「長野県社会福祉協議会による社会的養護出身の若者を支える取り組み」リポート|JANPIA|インターン生活動日誌|

2023年3月よりJANPIAで活動を始めたインターン生の「活動日誌」を発信していきます。第2回は、21年度通常枠の実行団体である社会福祉法人 長野県社会福祉協議会〈コンソーシアム申請〉(資金分配団体:公益財団法人長野県みらい基金)の取り組みについてのリポートです!



JANPIAにてインターン生として活動しているSです。
今回は長野県社会福祉協議会にお邪魔し、社会的養護の取組についてお話を伺ってきました。
その内容をレポートします。

1. 長野県社会福祉協議会とは

長野県社会福祉協議会(以後、長野県社協)は、昭和26年(1951年)に設立された団体で、長野県における社会事業や社会福祉を目的とする事業の健全な発達及び、社会福祉に関する活動の活性化により、地域福祉の推進を図ることを目的とした団体です。

現在では、「ともに生きる ともに創る 地域共生・信州」を目標に、様々な個性や多様性を持つ人々が人のあたたかさに包まれる地域の中で安心して暮らすことができ、その人らしい居場所を出番がある地域共生社会の実現を目的とした様々な取り組みを行っています。

長野県社協は公益財団法人長野県みらい基金が実施する21年度通常枠事業「誰もが活躍できる信州「働き」「学び」「暮らし」づくり事業」にて事業申請し、「社会的養護出身の若者の支援」を行う、実行団体として採択を受け活動を行っています。

2.「社会的養護出身の若者サポートプロジェクト」を始めた経緯

今回は長野県社協の数多くある取り組みの中から、「社会的養護出身の若者サポートプロジェクト」について。長野県社協常務理事の竹内さん、まちづくりボランティアセンター所長の長峰さん、若者支援担当職員の傳田さん、専門員の横山さんにお話を伺って来ました。

(写真:左から傳田さん・横山さん・長峰さん)

2-1. 「社会的養護」って?

「社会的養護」という言葉は聞き馴染みのない言葉ですが、こども家庭庁の定義によると「保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当ではない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」とされています。

長野県には現在14か所児童養護施設が存在し、約400名近くの児童がそこで生活をしています。

2-2. なぜ社会的養護出身の若者の支援を始めたのか?

取材前から疑問に感じていた、社会的養護出身の若者の支援を始めるにあたった経緯をお尋ねしたところ、その経緯は意外なものでした。

(写真:長峰さん)

長野県社協は、長野県を襲った台風19号の災害を受けて、20年度に休眠預金活用事業でシェアハウスに人を呼ぶ事業を開始しました。そのシェアハウスにコロナで収入が減った若者から入居の相談があり彼らの事情を聞くことに。すると若者のなかでも特に社会的養護出身の若者が直面する困難が浮き彫りになり衝撃を受けたそうです。

現行の法制度では、社会的養護に該当するのは「児童福祉法」の範囲内の18歳まで。18歳を超えると公的な支援が一切途切れてしまい、社会的養護施設を出た若者は十分な支援も受けられない中で社会に参画しなければならないという現状が存在するとのこと。

これまで、社会的福祉の分野であまり焦点が当てられてこなかった、「社会的養護出身の若者」を支援する事業を始めることになったそうです。

2-3. 社会的養護出身の若者の支援を始める上での課題

社会的養護出身の若者の支援を始める上で、長野県社協が抱えていた課題は、専門性やノウハウが不足していたということでした。

そこで養護施設で長年勤務し現場の実情に精通している傳田さんをチームに加え、児童養護施設への働きかけを始めたそうです。

(写真:傳田さん)

傳田さんは養護施設側が抱えている課題についてこう語って下さいました。
「養護施設の園長さんなどは、外部との交流がなく、行政などの支援の情報などが耳に入ることが少ない。また、自分たちでなんとかしようとする意識が強く、同じ地域にいても社協などとの連携もなく、どうしてもサポートの幅が狭くなってしまう」

このような課題認識の下、様々な地域の社協やNPO、企業を巻き込んだ支援の枠組みについて説明して下さいました。

3. 「長野県社会福祉協議会」の取り組み

ここからは長野県社協が社会的養護出身の若者に対して行っている、「まいさぽ」を通じた就労支援、「どこでも実家宣言」について取材した内容を紹介します。

3-1. 「まいさぽ」について

長野県社協では、既存の事業である「まいさぽ」と児童養護施設との連携事業を進めています。
「まいさぽ」とは、相談支援員や就労支援員が相談者との面談を通してニーズを把握し、相談者の状況に応じた支援が行われるよう、共にサポートプランを作成し、様々な支援につなげる事業です。
この「まいさぽ」の就労支援の中の「プチバイト」に児童養護施設の若者をつなげるという取り組みが、長野県社協が児童養護施設との連携で進めている事業内容です。

プチバイトとは、社会福祉法人経営者協議会の会員から協賛を募り、地域の協力事業所で職場体験したまいさぽの相談者に1時間800円の給付を行う事業です。職場体験きっかけとして社会との関係をつなぎ直し、就労の機会を開いていくことが目的とされています。

児童養護施設にいる若者は、「人(大人)が苦手」「コミュニケーションが苦手」といった人や社会に対しての恐怖心などが強く、成功体験が少ないという課題を抱えている人も少なくないそうです。

そんな彼らに対して、「プチバイト」という試験的な形で若者が抱える課題に対して理解のある事業者の元で就労体験を積むことのできる枠組みを用意したことには効果があったと傳田さんは語ります。

実際に「プチバイト」に参加した高校3年生のKさんは、以前務めていたバイト先はどこも長く続かず、社会参画に苦手意識を感じていた状態から、就労先での業務に楽しさを覚え、その会社への就職を希望するようになったそうです。

3-2. 「どこでも実家宣言」の広がり

傳田さんが紹介して下さった長野県社協が取り組んでいるもう一つの事業として、「どこでも実家宣言」があります。

「どこでも実家宣言」とは、親の支えがなく社会に参画する若者にとって、市町村社協が「実家」のように安心できて頼ることができる場所として機能するようにという目的で新しく傳田さんたちが始めた事業です。

長野県にある各市町村の社会福祉協議会に働きかけ、どの社協にも下記の写真のような「どこでも実家宣言」の設置を目指しているそうです。現在、「どこでも実家宣言」に参画している長野県内の社協は33件(2023年8月29日現在)に及び、地域・エリアを超えてこどもや若者をサポートする環境の整備にむけての取り組みを進めています。

4. さいごに

今回インタビューをさせて頂いた長野県社協での取り組みの中で痛感したのは、地域として社会参画に課題を抱える若者などをサポートしていく体制の重要さです。
「どこでも実家宣言」のような若者が安心感ももって頼ることのできる暖かさを感じさせる取り組みや、傳田さんの「成功体験を積ませてあげる必要がある」といった言葉に表れていたような、地域として若者が一歩ずつ前に進んでいける環境をつくること。
そういった「ソフト」な働きかけの重要性を今回の取材で学ばせて頂きました。

■ 事業基礎情報

実行団体

社会福祉法人 長野県社会福祉協議会〈コンソーシアム:幹事団体〉

〈構成団体〉
・長野県児童福祉施設連盟
・株式会社レントライフ
・特定非営利活動法人 NPOホットライン信州

事業名社会的養護出身の若者サポートプロジェクト
活動対象地域
長野県内全域
資金分配団体
公益財団法人 長野県みらい基金
採択助成事業2021年度通常枠

JANPIAは2023年12月1日、日本財団主催の「アジア・フィランソロピー会議 2023」の中で、「多様な「はたらく」、「まなぶ」の意思を尊重、機会創出の実現へ! ~休眠預金活用事業の事例から~」というセッションを企画・発表しました。「アジア・フィランソロピー会議」は、アジア地域におけるフィランソロピー活動に焦点を当てた国際的な会議で、今回のテーマは、 DE&I(多様性、公平性、包括性)。JANPIAのセッションでは、今回のテーマに関わる事業に取り組まれている実行団体の代表者と、休眠預金活用事業の可能性などについて対話しました。

活動概要

2023年12月1日、公益財団法人 日本財団の主催による「アジア・フィランソロピー会議」が、ホテル雅叙園東京にて開催されました。2回目の開催となる今回は、「DE&I(多様性、公平性、包括性)」(※1)をテーマとし、社会課題の解決に取り組む財団をはじめとしたアジアのフィラソロピーセクターのリーダーが一堂に会し、各セッションに分かれ様々な議論が行われました。
同会議のパラレルセッション4にて、JANPIAは、『多様な「はたらく」、「まなぶ」の意思を尊重、機会創出の実現へ!~休眠預金活用事業の事例から~』と題し、休眠預金活用事業の事例を紹介しました。
セッション4の様子は、動画と記事でご覧いただけます。



※1:「DE&I」は、Diversity(ダイバーシティ、多様性)、Equity(エクイティ、公平性)、Inclusion(インクルージョン、包括性)の頭文字を取った略称。

活動紹介

休眠預金活用事業説明(JANPIA)

はじめに、JANPIA 事務局長の大川より、休眠預金活用事業の紹介と今回のセッションの説明をしました。 「休眠預金等活用法よりJANPIAが2019年に指定活用団体に選定されて以来、全国で1,000を超える実行団体が休眠預金を活用し、社会課題の解決に取り組んでいます。今回は、その中から、今回の会議のテーマに合った事業に取り組まれている団体の代表者をお招きしました。会場やオンラインの皆様含めて、様々な観点から意見交換できたらと思います。」

▲JANPIA 事務局長 大川
  資料〈PDF〉|休眠預金活用事業説明|JANPIA[外部リンク]

各団体の取り組み

[1]一般社団法人 ローランズプラスの事例紹介

株式会社ローランズ 代表取締役 / 一般社団法人 ローランズプラス 代表理事 福寿 満希氏

福寿:私たちは東京都の原宿をメイン拠点としながら、花や緑のサービスを提供している会社です。特徴的なのは、従業員80名のうち7割の約50名が、障害や難病と向き合いながら働いているということです。私たちは、「排除なく、誰もが花咲く社会を作る」をスローガンとしており、Flower&Green事業、就労継続支援事業、障害者雇用サポート事業の大きく3つの活動を行っています。

