休眠預金活用事業紹介Movie|えんがお編

休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」では紹介できなかった映像を再編集しました。ぜひご覧ください。
休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」では紹介できなかった映像を再編集しました。ぜひご覧ください。

今回の活動スナップは、特定非営利活動法人芸術家と子どもたち(資金分配団体:特定非営利活動法人 まちぽっと)。休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」の制作にご協力いただきました。シンポジウム用の動画ではご紹介できなかった動画を再編集し、撮影に同行したJANPIA職員のレポート共に紹介します。””

活動の概要

芸術家と子どもたちは、東京都豊島区を拠点に、現代アーティストと子どもが出会う「場づくり」を行っているNPO法人です。アーティストが小中学校や児童養護施設、特別支援学級などへ出かけていき、ダンスや演劇、音楽などのアートに関するワークショップを実施することで、多様な子どもたちに文化的な体験を提供してきました。

2020年からは3か年計画で休眠預金を活用し、母子生活支援施設や子ども食堂に通う子どもたち、外国にルーツを持つ子どもたちなどを対象にした活動をスタート。音楽や演劇、ダンスなどを用いて、自己表現力や自己肯定感、コミュニケーション能力を育んでいます。

活動スナップ

撮影に同行したJANPIA職員のレポート

堤康彦さん、撮影の様子。撮影はZAN FILMSの本山さん、もろこしさん。

「アーティストはモノの見方が新しくおもしろい。そういったアーティストの専門性やクリエイティビティと、子どもが出会うことで、どんな化学反応が起きるのかワクワクしませんか」

『芸術家と子どもたち』の代表を務める堤康彦さんが、活動を始めたきっかけを紹介してくれました。例えば、学校の授業では学習が難しく、突飛な行動をしてしまう子どもが、アーティスト・ワークショップではおもしろいアイデアを出して生き生きとリーダーシップを発揮するケース。正解や間違いがなく、おもしろがったり褒めあったりすることで「みんなが認め合える場」として、アーティスト・ワークショップを子どもに届けています。

一方で、活動の根幹には強い課題意識があります。日本社会、特に東京のような都市部で暮らす子どもは、日々の生活に困難さを感じているのではないか。子どもにとって大切な「体験する機会」が奪われていないか。コロナ禍で、貧困家庭やひとり親家庭の子どもはどう過ごしているのか。

『芸術家と子どもたち』がアーティスト・ワークショップを重視している理由は、子どものときから自分を素直に出して人とコミュニケーションをする体験が、とても有効だと考えているからです。自己肯定感が低くて自信を持てないことは、他者との関係構築が難しくなるなど、人間関係にさまざまな弊害をもたらすため、子どものときにありのままの自分を認める体験を届けようとしています。

休眠預金を活用し、資金分配団体である『まちぽっと』の伴走支援を受けて活動を進めるなかで、豊島区内の団体でのコラボレーションが実現しました。同じ豊島区で、子ども食堂や遊び場を運営する『豊島子どもWAKUWAKUネットワーク』との連携が実現し、食堂に集まる子どもを対象に演劇のワークショップを定期的に行っています。

この連携によって活動の幅が拡がっただけでなく、とても大切な気づきがあったと事務局長の中西麻友さんが教えてくれました。

中西麻友さん、撮影の様子。

「今までは児童養護施設などの既存施設にいる子どもを対象に活動してきましたが、今回活動してみたことで、その入所対象からは外れてしまうものの、困難な状況にいる子どもがいることを知りました。そういう子どもの存在は見えにくく、制度に置き去りにされています。彼らに対して私たちが何かできることはないか、と考え始めました」

この問題意識をもとに、福祉の現場で活動する団体との連携をさらに進め、母子生活支援施設※の子どもに向けたワークショップも開始しました。

※生活上のさまざまな課題を抱え、子どもの養育に困難を抱える母子世帯の生活と自立を支援する児童福祉施設。

ワークショップの最後に行う発表会には、地域の大人も招待しています。地域の人が見守っていてくれて、褒めてもらえると、子どもは「自分は見てもらえている」という実感を得ることになるからです。

「人とつながる経験は子どもの心に残って財産になり、成長して壁にぶつかったとしても、前向きな原動力になると信じています」

中西さんが力強く話してくれた言葉が、とても印象に残りました。

【事業基礎情報】

実行団体特定非営利活動法人芸術家と子どもたち
事業名プロの芸術家による表現ワークショップを通じた当事者の交流及び共同創作事業
活動対象地域東京都
資金分配団体特定非営利活動法人 まちぽっと
採択助成事業市民社会強化活動支援事業
〈2019年度通常枠〉

