事業の「社会の諸課題の解決を図る」という成果の観点について、評価の信頼性及び客観性を確保するため、外部の第三者により評価を実施しています。今回は、2021年3月末に事業完了した2020年度コロナ枠【社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業|セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン】の外部評価報告書をご紹介します。ぜひご覧ください。
第三者評価・外部評価とは
事業の「社会の諸課題の解決を図る」という成果の観点について、評価の信頼性及び客観性を確保するため、外部の第三者により評価を実施しています。事業規模、重要性、国民的関心度、革新性の高さ、発展性等の観点よりJANPIAで対象事業を選定し、資金分配団体および実行団体とあらかじめ合意した上で、自己評価とは独立した形で評価が行われます。
2020年度コロナ枠では以下の事業を選定し、外部評価を実施しました。このページではその報告をご紹介します。
■社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業
〈資金分配団体〉公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
〈実行団体〉特定非営利活動法人SOS子どもの村JAPAN
〈評価実施者〉NPO組織基盤強化コンサルタントoffice musubime 河合将生
休眠預金等活用事業におけるコロナ緊急助成事業における外部評価 (特定非営利活動法人SOS子どもの村JAPAN)外部評価報告書
外部報告書は、以下の外部リンクからご覧ください。
事業情報
【事業基礎情報】
資金分配団体 | 公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン |
資金分配団体事業名 | 社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業 <2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成> |
実行団体 | 特定非営利活動法人SOS子どもの村JAPAN |
実行団体事業名 | コロナ禍における虐待防止と家族の分離予防事業 |
事業完了にあたり、成果の取りまとめるために実施されるのが「事後評価」です。事後評価は、事業の結果を総括するとともに、取り組みを通じて得られた学びを今後に生かせるよう、提言や知見・教訓を整理するために行われます。今回は、2022年3月末に事業完了した2019年度通常枠【人口減少と社会包摂型コレクティブインパクト事業|佐賀未来創造基金】の事後評価報告書をご紹介します。ぜひご覧ください。
事業概要等
事業概要などは、以下のページからご覧ください。
事後評価報告
事後評価報告書は、以下の外部リンクからご覧ください。
・資金分配団体
・実行団体
【事業基礎情報】
資金分配団 | 公益財団法人 佐賀未来創造基金 |
事業名 | 人口減少と社会包摂型コレクティブインパクト事業 〜人口減少時代における3分野の地域包摂型コレクティブインパクト〜 <2019年度通常枠> |
活動対象地域 | 佐賀県 |
実行団体 | ・基山こどもねっと ・特定非営利活動法人 唐津環境防災推進機構KANNE ・特定非営利活動法人 空家・空地活用サポートSAGA ・一般社団法人 おもやい |
福岡県・北九州市に拠点を置くNPO法人抱樸(以下、抱樸)は、ホームレスや生活困窮者を始め、さまざまな生きづらさを抱えた人たちの人生に伴走する活動を、30年以上にわたって続けてきました。2021年1月より、公益財団法人パブリックリソース財団(2019年度通常枠資金分配団体)の採択を受け、単に身を置くだけの場所ではなく、人とのつながりを持ち、心の拠りどころにもなる住居として「プラザ抱樸」の拡充に勤しんでいます。この取り組みの背景に見えるのは、持続可能な「伴走型支援」のあり方を模索する姿勢。そもそも伴走型支援とは何か、なぜ必要なのか。その持続性をどう担保していくのか。抱樸の常務理事を務める山田耕司さんにお話を聞きました。”
「家族と制度の間」を担い続けて広がった支援
抱樸が活動開始発足したのは、1988年12月。当時は「北九州日雇越冬実行委員会」という名称でした。始まりは路上生活者の現状調査を行ったことからと言います。

