孤立しそうな人の手を握る、地域の「のりしろ」。滋賀県東近江市 Team Norishiroの「仕事」と「居場所」づくり

「働く」をキーワードに、生きづらさを抱える人と地域をつなぐ一般社団法人Team Norishiro(チーム のりしろ、以下「Team Norishiro」)。そこでは、生きづらさを抱える当事者が「働きもん」として薪割りや着火材作りの仕事をしていくことで、他者と関わりながら自分の働き方や生き方を見つけています。生きづらさを抱える当事者を変えようとするのではなく、当事者を受け入れる社会や地域の「のりしろ」を広げ、生きづらさを抱える人を知る、人を増やす──。そんな思いで続けてきたTeam Norishiroの活動について、代表の野々村光子さんにお話を伺いました。”

制度のはざまにいる「働きもん」たち

Team Norishiroに集う人たちは、生きづらさを感じて孤立している人、家から長年出られずコミュニケーションが苦手な人、障害がある人など、抱えている困難は人によってさまざま。支援する対象には、障害者手帳を持っていることなどの明確な「条件」はありません。既存の制度のはざまで孤立した人の手を取ろうとしている点が、Team Norishiroの大きな特徴です。

なぜそのように、誰でも支援対象とする活動に至ったのでしょうか。

Team Norishiroの野々村光子さんは、障害がある人の就労を支援する「東近江圏域働き・暮らし応援センター」のセンター長を務めています。このセンターが立ち上がってから、「センターとして手を握ろうとすると、制度上、応援していい人と応援できない人がいる、と気付きました。」と野々村さんは振り返りました。
Team Norishiro 野々村さん

Team Norishiroの野々村光子さんは、障害がある人の就労を支援する「東近江圏域働き・暮らし応援センター」のセンター長を務めています。このセンターが立ち上がってから、「センターとして手を握ろうとすると、制度上、応援していい人と応援できない人がいる、と気付きました。」と野々村さんは振り返りました。

企業の障害者雇用率を上げることを最終目標にした障害者就労支援の制度では、基本的に「障害者手帳も持っている人」が支援対象の中心とされています。
一方で、野々村さんがセンターで相談を受け始めると、当事者家族や民生委員の声を通して、障害者手帳を持っていないけれど家にひきこもっている人や、会社に馴染めず転職を繰り返している人の存在が見え始めたのです。そのような人たちは、当時の働き・暮らし応援センターによる支援の対象に入りませんでした。

それならば、と野々村さんたちが立ち上げたのが、任意団体の「TeamKonQ(チーム困救(こんきゅう)」でした。地域の困りごとを集約しそれらを仕事として、社会から孤立している当事者に取り組んでもらいます。当事者一人ひとりを「働きもん」と呼び、仕事を通じて当事者の人柄やスキルを発見していくチームです。

「平均で20年ほど自宅のみで生きて来た彼らが、本来はどんな人なのか? どんないいところを持っているのか。面談や訪問での支援方法だけでは、わかりません」

TeamKonQで仕事をつくる過程で、薪と薪ストーブの専門店「薪遊庭(まきゆうてい)」社長の村山英志さん(Team Norishiro代表)をはじめとした、地域の「応援団」の輪も広がっていったといいます。

「TeamKonQの活動の対象者は、誰でも。そんな『ようわからんこと』に、村山さんたちが賛同してくれて。社会の穴に落ちてしまう人はこれからも増えていくだろうし、同時に地域の困りごとも増えていくから、この活動を継続させていこうと思っています」

就労を促すよりも、「手伝ってくれんか?」と声をかける

TeamKonQで薪割りに取り組んだ背景には、2010年に東近江市で「緑の分権改革推進事業」として実施された、地域の雑木林から自然エネルギーを生むまでの実証実験が関係します。その過程の薪割りは、村山さんが自ら手がけても、働きもんがやっても結果は同じ。それなら、働きもんに仕事にして関わってもらえばいい、と村山さんが野々村さんに相談したことがきっかけでした。

薪割りの活動の継続性を高めるために、2020年には一般社団法人化し、「Team Norishiro」を立ち上げ。「のりしろ」という名前に込めた意味について、野々村さんはこう話します。

