休眠預金活用事業の成果物として資金分配団体や実行団体で作成された報告書等をご紹介する「成果物レポート」。今回は、実行団体 宝塚NPOセンター作成したレポート『「With」事業報告書2022.3-2025.2』を紹介します。
「With」事業報告書2022.3-2025.2
認定NPO法人宝塚NPOセンター(兵庫県宝塚市)は、一般社団法人 全国古民家再生協会(東京都千代田区)の2021年度「空き家・古民家を活用した母子家庭向けハウス設立事業」で実行団体として「孤立孤独/生活苦を抱える若者への緊急支援事業」事業を実施しました。
宝塚市内在住、あるいは宝塚市に転居を希望する“非正規雇用で働く母親とその子どもで構成されているひとり親世帯”を対象にしたシングルマザーハウス「With」での活動をまとめた事業報告書を公開します。
【事業基礎情報】
実行団体 | 認定特定非営利活動法人 宝塚NPOセンター |
事業名 | 地域で支える母子ハウス事業 |
活動対象地域 | 兵庫県宝塚市 |
資金分配団体 | 一般社団法人 全国古民家再生協会 |
今回のJANPIAスナップでは、JANPIA×RISTEX共催イベントを開催した様子をお届けします。
イベント概要
JANPIAはRISTEXとの共催イベントとして、2024年1月24日に第1弾ラウンドテーブル「孤立・孤独という社会課題にどう向き合うか?~直面する課題に立ち向かう現場×研究による予防的アプローチ~」、2月1日に、第2弾セミナー「現場と研究のつながりが社会課題解決を促進する~企業がつないだ事例「シングルペアレンツ・エンパワメント・プログラム」から~」を開催しました。
第1弾:ラウンドテーブル「孤立・孤独という社会課題にどう向き合うか?~直面する課題に立ち向かう現場×研究による予防的アプローチ~」
「社会的孤立・孤独」の課題に対し、当事者への日常的な直接の支援に取り組むJANPIAの民間団体と、孤立が発生する因子にフォーカスした研究に取り組むRISTEXの研究者が登壇し、相互の活動を知り、知見の交換を図るラウンドテーブルを行いました。
様々な孤独、孤立を考えるにあたり、フィールドが異なる皆様から、ご報告いただきました。
多様な世代へのアプローチ、アウトリーチ、子ども・若者(ユース世代)の分野では、相談できる場所がない、親に頼れないなどの事情を抱えているケースが多い。
また、地域によっては「世間体」を気にする人が多くオーダーメイド方式で対応している。本人が「孤立」している、「孤独」を自覚している人がいないなど地域の文脈を理解しながら支援することが必要であるというコメントがありました。
登壇者のご紹介

当日の動画
第2弾:「現場と研究のつながりが社会課題解決を促進する~企業がつないだ事例「シングルペアレンツ・エンパワメント・プログラム」から~」

異なるセクターの協働による社会課題解決事業の参考となる事例として、企業が研究者と民間公益活動を行う団体をつなぎ実施している「シングルペアレンツ・エンパワメント・プログラム※」の事例を参考に、同じ社会課題解決を目指す研究者と非営利組織、企業がどのような役割をもって事業を実施してきたのかを振り返りながら、マルチセクターで協働するメリットや、有機的なつながりをつくるコツなど、課題解決において相乗効果を生むために役立つヒントについて、セミナー形式で行いました。

当日の動画
当プログラムをマネジメントする立場であるAVPN伊藤氏をファシリテーターとし、秋山氏からは民間公益活動を行う団体の視点から、大岡氏からは研究者として、佐藤氏は企業として活動をサポートする立場から、シングルペアレントの居住問題とメンタルヘルスが、なぜセットで語られるのか?に目をむけ、シングルペアレントの背景を知り連携することで、シナジーを生み出している事例が紹介されました。
また、NPOなどの支援者が居住支援にかかわる様々な支援者がトラウマのことをよく知って関わる姿勢(トラウマインフォームドケア)を学ぶことで、トラウマを抱えたシングルペアレントの背景を尊重しながらケアをしていくことが重要であり、この連携事例が大きな意味を持つことが確認されました。
さらには、企業視点での連携における難しさやそれを克服するための工夫なども紹介され、それぞれが違う立場で同じ目標に向かって活動を推進することの意義が話し合われました。
※シングルペアレンツ・エンパワメント・プログラム by American Express
アメリカン・エキスプレスの支援により2023年4月から2024年3月までAVPNが運営する事業です。複数の企業と非営利組織の連携により、対象者(いわゆる「シングルマザー」や予期せぬ妊娠をした方)が必要とする住まいとメンタルヘルスケアのサービスを提供しています。
千葉県柏市内に、二十歳前後の若者が「おばあちゃんち」と呼ぶ家があります。一般社団法人いっぽの会が、2020年度の休眠預金活用事業(通常枠)を活用し、2022年8月に社会的養護のもとで育った若者たちや、様々な理由で家族と一緒に住めない方のための「若者応援ハウス」をオープンしました。共同生活を送りながら、スタッフや地域の方と交流することで、自立に向けての一歩を踏み出しています。今回、この若者応援ハウスを訪れ、開設するに至った経緯や入居している若者の様子、活動の今後の展望などについて運営メンバーの皆さんに伺いました。
若者応援ハウス立ち上げの経緯
いっぽの会の代表理事の久保田尚美さんは、児童自立援助ホームで働く中で、「子どもたちがもっとやりたいこと を実現できる施設にしたい」という思いから独立し、いっぽの会を立ち上げ2020年10月に児童自立援助ホーム「歩みの家」を開設しました。
児童自立援助ホームは、児童相談所長から家庭や他の施設にいられないと判断された子どもたちに、暮らしの場を提供する施設 です。対象年齢は15歳から20歳(一定の条件を満たせば22歳)となっています。しかし、2022年4月から成人年齢が引き下げられたこともあって、18歳になると国から施設に支払われていた措置費がなくなり、たとえ継続的な支援が必要だと判断される若者であっても施設から出なければいけない場合もあるそうです。

