「身寄りのない高齢者等問題」は、まだ広く知られてはいないものの、社会的な広がりを見せ始めている重要な課題です。問題が複雑であるため、全体像をつかみやすくするために「社会課題構造化マップ」を作成。「本人/制度/周囲にいる関係者」の視点で整理し、高齢者本人の状態の変化に応じて生じる様々な問題を可視化しました。
このイベントでは、社会課題構造化マップ作成にご協力いただいた、黒澤 史津乃さん(株式会社OAGウェルビーR 代表取締役)、沢村 香苗さん(日本総研創発戦略センターシニアスペシャリスト)お二人の専門家をパネリストとしてお迎えし、社会課題構造化マップをもとに課題の構造をひもとき、解決策の方向性や現状の課題、インパクト投資の可能性について、幅広い議論を進めました。
<関連記事リンク>
出資事業部note|イベントレポート「身寄りのない高齢者等問題」とインパクト投資の可能性
https://investment-note.janpia.or.jp/n/n6c0af47484ab
出資事業部note|社会課題構造化マップ「身寄りのない高齢者等問題」を公開します
https://investment-note.janpia.or.jp/n/ndae2e50d4852
※社会課題構造化マップ「身寄りのない高齢者等問題」のデータは、この記事内からダウンロードいただけます。
2025年度の活動支援団体の公募説明会を開催します。 休眠預金活用事業にご興味のある方、申請をご検討中の方のご参加をお待ちしております。
2025年度 活動支援団体 公募説明会のご案内<オンライン開催>
2025年度 活動支援団体の公募説明会を下記の日程で実施します。
当日は、活動支援団体 公募要領のポイント説明だけでなく、23年度の活動支援団体、支援対象団体、実際に伴走支援をした専門家の方に登壇いただき、活動支援プログラムの実施状況等を、実践者の皆様からお話しいただきます。
休眠預金活用事業にご興味のある方、申請をご検討中の方のご参加をお待ちしております。
なお、公募要領については7月上旬に公開を予定しております。
【イベント情報】
日時 | 2025年7月4日(金)13:00-15:00(予定) |
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開催形式 | オンライン(Zoomを使用) ※参加登録をいただいた方へ前日15時までにZoom URL等のご案内をお送りします。 |
プログラム(予定) | 1.公募要領のポイントについて 2.トークセッション ①一般社団法人BLP-Network 代表理事 鬼澤 秀昌氏 ×公益財団法人ほくりくみらい基金 代表理事 永井 三岐子氏 ②特定非営利活動法人ボランタリーネイバーズ 理事 青木 研輔氏 × 特定非営利活動法人名古屋NGOセンター 理事/ 特定非営利活動法人 NIED・国際理解教育センター 副代表理事 田口 裕晃氏 3.質疑応答 ※内容が一部変更となる可能性があります。 |
主催 | 一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA) |
お申込み | 以下フォームよりお一人ずつお申込みをお願いします。 https://forms.office.com/r/Dbp1SiQpQ1 【申込締切】7月2日(水)18:00まで |
お問い合わせ | 一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA) 活動支援団体 公募説明会担当 メール:info@janpia.or.jp |
株式会社オヤモコモは、佐賀県佐賀市を中心に、鳥栖市や福岡県久留米市などの親子を対象に、交流イベントや母親の起業支援などに取り組んでいます。産後に悩みを抱えたり、孤立したりしがちな親たちを支援したい——そんな思いから2012年に設立されました。2023年度の休眠預金活用事業(緊急枠、資金分配団体:一般財団法人ちくご川コミュニティ財団)に採択され、「もっと気軽に悩みを打ち明けられる仕組みを」との願いを込めて、オンライン双方向型情報サービス「みてるよ」の運営事業をスタート。今回は、代表取締役の山下千春さんに、活動の背景や事業の広がりなどについて伺いました。
母親たちの孤立は、社会課題。つながり合える深い交流を
日本では核家族化が進み、祖父母などに頼って子育てをするケースは減少しています。その結果、産後の不安や悩みを一人で抱え込み徐々に孤立してしまう母親は少なくありません。そうした人たちに寄り添い、居場所を提供しているのがオヤモコモです。設立は2012年。当時、山下さんには7歳、5歳、2歳の3人の子どもがいました。子育て真っ最中の多忙な時期に、なぜ自らこうした活動を始めたのでしょうか。
山下千春さん(以下、山下)「私自身が出産後、孤独でとてもさみしい思いを感じていたんです。それは出産前に抱いていた“赤ちゃんと暮らす”イメージとはかけ離れたものでした。どこかへ出かけても大人と会話するのはわずかで、知らない土地で子育てを始めたので仲の良い友人もいないし、夫は仕事が忙しくて帰りが遅い。“子育てって、こんなに寂しさや孤立感の中でするものだったのか”と、現実を突きつけられた気がしました。3人の子どもを育てながら感じたのは、私と同じような思いをしているお母さんがとても多いということ。これは個人の問題ではなく、社会全体の課題だと感じました。だからこそ母親同士がつながれる居場所をつくりたいと、オヤモコモの活動を始めたんです」

子育てセンターやパパママ教室といった、行政が手掛ける子育て支援の場は存在するものの、そこでの交流は一時的なものにとどまりがちです。そうではなく、もっと深い関係性を築ける場が必要だと、山下さんは考えました。自身が子育ての渦中にあったからこそ見えた課題や気付きを拾い上げ、当事者目線での支援のかたちを模索していったのです。
まず着手したのは、母親が主役になれるコミュニティづくり。子育ての悩みを共有したり、親子で楽しんだりすることも大切ですが、特に重視したのは、母親自身が心から楽しめる時間をつくることでした。
山下「子どもを持つと、仕事や趣味などで身につけたスキルや経験、好きなことがあるにもかかわらず、”自分はお母さんだから“という思いにとらわれて、そのことに目を向けなくなってしまいがちです。オヤモコモでは、そんなお母さんたちに何がしたいかを尋ねて、自らイベントなどを企画してもらい、それを実現できるようにサポートしています」
例えば、料理が好きでカフェを開きたいという夢を持つ人は、子どもと一緒に食を楽しめるカフェイベントを開催。ハンドメイドが得意な人には、作ったものを販売できる場所を提供しました。「自分が主役になって講師をしたり、何かをお披露目したり。お母さんたちの“やりたい”を集めた場づくりなんです」と山下さんは語ります。
どうすれば支援を続けられるか。継続のための試行錯誤
徐々にネットワークを広げ、活動は順調に進みましたが、その一方で資金面での課題が浮上します。山下さんがイベント運営費などを自ら負担し、手弁当での活動を続けざるを得ない状況に追い込まれていたのです。
山下「私がお金の苦労を背負ってみんなの笑顔を支えているような状態で、なんとかしようと寄付集めにも奔走しましたが、限界がありました。大変な思いをしてお金をいただいても、誰かのお力を借りて活動する責任ものしかかり、継続は難しいと判断しました」
そこで、なんとか自分たちで活動資金を生み出そうと始めたのが、オリジナルのベビー用品の開発と販売です。事業開始当初は山下さんが個人事業主として運営していましたが、これを機に株式会社として法人化。そうして収益化を図りながら、「どうすればもっと力になれるだろうか」と試行錯誤を重ね、活動は今年で13年目を迎えます。現在は代表取締役として事業を率いながら、「若い人たちにバトンをつなぎたい」とスタッフの育成にも力を入れています。
そんな山下さんが長く構想していた事業がありました。それは、親がより気軽に子育ての悩みを相談できる仕組みづくりです。トライアルとして、山下さん自身がLINEを通じて悩みに応えるサービスをスタートさせましたが、悩みを抱える人に真摯に対応したいと思えば思うほど、時間も労力もかかるものでした。
山下「利用者の皆さんに『もし有料のサービスだとしたら、いくら払えますか?』と聞いたところ、『サブスク(定額制)のような形で、月々1000円くらいなら』という声が返ってきました。ものすごく丁寧に、一つひとつお返事しても月に1000円なのか……と思い、このやり方で継続はできないと判断したんです」
そこで山下さんが着目したのが、AIチャットボットを活用したお悩み相談のシステムでした。これを事業として実現するため、休眠預金活用事業への応募を決意。社会課題の解決などを目的とした公益的な活動ではNPOなど非営利団体向けの補助金制度が多い中、株式会社でも申請できるという点は、休眠預金等活用制度を選んだポイントの一つでした。
24時間365日何でも話せるAIが、子育ての心強いサポーターに
2023年度の「緊急枠」として採択されたことを受け、スタートしたのが、オンライン相談サービス「みてるよ」です。LINEを通じて利用できるAIチャットボット型の仕組みで、先輩ママのキャラクター「マミさん」が24時間365日、利用者の質問や悩みに対して、自動で応えてくれます。年配の方には「AIなんて」と眉をひそめられることもあるそうですが、若い親は抵抗感なく活用しているとのこと。AIといっても機械的に回答するのではなく、「つらいわね」「よくわかるわ」など優しい言葉で寄り添い、必要な情報を丁寧に伝えるようにプログラムされています。2024年12月〜2025年2月の3カ月間で相談件数はのべ948件に上り、実施した満足度アンケートでは、利用者の91.5%が最高評価の5をつけるなど、高い満足感が示されました。
山下「最近のお母さんたちは特に、誰かに弱音を吐くことを極端に恐れているようです。“何かあっても行政に頼りたくない”と考える人も少なくありません。それは、周囲から“ダメな親と思われてしまうのではないか“と不安に感じるから。国や自治体が資金を投入してさまざまな産後サービスを打ち出していますが、そこにアクセスするのは気が引けるというのです。本当はSOSを出したいほど苦しい状況でも、自分の中に抱え込んでしまう。その結果、虐待などの問題につながってしまうケースもあります」

