人生で初めて海に入った日のことを、覚えていますか? 飛行機に乗ること、旅行に行くこと、自由に海で泳ぐこと。そんな体験をかけがえのない思い出として、医療的ケア児とその家族に届けている団体があります。2019年度通常枠の実行団体である「NPO法人Lino」です(資金分配団体:公益財団法人 お金をまわそう基金)。今回はLinoが立ち上げ当初から続けてきた、沖縄海洋リハビリツアーに密着。医療的ケア児とその家族が体験した初めての海、その先にLinoが目指す社会のあり方について、Lino代表の杉本ゆかりさんのお話とともにお届けします。
人生で初めて海に入る日
どこまでも晴れ渡った青空の下に広がる、南国の美しく澄んだ海。
沖縄県恩納村(おんなそん)の海では、大人も子どもも誰もが一緒になって、穏やかに海を眺めたり海に入って水遊びを楽しんだりと、それぞれの楽しみ方で海を満喫しています。
この海で2022年10月1日から3日に開催されたのが、NPO法人Lino(以下「Lino」)による「沖縄海洋リハビリツアー」です。
「海洋リハビリ」とは、生きるために医療的なケアを必要とする医療的ケア児に向けて、マリンスポーツの体験を提供すること。人工呼吸器や胃ろうなどを日常的に使用しているため、海に入ることが難しい医療的ケア児が、豊かな人生経験を得られるように実施されています。
Linoの沖縄海洋リハビリツアーは、2018年から実施されており、今回が6回目の開催。3日間の行程でメインイベントとなる海洋リハビリは、2日目の午前中に実施されました。

当日は朝から快晴。沖縄らしく、10月初旬にして最高気温30度と、海に入るのにぴったりな気候になりました。 まずは8時から、砂浜で開催されたヨガで1日をスタート。沖縄で海洋リハビリに取り組む団体・チャレンジドオーシャンのスタッフに教わりながら、医療的ケア児の家族も参加していました。
ヨガを終えたら、いよいよ海洋リハビリが始まります。準備を終えた医療的ケア児と、サポートに入るチャレンジドオーシャンのスタッフで顔合わせをしてから、順番に砂浜へ。海洋リハビリツアーで使用している「ホテルモントレ沖縄 スパ&リゾート」は、ホテルの部屋から砂浜の直前まで車椅子を使って移動できます。
今回参加した医療的ケア児は5名。うち4名が海に入るのはほとんど初めてだそうで、どこか緊張した様子です。

Linoの海洋リハビリツアーでは毎回、さまざまなアクティビティを用意。出発前に参加者向けのオンライン説明会にて、海洋リハでできることとやりたいことを確認し、それぞれの障害や性格に合わせてアクティビティを選択しました。
5人中4人が最初に参加したのが、船底から海の中が見えるグラスボートです。親子や兄弟で一緒に船に乗り込むと、あっという間にサンゴの見えるポイントへ。ガラス越しに好きな魚を探したり、海風に吹かれたり、思い思いに海上での時間を過ごします。

楽しい海上の旅は、あっという間に終わりました。船の乗り降りは、スタッフがお手伝いします。

続いて4人の医療的ケア児がチャレンジしたのは、ドラゴンボート。通常はボートの外側に乗ることが多いですが、医療的ケア児は姿勢を保っていられるようにボートの内側に座りました。
とはいえ、直接水しぶきがかかるドラゴンボートには出発前からどきどき。それでもKさんは、水しぶきが一番かかる先頭を引き受けてくれました。
初めての体験にどきどきしていたのは、医療的ケア児だけではありません。実はともに乗り込むお母さんが海上で酔いやすいとお話しされていました。
それでも娘と一緒に初めてのドラゴンボートを体験できるように、グッと力を入れて乗船します。初めての体験を前にする気持ちは、医療的ケアを必要とする当事者であろうとそうでなかろうと、みんな同じなのです。

帰ってきたときには全身ずぶ濡れでしたが、「親子で初めてドラゴンボートに乗って、海の色が変わる境界まで行けたことと、そのときに見た景色が忘れられません」との声が聞けました。
また、海との近づき方は人それぞれです。グラスボートにもドラゴンボートにも乗らなくても、波打ち際に座って、全身で波を体感したり、浮き輪で泳ぐ参加者もいました。

一人用の浮き輪をつけられない参加者も波に揺られる体験ができるように、全身を預けられる大きな浮き輪を用意。お母さんと一緒に海を楽しみました。さらにサップボードも登場。お母さんたちも、お子さんと一緒に初めての体験を満喫していました。

あるお母さんが「子どもの体力がないだろうと思っていたけれど、体力を発揮する機会がなかっただけなのかも」と話すほどに、医療的ケア児ひとりひとりが思いっきり海と向き合っていた4時間。 保護者の方々から「まさかうちの子どもが、初めてのことをここまで体験できると思っていなかった」と、お子さんの普段見られない表情に満足する声が多数聞けました。
そこにいた誰もが自分だけの「初めて」を経験したひとときは、きっと記憶に強く残ることでしょう。
医療的ケア児と一緒に旅行ができる人を増やす機会に
この海洋リハビリツアーを主催しているLinoの掲げるビジョンは、「健常者・障害者という垣根をなくし、自然と人が集まり、共存・助け合う世界をつくる
~ Diversity & Inclusionな世界の実現 ~」。代表理事の杉本ゆかりさんが2018年に立ち上げました。
杉本さんは娘が2歳半のときに医療的ケア児になって以来、家族として娘を支えています。自分が親にしてもらったことを娘にも全て経験させたい、との思いで、娘をハワイに連れて行ったり一緒に映画を観に行ったりと、積極的に出かけてきました。
「飛行機に乗って海外に行くことは大変だけれど、娘が飛行機に乗ったその先に楽しみがあると理解してから、飛行機に乗っている時間を我慢していられるようになったんです。本人にとって楽しみなことなんだなと伝わってきて、私もすごく嬉しかったです」

子どもと一緒に体験してきた、かけがえのない思い出の数々。それによる子どもの変化を強く実感したからこそ、杉本さんは、他の医療的ケア児も同じように経験できたら、と思うようになっていきます。
「障害がなければ、親と一緒に旅行に行くことってあるじゃないですか。でも障害があると、『飛行機に乗るには人工呼吸器を持ち込めるのか、チケットをどう取ればいいのかわからない』『空の上で発作が出たらもうおしまい』と、飛行機に乗ることをあきらめざるを得ない人がたくさんいる。
でも、ちょっと頑張ってみたら得られるものがものすごくたくさんあるので、行ってみたい人には経験させてあげたかったし、それが難しいならお手伝いをしたいなと思いました」
この思いから、2018年にLinoを立ち上げてすぐに、沖縄海洋リハビリツアーの開催を決めます。重い障害を抱える子どものお母さんに、「沖縄にできればもう一回行けたらいいなと思っている」と打ち明けられたことがきっかけでした。
「呼吸器をつけていたり喉に穴が空いていたりすると、海に入るってすごくリスクが高くなるんです。学校ですら、なかなかプールに入れない。でも私は看護師で、看護師の先輩たちもサポートしてくれるから、工夫したら頑張れるんじゃないかと思って」