「福岡の日雇労働組合と共同し、路上生活者にヒアリングをすることになったんです。仕事が終わった夜に会いに行って、『話を聞かせてもらうのに手ぶらだと申し訳ないから』と、手土産におにぎりを握っていった。調査が進み路上生活者の実態が明るみになると、当然、自分たちにできることを考えますよね。そこから、炊き出しが始まったと聞いています」
大学時代は社会運動系のサークルに入っていた山田さんが、抱樸に出会ったのは1997年。友人の誘いで炊き出しやパトロールのボランティアに参加するようになり、2004年に抱樸が北九州市からの委託で「ホームレス自立支援センター」を始めると同時に入職しました。

以来、20年近くにわたって抱樸が出会うさまざまな障害や生きづらさを抱えた人たちの声に耳を傾け、現在は常務理事として休眠預金活用事業を含め、多岐にわたる取り組みを統括しています。
日雇労働者やホームレスのための炊き出しから始まった抱樸の支援。入口こそ「労働問題」でしたが、山田さんは「支援を続けるうちに『労働問題以外の課題』も見えてきた」と振り返ります。
「私自身、最初は『就労支援をして、ホームレスの方が自立すれば万事解決』と思っていました。ところが、実際は軽度の知的障害や精神障害を含め、さまざまな障害が原因で就労や独居が難しかったり、社会的に家族や企業の機能が衰えたことから周りに頼れる人がおらず孤独に陥ってしまったり。リーマンショック以降は若年困窮者も増え、その多くは高校中退以下で十分な学習の機会を得られていなかったり。一筋縄には解決できない問題が山積みだったんです」
困窮者・ホームレス支援に始まり、子ども・家族支援、居住支援、就労支援、障害福祉、高齢福祉に更生支援(刑務所出所者への支援)――人の属性に囚われず、さまざまな生きづらさを抱えた人たちを対象にした抱樸の支援は、現在27の事業まで広がっています。
なぜ、ここまで広がり得たのでしょうか?
「ホームレス支援から始まった、というのが大きな理由だと感じています。ホームレスになる人は、社会的な制度や福祉から排除されてきた方々なんです。障害の問題もスルーされ続け、雇用保険も受けられず、生活保護すら申請できない。結果、住まいを失い、就職活動もできなくなる。そうした方々への支援を考えるうえで、活用できる制度があるならもちろん活用します。一方で、既存の枠組みに過度な期待は寄せず、『必要だと思うのにないものがあるなら自分たちで作っていこう』という発想が、もともとすごく大きいんだと思います」
誰ひとり取り残されない社会を創るため、家族と制度の間を担い続けた抱樸。手土産におにぎりを握り始めた日々から34年。これまでに約3,700人以上が、ホームレス状態から生活を取り戻したと報告されています。
入居者の人生に“伴走”する居住支援を目指して
2019年度、パブリックリソース財団による公募で採択を受けたのは、抱樸が2001年から実施していた「居住支援」における取り組み。当初は大家さんから物件を一括で借り上げて入居者に転貸するサブリースの形式を活用し、その後、生活困窮者に無料または低額な料金で宿泊所を提供する「無料定額宿泊所(以下、無低)」としての居住支援を行っていました。

一方、世間では「無低は利用者の無知や弱みにつけこみ、入居者の生活保護費を搾取する貧困ビジネスの温床になっている」と問題視され始めます。入居したものの、ソフト面での支援は十分になく、再び路上生活に戻ってしまうケースも少なくありませんでした。 こうした背景を受け、山田さんは「単に住まいを提供するだけでなく、入居後も見守り続ける居住支援を広げていきたい思いがあった」と話します。
「居住支援を始めた頃から、アフターケアは行っていました。入居者の多くが高齢者だったことも理由の一つですが、障害や依存症の問題から金銭管理や衛生面でのトラブルが生じることも少なくなかったんです。家族のように困ったときに頼れる人が側にいないと、安定的に暮らしていくのは難しいのだと、この頃から、実感していました」
入居後もつながり続け、一人ひとりの人生に伴走する。そんな居住支援を持続可能なものにするためには、見守り続ける人材の確保や育成のためにも、ある程度、安定した資金繰りが必要になります。しかし、実状は北九州市の住宅扶助の基準額(当時)である 3万1,500円で物件を借り、同額で貸していたため収益はゼロ。
理想とする居住支援のあり方を広げるために、何か打てる手はないだろうか?