▲ローランズプラス 福寿氏

休眠預金活用事業には、過去に3回採択されています。1つ目の「障害者共同雇用の仕組み作り」という事業(2)は、READYFOR株式会社が資金分配団体で、新型コロナウイルス対応緊急支援助成で採択されました。コロナ禍により、障害当事者の方たちの失業率が高まり、特に中小企業での雇用維持が大変でした。1社だけでは雇用が難しいため、例えば10企業でグループを作り、グループ全体で仕事をつくり、雇用を生み出していきましょうという仕組みづくりです。この事業によって30名程の新しい雇用が生まれ、助成終了後の今も、自走してしっかり回っている状態になっています。 


2つ目は、「花を通じた働く人のうつ病予防project」事業(※3)です。資金分配団体は、特定非営利活動法人 こどもたちのこどもたちのこどもたちのために 様で、花を通してうつ病を予防していくという取り組みです。企業の花を通じたウェルネスプログラムとして、会社から従業員に対して、10分割できる花をプレゼントし、10人に「ありがとう」を伝える機会をプレゼントします。ある調査では、「ありがとう」の言葉は、伝える側の方が幸福度が高くなるというデータが出ています。「ありがとう」の伝えることの重要性を知り、求めるのではなく、自発的にその言葉を伝えていければ、幸福度が高まる機会が増え、結果的にうつ病が予防されていく仕組み作りに挑戦しています。3年間で4千人へアプローチすることを目標に取り組んでいます。


3つ目は、資金分配団体である株式会社トラストバンク 様と取り組んでいる「地域循環型ファームパーク構築」事業(※4)です。神奈川県横須賀市で花の生産と体験型農業(ファームパーク)の運営を行うことで、地域の障害当事者の就労機会を創ることに取り組んでいます。慣れ親しんだ地域に仕事を作り、障害当事者が地元で活き活きと働き、その対価を得ながら地域循環の元で生活をしていけるモデルを作ろうとしています。横須賀地域の福祉団体と連携して、福祉団体から採用していくという流れをとっています。先ずは横須賀で形をつくり、そこから、その他の地域循環モデルが広がっていったら良いなと思い取り組んでいます。

▲ローランズプラス 福寿氏 当日資料より

※2:2020年度 緊急枠 「ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業」
(資金分配団体:READYFOR株式会社)【関連記事】ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用

※3:2022年度 通常枠 「植物療法を通じた働く人のうつ病予防プロジェクト」
(資金分配団体:特定非営利活動法人 こどもたちのこどもたちのこどもたちのために〈イノベーション企画支援事業〉)

※4:2022年度 通常枠 「障がい当事者が活躍できる地域循環型ファームパーク構築事業」
(資金分配団体:株式会社トラストバンク〈ソーシャルビジネス形成支援事業〉)

[2]認定NPO法人 グッド・エイジング・エールズの事例紹介

認定NPO法人 グッド・エイジング・エールズ 代表 松中 権氏

松中:まず「プライドハウス東京」というプロジェクトについてご説明します。まだまだ社会の中にはLGBTQ+(※5)の方への差別偏見があり、孤独感を感じている方も少なくありません。そこで、性的マイノリティの方々が横で繋がったり、安心・安全に訪れることができる場所をつくろうという取り組みが、「プライドハウス東京」です。2023年11月現在、31の団体・専門家、32の企業、19の駐⽇各国⼤使館などと連携して取り組んでいます。

▲グッド・エイジング・エールズ 松中氏

【関連記事】

世界でいちばんカラフルな場所を目指して!| グッド・エイジング・エールズ 松中権さん × エッセイスト 小島慶子さん【聞き手】

「プライドハウス東京」設立プロジェクトは、特定非営利活動法人エティックが資金分配団体を務める事業で採択され(※6)、当初は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の時期に合わせて期間限定の場所をつくり、その後、2022年頃に常設の大型のセンターを造ろうという計画でした。

しかし2020年に緊急アンケートを行ったところ、新型コロナウイルス感染拡大の影響でLGBTQ+の若者が大変な状況にあるということが分かってきました。実は、73.1%の方々が、同居人の方との生活に困難を抱えていることが分かりました。また、36.4%のLGBTQ+の若者が、コロナ禍でセクシュアリティについて安⼼して話せる相⼿や場所との繋がりを失ってしまったと回答しました。この緊急アンケートによって明らかになった「居場所のニーズ」により、当初の計画を前倒しし、2020年の秋、常設のセンターを開設することになりました。

LGBTQ+に関する様々な調査の中で、政府も調査していることの一つが自殺の事です。政府が自殺対策の指針として定める「自殺総合対策大綱」によると、性的マイノリティはハイリスク層と言われています。そうした方々が、安心・安全に集えるようなコミュニティスペースが、「プライドハウス東京レガシー」です。また、休眠預金を活用した事業が動き出したことによって、「プライドハウス東京」に関する高い信頼が得られ、翌年には厚生労働省の自殺対策(自殺防止対策事業)の交付金を受けることになりました。自殺対策の相談窓口は電話やSNSが多いですが、「プライドハウス東京レガシー」では、対面型の相談サービスを提供しています。2023年11⽉現在の来館者数は、延べ1万人を超えたというところです。



※5:LGBTQ+…レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランジェンダー、クエスチョニング(自分の性別や性的指向に疑問を持ったり迷ったりしている人)/ クィア(規範的な性のあり方に違和を感じている人や性的少数者を包摂する言葉)の英語表記の頭文字を並べ、LGBTQだけではない性の多様性を「+」で表現している。

※6:2019年度 通常枠
「日本初の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京」設立プロジェクト」
(資金分配団体:特定非営利活動法人エティック(子どもの未来のための協働促進助成事業))


パネルセッション

続いて、JANPIA 加藤の進行により、パネルセッションが行われました。本セッションでは、お互いの発表に対する意見交換から始まり、続いて今回のテーマである「DE&I(多様性、公平性、包括性)」について、そして最後に、休眠預金活用事業への期待や展望について、登壇者の二人からお話を伺いました。

登壇者:

・株式会社ローランズ 代表取締役 / 一般社団法人ローランズプラス 代表理事 福寿 満希氏
・認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ 代表 松中 権氏

司会:

一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)
企画広報部 広報戦略担当 加藤 剛

▲JANPIA 企画広報部 加藤

休眠預金の活用について、福寿氏は、「やりたかったけれどもやれていない事業や、やったら絶対に意義があると思っているけど、資金的・人的リソースが足りず、なかなか挑戦できない新規の事業で申請することが多かった」「障害者手帳をお持ちではないグレーゾーンの方もいらっしゃったりするので、そのような制度に引っ掛からない方たちにも支援が届けられたらと思った」と語りました。グッド・エイジング・エールズの松中氏は、「一般的な助成だと一番大切な居場所をつくるための家賃や人件費がサポートいただけないことが多かったので、休眠預金を知ったときは、これだったら居場所がつくれるのではないかと思い、申請した。常勤のスタッフが安心して働けるからこそ、新しいプロジェクトや寄付金が集められる」と続けました。また、お互いの活動について、松中氏は、「是非、連携させていただきたいと思った」と、今後の事業連携の可能性について盛り上がりました。

今回のテーマ『DE&I~すべての人々が自分の能力を最大限に発揮できる社会を目指して~』について、松中氏は、「LGBTQ+の当事者の若者が、卒業後に働く現場の一つとして、これらのコミュニティに関わるとか、企業のDE&Iに関わる部署への配属を希望できるようになるなど、卒業後にDE&Iを仕事としていくことが想像できるようになると良いなと考えている」と回答。また、福寿氏は、「障害者手帳もそうだが、名称の括りがあると、何か特別なものように思ってしまいがちなので、たまたま障害当事者のために業務を分かり易くしたところ、結果としてそれが同じ拠点で働くみんなのためにもなったといったように、障害者雇用が特別なものではない社会になったら良いなと思って取り組んでいる」と答えました。

また、休眠預金活用事業への期待や展望について、松中氏は、「取り組みの地域格差をどれくらい埋められるかというのが課題だと思っている。例えば、LGBTQ+センターは東京だけではなく、全国各地にあった方が良いと考えるが、地域によっては資金分配団体がなかったり、あったとしても掲げるテーマからなかなか採択に至るのは難しい状況もある。もっと全国各地の団体が参画しやすい仕組みになれば良いなと思う」と話しました。福寿氏は、「通常枠は約3年だが、自走できる仕組みづくりには時間がかかり、形ができてやっと活動を拡げるという手前で事業が終了してしまうので、拡がりが期待できる事業に対しては、ネクストチャレンジのような仕組みがあったら良いなと思う。有難いことに3つの事業で採択していただいており、現在2事業が実施中だが、どれも休眠預金が無ければ挑戦できなかった事業。社会課題の解決を後押ししてくれる制度なので、是非活用する事業者の方が増えていったら嬉しい」と話しました。

最後に、JANPIA 事務局長の大川より挨拶があり、「今日の学びを制度全体の発展にも活かせるよう、私どもJANPIAもしっかり取り組んで参りたい」と、このパネルセッションを締め括りました。

登壇者の皆さん

左から、JANPIA事務局長 大川・JANPIA 加藤・ローランズ 福寿さん・ グッド・エイジング・エールズ 松中さんです。

【1】事業基礎情報

実行団体一般社団法人 ローランズプラス
事業名ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業
活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業新型コロナウイルス対応緊急支援事業
〈2020年度緊急支援枠〉

【4】事業基礎情報

実行団体特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名日本初の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京」設立プロジェクト
-情報・支援を全国へ届ける仕組みを創り、
LGBTQの子ども/若者も安心して
暮らせる未来へー
活動対象地域東京都、及び全国
資金分配団体特定非営利活動法人エティック
採択助成事業子どもの未来のための協働促進助成事業
ー不条理の連鎖を癒し、皆が共に生きる地域エコシステムの共創ー
〈2019年度通常枠〉

