認定特定非営利活動法人 ミューズの夢(以下、ミューズの夢)は、ハンディの有無にかかわらず子どもたちに質の高い音楽とアートに触れる機会と、自由に表現できる環境をつくることを目指して活動してきました。コロナ禍で活動が制限され、子どもたちにも不安が広がるなか、「離れていても芸術に触れることができ、一緒に参加できる楽しいプロジェクトを」と、2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成〈資金分配団体:公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(以下、セーブ・ザ・チルドレン)〉を活用した取り組みを進めています。芸術監督を務める仁科彩さんに伺いました。
不安な時期だからこそ、芸術に触れる機会を
20年前、宮城県仙台市で設立されたミューズの夢は、2つの事業を柱に活動に取り組んでいます。ひとつは、それぞれの子どもの発達とニーズに寄り添った音楽やアートのサポート教室の運営。もうひとつは、県内のこども病院や特別支援学校などを訪れて音楽療法士による授業を行ったり、音楽に触れる機会の少ない子どもたちへプロによるコンサートを届けたりする訪問事業です。
「サポート教室には、さまざまなハンディを抱えた子どもたちが多く通っています。設立当初から通っている生徒さんのなかには、その間に成人された方もいて、皆さんと一緒に成長してきた活動なのです。一人ひとりの個性に寄り添うことと、個性が育まれる環境を誰もが持てるように心がけることを、何よりミューズの夢では大事にしてきました」と話すのは、ミューズの夢の芸術監督を務める仁科彩さん。仁科さんは日本と北米を拠点にする作曲家であり、音楽講師としても活躍されています。

しかし、全国的なコロナ感染拡大によって、ミューズの夢の活動も大きな影響を受けました。2020年春は4ケ月間にわたりすべての活動を休止。一旦は教室を再開したものの、2021年8月に宮城県に緊急事態宣言が出た際も、再び教室を休止せざるを得ませんでした。これまで病院や事業所、特別支援学校などで年間90回近く行っていた訪問事業も、再開のめどが立たないままです。
「コロナのことを理解できていないお子さんも、テレビのニュースや家族の様子から何か大変なことが起きていることを感じています。そのような中、外に出られなくなり家に閉じこもるなど、震災のトラウマを思わせる行動を見せたお子さんもいたのです」
さらに、訪問事業で訪れていた長期入院中の子どもたちが、コロナ禍で面会や外出が制限されていると聞いた仁科さんたちは、こうしたストレスの強い状況に置かれている子どもたちの様子が気がかりだったと言います。
そこで、「コロナ禍だからこそ遠隔でも参加でき、これまでのように音楽とアートに触れられるプロジェクトが必要なのではないか」という思いから、2020年8月にセーブ・ザ・チルドレンが資金分配団体となって実施した新型コロナウイルス対応緊急支援助成「社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業」に申請。その後、審査を経て採択され2020年末から始めた取り組みのひとつが「Kotori Project(コトリ・プロジェクト)」でした。
子どもたちから届いた、個性溢れるコトリたち
「Kotori Project」には、その名の通りコトリ(小鳥)をモチーフにしたロゴマークが使われています。これはアートプログラム全体を監修する米国在住のデザイナー・田村奈穂さんによるデザイン。テーマカラーを決めるときは、田村さんとミューズの夢の生徒さんたちやこども病院の元患者さんが何度もやりとりをしながら一緒に考えました。

コトリの線画をプリントした紙を、こども病院や特別支援学校、発達支援事業所など19か所に配布して、「もしあなたがトリだったら、どんなお洋服を着たいですか?」とデザイン作品を募集したところ、252名から約500作品が届きました。
ミューズの夢の生徒さんたち、東日本大震災で大きな被害を受けたエリアにある放課後デイケアに通う子どもたち、入院中の子どもたちなどが参加しています。
「自宅や病院といった離れた場所からでも、子どもたち、ボランティアの若者、そして大人たちが『みんなで一緒に参加している感覚』をもてること。それが、プロジェクトを考えるときに一番意識したポイントでした」