働きもんの薪割りの様子
働きもんの薪割りの様子

「生きづらさがある人に社会や学校教育が求めるのは、本人の『伸びしろ』。本人が変わっていく前提で考えられているから、家から出られたら次は仕事、と当事者は次々にステップアップを求められる。でも人間は本来、ステップアップするために生きているわけではないですよね。
働きもんが、無理に自分を変える必要はないんです。むしろ社会の側が働きもんを受け入れられるような『のりしろ』を少しでも広げることで、働きもんと関われる重なりができる。そうすれば、社会の穴に落ちてしまっている人たちと手を握っていくことができると思います」

今では薪割りだけでなく、地域で出る廃材を活用した着火材作りにも取り組みます。薪割りよりも体力の必要がなく、作業工程が明確なので、働きもんが参加するハードルを下げられたそう。
福祉の視点から立ち上げられたのではなく、「雑木林をどうしたらいいだろう」「この廃材、なんとかならんか」と地域の課題を持ち寄って集まった人たちが始めた活動。「そこで働きもんが中心になって、地域にあるさまざまな課題が解決されて、活動が広がっている。すごく珍しいケースだと思いますね」と野々村さんは語ります。

では「働きもん」は、どうやってTeam Norishiroの活動に参加するのでしょうか。

例えば、野々村さんのいる働き・暮らし応援センターのもとに、息子がいる80代の女性から相談が入ります。「うちの息子は10年間、家にいる。息子が一人になったとき、息子は働けるんやろか」。その相談を受けて、野々村さんが本人を訪問します。そのとき、企業への就労については触れません。
「着火材を作っているんやけど、コロナ禍でバーベキューがブームになっていて、すごい売れている。暇なんやったら、世間のために着火材作りを手伝ってくれんか?」

誘われた本人は「着火材ってなんですか?」と興味を持ち、Team Norishiroの仕事現場に通うようになる。そこから人と関わるようになり、働き・暮らし応援センターの支援にもつながっていく。そんなケースが多いそうです。 「ポイントは、『ひきこもり支援をしています』などと発信しないこと。福祉や就労支援をキーワードに掲げてしまうと、当事者は来てくれなくなります。ただ単純に『そこにいけば仕事がある』という環境づくりをする。私たちの活動を地域の口コミで広げてもらうことで、これまで私たちが出会えていない人にも届けたいです」
働きもんの皆さんが作られた着火材

誘われた本人は「着火材ってなんですか?」と興味を持ち、Team Norishiroの仕事現場に通うようになる。そこから人と関わるようになり、働き・暮らし応援センターの支援にもつながっていく。そんなケースが多いそうです。 「ポイントは、『ひきこもり支援をしています』などと発信しないこと。福祉や就労支援をキーワードに掲げてしまうと、当事者は来てくれなくなります。ただ単純に『そこにいけば仕事がある』という環境づくりをする。私たちの活動を地域の口コミで広げてもらうことで、これまで私たちが出会えていない人にも届けたいです」

成果指標は「当事者を何人が知っているか」

Team Norishiroでは2020年4月、資金分配団体「信頼資本財団」から実行団体として採択され休眠預金活用事業をスタート。

薪を配達するためのトラックを買い替えたり、冷房がなくて作った着火材が溶けてしまうこともあったため作業場所の設備を改修したりと、活動を続けていくために必要不可欠な基盤を整えました。

休眠預金活用事業の特徴は、活用の対象になる事業に、既存の制度の裏付けがいらないこと。Team Norishiroのような、既存の制度のはざまの人たちへの支援活動にも活用が可能です。
「生活に困窮している人、自死のリスクがある人、障害がある人のように、困っている理由は人それぞれ。しかし既存の制度を使うと、支援の対象がどうしても限定されてしまう側面があります。全面的にバックアップしてくれる休眠預金活用事業は、支援対象への考え方が違いました」
休眠預金を活用した結果、2020年からの2年間で、総勢56人の働きもんが仕事に参加。そのうち14人は、地域の企業への就労にもつながりました。

しかし、Team Norishiroでは「何人が就職できたか?」よりも大切にしている成果指標があると言います。それは、「1人の働きもんを、何人が知っているか?」という指標です。
「最初に当事者の親御さんから相談を受け、私が会いに行くと、本人を知っている人が親御さんと野々村の2人になります。着火材の作業に来てもらうと、他の働きもんたちがその人のことを知ります。さらに、働き・暮らし応援センターのワーカーが、具体的な支援策を組み立てながら、その人のことを知っていくんです」

