資金分配団体に聞く社会的インパクト評価への挑戦Ⅱ|ちくご川コミュニティ財団

一般財団法人ちくご川コミュニティ財団(福岡県久留米市)は、2020年度から福岡県久留米市を中心とした筑後川流域の実行団体の伴走を続けています。ちくご川コミュニティ財団 理事でありプログラムオフィサーでもある庄田清人さんは、理学療法士の経験から「評価は治療と表裏一体だった」と話し、治療と同じように事業にとっても評価が重要だと指摘します。社会的インパクト評価に対する考え方や、実行団体に「社会的インパクト評価」を浸透させるためのアプローチについて聞きました。(「資金分配団体に聞く社会的インパクト評価への挑戦Ⅱ」です)

ちくご川コミュニティ財団とは?

ーーまず、ちくご川コミュニティ財団のミッションや設立の経緯を教えていただけますか。

庄田清人さん(以下、庄田):ちくご川コミュニティ財団は、筑後川関係地域の市民・企業の皆さんの「人の役に立ちたい」という想いと活動をつなぐことをミッションに、市民や企業の方々が資金、スキル、情報等様々な資源を、筑後川関係地域の課題解決に取り組むCSO(市民社会組織)へ提供しています。CSOの方々と支援者の方々を繋ぎ合わせるプラットフォームの役割です。

私たちの財団がある福岡県久留米市は人口30万人ほどで、九州の中では比較的大きな中核市です。CSOは多いのですが、行政による中間支援が十分とは言えません。そこで、市民が主体的に公益を担う社会を実現するために、2019年8月にちくご川コミュニティ財団が立ち上がりました。福岡では初のコミュニティ財団です。

お話を伺った庄田さん

ーーなぜ団体の所在地である「久留米」ではなく、「ちくご川」を財団名にしたのですか?

庄田:九州最大の河川である筑後川流域は、生活や文化が重なっているエリアです。例えば、久留米市から佐賀に通う人も、その逆もいます。CSOの活動は行政区分を跨って生活圏に沿って行われていることが多いのに、私たちが活動対象とする地域を行政区分で区切ると、地域によって私たちの支援も区切られてしまって、連携や協働が起きにくいのではないかと考えました。そこで、「ちくご川コミュニティ財団」と名前をつけ、筑後川関係地域(佐賀、福岡、大分、熊本県)を活動地域としました。

実施している助成プログラムについて

ーー休眠預金活用事業への申請にはきっかけがあったのでしょうか

庄田:私たちは設立前からお隣の佐賀県にある佐賀未来創造基金をお手本にしていて、休眠預金等活用制度についても教えていただいていました。なので財団設立前から休眠預金活用事業にチャレンジしようと考えていました。2019年8月に財団ができて、その翌年にはチャレンジし、2020年度の通常枠で最初の採択をいただきました。

ーー現在、休眠預金活用事業で取り組まれている2020年度、2021年度通常枠の2つの助成プログラムについて教えてください。

庄田:2020年度の通常枠事業では、「子どもの貧困」「若者の社会的孤立」の2つのテーマで実行団体を公募し、2団体を選定しました。
1つ目は、久留米市内で貧困世帯の子どもたちに対して、無料の塾と食支援を10年以上やられてきた「認定NPO法人わたしと僕の夢」です。支援してきた子どもたちが高校入学後に退学や不登校になってしまう課題が見えてきたため、高校生支援をメインに居場所づくりやピアサポートなどに取り組んでいます。

2つ目は、朝倉市の中山間地域で児童養護施設を退所した後の若者たちをメインに受け入れる家づくりに取り組む「みんなの家みんか」です。自立援助ホームなどもありますが、年齢制限や様々な理由で退所してしまう若者に居場所を提供しています。また、豊かな自然資源を利用し担い手不足が深刻な一次産業の担い手になってもらうことも目指しています。

「わたしと僕の夢」による学習支援の様子(左)、「みんなの家みんか」による自然学習の様子(右)
「わたしと僕の夢」による学習支援の様子(左)、「みんなの家みんか」による自然学習の様子(右)

2021年度通常枠事業では、「学校に行けない、行かない子ども若者(所謂、不登校の子ども若者)」をテーマにしています。2021年度の不登校数は全国で24万人を超えてきていて、課題として大きくなっています。我々も地域の将来を考えた時に、その担い手となる子どもたちに学びや成長の場がないという状況は、喫緊の課題だと考えました。そのため、このテーマを選定し、案件組成を行いました。

公募した結果、フリースクールを運営している3団体を選定しました。

1つ目は、フリースクールを17年続けている認定NPO法人箱崎自由学舎ESPERANZAです。フリースクールの月謝は全国平均で3万3000円という文科省の調査結果があります。それが払えずにフリースクールに通えない子どももいます。通ってほしいのに通えない、そういった子どもたちに対しての家計支援制度を考えていくための調査研究事業に取り組んでいます。

2つ目は一般社団法人家庭教育研究機構で、学校の中に校内フリースクール立ち上げる事業を行っています。九州では初めての取り組みです。校内にあることで、長年、学校に行けてなかった子どもがそのフリースクールに通い出してすぐに普通学級にも通えるようになったケースもありました。この団体は、課題を抱える子どもたちにアウトリーチしていくために、学校外フリースクールや家庭への訪問活動も取り組んでおり、それに加えて校内フリースクールを立ち上げ、3本柱で活動を進めています。

3つ目の団体が、久留米市のNPO法人未来学舎です。このフリースクールは個性豊かな子どもたちを受け入れて、地域との関わりを大事にしながら、生きる力を育てています。音楽を通して子どもたちの成長を促すなど、ユニークな取り組みをしています。また、通信制高校のサポート校やカフェ運営による若者の就労支援など多様な方法で子ども、若者を支えています。

認定NPO法人箱崎自由学舎ESPERANZによる学習支援の様子(上左) NPO法人未来学舎による梅しごとの様子(上右) 一般社団法人家庭教育研究機構による昼食準備の様子(下)
認定NPO法人箱崎自由学舎ESPERANZによる学習支援の様子(上左) NPO法人未来学舎による梅しごとの様子(上右) 一般社団法人家庭教育研究機構による昼食準備の様子(下)

ー21年度は3つの実行団体が「フリースクール」という同じテーマで取り組まれていますが、20年度との違いはありますか?

庄田:どの団体も共通した課題意識を持っていることが大きいです。今年2月に事前評価のワークショップをやったのですが、実行団体同士での共通の悩み、課題感があるのですごく深いところまで意見交換をできました。ただ、三者三様に色が違う団体なので、資金分配団体としてどうまとめていくかが力の見せどころです。これがうまくいけば、フリースクールに通う子ども向けの経済的な支援制度についての道筋が見えたり、校内フリースクールが他の地域でも展開できる見通しがついたりするはずです。あと2年ですが、達成できそうなことが見えてきたのではないかと思います。

社会的インパクト評価は事業と表裏一体

ーー庄田さんはこれまでにも事業評価に関わった経験があったのでしょうか。

庄田:元々、私は理学療法士として働いていました。理学療法士の教育の中で1番最初に教えられるのが「評価」で、「評価は治療の一部」「評価に始まり、評価に終わる」とまで言われています。なので、休眠預金等活用制度でも「評価」も大事だと最初に聞いた時、人の体が事業に置き換わったということだなと納得感がありました。

例えば理学療法士だと、治療のために筋力トレーニングをする際にも、この負荷量だとこの人の筋肉は成長しない、というような評価をしつつ進めていきます。治療によってどんな変化が起こったかを見るのも評価の一つです。そういう意味で、「評価」と「治療」は表裏一体で当たり前にぐるぐる回しながらやっていました。


さらに2014年から2年間、青年海外協力隊としてアフリカのマラウイに行っていました。ワークショップなどで地域住民のニーズを引き出して、プロジェクトを企画運営していく活動です。その中で自分なりにロジックモデルに似たものを作り、事業をどう動かしていくか考えてきた経験も今に活きていると感じます。

ーー実際に社会的インパクト評価をやってみて、医療での評価と違う難しさはありましたか?

