休眠預金等活用法に基づく資金分配団体(助成)の公募に申請をご検討中の皆さまに向けて、2023年度通常枠・緊急支援枠、2021年度・2020年度通常枠の資金分配団体である「ちくご川コミュニティ財団」の柳田あかねさんに、休眠預金活用事業に申請した背景と現在の活動についてのお話を伺いました。
休眠預金活用事業に申請した背景を自団体の活動と合わせて教えてください
一般財団法人ちくご川コミュニティ財団は、人の役に立ちたいという思いと活動をつなぐプラットフォームです。2019年に市民の力を得て、福岡県で初めてのコミュニティ財団として設立されました。
初めて休眠預金活用事業にチャレンジしたのは、2020年度通常枠の事業です。3か年の計画で、困難を抱える子ども若者の孤立解消と育成というテーマに絞って事業を進めました。次の2021年度通常枠の事業では、誰一人取り残さない居場所づくり、学びの場における子ども若者の孤立解消と育成というテーマで、いわゆる不登校の子ども若者をサポートする実行団体と3年間の事業を始めました。2023年度通常枠の事業では、困難を抱える家庭を取り残さない仕組みづくり、子ども若者とその家族のためのコレクティブインパクトと題した3か年の事業を始めました。さらに2023年度第4次募集の緊急支援枠の事業にチャレンジして、子育てに困難を抱える家庭へのアクセシビリティ改善事業、多様なつながりが生まれる仕組みづくりということで、限られた期間の中でとにかく支援が必要な層に、必要な支援を届けようという事業をスタートさせました。
ちくご川コミュニティ財団は、この4つの事業を一連の流れとして取り組んでおります。
申請を行うために準備で取り組んだことを教えてください
4つの事業の申請をはじめるにあたり、最初に取り組んだことは、自団体のメンバーで話し合うことからでした。どこに社会課題を感じているか、どの地域でその事業を調査分析していくかなどをメンバー全員で考え、同じ目標を持つところから始めました。
次に、その対象地域の中で調査を始めました。その地域で活動している様々な市民社会組織の方々にアンケートを取り、アンケートの中で明らかになった社会課題を解決するために、市民社会組織の皆さんや行政などにヒアリングをしていきました。ヒアリングの結果を分析し、評価アドバイザーにも相談しながら、事業設計を行いました。
実行団体の伴走支援の内容や工夫していることを教えてください
私たちの伴走支援はすごく強力で、すごく濃密なものになっています。また、分野も多岐にわたっております。
例えば、休眠預金活用事業ですごく大事されている評価です。事前評価、中間それから事後、それぞれの評価のフェーズに沿って伴走しています。もちろん評価に取り組むことは、ある意味負荷がかかることでもあると私たちも思っていますが、評価に取り組むことで実行団体の事業終了後に絶対、力はつくと思っていますので、出口戦略の一つとしても、評価については力を入れています。また、事業そのものの運営を持続可能なものにするための資金調達では、ファンドレイザーの資格を持つPOがしっかり実行団体の無理のないように計画を立て、その時抱えている悩みと照らし合わせながら、資金調達の計画を一緒に立てていきます。広報の面では、例えば、伝わるウェブサイトにするにはどうしたらいいのか、定款や規程類をどういうところにおけば団体が信頼を得られるかかなども、一緒に考えています。
それから日々、受益者や支援してくれる方に向けて、あるいはその地域の行政や企業の方々に向けても、様々なステークホルダーごとの情報伝達の仕方について一緒に考えています。SNSだけではなく、紙で作るニュースレターなどの定期刊行物、アニュアルレポートの発行や編集のアドバイスもしています。
休眠預金活用事業を通じて、よかったことについて教えてください
休眠預金活用事業で一番いいと思うのは、三層構造だということです。JANPIAと資金分配団体と実行団体が同じ目標に向かって社会課題解決のために走っていく、この仕組みがすごくいいなと私は思っています。資金分配団体である私たちが助成金を交付するというフローにはなっていますが、お金を届けだけではなくて、実行団体の伴走も行います。また、何より資金分配団体の私たち自身も、JANPIAに伴走されており、3者そろって同じ目標に向かっていけるのが一番いいと思っているポイントにです。