結果、本人は頼まれて着火材作りに来ているだけで、当事者の人生を知る人が増えていく。その成果指標を重視しながら、当事者が社会や地域と関わる「のりしろ」を広げています。
さらに働きもんを見守っているのは、一緒に働くメンバーだけではありません。薪や着火材の購入、資材の提供などを通して働きもんの活動を応援する「応援団」が、この2年間で約250人も増えました。

応援団を増やすために重要なのは、ストーリーの発信だと言います。働きもんを単純に「障害者」「ひきこもり」と括るのではなく、一人の働きもんの物語を丁寧に伝え、物の購入を通じてその背景にいる働きもんにも思いを馳せてもらう発信を心がけます。

Team Norishiroの発信の先に思い描く未来について、野々村さんはこう語ります。
「働きもんは、『失敗した人』でも『残念な人』でもない。発信を通じてそう伝え続けると、その発信を受け取った人が、『親戚でひきこもりの子がいるけれど、残念な子ではないんや』と気づける。それが、孤立しそうな人と手をつなぐ一歩目になります。
私たちの活動を知った方から『のりしろ』が広がっていったら、それが最終目的と言っても良いかもしれません」

古民家を、地域におけるセーフティネットに

Team Norishiroではこれまでの活動に加えて、2021年3月からは資金分配団体「東近江三方よし基金」の採択事業として、集落にある古民家の改修と活用の事業も始めました。

コロナ禍で、社会の穴に落ちた人たちの声はさらに外に出づらくなった今、家庭内での障害者への暴力が発生していたり、外出を控え続けて餓死寸前になっていたりと、厳しい状況が生まれています。 これまで「働く」をキーワードとしてきた野々村さんは、「職場」だけではない「誰かが自分のことを知っている場」が、地域に必要だと感じ始めました。 そうしてスタートした古民家の改修事業では、古民家を「大萩基地」と名付け、誰でも利用できるスペースにしました。すでに、福祉業界の若者の勉強会、行政の職員のひきこもり支援の勉強会、当事者の働きもんが集う会など、多様な使われ方をしています。

古民家を改修し出来上がった大萩基地

「今後は、とりあえず大萩基地まで行けば誰かに会えて正しい情報をもらえたり、ご飯が週1回でも食べられたりして、『困っています』と手を挙げなくても命が守られるセーフティネットをつくりたいです」
同時に、大萩基地が「一人暮らしの訓練場所」として機能することも目指しています。
障害者のグループホームにはショートステイの制度があり、一人暮らしの練習が可能です。ただ、ショートステイの制度は福祉サービスなので、障害者手帳が必須。働きもんの中には、障害者手帳がなかったり、あっても隠したい人がいたりするため、制度の活用が難しい状況にあります。
そんな働きもんに「お母さんがずっと料理しているのを見てきたんだから、一緒に一回作ってみよう」と誘って、大萩基地で食事を作ってみる。「できるやん。1人で暮らせるやん」と練習を重ねる。そんな使い方を考えているそうです。

Team Norishiroの活動をサポートしてきた資金分配団体「東近江三方よし基金」の西村俊昭さんは、働きもんの一人に「地域で暮らすために必要なもの」を尋ねた際の答えが印象的だったと話します。
「『困ったときに声をかけてくれる人が一人でもいたら、生きていける』という答えがありました。大萩基地や応援団の存在によって、一人の働きもんでも『あそこがあるから何とかなる』と思える活動になっていたら嬉しいです。それに、同じような活動を他の地域でも実現できるんじゃないかと思います」(西村さん)

取材の際には、東近江三方よし基金の西村さんも同席

最後に、Team Norishiroのエンジンであり続けてきた野々村さんに、今後の目標を聞きました。
「我々がやっていることはまだまだ、特別なことだと思われてしまいます。これを、特別じゃないものにしたい。そのために、困難を抱えている当事者ではなく、当事者とともに生きる地域や社会を変えていきたい。
あとは、活動を続けることです。休眠預金を活用して活動の基盤が整ったので、そのときにできるベストな活動を見つけて、継続していきたいです」



【事業基礎情報】

実行団体
一般社団法人 Team Norishiro
事業名
「働く」をアイテムに孤立状態の人と地域をつなぐ
活動対象地域
滋賀県
資金分配団体
公益財団法人 信頼資本財団
採択助成事業
孤立状態の人につながりをつくる

