「尊厳を守る食支援を多様な連携で支える沖縄を目指して~誰もがフードセーフティーネットにアクセスできる社会とは~」を発行|公益財団法人みらいファンド沖縄|成果物レポート

休眠預金活用事業の成果物として資金分配団体や実行団体で作成された報告書等をご紹介する「成果物レポート」。今回は、資金分配団体 公益財団法人みらいファンド沖縄が発行したレポート『尊厳を守る食支援を多様な連携で支える沖縄を目指して~誰もがフードセーフティーネットにアクセスできる社会とは~』を紹介します。

尊厳を守る食支援を多様な連携で支える沖縄を目指して
~誰もがフードセーフティーネットにアクセスできる社会とは~

この白書は、物価・原油価格の高騰によりコロナ禍よりも生活に余裕のない世帯が増えていることに対し、食支援が必要な世帯がどのくらいあり、地域や行政のサポートの仕組みのあり方などの実態を共有し、これからの沖縄の食支援について一緒に考えるために作りました。

この白書を手に取ったみなさんにとって「食支援」とはどのようなものですか?
または「食べること」とはどのようなものですか?
沖縄に暮らす私たちみんなが食のセーフティーネットに繋がることができ、自立に向けて自ら行動するエネルギーを得られる社会とは、どのような社会なのでしょうか。
2024年7月~25年2月に行った「多様な参画で実現する支援される側の尊厳を守る新たな食支援事業」の実行団体の活動をベースとした報告と、それに基づいた提案をまとめました。
この白書を通して一緒に考え、実現に向けたアクションにつなげたいと考えています。

 

【事業基礎情報】

資金分配団体特定公益財団法人 みらいファンド沖縄
事業名

多様な参画で実現する支援される側の尊厳を守る新たな食支援事業

~グレーゾーンにもリーチし、被支援者から担い手にもなり得る有償型パントリー~
活動対象地域沖縄県
実行団体沖縄アレルギーゆいまーるの会
特定非営利活動法人  フードバンクセカンドハーベスト沖縄
呼吸子ども無料食堂
一般社団法人 まちづくりうらそえ
社会福祉法人 沖縄市社会福祉協議会
一般社団法人 宮古島こどもこそだてワクワク未来会議

休眠預金活用事業に係るイベント・セミナー等をご案内するページです。今回は、特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず主催「ロジハブ学習会inちば」を紹介します。

ロジハブ学習会inちば

地域食堂、こども食堂、「食」のある居場所、会食会、配食など、地域の食支援活動を応援する寄付食品の流通ネットワークづくりに向けて、県や市町村を越える流通の役割と寄付された食品のトレーサビリティを確保する仕組みを学びます。
ご興味のある方はぜひご参加ください。

 

【イベント情報】

日時2025年6月20日(金)14:00~16:00
開催形式

会場+オンラインでのハイブリッド開催

会場ラコルタ柏2階 多目的研修室1・2

(〒277-0005 千葉県柏市柏5丁目-8-12 教育福祉会館内)【MAP】
定員会場参加は先着40名(オンライン参加も可)
対象◆企業:食品等の寄付、配送・保管の支援、資金的支援ほかの社会貢献に関心のある企業
◆行政:子育て支援、生活支援、地域福祉、まちづくり、食品ロス削減等
◆地域の活動を支援する団体:社協、中間支援組織フードバンク、地域のネットワーク など
参加費参加無料(要申込)
プログラム◆地域の食支援活動を応援する仕組みづくり
 ・(一社)全国食支援活動協力会
◆県域の配送拠点(ロジ拠点)の状況
 ・(特非)ワーカーズコレクティブういず
◆地域の配送拠点(ハブ拠点)からの事例報告―寄付食品の活用と効果、今後の課題など
 ・さくらあったか食堂ネットワーク(佐倉市社会福祉協議会)
 ・印西フードバンクISS
 ・八千代こどもネットワーク
◆自治体と連携した寄付食品の活用
 ・(特非)ワーカーズコレクティブういず、柏市こども福祉課
◆連携企業からの事例報告
 ・(株)伊藤ハム 米久プラント株式会社
 ・(株)信濃運輸株式会社
◆講 評:千葉大学人文科学研究院・教授・清水洋行さん
◆質疑応答・意見交換
◆名刺交換タイム
主催特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず
共催一般社団法人全国食支援活動協力会
お申込み以下のQRコードよりお申し込みください。
お問い合わせ特定非営利活動法人 ワーカーズコレクティブういず
[携帯]090-2318-8949
[E-mail]withhappy0927@gmail.com

 

フードバンク活動とは、品質には問題がないのに包装の破損や過剰在庫、印字ミスなどで流通に出すことができない食品を企業などが寄贈し、必要としている施設や団体、困窮世帯に無償で提供する取り組みのことです。生活困窮者への支援とともに食品ロス削減にもつながる活動として、ここ数年で注目が高まっています。今回は、2023年度緊急枠に採択された「フードバンクふじさわ等冷凍食品物流・保管機能の強化支援事業」の実行団体「認定NPO法人ぐるーぷ藤」をはじめとする関連団体・組織の方々に集まっていただき、これまでの取り組みや今後の展望について伺いました。

コロナ禍での困窮者支援に立ち上がった、地域福祉の草の根活動メンバーたち

フードバンクふじさわが設立されたのは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、生活困窮者の支援が急務となっていた2021年3月のことです。神奈川県藤沢市内の地域福祉に携わるNPO法人が集う「ふじさわ福祉NPO法人連絡会」では、地域のさまざまな課題を共有しながら支援の方向性が議論されていました。そこで浮き彫りになった喫緊の課題の1つが、ひとり親家庭など孤立しがちな生活困窮者への支援です。その解決策を模索する中で、食品ロスを減らしながら必要な人に食品を届けるフードバンクかながわの取り組みに関心が寄せられ、フードバンクの設立が検討されました。

こうした背景のもと、フードバンクふじさわ設立準備会が発足し、関係者が協力して準備を開始。当時の経緯について、フードバンクふじさわ代表の野副妙子さんに聞きました。

野副妙子さん(以下、野副)「食品支援の必要性について話し合っている時に、フードバンクかながわから『藤沢市にもフードバンクをつくらないか』という声かけがありました。そこで、フードバンクかながわに足繁く通って、現場を見て学び、フードバンクふじさわの構想が固まり始めたころ、折悪しくコロナ禍が始まりました。『状況が落ち着いてから立ち上げよう』という声もありましたが、困難な時期だからこそ『今立ち上げなくてどうする』という、ふじさわ福祉NPO法人連絡会代表の鷲尾さんの提言があり、設立準備を進めました。そして、藤沢市内のさまざまな福祉団体や賛同する市民の方、行政、社協、企業、フードバンクかながわの協力により、フードバンクふじさわを立ち上げることができたのです」

フードバンクふじさわ 代表 野副妙子さん

市民団体と一体となって活動する市や社会福祉協議会

フードバンクふじさわの発足に先駆け、藤沢市社会福祉協議会(以下、社協)は2018年からフードバンクかながわと連携し、支援を必要とする人々に食品の提供を行ってきました。フードバンクふじさわ発足以降は、フードドライブ(家庭で余っている食品を集める仕組み)を通じて集めた食品を、市役所や社協の職員が食品保管・仕分けの拠点へ配送するほか、拠点の借り上げや企業との窓口になるなど、幅広い支援を行っています。

社会福祉法人 藤沢市社会福祉協議会 事務局長・村上尚さん(以下、村上)「フードバンクふじさわは、さまざまな団体・組織が協力する共同体です。比較的珍しいケースだと思いますが、私たち社協もその一員として活動に参加しています。立ち上げ時から社協が加わり、共に活動してきました。『地域をよくしていこう』という共通の目標を見据えることが連携のカギだと思います。

そもそも市の社会福祉協議会という組織は地域福祉を推進する団体。地域の課題に対して、先駆的に柔軟に取り組むことが使命です。制度化された支援では対応しきれない部分をフードバンク活動が補い、市民団体と連携することで、ひとり親家庭などへの個別支援も可能になりました。フードバンク活動はすべてをバックアップできるわけではありませんが、困窮に陥っている方々が一息ついてもらうための支えになります。連携を通し、地域支援のために私たちができることの幅が大きく広がっていると思います」

藤沢市社会福祉協議会 事務局長 村上尚さん

コロナ禍以降も物価高騰の影響で利用者が急増し、ニーズに応えきれない状況に

フードバンクふじさわ設立翌月の4月には、市内3カ所に、食品支援を必要としている方が食品を受け取れる拠点としてフードパントリーを設置し、第1回の食品配布を実施。ひとり親世帯やひとり暮らしの大学生ら(※)に、米やカップ麺、缶詰、飲料などを無償で提供しました。

※ 大学生への提供は2023年10月まで

その後、2022年3月までの1年間でのべ2,195人の利用があり、翌22年度は2,805人と増加。23年度は最初の2カ月で利用者が500人を超えるなど、コロナ禍は落ち着いたものの物価高騰の影響で利用者が大幅に増えていました。しかし、利用者が増加する反面、物価高騰により缶詰やレトルト食品などの常温保存できる食品の寄付は減少しており、ニーズに応えきれない状況に陥っていました。

これは全国のフードバンク共通の課題でもありました。フードバンクかながわは、取り扱う食品を増やすため、神奈川県内に食品倉庫を持つマルハニチロ株式会社に寄付を依頼。その結果、ツナ缶などの常温食品は市場でのニーズが高く余剰がほとんどないものの、冷凍食品は外箱の破損などで廃棄されるものがあり、提供が可能だと回答を受けます。ただ、冷凍食品の寄付を受けるには、品質を保つためのコールドチェーン(冷蔵・冷凍といった所定の温度を維持したまま輸送・保管などの流通プロセスをつなげること)を作り上げることと、寄付した商品がどこに届けられたのかというトレーサビリティを実現することが条件でした。

野副「フードバンクかながわから冷凍食品の取り扱いについて打診があり、そのための準備を行いました。当時は少しだけの取り扱いしかできませんでしたが、冷凍食品は、電子レンジさえあればすぐに食べられるためとても人気がありました」