申請を考えている方へメッセージをお願いします
休眠預金活用事業の資金分配団体になると、たくさんの仲間と出会うことができます。例えば、ちくご川コミュニティ財団の場合、最初はたったひとりのPOしかいませんでしたが、事業を始めて4年目の今は6人のPOがいます。自分たちの団体での仲間がだんだん増えていくだけではなく、地域で一緒に社会課題を解決するための仲間、つまり実行団体の方々と出会うことができます。
さらに、全国にいる資金分配団体の仲間と出会うことができます。横のつながりがどんどん広がっていくことによって、自分たちが日々やりたいことや解決したいことに向けてグッと背中を押してもらえる。そんな存在に、この休眠預金活用事業を通して出会えると思っています。
ぜひ、資金分配団体にチャレンジして、まだ出会っていない仲間のに出会ってください。
〈このインタビューは、YouTubeで視聴可能です! 〉
(取材日:2024年6月13日)
現在JANPIAでは「2021年度 新型コロナウイルス対応支援助成〈随時募集〉」を実施中です。申請をご検討中の皆さま向けに、20年度コロナ対応緊急支援枠の資金分配団体である特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)地域事業部の藤原 航さんに、主にコロナ対応緊急支援枠〈3次〉のコンソーシアム申請についてのお話を伺いました。
コロナ対応緊急支援枠に申請した背景を、自団体の活動と合わせて教えてください。
私たちジャパン・プラットフォーム(JPF)は、海外支援を中心に、災害時における人道支援を行っています。今回、民間外交や在留外国人問題に取り組む「公益財団法人日本国際交流センター(JCIE)」とコンソーシアムを組成し、20年度コロナ対応緊急支援枠〈3次〉に申請しました。
JPFでは、コロナ禍に突入した昨年の4月から、寄付を原資とした法人独自のプログラムを実施しています。しかし、「コロナ禍」から「コロナ経済禍」となるような状況で、経済的に困難な方の増加にいただいた寄付だけでは対応が難しくなりました。
そこでまず、コロナ対応緊急支援枠〈1次〉に申請。そして1次の事業を行っている中で、さらに手が届かない方々として、在留外国人の皆さんがおられることが分かってきました。これは何か行動を起こさなければいけないと考え、2020年度のコロナ対応緊急支援枠の公募がまだ実施されていたので申請の検討を始めました。
コンソーシアム構成団体のJCIEにおいては、2019年度通常枠の事業である「外国ルーツ青少年未来創造事業」の中で、同様にコロナ禍における課題を強く感じておられ、支援の必要性を感じておられたとのことです。
〈用語解説〉コンソーシアム
コンソーシアムとは、申請事業の意思決定および実施を2団体以上で共同して行うこと。コンソーシアムを構成する団体から幹事団体を選び、申請は幹事団体が行います。
今回のコンソーシアムはJPFが幹事団体、JCIEが構成団体となり、2団体で事業を実施しています。

コンソーシアムとして申請された理由を教えてください。
コロナ対応緊急支援枠〈1次〉の事業を通じて把握した課題に対して調査を実施したところ、コロナ禍において国内のセーフティネットでは支援ができない、あるいはできにくい“在留外国人等”の生活支援の必要性があることがわかりました。しかし、自団体のノウハウだけでは対応が十分ではないことも考えられ、JANPIAに事前相談をしたところ在留外国人支援のノウハウのある団体とのコンソーシアムを勧められたのです。
そこで、以前PO研修(プログラム・オフィサー研修)で一緒だったJCIEの方にお会いし、同じ課題意識で、異なるノウハウを持っており、それぞれの強みによる相乗効果が期待できました。また、両団体とも休眠預金活用事業のしくみを理解していたというのも大きかったと思います。お互いに相談しながらプログラムを進めていけるという点から、コンソーシアムでの申請を行うこととなりました。

コロナ対応緊急支援枠と通常枠の事業の違いなど、実施してみて感じたことはありますか?
