プログラム・オフィサー(PO)として活躍中のみなさんに、「POの仕事の魅力とは?」「POを通じての学びって?」「大事にしていることって?」など様々なお話を伺う「POリレーインタビュー」。第2回目の今回は、 NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ 渋谷雅人さんにお話を伺いました。
POリレーインタビュー!渋谷さんに聞きました
「こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる。」日本中のこども食堂をサポートするNPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ(以下、むすびえ)は、2018年に設立された新しい団体です。在籍する2人目のプログラム・オフィサー(PO)として活躍するのが、商社を早期退職してむすびえに参画した渋谷雅人さん。渋谷さんがどのような活動をされているのか、企業からの転職が活きると確信する理由をお聞きします。
社会課題を実感した、こども食堂の別れ際
ー渋谷さんは2020年からむすびえに参画されたとお聞きしましたが、どのような経緯があったのでしょうか?
大学を卒業して、住友商事に27年間勤めていたのですが、50歳の時に早期退職を選びました。僕は子どもの頃からサッカーが好きで、「仕事でもチームプレーがしたい」「もっと仲間と一体感を持って、人の役に立っていることを実感できるような人生を送りたい」と願っていました。40歳から10年間悩んで、ようやく退職を決断。妻が若くしてがんで他界してしまって、死生観が変わったと言いますか、「人生の充足感をもっと味わいたい」と感じるようになったことも大きかったと思います。
こども食堂との出会いは、退職の2年ほど前、仙台勤務中に参加したボランティアでした。初対面の子どもたちと2時間ごはんを食べて遊んでお別れをする時に、4歳の女の子がとことこと僕のところに駆け寄って来たんです。僕を“しぶっち”と呼びながら、「ぎゅっとして」とハグを求めてきたんですね。その瞬間、子どもたちの感じている寂しさ、甘えたいけど言葉にできない状況など、色々なことに思いを巡らせました。それから、ハグを求められて拒否する大人はいないはずだとも確信しました。あの体験が、こども食堂の魅力や子どもたちを取り巻く社会課題に気がつく第一歩だったかもしれません。
ーはじまりは、こども食堂でのボランティアだったのですね。支援の形には様々ありますが、プログラム・オフィサーという仕事に就かれたのは何かきっかけがあったのですか?
そのこども食堂の運営者の方から、「商社にいたならファンドレイジングを学ぶといいよ」と声をかけていただいたことです。「それ何ですか?」と思いながら、日本ファンドレイジング協会の鵜尾 雅隆さんのメッセージを見て、すぐにファンドレイジングスクールの受講申込みボタンを押しました。「ファンドレイジングを通して、善意のお金の流れを生む社会のシステムに変えていきませんか」という趣旨のメッセージに、とても共感したからです。
スクールに通いはじめてから、ソーシャルな方たちとの出会いが増えて、その中の一つがむすびえでした。むすびえでPOを務める三島が、ちょうど、彼女に続くPOを探しているタイミングで声をかけてもらい、こども食堂を軸としたソーシャルチェンジをライフワークにしていきたいと思い、手を挙げました。

プログラム・オフィサーは現場から組織のあり方を考える
ーPOは国内ではまだあまり認知されていない職業ですが、休眠預金活用事業を通して、少しずつ人材募集も増えています。渋谷さんがPOをしていく上で一番大切にされているのは、どのようなことでしょうか?
資金を受け取って事業を行う実行団体と、資金分配団体であるむすびえメンバーの対話ですね。“お互いに何でも言える関係”を作っていくことです。
まずは我々自身がそういう組織でいるために、POとその補佐を含めて、毎週月曜日の朝に1時間の固定ミーティングをしています。実行団体とのミーティングは月1回。最初15分のチェックインで全員が同じ問いに答えることで、発言しやすくなる“場の安全性”を確保しながら対話を進めています。
秋にJANPIA主催で開催された2020年度採択 資金分配団体向けのPO2年目研修を受けたのですが、「普段現場にいないからこそ見える広い視野で捉えて、大きな座組みをしなさい」という話がありました。改めてハッとして、大切さを自覚しました。POは、実行団体が向き合う現場のことを、現場以上に知っている必要があると思っています。だからこそ、様々な現場に出向いて、現場の人が感じている臨場感を共有していくことが大事になります。その上で一歩引いて、どうすれば活動がうまくいくか広い視野で見ていく役割を担わなくてはと考えています。
ーむすびえは資金分配団体としてだけでなく、中間支援団体として数多くの事業を実施されています。団体としての棲み分けや、プロジェクトを進めていくためのヒントなどがあれば、ぜひお聞かせください。
内部ミーティングで休眠預金活用事業のPOである三島と渋谷が何をしているのか、どんなことがあって、どんな学びがあったかを、常に共有してアップデートすることを大事にしています。そのおかげで新たなPOの候補も育ってきています。POのマインドを持った人材を育成していくことは、むすびえで実施している休眠預金活用事業以外の事業においても中間支援力の向上に直結すると確信しています。むすびえの事業の幹を形成する上で、POは重要な役割になってきていることを感じます。
また、むすびえには、多様性を認めながら自立を大事にするというカルチャーがあります。「プロジェクトリーダー制」を敷いていて、17人がプロジェクトを起こして、資金調達も人材採用も自分でする。小会社の社長が17人いて50くらいのプロジェクトがあるようなイメージです。もちろん大前提にむすびえのビジョンへの共感があって、隣のプロジェクトも意識しながら、皆で組織を良くしていこうという姿勢でいる。組織のあり方としてチャレンジングですが、楽しいです。社会変化の中で、多くの方から僕たちに期待を寄せて頂いているので、もっとスピード感を持たなくてはという思いもありますが、自由があるのは「むすびえ」らしいですね。
企業からの転職の先にあった「心地良い世界」
ーむすびえのPOとなって1年が経った今、どのようなところにやりがいや魅力を感じていらっしゃいますか?