一般社団法人Kids Code Clubは、「子どもへのテクノロジー学習の支援を通じて、子どもたちが笑顔で希望を持って生きていける社会をつくる」というビジョンを掲げて活動しています。コロナ禍で、子どもたちが遊び・学び・交流する機会が激減する中、2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成(資金分配団体:一般社団法人SINKa)を活用し、「生きる力を育む子どもの居場所づくり事業」に取り組まれた同団体の代表理事・石川麻衣子さんに話を伺いました。

自身の経験から「全ての子が学べる環境づくり」を志す

Kids Code Clubは、2016年から福岡を拠点として、プログラミング学習の機会を小中学生の子どもたちに無料で提供する活動を行っています。
「私たちの目的は、プログラミングのスキルをただ身につけてもらうことではありません。あくまでもプログラミング学習は手段であって、それを通して子どもの生きる力を育み、居場所をつくりたいと思っているのです」と石川さん。その思いは、ご自身の原体験から生まれています。

Kids Code Club 代表理事 石川麻衣子さん

石川さんはいわゆる貧困世帯で生まれ育ち、学費を払えずに九州大学を中退。「ひとり暮らしで日雇いバイトを続ける毎日。月給の仕事に就きたくても数日先のお金に困る状態で、生活はどん底でした」と当時を振り返ります。そんな中、友人から古いパソコンをもらい、ウェブサイトを作る方法を独学で懸命にマスターし、2008年に28歳でウェブの制作会社を立ち上げました。

2015年、貧困であるがゆえに子どもが命を落とすという悲惨な事件が千葉で起こり、連日報道されました。この事件に、母親になっていた石川さんは大きなショックを受けたといいます。
「私は生きる力を身につけて、貧困からどうにか生活を立て直しました。自分にできることがないかと考え、ちょうどその頃に注目され始めたプログラミング教育に着目して、どんな子でもプログラミングを学べる環境をつくろうと決意しました。」

海外とつなぐイベントやクラブを無料で開催

2016年、小中学生を対象として、プログラミングを体験できる無料のイベントをスタート。本業の傍ら、石川さんの思いに賛同したボランティアの人たちと一緒に、できる範囲で活動していました。
そのうち、シアトルのNPOから声がかかり、日本とシアトルをネット中継でつなぎ、現地の名だたるIT企業に勤める日本人エンジニアなどから学ぶ「英語で学ぶコンピュータ・サイエンス」プロジェクトも開始。当時、インターネットを介して授業を受けるスタイルは珍しく、先進的でした。

そして2020年、日本でコロナ感染症が拡大し、4月に全国一斉休校になりました。子どもが学ぶ機会や交流する場、居場所がなくなり、孤立してしまうことに危機感を抱いた石川さんは、「放課後プログラミングクラブ」を立ち上げました。毎週火曜と金曜の17:00~18:00、小中学生がオンラインで集まってプログラミングで作品づくりに取り組むクラブです。

「コロナ禍で休校が増えて、『子どもがずっと家にいて友達と遊べないので、どうにかしたい』と登録する親子がどんどん増えていきました」。
2020年11月からこれまで128回開催し、会員311人、参加者はのべ2307人にのぼります(2022年1月末現在)。

(左)コロナ禍以前に対面でやっていた時の「英語で学ぶコンピュータ・サイエンス」の様子、(右)事業期間中、オンラインに移行した「英語で学ぶコンピュータ・サイエンス」の様子

放課後プログラミングクラブでは、子どもたちがゲームやアニメなどの作品づくりに、自分のペースで取り組んでいます。バーチャル空間を会場として、分からないことはスタッフや子ども同士でサポート。活動を通して、子どもに変化も生まれてきたそうです。

「クラブに参加するのは元気な子やシャイな子、不登校や病気の子など、たくさんいます。最初はパソコンのカメラもマイクもオフにして、人がいない端っこにいた子が、何度か参加するうちに人の輪に近づいて、マイクをオンにして話し出すこともあります。いろんな背景を持つ子どもたちが、自分のペースで成長していると実感しています。子どもの居場所づくりは一朝一夕にはできなくて、継続していることで確実に変化が生まれています。」

他にもLINEでメッセージを送っても最初は無反応だった保護者から返信が来て「ありがとう。」と言われたり、ITは分からないと拒絶していた保護者が興味を持つケースもありました。
「オンラインでも、人と人がコミュニケーションを取り続けることは、すごく力があるんですよね。」と手応えを語ってくださいました。

コロナ禍でも、オンラインで成長できる居場所に

 2021年には、SINKaが資金分配団体となって実施した新型コロナウイルス対応緊急支援助成に実行団体として採択されて、「生きる力を育む子どもの居場所づくり事業」として活動を実施しました。