そんな時、フードバンクかながわが「神奈川県及びその周辺の食支援ネットワーク発展のために〜冷凍食品を活かした支援食品のレベル向上」という事業で、休眠預金活用事業の資金分配団体に採択されたことを知り、フードバンクふじさわも応募を考えましたが、法人格がないことから、一緒に活動を共にしてきた認定NPO法人ぐるーぷ藤を代表団体として申請し、採択されるに至りました。

休眠預金の活用で取り扱い食品量が大幅に増え、子ども食堂にも提供が可能に

フードバンクふじさわは助成金を活用して、冷凍車、冷凍庫、保冷ケースを購入し、コールドチェーンをつくり上げます。また、フードパントリー利用者にも保冷バッグによる持ち帰りを厳守とし、冷凍食品の品質管理を徹底しています。

村上「2024年9月には待望の冷凍車が購入され、冷凍食品の物流倉庫がある神奈川県川崎市の扇島まで直接受け取りにいくことができるようになりました。また、大型の冷凍庫4台も購入され、社協が福祉物流拠点として借り上げている湘南藤沢地方卸売市場の店舗内の一区画に設置しています。実は、冷凍車いっぱいに冷凍食品を積み込むと、ちょうどこの4台の冷凍庫に収まりきるようになっているんです。
集まった食品は、フードパントリー拠点で配布する分や子ども食堂で使ってもらう分へと仕分けします。本格的に冷凍食品を取り扱うことで、フードバンク活動だけでなく子ども食堂にも提供できるほどの量を調達できるようになったのは、本当にありがたいですね」

冷凍食品の保管と輸送体制を強化するため導入された冷凍庫と冷凍車

野副「休眠預金活用事業のおかげで、大きな課題であった利用者の増加に伴う食品ニーズの拡大に応えることができるようになりました。寄付でいただく冷凍食品には業務用のものもあるため、それらは子ども食堂で使っていただいています。冷凍食品は歓迎されていて、特にからあげなどの肉類は子どもたちに大人気です」

認定NPO法人ぐるーぷ藤 理事長・藤井美和さん(以下、藤井)「私たちのフードバンク活動でのおもな支援対象は、ひとり親世帯のため、誰でも簡単に調理ができる冷凍食品はニーズに合っているようです。取り扱い量が増えたことで、親子で好きなものを選んでもらうこともできるようになりました。嬉しそうに保冷バッグを持って帰る姿を見ると、本当にやりがいを感じます。また、冷凍食品はお弁当にも適しているので、子育て中の世帯にはそういった点でも非常に喜んでもらえているようです」

利用者に寄り添う「伴走型」の支援で、新たな窓口への橋渡しも

フードバンクふじさわの活動は、食品の支援にとどまりません。地域の居場所づくりや生活支援コーディネート業務等に携わってきたメンバーも数多く参加していることから、フードパントリーでも訪れた人に積極的に声をかけ、支援が必要な人には適切な窓口への橋渡しなども行っています。また、ひきこもりの当事者をフードバンク活動のボランティアとして受け入れ、その後の就業へと結びつけるなど、ひきこもり支援と連携した活動も展開しています。

藤井「ぐるーぷ藤の理念は『歳をとっても病気になっても障がいがあってもいつまでも自分らしく暮らせる街を創りたい』というもの。お互いさまの気持ちを大切に、地域住民同士の助け合いを目指しています。フードバンク活動においても『伴走型』が基本。相手に寄り添い、食品支援にとどまらないサポートを行っています」

ぐるーぷ藤 理事長 藤井美和さん

村上「フードパントリーに来られる方の中には課題を抱えて困っている方も多くいます。そうした人と顔を合わすことで、社協の相談支援へつなげることができるのです。逆に、私たちが普段相談を受けている方の中で、ひとり親の方などフードバンク活動の対象となる方には、食品配布の紹介をすることもあります。いきなり社協や市の窓口に相談に来るのはハードルが高いと思う方もいると思いますが、フードバンクを通じて自然につながることができるのは、大きな意義があると感じています」


人と人とのつながりを、大切にすることが活動の基本

最後に、フードバンクふじさわの活動を支えるメンバーに、今後に向けた取り組みについて語ってもらいました。

野副「藤沢市の取り組みが、ほかの市にも広がっていくことを願っています。社協と自治体が連携しながら生活困窮者への支援に力を尽くしてくれていることが伝われば、地域の市民団体も一緒にがんばっていこうという気持ちになってくれると思いますから。また、フードバンクふじさわの報告会に、毎年市長をはじめ、社会福祉協議会の会長や、民生委員児童委員協議会の会長、企業の皆さんといった方々が参加してくれます。これが『藤沢型フードバンク』と私たちが称しているゆえんです」

フードバンクふじさわ事務局・小野淑子さん「フードバンクふじさわは、『小さく産んで大きく育てる』の合言葉のもと任意団体としてスタートし丸4年が経ちました。そして2025年4月には一般社団法人化を予定しています。これまで任意団体でありながらも多くの支援をいただいてきましたが、法人化によって、さらに信頼を得ることができ、活動が広がっていくのではないかと期待しています」

藤井「フードバンクふじさわの活動で生まれた人と人とのつながりがこの先も続いていくことを願っています。伴走型の活動によっていろいろな縁があり、ぐるーぷ藤で就労された方もいますし、障害のある方の就労のきっかけにもなっています。食品を提供するだけでなく、人のつながりを広げる場として活動していきたいです」

村上「地域の困窮者を支える方法やしくみづくりは、社会全体で考えていかないといけない問題ですが、すぐに解決できるものはありません。だから、フードバンクの活動はそういう人たちの『今』を支える大切な役割を果たしていると思います。また、フードドライブなど、みんなが地域福祉に関心を持つきっかけにもなってほしいですね。そして、今フードパントリーに来ている子どもたちが、将来『地域のために何かしよう』と思えるような循環が生まれる場であり続けてほしいです」

社会福祉法人 藤沢市社会福祉協議会 事務局参与・倉持泰雄さん「フードバンク活動は、困難を抱えた方を地域社会で支える大切なしくみです。助成金のおかげでコールドチェーンが整いましたが、今後は冷凍車の管理運営など新たな課題に取り組んでいく必要があります。引き続き、地域の支援のために尽力していきたいです」

取材に対応してくださった方々。左からフードバンクかながわの萩原妙子さん、フードバンクふじさわの小野淑子さん・野副妙子さん、ぐるーぷ藤の藤井美和さん、藤沢市社会福祉協議会の倉持泰雄さん・村上尚さん、フードバンクかながわの藤田誠さん
 



■資金分配団体POからのメッセージ

フードバンク活動に対して社会の認知も少しずつ高まってきましたが、まだまだ具体的な活動について知らない団体、企業、行政担当者もいらっしゃいます。具体的にどんな活動ができるのか、1人でも多くの人に知ってほしいですね。また、フードバンク活動は食品ロスの削減にも貢献し、ゴミ処理費用の削減やCO2排出削減にもつながります。ぜひ小さな子どもさんから大人まで、多くの人に関心を持ってもらえたら嬉しいです。

(公益社団法人フードバンクかながわ/事務局長 藤田 誠さん)

フードバンクかながわには多くの冷凍食品が集まる中、私たちだけではなかなか輸送や保管、配布に回しきれない状況となっています。そのため、神奈川県の各自治体に1つはフードバンクが必要となっており、さらにハブとなる拠点を作ることが重要だと考えています。フードバンクふじさわのように活動ができる団体が今後もっと増えていくために、冷凍食品のフードバンク活動の価値を広め、全国で「うちのフードバンクでも冷凍食品を扱いたい」という声が自治体を動かすことを期待しています。

(公益社団法人フードバンクかながわ/理事 萩原妙子さん)

【事業基礎情報】

実行団体
NPO法人ぐるーぷ藤
事業名

フードバンクふじさわ等冷凍食品物流・保管機能の強化支援事業(2023年度緊急枠)

活動対象地域
神奈川県藤沢市
資金分配団体
公益社団法人フードバンクかながわ

採択助成事業

神奈川県及びその周辺の食支援ネットワーク発展のために

東京都足立区で、地域から孤立している生活困窮子育て家庭に対し、食糧支援や「子ども食堂」の運営などを行っている一般社団法人チョイふる。“生まれ育った環境に関わらず、全ての子ども達が将来に希望を持てるchoice-fulな社会を実現する”ことを目的に、活動しています。2022年に採択された休眠預金活用事業(緊急支援枠、資金分配団体:特定非営利活動法人Learning for All)では、居場所事業「あだちキッズカフェ」の拡充に取り組んできました。今回は、代表理事の栗野泰成さんと、居場所事業を担当している井野瀬優子さんに、団体の活動についてお話を伺いました。”

代表理事の原体験が、チョイふるを立ち上げるきっかけに

一般社団法人チョイふる(以下、チョイふる)は、社会経済的に困難を抱える子どもたちが「チョイス」(選択肢)を「ふる」(たくさん)に感じられる社会をつくりたい、という思いを込めて設立されました。立ち上げのきっかけとなったのは、代表理事の栗野さんの原体験です。栗野さんが育ったのは、鹿児島県の田舎の市営団地。大学進学に悩んでいた頃、新聞配達をすると学費が免除される新聞奨学金制度の存在を知りますが、知ったときにはすでに申し込みの期限を過ぎていて申し込みができなかったと言います。

栗野泰成さん(以下、栗野)「あのとき、『もっと早くに知っていれば』と思ったことが今の活動に結び付いています。困窮者世帯への支援制度はたくさんあるのですが、本当に困難を抱える人ほど必要な支援が届いていないのではないかと考えています。この『選択格差』を解消することが貧困問題を解決する一つの手段ではないかと考えるようになりました」

オンラインの取材でお話される栗野泰成さん

当時の思いを胸に、大学卒業後、小学校教員・JICA海外協力隊での教育現場を経て、栗野さんは2018年に任意団体を立ち上げます。当初は英語塾を運営していましたが、それでは支援を必要としている人に届かないと気づきます。

