい長崎でありたいと思っています。次年度以降については、コロナの状況をみながら、どうやってニーズに対応していくかを考えて、もっと多くの外国人親子に関わっていきたい」と今後に向けての意気込みも話しました。

課題としては、目標の10人になかなか届かないことが挙げられ、「問い合わせをいただいても、対面での授業がいい、夜間に授業してほしい、就業は望んでいないなどと条件が合わなかったケースもあります」とのこと。また、今のところ受講者に子どもがいないため、子どもとつながって支援した事例がないことも課題であり、「これまでとは違う子ども関係の部署や教育委員会に周知するなど、アプローチの方法を工夫していきたい」と高村さん。「コロナ禍でマイノリティの方々にしわ寄せがきている。そのような方に優しい長崎でありたいと思っています。次年度以降については、コロナの状況をみながら、どうやってニーズに対応していくかを考えて、もっと多くの外国人親子に関わっていきたい」と今後に向けての意気込みも話しました。


資金分配団体

公益財団法人佐賀未来創造基金

(コンソーシアム構成団体:一般財団法人未来基金ながさき)

事業名

新型コロナ禍における地域包摂型社会の構築

~地域で暮らす全ての人の安心と未来をつなぐ~

対象地域佐賀県、長崎県
実行団体

★公益財団法人佐賀県国際交流協会(SPIRA)

★一般社団法人ユニバーサル人材開発研究所

★NPO法人Treasures of The Planet

★特定非営利活動法人フリースクールクレイン・ハーバー

・九州ケータリング協会

・佐賀県地域共生ステーション連絡会

・NPO法人ナガサキリハビリテーションネットワーク

・一般社団法人すまいサポートさが


★:今回の記事で紹介されている団体

東近江・新型コロナ対策助成事業では、実行団体に2020年8月から2021年9月の1ヵ年間、助成を行いました。本報告会では、各実行団体の1ヵ年の活動の成果発表と本事業が地域に与えた影響について意見交換します。

2019年、台風による水害に遭った福島県いわき市。地域を形づくっていたはずのコミュニティは一気に薄まっていました。「コロナ禍の前から、この地域はずっと自粛状態だったんです」と語られるとおり、失われた日常は未だに戻ってきていません。そのような状況で、コミュニティサロンの活動を通じて地域をつなぎ直すハブとなっているのが一般社団法人Teco(てこ)です。資金分配団体である一般社団法人RCFの採択事業として、水害を機にサロン活動を始め、場づくりから地域の新たな可能性を生み出しています。そんなTecoを動かす原動力は、どこにあるのでしょうか。※この記事には2019年の台風19号によっていわき市内で発生した水害の写真が含まれています。”

水害で求められる長期的なサポート

今回ご紹介する一般社団法人Teco(以下「Teco」)は、福島県いわき市で活動を始めました。市内には、原発事故で被災した人々が暮らす復興公営住宅が16箇所あります。

Tecoを設立した3人は、設立以前はNPOに在籍し、復興支援住宅でのコミュニティ支援に携わっていました。新たに一般社団法人を立ち上げた理由を、Tecoの代表理事である小沼満貴(おぬま まき)さんはこのように話します。 「NPOだからできる活動もたくさんあったのですが、私たちはもう少し小さい規模で、何かあったらすぐに動けるチームでありたいなと思ったんです」
▲ Tecoのサロン活動に関わるメンバー。左から2人目が、今回取材に答えてくださった小沼さん

Tecoを設立した3人は、設立以前はNPOに在籍し、復興支援住宅でのコミュニティ支援に携わっていました。新たに一般社団法人を立ち上げた理由を、Tecoの代表理事である小沼満貴(おぬま まき)さんはこのように話します。

「NPOだからできる活動もたくさんあったのですが、私たちはもう少し小さい規模で、何かあったらすぐに動けるチームでありたいなと思ったんです」

そうして2019年5月、一般社団法人Tecoが誕生。しかし立ち上げから5ヶ月経った10月、いわき市を台風19号が襲います。市内を流れる夏井川が氾濫し、約7,000世帯が罹災しました。

