企業連携事例を経団連「1%クラブ会員企業」にご紹介!さらなる連携促進を目指して

JANPIAは、「経団連1%クラブ」と連携し、企業と休眠預金活用事業を実施する団体とを繋ぐ機会を創出しています。さらなる連携促進を目指し、「経団連1%クラブ」の会合に、連携事業を既に進めている資金分配団体・実行団体とともに参加し、休眠預金活用事業の現況と企業との連携事例の報告や、意見交換を行いましたので、その様子をご紹介いたします。

JANPIAは、一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)により設立された背景から、「経団連1%クラブ」と連携し、様々な活動を行っています。2021年3月26日に開催された「経団連1%クラブ」の会合では、実際に企業連携を実現している資金分配団体・実行団体とJANPIAの以下のメンバーが参加し報告を行いました。

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▼参加メンバー

 【2019年度通常枠「外国ルーツ青少年未来創造事業」報告者】
  資金分配団体:公益財団法人日本国際交流センター(JCIE) 執行理事 毛受 敏浩さん
  実行団体:NPO法人青少年自立援助センター 定住外国人支援事業部責任者 田中 宝紀さん

 【2019年度通常枠「こども食堂サポート機能設置事業」報告者】
  資金分配団体:一般社団法人全国食支援活動協力会 専務理事 平野 覚治さん
  実行団体:社会福祉法人那覇市社会福祉協議会 居場所支援コーディネーター 浦崎 直己さん

 【「休眠預金活用事業の現況」報告者】
  一般財団法人日本民間公益活動連携機構 事務局長 鈴木均

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会合は経団連会館で対面とオンラインのハイブリッド型で開催
会合は経団連会館で対面とオンラインのハイブリッド型で開催

休眠預金活用事業の概況と課題、企業との連携ニーズ

まずはじめにJANPIA事務局長の鈴木から、「休眠預金活用事業の概況」と「企業との連携事例」について報告。企業の専門性を生かした支援など連携強化をお願いしました。

休眠預金活用事業の現状

 現在、休眠預金活用事業では、2019、20年度<通常枠>と2020年度<新型コロナウイルス対応緊急支援助成(緊急支援枠)>が並行して進行しています。資金分配団体は延べ112団体、助成事業も80になります。その助成事業で採択された社会課題解決を進める実行団体数は500の規模に達しています。

 このように休眠預金活用事業の規模が拡大する中、行政や企業、NPOなど複数のセクターが個別にではなく、互いに強みやノウハウを持ち寄り、社会課題を解決しようとするコレクティブ・インパクト事業が増えています。2020年度通常枠では、採択した20事業のうち8事業がコレクティブ・インパクト関連事業です。
 現在、多くの団体から特に、企業が持つリソース(資金、人材、製品・サービス、知財など)を活かした連携に期待の声が寄せられています。

非営利セクターと企業による連携が多様な価値を創出

非営利セクターと連携し、社会課題解決事業に企業が参画することは、企業にとっては以下のような多様な価値の創出にもつながります。

1.多様な組織が混じ合うことで社会課題の解決に有効な革新的事業の創出や関係者が協働するという  
 日本らしいSDGs貢献モデルの創出。
2.プロボノ・ボランティアの活動を通じて社員の社会課題への感度を高め、社会課題解決型事業モデ
 ルの創出に向けたヒントを得ることが出来る
3. ESG(環境・社会・ガバナンス)評価やインパクト投資等につながる可能性。


「休眠預金等活用制度」は、もともと国民の財産を活用しているため、制度に参画する団体には、ガバナンス・コンプライアンス面においても高い信頼性を求めています。他にも「休眠預金等交付金に関わる資金の活用に関する基本方針」に基づき、自己評価を基本とした社会的インパクト評価も実践してもらっています。
そのため、企業が「休眠預金活用事業」を利用して、様々なセクターと連携して社会課題解決型の新事業を始めるにあたり、安心して連携していただくことができ、また実効性・革新性の実証の機会も得ることにもつながります。