模索し続ける中で見つけたのが、休眠預金活用事業の公募として、パブリックリソース財団が打ち出した「支援付き住宅建設・人材育成事業」でした。
2020年4月に無低の規制が強化されるのと並行して、単独での居住が困難な人への日常生活を支援する制度(日常生活支援住居施設)が創設。同事業は、その流れを受けて新基準に対応した無低の改築・建替え費用を助成するとともに、入居者を見守る人材の育成を推進。「住まい」と「生活支援」をセットで提供するソーシャルビジネスのビジネスモデルの構築を目指すものでした。
「これまでも多くの助成金や補助金を活用しましたが、基本的に物件の“所有”は認められず、借りるしかありませんでした。そのうえ単年度の助成が大半ですが、単年度では成果や実績が上がらないこともあり、資金が途絶えれば物件を借りられなくなるリスクも大きかったんです。その点、今回は物件の購入も認められ、複数年度の支援だったことが魅力的でしたね。パブリックリソース財団さんとも月一でミーティングを実施し、情報共有はもちろん、手続きの面でも手厚くサポートしてくださったので、大変心強かったです」
審査を経て採択された抱樸は、2018年より借りていたマンション一棟を購入。見守り支援つき住宅「プラザ抱樸」として再出発し、入居者の相談に乗る支援員の人件費や研修費にも充てながら、日々施設の拡充に取り組んでいます。

審査を経て採択された抱樸は、2018年より借りていたマンション一棟を購入。見守り支援つき住宅「プラザ抱樸」として再出発し、入居者の相談に乗る支援員の人件費や研修費にも充てながら、日々施設の拡充に取り組んでいます。 ここでは相談支援員による生活サポートがあり、いつでも「困りごと」を相談できるように常駐する管理人を配置。障害者向けのグループホームも併設されています。取材時(2022年10月)には、入居可能な88室がほぼ満室。10〜80代まで、老若男女を問わずに幅広い世代が暮らしています。
中には中学生で妊娠し、シングルマザーになるも、さまざまな事情で家族と同居が難しくなった入居者も。彼女は現在、生活保護を受け、アルバイトをしながら抱樸のサポートにより通信制の高校に通っていると言います。
「ホームレスの方だけでなく、さまざまな事情で家が借りられない、行き場がない、生活全般に困難を抱えた方々が地域にこんなにもおられるのかと。『プラザ抱樸』を始めて、よりその事実を痛感しました」

“つながり”を対等なものにする
住まいの提供だけでなく、入居後も見守り続けるスタイルは、抱樸が20年以上にわたって住居支援を行う中で理想の形を模索し続けてきた結果でもあります。同時に、このスタイルから浮き彫りになるのは、抱樸の「支援」に対する考え方。
抱樸は、支援には「問題解決型支援」と「伴走型支援」があると定義しています。住居支援を例に考えれば、行き場のない人に住まいを提供するのが「問題解決型支援」であり、入居後も見守り続けるのが「伴走型支援」です。
これらは「支援の両輪」として実施されるべきだと、抱樸の代表を務める奥田知志さんの著書に記されています。
私は「諦念」の中にたたずむ路上の人を大勢見てきました。そういう人がもう一度立ち上がるためには、居住や就労の支援に加え「私はあなたを応援している。一緒に頑張ろう」と呼びかける他者の存在が必要だったのです。「誰のために働くか」という問いとその答えをもつこと。「あの人が応援してくれるから」「愛する人のためだから」、これら「外発的な動機」をもつ人は踏ん張ることができます。(『伴走型支援 新しい支援と社会のカタチ』より)

コロナ禍の炊き出しでは、お弁当に添えるお手紙をボランティアから募ったことも。
山田さんも「伴走型支援が必要なのは、ホームレスや生活困窮者、障害がある人など一部の人に限られた話ではない」と主張します。 「家族や親戚、友人や企業に制度。私たちも多様な人に支えられて日々生きています。人が生きていくためには、誰かしらに支えられる……伴走される必要があるのだろうと。抱樸が支援をしている方達は、たまたま伴走相手が私たちだった。ただ、それだけのことだと思うんです」