「施設を出ることになった若者にも、実際、様々な相談対応を行ってきました。ただ、措置費が出ないなか、施設職員が時間外の労働によって継続的に支援していくことに限界を感じていました。」 そのような中、 公益財団法人ちばのWA地域づくり基金が、2020年度通常枠の資金分配団体として社会的養護下にある若者に焦点をあてた助成事業の公募をしていることを知りました。もともと久保田さんは、児童自立援助ホームを出た若者が、いつでも戻ってこられる拠点づくりをできるとしたら、十数年後かなと思っていたそうです。
しかし公募を知り、「今から必要な若者に届けられるのであれば、チャレンジしてみよう」という気持ちに変わり、休眠預金活用事業に申請。その結果、採択されて事業に取り組み、2022年8月に若者応援ハウス をオープンしました。
「以前施設で働いていたときは、若者から相談があったとしても、児童相談所に情報提供するだけで、施設で若者を受け入れることができなかったのです。しかし今では、児童自立援助ホームである「歩みの家」だけでなく若者応援ハウスもあります。だから助けを必要とする人から連絡をいただけれ ば、可能な範囲で受け入れられるような環境 と体制が作れたと思っています。今回の助成事業の結果、活動の幅が広がりました。」
生活支援と就労支援は表裏一体
休眠預金活用事業では、社会的養護を経験した若者が、ボランティア、職員や地域の人との人間関係が構築され、思いを語れ、困難を乗り越える方法が身についていることを目指しています。加えて、若者応援ハウスでの生活相談や就労相談に対応していく過程で、若者が自ら解決していく力がつき、自分らしい暮らしを営んでいる状態を目指しています。
いっぽの会のスタッフで、若者応援ハウスの責任者をしている朝日仁隆さんに、活動の様子を伺いました。
「若者と一緒にご飯を作ったり、庭に畑があるので、畑の野菜を採ってもらったりしています。また、月に1回程度地域の方や支援者を呼んで、食事会などを開催しています。ボードゲームが好きな若者がいて、一緒に遊ぶこともあります。日常の延長みたいなところから、その子の今まで言えなかった気持ちとか、やりたかったことを引き出しながら、徐々に自立に向かうサポートをしています。」
若者応援ハウスだからこそできる日常の生活支援に加え、就労支援も行っています。これまで朝日さんたちが関わった若者たちは、仕事に就くこと自体はできても、本当にやりたいことを見つけることができなかったり、無理した働き方になってしまっていたりしました。

例えば、これまで関わった若者の1人は、当初、将来どういう風に生きていきたいか、といった考えがなく、手っ取り早く見つけた事務のアルバイトをしようとしていました。ただ、スタッフと話していくうちに専門学校 を志望するようになり、今まさに受験結果待ちとのことです。このように、「本当はやってみたいことがある」と打ち明けてくれたり、一緒に考えたりするようになったのは、いっぽの会の皆さんが丁寧に伴走される中で信頼関係が築かれていったからではないでしょうか。
いっぽの会の外部アドバイザーで社会福祉士の古澤肇さんは、生活支援と就労支援は、表裏一体だと話します。
「人間関係とかお金のこととか、自分の身体を大事にすることって、人が生きていく上で大事なことで、生活支援でもあるし、就労支援でもあると思っています。例えば、体温が39度あっても『仕事行きます』という子には、『ちょっとそれはやめましょう』と伝えますが、最初は仕事と体調の優先順位もなかなか分からなかったりします。困っているときに適切に『助けて』が言える、SOSが出せるようになることも大切だと考えています。 」
現在若者応援ハウスに入居している方は2名(定員3名)で、これまで短期を含めて泊まりで利用された方は、4名いました。短期の利用では、住み込みの仕事していた方が退職し、住まいを失った際に、転職先が見つかるまでの間の仮の住まいとして利用するケースがあったそうです。
また、計画時は、児童自立援助ホームや児童養護施設出身の若者を支援の対象と考えていましたが、社会的養護を経験していない方からの問い合わせがあったことがきっかけとなり、今は、支援の対象を広げているそうです。
地域に支えられながら育つ若者たち
この若者応援ハウス事業の特徴の一つに、地域とのつながりを重視していて、地域の方もいっぽの会の事業に自然と入ってきているところがあります。地域の方が若者のことを気にかけて、若者もその地域に向けて、何か自分の気持ちや、やりたいことを発信できるような関係性になってきているそうです。ただ、いっぽの会は、最初から地域とのつながりがあったわけではありません。
いっぽの会が最初に立ち上げた児童自立援助ホーム「歩みの家」は松戸市内にあり、当初、若者応援ハウスもその近隣エリアで探していました。ただ、若者応援ハウスということや、児童福祉施設ということで様々な偏見があり、物件を見つけるのに苦労したそうです。やっと見つけた現在の物件は、いっぽの会の通常の活動エリアとは離れており、地域とのつながりがほぼない場所にありました。

そのような状況の中、どのように地域とのつながりを作り関わっていただけるようになったのでしょうか。古澤さんが教えてくださいました。
「地域で活動している人たちとのつながりづくりは、戦略的に考えています。たとえば、日常的なことですと、若者応援ハウスでは 、コンビニではなく、なるべく地域の商店で買い物をするように伝えています。また、地元の小学校の「おやじの会」の方に、若者応援ハウスのイベントに参加していただきました。 バーベキューを実施したのですが、若者やボランティア、そしてご参加いただいた地域の方が力を合わせて一緒に火をつけたり肉を焼いたりする。その何気ない協働作業がすごく大事な経験だと思っています。特に、一緒に何かを作るとか、みんなで分け合うとか、そういう経験を成長過程であまりしてこなかった若者には貴重な機会です。」

また、イベントを実施するにあたって、地域のボランティアだけでなく、古澤さんの仲間の社会福祉士にもメンバーに入ってもらったこともポイントだそうです。
「初めましてのボランティアだけだと、どうしても皆さんよそよそしくなってしまいます。一方、スタッフはスタッフで準備や裏方で大変。そこで、コミュニケーションを円滑にしてくれる人材として、有資格者がいい働きをするのです。」
現在、定期的に若者応援ハウスに来ている地域ボランティアは3名いるそうです。一人は、若者応援ハウスの畑のお世話を手伝ってくださる方で、自治会長や民生委員もされたことのある地域のキーマンでもありました。
「その方と若者とが繋がり始めているのが嬉しいですね。その方の誕生会を若者が企画して、ケーキまで作ってお祝いしていました。やっぱりこういう地域と若者、スタッフとの交流が広がってきているのが何よりです。」
と振り返る朝日さん。
そのボランティアさんが畑で作業していると、外からも見えるため、「あの方が関わっているなら」と、若者応援ハウスの地域からの信頼度向上にもつながっているそうです。

残り2名のボランティアは、ボランティアセンター経由で紹介があった地域の方で、月2回程度、若者たちと一緒に食事を作っています。そのうち1人は、今はご飯作りがメインですが、ゆくゆくは茶道やお花なども若者とやってみたいとお話しされているのだとか。

「当たり前」の活動から生み出された変化
これまでの活動を振り返って、朝日さんが印象に残っているエピソードを教えてくれました。
「畑の手入れは私が中心でやっているのですが、スタッフが来れないときの水やりを若者に頼んでいると、いつの日か自主的に大きくなった野菜を収穫して並べておいてくれたことがあったのです。」

