『「With」事業報告書2022.3-2025.2』を発行|宝塚NPOセンター|成果物レポート

休眠預金活用事業の成果物として資金分配団体や実行団体で作成された報告書等をご紹介する「成果物レポート」。今回は、実行団体 宝塚NPOセンター作成したレポート『「With」事業報告書2022.3-2025.2』を紹介します。

「With」事業報告書2022.3-2025.2

認定NPO法人宝塚NPOセンター(兵庫県宝塚市)は、一般社団法人 全国古民家再生協会(東京都千代田区)の2021年度「空き家・古民家を活用した母子家庭向けハウス設立事業」で実行団体として「孤立孤独/生活苦を抱える若者への緊急支援事業」事業を実施しました。

宝塚市内在住、あるいは宝塚市に転居を希望する“非正規雇用で働く母親とその子どもで構成されているひとり親世帯”を対象にしたシングルマザーハウス「With」での活動をまとめた事業報告書を公開します。

 

【事業基礎情報】

実行団体認定特定非営利活動法人 宝塚NPOセンター
事業名

地域で支える母子ハウス事業

活動対象地域兵庫県宝塚市
資金分配団体一般社団法人 全国古民家再生協会

 

公益財団法人 長野県みらい基金・一般社団法人 長野県経営者協会・一般社団法人 長野県労働者福祉協議会の3団体から構成された長野県休眠預金等活用コンソーシアムによる取り組み『誰もが活躍できる信州「働き」「学び」「暮らし」づくり事業』をご紹介します。
7つの実行団体のうちの株式会社みみずやによる「地域循環再生経済を支える『みみず』的人材の育成事業」の動画をご紹介します。

事業完了にあたり、成果の取りまとめるために実施されるのが「事後評価」です。事後評価は、事業の結果を総括するとともに、取り組みを通じて得られた学びを今後に生かせるよう、提言や知見・教訓を整理するために行われます。今回は、2024年3月末に事業完了した2020年度通常枠【コレクティブインパクトによる地域課題解決|社会変革推進財団】の事後評価報告書をご紹介します。ぜひご覧ください。

事業概要等

事業概要などは、以下のページからご覧ください。


事後評価報告

事後評価報告書は、以下の外部リンクからご覧ください。

・資金分配団体

・実行団体


【事業基礎情報】

資金分配団一般財団法人 社会変革推進財団
事業名コレクティブインパクトによる地域課題解決
<2020年度通常枠>
活動対象地域全国
実行団体・特定非営利活動法人 但馬を結んで育つ会
・一般社団法人 東の食の会
・特定非営利活動法人 空家・空地活用サポートSAGA
・特定非営利活動法人  Local Life Design

有限責任事業組合まちとしごと総合研究所 2022年度休眠預金活用事業「京都の若者へ寄り添うアプローチによる生きる基盤支援事業」で採択された実行団体 特定非営利法人happinessの代表 宇香 明香さんのインタビュー動画をご紹介します。

今回のJANPIAスナップでは、JANPIA×RISTEX共催イベントを開催した様子をお届けします。

イベント概要

JANPIAはRISTEXとの共催イベントとして、2024年1月24日に第1弾ラウンドテーブル「孤立・孤独という社会課題にどう向き合うか?~直面する課題に立ち向かう現場×研究による予防的アプローチ~」、2月1日に、第2弾セミナー「現場と研究のつながりが社会課題解決を促進する~企業がつないだ事例「シングルペアレンツ・エンパワメント・プログラム」から~」を開催しました。

第1弾:ラウンドテーブル「孤立・孤独という社会課題にどう向き合うか?~直面する課題に立ち向かう現場×研究による予防的アプローチ~」

「社会的孤立・孤独」の課題に対し、当事者への日常的な直接の支援に取り組むJANPIAの民間団体と、孤立が発生する因子にフォーカスした研究に取り組むRISTEXの研究者が登壇し、相互の活動を知り、知見の交換を図るラウンドテーブルを行いました。

様々な孤独、孤立を考えるにあたり、フィールドが異なる皆様から、ご報告いただきました。
多様な世代へのアプローチ、アウトリーチ、子ども・若者(ユース世代)の分野では、相談できる場所がない、親に頼れないなどの事情を抱えているケースが多い。
また、地域によっては「世間体」を気にする人が多くオーダーメイド方式で対応している。本人が「孤立」している、「孤独」を自覚している人がいないなど地域の文脈を理解しながら支援することが必要であるというコメントがありました。

