資金分配団体からのメッセージ〈21年秋〉|ジャパン・プラットフォーム 藤原さん

「資金分配団体の公募〈コロナ対応支援枠〉」へ申請検討中の団体に向けて、活動中の資金分配団体にお話を伺いました。

現在JANPIAでは「2021年度 新型コロナウイルス対応支援助成〈随時募集〉」を実施中です。申請をご検討中の皆さま向けに、20年度コロナ対応緊急支援枠の資金分配団体である特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)地域事業部の藤原 航さんに、主にコロナ対応緊急支援枠〈3次〉のコンソーシアム申請についてのお話を伺いました。

コロナ対応緊急支援枠に申請した背景を、自団体の活動と合わせて教えてください。

私たちジャパン・プラットフォーム(JPF)は、海外支援を中心に、災害時における人道支援を行っています。今回、民間外交や在留外国人問題に取り組む「公益財団法人日本国際交流センター(JCIE)」とコンソーシアムを組成し、20年度コロナ対応緊急支援枠〈3次〉に申請しました。

JPFでは、コロナ禍に突入した昨年の4月から、寄付を原資とした法人独自のプログラムを実施しています。しかし、「コロナ禍」から「コロナ経済禍」となるような状況で、経済的に困難な方の増加にいただいた寄付だけでは対応が難しくなりました。 
そこでまず、コロナ対応緊急支援枠〈1次〉に申請。そして1次の事業を行っている中で、さらに手が届かない方々として、在留外国人の皆さんがおられることが分かってきました。これは何か行動を起こさなければいけないと考え、2020年度のコロナ対応緊急支援枠の公募がまだ実施されていたので申請の検討を始めました。

コンソーシアム構成団体のJCIEにおいては、2019年度通常枠の事業である「外国ルーツ青少年未来創造事業」の中で、同様にコロナ禍における課題を強く感じておられ、支援の必要性を感じておられたとのことです。

〈用語解説〉コンソーシアム
コンソーシアムとは、申請事業の意思決定および実施を2団体以上で共同して行うこと。コンソーシアムを構成する団体から幹事団体を選び、申請は幹事団体が行います。

今回のコンソーシアムはJPFが幹事団体、JCIEが構成団体となり、2団体で事業を実施しています。

既存事業により、これまで支援の行き届かなかった“在留外国人”の存在に気付きました。
既存事業により、これまで支援の行き届かなかった“在留外国人”の存在に気付きました。

コンソーシアムとして申請された理由を教えてください。

コロナ対応緊急支援枠〈1次〉の事業を通じて把握した課題に対して調査を実施したところ、コロナ禍において国内のセーフティネットでは支援ができない、あるいはできにくい“在留外国人等”の生活支援の必要性があることがわかりました。しかし、自団体のノウハウだけでは対応が十分ではないことも考えられ、JANPIAに事前相談をしたところ在留外国人支援のノウハウのある団体とのコンソーシアムを勧められたのです。

そこで、以前PO研修(プログラム・オフィサー研修)で一緒だったJCIEの方にお会いし、同じ課題意識で、異なるノウハウを持っており、それぞれの強みによる相乗効果が期待できました。また、両団体とも休眠預金活用事業のしくみを理解していたというのも大きかったと思います。お互いに相談しながらプログラムを進めていけるという点から、コンソーシアムでの申請を行うこととなりました。

2団体それぞれの強みと弱みを理解して、お互いに補完しあう協力体制を作りました。
2団体それぞれの強みと弱みを理解して、お互いに補完しあう協力体制を作りました。

コロナ対応緊急支援枠と通常枠の事業の違いなど、実施してみて感じたことはありますか?

総論としては、私たちJPFもJCIEも申請させていただいてよかった、と捉えています。
何が良かったのかといいますと、「支援に必要な資金規模があったこと」や、「コロナ対応緊急支援枠は通常枠と比較して運用ルールが緩和されている部分があったので、より多くの実行団体を採択できたこと」、さらに「伴走支援も実施できていること」などが挙げられます。新型コロナウイルスという突発的な課題に対応できる、このような資金があって、本当に良かったと思っています。

また今回の事業で取り組んだ課題は、これまで支援が届きにくかった新たな領域のため、今回の助成を通じて団体間での協力関係や、新しい支援の手法が生まれています。またこれまで支援されていなかったということもあり、多様なエビデンス・結果が出てきており今後につなげられるのではないかと期待しています。

事務面においては、通常枠と比較して事務量が相対的に少なく、可能な限り事業に集中できると感じています。しかし、事業期間が通常枠よりも限られるので、時間的にはタイトな部分は難しい部分でもあると感じています。

また実行団体の多くは、通常の助成金事業の延長に捉えている傾向を感じています。
しかし休眠預金活用事業の特徴は、通常枠であっても緊急支援枠であってもアウトカムを目指すというところがあると考えています。今回は緊急性の高い事業ということで、団体によっては当初の目途と違うところもありました。私たち資金分配団体の力量次第で今後のアウトカムの質が変わってくるかなと考えています。

助成事業を通じて、良かったこと、苦労していることはどんなことがありますか。

コンソーシアムについて良かった点は、困難な課題に対して、お互いの強みを生かした協働と役割分担ができ、課題解決にアプローチできていることです。一方、緊急支援助成であるという背景もありますが、違う文化の団体同士なので、団体間の会計などの処理方法や審査方法等について、苦労というか調整を要していると思います。

事業面においては、資金分配団体間、実行団体間において、単独でプログラムを実施するよりも非常に多くの視点を持つことができ、多くの学びや発見がありました。この課題の輪郭もよりはっきりと見えるようになったと感じています。残念だったのは、コロナ禍のために実行団体との面談がオンライン中心となり、現場の確認を思うようにできない側面があったことでした。