「応援ハウスでは、月に1回の振り返り面談を行っています。自分の思いや考えを表現するのが苦手な若者は、口数が少なくなったり、中々本音が言えません。応援ハウスでのボランティアさんとの関わりやイベントに参加、又、若者同士での良い刺激や相互作用が成功体験とも言えます。回を重ねるごとに自分の気持ちや感情を少しずつ表に出せるように変化していきます。」
そうして、今まで連絡を絶っていた支援機関や、親族の方にも少しずつ連絡が取れるようになってきている若者もいます。
助成事業は、若者だけでなく、いっぽの会にも変化をもたらしました。理事の田村敬志さんは、社会的インパクト評価の考え方を通じて、活動の成果をアウトプットではなく、アウトカムも示すことを学べたと振り返ります。
「これまでは自分たちが必要だと思ったことを、ただただやっているだけだったんですけど、それを対外的に示すために、社会的インパクト評価を通じて言語化する仕方もあるということを勉強させていただきました。」
目の前の問題を解決するために一生懸命に取り組む中で当たり前にやってきたことが、実は当たり前ではなく、とても重要だったということを確認することができたようです。

いっぽの会の「若者応援ハウス」のこれから
いっぽの会は、これまでの成果を踏まえ、児童自立援助ホームの元利用者やその紹介以外の若者へのアプローチを強化していく予定です。また、若者応援ハウスでは宿泊だけでなく、気軽に立ち寄れる通所型の受け入れも増やしていきたいとのことです。住まいや居場所が既にある若者でも、「誰かと一緒に食べたい」「相談したい」と思ったときにふらっと立ち寄るような居場所を目指したいと古澤さん。
「『相談受けます』みたいな看板を掲げると、どうしても敷居が高くなってしまいます。ここには地域をよくしようとする人たちが集まっていて、ここに来ること で「何とかなる」と思ってもらえる、そんな『若者応援センター』になるといいなと。」
実際、この若者応援ハウスのことを「おばあちゃんち」と呼ぶ若者もいるようで、すでに実家のような存在になっています。
休眠預金活用事業が終了する2024年1月以降は、事業を継続・発展していくための財源確保が最大の課題です。自治体や民間の様々な助成事業を視野に入れつつ、中長期的にはやはり、制度化をめざしていく必要があると久保田さんは考えます。
「今回の休眠預金がまさに制度のはざまにある取り組みを、民間で支えてくれる資金だったんです。制度ができるまではかなりきついですが、続けていかなければ、制度化にはいきつかないので頑張っていきます。」
事業基礎情報
実行団体 | 一般社団法人いっぽの会 |
事業名 | 社会へ「いっぽ」を踏み出す基盤づくり事業 |
活動対象地域 | 千葉県 |
資金分配団体 | 公益財団法人ちばのWA地域づくり基金 |
採択助成事業 | 2020年度通常枠 |
東京都を拠点に、ベトナム人技能実習生や留学生への支援活動を行う「日越ともいき支援会」。日本に在留するベトナム人の技能実習生や留学生の数は急増していますが、劣悪な環境に置かれていることも少なくありません。「日越ともいき支援会」は、そんなベトナム人の「駆け込み寺」として、住居の確保、帰国できない若者の保護、就労支援など、さまざまな活動を行っています。2020年度、2021年度の休眠預金活用事業(コロナ枠)では、コロナ禍で生活困窮者となった約1万人以上のベトナム人を支援してきました。今回は、コロナ禍、そして現在の支援事業について、同団体の代表理事・吉水慈豊さんにお話を伺いました。[コロナ枠の成果を探るNo.4]です。
「ベトナム人の命と人権を守る」活動を始めたきっかけとは
ベトナム人の命と人権を守る。これは、「日越ともいき支援会」が支援活動の目的として掲げているものです。吉水さんがこの思いを強く持つようになった理由は、幼少期まで遡ります。

吉水さんは埼玉県にある浄土宗寺院の出身で、住職であるお父様がベトナム人への支援を行っていました。お寺の離れにはベトナム人僧侶が暮らしていて、幼い頃からベトナム人とともに暮らしてきたのだそうです。
2013年頃から、吉水さんはお父様の支援活動のサポートを始めます。東京都港区の寺院を拠点にしていたこともあり、亡くなった技能実習生や留学生たちをベトナムに帰国させたり、お葬式をしたりといった支援を行っていました。そのような中、吉水さんが支援について深く考えるきっかけとなる出来事が起こります。
「その当時、支援を行っていた実習生の数人が自殺してしまったのです。『どうしてこんなことが起こってしまうのだろう』と、技能実習の制度などを調べました。そのとき『ベトナム人の命と人権を守るにはどうすればいいのか』と考えたことが、現在の支援活動の根っこの部分になっています」
その後、コロナ禍で保護しなければならないベトナム人が爆発的に増えたことを受けて、2020年1月にNPO法人として認証を受けました。
コロナ禍での物資支援や保護にくわえ、勉強会や就労支援も実施
コロナ禍では、職を失い困窮したベトナム人の若者が急増。約1万人に物資の支援を行い、数千人は港区の寺院などで一時的に保護をしました。
当時はベトナムが海外からの入国制限を実施したこともあり、ベトナムに帰れない若者が多くいました。妊婦や高齢者は帰国が優先されましたが、それ以外のベトナム人は帰国することができず、最大何万人というベトナム人が帰国待ちという状況に陥ったのです。
吉水さんは、彼らを保護すると同時に、出入国在留管理庁(入管庁)や法務省と掛け合い、在留資格の交付をお願いしました。その甲斐もあってか、国は技能実習生に対する雇用維持支援を発表。これは特定技能を目指す外国人に対し、最大で1年間の在留を認めるというものです。
ただし、日本で生活し続けるためには、在留期間中に特定技能試験に合格すれば良いという単純な話ではありません。「若者たちをただ保護するだけではダメで、日本語や特定技能試験の勉強もして、新しい職場に繋げていかなくてはならない。当時はかなり切羽詰まった状況で、物資支援や保護に加えて、勉強会などの支援を行っていました」