「想像以上に心地いい世界だな」というのが第一声です。企業時代の最終的な評価は、どうしてもいくら利益を出したかという話になります。だけど、仲間と喜びを分かち合えるのは、例えば「あのお客さん喜んでくれていたな」と共に感じた時。人から感謝されることがすべてじゃないかという思いでいました。こども食堂のようにソーシャルな世界では、僕がアウトカムとして求めていたものが、自分の価値提供でまっすぐに返ってくる。それは、想像を超えていました。
POとして活動していると、「あなたにお金を渡すから社会を変えてくれ」「託すよ」と言われている気がするんですね。お金を託していただいて、社会を変えるチャレンジの機会を与えてもらっている。その環境の中で事業や自分を成長させていくことに、とても喜びとやりがいを感じています。
ー今まさに転職を考えていたり、自分に合った仕事を探しているという方も多いと思います。企業での経験はプログラム・オフィサーやNPOでの仕事に活きるのでしょうか?
非常に活きていると思います。僕自身の経験で言いますと、入社直後から利害関係が不一致なところとパートナーシップを組みながら「合意形成」していく、という難題にさらされていました。例えば、納期が折り合わない時、どう調整してバランスを取るか。同じように、中間支援をしていこうと思った時に、「支援したいところ」と「必要といしてるところ」をどう組み合わせるのか、コンサルティングしたり、まとめていく過程には、企業で学んだことをそのまま活かせています。
他にも、実行団体と一緒に、地域資源を融合しながらどのようにアウトカムを達成していくかを考えるときや、むすびえ内部でのチームワークでも活きています。人脈もありますね。企業時代に付き合いのあった人がボランティアに参加してくれたり、取引先が支援してくれる例もあります。
例えば、企業では、どれだけのリターンがあるか考えながら投資案件を選定していきます。そこで問われているのは「社会変化」ではなく「儲け」ですが、使う思考回路はNPOも一緒で、「お金の調達手段」と「受益者からお金が来ない」という2点が違うだけで、どうすれば事業価値が上がるかという思考は同じです。企業時代に思考した経験値をそのまま持ってきて、POとして活躍できる。営利と非営利の間にあるギャップを“通訳”さえすれば、知見・経験が活きるのではないかと思います。POという役割があることで社会的意義を感じながら活動できるので、自分の居場所をすごく整理しやすいです。
ーむすびえさんには、企業勤務を経験された方も多いのでしょうか?
企業兼務者とか企業出身者が多いです。元企業人だからこそ、ソーシャルな世界で貢献できること、企業に働きかけられることはないか、もっと考えていきたいと思っています。
転職を検討している人に向けてよく伝えるのが、「非営利か営利かという選択ではなく、人生を豊かにするための選択肢としてNPOで働くのもいいよね」という話です。転職のハードルを低くするにはNPOの収入が上がっていく仕組みも必要ですが、「あなたの経験がPOに合うよ」という人が実はたくさんいます。その方たちにPOという仕事を知っていただくためにも、僕たちの経験を噛み砕いてもっと発信していきたいと、最近とても思います。
ー中間支援の向上につながるとおっしゃった通り、プログラム・オフィサーは休眠預金活用に関わらず、社会課題を解決していくために必要な職業だと感じます。
最初は、ほかの仕事と並行しながら月20時間のつもりで活動をはじめましたが、のめりこんでいくと「こういうことが実現できるんだ」「むすびえでこれをやっていけば社会変えられるよね」という面白みや、同じゴールを持った仲間がいることが心地よくなって今や120時間の勤務になりました。むすびえがチャレンジしているソーシャルチェンジに「みんながもっと助け合う社会が作れたらいい」というのがあります。その原型がこども食堂にはあると思っていて、そこに携われることが喜びです。
プログラム・オフィサー(PO)として活躍中のみなさんに、「POの仕事の魅力とは?」「POを通じての学びって?」「大事にしていることって?」など様々なお話を伺う「POリレーインタビュー」。初回となる今回は、JANPIA理事であり、長年、笹川平和財団でPOとして活躍してこられた茶野順子さんをゲストとしてお招きしてお話を伺いました。
「POリレーインタビュー」企画って?