こうして沖縄で初開催した海洋リハビリツアーでは、チャレンジドオーシャンとタッグを組み、人工呼吸器をつけた参加者が海に入れたといいます。1回目の実施を経て杉本さんは、海洋リハビリの価値を強く実感しました。
「医療的ケア児の保護者が年齢を重ねたら、子どもを旅行に連れて行けなくなりますよね。でも医療的ケア児を旅行に連れていくサポートをしたことがある人が増えたら、旅行に行きたいと願う医療的ケア児を誰でも連れていけるようになる。だから海洋リハビリを続けていこうと決めました」
休眠預金の活用をきっかけに、関わる人が増えた
より多くの医療的ケア児に豊かな体験を届けるために、活動2年目に休眠預金活用事業への申請を決めた杉本さん。2019年度通常枠に実行団体として採択され、休眠預金活用事業をスタートします。
Linoに伴走する資金分配団体は、公益財団法人お金をまわそう基金です。生まれたてだったLinoにとって特に重要だったのは、「Linoを知ってもらうこと」でした。
「お金をまわそう基金の方が、Linoの活動を広めるために一緒に考えてくれて、いろいろな人とつなげてくれました。おかげでLinoを知ってくれる人が増えて、協力してくれる人も出てきたんです」
例えば、以前は全ての業務を杉本さんが対応していたことで、少しずつ手が回らない部分が出ていたのだそう。しかし休眠預金活用事業がスタートしたことで理事が加入し、協力者が増え、運営体制が安定していきました。

「団体としての意識が変わって、『私がここは責任を持って担当するよ』と言ってくれるメンバーが内部から出てきました。最近では社会人ボランティアの方々が関わってくれるようになって、それぞれの経験値をもとにLinoをどんどん良くしてくれています」 まずはLinoを知ってもらうこと。そう考え、協力者を増やすことからはじまった活動ですが、事業期間3年の間にLinoとしてできることを着実に増やしてきました。
「この3年間で組み立ててきたことは全て、休眠預金があったからこそ実現できました。関わってくれる人が増えたのって、休眠預金を活用するようになって団体として信用を得られたことが、理由として大きかったのかなと。自分のお金を使って活動していたら、ここまで多くの人と関わることはできなかったなと思いますね」
こうして少しずつ活動の幅を広げながら、Linoの目指す「自然と人が集まり、共存・助け合う世界」に向けて前進しています。
誰もが助け、助けられることを「当たり前」にする
Linoの海洋リハビリは、誰もが混ざり合える場です。
医療的ケア児かそうでないか、大人か子どもか、参加者なのか運営者なのか、泳げるのか泳げないのか。
Linoのつくり出す場には、一般的にいわれるそのような境界線はありません。その場にいた誰もが当たり前のように助け、助けられ、それぞれの「初めての体験」に体当たりしながら、一緒に過ごしています。
「海洋リハビリではあえて親子で離れてみる機会もつくって、お母さんだけでサップを経験してもらったり、スタッフが付き添う形でお子さんだけで泳いでもらったりしています」と杉本さんが話すとおり、親子に限らず、お互いに助け合いながら一緒に楽しむ関係性が生まれていました。

自分の子どもが気づいたら誰かに面倒を見てもらっていて、逆に自分も誰かに手を差し伸べる。杉本さんはこうした「ごちゃ混ぜ」の場で育まれる関係こそが、Linoの目指す社会のあり方につながっていくと考えています。
「障害を持っている子どもの親って、自分が子どもをつきっきりで見ることが多いから、全部面倒を見ようとしちゃうんですよね。でももし安心して子どもを預けられる存在がいたら、自分は離れられる。
そうやって誰かを頼る機会が結果的に、親である自分がこの世を去った後も子どもはきっと安心して生きていけるだろうな、と思えることにつながると思うんです」
自分がいつか、子どものそばにつきっきりでいられなくなる未来。そんな未来を見据えている杉本さんだからこそ、「自然とお互いに支え合える社会」を実現する一歩目として、Linoの場づくりを大切にしているのです。

海洋リハビリの日、医療的ケア児がのびのびと遊んでいる姿を笑顔で見つめながら、ある保護者の方が聞かせてくれました。 「子どもは本当は、海が好きだったんだなと今日わかりました。それなのに10年も連れて来られなくて、こんなに喜んでいる姿を見ていて申し訳ない気持ちになりました」
日常的に医療的ケア児を全力でサポートしている保護者が、子どもへの「申し訳ない」という感情を抱え込まなければいけない現実があります。
誰も「申し訳ない」と思うことなく、望むように旅行ができること。子どもの将来に対して親が安心することができ、親子で今をもっと楽しむことができること。
そんな「当たり前」を可能にする関係性を育むために、Linoはこれからも、支え合いの輪を広げていきます。

取材・執筆:菊池百合子
【事業基礎情報】
実行団体 | 特定非営利活動法人 Lino |
事業名 | 重症心身障害児・者と家族の学びの場を確保と生活の充実を図る事業 |
活動対象地域 | 全国 |
資金分配団体 | 公益財団法人 お金をまわそう基金 |
採択助成事業 | 医療的ケア児と家族の夢を寄付で応援 <2019年度通常枠> |
「お金をまわそう基金」さんでも、今回のツアーが記事化されています。ぜひご覧ください!
休眠預金活用事業では、社会的インパクト評価の実施が特徴の一つとなっています。一方、資金分配団体や実行団体の中には評価の経験があまりない団体も少なくありません。 NPO法人 地球と未来の環境基金 (EFF:Eco Future Fund) とそのコンソーシアム構成団体である NPO法人持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会(自伐協)も初めて評価に本格的に取り組む団体の一つでした。評価の実践を通じての気づきと成果、実行団体に伴走する上で実感した課題や成功体験、そして社会的インパクト評価の視点が活かされたエピソードなどについて、自伐協事務局の中塚さんと、 EFFの理事・プログラムオフィサー美濃部さんにお話を伺いました。”
そもそも、自伐型林業とは?
───まず、今回の事業の趣旨である「自伐型林業」とは、どのようなものなのか。中塚さんより簡単にご説明いただけますでしょうか。
中塚高士さん(以下、中塚):はい。自伐型林業とは、地域の山を地域の人たちで管理する形の林業です。チェーンソーと小型重機・運搬用のトラックがあれば、個人や少人数で低コストから始めることができます。
そもそも従来の林業は、大規模な伐採が必要な「現行林業」が主流でした。戦後復興に伴い木材の需要が高まっていた時代、山林にたくさんの大型機械と人材を投入し、大規模に植樹と伐採を行うスタイルが確立していたのです。
しかし需要が落ち込むに連れ、そのような大規模な林業の経営を持続的に行うことが難しくなっていきました。そこで近年注目されているのが、「自伐型林業」です。
林業従事者が減少し続ける中、「新しい田舎での暮らし・仕事のあり方」として若者や移住者からの注目も集まっています。また国土の7割を占める日本にとって、山林を活用した「地方創生の鍵」としても全国の自治体から期待が高まっています。
「休眠預金活用事業」への申請の背景