周りの人に頼ることを避ける親たちにとって、何でも遠慮なく話せるAIの存在は想像以上に心の拠り所となっているそうです。
山下「都市部ではなく、佐賀のような地域でAIが受け入れられるか不安でしたが、そんな心配は不要でした。特に初めての子育てだと、24時間気を張りつめて、ちょっとしたことでも不安になってしまう。ネットで検索しても正解が分からずに疲れてしまうんです。マミさんは、『あなたは頑張っているわよ』と、明るく励ましてくれるキャラクター。それに救われる人も多いようです」
悩みに応えてもらってもAIにはお礼は不要ですが、「ありがとう」「いつも助かっています」といった、まるで人間を相手にしているかのような返信をする利用者もいるのだとか。人間相手ではないからこそ、噂が広がったり、批判されたりする心配がなく、真夜中でもすぐに返事をもらえる。そんなAIの特性が、子育てに悩む親たちにとって大きな安心感につながっています。
休眠預金活用事業を通して得たリアルな声を、より良いサービスづくりに生かす
休眠預金を活用した事業のもう1つの柱は、交流イベントの企画・開催です。「みてるよ」を通じて参加者を募り、「オンラインだけでなくリアルなつながりも育みたい」という山下さんの思いがかたちになりました。イベントには運営スタッフの確保が必要でしたが、休眠預金を活用した助成金を基にスタッフの増員を図ったところ、想像以上の反響がありました。
山下「『他のお母さんの力になりたい』と申し出てくれる人がとても多くて。地域の中に、こんなにも同じ思いを持った人がたくさんいるのかと驚きました。私自身も産後うつになりかけた苦しい経験があったのですが、支援に手を挙げてくれた人たちの中にも、過去の自分の経験をきっかけに、行動してくれる人がたくさんいたんです」
現在はエリアごとに担当者を配置して、赤ちゃんのタッチケア、抱っこひもの使い方講座、ランチ会といったさまざまなイベントを企画し、親同士の交流を促しています。リアルなネットワークで情報交換を行い、人には言えないことはAIのマミさんに話す。2つの異なるサポートが、親たちの力になっています。

8カ月の緊急枠の助成期間が終了した今、課題は資金の確保です。AIの利用にかかる従量課金やLINEの月額利用料、交流会の広報費や人件費など、活動を続けるために必要な経費を捻出する必要があります。現在はクラウドファンディングに加え、企業・こども園などにスポンサーとしての協力を呼びかけているところだそう。幸いにも、子ども園からの出資が決まり、「この勢いでスポンサーを増やしていきたい」と山下さんは意欲を語ります。
「みてるよ」を通して多くの親たちのリアルな声を聞けたことは、企業として今後のサービスを考える上でも大きな手がかりとなりました。また、休眠預金活用事業への応募をきっかけに、これまで組織として脆弱だった部分を、資金分配団体のサポートを受けながら強固にしていったことも大きな成果の一つです。
山下「経理やガバナンス、コンプライアンスといった企業運営の基盤をこの機会にしっかり固めることができました。『みてるよ』の事業を進めていくだけで精一杯だった中、資金分配団体のちくご川コミュニティ財団さんには、細やかにご指導いただいてとても感謝しています。今、周囲で不登校支援などの活動を始めている方もいて、そうした人たちにも休眠預金活用事業の良さを伝えています」
900件を超える相談のやり取りから見えた、親たちのリアルな思い。これを大切な指針として、より良い子育て環境を目指して、オヤモコモの挑戦は続きます。
■資金分配団体POからのメッセージ
オヤモコモ様の取り組みは、AIを活用して親たちの孤立に寄り添うという点で、今回の休眠預金活用事業における「アクセシビリティ改善」という目的に非常に合致していました。とくに「AIだからこそ言えることがある」という当事者のリアルな声が見えたことは、大きな成果だったと感じています。また、短期間の中でも人材募集やネットワークづくりに力を尽くし、今後の発展に向けた基盤も築かれました。これからも、この事業で得た知見やつながりを生かし、より多くの親子支援に取り組まれることを期待しています。
(一般財団法人ちくご川コミュニティ財団 理事/事業部長 庄田清人さん)
【事業基礎情報】
実行団体 | オヤモコモ |
事業名 | 産後のセーフティネット構築プロジェクト「みてるよ」(2023年度緊急支援枠) |
活動対象地域 | 佐賀市東部、神埼市・吉野ヶ里町・鳥栖市・基山町・みやき町・上峰町、久留米市、小郡市などちくご川エリア |
資金分配団体 | 一般財団法人ちくご川コミュニティ財団 |
採択助成事業 | 子育てに困難を抱える家庭へのアクセシビリティ改善事業 |
休眠預金活用事業に係るイベント・セミナー等をご案内するページです。今回は、IVS KYOTO2025の公認 サイドイベント『インパクト投資ナイト by JANPIA 〜地域課題をLP/GPや金融機関と考えるミートアップ』を紹介します。
IVS KYOTO2025公認 サイドイベントのご案内
「インパクト投資」は、昨今最も注目あるテーマの1つです。
地域課題の解決とインパクト投資の考え方は、相性がとても良く、 実際にこの数年で、確実に変化が生まれた事象がでてきました。
真剣に取り組むベンチャーキャピタル、そして起業家も生まれ、 地域課題や課題を抱えている弱者・困難者等に寄り添いつつ、 インパクト評価を実施しながら事業成長と課題解決を両立しています。
インパクト投資を行う投資家たちは、どのような課題や期待を持って活動しているのでしょうか?どんな世界をつくりたいのでしょうか。
本イベントでは、地方の課題や社会課題を解決してきた投資家やLPとして資金提供している投資家たちを招き、また日経新聞として長年、社会起業家やローカルスタートアップの取材をしてきた方をモデレーターとしてお招きします。
地域課題や社会課題を本気で解決していきたい、検討したい、投資したい、支援したいなど、関心がある方はぜひご参加ください。
●登壇者情報
株式会社かんぽ生命保険 運用企画部 責任投資推進室 課長 小林 巧氏
株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ 代表取締役 青木 武士氏
K2 Frontier 代表 / 関西学院大学大学院経営戦略研究科 客員教授 今庄 啓二氏
日本民間公益活動連携機構(JANPIA) 出資事業部長 小崎 亜依子氏
※詳細なプロフィールは文末をご確認ください
●開催概要
日時 | 2025年7月3日(木)17:00-19:00 ( 開場16:45予定) |
開催形式 | 岡崎庵(京都) 京都市左京区岡崎円勝寺町91-65 IVS本会場から徒歩5分程度 https://www.viceo-residanceclub.net/access/ |
定員 | 70名(先着順) |
対象 | ・インパクト投資に関心のあるVCやLP投資家 ・地域金融機関(地銀、信金)の方 ・地域をよりよくしたい経営者や担当者 ・JANPIAの出資事業に興味のある方 |
プログラム(予定) | ・オープニング:5分 ・トークセッション:60分 ・交流会:45分 ・クロージング:5分 |
主催 | 一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)出資事業部 |
お申込み | https://4s.link/ja/2bdbe858-f7df-43a3-8b3d-64b955738d8a |
お問い合わせ | 一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)出資事業部 電話:03-5511-2020(代表) メール:investment@janpia.or.jp |
【パネリスト情報 】

●小林 巧氏 | 株式会社かんぽ生命保険 運用企画部 責任投資推進室 課長
大学卒業後、地方銀行にて個人・法人営業を経験。2009年、株式会社かんぽ生命保険に入社。資産運用部門にて国内外企業に対するクレジット・アナリスト業務に従事。2022年10月から現職にてESG・責任投資推進体制の構築、同投資方針・計画の策定、インパクト投資の社内体制整備などを推進。

●青木 武士氏 | 株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ 代表取締役
関西学院大学経済学部、英国国立ウェールズ大学大学院 MBA。日立造船でバイオマス発電事業等に携わった後、(株)エス・エム・エスにてM&Aやヘルスケアベンチャー投資の責任者として数多くの投資やヘルスケアインキュベーションプログラムの運営を行う。また、訪問看護ステーションの設立・運営など医療・介護現場のオペレーション経験も有する。キャピタルメディカ・ベンチャーズを設立し、代表として運営に携わる。