<2019年度通常枠>
実行団体
一般社団法人 Team Norishiro
事業名
空き家を活用して命を守りつなぐ場づくり
活動対象地域
滋賀県東近江市
資金分配団体

公益財団法人 東近江三方よし基金
(東近江・雲南・南砺ローカルコミュニティファンド連合 コンソーシアム幹事団体)
(コンソーシアム構成団体:
 公益財団法人 うんなんコミュニティ財団、公益財団法人 南砺幸せ未来基金)
採択助成事業
ローカルな総働で孤立した人と地域をつなぐ
~日本の変革をローカルアクションの共創から実現する~
<2020年度通常枠>

中央共同募金会は、「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(休眠預金等活用法)に基づく資金分配団体として、当事者同士の支え合いを通じて、生きづらさを抱えていてもその人がその人らしく幸せに暮らせる社会を構築することを目的とした「当事者会のピアサポート支援事業」に対する助成を行っています。

その助成先のひとつ、ひきこもりの本人と家族が孤立しないための、ひきこもりピアサポーター養成研修及び実践活動を全国展開する事業をおこなう特定非営利活動法人KHJ全国引きこもり家族会連合会の活動紹介です。

特定非営利活動法人KHJ全国引きこもり家族会連合会 
https://www.khj-h.com/

2021年に実施した中間評価におけるナラティブな評価を映像にしました。
2021年に実施した中間評価におけるナラティブな評価を映像にしました。

深刻な社会課題とされる「不登校」「いじめ」「ひきこもり」。その当事者に対する支援は、あらゆる場所で必要とされています。2020年度緊急支援枠・資金分配団体である神奈川子ども未来ファンドの 「子ども・若者支援事業新型コロナ対応助成」で採択された『農園を活用した子ども・若者支援事業』を実施する実行団体「特定非営利活動法人 子どもと生活文化協会(CLCA)」(神奈川県小田原市)は、地域の豊かな自然を生かして、それらの課題に向き合っています。今回は子どもと生活文化協会の元会長であり、現顧問の和田 重宏(わだ しげひろ)さんに、その事業に込めた思いを伺いました。”

体験でしか得られないものを子どもたちに

「子どもたちと大人が対等な立場で様々な活動を展開し、子どもがいかなる環境に置かれてもたくましく生きていく力を身につけてほしい」という考えのもと、1992年に設立された『子どもと生活文化協会(CLCA)』。まだ子どもたちの社会教育の場が少なかった当時、学校教育に週休2日が導入された際に子どもたちの休日の生活の受け皿として発足しました。
和田さんのお父様が戦前に創設された生活寄宿塾「はじめ塾」の一時的共同寄宿生活による教育を受け継ぎ、CLCAは体験型活動を重視しています。

お話を伺ったCLCA顧問の和田 重宏さん

「昭和は専門化された社会で、その分断は様々な問題を引き起こしてきました。わかりやすいのが医療です。医療の進歩とともに、眼科・心臓外科など専門ごとに細分化していきました。核家族化なども分断の一例です。そのような分断はありとあらゆるところで起きていました。では分断を繋ぐものは何なのかと考えたとき、私たちはそれらを繋ぐものは「生活」だろうと考えました。生活はあらゆる分野を含んでいますから。
「昭和は専門化された社会で、その分断は様々な問題を引き起こしてきました。わかりやすいのが医療です。医療の進歩とともに、眼科・心臓外科など専門ごとに細分化していきました。核家族化なども分断の一例です。そのような分断はありとあらゆるところで起きていました。では分断を繋ぐものは何なのかと考えたとき、私たちはそれらを繋ぐものは「生活」だろうと考えました。生活はあらゆる分野を含んでいますから。

もう一つ大切なのは、体験型活動の必要性です。今の子どもたちの生活には動画やゲームなど、バーチャルな世界が多くなっています。つまり子どもたちは体験不足の状態です。また今の教育では「よく考えなさい」と教えるが、「考える」だけでは足りません。考えて、行動を起こす「決断力」が大切なのです。しかし「決断する力」は教えることが難しく、体験の中でしか体得できないと考えています。ですから私たちは、体験でしか得られないものをCLCAで提供したいと考えました。」(和田さん)

