《佐賀&長崎》外国人分野支援の実行団体成果報告会が開催されました〈前半・プレゼン編〉

2021年10月初旬、佐賀県と長崎県で外国人を支援する実行団体4団体と資金分配団体(佐賀未来創造基金・未来基金ながさき)がオンライン上で集まり、約2時間にわたって成果報告会を実施しました。その様子を、前半・後半の2回に分けて紹介します。今回は「前半・プレゼン編」です!

コロナ禍における外国人分野の支援を実現

日本に住む外国人の方々は、生活に関わる情報を母国語で得ることが難しいという課題があります。ある在留外国人向けに実施された調査では、在留外国人の9割が「日本語がわからないことで困った経験がある」と回答しています※。特に、新型コロナウイルス感染症や自然災害など非常事態に見舞われると、言語の壁はさらに大きな問題になります。非常事態における「母国語での情報」や「日本語学習の支援」がどれだけ心強い支えになるのかは想像に難くありません。

2020年度新型コロナウイルス対応支援助成の資金分配団体である公益財団法人 佐賀未来創造基金(コンソーシアム構成団体:一般財団法人未来基金ながさき)は、コロナ禍における外国人分野の支援を実現するため、4つの実行団体を選定し活動しています。今回の成果報告会は、その4実行団体と資金分配団体がオンライン上で集い、「新型コロナウイルス対応緊急支援助成での取り組みと成果」を共有し、その成果を発信することを目的に開催されました。会の前半では、実行団体4団体がそれぞれの休眠預金活用事業での取り組み内容についてプレゼンを行いました。以下、それぞれの団体のプレゼンの概要をご紹介します。

※在留外国人総合調査「日本語学習について」株式会社サーベイリサーチセンター(2020年9月23日)

佐賀県国際交流協会(SPIRA)「外国人住民に対する多言語情報提供事業」

報告者は、「公益財団法人佐賀県国際交流協会(SPIRA)」の矢富明徳さん
報告者は、「公益財団法人佐賀県国際交流協会(SPIRA)」の矢富明徳さん

1990年に設立されたSPIRAは、「国の国境をなくそう!」(Free Your Heart of Borders!)をスローガンとして活動しています。佐賀県に住んでいる外国人は7,031人(2020年1月1日時点)で、うち40%が技能実習生。国籍はベトナムが一番多く、次いで中国、フィリピン、韓国、朝鮮、インドネシアの順になっています。

SPIRAが「外国人住民に対する多言語情報提供事業」に取り組んだ背景には、日本語が苦手な外国人住民は日本での生活が困難な状況にあり、さらに新型コロナウイルス感染症の情報へリーチできずに深刻さを増しているという課題がありました。そこで、新型コロナウイルス感染症に関する様々な情報や手続きなどについて、母語による情報提供や相談対応ができる環境を整備することにしました。具体的には、協会職員等で対応可能な英語・中国語・韓国語・やさしい日本語に加えて、ベトナム語・インドネシア語・タガログ語・ネパール語ができる人を採用して週1回勤務してもらい、多言語による情報提供と国際交流プラザでの対応を目標としました。

事業の成果として、まずはSNS等による情報の随時発信があります。
「佐賀県から出ないようにというメッセージが出ても、外国人の方に届かなければ出かけてしまい、外国人への偏見につながりかねない。できるだけ早く伝える必要があり、随時発信してきました」と矢富さん。

Facebookの発信には絵をつけて、一目で内容が分かるように工夫しています。ホームページでも多言語で情報を提供し、ワクチン接種の流れを紹介したり、YouTubeの説明動画に10言語の字幕をつけたりしています。また、市から要請を受けて、集団接種の会場で受付から接種完了まで外国人をサポートしました。そのほか、2021年8月に佐賀で豪雨災害が起こった際には、8言語で情報を提供しました。

Facebookの発信には絵をつけて、一目で内容が分かるように工夫しています。ホームページでも多言語で情報を提供し、ワクチン接種の流れを紹介したり、YouTubeの説明動画に10言語の字幕をつけたりしています。また、市から要請を受けて、集団接種の会場で受付から接種完了まで外国人をサポートしました。そのほか、2021年8月に佐賀で豪雨災害が起こった際には、8言語で情報を提供しました。

「多言語パートナーと県職員などで力を合わせて取り組んでいます。みんなが暮らしやすい佐賀になるように今後も続けていきます」と意気込みを語りました。

ユニバーサル⼈材開発研究所「平時から備える災害時多言語発信~母語グループ設立による包括的外国人支援~」

報告者は、一般社団法人ユニバーサル人材開発研究所とコンソーシアムを組む「サワディー佐賀」代表の山路健造さん
報告者は、一般社団法人ユニバーサル人材開発研究所とコンソーシアムを組む「サワディー佐賀」代表の山路健造さん

サワディー佐賀はタイ人のネットワークを作るため、2018年にスタートした団体です。タイ料理教室や東京五輪のホストタウンとしてのおもてなし、祐徳稲荷神社への通訳ボランティアの派遣などを行い、災害時はタイ語での発信にも力を入れていました。それらの活動が評価されて、2020年度「ふるさとづくり大賞」で団体表彰(総務大臣表彰)を受賞しました。

佐賀県では災害が起こると佐賀県災害時多言語支援センターが立ち上がり、8言語で対応されます。サワディー佐賀では、行政でカバーできていない残り4%のミャンマー語・タイ語・シンハラ語に対応すべく、事業に申請しました。そして、タイをモデルケースとして、ミャンマーとスリランカのFacebookのページを作りました。今年2月にミャンマーでクーデターが起こった際は、ミャンマー人を対象としてオンラインの生活相談会も行いました。

佐賀県では災害が起こると佐賀県災害時多言語支援センターが立ち上がり、8言語で対応されます。サワディー佐賀では、行政でカバーできていない残り4%のミャンマー語・タイ語・シンハラ語に対応すべく、事業に申請しました。そして、タイをモデルケースとして、ミャンマーとスリランカのFacebookのページを作りました。今年2月にミャンマーでクーデターが起こった際は、ミャンマー人を対象としてオンラインの生活相談会も行いました。

サワディー佐賀では、通常LINEグループ(62人登録)でやり取りをしています。災害など外国人に知らせたい情報が発生した場合は、山路さんがやさしい日本語に変換し、翻訳チームがタイ語に翻訳し、タイ人メンバーがネイティブチェックをしてから発信するようにしています。ミャンマー語とシンハラ語も同様の仕組みにしました。2021年8月豪雨の際は、タイ語・ミャンマー語・シンハラ語で情報発信を行いました。

「平時からグループを組織化していたことで、スムーズな情報発信ができた。平時こそ、こういう体制を作っておくことが重要だと改めて実感しました」と山路さんは力を込めます。

山路さんは、NPOが災害情報を発信するメリットは多いと指摘します。まず、行政は公平性を担保するために同時発信に配慮するが、NPOは翻訳が完了した言語からスピーディに発信できること。翻訳のソースとして、行政の情報だけでなく新聞やテレビ、気象庁など多岐にわたる情報を扱えること。

また、「翻訳スタッフに謝金を支払えることも大きい。ボランティアでお願いしているといずれ息切れしてしまう」と山路さん。さらに、グループ化によって顔が見えているため、必要とされる情報だけ翻訳すればいいという状況ができました。

今後は、少数言語による情報を県単位ではなく広域で共有できるプラットフォームを作りたいと考えています。同事業は地球市民の会で継承し、佐賀県の企業版ふるさと納税を一つの財源とし、地域おこし協力隊をスタッフとして続けていくそうです。

Treasures of The Planet「長崎発信型在住外国人支援プロジェクト」

報告者は、「NPO法人Treasures of The Planet」理事長の松尾佳美さん
報告者は、「NPO法人Treasures of The Planet」理事長の松尾佳美さん

「長崎発信型在住外国人支援プロジェクト」では、長崎市在住の外国人を対象としてオンライン・アンケートや面接インタビューを行い、新型コロナウイルス感染症の広がりによって直面している問題を把握。多言語対応のポータルサイト(UNIVERSALAID.JP)を制作して、その結果を公開するとともに、新型コロナに関する医療や福祉情報をはじめ、長崎在住の外国人が必要としている情報を掲載して運営・管理するという事業を実施しています。プロジェクトは長崎大学の多国籍な先生や学生たちの協力のもとで進めています。

まずは学生たちとアンケートの質問事項を検討の上、12か国語に翻訳。アンケートを依頼するチラシとアンケート用のサイトを作り、約360人から回答を得ることができました。その結果を集計して、英語のレポートと、要点を11か国語に翻訳したレポートをUNIVERSALAID.JPのサイトにアップしました。また、アンケートの回答などをもとに、長崎在住の外国人が求めている情報をリストアップして、それらが掲載されているウェブサイトをピックアップ。WHO、厚生労働省、みんなの外国人ネットワーク、長崎県国際交流協会、長崎県や長崎市の国際関係や生活支援の部署などに連絡を取り、コンテンツの共有とリンク、多言語翻訳、サイトへの掲載許可をもらい、UNIVERSALAID.JPで公開しています。なお、翻訳は長崎大学の留学生グループなどにチェックしてもらっています。

サイトについてプレスリリースを出したところ、西日本新聞と長崎新聞、インドネシアのサイトで紹介されました。Googleアナリティクスによると、現在のユーザーは約490人で、リピーターが約2割になっています。

サイトについてプレスリリースを出したところ、西日本新聞と長崎新聞、インドネシアのサイトで紹介されました。Googleアナリティクスによると、現在のユーザーは約490人で、リピーターが約2割になっています。

松尾さんは「外国人の方々に話を聞いてみると、すでにあった外国人向けの情報サイトと比べて、UNIVERSALAID.JPは非常に分かりやすくて使いやすいと評価いただいています。今後は、新型コロナ感染症の情報だけでなく災害情報やゴミの出し方などいろいろな記事を掲載して、サイトを見てくれる人やリピーターを増やしていきたい」と総括しました。

フリースクールクレイン・ハーバー「在留外国人親子の日本語習得&不登校支援」

「特定非営利活動法人フリースクールクレイン・ハーバー」理事長の中村尊さん
「特定非営利活動法人フリースクールクレイン・ハーバー」理事長の中村尊さん

フリースクールクレイン・ハーバーは長崎で、不登校の子どもたちの支援を17年にわたり行ってきました。「外国人の親を持つ子どもが、日本の学校に行きづらさを感じて不登校になるケースも見てきました」と高村さん。また、同団体では、使わなくなった学生服とランドセルを生活困窮家庭やひとり親家庭に寄付する活動をしており、外国人の子どもに寄付することもありました。

そんな中、新型コロナウイルス感染症の影響で仕事を失ったり就業が困難になったりしている外国人親子を支援しようと、日本語専門学校のあさひ日本語学校と連携して事業に取り組むことにしました。事業の概要は、長崎県内在住の外国人を対象に、就労を目的とした日本語教育をオンラインで無料で行うというもので、必要に応じて子どもにも支援を行います。オンライン授業のため、離島を含めて広い範囲の外国人を支援することが可能です。県内の9市町村の役所や社会福祉業議会などにチラシを配って周知を図り、長崎新聞にも記事が掲載されました。その結果、現在4人にオンラインで授業を行っており、うち1人は実際に仕事に就くことができました。

課題としては、目標の10人になかなか届かないことが挙げられ、「問い合わせをいただいても、対面での授業がいい、夜間に授業してほしい、就業は望んでいないなどと条件が合わなかったケースもあります」とのこと。また、今のところ受講者に子どもがいないため、子どもとつながって支援した事例がないことも課題であり、「これまでとは違う子ども関係の部署や教育委員会に周知するなど、アプローチの方法を工夫していきたい」と高村さん。「コロナ禍でマイノリティの方々にしわ寄せがきている。そのような方に優しい長崎でありたいと思っています。次年度以降については、コロナの状況をみながら、どうやってニーズに対応していくかを考えて、もっと多くの外国人親子に関わっていきたい」と今後に向けての意気込みも話しました。

課題としては、目標の10人になかなか届かないことが挙げられ、「問い合わせをいただいても、対面での授業がいい、夜間に授業してほしい、就業は望んでいないなどと条件が合わなかったケースもあります」とのこと。また、今のところ受講者に子どもがいないため、子どもとつながって支援した事例がないことも課題であり、「これまでとは違う子ども関係の部署や教育委員会に周知するなど、アプローチの方法を工夫していきたい」と高村さん。「コロナ禍でマイノリティの方々にしわ寄せがきている。そのような方に優しい長崎でありたいと思っています。次年度以降については、コロナの状況をみながら、どうやってニーズに対応していくかを考えて、もっと多くの外国人親子に関わっていきたい」と今後に向けての意気込みも話しました。


資金分配団体

公益財団法人佐賀未来創造基金

(コンソーシアム構成団体:一般財団法人未来基金ながさき)

事業名

新型コロナ禍における地域包摂型社会の構築

~地域で暮らす全ての人の安心と未来をつなぐ~

対象地域佐賀県、長崎県
実行団体

★公益財団法人佐賀県国際交流協会(SPIRA)

★一般社団法人ユニバーサル人材開発研究所

★NPO法人Treasures of The Planet

★特定非営利活動法人フリースクールクレイン・ハーバー

・九州ケータリング協会

・佐賀県地域共生ステーション連絡会

・NPO法人ナガサキリハビリテーションネットワーク

・一般社団法人すまいサポートさが


★:今回の記事で紹介されている団体

「ダブルハルカヌーって安全性が高いんですよ」。そう爽やかな笑顔で話してくださったのは、有限会社SHIPMANの代表取締役を務める城田守さん。2019年度通常枠〈資金分配団体:公益財団法人 ブルーシー・アンド・グリーンランド財団〉の実行団体として、活動拠点である静岡県立三ヶ日青年の家(以下、青年の家)を舞台に浜名湖畔で体験格差をなくすべく、水辺の活動やさまざまな支援に取り組んでいます。今回は、日本でここにしかない「ダブルハルカヌー」に特別支援学校の子どもたちが挑戦!その体験学習の様子、そして休眠預金を活用したSHIPMANの取り組みなどを取材しました。

ダブルハルカヌーに挑戦。美しい浜名湖をみんなで駆け抜けよう

11月初旬、浜松市内の特別支援学校の生徒たちが三ヶ日青年の家を訪れていました。集まっていたのは、小学4年生と5年生の男女8名。聴覚障害を持つ児童たちです。彼らが今日体験するのは「ダブルハルカヌー」。浜名湖畔で、日頃、触れ合う機会のない水辺での体験学習に挑みます。

体育着姿の子どもたちが集まったのは、マリーナ広場にある艇庫(ボート倉庫)。その一角で、まずは水辺での活動の際に注意すべきことや漕ぎ方などについて学びます。大きなポイントは3つ。1つ目はSHIPMANの指導員や先生たちの話をよく聞くこと。2つ目はできる限り大きな声を出す。そして3つ目は素早い行動を心掛けること。水上ではちょっとした甘えが事故に繋がるため、一緒に乗船する艇長の指示に従って行動しなくてはなりません。続いて、水辺の活動では着用が欠かせないライフジャケットについて指導を受けます。

「ライフジャケットは必ず体が浮くようにできています。もし水の中に落ちてしまったら、体育座りのようにできるだけ小さな姿勢を保って救助を待ちます。落ち着いて襟元をしっかり掴んで下にぐっと引っ張りながら上を向いて呼吸を確保してください。暴れたり、泳いだりすると体力を消耗するので、静かに救助を待つよう注意しましょう」

先生の話に注目する子どもたち。
先生の話に注目する子どもたち。

着用したライフジャケットを触ってみたり、友だちと話してみたり、緊張した表情を浮かべつつも、どこか楽しげな様子の子どもたち。次は艇長の指導でパドルの持ち方や漕ぎ方を学びます。元気な挨拶が艇庫いっぱいに広がると、木製パドルが順番に配られました。いろいろ試してみたいところですが、ここはぐっと我慢!

