少子高齢化が進む日本において、特に高齢化が顕著な過疎地域の医療・ケアへのアクセスをどう実現していくかは大きな課題です。一般社団法人コミュニティヘルス研究機構は、2024年の能登半島地震に際し、被災地支援の一環として、医療・ケア専門職によるチーム「DC-CAT」を立ち上げ、支援活動を実施。2023年度の休眠預金活用事業(緊急枠、資金分配団体:特定非営利活動法人エティック)に採択され、被災によって医療・保健サービスにアクセスできない住民の「受療機会の担保」などを目的に新たな事業を立ち上げました。今回は、機構長・理事長の山岸暁美さんに、被災地での取り組みと地域への引き継ぎを前提とした支援のあり方などについてお話を伺いました。
地域に即した医療・ケアと継続可能な女性のキャリアを実現するために
一般社団法人コミュニティヘルス研究機構は、医療・保健・福祉・健康に関する学術調査や臨床研究を通じて、現場の医療やケアの質向上、地域との連携促進に取り組む団体として、2017年4月に山岸暁美さんによって設立されました。山岸さんは、病院勤務や訪問看護に従事した後、厚生労働省で在宅医療政策などに携わる中で、「もっと地域の実情に即した支援がしたい」という思いを抱くようになります。そうした思いをかたちにするべく、慶應義塾大学医学部に籍を置きながら同機構を立ち上げ、理事長・機構長に就任。設立当初の動機の一つは、育児や介護によって中断しがちな女性のキャリアを継続できる仕組みをつくることでした。

山岸暁美さん(以下、山岸)「私自身も経験しましたが、医療や看護などの仕事に携わる女性が子育てや介護によって仕事を離れると、履歴書上キャリアに空白ができてしまいます。その間、どこかに所属して可能な範囲で仕事ができるような仕組みを作れないかと考え、国や自治体から仕事を受託し、それを分担して行うという小さな活動からスタートしたんです」
主な事業は、在宅医療・看護、高齢者介護、高齢者救急、地域連携、コミュニティヘルスに関する事業支援、研究支援、実装支援など。また、BCP(業務継続計画)に関する厚生労働省の専門家委員会の委員長として、BCP策定支援研修やモデル事業にも取り組んでいます。
能登半島地震の直後から専門チームを立ち上げ、支援に動き出す
2024年1月1日、石川県能登地域で最大震度7を観測した大規模な地震が発生し、広範囲にわたって甚大な被害がもたらされました。
災害支援にはいくつかのフェーズがあり、発災直後は、命を救うため、特に手厚い公的支援が行われますが、状況が落ち着いていくと、地元の医療機関やケア機関などにバトンタッチしていくもの。しかし、今回のように大きな災害の場合は、通常の体制ではカバーしきれない部分が出てきます。特に、被害の大きかった奥能登地域(二市二町)のうち一市一町では、発災前から高齢化率が5割を超え、残る一市一町や激甚災害の認定を受けた6市町でもその割合は4割以上。こうした地域には、ケアを必要とする人がたくさん暮らしていました。そのため、建物の倒壊や土砂崩れなどに巻き込まれたことによる「災害直接死」だけではなく、発災から数週間〜数カ月経過した時期に怪我や病気の悪化、ストレスなどによって亡くなる「災害関連死」が増えることが心配されていました。こうした状況を受けて、山岸さんが1月8日にコミュニティヘルス研究機構のプロジェクトチームとして立ち上げたのが、公的支援のすき間を補い、中長期的に被災地の支援や復興に関わる医療・ケア専門職のチーム「DC-CAT(Disaster Community-Care Assistance Team)」です。チームのメンバーは現役の看護・ケア職であることから長期的な支援を行うことは難しいものの、「みんなの小さな力を集結して大きな力にしよう」という思いのもとに発足しました。
山岸「DC-CATの目的は、公的支援を補完しながら増大するケアニーズに対応することです。助かった命のその先の『生きる』を支え、災害関連死を阻止し、地域医療やケア機関の復旧プロセスの支援に動きました」