庄田:「人の体」と「事業」は、変数が違いますね。医療だと、僕が患者さんを一人で常に見ることができるので変化もわかりやすい。事業になると、人の体と違って、関わるステークホルダーがとても多く、組織自体の状況、財務的な状況などの変数も関わってきます。そのため例えば何か活動に介入をして変化が起こった時に、それが介入によって起こった変化なのかがわかりづらいという難しさは非常に感じます。


でも本質的には一緒です。その変数をしっかりと把握することが大事だと思っています。その変数の把握をするために、おそらく私たちPOの専門性が必要になってくるのではないかと思います。

ーー実行団体に対して評価の重要性を伝えるアプローチとして、どんなことをされていますか?

庄田:「評価」という言葉になるべく早く触れてもらうようにしていて、実行団体の公募の申請時点で、「評価」については必ずお話しています。「ロジックモデル」をやってもらうと、どの実行団体さんも「頭の中がスッキリした」と言われるので、これを入口に評価に入ってもらう流れです。本当は公募申請時の「ロジックモデル」の提出を必須にしたいと思っていますが、現在は「推奨」している状況です。

ただやはり、事前評価が終わるまでは、実行団体も頭ではわかっているけれど評価の有効性を実感することは難しいとも感じています。ただ、事前評価は重要だと考えているので、約半年ほどかけて事前評価をやりながら事業も実施してもらっています。評価は治療と表裏一体のため、事業(治療)を進めることによって新たにわかる対象者の変化を測定すること(評価)も重要視しています。なかなか厳しいですが、筋力をつけていくため負荷をかけて頑張ってもらっています。

ーー事前評価の後は、通常の活動の中でどのように評価を取り入れている状況でしょうか?

庄田:実行団体の皆さんは、評価に取り組むことで、必要なアンケートの設計や、参与観察などの調査方法が確実にできるようになってきています。アンケート一つでも、項目をどうするのか、どうやって収集するのか、どう結果をまとめるのかなど、かなりの要素があります。このような調査が定期的にやっていけるようになったのは、とても価値があることだと感じています。

最近は、評価の継続について考えています。休眠預金活用事業が終わった団体は、「評価」をやらなくなってしまうのではないかという懸念があります。マンパワーという課題以外にも、評価に取り組む動機づけも必要ですし、調査した結果をロジックモデルや事業設計に反映させていく際には壁打ち役も必要なので、助成終了後の伴走の仕組みがあってもいいのではないかと思っています。

事業キックオフミーティングの様子(左:2020年度、右:2021年度)
事業キックオフミーティングの様子(左:2020年度、右:2021年度)

地域の持続可能性向上のために、組織の成長をめざす

ーー最後に、今後どのように伴走されていくのかや今後の展望を教えてください。

庄田:「クールヘッド」と「ウォームハート」が絶対に必要だと思っています。根拠に基づかないウォームハートは、本当の優しさではありません。そこを大事にしながら、実行団体さんに伴走していきたいと思っています。中長期的には、この地域の持続可能性をどう向上するかが非常に重要だと考えています。子どもの貧困、若者の社会的孤立、不登校などの取り組んでいるテーマがそこにつながってくるのかなと思います。

実行団体の皆さんだけでなく、ちくご川コミュニティ財団自身が休眠預金等活用制度に育ててもらっていると感じています。休眠預金活用事業を行っている中で、「環境整備・組織基盤強化・資金支援」を私たちが継続的にできるようになっていけば、筑後川関係地域の市民活動は活性化できることが見えてきました。加えて、資金調達についてみると、休眠預金活用事業を始める前と比べると、我々の財団への寄付額が3倍になりました。長期的には私たちの活動を休眠預金等活用制度に頼らずにどうやっていくかということも考えなければなりません。この制度を通じて学んできたものを持続可能にするために、ちくご川コミュニティ財団自身も実行団体とともに組織として成長していきたいです。

庄田さんによる実行団体への伴走支援の様子、2021年度事前評価WSの様子
庄田さんによる実行団体への伴走支援の様子、2021年度事前評価WSの様子

■ 事業基礎情報【1】

資金分配団体一般財団法人 ちくご川コミュニティ財団
事業名

困難を抱える子ども若者の孤立解消と育成 ~子ども・若者が学び、自立するための居場所とふるさとをつくる~
<2020年度通常枠>

活動対象地域筑後川関係地域(福岡都市圏及びその周辺地域)
実行団体

・みんなの家みんか

・特定非営利活動法人 わたしと僕の夢

■ 事業基礎情報【2】    

資金分配団体一般財団法人 ちくご川コミュニティ財団
事業名

誰ひとり取り残さない居場所づくり<2021年度通常枠>

活動対象地域

筑後川関係地域(福岡県、佐賀県東部、大分県西部、熊本県北部)

実行団体

・一般社団法人 家庭教育研究機構・特定非営利活動法人 未来学舎・特定非営利活動法人 箱崎自由学舎ESPERANZA

休眠預金活用事業では、社会的インパクト評価の実施が特徴の一つとなっています。一方、資金分配団体や実行団体の中には評価の経験があまりない団体も少なくありません。 NPO法人 地球と未来の環境基金 (EFF:Eco Future Fund) とそのコンソーシアム構成団体である NPO法人持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会(自伐協)も初めて評価に本格的に取り組む団体の一つでした。評価の実践を通じての気づきと成果、実行団体に伴走する上で実感した課題や成功体験、そして社会的インパクト評価の視点が活かされたエピソードなどについて、自伐協事務局の中塚さんと、 EFFの理事・プログラムオフィサー美濃部さんにお話を伺いました。”

そもそも、自伐型林業とは?

───まず、今回の事業の趣旨である「自伐型林業」とは、どのようなものなのか。中塚さんより簡単にご説明いただけますでしょうか。


中塚高士さん以下、中塚)はい。自伐型林業とは、地域の山を地域の人たちで管理する形の林業です。チェーンソーと小型重機・運搬用のトラックがあれば、個人や少人数で低コストから始めることができます。

そもそも従来の林業は、大規模な伐採が必要な「現行林業」が主流でした。戦後復興に伴い木材の需要が高まっていた時代、山林にたくさんの大型機械と人材を投入し、大規模に植樹と伐採を行うスタイルが確立していたのです。

しかし需要が落ち込むに連れ、そのような大規模な林業の経営を持続的に行うことが難しくなっていきました。そこで近年注目されているのが、「自伐型林業」です。

林業従事者が減少し続ける中、「新しい田舎での暮らし・仕事のあり方」として若者や移住者からの注目も集まっています。また国土の7割を占める日本にとって、山林を活用した「地方創生の鍵」としても全国の自治体から期待が高まっています。

「休眠預金活用事業」への申請の背景

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である東北・広域森林マネジメント機構の研修風景
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である東北・広域森林マネジメント機構の研修風景

───そういった林業の歴史やスタイルを踏まえ、休眠預金活用事業への申請の背景・経緯について、お聞かせいただけますか。 

 