「今、みんなに配ったのが、カヌーを漕ぐときに使用するパドルです。大事な道具なので杖にしたり、振り回したりしてパドルを傷つけたり、周りのお友だちに怪我をさせないように注意しましょう!」

艇長の両脇で引率の先生が手話で説明をします。口の動きと手話で持ち方を学ぶと、子どもたちは素早く行動。ダブルハルカヌーは二層のカヌーが並行に繋がれた仕様のため、乗船する場所によってパドルの持ち方が異なります。向かって右側の列は左手で上部の三角部分を握り、右手で一番細い部分を持ちます。左側の列は、その逆です。しっかり持つことができたら、いよいよ漕ぎ方の練習。友だちにぶつからないように距離を保ちます。

「漕ぐ時は “1、2、ソーレ!” という掛け声に合わせてパドルを動かします。艇長が1、2、みんなはソーレ!です。パドルを戻す時は後ろの人に水がかからないように、水からスッと抜くようなイメージ。ちょっとみんなで練習してみましょう!」

1で自分の体の前にパドルを出して、2で水の中に、ソーレで漕ぎます。
1で自分の体の前にパドルを出して、2で水の中に、ソーレで漕ぎます。

少し照れくさそうにしていた子もいつの間にかどんどん大きな声に。テンポ良くパドルを動かしながらイメージを膨らませます。しっかり準備ができたら、ここで持参した小さなタッパーに補聴器や人工内耳をしまいます。子どもたちは水辺での活動やプール学習の際はもちろん、雨の日も傘がない時は必ず装具を外すといいます。聞こえにくく不安に感じる際は周囲の状況をよく見ることに意識を向けるなど、日頃の自立活動の時間を通じて学んでいます。

「緊張してない?」。そんな先生からの声掛けを聞きながら、元気よく掛け声の練習をする子もいれば、表情が強ばる子も……。(左) / 桟橋は休眠預金を活用して導入されたもの。(右)
「緊張してない?」。そんな先生からの声掛けを聞きながら、元気よく掛け声の練習をする子もいれば、表情が強ばる子も……。(左) / 桟橋は休眠預金を活用して導入されたもの。(右)

水上で学ぶ「思いやり」と「協力」の姿勢

艇長に続いて艇庫を出ると、雄大な浜名湖が子どもたちを待っていました。ヨットハーバーに到着すると休眠預金を活用して購入したという真新しい桟橋から、指示に従ってダブルハルカヌーに乗船していきます。

浜名湖は海とは異なり、時折、すれ違う漁船による引き波以外は、大きな波もなく水面は穏やか。これまでに経験のない揺れに驚いて声を出す子もいましたが、ぐんぐん進むうちにいつの間にか掛け声も大きく、パドルも力強く揃った動きに。前にいる仲間の動きをよく見て、後ろの友だちのことを思いやり、協力して漕いだダブルハルカヌー。ヨットハーバーに戻った時には、子どもたちの姿はちょっぴりたくましく見えました。

いざ出発!掛け声をかけながら、ヨットハーバーを後にしました。
いざ出発!掛け声をかけながら、ヨットハーバーを後にしました。


引率をした小学部学部主事・下村先生は言います。


「事前にパドルの使い方などの学習はしてきたとはいえ、本当に初めての挑戦でした。桟橋を渡る時も恐々とした様子でしたが、指導を受けながら『ああ、こうやって漕ぐんだ!』と理解する様子も見受けられ、本当によく漕ぎきったなという思いです。今後もぜひ参加させていただきたいと思います!」

非日常の体験を終え、どこか誇らしげな表情をした子どもたち。秋らしい柔らかな日差しを受けてキラキラと輝く湖面に負けない、格別な笑顔が印象的でした。後日、SHIPMANには子どもたちからの寄せ書きも届いたそうです。

水上で仲間を思いやり、共に協力をして行動をすることは、日常生活にも通じており、コミュニケーションを図る上でも役立つというSHIPMANの城田さん。改めて休眠預金を活用した取り組みや今後の活動などについて伺いました。

風から、そして波から学ぶ。非日常の体験を子どもたちに届けたい!

「この青年の家は社会教育施設として、“来て!見て!やって!感動を!!”をテーマに昭和36年に発足しました。浜松は工場の町。当時の若い工員さんたちによる青年団が交流の場として活用していたんです。指定管理者として運営に携わったのは約8年前(2013年)。私たちが得意とする海洋活動を中心に、年齢、性別、そして国籍を問わず、誰でも利用できるイベントや体験学習を始めたんです」

県立三ヶ日青年の家にはたくさんの教室や体育館など、多様な学習環境が整っています。
県立三ヶ日青年の家にはたくさんの教室や体育館など、多様な学習環境が整っています。

城田さんは前職であるヤマハ発動機時代に培った経験を活かし、2003年にSHIPMANを立ち上げると同時に「浜名湖海の駅連絡会」で救助艇の手配などのボランティア活動にも従事してきました。浜名湖は浜松市と湖西市に跨る汽水湖(区分は二級河川)。水難事故などが起こった際に管轄である県警よりも素早く最寄りのマリーナから救助に行けるよう取り組んでいたそうです。しかし2010年に悲劇が起こります。一人の少女が湖畔での体験学習の際に亡くなってしまったのです。

「安易な任命が最悪の事故に繋がります。だからこそ、『How to=方法や手順』だけではなく、常に『Why=なぜ?』を基本に、会話をしながら活動することが重要です。そうした点を踏まえて、私たちSHIPMANのスタッフは知識や技術を伝えるインストラクターを超えた、活動の価値や意味をも伝えていくインタープリターとして取り組むことにしています。指定管理業務は水辺に関するプロでなければできません」

カッターボートの転覆事故で亡くなった少女の像の前で語る城田守さん。(左) / 今ではSHIPMANの徹底した安全指導が高く評価されています。(右)
カッターボートの転覆事故で亡くなった少女の像の前で語る城田守さん。(左) / 今ではSHIPMANの徹底した安全指導が高く評価されています。(右)

事故は絶対に起こしてはいけない。悲しく、また悔しい思いをしたからこそ、強い意志と使命感を持って、安全で安心な水辺の活動を目指す城田さん。スタッフと共にさまざまな訓練の日々を送り、再び浜名湖畔で体験学習が行えるようになりました。

小さなことから一歩ずつ取り組む。地域との連携で実現する支援活動

「休眠預金活用事業に手を挙げたのは、水辺の活動を通じて非日常的な体験を子どもたちにしてもらいたいと思ったことがきっかけです。特に、家族と十分なコミュニケーションを図ることが難しい子やさまざまな事情から殻に閉じこもっている子、あるいは障害を持つ子たちのために何かできないかとずっと考えてきました。子どもたちが気軽に訪れてSUPを楽しんだり、釣りをしたり。まずは徒歩や自転車で来られる範囲に住んでいる課題を抱えた子どもたちから漏らさず受け入れて行こうと、地元の小中学校の先生方にも協力を仰いでいます」

そんな取り組みの中、コロナウイルス感染症の蔓延を受けて県内外から年間約3万8000人が訪れていた青年の家も利用者が激減。城田さんは登校することもできず、居場所を失ってしまった地域の子どもたちを青年の家で預かる決断をします。その活動は施設内での学習だけではなく、駅のペンキ塗りや児童公園の草刈りなど、多岐にわたりました。

「近隣地域だけでなく、少し離れた街からも子どもたちが来るんです。青年の家は開放さえしていれば、誰でも利用できますからね。延べ200人の子どもたちを相手に、海洋指導員や元教職員、現役の校長先生まで、多くの人たちの協力を得て活動をしていました」

まさに草の根的な取り組みを経て、城田さんは地域とも連携し、さまざまな課題をクリアしてきました。休眠預金を活用した日々の活動から感じた今後の目指すべき方向はどのようなものなのでしょうか。

体験格差のない社会を目指して漕ぎ進むSHIPMAN

「特別支援学校はもちろん、不登校の子どもたちにも焦点をあててた活動をしたいですね。既に4年ほど前から地元の教職員を集めて水辺での活動を中心にさまざまな研修を定期的に行なっています。休眠預金活用事業の中長期計画の一環として、現在の取り組みや活動を、地域と連携しながら社会に向けて周知させることを目指して活動しています」

学校という場所を離れても子どもたちがいつでも帰れる場所をつくるべく、日々奔走している城田さん。昨今、注目を集める総合的な学習への取り組みにもチャレンジし、指導する側の意識改革にも余念がありません。またこうした活動を通じて、年齢や性別関係なく学べる機会や場所を設け、単独では難しい事象も県域を超えて同じ思いを持つ同志と連携することで「取りこぼさない社会づくり」を実現したいと言います。

マリンスポーツをはじめとする海洋活動を武器に、水辺のインタープリターたちの飽くなき挑戦は続きます。


■資金分配団体POからのメッセージ

SHIPMANの強みは、やはり城田さんの海洋活動を通じた青少年育成にかける果てしない情熱です。休眠預金活用事業を遂行する上で立地、施設や設備を含め、青年の家は素晴らしい環境。自治体や地域との連携を築き、特別支援学校や訪れる各団体に安全かつ楽しめるという育成プログラムや次へ繋がる研修の実施が実現できているのは水辺のプロからこそ。「ダブルハルカヌー」を新たに制作することで「健常者と障害を持つ子どもたちの体験格差」という課題も乗り越え、格差解消を目指した取り組みは、まさに本事業の目的に沿った活動です。インクルーシブ社会である昨今、誰もが社会の一員として集える地域社会づくりに向け、城田さん率いるSHIPMANと共に歩み、課題に取り組んでいきたいと考えています。
(公益財団法人 ブルーシー・アンド・グリーンランド財団 / 遠藤卓男さん)

取材・執筆:天屋 詠

【事業基礎情報】

実行団体
有限会社SHIPMAN(静岡県浜松市)
事業名
障害児等の体験格差解消事業〈2019年通常枠〉
活動対象地域静岡県西部地区
資金分配団体公益財団法人 ブルーシー・アンド・グリーンランド財団(B&G財団)
採択助成事業

障害児等の体験格差解消事業
ー水辺の自然体験を通じて障害児や養護施設の子供の人間形成を図るー

草の根活動支援事業・全国ブロック〈2019年度通常枠〉

【この記事の事業に関連する「優先的に解決すべき社会課題」】
1.子ども及び若者の支援に係る活動
(1)経済的困窮など、家庭内に課題を抱える子どもの支援
(2)日常生活や成長に困難を抱える子どもと若者の育成支援2.日常生活や成長に困難を抱える子どもと若者の育成支援(5)日常生活や成長に困難を抱える子どもと若者の育成支援

【この記事の事業に関連する「持続可能な開発目標(SDGs)」】

目標4【教育】
目標10【不平等】
目標11【持続可能な都市】
目標14【海洋資源】







コロナ禍の外出自粛により、女性に対するドメスティック・バイオレンスをはじめ、性暴力被害などの被害の深刻化が懸念されています。こうした被害に対する日本の法制度は、諸外国に比べて大幅に遅れている状況です。加えて、支援側の活動資金、専門知識を持つ人材不足が大きな課題となっています。今回は、資金分配団体「特定非営利活動法人 まちぽっと(2019年度通常枠)」の実行団体として活動する『特定非営利活動法人 全国女性シェルターネット』の北仲千里さんに、ジャーナリストの浜田敬子さんがDV被害者への支援活動や現状、そして休眠預金を活用した今後の展望をインタビューした様子をお届けします。”

▼インタビューは、動画と記事でご覧いただけます▼

DV被害者支援の世界へ。直面する活動継続の難しさ

浜田 敬子さん(以下、浜田):全国女性シェルターネットは、1998年(平成10年)に活動を始められたそうですね。

北仲 千里さん(以下、北仲):女性に対するドメスティック・バイオレンス(以下、DV)や虐待被害といった問題が、世界的に大きく注目を集めたのが1990年代後半。95年に開催された「第4回世界女性会議(北京女性会議)」をきっかけに世界各国でこの問題に対するシェルター運動が活発になり、日本でも各地で手づくりのDVシェルターを始める方が増えていきました。97年には現団体の前身となる「女性への暴力駆け込みシェルターネットワーキング」がシェルターを運営する人の情報交換を目的として活動をスタート。翌年には各関係者が北海道札幌市に集まり、第一回のシェルターシンポジウムを開催しました。

フリージャーナリスト・浜田敬子さん(左)と全国女性シェルターネット・北仲千里さん(右)。
フリージャーナリスト・浜田敬子さん(左)と全国女性シェルターネット・北仲千里さん(右)。

浜田:北仲さんはいつ頃から、全国女性シェルターネットの活動に入られたのでしょうか。

北仲:2000年か、もう少し後からの参加です。90年代半ば頃は、大学院生として、ジェンダーに関する問題をテーマに研究をしていました。そんな時、私たちの周囲で偶然にもセクシャルハラスメント(以下、セクハラ)に関する問題が浮上し、大学キャンパスでこれらに対する運動を始めたのです。
そこで大学におけるセクハラについての情報を発信するホームページを制作したところ、日本中から相談などが殺到。その後、少し上の世代の専門家の方々から性暴力やDV被害者の支援をするNPOを立ち上げるから一緒にやらないかと声を掛けられ、DVシェルターにも関わりだしたのがきっかけとなりました。


浜田:北京女性会議をきっかけとして、日本でも草の根的にシェルターが増え始めたとのことでしたが、そういった団体のネットワーク組織として「全国女性シェルターネット」があるのですね。

北仲:はい。正確な数は分かりませんが、全国に100か所以上のシェルターがあると言われています。その中で、私たち「全国女性シェルターネット」に加盟している団体は現在60団体。90年代に活動をはじめた方々に団塊の世代が多いこともあり、最近は減少傾向という現状です。

浜田:必要とされているのに、活動の継続が難しいということでしょうか?