そこで、2020年に、食糧を家庭に届けるアウトリーチ(訪問支援)型の活動「あだち・わくわく便」と、親子に第3の居場所を提供する活動「あだちキッズカフェ」をスタート。その後、コロナ禍に入ってしまったため、「あだちキッズカフェ」は一時休止しますが、「あだち・わくわく便」の需要は高まっていきます。

そして、2021年に法人化し、一般社団法人チョイふるを設立。現在は、宅食事業「あだち・わくわく便」、居場所事業「あだちキッズカフェ」に加え、困窮者世帯を支援制度へと繋げる相談支援事業「繋ぎケア」の主に3つの事業を行っています。

孤立しがちな困窮子育て世帯とつながる 宅食事業

現在、チョイふるの活動の軸となっているのが、宅食事業「あだち・わくわく便」です。対象となっているのは0〜18歳の子どもがいる家庭で、食品配達をツールに地域から孤立しがちな困窮子育て家庭と繋がる活動をしています。

栗野「宅食事業を始めた頃は、シングルマザーの支援団体に情報を流してもらったり、都営団地にポスティングしたりと地道に活動していました。最初、LINEの登録は10世帯ほどでしたが、口コミで広がったことに加え、コロナ禍になったこともあり、登録世帯数が一気に増加。今では足立区からも信頼を得ることができ、区からもチョイふるの案内をしてもらっています」

現在のLINEの登録数は約400世帯。食品配達は月に1回か2ヶ月に1回、各家庭に配達するか、フードパントリーに取りに来てもらう場合もあります。また、配達をする際は「見守りボランティア」と呼ばれる人が、それぞれの子育て家庭に直接お届けし、会話をすることで信頼関係を築いています。

栗野「食品の紹介や雑談などから始まり、子どもの学校での様子を聞いたり、困りごとがなさそうかなど確認したりしています。次回の配達時にも継続的に話ができるよう、訪問時の様子は記録もしています」

つながりづくりから居場所づくりへ

コロナ禍では「あだち・わくわく便」をメインに活動してきたチョイふる。貧困家庭と繋がることはできましたが、そこから適切な支援に繋げるための関係構築を難しく感じていました。そこで、新型コロナウイルスの流行が少し落ち着いてきたタイミングで、居場所事業「あだちキッズカフェ」を再開します。

「あだちキッズカフェ」は、子ども食堂に遊びの体験をプラスした、家でも学校(職場)でもないサードプレイスをつくり、困窮子育て家庭を支える活動。こうした「コミュニティとしての繋がり」が作れる活動は、民間団体ならではの強みだと栗野さんは話します。

栗野「足立区は、東京都の中でも生活保護を受けている世帯数が多い地域です。区としても様々な施策に取り組んでいますが、行政ならではの制約もあります。たとえば、イベントを開いたとしても、時間は平日の日中に設定されることが多いですし、開催場所も公民館など公共の場が基本になります。一方で、僕たち民間団体は、家庭に合わせて時間や場所を設定することができます。行政と民間はできることが違うからこそ、僕たちの活動に意味があると思うんです」

あだちキッズカフェの様子

「あだちキッズカフェ」の取り組みに力を入れ始めたチョイふるは、2022年度の休眠預金活用事業に申請。これに無事採択されると、これまで「あだちキッズカフェ」があった伊興本町と中央本町の2か所の運営体制を強化するとともに、千住仲町にも新設しました。

実際の「あだちキッズカフェ」では、お弁当やコスメセットの配布などを行い、子どもたちの居場所利用を促進。月2回実施している子ども食堂と遊びの居場所支援のほか、イベントも含めると67 人の子どもが参加しました。特に伊興本町の居場所にはリピーターが多く、子どもたちの利用が定着してきています。

栗野「とはいえ、『あだち・わくわく便』は400世帯が登録してくれているのに対し、『あだちキッズカフェ』の利用者は67人とまだまだ少ない。子どもだけで『あだちキッズカフェ』に来るのが難しかったり、交通費がかかったりするなど、様々な課題があると感じています」

休眠預金を活用し、社会福祉士を新たに採用

「あだちキッズカフェ」拡充のため、さまざまなところで休眠預金を活用してきましたが、なかでも一番助かったポイントは「人件費として使えたこと」だと井野瀬さんは話します。

井野瀬優子さん(以下、井野瀬)「『あだちキッズカフェ』常勤のスタッフを数人と、社会福祉士を4人採用しました。助成金の多くは人件費として活用できないので、本当にありがたかったです。常勤のスタッフがいると『いつもの人がいる』という安心感にも繋がりますし、社会福祉士にはLINEを通じて相談者とやり取り してもらうことで距離が近づき、『あだちキッズカフェ』の利用促進につながりました」

「あだち・わくわく便」の利用者には「あだちキッズカフェ」に行くのを迷っている人が多く、社会福祉士とのやり取りが利用を迷う人の背中を押しました。そのやり取りも、「『あだち・わくわく便』はどうでしたか?」といった会話からスタートし、他愛もない会話をするなかで困りごとを聞いたり、無理のないように「あだちキッズカフェ」に誘ったりしています。

オンライン取材で現場の様子を伝えてくださった井野瀬優子さん

また、DV被害に遭ったという母子が来た際には、スタッフに同じような経験をした当事者がいたため、経験者ならではの寄り添った対応ができました。

井野瀬「これまでであれば、ボランティアとして限られた時間しか関われなかったかもしれません。今回はそこに、きちんとお金を割くことができたので、居場所をより充実させることができました。来てくれる子どもたちが増えるのはもちろん、何度も来てくれる子の小さな成長が見られる瞬間もとてもうれしいですね」

伴走者がいることで、課題を把握できた

チョイふるは、2023年8月に休眠預金活用事業を開始し、2024年2月末に事業を完了しました。休眠預金活用事業では資金面以外に、資金分配団体のプログラム・オフィサー が伴走してくれる点も、事業を運営していくうえで助けになったと話します。

栗野「普段は日々の活動でいっぱいいっぱいなので、月1で振り返る機会を設けてもらったのがよかったですね。一緒にアクションプランを立てたり、“報連相”が課題になっていると気づいたりすることができました。第三者の目があることの大切さを痛感しました」

事業は終了しましたが、その後も取り組みの内容は変わらずに、「あだち・わくわく便」の提供量を増やしたり、「あだちキッズカフェ」の数を増やしたりといったことに注力しており、そのために、ほかの団体との連携も広げています。

栗野「10代の可能性を広げる支援を行っているNPO法人カタリバと月1回の定例会議を行い、情報交換をしています。ほかにも、医療的ケア児や発達の特性の強い子どもを支援している団体などと組んで、ワンストップの総合相談窓口を作ろうと動いているところです。資金確保は今後も課題になると思うので、寄付やクラウドファンディング、企業との連携などにも挑戦していきたいですね」


「選択肢の格差」が貧困を作り出し、抜け出せない状況を作っていると考える栗野さん。チョイふるはこれからも、その格差を少しでもなくすために貧困家庭への支援を続けていきます。

【事業基礎情報】

実行団体
一般社団法人チョイふる
事業名

子育て世帯版包括支援センター事業

活動対象地域
東京都足立区 ①伊興本町(居場所1拠点目) ②中央本町(居場所2拠点目) ③千住仲町(居場所3拠点目)
資金分配団体
特定非営利活動法人Learning for All

採択助成事業

2022年度緊急支援枠

大阪府富田林市を拠点に、差別のない人権尊重のまちづくりの実現に向けて活動する「一般社団法人富田林市人権協議会」。時代の移り変わりから、地域コミュニティの低下が懸念されている昨今。2019年度の休眠預金活用事業(通常枠)では、「オープンなつながりでコミュニティをつなぎ直す」をテーマに、集いの場・居場所づくりや地域有償ボランティアシステムづくりなどに取り組みました。2022年度に採択された事業では、子ども食堂や居場所づくりをサポートしています。 今回は、同団体事務局長の長橋淳美さんにこれらの取り組みについてお話を伺いました。”

活動を始めたきっかけとは

富田林市人権協議会は、1984年に部落問題解決のための団体として設立されました。その後、市全域の人権問題全般を扱うようになり、現在は、人権相談に加え、就労支援事業、交流イベント事業、高齢者向け配食事業、子ども食堂や居場所の運営など幅広い活動を行っています。

お話を伺った、一般社団法人富田林市人権協議会 事務局長 長橋さん
お話を伺った、一般社団法人富田林市人権協議会 事務局長 長橋さん

「1922年に全国水平社(※)が結成された直後、地域内にも河内水平社が設立され、部落解放運動が盛んな地域ではありました」

昭和になり、国を挙げて部落問題に取り組む中で、児童館や市営住宅などが建設されます。その一つが、現在富田林市人権協議会の事務所がある富田林市立人権文化センターで、もともと解放会館と呼ばれていました。

「水平社結成から100年を迎えた今も、部落差別は解決していません。さらに、すべての人の人権を守るためには、福祉の充実が欠かせないという考えの基、市内で先駆けて始めたのが高齢者向けの宅配事業や子ども食堂といった福祉事業です」


※1922年に日本で初めて結成された全国的部落解放運動団体。2022年に結成100年を迎えた。

ニーズ把握から始まった「I♡新小校区福祉プロジェクト」

富田林市人権協議会が活動するのは、近鉄富田林駅から徒歩5分ほどの利便性の良いエリア。市内16校区あるうちの、富田林市新堂小学校区にあたります。市街地でありながら、中世からの古い街並みを残した町、駅近に新たに建てられたマンション群、海外からの労働者も多い中小企業団地などが混在し、さまざまな背景のある人々が暮らしています。

新堂地区の街並み
新堂地区の街並み

これまで新堂小学校区は、だんじり祭りを代表するように「古い町を中心に強い絆で結ばれていました」と話す長橋さんですが、時代の移り変わりと共に地縁は薄れつつあります。

「だんじりの引き手も少なくなり、地域コミュニティ力に綻びが生じてきています。同和問題にもアプローチしながら、地域の絆づくりに貢献できないかと考え、2019年度の休眠預金活用事業の助成(資金分配団体:一般財団法人 大阪府地域支援人権金融公社 )を受け、I♡新小校区福祉プロジェクトを開始しました」