登壇者のご紹介

左から、一般社団法人Team Norishiro 理事 野々村 光子 氏、認定NPO法人D×P 代表理事 今井 紀明 氏、同朋大学 社会福祉学部 准教授 宮地 菜穂子 氏、弘前大学大学院保健学研究科 助教 櫛引 夏歩 氏、追手門学院大学 教授/広島大学 名誉教授 浦 光博 氏、JANPIA職員 高木陽子
左から、一般社団法人Team Norishiro 理事 野々村 光子 氏、認定NPO法人D×P 代表理事 今井 紀明 氏、同朋大学 社会福祉学部 准教授 宮地 菜穂子 氏、弘前大学大学院保健学研究科 助教 櫛引 夏歩 氏、追手門学院大学 教授/広島大学 名誉教授 浦 光博 氏、JANPIA職員 高木陽子

当日の動画

 動画〈YouTube[外部リンク]

第2弾:「現場と研究のつながりが社会課題解決を促進する~企業がつないだ事例「シングルペアレンツ・エンパワメント・プログラム」から~」

左から、ファシリテーター伊藤 健 氏、NPO法人全国ひとり親居住支援機構 代表理事 秋山 怜史 氏、武庫川女子大学 心理・社会福祉学部社会福祉学科 准教授/一般社団法人TICC共同代表 大岡 由佳 氏、アメリカン・エキスプレス 広報担当バイスプレジデント  佐藤 克哉 氏
左から、ファシリテーター伊藤 健 氏、NPO法人全国ひとり親居住支援機構 代表理事 秋山 怜史 氏、武庫川女子大学 心理・社会福祉学部社会福祉学科 准教授/一般社団法人TICC共同代表 大岡 由佳 氏、アメリカン・エキスプレス 広報担当バイスプレジデント  佐藤 克哉 氏

異なるセクターの協働による社会課題解決事業の参考となる事例として、企業が研究者と民間公益活動を行う団体をつなぎ実施している「シングルペアレンツ・エンパワメント・プログラム※」の事例を参考に、同じ社会課題解決を目指す研究者と非営利組織、企業がどのような役割をもって事業を実施してきたのかを振り返りながら、マルチセクターで協働するメリットや、有機的なつながりをつくるコツなど、課題解決において相乗効果を生むために役立つヒントについて、セミナー形式で行いました。

当日の動画

 動画〈YouTube[外部リンク]

当プログラムをマネジメントする立場であるAVPN伊藤氏をファシリテーターとし、秋山氏からは民間公益活動を行う団体の視点から、大岡氏からは研究者として、佐藤氏は企業として活動をサポートする立場から、シングルペアレントの居住問題とメンタルヘルスが、なぜセットで語られるのか?に目をむけ、シングルペアレントの背景を知り連携することで、シナジーを生み出している事例が紹介されました。
また、NPOなどの支援者が居住支援にかかわる様々な支援者がトラウマのことをよく知って関わる姿勢(トラウマインフォームドケア)を学ぶことで、トラウマを抱えたシングルペアレントの背景を尊重しながらケアをしていくことが重要であり、この連携事例が大きな意味を持つことが確認されました。
さらには、企業視点での連携における難しさやそれを克服するための工夫なども紹介され、それぞれが違う立場で同じ目標に向かって活動を推進することの意義が話し合われました。

シングルペアレンツ・エンパワメント・プログラム by American Express
アメリカン・エキスプレスの支援により2023年4月から2024年3月までAVPNが運営する事業です。複数の企業と非営利組織の連携により、対象者(いわゆる「シングルマザー」や予期せぬ妊娠をした方)が必要とする住まいとメンタルヘルスケアのサービスを提供しています。

2024年3月5日に開催されました公益財団法人パブリックリソース財団主催・一般社団法人 居住支援全国ネットワーク共催『特別フォーラム「人権としての住宅」~住まいから始まる再生にNPOや企業はどう取り組むか~』の動画をご紹介します。
本フォーラムでは、NPO等が取り組む「支援付き住宅」のモデル事例を紹介するとともに、この領域にいかに民間の資金や資源を取り込むことができるか、休眠預金活用事業から見えてきた実例をもとに<2022年度コロナ緊急支援助成枠>コロナ禍の住宅困窮者支援事業2の活動報告をご紹介します。

千葉県柏市内に、二十歳前後の若者が「おばあちゃんち」と呼ぶ家があります。一般社団法人いっぽの会が、2020年度の休眠預金活用事業(通常枠)を活用し、2022年8月に社会的養護のもとで育った若者たちや、様々な理由で家族と一緒に住めない方のための「若者応援ハウス」をオープンしました。共同生活を送りながら、スタッフや地域の方と交流することで、自立に向けての一歩を踏み出しています。今回、この若者応援ハウスを訪れ、開設するに至った経緯や入居している若者の様子、活動の今後の展望などについて運営メンバーの皆さんに伺いました。

若者応援ハウス立ち上げの経緯

いっぽの会の代表理事の久保田尚美さんは、児童自立援助ホームで働く中で、「子どもたちがもっとやりたいこと を実現できる施設にしたい」という思いから独立し、いっぽの会を立ち上げ2020年10月に児童自立援助ホーム「歩みの家」を開設しました。