「Kids Code Clubの活動は全て無料で、講師やスタッフは全員プロボノ。大学や企業、行政、NPOの皆さんから会場や設備を提供いただき、支えてもらっています。本業の傍ら手弁当でやってきて、ファンドレイジングに力を入れる余裕がありませんでした。でも、背中を押してくれる人たちがいて、今回、SINKaさんの公募にチャレンジして、本当に良かったと思っています。」

応募に際しては、自分たちの強みを知るため、活動に参加する保護者など40人にヒアリングを行い、事業計画を練り上げました。

「話を聞いてみると『クラブが毎回楽しみで、パソコンの前で正座して待っている』とか、子どもたちの居場所になっていること、いきいきと楽しく成長するきっかけになっていることがよく分かりました。私たちは子どもが楽しむことを第一にして、おまけとして21世紀型スキルや自己肯定感、創造力、ITリテラシーなどがついてくると考えています。その思いが少しずつ形になっていると思えました」

(左)放課後プログラミングクラブのバーチャル会場の様子、(右)子どもたちのプログラミング作品。会員専用の作品サイトに掲載されています。

たくさんの方にご支援頂きながら、親子に多様でグローバルなIT体験・プログラミング学習の機会と、孤立を防ぐ居場所を展開。事業期間を通じて、福岡エリアで約300世帯、全国で約600世帯、のべ2,500名以上に提供し、コロナ禍の孤立と心の貧困の解消に尽力してきました。
主な活動と参加者数の実績は以下のとおりです。

主な活動と参加者数の実績

  • 放課後プログラミングクラブ 78回開催 のべ1850名参加
  • 英語でまなぶコンピュータ・サイエンス 13回開催 のべ370名参加
  • 親子で1分間プログラミング 21回開催 のべ300名参加
  • プログラミング学習サイトの運営 利用者数22万人(UU)
  • 子ども作品サイトの構築(会員のみ利用可)
  • PC操作やプログラミング学習に関するチャット相談受付 やりとり数1,000件以上

子どもの力を信じ、みんなで社会を変えていきたい

そして、Kids Code Clubは、次に向けて動き出しています。

「もともとパソコン環境がない子どもにも参加してほしいという思いがありました。今回の事業で自分たちの活動は意義があると自信を持てたので、次に2021年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成(資金分配団体:READYFOR株式会社・特定非営利活動法人 キッズドア)の実行団体へ採択いただき、パソコンとWi-Fi30セットを無料貸与できました。他の団体さんと連携して、丁寧に研修した上で貸し出し、放課後クラブに入ってもらってサポートしています。」

石川さんには、さらなる夢があります。それは「お金がなくても子どもたちが学べる仕組みをつくる」こと。
「今はお金を払って大人に教えてもらうことが基本になっていて、お金がなければ教育を受けられません。子どもが支援を受けるだけでなく、子どもが誰かに教えられる仕組みができれば、少し光が見えてくると思っています。」

そこで、放課後クラブに「キッズTA(ティーチング・アシスタント)」制度を導入。プログラミング初心者をサポートしてくれる小中学生を募集したところ、予想以上に18人が集まりました。

(左)無償貸与を行っているパソコン。プログラミング作業に耐えられる性能のものを採用しています。(右)キッズTAたちが担当テーブルで他の子どもたちをサポートしている様子。

「放課後クラブは大人がつきっきりで教えるのではなく、子ども同士でも教え合うコミュニティになっています。それが世界に広がれば、どんな家庭環境の子でも学べる社会になるはず。そんな夢に向けて、小さな一歩を踏み出したところです。支援や参加をしてくださる皆さんのおかげでチャレンジできることに深く感謝していますし、必ず成果をあげたいと思っています。

子どもが子どもに教えられるのか疑問に思われるかもしれません。でも、きっとできると大人が信じて任せることで、今まで変わらなかったものが少しずつ変わっていくのではないでしょうか。私たちは子どもたちの力を信じて、子どもの力を原動力に、みんなで社会を変えていきたいと考えています。」と力強く語ってくださいました。

■休眠預金活用事業に参画しての感想は?
コロナの影響で本業の仕事が減る中、ボランティアで続けていくことは精神的にも厳しい状況になっていました。応募するにあたって自分たち団体の強みを徹底的に洗い出せたこと、採択という形で活動を認めてもらえたことをとてもうれしく思っています。そして、SINKaさんには先を見据えた伴走支援をしていただき、感謝しています。この実績をきっかけとして活動を広げていきたいです。(石川さん)