コロナ対応支援枠へ申請をご検討中の団体の皆さんにメッセージをお願いします。

コロナ禍で苦しんでいる方々へ大規模な事業として支援できる点で、極めて意義のある制度であると考えます。
申請を悩まれている場合は、アイディア段階でも、私たちがしたように、JANPIAさんにまずは相談してみるのが良いと思います。それで発見することもあると思います。

その際には、コロナ対応支援枠の申請書類がシンプルで書きやすくできているので、下書きをしてみると良いでしょう。そうすると、論理的な矛盾などを早期に発見できたりすると思います。
また、今回の私たちのように、コンソーシアムを組むという方法もあります。新たな分野への支援の開拓とともに、多くの学びや発見も得られます。もし独力で難しい場合は、既に休眠預金活用事業に参画している近い領域で事業を展開している団体と連携を組まれるとよいのではないかと考えています。

〈このインタビューは、YouTubeで視聴可能です! 〉

※この動画は公募説明会で上映したものです。

(取材日:2021年10月21日)

▽ジャパン・プラットフォームの採択事業はこちらからご確認いただけます。

「資金分配団体の公募〈コロナ対応支援枠〉」へ申請検討中の団体に向けて、活動中の資金分配団体にお話を伺いました。

現在JANPIAでは「2021年度 資金分配団体の公募〈通常枠・第2回〉(11月30日17時まで)|コロナ対応支援枠〈随時募集〉」を実施中です。申請をご検討中の皆さま向けに、20/21年度資金分配団体である認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 三島理恵さんにお話を伺いました。

休眠預金活用事業に申請した背景を自団体の活動と合わせて教えてください。

むすびえは、2018年に全国に広がるこども食堂の支援をしようと立ち上がった団体です。申請当時は設立して3年目というまだまだよちよち歩きで組織基盤を整えている段階で、コロナ対応支援枠に申請をしました。ですから、「休眠預金の事業を通じて社会課題の解決をしていこう」と十分に組織の準備ができて申請をしたというわけではありませんでした。

一方で、コロナ禍となり、こども食堂が緊急支援の活動を各地域で始められていたこともあって、こども食堂側の支援ニーズも本当に急拡大していました。こども食堂を包括的に支援する必要性が高まっていたことを受けて、むすびえが「いつか休眠預金を活用して社会課題の解決に資するような事業展開を全国規模でできないかな」と考えていたこと、そしてコロナ対応緊急支援枠の助成期間が1年ということもあって、「まだよちよち歩きの中だけどチャレンジしてみよう」となったのが、申請をした背景になります。

コロナ対応緊急支援枠を経て、通常枠に申請した経緯を教えてください。

「コロナ対応緊急支援枠」で緊急の支援を行える一方で、1年の助成活動を行うだけでは、そんなに簡単には社会課題が解決しないことも痛感しておりました。また「通常枠」で3年間の助成事業を行うからこそ、社会課題解決に資する事業ができることも感じており、次第に3年間だからこその事業に一度チャレンジしてみたいという気持ちを持つようになりました。コロナ対応緊急支援枠で採択いただいたことを私たち自身の成功体験として捉えていたので、「こども食堂」のような草の根事業から「イノベーションの促進に挑戦してみたい」と思ったことが通常枠にチャレンジしたきっかけでした。

かつ、この休眠預金を活用する事業自体が「社会的な大きな実験」であるということが私たちの背中を後押ししてくれました。「こども食堂」は全国に五千カ所広がる活動で、それが政策制度の裏付け無く、全国にボランティア活動として広がっています。そういった現象を私たちはひとつのイノベーションと捉えています。休眠預金活用事業の「社会課題の解決をイノベイティブに革新的な手法で解決していく」というところと「草の根の活動のこども食堂」の掛け算で、こういった社会課題の解決に全国で取り組むみなさんといっしょに取り組んでいけるということが、この通常枠に申請をさせてもらった大きなきっかけになりました。

コロナ対応緊急支援枠と通常枠の事業の違いなど、実施してみて感じたことはありますか。

組織体制を強化しながら休眠預金活用事業を行っていた私たちにとっては、コロナ対応緊急支援枠は、最初のチャレンジにはちょうどいい枠組みだと実感しています。

2つの事業の大きな違いは、「通常枠」は一定のリスクを許容しつつ、最大の成果を目指すために評価がセットになっている点です。私たちは最初にコロナ対応緊急支援枠の1年間の事業をして、そこに触れながら次に通常枠の3年間の事業にチャレンジできたので、その事業の中で「評価の重要性」を痛感しながら、通常枠の事業を推し進めていけるというところは、とても大事なステップを踏めていると思っています。

もう一つの大きな違いは、評価を通じながら、セオリーの確認をし、プロセスも含めてチームメンバーと共有化するコミュニケーションツールになっていること、内部での浸透度合いの違いというところだと感じています。

また3年間の通常枠では、社会の課題に対して「自分たちがどういうアプローチをし、どういう結果が生み出され、失敗も含めて、成果が出ているのか」を社会へのフィードバックをしっかりとしていく大きな責任があるのも、コロナ緊急支援枠との大きな違いだと実感しています。

助成事業を通じて、よかったこと、苦労していることはどんなことがありますか。

「事業の推進」「体制の強化」「財源の確保」という3つの軸を休眠預金活用事業を通じながら実施できているということ自体が、まずとても良かったと思っています。他の助成事業ではなかなか無い3つの成長というところへのアプローチだったと思っています。