今の教育には考えを行動に移す「決断力」を身につける過程が抜け落ちがち。それを補うのが自然を通した生活体験活動なのでは、と和田さんは語ります。

若者と大人の信頼関係を、「体験活動」を通じて再構築

CLCAの活動は、子どもたちとその家族を対象とした「親子体験型食育菜園」や「山の生活体験合宿」、不登校やいわゆる「ひきこもり」の若者の相談窓口やカウンセリングなど多岐にわたります。働く意思のある若者の就業支援をする「サポートステーション」も運営していますが、そのような若者は、ひきこもり状態の若者の数からすると氷山の一角とのこと。現在は、長期にわたって不登校・ひきこもり状態にある若者たちへの支援に多くの時間を割いています。

「ひきこもりや不登校の根っこは一つだと思っています。それは、親や大人、世の中への不信感が非常に強いということです。ですから、まずは「ひきこもる時間も、あなたにとって必要な時間だったよね」など若者たちの存在を肯定し受け止める。そして相談に応じてもらえるように働きかけます。しかし相談だけでは、解決しないことを我々も体験的に知っています。
そこで、コロナ禍でひきこもりなどの社会課題がより深刻化していることをきっかけに、休眠預金を活用して、これまで主に子どもたちとその家族向けに行っていた農園活動と「ひきこもり」の若者たちの支援を結び付けることにしました。これは、これまでもやりたいと思っていてなかなかできていなかったことですが、ようやっと実現できました。

農園の入り口には休眠預金活用事業の事業名の看板も(右側)

これにより面談室のような閉じた空間で話をするだけではなく、彼らが望めばいつでも農園のような場で生活をして、体を動かす実体験を積むことができるようになりました。若者たちは、自然から生きるエネルギーを感じながら、周囲との信頼関係を再構築しています」(和田さん)
これにより面談室のような閉じた空間で話をするだけではなく、彼らが望めばいつでも農園のような場で生活をして、体を動かす実体験を積むことができるようになりました。若者たちは、自然から生きるエネルギーを感じながら、周囲との信頼関係を再構築しています」(和田さん)

対等で分け隔てのない活動を通して、周囲に貢献する喜びを

最近、教育の分野において「インクルーシブ(当事者を含めた)」という言葉を耳にしますが、それはまさにCLCAで重視していること。

「今の福祉行政では、『支援をする側』と『支援を受ける側』とが分かれていますが、私たちの活動では、両者が混在しています。もちろん名札はつけていますが、ぱっと見て誰がひきこもりや不登校の経験者で、誰がボランティアなのかはわかりません。そこに参加している方々はみんな対等です。」(和田さん)

今回の事業も、たくさんのボランティアさんや当事者を抱えた家族がかかわっており、ひきこもりや不登校の若者を社会から隔離してトレーニングするのではなく、社会そのものの中で対等なコミュニケーションが持てるようになることに重点を置いて実施しているとのことです。

農園活動の様子。様々な年代の方が一緒に活動しています。
農園活動の様子。様々な年代の方が一緒に活動しています。

「ひきこもり経験者で農園活動をしている若者に、『君は今、支援を受けている側なの?どう思う?』と聞いたんです。すると彼は『今僕には人の役に立っている実感があるので、ここに来たら自分が支援を受けているという意識はあまりないんです』と語ってくれました。これはとても大事なことだと思います。
このように若者たちが農園での活動を通して、自分の役割を見つけ、周囲から頼られ、やりがいを実感する。2020年11月からこの休眠預金活用事業を始め、休むことなく参加してくれた若者の就労に結びついたり、不登校だった児童が学校に通えるようになったりと、活動の成果も現れ始めています」(和田さん)

専門性の高い相談員の育成など活動の継続に向けての課題は多いとのことですが、それらの課題も経験豊かなボランティアの皆さんの力を借りながら解決の糸口を探し、着実な活動を進めているCLCA。これからも活動を通じて、多くの子どもや若者たちの「小さくも大きな一歩」を応援し続けていきます。

■休眠預金活用事業に参画しての感想は?
今回の活動が休眠預金活用事業だということがきっかけで事業に興味を持って頂き、そこから参加に至ったケースが数件ありました。新たな方々の参加につながったことは、よかった点ですね。また、休眠預金活用事業では、細かい対象者の指定がなく、これにより我々が自由度をもって活動を組み立てることができたことが有難かったです。(和田さん)