I♡新小校区福祉プロジェクトの目標は三つあります。①身近な集の場づくり②誰もが参加できるボランティア活動の仕組みづくり③子どもを対象とした学習支援と居場所づくりです。

プロジェクトに取り組むにあたり、まずは住民のみなさんにアンケートを実施しました。 アンケートでは、「町内会へ加入しているか」「地域活動に参加したことがあるか」「今後やってみたいボランティア活動は何か」など、地域活動やボランティアに興味のある人のニーズを探りました。 校区の5,224世帯にアンケート用紙を配布し、回収率11.0%となる588の有効回答がありました。 アンケートからは、地域活動を活発にしていくためには、楽しく、学べて、たくさんの人と交流できる取組を行っていくことのニーズがあることがわかりました。同時に、悩みや困りごとを聞いたところ、健康や老後が気に掛かっている人が多く、孤独死を身近に感じている人が全体の46.1%いることが明らかになりました。

プロジェクトに取り組むにあたり、まずは住民のみなさんにアンケートを実施しました。 アンケートでは、「町内会へ加入しているか」「地域活動に参加したことがあるか」「今後やってみたいボランティア活動は何か」など、地域活動やボランティアに興味のある人のニーズを探りました。 校区の5,224世帯にアンケート用紙を配布し、回収率11.0%となる588の有効回答がありました。

アンケートからは、地域活動を活発にしていくためには、楽しく、学べて、たくさんの人と交流できる取組を行っていくことのニーズがあることがわかりました。同時に、悩みや困りごとを聞いたところ、健康や老後が気に掛かっている人が多く、孤独死を身近に感じている人が全体の46.1%いることが明らかになりました。

「57.3%が地域活動に参加したことがあると答え、7割程度の住民は機会があればボランティア活動を行ってもいいと考えていました。アンケートから、私たちが把握できていない、ボランティアをしたいという潜在的ニーズがあることがわかりました」

コロナ禍、集まれないからこそ生まれた数々の取組

そのような矢先、新型コロナウイルス感染症が蔓延。「①身近な集の場づくり」として、当初、各町の集会所を利用して、地域住民の集いの場・居場所づくりに取り組む計画を立てていましたが、見直しを余儀なくされます。
外出自粛により集まれない中、人と人の繋がりを強めたのが、SNSを活用した新たな繋がりづくりでした。

「プロジェクトメンバーもITツールには疎いのですが、スマホ教室、LINE活用教室を実施し、学びました。I♡新小校区福祉プロジェクトの公式LINEアカウントも開設し、情報発信をしています。プロジェクトの会議もLINE通話を使ってできるようになりました」

また、集まれないことを逆手にとり、2021年3月に「新小校区まち歩きスタンプラリー」を実施。校区に6ヶ所のスタンプポイントを設け、スタンプの数に合わせて景品をプレゼントする仕組みで、のべ833人が参加しました。

スタンプラリーの様子
スタンプラリーの様子

「助成金でお菓子やタオル、ティッシュなどを購入し、集めたスタンプの数に合わせてお渡ししました。長年、地域に住んでいても行ったことがない場所も多く、新たになまちを発見する機会になったとの声が届いています。また、小さいお子さんから家族連れ、高齢者までさまざまな方が参加できる企画で、楽しかったという方が多かったですね」

好評のため、2022年11月には第2回を開催。スタンプポイントも6ヶ所から8ヶ所に増やし、のべ1442人が参加しました。2023年11月には第3回を実施し、のべ2000人が参加。地域イベントとして定着しつつあります。

「スタンプポイントではクイズやゲームを準備しました。そのうちの1ヶ所では、公式輪投げ競技を取り入れていたのですが、子どもや高齢者、障害のある人など誰でも参加でき、健康づくりや世代間交流に効果があることがわかりました。校区全体に広げようと、助成金で輪投げセットを購入し、講習会を開催しました」

今後は、校区内で町会対抗輪投げ大会の開催を目指しているとのこと。また、新しいスポーツとして、市内全域に広げていくことをも視野に入れて活動を始めるなどの波及効果も生まれています。

ニーズを顕在化した、ボランティア活動の仕組みづくり

こうしたスタンプラリーや輪投げ競技の実施を支えるのが、ボランティアスタッフです。「②誰もが参加できるボランティア活動の仕組みづくり」に向けて、I♡新小校区福祉プロジェクトでは、2021年3月から4月にかけて5回のオリエンテーションを開催し、ボランティアへの参加を募りました。

「これまで知り合いのツテを頼ってボランティアスタッフを探してきましたが、地域イベントの開催以外にも、高齢者向けの配食協力や子ども食堂の運営など活動が広がり、人手が足りなくなりました。オリエンテーションにてでは各回、約10名ずつの参加があり、私たちと繋がりがない人も足を運んでボランティア登録してもらうことができました」

ボランティア活動にはさまざまなものがあり、個々の希望に合わせてお願いをしています。例えば、子ども食堂のボランティア。毎週木曜日に富田林市立人権文化センターで実施しており、コロナ禍以前は70〜100食、コロナ禍では弁当形式で60〜70食を提供していました。調理ボランティアは午後2時から下ごしらえ、午後5時までに弁当を詰めて、子どもが来たら受け渡しをしています。

また、かねてから富田林市人権協議会では、ひとり暮らしの高齢者や体が不自由な校区内の高齢者に向けて毎日昼食を届けています。お弁当を届けながら、声をかけて安否確認をしたり、必要に応じて関係機関への繋ぎを行ったりするのがボランティアの役割です。

子ども食堂、配食の様子
子ども食堂、配食の様子

こうした活動に継続的に携わってもらえるよう、2021年4月には「わくわくボランティアカード」を考案。ボランティア参加1回につき1個のスタンプを押し、スタンプの個数に応じて商品券と交換できるようにしました。

「スタンプ10個なら地元のスーパーで使える500円分の商品券、スタンプ20個なら地元の婦人服店で使える1000円分の商品券に交換できます。これが予想以上に好評で、みなさん楽しみながらスタンプを集めてくれました」

2023年1月時点で、ボランティア登録は107名、ボランティアカードを利用した方はのべ1290回になり、繰り返しボランティアに参加してくれていることがわかります。

子どもの学習支援と居場所づくりにも着手

富田林市人権協議会は、こうして新たな企画にも積極的にチャレンジしてきました。2018年から始めた子ども食堂の運営も、当時、市内では初となる取り組みでした。その中で、長橋さんはかねてより子どもの学習支援の必要性を感じていたと振り返ります。

そこでプロジェクトの3つ目の目標に掲げたのが、「③子どもを対象とした学習支援と居場所づくり」です。

「子ども食堂を実施し、子どもを家まで送っていくこともありました。すると、特にひとり親家庭では誰もいない真っ暗な家で子どもが一人で過ごす時間が多いこともわかってきました。勉強に集中できる学習環境が整っていないことを目の当たりにし、どうにか学習支援を実施したと考えたいたのです」

実施に動き出す後押しとなったのが、今回の休眠預金活用事業でした。2022年4月から、子ども食堂と連携した小学生学習支援活動「ぽかぽか」を毎週木曜日の17〜19時、中学生向けの学習支援活動「陽だまり」を毎週火曜日18時半から19時半まで実施しています。

「発達障害のお子さんもいますので、一対一で学習支援ができる環境が理想です。謝礼金を確保できたことで、ボランティアの登録者が10数名増え、丁寧な関わりができるようになりました。高齢者のみならず、元教師や近隣大学の学生ボランティアも活躍してくれていますよ」

「ぽかぽか」に通っていた子どもが中学生になり、ボランティアとして受付など手伝いに来てくれるケースもある
「ぽかぽか」に通っていた子どもが中学生になり、ボランティアとして受付など手伝いに来てくれるケースもある

富田林市人権協議会では、学習支援の中で、勉強を教えるだけではなくレクレーションの時間もとっています。「ぽかぽか」では毎週後半の時間にボランティアの特技を活かしたレクレーションを実施し、ツアーコンダクターをしている人が「バーチャル海外旅行〜入国審査体験〜」を開催するなど、子どもが楽しみながら社会体験できる機会をつくっています。

実行委員会形式だからこその連携が活きた

プロジェクト発足時に掲げた3つの目標に向けて着実に成果をあげてきた富田林市人権協議会。しかし、これらは富田林市人権協議会のみの力で成し遂げられたものではありません。

「主体は私たちですが、民生・児童委員や社会福祉協議会、地域の診療所で構成されるメンバーでI♡新小校区福祉プロジェクト実行委員会を結成し、助成いただいた3年間、月に一度、定期的に委員会を開催し、市や小学校とも連携して事業を進めてきました」

ニーズ調査のために実施したアンケート調査で、校区全域を対象にし、全世帯に配布することができたのも、各町会の役員さんの力添えがあったから。また、スタンプラリーではスタンプポイントの設置や運営に当たっても、各町会の協力があったことで、校区内一体となった取組にすることができました。

ボランティア活動を入り口に、広がる可能性

多くの人の協力を得て、助成期間の3年を走り切った富田林市人権協議会。地域コミュニティを育むために実施した、まち歩きスタンプラリーやボランティアシステムづくり、子どもの学習支援と居場所づくり以外にも、さまざまな成果が現れ始めています。

代表的な例が、ボランティアから民生委員になった井上結子さんです。
かつて社会福祉協議会のボランティア活動に参加しながらも、病気で体の不調から一時的に離れていた井上さん。しかし、何かしら地域に貢献したいと、アンケートにボランティア希望と記載いただき、熱いオファーが届きました。

「最初にとったアンケートで一番に連絡をくれたのが井上さんでした。社会福祉協議会の和田さんと面識があったので、すぐさま連絡をとってもらい、関わってもらうことにしました。体の調子に合わせて、高齢者配食のボランティアから始めてもらい、今では子ども食堂や学習支援にも協力してくれています。また、さまざまなところに顔を出されて地域住民からの信頼される存在になり、今では民生委員も担ってくれています」