すべての「いのち」は等しく尊い。だから、ひとりにさせないために「つながり」続ける。そして、その「つながり」を平等にしていくために、抱樸は今日もあらゆる人の生きづらさに向き合っています。
「伴走型支援」を持続可能にするために
支援つき住宅を持続的に提供していくため、2020年には初のクラウドファンディングを実施した抱樸。1万人を超える支援者から集まった寄附額は、約1億2,000万円。これを機に拠点の北九州だけでなく、北海道や大阪、愛知、岡山など、10地域の困窮者支援団体と連携を取り、全国に支援を拡大しています。

noteやYouTubeなどのSNSを活用した積極的な発信も相まり、団体の思いに共感する人の輪は広がり、スタッフの数も増加。仲間が増えるのは心強い反面、組織の規模が大きくなるがゆえの難しさも痛感していると、山田さんは話します。
「スタッフの人数が増えると、部署ごとの縦割りが起こりがちになります。今は社会福祉法人化への準備も進んでおり、団体としての過渡期でもあります。そんな中で抱樸がこれまで大切にしてきた思いをどのように共有しながら、連携を強めていくのかが直近の課題です」

「抱樸」とは、「原木・荒木(樸)を抱きとめること」。ささくれ立ち、棘のある荒木を抱けば、ときに傷を負うこともあります。生半可な気持ちでは続けられない。
だからこそ、働きに見合った対価が得られる組織でありたい。それが、生きづらさを抱えた一人でも多くの人とつながり続ける、伴走型支援を持続可能にする鍵になるだろうから。
山田さんの力強い言葉からは、走り続けることを決めた抱樸の“覚悟”が滲むようでした。
「2010年頃から増え始めた新卒採用の初期メンバーは、30代に突入しました。結婚や出産といったライフプランもある中、やりがいや思いだけで仕事を続けるのは難しいと思います。だから、事業の収益性にもこだわり、職員の待遇を向上していく必要がある。休眠預金活用事業を通じて取得した「プラザ抱樸」では利益が生まれ始めています。その事実も踏まえ、持続可能な団体として今後どうあるべきか、しっかり考えていきたいです」
■資金分配団体POからのメッセージ
今回のプラザ抱樸というプロジェクトは、休眠預金活用事業の中でもかなり大きなインパクトのある事業です。まず、マンション1棟をまるごと買い上げ、様々な福祉制度を組み合わせた「ごちゃまぜ型」の支援付き住宅群としたこと。次に一般向けの賃貸には古く、空室の多くなったマンションを福祉用途に全面転換することで、未活用の住宅ストックを地域課題の解決に役立てていること。これらは地域リソースを最大限に活かした先駆的事例であり、全国の高齢化や空き家問題対策のロールモデルともなりうるので、しっかりとこの事業の成果評価を発信していきたいと思っています。(公益財団法人 パブリックリソース財団 プログラムオフィサー)
【事業基礎情報】
実行団体 | 特定非営利活動法人 抱樸 |
事業名 | 支援付き住宅の複合モデル「プラザ抱樸」の拡充と整備事業・抱樸 |
活動対象地域 | 北九州市 |
資金分配団体 | 公益財団法人 パブリックリソース財団 |
採択助成事業 | 2019年度通常枠・実行団体・ソーシャルビジネス形成支援事業 |
事業完了にあたり、成果の取りまとめるために実施されるのが「事後評価」です。事後評価は、事業の結果を総括するとともに、取り組みを通じて得られた学びを今後に生かせるよう、提言や知見・教訓を整理するために行われます。今回は、2022年3月末に事業完了した2019年度通常枠【市民社会強化活動支援事業|まちぽっと】の事後評価報告書をご紹介します。ぜひご覧ください。
事業概要等
事業概要などは、以下のページからご覧ください。
事後評価報告
事後評価報告書は、以下の外部リンクからご覧ください。
・資金分配団体
・実行団体
【事業基礎情報】
資金分配団 | 認定特定非営利活動法人 まちぽっと |
事業名 | 市民社会強化活動支援事業 <2019年度通常枠> |
活動対象地域 | 全国 |