───そういった林業の歴史やスタイルを踏まえ、休眠預金活用事業への申請の背景・経緯について、お聞かせいただけますか。
中塚:現行林業については、国の取り組みとして林業従事者を育成する支援も多く実施されてきました。しかし自伐型林業を含め、小さな林業従事者に向けた育成や研修プログラムはほとんどありません。「地域の山を守る仕事がしたい」「新しい働き方として林業に挑戦したい」と意欲ある新規参入者がいる一方で、機械の使い方や木の切り方がわからない、学ぶ場もない……、という課題がありました。
それならば、国の手が行き届かない小さな林業従事者に向けた育成・研修支援を実施しよう!と決意をし、その資金繰りとして、休眠預金活用事業への申請を検討し始めました。
そのような中、自伐協にもコロナ禍で生活困窮されている方からの声は届いていました。
「もう都会を離れて田舎でやるしかない」
「勤めている会社が業績悪化で休業状態なんです」
「観光客が減ってしまったから、林業も兼業したい」
そういった方々に向けて、何かできることはないか?と考えていたところ、資金分配団体(20年度コロナ枠)の公募が始まったので、非常に良いタイミングで申請をさせていただいたと思っています。

事業をする中で感じた課題・難しさ
───今回の事業を進める上で課題や難しさはありましたか?
美濃部 真光さん(以下、美濃部):実行団体の皆さんも、私たち自身も、自伐型林業に関わる団体なので、森づくりの活動についての計画や目標設定は得意分野なのです。しかしコロナ枠ではコロナ禍においての失業者されている方を救うための助成という慣れないテーマということで、もちろん志は高く持っていましたが事業を進めるうえでは四苦八苦しました。そのため、実行団体の事業計画策定の時期に、これまで経験がある「森づくりに関する研修の実施」にどうしてもフォーカスしてしまって、「コロナ禍による生活困窮支援」という視点が弱くなっていたことに事業実施途中で気が付いたのです。
「どれくらいコロナ禍における生活困窮支援につながったのか?」という部分の目標設定が曖昧だと、事業の成果も正確に測れません。当時は緊急助成ということで事業の実施を急いでいたこともありましたが、そこが一番の反省点でした。ただ実際、実行団体の各現場では、研修を実施して終わりではなく、受講された一人一人に対して丁寧に相談対応されていたので、その成果を示すために、研修参加者に事後的にアンケートをとりました。アンケート結果を実行団体の皆さんがコロナ枠の事業の後半戦に生かしてくださったっていうところが、事業の成果を高めるうえでとても大きかったと思っております。
───他に、社会的インパクト評価を実施する上でも難しさはありましたか?
中塚:休眠預金を活用させてもらっている以上、成果の報告もしっかり行いたいと思う一方、林業従事者の方々にとって書類作成の作業は不慣れな部分が多く、サポートをする私たちも苦戦しました。実際、書類の中で実施内容と成果をごちゃ混ぜに書いてきたり、要点がまとまっていなかったり。やって終わり、ではなく評価を可視化する難しさを感じました。

“評価”をやってみての気づき
───評価に取り組んで、どのようなことを感じていますか?
中塚:苦労はしましたが、これまでやってこなかった「評価」を意識できたのは良い経験でした。最近、自伐協においても、自治体との事業が非常に増えてきたのですが、これまでだったら勢い任せに「研修をやりますよ!」と提案していたところも、根拠や計画を示しながら要素を整理して説明できるようになりました。「どうやったら自伐型林業が、個人の生業に、地域の貢献につながるか?」を定量・定性の側面からお伝えできています。
美濃部:私もこれまでは、ロジックモデルの構築やアウトカムを想定した目標設定などに不慣れだった分、休眠預金活用事業を通じて経験できたことで大変勉強になりました。NPO法人が解決したいと思う社会課題は、人々の関心が寄せられていないからこそ、そこに課題があると思っています。無関心層の人々に対して、いかにしてコミュニケーションを取るべきか。そこを論理的に説明できなければ、私たちを含めたNPO法人の発展性はないと思っています。なので評価を含めた本事業の運営を経験できたことは、今後の私たち自身の活動にとっても良かったと思います。

───実際に、評価が活かされたと感じるエピソードはありますか?
中塚:各実行団体で行った研修の講師陣が、研修終了後も受講生と連絡を取り、定着のサポートをしていたことです。そこまでの講師陣の熱量の高まりは想定外のできごとでした。
事務的に研修を行い、人数や日数といった数字だけを気にするのではなく、今回の事業の目的である「コロナ禍による生活困窮支援」ということを評価を通じて講師陣もしっかり認識し、それぞれの地域に戻って就業していく受講生たちのこれからを慮り、その後の活動や人生にも目を向けたサポートをしたい!という想いが芽生えたようです。
実際、事業終了後も、受講生の地域を見に行ったり電話で連絡を取ったりと、研修の域を超えた関係が続いているとのことです。これは思いもよらぬアウトカムでした。定着までしっかりサポートしようという講師陣の姿勢は、評価に向き合ってきたからこそ、つながったのではないかと考えています。