中塚:現行林業については、国の取り組みとして林業従事者を育成する支援も多く実施されてきました。しかし自伐型林業を含め、小さな林業従事者に向けた育成や研修プログラムはほとんどありません。「地域の山を守る仕事がしたい」「新しい働き方として林業に挑戦したい」と意欲ある新規参入者がいる一方で、機械の使い方や木の切り方がわからない、学ぶ場もない……、という課題がありました。 

 

それならば、国の手が行き届かない小さな林業従事者に向けた育成・研修支援を実施しよう!と決意をし、その資金繰りとして、休眠預金活用事業への申請を検討し始めました 

 

そのような中、自伐協にもコロナで生活困窮されている方からの声は届いていました。 

 

「もう都会を離れて田舎でやるしかない」 

「勤めている会社が業績悪化で休業状態なんです」 

「観光客が減ってしまったから、林業も兼業したい」 

 

そういった方々に向けて、何かできることはないか?と考えていたところ、資金分配団体(20年度コロナ枠)の公募が始まったので、非常に良いタイミングで申請をさせていただいたと思っています。 

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である九州地区自伐型林業研究会の研修メンバー(左)と道を作ってる様子(右)
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である九州地区自伐型林業研究会の研修メンバー(左)と道を作ってる様子(右)

事業をする中で感じた課題・難しさ

───今回の事業を進める上で課題や難しさはありましたか? 

 

美濃部 真光さん(以下、美濃部)実行団体のさんも、私たち自身も、自型林業に関わる団体なので、森づくりの活動についての計画や目標設定は得意分野なのです。しかしコロナ枠ではコロナ禍においての失業者されている方を救うための助成という慣れないテーマということで、もちろん志は高く持っていましたが事業を進めるうえでは四苦八苦しました。そのため実行団体の事業計画策定の時期に、これまで経験がある「森づくりに関する研修の実施」にどうしてもフォーカスしてしまって、コロナによる生活困窮支援という視点が弱くなっていたことに事業実施途中で気が付いたのです。 

 

どれくらいコロナ禍における生活困窮支援につながったのか?という部分の目標設定曖昧だと、事業の成果も正確に測れません。当時は緊急助成ということで事業の実施を急いでいたこともありましたが、そこが一番の反省点でしたただ実際実行団体の各現場では、研修を実施して終わりではなく、受講された一人一人に対して丁寧に相談対応されていたので、その成果示すために、研修参加者に事後的にアンケートをとました。アンケート結果を実行団体の皆さんがコロナ枠の事業の後半戦に生かしてくださったっていうところが、事業の成果を高めるうえでとても大きかったと思っております。 

 

───他に、社会的インパクト評価を実施する上でも難しさありましたか? 

 

中塚:休眠預金を活用させてもらっている以上、成果報告もしっかり行いたいと思う一方、林業従事者の方々にとって書類作成の作業は不慣れな部分が多く、サポートをする私たちも苦戦しました。実際、書類の中で実施内容と成果をごちゃ混ぜに書いてきたり、要点がまとまっていなかったり。やって終わり、ではなく評価を可視化する難しさを感じました。 

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である奥利根水源地域ネットワークによる道づくり(左)と薪づくり(右)
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である奥利根水源地域ネットワークによる道づくり(左)と薪づくり(右)

“評価”をやってみての気づき

───評価に取り組んで、どのようなことを感じていますか? 

 

中塚:苦労はしましたが、これまでやってこなかった「評価」を意識できたのは良い経験でした。最近、伐協においても、自治体との事業非常に増えてきたのですが、これまでだったら勢い任せに「研修をやりますよ!」と提案していたところも、根拠や計画を示しながら要素を整理して説明できるようになりました。どうやったら自型林業が、個人の生業に、地域の貢献につながるか?」を定量・定性の側面からお伝えできています。 

 

美濃部:私もこれまでは、ロジックモデルの構築やアウトカムを想定した目標設定などに不慣れだった分、休眠預金活用事業を通じて経験できたことで大変勉強になりました。NPO法人が解決したいと思う社会課題は、人々の関心が寄せられていないからこそ、そこに課題があると思っています。無関心層の人々に対して、いかにしてコミュニケーションを取るべきか。そこを論理的に説明できなければ、私たちを含めたNPO法人の発展性はないと思っています。なので評価を含めた本事業の運営を経験できたことは、今後の私たち自身の活動にとっても良かったと思います。 

 

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である天竜小さな林業春野研究組合がめざす「役場機能を真ん中に、食・水・森林・エネルギー・教育・育児・医療・福祉をつなぐ持続可能なコミュニティ」(左)と作業小屋と団体メンバー(右)
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体である天竜小さな林業春野研究組合がめざす「役場機能を真ん中に、食・水・森林・エネルギー・教育・育児・医療・福祉をつなぐ持続可能なコミュニティ」(左)と作業小屋と団体メンバー(右)

───実際に、評価が活かされたと感じるエピソードはありますか? 

中塚:各実行団体で行った研修の講師陣が、研修終了後も受講生と連絡を取り、定着のサポートをしていたことです。そこまでの講師陣の熱量の高まりは想定外のできごとでした。 

事務的に研修を行い、人数や日数といった数字だけを気にするのではなく、今回の事業の目的である「コロナ禍による生活困窮支援」ということを評価を通じて講師陣もしっかり認識し、それぞれの地域に戻って就業していく受講生たちのこれからを慮り、その後の活動や人生にも目を向けたサポートをしたい!という想いが芽生えたようです。 

実際、事業終了後も、受講生の地域を見に行ったり電話で連絡を取ったりと、研修の域を超えた関係が続いているとのことです。これは思いもよらぬアウトカムでした。定着までしっかりサポートしようという講師陣の姿勢は、評価に向き合ってきたからこそ、つながったのではないかと考えています。 

「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体であるふくい美山きときとき隊の研修風景(左)とチェンソーの安全講習(右)
「失業者を救う自伐型林業参入支援事業」の実行団体であるふくい美山きときとき隊の研修風景(左)とチェンソーの安全講習(右)

今後について

───最後に、今後の展望についてもお聞かせください。 

 

中塚:研修に参加さる方や関心を持ってくださる方には、林業の技術だけでなく、生業にしていくために必要な知識もセットでお伝えしていきたいです。 

 

実際、地域で自伐型林業を始めるとなると、山や機械を確保したり、販路を考えたり、他の自治体の事例を見せながらどんな地域貢献につながるかを自治体に説明したり、やらなければならないことが多方面にわたって出てきます。 

 

新たに採択を受けた22年度コロナ枠では、実行団体の皆さんとそういった自伐型林業を続けていくため必要な総合的な支援を生活困窮者の皆さんに向けてお伝えし就業に結び付けていけたらと考えています。助成規模も20年度コロナ枠と比較して大きくなりましたし実行団体の採択も全国に広げていきたいです 


美濃部:休眠預金活用事業に取り組めたこと自体が、とても良かったと感じています。EFFの強みである助成金プログラムの運営を活かしつつ、中塚さんたち自伐協や、ランドブレイン株式会社という他分野の団体とコンソーシアムを組んで助成事業を展開できたことは非常に学びがありました。 

 

実際、今回を機に多方面から「一緒に休眠預金活用事業ができないか?」というような声もいただいていて。これからは農業や福祉との連携など、さまざまな切り口での展開に可能性を感じています。なのでこれからまた、申請について検討し、ご相談させていただくかもしれません。よろしくお願いします!