JANPIA事務局長 鈴木から休眠預金活用事業の概況等を説明
JANPIA事務局長 鈴木から休眠預金活用事業の概況等を説明

企業等との連携事例のご紹介

事例1 JCIE×住友商事「外国ルーツ青少年未来創造事業」における連携

資金分配団体であるJCIEと住友商事(株)の連携は、2020年9月よりスタートしました。
住友商事の社員の海外におけるビジネスや生活経験などを生かし、日本で暮らす外国にルーツを持つ青少年とその支援をするJCIEが選定した7つの実行団体に対し、本格的なプロボノを中心とした支援を行っています。
連携内容は、「外国ルーツ青少年らを支援する団体の組織・事業運営基盤の強化支援」や、団体が運営する日本語・教科学習教室での生徒への「学習支援のサポート」です。

JCIE毛受さん、青少年自立援助センター 田中さん
JCIE毛受さん、青少年自立援助センター 田中さん

■資金分配団体 JCIE 毛受さん

「企業人にとっては、外国ルーツ青少年の現場を知ることで多様性を理解し、外国人との共生を進めるという未来の日本社会を知るヒントを得ることになります。」

■実行団体 青少年自立援助センター 田中さん

「外国ルーツの青少年が増加している中、企業の方へは学習支援や就労支援、資金調達、運営基盤強化支援など、幅広いご支援を期待しています。」

■住友商事ご担当者

 「参加した社員の満足度が非常に高く、継続して支援したいとの声が多くなっています。支援先
 団体の社会課題解決に対する熱意に触れて、社員の仕事に対する意識にも変化が現れつつありま
 す。」

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事例2 全国食支援活動協力会×吉野家HD「こども食堂サポート機能設置事業」における連携

資金分配団体である「一般社団法人全国食支援活動協力会」の「こども食堂サポート機能設置事業」と「(株)吉野家ホールディングス」(以下、吉野家HD)が連携し、2020年9月よりスタートした事業です。
連携内容は、「こども食堂サポート機能設置事業」にて選定した「沖縄のこども食堂サポートセンター那覇」(事務局:那覇市社会福祉協議会)と吉野家HDが、子どもと地域をつなぐ居場所として開放されている「子どもの居場所」へ牛丼弁当を無償提供する支援活動です。
現在、吉野家HDとの連携は、この事業で採択された他の3つの実行団体をはじめ、「休眠預金活用事業」の対象となった多くの子ども食堂等への支援に拡大しつつあります。

全国食支援活動協力会 平野さん、那覇市社会福祉協議会 浦崎さん
全国食支援活動協力会 平野さん、那覇市社会福祉協議会 浦崎さん
吉野家さんから牛丼提供の様子や、子どもたちからのメッセージを紹介
吉野家さんから牛丼提供の様子や、子どもたちからのメッセージを紹介

■資金分配団体 全国食支援活動協力会 平野さん

「子ども食堂への食支援には関連するインフラの構築や食材の安定供給などが必要で、リソースや知見を持つ企業との連携は必須です。「こども食堂サポート機能設置事業」の成功に向け、JANPIAの仲介で吉野家HDさんとの繋がりができたことはたいへんありがたいことです。その他にも企業連携が進みつつある中、さらなる連携拡充に向けて活動していきたい。」

■実行団体 那覇市社会福祉協議会 浦崎さん

「活動を開始して7カ月間で延べ23居場所、810食の牛丼を提供できており、多くの子どもたちからお礼の声が届いています。また、吉野家さんからは、子どもたちが牛丼を食べる場面に立ち会えることで、社員の仕事に対するモチベーションが上がり、意識啓発の効果があるとの声をいただいています。沖縄のモデルをベースにして、吉野家さんはこの取り組みを福岡や大阪など全国へ広げています。」

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今後の連携促進に向けて

報告の後の意見交換では、「事例紹介いただいた団体と企業がマッチングした経緯は?」などのご質問に対し、JANPIA鈴木から、経団連1%クラブでのつながりを機会に活動に発展したことなどをご説明しました。
また、他企業からも、今後の連携予定についての参考情報もありました。