「家から近いので無理なくボランティアに通いやすい」と井上さん。
「家から近いので無理なくボランティアに通いやすい」と井上さん。

以前は、井上さんの体調を心配したお子さんが、定期的に顔を出してくれていたとのことですが、ボランティア活動を始めてから日に日に元気になる姿を見て安心し、今では逆に用事をお願いされたりするようになったそう。

また、「民生委員の役割も変わってきた」と、以前から民生委員を代表してプロジェクトに関わっている川喜田敏音さんは話します。

「コロナ以前、この取り組みが始まるまでは、民生委員を名乗っているだけで積極的に活動されている方は少ないのが現状でした。しかし、プロジェクトが始まったことで、活動の幅が広がりました。スタンプラリーの時には、民生委員を各ポイントに配置して、まちのことを紹介したり、地域住民と会話をしたりしてもらうことができました。同じ地域に住んでいても、同じ学区でも距離が離れていると、接点がなく、知らないこともたくさんあります。僕らの活動を紹介する機会が増え、ネットワークも広がったのが大きな成果です」

川喜田さん
川喜田さん

市内全域に子どもの居場所をつくる、次のチャレンジへ

2022年度で助成期間は終了しましたが、その後も、取り組みは「新堂小学校区交流会議」と連携する形で継続しています。

また、2022年度には、富田林市社会福祉協議会とNPO法人きんきうぇぶとコンソーシアムを組み、特定非営利活動法人全国こども食堂支援センター・むすびえ が実施した休眠預金活用事業(通常枠)の公募に採択され、「人をつなげ支え合う持続可能な富田林市子ども食堂・居場所づくりトータルコーディネート事業 」に取り組んでいます。

「これからはますます居場所づくりが求められるのではないかと思い、チャレンジすることにしました」

目指すことは二つで、一つは市内16校区全てに、地域住民が誰でも訪れられるこども食堂や居場所を作ること。もう一つは、既存の子ども食堂や地域の居場所が持続的に運営していけるよう地域フードバンクを設立し、安定的な食材提供ができる環境を整えることです。

「生活保護や社会保険等の制度のはざまが大きく、僕らのところに相談があるのは働いていても困窮に陥っているワーキングプアの方が中心です。失業したり出産したりして働けなくなった途端に、生活が不安定になってしまう。そのような方に、子ども食堂で食事を食べてもらい、安定的な仕事を提供できるようにしたいです。ゆくゆくはフードバンクも雇用の場にしていければと考えています」

地に足のついた事業を続けてきたからこそ見えてきた地域ニーズ。そして、それに必要な事業を外部のリソースと内部のネットワークや担い手を組み合わせて展開してきた富田林市人権協議会。
「今後はファンドレイジングも強化しながら、事業を継続していきたい」と、長橋さんは意気込んでいました。

【事業基礎情報①】

実行団体

富田林市人権協議会

事業名
あい新小校区福祉プロジェクト
活動対象地域
大阪府富田林市
資金分配団体
一般財団法人 大阪府地域支援人権金融公社
採択助成事業2019年度通常枠

【事業基礎情報②】

実行団体

富田林市人権協議会

<コンソーシアム構成団体>

・特定非営利活動法人 きんきうぇぶ

・実行団体名 社会福祉法人富田林市社会福祉協議会

事業名
人をつなげ支え合う持続可能な富田林市子ども食堂・居場所づくりトータルコーディネート事業
活動対象地域
大阪府富田林市
資金分配団体
特定非営利活動法人全国こども食堂支援センター・むすびえ
採択助成事業2022年度通常枠

今回の活動スナップでは、山梨県富士川町で活動する実行団体スペースふう[資金分配団体: 富士山クラブ]の政策提言が実現したことを受け、活動の様子などをお伝えします。

活動概要

「リユースお弁当箱がつなぐ地域デザイン事業」は、山梨県富士川町で活動する実行団体スペースふうが2021年秋より、富士川町に住む「孤独」「孤立」を感じやすい産後のママさんをはじめ、子育て家庭を対象にリユース食器などを使用した宅配お弁当サービスです。この事業ではこれまでに、作る人、運ぶ人、情報発信する人など多くの人のサポートを受けながら、70人以上の産後ママに利用されてきました。お弁当は、地元の食材を使って作られた手作りで、自己負担金は1回100円で受け取ることができます。使用しているお弁当箱をリユースにすることで環境にもやさしく、届けるとき、容器を回収するときに産後のママさんや子育て中のお母さんとも多くのコミュニケーションを生み、社会との繋がりを感じられる事業が実施されてきました。

【スペースふう】hottos(ホットス)取り組み内容チラシ

母親に配食支援 おむつ費も補助 | さんにちEye 山梨日日新聞電子版

政策提言

休眠預金活用事業で始まった宅配お弁当サービスが、助成期間の終了後も継続して行えるように政策提言がなされました。

政策提言が実現したことにより、産後のしんどさを個々で抱え、孤立しやすい時期の産後ママにとって、「産後うつ」「虐待」の手前の手前の予防策としても本事業は機能し続けます。また、行政の専門的な相談やサポートに加え、お弁当を手渡すときの何気ない言葉のやり取りが「この町の人たちの応援エール」として子育て家庭に届けられることで「安心して子育てできる富士川町」としてさらに町が充実し、発展していくことになると期待されます。

【事業基礎情報】

実行団体

認定特定非営利活動法人 スペースふう

事業名
リユースお弁当箱がつなぐ地域デザイン事業
活動対象地域
山梨県 峡南地域・中巨摩地域
資金分配団体
認定特定非営利活動法人 富士山クラブ
採択助成事業甲信地域支援と地域資源連携事業
~こども若者が自ら課題を解決する力を持てる地域づくり事業~

千葉県北部の柏市、我孫子市、白井市、印西市などにまたがる湖沼・手賀沼。ここをフィールドに、地域の人々がつながり、縁をつくるコミュニティを運営しているのが「手賀沼まんだら」です。2019年の設立以来、イベントや場づくりに取り組んでおり、2020年と2022年度の休眠預金活用事業(コロナ枠)を活用したことで、コミュニティプレイスの創出や共食プロジェクトなど、さらに活動の場を広げてきました。今回は、「子ども」と「地域」をキーワードにはじまったという団体の取り組みや、設立から5年が経過してこそ思う活動のおもしろさ、今後の展望などについて、代表の澤田直子さんにお話を伺います。

子どもが成長して気づいた、地域コミュニティの重要性

「手賀沼まんだら」が設立されたのは、2019年1月のこと。代表・澤田直子さんが子育てを経験する中で感じるようになった、地域とのつながりに対する考え方の変化が、立ち上げの背景にはありました。

「子どもが成長して小学生になった頃、地元の公園で遊んだり、ご近所さんのお宅に伺うような機会が増えて、地域とのつながりを意識するようになりました。それまでは、手賀沼に暮らしていても、家族で遊びにいくとなったら他の市や他県のショッピングセンターやキャンプ場でした。けれども、小学生になった子どもたちは、どんどん地域に馴染んでいく。そういう環境の変化が、考え方の変化を生み出しました」

インタビューに答える澤田さん
インタビューに答える澤田さん

澤田さんは、当時、手賀沼ではない別の市の社会福祉協議会職員として勤務していました。地域同士のつながり、コミュニティをつくる重要性を誰よりも理解していた一人です。ところが、澤田さん自身地元の手賀沼一帯では、そういった地域内でのつながりがありませんでした。そこで、澤田さんは勤務していた社会福祉協議会を退職し、手賀沼でコミュニティづくりの活動をはじめることを決意。同じような課題感を抱えているママ友に声をかけ、「手賀沼まんだら」としての第一歩を踏み出したのです。立ち上げ初期の取り組みは、フィールドワークをはじめとした、子どもたちが手賀沼の自然や社会とつながりをつくる目的のアクティビティを中心としたものでした。その後、1年足らずでコロナ禍に差し掛かり、団体としての意思も変化していきます。「これまで学校に通っていた子どもたちが、急に家庭へと戻されました。いつまで休校が続くのかわからない世の中で、せめて子どもが楽しく過ごせる居場所をつくりたい。そう感じるようになり、一時のアクティビティやイベントだけではなく、長期的に子どもが集える場所づくりに取り組み始めました」 手始めとして、手賀沼の地主さんが所有していた山を一部借りて、子どもたちと一緒に山小屋やアスレチックづくりを行うことに。すると、澤田さんの目に映ったのは、家とも学校とも異なる、第三の居場所を知った子どもたちの朗らかな様子でした。子どもたちが安定的に集える空間をつくる重要性を感じた澤田さんは、休眠預金を活用した助成事業の公募に応募。本格的な居場所づくりへと舵を切ったのです。

二つの取り組みで休眠預金活用事業に採択

「手賀沼まんだら」では、応募した休眠預金活用事業で2度採択をされています。1度目が、2020年度コロナ枠として採択された、孤立解消の為のコミュニティプレイス〈ごちゃにわ〉の創出。コロナ禍を経て実感した、子どもたちの居場所をつくるための取り組みです。2度目は、2022年度コロナ枠として採択された、「共食」をキーワードに据えたプロジェクトでした。〈ごちゃにわ〉では、手賀沼一帯に暮らす子どもたちをはじめ、子育てに課題を抱えた父母、話し相手の欲しい高齢者、そして冬越しの場所を求める生物までもが集えることを目指した場所づくりを実施しました。澤田さんは、この空間づくりを経て、リアルな場が生み出す大きな影響を実感したといいます。「空間が生まれたことによる一番の変化は、地域の人々や地域にゆかりのある企業が頻繁に訪れるようになったことです。それによって、何気ない話から生まれる新しいアイデア、おもしろい企画などが数多くあり、それらをイベントとして実施するような流れができていきました。コミュニティの輪がどんどんと広まる感覚があり、手賀沼という地域で場づくりを行う喜び、やりがいを今まで以上に感じられるようになった気がします」
核家族化が進行する現代の日本、そしてコロナ禍という人との繋がりが希薄になりがちな状況では、家庭の悩みや困りごとをシェア、相談できる機会はそう多くはありません。けれども、地域コミュニティが生まれたことで、家族それぞれの困りごとを解消するタイミングができたり、これまでは経験できなかったさまざまな体験、アクティビティの機会をつくることができるようになりました。

ごちゃにわの活動に集まる子どもたちの様子
ごちゃにわの活動に集まる子どもたちの様子

「最初は、子どもたちが地域社会に溶け込める場所をつくりたいという思いばかりでしたが、実際に〈ごちゃにわ〉をつくってみると、お父さんやお母さんたちの居場所にもなっているように感じる場面が多々ありました。子育てという共通のキーワードがあるからか、場に集う親御さんたちも、知らず知らずのうちに仲良くなり、助け合える仲になっていたようです」最初こそ、実験の意味合いもあり、こぢんまりとした運営を予定していた〈ごちゃにわ〉。ところが、澤田さんの想像以上に、そういった場を必要とした地域の人々は多かったようです。現在では、小中学校の林間学校や、総合学習の授業の一環で〈ごちゃにわ〉を活用したいといった申し出が多数集まるほど。年間では600人以上の子どもが集う、手賀沼屈指の居場所として成長しました。

ごちゃにわの活動に集まる子どもたちの様子②
ごちゃにわの活動に集まる子どもたちの様子②

子どもたちの「食」の関心をどう高めていくのか?