今後について
───最後に、今後の展望についてもお聞かせください。
中塚:研修に参加される方や関心を持ってくださる方には、林業の技術だけでなく、生業にしていくために必要な知識もセットでお伝えしていきたいです。
実際、地域で自伐型林業を始めるとなると、山や機械を確保したり、販路を考えたり、他の自治体の事例を見せながらどんな地域貢献につながるかを自治体に説明したり、やらなければならないことが多方面にわたって出てきます。
新たに採択を受けた22年度のコロナ枠では、実行団体の皆さんとそういった自伐型林業を続けていくための必要な総合的な支援を生活困窮者の皆さんに向けてお伝えし就業に結び付けていけたらと考えています。助成規模も20年度コロナ枠と比較して大きくなりましたし、実行団体の採択も全国に広げていきたいです。
美濃部:休眠預金活用事業に取り組めたこと自体が、とても良かったと感じています。EFFの強みである助成金プログラムの運営を活かしつつ、中塚さんたち自伐協や、ランドブレイン株式会社という他分野の団体とコンソーシアムを組んで助成事業を展開できたことは非常に学びがありました。
実際、今回を機に多方面から「一緒に休眠預金活用事業ができないか?」というような声もいただいていて。これからは農業や福祉との連携など、さまざまな切り口での展開に可能性を感じています。なのでこれからまた、申請について検討し、ご相談させていただくかもしれません。よろしくお願いします!
【事業基礎情報】
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 地球と未来の環境基金 ▽2020年度緊急支援枠コンソーシアム構成団体 ▽2020年度通常枠&2022年度コロナ・物価高騰枠コンソーシアム構成団体 |
助成事業 | 〈2020年度緊急支援枠〉 〈2020年度通常枠〉 〈2022年度コロナ・物価高騰対応支援枠〉 |
活動対象地域 | 全国 |
実行団体 | 〈2020年度緊急支援枠〉
〈2020年度通常枠〉
〈2022年度コロナ・物価高騰対応支援枠〉 |
今回の活動スナップは、株式会社よしもとラフ&ピース(資金分配団体:公益財団法人 九州経済調査協会)。BSよしもとで放映された『島ぜんぶでうむさんラブ「沖縄をソーシャルビジネスアイランドに!」』の動画が5本公開されましたので紹介します!
活動の概要
沖縄県41 市町村におけるソーシャルビジネスの起業支援・普及啓発を目的としたインキュベーション事業。那覇市に開設するインキュベーションセンターを拠点に、県内41 市町村でソーシャルビジネスの講習ワークショップ「出張インキュベーション(起業支援)」を実施。同時に、 2021 年12 月開局予定のBS 放送局「よしもとBS チャンネル」と連動し、支援対象ビジネスを同局にて番組化することで、事業を展開するモデルを生み出す。
活動スナップ
第1回
ソーシャルビジネスって何だろう?
「沖縄をソーシャルビジネスアイランドに!」をコンセプトに沖縄県内でソーシャルビジネスの普及活動を行っている『島ぜんぶでうむさんラブ』の取り組みを、番組ナビゲーターのハイビスカスパーティーちあきが紹介します!
ソーシャルビジネスとはどういうものか?を九州大学の教授であり、一般社団法人ユヌスジャパン代表理事の岡田昌治先生に教えていただきました!
※YouTubeの概要より転載
第2回
4月に行われた『島ラブ祭』の様子をお届けします。
前回に引き続きムハマド・ユヌス博士よりメッセージも頂きました!
※YouTubeの概要より転載
第3回
#3では、地元沖縄で長年人材育成に取り組み、今回の事業でもソーシャルビジネスの創出に共に活動している、株式会社うむさんラボの比屋根隆さんにお話をお聞きしています。また、島ラブアカデミー参加者のそれぞれの想いもお伝えしています。
第4回
#4からは島ラブ祭2022で発表されたそれぞれの事業を紹介します。今回は沖縄住みます芸人のありんくりんの比嘉竜太さんが登場しています。小学生を対象とした「漫才ワークショップ」を通して伝えたい想いとは?
第5回
さし草の魅力を発信しているさし草屋さんの活動を紹介します!
※YouTubeの概要より転載
休眠預金活用事業が取り上げられた論文を紹介する「論文紹介」。今回は「地域安全学会梗概集」に掲載された論文『コロナ禍におけるキャッシュ・フォー・ワーク(永松 伸吾)』を紹介します。
コロナ禍におけるキャッシュ・フォー・ワーク
【著者】
永松 伸吾
【要約】(論文より引用)
Cash for Work (CFW) has been developed as a humanitarian intervention tool which provides cash to disaster victims in return for the work related to the disaster recovery. Many CFW programs ran during the recovery processs from 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami disaster, including the nuclear disaster in Fukusima. Based on these experience, a new CFW program funded by dormant deposits was launched for the jobless youth under COVID-19 pandemic. This paper reports the overview and the achievement of the program, conluding that CFW has been transforming from an ad hoc intervention to an institutional system that makes society resilient to disaster shocks.
【キーワード】
COVID-19, Cash for Work (CFW), disaster recovery,resilience, Employment Support Allowance (ESA)
【要約(日本語)】
Cash for Work (CFW) は、災害復興に関連する労働と引き換えに、被災者に現金を提供する人道的介入ツールとして発展したものである。2011 年の東日本大震災と福島での原子力災害からの復旧過程では、多くの CFW プログラムが実施されました。これらの経験に基づいて、休眠預金を資金源とする新しい CFW プログラムが、COVID-19 パンデミック下の失業中の若者のために開始された。本稿は、そのプログラムの概要と成果を報告するとともに、結論としてCFW が緊急時の一時的な介入手法ではなく、社会を災害に強いものにする制度的システムへと変化していることを主張する。
【本文中で紹介されている団体】
団体名 | 一般財団法人 リープ共創基金 |
採択情報 | ■2023年度通常枠〈第1回〉 ▷資金分配団体〈イノベーション企画支援事業〉 ■2021年度緊急支援枠 ▷資金分配団体〈新型コロナウイルス対応支援助成・随時募集2次〉【事業完了】 ■2020年度緊急支援枠 ▷資金分配団体〈新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉【事業完了】 |
休眠預金活用事業が取り上げられた論文を紹介する「論文紹介」。今回は「京都大学学術情報リポジトリ」に掲載された論文『ひきこもり支援のネットワーク分 析 : (一社) Team Norishiroを実例として(加藤 猛、野々村 光子、西村 俊昭、山口 美知子、広井 良典)』を紹介します。
ひきこもり支援のネットワーク分析 : (一社) Team Norishiroを実例として
【著者】
加藤 猛、野々村 光子、西村 俊昭、山口 美知子、広井 良典
【要約】(論文より引用)
ひきこもりが大きな社会問題になっている。ひきこもり支援事業を後押しするため、就労率や相談
件数による一面的な評価に代わって、ネットワーク分析を用いて支援の四段階における社会関係づ
くりのプロセスを評価した。
(一社)Team Norishiro の実例と軽度のひきこもりの支援事業を比較した結果、ネットワーク特徴量(頂点数と次数、直径と平均距離、リンク効率と密度)が支援段階における社会関係の時系列変化を良く表現すること、新たに提案したリンク効率と密度から成る複合指標が一般化した評価方法として有用であることが分かった。また、Norishiro の支援事業の特長が、軽度の支援事業と比較して、第一段階(出会い段階)から第四段階(社会参加の試行段階)に至るまでの間の社会的な関係性の多さ、近さ、強固さ、広さにあること、支援関係者が役割を変えつつもひきこもり当事者との関係性を維持し続けること、特に中間的・過渡的段階における“場”の提供にあることが分かった。
今回検討した評価方法は、ひきこもり当事者の様々な段階や分類に応じて適用することが可能であり、支援事業の計画または実施における事業評価、自治体の助成事業や社会的インパクト投資事業に向けたアセスメントや実績報告にも利用することができる。また、ひきこもり支援に限らず、例えば商店街活性化や自然環境保護など、将来的に社会関係づくりに基づく様々なソーシャル・ビジネスにおいて活用されることが期待される。
【本文中で紹介されている団体】
団体名 | 一般社団法人 Team Norishiro |
採択情報 | ■2020年度通常枠 ▷実行団体 資金分配団体:公益財団法人 東近江三方よし基金(コンソーシアム幹事団体)〈草の根活動支援事業・全国ブロック〉 ■2019年度通常枠 ▷実行団体 資金分配団体:公益財団法人 信頼資本財団〈草の根活動支援事業・地域ブロック〉【事業完了】 |
「働く」をキーワードに、生きづらさを抱える人と地域をつなぐ一般社団法人Team Norishiro(チーム のりしろ、以下「Team Norishiro」)。そこでは、生きづらさを抱える当事者が「働きもん」として薪割りや着火材作りの仕事をしていくことで、他者と関わりながら自分の働き方や生き方を見つけています。生きづらさを抱える当事者を変えようとするのではなく、当事者を受け入れる社会や地域の「のりしろ」を広げ、生きづらさを抱える人を知る、人を増やす──。そんな思いで続けてきたTeam Norishiroの活動について、代表の野々村光子さんにお話を伺いました。”
制度のはざまにいる「働きもん」たち
Team Norishiroに集う人たちは、生きづらさを感じて孤立している人、家から長年出られずコミュニケーションが苦手な人、障害がある人など、抱えている困難は人によってさまざま。支援する対象には、障害者手帳を持っていることなどの明確な「条件」はありません。既存の制度のはざまで孤立した人の手を取ろうとしている点が、Team Norishiroの大きな特徴です。
なぜそのように、誰でも支援対象とする活動に至ったのでしょうか。