●今庄 啓二氏 | K2 Frontier 代表 / 関西学院大学大学院経営戦略研究科 客員教授
1985年㈱カネカに入社し、研究及び新規事業の企画・開発に従事。2001年フューチャーベンチャーキャピタル㈱(FVC)に入社し、大手メーカーでの研究や新規事業開発経験を有する数少ないベンチャーキャピタリストとして、10社以上の上場に貢献。2011年リーマンショック以降経営危機に陥っていたFVCの代表取締役社長に就任し、立て直しに取り組む。2017年6月取締役会長を退任し、現在は、㈱内田洋行、エンビプロ・ホールディングス㈱、大阪油化㈱、JOHNAN㈱の社外取締役、京都大学経営管理大学院、関西学院大学大学院経営戦略研究科の客員教授、エンジェル投資等、数多くの上場企業、スタートアップの経営支援、教育活動等を行っている。

●小崎 亜依子氏 | 日本民間公益活動連携機構(JANPIA) 出資事業部長
2024年1月より、JANPIAにおいて日本におけるインパクトファーストなインパクト投資市場の創造に取り組む。 サステナブルファイナンスの専門家として、2007年より日本総合研究所で企業のESG側面の分析手法を開発し、金融機関等のESG投資戦略や商品開発を支援。2020年から2022年まで、金融庁においてサステナブルファイナンス専門チームの立ち上げや関連政策の策定支援に携わる。 ピッツバーグ大学公共政策国際関係大学院・修士課程修了、慶應義塾大学総合政策学部卒。公益社団法人 日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
休眠預金等活用法における指定活用団体である一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)の活動が始まってから6年が経過。設立から今までの変遷と成果を振り返るとともに、2024年度の総合評価(速報版)の内容にも触れながら、今後の展望について大川昌晴事務局長に聞きました。
対話を重ねて共に築いてきた、信頼と仕組み
―まずは、JANPIA設立の背景について教えてください。
2018年1月に「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(休眠預金等活用法)が施行されました。この法律は10年以上取引のない預金、いわゆる休眠預金を、NPOなどの公益的な活動を担う団体が事業に活用することで、社会課題の解決に貢献することを目的としています。こうした制度の理念を受けて、同法に基づく指定活用団体となることを目指して、同年7月に一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)によりJANPIAが設立され、公募の結果、2019年1月、内閣府により指定活用団体に指定されました。
―2019年の4月から助成事業を開始されています。約6年間の事業のなかで、どのようなことを大切にされてきましたか?
この事業は、社会課題の解消に向けて現場でさまざまな活動に取り組む「実行団体」、その中間に立って実行団体への資金支援や伴走支援を行う「資金分配団体」と、「指定活用団体」である私たちJANPIAの3団体が連携・協働して取り組んでいます。初年度は特に、休眠預金というお金の性質から助成金を受け取る団体に求める要件の設定など、適切に制度を運用していくための試行錯誤の時期がありました。そのような中で、私たちが最も大切にしてきたのが「対話」です。資金分配団体の代表者と意見交換をする場を設けたり、資金分配団体のプログラムオフィサーを中心とした有志の皆さまと業務改善のチームを設け、話し合いを重ねてきました。特に運用面について積極的に対話の機会を作り、改善に結びつけることができてきたと考えています。
ほかにもさまざまな課題はありましたが、対話を大切にすることによって、資金分配団体の皆さまとの関係性を築いていくことにより、多くのステークホルダーとの連携と協働による、円滑な活動が可能になってきたのだと思います。
―特に注力してきたのはどのような取り組みですか?
私たちの活動の特徴の一つは、社会的インパクト評価を制度として取り入れていることです。実行団体は、開始・中間・終了の時点において、自団体で評価指針に基づいた評価の実施と報告を行う必要があります。一方で、評価の経験がある団体ばかりではないことから、資金分配団体向けに研修を実施したり、実行団体向けのハンドブックなども作成しています。
また、資金配布団体にプログラムオフィサー(PO)という役割の人がいることを必須とし、事業の評価やプログラム設計、進捗のモニタリングといった実行団体への非資金的な伴走支援を行っていることも大きな特徴です。POの伴走支援と評価が組み合さることで、事業を効果的に進めるだけでなく、組織としての運営体制を整えることもできます。制度を活用している実行団体の多くは小規模な組織です。そのため、助成をきっかけに、初めて団体の規程類を定めたり、公開したりするケースが多々あります。助成を通じて事業を行うだけでなく運営体制を整えることで、団体としての基盤が整備され、持続的な活動につながっています。
―事業活動を振り返り、印象深かった出来事はありましたか?
2020年からのコロナ禍という未曽有の状況において、休眠預金活用事業の枠組みを活用して私たちができることを考え、多くの関係者との意見交換を重ねて「新型コロナウイルス対応緊急支援助成」を行ったことは、制度にも大きな影響を与えました。助成期間が通常枠は最長3年のところ、緊急支援枠は最長1年とし、緊急的な支援を円滑に行っていただくために申請要件を見直したり、年に複数回の公募を行いました。そのこともあり、多くの事業へ助成を実施することができ、制度の活用も広がりました。
この枠組みは、2022年にはウクライナ情勢に伴う原油価格・物価高騰に対応したり、2024年1月には能登半島地震に伴って深刻化した社会課題への緊急的な支援に対応するなど、緊急的に発生する課題に対応しながら継続しています。2025年度は、名称を「緊急枠」として、1年間で集中的に支援が必要な課題に即応する枠組みとして運用していく計画です。

成果と課題——「2024年度総合評価」から振り返る
―現在(2025年3月)速報版が公開されている「2024年度総合評価」では、助成終了後の団体の動きを追う「フォローアップ調査」が盛り込まれていますが、どのような目的があるのでしょうか?
休眠預金という、国民の資産を活用する制度である以上、その成果を分かりやすく提示する必要があります。特に、事業が終了した後にその団体がどうなっているのか、制度として中長期的にどんな成果が残せているのかを把握する必要がありました。そうした課題意識から実施したのが「フォローアップ調査」です。この調査では、成果を確認するだけでなく、どのような要因があれば事業が継続されやすいのかといった知見も得ることができました。
―フォローアップ調査では、対象となった2019年度、2020年度通常枠採択団体のうち、助成終了後も支援活動を「拡大・発展している」「同規模で継続している」と回答した団体が77%と、事業継続率が高いことが示されています。こうした成果の要因について教えてください。
今回の調査で見えてきたのは、助成によって対象の領域に資金が投入されることで、現場にどのような変化が起きるのかという点です。支援活動が始まり、支援対象者と実際につながると、いわゆる「顔が見える」状態になり、必要な支援や適切なアプローチがより具体化していきます。ニーズに合った支援によって成果が得られると、団体もその事業の有用性を実感し、事業を継続するという次のステップへと進んでいくことが多く見られました。例えば、事業を発展させて収益化に取り組む団体もありますし、収益化が難しい場合でも、ニーズの可視化によって行政が関心を持ったり、企業との連携が進んだり、ボランティアが集まりやすくなったりといったポジティブな変化が起こっています。先に挙げたようにPOなどによる非資金的な伴走支援により実行団体の基盤整備が可能になり、組織として強化されたことも、こうした変化に寄与しているでしょう。
一方で事業が継続できないケースについても、いくつかの要因が明らかになりました。例えばコロナ禍などの影響もあったかもしれないのですが活動量が少なかった、当初予定した取り組みが機能しなかった、継続のための人材が確保できなかった、支援対象や地域のニーズとのミスマッチがあったなどです。。一方で、当初目的としていた課題が解決されたことで事業の必要がなくなったというケースや、行政に引き継がれたというケースもあります。今後は、こうした成果や背景を丁寧に検証しながら、真に支援を必要とする課題を見落とさないようにしていくことが大切だと考えています。

―「2024年度総合評価」には、休眠預金活用事業のロジックモデルや「JANPIAが目指す社会」も掲載されていますが、これらはどのような目的で作成されたのでしょうか?
ロジックモデルは、制度の戦略を可視化し、評価の枠組みを整理するとともに、私たち自身の業務改善にもつなげていくことを目的として作成しました。事業によってどのような成果(アウトカム)を目指すのかを明確にしています。

「JANPIAが目指す社会」については、JANPIAが指定活用団体としての役割を担い、資金分配団体や実行団体などの関係者とともに目指す世界観を共有し、分かりやすく対外的に説明していくツールとして作成しました。
作成にあたっては、JANPIA職員が全4回のワークショップを実施し、職員自身が日々の活動を振り返り、原案を作成。それをベースに、主に資金分配団体と意見交換を行い、取りまとめました。総合評価速報版の時点では制作過程のものを掲載していましたが、その後に議論を重ね、より共有がすすむようにイラスト化にも取り組みました。これを活用しながら、さらに刷新を続けていく予定です。