取材に応じてくださった美濃部さん(左)と中塚さん
取材に応じてくださった美濃部さん(左)と中塚さん

【事業基礎情報】

資金分配団体

特定非営利活動法人 地球と未来の環境基金

2020年度緊急支援枠コンソーシアム構成団体
・特定非営利活動法人 持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会

▽2020年度通常枠&2022年度コロナ・物価高騰枠コンソーシアム構成団体
・特定非営利活動法人 持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会
・ランドブレイン株式会社

助成事業

〈2020年度緊急支援枠〉
失業者を救う自伐型林業参入支援事業
~アフターコロナの持続・自立した生業の創出~[事業完了]

〈2020年度通常枠〉
地域の森林を守り育てる生業創出支援事業
~中山間地域における複業型ライフスタイルモデルの再構築~

〈2022年度コロナ・物価高騰対応支援枠〉
自伐型林業地域実装による森の就労支援事業
ー生活困窮者が未来に希望を見出す仕事の創造ー 

活動対象地域
全国
実行団体

〈2020年度緊急支援枠〉

  • 一般社団法人 東北・広域森林マネジメント機構
  • 特定非営利活動法人 奥利根水源地域ネットワーク
  • 天竜小さな林業春野研究組合
  • 一般社団法人 ふくい美山きときとき隊
  • 九州地区自伐型林業連絡会


〈2020年度通常枠〉

  • 合同会社 百
  • 株式会社 ワイルドウインド
  • 株式会社FOREST WORKER
  • 一般社団法人 ディバースライン
  • 株式会社皐月屋

〈2022年度コロナ・物価高騰対応支援枠〉
※審査中

休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」では紹介できなかった映像を再編集しました。ぜひご覧ください。

今回の活動スナップは、一般社団法人ローランズプラス(資金分配団体:READYFOR株式会社)。休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」の制作にご協力いただきました。シンポジウム用の動画ではご紹介できなかった動画を再編集し、撮影に同行したJANPIA職員のレポート共に紹介します。””””

活動の概要

一般社団法人ローランズプラスは、原宿でフラワーショップとカフェを運営しています。勤務しているスタッフ60名のうち45名が、障がいや難病と向き合いながら働いていることが特徴です。

さらに中小企業の障がい者雇用促進の取り組みを広げるために、2020年に休眠預金を活用した事業を実施。障がい者雇用の算定特例制度を活用し、複数の中小企業と福祉団体が連携して障がい者の共同雇用を行う仕組みを整えて、事業を開始しました。1社単独ではハードルが高い障がい者雇用を、複数企業と福祉団体が連携することで実現するモデルとして注目されています。

活動スナップ

撮影に同行したJANPIA職員のレポート

カラフルな花に囲まれたカフェ・フラワーショップ「ローランズ」。ひとりでも気軽に入れる雰囲気で、お花やグリーンの鉢植えに囲まれて幸せな気持ちでランチやスイーツを楽しむことができます。フルーツサンドやスムージーなどのメニューは、思わず写真を撮りたくなるかわいらしさです。

併設されたフラワーショップには彩り豊かなお花がならび、スタッフがアレンジメントを手際よく制作しています。リーダーの高橋麻美さんは、ローランズで働き始めて6年目です。

スタッフミーティング中の高橋麻美さん]

「もともとお花が好きで、ハローワークで求人を見て応募しました。とはいえ、大学を卒業してから病気のことで入退院を繰り返していたので働いた経験がなく、障がいがあるので、入社前は仕事を続けられるか不安でした。

今ではローランズで他のスタッフと一緒に力を合わせて働くのがとても楽しく、やりがいを感じています」

高橋さんの働く姿を撮影!スタッフは、ZAN FILMSの本山さん、明石さん

高橋さんのように障がいや難病と向き合うスタッフがいきいきと働くローランズには、障がい者雇用のノウハウが蓄積されています。そのノウハウを、障がい者雇用に困難を感じる中小企業に共有し、障がい者を共同で雇用する仕組みを構築する新規事業をスタートするために、休眠預金等活用事業を活用しました。

ここまでの成果として、2022年4月までに6社と連携し、16名の新規雇用を生み出すことに成功。今後は新たに70名を共同雇用する予定です。

ローランズ代表の福寿満希さんは、障がい者雇用のニーズの高まりとは反比例して、コロナ禍での新規事業の立ち上げに大きな不安を抱えていたと話してくれました。

インタビュー中の、福寿満希さん

「新しいことに踏み出すときはとてもエネルギーが必要で躊躇していたのですが、資金分配団体の伴走支援があったおかげで、1歩を踏み出すことができました。常にタスクの優先順位を一緒に確認してくれたおかげで、計画どおりに進められています。

今後は、東京で立ち上げた障がい者の共同雇用のモデルを地域に展開し、地域の中小企業が障がい者雇用に踏み出すお手伝いをしていきたいです」

ローランズが目標として掲げるのは、「多様なひとが一緒に働ける彩り豊かな社会」。実現のために、これからは東京から地方へと、そのノウハウと仕組みを広げていきます。

【事業基礎情報】

実行団体一般社団法人 ローランズプラス
事業名ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業
活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業新型コロナウイルス対応緊急支援事業
〈2020年度緊急支援枠〉

休眠預金等活用法における指定活用団体である一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)は、2022年7月に設立から4年目を迎えました。そこで、設立当初よりJANPIAの活動基盤を作り上げ、2022年1月に理事を退任された逢見直人さんと、二宮雅也理事長に、これまでの取り組みを振り返っていただき、次のステージに向けた課題やなど期待などをお話しいただきました。

JANPIA設立から指定活用団体へ、オールジャパン体制を目指す

司会(JANPIA職員)JANPIAは2022年7月に設立から4年目を迎えました。設立当初を振り返るなかで、とくに印象深かった出来事などはありますか?

逢見元理事(以下、逢見):
そもそも休眠預金の活用については、10年以上前から議論されていました。私もその情報に触れるたびに、「上手に使えばきっといいものになる」と思っていました。しかし、まさか自分がその活動にかかわるとは思ってもいませんでした。


それが、当時、連合の会長代行を務めていた私のもとに、経団連から「指定活用団体の公募に手を挙げたい。ついては、経済界・労働界・ソーシャルセクターをはじめとしたオールジャパンによる団体を作りたい」という話が届きました。そこから私も参画し、JANPIAが設立されました。そして、内閣府による「指定活用団体の公募」への申請にあたっては、労働界からも職員を派遣してほしいとの要請があり、私も全労済と労金協会に出向いてJANPIAの趣旨を説明し、この活動の将来を担ってもらえる人物を推薦してほしい、と頼みにいきました。
JANPIA元理事 逢見 直人さん

それが、当時、連合の会長代行を務めていた私のもとに、経団連から「指定活用団体の公募に手を挙げたい。ついては、経済界・労働界・ソーシャルセクターをはじめとしたオールジャパンによる団体を作りたい」という話が届きました。そこから私も参画し、JANPIAが設立されました。そして、内閣府による「指定活用団体の公募」への申請にあたっては、労働界からも職員を派遣してほしいとの要請があり、私も全労済と労金協会に出向いてJANPIAの趣旨を説明し、この活動の将来を担ってもらえる人物を推薦してほしい、と頼みにいきました。

我々は、「指定活用団体・資金分配団体・実行団体」の3団体がいかに効率よく機能し、休眠預金等を有効活用する方法、そして実行団体の熱意を酌んだサポートをどのように展開していくか等の方法論に重点をおき、構想を固めていきました。休眠預金等活用審議会委員による面接では、二宮理事長と事務局のメンバーがJANPIAの構想をしっかりと伝えてくださいました。あとから話を聞くと、JANPIAのほかにソーシャルセクターに関しての専門性が高い人材で構成された団体など3団体が名乗りを上げていましたね。

二宮理事長(以下、二宮):我々はオールジャパン体制を目指した一方、他の申請団体と比較してソーシャルセクター出身者が少ないということで、活動の実際を知らないことへの懸念が審議会の委員の方々にあったと思います。そのためか、面接は2時間に及びました。ほかの団体も入念な構想を描いて面接に臨んでいましたから、どのような結果が出るかハラハラしたのを覚えています。

逢見:私も結果が出るまではハラハラしました。そして、実際に指定を受けると、「大変な責任を担うことになった」と、その責務の重さを再認識しました。

徹底的な対話から生まれるパートナーシップ

司会:そして2019年1月11日に指定活用団体としての指定を受けJANPIAの活動が始まりますが、その頃のことで思い出されるのはどのようなことでしょうか?