北仲:海外では、90年代に支援をはじめた志がありノウハウも備えている民間団体に、国や自治体が事業を委託するという形の支援がスタンダードです。一方日本は2001年に“公的な相談センター”という形で支援がスタートしたので、民間と国や自治体との連携が生まれにくく、我々は勝手に支援をしているという状態です。活動をしている人たちには人件費はほとんど払われておらず、施設の家賃などをなんとか寄付や助成金でまかない、この数十年やってきました。そのような活動の継続にはやはり限界があり、ひとつ、またひとつと閉鎖しています。しかし、新しく団体を作りたいというグループからの問い合わせもそれなりにくるので、DVや虐待被害に対する関心は高まっていると感じていますが、自分たちで資金を生み出せる活動では決してないので、そうした面でも継続していくのは難しく、苦しいですね。

閉ざされた世界からステップアップできるまで。DV被害者を取り巻く現状

浜田:支援活動をはじめて約20年間、DVや性暴力を巡る状況の変化について、北仲さんは今、どのようにご覧になっていますか?

北仲:「セクハラ」もそうですが、「DV」という名称がつくまでの方が恐らく酷かったと思います。

浜田:そうした事象がたくさんあっても、皆さん声をあげなかったわけですね。

<b>北仲:</b>把握もできていなかったと思います。例えば、90年代や2000年代くらいに役所や自治体が市民を対象に行ったある調査では、人生経験豊富な60代以上の女性は、DVに関する問いにだけ「無回答」する確率が高かった。声に出してはいけない風潮があったということだと思います。恐らくセクハラなども昔の職場の方がずっと酷かった。その一方で、若者たちはこうした問題に関心があって「これは怒っていいんだ」という認識があり、きちんと回答していました。とても興味深い結果でした。

北仲:把握もできていなかったと思います。例えば、90年代や2000年代くらいに役所や自治体が市民を対象に行ったある調査では、人生経験豊富な60代以上の女性は、DVに関する問いにだけ「無回答」する確率が高かった。声に出してはいけない風潮があったということだと思います。恐らくセクハラなども昔の職場の方がずっと酷かった。その一方で、若者たちはこうした問題に関心があって「これは怒っていいんだ」という認識があり、きちんと回答していました。とても興味深い結果でした。

それから10年が経過し、私がいくつか見た調査結果では60代の方々が無回答になっていることは少ないよう感じています。つまり、女性たちはDVなどに対して怒ってもいいと感じ、声をあげやすい環境になってきていると言えます。
とはいえ、アジア圏のDVシェルター関係者と情報交換をしたり、各国の統計などを調査・比較したりすると、香港やシンガポール、台湾などに比べて日本の被害率が高いように感じます。それは圧倒的な法制度の遅れが原因。海外では、大学で福祉などを学んだ若者が性暴力や性虐待、DVや児童虐待を救うソーシャルワーカーを目指し、公的な施設はもちろん、民間団体は人気の就職先となっていて、きちんと職業として成り立っています。自分たちで資金を調達する私たちとはまるで異なる状況です。

<参照>
国際ジェンダー学会ウェブサイト
http://www.isgsjapan.org/journal/files/15_kitanaka_chisato.pdf

徹底的に向きあって寄り添う。国境を越えて共通する大事にしていること

<b>浜田:</b>こうした支援には段階があると思いますが、全国女性シェルターネットが日常の支援活動の中で大事にしているポイント、そして財政的な問題も踏まえて、困難だなと感じている点を教えてください。

浜田:こうした支援には段階があると思いますが、全国女性シェルターネットが日常の支援活動の中で大事にしているポイント、そして財政的な問題も踏まえて、困難だなと感じている点を教えてください。

北仲:世界中の関係者と話すと、実は大事にしていることが一緒だということが分かります。
DV被害者の方々は「お前なんかどうしようもない奴だ」といった具合に、相手にコントロールされてしまっていて、「ここから逃げられない」とパワーが落ちてしまっている状況です。そこで、私たちはその状態の方たちとなんとか繋がりを持ち、とにかく話を聞き、自分は本当に何がしたかったのか、どんな気持ちだったのか、自分自身で決めてもらうように促します。「あなたはこうすべきだ」などというと、再び誰かに支配されてしまうので、なりたかった自分を決めるのにじっくり付き合うというのが、民間でも公的なセンターでもすごく大事で一番難しいことなんです。

自身が元被害者という支援者も非常に多く、自らの経験から被害者の恐怖心や辛かった出来事を理解できます。被害者本人が今じゃないところに進むことを考え、決めてもらう。そして、その気持ちを整理し、作戦を一緒に立て、作戦を実行するためには「逃げてくる部屋があるよ」「シェルターもあるよ」など、こまごまとしたお手伝いをする。「世の中にはなかなか伝わらなくても、私たちには分かるよ」と時間をかけてじっくり話しをしています。

もう一つ、私たち民間支援者が大事にしているのは「同行支援」です。なぜなら、まだまだ社会的にはこうした問題に対する理解が低い状況だからです。解決に向けて、「警察に行ったらいいよ」「弁護士に行ったらいいよ」と、ただ対処法を助言するだけの中途半端な寄り添い方をすると、行った先で分かってもらえるとは限らないので、また傷ついてしまう。そこで私たちも一緒に行くことで、例えば警察で聞かれることを学んだり、時には「いやいや、そうではないですよ」と説明したりします。理解のある弁護士さん、不動産屋さん、本当によく協力してくれる病院など、社会の様々な方たちとの繋がっていくためには、やはり被害者の方と一緒に行動することがとても大事です。それによって社会の壁も見えるし、道も拓けてくると思います。


浜田: 新型コロナウイルス感染症のパンデミックによってこれまでとは暮らし方が異なり、家にいる時間が長くなる、失業したストレスなどによるDVや性暴力の被害が世界中で増えたと言われています。その状況は日本でも深刻でしたか?

北仲: そうですね。新型コロナ関連の給付金が国民に配られるという話を聞き、かなりの関係者が「震災の時と同じことが起きる」と考えたんです。世の中が非常時となり一気に何かが動くときに、DVで家を出ているというような特殊な事情を持った人たちは、置き去りにされていってしまう可能性があると感じたのです。
10万円の給付金が配られましたが、それが世帯主に配られるということでしたから、一番欲しい被害者(母子)が受け取れないのではないかと考えました。また外出自粛などを受け、相談に来ていた人はこれなくなる。加えて女性の雇用もかなり厳しくなり、家を出ようとしていた人も出られなくなる。そうした懸念から、国に要望書を提出しました。

浜田:普段、行政から見えない、もしくは、見えづらい課題を抱える方たちは、何かがあったときに一番先に救わなければならない方たちだ思いますが、救えていないということでしょうか。

北仲:そうですね。外国人の方もそうだと思います。情報も届きにくく、そのような方たちにはオーダーメイド的な配慮をしなければいけないのですが、できていないと感じています。さらには、支援したいと考えても、資金面と人材の確保が大きなハードルとなっています。

休眠預金を活用して学びの場を。慢性的な課題を今、乗り越える

浜田:休眠預金活用事業ですすめておられる活動の一つに専門の相談支援員の育成がありますが、どのような育成研修となっていますか?

北仲:日本では、こうした相談支援が専門的な仕事だと思われていません。外国ではソーシャルワーカーやDVアドボケット(被害者の声を代弁して支援する人)と呼ばれているのですが、日本の相談員はただ悩みを聞くだけの誰でもできる仕事だと考えられているのです。しかし実際の被害者支援は、心理系の知識はもとより、行政の制度、法的な知識など様々なことを知っていないとできません。相談員は「誰でもできる仕事」ではなく、専門的な知識が必要な職業なのです。
近年、DVの相談窓口があることが大事だと、各県に「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」が設置されました。このような窓口をもっと増やしていくという時に、誰でもいいからと相談員を集めると、とんでもないことになります。知識のない人に相談した人は、本当に気の毒です。

官民ともにそろそろ世代交代というのもあるので、若い世代で相談員になりたい、支援をしたいと思っている人たちがちゃんと知識を習得して、OJTでトレーニングを受けられる育成の場をつくる必要があると考えています。とはいえ、国に要望しているだけでは実現は遠い。何を学ぶ必要があり、どんな知識が必要か、どんな人が相談員になるべきなのかを一番知っているのは、私たち民間の支援者です。世界の支援者ともつながっているので、世界的な基準の情報を得ることができます。だからこそ、私たちがまず「これが専門職」と定義し、人材を育てられるテキストやカリキュラムをつくることが急務だと思っています。

休眠預金を活用して3年間の事業を実施しています。1年目は、どんなカリキュラムにするかをとことん検討したり、海外の情報を収集したりしました。2年目となる今年は、最終的なカリキュラムを詰めています。コロナ禍でオンライン化が急速に進み、e-ラーニングについても学び、全国の希望者が自分のペースで学べるようなオンライン学習システムづくりにも取り組んでいます。今年の冬には試験的な運用を始め、来年には受講者を募集する予定です。その後は、新たに立ち上げた一般社団法人で資格認定を行う仕組みを計画しています。

DV被害・性暴力に関する認定資格で、専門家を育成。より手厚い支援を目指す

浜田:e-ラーニングを受けて認定資格を得た人が、どんな形で活動することを思い描いていますか?
例えば、専業でなければいけないのか、副業として自分ができる範囲でも活動できるのか。学んだ方がたくさん育ってきたときの将来像をお聞かせください。

北仲:民間もそうですし公的にもDVや性暴力の相談施設を増やそうとしているので、相談員を育て増やしたい。だからこそ、相談員をやりたいと考えている方々にまず学習してもらい、同じレベルで支援活動に取り組める人たちを育て、最終的にはきちんとした職業として確立したいというのが一つの想いです。
もう一つは、講座にいくつかのコースや段階を設定していくことを計画しています。役所の方、裁判所の職員、警察関係者など、すでにDVや性暴力の被害者と向き合う仕事をしている方もいますし、これから新たに関わる人もいます。また、NPOやボランティアで関わりたい人もいます。入門コースからより専門的トレーニングを受けられるコースなど、受講内容を検討しています。そうして「私も専門家だ!」と自信を持って言える人材を育てたいですね。

浜田:役所の方や警察関係者が受講できるというのはすごく大事ですね。先ほどのお話のように、被害者が二次的に傷ついたり、また傷つくのが嫌だから相談に行かないという方もいらっしゃるので、最初の段階できちんとした対応ができれば、相談しやすくなりますよね。加えて、ボランティア活動などで関わりたいけれども何ができるのか、どう関わればよいかわからない方もいらっしゃると思います。そのような方のためのコースもあるとのことで、視野が広がりやすく、支援者を増やすことにも繋がりそうですね。

北仲:そうですね。実はDVだけではなくて、性暴力の相談を受けられる人が少ない。私は、セクハラに関する仕事に長く携わっていますが、セクハラへの正しい対応を判断できる仕組みを持っている組織も本当に少ない。二次被害、三次被害の嵐なんです。被害者が相談窓口を訪れたり、会社に訴えたり、行動を起こした後で「何でそんな対応をしたの?」というような事例が多く、結局、窓口ができても本当の支援まで辿り着けません。
今回の取り組みを通じて、各組織や役所や警察の対応の仕方など、社会全体をもう少しグレードアップすることにつながればと考えています。

浜田:そういう意味で相談員、そして支援員の育成・養成事業というのはすごく意味があり、価値がありますね。休眠預金を活用してみていかがですか?