「手賀沼まんだら」では、その後も、〈ごちゃにわ〉の運営だけでなく新しい取り組みも実施しています。特に、現在推し進めているのが、2022年度コロナ枠にて採択された「共食」のプロジェクト。手賀沼の豊かな自然を活用しながら、子どもたちの食に対する関心を高めることを目的に実施しています。「〈ごちゃにわ〉を運営しながら次なる取り組みを考えているなかで、衣食住のにフォーカスを当てたいと考えるようになりました。暮らしの根本的な要素であると同時に、食は人の心を癒やしたり、コミュニケーションを生み出すきっかけになると思ったからです。「ごちゃにわ」を始めたときから、食が与える影響の大きさを実感していました」

子どもたちが収穫をお手伝いしている様子
子どもたちが収穫をお手伝いしている様子

このプロジェクトでは、手賀沼の風土に対する学びや食育を促進するため、5つのステップでプログラムを実施しています。子どもたちが参加することはもちろん、親御さんや近隣の農家さんの協力を仰ぐことで、地域コミュニティにおける多様なつながりをつくり出すことも目指しました。

① 〈ごちゃにわ〉内で食材を育て、収穫する
②手賀沼 流域農家さんから食材を購入したり、農作業を手伝ったり、思いのヒアリングなどを行う
③ 入手した食材を使ってどんな料理をつくるのか、メニューを考える
④ 食材の持つストーリーや思いを伝えるため、月に一度〈ごちゃにわ〉内で子どもレストランをオープンする
⑤ 月に一度、親子のエンパワメントの場として「食」に関する研修を開催する

「学校や習い事、塾などで忙しい子どもたち、忙しく働く親たちと話をする中で、家庭での「食」に対する重要度が下がってきていることを感じていました。それなら調理の機会を家庭以外の場所でも体験できないかなと考えるようになりました。」

子どもたちが料理をしている様子
子どもたちが料理をしている様子

そういった背景から、食材を知る機会、調理を学ぶ機会、食文化に触れる機会などを用意した、多角的なプログラムを実施しました。手賀沼には、生き物と畑の共生を目指す農家さんや、安心安全においしく食べられる平飼いニワトリの農家さんなど、一次産業に携わる魅力的な人々も数多くいます。そういった人の協力を仰ぐことで、子どもたちが「食」を知る、考える機会創出を目指しました。

プロジェクトの内容。4つのプログラムで構成されています。
プロジェクトの内容。4つのプログラムで構成されています。

自走しながら地域社会に溶け込む子どもたち

このプロジェクトを実施する際、澤田さんは、子どもたちに「与える」だけではなく「創り出してもらう」ことも意識しているそうです。それは、能動的に関わる機会を用意することで、子どもたちの成長を促したいという思いから。

具体的には、23回ほどプログラムに参加してくれた子どもに、参加者としてだけではなく運営者として仕事を任せることで、プログラムを創る側に回ってもらっているのだそう。その役回りは、イベントの様子を撮影するカメラマン係、プログラム内で使用するノート作成係など、多岐にわたります。

「子どもたちの興味関心に触れる機会を少しでも多くつくるためと思って始めたことですが、彼らに仕事を任せてみて、大人があっと驚くような成長を遂げてくれるのだと知りました。たとえば、カメラマンを担当してくれている子が、SNSに投稿された写真を見て、『こんなカットがあったほうがわかりやすいはず』と撮影プランを考えてくれたり、ノート作成係の子は『このページにはこのイラストがあったほうが楽しんでもらえるかな?』と、アップデートプランを提案してくれたり。自主的に次のレストラン開催に向けてオリジナルレシピを考案してきてくれた子もいたほどです」 

最初は受け身でプログラムをこなしているだけだった子どもたちが、高いモチベーションを抱きながら、自分自身の得意なことを活かして運営に携わってくれる。想像をはるかに上回る子どもたちの成長には、澤田さんをはじめとした、大人のほうが圧倒されるばかりだといいます。

手賀沼まんだらで過ごす子どもたちの様子
手賀沼まんだらで過ごす子どもたちの様子

「ほかにも、今まではお兄さん、お姉さんに頼ってばかりいた低学年の子どもたちが成長する様を見ることも多々あります。プログラムによっては、幼稚園生や小学1〜3年生のみを対象とする場合があるのですが、そういったときに率先して動いてくれるのは、今までなにもできなかったように見えた小学校低学年の子どもたち。高学年がどう助けてくれていたのかをよく見ていて、幼稚園生の子どもたちのサポートをしながら、主体的な姿勢で運営に携わってくれています」

「食」というキーワードを起点にはじまったこのプロジェクト。もちろん、プログラムを経て、食に関する学びや意識の変化も見られています。ただ、それ以上に、環境さえあればどこまででも変化できる子どもたちの無限の可能性を知る機会にもなったそう。共創による、地域コミュニティの大きな力を、この取り組みを通して、澤田さんは実感しています。

「手賀沼まんだら」が思い描く未来

2019年の設立から5年。時代の潮流にあわせて数多くの取り組みを行ってきた「手賀沼まんだら」ですが、現在は、将来を見据えた戦略立案、プロジェクト企画なども推進しているタイミングです。それにあたっては、資金分配団体であるNPO法人ACOBAが提供する、専門家派遣も活用しているのだそう。

「『手賀沼まんだら』を運営しているメンバーは、現在、私を含めて5名。そこに、6人目として戦略立案やマーケティングの得意な専門家を一時的に招き、団体の方向性や意思を表すための”ビジョンボード”というものを制作しています」

ビジョンボードとは、今まで文脈や空気感のみで意思疎通されてきていた、団体の役割や意味を可視化して表現した絵図。「手賀沼まんだら」に携わる人の数、規模が大きくなってきている今のタイミングで、価値観をお互いに共有するべく制作したものです。こうした具現化を行うことで、「手賀沼まんだら」の歩む未来も、より明確化してきています。

「『手賀沼まんだら』を立ち上げたことで、地域コミュニティの重要性を改めて実感する機会になりました。現在、取り組んでいるプロジェクトは、引き続き継続していきたいと強く思いますし、子どもたちをはじめ、手賀沼の人々のよりどころになりたいとも感じています。けれど、組織を大きくしたいという野望はあまりありません。ただ、必要としてくれる人にとっての居場所になれたら。そういうシンプルな願いを再認識できました」

学校や家庭だけではない、サードプレイスとして機能できるように。恵まれた自然との触れ合いや、子どもたちとのコミュニケーションが促進される場として、これから先も「手賀沼まんだら」は歩みを続けていくのでしょう。

「私たちのこの取り組みは、手賀沼だから実現できたものではなく、日本各地で実現できるようなものだと思います。そして、こういった場所を必要としている子どもたちはきっと全国にたくさんいる。もっと暮らしやすい世の中を実現するために、日本各地にこうした地域コミュニティが誕生してほしいと、今まで以上に願うようになりました」

澤田さんの願いが伝播し、人から人へとつながって大きな輪として成長したのが「手賀沼まんだら」。思っていたよりもずっと、その輪は強固で、豊かで、未知の価値を教えてくれたものでした。だからこそ、そうした共感が広がることでつくられる、心強く、力強いコミュニティの誕生を乞い願い、澤田さんは今日も「手賀沼まんだら」の活動を続けています。

【事業基礎情報①】

実行団体手賀沼まんだら
事業名孤立解消の為のコミュニティプレイスの運営
活動対象地域千葉県
資金分配団体特定非営利活動法人 ACOBA
採択助成事業2020年度コロナ枠

【事業基礎情報②】

実行団体手賀沼まんだら
事業名手賀沼版「美味しい革命」〜食べることは生きること〜
活動対象地域手賀沼流域(我孫子市、柏市、松戸市、流山市)
資金分配団体特定非営利活動法人 ACOBA
採択助成事業2022年度コロナ枠

学校帰りや週末に地元の子どもたちが三々五々集まり、一緒に食事をしたり、遊んだり、宿題をしたりしながら思い思いに過ごす「子どもの居場所」。地域により活動の内容はさまざまですが、子どもたちが年齢を超えて交流し、大人と触れ合い、さまざまな経験を重ねて健やかに成長してほしいという運営者たちの願いは同じです。2019年度の休眠預金を活用した「こども食堂サポート機能設置事業」(資金分配団体:一般社団法人全国食支援活動協力会)の支援を受け、一般社団法人コミュニティシンクタンク北九州と社会福祉法人那覇市社会福祉協議会が物資の供給や助成金の情報提供、ネットワーク化支援などを行っている居場所の中から9カ所を取り上げ、活動に込められた思いを取材しました。