総論としては、私たちJPFもJCIEも申請させていただいてよかった、と捉えています。
何が良かったのかといいますと、「支援に必要な資金規模があったこと」や、「コロナ対応緊急支援枠は通常枠と比較して運用ルールが緩和されている部分があったので、より多くの実行団体を採択できたこと」、さらに「伴走支援も実施できていること」などが挙げられます。新型コロナウイルスという突発的な課題に対応できる、このような資金があって、本当に良かったと思っています。
また今回の事業で取り組んだ課題は、これまで支援が届きにくかった新たな領域のため、今回の助成を通じて団体間での協力関係や、新しい支援の手法が生まれています。またこれまで支援されていなかったということもあり、多様なエビデンス・結果が出てきており今後につなげられるのではないかと期待しています。
事務面においては、通常枠と比較して事務量が相対的に少なく、可能な限り事業に集中できると感じています。しかし、事業期間が通常枠よりも限られるので、時間的にはタイトな部分は難しい部分でもあると感じています。
また実行団体の多くは、通常の助成金事業の延長に捉えている傾向を感じています。
しかし休眠預金活用事業の特徴は、通常枠であっても緊急支援枠であってもアウトカムを目指すというところがあると考えています。今回は緊急性の高い事業ということで、団体によっては当初の目途と違うところもありました。私たち資金分配団体の力量次第で今後のアウトカムの質が変わってくるかなと考えています。
助成事業を通じて、良かったこと、苦労していることはどんなことがありますか。
コンソーシアムについて良かった点は、困難な課題に対して、お互いの強みを生かした協働と役割分担ができ、課題解決にアプローチできていることです。一方、緊急支援助成であるという背景もありますが、違う文化の団体同士なので、団体間の会計などの処理方法や審査方法等について、苦労というか調整を要していると思います。
事業面においては、資金分配団体間、実行団体間において、単独でプログラムを実施するよりも非常に多くの視点を持つことができ、多くの学びや発見がありました。この課題の輪郭もよりはっきりと見えるようになったと感じています。残念だったのは、コロナ禍のために実行団体との面談がオンライン中心となり、現場の確認を思うようにできない側面があったことでした。
コロナ対応支援枠へ申請をご検討中の団体の皆さんにメッセージをお願いします。
コロナ禍で苦しんでいる方々へ大規模な事業として支援できる点で、極めて意義のある制度であると考えます。
申請を悩まれている場合は、アイディア段階でも、私たちがしたように、JANPIAさんにまずは相談してみるのが良いと思います。それで発見することもあると思います。
その際には、コロナ対応支援枠の申請書類がシンプルで書きやすくできているので、下書きをしてみると良いでしょう。そうすると、論理的な矛盾などを早期に発見できたりすると思います。
また、今回の私たちのように、コンソーシアムを組むという方法もあります。新たな分野への支援の開拓とともに、多くの学びや発見も得られます。もし独力で難しい場合は、既に休眠預金活用事業に参画している近い領域で事業を展開している団体と連携を組まれるとよいのではないかと考えています。
〈このインタビューは、YouTubeで視聴可能です! 〉
※この動画は公募説明会で上映したものです。
(取材日:2021年10月21日)
▽ジャパン・プラットフォームの採択事業はこちらからご確認いただけます。
現在JANPIAでは「2021年度 資金分配団体の公募〈通常枠・第2回〉(11月30日17時まで)|コロナ対応支援枠〈随時募集〉」を実施中です。申請をご検討中の皆さま向けに、20/21年度資金分配団体である認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 三島理恵さんにお話を伺いました。
休眠預金活用事業に申請した背景を自団体の活動と合わせて教えてください。
むすびえは、2018年に全国に広がるこども食堂の支援をしようと立ち上がった団体です。申請当時は設立して3年目というまだまだよちよち歩きで組織基盤を整えている段階で、コロナ対応支援枠に申請をしました。ですから、「休眠預金の事業を通じて社会課題の解決をしていこう」と十分に組織の準備ができて申請をしたというわけではありませんでした。
一方で、コロナ禍となり、こども食堂が緊急支援の活動を各地域で始められていたこともあって、こども食堂側の支援ニーズも本当に急拡大していました。こども食堂を包括的に支援する必要性が高まっていたことを受けて、むすびえが「いつか休眠預金を活用して社会課題の解決に資するような事業展開を全国規模でできないかな」と考えていたこと、そしてコロナ対応緊急支援枠の助成期間が1年ということもあって、「まだよちよち歩きの中だけどチャレンジしてみよう」となったのが、申請をした背景になります。