また、成果を最大化させていくためにも、波及効果を狙って取り組んでいくことは大事な視点だと思っています。その上で最初に取り組んだこととしては、「内部での共有の場」です。
まず私たちが「休眠預金活用事業を通じてどういったことを実現しようとしているのか」を内部に対してしっかり浸透させていくこと自体がひとつ大きな価値になります。

かつこの事業自体はJANPIA、資金分配団体、実行団体、三者の「イコールパートナー」という関係性があるというところも踏まえて、横連携の会議なども複数に実施できていることが良い変化だったと思っています。

苦労していることは、まず、事業を開始する前は「申請する時の書類が多かったということ」です。もう一つは、システムには苦戦しています。逆に苦戦しているからこそ実行団体のみなさんと「これちょっとわからないよね」という会話をしながら関係構築をできているというところは、苦労しながらもチームビルディングにつかえているかと思います。

一方で、休眠預金活用事業の特徴の一つであるJANPIAさんとイコールパートナーでもあることから、「苦労している」ということもJANPIAの方に率直にお伝えできること、そして一緒に悩み、解決策を見出そうという場を設けてくださいます。
そういう意味では、JANPIA、資金分配団体、実行団体がいっしょになってこの休眠預金を活用した事業を推進していくこと自体が、社会課題をいっしょに解決する日本の中でのチームであり、社会課題の解決、社会変革を促す上ですごく大事なことだと受け止めています。

申請を考えている方へメッセージをお願いします。

まず、この事業自体が大きな社会実験なので、「ぜひ、一緒にチャレンジしませんか?」とお誘いしたいと思います。申請前のことを思い出すと、不安だったり、私たちが手を挙げて大丈夫なんだろうか、という懸念もありました。私自身もやれるんだろうか、組織が体制として十分なんだろうかということも何度も悩みましたし、自分たちにとってはまだ早いんじゃないかということも、組織の中で様々に検討しました。
その上で、やはり「チャレンジしないことには当然採択されない」ですし、休眠預金活用事業にかかわる機会も得られないということで、私たちは手を挙げました。
もし悩んでいらっしゃるであれば、そのお気持ちはとってもわかりますが、休眠預金活用事業に出会ったのであれば、ぜひチャレンジしていただきたいなと思っています。

実際採択されたときの不安もたくさんあると思います。私たちも「どのように実走させていくんだろう」、「本当に3年間で自分たちが目指している見たいゴールを見られるんだろうか」、と様々な不安がありました。そんな中でむすびえがやってこられているのは、この休眠預金活用事業のひとつの特徴でもある私たちへの「伴走支援」をJANPIAのPOのみなさんがしてくださるという枠組みがあるからです。そこは通常の助成事業とはまったく違うところで、ある意味安心してチャレンジできる器がこの休眠預金活用事業だなあと実感しています。

また申請にあたって、団体の中で今後のビジョンについても検討するプロセスを踏まれると思いますので、それも大事な機会として捉えてチャレンジを検討いただけたら嬉しいなと思っています。

〈このインタビューはYouTubeで視聴可能です!〉

※この動画は公募説明会で上映したものです。
(取材日:2021年10月26日)

▽こども食堂支援センター・むすびえの採択事業はこちらからご確認いただけます。

「資金分配団体の公募〈通常枠〉」へ申請検討中の団体に向けて、活動中の資金分配団体にお話を伺いました。

現在JANPIAでは「2021年度 資金分配団体の公募〈通常枠・第2回〉」を実施中です(公募締切:2021年11月30日17時)。申請をご検討中の皆さま向けに、19/20/21年度資金分配団体である公益財団法人 長野県みらい基金 理事長 高橋 潤さんにお話を伺いました。

休眠預金活用事業に申請した背景を自団体の活動と合わせて教えてください。

長野県みらい基金は2012年に寄付を集め、NPOや市民活動へ支援をすることを目的に設立されました。ですので、公益活動に対して資金を見つけてお渡しする、というのは本業でした。所属している全国コミュニティ財団の研修などでも、助成事業のあり方などを共有していく中で、休眠預金活用のロビー活動や法整備などを知り、手を挙げることにしました。手を挙げる際、地域のコミュニティ財団として、いわば地域の目利きとして、その背景、課題から申請内容を絞り込みました。

具体的には、寄付募集サイト「長野県みらいベース」を6年間運営してきて見えてきた地域課題、「こども若者支援に関する実態調査」から見えてきた課題と団体のその姿、長野県内のこども支援ネットワーク構築から見えてきた課題、資源。また、具体的な伴走支援の必要性が見えてきました。

例えば、2017年には長野県が実施した「子育て家族実態調査」の生データを使って、県内各地でNPOの方々と読み解き会を十数回行いました。その中で、「行政がやっている子育て支援が、家庭・こどものニーズとマッチしていない」「市町村の支援施策がいわゆるグレーゾーンの家庭に届いていない、あるいはその家庭の方々がその施策を使っていない」ということが見えてきました。また、「こども支援は親支援であるはずが、こども、親とばらばらになっている」「親へのアプローチが非常に少ない、あるいはできていない」という課題も「子育て家族実態調査」の読み解き会で見えてきました。

休眠預金活用事業の申請に対応するかたちでも長野県各地でヒアリングを開催しました。6地域で56団体の参加があり、様々なニーズ、またそれぞれの団体が抱えている課題、また地域の課題等が見えてきました。

木曽地域では、山間地であるがゆえに本来の対象者に対して支援が届けられない、というような声が聞こえました。松本地域では、地域の空き家など負の資産を活用してコミュニティづくりをしたい、という声がありました。伊那地域では、中山間地での引きこもり等のこども・若者の居場所を作りたいけれどすごく難しい、という声が聞かれました。全県を通じて、障害者や引きこもりのこども・若者の地域参加の機会を作りたい、といった声を多く聞くことができました。
そういった地域の具体的なニーズ、課題を深堀りする中で申請内容が固まってきました。