最後に、今後の連携への期待について経団連事務局とJANPIAから挨拶し、今回のイベントは終了しました。

■JANPIA鈴木

「休眠預金事業での評価の取り組みを紹介することで、社会的インパクト評価を事業の中に取り入れることや、コレクティブ・インパクトの流れで、NPO、助成財団と企業が連携し同じゴールを目指して社会的インパクト評価を行うことなども可能性としてあります。企業の中ではESG評価やインパクト投資などは重要なテーマだと思うので、ぜひ学びあいの機会をいただきたいと思います。」

■経団連事務局

「企業では社会的インパクト評価の関心が高くなっていると思うので、例えば企業に対して休眠預金活用事業での評価の取り組み報告や研修等を行うことも考えられます。
コロナ禍で、もともとあった社会課題が顕在化している中、今回ご紹介いただいた事例の他にも多くの活動が行われています。そういった活動に企業が協働することで社会課題解決の実効性が高まり、共通価値の創造や自社の商品・サービスの開発創出、社員の意識啓発等いろんな効果が出てくると思います。今後も、いろんな人たちと連携しながら対話の場を設けていきたいと考えます。」

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【本記事に関する問い合わせ先】JANPIA 企画広報部 info@janpia.or.jp

2021年3月13日(土)、東京都江戸川区立船堀小学校の6年生を対象に「出前授業」を実施しました。出前授業とは、社会人講師が小中学校へ出向き、それぞれが得意とする分野などについて特別授業を行うこと。今回は私たちJANPIAがワークショップを織り交ぜながら、「休眠預金活用」についての授業を行いました。

中庭から見た出前授業の様子。みんな集中しています。
中庭から見た出前授業の様子。みんな集中しています。

身近なところから考えよう。誰ひとり取り残さない、持続可能な社会づくり

講師の熊谷香菜子先生。
講師の熊谷香菜子先生。

広々と明るい印象の校舎に、元気な声が響きわたります。中庭の見える開放的な教室にちょっぴり緊張した表情の6年生が集まりました。始業の鐘とともに挨拶を終えると、講師の熊谷先生が話はじめました。

「JANPIAは、“誰ひとり取り残さない、持続可能な社会づくり”を目指す団体です。それは、困った人を放っておかないこと、そして、その状態がずっと続く社会の仕組みがあることを指しています。では、どうやったらそれを実現できるのでしょうか?」

社会の授業では東日本大震災の復興について学んだという船堀小学校の子どもたち。被災から約10年を経た今、その状況を例に取り上げ、モニターに映る資料を見ながら先生が分かりやすく説明していきます。

「震災で被災した人たちは突然の出来事に困っていました。そこで復興に向けて、国が法律をつくり、予算を決め、県や市町村といった行政が仮設住宅の建設や日々の暮らしを支援しています。その費用は、皆さんから集めた税金です。こうして困っている人たちを助けることにも役立てられているんですね」

「震災で被災した人たちは突然の出来事に困っていました。そこで復興に向けて、国が法律をつくり、予算を決め、県や市町村といった行政が仮設住宅の建設や日々の暮らしを支援しています。その費用は、皆さんから集めた税金です。こうして困っている人たちを助けることにも役立てられているんですね」

「あれ?でも、仮設住宅に住むこの人は、住む場所があるのに困った顔ですね。ほかにも困っている人がいるようです」

被災した人ばかりではなく、今、私たちが暮らしている社会を見回してみると、実はいろいろなところで困っている人がたくさんいます。今日は「困っている4人」を例に、どうしたら現状の問題を解決できるのかをみんなで一緒に考えていきます。

困っていることを見つけて、たくさんの「友達」を助けよう!