コロナ対応緊急支援枠を経て、通常枠に申請した経緯を教えてください。
「コロナ対応緊急支援枠」で緊急の支援を行える一方で、1年の助成活動を行うだけでは、そんなに簡単には社会課題が解決しないことも痛感しておりました。また「通常枠」で3年間の助成事業を行うからこそ、社会課題解決に資する事業ができることも感じており、次第に3年間だからこその事業に一度チャレンジしてみたいという気持ちを持つようになりました。コロナ対応緊急支援枠で採択いただいたことを私たち自身の成功体験として捉えていたので、「こども食堂」のような草の根事業から「イノベーションの促進に挑戦してみたい」と思ったことが通常枠にチャレンジしたきっかけでした。
かつ、この休眠預金を活用する事業自体が「社会的な大きな実験」であるということが私たちの背中を後押ししてくれました。「こども食堂」は全国に五千カ所広がる活動で、それが政策制度の裏付け無く、全国にボランティア活動として広がっています。そういった現象を私たちはひとつのイノベーションと捉えています。休眠預金活用事業の「社会課題の解決をイノベイティブに革新的な手法で解決していく」というところと「草の根の活動のこども食堂」の掛け算で、こういった社会課題の解決に全国で取り組むみなさんといっしょに取り組んでいけるということが、この通常枠に申請をさせてもらった大きなきっかけになりました。
コロナ対応緊急支援枠と通常枠の事業の違いなど、実施してみて感じたことはありますか。
組織体制を強化しながら休眠預金活用事業を行っていた私たちにとっては、コロナ対応緊急支援枠は、最初のチャレンジにはちょうどいい枠組みだと実感しています。
2つの事業の大きな違いは、「通常枠」は一定のリスクを許容しつつ、最大の成果を目指すために評価がセットになっている点です。私たちは最初にコロナ対応緊急支援枠の1年間の事業をして、そこに触れながら次に通常枠の3年間の事業にチャレンジできたので、その事業の中で「評価の重要性」を痛感しながら、通常枠の事業を推し進めていけるというところは、とても大事なステップを踏めていると思っています。
もう一つの大きな違いは、評価を通じながら、セオリーの確認をし、プロセスも含めてチームメンバーと共有化するコミュニケーションツールになっていること、内部での浸透度合いの違いというところだと感じています。
また3年間の通常枠では、社会の課題に対して「自分たちがどういうアプローチをし、どういう結果が生み出され、失敗も含めて、成果が出ているのか」を社会へのフィードバックをしっかりとしていく大きな責任があるのも、コロナ緊急支援枠との大きな違いだと実感しています。
助成事業を通じて、よかったこと、苦労していることはどんなことがありますか。
「事業の推進」「体制の強化」「財源の確保」という3つの軸を休眠預金活用事業を通じながら実施できているということ自体が、まずとても良かったと思っています。他の助成事業ではなかなか無い3つの成長というところへのアプローチだったと思っています。
また、成果を最大化させていくためにも、波及効果を狙って取り組んでいくことは大事な視点だと思っています。その上で最初に取り組んだこととしては、「内部での共有の場」です。
まず私たちが「休眠預金活用事業を通じてどういったことを実現しようとしているのか」を内部に対してしっかり浸透させていくこと自体がひとつ大きな価値になります。
かつこの事業自体はJANPIA、資金分配団体、実行団体、三者の「イコールパートナー」という関係性があるというところも踏まえて、横連携の会議なども複数に実施できていることが良い変化だったと思っています。
苦労していることは、まず、事業を開始する前は「申請する時の書類が多かったということ」です。もう一つは、システムには苦戦しています。逆に苦戦しているからこそ実行団体のみなさんと「これちょっとわからないよね」という会話をしながら関係構築をできているというところは、苦労しながらもチームビルディングにつかえているかと思います。
一方で、休眠預金活用事業の特徴の一つであるJANPIAさんとイコールパートナーでもあることから、「苦労している」ということもJANPIAの方に率直にお伝えできること、そして一緒に悩み、解決策を見出そうという場を設けてくださいます。
そういう意味では、JANPIA、資金分配団体、実行団体がいっしょになってこの休眠預金を活用した事業を推進していくこと自体が、社会課題をいっしょに解決する日本の中でのチームであり、社会課題の解決、社会変革を促す上ですごく大事なことだと受け止めています。
申請を考えている方へメッセージをお願いします。
まず、この事業自体が大きな社会実験なので、「ぜひ、一緒にチャレンジしませんか?」とお誘いしたいと思います。申請前のことを思い出すと、不安だったり、私たちが手を挙げて大丈夫なんだろうか、という懸念もありました。私自身もやれるんだろうか、組織が体制として十分なんだろうかということも何度も悩みましたし、自分たちにとってはまだ早いんじゃないかということも、組織の中で様々に検討しました。