実行団体 | ・特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち ・特定非営利活動法人 フリースクール木のねっこ ・特定非営利活動法人 くるみー来未 ・特定非営利活動法人 全国女性シェルターネット ・認定特定非営利活動法人 びーのびーの ・一般社団法人 栃木県若年者支援機構 ・特定非営利活動法人 エコ・コミュニケーションセンタ-(ECOM) ・特定非営利活動法人 コミュサーあおもり ・特定非営利活動法人 東京里山開拓団 ・特定非営利活動法人 Tansa (旧:ワセダクロニクル) |
事業完了にあたり、成果の取りまとめるために実施されるのが「事後評価」です。事後評価は、事業の結果を総括するとともに、取り組みを通じて得られた学びを今後に生かせるよう、提言や知見・教訓を整理するために行われます。今回は、2022年3月末に事業完了した2019年度通常枠【支援付住宅建設・人材育成事業|パブリックリソース財団】の事後評価報告書をご紹介します。ぜひご覧ください。
事業概要等
事業概要などは、以下のページからご覧ください。
事後評価報告
事後評価報告書は、以下の外部リンクからご覧ください。
・資金分配団体
・実行団体
【事業基礎情報】
資金分配団 | 公益財団法人 パブリックリソース財団 |
事業名 | 支援付住宅建設・人材育成事業 〜生活困窮者のための安心できる支援付住宅の建設と支援人材の育成〜 <2019年度通常枠・ソーシャルビジネス形成支援事業> |
活動対象地域 | 全国 |
実行団体 | ・特定非営利活動法人 抱樸 ・特定非営利活動法人 自立支援センターふるさとの会 ・特定非営利活動法人 ワンファミリー仙台 |
公益財団法人パブリックリソース財団が2022年11月29日に開催した、「休眠預金活用事業特別シンポジウム」の動画です。
2019年度より、全国に先駆けて、新しく制度化された日常生活支援住居施設の制度を活用し取り組んできた、休眠預金活用事業「支援付き住宅と支援人材育成」の現場から、実践を通じてみえてきた現状の同制度の問題点と改善提案を示します。 さらに “人権としての住宅”という視点から、社会保障としての住宅制度の在り方を展望し、日本における「社会住宅」というインフラ整備の必要性を訴えます。
◎基調講演 “生活困窮者支援をめぐる制度の変遷と展望”
【登壇者】
岡田太造氏(日本民間公益活動連携機構(JANPIA)専務理事、元厚生労働省 社会・援護局長)
◎パネルディスカッション “「人権としての住宅」を展望する~日住制度の改善と支援付き住宅の広がり~”
【モデレーター】
高橋紘士氏(全国日常生活支援住居施設協議会顧問、元立教大教授)
岸本幸子(公益財団法人パブリックリソース財団 代表理事・専務理事)
【パネリスト】
奥田知志氏(認定NPO法人抱樸 理事長)
瀧脇憲氏(NPO法人自立支援センターふるさとの会 代表理事)
立岡学氏(NPO法人ワンファミリー仙台 理事長)
- 特定非営利活動法人 自立支援センターふるさとの会 http://www.hurusatonokai.jp/
- 特定非営利活動法人 抱樸 https://www.houboku.net/
- 特定非営利活動法人 ワンファミリー仙台 https://www.onefamily-sendai.jp/
〈関連記事リンク〉
非行少年が社会復帰をしようとしても、様々な理由で再び犯罪に手を染めてしまう例は少なくはありません。2019年度通常枠〈資金分配団体:更生保護法人 日本更生保護協会〉の実行団体として、少年院出院後に地元を離れてやり直したいと考える少年・少女の社会復帰と社会自立の支援をしているのが、『全国再非行防止ネットワーク協議会』です。今回は、全国再非行防止ネットワーク協議会代表・高坂朝人さんに、非行少年を取り巻く状況や彼らへのサポートの現状、そして休眠預金活用によって実現した活動内容や思いを、評論家でラジオパーソナリティーでもある荻上チキさんが伺いました。その様子をレポートします。
▼インタビューは、動画と記事でご覧いただけます▼
社会復帰の選択肢を広げる。県域を超えた非行少年へのサポート
荻上チキさん(以下、荻上):「全国再非行防止ネットワーク協議会(以下、全再協)」は、どのような活動をされているのでしょうか?