行政とともに特色あるコミュニティづくりを通じた子どもの見守りを|一般社団法人 コミュニティシンクタンク北九州

製鉄や石炭産業の発展に伴い、戦後いち早く復興事業が進められ、官営八幡製鐵所をはじめ多くの近代化産業遺産を擁する北九州市。都心としてにぎわう小倉北区や、戦前の駐屯地が農地として払い下げられ宅地開発が進められてきた小倉南区、製鉄所の遊休地を生かした再開発が進む八幡東区など、地域によって特色のある街づくりが進められている同市ですが、その一方で、保護者の帰宅が遅い家庭が少なくありません。
そんな北九州市にある「子どもの居場所」は、市が自治会やPTA、警察、消防と連携して設置した「まちづくり協議会」の「市民センター」で活動していたり、フードバンクを行うNPOのサポートを受けながら食事支援や学習支援、生活習慣の習得支援に取り組んでいたり、女性の生理用品を配布していたりと、活動の内容も形態もさまざまです。しかし、どの居場所も、地元の子どもの見守りやコミュニティづくりに熱い思いを寄せる人たちが、「子ども食堂ネットワーク北九州」(一般社団法人コミュニティシンクタンク北九州がコーディネーターを担当)を通じて、北九州市役所や教育委員会を巻き込みながら活動を広げてきました。
2020年3月頃から始まったコロナ禍によって活動の一時中止を余儀なくされながらも、豊富な経験とネットワークを生かし、柔軟に形を変えつつ支援を続けてきた関係者たちの思いに迫りました。

絆キッチン

コラム | 子ども食堂☆きらきら清水 | ネットワークで地域をつなぐ.pdf[外部リンク]

コラム | こあらのおうち | 若園地区に広がる賛同の輪.pdf[外部リンク]

コラム | 子ども食堂「尾倉っ子ホーム」 | 食卓を囲んで愛情を伝える.pdf[外部リンク]

コラム | 絆キッチン | 支援に依存しない居場所づくりを模索.pdf[外部リンク]

世代を超えた学び合いとコミュニティの新しい見守りの形を模索|社会福祉法人 那覇市社会福祉協議会

沖縄県は、一人親世帯や貧困家庭の割合が全国平均に比べて高い状況にあります。特に、県庁所在地の那覇市は、観光関連のサービス業に従事している人が多いため、親が夜遅くまで帰宅できない家庭も少なくありません。また、核家族化や少子高齢化も急速に進んでおり、大人と交流する機会がほとんどない子どもや、生活に困窮する高齢者が増加しているほか、長期にわたって引きこもる50代前後の子どもの面倒を80代前後の親がみなければならない「8050問題」も深刻化し、社会が直面する問題は年を追うごとに複雑になっています。
こうした状況を受け、那覇市でも多くの「子どもの居場所」が立ち上げられ、ユニークな活動を展開しています。地元で長年にわたり食堂を営んできた母娘や、子育てに悩んだ自分の経験から「家庭でも学校でもない、第三の居場所」をつくることを決意した女性、豊富なネットワークと知見を有する民生委員の経験者たちなど、運営者のバックグラウンドは居場所によって異なります。しかし、どの居場所の活動からも、社会福祉法人那覇市社会福祉協議会が運営する「糸」や「こども食堂サポートセンター那覇」に絶大な信頼を寄せ、密に連絡や相談をしながら取り組んでいる様子が浮かび上がってきます。
近隣の子ども食堂や自治体とも連携し、子どもに限らず保護者や高齢者も広く支援対象に入れ、世代を超えた学び合いの場をつくり、地域を盛り上げるとともに、現代ならではの課題に応えることでコミュニティの新しい見守りの形を実践しようと挑戦を続ける居場所の運営者たちに、それぞれの思いを聞きました。

ワクワクゆんたく食堂

コラム | こばんち | 母と子の居場所をつくりたい.pdf[外部リンク]

コラム | にじの森文庫 | 「生きる力を身に付けさせたい」 .pdf[外部リンク]

コラム | ほのぼのカフェ | 子ども食堂から始まるまちづくり.pdf[外部リンク]

コラム | にぬふぁぶし | たどり着いた「食支援ではなく学習支援を」という思い.pdf[外部リンク]

コラム | ワクワクゆんたく食堂 | 団地から広がる見守りの仕組み.pdf[外部リンク]

■ 事業基礎情報【1】

実行団体一般社団法人 コミュニティシンクタンク北九州
事業名⼦ども食堂ネットワーク北九州機能強化事業
活動対象地域福岡県北九州市
採択事業2019年度通常枠

■ 事業基礎情報【2】

実行団体社会福祉法人 那覇市社会福祉協議会
事業名こども食堂等支援事業〈2019年度通常枠〉
活動対象地域沖縄県那覇市
資金分配団体一般社団法人 全国食支援活動協力会
採択事業2019年度通常枠

バランスの良い食事とあたたかい団らんは、子どもの心身の健やかな成長に欠かせません。各地の「子どもの居場所」でボランティアメンバーたちが愛情を込めて準備している食卓には、民間企業からもさまざまな支援が寄せられているのをご存知でしょうか。地域に根差した企業が地元の新鮮な食材を寄附したり、全国に展開する食品企業が出来立てのお弁当を提供したりしながら、それぞれの強みを生かして子どもたちの食事を支えているのです。資金分配団体:全国食支援活動協力会の実行団体である一般社団法人コミュニティシンクタンク北九州や社会福祉法人那覇市社会福祉協議会と連携してユニークな支援を展開する株式会社吉野家と響灘菜園株式会社の担当者に、支援に寄せる思いを聞きました。

子どもを思う地域の人々をトマトがつなぐ|響灘菜園株式会社

関門海峡の北西に広がる響灘に面した響灘菜園株式会社は、食品大手のカゴメ株式会社(カゴメ)と電力会社の電源開発株式会社(Jパワー)によって設立され、2006年からトマトの通年栽培を行っています。敷地内には、東京ドームや福岡ドームよりも広大な8.5ヘクタールにおよぶ温室があり、ハイテクな栽培技術を駆使して20万本のトマトを栽培しており、年間の収穫量は3000トンに上ります。

そんな同社は、「トマトのファンを増やしたい」が口ぐせだという猪狩英之社長の強い後押しを受け、自社のトマトを通じた社会貢献に熱心に取り組んでいます。特に、市内の子ども食堂に対する支援は積極的で、コミュニティシンクタンク北九州が事務局を務める「こども食堂ネットワーク北九州」を通じて、年間2500キロ、約2万個のトマトを無償で提供しているほか、市内の大学や企業などと連携し、トマトを使ったレトルトカレーの開発にも取り組んでいます。
同社が手塩にかけて育てたトマトによって、子どもの見守りや、魅力的なコミュニティづくりに意欲を燃やす地元の人々が有機的につながり、思いが広がっていく様子を二度にわたって取材しました。誇りを持って菜園の中で働く同社の社員たちの姿とともに、ぜひお目通しください。

コラム | 響灘菜園 | トマトカレーがつなぐ思いの循環.pdf [外部リンク]

コラム | 響灘菜園 | トマトを通じて地域に貢献.pdf [外部リンク]

使命感から生まれた新しい寄附文化で広がる笑顔|株式会社吉野家

近年、日本では、所得が全国平均の半分に満たない、貧困状態の家庭で暮らす子どもや、一人で孤独に食事することが常態化している子どもが増加し、成長への悪影響が強く懸念されています。
株式会社吉野家は、未来を担う子どもたちの状況を憂い、「食に携わる企業として貢献したい」という意識を抱いていた河村泰貴・代表取締役社長のリーダーシップの下、2020年に子ども支援事業の立ち上げについて検討を開始しました。当初は連携先の選定に苦労していましたが、社会福祉法人那覇市社会福祉協議会が運営する「こども食堂サポートセンター那覇」との出会いを機に、両者は強力なタッグを組んで支援の形やオペレーション方法を詰めていき、同年9月には那覇市内の店舗で初となる牛丼弁当の配布にこぎつけました。
同社はその後、この方法を他の都市にも横展開し、各地の社会福祉協議会と連携しながら支援を広げています。プロジェクトの進捗や子どもたちの反応については全国1100店舗のスタッフにも報告を欠かさず、社を挙げて思いを共有するよう努めているうえ、他の飲食業の経営陣にもノウハウを積極的に伝えているという同社から伝わってくる使命感と矜持、そして芽吹きつつある新しい寄付文化の機運を、ぜひご覧ください。

(いずれも吉野家提供)

コラム | 吉野家 | 一杯の牛丼に思いをのせて.pdf [外部リンク]

■ 事業基礎情報【1】

実行団体一般社団法人 コミュニティシンクタンク北九州
事業名⼦ども食堂ネットワーク北九州機能強化事業
活動対象地域福岡県北九州市
採択事業2019年度通常枠

■ 事業基礎情報【2】

実行団体社会福祉法人 那覇市社会福祉協議会
事業名こども食堂等支援事業〈2019年度通常枠〉
活動対象地域沖縄県那覇市
資金分配団体一般社団法人 全国食支援活動協力会
採択事業2019年度通常枠

​​2013年に福岡県初のフードバンク団体として設立された、NPO法人フードバンク北九州ライフアゲインは、「すべての子どもたちが大切とされる社会」を目指し、子育て世帯を中心とした食料支援に取り組んでいます。コロナ禍で急増した「食料支援の需要」と「食品ロス」の問題を受けて、同団体は​​食料を配布するだけでなく、サプライチェーンの効率化やステークホルダーの連携促進にも尽力しています。食料品店、中間支援組織、行政等と協力して22年度に集まった食料品は136t以上。月35世帯ほどだった支援規模は​​​​月100〜150世帯​​にまで増加しました。こうした功績の背景にはどんな工夫があったのか。理事の​​​​​​陶山惠子さんにお話を伺いました。[コロナ枠の成果を探るNo.3]です。

​​「食料支援の需要」と「食品ロス」の問題に向き合い、延べ4,000世帯を支援​

​​子どもの通う学校が休校になり、働きに出られず、職を失った。自宅にこもる時間が増え、ストレスが蓄積されたことで家庭が崩壊した。2020年、新型コロナウイルスがもたらしたこのような問題は北九州市でも深刻を極めていた、と陶山さんは振り返ります。​