休眠預金活用制度の特徴の一つとして、資金分配団体が資金的な支援だけでなく、実行団体の運営や活動をサポートする「非資金的支援」(伴走支援)があり、その中心的役割を担うのがプログラム・オフィサー(PO)です。「POリレーインタビュー」の企画は、「POの仕事って?」と思われる皆さんに、その仕事のやりがいなどを実際にPOとして活躍している皆さんのインタビューを通じて知っていただきたいという思いから始まりました。
初回は、JANPIA理事であり、長年、笹川平和財団でPOとして活躍してこられた茶野順子さんをゲストとしてお招きしました。茶野さんは現在、笹川平和財団の常務理事であり、フォード財団やアメリカのコミュニティ財団でのPOのご経験もあります。今回は、米国での経験についてやPOの育成、事業の運営等について、お話をお伺いしました。
「POリレーインタビュー!茶野さんに聞きました」
アメリカと日本の「非営利組織を取り巻く環境」の違い
─ 茶野さんは、アメリカの財団で働かれた経験があると伺いました。アメリカと日本では非営利組織を取り巻く環境は違うのでしょうか?
私は、アメリカではフォード財団に7年ほど在籍していました。その前には、アメリカの大学院にいたときに、コミュニティ財団であるフィラデルフィア財団で4ヶ月ほど仕事をしていました。
アメリカの財団についてよくご質問を受けるのですが、まず基本的なところをご理解していただいた上で話をした方がわかりやすいので、アメリカの財団の成り立ちについてお話しします。

アメリカ建国時代、まだ政府の役割が確立しない中で、生活面での様々な問題に対し市民がボランタリーに組織(アソシエーション)を立ち上げその解決にあたっていました。
1800年代にトクヴィルという政治思想家が「アメリカの民主政治」という本を書いているのですが、その中でも「アメリカ人は常にアソシエーションを作り、そこで色々な課題を解決している」という記述がありました。なので非営利組織、ボランティア団体に対しては基本的に国民的な信頼があるという点がアメリカと日本との違いの一つです。
─ 非営利組織を取り巻く環境が日本とは異なるのですね。そういった中で財団が誕生していったということでしょうか。
アメリカの最初の財団は1900年代初めに設立されました。南北戦争が終わって北部の工業化が盛んになった時に、資本家が莫大な資産を蓄えた時代背景の中、社会の色々なニーズに応えるために財団がつくられていきました。
まずスコットランドからの移民として苦労しながら資産家になったアンドリュー・カーネギーは、引退後に自著の「富の福音」の中で、「自分たちが資産を蓄えることができたのはコミュニティの人たちが自分たちの商品を買ってくれたからだ」と言っています。自分の得た富を子孫に残すのではなく、コミュニティに還元すべきだと述べていました。
一方ロックフェラーは、一時はイリノイ州の税収よりもロックフェラーの年収の方が多かったと言われています。すると彼のところに「こういうことがやりたいのでお金が欲しい」という寄付の話が押し寄せてくる。そこで彼は「自分はお金を配ることは本業ではない」とし、有識者と相談した結果、専門家が良い事業を見極めそれに対して資金をつけるという、現在の財団のシステムの元をつくりました。ロックフェラー財団は1913年に設立されました。

カーネギーやロックフェラーの財団は、資産家がみずからの資産を提供して財団ができたのに対して、コミュニティ財団はコミュニティの人たち自身がお金を出しあって基金を造成し、将来のお金の用途もコミュニティの人たち自身で決めていくことを基本とする財団です。ロックフェラー財団に1年遅れて設立されたクリーブランド財団が最初のコミュニティ財団と言われています。今は全米で約900ほどあります。
ちなみに、参考情報として、個人寄付、あるいは企業の寄付、そして財団からの助成金というのは非営利組織の資金源の中ではそれほど大きくなく、全体の12.9%くらいというのが最新のデータです。それ以外は非営利組織が提供するサービスに対して政府や民間が支払う対価が、その収入源の70%を占めています。
アメリカの財団における「PO育成」
─ アメリカの財団ではPOはどのように育成されているのでしょうか。
アメリカの財団には多様性があり、個人や家族が作った比較的小さい財団から、フォードやビル・ゲイツが作った大規模な財団など、規模や成り立ちも様々です。それぞれの財団が違うコンセプトで運営をしているので、一般論としてPOの育成について話すのは難しいところです。
ただPOを意識して育てている組織は、フォード財団やロックフェラー財団等の資産規模が大きい財団だと思います。
例えばロックフェラー財団だと、POに対して特に契約年度を設けず、ドクターを持っている学識経験者が財団のPOになっていると言われていました。
一方で私が在籍していた当時のフォード財団では、POの契約期間が3年間で、1度だけ延長ができ、最大6年間がPOとして活動できる期間でした。新人のための育成プログラムというものがありましたが、前提としてPOは、「その分野での実務経験」と「アカデミックな経験」がそれぞれ10年程度あると良いと言われていました。なお、最近の採用条件は、修士号と8年間の実務経験とありました。
ただ新人POはどんなに特定の分野での経験や知識があっても、POとして、事業の良しあしを見極める経験や成功例をどうやって拡大していくか、あるいは関係者とうまくコミュニケーションを取っていく経験などはないと考えられるので、ある程度の研修プログラムが必要になります。それから財団によって組織文化やミッション、歴史も違うので、その財団について知っておくことが重要になります。私がフォード財団にいた頃は、2週間の研修プログラムがあり、「フォード財団について知ること」に1週間を使い、もう1週間で「POとはどういうもので、どんな仕事をすると効果的な助成ができるか」を学びました。