■資金分配団体POからのメッセージ
Kids Code Clubさんは「お金がなくても教育が受けられる社会をつくる」という壮大なビジョンに向かわれていて、私たちも一緒に向かっていきたいと思っています。いい成功事例として、ぜひどんどん表に出てほしいです。(SINKa 濱砂さん)
石川さんとは棚卸と評価についてよく話をしました。とても努力家で、しっかり考えて行動されています。大きく羽ばたかれるように応援していきたいです。(SINKa 外山さん)

【事業基礎情報I】

実行団体
一般社団法人Kids Code Club
事業名
生きる力を育む子どもの居場所づくり事業
活動対象地域福岡県
資金分配団体一般社団法人 SINKa
採択助成事業

福岡子ども若者、困窮者応援笑顔創造事業
〈2020年度緊急支援枠・随時募集3次〉

【事業基礎情報II】

実行団体一般社団法人Kids Code Club
事業名生きる力を育む子どもの居場所・体験事業
活動対象地域福岡県・全国
資金分配団体READYFOR株式会社
(コンソーシアム構成団体:特定非営利活動法人 キッズドア)
採択助成事業

深刻化する「コロナ学習格差」緊急支援事業
〈2021年度コロナ対応支援枠〉

2022年5月11日開催「休眠預金活用シンポジウム」で上映した、休眠預金活用事業の紹介ムービーです。

コロナ禍による失職や減収などの影響で、ひとり親世帯や若者など、さまざまな人たちに困窮が広がっています。そうしたなか、特定非営利活動法人eワーク愛媛(以下、eワーク愛媛)が従来からのフードバンク事業をベースにして始めたのは、必要なときに必要な食料品・日用品を無料で受け取れる「コミュニティパントリー」の拠点でした。さらに、困難を抱えた若者がコロナ禍で孤立したり、自立の機会を失ったりすることのないよう、居場所づくりや就労支援にも力を入れています。これらの活動を始めた背景について、eワーク愛媛・理事長の難波江任(なばえ・つとむ)さんに伺いました。

困窮が広がるなかでの「コミュニティパントリー」

愛媛県新居浜市にあるeワーク愛媛の事務所、その一角にはお米や保存食品、調味料やお菓子、日用品がずらり。ここに来た人は、買い物かごを持って思い思いに品物を選んでいきます。

小さな商店のようですが、これらはすべて無料提供。eワーク愛媛が、ひとり親世帯やコロナ禍で生活が苦しくなった人たちを対象に運営する「地域無料スーパーマーケット(コミュニティパントリー)」です。

一般社団法人全国コミュニティ財団協会が資金分配団体となって実施した「新型コロナウイルス対応緊急支援助成」を受けて、2020年12月末からコミュニティパントリーの事業を始めました。

この活動を始めた背景について、運営母体のeワーク愛媛で理事長を務める難波江任さんは、「コロナ禍で、シングルマザーの人たちなどを中心に、収入が減って生活が苦しくなったという話を耳にするようになったんです」と話します。

eワーク愛媛では、コミュニティパントリーの活動に先駆けて、2020年春に小中学校が一斉休校になった際に、ひとり親家庭の子どもたちに無料でお弁当を配布。このとき、コロナ禍でひとり親世帯の経済的・精神的な負担が増していることを実感したそうです。

お話を伺った eワーク愛媛 理事長の難波江任さん
お話を伺った eワーク愛媛 理事長の難波江任さん

もともとeワーク愛媛は、ひきこもり状態やニートなどのさまざまな困難を抱えた若者たちに就労支援を行う団体として、2003年に活動をスタートしました。現在では、フードバンク事業や地域再生事業にも活動を広げています。

「フードバンク事業に取り組むようになったのは、10年ほど前からです。就労支援の対象となる若者たちの多くが、経済格差や生活困窮の問題を抱えていると気づいたことがきっかけでした」

eワーク愛媛では、フードバンク事業を通じて一般家庭や企業、農家などから食品の寄付を集め、地域にある児童養護施設や自立援助ホーム、子ども食堂を運営する団体、ひとり親世帯や生活困窮者の支援団体などに提供してきました。

さらにeワーク愛媛が子ども食堂の主催も担い、ひとり親世帯を対象にした定期的にフードパントリー(無料食料配布)にも力を入れています。

「それでも、子ども食堂に足を運びづらい人や日時の都合が合わない人もいます。さらにコロナ禍で、ひとり親世帯に限らず生活が苦しくなる人が増えてきました。それなら、必要なときに必要なものを気兼ねなく取りに来られる場所をつくりたいと考えて、コミュニティパントリーを始めたんです」