その上で、やはり「チャレンジしないことには当然採択されない」ですし、休眠預金活用事業にかかわる機会も得られないということで、私たちは手を挙げました。
もし悩んでいらっしゃるであれば、そのお気持ちはとってもわかりますが、休眠預金活用事業に出会ったのであれば、ぜひチャレンジしていただきたいなと思っています。
実際採択されたときの不安もたくさんあると思います。私たちも「どのように実走させていくんだろう」、「本当に3年間で自分たちが目指している見たいゴールを見られるんだろうか」、と様々な不安がありました。そんな中でむすびえがやってこられているのは、この休眠預金活用事業のひとつの特徴でもある私たちへの「伴走支援」をJANPIAのPOのみなさんがしてくださるという枠組みがあるからです。そこは通常の助成事業とはまったく違うところで、ある意味安心してチャレンジできる器がこの休眠預金活用事業だなあと実感しています。
また申請にあたって、団体の中で今後のビジョンについても検討するプロセスを踏まれると思いますので、それも大事な機会として捉えてチャレンジを検討いただけたら嬉しいなと思っています。
〈このインタビューはYouTubeで視聴可能です!〉
※この動画は公募説明会で上映したものです。
(取材日:2021年10月26日)
▽こども食堂支援センター・むすびえの採択事業はこちらからご確認いただけます。
現在JANPIAでは「2021年度 資金分配団体の公募〈通常枠・第2回〉」を実施中です(公募締切:2021年11月30日17時)。申請をご検討中の皆さま向けに、19/20/21年度資金分配団体である公益財団法人 長野県みらい基金 理事長 高橋 潤さんにお話を伺いました。
休眠預金活用事業に申請した背景を自団体の活動と合わせて教えてください。
長野県みらい基金は2012年に寄付を集め、NPOや市民活動へ支援をすることを目的に設立されました。ですので、公益活動に対して資金を見つけてお渡しする、というのは本業でした。所属している全国コミュニティ財団の研修などでも、助成事業のあり方などを共有していく中で、休眠預金活用のロビー活動や法整備などを知り、手を挙げることにしました。手を挙げる際、地域のコミュニティ財団として、いわば地域の目利きとして、その背景、課題から申請内容を絞り込みました。
具体的には、寄付募集サイト「長野県みらいベース」を6年間運営してきて見えてきた地域課題、「こども若者支援に関する実態調査」から見えてきた課題と団体のその姿、長野県内のこども支援ネットワーク構築から見えてきた課題、資源。また、具体的な伴走支援の必要性が見えてきました。
例えば、2017年には長野県が実施した「子育て家族実態調査」の生データを使って、県内各地でNPOの方々と読み解き会を十数回行いました。その中で、「行政がやっている子育て支援が、家庭・こどものニーズとマッチしていない」「市町村の支援施策がいわゆるグレーゾーンの家庭に届いていない、あるいはその家庭の方々がその施策を使っていない」ということが見えてきました。また、「こども支援は親支援であるはずが、こども、親とばらばらになっている」「親へのアプローチが非常に少ない、あるいはできていない」という課題も「子育て家族実態調査」の読み解き会で見えてきました。
休眠預金活用事業の申請に対応するかたちでも長野県各地でヒアリングを開催しました。6地域で56団体の参加があり、様々なニーズ、またそれぞれの団体が抱えている課題、また地域の課題等が見えてきました。
木曽地域では、山間地であるがゆえに本来の対象者に対して支援が届けられない、というような声が聞こえました。松本地域では、地域の空き家など負の資産を活用してコミュニティづくりをしたい、という声がありました。伊那地域では、中山間地での引きこもり等のこども・若者の居場所を作りたいけれどすごく難しい、という声が聞かれました。全県を通じて、障害者や引きこもりのこども・若者の地域参加の機会を作りたい、といった声を多く聞くことができました。
そういった地域の具体的なニーズ、課題を深堀りする中で申請内容が固まってきました。
実行団体の公募について丁寧に進められたとうかがいました。取り組まれたことを教えてください。
この後お話する伴走支援ですが、実は公募開始前から始まっていると思っています。
2019年度では、まだコロナの影響がなかったので、広い長野県ですが4ヶ所で会場を使って説明会を開きました。
説明会の内容は、実行団体公募について基本的なこと、長野県みらい基金がJANPIAに対して申請した事業内容について説明しました。また、具体的な長野県内の公募内容についてご説明しました。もうひとつ、その当時なかなか耳に聞かなかった事業評価、社会的インパクト評価についても一部、二部ということで説明をさせていただきました。