逢見:当初の理事は3名体制で二宮さんが理事長、柴田雅人さんが専務理事兼事務局長、そして私というメンバーでした。理事会を開くと、二宮さんが議長を務められるので、柴田さんと私のどちらかが質問して、どちらかが応えるという形になります。質問者が1人だけの理事会には、当初は戸惑いもありました。(笑)

二宮:設立当初は基盤作りとして、様々なことを決めなくてはいけないことから、迅速に適切な決議ができるようにということがあって3人体制でスタートしました。しかし、その後、事業が進展していくなかでソーシャルセクターの方たちにも入っていただき、現在は5人体制になっています。これは、運営上非常に適正な規模だと感じています。

司会:設立当初からいろいろなことを話し合ってこられたと思いますが、そのなかで難しく感じたことはありますか?

逢見:指定活用団体と資金分配団体、実行団体の3層構造が円滑に機能していくかということが、非常に心配でした。我々指定活用団体は、ともすると資金分配団体・実行団体に対して上から目線になってしまう。しかし、それではいけません。

JANPIA 二宮 雅也 理事長

二宮:その通りです。そこで我々が活動の根幹に置いたのは、資金分配団体・実行団体の方たちとの対話によって連携・協働することでした。様々な課題はありますが、業務改善プロジェクトのように、実務上の課題等を改善していくために、徹底的に資金分配団体の皆さんと話し合い、パートナーシップを築いていくことを大切にしています。その流れは、しっかり出来てきていると考えています。

逢見:そこは最も大事な点ですね。JANPIAの職員の皆さんにもその考えは浸透し、結果としてそれが機能しているのではないかと感じています。

POの活躍は、この制度の財産

司会:ところで逢見さんは、2019年度資金分配団体のプログラム・オフィサー(PO)の必須研修に全日参加されたそうですね。どのような思いで参加され、また印象的だったこと等お聞かせください。

逢見:休眠預金等の活用において3層構造の中間に位置する資金分配団体は、単に実行団体に助成金を渡すだけでなく、実行団体の伴走者としての役割がとても重要です。そのためのPO研修が始まるに際して、実際に研修の内容を見てPOとなる人たちと接してみたい、という気持ちがありました。

実際に参加してみると、私自身も「POにはこういった役割もあるのか」と気づかされ、認識が深まりました。そして参加者との討議などを通して思いを知り、我々と思いを共有している人たちが多くいることがわかり、PO研修に参加したことは大きな価値がありました。

POの方々が2期、3期と活動を続けてくれることで、さらに広がりを見せ、試行錯誤しながら活動している実行団体の皆さんへも、しっかりした方向性を示すことができるはずです。これはこの制度の財産になるでしょう。

二宮:研修を受講したPOは約180名になりました。プログラムを企画立案し、マネジメントもできて成果につなげる、そういう役割を担う人を増やしていくことは重要です。そのなかで休眠預金等を有効に活用していく流れができると思います。

2019年度のPO研修は集合形式で行われました。懇親会(中央壇上)でご挨拶される逢見理事(当時)

コロナ枠で社会変化に臨機応変に対応

司会:コロナ禍が続く現在、JANPIAでは2020年度に新型コロナウイルス対応緊急支援助成(以下、コロナ枠)を開始して、2022年度も新型コロナウイルスや物価高騰に対応する助成制度を継続していますが、これについてはいかがでしょうか?

逢見:コロナという予期しない事態が起き、感染予防のためとはいえ人の行動を止めることになりました。「これは困る人が相当出る」、とくに社会的に弱い立場の人にシワ寄せがいくことが心配されました。そして「ここは休眠預金の出番!手をこまねいていてはダメだ」ということになりました。

そこで、「通常枠」とは別に緊急的にコロナに対応する助成制度を立ち上げました。これは休眠預金活用の価値を社会に知ってもらうためにもよかったと思います。

緊急的な助成ですからスピーディーに物事を決めて取り組んでいかなくてはいけない、かといってずさんな運営ではいけない。スピード・緻密な運営・確かな結果、このバランスを取ることに全員で力を注ぎましたね。職員もほんとうに大変だったと思いますが、コロナ枠を実施していることはJANPIAにとっても意味のあるものだと思います。

二宮:世界がコロナを認識してまだ2年半です、その後にウクライナの戦争、それに続くエネルギー危機や物価高騰など、市民社会に影響を与えることが次々と起こっています。JANPIAではそれらについても取り扱うことになりましたが、設立当初はまさかこういった事態が起こるとは思っていませんでした。

逢見:SDGsの持続可能な開発目標に合わせて、社会課題の解決は大事だという議論はありましたが、「社会課題」という言葉はこんなに広く人々に知られるような言葉ではありませんでした。しかし、JANPIAでの活動を通して、本当に社会における課題にはいろいろなものがあるということがわかりました。

なにかが起こったとき、もちろん政府が行うべきことはありますが、民間はどうすればいいのかも考えなくてはいけません。その点で、JANPIAは、いま必要なことは何なのかを考え、常に備えておかなくてはいけませんし、今ある問題を短期的視点だけで取り組むのではなく、その大元にある問題は何であるかを見ていくことが大事です。

二宮:その通りです。今までのように「想定外」とか、「思いもしなかった」は通用しません。次に別の危機が必ず来ることを認識して、そのときのために備えることが大切です。

休眠預金活用事業がタンポポの綿毛のように各地に広がり、大きな力に

司会:今年度の1月が法律施行後5年にあたり、いわゆる「5年後の見直し」の時期になります。そこで、私たちJANPIAが心掛けるべき点についてアドバイスをお願いします。

逢見:まず実績を示し、そのうえで次の5年に向けた課題を洗い出し、それをよりよいものにしていくことが大切だと考えます。国民の資産である休眠預金等は公正かつ透明に使っていかなくてはいけません。しかし、あまりにも手続きが煩雑で多くの労力が必要になるようでは、本末転倒です。簡素化できるものは簡素化し、スピーディーに物事を決めていかなくてはいけません。この点の改善についてはすでに行っていると思いますが、さらに次の5年に向けて磨きをかけてほしいと思います。

司会:最後に休眠預金を活用する団体の皆さんへ向けてメッセージをいただければと思います。

逢見:休眠預金活用事業は、公的な制度の狭間で取り残されている社会課題の解決を支援するものでで、皆さんの活動は非常に意味があるものです。

休眠預金を活用した事業のシンボルマークの綿毛のように、皆さんの社会を支える力が舞い上がって、それぞれの地域に根差し花開く。まさに綿毛のように多くの人に届き、様々な場所で良い変化をもたらすでしょう。そして、一つ一つの取り組みは小さいことかもしれませんが、集まれば大きな力になって世の中を変えていけると考えます。