児童自立援助ホームは、児童相談所長から家庭や他の施設にいられないと判断された子どもたちに、暮らしの場を提供する施設 です。対象年齢は15歳から20歳(一定の条件を満たせば22歳)となっています。しかし、2022年4月から成人年齢が引き下げられたこともあって、18歳になると国から施設に支払われていた措置費がなくなり、たとえ継続的な支援が必要だと判断される若者であっても施設から出なければいけない場合もあるそうです。

「施設を出ることになった若者にも、実際、様々な相談対応を行ってきました。ただ、措置費が出ないなか、施設職員が時間外の労働によって継続的に支援していくことに限界を感じていました。」 そのような中、 公益財団法人ちばのWA地域づくり基金が、2020年度通常枠の資金分配団体として社会的養護下にある若者に焦点をあてた助成事業の公募をしていることを知りました。もともと久保田さんは、児童自立援助ホームを出た若者が、いつでも戻ってこられる拠点づくりをできるとしたら、十数年後かなと思っていたそうです。
お話を伺った皆様(左からいっぽの会理事 田村敬志さん、同団体代表理事 久保田尚美さん、同団体スタッフ 朝日仁隆さん、社会福祉士 古澤肇さん)

「施設を出ることになった若者にも、実際、様々な相談対応を行ってきました。ただ、措置費が出ないなか、施設職員が時間外の労働によって継続的に支援していくことに限界を感じていました。」 そのような中、 公益財団法人ちばのWA地域づくり基金が、2020年度通常枠の資金分配団体として社会的養護下にある若者に焦点をあてた助成事業の公募をしていることを知りました。もともと久保田さんは、児童自立援助ホームを出た若者が、いつでも戻ってこられる拠点づくりをできるとしたら、十数年後かなと思っていたそうです。

しかし公募を知り、「今から必要な若者に届けられるのであれば、チャレンジしてみよう」という気持ちに変わり、休眠預金活用事業に申請。その結果、採択されて事業に取り組み、2022年8月に若者応援ハウス をオープンしました。

「以前施設で働いていたときは、若者から相談があったとしても、児童相談所に情報提供するだけで、施設で若者を受け入れることができなかったのです。しかし今では、児童自立援助ホームである「歩みの家」だけでなく若者応援ハウスもあります。だから助けを必要とする人から連絡をいただけれ ば、可能な範囲で受け入れられるような環境 と体制が作れたと思っています。今回の助成事業の結果、活動の幅が広がりました。」

生活支援と就労支援は表裏一体

休眠預金活用事業では、社会的養護を経験した若者が、ボランティア、職員や地域の人との人間関係が構築され、思いを語れ、困難を乗り越える方法が身についていることを目指しています。加えて、若者応援ハウスでの生活相談や就労相談に対応していく過程で、若者が自ら解決していく力がつき、自分らしい暮らしを営んでいる状態を目指しています。

いっぽの会のスタッフで、若者応援ハウスの責任者をしている朝日仁隆さんに、活動の様子を伺いました。

「若者と一緒にご飯を作ったり、庭に畑があるので、畑の野菜を採ってもらったりしています。また、月に1回程度地域の方や支援者を呼んで、食事会などを開催しています。ボードゲームが好きな若者がいて、一緒に遊ぶこともあります。日常の延長みたいなところから、その子の今まで言えなかった気持ちとか、やりたかったことを引き出しながら、徐々に自立に向かうサポートをしています。」

若者応援ハウスだからこそできる日常の生活支援に加え、就労支援も行っています。これまで朝日さんたちが関わった若者たちは、仕事に就くこと自体はできても、本当にやりたいことを見つけることができなかったり、無理した働き方になってしまっていたりしました。

例えば、これまで関わった若者の1人は、当初、将来どういう風に生きていきたいか、といった考えがなく、手っ取り早く見つけた事務のアルバイトをしようとしていました。ただ、スタッフと話していくうちに専門学校 を志望するようになり、今まさに受験結果待ちとのことです。このように、「本当はやってみたいことがある」と打ち明けてくれたり、一緒に考えたりするようになったのは、いっぽの会の皆さんが丁寧に伴走される中で信頼関係が築かれていったからではないでしょうか。
若者(手前)の相談に対応するスタッフ(奥)

例えば、これまで関わった若者の1人は、当初、将来どういう風に生きていきたいか、といった考えがなく、手っ取り早く見つけた事務のアルバイトをしようとしていました。ただ、スタッフと話していくうちに専門学校 を志望するようになり、今まさに受験結果待ちとのことです。このように、「本当はやってみたいことがある」と打ち明けてくれたり、一緒に考えたりするようになったのは、いっぽの会の皆さんが丁寧に伴走される中で信頼関係が築かれていったからではないでしょうか。