■資金分配団体POからのメッセージ
元ひきこもりの青年たちが農園に出てきて、伴走支援をするボランティア・子育て中のお母さん・地域の子どもたちと共に農園体験をする。ただそこから更に就労に繋げるのは本来とても難しいこと。にも関わらずそこまで道筋をつけてくれているCLCAさんの活動は、本当に素晴らしいものです。(特定非営利活動法人 神奈川子ども未来ファンド)

【事業基礎情報】

実行団体
特定非営利活動法人 子どもと生活文化協会(CLCA)
事業名
農園を活用した子ども・若者支援事業
活動対象地域神奈川県
資金分配団体特定非営利活動法人 神奈川子ども未来ファンド
採択助成事業

『子ども・若者支援事業新型コロナ対応助成』

〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、不要不急の活動停止を余儀なくされたことで、老若男女問わず、心も身体も疲弊する日々が続く昨今。資金分配団体である「みらいファンド沖縄」では、休眠預金を活用して子どもたちを支援する実行団体からの取り組み報告を通じ、彼らが抱える「困りごと」を明確にし、どのような改善策があるのかを2回にわたる「円卓会議」で検討しました。

地域の「困りごと」を社会課題として捉える 「地域円卓会議」の仕組みとは?

オンラインで開催された第一回の「円卓会議」の様子。
オンラインで開催された第一回の「円卓会議」の様子。

オンラインでの意見交換を取り入れつつ、全2回開催された本会議は、公益財団法人みらいファンド沖縄が過去10年間で開催してきた「地域円卓会議」の94回目、95回目にあたります。みらいファンド沖縄では、こうした会議を地域の「困りごと」を社会課題として共有・共感する場(イシューレイジング※1)として定義し、それぞれが抱える課題、そして社会課題を市民がしっかりと受け止め、議論ができる場所として参加者を募っています。
※1 「イシューレイジング」とは?・・・・・・「イシュー=テーマ」を世の中に認知してもらうことを指す。

特筆すべきは、「円卓会議」と呼ばれるスタイルで開催されている点。論点提供者と着席者と呼ばれる各関係分野の専門家を中心に参加者が円を描くように丸く座り、それを一般参加者であるオーディエンスが取り囲むスタイルで進行します。

今回の会議の第1回(円卓会議の94回目)は、『みらいファンド沖縄』の副理事長・平良斗星氏のあいさつからはじまり、休眠預金活用事業の資金分配団体として資金的支援・伴走支援をしている5つの実行団体の代表者が論点提供者となり、センターメンバーと呼ばれるパネリスト(着席者)3名を迎え、オーディエンスはオンラインにて参加するという形で実施されました。

各支援団体の現場報告から考える、 コロナ禍における子どもたちの放課後の過ごし方の変化

第一回の「地域円卓会議」のテーマは、「コロナ禍において、子どもたちの放課後の過ごし方はどう変化したのか?各現場の報告から考える。」です。

会議は、休眠預金を活用した「新型コロナウイルス対応緊急支援助成事業」の一環として開催され、各実行団体が1年後の事業目標として、それぞれの事業を継続できる体制を整え、社会的に孤立する人々の支援、またその取り組みによって課題の明確化と社会との共有を目指すというもの。それぞれの現場の声をもとに新しいセーフティネットの政策提言の発信を行っていきます。

会議の大きな流れは、論点提供者(6名)から、現在子どもたちと関わる各団体が抱えている課題や疑問に対しての解決策などを、地域の方、またステークホルダに対して論点を話すことからはじまりました。テーマに基づいて論点提供者(前述の各実行団体の発表者)から実際に取り組んでいることと、解決に向けた意見(セッション)が出されると、これらを踏まえて、センターメンバーである各分野の専門家によるコメントを受け、次に幾つかのグループに分かれた一般の方々に討論をしていただくサブセッションを実施。最後は各グループの代表者による意見発表を通じ、再びセンターメンバーたちがテーマを掘り下げていきます。

「地域円卓会議」の振り返りができる手書きの記録。会議を進行しながら作成されています。
「地域円卓会議」の振り返りができる手書きの記録。会議を進行しながら作成されています。

こうした会議内の様子や意見は手書きの記録が残され、パネリストからオーディエンスまで全員で振り返りができる仕組みになっています。テーマや取り組みに対する認識を改めて深められるのも大きな魅力の一つです。

参加した実行団体の方々は、いずれも、沖縄県内で学童や児童館、不登校やひきこもりなど、地域に密着して支援を行っている皆さんです。初回は6団体のうち子ども関連の活動をしている5つの実行団体による現場の活動と成果・課題などが発表され、二回目の会議には5つの実行団体からの報告をもとにそれを深めた議論をして、政策提言につなげるための議論が行われました。