北仲:自治体がNPOや民間シェルターに対して多少は支援してくださるんですが、事務所・シェルターの家賃補助などを対象に年間で数十万円ほど。基盤となる人件費や光熱費などは支援の対象外です。
「民間にまったく支援がいかないのは問題」ということで、内閣府がパイロット事業をやってくださっていますが、それは通常の事業に加えて新しく先進的な試みをしたところに対しての助成となっています。普通の活動が回せるような強い団体でなければ、助成対象になりにくい点が難しいところです。

実行団体として2019年度にまちぽっとの事業に採択いただき研修制度の立ち上げに取り組んでいますが、2020年度には新型コロナウイルス対応緊急支援助成の2019年度採択団体向けの追加助成も活用させていただきました。全国の関係者にこの8、9月、どんな支援活動をどのくらいの時間したのか活動報告をしてもらい、各自が働いた分の人件費を、緊急支援助成を活用して支払いました。現場の人からは「(この活動で)初めて給料をもらった」という声も多く届きました。

また、活動報告からは、何月何日に被害者Aさんの病院や裁判所に付き添った、今後への作戦会議をした、シェルターに入ってくる人の荷物運びを手伝ったなど、支援活動の実態がよく見えました。これまでは、なかなか支援活動の全容をつかむことができていなかったので、私たち民間シェルターの支援活動、イコール、被害者支援とはこういう活動なのだ、ということを描き、多くの方に伝えていくことにも活用させていただこうと思っています。そういう意味でも今回の助成はとてもありがたかったです。

浜田:助成をきっかけに活動が見える化したわけですね。今後の活動の発展が期待されます。今日はお話を伺い、本当に勉強になりました。ありがとうございました。

北仲:ありがとうございました。


■北仲千里さん プロフィール■

NPO法人 全国女性シェルターネット共同代表を務める傍ら、広島大学ハラスメント相談室准教授としても活躍中。1967 年和歌山県新宮市に生まれ、ジェンダー論を中心に社会学を専門に研究。名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程修了後、1997 年頃より「キャンパス・ セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク」設立にかかわる。以後、DVや性暴力などに関する被害者支援にも積極的に携わる。


■浜田敬子さん プロフィール■

フリージャーナリスト。1989年に朝日新聞社に入社。「週刊朝日」「AERA」編集部を経て、2014年に「AERA」初の女性編集長に就任。2017年同社退社後はオンライン経済メディア「Business Insider Japan」日本版統括編集長を2020年12月まで務める。各種メディアにコメンテーターとして出演する傍ら、講演活動や執筆も行う。1996年山口県生まれ、上智大学法学部国際関係法学科卒業。

■事業基礎情報

実行団体
特定非営利活動法人 全国女性シェルターネット
事業名「女性に対する暴力」専門相談支援者育成事業
活動対象地域全国
資金分配団体特定非営利活動法人 まちぽっと
採択助成事業市民社会強化活動支援事業
〈2019年度通常枠・草の根活動支援事業・全国ブロック〉

認定特定非営利活動法人 ミューズの夢(以下、ミューズの夢)は、ハンディの有無にかかわらず子どもたちに質の高い音楽とアートに触れる機会と、自由に表現できる環境をつくることを目指して活動してきました。コロナ禍で活動が制限され、子どもたちにも不安が広がるなか、「離れていても芸術に触れることができ、一緒に参加できる楽しいプロジェクトを」と、2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成〈資金分配団体:公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(以下、セーブ・ザ・チルドレン)〉を活用した取り組みを進めています。芸術監督を務める仁科彩さんに伺いました。

不安な時期だからこそ、芸術に触れる機会を

20年前、宮城県仙台市で設立されたミューズの夢は、2つの事業を柱に活動に取り組んでいます。ひとつは、それぞれの子どもの発達とニーズに寄り添った音楽やアートのサポート教室の運営。もうひとつは、県内のこども病院や特別支援学校などを訪れて音楽療法士による授業を行ったり、音楽に触れる機会の少ない子どもたちへプロによるコンサートを届けたりする訪問事業です。
「サポート教室には、さまざまなハンディを抱えた子どもたちが多く通っています。設立当初から通っている生徒さんのなかには、その間に成人された方もいて、皆さんと一緒に成長してきた活動なのです。一人ひとりの個性に寄り添うことと、個性が育まれる環境を誰もが持てるように心がけることを、何よりミューズの夢では大事にしてきました」と話すのは、ミューズの夢の芸術監督を務める仁科彩さん。仁科さんは日本と北米を拠点にする作曲家であり、音楽講師としても活躍されています。

左)お話を伺った仁科さん(zoom)、右)コロナ禍前の訪問事業の様子
左)お話を伺った仁科さん(zoom)、右)コロナ禍前の訪問事業の様子

しかし、全国的なコロナ感染拡大によって、ミューズの夢の活動も大きな影響を受けました。2020年春は4ケ月間にわたりすべての活動を休止。一旦は教室を再開したものの、2021年8月に宮城県に緊急事態宣言が出た際も、再び教室を休止せざるを得ませんでした。これまで病院や事業所、特別支援学校などで年間90回近く行っていた訪問事業も、再開のめどが立たないままです。

「コロナのことを理解できていないお子さんも、テレビのニュースや家族の様子から何か大変なことが起きていることを感じています。そのような中、外に出られなくなり家に閉じこもるなど、震災のトラウマを思わせる行動を見せたお子さんもいたのです」

さらに、訪問事業で訪れていた長期入院中の子どもたちが、コロナ禍で面会や外出が制限されていると聞いた仁科さんたちは、こうしたストレスの強い状況に置かれている子どもたちの様子が気がかりだったと言います。

そこで、「コロナ禍だからこそ遠隔でも参加でき、これまでのように音楽とアートに触れられるプロジェクトが必要なのではないか」という思いから、2020年8月にセーブ・ザ・チルドレンが資金分配団体となって実施した新型コロナウイルス対応緊急支援助成「社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業」に申請。その後、審査を経て採択され2020年末から始めた取り組みのひとつが「Kotori Project(コトリ・プロジェクト)」でした。

子どもたちから届いた、個性溢れるコトリたち

「Kotori Project」には、その名の通りコトリ(小鳥)をモチーフにしたロゴマークが使われています。これはアートプログラム全体を監修する米国在住のデザイナー・田村奈穂さんによるデザイン。テーマカラーを決めるときは、田村さんとミューズの夢の生徒さんたちやこども病院の元患者さんが何度もやりとりをしながら一緒に考えました。

Kotori Project の総合アドバイザーである宮城県立こども病院発達診療科科長の奈良隆寛医師のサポートにより宮城県内の約500世帯に配布された、オリジナル教材キット
Kotori Project の総合アドバイザーである宮城県立こども病院発達診療科科長の奈良隆寛医師のサポートにより宮城県内の約500世帯に配布された、オリジナル教材キット

コトリの線画をプリントした紙を、こども病院や特別支援学校、発達支援事業所など19か所に配布して、「もしあなたがトリだったら、どんなお洋服を着たいですか?」とデザイン作品を募集したところ、252名から約500作品が届きました。

ミューズの夢の生徒さんたち、東日本大震災で大きな被害を受けたエリアにある放課後デイケアに通う子どもたち、入院中の子どもたちなどが参加しています。

「自宅や病院といった離れた場所からでも、子どもたち、ボランティアの若者、そして大人たちが『みんなで一緒に参加している感覚』をもてること。それが、プロジェクトを考えるときに一番意識したポイントでした」

 Kotori Projectのインスタグラム
Kotori Projectのインスタグラム

作者の名前とともに作品をひとつずつ紹介するインスタグラム(SNS)ページには、さまざまな色や素材に彩られた小鳥たちがずらり! 大胆に塗られたカラフルな作品もあれば、布や木の枝を貼ったコラージュのような作品、また、真っ白な羽毛だけを使った現代アートのような作品もあり、その豊かな創造性にハッとさせられます。

「どれも発想が自由ですごいですよね。こんな素晴らしい作品が届くなんて、私たちも予想していませんでした。田村さんも『現代美術館に展示されていてもおかしくない!』と驚いたほどです」

仁科さんは、「この子の才能を評価していただいた事は初めてです」とある生徒さんのお母さんが嬉しそうな様子で話してくれたことも印象に残ったそうです。

「子どもたちは絵を描くことが楽しいだけでなく、お母さんが『すごいね、すごいね』と喜んでくれるので、その様子を見てさらに嬉しくなる。そして、また力作を描いてくれるんです」

インスタグラムのページでは、音楽に携わる世界中の中高生や大学生から募集したオリジナル音楽が流れる動画も紹介していて、東北の子どもたちが描くアートと海外の若者たちが作った音楽とのコラボレーションも生まれています。

絵本のユニバーサルデザインと「心のケア」

このKotori Projectはさらに発展し、現在では子どもたちから集まった作品で絵本をつくる取り組みも進んでいます。

「作品があまりに素晴らしいので展覧会をしたいという話が出たのですが、いまはコロナで難しい。そこで 絵本を作ろうということになったのです」

絵本のストーリーは音楽講師や音楽療法士によるオリジナルで、一羽のコトリのもとに楽しい仲間が集まってくるという内容です。弱視の子どもでも読みやすいようにデザインを工夫したり、発語療育に使われている言葉を文章に取り込んだり、音声でも楽しめるオーディオブックにするなど、「絵本のユニバーサルデザイン」を目指しています。

「どんな子どもも楽しめる絵本にしてほしいというのは、ミューズの夢の保護者の方たちからのリクエストでもありました。絵本が完成したら参加した子どもたちや子ども病院、特別支援学校などに配布予定です。この絵本を通じて、あとでコロナ禍を振り返ったときにつらかった体験だけでなく、楽しかった体験も思い出して自信にしてほしい」

絵本の完成イメージ。絵本の背景画も子どもたちによる作品。
絵本の完成イメージ。絵本の背景画も子どもたちによる作品。

さらに、ミューズの夢では子どもたちの「心のケア」に取り組む活動を開始。

「コロナ禍が子どもの東日本大震災のトラウマを引き起こすケースもあったという話を聞き、自然災害やコロナなどの緊急事態が起きたときに、子ども自身や周りにいる大人が読むことでトラウマケアにつながるような絵本の執筆を、臨床心理士であるUdeni Appuhamilage 先生に依頼したのです」

先ほどの子どもたちの作品を使った絵本は3歳から対象ですが、心のケアのための絵本は小学校中学年以上向け。Udeni先生によって英語で書かれた物語を、さまざまなボランティアさんの手で日本語をはじめ多言語に翻訳し、世界中どこからでもダウンロードできるようにする計画です。

「心のケアの絵本制作にあたっては、資金分配団体であるセーブ・ザ・チルドレンが開催する『子どものための心理的応急処置』というワークショップを受けたことが大きな参考になりました。子どもの権利に取り組んできたセーブ・ザ・チルドレンが伴走してくださることで、事業がより深まったと感じています」

アートセラピーに関連する動画は学生ボランティアが中心となって制作しました。
アートセラピーに関連する動画は学生ボランティアが中心となって制作しました。

事業を通じて感じた「子どもたちへの敬意」

ミューズの夢では、このほかにも助成事業の一環として、コロナ禍で訪問事業ができない代わりに音楽配信を行う「Strings of Love」などの取り組みも行っています。

 仁科さんは、コロナ禍でも変わらない子どもたちの芸術に向かう熱意と誠実さ、そして周りを思いやる気持ちから、私たちが学ぶべきことがたくさんあるのではないかと話します。

「ハンディを抱えた子どもたちはサポートを受ける立場になることが多いのですが、実際にはどんな子どもも自分自身を立て直すだけの力を持っています。音楽やアートに触れて自分の表現を見つけることが、そうした『生きる力』につながります。私たちにできるのは、その機会を共に創り続けること。そして、生み出されたアートや音楽を世の中に発信していくことで、ハンディを抱えた子どもたちの教育や文化的な権利がもっと見直されてほしいと思っています」


■休眠預金活用事業に参画しての感想は?

今回、休眠預金活用事業として助成をいただいていることが信頼になって、県内の他団体とのネットワークづくりもスムーズに進めることができたと感じています。また、子どもの権利に取り組んできたセーブ・ザ・チルドレンには資金分配団体として伴走していただき、的確なアドバイスをいただきながら事業を進めてきました。何より「一緒に子どもたちのいる環境をよくしましょう!」といつも仰ってくださることが嬉しく、セーブ・ザ・チルドレンとミューズの夢の相乗効果で、Kotori Projectを展開することができたのだと思っています。(仁科さん)




■資金分配団体POからのメッセージ

ミューズの夢のみなさんは、「どんな障害や病気があっても、すべての子どもに芸術を楽しむ権利がある」と熱意をもって今回の事業に取り組んでくださっており、かつ大きな成果もあげています。今回は新型コロナウイルス感染症流行下での緊急助成事業でしたが、社会から周縁化されてしまっている子どもたちに芸術面での支援や機会が必要だということを、これから広く日本社会に伝えていくきっかけになる大事な取り組みだと思っています。(公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 鳥塚さん)

取材・執筆:中村未絵

【事業基礎情報】

実行団体
認定特定非営利活動法人 ミューズの夢
事業名
緊急事態下における子ども及び若者による芸術創造活動の支援事業
副題:芸術教育のユニバーサルデザインとトラウマケアに関する取り組み
活動対象地域全国
資金分配団体公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
採択助成事業

『社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業』

〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉

2019年、台風による水害に遭った福島県いわき市。地域を形づくっていたはずのコミュニティは一気に薄まっていました。「コロナ禍の前から、この地域はずっと自粛状態だったんです」と語られるとおり、失われた日常は未だに戻ってきていません。そのような状況で、コミュニティサロンの活動を通じて地域をつなぎ直すハブとなっているのが一般社団法人Teco(てこ)です。資金分配団体である一般社団法人RCFの採択事業として、水害を機にサロン活動を始め、場づくりから地域の新たな可能性を生み出しています。そんなTecoを動かす原動力は、どこにあるのでしょうか。※この記事には2019年の台風19号によっていわき市内で発生した水害の写真が含まれています。”

水害で求められる長期的なサポート

今回ご紹介する一般社団法人Teco(以下「Teco」)は、福島県いわき市で活動を始めました。市内には、原発事故で被災した人々が暮らす復興公営住宅が16箇所あります。

Tecoを設立した3人は、設立以前はNPOに在籍し、復興支援住宅でのコミュニティ支援に携わっていました。新たに一般社団法人を立ち上げた理由を、Tecoの代表理事である小沼満貴(おぬま まき)さんはこのように話します。 「NPOだからできる活動もたくさんあったのですが、私たちはもう少し小さい規模で、何かあったらすぐに動けるチームでありたいなと思ったんです」
▲ Tecoのサロン活動に関わるメンバー。左から2人目が、今回取材に答えてくださった小沼さん

Tecoを設立した3人は、設立以前はNPOに在籍し、復興支援住宅でのコミュニティ支援に携わっていました。新たに一般社団法人を立ち上げた理由を、Tecoの代表理事である小沼満貴(おぬま まき)さんはこのように話します。

「NPOだからできる活動もたくさんあったのですが、私たちはもう少し小さい規模で、何かあったらすぐに動けるチームでありたいなと思ったんです」

そうして2019年5月、一般社団法人Tecoが誕生。しかし立ち上げから5ヶ月経った10月、いわき市を台風19号が襲います。市内を流れる夏井川が氾濫し、約7,000世帯が罹災しました。

このとき、市内でも特に被害状況がひどかったのが「平窪地区」です。住宅の1階部分に川から氾濫した泥水が流れ込み、日常が一瞬して奪われました。

▲ 水害時の平窪地区

事務所を平窪地区に設置していたことがきっかけで、Tecoも平窪地区で活動することを決めます。

「災害直後に求められる浸水した家の片付けや泥のかき出しも、すごく重要な役割です。ただ、私たちは避難を余儀なくされている方々に寄り添うことや、地域で失われてしまったコミュニティを再構築することなどの長期的な支援も欠かせないと感じています。

行政の目が行き届かなくて支援が必要な方が取りこぼされたり、生活がガラッと変わって高齢の方に精神症状が現れたり。これまで復興公営住宅で見てきた事態は、平窪地区でも今後おこりうると考えました」