制度の力を未来へつなぐ
―今後のビジョンについて教えてください。
私たちの事業は、休眠預金を原資とさせていただいていますが、元はと言えば国民の資産であり、限りある貴重な資金です。新たな資金の流れとして、2023年度からは出資事業もスタートしましたが、先のフォローアップ調査の結果を踏まえて、出資で対応すべき事業領域も見極めていきたいと考えています。必ずしも事業化に適した領域のみを選ぶのではなく、財務的なリターンは大きくないかもしれないが課題解決のために民間の資金が入りにくい領域に出資するなど、必要なバランスを探っていくことがJANPIAとしての役割だと思います。
また、今まで取り組んできた活動を継続しつつ、これまでに蓄積されてきたものを5年後、10年後に向けてどう活かすかを考え、その担い手を増やしていくことにも力を入れたいと思っています。2024年に開設した休眠預金活用プラットフォームは、その起点となるものです。フォローアップ調査で判明したように、助成事業を機に関係者がつながっていき、連携によって自走していくことが可能になります。私たちはそうした人材をつなぐ橋渡し役を果たすと同時に、その担い手を育てていくことが、これからますます重要になっていくと感じています。
その担い手を育てる仕組みの一つが、「活動支援団体」の制度です。活動支援団体は、民間公益活動の担い手、または将来的にその担い手を目指す団体(支援対象団体)に対し、専門的なアドバイスや非資金的な支援を行う団体です。これまでは、現場で活動していく中で、評価の仕方や基盤整備に悩むケースも少なくありませんでしたが、活動支援団体が早い段階から伴走することで、より効果を生み出しやすくなることが期待されています。
6年間さまざまな変化をしてきましたが、事業開始以来大切にしている「連携」と「協働」、その実現のための「対話」の姿勢、これは揺らぐことはありません。誰のために、何のためにやっているのかという原点に、常に立ち返ることができる組織でありたいと思っています。

(取材日:2025年3月18日)
【追加情報】
本文中でご紹介している、「総合評価第3回」が2025年5月29日に公表されました。
以下リンク先からご覧いただけます。
休眠預金活用事業に係るイベント・セミナー等をご案内するページです。今回は、JANPIA主催・関経連共催の「SDGsへの貢献につなげる関西マッチング会 成果報告会」をご案内します。
休眠預金活用団体(NPO 等)×企業
「SDGsへの貢献につなげる関西マッチング会 成果報告会」
2024年11月、休眠預金を活用した20の実行団体(NPO等)と31の企業が参加したマッチング会を実施しました。本報告会では、そこから生まれた39案件(協議中案件含む)のうち、3事例をご紹介します。企業と団体それぞれのお立場から、連携の動機やプロセス、成果、今後に向けた想いなどを語っていただきます。その後、登壇企業とパネルディスカッションを行い、NPO等との連携の秘訣などについて深堀りします。
NPO等と協働して、社会的インパクトを創出したい、また、それをSDGsへの貢献や企業価値の向上につなげたい企業の皆さまのご参加をお待ちしています。
【イベント情報】
日時 | 2025年7月24日(木)14:00-17:00(開場:現地13:30) |
開催形式 | 会場+オンラインでのハイブリッド開催 |
会場 | グランフロント大阪北館タワーC 8階 ナレッジキャピタルカンファレンスルームタワーC RoomC 03+04 (〒530-0011 大阪市北区大深町3-1)【MAP】 |
定員 | 会場100名、オンライン200名 |
参加費 | 無料 |
プログラム | テーマ:「社会的インパクト創出・可視化に向けて」 14:00- JANPIA・関経連 開会の挨拶 14:10- 休眠預金活用事業の概要の紹介 14:30- 登壇者・事例紹介 <事例1> 多角的な連携(寄贈、助成、イベントボランティア) [連携企業] 住友ゴム工業株式会社 [連携団体] 認定NPO法人宝塚NPOセンター <事例2> プロボノ支援(子どもの主体性を育むイベント企画) [連携企業] PwC Japan 有限責任監査法人 [連携団体] NPO法人こどもサポートステーション・ たねとしずく <事例3> 社会的弱者の就労支援(就労困難者のICTスキルを活用) [連携企業] 間口ロジスティクス株式会社 [連携団体] あたつく福祉型事業協同組合 15:50- パネルディスカッション(3事例の登壇企業) [登壇者] 越 公美 氏(住友ゴム工業株式会社 総務部) 三澤 伴暁 氏(PwC Japan 有限責任監査法人 パートナー) 大家 龍時 氏(間口ロジスティクス株式会社 第一カンパニー 社長執行役員) 内田 淳(JANPIA 助成事業部長・企業連携チームリーダー) [モデレーター] 金田 晃一 氏(株式会社NTTデータグループ サステナビリティ経営推進部 シニア・スペシャリスト) 17:00- クロージング ※内容は予告なく変更する場合がございますのでご了承ください。 |
主催 | 一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA) |
共催 | 公益社団法人関西経済連合会 |
後援 | 一般社団法人日本経済団体連合会 一般社団法人関西経済同友会 |
お申込み | 以下の申込フォームもしくはQRコードよりお一人ずつお申込みをお願いします。 https://forms.office.com/r/GkxWUyiEQM 申込締切:2025年7月23日(水)正午まで |
お問い合わせ | 一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA) 企業連携チーム(担当:芹野、中畑) [Mail]partner@janpia.or.jp ※2025年11月14日(金)に東京マッチング会を開催予定 |
【パネルディスカッション登壇者プロフィール】

越 公美(こし くみ)
住友ゴム工業株式会社 総務部
ダンロップスポーツ(株)(現 住友ゴム工業(株)スポーツ事業本部)にてゴルフ用品の開発や販売促進、総務などを担当。その後2021年より社会貢献推進室(現 総務部)にてCSR施策の企画、運営に携わる。住友ゴムCSR基金では資金的な支援だけでなく活動内容にも踏み込んだ対話を大切にし、また助成団体との協働イベントを積極的に企画するなど、地域とのつながりを意識した施策を実施している。

三澤 伴暁(みさわ ともあき)
PwC Japan有限責任監査法人 パートナー
事業会社を経て2007年より現職。会計監査におけるIT評価、組織のガバナンス構築関連業務を多数提供。フードバンク、子ども食堂、外国人就労支援、学習支援、里山保全、農福連携等、NPO法人に対するプロボノを多数経験。法人内で農業関連のコミュニティを複数運営し、関連業務開発を推進。公認情報システム監査人(CISA)、農学修士。

大家 龍時(おおや りゅうじ)
間口ロジスティクス株式会社
第一カンパニー 社長執行役員
大規模センターの立ち上げや生協事業、チルド・ドライセンターの所長を歴任。物流技術管理士、第一種衛生管理者の資格を持つ。熊本地震での支援経験から、物流と人道支援の重要性を認識し、フードロス問題や子ども食堂の運営支援も行っている。
【モデレータープロフィール】