作者の名前とともに作品をひとつずつ紹介するインスタグラム(SNS)ページには、さまざまな色や素材に彩られた小鳥たちがずらり! 大胆に塗られたカラフルな作品もあれば、布や木の枝を貼ったコラージュのような作品、また、真っ白な羽毛だけを使った現代アートのような作品もあり、その豊かな創造性にハッとさせられます。
「どれも発想が自由ですごいですよね。こんな素晴らしい作品が届くなんて、私たちも予想していませんでした。田村さんも『現代美術館に展示されていてもおかしくない!』と驚いたほどです」
仁科さんは、「この子の才能を評価していただいた事は初めてです」とある生徒さんのお母さんが嬉しそうな様子で話してくれたことも印象に残ったそうです。
「子どもたちは絵を描くことが楽しいだけでなく、お母さんが『すごいね、すごいね』と喜んでくれるので、その様子を見てさらに嬉しくなる。そして、また力作を描いてくれるんです」
インスタグラムのページでは、音楽に携わる世界中の中高生や大学生から募集したオリジナル音楽が流れる動画も紹介していて、東北の子どもたちが描くアートと海外の若者たちが作った音楽とのコラボレーションも生まれています。
絵本のユニバーサルデザインと「心のケア」
このKotori Projectはさらに発展し、現在では子どもたちから集まった作品で絵本をつくる取り組みも進んでいます。
「作品があまりに素晴らしいので展覧会をしたいという話が出たのですが、いまはコロナで難しい。そこで 絵本を作ろうということになったのです」
絵本のストーリーは音楽講師や音楽療法士によるオリジナルで、一羽のコトリのもとに楽しい仲間が集まってくるという内容です。弱視の子どもでも読みやすいようにデザインを工夫したり、発語療育に使われている言葉を文章に取り込んだり、音声でも楽しめるオーディオブックにするなど、「絵本のユニバーサルデザイン」を目指しています。
「どんな子どもも楽しめる絵本にしてほしいというのは、ミューズの夢の保護者の方たちからのリクエストでもありました。絵本が完成したら参加した子どもたちや子ども病院、特別支援学校などに配布予定です。この絵本を通じて、あとでコロナ禍を振り返ったときにつらかった体験だけでなく、楽しかった体験も思い出して自信にしてほしい」

さらに、ミューズの夢では子どもたちの「心のケア」に取り組む活動を開始。
「コロナ禍が子どもの東日本大震災のトラウマを引き起こすケースもあったという話を聞き、自然災害やコロナなどの緊急事態が起きたときに、子ども自身や周りにいる大人が読むことでトラウマケアにつながるような絵本の執筆を、臨床心理士であるUdeni Appuhamilage 先生に依頼したのです」
先ほどの子どもたちの作品を使った絵本は3歳から対象ですが、心のケアのための絵本は小学校中学年以上向け。Udeni先生によって英語で書かれた物語を、さまざまなボランティアさんの手で日本語をはじめ多言語に翻訳し、世界中どこからでもダウンロードできるようにする計画です。
「心のケアの絵本制作にあたっては、資金分配団体であるセーブ・ザ・チルドレンが開催する『子どものための心理的応急処置』というワークショップを受けたことが大きな参考になりました。子どもの権利に取り組んできたセーブ・ザ・チルドレンが伴走してくださることで、事業がより深まったと感じています」