説明会場での時期を見ながら、スケジュールとして開始から申請締切までできる限り長い時間を取ろうと思いました。何故かというと、事前相談を積極的にしたい、そういう呼びかけをしたい、ということがあったからです。
結果、延べ、29団体。1回の面談が21団体、2回面談した団体が7団体、3回面談した団体も1団体ありました。最終的に、実際の申請は18団体ありました。
申請後ヒアリングが、次の大事な支援となります。
共通の訪問調査表を元に、申請書では読みきれない項目。例えば、実際の事業を行う人や代表者の話し方や人となり、その関係性なども現場に行って感じ取ります。また、事務所の雰囲気も重要です。実際の事業をする場所にも案内してもらい、その事業のニーズの確認、対象者の想定の妥当性、実現性、重要性などを現場に行って肌で読み取ってきました。
訪問してのヒアリングシート、それぞれの申請書、団体の関連資料を元に、審査会資料作成のために事務局側の読み解き会を行いました。
宮城の先輩コミュニティ財団である、さなぶりのPOに来ていただき、長野県みらい基金のPOと一緒に丸二日かけて、申請書などの読み解きをしました。POそれぞれが、それぞれの申請に点数、懸念点、良い点などを記したものをそれぞれ発表、集計し、POとしての視点、客観性、共感、事業の将来性などを検討していきました。そうした中で、客観的な審査会用のヒアリングシートができました。
実行団体の伴走支援の内容や工夫を教えてください。
他の資金分配団体はいわゆるウェブのチャットツールなどを活用していらっしゃる、ともお聞きしていますが、長野県は非常にアナログです。2019年度はPO2名が中心となりながら、全員で伴走支援に取り組みました。広い長野県ですが、丁寧に現場を訪ね、たくさんお話しし、一緒に見守り、ともに育つ、という姿勢でした。全体を見るチーフは私がしながら、もうひとりのPOと更に2名に、地域や事業分野の傾向を見ながら担当をしてもらいました。
たとえば農福連携の事業には農協出身のスタッフを。また、地理的な条件も考慮しました。全国区でない地域に根ざした資金分配団体であること、また、申請書にもそこを大きな訴求ポイントにしていましたので、しっかりとした布陣で行いました。担当が随時連絡をとったり実行団体を訪問して、顔の見える関係性を作り、事業の成功への実行力のみならず、リスク管理への備えもしていきました。
また、評価、ファンドレイジングには専門家も支援チームに加わってもらい、出口戦略も見据えました。
実行団体と私たちは、ある意味運命共同体、パートナーなわけです。家族であり、友人であり、共同経営者です。ですので、伴走支援はいわば、日常の関係性の中から感じ取ることが一番重要だと私は思っています。そして、うまく行っているときは、一緒に喜ぶ。困ったときは一緒に悩むことが大事だと思います。
助成事業を通じて、よかったこと、苦労していることはどんなことがありますか。
1年半が過ぎ、今、中間評価のまとめの真っ最中です。順調に行っている事業ばかりではありません。特に、2019年度事業はコロナを想定していない時期の事業計画、資金計画ですので、スタート直後、いきなり事業計画変更、コロナ対応の資金提供など、それもこれも私たちも実行団体も、もちろんJANPIAさんも初めてのことばかりで、その場で検討、対応、相談しながら、悩みながら手探りで行ってきました。
現在、事業の折り返し地点で、多くの団体はここまでで経験し学んだ中で、あと1年半の事業の道筋を見極めて、進んでいます。「足りないところを補う」「うまく行っているところをより厚くする」「困っている人へより活動が届くよう、居場所で待っていた事業をアウトリーチ型に変更する」など、皆が学びながら、「困っている人をより支える」「地域を少しでもよくする」「そのために変えていく」という力が強くなっているのを感じます。
嬉しいのは、それぞれの事業・団体の連携が生まれてきていることです。もちろん、私たちが連携の糸口を作ったり、関係づくりの場を作ったりもしていますが、それぞれの団体が足りないところをより強みのある団体がつながることで補い、そうすることで困難を抱えている人たちへのより丁寧でしっかりとした支援が生まれています。地域同士の支え合いができてきていることが、本当に頼もしいと感じています。
申請を考えている方へメッセージをお願いします。
皆さんが助成をしようとしている対象の方々を、是非とも強く想ってください。その方々がどういう事業に対してどういうアプローチをしているのか、どういう対象の人たちに対して何をやりたいのか、ということを資金分配団体がしっかり知ることで、いわゆる良い公募案件が生まれるのだと思います。普段皆さんがやっていることの足元をもう一度見つめ直すということで、いい申請ができるのではないかなと思っています。
〈このインタビューはYouTubeで視聴可能です!〉
※この動画は公募説明会で上映したものです。
(取材日:2021年10月25日)
▽長野県みらい基金の採択事業はこちらからご確認いただけます。