二宮:JANPIAスタート時に掲げた我々のビジョン、「誰ひとり取り残さない社会作りの触媒に」、という根幹の考えを、逢見さんにあらためてお話しいただいた思いがします。5年後の見直しに向けた総合評価も行っている最中ですが、こういったことを含めながら本事業の在り方を、未来に向けて考えていきたいと思います。

逢見:次の5年はさらに大変な時期になると思います。休眠預金活用事業のさらなる発展を期待しています。

司会:はい、私たちもさらに頑張っていきたいと思います。本日はありがとうございました。


逢見 直人(おうみ なおと)さん プロフィール

1976年ゼンセン同盟書記局に入局。日本労働組合総連合会(連合)副事務局長(政策局長)、UIゼンセン同盟副会長、全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟(UAゼンセン)会長、連合副会長などを務める。2019年よりJANPIAの理事として設立および運営に尽力。2022年1月に退任する。


■二宮 雅也(ふたみや まさや)理事長 プロフィール

1974年日本火災海上保険株式会社入社。2011年日本興亜損害保険株式会社代表取締役社長、2014年現損害保険ジャパン株式会社代表取締役社長、2016年同社代表取締役会長を経て2022年4月よりSOMPOホールディングス株式会社特別顧問。2018年7月のJANPIA設立時より理事長を務める。

[取材風景] 対談は広い会議室で間隔を開け、マスクをして実施しました。撮影のときのみ場所を移し、マスクを外していただきました。 司会は、JANPIA 職員(企画広報部 芥田真理子さん)がつとめました。

休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」では紹介できなかった映像を再編集しました。ぜひご覧ください。
休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」では紹介できなかった映像を再編集しました。ぜひご覧ください。
2022年5月11日開催「休眠預金活用シンポジウム」で上映した、休眠預金活用事業の紹介ムービーです。

プログラム・オフィサー(PO)として活躍中のみなさんに、「POの仕事の魅力とは?」「POを通じての学びって?」「大事にしていることって?」など様々なお話を伺う「POリレーインタビュー」。第2回目の今回は、 NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ 渋谷雅人さんにお話を伺いました。

POリレーインタビュー!渋谷さんに聞きました

「こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる。」日本中のこども食堂をサポートするNPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ(以下、むすびえ)は、2018年に設立された新しい団体です。在籍する2人目のプログラム・オフィサー(PO)として活躍するのが、商社を早期退職してむすびえに参画した渋谷雅人さん。渋谷さんがどのような活動をされているのか、企業からの転職が活きると確信する理由をお聞きします。

社会課題を実感した、こども食堂の別れ際

ー渋谷さんは2020年からむすびえに参画されたとお聞きしましたが、どのような経緯があったのでしょうか?

大学を卒業して、住友商事に27年間勤めていたのですが、50歳の時に早期退職を選びました。僕は子どもの頃からサッカーが好きで、「仕事でもチームプレーがしたい」「もっと仲間と一体感を持って、人の役に立っていることを実感できるような人生を送りたい」と願っていました。40歳から10年間悩んで、ようやく退職を決断。妻が若くしてがんで他界してしまって、死生観が変わったと言いますか、「人生の充足感をもっと味わいたい」と感じるようになったことも大きかったと思います。

こども食堂との出会いは、退職の2年ほど前、仙台勤務中に参加したボランティアでした。初対面の子どもたちと2時間ごはんを食べて遊んでお別れをする時に、4歳の女の子がとことこと僕のところに駆け寄って来たんです。僕を“しぶっち”と呼びながら、「ぎゅっとして」とハグを求めてきたんですね。その瞬間、子どもたちの感じている寂しさ、甘えたいけど言葉にできない状況など、色々なことに思いを巡らせました。それから、ハグを求められて拒否する大人はいないはずだとも確信しました。あの体験が、こども食堂の魅力や子どもたちを取り巻く社会課題に気がつく第一歩だったかもしれません。

ーはじまりは、こども食堂でのボランティアだったのですね。支援の形には様々ありますが、プログラム・オフィサーという仕事に就かれたのは何かきっかけがあったのですか?

そのこども食堂の運営者の方から、「商社にいたならファンドレイジングを学ぶといいよ」と声をかけていただいたことです。「それ何ですか?」と思いながら、日本ファンドレイジング協会の鵜尾 雅隆さんのメッセージを見て、すぐにファンドレイジングスクールの受講申込みボタンを押しました。「ファンドレイジングを通して、善意のお金の流れを生む社会のシステムに変えていきませんか」という趣旨のメッセージに、とても共感したからです。

スクールに通いはじめてから、ソーシャルな方たちとの出会いが増えて、その中の一つがむすびえでした。むすびえでPOを務める三島が、ちょうど、彼女に続くPOを探しているタイミングで声をかけてもらい、こども食堂を軸としたソーシャルチェンジをライフワークにしていきたいと思い、手を挙げました。

プログラム・オフィサーは現場から組織のあり方を考える

ーPOは国内ではまだあまり認知されていない職業ですが、休眠預金活用事業を通して、少しずつ人材募集も増えています。渋谷さんがPOをしていく上で一番大切にされているのは、どのようなことでしょうか?

資金を受け取って事業を行う実行団体と、資金分配団体であるむすびえメンバーの対話ですね。“お互いに何でも言える関係”を作っていくことです。
まずは我々自身がそういう組織でいるために、POとその補佐を含めて、毎週月曜日の朝に1時間の固定ミーティングをしています。実行団体とのミーティングは月1回。最初15分のチェックインで全員が同じ問いに答えることで、発言しやすくなる“場の安全性”を確保しながら対話を進めています。

秋にJANPIA主催で開催された2020年度採択 資金分配団体向けのPO2年目研修を受けたのですが、「普段現場にいないからこそ見える広い視野で捉えて、大きな座組みをしなさい」という話がありました。改めてハッとして、大切さを自覚しました。POは、実行団体が向き合う現場のことを、現場以上に知っている必要があると思っています。だからこそ、様々な現場に出向いて、現場の人が感じている臨場感を共有していくことが大事になります。その上で一歩引いて、どうすれば活動がうまくいくか広い視野で見ていく役割を担わなくてはと考えています。

ーむすびえは資金分配団体としてだけでなく、中間支援団体として数多くの事業を実施されています。団体としての棲み分けや、プロジェクトを進めていくためのヒントなどがあれば、ぜひお聞かせください。

内部ミーティングで休眠預金活用事業のPOである三島と渋谷が何をしているのか、どんなことがあって、どんな学びがあったかを、常に共有してアップデートすることを大事にしています。そのおかげで新たなPOの候補も育ってきています。POのマインドを持った人材を育成していくことは、むすびえで実施している休眠預金活用事業以外の事業においても中間支援力の向上に直結すると確信しています。むすびえの事業の幹を形成する上で、POは重要な役割になってきていることを感じます。

また、むすびえには、多様性を認めながら自立を大事にするというカルチャーがあります。「プロジェクトリーダー制」を敷いていて、17人がプロジェクトを起こして、資金調達も人材採用も自分でする。小会社の社長が17人いて50くらいのプロジェクトがあるようなイメージです。もちろん大前提にむすびえのビジョンへの共感があって、隣のプロジェクトも意識しながら、皆で組織を良くしていこうという姿勢でいる。組織のあり方としてチャレンジングですが、楽しいです。社会変化の中で、多くの方から僕たちに期待を寄せて頂いているので、もっとスピード感を持たなくてはという思いもありますが、自由があるのは「むすびえ」らしいですね。

企業からの転職の先にあった「心地良い世界」

ーむすびえのPOとなって1年が経った今、どのようなところにやりがいや魅力を感じていらっしゃいますか?