こうしてTecoは、復興公営住宅での自分たちの経験を活かした支援を始めたのです。

言えなかった「助けて」を言える場をつくる

水害の直後、生活の再建が最優先で求められていた平窪地区は、どのような状況だったのでしょうか。

「家の1階が水没していても、2階で生活する在宅避難の方が多くいらっしゃいます。外に出てみれば、庭も公園もゴミの山。子どもを外で遊ばせられない状況で、2階で家族みんなで暮らすのは相当ストレスが大きいはずです。 それに、車が水没しているので、買い物や病院に行きたくても行く術がない。炊き出しや物資配布がいつどこで実施されているのか、情報が入ってこないまま暮らしている方も多かったですね」
▲ 水害後、公園や道路脇には使えなくなった家財道具が集められた

「家の1階が水没していても、2階で生活する在宅避難の方が多くいらっしゃいます。外に出てみれば、庭も公園もゴミの山。子どもを外で遊ばせられない状況で、2階で家族みんなで暮らすのは相当ストレスが大きいはずです。 それに、車が水没しているので、買い物や病院に行きたくても行く術がない。炊き出しや物資配布がいつどこで実施されているのか、情報が入ってこないまま暮らしている方も多かったですね」

水害前の日常に戻りたくても、戻れない──そんな平窪地区で始まった支援物資配布とサロン活動にTecoも加わり、被災した方への対応を始めました。

「みなさん憔悴しきっていましたから、ほっとする時間を持てたらいいなと思ったんです。そこでまずは、いつでも誰でも、何の用事がなくても立ち寄れる場所を設けました。先が見えなくて不安でいっぱいの毎日で、一瞬でも笑顔になれたりほっとできたりする場が必要なんだな、と強く実感しましたね」

行政だと困りごとの内容によって対応できる部署が分かれているため、何をどこで相談すればいいのかわからない人もいたようです。だからこそ、Tecoでは不安な気持ちの受け皿になるために、「悩みごとがあったらぜんぶ言ってくださいね」と声をかけるようにしていました。

「水害のように地域全体が大変な目に遭ったとき、『弱音を吐いてはいけない』『みんな頑張ってるんだから』と気を張る方が多いように思います。そういうときに『助けて』と言える関係性になるためにも、些細なことを話して、面と向かって心を通わせる。人と人が触れ合う時間が重要なんだな、と気づかされました」

コロナ禍でも、人と人がつながることを守るために

いつ行っても、誰かがいる場所をつくりたい。不定期のサロン活動を経て、Tecoは定期的なサロン活動を模索していきます。その過程で知ったのが、休眠預金活用事業でした。

「一時的にイベントを開催することもひとつの方法ですが、私たちのサロン活動の場合、続けることが重要だと思いました。ですから長期的に活動を持続できる仕組みを求めていたんです」

こうしてTecoは、資金分配団体である一般社団法人RCFに2019年度の休眠預金の活用を申請します。その後審査を経て採択され、2020年2月に「コミュニティ創出と健康支援の継続的な仕組みの構築」事業をスタートしました。

「朝9時から夕方4時まで毎日サロンを開いていました。1日で50人程度、多いと100人近くの方々が寄ってくれるようになって、世代も立ち寄る目的もさまざまです。学校帰りに顔を出してくれる子もいれば、お茶を飲んで帰られる年配の方もいて、毎日にぎやかで。こういう、いつでも誰でも行ける場所って、ありそうでないんですよね」

▲ 2020年2月、はるな愛さんがTecoを訪問

しかし休眠預金で活動を始めた直後、新型コロナの影響がいわき市内にも及びます。人と関わることを重視してきたTecoにとって「人と人が会えなくては、コミュニティ支援なんてできない」と悩んだ時期もありましたが、それでも活動を完全に中止することはありませんでした。

「地域のコミュニティをつくり直そうとしていた時期にTecoが活動を中止したら、地域の方々がますます人とつながることを萎縮してしまう、と思いました。

コロナの影響が出てくる半年以上前の水害のときから、この地域ではみなさんずっと自粛している状態なんです。『とにかく私たちはここにいるから、いつでも来てね』というメッセージを届けたくて、コロナ禍でもコミュニケーションをとる方法を模索してきました」

サロン活動は一時休止しながらも、お便りをつくってポスティングしたり、外のプランターで野菜をつくったり。いっぱいに実った野菜から「ここには誰かが来ているんだな」というメッセージを受け取り、久しぶりに顔を出してくれた方もいたといいます。

▲ 回覧板やポスティングで地域に情報を届ける「てこてこ通信」

感染対策に留意しながら、2020年7月にはサロン活動を再開。8月に久しぶりに開催したイベントは夏祭りでした。その後もハロウィンやクリスマス会、お花見など、精力的に季節のイベントを続けました。

「季節の変化や非日常を一瞬でも味わってもらうことで、次の楽しみまでなんとか心を持たせられるような、拠り所になったらいいなと思いました」

さらに、Tecoに集う利用者どうしの出会いから、サークル活動も生まれました。例えば、サロン活動を始めてすぐに動き出した「ママサークル」。メンバーの得意分野を活かしてレジンアクセサリーを制作したりダンスを発表したりと活動していくうちに、今では地元のマルシェで出店するようになりました。

「いろいろな方とお話していくうちに、この方とこんなことできそう、この方と一緒にこれ楽しめそうだな、と思いつくんです。

控えめなお父さんと話していくうちに、お花の先生の資格を持っているとわかったので、クリスマスのフラワーアレンジメントをつくるイベントで講師をしてもらったことがありました。そうやって普段の会話からつながりを引き出して、サロン活動で広がっていくことはよくありますね」

「何かしてほしい、よりも、何かしてあげたい、と思っている方も多いと思います。実際、野菜のつくり方とか平窪地区の歴史とか、いろいろなことを地域のみなさんから教わっているんです。 だから私たちが『支援している』という感覚もなくて、みなさんに対して『わからないので教えてください』とか『それってすごいですね』と同じ目線でお話しています」
▲ Tecoの場には、地域コミュニティに存在していた助け合いの関係が広がっています。

「何かしてほしい、よりも、何かしてあげたい、と思っている方も多いと思います。実際、野菜のつくり方とか平窪地区の歴史とか、いろいろなことを地域のみなさんから教わっているんです。 だから私たちが『支援している』という感覚もなくて、みなさんに対して『わからないので教えてください』とか『それってすごいですね』と同じ目線でお話しています」

続けることでつながる縁と可能性を信じて

2021年8月に終了した、今回の休眠預金活用事業。コロナ禍を挟みながらも、2020年2月からの1年半で、サロン登録人数は183人に増え、サロン利用者数とイベント参加者数は延べ5,997人にのぼりました。

Tecoはその後も形を変えながら、平窪地域で活動を続けていきます。その関わり方のひとつが、防災とコミュニティを組み合わせたまちづくり。水害があったからこそ、防災意識が高い街を目指しています。

休眠預金活用事業の活動や広報の積み重ねをきっかけにいわき市からTecoに声がかかり、休眠預金活用事業終了後は、いわき市の補助を受けて防災に関わる事業を継続できることになりました。

「Tecoで防災講話のイベントを開催したら、すごく好評だったんです。というのも、以前開催された防災イベントの参加者は、年配の男性がほとんどだったみたいで。でもTecoで開催したら、いつものサロンと同じように、子どもからお年寄りまで来てくださったんです。

こうやって、他の組織が得意なことと、私たちが得意なことを補い合いながら、平窪がどこよりも住みやすい街になるように携わっていきたいなと思います」

Tecoにとって、2年近く活動してきた平窪地区は「住民のみなさんが私たちにも家族のように接してくださるおかげで、『地元』のよう」といいます。

「Tecoの由来は、小さな力で大きなパワーを発揮する『てこ』の原理です。できることはちょっとかもしれないけれど、これからも出会いを大切にしながら、少しずつ縁を広げていきたいです」

■休眠預金活用事業に参画しての感想は?
水害によって目の前に困っている方々がいる状態で、Tecoとして早く活動を始められたのは、今回の助成がとても充実していたからです。長期にわたって活動に集中できたため、この事業だから関われた方や携われたことがたくさんありました。それから、資金分配団体としてRCFさんが伴走くださったことも心強かったです。助成金を出して終わりではなく、必要な人に必要な支援が行き届くための仕組みだと思います。(Teco 小沼さん)

■資金分配団体POからのメッセージ
Tecoさんの活動は「人に寄り添う」ことを徹底的に続けていらっしゃいます。事業を始めてから歩みを止めずに活動されてきたからこそ、数値に表れる成果はもちろんのこと、数値だけでは見えないTecoさんの役割の大きさを感じてきました。私たちとしても、こういう活動が休眠預金活用事業のなかで実現できたのはありがたいことだなと思います。(一般社団法人 RCF)

取材・執筆:菊池百合子

【事業基礎情報】

実行団体
一般社団法人 Teco(福島県いわき市)
事業名
コミュニティ創出と健康支援の継続的な仕組みの構築
活動対象地域福島県いわき市
資金分配団体一般社団法人 RCF
採択助成事業

『大災害後の生活再建推進事業
 ~企業・地域・NPOが連携し地域コミュニティと経済再生を目指す』

〈2019年度通常枠〉

2020年秋、東京都新宿区にオープンした『プライドハウス東京レガシー』は、日本初となる常設の大型総合LGBTQセンターです。「プライドハウス東京」コンソーシアムの事務局であり、本施設の運営を担うのは『特定非営利活動法人 グッド・エイジング・エールズ』。2つの資金分配団体「特定非営利活動法人 エティック(2019年度通常枠)」「READYFOR株式会社(2020年度緊急支援枠)」の実行団体として休眠預金を活用し ています。今回は、グッド・エイジング・エールズ代表の松中権さんに、元アナウンサーでエッセイストの小島慶子さんがLGBTQを取り巻く環境や休眠預金を活用した事業の取り組みなどについてお話を伺った様子をレポートします。

▼インタビューは動画と記事でご覧いただけます▼

「自分らしさ」を体現できる場づくりを。留学体験で抱いた松中さんの思い

小島 慶子さん(以下、小島):はじめに、グッド・エイジング・エールズはどのような活動をされているのでしょうか?

松中 権さん(以下、松中):グッド・エイジング・エールズは2010年に立ち上げた団体です。僕らはNPO団体として、LGBTQ+(※1)の方々が社会生活を送る中で、それぞれのセクシュアリティを超えて交流できる「場づくり」をしています。

※1:LGBTQ+…レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランジェンダー、クエスチョニング(自分の性別や性的指向に疑問を持ったり迷ったりしている人)/ クィア(規範的な性のあり方に違和を感じている人や性的少数者を包摂する言葉)の英語表記の頭文字を並べ、LGBTQだけではない性の多様性を「+」で表現している。以下、本文では「LGBTQ」と表示。

小島:活動のきっかけはどんなことだったのでしょう?

松中:僕自身がLGBTQの当事者で、子どもの頃はずっと自分のことを受け止めづらい心境でした。
日本の大学を卒業してオーストラリアの大学に留学をしたときに、はじめてカミングアウト。「自分らしく暮らすことって、こんなに心地いいんだ!」という体験をしました。そこで抱いた「こんな社会になったらいいな」という思いを胸に日本へ戻り、広告代理店に就職したんです。ところがその後、自分らしさをクローゼットの奥深くにしまうように、ヘテロセクシュアル(異性愛者)のふりをした暮らしが8年間続きました。

それでも「自分が自分である部分」を大切にしたいと考えて、再び海外へ。ニューヨークのイベント会社でゲイであることをカミングアウトして働きました。ちょうどオバマ大統領が就任した頃です。社会自体を変えていこうとする動きに刺激を受けて、自分自身もこれだけ心地よく暮らし、働いていけるのだったら、そういう社会が日本にもできて欲しいと思ったことがきっかけとなって、帰国した後にグッド・エイジング・エールズを設立しました。

グッド・エイジング・エールズの松中さん(右)に、ご自身もさまざまな社会課題に対する支援活動をされている小島慶子さん(左)がインタビュー。
グッド・エイジング・エールズの松中さん(右)に、ご自身もさまざまな社会課題に対する支援活動をされている小島慶子さん(左)がインタビュー。

LGBTQにとっていつでも頼れる居場所、それが『プライドハウス東京レガシー』

小島:オーストラリアやアメリカなど海外では同性婚が可能になっている昨今、LGBTQを取り巻く日本の環境はどうなのでしょうか?

松中:まだまだ厳しい状況だと感じています。例えば、LGBTやLGBTQという言葉に関して、電通ダイバーシティ・ラボ(※2)の調査によると約8割の人が知っているという結果でした。同じく、その調査でLGBTQの当事者に「自分がLGBTQであることをカミングアウトできる社会ですか?」と質問すると、「まだまだそんな社会ではない」という回答が7割強もあり、日本社会では差別や偏見などが根強いことを改めて感じました。

※2:ダイバーシティ&インクルージョン領域の調査や分析、ソリューションの開発を専門とする組織。これまで2012年、2015年、2018年、2020年に「LGBT調査」を実施。

小島:日本でのLGBTQに対する差別や偏見の背景には何があると思われますか?


松中:日本カルチャーには、異質なものを締め出そうとしたり、同質であることを評価する風潮があると思います。人とちょっと違うこと自体が揶揄の対象になってしまう傾向が根底にあり、性的指向や性自認が多くの方々とたまたま違う人を排除しようと考えることが背景にあるのではないでしょうか。

小島:そうした状況の中で、なぜ『プライドハウス東京レガシー』をオープンしようと思ったのですか?


松中:海外には「LGBTコミュニティセンター」という常設の総合センターがありますが、日本にはそのような「何かあったらそこに行けばいい」という、安心・安全な居場所がありませんでした。日本のLGBTQコミュニティはずっとそのような居場所が欲しいと願ってきたのですが、なかなかそういう場所をつくるきっかけやサポートもない状態でした。

そのような中、今回の東京2020オリンピック・パラリンピック大会の開催は、社会を変えていく一つの大きな節目になるんじゃないかと思い、『プライドハウス東京』プロジェクトを立ち上げました。

『プライドハウス東京レガシー』のロゴは東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムを手掛けた、野老朝雄氏によるもの。
『プライドハウス東京レガシー』のロゴは東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムを手掛けた、野老朝雄氏によるもの。

小島:実際に活動をはじめて、さまざまな方が訪れているかと思いますが、実感としてはいかがですか?