金田 晃一(かねだ こういち)
株式会社NTTデータグループ
サステナビリティ経営推進部
シニア・スペシャリスト
1999 年より、ソニー、大和証券グループ本社、武田薬品工業、ANAホールディングス、NTT データグループの5 社にて企業・NPO協働プログラムを企画・推進。内閣府「新しい公共」円卓会議構成員、日本経団連・社会貢献担当者懇談会座長、日本NPO センター理事を歴任し、現在は、国際協力NGOセンター理事、中央共同募金会「赤い羽根福祉基金」運営委員、全社協全国ボランティア・市民活動振興センター運営委員等を務める。レディング大学大学院経済学部修士課程(多国籍企業論)修了。
休眠預金活用事業に係るイベント・セミナー等をご案内するページです。今回は、JANPIA主催『「身寄りのない高齢者等問題」とインパクト投資の可能性~社会課題の構造をひもとき、解決に向けたアクションを考える~』を紹介します。
「身寄りのない高齢者等問題」とインパクト投資の可能性
~社会課題の構造をひもとき、解決に向けたアクションを考える~
本イベントでは、「身寄りのない高齢者等問題」を取り上げます。
この社会課題は、まだ広く知られてはいないものの、社会的な広がりを見せ始めている重要な課題です。
問題が複雑であるため、全体像をつかみやすくするために「社会課題構造化マップ」を作成。
「本人/制度/周囲にいる関係者」の視点で整理し、高齢者本人の状態の変化に応じて生じる様々な問題を可視化しました。
今回は、社会課題構造化マップ作成にご協力いただいた、黒澤 史津乃さん(株式会社OAGウェルビーR 代表取締役)、沢村 香苗さん(日本総研創発戦略センターシニアスペシャリスト)お二人の専門家をパネリストとしてお迎えし、社会課題構造化マップをもとに課題の構造をひもとき、解決策の方向性や現状の課題、インパクト投資の可能性について、幅広い議論を進めていきます。
すでにこの領域で活動されている方はもちろん、
・社会課題解決に資する事業や投資を検討しているインパクト投資家の皆さま
・福祉・医療・介護・ライフエンディング分野に携わる事業者や起業家の皆さま
・高齢者支援に関心のあるNPO・自治体関係者の皆さま
など、多くの皆さまのご参加を心よりお待ちしております。
【イベント情報】
日時 | 2025年6月26日(木)11:00~12:00 |
開催形式 | オンライン(Zoomウェビナー形式) ※参加登録をいただいた方へ前日までにウェビナーURL等のご案内をお送りします。 |
対象 | ・社会課題解決に資する事業や投資を検討しているインパクト投資家の皆さま ・福祉・医療・介護・ライフエンディング分野に携わる事業者や起業家の皆さま ・高齢者支援に関心のあるNPO・自治体関係者の皆さま など |
プログラム(予定) | 1.開催趣旨説明 2.パネリスト紹介 3.課題MAP解説 4.パネルトーク 5.質疑応答 6.クロージング |
主催 | 一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)出資事業部 |
お申込み | 以下フォームよりお一人ずつお申込みをお願いします。 https://forms.office.com/r/wyaFx2zdZt 【申込締切】2025年6月24日(火)17:00まで |
お問い合わせ | 一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)出資事業部 ・電話:03-5511-2020(代表) ・メール:investment@janpia.or.jp |
フードバンク活動とは、品質には問題がないのに包装の破損や過剰在庫、印字ミスなどで流通に出すことができない食品を企業などが寄贈し、必要としている施設や団体、困窮世帯に無償で提供する取り組みのことです。生活困窮者への支援とともに食品ロス削減にもつながる活動として、ここ数年で注目が高まっています。今回は、2023年度緊急枠に採択された「フードバンクふじさわ等冷凍食品物流・保管機能の強化支援事業」の実行団体「認定NPO法人ぐるーぷ藤」をはじめとする関連団体・組織の方々に集まっていただき、これまでの取り組みや今後の展望について伺いました。
コロナ禍での困窮者支援に立ち上がった、地域福祉の草の根活動メンバーたち
フードバンクふじさわが設立されたのは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、生活困窮者の支援が急務となっていた2021年3月のことです。神奈川県藤沢市内の地域福祉に携わるNPO法人が集う「ふじさわ福祉NPO法人連絡会」では、地域のさまざまな課題を共有しながら支援の方向性が議論されていました。そこで浮き彫りになった喫緊の課題の1つが、ひとり親家庭など孤立しがちな生活困窮者への支援です。その解決策を模索する中で、食品ロスを減らしながら必要な人に食品を届けるフードバンクかながわの取り組みに関心が寄せられ、フードバンクの設立が検討されました。
こうした背景のもと、フードバンクふじさわ設立準備会が発足し、関係者が協力して準備を開始。当時の経緯について、フードバンクふじさわ代表の野副妙子さんに聞きました。
野副妙子さん(以下、野副)「食品支援の必要性について話し合っている時に、フードバンクかながわから『藤沢市にもフードバンクをつくらないか』という声かけがありました。そこで、フードバンクかながわに足繁く通って、現場を見て学び、フードバンクふじさわの構想が固まり始めたころ、折悪しくコロナ禍が始まりました。『状況が落ち着いてから立ち上げよう』という声もありましたが、困難な時期だからこそ『今立ち上げなくてどうする』という、ふじさわ福祉NPO法人連絡会代表の鷲尾さんの提言があり、設立準備を進めました。そして、藤沢市内のさまざまな福祉団体や賛同する市民の方、行政、社協、企業、フードバンクかながわの協力により、フードバンクふじさわを立ち上げることができたのです」

市民団体と一体となって活動する市や社会福祉協議会
フードバンクふじさわの発足に先駆け、藤沢市社会福祉協議会(以下、社協)は2018年からフードバンクかながわと連携し、支援を必要とする人々に食品の提供を行ってきました。フードバンクふじさわ発足以降は、フードドライブ(家庭で余っている食品を集める仕組み)を通じて集めた食品を、市役所や社協の職員が食品保管・仕分けの拠点へ配送するほか、拠点の借り上げや企業との窓口になるなど、幅広い支援を行っています。
社会福祉法人 藤沢市社会福祉協議会 事務局長・村上尚さん(以下、村上)「フードバンクふじさわは、さまざまな団体・組織が協力する共同体です。比較的珍しいケースだと思いますが、私たち社協もその一員として活動に参加しています。立ち上げ時から社協が加わり、共に活動してきました。『地域をよくしていこう』という共通の目標を見据えることが連携のカギだと思います。
そもそも市の社会福祉協議会という組織は地域福祉を推進する団体。地域の課題に対して、先駆的に柔軟に取り組むことが使命です。制度化された支援では対応しきれない部分をフードバンク活動が補い、市民団体と連携することで、ひとり親家庭などへの個別支援も可能になりました。フードバンク活動はすべてをバックアップできるわけではありませんが、困窮に陥っている方々が一息ついてもらうための支えになります。連携を通し、地域支援のために私たちができることの幅が大きく広がっていると思います」

コロナ禍以降も物価高騰の影響で利用者が急増し、ニーズに応えきれない状況に
フードバンクふじさわ設立翌月の4月には、市内3カ所に、食品支援を必要としている方が食品を受け取れる拠点としてフードパントリーを設置し、第1回の食品配布を実施。ひとり親世帯やひとり暮らしの大学生ら(※)に、米やカップ麺、缶詰、飲料などを無償で提供しました。
※ 大学生への提供は2023年10月まで
その後、2022年3月までの1年間でのべ2,195人の利用があり、翌22年度は2,805人と増加。23年度は最初の2カ月で利用者が500人を超えるなど、コロナ禍は落ち着いたものの物価高騰の影響で利用者が大幅に増えていました。しかし、利用者が増加する反面、物価高騰により缶詰やレトルト食品などの常温保存できる食品の寄付は減少しており、ニーズに応えきれない状況に陥っていました。
これは全国のフードバンク共通の課題でもありました。フードバンクかながわは、取り扱う食品を増やすため、神奈川県内に食品倉庫を持つマルハニチロ株式会社に寄付を依頼。その結果、ツナ缶などの常温食品は市場でのニーズが高く余剰がほとんどないものの、冷凍食品は外箱の破損などで廃棄されるものがあり、提供が可能だと回答を受けます。ただ、冷凍食品の寄付を受けるには、品質を保つためのコールドチェーン(冷蔵・冷凍といった所定の温度を維持したまま輸送・保管などの流通プロセスをつなげること)を作り上げることと、寄付した商品がどこに届けられたのかというトレーサビリティを実現することが条件でした。
野副「フードバンクかながわから冷凍食品の取り扱いについて打診があり、そのための準備を行いました。当時は少しだけの取り扱いしかできませんでしたが、冷凍食品は、電子レンジさえあればすぐに食べられるためとても人気がありました」
そんな時、フードバンクかながわが「神奈川県及びその周辺の食支援ネットワーク発展のために〜冷凍食品を活かした支援食品のレベル向上」という事業で、休眠預金活用事業の資金分配団体に採択されたことを知り、フードバンクふじさわも応募を考えましたが、法人格がないことから、一緒に活動を共にしてきた認定NPO法人ぐるーぷ藤を代表団体として申請し、採択されるに至りました。
休眠預金の活用で取り扱い食品量が大幅に増え、子ども食堂にも提供が可能に
フードバンクふじさわは助成金を活用して、冷凍車、冷凍庫、保冷ケースを購入し、コールドチェーンをつくり上げます。また、フードパントリー利用者にも保冷バッグによる持ち帰りを厳守とし、冷凍食品の品質管理を徹底しています。
村上「2024年9月には待望の冷凍車が購入され、冷凍食品の物流倉庫がある神奈川県川崎市の扇島まで直接受け取りにいくことができるようになりました。また、大型の冷凍庫4台も購入され、社協が福祉物流拠点として借り上げている湘南藤沢地方卸売市場の店舗内の一区画に設置しています。実は、冷凍車いっぱいに冷凍食品を積み込むと、ちょうどこの4台の冷凍庫に収まりきるようになっているんです。
集まった食品は、フードパントリー拠点で配布する分や子ども食堂で使ってもらう分へと仕分けします。本格的に冷凍食品を取り扱うことで、フードバンク活動だけでなく子ども食堂にも提供できるほどの量を調達できるようになったのは、本当にありがたいですね」


野副「休眠預金活用事業のおかげで、大きな課題であった利用者の増加に伴う食品ニーズの拡大に応えることができるようになりました。寄付でいただく冷凍食品には業務用のものもあるため、それらは子ども食堂で使っていただいています。冷凍食品は歓迎されていて、特にからあげなどの肉類は子どもたちに大人気です」
認定NPO法人ぐるーぷ藤 理事長・藤井美和さん(以下、藤井)「私たちのフードバンク活動でのおもな支援対象は、ひとり親世帯のため、誰でも簡単に調理ができる冷凍食品はニーズに合っているようです。取り扱い量が増えたことで、親子で好きなものを選んでもらうこともできるようになりました。嬉しそうに保冷バッグを持って帰る姿を見ると、本当にやりがいを感じます。また、冷凍食品はお弁当にも適しているので、子育て中の世帯にはそういった点でも非常に喜んでもらえているようです」
利用者に寄り添う「伴走型」の支援で、新たな窓口への橋渡しも
フードバンクふじさわの活動は、食品の支援にとどまりません。地域の居場所づくりや生活支援コーディネート業務等に携わってきたメンバーも数多く参加していることから、フードパントリーでも訪れた人に積極的に声をかけ、支援が必要な人には適切な窓口への橋渡しなども行っています。また、ひきこもりの当事者をフードバンク活動のボランティアとして受け入れ、その後の就業へと結びつけるなど、ひきこもり支援と連携した活動も展開しています。
藤井「ぐるーぷ藤の理念は『歳をとっても病気になっても障がいがあってもいつまでも自分らしく暮らせる街を創りたい』というもの。お互いさまの気持ちを大切に、地域住民同士の助け合いを目指しています。フードバンク活動においても『伴走型』が基本。相手に寄り添い、食品支援にとどまらないサポートを行っています」