Team Norishiroの野々村光子さんは、障害がある人の就労を支援する「東近江圏域働き・暮らし応援センター」のセンター長を務めています。このセンターが立ち上がってから、「センターとして手を握ろうとすると、制度上、応援していい人と応援できない人がいる、と気付きました。」と野々村さんは振り返りました。
企業の障害者雇用率を上げることを最終目標にした障害者就労支援の制度では、基本的に「障害者手帳も持っている人」が支援対象の中心とされています。
一方で、野々村さんがセンターで相談を受け始めると、当事者家族や民生委員の声を通して、障害者手帳を持っていないけれど家にひきこもっている人や、会社に馴染めず転職を繰り返している人の存在が見え始めたのです。そのような人たちは、当時の働き・暮らし応援センターによる支援の対象に入りませんでした。
それならば、と野々村さんたちが立ち上げたのが、任意団体の「TeamKonQ(チーム困救(こんきゅう)」でした。地域の困りごとを集約しそれらを仕事として、社会から孤立している当事者に取り組んでもらいます。当事者一人ひとりを「働きもん」と呼び、仕事を通じて当事者の人柄やスキルを発見していくチームです。
「平均で20年ほど自宅のみで生きて来た彼らが、本来はどんな人なのか? どんないいところを持っているのか。面談や訪問での支援方法だけでは、わかりません」
TeamKonQで仕事をつくる過程で、薪と薪ストーブの専門店「薪遊庭(まきゆうてい)」社長の村山英志さん(Team Norishiro代表)をはじめとした、地域の「応援団」の輪も広がっていったといいます。
「TeamKonQの活動の対象者は、誰でも。そんな『ようわからんこと』に、村山さんたちが賛同してくれて。社会の穴に落ちてしまう人はこれからも増えていくだろうし、同時に地域の困りごとも増えていくから、この活動を継続させていこうと思っています」
就労を促すよりも、「手伝ってくれんか?」と声をかける
TeamKonQで薪割りに取り組んだ背景には、2010年に東近江市で「緑の分権改革推進事業」として実施された、地域の雑木林から自然エネルギーを生むまでの実証実験が関係します。その過程の薪割りは、村山さんが自ら手がけても、働きもんがやっても結果は同じ。それなら、働きもんに仕事にして関わってもらえばいい、と村山さんが野々村さんに相談したことがきっかけでした。
薪割りの活動の継続性を高めるために、2020年には一般社団法人化し、「Team Norishiro」を立ち上げ。「のりしろ」という名前に込めた意味について、野々村さんはこう話します。

「生きづらさがある人に社会や学校教育が求めるのは、本人の『伸びしろ』。本人が変わっていく前提で考えられているから、家から出られたら次は仕事、と当事者は次々にステップアップを求められる。でも人間は本来、ステップアップするために生きているわけではないですよね。
働きもんが、無理に自分を変える必要はないんです。むしろ社会の側が働きもんを受け入れられるような『のりしろ』を少しでも広げることで、働きもんと関われる重なりができる。そうすれば、社会の穴に落ちてしまっている人たちと手を握っていくことができると思います」
今では薪割りだけでなく、地域で出る廃材を活用した着火材作りにも取り組みます。薪割りよりも体力の必要がなく、作業工程が明確なので、働きもんが参加するハードルを下げられたそう。
福祉の視点から立ち上げられたのではなく、「雑木林をどうしたらいいだろう」「この廃材、なんとかならんか」と地域の課題を持ち寄って集まった人たちが始めた活動。「そこで働きもんが中心になって、地域にあるさまざまな課題が解決されて、活動が広がっている。すごく珍しいケースだと思いますね」と野々村さんは語ります。
では「働きもん」は、どうやってTeam Norishiroの活動に参加するのでしょうか。
例えば、野々村さんのいる働き・暮らし応援センターのもとに、息子がいる80代の女性から相談が入ります。「うちの息子は10年間、家にいる。息子が一人になったとき、息子は働けるんやろか」。その相談を受けて、野々村さんが本人を訪問します。そのとき、企業への就労については触れません。
「着火材を作っているんやけど、コロナ禍でバーベキューがブームになっていて、すごい売れている。暇なんやったら、世間のために着火材作りを手伝ってくれんか?」

誘われた本人は「着火材ってなんですか?」と興味を持ち、Team Norishiroの仕事現場に通うようになる。そこから人と関わるようになり、働き・暮らし応援センターの支援にもつながっていく。そんなケースが多いそうです。 「ポイントは、『ひきこもり支援をしています』などと発信しないこと。福祉や就労支援をキーワードに掲げてしまうと、当事者は来てくれなくなります。ただ単純に『そこにいけば仕事がある』という環境づくりをする。私たちの活動を地域の口コミで広げてもらうことで、これまで私たちが出会えていない人にも届けたいです」
成果指標は「当事者を何人が知っているか」
Team Norishiroでは2020年4月、資金分配団体「信頼資本財団」から実行団体として採択され休眠預金活用事業をスタート。
薪を配達するためのトラックを買い替えたり、冷房がなくて作った着火材が溶けてしまうこともあったため作業場所の設備を改修したりと、活動を続けていくために必要不可欠な基盤を整えました。
休眠預金活用事業の特徴は、活用の対象になる事業に、既存の制度の裏付けがいらないこと。Team Norishiroのような、既存の制度のはざまの人たちへの支援活動にも活用が可能です。
「生活に困窮している人、自死のリスクがある人、障害がある人のように、困っている理由は人それぞれ。しかし既存の制度を使うと、支援の対象がどうしても限定されてしまう側面があります。全面的にバックアップしてくれる休眠預金活用事業は、支援対象への考え方が違いました」
休眠預金を活用した結果、2020年からの2年間で、総勢56人の働きもんが仕事に参加。そのうち14人は、地域の企業への就労にもつながりました。
しかし、Team Norishiroでは「何人が就職できたか?」よりも大切にしている成果指標があると言います。それは、「1人の働きもんを、何人が知っているか?」という指標です。
「最初に当事者の親御さんから相談を受け、私が会いに行くと、本人を知っている人が親御さんと野々村の2人になります。着火材の作業に来てもらうと、他の働きもんたちがその人のことを知ります。さらに、働き・暮らし応援センターのワーカーが、具体的な支援策を組み立てながら、その人のことを知っていくんです」
結果、本人は頼まれて着火材作りに来ているだけで、当事者の人生を知る人が増えていく。その成果指標を重視しながら、当事者が社会や地域と関わる「のりしろ」を広げています。
さらに働きもんを見守っているのは、一緒に働くメンバーだけではありません。薪や着火材の購入、資材の提供などを通して働きもんの活動を応援する「応援団」が、この2年間で約250人も増えました。
応援団を増やすために重要なのは、ストーリーの発信だと言います。働きもんを単純に「障害者」「ひきこもり」と括るのではなく、一人の働きもんの物語を丁寧に伝え、物の購入を通じてその背景にいる働きもんにも思いを馳せてもらう発信を心がけます。