松中:来場者だけでなく、スタッフの皆さんも、「こういう場所があって本当によかった」とおっしゃっていただいています。僕たちはグッド・エイジング・エールズとして2010年から活動を続けてきましたが、例えばこれまでのイベントなどではお会いしたことがないような方々がたくさんいらっしゃっています。実はイベントに参加することすらハードルが高いと感じる方もいらっしゃるんだということを、ここをオープンして感じています。ご年配の方から親御さんと一緒にいらした保育園・小学校くらいの方まで、幅広い年齢層が『プライドハウス東京レガシー』を訪れています。当事者の方も、そうではない方も、例えばLGBTQのことを勉強している大学生の方なども卒業論文制作のために、蔵書を見に来たりしています。

新宿御苑駅から徒歩約3分ビルの2階が『プライドハウス東京レガシー』。LGBTQの方だけでなく、誰でも利用可能な施設です。
新宿御苑駅から徒歩約3分ビルの2階が『プライドハウス東京レガシー』。LGBTQの方だけでなく、誰でも利用可能な施設です。

小島:LGBTQに関する蔵書が約1,800冊もあるそうですね。

松中:この施設の立ち上げとともに「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」というプロジェクトをはじめたんです。蔵書は、クラウドファンディングによるご支援を中心にして集めました。大人向けのものからユース向けのコミックやLGBTQをテーマにした絵本なども、世界中の大使館の協力も得て集めています。

窓際にはユース向けのコミックや絵本がズラリ(左)。書籍などの紹介をしながら、これまでのLGBTQカルチャーについて語る松中さん。(右)
窓際にはユース向けのコミックや絵本がズラリ(左)。書籍などの紹介をしながら、これまでのLGBTQカルチャーについて語る松中さん。(右)

大切なのは「自分のなりたい自分」。未来を担う若者や中高齢者をラップアラウンド

小島:LGBTQの方々に対する支援も世代別で課題が異なると思いますが、中高齢者向けの支援ではどんなことに取り組んでいますか?

松中:実施している事業の中では、35歳以上を中高齢者と定義しています。その世代の方の一番の悩みは「仕事」です。仕事は人間関係で成り立つことが多いので、カミングアウトできずに自分を隠して人と距離をとってしまっている中、コロナ禍ではよりその距離がとりづらくなり、仕事を休んだり、辞めることになってしまったりしています。

例えばそうした方々には、この『プライドハウス東京レガシー』を一緒につくることに協力していただいています。LGBTQコミュニティ・アーカイブを整理する作業をそうした方々にお願いしているなどがその例で、これも休眠預金を活用した事業で実施しています

小島:特に性的少数者の高齢者にとっては、法律の後ろ盾もなく、誰とどうやって生きていけばいいのかという悩みもあるのではないでしょうか?

松中:そうなんです。そうした問題を受けて、生活支援の相談もはじめています。例えば、同性のパートナーと一緒に暮らす際にLGBTQフレンドリーな不動産屋を紹介したり、自身の性的マイノリティーについて周囲に語ることができない状況で病気を患い、誰にも相談できずに困っている方を行政と繋いだり、多岐にわたってサポートしたいと思っています。

小島:それは心強いですね。では、若者世代の課題はどんなことが挙げられますか?

松中:若者世代は自分が「LGBTQの当事者かもしれない」と気づくタイミングであり、同時に自分自身を受け止めることが難しい年齢でもあるので、そこをサポートすることも課題のひとつです。

「ラップアラウンド・サポート(ラップアラウンド=包み込む)」と呼んでいますが、通常「支援」というと、支援する側がアドバイスするのですが、私たちのラップアラウンド・サポートは、当事者である若者が真ん中にいて「自分がなりたい自分」を会話から引き出し、その想いに近づける手助けをしています。例えば「親御さんへカミングアウトしたい」「女の子として学校に入学したけれど、ずっと違和感を持っていて男の子の制服を着たい」といった個々の悩みに、それぞれどんな方法がよいか、必要であれば学校の先生方や親御さんなどにも入っていただいて一緒に考えます。当事者である若者自身がどうしたいかという点を中心においてサポートをしています。

小島:それはとても心強いでしょうね。全部自分で決めて、誰に言おうかと悩むのは辛いですものね。

松中:インターネットが発達してLGBTQの情報は多くなってきているとはいえ、正しい情報をきちんと届けていかなければいけないと考えています。若者世代は近しい友達からいじめを受けやすい世代でもあるので、ラップアラウンド・サポートを通じて、当事者もしくは当事者かもしれないという方だけではなく、色々な人に知っていただくことも大切だと思っています。実際、高校生と先生が総合学習の中でここにいらっしゃって、LGBTQのことを学ぶということも行われています。

小島:これまでお話を伺ってきて、「プライドハウス東京」コンソーシアムの活動にかなり手ごたえを感じている印象を受けました。

松中:そうですね、手ごたえを感じています。でも、まだこのような施設は東京にしかないので、ゆくゆくは日本全国に届けていきたいと考えています。現在はコロナ禍なのでオンラインでの企画なども検討しています。

インタビューの様子。
インタビューの様子。

休眠預金を活用してLGBTQの「若者」と「中高齢者」向けに2つの助成事業を実施中。

小島:『プライドハウス東京レガシー』のオープンにあたって休眠預金を活用されていますが、このような制度があって本当に良かったですね。

松中:本当に良かったです。この仕組みがあったからこそ、『プライドハウス東京レガシー』ができたと思っています。現在、グッド・エイジング・エールズが事務局となって、2つの休眠預金活用事業を実施させていただいています。

ひとつは2019年度通常枠で、『特定非営利活動法人 エティック』という資金分配団体から3年間の助成を受け、LGBTQユース(子どもや若者)を中心とした支援を行っています。普通の助成は1年間で終わってしまうものが多いのですが、『プライドハウス東京レガシー』は期間限定の取り組みではなく常設の場所にしていきたいので、3年間の助成で『プライドハウス東京レガシー』がどうやったら持続可能になっていくかについて私たちと一緒に考えてもらっています。

実は『プライドハウス東京レガシー』はコンソーシアム型の取り組みで、LGBTQの支援を行う33のNPO団体や専門家と一緒のチームで動いているのですが、エティックの方々にそのチームの中の打ち合わせに入ってもらったり、また組織自体をどのように持続可能にしていくかということを、もともとエティックが持っていらっしゃるノウハウに基づいて支援をいただいたり、資金だけではなく人的なサポートもいただいています。

もうひとつは2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成です。資金分配団体である『READYFOR株式会社』から、LGBTQの中高齢者に向けた支援として1年間の助成を受けています。

コロナ禍で失職して仕事ができず精神的に辛い思いをしている方、さまざまな事情で一時的に仕事をすることが難しい方などを対象に、緊急的に色々な働き方が提供できるようにサポートができており、すごく助かっています。


施設内ではドリンクも提供。ゆったりとくつろいで過ごすことができる空間となっています。新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための対策もきちんと行なっています。
施設内ではドリンクも提供。ゆったりとくつろいで過ごすことができる空間となっています。新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための対策もきちんと行なっています。

東京2020オリンピック・パラリンピックを日本中にメッセージを届ける機会に!

小島:最後に、これから取り組んでいきたいことなどを教えてください。

松中:東京2020オリンピック・パラリンピックの機会をうまく活かしていきたいと考えています。この大会が、一人ひとりが「自分はこれを変えたい」「自分こうなりたい」ということを考えるきっかけになればと。

僕たちの「プライドハウス東京」は、2010年のバンクーバーオリンピック・パラリンピック開催時に誕生した「プラウドハウス」のコンセプトを元にしているので、もともとスポーツとLGBTQがテーマだったんです。ですから大会期間中のタイミングを上手く活かして情報発信していきたいと考えています。日本ではLGBTQをカミングアウトしているアスリートはまだ少ないですが、世界中から応援メッセージが届いており、若者を含めてLGBTQだけではなく日本中の皆さんにメッセージを届けたいと考えています。

(取材日:2021年7月22日)

2021年4月には、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長、橋本聖子さんも来訪。
2021年4月には、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長、橋本聖子さんも来訪。

■松中権さん プロフィール■
NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表。「LGBTと、いろんな人と、いっしょに」をコンセプトに、インクルーシブな場づくりを行うなど、多数のプロジェクトを手掛ける。東京2020組織委員会内での、LGBT勉強会や多様性リーフレット作成監修も担当している。

■小島慶子さん プロフィール■
TBSでアナウンサーとしてテレビ、ラジオで活躍。2010年に退社後は各種メディア出演のほか、執筆・講演活動を精力的に行っている。東京大学大学院情報学客員研究員。呼びかけ人の一人となっている「ひとりじゃないよプロジェクト」では、コロナ禍で打撃を受けている120万世帯を超える母子世帯を応援する活動を精力的に行っている。

■事業基礎情報【1】

実行団体
特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名

日本初の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京」設立プロジェクト

-情報・支援を全国へ届ける仕組みを創り、LGBTQの子ども/若者も安心して

暮らせる未来へ-

活動対象地域東京都、及び全国
資金分配団体特定非営利活動法人エティック
採択助成事業

『子どもの未来のための協働促進助成事業

~不条理の連鎖を癒し、皆が共に生きる地域エコシステムの共創』

〈2019年度通常枠〉

■事業基礎情報【2】

実行団体
特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名

LGBTQ中高齢者の働きがい・生きがい創出

活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業

『新型コロナウィルス対応緊急支援事業

 ~子ども・社会的弱者向け包括支援プログラム』

〈2020年度新型コロナウィルス対応緊急支援助成〉

深刻な社会課題とされる「不登校」「いじめ」「ひきこもり」。その当事者に対する支援は、あらゆる場所で必要とされています。2020年度緊急支援枠・資金分配団体である神奈川子ども未来ファンドの 「子ども・若者支援事業新型コロナ対応助成」で採択された『農園を活用した子ども・若者支援事業』を実施する実行団体「特定非営利活動法人 子どもと生活文化協会(CLCA)」(神奈川県小田原市)は、地域の豊かな自然を生かして、それらの課題に向き合っています。今回は子どもと生活文化協会の元会長であり、現顧問の和田 重宏(わだ しげひろ)さんに、その事業に込めた思いを伺いました。”

体験でしか得られないものを子どもたちに

「子どもたちと大人が対等な立場で様々な活動を展開し、子どもがいかなる環境に置かれてもたくましく生きていく力を身につけてほしい」という考えのもと、1992年に設立された『子どもと生活文化協会(CLCA)』。まだ子どもたちの社会教育の場が少なかった当時、学校教育に週休2日が導入された際に子どもたちの休日の生活の受け皿として発足しました。
和田さんのお父様が戦前に創設された生活寄宿塾「はじめ塾」の一時的共同寄宿生活による教育を受け継ぎ、CLCAは体験型活動を重視しています。

お話を伺ったCLCA顧問の和田 重宏さん

「昭和は専門化された社会で、その分断は様々な問題を引き起こしてきました。わかりやすいのが医療です。医療の進歩とともに、眼科・心臓外科など専門ごとに細分化していきました。核家族化なども分断の一例です。そのような分断はありとあらゆるところで起きていました。では分断を繋ぐものは何なのかと考えたとき、私たちはそれらを繋ぐものは「生活」だろうと考えました。生活はあらゆる分野を含んでいますから。
「昭和は専門化された社会で、その分断は様々な問題を引き起こしてきました。わかりやすいのが医療です。医療の進歩とともに、眼科・心臓外科など専門ごとに細分化していきました。核家族化なども分断の一例です。そのような分断はありとあらゆるところで起きていました。では分断を繋ぐものは何なのかと考えたとき、私たちはそれらを繋ぐものは「生活」だろうと考えました。生活はあらゆる分野を含んでいますから。

もう一つ大切なのは、体験型活動の必要性です。今の子どもたちの生活には動画やゲームなど、バーチャルな世界が多くなっています。つまり子どもたちは体験不足の状態です。また今の教育では「よく考えなさい」と教えるが、「考える」だけでは足りません。考えて、行動を起こす「決断力」が大切なのです。しかし「決断する力」は教えることが難しく、体験の中でしか体得できないと考えています。ですから私たちは、体験でしか得られないものをCLCAで提供したいと考えました。」(和田さん)

今の教育には考えを行動に移す「決断力」を身につける過程が抜け落ちがち。それを補うのが自然を通した生活体験活動なのでは、と和田さんは語ります。

若者と大人の信頼関係を、「体験活動」を通じて再構築

CLCAの活動は、子どもたちとその家族を対象とした「親子体験型食育菜園」や「山の生活体験合宿」、不登校やいわゆる「ひきこもり」の若者の相談窓口やカウンセリングなど多岐にわたります。働く意思のある若者の就業支援をする「サポートステーション」も運営していますが、そのような若者は、ひきこもり状態の若者の数からすると氷山の一角とのこと。現在は、長期にわたって不登校・ひきこもり状態にある若者たちへの支援に多くの時間を割いています。

「ひきこもりや不登校の根っこは一つだと思っています。それは、親や大人、世の中への不信感が非常に強いということです。ですから、まずは「ひきこもる時間も、あなたにとって必要な時間だったよね」など若者たちの存在を肯定し受け止める。そして相談に応じてもらえるように働きかけます。しかし相談だけでは、解決しないことを我々も体験的に知っています。
そこで、コロナ禍でひきこもりなどの社会課題がより深刻化していることをきっかけに、休眠預金を活用して、これまで主に子どもたちとその家族向けに行っていた農園活動と「ひきこもり」の若者たちの支援を結び付けることにしました。これは、これまでもやりたいと思っていてなかなかできていなかったことですが、ようやっと実現できました。

農園の入り口には休眠預金活用事業の事業名の看板も(右側)

これにより面談室のような閉じた空間で話をするだけではなく、彼らが望めばいつでも農園のような場で生活をして、体を動かす実体験を積むことができるようになりました。若者たちは、自然から生きるエネルギーを感じながら、周囲との信頼関係を再構築しています」(和田さん)
これにより面談室のような閉じた空間で話をするだけではなく、彼らが望めばいつでも農園のような場で生活をして、体を動かす実体験を積むことができるようになりました。若者たちは、自然から生きるエネルギーを感じながら、周囲との信頼関係を再構築しています」(和田さん)