気軽に来ることができて、相談しやすい場

eワーク愛媛のコミュニティパントリーの対象は、困窮者支援を担う社会福祉協議会やNPO、ひとり親世帯の支援団体、障がい者福祉施設などから紹介を受けた人。ひとり親世帯中心に、障がい者のいる世帯、生活に困窮する若者や高齢者など、さまざまな人が利用しています。

ポイントカードを利用して月5,000円程度の物資を無料で受け取れる仕組みで、食品の他に日用品や文房具などもあります。特に生理用品はすぐになくなるそうです。

コミュニティパントリーには、eワーク愛媛のスタッフが常駐。8時半から18時まで開いているので、利用者の都合に合わせて利用することができます。

「朝いちばんに来る方もいれば、仕事終わりに駆け込んで来る方もいるんですよ。遅い時間に『まだ行っても大丈夫ですか?』とLINEが来ることもあるので、スタッフがいるときは柔軟に対応しています」

通常のフードパントリーでは、寄付された食品を公平に分配するため、何を受け取るのかを選べないことも多いですが、コミュニティパントリーでは必要なものを自分で選ぶことができます。

難波江さんは、コミュニティパントリーが気軽に足を運べる拠点として機能することで、困ったときに相談がしやすい環境をつくりたいと考えています。

「コミュニティパントリーを利用する方から相談を受けて、専門支援機関に紹介したこともあります。スタッフに相談とまでいかなくても、ここで日常のちょっとした愚痴を話せるだけで、気持ちが少し楽になることもあるんじゃないでしょうか」

また、ひとり親のお母さんどうしが知り合いになって共通の悩みを相談し合ったり、子どもの服を譲ったりするつながりも生まれています。

就労相談会をきっかけに、コミュニティパントリーの利用につながった80代

これまでeワーク愛媛では、ひとり親世帯や若者を中心に支援してきましたが、コミュニティパントリーを始めたことがきっかけで、生活に困窮する高齢者の存在にも気づいたそうです。

「一人暮らしで年金が少ないために、自営で清掃業を続けている80代の方がいます。その方はコロナ禍で仕事が減り、eワーク愛媛が開催している就労相談会に参加したことがきっかけで、コミュニティパントリーの利用につながりました。この方のように大変な生活を送っている高齢者が、実はたくさんいるのではないかと思います」

コミュニティパントリーの立ち上げに活用した「新型コロナウイルス対応緊急支援助成」は2021年5月末で終了していますが、「この場所があって助かった」という利用者からの声があるため、愛媛県内の新居浜市・西条市の2ヶ所でコミュニティパントリー事業を継続しています。

「愛媛県は東予、中予、南予の大きく3地域に分かれます。今は東予地域でコミュニティパントリーを2ヶ所運営しているので、今後は中予地域と南予地域にも1ヶ所ずつつくりたい。そのために協力してくれる団体を探しているところです」

SOSを出せずにいる若者と出会うために

コミュニティパントリーの活動に加えて、eワーク愛媛では2021年6月から、もうひとつ新たな活動を始めました。

公益社団法人ユニバーサル志縁センターが実施する新型コロナウイルス対応緊急支援助成を活用して、発足当初から活動の柱としてきた「困難を抱える若者の相談と居場所づくり事業」を拡大しています。

「私たちは長年、ひきこもり状態の人やニートなど、就労に困難を抱えた人たちを支援してきました。そうした人の自立は、コロナ禍でさらに難しくなっているんです。ようやく自分に合う仕事を見つけたのに、コロナの影響で失職した人もいます。

こうした状況で、その人たちを孤立させないための支援も必要です。ただ、そもそもSOSを出せず、支援機関の存在さえ知らない若者も多くいます」
 
2018年に愛媛県保健福祉部が行った「ひきこもり等に関する実態調査」では、愛媛県内にひきこもり状態の人が約1,000人いるという結果が出ました。しかし、難波江さんは「隠れたひきこもり状態の人を含めると、実際にはその10倍はいるのではないか」と感じています。

「支援につながっていない若者との接点づくりが必要だとずっと思ってはいたのですが、自主事業ではそこまでの余裕がなく、目の前にいる相談者への対応で精一杯でした。今回、休眠預金活用事業の助成を受けられたことで、ようやく各地での定期的な相談会の実施や広報に力を入れることができたんです」

一人ひとりの得意・不得意を理解して支える

eワーク愛媛に相談に来る若者は10代から30代が中心で、「家から出るのが怖い」「コミュニケーションが苦手」「働く自信がない」といった、社会生活や就労になんらかの困難を抱えた人がほとんどだと言います。