Team Norishiroの発信の先に思い描く未来について、野々村さんはこう語ります。
「働きもんは、『失敗した人』でも『残念な人』でもない。発信を通じてそう伝え続けると、その発信を受け取った人が、『親戚でひきこもりの子がいるけれど、残念な子ではないんや』と気づける。それが、孤立しそうな人と手をつなぐ一歩目になります。
私たちの活動を知った方から『のりしろ』が広がっていったら、それが最終目的と言っても良いかもしれません」
古民家を、地域におけるセーフティネットに
Team Norishiroではこれまでの活動に加えて、2021年3月からは資金分配団体「東近江三方よし基金」の採択事業として、集落にある古民家の改修と活用の事業も始めました。
コロナ禍で、社会の穴に落ちた人たちの声はさらに外に出づらくなった今、家庭内での障害者への暴力が発生していたり、外出を控え続けて餓死寸前になっていたりと、厳しい状況が生まれています。 これまで「働く」をキーワードとしてきた野々村さんは、「職場」だけではない「誰かが自分のことを知っている場」が、地域に必要だと感じ始めました。 そうしてスタートした古民家の改修事業では、古民家を「大萩基地」と名付け、誰でも利用できるスペースにしました。すでに、福祉業界の若者の勉強会、行政の職員のひきこもり支援の勉強会、当事者の働きもんが集う会など、多様な使われ方をしています。

「今後は、とりあえず大萩基地まで行けば誰かに会えて正しい情報をもらえたり、ご飯が週1回でも食べられたりして、『困っています』と手を挙げなくても命が守られるセーフティネットをつくりたいです」
同時に、大萩基地が「一人暮らしの訓練場所」として機能することも目指しています。
障害者のグループホームにはショートステイの制度があり、一人暮らしの練習が可能です。ただ、ショートステイの制度は福祉サービスなので、障害者手帳が必須。働きもんの中には、障害者手帳がなかったり、あっても隠したい人がいたりするため、制度の活用が難しい状況にあります。
そんな働きもんに「お母さんがずっと料理しているのを見てきたんだから、一緒に一回作ってみよう」と誘って、大萩基地で食事を作ってみる。「できるやん。1人で暮らせるやん」と練習を重ねる。そんな使い方を考えているそうです。
Team Norishiroの活動をサポートしてきた資金分配団体「東近江三方よし基金」の西村俊昭さんは、働きもんの一人に「地域で暮らすために必要なもの」を尋ねた際の答えが印象的だったと話します。
「『困ったときに声をかけてくれる人が一人でもいたら、生きていける』という答えがありました。大萩基地や応援団の存在によって、一人の働きもんでも『あそこがあるから何とかなる』と思える活動になっていたら嬉しいです。それに、同じような活動を他の地域でも実現できるんじゃないかと思います」(西村さん)

最後に、Team Norishiroのエンジンであり続けてきた野々村さんに、今後の目標を聞きました。
「我々がやっていることはまだまだ、特別なことだと思われてしまいます。これを、特別じゃないものにしたい。そのために、困難を抱えている当事者ではなく、当事者とともに生きる地域や社会を変えていきたい。
あとは、活動を続けることです。休眠預金を活用して活動の基盤が整ったので、そのときにできるベストな活動を見つけて、継続していきたいです」
【事業基礎情報】
実行団体 | 一般社団法人 Team Norishiro |
事業名 | 「働く」をアイテムに孤立状態の人と地域をつなぐ |
活動対象地域 | 滋賀県 |
資金分配団体 | 公益財団法人 信頼資本財団 |
採択助成事業 | 孤立状態の人につながりをつくる <2019年度通常枠> |
実行団体 | 一般社団法人 Team Norishiro |
事業名 | 空き家を活用して命を守りつなぐ場づくり |
活動対象地域 | 滋賀県東近江市 |
資金分配団体 | 公益財団法人 東近江三方よし基金 (東近江・雲南・南砺ローカルコミュニティファンド連合 コンソーシアム幹事団体) (コンソーシアム構成団体: 公益財団法人 うんなんコミュニティ財団、公益財団法人 南砺幸せ未来基金) |
採択助成事業 | ローカルな総働で孤立した人と地域をつなぐ ~日本の変革をローカルアクションの共創から実現する~ <2020年度通常枠> |
休眠預金活用事業が取り上げられた論文を紹介する「論文紹介」。今回は、「関西大学商学論集 第67巻第2号(2022年9月)」に掲載された論文『休眠預金等の投融資への活用に関する考察─社会的投資ホールセール銀行の役割と社会的インパクト評価─(馬場 英朗, 青木 孝弘, 今野 純太郎)』を紹介します。
休眠預金等の投融資への活用に関する考察
─社会的投資ホールセール銀行の役割と社会的インパクト評価─
【著者】
馬場 英朗, 青木 孝弘, 今野 純太郎
【要約】(論文より引用)
休眠預金等の活用は現在,日本では制度的枠組みや資金ニーズなどが不明確なことから助成しか行われていないが,イギリスでは投融資が中心となっている。日本でも2022年度休眠預金等交付金活用推進基本計画において,休眠預金を活用した貸付けや出資のあり方に関して一定の結論を示すとされているが,社会的投資市場の推進を担うビッグ・ソサエティ・キャピタルのような社会的投資卸売銀行が存在せず,また助成と投融資では求められる社会的インパクト評価も異なっている。しかしながら,休眠預金等を投融資に活用することによって,ソーシャル・セクターと金融機関との連携が進むなど,社会的投資市場に新たな資金需要を掘り起こす呼び水となることも期待される。
キーワード: 休眠預金等活用法,社会的投資市場,社会的投資卸売銀行,社会的金融仲介機関,社会的インパクト評価
【本文中で紹介されている団体】
団体名 | 認定特定非営利活動法人 Switch |
採択情報 | ■2021年度緊急支援枠<随時募集6次> ▷実行団体 資金分配団体:認定特定非営利活動法人 育て上げネット ■2020年度緊急支援枠 ▷実行団体 資金分配団体:一般財団法人 リープ共創基金 |
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今回の活動スナップは、一般社団法人ローランズプラス(資金分配団体:READYFOR株式会社)。休眠預金活用シンポジウム(2022年5月開催)で放映した「休眠預金活用事業紹介ムービー」の制作にご協力いただきました。シンポジウム用の動画ではご紹介できなかった動画を再編集し、撮影に同行したJANPIA職員のレポート共に紹介します。””””
活動の概要
一般社団法人ローランズプラスは、原宿でフラワーショップとカフェを運営しています。勤務しているスタッフ60名のうち45名が、障がいや難病と向き合いながら働いていることが特徴です。
さらに中小企業の障がい者雇用促進の取り組みを広げるために、2020年に休眠預金を活用した事業を実施。障がい者雇用の算定特例制度を活用し、複数の中小企業と福祉団体が連携して障がい者の共同雇用を行う仕組みを整えて、事業を開始しました。1社単独ではハードルが高い障がい者雇用を、複数企業と福祉団体が連携することで実現するモデルとして注目されています。
活動スナップ
撮影に同行したJANPIA職員のレポート
カラフルな花に囲まれたカフェ・フラワーショップ「ローランズ」。ひとりでも気軽に入れる雰囲気で、お花やグリーンの鉢植えに囲まれて幸せな気持ちでランチやスイーツを楽しむことができます。フルーツサンドやスムージーなどのメニューは、思わず写真を撮りたくなるかわいらしさです。
併設されたフラワーショップには彩り豊かなお花がならび、スタッフがアレンジメントを手際よく制作しています。リーダーの高橋麻美さんは、ローランズで働き始めて6年目です。