対等で分け隔てのない活動を通して、周囲に貢献する喜びを

最近、教育の分野において「インクルーシブ(当事者を含めた)」という言葉を耳にしますが、それはまさにCLCAで重視していること。

「今の福祉行政では、『支援をする側』と『支援を受ける側』とが分かれていますが、私たちの活動では、両者が混在しています。もちろん名札はつけていますが、ぱっと見て誰がひきこもりや不登校の経験者で、誰がボランティアなのかはわかりません。そこに参加している方々はみんな対等です。」(和田さん)

今回の事業も、たくさんのボランティアさんや当事者を抱えた家族がかかわっており、ひきこもりや不登校の若者を社会から隔離してトレーニングするのではなく、社会そのものの中で対等なコミュニケーションが持てるようになることに重点を置いて実施しているとのことです。

農園活動の様子。様々な年代の方が一緒に活動しています。
農園活動の様子。様々な年代の方が一緒に活動しています。

「ひきこもり経験者で農園活動をしている若者に、『君は今、支援を受けている側なの?どう思う?』と聞いたんです。すると彼は『今僕には人の役に立っている実感があるので、ここに来たら自分が支援を受けているという意識はあまりないんです』と語ってくれました。これはとても大事なことだと思います。
このように若者たちが農園での活動を通して、自分の役割を見つけ、周囲から頼られ、やりがいを実感する。2020年11月からこの休眠預金活用事業を始め、休むことなく参加してくれた若者の就労に結びついたり、不登校だった児童が学校に通えるようになったりと、活動の成果も現れ始めています」(和田さん)

専門性の高い相談員の育成など活動の継続に向けての課題は多いとのことですが、それらの課題も経験豊かなボランティアの皆さんの力を借りながら解決の糸口を探し、着実な活動を進めているCLCA。これからも活動を通じて、多くの子どもや若者たちの「小さくも大きな一歩」を応援し続けていきます。

■休眠預金活用事業に参画しての感想は?
今回の活動が休眠預金活用事業だということがきっかけで事業に興味を持って頂き、そこから参加に至ったケースが数件ありました。新たな方々の参加につながったことは、よかった点ですね。また、休眠預金活用事業では、細かい対象者の指定がなく、これにより我々が自由度をもって活動を組み立てることができたことが有難かったです。(和田さん)

■資金分配団体POからのメッセージ
元ひきこもりの青年たちが農園に出てきて、伴走支援をするボランティア・子育て中のお母さん・地域の子どもたちと共に農園体験をする。ただそこから更に就労に繋げるのは本来とても難しいこと。にも関わらずそこまで道筋をつけてくれているCLCAさんの活動は、本当に素晴らしいものです。(特定非営利活動法人 神奈川子ども未来ファンド)

【事業基礎情報】

実行団体
特定非営利活動法人 子どもと生活文化協会(CLCA)
事業名
農園を活用した子ども・若者支援事業
活動対象地域神奈川県
資金分配団体特定非営利活動法人 神奈川子ども未来ファンド
採択助成事業

『子ども・若者支援事業新型コロナ対応助成』

〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉

資金分配団体である『認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ』は、新型コロナウイルス対応緊急支援助成で実施する「子どもの居場所作り応援事業」をともにする5つの実行団体を巡り、日頃の活動状況や課題点などについて話す場を設けました。今回は、実行団体の1つである長野県の『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』の皆さんとオンラインで実施した「これまでの活動の振り返りや、途中経過の報告会」の様子をレポートします。”

原点へと立ち戻ることで意識を改革。 諏訪圏域ならではの草の根的支援活動

「自分がどんなふうに『触媒』として活動できるのかを見つけたい」。JANPIAのビジョンに触れたユニーク自己紹介から会議スタート!
「自分がどんなふうに『触媒』として活動できるのかを見つけたい」。JANPIAのビジョンに触れたユニーク自己紹介から会議スタート!

日本各地にある約5,000か所ものこども食堂の活動支援を行っている 『認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むずびえ』。休眠預金活用事業にて、コロナ禍でも日頃からの繋がりを生かし、創意工夫で活動するこども食堂を包括的に支援するために、各地域のこども食堂ネットワーク団体とともに活動をしています。
また実行団体の一つである『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』は、長野県の諏訪地域のこども食堂、そして子どもたちの居場所づくりを推進し、「子どもの成長を見守る地域づくり」を目指しています。プラットフォームには、子どもたちの居場所などを運営する団体をはじめ、子ども支援をする団体、自治体、地域における民間の福祉活動を推進する社会福祉協議会、地元企業、さらに個人的に取り組んでいる方などが参画。活動する団体や個人との連携体制を作っています。

諏訪圏域での休眠預金を活用した活動が始動してから約半年。今回は『むすびえ』のプログラム・オフィサー(PO)である渋谷雅人さん、三島理恵さんがファシリテーターとなり、『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』の皆さんと、これまでの活動の経緯はもちろん、他圏域での課題点などを例題に、さまざまな視点から「諏訪圏域のこども食堂の現状や未来」について話し合いました。

『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』からは5名のメンバーが参加しました。
事務局で企業や団体支援を担当する木村かほりさん、情報誌などの編集と団体支援を担当している上條美季さん、交流会と団体支援担当の村上朱夏さん、広報誌『月刊ぷらざ』内の「みんなの居場所」を掲載担当の小林佳代さん、そして会計担当の山田由紀乃さん。まずはどのようにしてこの事業をスタートさせたのかを改めて伺いました。

感染対策をしてのお弁当や食材配布の準備。小学生も受付のお手伝いをしてくれました。

「この事業を始めるときに、まず私が絵を描いて説明をしたんです。こうやってみたらきっといいはず!だから、皆さんよろしくお願いしますって(笑)(木村さん)」

そう話してくださったのは、事務局を務める木村さん。メンバー各自が不登校や発達障害を抱える子どもたちのサポートなど、それぞれの活動をする傍ら、子ども食堂の支援活動に取り組んできました。多くの団体と関わりを持つ中で、ときには「何のためにやっているのか?」と自問自答することもあったといいます。それでも前向きに活動を続けてこれた理由がありました。

「コロナ禍で休校を余儀なくされた子どもたちの学びの場が失われたことが、気づきのポイントでした。子ども食堂の運営継続を優先して議論すれば、必然的に子どもたちの声が後回しになってしまう。だからこそ、話すときは必ず『子どもたちのためである』いう原点に立ち戻るように心掛けています(上條さん)」

現在、情報誌などの編集をはじめ、団体支援も担当している上條さん。この活動に参加した当初は食材提供を担当し、現場へ足を運び続けた結果、運営者の方々と互いに意識を高めあう関係性を築くという経験をしました。

そして、交流会と団体支援担当の村上朱夏さんは、活動を通じて主体性が芽生えたそうです。

「上條さんに刺激を受けて、急激に学びに対する意識が生まれてきました。さらに、新たに子ども食堂を始めたいという方との出会いも大きなきっかけに。日頃の活動の様子を写真で伝えてくださったり、SNSの更新をお手伝いしたり。継続的に関係性を築けたことが嬉しかったですね(村上さん)」

こうした意識の変化は、諏訪圏域で子ども食堂を運営する各団体の方々にも波及し、原点に戻ることを念頭に活動してくださっている様子が感じ取れているといい、不足しがちであった子ども食堂同士の情報交換も解消されつつあります。

「とにかくコミュニケーションが増えたことが大きな要因ではないでしょうか。コロナ禍ではあるものの、訪問を続け、食材やハンドジェルなどを届けると自然と会話が生まれて、そこから「こんなことで困っている」と話してくださるようになり、お互いに支援に対する気づきが得られています。そこがスタッフの『やっていてよかった!』にもつながっていると思います(木村さん)」

(写真左)配布するお弁当作りの様子。子どももお手伝いしてくれる時があります。 (写真右)大学生もお弁当や食材をもらいにきます。食べ盛りなので、おかずやご飯の余りを余分にもたせることも。
(写真左)配布するお弁当作りの様子。子どももお手伝いしてくれる時があります。 (写真右)大学生もお弁当や食材をもらいにきます。食べ盛りなので、おかずやご飯の余りを余分にもたせることも。

そう木村さんはいいます。連携する近隣団体との関係性が目覚ましく向上しているのは、地道な取り組みから生まれた成果といっても過言ではありません。「子どもたちのために」という思いを共有し、原点に立ち戻るべく活動の意義を話し合える場所がある。こうした安心感もメンバーの原動力となっているのかもしれません。

互いに頼れる関係性の構築を。 行政や民間企業との連携を目指してチャレンジ

厳しい状況下でありながら自主性を持って実践する活動の様子は、他圏域で活動する団体にも波及し、最近では子ども食堂支援における相談ごとも増えてきたという『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』。今後は、行政はもちろん、SDGsゲームを共に実施するなどして民間企業との連携にも注力したいといいます。

「何をもって認めてもらうかはすごく難しい問題ですが、こういった活動が必要なんだと認めてもらうことが大切です。ただ好きで活動しているのではなく、意義を持って行動していることを知ってもらうことが必要です。金銭による支援、情報共有だけではなく、もっと根っこの部分の話し合いができ、いつでもプラットフォームを頼ってもらえる関係性を構築できるといいですね(上條さん)」

そんな上條さんの意見を受けて話してくださったのは、団体連絡担当として広報を担う小林さん。細かった情報という線が太くなり、張り巡らされることでネットワークが広がり始めているといいます。

『月刊ぷらざ』は長野県諏訪圏域で配布されている地域情報誌。これまで半面だった子ども食堂の情報が一面になるなど需要が高まっています。

「線を面にするには情報がとても重要なんです。私たちプラットフォームが情報を発信して、行政が必要な情報を得る。そして共有する。そういったメリットと私たちの活動がうまくつながるといいなと思います(小林さん)」

それぞれの経験を活かした継続的な活動を通じ、さまざまな団体との関係性を築きつつある今、プラットフォームの役割、そして価値をメンバー全員が自覚できるようになりました。行政や企業に対して、参加を呼び掛ける土台がようやくできてきたことを実感されているそうです。

支援活動の要は「否定をしない」環境づくり。 子どもたちの通訳者となって未来へとつなぐ

「これまでの団体活動は個々の想いや考えによるものが非常に多かったと思います。私自身、不登校の親の会をはじめる際に、『子どもが卒業したから』という理由で解散してしまった団体があることを知り、再び立ち上げるのにものすごくパワーを使ったんです。必要とする人がいつでも利用できる仕組みづくり、そして継続させていくことの必要性を強く感じています(木村さん)」

お弁当を配った後、オンラインでおしゃべりをしながら食事をしている様子。

過去の活動経験から、自分の活動は社会全体から見たときに役立つのだろうかと考えることで視点も変わり、各々の活動状況について意見交換するだけでも社会全体のことを考えるきっかけづくりになるではないかと木村さんは考えました。

「不登校の子どもたちのサポートを通じて、学校との関係性に疑問を持つことが多くあり、それらはさまざまな人との関係性にも当てはまることに気づいたんです。これが正しいと強要すれば反発も起こる。だからこそ、相手の意見を決して否定せず、受け入れる。(木村さん)」

「こうした環境づくりはネットワークをつないでいく上でも非常に大切なことで、年齢や性別を問わず、同じ目標へと向かう仲間づくりができることが大きなポイントなんです(小林さん)」

想いが強いばかりに衝突し、原点回帰するチャンスを逃してしまう方も見受けられる中で、大切なことは、きちんと自分の意見を言える環境と耳を傾ける姿勢。個々を尊重し、決して否定をしない環境づくりこそが、継続的な支援の要となっています。

「ミクロの視点とマクロの視点というのは、すごく大切だなと思うんです。日本社会の現状も知らず、子どもたちにとって何が必要であるかも分からない状態では乖離した活動になってしまいます。私たちは子どもたちと社会をつなぐ通訳者。子どもたちが苦しんでいることを社会へ伝え、同時に世の中の仕組みを子どもたちに伝える役割を担っていきたいと思っています(上條さん)」

自分はどんな人間であるのかといった自己分析の視点も持ちつつ、さまざまな人と触れ合いながら、素直に子ども支援活動と向き合える環境が『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』にはあります。

コロナ前のこども食堂の様子。 (写真左)子どもたちと一緒に巻き寿司づくり。初めて作るというママさんも。 (写真右)家族連れ、ひとり親、学生、地域の大人、大家族のようにみんなで食事をしていました。
コロナ前のこども食堂の様子。 (写真左)子どもたちと一緒に巻き寿司づくり。初めて作るというママさんも。 (写真右)家族連れ、ひとり親、学生、地域の大人、大家族のようにみんなで食事をしていました。

さまざまな会話に耳を傾けながら、自身のご両親も子ども食堂を運営しているという、メンバーの一人である山田由紀乃さんはいいました。

「今日の振り返りでメンバーの考えを改めて確認し、現状を振り返ったことで、諏訪圏域の未来に希望が持てました。このプラットフォームで活動できてとっても幸せです!(山田さん)」

本事業に携わる全員が、イコールパートナーとして同じ社会課題に対して向き合う場をこの半年間で築くことができていること、そして、仲間としての一体感を強く感じた1日でした。


■資金分配団体POからのメッセージ


定期的な面談や今回のお話を伺いながら、『諏訪圏域子ども応援プラットフォーム』の皆さんの活動は、まさに地域の子ども支援を通じた「未来づくりの種まき」なのだなと思っています。地域の力を信じて地域みんなの役割を引き出していく、そして、その役割を社会で発揮していくという受け皿をどのように促していくかといった課題と常に向き合っていますが、諏訪圏域の皆さんの活動は、活動するということを体現されていて、新しい互助会づくりのように思え、草の根活動からのイノベーションの第1章を見ているようで、本当に感動しっぱなしです。
(認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むずびえ / 三島理恵さん)


この半年間の休眠預金活用事業を通じて、「そもそもなぜ活動するのか」という根本に立ち返ることで新たな気づきを得たという皆さん。子どもの権利などを学ぶ場を設けるなど、さまざまな取り組や交流を通じて本当の意味で「活動の意義」に納得し、実行されているのだなと感じています。目の前の人をありのまま受け入れることで、各自の自主性が育まれる場が現実化しており、まさに「波及効果の原点」なのだと改めて実感することができました。

(認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むずびえ / 渋谷雅人さん)

【事業基礎情報】

実行団体

諏訪圏域子ども応援プラットフォーム

事業名コロナ禍でもつながる居場所推進事業いまこそ必要な地域の活動を支える
対象地域

長野県諏訪地域を中心

資金分配団体

認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ

採択助成事業こども食堂への包括的支援事業こども食堂が地域の明日をひらく

2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、不要不急の活動停止を余儀なくされたことで、老若男女問わず、心も身体も疲弊する日々が続く昨今。資金分配団体である「みらいファンド沖縄」では、休眠預金を活用して子どもたちを支援する実行団体からの取り組み報告を通じ、彼らが抱える「困りごと」を明確にし、どのような改善策があるのかを2回にわたる「円卓会議」で検討しました。

地域の「困りごと」を社会課題として捉える 「地域円卓会議」の仕組みとは?