【5】事業基礎情報

実行団体特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名LGBTQ中高齢者の働きがい・生きがい創出
活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業新型コロナウィルス対応緊急支援事業
ー子ども・社会的弱者向け包括支援プログラムー
〈2020年度新型コロナウィルス対応緊急支援助成〉

【2】事業基礎情報

実行団体一般社団法人 ローランズプラス
事業名植物療法を通じた働く人のうつ病予防プロジェクト
-花のチカラでうつ病発症を食い止めるー
活動対象地域東京都
資金分配団体特定非営利活動法人 こどもたちのこどもたちのこどもたちのために
採択助成事業うつ病予防支援 〜東京で働く人をうつ病にさせない〜
〈2022年度通常枠〉(イノベーション企画支援事業)

【3】事業基礎情報

実行団体一般社団法人 ローランズプラス
事業名障がい当事者が活躍できる地域循環型ファームパーク構築事業
ー障がい当事者が地域経済に参画することで、新しい社会包摂モデルを構築するー
活動対象地域神奈川県横須賀市
資金分配団体株式会社トラストバンク
採択助成事業地域特産品及びサービス開発を通じた、
地域事業者によるソーシャルビジネス形成の支援事業
〈2022年度通常枠(イノベーション企画支援事業)

千葉県柏市内に、二十歳前後の若者が「おばあちゃんち」と呼ぶ家があります。一般社団法人いっぽの会が、2020年度の休眠預金活用事業(通常枠)を活用し、2022年8月に社会的養護のもとで育った若者たちや、様々な理由で家族と一緒に住めない方のための「若者応援ハウス」をオープンしました。共同生活を送りながら、スタッフや地域の方と交流することで、自立に向けての一歩を踏み出しています。今回、この若者応援ハウスを訪れ、開設するに至った経緯や入居している若者の様子、活動の今後の展望などについて運営メンバーの皆さんに伺いました。

若者応援ハウス立ち上げの経緯

いっぽの会の代表理事の久保田尚美さんは、児童自立援助ホームで働く中で、「子どもたちがもっとやりたいこと を実現できる施設にしたい」という思いから独立し、いっぽの会を立ち上げ2020年10月に児童自立援助ホーム「歩みの家」を開設しました。

児童自立援助ホームは、児童相談所長から家庭や他の施設にいられないと判断された子どもたちに、暮らしの場を提供する施設 です。対象年齢は15歳から20歳(一定の条件を満たせば22歳)となっています。しかし、2022年4月から成人年齢が引き下げられたこともあって、18歳になると国から施設に支払われていた措置費がなくなり、たとえ継続的な支援が必要だと判断される若者であっても施設から出なければいけない場合もあるそうです。

「施設を出ることになった若者にも、実際、様々な相談対応を行ってきました。ただ、措置費が出ないなか、施設職員が時間外の労働によって継続的に支援していくことに限界を感じていました。」 そのような中、 公益財団法人ちばのWA地域づくり基金が、2020年度通常枠の資金分配団体として社会的養護下にある若者に焦点をあてた助成事業の公募をしていることを知りました。もともと久保田さんは、児童自立援助ホームを出た若者が、いつでも戻ってこられる拠点づくりをできるとしたら、十数年後かなと思っていたそうです。
お話を伺った皆様(左からいっぽの会理事 田村敬志さん、同団体代表理事 久保田尚美さん、同団体スタッフ 朝日仁隆さん、社会福祉士 古澤肇さん)

「施設を出ることになった若者にも、実際、様々な相談対応を行ってきました。ただ、措置費が出ないなか、施設職員が時間外の労働によって継続的に支援していくことに限界を感じていました。」 そのような中、 公益財団法人ちばのWA地域づくり基金が、2020年度通常枠の資金分配団体として社会的養護下にある若者に焦点をあてた助成事業の公募をしていることを知りました。もともと久保田さんは、児童自立援助ホームを出た若者が、いつでも戻ってこられる拠点づくりをできるとしたら、十数年後かなと思っていたそうです。

しかし公募を知り、「今から必要な若者に届けられるのであれば、チャレンジしてみよう」という気持ちに変わり、休眠預金活用事業に申請。その結果、採択されて事業に取り組み、2022年8月に若者応援ハウス をオープンしました。

「以前施設で働いていたときは、若者から相談があったとしても、児童相談所に情報提供するだけで、施設で若者を受け入れることができなかったのです。しかし今では、児童自立援助ホームである「歩みの家」だけでなく若者応援ハウスもあります。だから助けを必要とする人から連絡をいただけれ ば、可能な範囲で受け入れられるような環境 と体制が作れたと思っています。今回の助成事業の結果、活動の幅が広がりました。」

生活支援と就労支援は表裏一体

休眠預金活用事業では、社会的養護を経験した若者が、ボランティア、職員や地域の人との人間関係が構築され、思いを語れ、困難を乗り越える方法が身についていることを目指しています。加えて、若者応援ハウスでの生活相談や就労相談に対応していく過程で、若者が自ら解決していく力がつき、自分らしい暮らしを営んでいる状態を目指しています。

いっぽの会のスタッフで、若者応援ハウスの責任者をしている朝日仁隆さんに、活動の様子を伺いました。

「若者と一緒にご飯を作ったり、庭に畑があるので、畑の野菜を採ってもらったりしています。また、月に1回程度地域の方や支援者を呼んで、食事会などを開催しています。ボードゲームが好きな若者がいて、一緒に遊ぶこともあります。日常の延長みたいなところから、その子の今まで言えなかった気持ちとか、やりたかったことを引き出しながら、徐々に自立に向かうサポートをしています。」

若者応援ハウスだからこそできる日常の生活支援に加え、就労支援も行っています。これまで朝日さんたちが関わった若者たちは、仕事に就くこと自体はできても、本当にやりたいことを見つけることができなかったり、無理した働き方になってしまっていたりしました。

例えば、これまで関わった若者の1人は、当初、将来どういう風に生きていきたいか、といった考えがなく、手っ取り早く見つけた事務のアルバイトをしようとしていました。ただ、スタッフと話していくうちに専門学校 を志望するようになり、今まさに受験結果待ちとのことです。このように、「本当はやってみたいことがある」と打ち明けてくれたり、一緒に考えたりするようになったのは、いっぽの会の皆さんが丁寧に伴走される中で信頼関係が築かれていったからではないでしょうか。
若者(手前)の相談に対応するスタッフ(奥)

例えば、これまで関わった若者の1人は、当初、将来どういう風に生きていきたいか、といった考えがなく、手っ取り早く見つけた事務のアルバイトをしようとしていました。ただ、スタッフと話していくうちに専門学校 を志望するようになり、今まさに受験結果待ちとのことです。このように、「本当はやってみたいことがある」と打ち明けてくれたり、一緒に考えたりするようになったのは、いっぽの会の皆さんが丁寧に伴走される中で信頼関係が築かれていったからではないでしょうか。

いっぽの会の外部アドバイザーで社会福祉士の古澤肇さんは、生活支援と就労支援は、表裏一体だと話します。

「人間関係とかお金のこととか、自分の身体を大事にすることって、人が生きていく上で大事なことで、生活支援でもあるし、就労支援でもあると思っています。例えば、体温が39度あっても『仕事行きます』という子には、『ちょっとそれはやめましょう』と伝えますが、最初は仕事と体調の優先順位もなかなか分からなかったりします。困っているときに適切に『助けて』が言える、SOSが出せるようになることも大切だと考えています。 」

現在若者応援ハウスに入居している方は2名(定員3名)で、これまで短期を含めて泊まりで利用された方は、4名いました。短期の利用では、住み込みの仕事していた方が退職し、住まいを失った際に、転職先が見つかるまでの間の仮の住まいとして利用するケースがあったそうです。

また、計画時は、児童自立援助ホームや児童養護施設出身の若者を支援の対象と考えていましたが、社会的養護を経験していない方からの問い合わせがあったことがきっかけとなり、今は、支援の対象を広げているそうです。

地域に支えられながら育つ若者たち

この若者応援ハウス事業の特徴の一つに、地域とのつながりを重視していて、地域の方もいっぽの会の事業に自然と入ってきているところがあります。地域の方が若者のことを気にかけて、若者もその地域に向けて、何か自分の気持ちや、やりたいことを発信できるような関係性になってきているそうです。ただ、いっぽの会は、最初から地域とのつながりがあったわけではありません。

いっぽの会が最初に立ち上げた児童自立援助ホーム「歩みの家」は松戸市内にあり、当初、若者応援ハウスもその近隣エリアで探していました。ただ、若者応援ハウスということや、児童福祉施設ということで様々な偏見があり、物件を見つけるのに苦労したそうです。やっと見つけた現在の物件は、いっぽの会の通常の活動エリアとは離れており、地域とのつながりがほぼない場所にありました。

そのような状況の中、どのように地域とのつながりを作り関わっていただけるようになったのでしょうか。古澤さんが教えてくださいました。

「地域で活動している人たちとのつながりづくりは、戦略的に考えています。たとえば、日常的なことですと、若者応援ハウスでは 、コンビニではなく、なるべく地域の商店で買い物をするように伝えています。また、地元の小学校の「おやじの会」の方に、若者応援ハウスのイベントに参加していただきました。 バーベキューを実施したのですが、若者やボランティア、そしてご参加いただいた地域の方が力を合わせて一緒に火をつけたり肉を焼いたりする。その何気ない協働作業がすごく大事な経験だと思っています。特に、一緒に何かを作るとか、みんなで分け合うとか、そういう経験を成長過程であまりしてこなかった若者には貴重な機会です。」

また、イベントを実施するにあたって、地域のボランティアだけでなく、古澤さんの仲間の社会福祉士にもメンバーに入ってもらったこともポイントだそうです。

「初めましてのボランティアだけだと、どうしても皆さんよそよそしくなってしまいます。一方、スタッフはスタッフで準備や裏方で大変。そこで、コミュニケーションを円滑にしてくれる人材として、有資格者がいい働きをするのです。」