高坂朝人さん(以下、高坂):主な活動は2つです。
一つは罪を犯した少年・少女が地元以外の県外で生き直したいといったときに、民間団体同士で連携し、県域を超えてのサポートをすることです。
もう一つは、少年院に入っている少年・少女が社会復帰をする際の引き受け先を探すことです。
受け入れてくれる人が誰も見つからない場合、収容期間を過ぎても半年、また1年と延長されてしまうという現状があります。そうした状況をゼロにしたいと思い、活動しています。

荻上:非行に走ってしまった少年・少女たちが地元を離れて県外で暮らしたいと思うのには、どのような背景があるのでしょうか。
高坂:自分が生まれ育った地域で複数人で犯罪を繰り返していると、やり直したいと思っても非行仲間や怖い先輩に「また一緒に悪いことをしよう」と誘われ、なかなか自分一人では断りきれずに犯罪を繰り返してしまうということがあります。そのような背景から、一旦、人間関係を整理して地元以外の場所でやり直したいと希望する子たちがいます。
荻上:法務省が作成する犯罪白書(※1)の統計でもっとも多く見られる再犯や再非行の理由が、「かつての仲間と繋がった」となっています。そうした少年・少女たちの再非行防止について対応しているわけですね。全再協は「ネットワーク協議会」とのことですが、どのような団体がこうした活動をしているのでしょうか。
※1:法務省・法務総合研究所が、犯罪防止、また犯罪者の改善や更生を目的として、犯罪の動向と犯罪者処遇などについて、統計資料を基に説明をする白書。
高坂:僕たち全再協は、非行少年のサポートが源流である広島の「食べて語ろう会」、大阪の「チェンジングライフ」、そして僕が理事長を務める愛知の「再非行防止サポートセンター愛知」の3つの団体で構成されています。実は全再協設立前からそれぞれ関わりがあって、例えば、広島の少年院を出院した少年が地元に戻るのは心配だということで、愛知で受け入れてサポートをしたり、逆に愛知から広島や大阪で受け入れてもらったこともあります。
荻上:県域を越えて民間団体同士で繋がっていくことで、より広く活動ができるようになったのですね。
高坂:そうですね。本気でやり直したいと思っている少年・少女が生き直すための選択肢が増えてきたと感じています。
少年・少女が非行に走った背景には、色々な要因が絡み合っています。犯罪白書の統計によると、少年院に入っている子では男子は3人に1人、女子は2人に1人が虐待経験を持っています。また家族との交流が困難だったり、家族関係が良好でも一人親家庭の上、家族自身もサポートを要していたり…。こうした場合、自分たちだけで解決しようとするよりも第三者の支えや理解が必要です。
実体験が活動の原動力に。苦しさを知っているからこそのアドバイス
荻上:高坂さんは、どうしてこういった活動を始められたのでしょうか?