もう一つ特徴的だったのは、当時はOffice of Organizational Services という組織がありました。この組織は、フォード財団としてどのように助成事業を効果的に実施することができるかを分析し、提言することを主な役割としていました。そこでは特に成功例と言われる事業でのPOの役割を分析し、効果的な仕事の仕方を皆さんに伝えていくことを大きな柱としていました。
─ それは興味深いですね。どんなことが伝えられていたのでしょうか。
POは、「Initiative」「General grant」「Opportunity grant」の3種類の助成事業に携わるのがいいと言われていました。
「Initiative」は規模の大きい、多くの場合いくつかの助成事業が複合的、かつ同時並行的に進行していく事業で、選択と集中によって、成果を増大させ、規模を拡大していきましょうというものです。これは、JANPIA のPOが資金分配団体を通じて社会課題を解決しようとする姿勢とも通ずるところがあるかと思います。一人のPOは2つから3つの大きな事業を担当することが推奨されていました。
「General grant」は、資金の使途を特定せず、関連分野全体としての活動に対する助成事業です。例えば教育分野や保健分野で仕事をすると、その分野の全国的な組織があったり、いろいろな調査団体があったりと、仕事をする上でお付き合いが必要な団体があります。そういう団体にある程度の資金を提供することで全体的な動きなどを把握することができるとともに、業界全体の底上げを図ります。
「Opportunity Grant」は、「Initiative」のような大きな規模な助成金だと見逃してしまいがちな新しい試みやユニークな取り組み等に対して試験的に少額の助成金を出し、どう花開くかを見据えることになります。
先ほども触れましたが、JANPIAの資金配分団体のPOの方は、色々な分野の中で「こういうニーズがあって、こういうことにお金を配れば社会に貢献できる」ということを考えて仕事をしていると思うんですね。そういう意味では、フォード財団が言っていた「Initiative」と、似ていると思いました。
フォード財団「Initiative」助成事業の事例
─ 「Initiative」の助成事業の事例を教えてください。
私の印象に残っている事業の一つに、 「Project GRAD」という教育分野での事業があります。通常は、助成財団が「教育分野にお金を出します」と言った時、教育分野で活動をしている様々な団体から申請が来ます。それら一つ一つに丁寧に対応することもその分野の底上げとしては重要ですが、最終的にそれが何になったかと考えると、あまり自信がもてないPOも多いのも事実です。選択と集中が必要と言われる所以です。そこで都市部の貧困層への支援の中でも、良い成果を上げ続けているテキサス州ヒューストンのNPOの活動に着目し、それを全米規模で拡大し、最終的には教育制度を変えていこうということで始まったものです。
「Project GRAD」(Graduation Really Achieves Dreams)は、卒業することであなたたちの夢は叶う、という意味です。というのも、都心部の貧困層では、高校卒業できずにドロップアウトしてしまい、よい職に就けず貧困が積み重なるという悪循環がありました。ある時、その課題解決の為にヒューストンでつくられたシステムが成功しているという情報をフォード財団のPOが知り、そのPOがそのシステムを検証した上で、それをそのほかの都市部の貧困層に広げようとしました。
このPOは、ヒューストンでの成功例についての内容を確認した後、これをInitiativeとして全国に広めることについて、上司とヒューストンの人たちの合意を得ます。その双方の合意を得た後、「こんなプロジェクトが成功しているので、あなたの地域でもやりませんか」と呼びかけ、そのための助成金を出すと伝えたわけです。と同時に、どこが外せない成功要素で、どこが地域特異性のある要素なのかを洗い出すこともPOの重要な役割です。そして、その成功の要素を他の地域にも伝えて、他の地域の事業の立ち上げ支援を行います。その後は、半年に1回の定期的なミーティングで質問を受けるなどし、「こういうやり方をすると成果の増大と規模の拡大を目指せる」ということをアドバイスするなどします。
茶野さんが考えるPOの役割
─ 茶野さんが考えるPOの役割とは、どのようなものでしょうか。
POの役割の一つは、今の課題がどこにあり、どんな人たちがその分野にいて何をしているかを見出すということだと言えます。色々な提案がある中でどの提案が有望かを見極める目を持つこと。それからざっくばらんな関係をつくり、コミュニケーションの目的を明らかにしながら、課題解決のパートナーとなることもPOの重要な役割です。

そこで重要になるのは「無理強いはしない」ということ。なぜかというとやはり資金を持っている側は、力関係として強くなってしまいがちだからです。そしてどう資金提供するかについても工夫する必要がありますし、先ほどのProject GRAD の例でもあったように、成功例を見出し、それを分析してパターン化をして普及をさせていくこと。これらがPOが社会貢献できる役割の中で一番重要ではないでしょうか。
【次回予告】
次回は、「渋谷雅人さん」(NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ プロジェクトリーダー)にお話を伺います。ご期待ください!