実行団体の公募について丁寧に進められたとうかがいました。取り組まれたことを教えてください。

この後お話する伴走支援ですが、実は公募開始前から始まっていると思っています。
2019年度では、まだコロナの影響がなかったので、広い長野県ですが4ヶ所で会場を使って説明会を開きました。

説明会の内容は、実行団体公募について基本的なこと、長野県みらい基金がJANPIAに対して申請した事業内容について説明しました。また、具体的な長野県内の公募内容についてご説明しました。もうひとつ、その当時なかなか耳に聞かなかった事業評価、社会的インパクト評価についても一部、二部ということで説明をさせていただきました。

説明会場での時期を見ながら、スケジュールとして開始から申請締切までできる限り長い時間を取ろうと思いました。何故かというと、事前相談を積極的にしたい、そういう呼びかけをしたい、ということがあったからです。
結果、延べ、29団体。1回の面談が21団体、2回面談した団体が7団体、3回面談した団体も1団体ありました。最終的に、実際の申請は18団体ありました。

申請後ヒアリングが、次の大事な支援となります。
共通の訪問調査表を元に、申請書では読みきれない項目。例えば、実際の事業を行う人や代表者の話し方や人となり、その関係性なども現場に行って感じ取ります。また、事務所の雰囲気も重要です。実際の事業をする場所にも案内してもらい、その事業のニーズの確認、対象者の想定の妥当性、実現性、重要性などを現場に行って肌で読み取ってきました。

訪問してのヒアリングシート、それぞれの申請書、団体の関連資料を元に、審査会資料作成のために事務局側の読み解き会を行いました。

宮城の先輩コミュニティ財団である、さなぶりのPOに来ていただき、長野県みらい基金のPOと一緒に丸二日かけて、申請書などの読み解きをしました。POそれぞれが、それぞれの申請に点数、懸念点、良い点などを記したものをそれぞれ発表、集計し、POとしての視点、客観性、共感、事業の将来性などを検討していきました。そうした中で、客観的な審査会用のヒアリングシートができました。

実行団体の伴走支援の内容や工夫を教えてください。

他の資金分配団体はいわゆるウェブのチャットツールなどを活用していらっしゃる、ともお聞きしていますが、長野県は非常にアナログです。2019年度はPO2名が中心となりながら、全員で伴走支援に取り組みました。広い長野県ですが、丁寧に現場を訪ね、たくさんお話しし、一緒に見守り、ともに育つ、という姿勢でした。全体を見るチーフは私がしながら、もうひとりのPOと更に2名に、地域や事業分野の傾向を見ながら担当をしてもらいました。

たとえば農福連携の事業には農協出身のスタッフを。また、地理的な条件も考慮しました。全国区でない地域に根ざした資金分配団体であること、また、申請書にもそこを大きな訴求ポイントにしていましたので、しっかりとした布陣で行いました。担当が随時連絡をとったり実行団体を訪問して、顔の見える関係性を作り、事業の成功への実行力のみならず、リスク管理への備えもしていきました。
また、評価、ファンドレイジングには専門家も支援チームに加わってもらい、出口戦略も見据えました。

実行団体と私たちは、ある意味運命共同体、パートナーなわけです。家族であり、友人であり、共同経営者です。ですので、伴走支援はいわば、日常の関係性の中から感じ取ることが一番重要だと私は思っています。そして、うまく行っているときは、一緒に喜ぶ。困ったときは一緒に悩むことが大事だと思います。

助成事業を通じて、よかったこと、苦労していることはどんなことがありますか。

1年半が過ぎ、今、中間評価のまとめの真っ最中です。順調に行っている事業ばかりではありません。特に、2019年度事業はコロナを想定していない時期の事業計画、資金計画ですので、スタート直後、いきなり事業計画変更、コロナ対応の資金提供など、それもこれも私たちも実行団体も、もちろんJANPIAさんも初めてのことばかりで、その場で検討、対応、相談しながら、悩みながら手探りで行ってきました。

現在、事業の折り返し地点で、多くの団体はここまでで経験し学んだ中で、あと1年半の事業の道筋を見極めて、進んでいます。「足りないところを補う」「うまく行っているところをより厚くする」「困っている人へより活動が届くよう、居場所で待っていた事業をアウトリーチ型に変更する」など、皆が学びながら、「困っている人をより支える」「地域を少しでもよくする」「そのために変えていく」という力が強くなっているのを感じます。

嬉しいのは、それぞれの事業・団体の連携が生まれてきていることです。もちろん、私たちが連携の糸口を作ったり、関係づくりの場を作ったりもしていますが、それぞれの団体が足りないところをより強みのある団体がつながることで補い、そうすることで困難を抱えている人たちへのより丁寧でしっかりとした支援が生まれています。地域同士の支え合いができてきていることが、本当に頼もしいと感じています。

申請を考えている方へメッセージをお願いします。

皆さんが助成をしようとしている対象の方々を、是非とも強く想ってください。その方々がどういう事業に対してどういうアプローチをしているのか、どういう対象の人たちに対して何をやりたいのか、ということを資金分配団体がしっかり知ることで、いわゆる良い公募案件が生まれるのだと思います。普段皆さんがやっていることの足元をもう一度見つめ直すということで、いい申請ができるのではないかなと思っています。

〈このインタビューはYouTubeで視聴可能です!〉

※この動画は公募説明会で上映したものです。

(取材日:2021年10月25日)