いっぽの会の外部アドバイザーで社会福祉士の古澤肇さんは、生活支援と就労支援は、表裏一体だと話します。

「人間関係とかお金のこととか、自分の身体を大事にすることって、人が生きていく上で大事なことで、生活支援でもあるし、就労支援でもあると思っています。例えば、体温が39度あっても『仕事行きます』という子には、『ちょっとそれはやめましょう』と伝えますが、最初は仕事と体調の優先順位もなかなか分からなかったりします。困っているときに適切に『助けて』が言える、SOSが出せるようになることも大切だと考えています。 」

現在若者応援ハウスに入居している方は2名(定員3名)で、これまで短期を含めて泊まりで利用された方は、4名いました。短期の利用では、住み込みの仕事していた方が退職し、住まいを失った際に、転職先が見つかるまでの間の仮の住まいとして利用するケースがあったそうです。

また、計画時は、児童自立援助ホームや児童養護施設出身の若者を支援の対象と考えていましたが、社会的養護を経験していない方からの問い合わせがあったことがきっかけとなり、今は、支援の対象を広げているそうです。

地域に支えられながら育つ若者たち

この若者応援ハウス事業の特徴の一つに、地域とのつながりを重視していて、地域の方もいっぽの会の事業に自然と入ってきているところがあります。地域の方が若者のことを気にかけて、若者もその地域に向けて、何か自分の気持ちや、やりたいことを発信できるような関係性になってきているそうです。ただ、いっぽの会は、最初から地域とのつながりがあったわけではありません。

いっぽの会が最初に立ち上げた児童自立援助ホーム「歩みの家」は松戸市内にあり、当初、若者応援ハウスもその近隣エリアで探していました。ただ、若者応援ハウスということや、児童福祉施設ということで様々な偏見があり、物件を見つけるのに苦労したそうです。やっと見つけた現在の物件は、いっぽの会の通常の活動エリアとは離れており、地域とのつながりがほぼない場所にありました。

そのような状況の中、どのように地域とのつながりを作り関わっていただけるようになったのでしょうか。古澤さんが教えてくださいました。

「地域で活動している人たちとのつながりづくりは、戦略的に考えています。たとえば、日常的なことですと、若者応援ハウスでは 、コンビニではなく、なるべく地域の商店で買い物をするように伝えています。また、地元の小学校の「おやじの会」の方に、若者応援ハウスのイベントに参加していただきました。 バーベキューを実施したのですが、若者やボランティア、そしてご参加いただいた地域の方が力を合わせて一緒に火をつけたり肉を焼いたりする。その何気ない協働作業がすごく大事な経験だと思っています。特に、一緒に何かを作るとか、みんなで分け合うとか、そういう経験を成長過程であまりしてこなかった若者には貴重な機会です。」

また、イベントを実施するにあたって、地域のボランティアだけでなく、古澤さんの仲間の社会福祉士にもメンバーに入ってもらったこともポイントだそうです。

「初めましてのボランティアだけだと、どうしても皆さんよそよそしくなってしまいます。一方、スタッフはスタッフで準備や裏方で大変。そこで、コミュニケーションを円滑にしてくれる人材として、有資格者がいい働きをするのです。」

現在、定期的に若者応援ハウスに来ている地域ボランティアは3名いるそうです。一人は、若者応援ハウスの畑のお世話を手伝ってくださる方で、自治会長や民生委員もされたことのある地域のキーマンでもありました。

「その方と若者とが繋がり始めているのが嬉しいですね。その方の誕生会を若者が企画して、ケーキまで作ってお祝いしていました。やっぱりこういう地域と若者、スタッフとの交流が広がってきているのが何よりです。」
と振り返る朝日さん。

そのボランティアさんが畑で作業していると、外からも見えるため、「あの方が関わっているなら」と、若者応援ハウスの地域からの信頼度向上にもつながっているそうです。

残り2名のボランティアは、ボランティアセンター経由で紹介があった地域の方で、月2回程度、若者たちと一緒に食事を作っています。そのうち1人は、今はご飯作りがメインですが、ゆくゆくは茶道やお花なども若者とやってみたいとお話しされているのだとか。

「当たり前」の活動から生み出された変化

これまでの活動を振り返って、朝日さんが印象に残っているエピソードを教えてくれました。

「畑の手入れは私が中心でやっているのですが、スタッフが来れないときの水やりを若者に頼んでいると、いつの日か自主的に大きくなった野菜を収穫して並べておいてくれたことがあったのです。」