現在JANPIAでは「2021年度 新型コロナウイルス対応支援助成〈随時募集〉」を実施中です。申請をご検討中の皆さま向けに、20年度コロナ対応緊急支援枠の資金分配団体である特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)地域事業部の藤原 航さんに、主にコロナ対応緊急支援枠〈3次〉のコンソーシアム申請についてのお話を伺いました。
コロナ対応緊急支援枠に申請した背景を、自団体の活動と合わせて教えてください。
私たちジャパン・プラットフォーム(JPF)は、海外支援を中心に、災害時における人道支援を行っています。今回、民間外交や在留外国人問題に取り組む「公益財団法人日本国際交流センター(JCIE)」とコンソーシアムを組成し、20年度コロナ対応緊急支援枠〈3次〉に申請しました。
JPFでは、コロナ禍に突入した昨年の4月から、寄付を原資とした法人独自のプログラムを実施しています。しかし、「コロナ禍」から「コロナ経済禍」となるような状況で、経済的に困難な方の増加にいただいた寄付だけでは対応が難しくなりました。
そこでまず、コロナ対応緊急支援枠〈1次〉に申請。そして1次の事業を行っている中で、さらに手が届かない方々として、在留外国人の皆さんがおられることが分かってきました。これは何か行動を起こさなければいけないと考え、2020年度のコロナ対応緊急支援枠の公募がまだ実施されていたので申請の検討を始めました。
コンソーシアム構成団体のJCIEにおいては、2019年度通常枠の事業である「外国ルーツ青少年未来創造事業」の中で、同様にコロナ禍における課題を強く感じておられ、支援の必要性を感じておられたとのことです。
〈用語解説〉コンソーシアム
コンソーシアムとは、申請事業の意思決定および実施を2団体以上で共同して行うこと。コンソーシアムを構成する団体から幹事団体を選び、申請は幹事団体が行います。
今回のコンソーシアムはJPFが幹事団体、JCIEが構成団体となり、2団体で事業を実施しています。

コンソーシアムとして申請された理由を教えてください。
コロナ対応緊急支援枠〈1次〉の事業を通じて把握した課題に対して調査を実施したところ、コロナ禍において国内のセーフティネットでは支援ができない、あるいはできにくい“在留外国人等”の生活支援の必要性があることがわかりました。しかし、自団体のノウハウだけでは対応が十分ではないことも考えられ、JANPIAに事前相談をしたところ在留外国人支援のノウハウのある団体とのコンソーシアムを勧められたのです。
そこで、以前PO研修(プログラム・オフィサー研修)で一緒だったJCIEの方にお会いし、同じ課題意識で、異なるノウハウを持っており、それぞれの強みによる相乗効果が期待できました。また、両団体とも休眠預金活用事業のしくみを理解していたというのも大きかったと思います。お互いに相談しながらプログラムを進めていけるという点から、コンソーシアムでの申請を行うこととなりました。

コロナ対応緊急支援枠と通常枠の事業の違いなど、実施してみて感じたことはありますか?
総論としては、私たちJPFもJCIEも申請させていただいてよかった、と捉えています。
何が良かったのかといいますと、「支援に必要な資金規模があったこと」や、「コロナ対応緊急支援枠は通常枠と比較して運用ルールが緩和されている部分があったので、より多くの実行団体を採択できたこと」、さらに「伴走支援も実施できていること」などが挙げられます。新型コロナウイルスという突発的な課題に対応できる、このような資金があって、本当に良かったと思っています。
また今回の事業で取り組んだ課題は、これまで支援が届きにくかった新たな領域のため、今回の助成を通じて団体間での協力関係や、新しい支援の手法が生まれています。またこれまで支援されていなかったということもあり、多様なエビデンス・結果が出てきており今後につなげられるのではないかと期待しています。
事務面においては、通常枠と比較して事務量が相対的に少なく、可能な限り事業に集中できると感じています。しかし、事業期間が通常枠よりも限られるので、時間的にはタイトな部分は難しい部分でもあると感じています。
また実行団体の多くは、通常の助成金事業の延長に捉えている傾向を感じています。
しかし休眠預金活用事業の特徴は、通常枠であっても緊急支援枠であってもアウトカムを目指すというところがあると考えています。今回は緊急性の高い事業ということで、団体によっては当初の目途と違うところもありました。私たち資金分配団体の力量次第で今後のアウトカムの質が変わってくるかなと考えています。
助成事業を通じて、良かったこと、苦労していることはどんなことがありますか。
コンソーシアムについて良かった点は、困難な課題に対して、お互いの強みを生かした協働と役割分担ができ、課題解決にアプローチできていることです。一方、緊急支援助成であるという背景もありますが、違う文化の団体同士なので、団体間の会計などの処理方法や審査方法等について、苦労というか調整を要していると思います。
事業面においては、資金分配団体間、実行団体間において、単独でプログラムを実施するよりも非常に多くの視点を持つことができ、多くの学びや発見がありました。この課題の輪郭もよりはっきりと見えるようになったと感じています。残念だったのは、コロナ禍のために実行団体との面談がオンライン中心となり、現場の確認を思うようにできない側面があったことでした。
コロナ対応支援枠へ申請をご検討中の団体の皆さんにメッセージをお願いします。
コロナ禍で苦しんでいる方々へ大規模な事業として支援できる点で、極めて意義のある制度であると考えます。