このとき、市内でも特に被害状況がひどかったのが「平窪地区」です。住宅の1階部分に川から氾濫した泥水が流れ込み、日常が一瞬して奪われました。

▲ 水害時の平窪地区

事務所を平窪地区に設置していたことがきっかけで、Tecoも平窪地区で活動することを決めます。

「災害直後に求められる浸水した家の片付けや泥のかき出しも、すごく重要な役割です。ただ、私たちは避難を余儀なくされている方々に寄り添うことや、地域で失われてしまったコミュニティを再構築することなどの長期的な支援も欠かせないと感じています。

行政の目が行き届かなくて支援が必要な方が取りこぼされたり、生活がガラッと変わって高齢の方に精神症状が現れたり。これまで復興公営住宅で見てきた事態は、平窪地区でも今後おこりうると考えました」

こうしてTecoは、復興公営住宅での自分たちの経験を活かした支援を始めたのです。

言えなかった「助けて」を言える場をつくる

水害の直後、生活の再建が最優先で求められていた平窪地区は、どのような状況だったのでしょうか。

「家の1階が水没していても、2階で生活する在宅避難の方が多くいらっしゃいます。外に出てみれば、庭も公園もゴミの山。子どもを外で遊ばせられない状況で、2階で家族みんなで暮らすのは相当ストレスが大きいはずです。 それに、車が水没しているので、買い物や病院に行きたくても行く術がない。炊き出しや物資配布がいつどこで実施されているのか、情報が入ってこないまま暮らしている方も多かったですね」
▲ 水害後、公園や道路脇には使えなくなった家財道具が集められた

「家の1階が水没していても、2階で生活する在宅避難の方が多くいらっしゃいます。外に出てみれば、庭も公園もゴミの山。子どもを外で遊ばせられない状況で、2階で家族みんなで暮らすのは相当ストレスが大きいはずです。 それに、車が水没しているので、買い物や病院に行きたくても行く術がない。炊き出しや物資配布がいつどこで実施されているのか、情報が入ってこないまま暮らしている方も多かったですね」

水害前の日常に戻りたくても、戻れない──そんな平窪地区で始まった支援物資配布とサロン活動にTecoも加わり、被災した方への対応を始めました。

「みなさん憔悴しきっていましたから、ほっとする時間を持てたらいいなと思ったんです。そこでまずは、いつでも誰でも、何の用事がなくても立ち寄れる場所を設けました。先が見えなくて不安でいっぱいの毎日で、一瞬でも笑顔になれたりほっとできたりする場が必要なんだな、と強く実感しましたね」

行政だと困りごとの内容によって対応できる部署が分かれているため、何をどこで相談すればいいのかわからない人もいたようです。だからこそ、Tecoでは不安な気持ちの受け皿になるために、「悩みごとがあったらぜんぶ言ってくださいね」と声をかけるようにしていました。

「水害のように地域全体が大変な目に遭ったとき、『弱音を吐いてはいけない』『みんな頑張ってるんだから』と気を張る方が多いように思います。そういうときに『助けて』と言える関係性になるためにも、些細なことを話して、面と向かって心を通わせる。人と人が触れ合う時間が重要なんだな、と気づかされました」

コロナ禍でも、人と人がつながることを守るために

いつ行っても、誰かがいる場所をつくりたい。不定期のサロン活動を経て、Tecoは定期的なサロン活動を模索していきます。その過程で知ったのが、休眠預金活用事業でした。

「一時的にイベントを開催することもひとつの方法ですが、私たちのサロン活動の場合、続けることが重要だと思いました。ですから長期的に活動を持続できる仕組みを求めていたんです」

こうしてTecoは、資金分配団体である一般社団法人RCFに2019年度の休眠預金の活用を申請します。その後審査を経て採択され、2020年2月に「コミュニティ創出と健康支援の継続的な仕組みの構築」事業をスタートしました。

「朝9時から夕方4時まで毎日サロンを開いていました。1日で50人程度、多いと100人近くの方々が寄ってくれるようになって、世代も立ち寄る目的もさまざまです。学校帰りに顔を出してくれる子もいれば、お茶を飲んで帰られる年配の方もいて、毎日にぎやかで。こういう、いつでも誰でも行ける場所って、ありそうでないんですよね」