「応援ハウスでは、月に1回の振り返り面談を行っています。自分の思いや考えを表現するのが苦手な若者は、口数が少なくなったり、中々本音が言えません。応援ハウスでのボランティアさんとの関わりやイベントに参加、又、若者同士での良い刺激や相互作用が成功体験とも言えます。回を重ねるごとに自分の気持ちや感情を少しずつ表に出せるように変化していきます。」



そうして、今まで連絡を絶っていた支援機関や、親族の方にも少しずつ連絡が取れるようになってきている若者もいます。


助成事業は、若者だけでなく、いっぽの会にも変化をもたらしました。理事の田村敬志さんは、社会的インパクト評価の考え方を通じて、活動の成果をアウトプットではなく、アウトカムも示すことを学べたと振り返ります。

「これまでは自分たちが必要だと思ったことを、ただただやっているだけだったんですけど、それを対外的に示すために、社会的インパクト評価を通じて言語化する仕方もあるということを勉強させていただきました。」

目の前の問題を解決するために一生懸命に取り組む中で当たり前にやってきたことが、実は当たり前ではなく、とても重要だったということを確認することができたようです。

いっぽの会の「若者応援ハウス」のこれから

いっぽの会は、これまでの成果を踏まえ、児童自立援助ホームの元利用者やその紹介以外の若者へのアプローチを強化していく予定です。また、若者応援ハウスでは宿泊だけでなく、気軽に立ち寄れる通所型の受け入れも増やしていきたいとのことです。住まいや居場所が既にある若者でも、「誰かと一緒に食べたい」「相談したい」と思ったときにふらっと立ち寄るような居場所を目指したいと古澤さん。

「『相談受けます』みたいな看板を掲げると、どうしても敷居が高くなってしまいます。ここには地域をよくしようとする人たちが集まっていて、ここに来ること で「何とかなる」と思ってもらえる、そんな『若者応援センター』になるといいなと。」

実際、この若者応援ハウスのことを「おばあちゃんち」と呼ぶ若者もいるようで、すでに実家のような存在になっています。

休眠預金活用事業が終了する2024年1月以降は、事業を継続・発展していくための財源確保が最大の課題です。自治体や民間の様々な助成事業を視野に入れつつ、中長期的にはやはり、制度化をめざしていく必要があると久保田さんは考えます。

「今回の休眠預金がまさに制度のはざまにある取り組みを、民間で支えてくれる資金だったんです。制度ができるまではかなりきついですが、続けていかなければ、制度化にはいきつかないので頑張っていきます。」

事業基礎情報

実行団体一般社団法人いっぽの会
事業名

社会へ「いっぽ」を踏み出す基盤づくり事業

活動対象地域千葉県
資金分配団体公益財団法人ちばのWA地域づくり基金

択助成事業

2020年度通常枠

東京都を拠点に、ベトナム人技能実習生や留学生への支援活動を行う「日越ともいき支援会」。日本に在留するベトナム人の技能実習生や留学生の数は急増していますが、劣悪な環境に置かれていることも少なくありません。「日越ともいき支援会」は、そんなベトナム人の「駆け込み寺」として、住居の確保、帰国できない若者の保護、就労支援など、さまざまな活動を行っています。2020年度、2021年度の休眠預金活用事業(コロナ枠)では、コロナ禍で生活困窮者となった約1万人以上のベトナム人を支援してきました。今回は、コロナ禍、そして現在の支援事業について、同団体の代表理事・吉水慈豊さんにお話を伺いました。[コロナ枠の成果を探るNo.4]です。

「ベトナム人の命と人権を守る」活動を始めたきっかけとは

ベトナム人の命と人権を守る。これは、「日越ともいき支援会」が支援活動の目的として掲げているものです。吉水さんがこの思いを強く持つようになった理由は、幼少期まで遡ります。

吉水慈豊さん
吉水慈豊さん

吉水さんは埼玉県にある浄土宗寺院の出身で、住職であるお父様がベトナム人への支援を行っていました。お寺の離れにはベトナム人僧侶が暮らしていて、幼い頃からベトナム人とともに暮らしてきたのだそうです。

2013年頃から、吉水さんはお父様の支援活動のサポートを始めます。東京都港区の寺院を拠点にしていたこともあり、亡くなった技能実習生や留学生たちをベトナムに帰国させたり、お葬式をしたりといった支援を行っていました。そのような中、吉水さんが支援について深く考えるきっかけとなる出来事が起こります。

「その当時、支援を行っていた実習生の数人が自殺してしまったのです。『どうしてこんなことが起こってしまうのだろう』と、技能実習の制度などを調べました。そのとき『ベトナム人の命と人権を守るにはどうすればいいのか』と考えたことが、現在の支援活動の根っこの部分になっています」