高坂:大変情けないことなのですが、自分自身が非行少年であり、犯罪者でした。
僕は広島県広島市で生まれ育って中学1年生から非行に走り、少年院には2度入院しました。その後、24歳の時に現在の妻が妊娠がわかり、父親になることを機に、本気でやり直そうと決意しました。これは全再協を設立したきっかけにも通じますが、僕が更生しようと思ったとき、僕の周囲には暴力団関係者や犯罪歴のある人しかいなくなっており、その中でこれまでの仲間と縁を切ったり、誘いを断り続ける自信はありませんでした。そこで人間関係を整理するためにも知り合いのいない愛知県に妻と子どもと一緒に引っ越しました。
しかし、これまで全然関係がなかった愛知での仕事探しは本当に大変でした。中卒で職歴もありませんでしたし、また職に就いても続かないという状態で…。何か困った時に誰かに頼ろうとしても頼れる人もおらず、使える制度なども知りませんでした。また仮に助けてくれる制度や団体があっても、その当時は変なプライドが邪魔をして誰かに頼ることに抵抗を持っていて、頼れない自分がいたんです。
そうした経験から、自分の生活が少しずつ落ち着いてきたときに、今、過去の自分のように非行に走っている少年たちに「自分のような思いはして欲しくない」と思うようになりました。
悪いことを止めるならば、1日でも早くやめて生き直した方が絶対にいい。更生させるというよりは、一緒に食事をしたり、色々な話をしながら、少年たちが前に進むためのサポートをする活動を始めました。

荻上:支援する側、される側といった関係性だと相談しにくいところもありますが、少年院に入院している時からつながることができた知人や既に更生した先輩といった関係性ならば、さまざまな制度や次のステップへのアドバイスも聞きやすくなりそうですね。
高坂:僕自身もそうでしたが、非行に走っていた当時は、「罪を犯している先輩や友だちは仲間で信頼できる人」、「犯罪をしたことがない人は別世界の人」といった具合に区別してしまっていました。一生懸命関わってくれていた人の話にも聞く耳を持てず、素直な気持ちにもなれませんでした。だからこそ、こうした支援をする大人たちを信頼できないという少年たちの気持ちにも寄り添いたいと思っています。
アンケートにより見えてきた、連携を求める事業者の声。
荻上:今回実施している休眠預金を活用した事業について、その取り組みなどを教えてください。
高坂:現在、3団体でネットワークを作っていますが、やはり、もっと色々な民間団体が手を取り合って連携していくことで、罪を犯した少年・少女たちや成人の人たちにとって、より立ち直りやすい環境や選択肢が拡がると思うんです。
僕たち3団体も運営する「自立準備ホーム※2」という制度が施行されて2021年で丸10年。2021年4月1日時点では全国445の事業者が登録しています。年間約1,500人が利用していますが、事業者同士の横の繋がりはなく、全国組織もない状況です。ホームがある場所や事業者などは公表されていないため、それぞれの事業者が孤軍奮闘しながら活動してきました。
そこで、法務省保護局と全国の保護観察所に協力をしてもらい、全国の自立準備ホームの実態調査(アンケート)を実施しました。その結果、事業者同士の連携や全国組織ができたら、ぜひ参加したいという声が100団体ほどあることがわかりました。しかし、それらを実現するためには各地から携わるメンバーを集めて会議をしたり、色んな人からの協力や理解を得るためのシンポジウムを開催したり、さまざまな面で資金が必要になります。そこで、休眠預金活用事業に申請し、採択していただきました。
※2:法務省の「緊急的住居確保・自立支援対策」に基づき、刑務所や少年院を出所後に一時的に住むことができる民間施設。事前に保護観察所に登録されたNPO法人や社会福祉法人などが、社会復帰を目指して各自の自立をサポートします。
荻上:この間、色々と活動されている進捗状況はいかがですか?
高坂:そうですね。これまで自立準備ホームの横の繋がりはもちろん、ホームの運営者による勉強会すらありませんでした。そこで、中部、近畿、中国、3つの地方で自立準備ホーム事業者が集まる勉強会を開きました。全国を8つの地域に区切っており、まだ実施していない地域でも勉強会を行っていきます。
加えて、令和4年3月21日に国立オリンピック記念青少年センター(東京)で自立準備ホーム事業者の全国組織の発足を行い、設立シンポジウムを開催する予定にしています。その準備を進めるにあたって、法務省保護局や更生保護を支える団体の方々に日頃の活動報告やご協力のお願いを継続して行っていくことや、全国組織の情報を発信していくためのウェブサイトの準備なども休眠預金を活用して行っています。
休眠預金活用事業によって生まれた新しい繋がりが、事業継続の力に。

荻上:実施された勉強会ではどのような話し合いが持たれているのでしょうか。
高坂:一度の勉強会に約30〜40人が参加しています。勉強会の中では例えば、罪を犯した人の中には、知的障がいや精神障がいのある人とか、その他の病気を患っている人もいて、そうした人たちへの医療や福祉面での対応の難しさについてですとか、入所者によってホームの部屋が壊されてしまったときに、現在はそうした損害を各ホームが持ち出しで対応しているケースが多いためにそのような対応の大変さについて話されていまし
また、自立準備ホームの運営はどこも資金面での厳しさがあり、正社員を雇用することはどこのホームもほぼ難しい状況です。そのため有償ボランティアのような形でやっている事業者がほとんどであるため、「スタッフを探したり育成すること」や「事業を継続していくこと」の難しさについての話が多く出ました。その他、情報交換を行っていくなかで、医療や福祉で困った際に頼れる制度を知らずに、仕事ができない入所者が払うことができない医療費をホームが持ち出しで負担している例があることわかり、「そんなやり方があるんだ」と事業者にとって発見があったりもしました。
とにかくこれまで横の繋がりがなかったので「自分たちだけがこんなに大変だ」と思っていたのですが、勉強会を実施することでどの自立準備ホームも同じような課題を抱えている仲間であることが分かり、「自分たちと一緒だ」と知ることで元気になり、改めて「これからも継続していこう!」と各事業者が互いに勇気づけ合う会となりました。
荻上:勉強会は支える側のノウハウを共有することはもちろん、支える側が心が折れそうなときにさらに支えあうというような側面もあるのですね。
個別の団体で活動するより複数の団体が連携することの強みはどういった点にお感じになりますか?