申請を悩まれている場合は、アイディア段階でも、私たちがしたように、JANPIAさんにまずは相談してみるのが良いと思います。それで発見することもあると思います。
その際には、コロナ対応支援枠の申請書類がシンプルで書きやすくできているので、下書きをしてみると良いでしょう。そうすると、論理的な矛盾などを早期に発見できたりすると思います。
また、今回の私たちのように、コンソーシアムを組むという方法もあります。新たな分野への支援の開拓とともに、多くの学びや発見も得られます。もし独力で難しい場合は、既に休眠預金活用事業に参画している近い領域で事業を展開している団体と連携を組まれるとよいのではないかと考えています。
〈このインタビューは、YouTubeで視聴可能です! 〉
※この動画は公募説明会で上映したものです。
(取材日:2021年10月21日)
▽ジャパン・プラットフォームの採択事業はこちらからご確認いただけます。
現在JANPIAでは「2021年度 資金分配団体の公募〈通常枠・第2回〉(11月30日17時まで)|コロナ対応支援枠〈随時募集〉」を実施中です。申請をご検討中の皆さま向けに、20/21年度資金分配団体である認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 三島理恵さんにお話を伺いました。
休眠預金活用事業に申請した背景を自団体の活動と合わせて教えてください。
むすびえは、2018年に全国に広がるこども食堂の支援をしようと立ち上がった団体です。申請当時は設立して3年目というまだまだよちよち歩きで組織基盤を整えている段階で、コロナ対応支援枠に申請をしました。ですから、「休眠預金の事業を通じて社会課題の解決をしていこう」と十分に組織の準備ができて申請をしたというわけではありませんでした。
一方で、コロナ禍となり、こども食堂が緊急支援の活動を各地域で始められていたこともあって、こども食堂側の支援ニーズも本当に急拡大していました。こども食堂を包括的に支援する必要性が高まっていたことを受けて、むすびえが「いつか休眠預金を活用して社会課題の解決に資するような事業展開を全国規模でできないかな」と考えていたこと、そしてコロナ対応緊急支援枠の助成期間が1年ということもあって、「まだよちよち歩きの中だけどチャレンジしてみよう」となったのが、申請をした背景になります。
コロナ対応緊急支援枠を経て、通常枠に申請した経緯を教えてください。
「コロナ対応緊急支援枠」で緊急の支援を行える一方で、1年の助成活動を行うだけでは、そんなに簡単には社会課題が解決しないことも痛感しておりました。また「通常枠」で3年間の助成事業を行うからこそ、社会課題解決に資する事業ができることも感じており、次第に3年間だからこその事業に一度チャレンジしてみたいという気持ちを持つようになりました。コロナ対応緊急支援枠で採択いただいたことを私たち自身の成功体験として捉えていたので、「こども食堂」のような草の根事業から「イノベーションの促進に挑戦してみたい」と思ったことが通常枠にチャレンジしたきっかけでした。
かつ、この休眠預金を活用する事業自体が「社会的な大きな実験」であるということが私たちの背中を後押ししてくれました。「こども食堂」は全国に五千カ所広がる活動で、それが政策制度の裏付け無く、全国にボランティア活動として広がっています。そういった現象を私たちはひとつのイノベーションと捉えています。休眠預金活用事業の「社会課題の解決をイノベイティブに革新的な手法で解決していく」というところと「草の根の活動のこども食堂」の掛け算で、こういった社会課題の解決に全国で取り組むみなさんといっしょに取り組んでいけるということが、この通常枠に申請をさせてもらった大きなきっかけになりました。
コロナ対応緊急支援枠と通常枠の事業の違いなど、実施してみて感じたことはありますか。
組織体制を強化しながら休眠預金活用事業を行っていた私たちにとっては、コロナ対応緊急支援枠は、最初のチャレンジにはちょうどいい枠組みだと実感しています。
2つの事業の大きな違いは、「通常枠」は一定のリスクを許容しつつ、最大の成果を目指すために評価がセットになっている点です。私たちは最初にコロナ対応緊急支援枠の1年間の事業をして、そこに触れながら次に通常枠の3年間の事業にチャレンジできたので、その事業の中で「評価の重要性」を痛感しながら、通常枠の事業を推し進めていけるというところは、とても大事なステップを踏めていると思っています。
もう一つの大きな違いは、評価を通じながら、セオリーの確認をし、プロセスも含めてチームメンバーと共有化するコミュニケーションツールになっていること、内部での浸透度合いの違いというところだと感じています。
また3年間の通常枠では、社会の課題に対して「自分たちがどういうアプローチをし、どういう結果が生み出され、失敗も含めて、成果が出ているのか」を社会へのフィードバックをしっかりとしていく大きな責任があるのも、コロナ緊急支援枠との大きな違いだと実感しています。
助成事業を通じて、よかったこと、苦労していることはどんなことがありますか。
「事業の推進」「体制の強化」「財源の確保」という3つの軸を休眠預金活用事業を通じながら実施できているということ自体が、まずとても良かったと思っています。他の助成事業ではなかなか無い3つの成長というところへのアプローチだったと思っています。
また、成果を最大化させていくためにも、波及効果を狙って取り組んでいくことは大事な視点だと思っています。その上で最初に取り組んだこととしては、「内部での共有の場」です。
まず私たちが「休眠預金活用事業を通じてどういったことを実現しようとしているのか」を内部に対してしっかり浸透させていくこと自体がひとつ大きな価値になります。