「就職活動を始める前に、朝ちゃんと起きて身支度をする生活習慣を身につける必要がある人もいます。今回の助成で一つ増やすことができた『居場所スペース』のように、ひきこもっていた家から出る理由をつくり、孤立させないためにも、こうした居場所の存在は大切です」

eワーク愛媛では、こうした一人ひとりの状況に合わせて、職場見学やボランティア体験、就労体験など、相談者が社会に踏み出すために一歩ずつ支援しています。就労体験が難しい場合には、eワーク愛媛のフードバンク事業でボランティアを体験することも。生活に困窮している場合は、就労支援と同時にコミュニティパントリーで食料を提供しています。

「利用者のなかには発達障がいの傾向があって、普段の作業は問題なくこなせるのに、イレギュラーな対応ができなくて仕事が続かない人もいます。また、一人作業を行う能力は十分あって優秀なのに、チーム作業がどうしても苦手な人もいます」

こうした得意不得意を理解した上で、就労体験に協力してくれる地域の企業を見つけることも、難波江さんたちの役割です。チームで働くことが難しければ個人で作業ができる職場を探し、叱られるのが苦手な人の場合には職場の人たちに配慮してもらうなど、eワーク愛媛が若者と企業の橋渡しを担っています。

職場見学の様子
職場見学の様子

就労体験の受け入れ先は、製造業や飲食業、農業など多種多様。働ける場を探している若者がいる一方で、地域には人材不足で困っている業種も少なくありません。就労体験で企業とのマッチングがうまくいき、就職へとつながったケースもあります。

「できる限り就労を受け入れたいと言ってくれる企業も多いんですよ。ただ、利用者のなかには就労まで時間がかかる子もいますし、やっと就職しても辞めてしまう人もいます。就職後も長い目で地道にフォローを続けていくことが、この事業で最も大事なことなんです」

地域の困りごとを地域で解決できるように

ご紹介してきたように、eワーク愛媛では休眠預金を活用して、「コミュニティパントリー」による生活困窮者支援と「困難を抱える若者の相談と居場所づくり」の2つの事業に取り組んできました。それぞれの事業での資金分配団体の伴走について、難波江さんは「非常に勉強になることが多かった」と振り返ります。

「どちらの事業にも共通して言えることですが、資金分配団体と一緒に取り組めたおかげで、客観的な目標設定や実績を数字として表すことの重要性を学びました。

こうした活動の成果を示す数字は、私たちのところに相談に来る人にとって安心材料になりますよね。自分たちだけの事業として取り組んでいたら、目の前の活動に追われてしまい実現できなかったことだと思います」

対象も内容も異なる事業を手掛けるeワーク愛媛の根底には、「地域の困りごとを地域で解決したい」という思いがあります。

「『地域共生』という言葉をよく聞くようになりましたが、重要なのは、地域の困りごとを地域で解決できるようになっていくことだと思います。

働けなくて困っている若者がいるなら、地域の企業が支える。困っているひとり親世帯や高齢者がいるなら、地域の人たちが食料の寄付などで手を差し伸べる。eワーク愛媛の活動が、そんな地域の実現に向けたお手伝いになれば、と思っています」

■休眠預金活用事業に参画しての感想は?

自分たちの団体だけで事業に取り組んでいると、どうしても「思い」だけで進んでしまうところがありますが、今回の助成を受けたどちらの事業にも資金分配団体が伴走してくれたおかげで、成果管理や事業評価といったところにも目を向けることができました。(難波江さん)

■資金分配団体POからのメッセージ

一般社団法人全国コミュニティ財団協会 石本さん
「コミュニティパントリー」は、必要なものを自分で選ぶことができ、かつ相談できる場所でもある、今までになかった支援の形だと思います。このように多様な支援の形が地域にあることが、地域から誰一人取り残さないことにつながっていくのだと感じています。これからコミュニティパントリーが愛媛を中心に広がっていくことを期待しています。

公益社団法人ユニバーサル志縁センター 小田川さん
若者たちがいつでも来ることができるフードパントリーや居場所、スタッフによるアウトリーチ、そして協力企業とともに取り組む相談会、見学会、体験会など、さまざまな方法で、ひとりひとりの若者の次の一歩を支えてくださっています。eワーク愛媛さんの長年にわたる地元企業とのつながり、そして地域の社会福祉協議会やNPO、そして民生委員などの支援者とのつながりがあってこその取り組みだと思います。

公益社団法人ユニバーサル志縁センター  岡部さん
若者の就労支援のアウトカムとして、当事者のステップを10段階で評価する基準を設けている点が、社会に成果をわかりやすく発信する良い取り組みだと思います。今回の事業では、相談支援の対象となった若者89名(実数)中、58名(65.2%)が2段階ステップアップできたとのことでした。ぜひ今後も、eワーク愛媛さんの取り組みを多くの方に発信していっていただけたらと思います。