オンラインで開催された第一回の「円卓会議」の様子。
オンラインで開催された第一回の「円卓会議」の様子。

オンラインでの意見交換を取り入れつつ、全2回開催された本会議は、公益財団法人みらいファンド沖縄が過去10年間で開催してきた「地域円卓会議」の94回目、95回目にあたります。みらいファンド沖縄では、こうした会議を地域の「困りごと」を社会課題として共有・共感する場(イシューレイジング※1)として定義し、それぞれが抱える課題、そして社会課題を市民がしっかりと受け止め、議論ができる場所として参加者を募っています。
※1 「イシューレイジング」とは?・・・・・・「イシュー=テーマ」を世の中に認知してもらうことを指す。

特筆すべきは、「円卓会議」と呼ばれるスタイルで開催されている点。論点提供者と着席者と呼ばれる各関係分野の専門家を中心に参加者が円を描くように丸く座り、それを一般参加者であるオーディエンスが取り囲むスタイルで進行します。

今回の会議の第1回(円卓会議の94回目)は、『みらいファンド沖縄』の副理事長・平良斗星氏のあいさつからはじまり、休眠預金活用事業の資金分配団体として資金的支援・伴走支援をしている5つの実行団体の代表者が論点提供者となり、センターメンバーと呼ばれるパネリスト(着席者)3名を迎え、オーディエンスはオンラインにて参加するという形で実施されました。

各支援団体の現場報告から考える、 コロナ禍における子どもたちの放課後の過ごし方の変化

第一回の「地域円卓会議」のテーマは、「コロナ禍において、子どもたちの放課後の過ごし方はどう変化したのか?各現場の報告から考える。」です。

会議は、休眠預金を活用した「新型コロナウイルス対応緊急支援助成事業」の一環として開催され、各実行団体が1年後の事業目標として、それぞれの事業を継続できる体制を整え、社会的に孤立する人々の支援、またその取り組みによって課題の明確化と社会との共有を目指すというもの。それぞれの現場の声をもとに新しいセーフティネットの政策提言の発信を行っていきます。

会議の大きな流れは、論点提供者(6名)から、現在子どもたちと関わる各団体が抱えている課題や疑問に対しての解決策などを、地域の方、またステークホルダに対して論点を話すことからはじまりました。テーマに基づいて論点提供者(前述の各実行団体の発表者)から実際に取り組んでいることと、解決に向けた意見(セッション)が出されると、これらを踏まえて、センターメンバーである各分野の専門家によるコメントを受け、次に幾つかのグループに分かれた一般の方々に討論をしていただくサブセッションを実施。最後は各グループの代表者による意見発表を通じ、再びセンターメンバーたちがテーマを掘り下げていきます。

「地域円卓会議」の振り返りができる手書きの記録。会議を進行しながら作成されています。
「地域円卓会議」の振り返りができる手書きの記録。会議を進行しながら作成されています。

こうした会議内の様子や意見は手書きの記録が残され、パネリストからオーディエンスまで全員で振り返りができる仕組みになっています。テーマや取り組みに対する認識を改めて深められるのも大きな魅力の一つです。

参加した実行団体の方々は、いずれも、沖縄県内で学童や児童館、不登校やひきこもりなど、地域に密着して支援を行っている皆さんです。初回は6団体のうち子ども関連の活動をしている5つの実行団体による現場の活動と成果・課題などが発表され、二回目の会議には5つの実行団体からの報告をもとにそれを深めた議論をして、政策提言につなげるための議論が行われました。

大切なのは子どもの視点で考えること。行政と民間支援の連携で「困りごと」の解消を目指す

沖縄大学の島村先生(左)と本会議の進行を務めるみらいファンド沖縄の平良氏(右)。
沖縄大学の島村先生(左)と本会議の進行を務めるみらいファンド沖縄の平良氏(右)。

各実行団体の取り組み報告を通じて、コロナ禍におけるさまざまな制約によって間接的に子どもたちの時間が奪われたことから、生活リズムの崩れ、DV、ネグレクトといった深刻な問題が浮き彫りになりました。

その反面、音楽を通じた成功体験から自信を取り戻していく姿、ICT化で不登校やひきこもりの子どもたちに新たな道を示せたこと、さらに少人数での預かりを実施した学童保育などではトラブルも軽減し、施設内はもちろん、家庭内でも子どもたちと丁寧に向きあうことができたなど、子ども一人ひとりに最適化したケアの視点が得られたといった結果報告が上がりました。

プロのジャズ演奏者による楽器指導と地域とつなぐ子どもたちの社会教育の一例。
プロのジャズ演奏者による楽器指導と地域とつなぐ子どもたちの社会教育の一例。
活動地域と繋がる子どもの遊び見守り。
活動地域と繋がる子どもの遊び見守り。

こうした現場の意見を踏まえ、沖縄大学の島村先生をはじめとする着席者は、子どもの視点で考えることの重要性、また市民が議論をして行政にあげることも大切だが、市民活動でどこをどのようにフォローしていくのかを検討することも非常に重要であると投げ掛けます。


また一般参加者による発表を受け、各支援団体の方からは、こうした円卓で支援者間のネットワーキングができることで行政と繋がる際の座組を想定できること、加えて、各団体が行政に話をしにいくことを遠慮し過ぎていたことも課題点としてあげ、行政と民間で得意なことを活かした連携ができるような仕組みづくりを目指すべきといった感想もでていました。

子どもの権利保障やケアの重要性を再認識 。「円卓会議」を終えて見えてきた今後の課題

進行を務める平良氏より、二回の会議を総括する最後のまとめとして「緊急時の優先順位で行政はやるべきことが多い。そんな中で、それでも重要な子どもの権利の保障、ケアのための「連携」を「有機的に」していくためには、どのような権限移譲、そして予算設定をすればよいのか?」という問いが立てられました。


着席者からは、「学校と福祉、それぞれが持つ子どもたちの情報を一元化して管理できるような専門セクションを作るべきである」といった意見がだされました。これは、まさに今話題の子ども庁の構想と重なる内容であり、現場で強く求められていることを再認識することができました。

行政に対しては、アウトプット指標だけではなく、アウトカム指標を見て欲しいという評価に関連するニーズがあること、加えて民間の支援者たちとの連携や支援における権限についての意見も多くあがり、継続的な課題として検討を重ねていくことになりそうです。


■資金分配団体POからのメッセージ

子どもの居場所活動は多岐にわたっています。本事業においても、厳しい環境におかれた子どもたちを主とした対象とする、公民館活動の中の学童、児童館、子ども食堂、放課後音楽活動などさまざまです。現場で日々子どもたちに接している実行団体の報告は迫力もあり、子どもたちへの愛が詰まっていて、大変興味深い内容でした。私たちはこうした円卓会議などを通して、相互に学び合いつつ、共通の課題について話し合い、コロナ後の活動に繋げることを目指しています。
(公益財団法人みらいファンド沖縄『コロナ禍で孤立したNPOとその先の支援』事業 / 鶴田厚子氏)

この会議の様子はアーカイブとしてYouTubeで視聴可能です!

【事業基礎情報】

資金分配団体      

公益財団法人みらいファンド沖縄

助成事業
コロナ禍で孤立したNPOとその先の支援~アフターコロナに必要な団体の存続のために
〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉
活動対象地域

沖縄県

実行団体

・特定非営利活動法人1万人井戸端会議
特定非営利活動法人沖縄NGOセンター
NPO法人沖縄県学童・保育支援センター
一般社団法人おきなわジュニア科学クラブ
特定非営利活動法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆい
一般社団法人琉球フィルハーモニック

「コロナ禍であっても地域のつながりを途絶えさせないために、何かできないか」と考え、発案したキッチンカー事業。資金分配団体であるちばのWA地域づくり基金 『地域連携型アフターコロナ事業構築』で採択された「キッチンカーでGO!」事業を実施する「特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず」理事長 北田恵子さんにお話を伺いました。

コロナ禍のしわ寄せが、弱い立場の人たちを直撃

特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず(千葉県柏市)

2004年に協同組合形式で女性6人で立ち上あがった「特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず(千葉県柏市)」は、これまで子育て支援事業や居場所づくり事業など地域からのニーズに合わせて、様々な事業を展開してきました。現在の事務所に移転したのは2008年。古民家風の素敵な一軒家を借りることができたおかげで、居場所づくり事業から助け合い事業に発展し、最近では自治体から生活総合支援事業実施の相談をいただくなど、活動は順調に拡大していました。

しかし2020年に入ってのコロナ禍。2020年3月から6月まで居場所は閉鎖となり、活動は事実上ストップせざるを得ない状況になりました。そして聞こえてきたのは、これまで居場所に来てくれていた人たちが苦しむ声――「高齢の利用者の要介護度が上がってしまった」「外に出られず、鬱状態だ」「常連のお子さんのネグレクトが疑われる」・・・。コロナ禍のしわ寄せが、弱い立場の人たちを直撃していました。

コロナ禍の中でも人のつながりを。「キッチンカーでGO!」が生まれるまで

そのような中、他の団体に教えてもらって休眠預金を活用した「新型コロナウイルス対応支援助成」を知りました。
「コロナ禍によって貧困や孤独が加速している状況の中、それを解消していくためには、やっぱり人だと考えました。助成を活用しながら、人が集まる居場所ではなくても、人とのつながりを保ちながら社会の分断を抑える‘居場所の機能’が展開できないかと考え始めたんです。」(北田さん)

そして人に集まってもらうのではなくて自らが外に飛び出していく「キッチンカー事業」の発想が生まれました。

お話を伺った北田恵子さん

そして人に集まってもらうのではなくて自らが外に飛び出していく「キッチンカー事業」の発想が生まれました。

「移動できるキッチンカーを多目的に活用することで、こども食堂やあおぞらカフェを開催できます。地域の皆さまにご利用いただけるし、キッチンカーによってスタッフにも活躍の場を提供することができます。そして、なによりキッチンカーを購入するってワクワクしませんか?コロナ禍で社会全体が落ち込んでいる中、そのようなみんなでワクワクできることが、大切だと思ったんです。」(北田さん)

その後、「キッチンカーでGO!〜どこでもこども食堂&暮らしのサポート〜」という計画を資金分配団体であるちばのWA地域づくり基金 『地域連携型アフターコロナ事業構築』に申請し、2020年9月に採択されました。

キッチンカーをきっかけに、地域に必要なサポートを届けたい

採択後、諸手続きを経てキッチンカーを購入し11月13日には念願の事業がスタート。当面は2か所に拠点を絞って「あおぞらカフェ」や「子ども食堂」を実施しています。柏市の子供福祉課とも連携し、地域のひとり親世帯に実施日をメールで連絡してもらうことで、参加者にも広がりが出ています。

また地域包括との連携で、介護度の高い方や単身高齢者世帯にランチの無料配達も実施中です。最近では、「子ども食堂を支援したい」と近所の農家さんなどから野菜の寄付も受けています。キッチンカーが街を走ることで取り組みの認知度向上にもつながっているとのことです。 しかし北田さんたちの思いは、キッチンカーでの食事提供にとどまりません。
キッチンカーの様子

また地域包括との連携で、介護度の高い方や単身高齢者世帯にランチの無料配達も実施中です。最近では、「子ども食堂を支援したい」と近所の農家さんなどから野菜の寄付も受けています。キッチンカーが街を走ることで取り組みの認知度向上にもつながっているとのことです。 しかし北田さんたちの思いは、キッチンカーでの食事提供にとどまりません。

「キッチンカーで華やかに見えるのは、食事作りや食事の提供です。もちろんそれは大切なことですが、私たちが本当にやりたいことは、キッチンカーをきっかけにして地域のお困りごとを聞き、地域に必要なサポートをお届けしていく仕組みづくりです。そのために利用者にアンケートにもご協力いただいています。 小さな活動ではありますが、キッチンカーを核とした活動を継続していくことで地域に連携を生み、地域のみんなが輝く場・みんなが集まることで他の人も輝ける場をお互いに作りあっていけるのではないかと考えています。そして孤立・孤独によって生まれる地域課題に素早く気づき、解決につなげられるようにしていきたいです。」(北田さん)
お一人お一人に温かいお弁当を手渡し

「キッチンカーで華やかに見えるのは、食事作りや食事の提供です。もちろんそれは大切なことですが、私たちが本当にやりたいことは、キッチンカーをきっかけにして地域のお困りごとを聞き、地域に必要なサポートをお届けしていく仕組みづくりです。そのために利用者にアンケートにもご協力いただいています。 小さな活動ではありますが、キッチンカーを核とした活動を継続していくことで地域に連携を生み、地域のみんなが輝く場・みんなが集まることで他の人も輝ける場をお互いに作りあっていけるのではないかと考えています。そして孤立・孤独によって生まれる地域課題に素早く気づき、解決につなげられるようにしていきたいです。」(北田さん)

スタッフの皆さん


■休眠預金活用事業に参画しての感想は?

これまで色々な助成を活用して活動してきましたが、休眠預金活用事業のように団体の運営費(家賃や人件費など)まで経費が下りる助成は初めてで、大変ありがたかったです。(北田さん)




■資金分配団体POからのメッセージ

休眠預金等活用事業ならではの大規模な助成を活用してキッチンカーを投入したことでインパクトのある活動が実践できています。ういずさんが拠点を2か所に絞って、じっくりと地域の方と向き合い、関係を築き継続・定着できてきており、担い手のみなさんも生き生きと活動しており、本事業がもたらす効果を実感しています。(公益財団法人 ちばのWA地域づくり基金)

【事業基礎情報】

実行団体
特定非営利活動法人ワーカーズコレクティブういず(千葉県柏市)
事業名
キッチンカーでGO!〜どこでもこども食堂&暮らしのサポート〜
活動対象地域千葉県柏市
資金分配団体公益財団法人 ちばのWA地域づくり基金
採択助成事業

『地域連携型アフターコロナ事業構築』(対象地域:千葉県)

〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