その際、役に立ったのがコロナ禍での助成金です。以前は寄付金で支援を行っていましたが、コロナウイルスの流行が長引くにつれ、それだけでは難しい状況になったそうです。
「衣食住の確保だけでも、かなりのお金がかかります。食費は毎日数万円かかっていましたし、着の身着のまま逃げていた人たちへは衣服の支援もしていたので、助成金の存在は本当に助かりました。また、勉強会には日本語の先生や、ベトナム語で教えられる留学生にも有償で来てもらっていました。ボランティアではなく有償でできたのは、助成金があったからにほかなりません」
ほかにも、妊産婦や病気になった人への医療支援にも力を入れています。技能実習生や留学生たちは日常会話レベルの日本語はできるものの、医療や法律に関する話を日本語でやりとりするのは難しく、日本人の支援が必要不可欠だと吉水さんは考えています。
SNSの活用など、ベトナム人の若者目線で考えた支援を
コロナ禍は数千人の保護を行ってきた「日越ともいき支援会」。それだけの規模で支援を行うとなると、お金はもちろん、人手も必要です。しかし、「日越ともいき支援会」のスタッフは日本人6人、ベトナム人12人の計18人のみ。スタッフだけでは到底この規模の支援は行えません。にもかかわらず、大規模な支援ができたのはなぜか——そのヒントは、各分野のスペシャリストとの連携にありました。
「たとえば、就労関係は連合東京、医療関係は病院の先生、行政関係は区役所の方といったように、専門分野の方々と連携して支援を行ってきました。こうした方々は、父の時代から繋がっている人もいましたし、テレビなどのメディアに取り上げられたことをきっかけに連絡をくれる方もいましたね」
吉水さんたちが自ら発信することはほとんどなかったそうですが、それでもたくさんのメディアが「日越ともいき支援会」を取り上げました。当時、東京を拠点とする支援団体のなかで「日越ともいき支援会」がかなり大規模だったことにくわえ、取材依頼を一切断らなかったことがメディア露出の機会を増やしたのでは、と吉水さんは考えています。
「業界の襟を正すにはメディアの力も重要です。技能実習制度の問題を多くの人に知ってもらうため、現在も技能実習生へのインタビューなどは積極的に受けています」
吉水さんたちが自ら発信することはほとんどなかったそうですが、それでもたくさんのメディアが「日越ともいき支援会」を取り上げました。当時、東京を拠点とする支援団体のなかで「日越ともいき支援会」がかなり大規模だったことにくわえ、取材依頼を一切断らなかったことがメディア露出の機会を増やしたのでは、と吉水さんは考えています。 「業界の襟を正すにはメディアの力も重要です。技能実習制度の問題を多くの人に知ってもらうため、現在も技能実習生へのインタビューなどは積極的に受けています」

支援する側の人手を充実させる一方で、もう一つ重要なのが、困窮しているベトナム人に支援の情報を届けること。「日越ともいき支援会」は約1万人へ物資支援、数千人の保護を行いましたが、これだけ大規模な支援ができた背景には、日頃からSNSでベトナム人と繋がる地道な活動がありました。
「コロナ前からFacebookのMessengerを通して、ベトナム人の若者と積極的に繋がっていたのです。『ベトナム人を助ける日本人がいる』ということを、ベトナム人コミュニティの中で周知することが大事だと考えていました」
その活動の成果は、コロナ禍に顕著に現れます。吉水さんのもとへ、ベトナム人からSOSの連絡がひっきりなしに届くようになったのです。こうしたSOSに対し、東京近辺に住んでいる人に対しては寺院に来てもらい、遠方で東京に来るお金がない人に対しては、東京までの交通費を振り込み、来てもらったのだそう。多いときには1日何百件と来ていたSOSを、吉水さんは一つも断りませんでした。

コロナが落ち着いた現在は、Facebookでベトナム人と繋がるのはもちろんのこと、TikTokを活用した啓発事業も実施。TikTokでは、日本の法律についてや、就労のための窓口紹介など、日本で生活するにあたって必要な事柄を伝えています。 「ベトナム人が使っているSNSはFacebookとTikTokが多いので、私たちもこの2つを活用しています。相談窓口などで『何かあったら電話して』と言われることも多いのですが、彼らはSIMカードを持っていない人がほとんど。自分のスマートフォンから電話ができないので、電話は手段としてはあまり意味がありません。支援を私たちの自己満足で終わらせないためにも、彼らの目線で考えることが重要です」
技能実習生の人権を守るために。重要なのは、しっかりとした支援体制の構築
コロナ禍ではさまざまな支援活動を行ってきましたが、なかでも印象に残っているのは、2022年11月に愛媛県西予市の縫製工場に対して、技能実習生11人への不払い金2,700万円の支払いを求めたこと。この問題が明るみに出ると、生産委託元のワコールホールディングスは技能実習生の生活を支援するとして、「日越ともいき支援会」に500万円の寄付をしました。ほかにも、問題を知ったいくつもの会社が声を上げたり、ニュースを見た一般の人から暖かい声をかけてもらったりしたといいます。
「厚生労働省の方に『歴史を変えてくれてありがとう』、周りの方からは『頑張ったね』などと声をかけてもらったことが本当に嬉しかったです。私としては特別頑張ったわけではなくて、いつも通りの支援をしていたのですが、その結果たくさんの人に知ってもらうことができました」

愛媛県西予市の縫製工場の問題は、不払い金の額も大きかったため、多くのメディアに取り上げられ話題になりました。しかし、これは氷山の一角に過ぎず、日本各地ではこうした不払い金問題をはじめとして、企業から不当に解雇されるなどトラブルが相次いでいます。
こうした状況を受けて、政府の有識者会議は2023年4月、現在の技能実習制度を廃止し、新しい制度へと移行する案を示しました。この新制度について、吉水さんは根本的な問題解決にはなっていないと話します。
「たとえば、現在は原則不可とされている転職について緩和の方針が示されていますが、転職できないから失踪などの問題が起こるわけではありません。何かあった際に技能実習生から相談を受けたり、支援したりする体制が機能していないことが問題なんです」
本来であれば、企業と技能実習生の間にトラブルが起こった場合、実習生の受け入れ先に指導を行う「監理団体」と呼ばれる組織や、監理団体から報告を受けるなどする「外国人技能実習機構」が問題解決や支援を行います。しかし、こうした仕組みが十分機能していないために、労働環境や人権侵害に関するトラブルが後を経たないと吉水さんは考えています。
「まずは監理団体、そのあとに外国人技能実習機構、と相談ステップを踏むわけですが、ここで問題解決に繋がらないと、実習生たちも諦めるしかなく失踪してしまうんです。その問題を解決しないまま転職の制限を緩和しても、『1年我慢して働いたら、より時給の高い東京に行こう』といった実習生が増えるだけ。まずはしっかりとした支援体制を構築することが必要だと思います」