▲ 2020年2月、はるな愛さんがTecoを訪問

しかし休眠預金で活動を始めた直後、新型コロナの影響がいわき市内にも及びます。人と関わることを重視してきたTecoにとって「人と人が会えなくては、コミュニティ支援なんてできない」と悩んだ時期もありましたが、それでも活動を完全に中止することはありませんでした。

「地域のコミュニティをつくり直そうとしていた時期にTecoが活動を中止したら、地域の方々がますます人とつながることを萎縮してしまう、と思いました。

コロナの影響が出てくる半年以上前の水害のときから、この地域ではみなさんずっと自粛している状態なんです。『とにかく私たちはここにいるから、いつでも来てね』というメッセージを届けたくて、コロナ禍でもコミュニケーションをとる方法を模索してきました」

サロン活動は一時休止しながらも、お便りをつくってポスティングしたり、外のプランターで野菜をつくったり。いっぱいに実った野菜から「ここには誰かが来ているんだな」というメッセージを受け取り、久しぶりに顔を出してくれた方もいたといいます。

▲ 回覧板やポスティングで地域に情報を届ける「てこてこ通信」

感染対策に留意しながら、2020年7月にはサロン活動を再開。8月に久しぶりに開催したイベントは夏祭りでした。その後もハロウィンやクリスマス会、お花見など、精力的に季節のイベントを続けました。

「季節の変化や非日常を一瞬でも味わってもらうことで、次の楽しみまでなんとか心を持たせられるような、拠り所になったらいいなと思いました」

さらに、Tecoに集う利用者どうしの出会いから、サークル活動も生まれました。例えば、サロン活動を始めてすぐに動き出した「ママサークル」。メンバーの得意分野を活かしてレジンアクセサリーを制作したりダンスを発表したりと活動していくうちに、今では地元のマルシェで出店するようになりました。

「いろいろな方とお話していくうちに、この方とこんなことできそう、この方と一緒にこれ楽しめそうだな、と思いつくんです。

控えめなお父さんと話していくうちに、お花の先生の資格を持っているとわかったので、クリスマスのフラワーアレンジメントをつくるイベントで講師をしてもらったことがありました。そうやって普段の会話からつながりを引き出して、サロン活動で広がっていくことはよくありますね」

「何かしてほしい、よりも、何かしてあげたい、と思っている方も多いと思います。実際、野菜のつくり方とか平窪地区の歴史とか、いろいろなことを地域のみなさんから教わっているんです。 だから私たちが『支援している』という感覚もなくて、みなさんに対して『わからないので教えてください』とか『それってすごいですね』と同じ目線でお話しています」
▲ Tecoの場には、地域コミュニティに存在していた助け合いの関係が広がっています。

「何かしてほしい、よりも、何かしてあげたい、と思っている方も多いと思います。実際、野菜のつくり方とか平窪地区の歴史とか、いろいろなことを地域のみなさんから教わっているんです。 だから私たちが『支援している』という感覚もなくて、みなさんに対して『わからないので教えてください』とか『それってすごいですね』と同じ目線でお話しています」

続けることでつながる縁と可能性を信じて

2021年8月に終了した、今回の休眠預金活用事業。コロナ禍を挟みながらも、2020年2月からの1年半で、サロン登録人数は183人に増え、サロン利用者数とイベント参加者数は延べ5,997人にのぼりました。

Tecoはその後も形を変えながら、平窪地域で活動を続けていきます。その関わり方のひとつが、防災とコミュニティを組み合わせたまちづくり。水害があったからこそ、防災意識が高い街を目指しています。

休眠預金活用事業の活動や広報の積み重ねをきっかけにいわき市からTecoに声がかかり、休眠預金活用事業終了後は、いわき市の補助を受けて防災に関わる事業を継続できることになりました。

「Tecoで防災講話のイベントを開催したら、すごく好評だったんです。というのも、以前開催された防災イベントの参加者は、年配の男性がほとんどだったみたいで。でもTecoで開催したら、いつものサロンと同じように、子どもからお年寄りまで来てくださったんです。