DC-CATは、まず石川県七尾市以北の6市町を活動エリアとし、県庁とタッグを組んで、支援要請を受けた避難所や福祉避難所に災害支援活動のスキルを持つケア専門職(看護師・介護福祉士・社会福祉士・薬剤師・歯科衛生士など)を派遣する支援を行いました。さらに、介護施設や障害者施設への支援にも多数のメンバーが参画。延べ2,000人のメンバーが現地支援に入りました。
調査から見えた課題をもとに「ヘルスケアMaaS事業」がスタート
発災から数カ月経過すると公的支援が撤退し始めます。被災した人たちも避難所から農作業などの仕事に向かうようになると、避難所や仮設住宅に戻ってから体調が悪くなる人が増えたため、夕方から夜間にかけて地元の医師会や保健師が電話対応をすることになりました。しかし地元の人たちだけでは負担が大きいため、DC-CATの看護師が地元の医療機関や保健師との盤石な連携体制を整備することを前提に、「電話対応であれば、被災地以外にいる医療・看護職でも対応できるのではないか」との考えから生まれたのが、健康相談ダイヤル事業です。
さらに、現地活動や地元保健師との連携、さまざまなデータから、被災地ではいまだに医療・保健サービスにアクセスできない人が多くいるという実態が見えてきました。こうした状況を踏まえ、コミュニティヘルス研究機構では、移動診療車を活用した、ヘルスケアMaaS事業を計画。特定非営利活動法人エティックが実施する休眠預金活用事業の2023年度緊急枠に申請し、採択されました。
山岸「保健師たちと一緒に、特にアクセスの悪い4地域に対して住民悉皆調査を行いました。調査によって判明したのは、震災前より医療機関の受診を控える人が多いこと、その主な理由が移動手段の不足であること、薬をもらいに行きづらいため薬を飲む量を減らしている人がいることなどです。また、オンライン診療については消極的な住民が多いものの、『看護師のサポートがあれば利用してみたい』という意向があることもわかりました。半年でむせやすくなった、体重が減った、夜眠れないといった声も多く、その場しのぎの医療ではなく、ケアや予防の視点からのアプローチが必要だと考えました。こうした背景から、モビリティの活用によってヘルスケア全般を支える取り組みとして『ヘルスケアMaaS(Mobility as a Service)事業』と名付けました」

現地に足を運び、画面越しにつながる。オンラインで実現した医療・ケアのかたち
こうして始まった「ヘルスケアMaaS事業」。休眠預金活用事業の助成金は、移動診療車のリース、看護師の雇用などに活用。まずは7月に志賀町で、看護師が同乗した移動診察車が集会所などに出向き、車内のテレビ電話を使って診療所や病院の医師とつながるオンライン診療(D to P with N:Doctor to Patient with Nurse)をスタートさせました。
事業評価のための調査で患者さんからの評価が高かったこととして、医師による診療、薬剤師の服薬指導のあとに、看護師から「わからないところはなかったですか?」といったフォローがあることが挙げられました。また、集会所など、家から歩いていける場所で診療が受けられる点も、移動が困難な高齢者に好評。一方、医師にとっても、看護師が事前にバイタル測定やアセスメントを行い、その情報を要点化して伝えることで、診察の効率が高まるというメリットがありました。


穴水町では集会所が被災して集まれない地域があったため、その場合は看護師が患者さんのご自宅に出向いて、デバイスを操作しながらオンラインで診療を行いました。さらに、診療だけでなく、栄養士による栄養指導を行うなど、保健分野でも同様にオンラインの活用を広げていきました。
山岸「事業開始前は、関係者などから『インターネットに馴染みのない高齢者の方がオンライン診療を受け入れられるのか』という心配の声がありました。ただ、実際に画面越しにかかりつけ医の顔が映ると、『先生!』とうれしそうに呼びかける人たちの姿も見られ、想像以上に柔軟に受け入れられた印象です。当初はオンライン診療に対して消極的だった地域でも、新たに就任した地元病院の院長がオンラインで『研修医時代から能登にご縁があり、これからも住民の皆さんとここでの医療を支えていきたい』とお伝えされる姿に涙を流す住民の方もいて。そこから『ああやって先生と話せるのなら、受けてみようかな』とオンライン診療に前向きになる方が増えていきましたね」