技能実習生を取り巻く環境は少しずつ変化の兆しを見せていますが、現在も「日越ともいき支援会」には日々相談やSOSの連絡が届きます。吉水さんはこうした現場の声を東京出入国在留管理局や厚生労働省に届け、ベトナム人の保護や支援だけでなく、国側にも支援の充実を図るよう働きかけています。
日本人とベトナム人がともに生きる社会を目指して、「日越ともいき支援会」はこれからもベトナム人の命と人権を守る活動を続けていきます。
事業基礎情報【1】
実行団体 | 特定非営利活動法人 ⽇越ともいき⽀援会 |
事業名 | 在留外国人コロナ緊急支援事業 |
活動対象地域 | 全国 |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 ジャパン・プラットフォーム |
採択助成事業 | 2020年度新型コロナウイルス対応支援助成<随時募集3次> |
事業基礎情報【2】
実行団体 | 特定非営利活動法人 ⽇越ともいき⽀援会 |
事業名 | 在留外国人コロナ緊急支援事業 |
活動対象地域 | 全国 |
資金分配団体 | 公益財団法人 日本国際交流センター |
採択助成事業 | 2021年度新型コロナウイルス対応支援助成<随時募集7次> |
福岡県・北九州市に拠点を置くNPO法人抱樸(以下、抱樸)は、ホームレスや生活困窮者を始め、さまざまな生きづらさを抱えた人たちの人生に伴走する活動を、30年以上にわたって続けてきました。2021年1月より、公益財団法人パブリックリソース財団(2019年度通常枠資金分配団体)の採択を受け、単に身を置くだけの場所ではなく、人とのつながりを持ち、心の拠りどころにもなる住居として「プラザ抱樸」の拡充に勤しんでいます。この取り組みの背景に見えるのは、持続可能な「伴走型支援」のあり方を模索する姿勢。そもそも伴走型支援とは何か、なぜ必要なのか。その持続性をどう担保していくのか。抱樸の常務理事を務める山田耕司さんにお話を聞きました。”
「家族と制度の間」を担い続けて広がった支援
抱樸が活動開始発足したのは、1988年12月。当時は「北九州日雇越冬実行委員会」という名称でした。始まりは路上生活者の現状調査を行ったことからと言います。

「福岡の日雇労働組合と共同し、路上生活者にヒアリングをすることになったんです。仕事が終わった夜に会いに行って、『話を聞かせてもらうのに手ぶらだと申し訳ないから』と、手土産におにぎりを握っていった。調査が進み路上生活者の実態が明るみになると、当然、自分たちにできることを考えますよね。そこから、炊き出しが始まったと聞いています」
大学時代は社会運動系のサークルに入っていた山田さんが、抱樸に出会ったのは1997年。友人の誘いで炊き出しやパトロールのボランティアに参加するようになり、2004年に抱樸が北九州市からの委託で「ホームレス自立支援センター」を始めると同時に入職しました。

以来、20年近くにわたって抱樸が出会うさまざまな障害や生きづらさを抱えた人たちの声に耳を傾け、現在は常務理事として休眠預金活用事業を含め、多岐にわたる取り組みを統括しています。
日雇労働者やホームレスのための炊き出しから始まった抱樸の支援。入口こそ「労働問題」でしたが、山田さんは「支援を続けるうちに『労働問題以外の課題』も見えてきた」と振り返ります。
「私自身、最初は『就労支援をして、ホームレスの方が自立すれば万事解決』と思っていました。ところが、実際は軽度の知的障害や精神障害を含め、さまざまな障害が原因で就労や独居が難しかったり、社会的に家族や企業の機能が衰えたことから周りに頼れる人がおらず孤独に陥ってしまったり。リーマンショック以降は若年困窮者も増え、その多くは高校中退以下で十分な学習の機会を得られていなかったり。一筋縄には解決できない問題が山積みだったんです」
困窮者・ホームレス支援に始まり、子ども・家族支援、居住支援、就労支援、障害福祉、高齢福祉に更生支援(刑務所出所者への支援)――人の属性に囚われず、さまざまな生きづらさを抱えた人たちを対象にした抱樸の支援は、現在27の事業まで広がっています。
なぜ、ここまで広がり得たのでしょうか?
「ホームレス支援から始まった、というのが大きな理由だと感じています。ホームレスになる人は、社会的な制度や福祉から排除されてきた方々なんです。障害の問題もスルーされ続け、雇用保険も受けられず、生活保護すら申請できない。結果、住まいを失い、就職活動もできなくなる。そうした方々への支援を考えるうえで、活用できる制度があるならもちろん活用します。一方で、既存の枠組みに過度な期待は寄せず、『必要だと思うのにないものがあるなら自分たちで作っていこう』という発想が、もともとすごく大きいんだと思います」
誰ひとり取り残されない社会を創るため、家族と制度の間を担い続けた抱樸。手土産におにぎりを握り始めた日々から34年。これまでに約3,700人以上が、ホームレス状態から生活を取り戻したと報告されています。
入居者の人生に“伴走”する居住支援を目指して
2019年度、パブリックリソース財団による公募で採択を受けたのは、抱樸が2001年から実施していた「居住支援」における取り組み。当初は大家さんから物件を一括で借り上げて入居者に転貸するサブリースの形式を活用し、その後、生活困窮者に無料または低額な料金で宿泊所を提供する「無料定額宿泊所(以下、無低)」としての居住支援を行っていました。

一方、世間では「無低は利用者の無知や弱みにつけこみ、入居者の生活保護費を搾取する貧困ビジネスの温床になっている」と問題視され始めます。入居したものの、ソフト面での支援は十分になく、再び路上生活に戻ってしまうケースも少なくありませんでした。 こうした背景を受け、山田さんは「単に住まいを提供するだけでなく、入居後も見守り続ける居住支援を広げていきたい思いがあった」と話します。
「居住支援を始めた頃から、アフターケアは行っていました。入居者の多くが高齢者だったことも理由の一つですが、障害や依存症の問題から金銭管理や衛生面でのトラブルが生じることも少なくなかったんです。家族のように困ったときに頼れる人が側にいないと、安定的に暮らしていくのは難しいのだと、この頃から、実感していました」
入居後もつながり続け、一人ひとりの人生に伴走する。そんな居住支援を持続可能なものにするためには、見守り続ける人材の確保や育成のためにも、ある程度、安定した資金繰りが必要になります。しかし、実状は北九州市の住宅扶助の基準額(当時)である 3万1,500円で物件を借り、同額で貸していたため収益はゼロ。
理想とする居住支援のあり方を広げるために、何か打てる手はないだろうか?
模索し続ける中で見つけたのが、休眠預金活用事業の公募として、パブリックリソース財団が打ち出した「支援付き住宅建設・人材育成事業」でした。
2020年4月に無低の規制が強化されるのと並行して、単独での居住が困難な人への日常生活を支援する制度(日常生活支援住居施設)が創設。同事業は、その流れを受けて新基準に対応した無低の改築・建替え費用を助成するとともに、入居者を見守る人材の育成を推進。「住まい」と「生活支援」をセットで提供するソーシャルビジネスのビジネスモデルの構築を目指すものでした。
「これまでも多くの助成金や補助金を活用しましたが、基本的に物件の“所有”は認められず、借りるしかありませんでした。そのうえ単年度の助成が大半ですが、単年度では成果や実績が上がらないこともあり、資金が途絶えれば物件を借りられなくなるリスクも大きかったんです。その点、今回は物件の購入も認められ、複数年度の支援だったことが魅力的でしたね。パブリックリソース財団さんとも月一でミーティングを実施し、情報共有はもちろん、手続きの面でも手厚くサポートしてくださったので、大変心強かったです」
審査を経て採択された抱樸は、2018年より借りていたマンション一棟を購入。見守り支援つき住宅「プラザ抱樸」として再出発し、入居者の相談に乗る支援員の人件費や研修費にも充てながら、日々施設の拡充に取り組んでいます。