「想像以上に心地いい世界だな」というのが第一声です。企業時代の最終的な評価は、どうしてもいくら利益を出したかという話になります。だけど、仲間と喜びを分かち合えるのは、例えば「あのお客さん喜んでくれていたな」と共に感じた時。人から感謝されることがすべてじゃないかという思いでいました。こども食堂のようにソーシャルな世界では、僕がアウトカムとして求めていたものが、自分の価値提供でまっすぐに返ってくる。それは、想像を超えていました。

POとして活動していると、「あなたにお金を渡すから社会を変えてくれ」「託すよ」と言われている気がするんですね。お金を託していただいて、社会を変えるチャレンジの機会を与えてもらっている。その環境の中で事業や自分を成長させていくことに、とても喜びとやりがいを感じています。

ー今まさに転職を考えていたり、自分に合った仕事を探しているという方も多いと思います。企業での経験はプログラム・オフィサーやNPOでの仕事に活きるのでしょうか?

非常に活きていると思います。僕自身の経験で言いますと、入社直後から利害関係が不一致なところとパートナーシップを組みながら「合意形成」していく、という難題にさらされていました。例えば、納期が折り合わない時、どう調整してバランスを取るか。同じように、中間支援をしていこうと思った時に、「支援したいところ」と「必要といしてるところ」をどう組み合わせるのか、コンサルティングしたり、まとめていく過程には、企業で学んだことをそのまま活かせています。

他にも、実行団体と一緒に、地域資源を融合しながらどのようにアウトカムを達成していくかを考えるときや、むすびえ内部でのチームワークでも活きています。人脈もありますね。企業時代に付き合いのあった人がボランティアに参加してくれたり、取引先が支援してくれる例もあります。

例えば、企業では、どれだけのリターンがあるか考えながら投資案件を選定していきます。そこで問われているのは「社会変化」ではなく「儲け」ですが、使う思考回路はNPOも一緒で、「お金の調達手段」と「受益者からお金が来ない」という2点が違うだけで、どうすれば事業価値が上がるかという思考は同じです。企業時代に思考した経験値をそのまま持ってきて、POとして活躍できる。営利と非営利の間にあるギャップを“通訳”さえすれば、知見・経験が活きるのではないかと思います。POという役割があることで社会的意義を感じながら活動できるので、自分の居場所をすごく整理しやすいです。

ーむすびえさんには、企業勤務を経験された方も多いのでしょうか?

企業兼務者とか企業出身者が多いです。元企業人だからこそ、ソーシャルな世界で貢献できること、企業に働きかけられることはないか、もっと考えていきたいと思っています。

転職を検討している人に向けてよく伝えるのが、「非営利か営利かという選択ではなく、人生を豊かにするための選択肢としてNPOで働くのもいいよね」という話です。転職のハードルを低くするにはNPOの収入が上がっていく仕組みも必要ですが、「あなたの経験がPOに合うよ」という人が実はたくさんいます。その方たちにPOという仕事を知っていただくためにも、僕たちの経験を噛み砕いてもっと発信していきたいと、最近とても思います。

ー中間支援の向上につながるとおっしゃった通り、プログラム・オフィサーは休眠預金活用に関わらず、社会課題を解決していくために必要な職業だと感じます。

最初は、ほかの仕事と並行しながら月20時間のつもりで活動をはじめましたが、のめりこんでいくと「こういうことが実現できるんだ」「むすびえでこれをやっていけば社会変えられるよね」という面白みや、同じゴールを持った仲間がいることが心地よくなって今や120時間の勤務になりました。むすびえがチャレンジしているソーシャルチェンジに「みんながもっと助け合う社会が作れたらいい」というのがあります。その原型がこども食堂にはあると思っていて、そこに携われることが喜びです。

プログラム・オフィサー(PO)として活躍中のみなさんに、「POの仕事の魅力とは?」「POを通じての学びって?」「大事にしていることって?」など様々なお話を伺う「POリレーインタビュー」。初回となる今回は、JANPIA理事であり、長年、笹川平和財団でPOとして活躍してこられた茶野順子さんをゲストとしてお招きしてお話を伺いました。

「POリレーインタビュー」企画って?

休眠預金活用制度の特徴の一つとして、資金分配団体が資金的な支援だけでなく、実行団体の運営や活動をサポートする「非資金的支援」(伴走支援)があり、その中心的役割を担うのがプログラム・オフィサー(PO)です。「POリレーインタビュー」の企画は、「POの仕事って?」と思われる皆さんに、その仕事のやりがいなどを実際にPOとして活躍している皆さんのインタビューを通じて知っていただきたいという思いから始まりました。

初回は、JANPIA理事であり、長年、笹川平和財団でPOとして活躍してこられた茶野順子さんをゲストとしてお招きしました。茶野さんは現在、笹川平和財団の常務理事であり、フォード財団やアメリカのコミュニティ財団でのPOのご経験もあります。今回は、米国での経験についてやPOの育成、事業の運営等について、お話をお伺いしました。

「POリレーインタビュー!茶野さんに聞きました」

アメリカと日本の「非営利組織を取り巻く環境」の違い

─ 茶野さんは、アメリカの財団で働かれた経験があると伺いました。アメリカと日本では非営利組織を取り巻く環境は違うのでしょうか?

私は、アメリカではフォード財団に7年ほど在籍していました。その前には、アメリカの大学院にいたときに、コミュニティ財団であるフィラデルフィア財団で4ヶ月ほど仕事をしていました。

アメリカの財団についてよくご質問を受けるのですが、まず基本的なところをご理解していただいた上で話をした方がわかりやすいので、アメリカの財団の成り立ちについてお話しします。

アメリカ建国時代、まだ政府の役割が確立しない中で、生活面での様々な問題に対し市民がボランタリーに組織(アソシエーション)を立ち上げその解決にあたっていました。

1800年代にトクヴィルという政治思想家が「アメリカの民主政治」という本を書いているのですが、その中でも「アメリカ人は常にアソシエーションを作り、そこで色々な課題を解決している」という記述がありました。なので非営利組織、ボランティア団体に対しては基本的に国民的な信頼があるという点がアメリカと日本との違いの一つです。

─ 非営利組織を取り巻く環境が日本とは異なるのですね。そういった中で財団が誕生していったということでしょうか。

アメリカの最初の財団は1900年代初めに設立されました。南北戦争が終わって北部の工業化が盛んになった時に、資本家が莫大な資産を蓄えた時代背景の中、社会の色々なニーズに応えるために財団がつくられていきました。

まずスコットランドからの移民として苦労しながら資産家になったアンドリュー・カーネギーは、引退後に自著の「富の福音」の中で、「自分たちが資産を蓄えることができたのはコミュニティの人たちが自分たちの商品を買ってくれたからだ」と言っています。自分の得た富を子孫に残すのではなく、コミュニティに還元すべきだと述べていました。