その後、コロナ禍で保護しなければならないベトナム人が爆発的に増えたことを受けて、2020年1月にNPO法人として認証を受けました。

コロナ禍での物資支援や保護にくわえ、勉強会や就労支援も実施

コロナ禍では、職を失い困窮したベトナム人の若者が急増。約1万人に物資の支援を行い、数千人は港区の寺院などで一時的に保護をしました。


当時はベトナムが海外からの入国制限を実施したこともあり、ベトナムに帰れない若者が多くいました。妊婦や高齢者は帰国が優先されましたが、それ以外のベトナム人は帰国することができず、最大何万人というベトナム人が帰国待ちという状況に陥ったのです。

吉水さんは、彼らを保護すると同時に、出入国在留管理庁(入管庁)や法務省と掛け合い、在留資格の交付をお願いしました。その甲斐もあってか、国は技能実習生に対する雇用維持支援を発表。これは特定技能を目指す外国人に対し、最大で1年間の在留を認めるというものです。

ただし、日本で生活し続けるためには、在留期間中に特定技能試験に合格すれば良いという単純な話ではありません。「若者たちをただ保護するだけではダメで、日本語や特定技能試験の勉強もして、新しい職場に繋げていかなくてはならない。当時はかなり切羽詰まった状況で、物資支援や保護に加えて、勉強会などの支援を行っていました」

受け取った支援物資(左)/勉強会の様子(右)
受け取った支援物資(左)/勉強会の様子(右)

その際、役に立ったのがコロナ禍での助成金です。以前は寄付金で支援を行っていましたが、コロナウイルスの流行が長引くにつれ、それだけでは難しい状況になったそうです。

「衣食住の確保だけでも、かなりのお金がかかります。食費は毎日数万円かかっていましたし、着の身着のまま逃げていた人たちへは衣服の支援もしていたので、助成金の存在は本当に助かりました。また、勉強会には日本語の先生や、ベトナム語で教えられる留学生にも有償で来てもらっていました。ボランティアではなく有償でできたのは、助成金があったからにほかなりません」

ほかにも、妊産婦や病気になった人への医療支援にも力を入れています。技能実習生や留学生たちは日常会話レベルの日本語はできるものの、医療や法律に関する話を日本語でやりとりするのは難しく、日本人の支援が必要不可欠だと吉水さんは考えています。

SNSの活用など、ベトナム人の若者目線で考えた支援を

コロナ禍は数千人の保護を行ってきた「日越ともいき支援会」。それだけの規模で支援を行うとなると、お金はもちろん、人手も必要です。しかし、「日越ともいき支援会」のスタッフは日本人6人、ベトナム人12人の計18人のみ。スタッフだけでは到底この規模の支援は行えません。にもかかわらず、大規模な支援ができたのはなぜか——そのヒントは、各分野のスペシャリストとの連携にありました。

「たとえば、就労関係は連合東京、医療関係は病院の先生、行政関係は区役所の方といったように、専門分野の方々と連携して支援を行ってきました。こうした方々は、父の時代から繋がっている人もいましたし、テレビなどのメディアに取り上げられたことをきっかけに連絡をくれる方もいましたね」

吉水さんたちが自ら発信することはほとんどなかったそうですが、それでもたくさんのメディアが「日越ともいき支援会」を取り上げました。当時、東京を拠点とする支援団体のなかで「日越ともいき支援会」がかなり大規模だったことにくわえ、取材依頼を一切断らなかったことがメディア露出の機会を増やしたのでは、と吉水さんは考えています。

「業界の襟を正すにはメディアの力も重要です。技能実習制度の問題を多くの人に知ってもらうため、現在も技能実習生へのインタビューなどは積極的に受けています」

吉水さんたちが自ら発信することはほとんどなかったそうですが、それでもたくさんのメディアが「日越ともいき支援会」を取り上げました。当時、東京を拠点とする支援団体のなかで「日越ともいき支援会」がかなり大規模だったことにくわえ、取材依頼を一切断らなかったことがメディア露出の機会を増やしたのでは、と吉水さんは考えています。 「業界の襟を正すにはメディアの力も重要です。技能実習制度の問題を多くの人に知ってもらうため、現在も技能実習生へのインタビューなどは積極的に受けています」

吉水さんたちが自ら発信することはほとんどなかったそうですが、それでもたくさんのメディアが「日越ともいき支援会」を取り上げました。当時、東京を拠点とする支援団体のなかで「日越ともいき支援会」がかなり大規模だったことにくわえ、取材依頼を一切断らなかったことがメディア露出の機会を増やしたのでは、と吉水さんは考えています。 「業界の襟を正すにはメディアの力も重要です。技能実習制度の問題を多くの人に知ってもらうため、現在も技能実習生へのインタビューなどは積極的に受けています」
日越ともいき支援会による支援の様子

支援する側の人手を充実させる一方で、もう一つ重要なのが、困窮しているベトナム人に支援の情報を届けること。「日越ともいき支援会」は約1万人へ物資支援、数千人の保護を行いましたが、これだけ大規模な支援ができた背景には、日頃からSNSでベトナム人と繋がる地道な活動がありました。