「もともとお花が好きで、ハローワークで求人を見て応募しました。とはいえ、大学を卒業してから病気のことで入退院を繰り返していたので働いた経験がなく、障がいがあるので、入社前は仕事を続けられるか不安でした。
今ではローランズで他のスタッフと一緒に力を合わせて働くのがとても楽しく、やりがいを感じています」

高橋さんのように障がいや難病と向き合うスタッフがいきいきと働くローランズには、障がい者雇用のノウハウが蓄積されています。そのノウハウを、障がい者雇用に困難を感じる中小企業に共有し、障がい者を共同で雇用する仕組みを構築する新規事業をスタートするために、休眠預金等活用事業を活用しました。
ここまでの成果として、2022年4月までに6社と連携し、16名の新規雇用を生み出すことに成功。今後は新たに70名を共同雇用する予定です。
ローランズ代表の福寿満希さんは、障がい者雇用のニーズの高まりとは反比例して、コロナ禍での新規事業の立ち上げに大きな不安を抱えていたと話してくれました。

「新しいことに踏み出すときはとてもエネルギーが必要で躊躇していたのですが、資金分配団体の伴走支援があったおかげで、1歩を踏み出すことができました。常にタスクの優先順位を一緒に確認してくれたおかげで、計画どおりに進められています。
今後は、東京で立ち上げた障がい者の共同雇用のモデルを地域に展開し、地域の中小企業が障がい者雇用に踏み出すお手伝いをしていきたいです」
ローランズが目標として掲げるのは、「多様なひとが一緒に働ける彩り豊かな社会」。実現のために、これからは東京から地方へと、そのノウハウと仕組みを広げていきます。
【事業基礎情報】
実行団体 | 一般社団法人 ローランズプラス |
事業名 | ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業 |
活動対象地域 | 全国 |
資金分配団体 | READYFOR株式会社 |
採択助成事業 | 新型コロナウイルス対応緊急支援事業 〈2020年度緊急支援枠〉 |
休眠預金等活用法における指定活用団体である一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)は、2022年7月に設立から4年目を迎えました。そこで、設立当初よりJANPIAの活動基盤を作り上げ、2022年1月に理事を退任された逢見直人さんと、二宮雅也理事長に、これまでの取り組みを振り返っていただき、次のステージに向けた課題やなど期待などをお話しいただきました。
JANPIA設立から指定活用団体へ、オールジャパン体制を目指す
司会(JANPIA職員):JANPIAは2022年7月に設立から4年目を迎えました。設立当初を振り返るなかで、とくに印象深かった出来事などはありますか?
逢見元理事(以下、逢見):そもそも休眠預金の活用については、10年以上前から議論されていました。私もその情報に触れるたびに、「上手に使えばきっといいものになる」と思っていました。しかし、まさか自分がその活動にかかわるとは思ってもいませんでした。
それが、当時、連合の会長代行を務めていた私のもとに、経団連から「指定活用団体の公募に手を挙げたい。ついては、経済界・労働界・ソーシャルセクターをはじめとしたオールジャパンによる団体を作りたい」という話が届きました。そこから私も参画し、JANPIAが設立されました。そして、内閣府による「指定活用団体の公募」への申請にあたっては、労働界からも職員を派遣してほしいとの要請があり、私も全労済と労金協会に出向いてJANPIAの趣旨を説明し、この活動の将来を担ってもらえる人物を推薦してほしい、と頼みにいきました。
我々は、「指定活用団体・資金分配団体・実行団体」の3団体がいかに効率よく機能し、休眠預金等を有効活用する方法、そして実行団体の熱意を酌んだサポートをどのように展開していくか等の方法論に重点をおき、構想を固めていきました。休眠預金等活用審議会委員による面接では、二宮理事長と事務局のメンバーがJANPIAの構想をしっかりと伝えてくださいました。あとから話を聞くと、JANPIAのほかにソーシャルセクターに関しての専門性が高い人材で構成された団体など3団体が名乗りを上げていましたね。
二宮理事長(以下、二宮):我々はオールジャパン体制を目指した一方、他の申請団体と比較してソーシャルセクター出身者が少ないということで、活動の実際を知らないことへの懸念が審議会の委員の方々にあったと思います。そのためか、面接は2時間に及びました。ほかの団体も入念な構想を描いて面接に臨んでいましたから、どのような結果が出るかハラハラしたのを覚えています。
逢見:私も結果が出るまではハラハラしました。そして、実際に指定を受けると、「大変な責任を担うことになった」と、その責務の重さを再認識しました。
徹底的な対話から生まれるパートナーシップ
司会:そして2019年1月11日に指定活用団体としての指定を受けJANPIAの活動が始まりますが、その頃のことで思い出されるのはどのようなことでしょうか?
逢見:当初の理事は3名体制で二宮さんが理事長、柴田雅人さんが専務理事兼事務局長、そして私というメンバーでした。理事会を開くと、二宮さんが議長を務められるので、柴田さんと私のどちらかが質問して、どちらかが応えるという形になります。質問者が1人だけの理事会には、当初は戸惑いもありました。(笑)
二宮:設立当初は基盤作りとして、様々なことを決めなくてはいけないことから、迅速に適切な決議ができるようにということがあって3人体制でスタートしました。しかし、その後、事業が進展していくなかでソーシャルセクターの方たちにも入っていただき、現在は5人体制になっています。これは、運営上非常に適正な規模だと感じています。
司会:設立当初からいろいろなことを話し合ってこられたと思いますが、そのなかで難しく感じたことはありますか?
逢見:指定活用団体と資金分配団体、実行団体の3層構造が円滑に機能していくかということが、非常に心配でした。我々指定活用団体は、ともすると資金分配団体・実行団体に対して上から目線になってしまう。しかし、それではいけません。