高坂:「自立準備ホーム」は保護観察所に登録をして、委託を受けて対象者と関わっていきますが、その過程で「制度事業とはいえ、ここは変えられないのか」と悩ましく思うこともあります。そのようなとき1団体では声を上げるのにも限界がありますが、複数の団体が繋ってネットワークとなることによって法務省所管の保護局や関係各所と意見交換ができています。他にも、自立準備ホームの制度ができて10年目で初めて「運営資金が少しでも充実するように」と概算要求という機会をいただけたり、連携することで少しずつ光が当てていただけていると感じています。
荻上:休眠預金という資金があることで繋がりを強化することができ、その繋がりによって交渉窓口として機能するようになって行政との対話も進んでいるのですね。それで、予算が付けばさらに事業が拡がっていくというわけですね。最後に、休眠預金活用制度への参画を検討されている方々へメッセージをお願いいたします。
高坂:僕自身の経験から、「非行を行なった少年・少女」や「罪を犯した成人」には1日でも早く非行や犯罪を止めて欲しいと心底願っています。
被害者の方、その周囲の方、家族も不幸になる。そして、当事者である本人も一人では止めづらく苦しい。色々な人の支えを受けて更生を目指せれば…と思いますが、その罪を犯した人に対する制度やシステムは、まだまだ他の社会課題と比べると少なく、民間団体が取り組もうと思っても資金を得られる仕組みがほとんどない状況です。今回の休眠預金を活用した助成を受けることができて助かっていますし、本当に必要だと思う活動を継続できることに大きな希望を感じています。

(取材日:2021年10月28日)
■高坂朝人さん プロフィール■
全国再非行防止ネットワーク協議会代表のほか、NPO法人再非行防止サポートセンター愛知で理事長を務める。「世界中の再非行を減らし、笑顔を増やすこと」をテーマに鑑別所や少年院で過ごす青少年のサポートや、各種メディア出演や講演会などを積極的に行う。実体験によるアドバイスが多くの少年・少女、また同志の心を掴み、近年では行政との連携も果たし、全国的なサポートの実現に向け尽力している。
■荻上チキさん プロフィール■
メディア論をはじめ、政治経済やサブカルチャーまで幅広い分野で活躍する評論家。自ら執筆もこなす編集者として、またラジオパーソナリティーとしても人気を集める。その傍ら、NPO法人ストップいじめ!ナビの代表理事を務め、子どもの生命や人権を守るべく、「いじめ」関連の問題解決に向けて、ウェブサイトなどを活用した情報発信や啓蒙活動を行なっている。
■事業基礎情報
実行団体 | 全国再非行防止ネットワーク協議会 |
事業名 | 罪を犯した青少年の社会的居場所全国連携 拡充事業 |
活動対象地域 | 全国 |
資金分配団体 | 更生保護法人 日本更生保護協会 |
採択助成事業 | 安全・安心な地域社会づくり支援事業〈2019年通常枠〉 〈2019年度通常枠・草の根活動支援事業・全国ブロック〉 |