現在、定期的に若者応援ハウスに来ている地域ボランティアは3名いるそうです。一人は、若者応援ハウスの畑のお世話を手伝ってくださる方で、自治会長や民生委員もされたことのある地域のキーマンでもありました。

「その方と若者とが繋がり始めているのが嬉しいですね。その方の誕生会を若者が企画して、ケーキまで作ってお祝いしていました。やっぱりこういう地域と若者、スタッフとの交流が広がってきているのが何よりです。」
と振り返る朝日さん。

そのボランティアさんが畑で作業していると、外からも見えるため、「あの方が関わっているなら」と、若者応援ハウスの地域からの信頼度向上にもつながっているそうです。

残り2名のボランティアは、ボランティアセンター経由で紹介があった地域の方で、月2回程度、若者たちと一緒に食事を作っています。そのうち1人は、今はご飯作りがメインですが、ゆくゆくは茶道やお花なども若者とやってみたいとお話しされているのだとか。

「当たり前」の活動から生み出された変化

これまでの活動を振り返って、朝日さんが印象に残っているエピソードを教えてくれました。

「畑の手入れは私が中心でやっているのですが、スタッフが来れないときの水やりを若者に頼んでいると、いつの日か自主的に大きくなった野菜を収穫して並べておいてくれたことがあったのです。」

「応援ハウスでは、月に1回の振り返り面談を行っています。自分の思いや考えを表現するのが苦手な若者は、口数が少なくなったり、中々本音が言えません。応援ハウスでのボランティアさんとの関わりやイベントに参加、又、若者同士での良い刺激や相互作用が成功体験とも言えます。回を重ねるごとに自分の気持ちや感情を少しずつ表に出せるように変化していきます。」



そうして、今まで連絡を絶っていた支援機関や、親族の方にも少しずつ連絡が取れるようになってきている若者もいます。


助成事業は、若者だけでなく、いっぽの会にも変化をもたらしました。理事の田村敬志さんは、社会的インパクト評価の考え方を通じて、活動の成果をアウトプットではなく、アウトカムも示すことを学べたと振り返ります。

「これまでは自分たちが必要だと思ったことを、ただただやっているだけだったんですけど、それを対外的に示すために、社会的インパクト評価を通じて言語化する仕方もあるということを勉強させていただきました。」

目の前の問題を解決するために一生懸命に取り組む中で当たり前にやってきたことが、実は当たり前ではなく、とても重要だったということを確認することができたようです。

いっぽの会の「若者応援ハウス」のこれから

いっぽの会は、これまでの成果を踏まえ、児童自立援助ホームの元利用者やその紹介以外の若者へのアプローチを強化していく予定です。また、若者応援ハウスでは宿泊だけでなく、気軽に立ち寄れる通所型の受け入れも増やしていきたいとのことです。住まいや居場所が既にある若者でも、「誰かと一緒に食べたい」「相談したい」と思ったときにふらっと立ち寄るような居場所を目指したいと古澤さん。

「『相談受けます』みたいな看板を掲げると、どうしても敷居が高くなってしまいます。ここには地域をよくしようとする人たちが集まっていて、ここに来ること で「何とかなる」と思ってもらえる、そんな『若者応援センター』になるといいなと。」

実際、この若者応援ハウスのことを「おばあちゃんち」と呼ぶ若者もいるようで、すでに実家のような存在になっています。

休眠預金活用事業が終了する2024年1月以降は、事業を継続・発展していくための財源確保が最大の課題です。自治体や民間の様々な助成事業を視野に入れつつ、中長期的にはやはり、制度化をめざしていく必要があると久保田さんは考えます。

「今回の休眠預金がまさに制度のはざまにある取り組みを、民間で支えてくれる資金だったんです。制度ができるまではかなりきついですが、続けていかなければ、制度化にはいきつかないので頑張っていきます。」

事業基礎情報

実行団体一般社団法人いっぽの会
事業名

社会へ「いっぽ」を踏み出す基盤づくり事業

活動対象地域千葉県
資金分配団体公益財団法人ちばのWA地域づくり基金

択助成事業

2020年度通常枠

東京都を拠点に、ベトナム人技能実習生や留学生への支援活動を行う「日越ともいき支援会」。日本に在留するベトナム人の技能実習生や留学生の数は急増していますが、劣悪な環境に置かれていることも少なくありません。「日越ともいき支援会」は、そんなベトナム人の「駆け込み寺」として、住居の確保、帰国できない若者の保護、就労支援など、さまざまな活動を行っています。2020年度、2021年度の休眠預金活用事業(コロナ枠)では、コロナ禍で生活困窮者となった約1万人以上のベトナム人を支援してきました。今回は、コロナ禍、そして現在の支援事業について、同団体の代表理事・吉水慈豊さんにお話を伺いました。

「ベトナム人の命と人権を守る」活動を始めたきっかけとは

ベトナム人の命と人権を守る。これは、「日越ともいき支援会」が支援活動の目的として掲げているものです。吉水さんがこの思いを強く持つようになった理由は、幼少期まで遡ります。

吉水慈豊さん
吉水慈豊さん

吉水さんは埼玉県にある浄土宗寺院の出身で、住職であるお父様がベトナム人への支援を行っていました。お寺の離れにはベトナム人僧侶が暮らしていて、幼い頃からベトナム人とともに暮らしてきたのだそうです。

2013年頃から、吉水さんはお父様の支援活動のサポートを始めます。東京都港区の寺院を拠点にしていたこともあり、亡くなった技能実習生や留学生たちをベトナムに帰国させたり、お葬式をしたりといった支援を行っていました。そのような中、吉水さんが支援について深く考えるきっかけとなる出来事が起こります。

「その当時、支援を行っていた実習生の数人が自殺してしまったのです。『どうしてこんなことが起こってしまうのだろう』と、技能実習の制度などを調べました。そのとき『ベトナム人の命と人権を守るにはどうすればいいのか』と考えたことが、現在の支援活動の根っこの部分になっています」

その後、コロナ禍で保護しなければならないベトナム人が爆発的に増えたことを受けて、2020年1月にNPO法人として認証を受けました。

コロナ禍での物資支援や保護にくわえ、勉強会や就労支援も実施

コロナ禍では、職を失い困窮したベトナム人の若者が急増。約1万人に物資の支援を行い、数千人は港区の寺院などで一時的に保護をしました。


当時はベトナムが海外からの入国制限を実施したこともあり、ベトナムに帰れない若者が多くいました。妊婦や高齢者は帰国が優先されましたが、それ以外のベトナム人は帰国することができず、最大何万人というベトナム人が帰国待ちという状況に陥ったのです。

吉水さんは、彼らを保護すると同時に、出入国在留管理庁(入管庁)や法務省と掛け合い、在留資格の交付をお願いしました。その甲斐もあってか、国は技能実習生に対する雇用維持支援を発表。これは特定技能を目指す外国人に対し、最大で1年間の在留を認めるというものです。

ただし、日本で生活し続けるためには、在留期間中に特定技能試験に合格すれば良いという単純な話ではありません。「若者たちをただ保護するだけではダメで、日本語や特定技能試験の勉強もして、新しい職場に繋げていかなくてはならない。当時はかなり切羽詰まった状況で、物資支援や保護に加えて、勉強会などの支援を行っていました」

受け取った支援物資(左)/勉強会の様子(右)
受け取った支援物資(左)/勉強会の様子(右)

その際、役に立ったのがコロナ禍での助成金です。以前は寄付金で支援を行っていましたが、コロナウイルスの流行が長引くにつれ、それだけでは難しい状況になったそうです。

「衣食住の確保だけでも、かなりのお金がかかります。食費は毎日数万円かかっていましたし、着の身着のまま逃げていた人たちへは衣服の支援もしていたので、助成金の存在は本当に助かりました。また、勉強会には日本語の先生や、ベトナム語で教えられる留学生にも有償で来てもらっていました。ボランティアではなく有償でできたのは、助成金があったからにほかなりません」

ほかにも、妊産婦や病気になった人への医療支援にも力を入れています。技能実習生や留学生たちは日常会話レベルの日本語はできるものの、医療や法律に関する話を日本語でやりとりするのは難しく、日本人の支援が必要不可欠だと吉水さんは考えています。

SNSの活用など、ベトナム人の若者目線で考えた支援を

コロナ禍は数千人の保護を行ってきた「日越ともいき支援会」。それだけの規模で支援を行うとなると、お金はもちろん、人手も必要です。しかし、「日越ともいき支援会」のスタッフは日本人6人、ベトナム人12人の計18人のみ。スタッフだけでは到底この規模の支援は行えません。にもかかわらず、大規模な支援ができたのはなぜか——そのヒントは、各分野のスペシャリストとの連携にありました。

「たとえば、就労関係は連合東京、医療関係は病院の先生、行政関係は区役所の方といったように、専門分野の方々と連携して支援を行ってきました。こうした方々は、父の時代から繋がっている人もいましたし、テレビなどのメディアに取り上げられたことをきっかけに連絡をくれる方もいましたね」

吉水さんたちが自ら発信することはほとんどなかったそうですが、それでもたくさんのメディアが「日越ともいき支援会」を取り上げました。当時、東京を拠点とする支援団体のなかで「日越ともいき支援会」がかなり大規模だったことにくわえ、取材依頼を一切断らなかったことがメディア露出の機会を増やしたのでは、と吉水さんは考えています。

「業界の襟を正すにはメディアの力も重要です。技能実習制度の問題を多くの人に知ってもらうため、現在も技能実習生へのインタビューなどは積極的に受けています」

吉水さんたちが自ら発信することはほとんどなかったそうですが、それでもたくさんのメディアが「日越ともいき支援会」を取り上げました。当時、東京を拠点とする支援団体のなかで「日越ともいき支援会」がかなり大規模だったことにくわえ、取材依頼を一切断らなかったことがメディア露出の機会を増やしたのでは、と吉水さんは考えています。 「業界の襟を正すにはメディアの力も重要です。技能実習制度の問題を多くの人に知ってもらうため、現在も技能実習生へのインタビューなどは積極的に受けています」