【事業基礎情報 

実行団体特定非営利活動法人eワーク愛媛
事業名地域無料スーパーマーケット事業
活動対象地域愛媛県
資金分配団体一般社団法人全国コミュニティ財団
採択助成事業2020年度新型コロナウイルス対応支援助成

【事業基礎情報 Ⅱ

実行団体特定非営利活動法人eワーク愛媛
事業名愛媛県若者サポートコミュニティ事業:困難を抱える若者の相談と居場所づくり事業
活動対象地域愛媛県
資金分配団体公益社団法人ユニバーサル志縁センター
採択助成事業2020年度新型コロナウイルス対応支援助成
2021年に実施した中間評価におけるナラティブな評価を映像にしました。

休眠預金活用事業の成果物として資金分配団体や実行団体で作成された報告書等をご紹介する「成果物レポート」。今回は、資金分配団体『中国5県休眠預金等活用コンソーシアム〈2020年度緊急支援枠〉』が作成した冊子『2021年度中国5県休眠預金等活用事業「緊急コロナ枠」報告書』をご紹介します。

2021年度中国5県休眠預金等活用事業「緊急コロナ枠」報告書

新型コロナウイルス感染拡大は、経済・社会にこれまでにない変化をもたらしています。生活上の困難を抱える人々や、行政が対応困難な社会課題が増えている一方で、課題解決に取り組む団体は、対面サービスやボランティアの確保、財源確保が困難になるほどの課題に直面しています。この報告書では、資金分配団体としての活動や取り組み、公募で募った活動団体(以下「実行団体」)の社会課題解決に向けた活動・取り組みをまとめています。ぜひご覧ください。




【事業基礎情報】

資金分配団中国5県休眠預金等活用コンソーシアム

※幹事団体
 ・特定非営利活動法人 ひろしまNPOセンター
※コンソーシアム構成団体
 ・公益財団法人 とっとり県民活動活性化センター
 ・公益財団法人 ふるさと島根定住財団
 ・特定非営利活動法人 岡山NPOセンター
 ・特定非営利活動法人 やまぐち県民ネット21
事業名中国5県新型コロナ対応緊急支援助成
〈2020年度緊急支援枠〉
活動対象地域中国地方の5県
(鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県)
実行団体<子ども・若者・家庭支援&地域コミュニティ支援>
【鳥取】N.K.Cナーシングコアコーポレーション合同会社
【鳥取】NPO法人こども未来ネットワーク
【鳥取】NPO法人智頭の森こそだち舎
【鳥取】NPO法人トラベルフレンズ・とっとり
【山口】NPO法人山口せわやきネットワーク

障がい者等就労・居場所支援
【鳥取】NPO法人大地
【島根】NPO法人あったかいいねっと
【島根】NPO法人YCスタジオ
【岡山】NPO法人ペアレント・サポートすてっぷ
【岡山】NPO法人まこと
【岡山】NPO法人未来へ
【山口】NPO法人NOBORDER 

<住居・居場所の確保支援>
【岡山】NPO法人オカヤマビューティサミット
【岡山】NPO法人オリーブの家
【岡山】社会福祉法人クムレ
【岡山】一般社団法人子どもソーシャルワークセンターつばさ

<外国人就労・居場所支援>
【岡山】NPO法人メンターネット
【広島】NPO法人安芸高田市国際交流協会
【広島】一般社団法人グローカル人材ネットワーク
【広島】株式会社グローバルキャリア研究所
【山口】青年海外協力隊山口県OB会 

<必要とされている方への食支援>
【広島】NPO法人環境保全創生委員会
【広島】社会福祉法人正仁会(あいあいねっと)
【広島】NPO法人フードバンク福山
【山口】NPO法人市民活動さぽーとねっと
【山口】NPO法人とりで

2021年11月 横浜市金沢八景に「横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち」が誕生しました。多くの人たちの想いが重なった誕生までの道のりをご紹介します。

今回の活動スナップは、浦和レッドダイヤモンズ株式会社(資金分配団体:一般社団法人RCF)が11月20日に実施した〈このゆびとまれっず!ハートフルケア〉イベントにJANPIAスタッフが参加した際の様子をお伝えします。

活動の概要

浦和レッドダイヤモンズ株式会社は、一般社団法人RCF(20年度緊急支援枠資金分配団体)の実行団体として、「スポーツクラブによる困窮世帯支援事業」に取り組んでいます。

「このゆびとまれっず」は、地域の課題解決を目指し、クラブがきっかけとなって(=浦和レッズが指を掲げて)、支援者・賛同者とともに(=仲間を募って)、継続・拡大していくことを目的とし、
休眠預金活用事業をきっかけに立ち上がったアクションプログラムです。