村上「フードパントリーに来られる方の中には課題を抱えて困っている方も多くいます。そうした人と顔を合わすことで、社協の相談支援へつなげることができるのです。逆に、私たちが普段相談を受けている方の中で、ひとり親の方などフードバンク活動の対象となる方には、食品配布の紹介をすることもあります。いきなり社協や市の窓口に相談に来るのはハードルが高いと思う方もいると思いますが、フードバンクを通じて自然につながることができるのは、大きな意義があると感じています」
人と人とのつながりを、大切にすることが活動の基本
最後に、フードバンクふじさわの活動を支えるメンバーに、今後に向けた取り組みについて語ってもらいました。
野副「藤沢市の取り組みが、ほかの市にも広がっていくことを願っています。社協と自治体が連携しながら生活困窮者への支援に力を尽くしてくれていることが伝われば、地域の市民団体も一緒にがんばっていこうという気持ちになってくれると思いますから。また、フードバンクふじさわの報告会に、毎年市長をはじめ、社会福祉協議会の会長や、民生委員児童委員協議会の会長、企業の皆さんといった方々が参加してくれます。これが『藤沢型フードバンク』と私たちが称しているゆえんです」
フードバンクふじさわ事務局・小野淑子さん「フードバンクふじさわは、『小さく産んで大きく育てる』の合言葉のもと任意団体としてスタートし丸4年が経ちました。そして2025年4月には一般社団法人化を予定しています。これまで任意団体でありながらも多くの支援をいただいてきましたが、法人化によって、さらに信頼を得ることができ、活動が広がっていくのではないかと期待しています」
藤井「フードバンクふじさわの活動で生まれた人と人とのつながりがこの先も続いていくことを願っています。伴走型の活動によっていろいろな縁があり、ぐるーぷ藤で就労された方もいますし、障害のある方の就労のきっかけにもなっています。食品を提供するだけでなく、人のつながりを広げる場として活動していきたいです」
村上「地域の困窮者を支える方法やしくみづくりは、社会全体で考えていかないといけない問題ですが、すぐに解決できるものはありません。だから、フードバンクの活動はそういう人たちの『今』を支える大切な役割を果たしていると思います。また、フードドライブなど、みんなが地域福祉に関心を持つきっかけにもなってほしいですね。そして、今フードパントリーに来ている子どもたちが、将来『地域のために何かしよう』と思えるような循環が生まれる場であり続けてほしいです」
社会福祉法人 藤沢市社会福祉協議会 事務局参与・倉持泰雄さん「フードバンク活動は、困難を抱えた方を地域社会で支える大切なしくみです。助成金のおかげでコールドチェーンが整いましたが、今後は冷凍車の管理運営など新たな課題に取り組んでいく必要があります。引き続き、地域の支援のために尽力していきたいです」

■資金分配団体POからのメッセージ
フードバンク活動に対して社会の認知も少しずつ高まってきましたが、まだまだ具体的な活動について知らない団体、企業、行政担当者もいらっしゃいます。具体的にどんな活動ができるのか、1人でも多くの人に知ってほしいですね。また、フードバンク活動は食品ロスの削減にも貢献し、ゴミ処理費用の削減やCO2排出削減にもつながります。ぜひ小さな子どもさんから大人まで、多くの人に関心を持ってもらえたら嬉しいです。
(公益社団法人フードバンクかながわ/事務局長 藤田 誠さん)
フードバンクかながわには多くの冷凍食品が集まる中、私たちだけではなかなか輸送や保管、配布に回しきれない状況となっています。そのため、神奈川県の各自治体に1つはフードバンクが必要となっており、さらにハブとなる拠点を作ることが重要だと考えています。フードバンクふじさわのように活動ができる団体が今後もっと増えていくために、冷凍食品のフードバンク活動の価値を広め、全国で「うちのフードバンクでも冷凍食品を扱いたい」という声が自治体を動かすことを期待しています。
(公益社団法人フードバンクかながわ/理事 萩原妙子さん)
【事業基礎情報】
実行団体 | NPO法人ぐるーぷ藤 |
事業名 | フードバンクふじさわ等冷凍食品物流・保管機能の強化支援事業(2023年度緊急枠) |
活動対象地域 | 神奈川県藤沢市 |
資金分配団体 | 公益社団法人フードバンクかながわ |
採択助成事業 | 神奈川県及びその周辺の食支援ネットワーク発展のために |
コロナ禍による入国規制の解除後、日本で難民認定を申請する外国人が増えています。申請中で在留資格のない外国人は就労できず、公的支援も受けられないため、生活が困窮し、精神的にも追い詰められる傾向にあります。こうした難民認定申請者や非正規滞在者を支援するため、2023年度の休眠預金活用事業(緊急支援枠、資金分配団体:NPO法人青少年自立援助センター)による緊急人道支援を行っているのがNPO法人アクセプト・インターナショナルです。同団体は国内外で紛争や人道危機、社会的排除などの問題解決に取り組んでいます。今回は、団体の活動やその背景などについて、代表理事の永井陽右さん、国内事業局 局長の吉野京子さんを中心にお話を伺いました。
ソマリアから始まった「平和の担い手」を増やす取り組み
アクセプト・インターナショナルは「誰しもが平和の担い手となり、共に憎しみの連鎖をほどいていく」ことを目指し、世界の紛争地や日本で活動する団体です。2011年、大学1年生だった永井陽右さんは、世界で最も深刻な紛争国の一つとされていたソマリアの惨状を知り、「このまま見過ごしてはいけない」との思いから、仲間とともに活動を開始しました。
当時のソマリアは、頻発するテロや紛争によって貧困や飢餓が深刻化し、2年間で約26万人もの人々が命を落としていました。それにもかかわらず「危険すぎる」「解決策がない」からと、世界から見放されている状況に「そんな理由で支援が届かないのはおかしい」と強く感じた永井さん。「支援が必要とされているのに、難しさを理由に誰も手を差し伸べないのであれば、自分たちがやる」——その決意が活動の原点となっています。
永井さんたちはソマリアのテロや紛争を止めようと、若者が武装組織から抜け出し、社会復帰する支援を開始。2017年にはNPO法人アクセプト・インターナショナルを設立し、イエメンやケニア、インドネシア、コロンビア、パレスチナなど、世界の紛争地へと取り組みを広げていきました。
永井陽右さん(以下、永井)「テロリストの多くは、社会に居場所がないことや生活苦、脅迫などから武器を持たざるを得なかった若者たち。彼らを排除しても負の連鎖は終わりません。私たちが目指すのは、彼らが本来の若者らしく希望を持って生き、私たちと一緒に平和な世界をつくっていくことです」

海外での経験を活かし、日本でも「難しくて取り残されている問題」に着手
海外の経験を活かして日本でも「解決の担い手がいない難しい問題」に取り組もうと、2020年からは国内事業も開始。コロナ禍で海外事業の継続が困難になった時期とも重なり、国内の課題にあらためて目を向けるようになりました。現在は主に、非行少年の更生支援と、在日ムスリム(イスラム教徒)を中心とした在日外国人支援の2つの事業を展開しています。
非行少年の更生支援では、とくに社会の受け入れが難しい、重い犯罪に関与した若者の社会復帰を支援。相談支援をはじめ、社会復帰を後押しするための社会定着支援、居住支援、生活支援を実施し、さらに、啓発や教育の一環としてオンラインゼミも開講しています。
在日外国人支援では、日本社会におけるムスリムへの理解不足や文化の違いなどから、在日ムスリムが孤立しやすい現状をふまえ、とくにコロナ禍で生活が困窮している在日ムスリムを支援。現在もイスラム教徒が食べることができる「ハラル食品」の提供や生活相談、在日ムスリムによる共助ネットワークづくりなどを行っています。
「海外事業も日本事業も、つまるところは、課題を抱える当事者が社会の一員として主体的に生きていくための伴走支援。本質は変わりません」と永井さん。海外事業でテロの加害者だった若者と向き合ってきた経験が非行少年の更生事業に、多くのイスラム教徒と活動してきた経験が在日ムスリム支援に活かされるなど、これまでの知見が国内支援でも活かされています。
休眠預金を活用し、行き場のない難民認定申請者に緊急支援を実施
国内に活動を広げる中、コロナ禍が明けると、在日外国人からの相談にある変化が生じます。入国規制の解除にともない日本への入国者数が増え、それに比例して、難民認定申請者や非正規滞在者など在留資格が不安定な外国人からの食料や住居を求める相談が急増しました。それまでは定住している在日外国人からの相談が大半を占めていましたが、相談者も相談内容も大きく変わったのです。長年にわたり難民支援に携わってきた吉野さんは、その背景をこう説明します。
吉野京子さん(以下、吉野)「難民認定申請者は、紛争や迫害などさまざまな事情から逃れる中、たまたま日本の観光ビザを取得して日本へ来たという方がほとんど。入国後に難民申請するものの、その多くは難民認定がおりないまま、在留資格がない状態で日本に留まることになります。在留資格がなければ行政サービスを受けられず、国民健康保険にも加入できず、働くこともできないため、生活は困窮し、路上生活に追いこまれる人も……。収入がなく、行政の支援にもつなげられない彼らを、民間の支援団体や個人だけで支えるのには限界があり、支援から取り残されていたのです」