かつこの事業自体はJANPIA、資金分配団体、実行団体、三者の「イコールパートナー」という関係性があるというところも踏まえて、横連携の会議なども複数に実施できていることが良い変化だったと思っています。
苦労していることは、まず、事業を開始する前は「申請する時の書類が多かったということ」です。もう一つは、システムには苦戦しています。逆に苦戦しているからこそ実行団体のみなさんと「これちょっとわからないよね」という会話をしながら関係構築をできているというところは、苦労しながらもチームビルディングにつかえているかと思います。
一方で、休眠預金活用事業の特徴の一つであるJANPIAさんとイコールパートナーでもあることから、「苦労している」ということもJANPIAの方に率直にお伝えできること、そして一緒に悩み、解決策を見出そうという場を設けてくださいます。
そういう意味では、JANPIA、資金分配団体、実行団体がいっしょになってこの休眠預金を活用した事業を推進していくこと自体が、社会課題をいっしょに解決する日本の中でのチームであり、社会課題の解決、社会変革を促す上ですごく大事なことだと受け止めています。
申請を考えている方へメッセージをお願いします。
まず、この事業自体が大きな社会実験なので、「ぜひ、一緒にチャレンジしませんか?」とお誘いしたいと思います。申請前のことを思い出すと、不安だったり、私たちが手を挙げて大丈夫なんだろうか、という懸念もありました。私自身もやれるんだろうか、組織が体制として十分なんだろうかということも何度も悩みましたし、自分たちにとってはまだ早いんじゃないかということも、組織の中で様々に検討しました。
その上で、やはり「チャレンジしないことには当然採択されない」ですし、休眠預金活用事業にかかわる機会も得られないということで、私たちは手を挙げました。
もし悩んでいらっしゃるであれば、そのお気持ちはとってもわかりますが、休眠預金活用事業に出会ったのであれば、ぜひチャレンジしていただきたいなと思っています。
実際採択されたときの不安もたくさんあると思います。私たちも「どのように実走させていくんだろう」、「本当に3年間で自分たちが目指している見たいゴールを見られるんだろうか」、と様々な不安がありました。そんな中でむすびえがやってこられているのは、この休眠預金活用事業のひとつの特徴でもある私たちへの「伴走支援」をJANPIAのPOのみなさんがしてくださるという枠組みがあるからです。そこは通常の助成事業とはまったく違うところで、ある意味安心してチャレンジできる器がこの休眠預金活用事業だなあと実感しています。
また申請にあたって、団体の中で今後のビジョンについても検討するプロセスを踏まれると思いますので、それも大事な機会として捉えてチャレンジを検討いただけたら嬉しいなと思っています。
〈このインタビューはYouTubeで視聴可能です!〉
※この動画は公募説明会で上映したものです。
(取材日:2021年10月26日)
▽こども食堂支援センター・むすびえの採択事業はこちらからご確認いただけます。
現在JANPIAでは「2021年度 資金分配団体の公募〈通常枠・第2回〉」を実施中です(公募締切:2021年11月30日17時)。申請をご検討中の皆さま向けに、19/20/21年度資金分配団体である公益財団法人 長野県みらい基金 理事長 高橋 潤さんにお話を伺いました。
休眠預金活用事業に申請した背景を自団体の活動と合わせて教えてください。
長野県みらい基金は2012年に寄付を集め、NPOや市民活動へ支援をすることを目的に設立されました。ですので、公益活動に対して資金を見つけてお渡しする、というのは本業でした。所属している全国コミュニティ財団の研修などでも、助成事業のあり方などを共有していく中で、休眠預金活用のロビー活動や法整備などを知り、手を挙げることにしました。手を挙げる際、地域のコミュニティ財団として、いわば地域の目利きとして、その背景、課題から申請内容を絞り込みました。
具体的には、寄付募集サイト「長野県みらいベース」を6年間運営してきて見えてきた地域課題、「こども若者支援に関する実態調査」から見えてきた課題と団体のその姿、長野県内のこども支援ネットワーク構築から見えてきた課題、資源。また、具体的な伴走支援の必要性が見えてきました。
例えば、2017年には長野県が実施した「子育て家族実態調査」の生データを使って、県内各地でNPOの方々と読み解き会を十数回行いました。その中で、「行政がやっている子育て支援が、家庭・こどものニーズとマッチしていない」「市町村の支援施策がいわゆるグレーゾーンの家庭に届いていない、あるいはその家庭の方々がその施策を使っていない」ということが見えてきました。また、「こども支援は親支援であるはずが、こども、親とばらばらになっている」「親へのアプローチが非常に少ない、あるいはできていない」という課題も「子育て家族実態調査」の読み解き会で見えてきました。
休眠預金活用事業の申請に対応するかたちでも長野県各地でヒアリングを開催しました。6地域で56団体の参加があり、様々なニーズ、またそれぞれの団体が抱えている課題、また地域の課題等が見えてきました。
木曽地域では、山間地であるがゆえに本来の対象者に対して支援が届けられない、というような声が聞こえました。松本地域では、地域の空き家など負の資産を活用してコミュニティづくりをしたい、という声がありました。伊那地域では、中山間地での引きこもり等のこども・若者の居場所を作りたいけれどすごく難しい、という声が聞かれました。全県を通じて、障害者や引きこもりのこども・若者の地域参加の機会を作りたい、といった声を多く聞くことができました。
そういった地域の具体的なニーズ、課題を深堀りする中で申請内容が固まってきました。