吉水さんたちが自ら発信することはほとんどなかったそうですが、それでもたくさんのメディアが「日越ともいき支援会」を取り上げました。当時、東京を拠点とする支援団体のなかで「日越ともいき支援会」がかなり大規模だったことにくわえ、取材依頼を一切断らなかったことがメディア露出の機会を増やしたのでは、と吉水さんは考えています。 「業界の襟を正すにはメディアの力も重要です。技能実習制度の問題を多くの人に知ってもらうため、現在も技能実習生へのインタビューなどは積極的に受けています」
日越ともいき支援会による支援の様子

支援する側の人手を充実させる一方で、もう一つ重要なのが、困窮しているベトナム人に支援の情報を届けること。「日越ともいき支援会」は約1万人へ物資支援、数千人の保護を行いましたが、これだけ大規模な支援ができた背景には、日頃からSNSでベトナム人と繋がる地道な活動がありました。

「コロナ前からFacebookのMessengerを通して、ベトナム人の若者と積極的に繋がっていたのです。『ベトナム人を助ける日本人がいる』ということを、ベトナム人コミュニティの中で周知することが大事だと考えていました」

その活動の成果は、コロナ禍に顕著に現れます。吉水さんのもとへ、ベトナム人からSOSの連絡がひっきりなしに届くようになったのです。こうしたSOSに対し、東京近辺に住んでいる人に対しては寺院に来てもらい、遠方で東京に来るお金がない人に対しては、東京までの交通費を振り込み、来てもらったのだそう。多いときには1日何百件と来ていたSOSを、吉水さんは一つも断りませんでした。

コロナが落ち着いた現在は、Facebookでベトナム人と繋がるのはもちろんのこと、TikTokを活用した啓発事業も実施。TikTokでは、日本の法律についてや、就労のための窓口紹介など、日本で生活するにあたって必要な事柄を伝えています。 「ベトナム人が使っているSNSはFacebookとTikTokが多いので、私たちもこの2つを活用しています。相談窓口などで『何かあったら電話して』と言われることも多いのですが、彼らはSIMカードを持っていない人がほとんど。自分のスマートフォンから電話ができないので、電話は手段としてはあまり意味がありません。支援を私たちの自己満足で終わらせないためにも、彼らの目線で考えることが重要です」
寺院でベトナム人たちと食事をする吉水さん(右から4人目)

コロナが落ち着いた現在は、Facebookでベトナム人と繋がるのはもちろんのこと、TikTokを活用した啓発事業も実施。TikTokでは、日本の法律についてや、就労のための窓口紹介など、日本で生活するにあたって必要な事柄を伝えています。 「ベトナム人が使っているSNSはFacebookとTikTokが多いので、私たちもこの2つを活用しています。相談窓口などで『何かあったら電話して』と言われることも多いのですが、彼らはSIMカードを持っていない人がほとんど。自分のスマートフォンから電話ができないので、電話は手段としてはあまり意味がありません。支援を私たちの自己満足で終わらせないためにも、彼らの目線で考えることが重要です」

技能実習生の人権を守るために。重要なのは、しっかりとした支援体制の構築

コロナ禍ではさまざまな支援活動を行ってきましたが、なかでも印象に残っているのは、2022年11月に愛媛県西予市の縫製工場に対して、技能実習生11人への不払い金2,700万円の支払いを求めたこと。この問題が明るみに出ると、生産委託元のワコールホールディングスは技能実習生の生活を支援するとして、「日越ともいき支援会」に500万円の寄付をしました。ほかにも、問題を知ったいくつもの会社が声を上げたり、ニュースを見た一般の人から暖かい声をかけてもらったりしたといいます。

「厚生労働省の方に『歴史を変えてくれてありがとう』、周りの方からは『頑張ったね』などと声をかけてもらったことが本当に嬉しかったです。私としては特別頑張ったわけではなくて、いつも通りの支援をしていたのですが、その結果たくさんの人に知ってもらうことができました」

縫製工場で働くベトナム人の皆さんと
縫製工場で働くベトナム人の皆さんと

愛媛県西予市の縫製工場の問題は、不払い金の額も大きかったため、多くのメディアに取り上げられ話題になりました。しかし、これは氷山の一角に過ぎず、日本各地ではこうした不払い金問題をはじめとして、企業から不当に解雇されるなどトラブルが相次いでいます。

こうした状況を受けて、政府の有識者会議は2023年4月、現在の技能実習制度を廃止し、新しい制度へと移行する案を示しました。この新制度について、吉水さんは根本的な問題解決にはなっていないと話します。

「たとえば、現在は原則不可とされている転職について緩和の方針が示されていますが、転職できないから失踪などの問題が起こるわけではありません。何かあった際に技能実習生から相談を受けたり、支援したりする体制が機能していないことが問題なんです」

本来であれば、企業と技能実習生の間にトラブルが起こった場合、実習生の受け入れ先に指導を行う「監理団体」と呼ばれる組織や、監理団体から報告を受けるなどする「外国人技能実習機構」が問題解決や支援を行います。しかし、こうした仕組みが十分機能していないために、労働環境や人権侵害に関するトラブルが後を経たないと吉水さんは考えています。

「まずは監理団体、そのあとに外国人技能実習機構、と相談ステップを踏むわけですが、ここで問題解決に繋がらないと、実習生たちも諦めるしかなく失踪してしまうんです。その問題を解決しないまま転職の制限を緩和しても、『1年我慢して働いたら、より時給の高い東京に行こう』といった実習生が増えるだけ。まずはしっかりとした支援体制を構築することが必要だと思います」

帰国の途に就くベトナム人たち
帰国の途に就くベトナム人たち

技能実習生を取り巻く環境は少しずつ変化の兆しを見せていますが、現在も「日越ともいき支援会」には日々相談やSOSの連絡が届きます。吉水さんはこうした現場の声を東京出入国在留管理局や厚生労働省に届け、ベトナム人の保護や支援だけでなく、国側にも支援の充実を図るよう働きかけています。

日本人とベトナム人がともに生きる社会を目指して、「日越ともいき支援会」はこれからもベトナム人の命と人権を守る活動を続けていきます。

事業基礎情報【1

実行団体特定非営利活動法人 ⽇越ともいき⽀援会
事業名在留外国人コロナ緊急支援事業
活動対象地域全国
資金分配団体特定非営利活動法人 ジャパン・プラットフォーム
採択助成事業2020年度新型コロナウイルス対応支援助成<随時募集3次>

事業基礎情報【2

実行団体特定非営利活動法人 ⽇越ともいき⽀援会
事業名在留外国人コロナ緊急支援事業
活動対象地域全国
資金分配団体公益財団法人 日本国際交流センター
採択助成事業2021年度新型コロナウイルス対応支援助成<随時募集7次>

東近江・雲南・南砺ローカルコミュニティファンド連合(東近江三方よし基金、うんなんコミュニティ財団、南砺幸せ未来基金によるコンソーシアム)が、2023年7月10日に開催した、「ローカルな総働で孤立した人と地域をつなぐ」事業の成果報告会の動画です。

内 容


00:00:00 開会


00:00:12 開会挨拶


00:01:21 事業概要


00:07:50 11団体の事業報告


00:44:35 事業実施によって明らかになった事象や気付きに関する報告


00:56:10 本事業の特徴(JANPIAのプログラムオフィサーからの視点)


01:06:54 パネルディスカッション 「市域におけるコミュニティ財団と旧身預金活用」


01:47:09 閉会挨拶

主 催

公益財団法人 東近江三方よし基金 https://3poyoshi.com/

公益財団法人 うんなんコミュニティ財団 https://www.unnan-cf.org/

公益財団法人 南砺幸せ未来基金 https://www.nantokikin.org/

後 援

一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)

今回の活動スナップは、休眠預金活用事業が取り上げられた論文「コロナ禍におけるキャッシュ・フォー・ワーク」が、2022年度 地域安全学会技術賞を受賞した際の授賞式の様子をお伝えします。

活動の概要

一般財団法人 リープ共創基金は、休眠預金活用事業(新型コロナウイルス対応緊急支援助成)の資金分配団体として、「キャッシュ・フォー・ワーク」(※1)の手法を用い、2020年度より「地域課題の解決を目指した中間的就労支援事業」、2021年度より「コロナ後社会の働き方づくりのための助成」に取り組んでいます。

その2つの事業の概要と成果がまとめられた論文、「コロナ禍におけるキャッシュ・フォー・ワーク」が、この度、地域安全学会の2022年度 技術賞(「キャッシュ・フォー・ワーク:災害レジリエンスを高める社会技術」)を受賞しました。

コロナ禍におけるキャッシュ・フォー・ワーク|地域安全学会梗概集 No.50, 2022.5

  




※1「キャッシュ・フォー・ワーク」(Cash for Work)とは、災害復旧・復興事業に被災者を雇用し、賃金を支払うことによって、被災者の自立を促すと同時に、よりよい災害対応や復興を促進する手法のこと。(地域安全学会梗概集(NO.50、2022.5)「1.キャシュ・フォー・ワークとは何か」より引用)。
震災・復興時に実践された手法として、永松 伸吾教授(関西大学・防災科学技術研究所)が提唱。


活動スナップ

2023年5月27日、神奈川大学 みなとみらいキャンパスにて、論文の表彰式が行われました。地域安全学会 村尾 修会長より、永松 伸吾教授(関西大学・防災科学技術研究所)、加藤 徹生 代表理事(リープ共創基金)、竹之下倫志 プログラム・オフィサー(JANPIA)に対し、表彰状と記念品が手渡されました。

※共同受賞者は、永松 伸吾教授のほか、加藤 徹生・新宅 圭峰・細田 幸恵(リープ共創基金)、竹之下倫志(JANPIA)の4名です。

△左から 村尾会長(地域安全学会)、加藤代表理事(リープ共創基金)、永松教授(関西大学・防災科学技術研究所)、竹之下 プログラム・オフィサー(JANPIA)と、同席した鈴木 均 シニア・プロジェクト・コーディネーター(JANPIA)