事業を通じて感じた「子どもたちへの敬意」
ミューズの夢では、このほかにも助成事業の一環として、コロナ禍で訪問事業ができない代わりに音楽配信を行う「Strings of Love」などの取り組みも行っています。
仁科さんは、コロナ禍でも変わらない子どもたちの芸術に向かう熱意と誠実さ、そして周りを思いやる気持ちから、私たちが学ぶべきことがたくさんあるのではないかと話します。
「ハンディを抱えた子どもたちはサポートを受ける立場になることが多いのですが、実際にはどんな子どもも自分自身を立て直すだけの力を持っています。音楽やアートに触れて自分の表現を見つけることが、そうした『生きる力』につながります。私たちにできるのは、その機会を共に創り続けること。そして、生み出されたアートや音楽を世の中に発信していくことで、ハンディを抱えた子どもたちの教育や文化的な権利がもっと見直されてほしいと思っています」
■休眠預金活用事業に参画しての感想は?
今回、休眠預金活用事業として助成をいただいていることが信頼になって、県内の他団体とのネットワークづくりもスムーズに進めることができたと感じています。また、子どもの権利に取り組んできたセーブ・ザ・チルドレンには資金分配団体として伴走していただき、的確なアドバイスをいただきながら事業を進めてきました。何より「一緒に子どもたちのいる環境をよくしましょう!」といつも仰ってくださることが嬉しく、セーブ・ザ・チルドレンとミューズの夢の相乗効果で、Kotori Projectを展開することができたのだと思っています。(仁科さん)
■資金分配団体POからのメッセージ
ミューズの夢のみなさんは、「どんな障害や病気があっても、すべての子どもに芸術を楽しむ権利がある」と熱意をもって今回の事業に取り組んでくださっており、かつ大きな成果もあげています。今回は新型コロナウイルス感染症流行下での緊急助成事業でしたが、社会から周縁化されてしまっている子どもたちに芸術面での支援や機会が必要だということを、これから広く日本社会に伝えていくきっかけになる大事な取り組みだと思っています。(公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 鳥塚さん)
取材・執筆:中村未絵
【事業基礎情報】
実行団体 | 認定特定非営利活動法人 ミューズの夢 |
事業名 | 緊急事態下における子ども及び若者による芸術創造活動の支援事業 副題:芸術教育のユニバーサルデザインとトラウマケアに関する取り組み |
活動対象地域 | 全国 |
資金分配団体 | 公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン |
採択助成事業 | 『社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業』 〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉 |
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、不要不急の活動停止を余儀なくされたことで、老若男女問わず、心も身体も疲弊する日々が続く昨今。資金分配団体である「みらいファンド沖縄」では、休眠預金を活用して子どもたちを支援する実行団体からの取り組み報告を通じ、彼らが抱える「困りごと」を明確にし、どのような改善策があるのかを2回にわたる「円卓会議」で検討しました。
地域の「困りごと」を社会課題として捉える 「地域円卓会議」の仕組みとは?

オンラインでの意見交換を取り入れつつ、全2回開催された本会議は、公益財団法人みらいファンド沖縄が過去10年間で開催してきた「地域円卓会議」の94回目、95回目にあたります。みらいファンド沖縄では、こうした会議を地域の「困りごと」を社会課題として共有・共感する場(イシューレイジング※1)として定義し、それぞれが抱える課題、そして社会課題を市民がしっかりと受け止め、議論ができる場所として参加者を募っています。
※1 「イシューレイジング」とは?・・・・・・「イシュー=テーマ」を世の中に認知してもらうことを指す。
特筆すべきは、「円卓会議」と呼ばれるスタイルで開催されている点。論点提供者と着席者と呼ばれる各関係分野の専門家を中心に参加者が円を描くように丸く座り、それを一般参加者であるオーディエンスが取り囲むスタイルで進行します。
今回の会議の第1回(円卓会議の94回目)は、『みらいファンド沖縄』の副理事長・平良斗星氏のあいさつからはじまり、休眠預金活用事業の資金分配団体として資金的支援・伴走支援をしている5つの実行団体の代表者が論点提供者となり、センターメンバーと呼ばれるパネリスト(着席者)3名を迎え、オーディエンスはオンラインにて参加するという形で実施されました。
各支援団体の現場報告から考える、 コロナ禍における子どもたちの放課後の過ごし方の変化
第一回の「地域円卓会議」のテーマは、「コロナ禍において、子どもたちの放課後の過ごし方はどう変化したのか?各現場の報告から考える。」です。
会議は、休眠預金を活用した「新型コロナウイルス対応緊急支援助成事業」の一環として開催され、各実行団体が1年後の事業目標として、それぞれの事業を継続できる体制を整え、社会的に孤立する人々の支援、またその取り組みによって課題の明確化と社会との共有を目指すというもの。それぞれの現場の声をもとに新しいセーフティネットの政策提言の発信を行っていきます。
会議の大きな流れは、論点提供者(6名)から、現在子どもたちと関わる各団体が抱えている課題や疑問に対しての解決策などを、地域の方、またステークホルダに対して論点を話すことからはじまりました。テーマに基づいて論点提供者(前述の各実行団体の発表者)から実際に取り組んでいることと、解決に向けた意見(セッション)が出されると、これらを踏まえて、センターメンバーである各分野の専門家によるコメントを受け、次に幾つかのグループに分かれた一般の方々に討論をしていただくサブセッションを実施。最後は各グループの代表者による意見発表を通じ、再びセンターメンバーたちがテーマを掘り下げていきます。