▽長野県みらい基金の採択事業はこちらからご確認いただけます。

東近江・新型コロナ対策助成事業では、実行団体に2020年8月から2021年9月の1ヵ年間、助成を行いました。本報告会では、各実行団体の1ヵ年の活動の成果発表と本事業が地域に与えた影響について意見交換します。

資金分配団体と指定活用団体であるJANPIAが、よりよい休眠預金活用事業を作り上げていくために、共に取り組む「業務改善PT(プロジェクトチーム)」。本サイトでの2回目の経過報告となる今回は、このプロジェクトのここまでの成果(改善が実現したこと)や進捗について伺いました。

業務改善PTの進捗状況

今年の1月に資金分配団体の有志のみなさんとともに立ち上げた「業務改善PT」では、20数名のメンバーが、主要テーマ5つ「制度・評価・資金管理・契約/規程類・活動管理」でチームに分かれて課題の洗い出しと検討の方向性について取りまとめを行い、5月24日の全体会合で共有を行ったことは前回の記事の通りです。


その後、6月後半~9月中旬にかけて、洗い出された課題について、JANPIA事務局にて対応方針案を作成し、その内容についてチームのみなさんと複数回の協議を重ねてきました。そして10月20日(水)に、「2021年度中に対応を進める事項」と「進捗状況」についてまとめた資料を、‘資金分配団体向けの情報発信サイト’にて資金分配団体のみなさんに共有しました。

「課題の中には現時点ですでに完了となっている改善事項もあり、対応中の改善事項も年度内の対応完了(次年度の公募要領や実務への反映)を目指しています。加えて、中長期的な課題として整理をされた改善を要する事項については、段階的に改善に向けた検討を進めていく予定です。この取り組みの状況については、定期的にみなさまにお伝えしていきたいと考えています。」(JANPIA総務部長 大川さん)



〈参加13団体(五十音順)

公益財団法人
お金をまわそう基金/公益財団法人 佐賀未来創造基金/一般財団法人 社会変革推進財団/公益財団法人 信頼資本財団/公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン/一般財団法人
中部圏地域創造ファンド/公益財団法人 長野県みらい基金/公益社団法人 日本サードセクター経営者協会/公益財団法人 パブリックリソース財団/公益財団法人 東近江三方よし基金/特定非営利活動法人
ひろしまNPOセンター/認定特定非営利活動法人 まちぽっと/READYFOR株式会社

各検討チームでの論議を踏まえて年度内に改善が見込まれる事項

各検討チームでの論議を踏まえて年度内に改善が見込まれる事項(概要)は、以下の通りです。

■活動管理関連検討チーム

  • ニュースレターの発信(業務全体のスケジュール等をタイムリーに共有 9月~)
  • 助成システムのヘルプデスク運用開始(コールセンター 7月~)
  • 資金提供契約書の一部改訂(活動管理に関する事項の修正等 9月完了)

    ※他の検討チームの課題と関係あり、継続的に改訂を進めます

  • わかりやすい情報発信の実施(Twitterの開設 8月~)
  • 各種マニュアルのわかりやすさ向上(概要版と詳細版の再構成 9月~ 着手中)
  • 資金提供契約の電子契約化、帳票の一元化等(検討開始、次年度運用目指す)
  • 団体向けの情報セキュリティ研修等の実施(年内に1回実施で調整中)

資金管理関連検討チーム

  • 説明資料の充実(わかりやすさ志向でリニューアル、説明動画制作9月~着手)
  • 報告資料作成、提出の簡素化(10月~事業採択年度毎に新ルールを順次適用)
  • 精算様式の簡略化・手引きの改訂(10月~事業採択年度毎に新ルールを順次適用)
  • 年度末精算を実効性のある仕組みに変更(10月~順次適用)
  • 現金支出の上限の柔軟な取扱い(事前承認特例の活用 9月対応完了)
  • その他(自己資金の取り扱い等、継続的に検討中)

評価運営関連検討チーム

  • 評価表を契約書の構成書類から外す(21年度の採択事業より順次適用)
  • 評価計画書の内容を事業計画書に統合(21年度採択事業より順次適用)
  • 事前評価報告書の提出時期を見直し(数か月後ろ倒し 21年度採択事業より順次)
  • 合宿的検討会の実施(21年度採択団体の事前評価から適用する評価実施内容の改訂検討についてPTメンバー×評価専門家他で集中的に意見交換を行う  10月~11月で実施予定)
  • 評価関連の学びの場の設定(資金分配団体、実行団体相互間)・動画配信等(7月以降随時実施中)
  • 実行団体むけの評価ハンドブックの公開(事前評価・中間評価について8月対応完了)

契約・規程類の整備関連検討チーム

  • 実行団体における適切な資金管理や事業実施体制を実効性のある形で確保しつつ事業を進めていくために必要な事項について以下の通り整理。※これまでは規程類を整備することが必須条件となっていたところを見直します。(21年度採択団体から順次適用)

<考え方>

  • 実行団体の規模、体制整備の実状などを踏まえて、事業実施期間 3か年を通じて段階的に取り組み、実効性のある体制確保に努めます。 (運営ルールの明確化、法人形態毎に求められる体制整備について実効性のある形で実施)
  • また、事業開始時点での整備の状況も様々であることから、事業実施期間3カ年を通じて目指したいガバナンス・コンプライアンス体制について資金分配団体・実行団体相互で協議をしこれを定めた上で、体制整備を目指します。