授与式終了後、永松教授による基調講演が行われました。講演では、リープ共創基金が実施した休眠預金活用事業の実行団体として、延べ24団体が採択され、コロナ禍で発生した64件の地域課題解決の試みが行われたことや、421人の若者の雇用が生まれたことなど、事業の成果が紹介されました。 永松教授からは、「今回の受賞は大変励みになる」として、JANPIAをはじめ、プロジェクトに携わった方々への感謝の意が述べられました。
△基調講演を行う永松教授

授与式終了後、永松教授による基調講演が行われました。講演では、リープ共創基金が実施した休眠預金活用事業の実行団体として、延べ24団体が採択され、コロナ禍で発生した64件の地域課題解決の試みが行われたことや、421人の若者の雇用が生まれたことなど、事業の成果が紹介されました。 永松教授からは、「今回の受賞は大変励みになる」として、JANPIAをはじめ、プロジェクトに携わった方々への感謝の意が述べられました。

■事業基礎情報【1】

資金分配団体一般財団法人 リープ共創基金
事業名

地域課題の解決を目指した中間的就労支援事業〈2020年度緊急支援枠〉

活動対象地域
全国
実行団体

・特定非営利活動法人 北海道エンブリッジ

・認定特定非営利活動法人 Switch

・特定非営利活動法人 農スクール

・認定特定非営利活動法人 コロンブスアカデミー

・特定非営利活動法人 G-net

・一般社団法人 サステイナブル・サポート

・一般社団法人 フミダス

・特定非営利活動法人 LAMP

・株式会社キズキ

・一般社団法人 グラミン日本

・特定非営利活動法人 全国福祉理美容師養成協会

・特定非営利活動法人 学生人材バンク

・一般社団法人 YOU MAKE IT

■事業基礎情報【2】

資金分配団体一般財団法人 リープ共創基金
事業名

コロナ後社会の働き方づくりのための助成〈2021年度緊急支援枠〉

活動対象地域
全国
実行団体

・特定非営利活動法人 学生人材バンク


・一般社団法人 ステップフォワード


・特定非営利活動法人 WELgee


・特定非営利活動法人 全国福祉理美容師養成協会


・特定非営利活動法人 なんとかなる


・ディースタンダード株式会社/特定非営利活動法人 み・らいず2


・一般社団法人 グラミン日本/特定非営利活動法人 北海道エンブリッジ


・特定非営利活動法人 どりぃむスイッチ


・認定特定非営利活動法人 キドックス


・特定非営利活動法人 G-net

休眠預金活用事業では、社会的インパクト評価の実施が特徴の一つとなっています。一方、資金分配団体や実行団体の中には評価の経験があまりない団体も少なくありません。 NPO法人 地球と未来の環境基金 (EFF:Eco Future Fund) とそのコンソーシアム構成団体である NPO法人持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会(自伐協)も初めて評価に本格的に取り組む団体の一つでした。評価の実践を通じての気づきと成果、実行団体に伴走する上で実感した課題や成功体験、そして社会的インパクト評価の視点が活かされたエピソードなどについて、自伐協事務局の中塚さんと、 EFFの理事・プログラムオフィサー美濃部さんにお話を伺いました。”

そもそも、自伐型林業とは?

───まず、今回の事業の趣旨である「自伐型林業」とは、どのようなものなのか。中塚さんより簡単にご説明いただけますでしょうか。


中塚高士さん以下、中塚)はい。自伐型林業とは、地域の山を地域の人たちで管理する形の林業です。チェーンソーと小型重機・運搬用のトラックがあれば、個人や少人数で低コストから始めることができます。

そもそも従来の林業は、大規模な伐採が必要な「現行林業」が主流でした。戦後復興に伴い木材の需要が高まっていた時代、山林にたくさんの大型機械と人材を投入し、大規模に植樹と伐採を行うスタイルが確立していたのです。

しかし需要が落ち込むに連れ、そのような大規模な林業の経営を持続的に行うことが難しくなっていきました。そこで近年注目されているのが、「自伐型林業」です。

林業従事者が減少し続ける中、「新しい田舎での暮らし・仕事のあり方」として若者や移住者からの注目も集まっています。また国土の7割を占める日本にとって、山林を活用した「地方創生の鍵」としても全国の自治体から期待が高まっています。

「休眠預金活用事業」への申請の背景

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である東北・広域森林マネジメント機構の研修風景
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である東北・広域森林マネジメント機構の研修風景

───そういった林業の歴史やスタイルを踏まえ、休眠預金活用事業への申請の背景・経緯について、お聞かせいただけますか。 

 

中塚:現行林業については、国の取り組みとして林業従事者を育成する支援も多く実施されてきました。しかし自伐型林業を含め、小さな林業従事者に向けた育成や研修プログラムはほとんどありません。「地域の山を守る仕事がしたい」「新しい働き方として林業に挑戦したい」と意欲ある新規参入者がいる一方で、機械の使い方や木の切り方がわからない、学ぶ場もない……、という課題がありました。 

 

それならば、国の手が行き届かない小さな林業従事者に向けた育成・研修支援を実施しよう!と決意をし、その資金繰りとして、休眠預金活用事業への申請を検討し始めました 

 

そのような中、自伐協にもコロナで生活困窮されている方からの声は届いていました。 

 

「もう都会を離れて田舎でやるしかない」 

「勤めている会社が業績悪化で休業状態なんです」 

「観光客が減ってしまったから、林業も兼業したい」 

 

そういった方々に向けて、何かできることはないか?と考えていたところ、資金分配団体(20年度コロナ枠)の公募が始まったので、非常に良いタイミングで申請をさせていただいたと思っています。 

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である九州地区自伐型林業研究会の研修メンバー(左)と道を作ってる様子(右)
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である九州地区自伐型林業研究会の研修メンバー(左)と道を作ってる様子(右)

事業をする中で感じた課題・難しさ

───今回の事業を進める上で課題や難しさはありましたか? 

 

美濃部 真光さん(以下、美濃部)実行団体のさんも、私たち自身も、自型林業に関わる団体なので、森づくりの活動についての計画や目標設定は得意分野なのです。しかしコロナ枠ではコロナ禍においての失業者されている方を救うための助成という慣れないテーマということで、もちろん志は高く持っていましたが事業を進めるうえでは四苦八苦しました。そのため実行団体の事業計画策定の時期に、これまで経験がある「森づくりに関する研修の実施」にどうしてもフォーカスしてしまって、コロナによる生活困窮支援という視点が弱くなっていたことに事業実施途中で気が付いたのです。 

 

どれくらいコロナ禍における生活困窮支援につながったのか?という部分の目標設定曖昧だと、事業の成果も正確に測れません。当時は緊急助成ということで事業の実施を急いでいたこともありましたが、そこが一番の反省点でしたただ実際実行団体の各現場では、研修を実施して終わりではなく、受講された一人一人に対して丁寧に相談対応されていたので、その成果示すために、研修参加者に事後的にアンケートをとました。アンケート結果を実行団体の皆さんがコロナ枠の事業の後半戦に生かしてくださったっていうところが、事業の成果を高めるうえでとても大きかったと思っております。 

 

───他に、社会的インパクト評価を実施する上でも難しさありましたか? 

 

中塚:休眠預金を活用させてもらっている以上、成果報告もしっかり行いたいと思う一方、林業従事者の方々にとって書類作成の作業は不慣れな部分が多く、サポートをする私たちも苦戦しました。実際、書類の中で実施内容と成果をごちゃ混ぜに書いてきたり、要点がまとまっていなかったり。やって終わり、ではなく評価を可視化する難しさを感じました。 

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である奥利根水源地域ネットワークによる道づくり(左)と薪づくり(右)
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である奥利根水源地域ネットワークによる道づくり(左)と薪づくり(右)

“評価”をやってみての気づき

───評価に取り組んで、どのようなことを感じていますか? 

 

中塚:苦労はしましたが、これまでやってこなかった「評価」を意識できたのは良い経験でした。最近、伐協においても、自治体との事業非常に増えてきたのですが、これまでだったら勢い任せに「研修をやりますよ!」と提案していたところも、根拠や計画を示しながら要素を整理して説明できるようになりました。どうやったら自型林業が、個人の生業に、地域の貢献につながるか?」を定量・定性の側面からお伝えできています。 

 

美濃部:私もこれまでは、ロジックモデルの構築やアウトカムを想定した目標設定などに不慣れだった分、休眠預金活用事業を通じて経験できたことで大変勉強になりました。NPO法人が解決したいと思う社会課題は、人々の関心が寄せられていないからこそ、そこに課題があると思っています。無関心層の人々に対して、いかにしてコミュニケーションを取るべきか。そこを論理的に説明できなければ、私たちを含めたNPO法人の発展性はないと思っています。なので評価を含めた本事業の運営を経験できたことは、今後の私たち自身の活動にとっても良かったと思います。 

 

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である天竜小さな林業春野研究組合がめざす「役場機能を真ん中に、食・水・森林・エネルギー・教育・育児・医療・福祉をつなぐ持続可能なコミュニティ」(左)と作業小屋と団体メンバー(右)
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である天竜小さな林業春野研究組合がめざす「役場機能を真ん中に、食・水・森林・エネルギー・教育・育児・医療・福祉をつなぐ持続可能なコミュニティ」(左)と作業小屋と団体メンバー(右)

───実際に、評価が活かされたと感じるエピソードはありますか? 