こうした会議内の様子や意見は手書きの記録が残され、パネリストからオーディエンスまで全員で振り返りができる仕組みになっています。テーマや取り組みに対する認識を改めて深められるのも大きな魅力の一つです。
参加した実行団体の方々は、いずれも、沖縄県内で学童や児童館、不登校やひきこもりなど、地域に密着して支援を行っている皆さんです。初回は6団体のうち子ども関連の活動をしている5つの実行団体による現場の活動と成果・課題などが発表され、二回目の会議には5つの実行団体からの報告をもとにそれを深めた議論をして、政策提言につなげるための議論が行われました。
大切なのは子どもの視点で考えること。行政と民間支援の連携で「困りごと」の解消を目指す

各実行団体の取り組み報告を通じて、コロナ禍におけるさまざまな制約によって間接的に子どもたちの時間が奪われたことから、生活リズムの崩れ、DV、ネグレクトといった深刻な問題が浮き彫りになりました。
その反面、音楽を通じた成功体験から自信を取り戻していく姿、ICT化で不登校やひきこもりの子どもたちに新たな道を示せたこと、さらに少人数での預かりを実施した学童保育などではトラブルも軽減し、施設内はもちろん、家庭内でも子どもたちと丁寧に向きあうことができたなど、子ども一人ひとりに最適化したケアの視点が得られたといった結果報告が上がりました。


こうした現場の意見を踏まえ、沖縄大学の島村先生をはじめとする着席者は、子どもの視点で考えることの重要性、また市民が議論をして行政にあげることも大切だが、市民活動でどこをどのようにフォローしていくのかを検討することも非常に重要であると投げ掛けます。
また一般参加者による発表を受け、各支援団体の方からは、こうした円卓で支援者間のネットワーキングができることで行政と繋がる際の座組を想定できること、加えて、各団体が行政に話をしにいくことを遠慮し過ぎていたことも課題点としてあげ、行政と民間で得意なことを活かした連携ができるような仕組みづくりを目指すべきといった感想もでていました。
子どもの権利保障やケアの重要性を再認識 。「円卓会議」を終えて見えてきた今後の課題
進行を務める平良氏より、二回の会議を総括する最後のまとめとして「緊急時の優先順位で行政はやるべきことが多い。そんな中で、それでも重要な子どもの権利の保障、ケアのための「連携」を「有機的に」していくためには、どのような権限移譲、そして予算設定をすればよいのか?」という問いが立てられました。
着席者からは、「学校と福祉、それぞれが持つ子どもたちの情報を一元化して管理できるような専門セクションを作るべきである」といった意見がだされました。これは、まさに今話題の子ども庁の構想と重なる内容であり、現場で強く求められていることを再認識することができました。
行政に対しては、アウトプット指標だけではなく、アウトカム指標を見て欲しいという評価に関連するニーズがあること、加えて民間の支援者たちとの連携や支援における権限についての意見も多くあがり、継続的な課題として検討を重ねていくことになりそうです。
■資金分配団体POからのメッセージ
子どもの居場所活動は多岐にわたっています。本事業においても、厳しい環境におかれた子どもたちを主とした対象とする、公民館活動の中の学童、児童館、子ども食堂、放課後音楽活動などさまざまです。現場で日々子どもたちに接している実行団体の報告は迫力もあり、子どもたちへの愛が詰まっていて、大変興味深い内容でした。私たちはこうした円卓会議などを通して、相互に学び合いつつ、共通の課題について話し合い、コロナ後の活動に繋げることを目指しています。
(公益財団法人みらいファンド沖縄『コロナ禍で孤立したNPOとその先の支援』事業 / 鶴田厚子氏)
この会議の様子はアーカイブとしてYouTubeで視聴可能です!
【事業基礎情報】
資金分配団体 | 公益財団法人みらいファンド沖縄 |
助成事業 | 『コロナ禍で孤立したNPOとその先の支援~アフターコロナに必要な団体の存続のために』 〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉 |
活動対象地域 | 沖縄県 |
実行団体 | ・特定非営利活動法人1万人井戸端会議 |