年齢はもちろん、異なった環境で困っている4人の人たちを例にワークに取り組みます。
年齢はもちろん、異なった環境で困っている4人の人たちを例にワークに取り組みます。

熊谷先生からお話のあった「困っている4人」が、どのようなことに悩み、自分たちはどんなことをしてあげられるのかを、ワークを通して学びます。

困りごとを抱えている例の4人は、被災者で高齢のAさん、介護事業所を経営するBさん、刑務所を出所したCさん、ひきこもりのDさん。それぞれの状況、困りごとが書かれた資料を見ながら、まずは5名ほどの班に分かれて「どんなことに困っているか」を話し合ってもらいました。

子どもたちにアドバイスしながら、JANPIAスタッフも一緒に考えました。
子どもたちにアドバイスしながら、JANPIAスタッフも一緒に考えました。

「皆さんは、この4人のことを『友達』だと思ってください。え?大人の友達?しかも犯罪者?!と思うかもしれませんが、親戚の人、近所の人、習い事の先生など、皆さんの周りにも大人の知り合いがたくさんいますよね。その人たちの困っていることを解決してあげようという気持ちで考えてみてください」

文章を読みながら、どんなことに困っているかを懸命に考える様子が印象的でした。
文章を読みながら、どんなことに困っているかを懸命に考える様子が印象的でした。

先生と一緒に4人がどんな困りごとを抱えているのか確認をしたら、Aさん、Bさん、Cさん、Dさんを各班に振り分け、A3用紙にプリントされた文章を読みながら、それぞれが困っていると思われる部分を丸で囲みます。真剣なまなざしで話を聞き入っていた子どもたち。開始の合図とともに、一斉に話し合いをはじめました。

「お助けカード」で探してみよう。身近にある困りごと解決のヒント

困りごとを丸で囲んだことで、具体的にどんなことに困っているのかを理解し、さらに「こんなことにも困っているかも!」といった新たな問題にも気づくことができました。次のワークでは、困りごとの解決方法を考えていきます。

今回使用した「お助けカード」。このカードは、実際に休眠預金を活用して行われている活動をもとに作られています。

ここで登場するのが11枚の「お助けカード」です。はがきよりやや小さなサイズの紙には、福祉に関わる取り組み・職業が書かれています。使い方は簡単。例えば、被災したAさんを助けるために1番のお助けカードの人にこんな困りごとを解決してもらおう!といった具合です。苦しい思いをしている人が少しでも楽になると思ったアイデア、小学生の自分では難しいけれど、あの人に相談したら解決しそう!など、思いつく限りの意見を各班で交換し、解決への糸口を模索します。

「この人たちにはきっと音楽プログラムを使った方がいいと思うな!」
「リハビリが必要で働けない人にはタブレットで内職ができるようにしてみよう」
「募金をするのもいいのかな?」

わずか15分ほどの話し合いながら、教室は熱気に溢れていました。笑顔で意見を交わす子、何度も文章を読み返す子、小学生ながらしっかりとした意見を述べる様子は大人も顔負けです。

相手を思いやる豊かな想像力が、大きな支援に繋がります

話し合いを終えたところで、各班みんなで見つけた「困りごと」と「解決方法」について発表をしてもらいました。ここでは、その一部をご紹介します。

▼被災者で仮設住宅に一人で暮らすAさん
・LINE通話やZOOMで子どもや孫と会話ができるようにお助けカード(タブレット教室)を使います。
・いつでも誰かと話せる「居場所カフェ」を開いてみたい。

▼リハビリ施設を運営する介護事業者のBさん
・コロナウイルス感染症を気にして通所しなくなってしまったお年寄りには、タブレットやDVDを使って動画でリハビリの方法を教えてあげる!
・クラウドファンディングをはじめて内職するのはどうだろう?