二宮:その通りです。そこで我々が活動の根幹に置いたのは、資金分配団体・実行団体の方たちとの対話によって連携・協働することでした。様々な課題はありますが、業務改善プロジェクトのように、実務上の課題等を改善していくために、徹底的に資金分配団体の皆さんと話し合い、パートナーシップを築いていくことを大切にしています。その流れは、しっかり出来てきていると考えています。
逢見:そこは最も大事な点ですね。JANPIAの職員の皆さんにもその考えは浸透し、結果としてそれが機能しているのではないかと感じています。
POの活躍は、この制度の財産
司会:ところで逢見さんは、2019年度資金分配団体のプログラム・オフィサー(PO)の必須研修に全日参加されたそうですね。どのような思いで参加され、また印象的だったこと等お聞かせください。
逢見:休眠預金等の活用において3層構造の中間に位置する資金分配団体は、単に実行団体に助成金を渡すだけでなく、実行団体の伴走者としての役割がとても重要です。そのためのPO研修が始まるに際して、実際に研修の内容を見てPOとなる人たちと接してみたい、という気持ちがありました。
実際に参加してみると、私自身も「POにはこういった役割もあるのか」と気づかされ、認識が深まりました。そして参加者との討議などを通して思いを知り、我々と思いを共有している人たちが多くいることがわかり、PO研修に参加したことは大きな価値がありました。
POの方々が2期、3期と活動を続けてくれることで、さらに広がりを見せ、試行錯誤しながら活動している実行団体の皆さんへも、しっかりした方向性を示すことができるはずです。これはこの制度の財産になるでしょう。
二宮:研修を受講したPOは約180名になりました。プログラムを企画立案し、マネジメントもできて成果につなげる、そういう役割を担う人を増やしていくことは重要です。そのなかで休眠預金等を有効に活用していく流れができると思います。

コロナ枠で社会変化に臨機応変に対応
司会:コロナ禍が続く現在、JANPIAでは2020年度に新型コロナウイルス対応緊急支援助成(以下、コロナ枠)を開始して、2022年度も新型コロナウイルスや物価高騰に対応する助成制度を継続していますが、これについてはいかがでしょうか?
逢見:コロナという予期しない事態が起き、感染予防のためとはいえ人の行動を止めることになりました。「これは困る人が相当出る」、とくに社会的に弱い立場の人にシワ寄せがいくことが心配されました。そして「ここは休眠預金の出番!手をこまねいていてはダメだ」ということになりました。
そこで、「通常枠」とは別に緊急的にコロナに対応する助成制度を立ち上げました。これは休眠預金活用の価値を社会に知ってもらうためにもよかったと思います。
緊急的な助成ですからスピーディーに物事を決めて取り組んでいかなくてはいけない、かといってずさんな運営ではいけない。スピード・緻密な運営・確かな結果、このバランスを取ることに全員で力を注ぎましたね。職員もほんとうに大変だったと思いますが、コロナ枠を実施していることはJANPIAにとっても意味のあるものだと思います。
二宮:世界がコロナを認識してまだ2年半です、その後にウクライナの戦争、それに続くエネルギー危機や物価高騰など、市民社会に影響を与えることが次々と起こっています。JANPIAではそれらについても取り扱うことになりましたが、設立当初はまさかこういった事態が起こるとは思っていませんでした。
逢見:SDGsの持続可能な開発目標に合わせて、社会課題の解決は大事だという議論はありましたが、「社会課題」という言葉はこんなに広く人々に知られるような言葉ではありませんでした。しかし、JANPIAでの活動を通して、本当に社会における課題にはいろいろなものがあるということがわかりました。
なにかが起こったとき、もちろん政府が行うべきことはありますが、民間はどうすればいいのかも考えなくてはいけません。その点で、JANPIAは、いま必要なことは何なのかを考え、常に備えておかなくてはいけませんし、今ある問題を短期的視点だけで取り組むのではなく、その大元にある問題は何であるかを見ていくことが大事です。
二宮:その通りです。今までのように「想定外」とか、「思いもしなかった」は通用しません。次に別の危機が必ず来ることを認識して、そのときのために備えることが大切です。
休眠預金活用事業がタンポポの綿毛のように各地に広がり、大きな力に
司会:今年度の1月が法律施行後5年にあたり、いわゆる「5年後の見直し」の時期になります。そこで、私たちJANPIAが心掛けるべき点についてアドバイスをお願いします。
逢見:まず実績を示し、そのうえで次の5年に向けた課題を洗い出し、それをよりよいものにしていくことが大切だと考えます。国民の資産である休眠預金等は公正かつ透明に使っていかなくてはいけません。しかし、あまりにも手続きが煩雑で多くの労力が必要になるようでは、本末転倒です。簡素化できるものは簡素化し、スピーディーに物事を決めていかなくてはいけません。この点の改善についてはすでに行っていると思いますが、さらに次の5年に向けて磨きをかけてほしいと思います。
司会:最後に休眠預金を活用する団体の皆さんへ向けてメッセージをいただければと思います。
逢見:休眠預金活用事業は、公的な制度の狭間で取り残されている社会課題の解決を支援するものでで、皆さんの活動は非常に意味があるものです。
休眠預金を活用した事業のシンボルマークの綿毛のように、皆さんの社会を支える力が舞い上がって、それぞれの地域に根差し花開く。まさに綿毛のように多くの人に届き、様々な場所で良い変化をもたらすでしょう。そして、一つ一つの取り組みは小さいことかもしれませんが、集まれば大きな力になって世の中を変えていけると考えます。
二宮:JANPIAスタート時に掲げた我々のビジョン、「誰ひとり取り残さない社会作りの触媒に」、という根幹の考えを、逢見さんにあらためてお話しいただいた思いがします。5年後の見直しに向けた総合評価も行っている最中ですが、こういったことを含めながら本事業の在り方を、未来に向けて考えていきたいと思います。
逢見:次の5年はさらに大変な時期になると思います。休眠預金活用事業のさらなる発展を期待しています。
司会:はい、私たちもさらに頑張っていきたいと思います。本日はありがとうございました。
■逢見 直人(おうみ なおと)さん プロフィール■
1976年ゼンセン同盟書記局に入局。日本労働組合総連合会(連合)副事務局長(政策局長)、UIゼンセン同盟副会長、全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟(UAゼンセン)会長、連合副会長などを務める。2019年よりJANPIAの理事として設立および運営に尽力。2022年1月に退任する。
■二宮 雅也(ふたみや まさや)理事長 プロフィール■
1974年日本火災海上保険株式会社入社。2011年日本興亜損害保険株式会社代表取締役社長、2014年現損害保険ジャパン株式会社代表取締役社長、2016年同社代表取締役会長を経て2022年4月よりSOMPOホールディングス株式会社特別顧問。2018年7月のJANPIA設立時より理事長を務める。