制度関連チーム

  • 支援戦略の考え方を整理しPO業務で活用(8月勉強会、10月資金分配団体PO向け研修で展開)
  • 自己資金確保に関するセミナーの開催(ノウハウを持つ団体からのノウハウ移転他 年内開催を予定)
  • 助成上限額は目安とする扱い(21年度通常枠より目安として明記 対応完了)

※本チームでは、自己資金確保のあり方について(資金分配団体)、同一事業の連続申請可否、地域での案件形成の重要性など、様々な観点で論議が行われました。これらの要素を次年度公募に反映させるべく継続課題として事務局にて検討を進めていきます。

10月20日付けで全資金分配団体向けに共有された詳細資料の一部。大項目は31あります。
10月20日付けで全資金分配団体向けに共有された詳細資料の一部。大項目は31あります。

休眠預金活用事業は関わる人みんなで一緒に作り上げていく仕組みです

年度内に改善が見込まれる事項は、大きく分けて31項目。これらを年度内に確実に対応完了させて、次年度の事業運営に反映させていくとのことです。
業務改善PTの事務局では引き続き資金分配団体のみなさんをはじめ、この事業に関わる多くのみなさんとの意見交換を進めながら、またご支援・ご協力をいただきながら、『よりよい休眠預金活用事業を一緒に考え作り上げていくために!』をモットーに改善に取り組んでいくとの決意とのこと。
 
最後に、この業務改善PTに積極的に出席いただいているJANPIA 理事の鵜尾 雅隆さんのコメントをご紹介します。

年度内に改善が見込まれる事項は、大きく分けて31項目。これらを年度内に確実に対応完了させて、次年度の事業運営に反映させていくとのことです。
業務改善PTの事務局では引き続き資金分配団体のみなさんをはじめ、この事業に関わる多くのみなさんとの意見交換を進めながら、またご支援・ご協力をいただきながら、『よりよい休眠預金活用事業を一緒に考え作り上げていくために!』をモットーに改善に取り組んでいくとの決意とのこと。
 
最後に、この業務改善PTに積極的に出席いただいているJANPIA 理事の鵜尾 雅隆さんのコメントをご紹介します。

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今回の業務改善PTでは、資金分配団体のPOの皆さんの地域や社会を良くしたい、そのために休眠預金の活用をより改善していこうという情熱をとても感じさせていただきました。そこに一所懸命応えようと一緒に検討を進めるJANPIAのスタッフの姿も印象的でした。 休眠預金活用制度は、活動現場や地域と向き合う資金分配団体や実行団体の皆さんとの「対話と共創」を通じて、進化発展していく仕組みなのだと思います。その観点では、業務改善PTはそのひとつの大切な実践になったと思いますし、これからはご提案内容を確実に実現していくことだと思っています。また、こうした「対話と共創」の機会をこれからも継続的に生み出していくことが大切だと感じています。

今回の業務改善PTでは、資金分配団体のPOの皆さんの地域や社会を良くしたい、そのために休眠預金の活用をより改善していこうという情熱をとても感じさせていただきました。そこに一所懸命応えようと一緒に検討を進めるJANPIAのスタッフの姿も印象的でした。

休眠預金活用制度は、活動現場や地域と向き合う資金分配団体や実行団体の皆さんとの「対話と共創」を通じて、進化発展していく仕組みなのだと思います。その観点では、業務改善PTはそのひとつの大切な実践になったと思いますし、これからはご提案内容を確実に実現していくことだと思っています。また、こうした「対話と共創」の機会をこれからも継続的に生み出していくことが大切だと感じています。

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業務改善の今後については休眠預金活用事業サイトでも引き続き取り上げてまいります。資金分配団体のみなさんと共に取り組むよりよい休眠預金活用事業を目指した取り組みに、今後も注目していきます。

▼業務改善PTの資料はこちらからご覧いただけます

業務改善プロジェクトチーム 検討状況について.pdf

業務改善PTでの論議を踏まえて2021年度中に対応を進める事項・進捗状況.pdf

休眠預金活用事業の成果物として資金分配団体や実行団体で作成された報告書等をご紹介する「成果物レポート」。今回は、実行団体『特定非営利活動法人よこはま地域福祉研究センター(資金分配団体:特定非営利活動法人 神奈川子ども未来ファンド〈2020年度緊急支援枠〉)』が休眠預金活用事業で作成した冊子「地域のみんなが元気になる活動事例集2021」をご紹介します。

地域のみんなが元気になる活動事例集2021

変化する人々のライフスタイルや生活ニーズに対応するためには、過去の社会のメインストリーム(主流の考え方)から、オルタナティブ(代案、主流の方法に代わるもの)重視への移行が求められ、多様な人や組織による試行錯誤や、様々な代替案をつなぎ合わせるプロセスが必要になっていました。新型コロナ感染症拡大は、このような社会の動きに拍車をかけることになったのではないでしょうか。
本事例集で紹介した「生きづらさ」を抱える、子ども・若者をエンパワーする地域の支援者の皆さんは、まさに、そうした現代社会が求める社会活動の最前線にいる方々だと思います。
問題解決のための制度政策や専門機関・専門職によって形成される言わば「外側からの公共」に対し、小さな地域や場所、人々から生まれる「内側からの公共」の形成を、様々な困難の渦に翻弄されながら、仲間との共感や子ども・若者の笑顔を励みに取り組みます。どの支援者も「自分で考え行動しています」。「社会的地位や職責に縛られることなくクリエイティブな共創につながるパートナーシップにこだわります」。更に、「地域における体験・経験の共有を惜しむことがありません」。
時代が求める、あるべき社会的活動を見せて頂きました。『身近な暮らしのなかで、一人ひとりが「しあわせ」と感じ、共に生きる社会』を、目指す社会像とする、よこはま地域福祉研究センターにとって、これらの出会いは大きな糧となりました。すべてのご協力をいただいた方々に心より感謝申し上げます。