審査を経て採択された抱樸は、2018年より借りていたマンション一棟を購入。見守り支援つき住宅「プラザ抱樸」として再出発し、入居者の相談に乗る支援員の人件費や研修費にも充てながら、日々施設の拡充に取り組んでいます。 ここでは相談支援員による生活サポートがあり、いつでも「困りごと」を相談できるように常駐する管理人を配置。障害者向けのグループホームも併設されています。取材時(2022年10月)には、入居可能な88室がほぼ満室。10〜80代まで、老若男女を問わずに幅広い世代が暮らしています。
中には中学生で妊娠し、シングルマザーになるも、さまざまな事情で家族と同居が難しくなった入居者も。彼女は現在、生活保護を受け、アルバイトをしながら抱樸のサポートにより通信制の高校に通っていると言います。
「ホームレスの方だけでなく、さまざまな事情で家が借りられない、行き場がない、生活全般に困難を抱えた方々が地域にこんなにもおられるのかと。『プラザ抱樸』を始めて、よりその事実を痛感しました」

“つながり”を対等なものにする
住まいの提供だけでなく、入居後も見守り続けるスタイルは、抱樸が20年以上にわたって住居支援を行う中で理想の形を模索し続けてきた結果でもあります。同時に、このスタイルから浮き彫りになるのは、抱樸の「支援」に対する考え方。
抱樸は、支援には「問題解決型支援」と「伴走型支援」があると定義しています。住居支援を例に考えれば、行き場のない人に住まいを提供するのが「問題解決型支援」であり、入居後も見守り続けるのが「伴走型支援」です。
これらは「支援の両輪」として実施されるべきだと、抱樸の代表を務める奥田知志さんの著書に記されています。
私は「諦念」の中にたたずむ路上の人を大勢見てきました。そういう人がもう一度立ち上がるためには、居住や就労の支援に加え「私はあなたを応援している。一緒に頑張ろう」と呼びかける他者の存在が必要だったのです。「誰のために働くか」という問いとその答えをもつこと。「あの人が応援してくれるから」「愛する人のためだから」、これら「外発的な動機」をもつ人は踏ん張ることができます。(『伴走型支援 新しい支援と社会のカタチ』より)

コロナ禍の炊き出しでは、お弁当に添えるお手紙をボランティアから募ったことも。
山田さんも「伴走型支援が必要なのは、ホームレスや生活困窮者、障害がある人など一部の人に限られた話ではない」と主張します。 「家族や親戚、友人や企業に制度。私たちも多様な人に支えられて日々生きています。人が生きていくためには、誰かしらに支えられる……伴走される必要があるのだろうと。抱樸が支援をしている方達は、たまたま伴走相手が私たちだった。ただ、それだけのことだと思うんです」

すべての「いのち」は等しく尊い。だから、ひとりにさせないために「つながり」続ける。そして、その「つながり」を平等にしていくために、抱樸は今日もあらゆる人の生きづらさに向き合っています。
「伴走型支援」を持続可能にするために
支援つき住宅を持続的に提供していくため、2020年には初のクラウドファンディングを実施した抱樸。1万人を超える支援者から集まった寄附額は、約1億2,000万円。これを機に拠点の北九州だけでなく、北海道や大阪、愛知、岡山など、10地域の困窮者支援団体と連携を取り、全国に支援を拡大しています。

noteやYouTubeなどのSNSを活用した積極的な発信も相まり、団体の思いに共感する人の輪は広がり、スタッフの数も増加。仲間が増えるのは心強い反面、組織の規模が大きくなるがゆえの難しさも痛感していると、山田さんは話します。
「スタッフの人数が増えると、部署ごとの縦割りが起こりがちになります。今は社会福祉法人化への準備も進んでおり、団体としての過渡期でもあります。そんな中で抱樸がこれまで大切にしてきた思いをどのように共有しながら、連携を強めていくのかが直近の課題です」

「抱樸」とは、「原木・荒木(樸)を抱きとめること」。ささくれ立ち、棘のある荒木を抱けば、ときに傷を負うこともあります。生半可な気持ちでは続けられない。
だからこそ、働きに見合った対価が得られる組織でありたい。それが、生きづらさを抱えた一人でも多くの人とつながり続ける、伴走型支援を持続可能にする鍵になるだろうから。
山田さんの力強い言葉からは、走り続けることを決めた抱樸の“覚悟”が滲むようでした。
「2010年頃から増え始めた新卒採用の初期メンバーは、30代に突入しました。結婚や出産といったライフプランもある中、やりがいや思いだけで仕事を続けるのは難しいと思います。だから、事業の収益性にもこだわり、職員の待遇を向上していく必要がある。休眠預金活用事業を通じて取得した「プラザ抱樸」では利益が生まれ始めています。その事実も踏まえ、持続可能な団体として今後どうあるべきか、しっかり考えていきたいです」
■資金分配団体POからのメッセージ
今回のプラザ抱樸というプロジェクトは、休眠預金活用事業の中でもかなり大きなインパクトのある事業です。まず、マンション1棟をまるごと買い上げ、様々な福祉制度を組み合わせた「ごちゃまぜ型」の支援付き住宅群としたこと。次に一般向けの賃貸には古く、空室の多くなったマンションを福祉用途に全面転換することで、未活用の住宅ストックを地域課題の解決に役立てていること。これらは地域リソースを最大限に活かした先駆的事例であり、全国の高齢化や空き家問題対策のロールモデルともなりうるので、しっかりとこの事業の成果評価を発信していきたいと思っています。(公益財団法人 パブリックリソース財団 プログラムオフィサー)
【事業基礎情報】
実行団体 | 特定非営利活動法人 抱樸 |
事業名 | 支援付き住宅の複合モデル「プラザ抱樸」の拡充と整備事業・抱樸 |
活動対象地域 | 北九州市 |
資金分配団体 | 公益財団法人 パブリックリソース財団 |
採択助成事業 | 2019年度通常枠・実行団体・ソーシャルビジネス形成支援事業 |
2019年度より、全国に先駆けて、新しく制度化された日常生活支援住居施設の制度を活用し取り組んできた、休眠預金活用事業「支援付き住宅と支援人材育成」の現場から、実践を通じてみえてきた現状の同制度の問題点と改善提案を示します。 さらに “人権としての住宅”という視点から、社会保障としての住宅制度の在り方を展望し、日本における「社会住宅」というインフラ整備の必要性を訴えます。
◎基調講演 “生活困窮者支援をめぐる制度の変遷と展望”
【登壇者】
岡田太造氏(日本民間公益活動連携機構(JANPIA)専務理事、元厚生労働省 社会・援護局長)
◎パネルディスカッション “「人権としての住宅」を展望する~日住制度の改善と支援付き住宅の広がり~”
【モデレーター】
高橋紘士氏(全国日常生活支援住居施設協議会顧問、元立教大教授)
岸本幸子(公益財団法人パブリックリソース財団 代表理事・専務理事)
【パネリスト】
奥田知志氏(認定NPO法人抱樸 理事長)
瀧脇憲氏(NPO法人自立支援センターふるさとの会 代表理事)
立岡学氏(NPO法人ワンファミリー仙台 理事長)
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非行少年が社会復帰をしようとしても、様々な理由で再び犯罪に手を染めてしまう例は少なくはありません。2019年度通常枠〈資金分配団体:更生保護法人 日本更生保護協会〉の実行団体として、少年院出院後に地元を離れてやり直したいと考える少年・少女の社会復帰と社会自立の支援をしているのが、『全国再非行防止ネットワーク協議会』です。今回は、全国再非行防止ネットワーク協議会代表・高坂朝人さんに、非行少年を取り巻く状況や彼らへのサポートの現状、そして休眠預金活用によって実現した活動内容や思いを、評論家でラジオパーソナリティーでもある荻上チキさんが伺いました。その様子をレポートします。
▼インタビューは、動画と記事でご覧いただけます▼
社会復帰の選択肢を広げる。県域を超えた非行少年へのサポート
荻上チキさん(以下、荻上):「全国再非行防止ネットワーク協議会(以下、全再協)」は、どのような活動をされているのでしょうか?
高坂朝人さん(以下、高坂):主な活動は2つです。
一つは罪を犯した少年・少女が地元以外の県外で生き直したいといったときに、民間団体同士で連携し、県域を超えてのサポートをすることです。
もう一つは、少年院に入っている少年・少女が社会復帰をする際の引き受け先を探すことです。
受け入れてくれる人が誰も見つからない場合、収容期間を過ぎても半年、また1年と延長されてしまうという現状があります。そうした状況をゼロにしたいと思い、活動しています。