▼刑務所を出たばかりのCさん
・就職先が無くて困っているので、お助けカード4番(罪を犯した人の立ち直り支援)の人に相談して紹介してもらいます。
・友達がいなくて辛いという悩みは、心理カウンセラーさんに話すのもよいかな。

▼仕事がつらくてひきこもりになってしまったDさん
・10番のカード(就職支援)を使って、お試しで挑戦できる仕事を紹介してもらってみては?
・「孤独の会」を作って、同じ境遇の人が集まって気持ちを分かち合うとよいと思う。
「もし友達が困っていたら?」そんな視点で考えることで、親近感が沸き、より具体的なイメージができたようです。誰かを思いやり、共感する力が困っている人たちを支える発想へと結びつきます。

困ったら「助けて」といえる社会へ。休眠預金で困った人を助ける活動をサポートしています

小学生ならではの柔軟なアイデアが次々に飛び出し、短時間でたくさんの意見が飛び交った出前授業。最後は、講師の熊谷先生からJANPIAのスタッフにバトンタッチし、「誰ひとり取り残さない、持続可能な社会づくり」のために大切なことを改めて子どもたちに伝えます。

「皆さんは『休眠預金』を知っていますか? 休眠預金とは、銀行にある預金を10年間預けたり引き出したりしていなかった預金のことです。これまでは、休眠預金になると銀行の持ち物になっていましたが、法律が変わり、困っている人たちのために役立てることができるようになりました」

現代社会では、本当に困っている人ほど、自分からSOSの声をあげられない場合が多く見受けられます。こうした人と出会ったとき、私たちはどのようなことを心掛けておけばよいのでしょうか。

「もし東京に大地震がきたり、巨大な台風がきて江戸川が氾濫したり、突然、災害が起こったら自分が困った人になります。また、溺れている人がいれば浮き輪を投げてあげる、警察や消防署に連絡をするなど、小学生の皆さんでも、困っている人を助けるためにできることはたくさんあります。大切なことは自分たちが困ったら「助けて!」と声を上げること、そして「助けて!」といいやすい社会であること、さらにそうしたSOSを見つけたらできるだけ早く助けてあげられる活動を増やしていくことです」

今日のワークショップで配られたお助けカードに登場していた人たちは、自分たちで団体を作ったり、会社を興したり、さまざまな困りごとを助ける活動をしている「民間」の実在する人たち。休眠預金は、こうした人たちの活動資金として活用されています。それをサポートするのが私たちJANPIAのお仕事です。

「僕は今日はじめて休眠預金について知りました。明日、自分が困った人になるかもしれないと考えたら、お助けカードの人たちと同じように、まず自分に何ができるのかを考えて助けられるようにしていこうと思います!」 未来を担う子どもたちの柔軟な思考と、誰かを思いやる心、そして心強い感想に刺激を受けた出前授業でした。

「僕は今日はじめて休眠預金について知りました。明日、自分が困った人になるかもしれないと考えたら、お助けカードの人たちと同じように、まず自分に何ができるのかを考えて助けられるようにしていこうと思います!」 未来を担う子どもたちの柔軟な思考と、誰かを思いやる心、そして心強い感想に刺激を受けた出前授業でした。

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【本記事に関する問い合わせ先】JANPIA 企画広報部 info@janpia.or.jp

2021年3月11日、JANPIAは、2019年度及び2020年度に採択された資金分配団体のプログラム・オフィサー(PO)や事業統括者向けに、非資金的支援の勉強会をオンラインで開催しました。全資金分配団体から希望者を募り、JANPIA事務局と合わせて総勢65名の参加がありました。

プログラム・オフィサーとは?

休眠預金活用制度の特徴の一つとして、資金分配団体が資金的な支援だけでなく、実行団体の運営や活動をサポートする「非資金的支援」(伴走支援)があります。その中心的役割を担うのがプログラム・オフィサー(以下、PO)です。通常枠(最長3年事業)で採択される資金分配団体においてはPOを雇用した場合などに、その確保育成や活動に関する経費も助成しています。現在、2019年度・2020年度事業合わせて137名のPOが登録されています。
JANPIAでは、PO研修等、JANPIA 主催の研修プログラムなどを実施 してPOの担い手を育てることとしており、今回の研修はその一環で行いました。