【事業基礎情報】

資金分配団特定非営利活動法人 神奈川子ども未来ファンド
事業名「地域のみんなが元気になる活動事例集」
コロナに負けない!育てよう!子ども・若者
〈2020年度緊急支援枠〉
採択助成事業『子ども・若者支援事業新型コロナ対応助成』
〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉
活動対象地域神奈川県
実行団体特定非営利活動法人よこはま地域福祉研究センター

認定特定非営利活動法人 ミューズの夢(以下、ミューズの夢)は、ハンディの有無にかかわらず子どもたちに質の高い音楽とアートに触れる機会と、自由に表現できる環境をつくることを目指して活動してきました。コロナ禍で活動が制限され、子どもたちにも不安が広がるなか、「離れていても芸術に触れることができ、一緒に参加できる楽しいプロジェクトを」と、2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成〈資金分配団体:公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(以下、セーブ・ザ・チルドレン)〉を活用した取り組みを進めています。芸術監督を務める仁科彩さんに伺いました。

不安な時期だからこそ、芸術に触れる機会を

20年前、宮城県仙台市で設立されたミューズの夢は、2つの事業を柱に活動に取り組んでいます。ひとつは、それぞれの子どもの発達とニーズに寄り添った音楽やアートのサポート教室の運営。もうひとつは、県内のこども病院や特別支援学校などを訪れて音楽療法士による授業を行ったり、音楽に触れる機会の少ない子どもたちへプロによるコンサートを届けたりする訪問事業です。
「サポート教室には、さまざまなハンディを抱えた子どもたちが多く通っています。設立当初から通っている生徒さんのなかには、その間に成人された方もいて、皆さんと一緒に成長してきた活動なのです。一人ひとりの個性に寄り添うことと、個性が育まれる環境を誰もが持てるように心がけることを、何よりミューズの夢では大事にしてきました」と話すのは、ミューズの夢の芸術監督を務める仁科彩さん。仁科さんは日本と北米を拠点にする作曲家であり、音楽講師としても活躍されています。

左)お話を伺った仁科さん(zoom)、右)コロナ禍前の訪問事業の様子
左)お話を伺った仁科さん(zoom)、右)コロナ禍前の訪問事業の様子

しかし、全国的なコロナ感染拡大によって、ミューズの夢の活動も大きな影響を受けました。2020年春は4ケ月間にわたりすべての活動を休止。一旦は教室を再開したものの、2021年8月に宮城県に緊急事態宣言が出た際も、再び教室を休止せざるを得ませんでした。これまで病院や事業所、特別支援学校などで年間90回近く行っていた訪問事業も、再開のめどが立たないままです。

「コロナのことを理解できていないお子さんも、テレビのニュースや家族の様子から何か大変なことが起きていることを感じています。そのような中、外に出られなくなり家に閉じこもるなど、震災のトラウマを思わせる行動を見せたお子さんもいたのです」

さらに、訪問事業で訪れていた長期入院中の子どもたちが、コロナ禍で面会や外出が制限されていると聞いた仁科さんたちは、こうしたストレスの強い状況に置かれている子どもたちの様子が気がかりだったと言います。

そこで、「コロナ禍だからこそ遠隔でも参加でき、これまでのように音楽とアートに触れられるプロジェクトが必要なのではないか」という思いから、2020年8月にセーブ・ザ・チルドレンが資金分配団体となって実施した新型コロナウイルス対応緊急支援助成「社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業」に申請。その後、審査を経て採択され2020年末から始めた取り組みのひとつが「Kotori Project(コトリ・プロジェクト)」でした。

子どもたちから届いた、個性溢れるコトリたち

「Kotori Project」には、その名の通りコトリ(小鳥)をモチーフにしたロゴマークが使われています。これはアートプログラム全体を監修する米国在住のデザイナー・田村奈穂さんによるデザイン。テーマカラーを決めるときは、田村さんとミューズの夢の生徒さんたちやこども病院の元患者さんが何度もやりとりをしながら一緒に考えました。

Kotori Project の総合アドバイザーである宮城県立こども病院発達診療科科長の奈良隆寛医師のサポートにより宮城県内の約500世帯に配布された、オリジナル教材キット
Kotori Project の総合アドバイザーである宮城県立こども病院発達診療科科長の奈良隆寛医師のサポートにより宮城県内の約500世帯に配布された、オリジナル教材キット

コトリの線画をプリントした紙を、こども病院や特別支援学校、発達支援事業所など19か所に配布して、「もしあなたがトリだったら、どんなお洋服を着たいですか?」とデザイン作品を募集したところ、252名から約500作品が届きました。

ミューズの夢の生徒さんたち、東日本大震災で大きな被害を受けたエリアにある放課後デイケアに通う子どもたち、入院中の子どもたちなどが参加しています。

「自宅や病院といった離れた場所からでも、子どもたち、ボランティアの若者、そして大人たちが『みんなで一緒に参加している感覚』をもてること。それが、プロジェクトを考えるときに一番意識したポイントでした」

 Kotori Projectのインスタグラム
Kotori Projectのインスタグラム

作者の名前とともに作品をひとつずつ紹介するインスタグラム(SNS)ページには、さまざまな色や素材に彩られた小鳥たちがずらり! 大胆に塗られたカラフルな作品もあれば、布や木の枝を貼ったコラージュのような作品、また、真っ白な羽毛だけを使った現代アートのような作品もあり、その豊かな創造性にハッとさせられます。