一方ロックフェラーは、一時はイリノイ州の税収よりもロックフェラーの年収の方が多かったと言われています。すると彼のところに「こういうことがやりたいのでお金が欲しい」という寄付の話が押し寄せてくる。そこで彼は「自分はお金を配ることは本業ではない」とし、有識者と相談した結果、専門家が良い事業を見極めそれに対して資金をつけるという、現在の財団のシステムの元をつくりました。ロックフェラー財団は1913年に設立されました。

カーネギーやロックフェラーの財団は、資産家がみずからの資産を提供して財団ができたのに対して、コミュニティ財団はコミュニティの人たち自身がお金を出しあって基金を造成し、将来のお金の用途もコミュニティの人たち自身で決めていくことを基本とする財団です。ロックフェラー財団に1年遅れて設立されたクリーブランド財団が最初のコミュニティ財団と言われています。今は全米で約900ほどあります。

ちなみに、参考情報として、個人寄付、あるいは企業の寄付、そして財団からの助成金というのは非営利組織の資金源の中ではそれほど大きくなく、全体の12.9%くらいというのが最新のデータです。それ以外は非営利組織が提供するサービスに対して政府や民間が支払う対価が、その収入源の70%を占めています。

アメリカの財団における「PO育成」

─ アメリカの財団ではPOはどのように育成されているのでしょうか。

アメリカの財団には多様性があり、個人や家族が作った比較的小さい財団から、フォードやビル・ゲイツが作った大規模な財団など、規模や成り立ちも様々です。それぞれの財団が違うコンセプトで運営をしているので、一般論としてPOの育成について話すのは難しいところです。
ただPOを意識して育てている組織は、フォード財団やロックフェラー財団等の資産規模が大きい財団だと思います。

例えばロックフェラー財団だと、POに対して特に契約年度を設けず、ドクターを持っている学識経験者が財団のPOになっていると言われていました。
一方で私が在籍していた当時のフォード財団では、POの契約期間が3年間で、1度だけ延長ができ、最大6年間がPOとして活動できる期間でした。新人のための育成プログラムというものがありましたが、前提としてPOは、「その分野での実務経験」と「アカデミックな経験」がそれぞれ10年程度あると良いと言われていました。なお、最近の採用条件は、修士号と8年間の実務経験とありました。

ただ新人POはどんなに特定の分野での経験や知識があっても、POとして、事業の良しあしを見極める経験や成功例をどうやって拡大していくか、あるいは関係者とうまくコミュニケーションを取っていく経験などはないと考えられるので、ある程度の研修プログラムが必要になります。それから財団によって組織文化やミッション、歴史も違うので、その財団について知っておくことが重要になります。私がフォード財団にいた頃は、2週間の研修プログラムがあり、「フォード財団について知ること」に1週間を使い、もう1週間で「POとはどういうもので、どんな仕事をすると効果的な助成ができるか」を学びました。

もう一つ特徴的だったのは、当時はOffice of Organizational Services という組織がありました。この組織は、フォード財団としてどのように助成事業を効果的に実施することができるかを分析し、提言することを主な役割としていました。そこでは特に成功例と言われる事業でのPOの役割を分析し、効果的な仕事の仕方を皆さんに伝えていくことを大きな柱としていました。

─ それは興味深いですね。どんなことが伝えられていたのでしょうか。

POは、「Initiative」「General grant」「Opportunity grant」の3種類の助成事業に携わるのがいいと言われていました。
「Initiative」は規模の大きい、多くの場合いくつかの助成事業が複合的、かつ同時並行的に進行していく事業で、選択と集中によって、成果を増大させ、規模を拡大していきましょうというものです。これは、JANPIA のPOが資金分配団体を通じて社会課題を解決しようとする姿勢とも通ずるところがあるかと思います。一人のPOは2つから3つの大きな事業を担当することが推奨されていました。
「General grant」は、資金の使途を特定せず、関連分野全体としての活動に対する助成事業です。例えば教育分野や保健分野で仕事をすると、その分野の全国的な組織があったり、いろいろな調査団体があったりと、仕事をする上でお付き合いが必要な団体があります。そういう団体にある程度の資金を提供することで全体的な動きなどを把握することができるとともに、業界全体の底上げを図ります。
「Opportunity Grant」は、「Initiative」のような大きな規模な助成金だと見逃してしまいがちな新しい試みやユニークな取り組み等に対して試験的に少額の助成金を出し、どう花開くかを見据えることになります。

先ほども触れましたが、JANPIAの資金配分団体のPOの方は、色々な分野の中で「こういうニーズがあって、こういうことにお金を配れば社会に貢献できる」ということを考えて仕事をしていると思うんですね。そういう意味では、フォード財団が言っていた「Initiative」と、似ていると思いました。

フォード財団「Initiative」助成事業の事例

─ 「Initiative」の助成事業の事例を教えてください。

私の印象に残っている事業の一つに、 「Project GRAD」という教育分野での事業があります。通常は、助成財団が「教育分野にお金を出します」と言った時、教育分野で活動をしている様々な団体から申請が来ます。それら一つ一つに丁寧に対応することもその分野の底上げとしては重要ですが、最終的にそれが何になったかと考えると、あまり自信がもてないPOも多いのも事実です。選択と集中が必要と言われる所以です。そこで都市部の貧困層への支援の中でも、良い成果を上げ続けているテキサス州ヒューストンのNPOの活動に着目し、それを全米規模で拡大し、最終的には教育制度を変えていこうということで始まったものです。

「Project GRAD」(Graduation Really Achieves Dreams)は、卒業することであなたたちの夢は叶う、という意味です。というのも、都心部の貧困層では、高校卒業できずにドロップアウトしてしまい、よい職に就けず貧困が積み重なるという悪循環がありました。ある時、その課題解決の為にヒューストンでつくられたシステムが成功しているという情報をフォード財団のPOが知り、そのPOがそのシステムを検証した上で、それをそのほかの都市部の貧困層に広げようとしました。

このPOは、ヒューストンでの成功例についての内容を確認した後、これをInitiativeとして全国に広めることについて、上司とヒューストンの人たちの合意を得ます。その双方の合意を得た後、「こんなプロジェクトが成功しているので、あなたの地域でもやりませんか」と呼びかけ、そのための助成金を出すと伝えたわけです。と同時に、どこが外せない成功要素で、どこが地域特異性のある要素なのかを洗い出すこともPOの重要な役割です。そして、その成功の要素を他の地域にも伝えて、他の地域の事業の立ち上げ支援を行います。その後は、半年に1回の定期的なミーティングで質問を受けるなどし、「こういうやり方をすると成果の増大と規模の拡大を目指せる」ということをアドバイスするなどします。

茶野さんが考えるPOの役割

─ 茶野さんが考えるPOの役割とは、どのようなものでしょうか。

POの役割の一つは、今の課題がどこにあり、どんな人たちがその分野にいて何をしているかを見出すということだと言えます。色々な提案がある中でどの提案が有望かを見極める目を持つこと。それからざっくばらんな関係をつくり、コミュニケーションの目的を明らかにしながら、課題解決のパートナーとなることもPOの重要な役割です。

そこで重要になるのは「無理強いはしない」ということ。なぜかというとやはり資金を持っている側は、力関係として強くなってしまいがちだからです。そしてどう資金提供するかについても工夫する必要がありますし、先ほどのProject GRAD の例でもあったように、成功例を見出し、それを分析してパターン化をして普及をさせていくこと。これらがPOが社会貢献できる役割の中で一番重要ではないでしょうか。

【次回予告】

次回は、「渋谷雅人さん」(NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ プロジェクトリーダー)にお話を伺います。ご期待ください!