こうやって、他の組織が得意なことと、私たちが得意なことを補い合いながら、平窪がどこよりも住みやすい街になるように携わっていきたいなと思います」

Tecoにとって、2年近く活動してきた平窪地区は「住民のみなさんが私たちにも家族のように接してくださるおかげで、『地元』のよう」といいます。

「Tecoの由来は、小さな力で大きなパワーを発揮する『てこ』の原理です。できることはちょっとかもしれないけれど、これからも出会いを大切にしながら、少しずつ縁を広げていきたいです」

■休眠預金活用事業に参画しての感想は?
水害によって目の前に困っている方々がいる状態で、Tecoとして早く活動を始められたのは、今回の助成がとても充実していたからです。長期にわたって活動に集中できたため、この事業だから関われた方や携われたことがたくさんありました。それから、資金分配団体としてRCFさんが伴走くださったことも心強かったです。助成金を出して終わりではなく、必要な人に必要な支援が行き届くための仕組みだと思います。(Teco 小沼さん)

■資金分配団体POからのメッセージ
Tecoさんの活動は「人に寄り添う」ことを徹底的に続けていらっしゃいます。事業を始めてから歩みを止めずに活動されてきたからこそ、数値に表れる成果はもちろんのこと、数値だけでは見えないTecoさんの役割の大きさを感じてきました。私たちとしても、こういう活動が休眠預金活用事業のなかで実現できたのはありがたいことだなと思います。(一般社団法人 RCF)

取材・執筆:菊池百合子

【事業基礎情報】

実行団体
一般社団法人 Teco(福島県いわき市)
事業名
コミュニティ創出と健康支援の継続的な仕組みの構築
活動対象地域福島県いわき市
資金分配団体一般社団法人 RCF
採択助成事業

『大災害後の生活再建推進事業
 ~企業・地域・NPOが連携し地域コミュニティと経済再生を目指す』

〈2019年度通常枠〉

「コロナ禍であっても地域のつながりを途絶えさせないために、何かできないか」と考え、発案したキッチンカー事業。資金分配団体であるちばのWA地域づくり基金 『地域連携型アフターコロナ事業構築』で採択された「キッチンカーでGO!」事業を実施する「特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず」理事長 北田恵子さんにお話を伺いました。

コロナ禍のしわ寄せが、弱い立場の人たちを直撃

特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず(千葉県柏市)

2004年に協同組合形式で女性6人で立ち上あがった「特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず(千葉県柏市)」は、これまで子育て支援事業や居場所づくり事業など地域からのニーズに合わせて、様々な事業を展開してきました。現在の事務所に移転したのは2008年。古民家風の素敵な一軒家を借りることができたおかげで、居場所づくり事業から助け合い事業に発展し、最近では自治体から生活総合支援事業実施の相談をいただくなど、活動は順調に拡大していました。

しかし2020年に入ってのコロナ禍。2020年3月から6月まで居場所は閉鎖となり、活動は事実上ストップせざるを得ない状況になりました。そして聞こえてきたのは、これまで居場所に来てくれていた人たちが苦しむ声――「高齢の利用者の要介護度が上がってしまった」「外に出られず、鬱状態だ」「常連のお子さんのネグレクトが疑われる」・・・。コロナ禍のしわ寄せが、弱い立場の人たちを直撃していました。

コロナ禍の中でも人のつながりを。「キッチンカーでGO!」が生まれるまで

そのような中、他の団体に教えてもらって休眠預金を活用した「新型コロナウイルス対応支援助成」を知りました。
「コロナ禍によって貧困や孤独が加速している状況の中、それを解消していくためには、やっぱり人だと考えました。助成を活用しながら、人が集まる居場所ではなくても、人とのつながりを保ちながら社会の分断を抑える‘居場所の機能’が展開できないかと考え始めたんです。」(北田さん)

そして人に集まってもらうのではなくて自らが外に飛び出していく「キッチンカー事業」の発想が生まれました。

お話を伺った北田恵子さん

そして人に集まってもらうのではなくて自らが外に飛び出していく「キッチンカー事業」の発想が生まれました。

「移動できるキッチンカーを多目的に活用することで、こども食堂やあおぞらカフェを開催できます。地域の皆さまにご利用いただけるし、キッチンカーによってスタッフにも活躍の場を提供することができます。そして、なによりキッチンカーを購入するってワクワクしませんか?コロナ禍で社会全体が落ち込んでいる中、そのようなみんなでワクワクできることが、大切だと思ったんです。」(北田さん)