「どれも発想が自由ですごいですよね。こんな素晴らしい作品が届くなんて、私たちも予想していませんでした。田村さんも『現代美術館に展示されていてもおかしくない!』と驚いたほどです」

仁科さんは、「この子の才能を評価していただいた事は初めてです」とある生徒さんのお母さんが嬉しそうな様子で話してくれたことも印象に残ったそうです。

「子どもたちは絵を描くことが楽しいだけでなく、お母さんが『すごいね、すごいね』と喜んでくれるので、その様子を見てさらに嬉しくなる。そして、また力作を描いてくれるんです」

インスタグラムのページでは、音楽に携わる世界中の中高生や大学生から募集したオリジナル音楽が流れる動画も紹介していて、東北の子どもたちが描くアートと海外の若者たちが作った音楽とのコラボレーションも生まれています。

絵本のユニバーサルデザインと「心のケア」

このKotori Projectはさらに発展し、現在では子どもたちから集まった作品で絵本をつくる取り組みも進んでいます。

「作品があまりに素晴らしいので展覧会をしたいという話が出たのですが、いまはコロナで難しい。そこで 絵本を作ろうということになったのです」

絵本のストーリーは音楽講師や音楽療法士によるオリジナルで、一羽のコトリのもとに楽しい仲間が集まってくるという内容です。弱視の子どもでも読みやすいようにデザインを工夫したり、発語療育に使われている言葉を文章に取り込んだり、音声でも楽しめるオーディオブックにするなど、「絵本のユニバーサルデザイン」を目指しています。

「どんな子どもも楽しめる絵本にしてほしいというのは、ミューズの夢の保護者の方たちからのリクエストでもありました。絵本が完成したら参加した子どもたちや子ども病院、特別支援学校などに配布予定です。この絵本を通じて、あとでコロナ禍を振り返ったときにつらかった体験だけでなく、楽しかった体験も思い出して自信にしてほしい」

絵本の完成イメージ。絵本の背景画も子どもたちによる作品。
絵本の完成イメージ。絵本の背景画も子どもたちによる作品。

さらに、ミューズの夢では子どもたちの「心のケア」に取り組む活動を開始。

「コロナ禍が子どもの東日本大震災のトラウマを引き起こすケースもあったという話を聞き、自然災害やコロナなどの緊急事態が起きたときに、子ども自身や周りにいる大人が読むことでトラウマケアにつながるような絵本の執筆を、臨床心理士であるUdeni Appuhamilage 先生に依頼したのです」

先ほどの子どもたちの作品を使った絵本は3歳から対象ですが、心のケアのための絵本は小学校中学年以上向け。Udeni先生によって英語で書かれた物語を、さまざまなボランティアさんの手で日本語をはじめ多言語に翻訳し、世界中どこからでもダウンロードできるようにする計画です。

「心のケアの絵本制作にあたっては、資金分配団体であるセーブ・ザ・チルドレンが開催する『子どものための心理的応急処置』というワークショップを受けたことが大きな参考になりました。子どもの権利に取り組んできたセーブ・ザ・チルドレンが伴走してくださることで、事業がより深まったと感じています」

アートセラピーに関連する動画は学生ボランティアが中心となって制作しました。
アートセラピーに関連する動画は学生ボランティアが中心となって制作しました。

事業を通じて感じた「子どもたちへの敬意」

ミューズの夢では、このほかにも助成事業の一環として、コロナ禍で訪問事業ができない代わりに音楽配信を行う「Strings of Love」などの取り組みも行っています。

 仁科さんは、コロナ禍でも変わらない子どもたちの芸術に向かう熱意と誠実さ、そして周りを思いやる気持ちから、私たちが学ぶべきことがたくさんあるのではないかと話します。

「ハンディを抱えた子どもたちはサポートを受ける立場になることが多いのですが、実際にはどんな子どもも自分自身を立て直すだけの力を持っています。音楽やアートに触れて自分の表現を見つけることが、そうした『生きる力』につながります。私たちにできるのは、その機会を共に創り続けること。そして、生み出されたアートや音楽を世の中に発信していくことで、ハンディを抱えた子どもたちの教育や文化的な権利がもっと見直されてほしいと思っています」


■休眠預金活用事業に参画しての感想は?

今回、休眠預金活用事業として助成をいただいていることが信頼になって、県内の他団体とのネットワークづくりもスムーズに進めることができたと感じています。また、子どもの権利に取り組んできたセーブ・ザ・チルドレンには資金分配団体として伴走していただき、的確なアドバイスをいただきながら事業を進めてきました。何より「一緒に子どもたちのいる環境をよくしましょう!」といつも仰ってくださることが嬉しく、セーブ・ザ・チルドレンとミューズの夢の相乗効果で、Kotori Projectを展開することができたのだと思っています。(仁科さん)




■資金分配団体POからのメッセージ

ミューズの夢のみなさんは、「どんな障害や病気があっても、すべての子どもに芸術を楽しむ権利がある」と熱意をもって今回の事業に取り組んでくださっており、かつ大きな成果もあげています。今回は新型コロナウイルス感染症流行下での緊急助成事業でしたが、社会から周縁化されてしまっている子どもたちに芸術面での支援や機会が必要だということを、これから広く日本社会に伝えていくきっかけになる大事な取り組みだと思っています。(公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 鳥塚さん)

取材・執筆:中村未絵

【事業基礎情報】

実行団体
認定特定非営利活動法人 ミューズの夢
事業名
緊急事態下における子ども及び若者による芸術創造活動の支援事業
副題:芸術教育のユニバーサルデザインとトラウマケアに関する取り組み
活動対象地域全国
資金分配団体公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
採択助成事業

『社会的脆弱性の高い子どもの支援強化事業』

〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