​​「コロナが原因で失職や離婚した家庭が増え、食料支援を求める世帯が急増。2019年度末には月30〜40世帯だったのが、2020年度にはゆうに100世帯を超えるほどに。同時に人の流れや物流が滞った影響で、土産品が売れ残ったり、給食用の食材も廃棄になったりと、食品ロスの問題も深刻化する一方でした」​

お話を伺ったNPO法人フードバンク北九州ライフアゲインの​​陶山惠子さん
お話を伺ったNPO法人フードバンク北九州ライフアゲインの​​陶山惠子さん

​​この問題に立ち上がったのが、陶山さんが理事を務める、NPO法人フードバンク北九州ライフアゲイン(以下、ライフアゲイン)です。同団体は、2013年の設立時より、食品ロスを食料支援につなげる環境活動と、経済的に厳しい子育て家庭への支援という福祉活動の両方に取り組んできました。​

​​コロナ禍において、ライフアゲインがLINE公式アカウントコミュニティ463名に対して実施したアンケートによると、257件あった回答のうち約7割が「家計の中で最も『食費』を充実させたい」と回答。こうした現場のニーズを出発点に、食料支援の体制を強化し、食品ロスの増加を食い止めるため、ライフアゲインによる休眠預金活用事業ははじまりました。​

実施したアンケートの結果
実施したアンケートの結果

​​事務所の近くに食品を保管するための倉庫を借り、スタッフを雇用したり、食品棚や搬入用の機材を購入したり。休眠預金を主に食品の管理環境や体制を整えるために活用することで、より幅広い層へのスムーズな食料支援につながったと言います。​


​​「主な支援の対象は子育て世帯ですが、生活困窮者の方たちにも、必要に応じて行政やケースワーカーさんを通じて食料支援をすることがあります。北九州市が積極的に取り組んでいる『子ども食堂』や連携先の大学で自主的なフードパントリー(※)を実施しました」​

​​※​​日々の食品や日用品の入手が困難な方に対して、企業や団体などからの提供を受け、身近な地域で無料で配付する活動のこと​

大学で実施したフードパントリー
大学で実施したフードパントリー

​​​​2022年末までの事業期間を経て、​​ライフアゲインが食品提供先として連携する福祉施設、および支援する団体の数は145団体(自治体福祉課・社会福祉協議会を除く)にのぼり、食品を提供した企業は188団体へ。​

​​​​食料支援件数は延べ4,000世帯を超え、寄贈された食品の受け入れ重量は2021年は110t、2022年度は130t以上​​と、一般的なフードバンク事業と比較し、圧倒的な規模での支援実績を記録しました。​

​​100を超える団体や行政と連携し、支援のアウトリーチを強化​

​​なぜ、これだけの規模で各所から食品が集まり、支援が可能になったのか。取材を通じて見えてきたのは、​​ステークホルダーとの連携力の強さ​​。それを証明した取り組みの一つが、​​食料配布のサプライチェーンの効率化です。​

2019年、​​ライフアゲインは福岡県リサイクル総合研究事業化センターが主催する「食品ロス」をテーマとした研究事業にチームリーダーとして参画し、複数の団体と協力して、食品ロスの削減に向けた取り組みを進めることに。​ ​結果、福岡県内でフードバンク活動の機運を高めるために新設されたのが、「福岡県フードバンク協議会」です。

​​​​2019年、​​ライフアゲインは福岡県リサイクル総合研究事業化センターが主催する「食品ロス」をテーマとした研究事業にチームリーダーとして参画し、複数の団体と協力して、食品ロスの削減に向けた取り組みを進めることに。​ ​結果、福岡県内でフードバンク活動の機運を高めるために新設されたのが、「福岡県フードバンク協議会」です。
​​​​研究事業の一環で県庁で行った食品ロスに関する合意締結式の様子

「現在、県内には8つのフードバンク団体が活動していますが、個別に食品を提供してくれる企業を開拓するのは大変ですし、企業にとっても一つひとつの団体と合意書を結ぶなどの対応をするのは相当な手間になります。逆に言えば、それらが解消されたなら、より多くの食品が効率的に集まるはず。そう考え、フードバンク団体と食品を提供する企業をつなぐ窓口の機能を一箇所にまとめるために協議会を設置しました」​

​​食品寄贈企業の開拓を始め、寄贈された食品の受付や管理、フードバンク団体への支援を呼びかける啓蒙活動や行政への政策提言を含む広報活動…。こうした役割を福岡県フードバンク協議会が積極的に担う体制が実現したことで、以前よりも集まってくる食品の数は格段に増えたと言います。​

そして、なにより重要なのは、集まった食品をいかに必要としている人に届けるか。​​北九州市内における相対的貧困世帯は母子世帯だけでも7,000にのぼると推測される一方、2019年度末時点で、ライフアゲインが支援する子育て世帯は50にとどまっていました。​ ​​当事者からの支援要請を待つのではなく、こちらから積極的に当事者とつながっていく「アウトリーチ」を強化する。​​その必要性を実感したライフアゲインは、支援希望者とつながるLINE公式アカウントを開設し、行政と連携して団体の活動を広く告知。これが支援者の拡大に大きく貢献したと、陶山さんは話します。​
​寄贈された食品

そして、なにより重要なのは、集まった食品をいかに必要としている人に届けるか。​​北九州市内における相対的貧困世帯は母子世帯だけでも7,000にのぼると推測される一方、2019年度末時点で、ライフアゲインが支援する子育て世帯は50にとどまっていました。​ ​​当事者からの支援要請を待つのではなく、こちらから積極的に当事者とつながっていく「アウトリーチ」を強化する。​​その必要性を実感したライフアゲインは、支援希望者とつながるLINE公式アカウントを開設し、行政と連携して団体の活動を広く告知。これが支援者の拡大に大きく貢献したと、陶山さんは話します。

「市内の各区役所に案内を設置し、2021年の冬休み前には行政からの提案で、児童扶養手当の受給者を対象とした配布物の中にチラシを同封してもらいました。送付先は約1万人。当初は300世帯だった支援対象の幅を、思い切って1,000世帯にまで広げました。支援希望者にはLINE公式アカウントへの登録を促したところ、新たに1,200名とつながることができたんです 

​​食料支援のボックスの中身​
​​食料支援のボックスの中身​

​口コミの力も相まって活動の認知はさらに広がり、取材時点でLINE公式アカウントに登録している支援希望者は1,800名にまで増加しました。現在も学校の長期休み前には、LINEを通じて食料支援の希望を聞いています。

​​「共に助け合う心」の強さ。未来の孤立を防ぐために​

ステークホルダーとの連携により、これまで以上に幅広い世代への食料支援が実現したころ、ライフアゲインの事務所には支援利用した方からのお礼のメッセージが続々と届き始めました。

 

「孤独じゃないと実感して勇気づけられた」「私たち家族のことを想ってくれる人がいると実感して元気が出た」ーーそんな感謝の声が溢れる中、とりわけ胸を打たれたメッセージについて、陶山さんは話してくれました。 


「中学生の女の子から、こんな手紙が届いたです。『ありがとうございます。これでお母さんと一緒にご飯が食べられます。お母さんはいつも私達がお腹いっぱい食べられるようにと、余りものばかりを食べて、まともな食事をしていません。食料を届けてくれたおかげで、家族みんなでご飯を食べられることが何より嬉しいです』と。食料支援を希望する人の生活は、私たちが想像するよりもはるかに厳しいのだと思い知らされると同時に、必要な人に支援が届くことの意義を実感できた瞬間でした」 


​​「私は決して独りじゃなかった」。食料支援を受け取った多くの人がそう感じたように、ライフアゲインもまた、支援を実施する中でステークホルダーによるサポートの心強さを実感していました。​

​​「1,000世帯に食料支援のボックスを届ける際、梱包作業がとにかく大変だったんです。そこで食料を寄贈してくださった企業にお声がけをしたら、多くの方が箱詰めのボランティアに参加してくれました。また、送料を賄うためにクラウドファンディングで支援を募ったら、目標金額を超える120万円の寄付が集まりましたし、資金分配団体の一般社団法人全国フードバンク推進協議会さんも他団体の参考になる情報を共有してくださるなど、常に相談しやすい関係性を築いてくださいました。​

​​あとは何より、活動を続ける中で行政との関係性が変化してきたなと実感しています。最近では市が主催するフードバンクの事業に対して提言を求められることもあり、相互に頼り、頼られる関係性が醸成されてきたなと感じています」​

エフコープ生活協同組合と連携して行った食品配布の様子
エフコープ生活協同組合と連携して行った食品配布の様子

つながり続ける関係の中で、助けを求めることは決して恥ずかしいことじゃないーー「家計は苦しいけれど、食料支援を受けるのは抵抗がある」という人も少なからずいる中、ライフアゲインはそんなメッセージを発信し続けてきたと言います。 


困っている人には手を差し伸べ、自分が困っているなら周りに助けを求める。ライフアゲインの“共助”の姿勢は周囲にも伝播し、大きな力となって、誰一人孤立しない未来を引き寄せ続けるに違いありません。

 

最後に陶山さんは、団体の今後についてこう語ってくれました。 


「昨今は物価高騰の問題もあり、子育て世代はもちろん、さまざまな事情から困窮し、孤立している人が増え続けています。私たちとしては、フードバンク事業を着実に続けながら、これまで以上に福祉活動にも力を入れたいなと。取り組みの一つとして、2022年からは家庭訪問型の子育て支援の準備も進めており、新しく借りた事業所ではさまざまな困りごとに耳を傾ける相談室を開こうと考えています。今後は食料支援を入口に、支援を必要としている一人でも多くの人とつながり、安心できる関係性を築くことで、困ったときには気軽に頼ってもらえる存在になりたいです」 

 

 

 

【事業基礎情報】

実行団体認定特定非営利活動法人フードバンク北九州 ライフアゲイン
事業名コロナ禍でも届く持続可能な食支援強化事業
活動対象地域北九州市及び近郊地域
資金分配団体一般社団法人 全国フードバンク推進協議会
採択助成事業2020年度新型コロナウイルス対応支援助成