有事から平時へ。地域に引き継がれるヘルスケア事業
2024年6月から2025年2月にかけて実施された「ヘルスケアMaas事業」では、休眠預金活用事業の終了後も、地域で持続的にサービス提供ができるように体制づくりを進めました。具体的には、被災地に外部の支援チームが入り続けるのではなく、行政や地域の医療機関・人材で運用できるように、ノウハウの継承や環境整備を実施。県と県医師会、県看護協会が設立した第三セクター「石川県医療在宅ケア事業団」へ運営を引き継ぎました。
また、当初は被災直後という状況から、高額な遠隔診療システムや大型の移動診療車など、災害支援の即応性を重視した設備の導入が想定されていました。しかし、現地の医療関係者とも事業の継続性について検討を重ね、提案、実施、評価のサイクルを何度も重ねた結果、最終的に手軽に導入しやすいZoomの活用や軽自動車を用いた診療に切り替えるなど、運用の柔軟な見直しが行われました。さらに、事業の一環として始まったケースカンファレンス(事例検討会)も、初回の参加者12名から最終回には90名以上が集まる場へと発展。発災前はこうした6市町の医療者が一堂に会し、医療やケアについて話し合う場はなかったとのことで、このケースカンファレンスについても引き継がれていく予定です。

山岸さんは通常の仕事と並行しつつ、1年間で210日もの間、能登に入って現地で活動を続けてきたとのこと。能登半島での活動について、こう振り返ります。
山岸「住民の皆さんにも本当にたくさん助けていただきました。印象的だったのは、ビニールハウスに避難していた住民の方々が、自ら山水を引いて、薪を焚いて沸かしたお風呂に私たちにも入っていくように勧めてくれたことです。本来ボランティアは“自己完結”が原則ですが、その方たちが『やってもらうだけではこっちもしんどいんだよ』とおっしゃったことから、お言葉に甘えさせていただく形で一人1回利用させていただきました。通水して、皆さんが自宅に戻られるタイミングで御礼に伺ったところ、先述の住民さんたちが「あんたたちの世話していたら、えらい元気になってな」と満面の笑顔でおっしゃったのです。支援というのは一方通行ではなく、双方向で成り立つということを改めて実感しました」
能登半島での事業によって、有事に構築した医療・ケアサービスの仕組みが平時にも活用できることが実証されました。住民の医療アクセス向上に加えて、住民が住みたい場所で健康的に暮らすために未病・予防支援や医師の移動負担の軽減、診療の効率化など、住民と医療双方のニーズに適した地域医療への貢献が叶うことが示唆されたことはこの事業の大きな意義です。最後に今後の活動について、山岸さんに伺いました。
山岸「医療やケアは国民が生きるために欠かせないインフラです。しかし、医療制度や支援策が全国一律で設計されていることも多く、結果的に人口の多い地域を基準とした仕組みになってしまう傾向があります。また、全国的に医療・ケアの専門職の確保が難しく、また今の報酬制度では医療機関や介護事業者が経営的に厳しくなっています。これまで通りのやり方だけでは限界があり、やがて立ち行かなくなるでしょう。そうならないためにも、これまで取り組まれてこなかった方法にも挑戦し、その結果を検証して政策へとつなげていく。こうしたサイクルを地域の中で回していくことが必要だと考えていますし、私たちの機構はそのサイクルを支える役割を果たしていきたいと思っています」
【事業基礎情報】
実行団体 | 一般社団法人コミュニティヘルス研究機構 |
事業名 | 被災地における新たな未来指向の医療・ケア提供体制構築伴走支援事業 |
活動対象地域 | 石川県羽咋郡、志賀町、鳳珠郡、能登町、珠洲市 |
資金分配団体 | 一般財団特定非営利活動法人エティック |
採択助成事業 | 能登半島地震緊急支援および中長期的復興を見据えた基盤強化事業 |
休眠預金活用事業の成果物として資金分配団体や実行団体で作成された報告書等をご紹介する「成果物レポート」。今回は、資金分配団体 公益財団法人みらいファンド沖縄が発行したレポート『「認知症と共生する これからの地域づくり白書」わたしが認知症になっても、自分らしく生き続ける社会を目指して』を紹介します。
認知症と共生する これからの地域づくり白書~わたしが認知症になっても、自分らしく生き続ける社会を目指して~
我が国では、65歳以上の10人に約1人が認知症、3人に約1人が認知機能に関わる症状があると推定されています。
この白書は認知症の方々に対して「地域」でできることを、当事者の「外出支援」と「居場所づくり」という視点から調査と実証に取り組んだ5団体とともに作成した報告と提案です。