実行団体の公募について丁寧に進められたとうかがいました。取り組まれたことを教えてください。
この後お話する伴走支援ですが、実は公募開始前から始まっていると思っています。
2019年度では、まだコロナの影響がなかったので、広い長野県ですが4ヶ所で会場を使って説明会を開きました。
説明会の内容は、実行団体公募について基本的なこと、長野県みらい基金がJANPIAに対して申請した事業内容について説明しました。また、具体的な長野県内の公募内容についてご説明しました。もうひとつ、その当時なかなか耳に聞かなかった事業評価、社会的インパクト評価についても一部、二部ということで説明をさせていただきました。
説明会場での時期を見ながら、スケジュールとして開始から申請締切までできる限り長い時間を取ろうと思いました。何故かというと、事前相談を積極的にしたい、そういう呼びかけをしたい、ということがあったからです。
結果、延べ、29団体。1回の面談が21団体、2回面談した団体が7団体、3回面談した団体も1団体ありました。最終的に、実際の申請は18団体ありました。
申請後ヒアリングが、次の大事な支援となります。
共通の訪問調査表を元に、申請書では読みきれない項目。例えば、実際の事業を行う人や代表者の話し方や人となり、その関係性なども現場に行って感じ取ります。また、事務所の雰囲気も重要です。実際の事業をする場所にも案内してもらい、その事業のニーズの確認、対象者の想定の妥当性、実現性、重要性などを現場に行って肌で読み取ってきました。
訪問してのヒアリングシート、それぞれの申請書、団体の関連資料を元に、審査会資料作成のために事務局側の読み解き会を行いました。
宮城の先輩コミュニティ財団である、さなぶりのPOに来ていただき、長野県みらい基金のPOと一緒に丸二日かけて、申請書などの読み解きをしました。POそれぞれが、それぞれの申請に点数、懸念点、良い点などを記したものをそれぞれ発表、集計し、POとしての視点、客観性、共感、事業の将来性などを検討していきました。そうした中で、客観的な審査会用のヒアリングシートができました。
実行団体の伴走支援の内容や工夫を教えてください。
他の資金分配団体はいわゆるウェブのチャットツールなどを活用していらっしゃる、ともお聞きしていますが、長野県は非常にアナログです。2019年度はPO2名が中心となりながら、全員で伴走支援に取り組みました。広い長野県ですが、丁寧に現場を訪ね、たくさんお話しし、一緒に見守り、ともに育つ、という姿勢でした。全体を見るチーフは私がしながら、もうひとりのPOと更に2名に、地域や事業分野の傾向を見ながら担当をしてもらいました。
たとえば農福連携の事業には農協出身のスタッフを。また、地理的な条件も考慮しました。全国区でない地域に根ざした資金分配団体であること、また、申請書にもそこを大きな訴求ポイントにしていましたので、しっかりとした布陣で行いました。担当が随時連絡をとったり実行団体を訪問して、顔の見える関係性を作り、事業の成功への実行力のみならず、リスク管理への備えもしていきました。
また、評価、ファンドレイジングには専門家も支援チームに加わってもらい、出口戦略も見据えました。
実行団体と私たちは、ある意味運命共同体、パートナーなわけです。家族であり、友人であり、共同経営者です。ですので、伴走支援はいわば、日常の関係性の中から感じ取ることが一番重要だと私は思っています。そして、うまく行っているときは、一緒に喜ぶ。困ったときは一緒に悩むことが大事だと思います。
助成事業を通じて、よかったこと、苦労していることはどんなことがありますか。
1年半が過ぎ、今、中間評価のまとめの真っ最中です。順調に行っている事業ばかりではありません。特に、2019年度事業はコロナを想定していない時期の事業計画、資金計画ですので、スタート直後、いきなり事業計画変更、コロナ対応の資金提供など、それもこれも私たちも実行団体も、もちろんJANPIAさんも初めてのことばかりで、その場で検討、対応、相談しながら、悩みながら手探りで行ってきました。
現在、事業の折り返し地点で、多くの団体はここまでで経験し学んだ中で、あと1年半の事業の道筋を見極めて、進んでいます。「足りないところを補う」「うまく行っているところをより厚くする」「困っている人へより活動が届くよう、居場所で待っていた事業をアウトリーチ型に変更する」など、皆が学びながら、「困っている人をより支える」「地域を少しでもよくする」「そのために変えていく」という力が強くなっているのを感じます。
嬉しいのは、それぞれの事業・団体の連携が生まれてきていることです。もちろん、私たちが連携の糸口を作ったり、関係づくりの場を作ったりもしていますが、それぞれの団体が足りないところをより強みのある団体がつながることで補い、そうすることで困難を抱えている人たちへのより丁寧でしっかりとした支援が生まれています。地域同士の支え合いができてきていることが、本当に頼もしいと感じています。
申請を考えている方へメッセージをお願いします。
皆さんが助成をしようとしている対象の方々を、是非とも強く想ってください。その方々がどういう事業に対してどういうアプローチをしているのか、どういう対象の人たちに対して何をやりたいのか、ということを資金分配団体がしっかり知ることで、いわゆる良い公募案件が生まれるのだと思います。普段皆さんがやっていることの足元をもう一度見つめ直すということで、いい申請ができるのではないかなと思っています。
〈このインタビューはYouTubeで視聴可能です!〉
※この動画は公募説明会で上映したものです。
(取材日:2021年10月25日)
▽長野県みらい基金の採択事業はこちらからご確認いただけます。