大切なのは子どもの視点で考えること。行政と民間支援の連携で「困りごと」の解消を目指す

沖縄大学の島村先生(左)と本会議の進行を務めるみらいファンド沖縄の平良氏(右)。
沖縄大学の島村先生(左)と本会議の進行を務めるみらいファンド沖縄の平良氏(右)。

各実行団体の取り組み報告を通じて、コロナ禍におけるさまざまな制約によって間接的に子どもたちの時間が奪われたことから、生活リズムの崩れ、DV、ネグレクトといった深刻な問題が浮き彫りになりました。

その反面、音楽を通じた成功体験から自信を取り戻していく姿、ICT化で不登校やひきこもりの子どもたちに新たな道を示せたこと、さらに少人数での預かりを実施した学童保育などではトラブルも軽減し、施設内はもちろん、家庭内でも子どもたちと丁寧に向きあうことができたなど、子ども一人ひとりに最適化したケアの視点が得られたといった結果報告が上がりました。

プロのジャズ演奏者による楽器指導と地域とつなぐ子どもたちの社会教育の一例。
プロのジャズ演奏者による楽器指導と地域とつなぐ子どもたちの社会教育の一例。
活動地域と繋がる子どもの遊び見守り。
活動地域と繋がる子どもの遊び見守り。

こうした現場の意見を踏まえ、沖縄大学の島村先生をはじめとする着席者は、子どもの視点で考えることの重要性、また市民が議論をして行政にあげることも大切だが、市民活動でどこをどのようにフォローしていくのかを検討することも非常に重要であると投げ掛けます。


また一般参加者による発表を受け、各支援団体の方からは、こうした円卓で支援者間のネットワーキングができることで行政と繋がる際の座組を想定できること、加えて、各団体が行政に話をしにいくことを遠慮し過ぎていたことも課題点としてあげ、行政と民間で得意なことを活かした連携ができるような仕組みづくりを目指すべきといった感想もでていました。

子どもの権利保障やケアの重要性を再認識 。「円卓会議」を終えて見えてきた今後の課題

進行を務める平良氏より、二回の会議を総括する最後のまとめとして「緊急時の優先順位で行政はやるべきことが多い。そんな中で、それでも重要な子どもの権利の保障、ケアのための「連携」を「有機的に」していくためには、どのような権限移譲、そして予算設定をすればよいのか?」という問いが立てられました。


着席者からは、「学校と福祉、それぞれが持つ子どもたちの情報を一元化して管理できるような専門セクションを作るべきである」といった意見がだされました。これは、まさに今話題の子ども庁の構想と重なる内容であり、現場で強く求められていることを再認識することができました。

行政に対しては、アウトプット指標だけではなく、アウトカム指標を見て欲しいという評価に関連するニーズがあること、加えて民間の支援者たちとの連携や支援における権限についての意見も多くあがり、継続的な課題として検討を重ねていくことになりそうです。


■資金分配団体POからのメッセージ

子どもの居場所活動は多岐にわたっています。本事業においても、厳しい環境におかれた子どもたちを主とした対象とする、公民館活動の中の学童、児童館、子ども食堂、放課後音楽活動などさまざまです。現場で日々子どもたちに接している実行団体の報告は迫力もあり、子どもたちへの愛が詰まっていて、大変興味深い内容でした。私たちはこうした円卓会議などを通して、相互に学び合いつつ、共通の課題について話し合い、コロナ後の活動に繋げることを目指しています。
(公益財団法人みらいファンド沖縄『コロナ禍で孤立したNPOとその先の支援』事業 / 鶴田厚子氏)

この会議の様子はアーカイブとしてYouTubeで視聴可能です!

【事業基礎情報】

資金分配団体      

公益財団法人みらいファンド沖縄

助成事業
コロナ禍で孤立したNPOとその先の支援~アフターコロナに必要な団体の存続のために
〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉
活動対象地域

沖縄県

実行団体

・特定非営利活動法人1万人井戸端会議
特定非営利活動法人沖縄NGOセンター
NPO法人沖縄県学童・保育支援センター
一般社団法人おきなわジュニア科学クラブ
特定非営利活動法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆい
一般社団法人琉球フィルハーモニック