この事業に至った馴れ初めは、2007年に愛知で起こった、認知症の方が起こしてしまった踏切事故に対して、鉄道会社がその家族に高額賠償請求を起こした訴訟が、メディアをにぎわせていた2016年初頭(同年3月に最高裁が逆転判決無罪に!)のことでした。
この訴訟は、「家族が責任を問われるなら、認知症患者は家に閉じ込めておくしかないということか」という問いを世に投げかけました。
ちょうどそのころ(公財)みらいファンド沖縄に持ち込まれた、自動販売機を通して社会貢献ができないかという相談案件があり、前段の問いへのソリューションとして、自販機の特徴を活かした捜索システムを事業開発しようということで、徘徊時(当時は道迷いを徘徊という言葉を使っていた)に、早期に認知症の方を見つける「ミマモライド」というシステムを開発し、その事業会社を起こすこととなります。ミマモライドが沖縄県宜野湾市に採択され、一定の手応えが出てくる中で、道迷いになってしまう方々の自治体のエリアを超えて見守る必要性から、その広域化と認知症の方々の行ける場所の開発を目論んだ「認知症の方々も安心・安全な外出を担保できるまちづくり事業」を企画し、休眠預金活用事業に採択される運びとなったのです。
公募により、5つの団体を採択し、2022年から事業はスタートします。コロナの余波も色濃く残る時期、事業自体は様々な理由で進捗が遅れ、決して順風満帆といえる足取りとはいえないものでした。これらの固難に対して、事業担当のプログラムオフィサーは奮闘し、課題を共有し、一緒に乗り越える伴走をしてもらったことに敬意を表します。
この道程で我々は多くの気付きがあり、何度かの路線変更を経て事業を遂行し、この白書発行にたどり着きました。
この事業はこれまでの地域での「見守り」という活動のあり方に一石を投じるのもとなったと確信しております。私どもの提案を、これから示す報告とともに味わっていただければ幸いです。
【事業基礎情報】
資金分配団体 | 特定公益財団法人 みらいファンド沖縄 |
公益社団法人 沖縄県地域振興協会 | |
事業名 | 認知症の方々も安心・安全な外出を担保できるまちづくり |
活動対象地域 | 宜野湾市及びその周辺 |
実行団体 | 認定特定非営医療法人 アガぺ会 |
合同会社 GreenStarOKINAWA | |
特定非営利活動法人 グランアーク | |
南風原町社会福祉協議会 | |
西原町社会福祉協議会 |
事業完了にあたり、成果の取りまとめるために実施されるのが「事後評価」です。事後評価は、事業の結果を総括するとともに、取り組みを通じて得られた学びを今後に生かせるよう、提言や知見・教訓を整理するために行われます。今回は、2024年3月末に事業完了した2020年度通常枠【ローカルな総働で孤立した人と地域をつなぐ|東近江三方よし基金】の事後評価報告書をご紹介します。ぜひご覧ください。
事業概要等
事業概要などは、以下のページからご覧ください。
事後評価報告
事後評価報告書は、以下の外部リンクからご覧ください。
・資金分配団体
・実行団体
【事業基礎情報】
資金分配団 | 公益財団法人 東近江三方よし基金 [コンソーシアム構成団体] ・うんなんコミュニティ財団 ・公益財団法人 南砺幸せ未来基金 |
事業名 | ローカルな総働で孤立した人と地域をつなぐ <2020年度通常枠> |
活動対象地域 | 全国、市 |
実行団体 | ・一般社団法人 みかた麹杜 ・社会福祉法人 マーシ園 ・産前産後ケアはぐ ・うんなん多文化共生まちづくり協議会 ・3C「夢」Club実行委員会 ・株式会社 ガラパゴス ・湖東まちづくり ・一般社団法人 Team Norishiro ・なんとおせっ会 移住応援団 ・特定非営利活動法人 愛のまちエコ倶楽部 ・テラまちコネクト |
事業完了にあたり、成果の取りまとめるために実施されるのが「事後評価」です。事後評価は、事業の結果を総括するとともに、取り組みを通じて得られた学びを今後に生かせるよう、提言や知見・教訓を整理するために行われます。今回は、2022年3月末に事業完了した2019年度通常枠【中国5県休眠預金等活用コンソーシアム休眠預金活用事業|中国5県 休眠預金等活用コンソーシアム】の事後評価報告書をご紹介します。ぜひご覧ください。
事業概要等
事業概要などは、以下のページからご覧ください。
事後評価報告
事後評価報告書は、以下の外部リンクからご覧ください。
・資金分配団体
・実行団体
【事業基礎情報】
資金分配団 | 中国5県 休眠預金等活用コンソーシアム (幹事:特定非営利活動法人 ひろしまNPOセンター) |
事業名 | 中国5県休眠預金等活用コンソーシアム休眠預金活用事業<2019年度通常枠> |
活動対象地域 | 中国地方 |
実行団体 | ・たすき 株式会社 ・特定非営利活動法人 子どもシェルターモモ ・特定非営利活動法人 湯来観光地域づくり公社 ・特定非営利活動法人 NPO狩留家 |