「これは自分たちがやるべき問題」と判断したアクセプト・インターナショナルは、 NPO法人 青少年自立援助センターが公募していた2023年度緊急支援枠の休眠預金活用事業に申請。これに採択され、難民認定申請者と非正規滞在者に向けた緊急人道支援事業を始めます。具体的には、食料物資の支援や、一時的に住む場所を確保する緊急居住支援、日本語教育、利用できる支援サービスへの橋渡しなどです。また、アウトリーチの手段として、世界で普及しているメッセージングアプリの「WhatsApp」を活用。これにより、支援情報が瞬く間に拡散し、短期間で多くの支援を必要とする外国人にリーチすることができました。
取材時点(2025年1月28日)で、相談登録者は約170名。フードパントリーやWhatsAppを通して相談者のニーズを聞き取り、それぞれが必要とする支援を届けています。イスラム教徒にはハラル食品を、フルーツが必要な人にはパイナップルやミカンなどの缶詰を、自分で料理をしたい人には小麦粉や豆、オイルなどの食材を提供するなど、個々の希望に寄り添った支援を実施。食料以外にも、子どもがいる家庭には成長に合わせた衣服を、女性には生理用品を配るなど、生活状況に応じたきめ細かなサポートを行っています。
吉野「こちらが良かれと思って送った食料でも、相手にとってはそうではないことが何度かありました。そんなときは、『何か別のものが必要だったのかな?』と考えるようにしています。可能な限りどんなものが必要かを聞き取ることで、本当に必要なものを知ることができ、相手も『受け止めてもらえた』と安心してもらえます。その安心感が、信頼につながりますから」

日本語を学びたいというニーズも高く、希望者には週1回、1人30分のオンライン日本語教室を実施。授業を担当するメルテンス甲斐さんは、単なる言語学習にとどまらず、コミュニケーションの場としての役割も大切にしています。
メルテンス甲斐さん「家族友人と遠く離れ、コミュニティから隔絶された生活を送る受講者にとって、授業は人とつながることのできる数少ない機会です。雑談を交えたり、生活相談を受けたりすることで、少しでも孤立感の解消につながればと思っています」
一方、「相談を待つだけでなく、こちらから能動的にアプローチすることも大切」と話すのは、食料物資支援を担当する冨山里桜さん。
冨山里桜さん「相談者の中には、特にムスリマ(イスラム教徒の女性)のように、宗教的な背景や文化的な要因、周囲に頼れる人が少ないことなどから、支援を必要としていても声をあげられないケースもあります。実際、WhatsAppで連絡がつかないので訪問してみると、電気もガスも止まっていたという母子家庭のケースがありました。そうした方たちも取り残さないよう、こちらからこまめにコンタクトを取ることでフォローし、支援につなげるようにしています」
社会参加を通じて未来を切り開く支援のかたち
日本では難民認定率が低く、多くの難民認定申請者が中長期の展望を持ちにくい状況にあります。そんな中、「今回の事業では、まずは緊急支援として、難民認定申請者が人間として最低限の尊厳を保てることを第一の目標にしています」と吉野さん。その上で、専門家と連携し、相談者自身も交えて中長期的なプランを話し合い、日本で安定した生活を送るための法的支援も行っているそうです。また、在留資格がない外国人の子どもでも学校に通える制度を活用し、自治体と交渉して就学機会を確保するなど、今できる支援を重ねながら希望をつなげています。
こうした相談者のニーズを満たす支援だけでなく、相談者の主体性を促すはたらきかけも大切にしています。例えば、ガーナ人の青年に「公園で寝て過ごしているなら、うちへ来たら?」と事務所に誘ったところ、メンバーと一緒に食料物資支援の整理や荷物運びをするように。最初はほとんど口をきかなかったのが、今やアクセプト・インターナショナルの頼もしいメンバーになっているのだそうです。
永井「ボランティアでも小さいことでも、社会に参加することに大きな意義があります。困難な状況にある彼らだからこそ、できることがたくさんあるはず。その可能性に光を当て、引き出していくことも私たちの役割です。彼らが参加できる場をたくさんつくって、新たなステップにつながる機会を少しでも多く提供していきたいですね」

休眠預金活用事業をきっかけに生まれた3団体の連携
アクセプト・インターナショナルがこの事業を通じて得られた大きな成果の一つが、団体同士の連携です。同時期に休眠預金活用事業の実行団体として採択されたのを機に、Mother’s Tree Japan、つくろい東京ファンドの2団体とつながり、思いがけない強力な支援ネットワークが生まれました。例えば、路上生活をしていたムスリマの妊婦のケースでは、Mother’s Tree Japanが出産可能な病院を探し、イスラム教の文化に配慮して女医を手配。つくろい東京ファンドが居所を確保し、アクセプト・インターナショナルがハラル食品の提供を実施しました。各団体の専門性を活かした支援が迅速に展開され、適切なサポートを提供することができたのです。
吉野「自分たちが不得意なところは、得意な団体にお任せする大切さを改めて学びました。今も3団体で情報を共有しながら、連携を深めています」
「後進の育成」も今回の事業を通じて得られた大きな成果です。日本では難民支援の経験者が少ない中、今回の事業を通して若手メンバーが多様なケースを経験し、実践を積む機会を得ました。
吉野「若手メンバーが現場での経験を重ねることで、知識やノウハウをしっかり継承できました。今では、自ら判断し行動できるまでに成長し、今後のさらなる支援につながると期待しています」
アクセプト・インターナショナルは事業終了後も、当事者が中長期の展望を持てるよう、可能な限りバックアップを継続。「平和の担い手を増やす」活動として、テロ・紛争に関わる若者を保護する活動に加え、在日ムスリムのネットワーク強化など、国内外の活動に引き続き力を入れていきます。
永井「私は、テロリストも非行少年も、在日ムスリムも難民もみんな、社会の担い手、平和の担い手になれると心から思っています。これからも彼らに伴走し、その可能性を探り続けていくとともに、まだアプローチできていない『解決の担い手がいない難しい問題』にもチャレンジしていきます」