中塚:各実行団体で行った研修の講師陣が、研修終了後も受講生と連絡を取り、定着のサポートをしていたことです。そこまでの講師陣の熱量の高まりは想定外のできごとでした。 

事務的に研修を行い、人数や日数といった数字だけを気にするのではなく、今回の事業の目的である「コロナ禍による生活困窮支援」ということを評価を通じて講師陣もしっかり認識し、それぞれの地域に戻って就業していく受講生たちのこれからを慮り、その後の活動や人生にも目を向けたサポートをしたい!という想いが芽生えたようです。 

実際、事業終了後も、受講生の地域を見に行ったり電話で連絡を取ったりと、研修の域を超えた関係が続いているとのことです。これは思いもよらぬアウトカムでした。定着までしっかりサポートしようという講師陣の姿勢は、評価に向き合ってきたからこそ、つながったのではないかと考えています。 

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体であるふくい美山きときとき隊の研修風景(左)とチェンソーの安全講習(右)
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体であるふくい美山きときとき隊の研修風景(左)とチェンソーの安全講習(右)

今後について

───最後に、今後の展望についてもお聞かせください。 

 

中塚:研修に参加さる方や関心を持ってくださる方には、林業の技術だけでなく、生業にしていくために必要な知識もセットでお伝えしていきたいです。 

 

実際、地域で自伐型林業を始めるとなると、山や機械を確保したり、販路を考えたり、他の自治体の事例を見せながらどんな地域貢献につながるかを自治体に説明したり、やらなければならないことが多方面にわたって出てきます。 

 

新たに採択を受けた22年度コロナ枠では、実行団体の皆さんとそういった自伐型林業を続けていくため必要な総合的な支援を生活困窮者の皆さんに向けてお伝えし就業に結び付けていけたらと考えています。助成規模も20年度コロナ枠と比較して大きくなりましたし実行団体の採択も全国に広げていきたいです 


美濃部:休眠預金活用事業に取り組めたこと自体が、とても良かったと感じています。EFFの強みである助成金プログラムの運営を活かしつつ、中塚さんたち自伐協や、ランドブレイン株式会社という他分野の団体とコンソーシアムを組んで助成事業を展開できたことは非常に学びがありました。 

 

実際、今回を機に多方面から「一緒に休眠預金活用事業ができないか?」というような声もいただいていて。これからは農業や福祉との連携など、さまざまな切り口での展開に可能性を感じています。なのでこれからまた、申請について検討し、ご相談させていただくかもしれません。よろしくお願いします!

取材に応じてくださった美濃部さん(左)と中塚さん
取材に応じてくださった美濃部さん(左)と中塚さん

【事業基礎情報】

資金分配団体

特定非営利活動法人 地球と未来の環境基金

2020年度緊急支援枠コンソーシアム構成団体
・特定非営利活動法人 持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会

▽2020年度通常枠&2022年度コロナ・物価高騰枠コンソーシアム構成団体
・特定非営利活動法人 持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会
・ランドブレイン株式会社

助成事業

〈2020年度緊急支援枠〉
失業者を救う自伐型林業参入支援事業
~アフターコロナの持続・自立した生業の創出~[事業完了]

〈2020年度通常枠〉
地域の森林を守り育てる生業創出支援事業
~中山間地域における複業型ライフスタイルモデルの再構築~

〈2022年度コロナ・物価高騰対応支援枠〉
自伐型林業地域実装による森の就労支援事業
ー生活困窮者が未来に希望を見出す仕事の創造ー 

活動対象地域
全国
実行団体

〈2020年度緊急支援枠〉

  • 一般社団法人 東北・広域森林マネジメント機構
  • 特定非営利活動法人 奥利根水源地域ネットワーク
  • 天竜小さな林業春野研究組合
  • 一般社団法人 ふくい美山きときとき隊
  • 九州地区自伐型林業連絡会


〈2020年度通常枠〉

  • 合同会社 百
  • 株式会社 ワイルドウインド
  • 株式会社FOREST WORKER
  • 一般社団法人 ディバースライン
  • 株式会社皐月屋

〈2022年度コロナ・物価高騰対応支援枠〉
※審査中

「働く」をキーワードに、生きづらさを抱える人と地域をつなぐ一般社団法人Team Norishiro(チーム のりしろ、以下「Team Norishiro」)。そこでは、生きづらさを抱える当事者が「働きもん」として薪割りや着火材作りの仕事をしていくことで、他者と関わりながら自分の働き方や生き方を見つけています。生きづらさを抱える当事者を変えようとするのではなく、当事者を受け入れる社会や地域の「のりしろ」を広げ、生きづらさを抱える人を知る、人を増やす──。そんな思いで続けてきたTeam Norishiroの活動について、代表の野々村光子さんにお話を伺いました。”

制度のはざまにいる「働きもん」たち

Team Norishiroに集う人たちは、生きづらさを感じて孤立している人、家から長年出られずコミュニケーションが苦手な人、障害がある人など、抱えている困難は人によってさまざま。支援する対象には、障害者手帳を持っていることなどの明確な「条件」はありません。既存の制度のはざまで孤立した人の手を取ろうとしている点が、Team Norishiroの大きな特徴です。

なぜそのように、誰でも支援対象とする活動に至ったのでしょうか。

Team Norishiroの野々村光子さんは、障害がある人の就労を支援する「東近江圏域働き・暮らし応援センター」のセンター長を務めています。このセンターが立ち上がってから、「センターとして手を握ろうとすると、制度上、応援していい人と応援できない人がいる、と気付きました。」と野々村さんは振り返りました。
Team Norishiro 野々村さん

Team Norishiroの野々村光子さんは、障害がある人の就労を支援する「東近江圏域働き・暮らし応援センター」のセンター長を務めています。このセンターが立ち上がってから、「センターとして手を握ろうとすると、制度上、応援していい人と応援できない人がいる、と気付きました。」と野々村さんは振り返りました。

企業の障害者雇用率を上げることを最終目標にした障害者就労支援の制度では、基本的に「障害者手帳も持っている人」が支援対象の中心とされています。
一方で、野々村さんがセンターで相談を受け始めると、当事者家族や民生委員の声を通して、障害者手帳を持っていないけれど家にひきこもっている人や、会社に馴染めず転職を繰り返している人の存在が見え始めたのです。そのような人たちは、当時の働き・暮らし応援センターによる支援の対象に入りませんでした。

それならば、と野々村さんたちが立ち上げたのが、任意団体の「TeamKonQ(チーム困救(こんきゅう)」でした。地域の困りごとを集約しそれらを仕事として、社会から孤立している当事者に取り組んでもらいます。当事者一人ひとりを「働きもん」と呼び、仕事を通じて当事者の人柄やスキルを発見していくチームです。

「平均で20年ほど自宅のみで生きて来た彼らが、本来はどんな人なのか? どんないいところを持っているのか。面談や訪問での支援方法だけでは、わかりません」

TeamKonQで仕事をつくる過程で、薪と薪ストーブの専門店「薪遊庭(まきゆうてい)」社長の村山英志さん(Team Norishiro代表)をはじめとした、地域の「応援団」の輪も広がっていったといいます。

「TeamKonQの活動の対象者は、誰でも。そんな『ようわからんこと』に、村山さんたちが賛同してくれて。社会の穴に落ちてしまう人はこれからも増えていくだろうし、同時に地域の困りごとも増えていくから、この活動を継続させていこうと思っています」

就労を促すよりも、「手伝ってくれんか?」と声をかける

TeamKonQで薪割りに取り組んだ背景には、2010年に東近江市で「緑の分権改革推進事業」として実施された、地域の雑木林から自然エネルギーを生むまでの実証実験が関係します。その過程の薪割りは、村山さんが自ら手がけても、働きもんがやっても結果は同じ。それなら、働きもんに仕事にして関わってもらえばいい、と村山さんが野々村さんに相談したことがきっかけでした。

薪割りの活動の継続性を高めるために、2020年には一般社団法人化し、「Team Norishiro」を立ち上げ。「のりしろ」という名前に込めた意味について、野々村さんはこう話します。

働きもんの薪割りの様子
働きもんの薪割りの様子

「生きづらさがある人に社会や学校教育が求めるのは、本人の『伸びしろ』。本人が変わっていく前提で考えられているから、家から出られたら次は仕事、と当事者は次々にステップアップを求められる。でも人間は本来、ステップアップするために生きているわけではないですよね。
働きもんが、無理に自分を変える必要はないんです。むしろ社会の側が働きもんを受け入れられるような『のりしろ』を少しでも広げることで、働きもんと関われる重なりができる。そうすれば、社会の穴に落ちてしまっている人たちと手を握っていくことができると思います」

今では薪割りだけでなく、地域で出る廃材を活用した着火材作りにも取り組みます。薪割りよりも体力の必要がなく、作業工程が明確なので、働きもんが参加するハードルを下げられたそう。
福祉の視点から立ち上げられたのではなく、「雑木林をどうしたらいいだろう」「この廃材、なんとかならんか」と地域の課題を持ち寄って集まった人たちが始めた活動。「そこで働きもんが中心になって、地域にあるさまざまな課題が解決されて、活動が広がっている。すごく珍しいケースだと思いますね」と野々村さんは語ります。

では「働きもん」は、どうやってTeam Norishiroの活動に参加するのでしょうか。

例えば、野々村さんのいる働き・暮らし応援センターのもとに、息子がいる80代の女性から相談が入ります。「うちの息子は10年間、家にいる。息子が一人になったとき、息子は働けるんやろか」。その相談を受けて、野々村さんが本人を訪問します。そのとき、企業への就労については触れません。
「着火材を作っているんやけど、コロナ禍でバーベキューがブームになっていて、すごい売れている。暇なんやったら、世間のために着火材作りを手伝ってくれんか?」

誘われた本人は「着火材ってなんですか?」と興味を持ち、Team Norishiroの仕事現場に通うようになる。そこから人と関わるようになり、働き・暮らし応援センターの支援にもつながっていく。そんなケースが多いそうです。 「ポイントは、『ひきこもり支援をしています』などと発信しないこと。福祉や就労支援をキーワードに掲げてしまうと、当事者は来てくれなくなります。ただ単純に『そこにいけば仕事がある』という環境づくりをする。私たちの活動を地域の口コミで広げてもらうことで、これまで私たちが出会えていない人にも届けたいです」
働きもんの皆さんが作られた着火材

誘われた本人は「着火材ってなんですか?」と興味を持ち、Team Norishiroの仕事現場に通うようになる。そこから人と関わるようになり、働き・暮らし応援センターの支援にもつながっていく。そんなケースが多いそうです。 「ポイントは、『ひきこもり支援をしています』などと発信しないこと。福祉や就労支援をキーワードに掲げてしまうと、当事者は来てくれなくなります。ただ単純に『そこにいけば仕事がある』という環境づくりをする。私たちの活動を地域の口コミで広げてもらうことで、これまで私たちが出会えていない人にも届けたいです」