事業完了にあたり、成果の取りまとめるために実施されるのが「事後評価」です。事後評価は、事業の結果を総括するとともに、取り組みを通じて得られた学びを今後に生かせるよう、提言や知見・教訓を整理するために行われます。今回は、2022年3月末に事業完了した2019年度通常枠【沖縄・離島の子ども派遣基金事業|みらいファンド沖縄】の事後評価報告書をご紹介します。ぜひご覧ください。
事業概要等
事業概要などは、以下のページからご覧ください。
事後評価報告
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・資金分配団体
・実行団体
【事業基礎情報】
資金分配団 | 公益財団法人 みらいファンド沖縄 |
事業名 | 沖縄・離島の子ども派遣基金事業 <2019年度通常枠> |
活動対象地域 | 沖縄 |
実行団体 | ・特定非営利活動法人 豊見城市体育協会 ・株式会社 ハブクリエイト ・一般社団法人 沖縄県サッカー協会 |
事業完了にあたり、成果の取りまとめるために実施されるのが「事後評価」です。事後評価は、事業の結果を総括するとともに、取り組みを通じて得られた学びを今後に生かせるよう、提言や知見・教訓を整理するために行われます。今回は、2022年3月末に事業完了した2019年度通常枠【NPOによる協働・連携構築事業|中部圏地域創造ファンド】の事後評価報告書をご紹介します。ぜひご覧ください。
事業概要等
事業概要などは、以下のページからご覧ください。
事後評価報告
事後評価報告書は、以下の外部リンクからご覧ください。
・資金分配団体
・実行団体
【事業基礎情報】
資金分配団 | 一般財団法人 中部圏地域創造ファンド |
事業名 | NPOによる協働・連携構築事業 〜寄り添い型包括的支援で困難な課題にチャレンジ!創造性を応援!〜 <2019年度通常枠> |
活動対象地域 | 中部圏(長野、岐阜、静岡、愛知、三重の5県) |
実行団体 | ・特定非営利活動法人 アイダオ ・特定非営利活動法人 侍学園スクオーラ・今人 ・特定非営利活動法人 上田映劇 ・愛知県県営住宅自治会連絡協議会 ・県営保見自治区 ・特定非営利活動法人 トルシーダ ・保見プロジェクト(中京大学) ・外国人との共生を考える会 ・特定非営利活動法人 かしもむら ・特定非営利活動法人 馬瀬川プロデュース ・一般社団法人 aichikara ・学生団体 加子母木匠塾 |
事業完了にあたり、成果の取りまとめるために実施されるのが「事後評価」です。事後評価は、事業の結果を総括するとともに、取り組みを通じて得られた学びを今後に生かせるよう、提言や知見・教訓を整理するために行われます。今回は、2022年3月末に事業完了した2019年度通常枠【地域活性化ソーシャルビジネス成長支援事業|社会変革推進財団(SIIF)】の事後評価報告書をご紹介します。ぜひご覧ください。
事業概要等
事業概要などは、以下のページからご覧ください。
事後評価報告
事後評価報告書は、以下の外部リンクからご覧ください。
・資金分配団体
・実行団体
【事業基礎情報】
資金分配団 | 一般財団法人 社会変革推進財団(SIIF) |
事業名 | 地域活性化ソーシャルビジネス成長支援事業 〜インパクトが持続的に創出されるエコシステム形成〜 <2019年度通常枠> |
活動対象地域 | 全国 |
実行団体 | ・株式会社 御祓川 ・シェアビレッジ 株式会社 ・株式会社 sonraku ・株式会社 雨風太陽(旧:株式会社 ポケットマルシェ) ・株式会社 Ridilover ・Rennovater 株式会社 |
琵琶湖の東側、雄大な鈴鹿山脈の麓に広がる田園風景。滋賀県東近江市愛東地区では、町唯一のスーパーが閉店を余儀なくされ、地域内で不安の声が高まっていました。この危機感から立ち上がった愛のまち合同会社は、「地域住民による、地域住民のための、地域住民のお店」としてスーパーを再建することに。単に買い物をするだけでなく、“就業の場”や“憩いの場”としての役割も担い、ビジネス面の課題にも果敢にチャレンジしています。休眠預金活用事業(コロナ枠)の助成を受け、21年8月にスーパーを再開してから約1年半。これまでの取り組みから現在の様子について、愛のまち合同会社の業務執行役員を務める野村正次さんにお伺いしました。[コロナ枠の成果を探るNo.2]です。
町唯一のスーパーが閉店。コロナ禍で奪われた交流の場
町唯一のスーパーの再建に向けて設立された愛のまち合同会社のメンバーは、10年前に愛東地区で誕生した「あいとうふくしモール」の運営者でもあります。さまざまな機能を有する事業所が、ショッピングモールのように軒を並べ、地域の広範なケアのニーズに対応していくーーそんな思いから名付けられた施設でした。