荻上:非行に走ってしまった少年・少女たちが地元を離れて県外で暮らしたいと思うのには、どのような背景があるのでしょうか。
高坂:自分が生まれ育った地域で複数人で犯罪を繰り返していると、やり直したいと思っても非行仲間や怖い先輩に「また一緒に悪いことをしよう」と誘われ、なかなか自分一人では断りきれずに犯罪を繰り返してしまうということがあります。そのような背景から、一旦、人間関係を整理して地元以外の場所でやり直したいと希望する子たちがいます。
荻上:法務省が作成する犯罪白書(※1)の統計でもっとも多く見られる再犯や再非行の理由が、「かつての仲間と繋がった」となっています。そうした少年・少女たちの再非行防止について対応しているわけですね。全再協は「ネットワーク協議会」とのことですが、どのような団体がこうした活動をしているのでしょうか。
※1:法務省・法務総合研究所が、犯罪防止、また犯罪者の改善や更生を目的として、犯罪の動向と犯罪者処遇などについて、統計資料を基に説明をする白書。
高坂:僕たち全再協は、非行少年のサポートが源流である広島の「食べて語ろう会」、大阪の「チェンジングライフ」、そして僕が理事長を務める愛知の「再非行防止サポートセンター愛知」の3つの団体で構成されています。実は全再協設立前からそれぞれ関わりがあって、例えば、広島の少年院を出院した少年が地元に戻るのは心配だということで、愛知で受け入れてサポートをしたり、逆に愛知から広島や大阪で受け入れてもらったこともあります。
荻上:県域を越えて民間団体同士で繋がっていくことで、より広く活動ができるようになったのですね。
高坂:そうですね。本気でやり直したいと思っている少年・少女が生き直すための選択肢が増えてきたと感じています。
少年・少女が非行に走った背景には、色々な要因が絡み合っています。犯罪白書の統計によると、少年院に入っている子では男子は3人に1人、女子は2人に1人が虐待経験を持っています。また家族との交流が困難だったり、家族関係が良好でも一人親家庭の上、家族自身もサポートを要していたり…。こうした場合、自分たちだけで解決しようとするよりも第三者の支えや理解が必要です。
実体験が活動の原動力に。苦しさを知っているからこそのアドバイス
荻上:高坂さんは、どうしてこういった活動を始められたのでしょうか?
高坂:大変情けないことなのですが、自分自身が非行少年であり、犯罪者でした。
僕は広島県広島市で生まれ育って中学1年生から非行に走り、少年院には2度入院しました。その後、24歳の時に現在の妻が妊娠がわかり、父親になることを機に、本気でやり直そうと決意しました。これは全再協を設立したきっかけにも通じますが、僕が更生しようと思ったとき、僕の周囲には暴力団関係者や犯罪歴のある人しかいなくなっており、その中でこれまでの仲間と縁を切ったり、誘いを断り続ける自信はありませんでした。そこで人間関係を整理するためにも知り合いのいない愛知県に妻と子どもと一緒に引っ越しました。
しかし、これまで全然関係がなかった愛知での仕事探しは本当に大変でした。中卒で職歴もありませんでしたし、また職に就いても続かないという状態で…。何か困った時に誰かに頼ろうとしても頼れる人もおらず、使える制度なども知りませんでした。また仮に助けてくれる制度や団体があっても、その当時は変なプライドが邪魔をして誰かに頼ることに抵抗を持っていて、頼れない自分がいたんです。
そうした経験から、自分の生活が少しずつ落ち着いてきたときに、今、過去の自分のように非行に走っている少年たちに「自分のような思いはして欲しくない」と思うようになりました。
悪いことを止めるならば、1日でも早くやめて生き直した方が絶対にいい。更生させるというよりは、一緒に食事をしたり、色々な話をしながら、少年たちが前に進むためのサポートをする活動を始めました。