■資金分配団体POからのメッセージ
アクセプト・インターナショナルの強みは、「難しい問題こそ自分たちがやる」という高いプロフェッショナル意識と、海外で培った独自のノウハウにあると考えています。今回その強みを活かし、既存の支援団体では対応が難しかった在留資格が不安定な在日外国人への支援が可能になりました。また、私たちが資金分配団体を務めるにあたり重視していたのが、団体同士のつながりです。実際に実行団体間の連携が生まれ、情報共有も進んだことは、大きな成果の一つです。今後さらに、さまざまな強みを持つ団体同士の連携が進み、支援の輪が広がることを願っています。
(NPO法人 青少年自立援助センター YSC Global School/浅倉みさきさん)
【事業基礎情報】
実行団体 | 特定非営利活動法人 Accept International |
事業名 | 難民認定申請者及び非正規滞在者への緊急人道支援事業(2023年度緊急支援枠) |
活動対象地域 | 東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県 |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 青少年自立援助センター |
採択助成事業 | 急増する「海外にルーツを持つ子育て家庭・若者・困窮者」緊急支援事業 |
学校に行きづらさや家庭に居づらさを感じている子どもたちに、安心して過ごすことができる“居場所”を提供しているのが北海道砂川市にある「みんなの秘密基地」です。21年度通常枠の実行団体(資金分配団体:認定NPO法人カタリバ)として、ユースセンターを立ち上げ、子どもたちが安心して時間を過ごせる居場所の提供のほか、フリースクールの運営などを行っています。最近は、同じ悩みを持つ大人同士がつながるお茶会の開催など活動の幅も広がり、子どもも大人も集う地域の居場所に変化しつつあるそうです。今回は、「みんなの秘密基地」を運営するNPO法人「みんなの」 代表理事である望月亜希子さんに、活動のきっかけやこれまでの取り組み、今後の展望などを伺いました。
”子どもたちの居場所づくり”を目指したきっかけ
ユースセンターとは、家でも学校でもない、若者たちの“第三の居場所”のこと。北海道の砂川市にある「みんなの秘密基地」もその一つです。
2022年に子どもたちのユースセンターとして活動を開始して以降、放課後や土曜日になると、近隣の子どもや若者たちが集まり、ゲームをしたり、おしゃべりをしたり、勉強をしたりと、皆、思い思いに時間を過ごしています。
代表の望月亜希子さんに、子どもや若者たちの居場所づくりをはじめたきっかけについて伺いました。
「私は元々、会社員として自然素材のコスメティックブランド「SHIRO」を展開する株式会社シロで働いていました。砂川市に本社工場があり、地域の子どもたちのために職業体験イベントや工場見学を開催していました。そこでは、楽しんでいる子どもたちがいる一方、自分の意見を決められなかったり 、自分に自信が持てず「私なんて」と嫌いになってしまっていたりする子どもたちがいることに気づきました。そして、そういった子どもたちが、自分のこと好きなまま、自己決定を繰り返しながら成長して社会に羽ばたいていってほしいという想いを抱くようになりました」
その後、望月さんは2019年に会社を退職し、2020年度から特別支援教育支援員(※)として学校に勤務することに。子どもたちに寄り添いたい、そんな想いを持って小学校、中学校で働き始めましたが、同時に教師とは違う特別支援教育支援員という立場ではできることが限られてしまう現実に、もどかしさも感じるようになっていました。
※発達障害や学習障害のある児童生徒に個別的な支援を行う支援員
まちづくりプロジェクトへの参画をきっかけに、ユースセンターの立ち上げに動き出す
ちょうどその頃、望月さんの前職の株式会社シロの代表取締役会長である今井浩恵氏から、砂川市の活性化を目的に立ち上げる「みんなのすながわプロジェクト」の構想を持ちかけられました。これはシロの本社工場の移設増床にともない、ものづくりや観光をテーマにした施設を地域の人たちと一緒につくるまちづくりプロジェクトであり、その参画メンバーとして望月さんも活動に携わることに。
「工場の新設により、シロのショップやカフェなども新工場の施設に移転することが決定したため、そのカフェの空き店舗を有効活用するなら、『ぜひ子どもたちの居場所を作りたい!』と手を挙げ、即答で承諾してもらいました。当時は学校の中で支援員として働いていましたが、学校や家庭に居場所がないような子たちも、安心してここにいていいんだと思える場所を作りたかったのです。」
こうしたきっかけから、カフェの空き店舗を活用して、学校や家庭でもない子どもたちのサードプレイスとなるようなユースセンターをつくりたいという想いが具体化していったといいます。
休眠預金活用で立ち上げることができた「みんなの秘密基地」
自分のやりたいことの方向性が見えてきた望月さんは学校での特別支援教育支援員としての業務と並行して、居場所作りの準備や仲間集めに取り掛かるも、ユースセンターはもちろん、非営利団体の運営経験はなく、何から準備をしたらいいのかわかりませんでした。そんな矢先、教育支援活動を行う認定NPO法人カタリバが運営する「ユースセンター起業塾」が休眠預金を活用した事業として、助成および事業立ち上げ伴走を行う団体の募集をしていることを知りました。
ユースセンター起業塾とは、全国に10代の子どもの居場所を広げるため、居場所づくりや学習支援をしている/したい方々を対象に、各団体の立ち上げを資金面・運営面の両軸から伴走支援を行っている事業です。
この募集要項を目にした途端、自分たちのやりたいことと合致すると確信した望月さんは、申請をし、無事に採択されたそうです。
「右も左も分からず、とにかく勢いだけで動いていた私にとって、この事業はまさに渡りに船でした。さらに、教育支援の実績が豊富なカタリバさんの支援を受けられることも心強く、毎月のミーティングや研修、経理、財務などのバックオフィスに関する相談会などもあり、常にきめ細やかにサポートしていただきました」
そこからは、カタリバによる支援を受けながら、仲間も増えていきますが、シロのショップとカフェが移転するまでには、まだ1年。その期間に借りられる場所を探すことに。
そこで、シロでも長年お世話になっている市内のお寺に相談すると、快くお堂を無償で貸してくださることになりました。こうして小学校3年生~高校生を対象にしたユースセンター「みんなの秘密基地」の活動がスタートしたのです。
2023年6月には、拠点を旧シロ砂川本店の店舗へ移し、活動をしながら気づいたことを解決しようと、午前中には「無料のフリースクール」を開始。厨房を活用した「みんなのごはん(子ども食堂)」や、20代以上の若者を対象にした「夜のユースセンター」、同じテーマで悩む大人の「つながるお茶会」なども始まり、活動の幅も広がっていきました。
そこで大きな助けになったのがユースセンター起業塾の助成金だったそうです。
「スタッフもボランティアでずっとお願いするわけにはいかないため、家賃や光熱費のほか人件費にもあてられる助成金にとても助けられました。また子ども食堂などの活動費にも使うなど、私たちの運営や活動全体を支えてくれています」

ありのままの自分でいい”と思える、空間づくりを大切に
何をしてもいい、何もしなくてもいい――。それが「みんなの秘密基地」のコンセプトです。読書やゲーム、友だちとのおしゃべり、お昼寝、勉強……ここでは、経済状況などにかかわらず、誰でも自分でやりたいことを決めて、自由に安心して過ごすことができます。
「『子どもたちが自分と自分の人生を好きなまま、自由に羽ばたく翼を折らずに育む地域社会をつくりたい』日々、居場所の活動をしていく中で、このようなビジョンに辿り着きました。子どもに変化や成長を求め社会に適応させるのではなく、変えたいのは、私たち大人の社会の視点やあり方なのです。私たちスタッフが、子どもたちに何かを強制したり、指導したりすることは一切ありません。子どもたちが自分の考えを自分の言葉で伝えることができるように、寄り添い話を聞くこと、そして、みんなが“自分のままでいいんだ ”と思える空間づくりを心掛けています」
その結果、利用者にアンケートを取った際には、「みんなの秘密基地では自分らしくいられると感じている」に「そう思う」と回答した割合が92.3%と、子どもたちの多くが安心感をもってみんなの秘密基地を利用しくれていることがわかったそうです。
実際に、ユースセンターには、1日15~20人の子どもたちが訪れ、初年度の2022年は延べ約1,450人、2023年度は延べ約1,300人が利用。今では、砂川市の子どもだけでなく、近隣地域の利用者も徐々に増えているそうです。


地域のみなさんと一緒に作る、『みんなの』居場所へ
当初はユースセンターとして活動していた「みんなの秘密基地」ですが、今では、それ以外の活動も増え、新たな取り組みも広がっています。
「現在、平日の午前中から放課後までは、不登校支援の無料フリースクールとして、さまざまな事情で学校に行かない、行けない子どもたちを受け入れています。さらに、不登校支援をしていく中で気づいたのは、子どもたちだけでなく親のサポートも必要だということです。」
そこで新たにスタートしたのが、『つながるお茶会』という取り組みです。月に2-3回、不登校や発達のテーマでお茶会を実施し、保護者を中心に大人たちのコミュニティづくりを行っています。「保護者の皆さんが悩みを共有し相談できる場というのは、私たちが想像していた以上に求められていたと実感しています。やはり、当事者同士でしか分かり合えない悩みもあり、お茶会だけではなくLINEグループで日々の出来事や悩みを安心して語り合えるコミュニティができました。子どもたちにとって、家の中でお母さんやお父さんが笑顔でいてくれることほど嬉しく安心できることはないと思いますから、これからも、大人のコミュニティを大事に育てていきたいです」
また、みんなの秘密基地では、月に2回は土曜日もオープンし、近隣の農家さんにいただいた規格外品や自分たちで持ち寄った食材を使って、子どもたちと料理作りをしているそうです。ほかにも、地元イベントへの出店やハロウィンやクリスマス、キャンプ などのイベントもあり、さまざまな体験を通して、子どもたちが社会とつながりながら余暇を自由に楽しむきっかけづくりを提供しています。

活動も3年目を迎え、今では子どもだけではなく、若者や大人も集うみんなの居場所に変化しつつある「みんなの秘密基地」。最後に望月さんに、今後の展望を伺いました。
「2024年5月に、『みんなの秘密基地』の運営団体として、NPO法人『みんなの』を立ち上げました。 『みんなの』にした理由の一つに、この活動を、私たちだけの「事業」ではなく、地域のみなさんと一緒に作っていく「市民活動」にしていきたいという想いがあったからです。この3年間で休眠預金を活用した助成金のもと、運営の基盤づくりはできました。今後はさらに、地域のみなさんと一緒に活動しながら、『子どもたちが自分と自分の人生を好きなまま、自由に羽ばたく翼を折らずに育む地域社会』を実現していきたいと思っています」
【事業基礎情報】
実行団体 | 特定非営利活動法人 みんなの |
事業名 |
北海道砂川市「‘本当の社会で生きる力’を育む子どもの居場所」創造事業 |
活動対象地域 | 北海道砂川市 |
資金分配団体 | 認定特定非営利法人 カタリバ |
採択助成事業 |
2021年度通常枠 |