「あいとうふくしモールには、私が経営する地元の野菜にこだわったレストランを始め、高齢者の介護支援をする事業所、障がい者の就労を支援する共同作業所が入っています。地域には公的な制度だけでは解決しえない暮らしの困りごとが少なくありません。制度の隙間を埋め、誰もが安心できる地域の拠りどころを作りたい。そのために各事業所が自らの特技や専門性を発揮し、助け合いながら安心のまちづくりに励んできました」

あいとうモールには、日々、地域の困りごとの声が集まります。
「愛東地区唯一のスーパーが閉店するらしい」。そんな噂が野村さんの耳に入ったのは、2019年の春でした。
「スーパーの経営するご夫婦がご高齢だったのと、設備の老朽化や消費税率の変更への対応から続けていくのが難しいと。閉店すれば近所での生活必需品の調達が難しくなるだけでなく、そこで生まれていた地域内の交流がなくなることへの不安の声が大きかったのです。地域の高齢化率も33%と深刻で、車を運転できない人にとっては隣町のスーパーはおろか、地域内のスーパーに通うのもひと苦労です。その上、コロナ禍で地域内の交流は激減。これを機に改めて町の将来を考え、総合的に地域の課題に向き合う必要性を強く感じました」
愛東地区の人口は485人、世帯数は1,650世帯(2023年5月1日時点) 。野村さんいわく、「2005年の市町村合併後、人口は約2割も減少した」そうです。

危機感を覚えたあいとうふくしモール内の3事業所代表が発起人となり周囲に協力を呼びかけたところ、愛東地区まちづくり協議会や自治会の関係者、商工業者らが集合。スーパーが閉店する1ヶ月前から議論を始め、地域の課題を整理し始めました。
「早急に取り組むべきは、やはり暮らしを支えるスーパーを再建し、住民の安否確認も含めたコミュニケーションの場を取り戻すこと。ただ、単に買い物をする場所ではなく、地域内の雇用や交流を促進し、防災の拠点にもなるスーパーにしようと決まりました。」
老朽化した部分のリフォーム、トイレや交流スペースの新設……。スーパーの再建にはまとまった資金が必要だったため、まずは地域内で寄付を募ることに。目標額の300万円に対して、集まった寄付は830万円にもなりました。

地域住民からの大きな期待に必ずや応えたい。寄付以外の資金調達の道を模索する中、地元の公益財団法人 東近江市三方よし基金が休眠預金活用事業の2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成の公募が始めたと知り、申請したのでした。
スーパー再建後、少しずつ戻ってきた愛東地域の「日常」
休眠預金活用事業として採択されたのち、野村さんらは着々と準備を進め、当初の予定通り、2021年8月に新しいスーパー「i・mart(アイマート)」をオープンします。

中には買い物ができるスペースのほか、テーブルやカウンター席のある交流スペース、トイレを新設。交流スペースではコーヒーやお茶が飲めるほか、定期的に講座や作品展などのイベントが催され、参加者が帰りに買い物をしていく様子も見られます。
加えて、移動販売用の車や宅配用の電動バイクも購入し、地域に22ある自治会すべてに週1回は必ず訪問。特に山間部の地域は、移動販売に行くたびに利用者が増えてきていると言います。
「スーパーには、なるべく地域内で作られたものを置くように意識しています。少しでも地域内でものやお金、人が循環する仕組みが作れたらいいなと。あいとうふくしモールでは、社会参加が難しい若者の就労を支援するため、若者たちと一緒に農産物を育てたり、梅干しや味噌などを手作りしてたり、それらを使って『あいとうむすび』というおむすびを作っています。地元の先人から知恵や技術を継承する機会にもなってますし、アイマートに出荷し商品を陳列する中でお客さんとも触れ合い、自分たちの作ったものが売れる喜びも実感しているようです」