「非資金的支援の勉強会」の研修内容のご紹介

2019年度採択の資金分配団体にとっては「中間評価」を見据えて、2020年度採択の団体にとっては選定された実行団体への伴走支援を考える材料として、非資金的支援について集中的に学ぶため、2名の講師による講義の後、グループに分かれての感想共有や全体での質疑応答の時間がありました。

「追いかけたくなる指標」

まず、東洋大学社会学科教授の米原あき講師からは、「非資金的支援を促進するための評価と指標の考え方」について説明しました。

評価(Evaluation)という言葉が、価値(value)を引き出す(extract)という言葉から来ていることから、たこ焼きにどういった価値があるのかという例え話から始まり、実際の資金分配団体の非資金的支援のアウトカムやその指標を見ながら、参加者の参考になる改善ポイントを確認しました。

評価指標を立てる際の考え方に関しては、「『追いかけたくなる指標』という発想が大切」と話す米原講師。多くの参加者の印象にも残ったようです。また、目標に関しては、初期値の確認やその増減だけでなく、「ある状況の維持や変化の仕方に注目すべき場合もある」と伝えられました。

「フィランソロピー3.0へ」

「休眠預金活用の制度は、日本のフィランソロピーを、フィランソロピー1.5からフィランソロピー3.0に進める大きなきっかけになる」と話すのは、多摩大学社会的投資研究所 主任研究員の小林立明講師。

グローバルなフィランソロピーの発展段階における、日本の休眠預金制度の位置づけを踏まえたうえで、多摩大学社会的投資研究所が受託を受けて実施した業務から見えてきた、資金分配団体の非資金的支援計画の分析結果について解説いただきました。

非資金的支援のアウトカム設定について、6類型(組織基盤構築、評価、事業運営、資金調達、ネットワーク形成、普及・啓発)に区分した上で、2019年度採択の資金分配団体がどのようなアウトカム類型を選択したかを調査したところ、2項目以上のアウトカムを設定した団体が多かったとのこと。一定の評価をしつつも、制度の趣旨に照らせば「組織基盤構築やネットワーク形成はもっと進めていってほしい」と期待されていました。

「ビジョンからのバックキャスティング」

その後のグループワークや全体ディスカッションでは、各POの感想共有や、事業を実施するうえでの悩みなどの共有があり、採択された年度を超えての交流が見受けられました。

2020年度に採択された資金分配団体のあるPOは、実行団体から「指標を設定することで数字に縛られる。達成できなかったらマイナス評価になるのではないか。」という不安を打ち明けられた際に戸惑いを感じていました。それに対して2019年度採択団体のPOは「団体が目指す方向性と合致していれば大丈夫。」とアドバイス。講義をきっかけにした年度を超えての交流は、日々のPO活動に気づき与える場にもなったようです。

米原講師も「評価や指標は活動をしばるものではなく、改善のために活用するもの」と強調。また、米原講師も小林講師も、アウトカムや指標を設定する際は、団体が目指すビジョンからバックキャスティング(未来からの逆算)することが大事であると声をそろえて話されていました。

講師プロフィール:

〇 米原 あき 氏 東洋大学 社会学部 教授 専門社会調査士

比較教育政策学、国際協力論、人間開発論、またこれらの分野に関わる政策評価を専門分野とする。また、JICAの評価専門家や行政の政策評価委員を務めるなど、多くの実務実績がある。主要著書に、”Human development policy in the global era”(単著)、「プログラム評価ハンドブック」(共著)等がある。

〇 小林 立明 氏 多摩大学 社会的投資研究所 主任研究員

ソーシャル・ファイナンスを専門とされており、そのほかにも、戦略的グラント・メイキング、社会的インパクト評価、NPOマネジメント等、国内外問わずソーシャルの分野を中心に深く研究をされている。主要著書に、「フィランソロピーのニューフロンティア」(翻訳)、「英国チャリティ:その変容と日本への示唆」(共著)、「入門ソーシャルセクター」(共著)等がある。