さいたま市内の子ども食堂を利用している子どもたちへの支援策として、
心と体をケアするスポーツプログラム「ハートフルケア」、
食料・飲料・文具などの物的支援を行う「REDS Santa」、
本活動を広く発信することで支援の輪を広げる「このゆびとまれっず!特設サイト」の
3つの柱で構成されています。

活動スナップ

2021年11月20日、〈このゆびとまれっず!ハートフルケア〉が実施されました。
当日はさいたま市の子ども食堂を利用している親子69組146名が参加しました。

 今回の活動の目標は以下の3つです。 「子どもたちに元気と勇気と笑顔を届け続けること」 「子どもたちがサッカーを好きになり、クラブを好きになり、スポーツを通じて心身とも健康に成長すること」 「日ごろなかなか経験できない非日常体験を通じ、家族の絆を深め、楽しい思い出の1コマを作ってもらうこと」
今回の活動の目標は以下の3つです。 「子どもたちに元気と勇気と笑顔を届け続けること」 「子どもたちがサッカーを好きになり、クラブを好きになり、スポーツを通じて心身とも健康に成長すること」 「日ごろなかなか経験できない非日常体験を通じ、家族の絆を深め、楽しい思い出の1コマを作ってもらうこと」
最初に日本代表のキャプテンを務めたこともあるハートフルクラブの落合キャプテンから、参加した子どもたちに向けて熱いメッセージ! 「これからサッカーを楽しんでいくうえでも、人生で色んな事にチャレンジするうえでも、 『一生懸命やる』『思いやりを持つ』『悩んで考える』 ことが大切。」
最初に日本代表のキャプテンを務めたこともあるハートフルクラブの落合キャプテンから、参加した子どもたちに向けて熱いメッセージ! 「これからサッカーを楽しんでいくうえでも、人生で色んな事にチャレンジするうえでも、 『一生懸命やる』『思いやりを持つ』『悩んで考える』 ことが大切。」
ハートフルサッカー体験では最初はなかなか輪に入り込めなかった子も、 コーチ達の掛け声によって気付けば一生懸命ボールを追いかけていました。 広いフィールドが子どもたちの元気な笑顔で溢れていました。
ハートフルサッカー体験では最初はなかなか輪に入り込めなかった子も、 コーチ達の掛け声によって気付けば一生懸命ボールを追いかけていました。 広いフィールドが子どもたちの元気な笑顔で溢れていました。
アンプティサッカー体験では、両手にクラッチ(杖)を持ち、一生懸命にプレー。 慣れない体験にも「こうやって重心をかければ上手くシュート出来るかな」と試行錯誤。 ゴールを決めて、クラッチでタッチをして、お互いに喜ぶ姿も!
アンプティサッカー体験では、両手にクラッチ(杖)を持ち、一生懸命にプレー。 慣れない体験にも「こうやって重心をかければ上手くシュート出来るかな」と試行錯誤。 ゴールを決めて、クラッチでタッチをして、お互いに喜ぶ姿も!

※アンプティサッカーとは

主に上肢、下肢の切断障害を持った選手がプレーするサッカー。義足・義手を外し、日常の生活やリハビリ医療目的で使用しているクラッチ(杖)で体を支えて競技を行います。

サッカー体験の最後は、みんなで集合写真をパチリ!
サッカー体験の最後は、みんなで集合写真をパチリ!


その後、子どもたちは埼玉スタジアムで浦和レッズの試合を観戦。 子どもたちの元気な声援もあってか、当日は浦和レッズの勝利! 応援することの楽しさも体験できました。
その後、子どもたちは埼玉スタジアムで浦和レッズの試合を観戦。 子どもたちの元気な声援もあってか、当日は浦和レッズの勝利! 応援することの楽しさも体験できました。
浦和レッズさんは、このプログラムをきっかけにして、スポンサー企業、埼玉県子ども食堂ネットワーク、埼玉県など、多様なステークホルダーとの関係性を深めてまいりました。 来年度以降も「このゆびとまれっず!」プログラムを、継続することを目指しています。
浦和レッズさんは、このプログラムをきっかけにして、スポンサー企業、埼玉県子ども食堂ネットワーク、埼玉県など、多様なステークホルダーとの関係性を深めてまいりました。 来年度以降も「このゆびとまれっず!」プログラムを、継続することを目指しています。
実行団体
浦和レッドダイヤモンズ株式会社
事業名
このゆびとまれっず!
活動対象地域
埼玉県
資金分配団体
一般社団法人RCF
採択助成事業
スポーツクラブによる困窮世帯支援事業2020度緊急支援枠