嬉しい変化はそれだけではありません。スーパーのオープン日に野村さんはある光景を目にします。家族に連れてきてもらった高齢のおばあさん二人が偶然にも再会した様子で、「久しぶりに会えたね」と嬉しそうに会話をしていたのです。
「愛東地区ではしばらく見られなかった光景を目の当たりにして、胸がじんわりと熱くなりました。ここまで頑張ってきて本当によかったなと。また、小学生や中学生が放課後に来て交流会スペースで話したり、ゲームしたり、再建前に比べて家族づれも増えました。前の経営者が『客層が変わったね』と言うくらい、幅広い世代が利用しています」
コロナ禍で失われていた愛東地区の日常が、少しずつ戻ってきている。再建前から思い描いていた姿に近づきつつあるi・martを前に、野村さんは確かな手ごたえを感じています。
身近な応援者の心強さ。再建後の期待に応え続けるために
「まちづくりに関わる事業に携わって長いですが、今回のような事業を支援してくれる助成金はあまり多くありません。その点、今回の助成事業は支援対象の幅が広く、使用用途の制限も固くは決められていなかったのがありがたかったです。何にいくら使ったかということだけでなく成果を重視し、また、それを支援してくれる資金分配団体が身近にいるのも心強かったです」
新型コロナウイルス対応緊急支援助成について、野村さんはこう評価します。
「いくら地域のためとはいえ、民間会社がスーパーを作る事業に助成していただくのはなかなか難しいと思います。それが実現したのは、創業当初より東近江市の活性化を目指して活動しているコミュニティ財団である東近江三方よし基金さんが、私たちのコミュニティマートをこの地域に必要な事業だと評価してくださったからです。事業期間中はもちろん、期間が終了したあとも定期的にアドバイスをくださって。おかげさまでスムーズに事業に取り組むことができました」
スーパーの再建から約1年半。最近は、地域のさまざまな団体がi・martを盛り上げるために力を貸してくれています。秋には地域の支援団体が焼き芋を販売したり、年末には自治会のグループが年越しそばを振る舞い、正月には餅つき大会が開催されました。

活気づいてきた反面、課題もまだまだあります。
「開店直後は多くのお客さんに来ていただきましたが、『商品の充実さに欠ける』『前のスーパーとは違う』『接客が悪い』などのご指摘を受け、一度は客足が遠のいたこともありました。コミュニティマートとはいえ、やはり商売は商売です。地域の人たちの支援や期待に甘えるのではなく、商売として成り立つための訓練は必要だなと感じています」
一ビジネスとしても成長するため、2022年10月からは年中無休だったのを第1日曜日のみ休業に変更。職員研修の機会に充てています。
「年商1億円を目指して1日30万円の目標を設定していますが、移動販売も含めて現在は25万円。あと5万円をどうアップするかが課題です。その一歩を築くために、1番の売れ筋である手作りの惣菜や弁当の売り上げ強化を掲げています。売上も含め、スーパーの目標地点にたどり着くために、誰が何を担当すべきかを見立てて実行に移しています」

意識は行動に表れ、行動は結果に結びつく。それを証明するかのごとく、職員研修を始めてからは、売上も伸びてきたと言います。
当然、求めるのは売上ばかりではありません。今後、i・martをどんなスーパーにしていきたいか? 野村さんは、最後にこんな言葉を残してくれました。
「正直、お客さんにとってはスーパーとして常に一番手である必要はないと思っているんです。普段は隣町の大型スーパーを利用する人にとっては、三番手、四番手の存在になってもいい。ただ、『ちょっと日用品が切れてたから』とか、小さなことでも困ったときにときに、地域の誰もがいつでも利用できる、そんな安心な場所でありたいなと思っています」
【事業基礎情報】
実行団体 | 愛のまち合同会社 |
事業名 | 店舗再生による持続可能な地域課題の解決 |
活動対象地域 | 滋賀県東近江市 |
資金分配団体 | 公益財団法人 東近江三方よし基金 |
採択助成事業 | 2020年度新型コロナウイルス対応支援助成 |