成果指標は「当事者を何人が知っているか」

Team Norishiroでは2020年4月、資金分配団体「信頼資本財団」から実行団体として採択され休眠預金活用事業をスタート。

薪を配達するためのトラックを買い替えたり、冷房がなくて作った着火材が溶けてしまうこともあったため作業場所の設備を改修したりと、活動を続けていくために必要不可欠な基盤を整えました。

休眠預金活用事業の特徴は、活用の対象になる事業に、既存の制度の裏付けがいらないこと。Team Norishiroのような、既存の制度のはざまの人たちへの支援活動にも活用が可能です。
「生活に困窮している人、自死のリスクがある人、障害がある人のように、困っている理由は人それぞれ。しかし既存の制度を使うと、支援の対象がどうしても限定されてしまう側面があります。全面的にバックアップしてくれる休眠預金活用事業は、支援対象への考え方が違いました」
休眠預金を活用した結果、2020年からの2年間で、総勢56人の働きもんが仕事に参加。そのうち14人は、地域の企業への就労にもつながりました。

しかし、Team Norishiroでは「何人が就職できたか?」よりも大切にしている成果指標があると言います。それは、「1人の働きもんを、何人が知っているか?」という指標です。
「最初に当事者の親御さんから相談を受け、私が会いに行くと、本人を知っている人が親御さんと野々村の2人になります。着火材の作業に来てもらうと、他の働きもんたちがその人のことを知ります。さらに、働き・暮らし応援センターのワーカーが、具体的な支援策を組み立てながら、その人のことを知っていくんです」

結果、本人は頼まれて着火材作りに来ているだけで、当事者の人生を知る人が増えていく。その成果指標を重視しながら、当事者が社会や地域と関わる「のりしろ」を広げています。
さらに働きもんを見守っているのは、一緒に働くメンバーだけではありません。薪や着火材の購入、資材の提供などを通して働きもんの活動を応援する「応援団」が、この2年間で約250人も増えました。

応援団を増やすために重要なのは、ストーリーの発信だと言います。働きもんを単純に「障害者」「ひきこもり」と括るのではなく、一人の働きもんの物語を丁寧に伝え、物の購入を通じてその背景にいる働きもんにも思いを馳せてもらう発信を心がけます。

Team Norishiroの発信の先に思い描く未来について、野々村さんはこう語ります。
「働きもんは、『失敗した人』でも『残念な人』でもない。発信を通じてそう伝え続けると、その発信を受け取った人が、『親戚でひきこもりの子がいるけれど、残念な子ではないんや』と気づける。それが、孤立しそうな人と手をつなぐ一歩目になります。
私たちの活動を知った方から『のりしろ』が広がっていったら、それが最終目的と言っても良いかもしれません」

古民家を、地域におけるセーフティネットに

Team Norishiroではこれまでの活動に加えて、2021年3月からは資金分配団体「東近江三方よし基金」の採択事業として、集落にある古民家の改修と活用の事業も始めました。

コロナ禍で、社会の穴に落ちた人たちの声はさらに外に出づらくなった今、家庭内での障害者への暴力が発生していたり、外出を控え続けて餓死寸前になっていたりと、厳しい状況が生まれています。 これまで「働く」をキーワードとしてきた野々村さんは、「職場」だけではない「誰かが自分のことを知っている場」が、地域に必要だと感じ始めました。 そうしてスタートした古民家の改修事業では、古民家を「大萩基地」と名付け、誰でも利用できるスペースにしました。すでに、福祉業界の若者の勉強会、行政の職員のひきこもり支援の勉強会、当事者の働きもんが集う会など、多様な使われ方をしています。

古民家を改修し出来上がった大萩基地

「今後は、とりあえず大萩基地まで行けば誰かに会えて正しい情報をもらえたり、ご飯が週1回でも食べられたりして、『困っています』と手を挙げなくても命が守られるセーフティネットをつくりたいです」
同時に、大萩基地が「一人暮らしの訓練場所」として機能することも目指しています。
障害者のグループホームにはショートステイの制度があり、一人暮らしの練習が可能です。ただ、ショートステイの制度は福祉サービスなので、障害者手帳が必須。働きもんの中には、障害者手帳がなかったり、あっても隠したい人がいたりするため、制度の活用が難しい状況にあります。
そんな働きもんに「お母さんがずっと料理しているのを見てきたんだから、一緒に一回作ってみよう」と誘って、大萩基地で食事を作ってみる。「できるやん。1人で暮らせるやん」と練習を重ねる。そんな使い方を考えているそうです。

Team Norishiroの活動をサポートしてきた資金分配団体「東近江三方よし基金」の西村俊昭さんは、働きもんの一人に「地域で暮らすために必要なもの」を尋ねた際の答えが印象的だったと話します。
「『困ったときに声をかけてくれる人が一人でもいたら、生きていける』という答えがありました。大萩基地や応援団の存在によって、一人の働きもんでも『あそこがあるから何とかなる』と思える活動になっていたら嬉しいです。それに、同じような活動を他の地域でも実現できるんじゃないかと思います」(西村さん)

取材の際には、東近江三方よし基金の西村さんも同席

最後に、Team Norishiroのエンジンであり続けてきた野々村さんに、今後の目標を聞きました。
「我々がやっていることはまだまだ、特別なことだと思われてしまいます。これを、特別じゃないものにしたい。そのために、困難を抱えている当事者ではなく、当事者とともに生きる地域や社会を変えていきたい。
あとは、活動を続けることです。休眠預金を活用して活動の基盤が整ったので、そのときにできるベストな活動を見つけて、継続していきたいです」



【事業基礎情報】

実行団体
一般社団法人 Team Norishiro
事業名
「働く」をアイテムに孤立状態の人と地域をつなぐ
活動対象地域
滋賀県
資金分配団体
公益財団法人 信頼資本財団
採択助成事業
孤立状態の人につながりをつくる

<2019年度通常枠>
実行団体
一般社団法人 Team Norishiro
事業名
空き家を活用して命を守りつなぐ場づくり
活動対象地域
滋賀県東近江市
資金分配団体

公益財団法人 東近江三方よし基金
(東近江・雲南・南砺ローカルコミュニティファンド連合 コンソーシアム幹事団体)
(コンソーシアム構成団体:
 公益財団法人 うんなんコミュニティ財団、公益財団法人 南砺幸せ未来基金)
採択助成事業
ローカルな総働で孤立した人と地域をつなぐ
~日本の変革をローカルアクションの共創から実現する~
<2020年度通常枠>

休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」では紹介できなかった映像を再編集しました。ぜひご覧ください。

今回の活動スナップは、一般社団法人ローランズプラス(資金分配団体:READYFOR株式会社)。休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」の制作にご協力いただきました。シンポジウム用の動画ではご紹介できなかった動画を再編集し、撮影に同行したJANPIA職員のレポート共に紹介します。””””

活動の概要

一般社団法人ローランズプラスは、原宿でフラワーショップとカフェを運営しています。勤務しているスタッフ60名のうち45名が、障がいや難病と向き合いながら働いていることが特徴です。

さらに中小企業の障がい者雇用促進の取り組みを広げるために、2020年に休眠預金を活用した事業を実施。障がい者雇用の算定特例制度を活用し、複数の中小企業と福祉団体が連携して障がい者の共同雇用を行う仕組みを整えて、事業を開始しました。1社単独ではハードルが高い障がい者雇用を、複数企業と福祉団体が連携することで実現するモデルとして注目されています。

活動スナップ

撮影に同行したJANPIA職員のレポート

カラフルな花に囲まれたカフェ・フラワーショップ「ローランズ」。ひとりでも気軽に入れる雰囲気で、お花やグリーンの鉢植えに囲まれて幸せな気持ちでランチやスイーツを楽しむことができます。フルーツサンドやスムージーなどのメニューは、思わず写真を撮りたくなるかわいらしさです。

併設されたフラワーショップには彩り豊かなお花がならび、スタッフがアレンジメントを手際よく制作しています。リーダーの高橋麻美さんは、ローランズで働き始めて6年目です。

スタッフミーティング中の高橋麻美さん]

「もともとお花が好きで、ハローワークで求人を見て応募しました。とはいえ、大学を卒業してから病気のことで入退院を繰り返していたので働いた経験がなく、障がいがあるので、入社前は仕事を続けられるか不安でした。

今ではローランズで他のスタッフと一緒に力を合わせて働くのがとても楽しく、やりがいを感じています」

高橋さんの働く姿を撮影!スタッフは、ZAN FILMSの本山さん、明石さん

高橋さんのように障がいや難病と向き合うスタッフがいきいきと働くローランズには、障がい者雇用のノウハウが蓄積されています。そのノウハウを、障がい者雇用に困難を感じる中小企業に共有し、障がい者を共同で雇用する仕組みを構築する新規事業をスタートするために、休眠預金等活用事業を活用しました。

ここまでの成果として、2022年4月までに6社と連携し、16名の新規雇用を生み出すことに成功。今後は新たに70名を共同雇用する予定です。

ローランズ代表の福寿満希さんは、障がい者雇用のニーズの高まりとは反比例して、コロナ禍での新規事業の立ち上げに大きな不安を抱えていたと話してくれました。

インタビュー中の、福寿満希さん

「新しいことに踏み出すときはとてもエネルギーが必要で躊躇していたのですが、資金分配団体の伴走支援があったおかげで、1歩を踏み出すことができました。常にタスクの優先順位を一緒に確認してくれたおかげで、計画どおりに進められています。

今後は、東京で立ち上げた障がい者の共同雇用のモデルを地域に展開し、地域の中小企業が障がい者雇用に踏み出すお手伝いをしていきたいです」

ローランズが目標として掲げるのは、「多様なひとが一緒に働ける彩り豊かな社会」。実現のために、これからは東京から地方へと、そのノウハウと仕組みを広げていきます。

【事業基礎情報】

実行団体一般社団法人 ローランズプラス
事業名ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業
活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業新型コロナウイルス対応緊急支援事業
〈2020年度緊急支援枠〉