その後、「キッチンカーでGO!〜どこでもこども食堂&暮らしのサポート〜」という計画を資金分配団体であるちばのWA地域づくり基金 『地域連携型アフターコロナ事業構築』に申請し、2020年9月に採択されました。

キッチンカーをきっかけに、地域に必要なサポートを届けたい

採択後、諸手続きを経てキッチンカーを購入し11月13日には念願の事業がスタート。当面は2か所に拠点を絞って「あおぞらカフェ」や「子ども食堂」を実施しています。柏市の子供福祉課とも連携し、地域のひとり親世帯に実施日をメールで連絡してもらうことで、参加者にも広がりが出ています。

また地域包括との連携で、介護度の高い方や単身高齢者世帯にランチの無料配達も実施中です。最近では、「子ども食堂を支援したい」と近所の農家さんなどから野菜の寄付も受けています。キッチンカーが街を走ることで取り組みの認知度向上にもつながっているとのことです。 しかし北田さんたちの思いは、キッチンカーでの食事提供にとどまりません。
キッチンカーの様子

また地域包括との連携で、介護度の高い方や単身高齢者世帯にランチの無料配達も実施中です。最近では、「子ども食堂を支援したい」と近所の農家さんなどから野菜の寄付も受けています。キッチンカーが街を走ることで取り組みの認知度向上にもつながっているとのことです。 しかし北田さんたちの思いは、キッチンカーでの食事提供にとどまりません。

「キッチンカーで華やかに見えるのは、食事作りや食事の提供です。もちろんそれは大切なことですが、私たちが本当にやりたいことは、キッチンカーをきっかけにして地域のお困りごとを聞き、地域に必要なサポートをお届けしていく仕組みづくりです。そのために利用者にアンケートにもご協力いただいています。 小さな活動ではありますが、キッチンカーを核とした活動を継続していくことで地域に連携を生み、地域のみんなが輝く場・みんなが集まることで他の人も輝ける場をお互いに作りあっていけるのではないかと考えています。そして孤立・孤独によって生まれる地域課題に素早く気づき、解決につなげられるようにしていきたいです。」(北田さん)
お一人お一人に温かいお弁当を手渡し

「キッチンカーで華やかに見えるのは、食事作りや食事の提供です。もちろんそれは大切なことですが、私たちが本当にやりたいことは、キッチンカーをきっかけにして地域のお困りごとを聞き、地域に必要なサポートをお届けしていく仕組みづくりです。そのために利用者にアンケートにもご協力いただいています。 小さな活動ではありますが、キッチンカーを核とした活動を継続していくことで地域に連携を生み、地域のみんなが輝く場・みんなが集まることで他の人も輝ける場をお互いに作りあっていけるのではないかと考えています。そして孤立・孤独によって生まれる地域課題に素早く気づき、解決につなげられるようにしていきたいです。」(北田さん)

スタッフの皆さん


■休眠預金活用事業に参画しての感想は?

これまで色々な助成を活用して活動してきましたが、休眠預金活用事業のように団体の運営費(家賃や人件費など)まで経費が下りる助成は初めてで、大変ありがたかったです。(北田さん)




■資金分配団体POからのメッセージ

休眠預金等活用事業ならではの大規模な助成を活用してキッチンカーを投入したことでインパクトのある活動が実践できています。ういずさんが拠点を2か所に絞って、じっくりと地域の方と向き合い、関係を築き継続・定着できてきており、担い手のみなさんも生き生きと活動しており、本事業がもたらす効果を実感しています。(公益財団法人 ちばのWA地域づくり基金)

【事業基礎情報】

実行団体
特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず(千葉県柏市)
事業名
キッチンカーでGO!〜どこでもこども食堂&暮らしのサポート〜
活動対象地域千葉県柏市
資金分配団体公益財団法人 ちばのWA地域づくり基金
採択助成事業

『地域連携型アフターコロナ事業構築』(対象地域:千葉県)

〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