荻上:支援する側、される側といった関係性だと相談しにくいところもありますが、少年院に入院している時からつながることができた知人や既に更生した先輩といった関係性ならば、さまざまな制度や次のステップへのアドバイスも聞きやすくなりそうですね。
高坂:僕自身もそうでしたが、非行に走っていた当時は、「罪を犯している先輩や友だちは仲間で信頼できる人」、「犯罪をしたことがない人は別世界の人」といった具合に区別してしまっていました。一生懸命関わってくれていた人の話にも聞く耳を持てず、素直な気持ちにもなれませんでした。だからこそ、こうした支援をする大人たちを信頼できないという少年たちの気持ちにも寄り添いたいと思っています。
アンケートにより見えてきた、連携を求める事業者の声。
荻上:今回実施している休眠預金を活用した事業について、その取り組みなどを教えてください。
高坂:現在、3団体でネットワークを作っていますが、やはり、もっと色々な民間団体が手を取り合って連携していくことで、罪を犯した少年・少女たちや成人の人たちにとって、より立ち直りやすい環境や選択肢が拡がると思うんです。
僕たち3団体も運営する「自立準備ホーム※2」という制度が施行されて2021年で丸10年。2021年4月1日時点では全国445の事業者が登録しています。年間約1,500人が利用していますが、事業者同士の横の繋がりはなく、全国組織もない状況です。ホームがある場所や事業者などは公表されていないため、それぞれの事業者が孤軍奮闘しながら活動してきました。
そこで、法務省保護局と全国の保護観察所に協力をしてもらい、全国の自立準備ホームの実態調査(アンケート)を実施しました。その結果、事業者同士の連携や全国組織ができたら、ぜひ参加したいという声が100団体ほどあることがわかりました。しかし、それらを実現するためには各地から携わるメンバーを集めて会議をしたり、色んな人からの協力や理解を得るためのシンポジウムを開催したり、さまざまな面で資金が必要になります。そこで、休眠預金活用事業に申請し、採択していただきました。
※2:法務省の「緊急的住居確保・自立支援対策」に基づき、刑務所や少年院を出所後に一時的に住むことができる民間施設。事前に保護観察所に登録されたNPO法人や社会福祉法人などが、社会復帰を目指して各自の自立をサポートします。
荻上:この間、色々と活動されている進捗状況はいかがですか?
高坂:そうですね。これまで自立準備ホームの横の繋がりはもちろん、ホームの運営者による勉強会すらありませんでした。そこで、中部、近畿、中国、3つの地方で自立準備ホーム事業者が集まる勉強会を開きました。全国を8つの地域に区切っており、まだ実施していない地域でも勉強会を行っていきます。
加えて、令和4年3月21日に国立オリンピック記念青少年センター(東京)で自立準備ホーム事業者の全国組織の発足を行い、設立シンポジウムを開催する予定にしています。その準備を進めるにあたって、法務省保護局や更生保護を支える団体の方々に日頃の活動報告やご協力のお願いを継続して行っていくことや、全国組織の情報を発信していくためのウェブサイトの準備なども休眠預金を活用して行っています。
休眠預金活用事業によって生まれた新しい繋がりが、事業継続の力に。

荻上:実施された勉強会ではどのような話し合いが持たれているのでしょうか。
高坂:一度の勉強会に約30〜40人が参加しています。勉強会の中では例えば、罪を犯した人の中には、知的障がいや精神障がいのある人とか、その他の病気を患っている人もいて、そうした人たちへの医療や福祉面での対応の難しさについてですとか、入所者によってホームの部屋が壊されてしまったときに、現在はそうした損害を各ホームが持ち出しで対応しているケースが多いためにそのような対応の大変さについて話されていまし
また、自立準備ホームの運営はどこも資金面での厳しさがあり、正社員を雇用することはどこのホームもほぼ難しい状況です。そのため有償ボランティアのような形でやっている事業者がほとんどであるため、「スタッフを探したり育成すること」や「事業を継続していくこと」の難しさについての話が多く出ました。その他、情報交換を行っていくなかで、医療や福祉で困った際に頼れる制度を知らずに、仕事ができない入所者が払うことができない医療費をホームが持ち出しで負担している例があることわかり、「そんなやり方があるんだ」と事業者にとって発見があったりもしました。
とにかくこれまで横の繋がりがなかったので「自分たちだけがこんなに大変だ」と思っていたのですが、勉強会を実施することでどの自立準備ホームも同じような課題を抱えている仲間であることが分かり、「自分たちと一緒だ」と知ることで元気になり、改めて「これからも継続していこう!」と各事業者が互いに勇気づけ合う会となりました。
荻上:勉強会は支える側のノウハウを共有することはもちろん、支える側が心が折れそうなときにさらに支えあうというような側面もあるのですね。
個別の団体で活動するより複数の団体が連携することの強みはどういった点にお感じになりますか?
高坂:「自立準備ホーム」は保護観察所に登録をして、委託を受けて対象者と関わっていきますが、その過程で「制度事業とはいえ、ここは変えられないのか」と悩ましく思うこともあります。そのようなとき1団体では声を上げるのにも限界がありますが、複数の団体が繋ってネットワークとなることによって法務省所管の保護局や関係各所と意見交換ができています。他にも、自立準備ホームの制度ができて10年目で初めて「運営資金が少しでも充実するように」と概算要求という機会をいただけたり、連携することで少しずつ光が当てていただけていると感じています。
荻上:休眠預金という資金があることで繋がりを強化することができ、その繋がりによって交渉窓口として機能するようになって行政との対話も進んでいるのですね。それで、予算が付けばさらに事業が拡がっていくというわけですね。最後に、休眠預金活用制度への参画を検討されている方々へメッセージをお願いいたします。
高坂:僕自身の経験から、「非行を行なった少年・少女」や「罪を犯した成人」には1日でも早く非行や犯罪を止めて欲しいと心底願っています。
被害者の方、その周囲の方、家族も不幸になる。そして、当事者である本人も一人では止めづらく苦しい。色々な人の支えを受けて更生を目指せれば…と思いますが、その罪を犯した人に対する制度やシステムは、まだまだ他の社会課題と比べると少なく、民間団体が取り組もうと思っても資金を得られる仕組みがほとんどない状況です。今回の休眠預金を活用した助成を受けることができて助かっていますし、本当に必要だと思う活動を継続できることに大きな希望を感じています。

(取材日:2021年10月28日)
■高坂朝人さん プロフィール■
全国再非行防止ネットワーク協議会代表のほか、NPO法人再非行防止サポートセンター愛知で理事長を務める。「世界中の再非行を減らし、笑顔を増やすこと」をテーマに鑑別所や少年院で過ごす青少年のサポートや、各種メディア出演や講演会などを積極的に行う。実体験によるアドバイスが多くの少年・少女、また同志の心を掴み、近年では行政との連携も果たし、全国的なサポートの実現に向け尽力している。
■荻上チキさん プロフィール■
メディア論をはじめ、政治経済やサブカルチャーまで幅広い分野で活躍する評論家。自ら執筆もこなす編集者として、またラジオパーソナリティーとしても人気を集める。その傍ら、NPO法人ストップいじめ!ナビの代表理事を務め、子どもの生命や人権を守るべく、「いじめ」関連の問題解決に向けて、ウェブサイトなどを活用した情報発信や啓蒙活動を行なっている。
■事業基礎情報
実行団体 | 全国再非行防止ネットワーク協議会 |
事業名 | 罪を犯した青少年の社会的居場所全国連携 拡充事業 |
活動対象地域 | 全国 |
資金分配団体 | 更生保護法人 日本更生保護協会 |
採択助成事業 | 安全・安心な地域社会づくり支援事業〈2019年通常枠〉 〈2019年度通常枠・草の根活動支援事業・全国ブロック〉 |