「コロナ前からFacebookのMessengerを通して、ベトナム人の若者と積極的に繋がっていたのです。『ベトナム人を助ける日本人がいる』ということを、ベトナム人コミュニティの中で周知することが大事だと考えていました」

その活動の成果は、コロナ禍に顕著に現れます。吉水さんのもとへ、ベトナム人からSOSの連絡がひっきりなしに届くようになったのです。こうしたSOSに対し、東京近辺に住んでいる人に対しては寺院に来てもらい、遠方で東京に来るお金がない人に対しては、東京までの交通費を振り込み、来てもらったのだそう。多いときには1日何百件と来ていたSOSを、吉水さんは一つも断りませんでした。

コロナが落ち着いた現在は、Facebookでベトナム人と繋がるのはもちろんのこと、TikTokを活用した啓発事業も実施。TikTokでは、日本の法律についてや、就労のための窓口紹介など、日本で生活するにあたって必要な事柄を伝えています。 「ベトナム人が使っているSNSはFacebookとTikTokが多いので、私たちもこの2つを活用しています。相談窓口などで『何かあったら電話して』と言われることも多いのですが、彼らはSIMカードを持っていない人がほとんど。自分のスマートフォンから電話ができないので、電話は手段としてはあまり意味がありません。支援を私たちの自己満足で終わらせないためにも、彼らの目線で考えることが重要です」
寺院でベトナム人たちと食事をする吉水さん(右から4人目)

コロナが落ち着いた現在は、Facebookでベトナム人と繋がるのはもちろんのこと、TikTokを活用した啓発事業も実施。TikTokでは、日本の法律についてや、就労のための窓口紹介など、日本で生活するにあたって必要な事柄を伝えています。 「ベトナム人が使っているSNSはFacebookとTikTokが多いので、私たちもこの2つを活用しています。相談窓口などで『何かあったら電話して』と言われることも多いのですが、彼らはSIMカードを持っていない人がほとんど。自分のスマートフォンから電話ができないので、電話は手段としてはあまり意味がありません。支援を私たちの自己満足で終わらせないためにも、彼らの目線で考えることが重要です」

技能実習生の人権を守るために。重要なのは、しっかりとした支援体制の構築

コロナ禍ではさまざまな支援活動を行ってきましたが、なかでも印象に残っているのは、2022年11月に愛媛県西予市の縫製工場に対して、技能実習生11人への不払い金2,700万円の支払いを求めたこと。この問題が明るみに出ると、生産委託元のワコールホールディングスは技能実習生の生活を支援するとして、「日越ともいき支援会」に500万円の寄付をしました。ほかにも、問題を知ったいくつもの会社が声を上げたり、ニュースを見た一般の人から暖かい声をかけてもらったりしたといいます。

「厚生労働省の方に『歴史を変えてくれてありがとう』、周りの方からは『頑張ったね』などと声をかけてもらったことが本当に嬉しかったです。私としては特別頑張ったわけではなくて、いつも通りの支援をしていたのですが、その結果たくさんの人に知ってもらうことができました」

縫製工場で働くベトナム人の皆さんと
縫製工場で働くベトナム人の皆さんと

愛媛県西予市の縫製工場の問題は、不払い金の額も大きかったため、多くのメディアに取り上げられ話題になりました。しかし、これは氷山の一角に過ぎず、日本各地ではこうした不払い金問題をはじめとして、企業から不当に解雇されるなどトラブルが相次いでいます。

こうした状況を受けて、政府の有識者会議は2023年4月、現在の技能実習制度を廃止し、新しい制度へと移行する案を示しました。この新制度について、吉水さんは根本的な問題解決にはなっていないと話します。

「たとえば、現在は原則不可とされている転職について緩和の方針が示されていますが、転職できないから失踪などの問題が起こるわけではありません。何かあった際に技能実習生から相談を受けたり、支援したりする体制が機能していないことが問題なんです」

本来であれば、企業と技能実習生の間にトラブルが起こった場合、実習生の受け入れ先に指導を行う「監理団体」と呼ばれる組織や、監理団体から報告を受けるなどする「外国人技能実習機構」が問題解決や支援を行います。しかし、こうした仕組みが十分機能していないために、労働環境や人権侵害に関するトラブルが後を経たないと吉水さんは考えています。

「まずは監理団体、そのあとに外国人技能実習機構、と相談ステップを踏むわけですが、ここで問題解決に繋がらないと、実習生たちも諦めるしかなく失踪してしまうんです。その問題を解決しないまま転職の制限を緩和しても、『1年我慢して働いたら、より時給の高い東京に行こう』といった実習生が増えるだけ。まずはしっかりとした支援体制を構築することが必要だと思います」

帰国の途に就くベトナム人たち
帰国の途に就くベトナム人たち

技能実習生を取り巻く環境は少しずつ変化の兆しを見せていますが、現在も「日越ともいき支援会」には日々相談やSOSの連絡が届きます。吉水さんはこうした現場の声を東京出入国在留管理局や厚生労働省に届け、ベトナム人の保護や支援だけでなく、国側にも支援の充実を図るよう働きかけています。

日本人とベトナム人がともに生きる社会を目指して、「日越ともいき支援会」はこれからもベトナム人の命と人権を守る活動を続けていきます。

事業基礎情報【1

実行団体特定非営利活動法人 ⽇越ともいき⽀援会
事業名在留外国人コロナ緊急支援事業
活動対象地域全国
資金分配団体特定非営利活動法人 ジャパン・プラットフォーム
採択助成事業2020年度新型コロナウイルス対応支援助成<随時募集3次>

事業基礎情報【2

実行団体特定非営利活動法人 ⽇越ともいき⽀援会
事業名在留外国人コロナ緊急支援事業
活動対象地域全国
資金分配団体公益財団法人 日本国際交流センター
採択助成事業2021年度新型コロナウイルス対応支援助成<随時募集7次>

事業完了にあたり、成果の取りまとめるために実施されるのが「事後評価」です。事後評価は、事業の結果を総括するとともに、取り組みを通じて得られた学びを今後に生かせるよう、提言や知見・教訓を整理するために行われます。今回は、2022年3月末に事業完了した2019年度通常枠【中国5県休眠預金等活用コンソーシアム休眠預金活用事業|中国5県 休眠預金等活用コンソーシアム】の事後評価報告書をご紹介します。ぜひご覧ください。

事業概要等

事業概要などは、以下のページからご覧ください。


事後評価報告

事後評価報告書は、以下の外部リンクからご覧ください。

・資金分配団体

・実行団体


【事業基礎情報】

資金分配団中国5県 休眠預金等活用コンソーシアム
(幹事:特定非営利活動法人 ひろしまNPOセンター)
事業名中国5県休眠預金等活用コンソーシアム休眠預金活用事業<2019年度通常枠>
活動対象地域中国地方
実行団体・たすき 株式会社
・特定非営利活動法人 子どもシェルターモモ
・特定非営利活動法人 湯来観光地域づくり公社
・特定非営利活動法人 NPO狩留家

事業の「社会の諸課題の解決を図る」という成果の観点について、評価の信頼性及び客観性を確保するため、外部の第三者により評価を実施しています。今回は、2022年3月末に事業完了した2019年度通常枠【子どもの未来のための協働促進助成事業~不条理の連鎖を癒し、皆が共に生きるエコシステムの共創~|エティック】の第三者評価報告書をご紹介します。ぜひご覧ください。

第三者評価・外部評価とは

事業の「社会の諸課題の解決を図る」という成果の観点について、評価の信頼性及び客観性を確保するため、外部の第三者により評価を実施しています。事業規模、重要性、国民的関心度、革新性の高さ、発展性等の観点よりJANPIAで対象事業を選定し、資金分配団体および実行団体とあらかじめ合意した上で、自己評価とは独立した形で評価が行われます。

 2019年度通常枠では以下の2つの事業を選定し、第三者評価を実施しました。このページでは(2)の報告書を紹介します。

 (1) こども食堂サポート機能設置事業
   〈資金分配団体〉一般社団法人 全国食支援活動協力会
         〈実行団体1〉一般社団法人コミュニティシンクタンク北九州
         〈実行団体2〉社会福祉法人那覇市社会福祉協議会
   〈評価実施者〉 株式会社国際開発センター(IDCJ)


 ★(2)子どもの未来のための協働促進助成事業
   ~不条理の連鎖を癒し、皆が共に生きるエコシステムの共創~ 

   〈資金分配団体〉特定非営利活動法人 エティック
         〈実行団体〉特定非営利活動法人岡山NPOセンター
   〈評価実施者〉 チームやまびこ(浅井美絵、中谷美南子)

「子どもの未来のための協働促進助成事業~不条理の連鎖を癒し、皆が共に生きるエコシステムの共創~」第三者報告書

第三者報告書は、以下の外部リンクからご覧ください。

事業情報

【事業基礎情報】

資金分配団体特定非営利活動法人 エティック
資金分配団体事業名子どもの未来のための協働促進助成事業〜不条理の連鎖を癒し、皆が共に生きる地域エコシステムの共創〜
(2019年度通常枠)
実行団体特定非営利活動法人 岡山NPOセンター
実行団体事業名「おかやま子ども基金(仮)」創設を核とした子どもの虐待・貧困等0を目指すオール岡山体制構築事業